知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和4(ワ)23937 発信者情報開示請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

令和4(ワ)23937発信者情報開示請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和5年12月15日
事件種別 民事
当事者 原告有限会社プレステージ
法令 著作権
著作権法2条1項9号3回
キーワード 侵害41回
損害賠償3回
分割1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は、別紙動画目録記載の動画の著作権を有する原告が、電気通信事業を営む 被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ソフトであるBitTorrent(以下 「ビットトレント」と表記する。)を使用して当該動画を複製し、かつその複製物が 記録された端末をビットトレントのネットワークに接続するなどして送信可能化25 状態にしたことなどで、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したことが 明らかであるところ、上記氏名不詳者は、上記の侵害に係る通信を被告の管理する 電気通信設備を経由して行ったことから、原告の損害賠償請求権等の行使のために 必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者 情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項所定の 発信者情報開示請求権に基づき、上記の通信に係る発信者情報の開示を求めた事案5 である。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 著作権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和5年12月15日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和4年(ワ)第23937号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和5年9月27日
判 決
原 告 有 限 会 社 プ レ ス テ ー ジ
同訴訟代理人弁護士 戸 田 泉
同 角 地 山 宗 行
被 告
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社

同訴訟代理人弁護士 松 田 真
15 主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
20 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要等
本件は、別紙動画目録記載の動画の著作権を有する原告が、電気通信事業を営む
被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ソフトであるBitTorrent(以下
「ビットトレント」と表記する。 を使用して当該動画を複製し、
) かつその複製物が
25 記録された端末をビットトレントのネットワークに接続するなどして送信可能化
状態にしたことなどで、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したことが
明らかであるところ、上記氏名不詳者は、上記の侵害に係る通信を被告の管理する
電気通信設備を経由して行ったことから、原告の損害賠償請求権等の行使のために
必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者
情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項所定の
5 発信者情報開示請求権に基づき、上記の通信に係る発信者情報の開示を求めた事案
である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(書証は特記しない限り枝番
を全て含む。)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。)
⑴ 当事者
10 原告は、主にアダルトビデオの制作及び販売を業とする有限会社である(弁
論の全趣旨)。
被告は、インターネット接続サービス等の電気通信事業を営む株式会社であ
る(争いがない事実)。
⑵ 原告の著作権者性について(甲1、弁論の全趣旨)
15 別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)は、原告の指示のもと
制作されており、原告が著作者であり、著作権者である。
⑶ 被告による発信者情報の保有(争いがない)
別紙発信端末目録記載のIPアドレス及び発信元ポート番号を割り当てら
れた端末から同目録記載の日時(日本標準時)頃に行われた各通信(以下「本
20 件各通信」といい、かかる端末から本件各通信をした者をそれぞれ「本件各発
信者」という。)は、被告が管理する電気通信設備を経由して行われており、被
告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。
⑷ ビットトレントの概要等(甲3、弁論の全趣旨)
ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有プロトコル及びそのた
25 めのアプリケーションソフトウェアであり、その利用者間でファイルを共有で
きる。
ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとするユ
ーザは、そのコンピュータ端末(以下、このユーザのコンピュータ端末を単
に「ピア」ということがある。)を介してインターネットに接続してトラッカ
ーサイトと呼ばれるウェブサイトに接続し、ダウンロードしたいファイル(以
5 下「対象ファイル」という。)の在りかなどの情報が記載されたトレントファ
イルと呼ばれるファイル(以下「トレントファイル」という。)をピアにダウ
ンロードして読み込ませる。そうすると、ピアはトレントファイルに記載さ
れているトラッカーサーバと呼ばれるファイルの提供者を管理するサーバに
接続され、対象ファイルの提供者のリストを要求する。要求を受けたトラッ
10 カーサーバは、トラッカーサーバにアクセスしている対象ファイルのピース
を所持するピアのIPアドレスが記載されたリスト(以下「ピアリスト」と
いう。)をピアに返信する。ピアリストを受けとったピアは、対象ファイルの
ピースを所持する他のユーザのピアに接続し、その後、そのピアから対象フ
ァイルのピースのダウンロードを開始する。
15 ビットトレントを使って対象ファイルが配布される場合、そのファイルは
小さいデータの単位(ピース)に分割され、分割されたデータはビットトレ
ントのネットワークにつながっているピアに分散して所持されており、ピア
がダウンロードする際には、分散したデータを多くのピアから自らのピアに
ダウンロードして、元のファイルのとおりに一つのファイルを完成させる。
20 完全なファイルを保有するユーザであるシーダーは、ビットトレントのネ
ットワーク上でアップロード可能な状態にあることがトラッカーサーバにお
いて公開され、全てのユーザはダウンロードを完了すると、自動的にシーダ
ーとなる。シーダーは、完全なファイルのダウンロードが完了する前のユー
ザであるリーチャーの求めに対して、当該ファイルの一部をアップロードす
25 る。リーチャーは、ファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、
既に所持している一部のファイルを、他のリーチャーからのダウンロードの
求めに対してアップロードする。すなわち、リーチャーは、自身がダウンロ
ードするのと同時に、他のリーチャーに対してデータをアップロードするこ
ととなる。
⑸ ビットトレントネットワークを利用してファイルをダウンロードする際の
5 通信に関する説明ついて(甲9)
株式会社HDR(以下「本件調査会社」という。)の代表者の陳述書によれ
ば、ビットトレントネットワークを利用して対象ファイルをダウンロードする
場合、以下の通信等のやり取りを経るとされている。
すなわち、各ピアは、トラッカーサーバに対して、ピアリストを要求する通
10 信をし、トラッカーサーバからピアリストのデータを受信する。
ピアリストのデータを受信したピアは、ピアリストに基づいて、相手方ピア
との間で、互いに、ビットトレントのネットワークに参加している相手もピア
であることを確認する「HANDSHAKE」と呼ばれる通信をし、相手方の
ピアへ接続完了を意味する「ACK」と呼ばれる通信をした上で、当該ピアと
15 相手方のピアとの間で互いが対象ファイルのどの部分を所持しているか確認
する「BITFIELD」と呼ばれる通信をし、当該ピアが相手方ピアの保有
するファイルに興味を持っていることを通知する「INTERSTED」と呼
ばれる通信をし、これに対して、相手方ピアが、当該ファイルは当該ピアによ
りダウンロードする(相手方ピアによりアップロードする)ことが可能である
20 ことを通知する「UNCHOKE」の通信をすることとなる。
これらの通信をした上で、当該ピアがダウンロードを要求する「REQUE
ST」と呼ばれる通信をし、相手方ピアがアップロードする通信をすることで、
対象ファイルがダウンロードされることとなる。
⑹ 原告による調査の内容(甲3、4、9)
25 原告は、本件調査会社に対し、本件調査会社が開発したビットトレントを利
用した著作権侵害に該当する行為をした者の端末に割り当てられたIPアド
レス及び送信元ポート番号を調査する目的のソフトウェア(以下「本件ソフト
ウェア」という。)を使用して、本件動画の著作権侵害の監視を依頼した。
本件調査会社は、本件ソフトウェアを使用して、インターネットを介して、
原告から指定された本件動画のコンテンツの品番を含むファイルをトラッカ
5 ーサイトで検索し、本件動画のファイルのハッシュ値(ファイル(データ)を
特定の関数で計算して得られる値であり、ファイルからハッシュ値は一意に定
まるが、同じハッシュ値になるようにファイルを改ざんすることが困難である
ことから、ファイルの同一性等の確認に用いられる。 を取得し、
) トラッカーサ
ーバに、本件動画のファイルをアップロードできるピアリストを取得した。そ
10 して、本件調査会社と当該ピアリストに記載されたピアとの間で、順次、
「HA
NDSHAKE」の通信、
「ACK」の通信、
「BITFIELD」の通信、
「I
NTERSTED」の通信がされ、その後に「UNCHOKE」の通信を行っ
たとされたピアについて、本件調査会社は、これをデータベースに登録するこ
ととした。
15 以上のような調査の結果、本件各通信は、本件動画のデータを保有している
ピアからの「UNCHOKE」の通信であるとされた通信であって、本件調査
会社のデータベースに登録されたものである(以下、この手法によって、別紙
発信端末目録の「発信時刻」欄記載の各日時に同目録の「IPアドレス」欄記
載の各IPアドレス及び「ポート番号」欄記載の各送信元ポート番号が割り当
20 てられた端末から、
「UNCHOKE」の通信として、本件各通信がされたとす
る調査の結果を「本件調査結果」という。。

