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令和5(ネ)10097営業侵害行為差止請求等控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年2月21日
事件種別 民事
法令 不正競争
不正競争防止法2条7項1回
不正競争防止法2条4号1回
キーワード 差止5回
実施4回
損害賠償2回
分割1回
侵害1回
主文 1 原告、被告AI及び被告SAIの各控訴をいずれも棄却
2 原告の控訴に係る控訴費用は原告の負担とし、被告AI10
事件の概要 1 事案の要旨 (1) 原告、被告AI、被告SAI及び被告LS(令和2年7月1日の吸収合併前 はEL社。以下同じ。)は、本件組合契約(組合契約と業務委託契約の混合契約) を締結し、原告、被告AI及び被告SAIを組合員とする本件組合が被告LSに業20 務委託する形態により、「スマホ留学」という名称の英語教育プログラムを一般消 費者に対して提供するスマホ留学事業を営んでいた。本件は、原告が、被告らに対 し、次の各請求をした事案である。

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判決文

令和6年2月21日判決言渡
令和5年(ネ)第10097号 営業侵害行為差止請求等控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第23432号)
口頭弁論終結日 令和6年1月29日
5 判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 原告、被告AI及び被告SAIの各控訴をいずれも棄却
する。
10 2 原告の控訴に係る控訴費用は原告の負担とし、被告AI
の控訴に係る控訴費用は被告AIの負担とし、被告SA
Iの控訴に係る控訴費用は被告SAIの負担とする。
事 実 及 び 理 由
用語の略称及び略称の意味は、本判決で新たに付するもののほかは、原判決に従
15 う。また、原判決の引用部分の「別紙」を全て「原判決別紙」と改める。
第1 控訴の趣旨
1 原告
(1) 原判決中、原告敗訴部分(ただし、原判決中、原告の被告LSに対する16
3万5291円の利益分配請求についての敗訴部分を除く。)を取り消す。
20 (2) 被告らは、原告に対し、原判決別紙組合財産を引き渡せ。
(3) 被告AI及び被告SAIは、原告に対し、連帯して、9982万8054円
及びこれに対する令和元年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
(4) 被告らは、原判決別紙顧客名簿を、営業活動に使用し、又は第三者に開示・
25 使用させてはならない。
(5) 被告らは、原判決別紙顧客名簿に係る電子データ及びその複製物を廃棄せ
よ。
(6) 被告らは、別紙謝罪広告目録記載1の謝罪広告を、同目録記載2及び3の条
件で掲載せよ。
(7) 被告らは、原告に対し、連帯して、1000万円及びこれに対する被告AI
5 及び被告LSについては令和2年10月9日から、被告SAIについては同月
13日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
(8) 訴訟費用は、第1、2審とも被告らの負担とする。
2 被告AI
(1) 原判決中、被告AI敗訴部分を取り消す。
10 (2) 上記取消部分に係る原告の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも原告の負担とする。
3 被告SAI
(1) 原判決中、被告SAI敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消部分に係る原告の請求を棄却する。
15 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 原告、被告AI、被告SAI及び被告LS(令和2年7月1日の吸収合併前
はEL社。以下同じ。)は、本件組合契約(組合契約と業務委託契約の混合契約)
20 を締結し、原告、被告AI及び被告SAIを組合員とする本件組合が被告LSに業
務委託する形態により、「スマホ留学」という名称の英語教育プログラムを一般消
費者に対して提供するスマホ留学事業を営んでいた。本件は、原告が、被告らに対
し、次の各請求をした事案である。
① 原告が、被告らの債務不履行を理由に本件組合契約を解除し、本件組合契約
