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令和5(ワ)3171損害賠償請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和5年12月11日
事件種別 民事
当事者 原告
被告株式会社スターレイプロダクション
法令 その他
不正競争防止法2条1項1号6回
民法709条1回
キーワード 侵害21回
損害賠償3回
許諾1回
無効1回
ライセンス1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。15
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 本件は、タレントである原告が、芸能活動に関し専属契約を締結していた被 告に対し、当該契約が解除されたにもかかわらず、被告がそのホームページ上 に原告の肖像写真及び氏名等を掲載し続けているとして、主位的に当該掲載行 為が肖像権及びパブリシティ権侵害を構成すると主張し、不法行為に基づき、 損害賠償金975万7000円(損害金887万円及び弁護士費用88万70 00円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和5年3月45 日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払並びに上 記肖像写真等の削除を求め、予備的に上記掲載行為が不正競争防止法2条1項

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判決文

令和5年12月11日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和5年(ワ)第3171号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和5年10月5日
判 決
5 原 告 A
同訴訟代理人弁護士 河 西 邦 剛
同 西 山 晴 基
被 告 株式会社スターレイプロダクション
同訴訟代理人弁護士 長 町 真 一
10 同 松 元 優 季
同 朝 妻 健
同 伊 﨑 健 太 郎
同 古 川 弘 基
主 文
15 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、975万7000円及びこれに対する令和5年3月4
20 日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、インターネット上で公開する自らのホームページ(ht
tp://以下省略)に掲載した別紙1記載の画像及び氏名(赤枠囲み内部分)並
びにインターネット上で公開する自らのウェブページ(http://以下省略)に
掲載した別紙2記載の記事及び画像を削除せよ。
25 第2 事案の概要
1 本件は、タレントである原告が、芸能活動に関し専属契約を締結していた被
告に対し、当該契約が解除されたにもかかわらず、被告がそのホームページ上
に原告の肖像写真及び氏名等を掲載し続けているとして、主位的に当該掲載行
為が肖像権及びパブリシティ権侵害を構成すると主張し、不法行為に基づき、
損害賠償金975万7000円(損害金887万円及び弁護士費用88万70
5 00円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和5年3月4
日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払並びに上
記肖像写真等の削除を求め、予備的に上記掲載行為が不正競争防止法2条1項
1号に掲げる不正競争に該当すると主張し、同法4条に基づき、損害賠償金3
82万8000円(損害金348万円及び弁護士費用34万8000円の合計
10 額)の支払を求める事案である。
なお、原告は、令和5年6月12日、本件訴えの全部を取り下げたものの、
被告は、同月20日、これに同意をせず、同年10月5日、弁論が終結された。
2 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。)
⑴ 当事者
15 ア 原告は、タレント、モデル、演劇その他の芸能活動を行ってきた者であ
る。
イ 被告は、タレントやモデルの育成及びマネジメントを主とするプロダク
ション業務等を業とする芸能プロダクションである。
⑵ 本件契約
20 原告と被告は、平成30年12月5日頃、原告が被告の専属タレントとし
て、被告の指示に従って芸能活動を行い、被告が原告に対し、当該芸能活動
に係る報酬等を支払うことを内容とする専属契約(以下「本件契約」とい
う。)を締結した。(甲2、弁論の全趣旨)
⑶ 本件契約の解除等
25 原告は、本件契約締結から令和2年7月頃までの間、被告の専属タレント
として芸能活動を行っていたが、同月4日、被告の従業員に対し、事務所
(被告)を辞めたい旨伝えた。(弁論の全趣旨)
そして、原告は、令和2年8月7日、被告に対し、本件契約を解除する旨