⑺ 別件の発信者情報開示請求事件の判決の存在(乙1)
本件調査会社が本件ソフトウェアを使用してした調査結果に基づいて、動画
の著作権を侵害されたと主張する者が、被告を相手に提起した発信者情報開示
25 請求事件において、東京地方裁判所は、令和5年3月24日、本件ソフトウェ
アの調査の結果が信用できないとして、請求を棄却する旨の判決をした(以下
「別件判決」という。。別件判決が請求を棄却したのは、①IPアドレスとタ

イムスタンプの組合せの結果存在しない通信が含まれていること、②技術仕様
上割り当てられることのない発信元ポート番号が含まれていること、③IPo
E方式に係る114件の通信について、同一のIPアドレスを割り当てられた
5 複数の契約者が、いずれもビットトレントを利用して同一のハッシュ値が付さ
れたファイルを交換しているものとして特定され、このうちの2件については、
同一のIPアドレスを同時刻に割り当てられた2人の契約者が特定されたと
いうものであり、非現実的な状況がうかがえたこと、④ホスト名より、和歌山
県内からの通信と判断される89件のうち6件について、訴状目録のタイムス
10 タンプの誤りにより別の契約者が特定されたことなどを理由として、本件ソフ
トウェアによる調査の結果誤った情報が記録されたことが相当程度うかがえ
ると判断したことなどによるものであった(以下、別件判決の以上の理由をそ
れぞれ「理由①」などという。。