25 9条2項により本件組合の財産を全て取得したと主張し、被告らに対し、本件組合
契約、不当利得又は所有権に基づき、本件組合の全財産の引渡しを求める請求(以
下「組合財産引渡請求」という。)
② 原告が、本件組合契約に基づく利益分配の未払があると主張し、本件組合契
約に基づき、被告LSに対し、2019年9月期(平成30年10月~令和元年9
月)の収益について原告が取得すべき利益分配金163万5291円の支払を求め
5 る請求(以下「利益分配請求」という。)
③ 原告が、2019年9月期の本件組合の経費について、経費の不当算入の結
果、利益分配金額が減少したと主張し、不法行為又は債務不履行に基づき、被告A
I及び被告SAIに対し、損害の一部である1億円及びこれに対する最後の不法行
為の日である令和元年9月30日から支払済みまで平成29年法律第44号附則1
10 7条3項によりなお従前の例によることとされる場合における同法による改正前の
民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯
支払を求める請求(以下「経費不当算入に係る請求」という。)
④ 原告が、本件組合の営業秘密又は限定提供データ(不正競争防止法2条7項
の「限定提供データ」をいう。以下同じ。)である顧客情報を被告らが不正に使用
15 し、また、使用するおそれがあると主張し、被告らに対し、同法3条に基づき顧客
名簿の使用等の差止及び顧客名簿に係る電子データ等の廃棄を求めるとともに、同
法14条に基づき謝罪広告の掲載を求める請求並びに同法4条又は本件組合契約の
債務不履行に基づき、損害の一部である1000万円及びこれに対する催告の日の
翌日(訴状送達の日の翌日。被告AI及び被告LSにつき令和2年10月9日、被
20 告SAIにつき同月13日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合に
よる遅延損害金の連帯支払を求める請求(以下「顧客名簿の不正使用に係る請求」
という。)
(2) 原判決は、利益分配請求については、原告が被告LSに対し、87万206
7円の支払を求める限度で原告の請求を一部認容し、経費不当算入に係る請求につ
25 いては、原告が被告AI及び被告SAIに対し、連帯して、17万1946円及び
これに対する令和元年9月30日から支払済まで年5分の割合による遅延損害金の
支払を求める限度で原告の請求を一部認容し、その余の請求をいずれも棄却した。
原告は、利益分配請求の敗訴部分を除く原判決敗訴部分について控訴し、被告A
I及び被告SAIも、それぞれ敗訴部分について控訴した。なお、被告LSは控訴
していないことから、利益分配請求は、当審における審判の対象とはなっていな
5 い。
2 請求原因及び抗弁
以下のとおり原判決を補正し、後記3において当審における当事者の追加及び補
足主張を付加するほかは、原判決の「事実」中の「第4 当事者の主張」(原判決
別紙「経費に関する主張」を含み、利益分配請求に係る主張を除く。原判決5頁6
10 行目から10頁5行目まで、同頁26行目から16頁10行目まで、同頁14行目
から19頁7行目まで、62頁から80頁まで)に記載するとおりであるから、こ
れを引用する。
(原判決の補正)
(1) 5頁8行目の末尾に「(組合財産引渡請求)」を加える。
15 (2) 7頁9行目の「(下、」を「以下、」と改める。
(3) 9頁24行目の「意思表示をした」の次に「(意思表示の日(訴状送達の
日)は被告AI及び被告LSにつき同年10月8日、被告SAIにつき同月12
日である。」を加える。

(4) 11頁1行目の末尾に「(経費不当算入に係る請求)」を加え、原判決別紙経
20 費に関する主張の第1(62頁から68頁20行目まで)の「被告ら」を全て「被
告AI及び被告SAI」と改める。
(5) 11頁21行目の「遅延損害金を」を「遅延損害金の連帯支払を」と改め、
23行目の末尾に「(顧客名簿の不正使用に係る請求。不正競争防止法違反)」を加
える。
25 (6) 12頁10・11行目の「従業員等にしか閲覧できない」を「従業員等のほ
かは閲覧できない」と、14行目の「被告LS社」を「被告LS」と、13頁1
5・16行目の「顧客名簿の使用を禁じる必要がある。」を「顧客名簿の使用を禁
じ、またその実効性を確保するため、顧客名簿に係る電子データ及びその複製物を
廃棄させる必要がある。」と、20・21行目の「顧客名簿の使用の差止め及び廃
棄」を「顧客名簿の使用等の差止め及び顧客名簿に係る電子データ等の廃棄」と、
