ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和5(行ケ)10016 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和5年12月21日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告日産自動車株式会社 被告智佳電子股份有限公司 |
| 対象物 | ワイヤレススカッフプレート |
| 法令 |
特許権 特許法134条の23回 特許法36条6項2号1回 特許法36条6項1号1回 特許法36条4項1号1回 |
| キーワード | 審決35回 実施22回 進歩性11回 無効10回 無効審判2回 優先権1回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯等(争いのない事実) (1) 本件特許の設定登録 被告は、発明の名称を「ワイヤレススカッフプレート」とする発明につい て、平成26年11月6日を出願日とする実願2014-5888号(パリ 条約による優先権主張外国庁受理:同年2月14日・台湾、同年4月30 日・米国)の実用新案登録である実用新案登録第3195493号に基づい5 て、平成29年10月20日に特許出願(特願2017-203553号) とし、平成30年1月26日、本件特許の設定登録を受けた(請求項の数1 3)。 (2) 本件無効審判 ア 原告は、令和3年11月25日、本件特許(請求項1~13に係る発明10 についての特許)について、後記3(2)ア~オの無効理由を主張して、本 件無効審判(無効2021-800098号事件)を請求した。 |
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令和5年12月21日判決言渡
令和5年(行ケ)第10016号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和5年10月31日
判 決
原 告 日 産 自 動 車 株 式 会 社
同訴訟代理人弁理士 廣 瀬 文 雄
同 西 澤 一 生
被 告 智佳電子股份有限公司
同訴訟代理人弁護士 櫻 林 正 己
同訴訟代理人弁理士 中 嶋 恭 久
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
【略語】本判決で用いる略語は、別紙1「略語一覧」のとおりである。なお、本件審決中で使用されている略語は、本判決でもそのまま踏襲している。
第1 請求
特許庁が無効2021-800098号事件について令和5年1月10日にした審決(本件審決)を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(争いのない事実)
(1) 本件特許の設定登録被告は、発明の名称を「ワイヤレススカッフプレート」とする発明について、平成26年11月6日を出願日とする実願2014-5888号(パリ条約による優先権主張外国庁受理:同年2月14日・台湾、同年4月30
5 日・米国)の実用新案登録である実用新案登録第3195493号に基づいて、平成29年10月20日に特許出願(特願2017-203553号)とし、平成30年1月26日、本件特許の設定登録を受けた(請求項の数13)。
(2) 本件無効審判ア 原告は、令和3年11月25日、本件特許(請求項1~13に係る発明についての特許)について、後記3(2)ア~オの無効理由を主張して、本件無効審判(無効2021-800098号事件)を請求した。イ 被告は、令和4年4月5日、本件特許の特許請求の範囲について、請求項12を後記のとおり訂正し、請求項12の記載を引用する請求項13も同様に訂正する本件訂正の請求をした。ウ 特許庁は、令和5年1月10日、本件訂正を認めた上で、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、その謄本は同月19日原告に送達された。
(3) 原告は、令和5年2月17日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 本件特許発明の内容
(1) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び請求項12の記載は、以下のとおりである。なお、請求項2~12は、いずれも請求項1を引用するものであり、請求項13は請求項1~12を引用するものである。【請求項1】ワイヤレススカッフプレートであって、上表面と下表面を有し、前記上表面は、少なくとも一つの凹槽を有し、且つ、前記凹槽の少なくとも一側は、電源収容孔を有し、及び、定位部が、少なくとも一側上に定義される底板と、前記凹槽に収容され、且つ、少なくとも一つの回路板を有するバックライ
5 トモジュールと、少なくとも一つのバッテリーと少なくとも一つの導電ストリップを有し、前記バッテリーが、前記電源収容孔に設置され、前記導電ストリップが、前記バッテリーと前記回路板を電気的に接続する電源モジュールと、前記回路板上に設置されると共に、感応信号を感知する近接センサーモジュールと、前記回路板上に設置されると共に、前記バックライトモジュール及び前記近接センサーモジュールと電気的に接続し、前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュールと、取り外し可能な方式で、前記底板の前記下表面から、前記電源収容孔を覆う少なくとも一つの底カバーと、前記底板の前記上表面に設置されると共に、少なくとも前記バックライトモジュールと前記電源モジュールを被覆し、前記バックライトモジュール上に、少なくとも一つの光透過領域を有する上カバーと、を含むことを特徴とする、前記ワイヤレススカッフプレート。【請求項12】(本件審決による訂正前のもの)前記底板本体の下表面と前記凹槽の下表面間に高低差があることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のワイヤレススカッフプレート。【請求項12】(本件訂正後のもの。下線部は訂正箇所を示す。)前記凹槽の下表面は、前記底板本体の下表面よりも下方に突出しており、前記底板本体の下表面と前記凹槽の下表面間に高低差があることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のワイヤレススカッフプレート。
