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令和5(ワ)73不正競争行為差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
裁判年月日 令和5年12月14日
事件種別 民事
当事者 原告有限会社エルフ
被告株式会社丸祐
法令 不正競争
意匠法3条1回
不正競争防止法2条1項1号1回
キーワード 差止2回
無効1回
損害賠償1回
刊行物1回
侵害1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。20
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は、別紙原告ソール目録1記載のソール(靴底)(以下「原告ソール1」とい5 う。)を用いた婦人用靴を製造・販売する原告が、原告ソール1が周知又は著名な原 告の商品等表示に該当し、これと同一又は類似する別紙被告ソール目録記載のソー ル(以下「被告ソール」という。)を用いて靴を製造・販売する被告の行為が不正競 争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は2号の不正競争に該当すると 主張して、①不競法3条1項及び2項に基づき、被告ソールを用いた靴製品の販売10 等の差止請求及び廃棄請求を、②不競法4条に基づき、損害賠償金1億3260万 円及びこれに対する上記靴製品の販売開始日と主張する日から支払済みまでの民 法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の各支払請求をする事案である。

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判決文

令和5年12月14日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和5年(ワ)第73号 不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和5年9月12日
判 決
原告 有限会社エルフ
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 岩井 泉
同 福永 将大
10 同補佐人弁理士 池田 義典
同 石田 耕治
被告 株式会社丸祐
同代表者代表取締役
15 同訴訟代理人弁護士 松宮 慎
同 近藤 素子
同補佐人弁理士 羽柴 拓司
同 是枝 洋介
主 文
20 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、別紙被告ソール目録記載のソールを付した靴製品を製造し、譲渡し、
25 引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、又は電気回線を通じて
提供してはならない。
2 被告は、別紙被告ソール目録記載のソールを付した靴製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、1億3260万円及びこれに対する令和3年7月1日か
ら支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
5 本件は、別紙原告ソール目録1記載のソール(靴底)
(以下「原告ソール1」とい
う。 を用いた婦人用靴を製造・販売する原告が、
) 原告ソール1が周知又は著名な原
告の商品等表示に該当し、これと同一又は類似する別紙被告ソール目録記載のソー
ル(以下「被告ソール」という。)を用いて靴を製造・販売する被告の行為が不正競
争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は2号の不正競争に該当すると
10 主張して、①不競法3条1項及び2項に基づき、被告ソールを用いた靴製品の販売
等の差止請求及び廃棄請求を、②不競法4条に基づき、損害賠償金1億3260万
円及びこれに対する上記靴製品の販売開始日と主張する日から支払済みまでの民
法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の各支払請求をする事案である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
15 (1) 当事者
ア 原告は、靴の製造及び販売並びに輸出入等を目的とする株式会社(特例有
限会社)である。
イ 被告は、ケミカルシューズ及び革靴の製造並びに販売等を目的とする株式
会社である。
20 (2) 商品の販売等
ア 原告は、(販売開始時期については争いがあるものの、被告の主張によっ
ても)遅くとも令和2年5月から、原告ソール1を用いた婦人用靴(ただし、
サンダルを除く。以下「原告商品」という。)を販売した。
原告は、原告商品の販売開始後、別紙原告ソール目録2記載のソール(以
25 下「原告ソール2」という。)を用いたサンダル(以下「原告サンダル」とい