5 23行目の「5条2項」を「5条1項」と、25行目の「遅延損害金を」を「遅延
損害金の支払を」とそれぞれ改める。
(7) 14頁2行目の末尾に「(顧客名簿の不正使用に係る請求。債務不履行)」を
加え、23行目の「被告に」を「被告らに」と、25行目の「遅延損害金を」を遅
延損害金の連帯支払を」と、それぞれ改める。
10 (8) 15頁14行目の「請求原因エ(イ)、オ(イ)は、」を「請求原因エ(イ)、オ(イ)
のメールマガジンの配信は顧客名簿の不正使用に当たらない。」と改める。
(9) 16頁10行目を「オ 請求原因キは否認ないし争う。請求原因クは争
う。」と改める。
(10) 17頁11行目の「請求原因ウは」を「請求原因ウ、エは」と改める。
15 (11) 68頁21行目の「被告ら」を「被告AI及び被告SAI」と、24行目
の「大和事務所」を「被告AIの大和事務所」と、70頁6行目の「借りた部屋」
を「EL社が借りた部屋」と、それぞれ改める。
(12) 77頁3行目の「スマホ留学」を「スマホ留学事業」と、17行目の「リ
スト」を「顧客情報の」と、78頁12行目及び15行目の各「バックアップ体
20 制」を「バックアップ」と、それぞれ改める。
3 当審における当事者の追加及び補足主張
(1) 原告の主張
ア 組合財産引渡請求について
本件組合契約に基づき除名された組合員が払戻しを受ける地位まで失うのは、重
25 大な結果に見合う相当の違反行為が行われた場合であると解するとの枠組みを前提
とした場合でも、以下の各違反行為を総合して評価すると、被告AI及び被告SA
Iに、重大な違反行為があったというべきである。
(ア) 本件組合契約6条3項ただし書が、Aを配信者として表示してメールマガジ
ンを配信する場合に、他のメンバー(2社)全ての同意を要求しているのは、スマ
ホ留学のブランドイメージの保護のためである。そして、被告らが、1年もの期間
5 にわたり、A名義で、スマホ留学と競合する第三者のサービスであるケンペネEn
glishをプロモーションするメールを配信したことは、顧客の奪取を意図して
行われた背信的な行為であり、また、スマホ留学のブランドイメージを著しく毀損
する。
(イ) 被告らがスマホ留学と競合するケンペネEnglish及びオンライン留学
10 の事業を実施したことは、背信行為であり、本件組合契約9条1項(2)の「相手方
の事業活動に支障」を生じさせる重大な違反行為である。なお、「相手方の事業活
動」にはスマホ留学事業が含まれると解釈すべきである。
(ウ) EL社は、スマホ留学の受講生らを継続的にケンペネEnglishに移行
させようとしており、講師らにもその旨公式に通達していた(甲16の2、甲1
15 8)。そうすると、EL社の従業員がAとBの友好関係について虚偽の記載をした
メールを受講生に送信したことが、同従業員の独断によるものであったとは考え難
い。被告らは、受講生のAへの信頼を利用して、ケンペネEnglishを販売し
ようとしたのである。
(エ) 被告らがLINE@アカウントの名義をAから変更して盗用したことは、L
20 INE@アカウントの登録者との間では、個人情報の目的外利用に当たり、個人情
報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」とい
う。)17条2項(令和3年法律第37号による改正(令和4年4月1日施行)前
は同法15条2項。以下同じ。)に違反する行為であるから、スマホ留学事業に対
する社会的信頼を著しく毀損する重大な背信行為である。
25 (オ) 被告AIの業務委託先の従業員が、スマホ留学の受講生らに対し、サポート
のための連絡先がA及び原告へと変更された旨の虚偽の内容のメールを送信した
が、これは被告AIの業務委託先の従業員が独断で行ったものではなく、被告AI
の関与のもと害意をもって行われたものである。また、上記メールが配信されたこ
とにより生じた問題に対し、事態終息に向けた対応をしたのは原告であって被告ら
ではない。
5 (カ) 原告がソフトランディングすることができるよう協議を求めていたにもかか
わらず、被告らは、上記(オ)のメールの後、一方的に、スマホ留学の受講生募集を
停止し、スマホ留学事業を停止させた。
イ 経費不当算入に係る請求について
(ア) 本件組合には、被告AI代表者のCの構想による10万円ルールがあり、こ
10 れはCとAとの間で合意したものである。DはCの提案を全面的に受け入れる状況
にあったから、AとCとの間で決定した内容は本件組合契約の内容となっていた。