5 (2) 本件明細書及び図面の抜粋を別紙2に掲げる(なお、図1及び図5は右に90度回転させている。)。これによれば、本件明細書には、本件発明につき、次のような開示があることが認められる。ア 本件発明は、スカッフプレート(scuff plate)に関するものであって、特にワイヤレススカッフプレートに関するものである(【0001】)。イ 従来品は赤外線スイッチ又は超音波スイッチを用いて光源を開閉するものであり、多くの電力を消耗するので、乗り物の電気で駆動する必要がある。しかし、赤外線スイッチ又は超音波スイッチに電力供給するケーブルは装着しにくい上、赤外線スイッチ又は超音波スイッチは電力消耗が大きいので寿命が短い。よって、新規のスカッフプレートを提供し、上述の問題を解決することが望まれる(【0003】)。ウ 本件発明は、薄型、防水、節電、インストールしやすい、及び、バッテリー交換が便利であるワイヤレススカッフプレートを提供することを目的とする(【0006】)。エ 本件発明は、少なくとも一つの凹槽を有し、かつ凹槽の少なくとも一側は、電源収容孔を有している底板と、取り外し可能な方式で、底板の前記下表面から、前記電源収容孔を覆う少なくとも一つの底カバーとを有し、少なくとも一つの回路板を有するバックライトモジュールが凹槽に収容され、バッテリーが、電源収容孔に設置され、導電ストリップが、バッテリーと回路板を電気的に接続された構成とすることにより、薄型化、すなわち、ワイヤレススカッフプレート1が制限厚さまで薄型化されても、ワイヤレススカッフプレートは上述の全素子を収容することができる(【0007】、【0017】、図5)。オ 本件発明の「取り外し可能な方式で、前記底板の前記下表面から、前記電源収容孔を覆う少なくとも一つの底カバー」との構成により、ユーザー
5 はバッテリーの交換が容易に行える(【0019】)。カ 本件発明は、近接センサーモジュール及び制御モジュールにより、「感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する」構成とすることで、インテリジェントな電源管理を行い、ワイヤレススカッフプレートの寿命を延長することができる(【0019】)。3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件訂正について本件訂正は、訂正前の請求項12の「前記底板本体の下表面と前記凹槽の下表面間に高低差があることを特徴とする」との記載では、底板本体の下表面と凹層の下表面のどちらが下方に突出することで生じる高低差であるか明瞭でなかったのを、「前記凹槽の下表面は、前記底板本体の下表面よりも下方に突出しており、前記底板本体の下表面と前記凹槽の下表面間に高低差があることを特徴とする」と訂正することによりこれを明瞭とするものであり、特許法134条の2第1項ただし書3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、同条9項、126条5項及び6項の要件を満たすものとして、これを認める。
(2) 無効理由についてア 無効理由1(甲1発明に基づく進歩性欠如)について本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない(詳細は別紙3「本件審決の理由①」参照)。そして、本件発明2~13は、本件発明1の構成を全て含み、さらに構成を付加したものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。イ 無効理由2(甲2発明に基づく進歩性欠如)について本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることが
5 できたものとはいえない(詳細は別紙4「本件審決の理由②」参照)。そして、上記アと同様の理由から、本件発明2~13は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。ウ 無効理由3(明確性要件違反)について原告は、本件発明1~13の「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」との記載は不明確であると主張するが、上記記載は、制御モジュールが感応信号に従ってバックライトモジュールのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉するものとして明確に理解できるから、発明は明確であり、特許法36条6項2号に違反するものではない。(なお、原告は、請求項9以降の発明に係る記載である「デジタル印刷プレート」、「レーザー光学プラスチック板」、「メンブレン回路板」との記載についても明確性要件違反を主張していたが、この主張を排斥した本件審決の判断部分については、本件の審決取消事由として取り上げられていない。)エ 無効理由4(実施可能要件違反)について原告は、本件発明1~13の「オンとオフ状態の時間間隔を調整可能」との構成に関する本件明細書の発明の詳細な説明の実施可能要件違反を主張するが、本件明細書の段落【0019】及び出願当時の技術常識によれば、制御モジュールは感応信号に従ってバックライトモジュールのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉することが実施可能な程度に記載されているといえ、特許法36条4項1号に違反するものではない。オ 無効理由5(サポート要件違反)について原告は、本件発明1~13の「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モ