2 争点
15 ⑴ 本件各通信が、本件各発信者から本件調査会社に対する「UNCHOKE」
の通信であるといえるか(争点1)
⑵ プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情報の流
通によって」原告の「権利が侵害されたことが明らか」といえるか(争点2)
3 争点に対する当事者の主張
20 ⑴ 争点1(本件各通信が、本件各発信者から本件調査会社に対する「UNCH
OKE」の通信であるといえるか)について
(原告の主張)
別紙発信端末目録の「発信時刻」欄記載の各日時と同目録の「IPアドレス」
欄記載の各IPアドレス及び「ポート番号」は、本件調査結果のとおり、本件
25 動画のファイルの保有者に関するピアリストに載っていたピアからの「UNC
HOKE」の通信をした端末に割り当てられていたIPアドレス及び送信元ポ
ート番号と、その通信の日時であり、これらが正確であることは、本件ソフト
ウェアの同一性確認試験によっても確認されている。
別件判決は本件ソフトウェアの調査結果の信用性を否定するが、本件調査結
果からは、理由①から理由③で指摘された事情は確認されておらず、これらの
5 理由は本件調査結果の信用性に影響しない。
この点を措くとしても、本件調査会社が本件ソフトウェアを使用して調査を
行う際、本件ソフトウェアのIPアドレス等が記載されたピアリストを受け取
った他のピアが本件ソフトウェアに対してダウンロードのリクエストを行う
ことがあるが、この場合、ビットトレントの仕様上、接続リクエストの際には、
10 送信元ポート番号が明らかでないため、本件ソフトウェアのデータベース上で
は、
「0」又は「1」として記録される。別件判決は、これをもって本件ソフト
ウェアの記録が正確でないとしているが、対象ファイルをアップロードしてい
るピアについては送信元ポート番号が正確に記録されているのであり、理由①
や理由②については、本件ソフトウェアの信用性に影響しない。また、IPo
15 E方式では、同一のIPアドレスを複数の契約者に割り当てることが前提と
なっており、同一のIPアドレスを割り当てられた複数の契約者がビットト
レント上で同一のファイルを共有することもあり得るから、理由③について
も、本件ソフトウェアの信用性に影響しない。そして、和歌山県内からの通
信である89件のうち、83件が同じ契約者であり、6件のみ異なる契約者
20 が特定されたとしても、83件の契約者とその他の6件の契約者とが異なる
通信者であることは十分あり得ることであり、理由④についても本件ソフト
ウェアの正確性が欠けるという根拠にはならない。
したがって、別件判決の存在は本件調査結果の信用性に影響を及ぼさない。
(被告の主張)
25 本件調査結果において、別件判決の理由①から理由③までの事象は確認され
ていない。しかし、本件の開示請求対象は、1000件以上あった別件判決の
訴訟と比較して少数であり、本件ソフトウェアの信用性にかかわらず、理由①
や理由②の事象は生じにくい。また、理由③については、実際はデータベース
に登録されたにもかかわらず、原告が重複するIPアドレスに係る請求を除外
するなどの対処を行った可能性もある。加えて、理由④について、当該6件に
5 ついては、別件の発信端末目録記載の時間と数分ずれた時点に83件と同じ契
約者の接続記録が確認できたというものであり、これによれば89件とも同一
の契約者による通信であったといえるところ、何らかの理由によりタイムスタ
ンプの記録を数分誤ったというものである。このような別件判決の理由①から
理由④に照らせば、同じ本件ソフトウェアを使用して得られた本件調査結果も
10 信用できず、本件各通信が、本件各発信者の本件調査会社に対する「UNCH
OKE」の通信であるとはいえない。
⑵ 争点2(プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害
情報の流通によって」原告の「権利が侵害されたことが明らか」といえるか)
について
15 (原告の主張)
上記1⑷のようなビットトレントの仕組みにおいては、トラッカーサーバは、
著作権法2条1項9号の5イの「公衆の用に供されている電気通信回線に接続
している自動公衆送信装置」に当たり、本件各発信者が、トラッカーサーバに
対し、本件動画のファイル情報やIPアドレス等を通知し、これをトラッカー
20 サーバに記録させたことは、同イの「情報を記録」したといえ、これにより、
送信者は対象ファイルを受信者の求めに応じて「自動公衆送信し得るように」
なる。したがって、トラッカーサーバに対象ファイル情報やIPアドレス等を
通知することにより、送信可能化侵害状態になったといえる。
仮に、以上の主張が認められないとしても、ビットトレントにおいて、対象
25 ファイルを送信しようとするピアが、対象ファイルを自身のパソコンの共有フ
ォルダに蔵置して、クライアントソフトを起動してトラッカーサーバに接続
すると、当該ピアのパソコンは、トラッカーサーバにパソコンを接続させて
いる他のピアからの求めに応じ、自動的に対象ファイルを送信し得る状態と
なるから、かかるパソコンは、トラッカーサーバと一体となって同ロの「情
報が記録され」た「自動公衆送信装置」に当たり、その時点で、
「公衆の用に