の解除通知書(以下「本件通知書」という。)を送付した。(甲4、弁論の
全趣旨)
5 ⑷ 別件訴訟
その後、被告は、原告に対し、本件契約の解除が無効であるとして、本件
契約が存続していることの確認等を求める本訴(当庁令和3年 第1191
8号。以下、下記反訴と併せて「別件訴訟」という。)を提起し、これに対
して原告は、被告に対し、本件契約に基づく未払報酬等の支払を求める反訴
10 (当庁令和4年 第4871号)を提起したが、令和4年11月29日、上
記本訴請求及び反訴請求をいずれも棄却する旨の判決が言い渡された。(甲
6、弁論の全趣旨)
原告は、上記判決に対して控訴し、被告は附帯控訴したが、令和5年4月
18日、原告が当該控訴を取り下げたため、上記判決は確定した。(弁論の
15 全趣旨)
⑸ 本件掲載
被告は、本件通知書の受領後である令和2年9月7日以降も、自社のホー
ムページにおいて、原告の肖像写真及び氏名(別紙1の赤枠囲み内部分。以
下「本件写真等1」という。)並びに原告のプロフィール及び肖像写真(別
20 紙2。以下「本件写真等2」といい、本件写真等1及び2の肖像写真を、併
せて「本件写真」といい、本件写真等1及び2を、併せて「本件写真等」と
いう。)を削除せず、その掲載(以下「本件掲載」という。)を続けた。
しかしながら、上記のとおり、別件訴訟の判決が令和5年4月18日に確
定したことから、被告は、同日、自社のホームページから、本件写真等を削
25 除した。(乙1、7、弁論の全趣旨)
3 争点
⑴ パブリシティ権侵害の有無(争点1)
⑵ 肖像権侵害の有無(争点2)
⑶ 不正競争防止法2条1項1号該当性(争点3)
⑷ 損害発生の有無及びその額(争点4)
5 第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(パブリシティ権侵害の有無)について
(原告の主張)
⑴ 人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)が商品の販売等を
促進する顧客吸引力を有する場合、そのような肖像等を無断で使用する行為
10 は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②
商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広
告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする
といえる場合には、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違
法となると解される(最高裁平成21年(受)第2056号同24年2月2
15 日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁参照)。
この点について、まず、原告の写真集が販売されたり、肖像写真が広告宣
伝に利用されたりしていたのであるから、原告の肖像等が商品の販売等を促
進する顧客吸引力を有することは明らかである。
そして、芸能事務所である被告にとっては、制作会社等の取引先及び新た
20 なタレント候補者との関係において、原告を含む所属タレント自体が商品で
あるところ、本件掲載は、①原告の肖像等自体を独立して鑑賞の対象となる
商品等として使用するものであること、②他の芸能事務所のタレントとの差
別化を図る目的で、③被告の広告として原告の肖像等を使用するものである
ことが明らかであり、専ら原告の肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的と
25 するものであるといえる。
したがって、本件掲載は、原告のパブリシティ権を侵害するものである。
なお、契約が明らかに終了した場合のみならず、肖像写真等の使用の承諾
を撤回した場合も、パブリシティ権侵害が成立する。
⑵ 被告は、タレント自体が商品等に該当するとは解されていないとして、前
掲最高裁平成24年2月2日判決にいう第1類型(以下、同判決記載の①な
5 いし③の類型を、順に第1類型ないし第3類型という。)に該当しないと主
張する。しかしながら、本件掲載により、被告が取引先を通じて原告の肖像
写真等を使用して収益を上げることになること、被告が原告の肖像写真等に
係るライセンス権を有しているかのような外観を作出するものであることな
どに照らせば、本件掲載は、被告が原告の肖像写真等を写真集等に利用する
10 行為と同視し得る行為といえる。
また、被告は、広告宣伝目的の掲載ではないから第3類型に該当しない旨
主張する。しかしながら、本件掲載は、被告が取引先を介して原告の肖像写
真等を広告等に利用する行為と同視できることや、被告自身の役務の宣伝・
広告として利用している側面もあることからすれば、被告の主張は失当であ
15 る。
(被告の主張)
パブリシティ権の侵害は、専ら氏名や肖像等の有する顧客吸引力の利用を目
的とするといえる行為にのみ成立するところ、以下のとおり、本件掲載は、そ
のような行為に当たらないため、パブリシティ権侵害は成立しない。