5 ジュール」との構成のサポート要件違反を主張するが、本件明細書の段落【0007】、【0014】の記載から、本件発明1は、上記構成により、バックライトモジュールは常にオンである構成と比較して発光を抑制することができ、発明の課題である節電を実現できると認識できるから、特許法36条6項1号に違反するものではない。(なお、原告は、本件訂正前の本件発明12、13の「前記底板本体の下表面と前記凹槽の下表面間に高低差がある」との構成は、高低差がどちらの下表面が他の下表面よりも高いのか特定されていないため、発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えているとの主張もしていたが、「本件訂正により上記サポート要件違反は解消されている」旨の本件審決の判断を受けて、本件訴訟においては、後述する「本件訂正を認めた判断の誤り」として取消事由を構成している。)4 審決の取消事由
(1) 本件訂正を認めた判断の誤り(取消事由1)
(2) 甲1発明に基づく進歩性の判断(相違点1についての判断)の誤り(取消事由2)
(3) 甲2発明に基づく進歩性の判断(相違点3についての判断)の誤り(取消事由3)
(4) 明確性要件に関する判断の誤り(取消事由4)
(5) 実施可能要件に関する判断の誤り(取消事由5)
(6) サポート要件に関する判断の誤り(取消事由6)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(本件訂正を認めた判断の誤り)
(1)
(原告の主張)
ア 本件訂正は本件図5のみに依拠するものであるところ、願書に添付された図面は設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限
5 らないから、図面の記載に基づく訂正は認められるべきではない。
イ 本件図5の記載は、以下のとおり不明瞭であるから、これに基づく訂正は不明瞭な記載をより不明瞭にするものであり、明瞭でない記載の釈明とはなっていないし、「前記凹槽の下表面は、前記底板本体の下表面よりも下方に突出しており、」との不明瞭な記載を付加することは、新規事項を追加するものである。(ア) 本件明細書【0017】では「底板2の本体の下表面22と凹槽211の下表面2111との間に、高低差xがあり」と記載されているが、【0022】では符号2111は「底部の下表面」と定義されており、「底部」がワイヤレススカッフプレートのどの部分を指すのか不明である。(イ) 本件図5からすると「底板2の本体の下表面22」は電源収容孔23が形成されている部分であるところ、請求項1の記載からすると電源収容孔の形成されている部分の下表面は凹槽の下表面ということになるから、底板本体の下表面と凹槽の下表面の高低差xは存在しないことになる。ウ なお、以上のとおり本件訂正が認められない結果、本件訂正前の請求項12の「前記底板本体の下表面と前記凹槽の下表面間に高低差がある」は、サポート要件を満たさないこととなる。
(2)
(被告の主張)
ア 図面の記載に基づく訂正は一般に認められている。イ 請求項1の記載及び本件図5から、請求項12を訂正する本件訂正は、凹槽におけるバックライトモジュールが収納される箇所の下表面について特定するものと理解できる。ウ 本件明細書【0017】には高低差xの存在が明記され、本件図5において凹槽211の下表面2111が底板2の本体の下表面22よりも下方
5 に突出していることが示されているから、高低差xが生じていると理解で
きる。
2 取消事由2(甲1発明に基づく進歩性の判断〔相違点1についての判断〕の
誤り)
(1)
(原告の主張)
以下に述べるところを踏まえれば、本件発明1と甲1発明との相違点1についての容易想到性を否定した本件審決の判断は誤りというべきである。ア スカッフプレートの耐用年数が電池の耐用年数よりも長いことは一般常識であり、電池の交換は必要不可欠であるから、甲1発明に電池交換のための電池カバーを設ける動機はある。そして、電池カバーを表側に設けることは、表示部の配置制限、見栄え、雨の降り込み及び表面の強度対策の観点から好ましくないから、表示部を有する電子機器における技術常識(甲8公報)を甲1発明に適用して、表示部の裏側に電池カバーを設ける動機がある。しかも、甲2公報には、下側から電池カバーを設ける構成が開示されているから、本件審決のいう「甲1電池収容構成」と置換可能である。以上により、スカッフプレートの下表面から電池を交換可能にすることを着想すれば、本件審決が指摘する(a)~(d)の変更(別紙3「本件審決の理由①」3(3))を行うことは、当業者であれば容易に想到し得たことであり、格別の困難はない。イ 甲1発明の収容溝カバー70については、甲1公報の【0018】に「粘着性を持つ防水貼付シート」だけでなく「薄板シート」についても記載されているから、取外しが想定されている。また、電池交換のためには電池が収容される部分のみを除けば足りるから、収容溝カバー70があるからといって電池40を外部から交換することを想起し得ないとはいえない。
5 ウ 甲1発明における必須の構成は、電池40をスカッフプレート80内に