い、「原告商品」と併せて「原告各商品」と総称する。)の販売を開始した。
(甲5、6)
イ 被告は、令和3年1月20日開催の展示会において、被告ソールを用いた
靴(以下「被告商品」という。)を展示し、同年10月20日及び翌21日開
催の展示会において、被告商品を展示・販売した。
5 (3) 商標登録・意匠登録等
ア 原告は、平成29年9月29日、次の商標について登録出願をし、平成3
0年6月1日、商標登録を受けた(商標登録第6049104号)(乙1)

【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
10 第25類 被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、
履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴
イ 原告は、令和2年6月19日、原告ソール1に係る意匠の意匠登録出願を
し、同年12月15日、意匠登録を受けた(意匠登録第1676238号)。
(乙12)
15 ウ 被告は、令和3年8月12日、被告ソールに係る意匠の意匠登録出願をし、
令和4年3月8日、意匠登録を受けた(意匠登録第1710037号)(乙

13)
エ 原告は、令和3年11月25日、原告ソール1について、
「指定商品」を第
25 「靴底」とする立体商標の登録出願をしたが、特許庁から「商品の形
20 状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものである」との拒
絶理由通知(令和4年6月2日付け)を受け、意見書等を提出することなく
同年11月7日に拒絶査定を受けた。(乙6の1ないし6の3)
(4) 原告による警告等
ア 原告代表者は、被告代表者の子に対し、令和3年1月20日開催の展示会
25 において、被告が原告商品の類似品を展示していると指摘し、同年3月10
日開催の展示会において、類似品を展示しないよう求めた。
イ 被告代表者の子は、令和3年5月上旬ころ、上記アで指摘された商品を販
売する意向である旨告げた。
ウ その後、原告代表者は、被告代表者の子や被告担当者に対し、再度、次シ
5 ーズンから別のソールを用いるように求めたが、被告は、上記(2)イのとお
り、被告商品を販売し、現在も販売を継続している。
2 争点
(1) 原告ソール1の形態が周知又は著名な商品等表示に該当するか(争点1・請
求原因)
10 (2) 原告ソール1の形態と被告ソールの形態が同一又は類似であるか(争点2・
請求原因)
(3) 混同を生じるおそれがあるか(争点3・請求原因)
(4) 被告に故意又は過失があるか(争点4・請求原因)
(5) 損害額(争点5・請求原因)
15 第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告ソール1の形態が周知又は著名な商品等表示に該当するか)につ
いて
【原告の主張】
(1) 原告商品の販売開始時期
20 原告は、平成25年4月から原告商品のサンプル品の販売を開始し、令和2
年1月から、原告ソール1と同じ特徴を有する原告ソール2を用いた原告サン
ダルの販売を開始した。
(2) 特別顕著性があること
婦人用カジュアルレザーシューズにおいて、需要者は、ソールの形態に着目
25 するところ、原告ソール1の形態には、安全性及び歩きやすさを実現するため
に、従来の一般的なソールにない次の①ないし④の特徴(以下、 「特徴1」
順に
などという。)を備えている(なお、符号は、別紙原告ソール目録記載の原告ソ
ール1の図記載の番号に対応する。以下同じ。。

① 靴底裏面に複数の縦溝1及び横溝2、3を有することで、裏面視におい
て全体として略格子状のイメージを奏すること(特徴1)
5 ② 靴底裏面の前方部分に、i)左右一対の2本の前記縦溝1と、ii)左右
端から形成され前記各縦溝1とそれぞれ交差し、先端(中央側端部)同士
が対向する左右3対の前記横溝2と、iii)前記左右3対の横溝2より
もつま先側において左端から右端にかけて形成される横溝3とが配され
ていること(特徴2)
10 ③ 靴底裏面において、つま先部分から指の付け根に相当する部分に、横方
向に伸びる畝状の複数の段部4を有し、この段部4が、後方につれて裏面
側に傾斜するテーパー面4aを有すること(特徴3)
④ 靴底裏面において、踵に相当する部分に、横方向に伸びる畝状の複数の
段部5を有し、この段部5が、後方につれて表面側に傾斜するテーパー面
15 5aを有すること(特徴4)
すなわち、従来、溝の深いソールやかかと部分が厚底のソールは消費者から
敬遠されていたが、原告ソール1には、小石のつまりによる転倒を防止するた
めにあえて深い溝が設けられ、長時間歩行による疲労防止のために技術的に製
造困難と解されていた合成樹脂を用いた厚底の形態が採用された。また、原告
20 ソール1には、原告の前身がレインブーツ専門業者として蓄えた知見を活用し、