(イ) 経費として利益から控除することができるのは、積極的に組合員全体の利益
につながることが合理的に説明することができるものに限られ、「組合員全体の利
益につながる支出であると説明することができないものとはいえない」との消極的
15 な評価では足りない。
(ウ) 経費として計上された各項目についてみると、次のとおりスマホ留学事業の
経費として認められないものが含まれている。
a Eへの支払は、ミーティングへの参加や顧客対応へのサポートといった業務
の対価のようであるが、Eは2019年(令和元年)9月期以前からこのような業
20 務を実施しており、同期のみ高額な報酬を要することは不自然である。Eは被告A
Iに1200万円を貸し付けており、被告AIが同額を本件組合の資金として入金
していたから、Eへの支払は、被告AIに対する貸付金への返済であったと考えざ
るを得ない。
b 広告宣伝費のうち、特にAIHDへの支払については支払額と一致する請求
25 書等の証拠は提出されておらず、裏付けがない。また、原告と被告らとの信頼関係
が破綻した頃から販管費の支出が増加している。広告宣伝費には、スマホ留学以外
の被告らの商品等に係る広告費が含まれると考えるのが合理的である。
c アプリ開発費用について、アプリが開発された形跡がない。
ウ 顧客名簿の不正使用に係る請求について
(ア) 不正競争防止法に基づく請求
5 a 本件で問題となる営業秘密(又は限定提供データ)の保有者はEL社であ
り、被告AIは、EL社から営業秘密を示され、これを不正に使用したものであ
る。
b 上記aが認められない場合には、被告AIは不正の手段で営業秘密を取得し
たことになるから、被告AIの行為は不正競争防止法2条4号に、被告SAIの行
10 為は同条5号に該当する。
(イ) 本件組合契約の債務不履行に基づく請求
a 本件組合契約は平成30年10月1日に締結されたものであり、スマホ留学
事業はそれ以前に開始されているから、本件組合契約を文字通りに解釈すると本件
組合契約締結以前に提供された情報は、本件組合契約7条の「機密情報」に該当し
15 ないこととなり不合理である。形式的な文言解釈では当事者の合意内容は汲み取れ
ない。本件組合契約7条が、「顧客名簿」は「機密情報」に含まれると明記してい
ることに着目すれば、スマホ留学事業において蓄積された顧客リストは、同条の
「顧客情報」に含まれると解釈すべきである。
b 組合契約の当事者は、その立場に応じた善管注意義務(民法671条、64
20 4条)を負うところ、スマホ留学事業の顧客リストを、スマホ留学事業以外の目的
で使用することは善管注意義務に違反する。被告らは、顧客リストをケンペネEn
glish事業やオンライン留学事業のために用いたのであるから、善管注意義務
違反の債務不履行がある。
(2) 被告AI及び被告SAIの主張(経費不当算入に係る請求について)
25 原告の脱退表明に対処するために支出された支払報酬及び通信費は、スマホ留学
事業の利益と反する行動に出た組合員に対処するための費用であって、スマホ留学
事業の利益につながる支出であるから、スマホ留学事業の経費として計上すること
ができる。
(3) 原告の主張に対する被告らの反論
ア 組合財産引渡請求について
5 (ア) 原告には、本件組合契約上の信義則に違反する行為・不作為があるから、こ
れらの事情も考慮すれば、原告による本件組合契約9条1項による除名が認められ
る場合は、より制限されるべきである。
(イ) 本件組合契約にはそもそも競業避止義務の定めはなく、一定の条件下で、ス
マホ留学のメールマガジンにおいて、スマホ留学以外の特定の商品又はサービスを
10 紹介することも許容されていたし(本件組合契約6条4項、5項、7項)、このこ
とが直ちにスマホ留学事業を妨害するものではない。
(ウ) 原告は、AとBが友好関係にあるとのメールの送信や、スマホ留学のサポー
トのための連絡先の変更のメールの送信が、EL社の従業員の独断で送信されたも
のではないと主張するが、憶測にすぎない。
15 (エ) 原告は、LINE@アカウントの名義変更が個人情報保護法違反であると主
張するが、同法17条2項の定める目的外利用の該当性について具体的な主張をし
ていない。
(オ) 原告は、被告らに対し、形式的に文書によりソフトランディングできるよう
協議することを求めたにすぎず、実質的にソフトランディングに向けた対応をして
20 いないばかりか、スマホ留学の受講生に対するサポート業務を行うことを放棄し、
不誠実な行動に終始していた。