収容することであって、電池40を導光板10内に埋設させた構成は単なる一実施例にすぎない。甲1発明の課題は完全に外部電源を不要とすることであるから、電池40をスカッフプレート80のどこに収容しても達成可能である。電池40を導光板10の内部以外の箇所に設置することは容易であり、その際の電気的な接続は、必要により適宜決めればよい技術的な設計事項である。
(2)
(被告の主張)
ア 甲1公報には、電池の交換が必要不可欠であることを示唆する記載はない。また、スカッフプレートに長期間の継続使用が求められるからといって、直ちに電池の交換が必要不可欠となるわけではない。甲8公報に示される技術常識は、携帯用の電子機器の裏側から電池を交換することを抽象的に示すにすぎない。甲1発明のような電子機器の内部に独立したモジュールが設けられた構成において、電子機器の裏側からモジュールの内部の電池を交換する具体的構造までが技術常識であったということはできない。甲2公報には、スカッフプレート80に相当する構成は記載も示唆もないから、「スカッフプレート80の下表面」から電池を交換可能にする構成については記載も示唆もない。イ 甲1公報【0018】記載の収容溝カバー70の技術的意義を考慮すれば、当業者は、取外しを前提としない粘着性を持つ防水貼付シートを採用することを想定する。ウ 甲1発明において、電池40を導光板10内に埋設することは必須の構成であるから、電池40を導光板10内部以外の箇所に設置することや、電池収容孔を底面側から開口させることについては動機付けがない。
3 取消事由3(甲2発明に基づく進歩性の判断〔相違点3についての判断〕の
5 誤り)
(1)
(原告の主張)
以下に述べるところを踏まえれば、本件発明1と甲2発明との相違点3についての容易想到性を否定した本件審決の判断は誤りというべきである。ア 甲2公報には、裏面から電池交換をする構成が記載されているから、甲8公報の技術常識を考慮するまでもなく、甲3公報及び甲5公報の構成に変更するだけで、相違点3における本件発明1の構成を容易に想到し得る。イ 甲2発明では、バックライトモジュール等は表板1の背面に設けられればよく、表板1の背面に接着方式で固設することは一実施形態にすぎない。ウ バックライトモジュール、電池モジュール、制御器及び固定装置の第一固定座をまとめて一つの「底板」として製造し、一回の接着方式で表板1の背面に接着した方が、部品数及び製造工程の削減になることは明らかであるから、バックライトモジュール等の第一固定座に代えて「底板」を採用する動機付けがあり、甲2発明の目的効果からみて阻害要因はない。
(2)
(被告の主張)
ア 甲1発明のバックライトモジュール2、電池モジュール3、制御器4といった電子機器と甲3公報及び甲5公報の「底板」とは、その機能、構造等が大きく異なり、これらを置換するという主張自体失当である。イ 甲2公報には、底板に相当する構成は記載も示唆もなく、したがって「底板の下表面」から電池を交換可能にする構成についての記載も示唆もない。バックライトモジュール2、電池モジュール3、制御器4及び固定装置5が表板1に固設されて一体化されている甲2発明において、わざわざ「底板」を設ける動機付けは存在しない。ウ 甲2発明に上記の「底板」を設ける場合、「底板」に相当する部材にバックライトモジュール、電池モジュール、制御器及び固定装置をそれぞれ固設する必要があるため、部品数及び製造工程数の削減になるとはいえな
5 い。
4 取消事由4(明確性要件に関する判断の誤り)
(1)
(原告の主張)
本件発明1~13の「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」(請求項1)との記載は、以下のとおり不明確である。ア 上記記載は、具体的にどのようにしてオンとオフ状態の時間間隔を調整しているのか不明である。本件明細書をみても、「制御モジュール6は、感応信号に従ってオンとオフ状態の時間間隔を知的に調整することができる。」(【0014】)、「制御モジュールが、光線を開閉する、又は発光持続時間を制御することができる。」(【0019】)と記載されており、「光線を開閉する」ことと「発光持続時間を制御する」ことは別の制御である。そして、発光持続時間を制御することについては「知的に調整する」と記載されているのみである。イ 本件審決は、「人がドアを閉める行為を行うとしても、当該ドアを閉める行為を検出するために感応信号が用いられ、当該感応信号に従って、制御モジュールが、バックライトモジュールのオンとオフ状態の時間間隔を調整するのであり、ドアの開閉という人の行為が起因となるものとしても、感応信号に従ってバックライトモジュールのオンとオフ状態の時間間隔を調整するのは制御モジュールである」と解釈している。しかし、ドアの開閉という人の行為が起因となる場合、「時間間隔」を調整しているのは人であり、制御モジュールは単にドア開閉にあわせてオンとオフを行っているにすぎず、時間間隔を調整していないから、上記判断は誤っている。さらに、上記の解釈に拠った場合は、時間間隔の調整が「知的に調整す
5 る」ものであるのか「人がドアを閉める行為」を含むのかが不明であるこ
とになる。ウ 本件審決は、上記アのとおり「人の行為が起因となるものとしても、時間間隔を調整するのは制御モジュールである」旨判断しながら、進歩性の判断において単なるドアの開閉による時間調整を相違点と認定しており、判断が矛盾している。
(2)
(被告の主張)
ア 「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」とは、制御モジュールが感応信号に従ってバックライトモジュールをオン状態とオフ状態とに切り替えることによって発光持続時間を調整可能であることを意味している。イ 本件発明1~13は、人がバックライトモジュールを直接操作してオンとオフ状態の時間間隔を調整可能にすると特定していないから、バックライトモジュールのオンとオフ状態の時間間隔を調整しているのは、人ではなく制御モジュールである。ウ 本件審決は、甲1公報及び甲2公報に「そのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能」である点が明記されていないことから、進歩性の判断において形式的に相違点2及び相違点4を認定したもので、実質的な相違点と認定しているわけではない。