5 供されている電気通信回線への接続」がされてもいることから、送信可能化
権侵害状態になったといえる。
したがって、本件各発信者は、送信可能化により原告の公衆送信権を侵害
している。
また、上記の公衆送信権を侵害する前に、本件各発信者は、ビットトレン
10 トのネットワークにそれぞれ接続して、本件動画のデータをダウンロードし
て自己の端末内に複製している以上、原告の複製権を侵害している。
そして、本件各通信は、本件各発信者の端末に保有している本件動画のフ
ァイルがアップロード可能であることを通知する「UNCHOKE」の通信
であり、本件各発信者の端末が自動公衆送信し得るような状態となっていた
15 ことを示す通信である。したがって、本件各発信者からの「UNCHOKE」
の通信時点において、本件動画は自動公衆送信し得るような状態になってい
たのであり、本件各発信者は、
「UNCHOKE」の通信時点において、送信
可能化により原告の公衆送信権を侵害しているから、プロバイダ責任制限法
5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって」原告の「権
20 利が侵害されたことが明らか」であるといえる。
(被告の主張)
プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情報の流
通」との文言に照らせば、同法は、侵害関連通信の場合を除き、開示請求の対
象を、侵害情報を流通させたものに関する情報とすることを予定している。
25 本件各発信者によって本件動画が送信可能化されたのは、本件調査会社への
アップロードに先立って本件各発信者が本件動画のファイルのピースをダウ
ンロードしたからにほかならない。本件で原告が開示請求の対象としているの
は「UNCHOKE」の通信であるが、
「UNCHOKE」の通信は、あるピア
が自身の保有しているファイルをアップロード可能であることをリクエスト
した者に対して通知する通信にすぎず、
「UNCHOKE」の通信によって、本
5 件動画が送信可能化の状態になったとはいえない。
したがって、プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る
侵害情報の流通によって」原告の「権利が侵害されたことが明らか」であると
はいえない。
第3 当裁判所の判断
10 1 争点2(プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情
報の流通によって」原告の「権利が侵害されたことが明らか」といえるか)につ
いて
本件の事案に鑑み、争点2から判断する。
⑴ 本件で、原告は、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき発信者情報開示請
15 求を行うところ、同項により発信者情報開示請求権が認められるためには、同
項1号の要件を満たすこと、すなわち、「当該開示の請求に係る侵害情報の流
通によって当該開示を請求する者の権利が侵害された」ことが明らかであるこ
とが必要である。そして、同号の「侵害情報」は、特定電気通信による情報の
流通によって自己の権利を侵害されたとする者が当該権利を侵害したとする
20 情報をいう(プロバイダ責任制限法2条5号)。
本件において、原告は、本件発信者が、
「UNCHOKE」の通信(前記第2
の1⑸)時点において、送信可能化により原告の公衆送信権を侵害している旨
主張している。そして、原告は、本件動画についての複製権及び公衆送信権を
被侵害権利であるとしており、原告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を特
25 定発信者情報以外の発信者情報として開示の請求をしていると解されるから、
「UNCHOKE」の通信による情報の流通によって原告の複製権及び公衆送
信権が侵害され、同通信が侵害情報の送信であると主張して、本件各通信の送
信に係る者の氏名その他の情報の開示を請求していると解される。そうすると、
本件において、プロバイダ責任制限法5条1項1号の要件を満たすためには、
「UNCHOKE」の通信による情報の流通によって本件動画の複製権又は送
5 信可能化による公衆送信権が侵害されたことが明らかといえる必要があるこ
ととなる。
⑵ 著作権法2条1項9号の5は、送信可能化の定義について、「次のいずれか
に掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。」旨規定し、
イとして「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信
10 装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体の
うち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒
体」という。 に記録され、
) 又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する
機能を有する装置をいう。以下同じ。 の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、

