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令和5(ワ)70139著作権侵害差止請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和5年12月7日
事件種別 民事
当事者 原告A 株式会社スーン
被告株式会社一十珍海堂
法令 著作権
不正競争防止法2条1項1号6回
著作権法2条1項1号1回
不正競争防止法5条3項1号1回
キーワード 侵害19回
許諾3回
ライセンス3回
差止2回
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事件の概要 1⑴ 故笹沢左保ことB(以下「故B」という。)は、「木枯し紋次郎」シリー ズの連載小説(別紙本件書籍目録記載1及び2の各書籍〔以下「本件書籍」 という。〕を含む。)を執筆した。その後、本件書籍は、Cの作画により漫 画化され、「赦免花は散った」、「湯煙に月は砕けた」、「女人講の闇を裂 く」、「川留めの水は濁った」の4作品が収録された単行本(以下「本件漫5 画作品」という。)が発行された。そして、本件書籍は、Dの主演によりテ レビ化され、第1話「川留めの水は濁った」から第18話「流れ舟は帰らず」 までのテレビシリーズ(「本件テレビ作品」という。)が放映された。さら に、本件書籍は、Eの主演により映画化され、「木枯し紋次郎」及び続編の 「木枯し紋次郎 関わりござんせん」(以下「本件映画作品」といい、本件10 漫画作品、本件テレビ作品と併せて「本件各作品」という。)が全国公開さ れた。 そして、原告Aは、本件各作品その他の故B創作に関する著作権を全て相 続し、原告会社に対し、上記著作権一切に関する独占的な利用を許諾した。

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判決文

令和5年12月7日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和5年(ワ)第70139号 著作権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和5年9月22日
判 決
5 原 告 A
(以下「原告A」という。)
原 告 株 式 会 社 ス ー ン
(以下「原告会社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 椙 山 敬 士
10 同 水 上 康 平
同 曽 根 翼
被 告 株 式 会 社 一 十 珍 海 堂
同訴訟代理人弁護士 福 井 健 策
同 田 島 佑 規
15 主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
20 1 被告は、別紙被告商品目録記載の商品を製造し、譲渡し、引き渡し、同商品
の画像を公衆送信し、又は同商品を譲渡若しくは引渡しのために展示してはな
らない。
2 被告は、その占有する別紙被告商品目録記載の商品を廃棄せよ。
3 被告は、原告ら各自に対し、1億5126万1000円及びこれに対する令
25 和5年4月8日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1⑴ 故笹沢左保ことB(以下「故B」という。)は、「木枯し紋次郎」シリー
ズの連載小説(別紙本件書籍目録記載1及び2の各書籍〔以下「本件書籍」
という。〕を含む。)を執筆した。その後、本件書籍は、Cの作画により漫
画化され、「赦免花は散った」、「湯煙に月は砕けた」、「女人講の闇を裂
5 く」、「川留めの水は濁った」の4作品が収録された単行本(以下「本件漫
画作品」という。)が発行された。そして、本件書籍は、Dの主演によりテ
レビ化され、第1話「川留めの水は濁った」から第18話「流れ舟は帰らず」
までのテレビシリーズ(「本件テレビ作品」という。)が放映された。さら
に、本件書籍は、Eの主演により映画化され、「木枯し紋次郎」及び続編の
10 「木枯し紋次郎 関わりござんせん」(以下「本件映画作品」といい、本件
漫画作品、本件テレビ作品と併せて「本件各作品」という。)が全国公開さ
れた。
そして、原告Aは、本件各作品その他の故B創作に関する著作権を全て相
続し、原告会社に対し、上記著作権一切に関する独占的な利用を許諾した。
15 ⑵ 本件は、原告らが、被告に対し、被告が別紙被告図柄目録記載の図柄(以
下「被告図柄」という。)及び「紋次郎」という語を別紙被告商品目録記載
の各商品(以下「被告商品」という。)に付して製造販売し、その画像を公
衆送信することは、本件各作品に係る複製権又は翻案権、公衆送信権及び譲
渡権を侵害すると主張するとともに、被告図柄等を付して被告商品を製造販
20 売することは、不正競争防止法2条1項1号又は2号に掲げる「不正競争」
に該当すると主張して、著作権法112条1項及び2項並びに不正競争防止