5 取消事由5(実施可能要件に関する判断の誤り)
(1)
(原告の主張)
本件発明1~13の「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」との構成は、時間間隔を調整可能にする態様が限定されていないから、あらゆる態様が含まれることになる。
5 そうすると、本件各発明が実施可能要件に適合するためには、発明に含ま
れる態様の全体について実施できる程度の記載がされていなければならないが、本件明細書には上記4(1)のとおり「知的に調整する」としか記載されていない。したがって、出願時の技術常識を考慮したとしても、制御モジュールが本件明細書【0019】にいう「光線を開閉する」ことが実施できるのみで、「発光持続時間を制御すること」は実施できないから、本件明細書に、当業者が実施できる程度に発明の構成等の記載があるとはいえない。
(2)
(被告の主張)
ア 本件発明1~13は、「制御モジュール」が「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する」と特定されており、制御モジュールがオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉するあらゆる態様が含まれるわけではない。原告の主張は「前記感応信号に従って」との構成要件を考慮しておらず、その前提において誤っている。イ 本件審決の認定のとおり、感応信号に従いバックライトモジュールの開閉を行うこと及び制御モジュールにより発光持続時間の制御を行うことは、特段の説明を要しない技術事項である。
6 取消事由6(サポート要件に関する判断の誤り)
(1)
(原告の主張)
以下のとおり、本件発明1~13の「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」との構成は、「発明の詳細な説明」において発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えたものであるから、サポート要件を充たしておらず、本件審決の判断は誤っている。ア 本件審決は、本件発明により「本発明は、薄型、防水、節電、インスト
5 ールしやすい、及び、バッテリー交換が便利であるワイヤレススカッフプ
レートを提供することを目的とする」(本件明細書【0006】)との課題の解決が実現できると認識できる旨認定しているが、「節電」は甲1公報の発明により解決済みの課題である。また、「感応信号に従って…調整可能に開閉する」ことが単にドアの開閉を検知してバックライトモジュールをオンオフすることを意味するのであれば、その部分は周知の技術である。そうすると、本件発明は、従来技術と比較して発明の課題を解決する新たな部分を有さないから、少なくとも「節電」可能なワイヤレススカッフプレートを提供するという課題を解決できないことになる。なお、サポート要件の判断に当たっては、課題を解決できるか否かが重要な判断要素であるところ、発明の課題は従来技術との比較で検討されるものであるから、本件発明と従来技術との比較はサポート要件の判断に影響するというべきである。イ 本件明細書には、「制御モジュール」がオンとオフ状態の時間間隔を調整することについて「知的に調整する」としか記載されていない。感応信号に従っていたとしても、その感応信号から、「知的に調整」に含まれる、どのように調整してもよい技術的範囲にまで一般化ないし拡張することは許されない。
(2)
(被告の主張)
ア サポート要件と進歩性要件とは全く別の要件であり、本件発明と従来技術との比較はサポート要件の判断に影響を及ぼさない。イ 「制御モジュール」は「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する」と特定しており、「バックライトモジュールのオンとオフ状態の時間間隔をどのように調整してもよい技術的範囲にまで一般化ないし拡張」しているわけでは
5 ない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件訂正を認めた判断の誤り)について
(1) 本件訂正は、訂正前の請求項12の「前記底板本体の下表面と前記凹槽の下表面間に高低差があることを特徴とする」との事項に「前記凹槽の下表面は、前記底板本体の下表面よりも下方に突出しており」との事項を追加して特定することにより、「底板本体の下表面」と「凹槽の下表面」の位置(上下)関係を明瞭にするものである。そして、本件図5(別紙2「本件明細書等の記載事項(抜粋)」参照)から、凹槽211の下表面2111は底板2の本体の下表面22よりも下方に突出していることが見て取れるから、上記訂正は、本件図5に記載した事項の範囲内においてしたものである。したがって、本件訂正は、明瞭でない記載の釈明(特許法134条の2第1項3号)を目的とするものであり、同条9項、同法126条5項及び6項の規定に適合するものであって、審決の判断に誤りはない。
(2) これに対し、原告は、特許出願の願書に添付された図面は正確とは限らないから、図面に基づく訂正を認めるべきではない、本件図5は不明瞭であるから、これに基づく本件訂正の結果も不明瞭である旨主張する。ア しかし、まず、特許請求の範囲の訂正は、願書に添付した図面の範囲内においてすることが明文上認められている(特許法134条の2第1項、9項、126条5項)。そして、本件図5は、「底板本体の下表面」と「凹槽の下表面」の位置関係を理解するために必要な程度の正確さを備え、本件訂正の根拠として十分な内容が図示されているものである。イ 「底部」(【0022】)がどの部分を指すのか不明との点に関しては、訂正後の請求項12の「前記底板本体の下表面」と「前記凹槽の下表面」について、本件明細書【0017】の記載から、それぞれ本件図5の「底