20 まず、第1類型についてみるに、本件掲載は、原告の氏名や肖像自体を、グ
ラビア写真のように主たる一部の構成物とした出版物として売り出しているも
のではない。また、本件掲載当時、被告のホームページには、100名近くの
所属タレントに加え、スタッフ等も紹介されており、記事たる被告のホームペ
ージが「添え物」で、原告の肖像等が独立して鑑賞の対象となっているとはい
25 えない。
第2類型についてみるに、本件掲載(原告の肖像等の掲載)は、被告のホー
ムページ全体の1パーセントにも満たないから、同ホームページが原告の人物
識別情報部分によって差別化されている(原告の人物識別情報が有する顧客吸
引力を利用している)とはいえない。
第3類型についてみるに、本件掲載は、原告が被告の所属タレントである事
5 実を示すにすぎず、何らかの商品等を広告宣伝する目的で掲載されたものでは
ない。そもそも広告代理店等の取引先は、被告を始めとする芸能事務所のホー
ムページを見て肖像等を利用したいタレントを選択するわけではない。
2 争点2(肖像権侵害の有無)について
(原告の主張)
10 芸能人は、どのような企業のどのような商品・サービス等の広告等に出演す
るか、自己の意思に基づいて判断、決定できるものであり、芸能事務所に所属
し続けるかどうかも自己の意思に基づいて判断、決定できる。したがって、自
らの意思に反して、芸能事務所の所属タレントとして肖像が利用された場合に
は、慰謝料によって慰謝されるべきである。
15 (被告の主張)
本件写真は、原告の私的領域について撮影したものではないし、原告を侮辱
するものでもなく、また、原告の私生活の平穏を害するものでもないから、肖
像権を侵害するものとはいえない。
3 争点3(不正競争防止法2条1項1号該当性)について
20 (原告の主張)
⑴ 商品等表示該当性
原告は「A」という名称で芸能活動をしており、同名称は原告という商品
の出所又は営業の主体を示す表示といえるから、「他人の商品等表示」に該
当する。
25 また、原告の容ぼうを撮影した写真も、人の業務に係る標章に当たるから、
「他人の商品等表示」に該当する。
⑵ 周知性
原告は、平成30年にミス週刊少年マガジンを受賞するなど、著名な芸能
人として需要者の間に広く認識されている。
⑶ 混同惹起の有無
5 被告が、本件契約解除後も、原告の氏名及び写真を掲載したこと(本件掲
載)により、需要者である取引先に対し、既にタレント(原告)自身が商品
の出所又は営業の主体になっていたにもかかわらず、芸能事務所(被告)が
商品の出所又は営業の主体になるという混同を生じさせた。
(被告の主張)
10 ⑴ 商品等表示該当性
不正競争防止法2条1項1号の「商品」とは、その経済的価値が社会的に
承認され、独立して取引の対象とされているものを指すところ、原告という
自然人自身が、独立して取引の対象とされているわけではないから、原告の
名称及び容ぼうを撮影した写真が「他人の商品等表示」に当たることはない。
15 ⑵ 周知性
原告が平成30年のミス週刊少年マガジンを受賞していても、当該コンテ
ストのグランプリは原告ではなかったし、受賞から5年が経過しているから、
取引先に広く知られるだけの知名度を獲得し、それが現在まで継続している
とはいえない。
20 ⑶ 「商品等を使用」について
上記のとおり、被告のホームページにおける原告の肖像等の掲載(本件掲
載)は、同ホームページ全体の1パーセントにも満たない上、被告の商号が
明記されているから、被告は、そもそも原告の肖像等を自己の商品等表示と
して用いるものではない。
25 4 争点4(損害発生の有無及びその額)について
(原告の主張)
⑴ パブリシティ権及び肖像権侵害に係る損害
ア 財産的損害及び精神的損害
原告は、本件掲載により、本件写真等の使用を許諾する場合に通常受領
すべき金銭に相当する額の損害を受けた。
5 また、本件掲載は、原告が未だに被告に所属するタレントであるかのよ
うな誤解を与えるものであるから、原告が他の芸能事務所等で芸能活動を
行う機会を奪うものであり、原告が精神的苦痛を受けたことは明らかであ
る。
したがって、本件掲載に基づく上記財産的損害及び精神的損害を合わせ
10 た損害額は、1日1万円を下回るものではない。そのため、少なくとも、
本件通知書の受領日である令和2年8月7日から30日経過後である同年
9月7日から令和5年2月10日に至るまでの損害額は、合計887万円
を下回るものではない。
イ 弁護士費用
15 本件掲載と相当因果関係のある弁護士費用は、上記アの金額の1割相当
額である88万7000円を下回るものではない。
⑵ 不正競争に係る損害
ア 被告の不正競争により、原告に出演等の業務依頼をしようとする取引先
は、実際には原告が所属していない被告に依頼をしようとすることになる
20 のであるから、原告は、適時の機会に出演等の業務を受託することができ
なくなるなど、営業上の利益を侵害されたといえる。
そして、原告の芸能活動によって得られたであろう売上げは、月額12
万0928円を下らないところ、被告との間の本件契約解除後、被告が原