中央に溝を設けない溝の配列を採用して横への排水を可能とする形態(特徴1、
特徴2)や、歩行時のスムーズな前方への踏出しと安全な着地を実現するため
の形態(特徴3、特徴4)が採用された。
これらの特徴のほかに、原告ソール1の裏面には、小指相当部分に原告代表
25 者の名字の頭文字「F」をロゴ化した略コの字状のデザインが施されており、
靴底の親指から薬指相当部分にも「F」字状のデザインが施されている。
よって、原告ソール1の形態は、従来の同種商品とは異なる特別顕著な特徴
を有している。
(3) 周知性又は著名性があること
原告商品は、平成25年4月の販売開始後、複数の全国規模の展示会に出展
5 され、複数の業界専門誌や業界専門誌以外の雑誌に掲載され、原告の国内直営
店舗(10店舗)や複数のECサイト、複数の卸売業者、百貨店等の催事、メ
ディア等において広く宣伝、販売された。
原告商品の売上数は、平成25年の販売開始後、徐々に増え、平成30年以
降は爆発的に増えて従前の約2倍となり、令和4年までの原告各商品の累計売
10 上数は87万3340足を超えている(平成28年及び平成29年は各約7万
足、平成30年は約12万足、令和元年は約15万足、令和2年は約13万足、
令和3年は約14万足、令和4年は約17万足) 原告による靴製品
。 (うち約9
割が原告各商品)の平成28年以降の売上高は7億円から10億円であり、業
界専門誌では令和2年の原告の売上高が業界内35位であるとされ、帝国デー
15 タバンクでは原告の業種(革製履物)別売上高が全国214社中16位である
とされている。
以上によれば、原告ソール1の形態は、遅くとも令和2年秋頃までに、少な
くとも需要者、すなわち、婦人用靴の消費者及び取引者において、原告の商品
であることを示す表示として広く認識されており、周知性又は著名性がある。
20 (4) よって、原告ソール1の形態は、周知又は著名な商品等表示に該当する。
【被告の主張】
(1) 商標登録出願が拒絶査定されたこと
原告は、令和3年11月25日に原告ソール1を立体商標とする商標登録出
願をしたが、特許庁から原告ソール1は商品の形状を普通に用いられる方法で
25 表示する標章のみからなり自他識別力を有しないとの理由で拒絶査定がされ
た。よって、原告ソール1は、不競法2条1項1号又は2号の「商品等表示」
に該当しない。
(2) 原告商品の販売開始時期
原告商品が平成25年から販売されていたことを裏付ける証拠はない。原告
ソール1及び原告ソール2の雑誌への掲載が確認できるのは令和元年9月発
5 売の雑誌以降であるから、原告商品の開始時期は同月以降の令和2年5月であ
る。
(3) 特別顕著性がないこと
特徴1ないし特徴4及びこれらの組み合わせは、原告商品の販売開始前から
複数の他社の販売商品や登録意匠に見られる形態であり、いずれもありふれた
10 形態である。また、特徴1及び特徴2については、防滑機能及び排水機能を発
揮するための形態であり、特徴3及び特徴4についても、防滑機能を発揮する
ための形態であり、いずれも技術的機能に由来する形態である。加えて、
「F」
をロゴ化したとする略コの字状のデザインは、これを小指に相当部分に配した
ソールが原告商品の販売開始前に他社から意匠登録出願がされている。
15 したがって、原告ソール1の形態には、特別顕著性がない。
(4) 周知性又は著名性がないこと
原告が、原告商品の販売開始(令和2年5月)から被告商品の販売開始(令
和3年1月)までの原告各商品の広告宣伝活動期間は、1年未満である。また、
原告主張の雑誌等の多くに原告ソール1は掲載されておらず、掲載されている
20 場合も写真が小さく目立たないから、需要者の注意を引くとはいえない。加え
て、原告主張の売上高は、客観的な裏付け証拠はなく信用できない。
したがって、原告ソール1の形態が周知又は著名であるとはいえない。
(5) よって、原告ソール1の形態は、周知又は著名な商品等表示に該当しない。
2 争点2(原告ソール1の形態と被告ソールの形態が同一又は類似であるか)に
25 ついて
【原告の主張】
上記1【原告の主張】(2)のとおり、原告商品は、特徴1ないし特徴4という形
態的特徴を有しているところ、被告商品はこれらすべての特徴を有している。特
に、ソール全体のうちで広い面積を占める前方部分は、需要者が最も着目する部
分であるところ、原告ソール1と被告ソールは、この部分において酷似している。
5 よって、原告ソール1の形態と被告ソールの形態は同一又は類似する。
【被告の主張】
被告は、原告ソール1の意匠登録後に被告ソールについて意匠登録出願をし、
意匠登録を受けている。また、原告ソール1と被告ソールの共通点は、つま先と
かかと部分のテーパー面を有する横溝の形状のみである。被告ソールは、原告ソ
10 ール1とは異なり、全体として略格子状の印象を与える形態ではなく、左右の縦
溝1と横溝3に囲まれた部分には原告ソール1のような波様のパターンの凹凸
は形成されておらず、他方で、左右の縦溝1の外側と横溝との内側部分には細い