5 板2の本体の下表面22」と「凹槽211の下表面2111」を指していることが明らかである。【符号の説明】【0022】では「2111」を「底部の下表面」と記載されているが、「底部」が「凹槽211」の底部を指すことは、本件図5から明らかである。ウ また、「高低差x」の存在に疑義を述べる点に関しても、以下のとおり採用できない。すなわち、請求項12の「前記凹槽」は、「少なくとも一側は、電源収容孔を有」するとともに「バックライトモジュール」を「収容」するものであるところ(請求項1)、「前記凹槽の下表面」は凹槽のバックライトモジュールが収容される箇所の下表面を指すものと解される。この解釈は、本件明細書【0017】に「一実施態様において、図5に示されるように、…底板2の本体の下表面22と凹槽211の下表面2111間に、高低差xがあり、凹槽211は、回路板31、導光板32を含むバックライトモジュール3を収容する。」、「高低差xは、電源モジュール4を被覆する底カバー7(図5では一側だけが示されている)の厚さを許容するのに十分である。」と記載されていること、本件図5においてバックライトモジュールの構成要素である導光板32が位置する箇所が「2111」と示され、高低差の「x」も示されていることとも整合する。
(3) したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(甲1発明に基づく進歩性の判断〔相違点1についての判断〕の誤り)について(1) 原告は、スカッフプレートにおいて電池の交換は必要不可欠であるから、電池交換のための電池カバーを設ける動機がある、電池カバーを表示部の表側に設けることはさまざまな事情から好ましなく、甲8公報の技術常識等を適用して、裏側に電池カバーを設ける動機がある、本件審決指摘の(a)~(d)
5 の変更は、電池交換のため必要であれば当業者は容易に想到し得る旨主張する。しかし、甲1公報によれば、甲1公報の「実用新案登録請求の範囲」に記載された考案は、外部電源が完全に不要な自動車スカッフプレートに適用される発光モジュールを提供することを課題とし(【0004】)、この課題を解決するための発光モジュールは、発光素子及びリードスイッチが設けられた「ランプ板」、及び電線を介してランプ板に接続される「電池」が、いずれも「導光板」に埋設される構成を有し(【0005】、【0015】~【0017】)、この構成により「導光板10の内部に発光素子20に必要な電力を供給することができる電池40を設置するため、完全に外部電源が不要となる」(【0019】)ことで、上記の課題を解決するものと認められる。甲1公報には、上記課題の解決の手段として、上記以外の構成は記載されていない。そして、本件審決が認定した甲1発明の構成は、外部電源が完全に不要な発光モジュールである上記「導光板10」に、これに埋設された「ランプ板50」、「電池40」等を密封するための「収容溝カバー70」を設け、本件発明1の「底板」に相当する「スカッフプレート80」の上面には「凹部」を設け、この「凹部」に発光モジュールである上記「導光板10」を収容するものである。そうすると、甲1発明においては、電池40が導光板10内に埋設されることを含め、「導光板10」に係る上記構成は課題解決に直結した構成であると理解するのが自然であり、本件審決のいう「甲1電池収容構成」もこれと同趣旨と認められる。加えて、甲1公報には、電池の交換についての記載はなく、甲1発明に接した当業者が仮に電池の交換という課題を着想したとしても、相違点1に係
5 る構成とするためには、(a)収納溝カバー70を除いた上で、(b)導光板10に代えてスカッフプレート80に電池40を収容する収容孔を設け、当該電池収容孔を底面側から開口するものとし、(c)該収容孔を覆うカバーを設け、該カバーを取り外すことで電池40を交換可能とし、(d)スカッフプレート80に収容することになった電池と、導光板10内に埋設されているランプ板50等との電気接続を行うという変更が必要になることは、本件審決が認定するとおりである。甲1発明をこのように変更することは、課題解決に直結した構成である「甲1電池収容構成」を変更するものであることと併せると、動機付けはないといわざるを得ず、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。また、甲8公報からは、表示部を有し電池を電源とする電子機器において、表示部とは反対の裏側に電池交換のための取り外し可能なカバーを設けることは技術常識であるといえるが、甲1発明のように独立したモジュールが設けられ、底板(スカッフプレート80)の凹部にモジュールを収容する電子機器において、裏側からモジュール内部の電池を交換することまでが技術常識であったとは認めるに足りない。甲2公報については、甲1発明のスカッフプレート80、すなわち底板に相当する部材がないから、下側から電池カバーを設けるという抽象的な点をもって「甲1電池収容構成」と置換可能ということはできない。(2) 原告は、甲1発明において収容溝カバー70の取外しは想定されており、外部から電池40を交換することは当業者が想起し得る旨主張するが、甲1発明において収容溝カバー70の取外しが可能か否かは不明であるし、仮に取外しが可能であれば、取り外すことにより電池交換が可能と考えられるから、むしろ、電池交換のため底板(スカッフプレート80)に電池収容孔と電池カバーを設ける構成に変更する必要性は乏しいといえる。そうすると、原告の上記主張を考慮しても、上記の構成変更に係る動機付