法3条1項及び2項に基づき、被告商品の製造販売等の差止め及び廃棄を求
めるとともに、民法709条及び著作権法114条3項並びに不正競争防止
法4条及び5条3項1号に基づき、1億5126万1000円(損害額1億
25 3751万1000円及び弁護士費用1375万円の合計額)及びこれに対
する訴状送達の日の翌日である令和5年4月8日から支払済みまで民法所定
の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
⑶ 当裁判所は、第1回口頭弁論期日において、原告らに対し、原告ら主張に
係る著作物及び商品等表示につき、更なる特定をするかどうか釈明したとこ
ろ、原告らは、①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②通常よりも長い
5 引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわえ、④長脇差を
携えた渡世人という部分として特定する旨主張し、個別の写真や図柄等とし
て特定するものではなく、その他に主張する予定はないと述べた。これに対
し、被告が上記のとおり理解していると答えたため、当事者双方は、上記の
特定を前提として、主張立証を補充することとされた(第1回口頭弁論調書
10 参照)。
2 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。なお、証拠を
摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。)
⑴ 当事者
ア 原告Aは、本件書籍を含む「木枯し紋次郎」シリーズの小説を創作した
15 故Bの妻であり、故Bから、本件書籍を含む同人の全ての著作物に係る著
作権を相続した。(甲3、4、11、12、弁論の全趣旨)。
イ 原告会社は、広告代理店業、キャラクター商品の企画等を目的とする株
式会社であり、本件書籍を含む故笹沢の全ての著作物に係る著作権につい
て、原告Aから独占的な利用許諾を受けている。(甲1、13、弁論の全
20 趣旨)
ウ 被告は、食品の製造販売等を業とする株式会社である。
⑵ 本件書籍
本件書籍は、故Bが、「紋次郎」を主人公として創作した時代小説であり、
言語の著作物に当たる。(甲3、4、弁論の全趣旨)
25 ⑶ 本件書籍の漫画化・映像化
本件書籍は、昭和47年に、Cの作画により漫画化され、本件漫画作品が
発行された。そして、本件書籍は、昭和47年1月、Dの主演によりテレビ
化され、本件テレビ作品が放映された。さらに、本件書籍は、Eの主演によ
り映画化され、本件映画作品が全国公開された。(甲5ないし9、弁論の全
趣旨)
5 ⑷ 被告商品の製造販売
被告は、昭和47年6月25日から、「紋次郎いか」という商品名でパッ
ケージに被告図柄を付して、甘辛く煮たするめいかの足を竹の串に刺した食
品を製造販売した。また、被告は、その後、「げんこつ紋次郎」その他の被
告商品にも、被告図柄を付して、製造販売していた。
10 3 争点
⑴ 著作権侵害の有無(争点1)
⑵ 不正競争該当性(争点2)
⑶ 損害額(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
15 1 争点1(著作権侵害の有無)について
(原告らの主張)
⑴ 本件テレビ作品では、本件書籍で表される「紋次郎」の外観上の特徴のう
ち、三度笠を大きくし、道中合羽を長くするアレンジを加えており、この
「紋次郎」の外観上の特徴を言語化すると、①通常より大きい三度笠を目深
20 にかぶり、②通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹
の楊枝をくわえ、④長脇差を携えた渡世人となる(以下、これら4つの外観
表現上の特徴を備えた別紙本件紋次郎表示目録記載の主人公を「本件紋次郎」
という。)。
本件紋次郎の①ないし④の表現は、いずれも一人の主人公の外観上の特徴
25 を言語により表現した密接不可分のものであり、切り離して検討することは
許されないところ、①、②、④の服装をした渡世人が、③のように長楊枝を
口にくわえているというのは、「木枯し紋次郎」以前には全く見られなかっ
た表現である。このような特徴を備えた表現は、極めて個性的で創作性に富
んだものであり、本件紋次郎は著作者の個性の発揮によってこそ生み出され
た表現といえる。
5 ⑵ 被告は、①の「通常より大きい」、②の「通常よりも長い」という点は、
本件書籍に登場しないことから、これらの要素は、本件テレビ作品の監督が
独自に付け加えた要素であり、被告図柄との比較に当たっては、考慮に入れ
る要素ではない旨主張する。しかしながら、二次的著作物と認められれば、
原著作者は、二次的著作物に係る著作者と同様の権利を有するため(最高裁
10 平成12年(受)第798号同13年10月25日第一小法廷判決・集民2