イ 経費不当算入に係る請求について
(ア) 10万円ルールはCがアイデアベースで話したものにすぎず、各組合員によ
り合意されたものではない。
25 (イ)Eは、2019年9月期以前は厚意でミーティングに参加していたにすぎな
い。Eは、平成30年後半、Cから、スマホ留学事業が赤字であることやメイン講
師であるAが全然動いてくれないことについて相談を受け、時間を十分とってスマ
ホ留学のコンサルティング業務を行うこととした。なお、EはEL社に直接120
0万円を貸し付けており、原告の主張は事実と異なる。
(ウ) アプリの必要性はA自身が提案したものである。
5 ウ 顧客名簿の不正使用に係る請求について
(ア) 不正競争防止法に基づく請求
顧客情報の保有者は各組合員であり、原告のいずれの主張も当たらない。
(イ) 本件組合契約の債務不履行に基づく請求
本件組合契約7条に係る原告の主張は当を得ない。また、スマホ留学以外のサー
10 ビスのためのメールマガジンの配信は、本件組合契約に違反するものではない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原告の請求(利益分配請求を除く。)のうち、経費不当算入に
係る請求については、被告AI及びSAIに対し、連帯して、17万1946円及
びこれに対する令和元年9月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害
15 金の支払を求める限度で、それぞれ理由があり、その余の請求についてはいずれも
棄却するのが相当であると判断する。その理由は、以下のとおり補正し、後記2に
おいて当審における当事者の追加及び補足主張に対する判断を付加するほかは、原
判決の「理由」中の1、2及び4から6まで(原判決19頁9行目から34頁13
行目まで、同頁17行目から47頁12行目まで)に記載するとおりであるから、
20 これを引用する。なお、引用文も含め、枝番のある書証について枝番を表示してい
ないものは、すべての枝番を含む趣旨である。
(原判決の補正)
(1) 19頁11行目の「C’」を「C」と、16行目の「商品」を「商品やサー
ビス」と、18行目の「商品の認知度」を「その認知度」と、それぞれ改める。
25 (2) 20頁5行目の「平成28」の前に「四者間で業務委託契約を締結し、」を
挿入し、16行目の「契約書」を「業務委託契約書(乙A102)」と、同行目の
「スマホ留学」から19行目末尾までを「スマホ留学事業により発生した債務は、
原告、被告AI及び被告SAIが負担するが、赤字が出た場合は、被告AI及び被
告SAIのみが50%ずつ負うものとされた。(乙A89、91、101、10
2)」と、それぞれ改める。
5 (3) 21頁5行目の「顧客リスト獲得」を「顧客情報の獲得及び顧客リストの作
成・管理」と、6行目の「なった」を「なった。」と、11行目の「従業員への還
元」を「スマホ留学事業を担当するスタッフや講師への還元」と、21行目の「1
32」を「131、132」と、それぞれ改める。
(4) 22頁5行目の末尾に改行して次のとおり加える。
10 「4条1項
本事業から生じた利益は、次の割合でメンバー間にて分配する。
甲 20% 乙 40% 丙 40%
5条1項
本事業に関連して得られた資産(動画、音声、資料等のコンテンツ、顧客(見込
15 客を含む)リスト、その他の知的財産権を含む。以下「本事業資産」という。)
は、その名義にかかわらず、第4条に定める利益分配割合で、甲乙丙に帰属するも
のとする。ただし、各当事者が本事業開始前から有しており、又は本事業に関係な
く有するに至った資産については、本事業資産に含まれないものとする。」
(5) 23頁5行目の「第5条に基づく本事業資産に関する権利」の次に「等」を
20 挿入し、16・17行目の「継続していたところ、平成30年11月から12月頃
にかけて、」を「継続していた。Aは、平成31年1月頃、」と、24行目の「原
告」を「A」と、25行目の「音楽ライブ」を「自らが出演する音楽ライブ」と、
それぞれ改める。
(6) 24頁2行目の「スマホ留学」を「スマホ留学事業」と、6行目の「音楽ラ
25 イブ」を「自らが出演する音楽ライブ」と、10行目の「コンテンツ料」を「コン
テンツへの対価」と、11行目の「EL社の」を「AにはEL社の」とそれぞれ改
め、17行目の「その後、」から25行目末尾までを次のとおり改める。
「原告は、同月29日、いったんは被告AIに対して、「皆様が憤慨されている現