5 けは否定せざるを得ない。(3) 原告は、甲1発明における必須の構成は電池40をスカッフプレート80内に収容することであって、電池40を導光板10内に埋設させた構成は単なる一実施例にすぎない旨主張するが、そもそも原告が認める甲1発明の構成に反する主張である上、甲1公報には「完全に外部電源を不要」とするための具体的態様として電池を導光板内に埋設する態様しか開示されておらず、これが課題解決に直結した構成であることは上記(1)のとおりであり、原告の主張はできない。
(4) したがって、原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(甲2発明に基づく進歩性の判断〔相違点3についての判断〕の誤り)について(1) 原告は、甲2公報には裏面から電池交換をする構成が記載されているから、甲3公報、甲5公報の構成に変更するだけで、相違点3における本件発明1の構成は容易に想到し得る旨主張する。しかし、本件審決が認定した相違点3のとおり、本件発明1は「底板」を含むものであるのに対し、甲2発明は「底板」を含むものではない点で主に相違し、これに関連して、本件発明1は、「底板」が「上表面と下表面を有し、前記上表面は、少なくとも一つの凹槽を有し、且つ、前記凹槽の少なくとも一側は、電源収容孔を有し、及び、定位部が、少なくとも一側上に定義され」ており、「バックライトモジュール」は「前記凹槽に収容され」ており、「底カバー」は「底板の下表面から電源収容孔を覆」い、「上カバー」は「底板の上表面に設置される」のに対し、甲2発明では、電池座31、固定部5及びバックライトモジュール2は、表板1の背面に設けられ、電池カバー32は、底板の下表面から電源収容孔を覆うものではなく、表板1は、底板の上表面に設置されるものではない点で相違する。「底板」を有するスカッフプレート自体は、甲3公報及び甲5公報に記載
5 され周知であるといえるが、甲3公報及び甲5公報に記載されたスカッフプレートは、底板に電池、発光板、回路基板といった部品を収容する構造であるのに対し、甲2発明は、表板の背面に電池モジュール、固定部及びバックライトモジュールを設ける構造であり、両者は構造が根本的に異なる。そして、甲2発明において、各モジュールは表板の背面に独立に設けられており、各モジュールの底板もそれぞれ独立であるから、甲2発明において底板を設けるためには、モジュールごとに独立した底板を一体化することが必要となるところ、甲3公報及び甲5公報は、元々独立していたモジュールを一体化することを示唆するものではない。そうすると、甲2発明において、表板の背面にモジュールを設けることに代えて底板にモジュールを構成する部品を収容する構造に変更することは、甲2発明の構造を根本的に変更することであり、容易想到とはいえない。そうである以上、「底板」に関連した構成である「底板が上表面と下表面を有し、前記上表面は、少なくとも一つの凹槽を有し、且つ、前記凹槽の少なくとも一側は、電源収容孔を有し、及び、定位部が、少なくとも一側上に定義され」等の構成も、容易想到とはいえない(2) 原告は、甲2発明ではバックライトモジュール等は表板1の背面に設けられてさえいればよく、表板1の背面に接着方式で固設することは一実施形態にすぎない旨主張する。しかし、甲2発明は底板を有しない構成であり、バックライトモジュール等を表板1の背面に設けるためには何らかの手段で固定する必要があると認められ、これが一実施形態にすぎないなどと解することはできない。(3) 原告は、バックライトモジュール、電池モジュール、制御器及び固定装置の第一固定座をまとめて一つの「底板」として製造し、一回の接着方式で表板1の背面に接着したほうが、部品数削減、製造工程削減になることは明らかであるから、バックライトモジュール等の第一固定座に代えて「底板」を
5 採用することには動機付けがあり、甲2発明の目的効果からみて阻害要因は存在しない旨主張する。しかし、部品点数や製造工程数は、各モジュールを構成する部品をどのように底板に収容し固定するかによっても異なるものであり、単に底板を設けるだけで、部品点数や製造工程数の削減が達成されるわけではない。すなわち、底板を設けるという手段は、部品点数や製造工程数の削減という一般的な課題を解決する具体的な手段の一部であり得るとしても、それ自体を部品点数や製造工程数削減の手段であると解することはできない。したがって、原告の主張する部品点数や製造工程数の削減という一般的な課題が、表板の背面にモジュールを設ける構造から底板を設ける構造に変更する動機付けになるとはいえない。(4) したがって、原告主張の取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(明確性要件に関する判断の誤り)について(1) 原告は、請求項1(請求項2~13で引用)の「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」との記載は不明確であると主張し、その理由として、本件明細書【0019】の記載において、光線を開閉することと発光持続時間を制御することは制御モジュールにおける別の制御とされているところ、後者については「知的に調整する」との記載しかない点を挙げる。しかし、上記「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」の記載は、「制御モジュール」が①感応信号に従ってバックライトモジュールを開閉する機能を備え、②当該機能はオンとオフ状態の時間間隔を調整可能なものであると読むのが自然であり、単に感応信号に従ってバックライトモジュールを開閉するのみではなく、時間間隔を調整してオンとオフ状態を制御するモジュールが特定されていると理解できる。これに被告の早期審査に関する事