情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体と
15 して加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆
送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。」
と規定し、ロとして「その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自
動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用
に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受
20 信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連
の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。」と規定している。このような
著作権法の文言や、著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定
した趣旨、目的は、公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行う送信
(後に自動公衆送信として定義規定が置かれたもの)が既に規制の対象とされ
25 ていた状況の下で、現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を
規制することにあり(最高裁平成21年(受)第653号同23年1月18日
第三小法廷判決・民集65巻1号121頁参照)、自動公衆送信前の準備段階
の行為に着目してその行為を規制したものであることなどに照らせば、「送信
可能化」に当たるのは、同号のイ又はロに列挙されている行為であるとするの
が相当であると解される。そして、それらの行為により対象の著作物が自動公
5 衆送信し得るようにされた場合、上記に述べたとおりの「送信可能化」の意義
から、それらの行為によって自動公衆送信し得るようにされた著作物について
は、別途、同号のイ又はロに該当する行為がされたときに再び「送信可能化」
に該当する行為がされたといえると解される。
本件各通信は、前記第2の1⑹のとおりの手法による調査の結果、「UNC
10 HOKE」の通信であるとされた通信である。前記第2の1⑸の認定事実のと
おり、本件調査会社の説明によれば、本件各発信者の端末から「UNCHOK
E」の通信が行われるのは、
「ACK」の通信及び「BITFIELD」の通信
の後であるとされる。そして、本件調査会社の説明によれば、
「ACK」の通信
は、ビットトレントのネットワークに参加している相手もピアであることを確
15 認する「HANDSHAKE」の通信の後の、接続完了を意味する通信である
とされ、これは、インターネットを介してビットトレントネットワークへの接
続を完了していることを知らせる通信であると解される。また、「BITFI
ELD」の通信は、当該ピアと相手方のピアとの間で互いが対象ファイルのど
の部分を所持しているか確認する通信であるとされ、「UNCHOKE」の通
20 信は、ピアが相手方ピアの保有するファイルに興味を持っていることを通知す
る「INTERSTED」の通信に対し、アップロードすることが可能である
ことを通知する通信であるとされる。
以上のような本件調査会社の説明を前提とし、本件調査結果について本件調
査会社の説明のとおりの事実が認められる場合、本件各通信をしたピアにおい
25 ては、
「UNCHOKE」の通信をする時点より前の時点で、既に本件動画のフ
ァイルの少なくとも一部が複製されて当該ピアに記録された上で、当該ピアが
インターネットに接続されビットトレントのネットワークにも接続されるな
どして、本件動画のファイルのピースが他のピアに自動公衆送信(アップロー
ド)し得る状態になっていたこととなる。そして、既に述べたとおり、ある行
為により自動公衆送信し得るようにされた著作物について、別途、著作権法2
5 条1項9号の5のイ又はロに該当する行為がされたときに再び「送信可能化」
に該当する行為がされたといえると解されるが、本件においては、「UNCH
OKE」の通信がされたとされる時点において、本件動画について、更に、同
号のイ又はロに該当する何らかの行為が行われたことを認めるに足りない。ま
た、同時点において、何らかの複製行為がされたことも認めるに足りない。な
10 お、特定電気通信による情報の流通によって権利が侵害されたことに関し、そ
れ自体では権利侵害性のない通信について、プロバイダ責任制限法は、「侵害
関連通信」
(プロバイダ責任制限法5条3項)を総務省令で定めるとして、その
範囲を明らかにしている。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び
発信者情報の開示に関する法律施行規則5条は、侵害関連通信として複数の通
15 信を定めるところ、そこに上記の「UNCHOKE」に該当する通信が規定さ
れているとは認められず、また、
「UNCHOKE」の通信時点において、本件
調査会社の端末に対して本件動画のファイルのピースが送信(自動公衆送信)
されているともいえない。
⑶ 原告は、本件各通信が「UNCHOKE」の通信であると特定した上で、本
20 件各通信に係る発信者情報についてプロバイダ責任制限法5条1項に基づき
その開示を請求しているところ、以上に述べたところによれば、本件調査結果
に至る手法と本件調査会社の説明に基づく「UNCHOKE」の通信の内容に
よると、直ちに本件各通信に係る情報の流通によって、複製権及び公衆送信権
が侵害されたと認めることはできない。また、その他、本件各通信に係る情報
25 の流通によって、複製権又は公衆送信権が侵害されたことを認めるに足りる事
情の主張、立証はない。
よって、本件各通信に係る情報の流通によって、原告の「権利が侵害された
ことが明らか」であるとはいえない。
2 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の発信者情報開示請求
権は、いずれも認められない。
5 第4 結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
10 裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 杉 田 時 基
裁判官 仲 田 憲 史
(別紙)
発信者情報目録
別紙発信端末目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に被告から
5 割り当てられていた契約者に関する以下の情報。
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス
(別紙)
発信端末目録
省略
(別紙)
動画目録
省略