波型の溝が形成され、中心部分の溝の内側にも凸部が形成されており、多くの相
違点がある。
15 よって、原告ソール1と被告ソールの形態は類似しない。
3 争点3(混同のおそれがあるか)について
【原告の主張】
上記2【原告の主張】のとおり、被告ソールは原告ソール1の各形態は類似す
る。また、原告商品は、
「Air Sense Walk」
「空気を履いた感覚 そ
20 れで歩こう」とのキャッチフレーズを付して販売されているところ、被告商品も
「超軽量シリーズ」とのフレーズを付して販売されており、いずれも軽量を特徴
とする商品として販売されている。加えて、原告と被告は、主に婦人用革靴を製
造販売等する会社であり、本店所在地を神戸市<以下略>に置き、ほぼ同一の商
流を有し、各取引先や需要者も重複している。
25 これらの事情に照らせば、需要者において、被告商品(被告ソール)が原告商
品(原告ソール1)であると混同するおそれがあることは明らかである。
【被告の主張】
商品広告において軽量を特徴として広告することは一般的であり、原告と被告
の商流や取引先が同一であるとの立証はない。また、上記2【被告の主張】のと
おり、原告ソール1と被告ソールの形態は類似していない。
5 よって、需要者において、原告ソール1と被告ソールの出所を混同するおそれ
があるとはいえない。
4 争点4(被告に故意又は過失があるか)について
【原告の主張】
原告代表者は、被告代表者の子に対し、令和3年1月20日開催の展示会にお
10 いて、被告による原告各商品の類似品の製造を指摘し、同年3月20日開催の展
示会前にも、
「原告の靴底」の類似品を展示しないように口頭で警告したが、被告
は、同年10月20日開催の展示会で、原告ソール1と類似する複数の製品を展
示、販売した。
以上によれば、被告は、遅くとも令和3年1月20日には、被告ソールを用い
15 た商品の製造販売によって原告の営業上の利益を侵害することを認識していた、
又は少なくともこれを予見し得たから、被告には故意又は過失がある。
【被告の主張】
否認し争う。
5 争点5(損害額)について
20 【原告の主張】
(1) 逸失利益
被告商品の販売開始(令和3年7月1日)から本件訴訟提起までの間の被
告商品の売上総数は5万足を下回らない。
被告商品の限界利益は、次の計算式のとおり、1足あたり2210円である。
25 (計算式)店頭小売価格7800円×卸売割合45%-仕入値1300円
以上から、被告商品について被告の得た利益は、少なくとも1億1050万
円を下らない。
(2) 弁護士費用・弁理士費用
被告の不正競争と相当因果関係のある弁護士費用及び弁理士費用は、それぞ
れ上記(1)の損害額の1割に相当する1105万円を下らない。
5 【被告の主張】
否認し争う。
第4 判断
1 争点1(原告ソール1の形態が周知又は著名な商品等表示に該当するか)につ
いて
10 「商品等表示」とは、
「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若
しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。商品の形態は、商標
等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが、商
品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そ
して、このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、不
15 正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには、①商品の
形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、
かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて
強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性)、需要者においてその形
態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている
20 ことを要すると解するのが相当である(知財高裁平成24年12月26日判決・
判タ1408号235頁参照)。
なお、原告は、その主張からみて、原告商品の需要者を、一般消費者(及び卸
売業者)と主張するものと解される。
(1) 原告商品の販売開始時期
25 証拠及び弁論の全趣旨によれば、令和2年5月号の雑誌「フットウェア・プ
レスFW」に、原告ソール1を用いた原告の商品が掲載されたこと(甲22の
2)が認められ、また、令和元年の後半に発刊されたと認められる刊行物(甲
30の1)に、原告ソール1と思われる靴裏の写真が掲載されていることが認
められるものの、これ以前の原告ソール1が使用された商品の存在を直接証明
する証拠はない。