在の状況を改善できるのであれば、役員の解除、契約上のフィーの条件変更など、
どのようなご提示も謹んでお受けしたいと思います。」等との記載のある謝罪文
5 (乙A10)を提出した。しかし、その後、弁護士を通じて同年7月4日付け通知
書(乙A11)により、上記謝罪文に記載した内容を全て撤回し、本件組合からの
脱退を希望している旨伝えるとともに、スマホ留学事業については、その終了又は
原告を除く組合員らによるスマホ留学事業の継続に向けてソフトランディングする
ことができるよう、話合いを希望する旨通知した。Cは、被告AI代表者として、
10 同月9日、メール(甲14)で原告代理人に連絡をし、Aのコンテンツ制作状況が
芳しくなく債務不履行がある旨伝えた。さらに、被告AIは、松田綜合法律事務所
の弁護士に依頼し、同弁護士を介して原告に対し、同年8月30日付けで、原告に
コンテンツの作成義務違反等の債務不履行があることを理由に本件組合契約9条1
項(1)により本件組合契約を解除するなどと記載された通知書(乙A2)を送付し
15 た。原告は、弁護士を介し、同年9月30日付けの通知書(甲5の1)により、被
告AIに対し、原告に債務不履行はない旨の反論をするとともに、A名義のメール
マガジンの配信の停止を求め、原則としてスマホ留学に係るサービスの提供終了を
求めるが、継続を望むのであれば具体的な提案をするよう求めた。被告AIは、松
田綜合法律事務所の弁護士を介し、同年10月16日付け通知書(甲6)により反
20 論し、原告の債務不履行を理由として本件組合契約を解除する旨再び主張した。
原告と被告AIは、令和2年4月、それぞれが依頼した弁護士(被告AIが依頼
したのは松田綜合法律事務所の弁護士である。)を介し、後記クのスマホ留学のサ
ポート窓口の変更のメール等に関連し、事実関係の確認や、本件組合からの脱退の
意思の有無の確認等をするやりとりをした。(甲5の1、甲6、27~29、乙A
25 2、9~11、114、117、118、128、129)」
(7) 25頁9行目の「継続できるなど」を「継続できることなど」と、15行目
の「甲8、10」を「甲8、10、40、41、原審における被告AI代表者C」
とそれぞれ改め、16行目から26頁5行目までを次のとおり改める。
「オ 原告は、令和元年6月2日、被告AIから、スマホ留学の顧客(見込客を
含む。以下同じ。)のうちスマホ留学の未購入者に対して送付するメールマガジン
5 において、ケンペネEnglishの「超速Englishマスター合宿」を紹介
する旨の予告を受けたが、これに対し、「ご連絡有難うございました。宜しくお願
い致します。」と返信し、反対しなかった(乙A1)。その後、EL社は、同年9月
3日、4日及び5日に、「スマホ留学通信<省略 >」名義のメールアカウントを用い
て、スマホ留学のメールマガジンとして、スマホ留学の顧客宛てに、スマホ留学事
10 務局(EL社)がケンペネEnglishを宣伝する内容のメールを配信した(甲
4の1~3)。また、EL社は、同月30日、EL社が管理している「【スマホ留
学】A(省略)」名義のメールアカウントを用いて、「スマホ留学オススメの無料教
材」の件名で、スマホ留学の顧客宛てに、スマホ留学事務局がケンペネEngli
shを紹介する内容のメール(甲4の4)を配信したが、同メールの本文は、「こ
15 んばんは、スマホ留学事務局です。」から始まるもので、メール中にAの氏名は表
示されていなかった。EL社(令和2年7月1日以降は被告LS。以下同じ。)
は、令和元年10月3日から令和2年7月12日にかけて、 【スマホ留学】
「 (省
略)」名義のアカウントを用いて、発行元を「スマホ留学」、発行責任者を「A」と
表示し、「スマホ留学講師のAです!」という挨拶から始まるメールをスマホ留学
20 の顧客宛てに、8通、配信したが、同メールの冒頭部分には、「勉強しなくても英
語が口からスラスラ出てくる! 1日20分の自宅留学!ケンペネEnglis
h」(甲7の1) 「バラエティ番組を見るだけで英語がスラスラ話せるようになる

英語脳の作り方!」(甲7の2)といった文章とともにケンペネEnglishの
ウェブページのURLが記載され、その下に横線が引かれており、冒頭部分が本文
25 とは別の広告であることがわかるようになっていた。また、EL社は、令和元年1
1月27日頃、スマホ留学の顧客に対して、オンライン留学を紹介する葉書(甲1
2の2)を送付した。(甲4、7、12の2、乙A1)」
(8) 26頁12行目の「甲16の1」を「甲16の3・4」と改め、13行目か