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

特許事務所の求人知財の求人一覧

青山学院大学

神奈川県相模原市中央区淵野辺

今週の知財セミナー (11月18日~11月24日)

来週の知財セミナー (11月25日~12月1日)

11月25日(月) - 岐阜 各務原市

オープンイノベーションマッチング in 岐阜

11月26日(火) - 東京 港区

企業における侵害予防調査

11月27日(水) - 東京 港区

他社特許対策の基本と実践

11月28日(木) - 東京 港区

特許拒絶理由通知対応の基本(化学)

11月28日(木) - 島根 松江市

つながる特許庁in松江

11月29日(金) - 東京 港区

中国の知的財産政策の現状とその影響

11月29日(金) - 茨城 ひたちなか市

あなたもできる!  ネーミングトラブル回避術

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

富士国際特許事務所

【名古屋オフィス】 〒462-0002愛知県名古屋市中区丸の内2-10-30インテリジェント林ビル2階 【可児オフィス】 〒509-0203岐阜県可児市下恵土 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 鑑定 コンサルティング 

デライブ知的財産事務所

〒210-0024 神奈川県川崎市川崎区日進町3-4 unicoA 303 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

三都国際特許商標事務所

〒530-0044 大阪府大阪市北区東天満1丁目11番15号 若杉グランドビル別館802 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング