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令和5(ワ)70258発信者情報開示請求事件

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裁判所 認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和5年12月14日
事件種別 民事
当事者 原告有限会社オフィスサイレンス
被告株式会社NTTドコモ
法令 著作権
著作権法23条1回
キーワード 侵害16回
損害賠償2回
分割2回
主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 1 本件は、原告が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がいわゆるフ ァイル共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙著作物 目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を送信可能化及び自動公衆送信 したことによって、本件動画に係る原告の送信可能化権及び公衆送信権を侵害20 したと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限 及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。) 5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」 という。)の開示を求める事案である。

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判決文

令和5年12月14日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和5年(ワ)第70258号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和5年10月23日
判 決
5 原 告 有限会社オフィスサイレンス
同訴訟代理人弁護士 杉 山 央
エヌ・ティ・ティレゾナント株式会社訴訟承継人
被 告 株式会社NTTドコモ
同訴訟代理人弁護士 五 島 丈 裕
10 主 文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
15 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がいわゆるフ
ァイル共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙著作物
目録記載の動画(以下「本件動画」という。)を送信可能化及び自動公衆送信
20 したことによって、本件動画に係る原告の送信可能化権及び公衆送信権を侵害
したと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限
及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)
5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」
という。)の開示を求める事案である。
25 2 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。なお、証拠を
摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。)
⑴ 当事者
ア 原告は、映像等のデジタルコンテンツの企画、制作等を業とする会社で
ある。(甲18の2、弁論の全趣旨)
イ 被告は、一般利用者に向けてインターネット接続サービスを提供してい
5 る会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者
に該当する。(弁論の全趣旨)
⑵ 本件動画に係る著作権の帰属
原告は、本件動画の著作権者である。(甲2、18、28、30、弁論の
全趣旨)
10 ⑶ BitTorrentの仕組み(甲4ないし6、9、弁論の全趣旨)
BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有のネットワ
ークであり、その概要や利用の手順は、以下のとおりである。
ア BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしよう
とするユーザーは、まず、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイ
15 トに接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイル
をダウンロードする。
そして、ユーザーは、当該トレントファイルをBitTorrentク
ライアントソフトに読み込ませることにより、トラッカーサイトに接続し、
当該ファイルを保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それ
20 らのユーザーと接続した上で、当該ファイルをダウンロードする。なお、
ダウンロード中のユーザー(まだ完全な状態のファイルを復元できていな
い者)は、「リーチャー」と呼ばれる。
イ ユーザーは、ダウンロードした当該ファイルについて、ピア(データを
やり取りするコンピュータをいう。以下同じ。)としてトラッカーサイト
25 に登録されるため、他のピアからの要求があれば、当該ファイル(分割さ
れたファイル〔以下「ピース」という。〕を含む。)を提供しなければな
らない。そのため、ダウンロードと同時に不特定多数にアップロードが可
能な状態となる。すなわち、リーチャーは、目的のファイルをダウンロー
ドすると同時に、当該ファイルについて同時にアップロード可能な状態に
置かれることになり、他のリーチャーに当該ファイルの一部を送信するこ
5 とが可能な状態になっている。
ウ ユーザーは、ピースの取得を続け、完全な状態のファイルを復元すると、
「シーダー」と呼ばれ、シーダーになると、アップロードのみを行うよう
になる。
⑷ 原告による著作権侵害調査の概要(甲1、4ないし6、 弁論の全趣旨)
9、
10 ア 原告は、本件訴訟の提起に先立って、株式会社utsuwa(以下「本
件調査会社」という。)に対し、本件動画に係る著作権侵害についての調
査(以下「本件調査」という。)を依頼した。
イ 本件調査会社は、本件調査を踏まえ、原告に対し、別紙発信者情報目録
記載の日時に、同記載のIPアドレスの割当てを受けた発信者(本件発信
15 者)が本件動画に係るファイル(以下「本件ファイル」という。)のダウ
ンロード及びアップロードを行っていたことを報告した。
⑸ 被告による本件発信者情報の保有
被告は、本件発信者情報を保有している。
第3 争点及びこれに対する当事者の主張
20 本件の争点は、権利侵害の明白性(公衆送信権侵害の成否)であり、この点
に関する当事者の主張は、以下のとおりである。
(原告の主張)
1 BitTorrentのクライアントソフトウェアがインストールされた
端末が、インターネットに接続されて他の利用者からファイルを受信している
25 間は、同時に公衆たる他の利用者からの求めに応じて自動的にファイルが送信