03号285頁参照)、被告の主張は失当である。また、上記の「通常より
大きい」、「通常よりも長い」という点は、原作(本件書籍)の創作性の中
核に属する三度笠と道中合羽を、映像で見栄えがするようにしたにすぎず、
原著作物の著作者が想像すらしていなかった部分についてまで権利を行使し
15 得るような場合には当たらないから、二次的著作物として原著作者が権利行
使し得るとするのが相当である。
(被告の主張)
⑴ 著作権侵害となるのは、創作的表現が共通している場合であり、アイデア
など表現それ自体ではない部分、あるいは、ありふれた表現が共通するのみ
20 である場合には、著作権侵害とはならない。
これを本件紋次郎についてみると、①三度笠をかぶっている点、②道中合
羽を着用している点、④長い刀を所持している点の服装の表現自体は、江戸
時代の人物(特に渡世人)が登場する作品を描いた場合において極めてあり
ふれたものであり、③口に棒状のものを加えたという点は、アイデアにすぎ
25 ない。そうすると、①ないし④の組合せは、ありふれた組合せ表現又は抽象
的なキャラクター設定というアイデアにとどまるものであり、創作的表現と
はいえず著作権侵害の要素とはならない。また、「紋次郎」という名称は、
本件書籍以前から、実在の人名や小説のタイトルに登場するものであり、
「紋次郎」という名称は著作権で保護される表現に当たらない。
⑵ 原告らは、①の「通常より大きい」、②の「通常よりも長い」という点も、
5 被告図柄と本件紋次郎との比較において挙げているが、これらの点は、本件
書籍に登場せず、本件テレビ作品において監督が独自に付け加えた要素であ
り、故Bはこれらの表現について何ら関与していない。したがって、被告図
柄が本件紋次郎に係る著作権を侵害するかどうかは、二次的著作物に付され
た独自の点である上記要素を除き、比較検討すべきである。なお、仮に、こ
10 れらの点を含めて比較検討しても、上記のとおり、ありふれた組合せについ
て、「通常より大きい」及び「通常よりも長い」を付加する程度は、アイデ
アないしありふれた表現にすぎないから、著作権侵害を基礎づけるものでは
ない。
2 争点2(不正競争該当性)について
15 (原告らの主張)
⑴ 商品等表示該当性
上記①ないし④の特徴を備えた本件紋次郎の図柄又は写真に「紋次郎」と
いう語を付した表示(以下「原告商品等表示」という。)は、これまでに本
件各作品を含む「木枯し紋次郎」シリーズの小説、漫画、テレビ番組、映画
20 及びDVD等の商品又は営業において長年使用されてきたものであり(甲3
ないし10、19)、「木枯し紋次郎」シリーズの権利者による商品又は営
業を表示するものとして広く知られている。
したがって、原告商品等表示は、著作権者である原告A及び著作権の独占
的ライセンシーかつ商品化権者である原告会社の「商品等表示」(不正競争
25 防止法2条1項1号又は2号)に当たり、著名であるか又は少なくとも需要
者の間に広く認識されているものである。
⑵ 類似性
被告図柄は、上記①ないし④の特徴を備え、紋次郎の名称が付されている
から、原告商品等表示と同一又は類似である。
⑶ 混同惹起の有無
5 被告が被告商品を製造販売する行為は、原告らと被告との間にライセンス
関係があるなど同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると需
要者に誤信させる行為であり、原告A又は原告会社の商品又は営業と混同を
生じさせるものである。
(被告の主張)
10 ⑴ 商品等表示該当性
上記①ないし④は、キャラクター設定上の抽象的な特徴を文字として記述
したものにすぎず、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器
若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」(不正競争防止法2条
1項1号)ではない。
15 ⑵ 類似性
原告商品等表示は、キャラクター設定上の抽象的な特徴を文字として記述
したものにすぎず、そのような記述と図柄とでは、外観、称呼においては何
ら共通性はなく、仮に何らかの観念が生ずるとしても被告図柄の特徴の一部
に関する説明文のように感じられるのみであり、具体的な取引の実情の下に
20 おいて、両者を出所の混同を生じさせるほど全体的に類似のものとして受け
取るおそれがあるとは、到底考えられない。
⑶ 混同惹起の有無
被告商品は、「紋次郎いか」などの商品名称と共に、明らかに菓子等とし
て販売されているものであり、これらを製造販売する行為が、小説や映像作
25 品である「木枯し紋次郎」に関するライセンスビジネスを行う原告らの商品
又は営業と混同を生じさせるものではないことは明らかである。
3 争点3(損害額)について
(原告らの主張)
⑴ 損害額
原告らが、被告商品のような商品に本件各作品の利用を許諾する際のライ