5 情説明書(甲16)を参酌すれば、本件発明1~13の制御モジュールは、「感応信号に従って開閉する制御モジュール」において「そのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する」点を限定したものといえる。そして、制御モジュールにおいて、感応信号に起因しながらドアの開閉の時間間隔とは異なるオンとオフの時間間隔を調整する具体的な手段としては、例えば制御回路や制御プログラムを用いることが技術常識から直ちに想起され、具体的には、単に感応信号のみに従ってオンとオフ状態を制御するモジュールに、時間間隔を調整するための構成(制御回路等)が付加されたものとして理解できる。原告の上記主張は、光線の開閉制御と発光持続時間の制御の上記のような関係を正解することなく、別個独立の制御であるとの独自の議論に基づくものといわざるを得ず、その前提において失当である。(2) 原告は、ドアの開閉という人の行為が起因となるのであれば、時間間隔を調整しているのは人であり、制御モジュールは時間間隔を調整していない旨主張する。しかし、上記のとおり、請求項1の記載は、感応信号の検出を受けて、時間間隔を調整してオンとオフ状態を制御する制御モジュールが特定されているものであり、制御モジュールが時間間隔の調整を行うものと理解できる。(3) 原告は、本件審決の判断に矛盾がある旨主張するが、請求項1の「オンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する」との記載が明確であることと、請求項1で明確に特定された上記記載が甲1発明及び甲2発明において特定されていないと認定することは、何ら矛盾することではない。(4) したがって、請求項1の「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」との記載につき、明確性要件の違反があるとはいえないとする本件審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由4は理由がない。
5 5 取消事由5(実施可能要件に関する判断の誤り)について原告は、本件発明1~13の「前記感応信号に従って前記バックライトモジュールをそのオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉する制御モジュール」との構成は、時間間隔を調整可能にする態様が限定されていないから、あらゆる態様が含まれることになるのに、発明の詳細な説明にはこの態様全体について実施できる程度の記載はないとして、実施可能要件違反を旨主張する。しかし、本件明細書の【0014】には「制御モジュール6は、近接センサーモジュール5により感知される感応信号に従ってバックライトモジュール3を開閉する。一実施態様において、バックライトモジュール3は、常にオンでも常にオフ状態でもない。制御モジュール6は、感応信号に従ってオンとオフ状態の時間間隔を知的に調整することができる。」と記載されており、この「オンとオフ状態の時間間隔を知的に調整する」との記載から、当業者であれば技術常識をもとに具体的な技術的手段(例えば制御回路やプログラム等)を直ちに想起できるから、制御モジュールがオンとオフ状態の時間間隔を調整可能に開閉することが実施可能な程度に十分記載されているといえる。したがって、実施可能要件に関する本件審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由5は理由がない。
6 取消事由6(サポート要件に関する判断の誤り)について(1) 原告は、本件発明は従来技術と比較して課題を解決する新たな部分を有さないとして、本件発明1~13の構成は、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えたものとしてサポート要件違反になる旨主張する。しかし、サポート要件の趣旨は、明細書の発明の詳細な説明に当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載することにより、発明の詳細な説明に記載していない発明が特許請求の範囲に記載され、公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生し特許制度の趣旨に反することを防止することにあるのであって、その適合性の判断は、特
5 許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解され、特許請求の範囲に記載された発明が従来技術と比較して課題を解決する新たな部分を有するか否かは、サポート要件の判断において考慮すべきものではない。したがって、上記原告の主張は、その前提が採用できないから、理由がない。(2) 原告は、請求項1の「制御モジュール」がオンとオフ状態の時間間隔を調整することについて、本件明細書に「知的に調整する」としか記載されていないからサポート要件に反する旨主張する。しかし、上記記載は、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは、上記5のとおりである。(3) したがって、本件審決のサポート要件に関する判断に誤りはないから、原告主張の取消事由6は理由がない。
7 結論以上によれば、本件審決にこれを取り消すべき違法はないから、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
宮 坂 昌 利
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
頼 晋 一
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