5 この点、証拠によると、令和3年7月号の前掲誌には、原告商品(商品名「ド
ラエスダブリュー7032」)につき、同商品が「8年前(引用者注:平成25
年)から売れているロングセラー商品」であると紹介されたこと(甲22の1
6)、令和5年5月に出力されたECサイトの画面印刷物において、同ECサ
イトで販売された原告ソール1を用いた商品(ただし、ブランド名は「Mil
10 la Sports」)の購入者が平成27年11月に商品レビューを投稿し
ていることが認められるが(甲44の8) そこで言及された商品において、
、 ソ
ールの形態が不変であったことを認めるに足りる証拠はなく、使用されたソー
ルが原告ソール1と同一であると推認することは困難である。
原告は、平成25年から原告商品を販売したと主張するところ、自らその登
15 録意匠の無効(意匠法3条)を来す主張をする意図は判然としないものの、そ
の販売開始時期は、早くて令和元年の後半とする限度でこれを認めることがで
きるというべきであり、これより以前の販売を主張する部分は、理由がない。
(2) 特別顕著性について
原告ソール1が、合成樹脂を用いた厚底ソールであり、原告主張の特徴1な
20 いし特徴4の形態を備えていること、一部の溝の形状が略コの字状となってい
ることについては、当事者間に争いがない。そこで、これらの形態やその組み
合わせが、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴といえるか、以下検討
する。
ア 合成樹脂を用いた厚底のソールであるとの形態について
25 証拠(乙20)によれば、イタリアのVibram社(ソールのメーカー)
が、原告商品1の販売の相当前である昭和59年(1984年)にカジュア
ルシューズ向けの合成樹脂(EVA)製の超軽量ソールの製造を開始したこ
とが認められるところ、合成樹脂製のソールの厚みを厚くすることが製造技
術上困難であるような事情は見当たらない(令和5年7月時点では、複数の
他社から合成樹脂製の厚底ソールを使用した婦人靴が販売されていた(乙2
5 1、22))
。。そうすると、合成樹脂を用いた厚底ソールである形態が、従来
の同種商品と異なる形態とはいえない。
イ 特徴1(靴底裏面に複数の縦溝1及び横溝2、3を有することで、裏面視
において全体として略格子状のイメージを奏すること)について
証拠(乙7の1、7の3ないし7の6)によれば、原告商品の販売開始前
10 に、複数の他社から靴底裏面に複数の縦溝と横溝が施されて全体として略格
子状の形態の靴底の意匠登録出願がされ、その後、いずれも意匠登録がされ
たことが認められるから、特徴1の形態はありふれた形態というべきである。
また、ソールの溝の深さを深くすることによって排水機能や防滑機能が実現
されることは一般的な知見といえる(乙8)から、特徴1の形態は技術的機
15 能に由来する形態といえる。
ウ 特徴2(靴底裏面の前方部分に、i)左右一対の2本の前記縦溝1と、i
i)左右端から形成され前記各縦溝1とそれぞれ交差し、 (中央側端部)
先端
同士が対向する左右3対の前記横溝2と、iii)前記左右3対の横溝2よ
りもつま先側において左端から右端にかけて形成される横溝3とが配され
20 ていること)について
証拠(乙7の1、7の4、7の5)によれば、原告商品の販売開始前に、
複数の他社から靴底裏面の中央より前方(つま先)部分に概ね2本の縦溝と、
左右端から形成され上記縦溝と交差し、先端同士が対向する左右3ないし5
対の横溝と、同横溝よりつま先側において左端から右端に形成される横溝と
25 が配された靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたこと
が認められる。また、上記横溝の数を原告ソール1の「横溝2」のように3
対とすることに特別な意義があると解する理由は見当たらない。そうすると、
特徴2の形態は、ありふれた形態というべきである。また、特徴2の形態は、
上記イと同様の理由から、技術的機能に由来する形態ともいえる。
エ 特徴3(靴底裏面において、つま先部分から指の付け根に相当する部分に、
5 横方向に伸びる畝状の複数の段部4を有し、この段部4が、後方につれて裏
面側に傾斜するテーパー面4aを有すること)について
証拠(乙7の4、7の6、10の1、10の5)によれば、原告商品の販
売開始前に、複数の他社から、①つま先から指の付け根付近に複数の横方向
の段部が配され、②この段部が後方につれて裏面側に傾斜するテーパー面を
10 有する靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認
められる(ただし、乙7の4の登録意匠の靴底には、上記②の構成は含まれ
ていない。。そうすると、特徴3に係る形態は、ありふれた形態というべき

である。
オ 特徴4(靴底裏面において、踵に相当する部分に、横方向に伸びる畝状の
15 複数の段部5を有し、この段部5が、後方につれて表面側に傾斜するテーパ
ー面5aを有すること)について