5 センス料率は、その売上額の3%を下らない。また、被告商品は、被告の売
上額の少なくとも90%を占めるものと推測される。
そして、被告の売上げは、2017年1月期は2億8500万円、201
8年1月期は2億8800万円、2019年1月期は2億9000万円、2
020年1月期は2億7000万円、2021年1月期は2億5000万円、
10 2022年1月期は2億3000万円である。また、2016年1月期以前
の年間売上げは2億5000万円を下らないと推測され、2023年1月期
は、2022年1月期と同じ2億3000万円の売上げがあるものと推測さ
れる。
したがって、原告らが、被告の2004年ないし2023年1月期(20
15 03年2月1日ないし2023年1月31日)において、本件各作品に係る
権利の行使につき受けるべき金銭の額は、下記計算式の合計額である1億3
751万1000円であり、同額が原告らの損害額であると推定される(著
作権法114条3項、不正競争防止法5条3項1号)。
(計算式)
20 2004年~2016年1月期
2億5000万円×90%×3%×13年=8775万円
2017年1月期
2億8500万円×90%×3%=769万5000円
2018年1月期
25 2億8800万円×90%×3%=777万6000円
2019年1月期
2億9000万円×90%×3%=783万円
2020年1月期
2億7000万円×90%×3%=729万円
2021年1月期
5 2億5000万円×90%×3%=675万円
2022年1月期
2億3000万円×90%×3%=621万円
2023年1月期
2億3000万円×90%×3%=621万円
10 ⑵ 弁護士費用
被告の著作権侵害行為又は不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用
は、少なくとも1375万円を下らない。
(被告の主張)
争う。
15 第4 当裁判所の判断
1 争点1(著作権侵害の有無)について
⑴ 著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法
2条1項1号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登
場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載小説においては、当該登
20 場人物が描かれた各回の文章表現それぞれが著作物に当たり、上記登場人物
のいわゆるキャラクターといわれるものは、小説の具体的表現から昇華した
登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものでは
なく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができな
い。そうすると、一話完結形式の連載小説に登場するキャラクターは、著作
25 権法2条1項1号にいう著作物ということはできない(連載漫画についての
最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集
51巻6号2714頁参照)。
したがって、著作権者は、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主
張する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害された
のかを具体的に特定する必要があるものと解するのが相当である。
5 これを本件についてみると、原告らは、特定論において、著作権が侵害さ
れたと主張する著作物につき、①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②
通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわ
え、④長脇差を携えた渡世人という記述(以下「本件渡世人」という。別紙
本件紋次郎表示目録参照)であると特定するにとどまり、本件渡世人を個別
10 の写真や図柄等として特定するものではなく、その他に主張する予定もない
と陳述している(第1回口頭弁論調書参照)。
そうすると、原告らは、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張
する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたの
かを具体的に特定するものではない。
15 したがって、原告らの特定論に係る主張を前提とすれば、原告らは、本件
書籍において著作権が侵害されたという著作物を具体的に特定しないものと
して、その主張自体失当というほかなく、この理は、本件漫画作品、本件テ
レビ作品及び本件映画作品の一貫した中心人物として主張される本件渡世人