告の氏名及び肖像等を被告のホームページに掲載し続けた約2年5か月の
25 間における原告の各月の売上げは、同金額をはるかに下回るものである。
したがって、被告の不正競争による営業上の利益の侵害に係る原告の損
害額は、348万円を下回るものではない。
イ 弁護士費用
本件掲載と相当因果関係のある弁護士費用は、上記アの金額の1割相当
額である34万8000円を下回るものではない。
5 (被告の主張)
被告が、自社のホームページに本件写真等を掲載(本件掲載)したとしても、
使用料等が生じるわけではないし、本件掲載によって原告のタレント活動に支
障が生じてもいないから、本件掲載によって原告に損害は発生していない。
第4 当裁判所の判断
10 1 争点1(パブリシティ権侵害の有無)について
⑴ 肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象
となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等
に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する
顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害する
15 ものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成
21年(受)第2056号同24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2
号89頁)。
これを本件についてみると、前提事実並びに証拠(甲11、乙1、7)及
び弁論の全趣旨によれば、芸能プロダクションである被告は、被告に所属す
20 るタレントを紹介するために、そのホームページにおいて、他の所属タレン
トと併せて原告の氏名及び肖像写真(本件写真等1)をトップページに掲載
するとともに、原告のプロフィール及び肖像写真(本件写真等2)を所属タ
レントのページに掲載したことが認められる。
上記認定事実によれば、被告は、所属タレントを紹介する被告のホームペ
25 ージにおいて、原告が被告に所属する事実を示すとともに、原告に関する人
物情報を補足するために、本件写真等を使用したことが認められる。
そうすると、本件写真等は、商品等として使用されるものではなく、商品
等の差別化を図るものでもなく、商品等の広告として使用されるものともい
えない。
したがって、被告が本件写真等を使用する行為は、専ら原告の肖像等の有
5 する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、パブリシティ権を侵害
するものと認めることはできない。
⑵ これに対し、原告は、本件写真等の掲載は原告の肖像写真等を写真集等に
利用する行為と同視し得ると主張し、また、被告が取引先を介して原告の肖
像写真等を広告等に利用する行為と同視し得る旨主張する。
10 しかしながら、本件写真等は、被告が所属タレントを紹介するために使用
されたにすぎないことは、上記において説示したとおりである。
そうすると、本件写真等が写真集等や広告等に利用されたといえないこと
は明らかである。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができ
ない。
15 2 争点2(肖像権侵害の有無)について
⑴ 肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するも
のとして、みだりに自己の容ぼう等を撮影等されず、又は自己の容ぼう等を
撮影等された写真等をみだりに公表されない権利を有すると解するのが相当
である(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷
20 判決・刑集23巻12号1625頁、最高裁平成15年(受)第281号同
17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁、前掲最高
裁平成24年2月2日判決各参照)。他方、人の容ぼう等の撮影、公表が正
当な表現行為、創作行為等として許されるべき場合もあるというべきである。
そうすると、容ぼう等を無断で撮影、公表等する行為は、①撮影等された
25 者(以下「被撮影者」という。)の私的領域において撮影し又は撮影された
情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではない
とき、②公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合におい
て、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するもの
であるとき、③公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合
において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を