証拠(乙7の4、10の5)によれば、原告商品の販売開始前に、複数の
他社から、靴底裏面の踵に相当する部分に横方向に伸び、後方につれて表面
側に傾斜するテーパー面を有する複数の段部が配された靴底の意匠登録出
20 願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認められる。そうすると、
特徴4に係る形態は、ありふれた形態というべきである。
カ 一部の溝の形状が略コの字状となっているとの形態について
当該形態は、原告の主張によっても、原告代表者の名字の頭文字「F」を
なぞったデザインの一つにすぎない。また、当該形態が施された範囲は、親
25 指から薬指にかけた部分及び小指部分であって、原告ソール1全体の約6分
の1程度と非常に狭く(甲5)、需要者が着目するとは解し難い。
キ 以上によれば、原告ソール1の形態は、客観的に他の同種商品とは異なる
顕著な特徴を有するとはいえないから、原告ソール1の形態に特別顕著性が
あると認めることはできず、原告の主張は理由がない。
(3) 周知性又は著名性について
5 なお、周知性について、念のため検討する。
原告は、原告商品の販売開始後、①平成30年以降に複数の展示会に原告商
品を出展したことや、②多数の業界雑誌や業界外雑誌に原告商品が紹介された
こと、③国内直営店舗や複数のECサイトで原告商品が販売されたこと、④平
成28年以降の原告の靴製品の売上高が伸び、業界内で上位となったことなど
10 から、原告ソール1が令和2年秋頃には周知になったと主張する。
しかしながら、そもそも原告主張の原告商品の販売開始時期をその通り認定
できないことは前記のとおりであるが、原告ソール1の需要者は、婦人靴の購
入を検討する一般消費者(及びその取引業者)であるところ、当該需要者は、
靴全体のデザイン(中でも人目を引くアッパーの部分)や着用感に着目し、仮
15 にソールに注意を払うとしても、その注意はおおむね機能的な観点で向けられ
るものと解され、ソールの形態や材質それ自体から出所を認識するとの一般的
な経験則は認め難いものと解されるから、原告主張の事情は直ちに原告ソール
1が周知であることを基礎づけるものではない。
その上で検討すると、上記①については、各展示会に原告商品が出展された
20 としても、原告ソール1がどのように展示されていたかは明らかではない。
上記②については、令和2年5月号から令和4年1月号の業界雑誌「フット
ウェア・プレスFW」には原告ソール1の画像が掲載されているが(甲22の
2ないし22の22)
、同誌は一般消費者向けの媒体としての性質は薄いもの
と認められるうえ、原告商品が掲載された業界外雑誌(甲26、28、30(い
25 ずれも枝番を含む。) 大半において通信販売の媒体としてのものであって、
) は、
商品それ自体を紹介するものとは性質を異にするうえ、原告ソール1は掲載さ
れておらず、掲載されている場合でも掲載範囲は小さく(甲24の1ないし2
4の4、26の1ないし26の4、28の1、28の2、30の1、30の2、
32)、需要者が原告ソール1の形態に着目するとは解し難い。
上記③については、原告の国内直営店舗数は10店舗にとどまる(甲53)。
5 また、複数のECサイトに原告ソール1を用いた商品が掲載されているが、原
告ソール1の画像が掲載されていない例も多数存在するうえ、掲載されている
場合も、複数の商品画像中の3枚目以降に掲載されているから、需要者が原告
ソール1の形態に着目するとはいえない。また、ECサイトに掲載された原告
ソール1を用いた商品は、原告とは異なる他社ブランド名で販売されているも
10 のが多く、このような掲載方法によって、掲載されたソールが原告のソールで
あると需要者が認識するとはいえない(甲44の1ないし47の6、弁論の全
趣旨)。
上記④については、原告の主張を前提としても、業界内における売上高が
極めて上位にあるものとはいえない。
15 以上によれば、原告ソール1の形態が周知であると認めることはできず、
他に、本件証拠上、原告ソール1の形態が周知性又は著名性を有すると認め
るに足りる証拠はない。
(4) 小括
したがって、原告ソール1の形態は、周知な商品等表示に該当するとか、ま
20 して著名な商品等表示であるとかと認めることはできない。
2 まとめ
以上によれば、その余の点について検討するまでもなく原告の請求は理由がな
い(なお、付言すると、原告ソール1の形態と被告ソールの形態の類似性がある
と認めることもできない。。

25 第5 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり
判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
松 阿 彌 隆
裁判官
島 田 美 喜 子
裁判官
阿 波 野 右 起
20 (別紙原告ソール目録及び被告ソール目録の添付省略)

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