される。そのため、BitTorrentを利用して他の利用者からファイル
を受信することで、必然的に自動公衆送信が生じることになる。
そもそもBitTorrentは、特定のファイルをピースに細分化し、こ
れをBitTorrentネットワーク上の利用者間で相互に共有及び授受
することを通じ、分割された全てのファイル(ピース)をダウンロードし、完
5 全なファイルに復元して、当該ファイルを取得することを可能にする仕組みで
ある。そして、本件調査会社は、μTorrentを介してBitTorre
ntを利用して、本件発信者から本件ファイルを取得し、当該ファイルの動画
が本件動画と同一であることの確認を行っている。
そうすると、本件発信者が、BitTorrentを利用して本件動画のフ
10 ァイルの一部(本件ファイル)を他のBitTorrentの利用者と送受信
することにより、BitTorrentの利用者である本件発信者による送信
可能化及び自動公衆送信が生じ、本件動画に係る公衆送信権(著作権法23条)
の侵害が成立することは明白である。
2 被告は、本件発信者の送信によって送られた1つのピースからでは、本件動
15 画の表現の本質的特徴を直接感得することができる映像を再生できない可能
性がある旨主張するが、別紙発信者情報目録記載の日時において侵害した事実
が認められれば、その時点で具体的にどのピースが送信されたかの立証は不要
であるから、被告の主張は失当である。
(被告の主張)
20 本件発信者の送信により本件動画のファイルを構成するピースが送信され
たとしても、これにより自動公衆送信権が侵害されたと認められるためには、
当該ピースにより、当該動画の表現の本質的特徴が感得できる必要がある。こ
の点、ファイルを細分化したピースを転送し合うというBitTorrent
の仕組みを踏まえると、本件発信者の送信によって送られた1つのピースから
25 では、本件動画の表現の本質的特徴を直接感得することができる映像を再生で
きない可能性が十分あるから、自動公衆送信権侵害を認めることはできない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実、証拠(甲1、4ないし9、11)及び弁論の全趣旨によれば、
本件調査につき、次の事実が認められる。
5 ⑴ μtorrentは、BitTorrentのクライアントソフトの一つ
であり、BitTorrentを用いて実際に特定のファイルをアップロー
ド及びダウンロードしている最中のユーザーにつき、そのIPアドレスを特
定した上で、当該IPアドレスと共に、当該ユーザーが当該ファイルをアッ
プロードする際の上り速度及びダウンロードする際の下り速度のほか、ダウ
10 ンロード量及びアップロード量等を画面上に表示するという機能を有して
いる。
⑵ 本件調査会社は、μtorrentを起動し、本件動画に係るトレントフ
ァイルをμtorrentに読み込ませた上で、BitTorrentを通
じて、本件ファイルのダウンロードを行った。
15 そして、本件調査会社は、上記ダウンロードの際、μtorrentの上
記機能を利用して、その時点において、本件ファイルにつき、BitTor
rentを通じてアップロード及びダウンロードを行っている他のユーザ
ーの存否を確認したところ、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記載のI
Pアドレスの割当てを受けたユーザーが、本件ファイルに係るピースをダウ
20 ンロードすると同時にアップロードしていることを確認した。
⑶ 本件調査会社は、本件ファイルの動画が、本件動画と一致することを確認
した。
2 権利侵害の明白性
⑴ 前提事実記載のBitTorrentの仕組み及び前記認定事実によれ
25 ば、本件発信者は、本件ファイルに係るピースをその端末にダウンロードし
て、当該ピースを不特定多数の者からの求めに応じ、BitTorrent
を通じて自動的に送信し得るようにした上、被告から別紙発信者情報目録記
載のIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、同記載の日時
において、本件調査会社の端末に、本件ファイルに係るピースを実際にダウ
ンロードさせたことが認められる。
5 これらの事情を踏まえると、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載の日
時において本件動画に係る原告の公衆送信権を侵害したと認めるのが相当
である。そして、本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の違法
性を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはでき
ない。
10 したがって、権利侵害の明白性を認めるのが相当である。
⑵ これに対し、被告は、本件発信者の送信によって送られた1つのピースか
らでは、本件動画の表現の本質的特徴を直接感得することができる映像を再
生できない可能性が十分あるから、公衆送信権侵害を認めることはできない
旨主張する。
15 しかしながら、前記認定事実によれば、別紙発信者情報目録記載の日時に
おいて、本件発信者によって送信された本件ファイルの動画は、本件動画と
一致することが認められ、本件ファイルに著作物性があることは、当事者間
に争いがない(第1回口頭弁論調書参照)。そして、前記前提事実及び前記
認定事実に係るBitTorrentの仕組みによれば、1つのピースの授
20 受によっても完全なファイルが復元されるものといえる。
これらの事情によれば、本件ファイルに係るピースの送信により、原告の
公衆送信権が侵害されたことは明らかである。したがって、被告の主張は、
採用することができない。
⑶ 以上によれば、本件発信者が本件ファイルを自動公衆送信したことにより、
25 原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるといえる。
3 正当な理由
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求を予定し
ていることが認められることからすると、原告には、本件発信者情報の開示を
受けるべき正当な理由があるものといえる。
4 まとめ
5 したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、
本件発信者情報の開示を求めることができる。
第5 結論
よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文の
とおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
中 島 基 至
裁判官
小 田 誉 太 郎
裁判官
古 賀 千 尋
別紙
発信者情報目録
以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者
5 の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
令和4年(2022年)7月13日
日時
13時47分01秒
IPアドレス (省略)
ポート番号 (省略)
別紙
著作物目録
品番 HUSR-214 甲1
作品名 (省略) 甲2
以 上

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