についても、異なるところはない。
20 仮に、原告らが、本件渡世人という記述に加え、本件書籍、本件漫画作品、
本件テレビ作品及び本件映画作品の一貫した中心人物という趣旨をいうもの
として特定しているとしても、上記中心人物は、本件書籍、本件漫画作品、
本件テレビ作品及び本件映画作品の表現から昇華した登場人物の人格ともい
うべき抽象的概念をいうものであるから、原告らが特定するものは、具体的
25 表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものと
いうことができないことからすると、これを著作物であると認めることはで
きない。
さらに念のため、本件渡世人に係る記述自体をみても、原告ら主張に係る
本件渡世人は、①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②通常よりも長い
引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわえ、④長脇差を
5 携えた渡世人というものである。そして、証拠(乙1ないし15)及び弁論
の全趣旨によれば、渡世人が、三度笠を目深にかぶり、引き回しの道中合羽
で身を包み、長脇差を携えていたというのは、江戸時代の渡世人の姿として
ありふれた事実をいうものであり、口に長い竹の楊枝をくわえるという部分
を更に加えたとしても、これがアイデアとして独自性を有するかどうかは格
10 別、著作権法で保護されるべき創作的表現という観点からすれば、その記述
自体は明らかにありふれたものである。仮に、本件渡世人に対しその後本件
テレビ作品で加えられた表現をもって二次的著作物とする原告らの主張に立
って、「通常より大きい」三度笠で、「通常よりも長い」道中合羽で身を包
んでいるという記述を加えて更に検討したとしても、これらの記述も同じく
15 極めてありふれたものであり、原告らの上記主張の当否を判断するまでもな
く、本件渡世人に係る上記記述は、全体として、ありふれた事実をありふれ
た記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、これを創作的表現であると
認めることはできない。
仮に、原告らが、特定論における上記主張にかかわらず、例えば本件テレ
20 ビ作品の映像の一部(本件紋次郎表示目録参照)に係る人物写真に著作権を
有することを前提として、著作権侵害を主張するとしても、被告図柄(被告
図柄目録参照)との同一性を検討し得る部分は、結局のところ、本件渡世人
に係る上記記述部分にとどまるものとなるから、当該記述部分が、ありふれ
た事実をありふれた記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、創作的表
25 現に該当しないことは、上記において説示したとおりである。そうすると、
本件テレビ作品の映像の一部に係る人物写真と、被告図柄との同一性を検討
し得る部分は、明らかに創作的表現がない部分にとどまることからすれば、
被告図柄の製作が複製又は翻案に該当しないことは、自明である(最高裁平
成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻
4号837頁参照)。のみならず、被告図柄で記述された渡世人の姿につい
5 てみると、三度笠の大きさは、概ね背丈ほどもある巨大なものであり、江戸
時代の渡世人の姿とは異なるものである。また、口にくわえるものも顔の数
倍程度もあるものであり、これを直ちに竹の楊枝であると認識し得るものと
はいえない。そうすると、被告図柄の記述自体からは、本件渡世人のような
江戸時代の渡世人を直接感得することはできないことからすると、上記にお
10 いて同一性を検討し得るとした部分についても、著作権法の観点から仔細に
検討すれば、そもそも同一性を欠くものといえる。
⑵ これに対し、原告らは、被告図柄が本件渡世人における表現上の本質的な
特徴を維持している旨主張するものの、本件書籍の具体的表現を離れて、紋
次郎という登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはで
15 きず、本件テレビ作品の映像の一部に係る人物写真をみても、被告図柄と同
一性を検討し得る部分は、江戸時代の渡世人の姿というありふれた事実をあ
りふれた記述でいうにとどまり、創作的表現ということはできず、同一性を
検討し得る部分も、そもそも同一性を欠くといえることは、上記において説
示したとおりである。
20 したがって、原告らの主張の実質は、本件書籍、本件漫画作品、本件テレ
ビ作品及び本件映画作品において一貫して登場する紋次郎というキャラクタ
ーを保護すべき旨主張するものに帰し、原告らの主張は、表現の自由、創作
の自由を保障するという観点から創作的表現に限り一定期間の保護を認める
という著作権法の趣旨目的のほか、前掲各最高裁判決が説示するところを正