5 超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときなど、
被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、
肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当で
ある。
⑵ これを本件についてみると、前記認定事実によれば、被告は、所属タレン
10 トを紹介する被告のホームページにおいて、原告が被告に所属する事実を示
すとともに、原告に関する人物情報を補足するために、本件写真を使用した
ものである。そして、証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真
の内容は、白色無地の背景において、原告の容ぼうを中心として正面から美
しく原告を撮影したものであることが認められる。
15 そうすると、本件写真は、私的領域において撮影されたものではなく、原
告を侮辱するものでもなく、平穏に日常生活を送る原告の利益を害するもの
ともいえない。
したがって、被告が本件写真を使用する行為は、原告の肖像権を侵害する
ものと認めることはできない。
20 これに対し、原告は、自らの意思に反して芸能事務所の所属タレントとし
て肖像が利用された場合には、精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超
える場合に当たる旨主張する。しかしながら、原告は、肖像権侵害を主張す
るものの、肖像に化体しこれに紐づけられた法律上保護される利益(民法7
09条参照)を具体的に特定して主張するものではなく、主張自体失当とい
25 うほかない。仮に、原告の主張を前提としても、前記前提事実によれば、本
件契約に係る解除が有効であるとする別件訴訟の棄却判決が、令和5年4月
18日に確定したところ、被告は、同日には、自社のホームページから、本
件写真を削除したことが認められる。そうすると、原告の主張を十分に斟酌
しても、本件契約の解除の有効性が訴訟で争われていた事情を考慮すれば、
その間に本件写真を掲載した行為が、受忍限度を超える侮辱ということはで
5 きず、その他に、原告主張に係る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を
超えることを裏付ける的確な証拠はない。したがって、原告の主張は、採用
することができない。
3 争点3(不正競争防止法2条1項1号該当性)について
不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」とは、人の業務に係る氏
10 名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示
するものをいう。
これを本件についてみると、原告の氏名又は肖像は、原告を示す人物識別情
報であり、本来的に商品又は営業の出所表示機能を有するものではない。そし
て、前記前提事実によれば、原告は、芸能プロダクションである被告に所属す
15 る一タレントであったにすぎず、原告自身がプロダクション業務等を行ってい
た事実を認めるに足りない。そして、本件全証拠をもっても、原告の氏名又は
肖像が、その人物識別情報を超えて、原告自身の営業等を表示する二次的意味
を有するものと認めることはできず、まして、原告の氏名及び肖像が、タレン
トとしての原告自身の知名度とは別に、原告自身の営業等を表示するものとし
20 て周知であるものとは、明らかに認めるに足りない。
したがって、原告の氏名又は肖像が周知な商品等表示に該当するものと認め
ることはできない。
これに対し、原告は、原告の氏名又は肖像が商品の出所又は営業の主体を示
す表示である旨主張するものの、原告は、芸能プロダクションである被告に所
25 属する一タレントであったにすぎず、本件全証拠によっても、原告自身が営業
等の主体である事実を認めるに足りないことは、上記において説示したとおり
である。したがって、原告の主張は、不正競争防止法2条1項1号にいう「商
品等表示」を正解するものとはいえず、採用することができない。
4 その他
その他に、原告提出に係る準備書面及び証拠を改めて十分に検討しても、原
5 告の主張は、パブリシティ権、肖像権、不正競争防止法にいう商品等表示の法
的性質をいずれも正解せずに主張するものに帰し、上記において説示したとこ
ろに照らし、いずれも採用の限りではない。
第5 結論
よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれらをいずれも棄却する
10 こととして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
中 島 基 至
15 裁判官
古 賀 千 尋
裁判官
20 尾 池 悠 子
(別紙1)
(別紙2)
いずれも省略

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