25 解するものとはいえない。
したがって、原告らの主張は、上記認定を左右するものとはいえず、いず
れも採用することができない。
2 争点2(不正競争該当性)について
不正競争防止法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」とは、人の業務
に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営
5 業を表示するものをいう。
これを本件についてみると、原告ら主張に係る商品等表示とは、前記①ない
し④の特徴を備えた本件渡世人に係る表示をいうところ(第1回口頭弁論調書
参照)、本件渡世人がありふれた江戸時代の渡世人をいうにすぎないことは、
上記において説示したとおりであり、本件渡世人に係る表示は、そもそも不正
10 競争防止法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」に該当するものとはい
えない。
仮に、原告らの主張が、本件渡世人の図柄又は写真に「紋次郎」という名称
が付された表示をいうものとしても、商品等表示として具体的な特定を欠くの
みならず、一般に「紋次郎」という名称は、本件書籍、本件漫画作品、本件テ
15 レビ作品及び本件映画作品に登場する中心人物を示す、いわゆるキャラクター
に関する識別情報であり、本来的に商品又は営業の出所表示機能を有するもの
ではない。そして、本件全証拠をもっても、原告ら主張に係る上記表示が、キ
ャラクターに関する識別情報を超えて、原告らの営業を表示する二次的意味を
有するものと認めるに足りず、まして原告ら主張に係る上記表示が、原告らの
20 営業等を表示するものとして周知著名であるものとは、本件全証拠を踏まえて
も、明らかに認めるに足りない。
のみならず、証拠(乙20ないし28)及び弁論の全趣旨によれば、被告図
柄は昭和52年に、「紋次郎いか」は昭和57年に、「げんこつ紋次郎」は平
成20年に、それぞれ商標登録を受け、被告がこれらの商標を付するなどして
25 被告商品を販売し、その信用を長年にわたり蓄積してきた実情及び実績を踏ま
えると、仮に原告らの主張に立ったとしても、原告らの営業等と誤認混同を生
ずるおそれを直ちに認めることはできず、これを覆すに足りる証拠はない。
そうすると、仮に上記キャラクターに関する識別情報に一定の財産的価値が
化体していたとしても、実在の人物としてパブリシティ権侵害をいうなら格別、
被告が被告図柄を付して被告商品を製造販売する行為は、不正競争防止法2条
5 1項1号又は2号に掲げる「不正競争」に該当するものとはいえない。
したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。
3 その他
その他に、原告らの主張を改めて検討しても、原告らの主張は「紋次郎」と
いうキャラクターに係る財産的価値の保護を求めるに帰し、立法論としては格
10 別、上記において説示したとおり、著作権法及び不正競争防止法の趣旨目的を
正解するものとはいえない。したがって、原告らの主張は、前記判断を左右す
るものとはいえず、いずれも採用の限りではない。
第5 結論
よって、原告らの請求は、いずれも理由がないからこれらをいずれも棄却す
15 ることとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
中 島 基 至
20 裁判官
小 田 誉 太 郎
裁判官
古 賀 千 尋
(別紙)
被告商品目録
1 商品名 紋次郎いか
2 商品名 紋次郎いか
3 商品名 げんこつ紋次郎
5 4 商品名 とんがりいか
5 商品名 とんがりいか
6 商品名 てっぽういか
(別紙)
本件書籍目録
1 書 籍 名 赦免花は散った
5 著 者 笹沢 左保
発 行 所 株式会社角川書店
初 刷 日 昭和48年2月20日
収載作品 赦免花は散った
流れ舟は帰らず
10 湯煙に月は砕けた
童唄を雨に流せ
水神祭に死を呼んだ
2 書 籍 名 女人講の闇を裂く
15 著 者 笹沢 左保
発 行 所 株式会社角川書店
初 刷 日 昭和48年4月10日
収載作品 女人講の闇を裂く
一里塚に風を断つ
20 川留めの水は濁った
大江戸の夜を走れ
土煙に絵馬が舞う
(別紙)
被告図柄目録
上記図柄に「紋次郎」との語を付したもの。
(別紙)
本件紋次郎表示目録
①本件書籍、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品の一貫した中心人物
5 であり、②外観上、通常より大きい三度笠を目深にかぶり、通常よりも長い引き回
しの道中合羽で身を包み、口に長い竹の楊枝をくわえ、長脇差を携えた渡世人との
特徴があり、③例えば、本件テレビ作品でいえば下記のような表現

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