ら27頁3行目までを次のとおり改める。
「キ EL社は、令和元年10月3日頃、EL社が管理し、従前、スマホ留学の案
5 内等に用いていたA名義のLINE@アカウントについて、原告の承諾を得ること
なくケンペネEnglishの名義に変更した。(甲17)
ク EL社の担当者は、令和2年4月6日頃、原告に相談することなく、「スマ
ホ留学<省略>」名義のメールアカウントを用いて、スマホ留学サポート事務局とし
て、スマホ留学の受講生に対し、「4月6日(月)をもちまして、サポート窓口は
10 下記に変更となりました」などとした上で、A個人のメールアドレス及び携帯電話
番号、原告のメールアドレスを記載したメールを送信した。これにより、A又は原
告は、100件を超えるメール又は電話による問合せ等を受けた。この頃、被告ら
は、原告に相談することなく、スマホ留学の受講生の募集を停止した。(甲19~
21、原審における原告代表者A、原審における被告AI代表者C、弁論の全趣
15 旨)
ケ 被告AIは、令和2年7月22日から同年8月2日までにかけて、「F@ス
マホ留学<省略>」名義のメールアカウントを用いて、スマホ留学のメールマガジン
として、スマホ留学の顧客に対し、英会話講師であるFがオンライン留学の紹介を
する内容のメールを、毎日1通、合計12通送信した。また、被告AIは、令和2
20 年8月5日から同月14日までにかけて、同メールアカウントを用いて、スマホ留
学のメールマガジンとして、スマホ留学の顧客に対し、英会話講師であるFがケン
ペネEnglishの紹介をしたり、ケンペネEnglishへの申込みを促した
りする内容のメールを、毎日1~4通、合計16通送信した。(甲9、11、原審
における被告AI代表者C)」
25 (9) 28頁3行目の「上記のような」を「不当に組合財産を著しく毀損した場合
など、上記のような」と改める。
(10) 28頁21行目の「メール」から26行目の「ものである。」までを「メー
ル(甲4の4。前記(1)オ)は、【スマホ留学】A(省略)」名義のメールアカウン
トを用いて配信されているものの、そのアカウント名及びメールアドレスからし
て、スマホ留学事業の事務局であるEL社のアカウントであると理解することがで
5 きるものであり、また、その内容は、「こんばんは、スマホ留学事務局です。」と始
まり、ケンペネEnglishの講師であるケンペネールしずこの紹介やケンペネ
Englishの内容の紹介、体験者の声が掲載されたウェブページへのリンク、
ケンペネEnglish事務局のメールアドレスを紹介するものであって、メール
中にAの名前は掲載されておらず、その記載内容からして、Aではなく、スマホ留
10 学事務局が作成し、配信したメールであることが理解可能なものである。そうする
と、同メールは、Aを配信者として表示したメールには当たらないというべきであ
る。
次に、EL社は、令和元年9月30日付けの通知書により原告からA名義のメー
ルマガジンの配信の停止を求められたにもかかわらず(前記(1)ウ)、同年10月3
15 日から令和2年7月12日にかけて、メールの冒頭部分にケンペネEnglish
の紹介文及びウェブページのURLが記載され、その下のメールの本文には、「ス
マホ留学講師のAです!」「力が漲(みなぎ)る英語の名言」などと始まり、Aが
英語の名言やその発言者を紹介する内容の文章が記載され、メールの末尾には「発
行元:スマホ留学」「発行責任者:A」などと記載された各メール(甲7)を、ス
20 マホ留学の顧客宛てに配信した(同オ)。同各メールは、その内容・形式に照ら
し、スマホ留学事業の遂行の一環として配信されたメールマガジンであり、かつ、
本件組合契約6条3項の「甲代表取締役であるA氏を配信者として表示する」もの
に該当するものと解される。同項は、Aを配信者として表示するメールマガジンに
ついては、メンバー全員の同意を要求するものであり、その趣旨は、スマホ留学の
25 メイン講師であるAを配信者として表示するメールマガジンの配信は、本件組合の
事業の基幹サービスであるスマホ留学に直接関係するものであることから、ブラン
ドイメージを保護するため、その内容及び配信について組合員全員の同意を要する
ことにしたものと解される。しかるところ、もともと、スマホ留学事業を遂行する
ため、Aを配信者として表示するメールマガジンを配信することは、本件組合契約
上、当然に想定されていた事柄であって、その具体的内容については、本件組合契
5 約に基づき本件組合から業務委託を受け営業者となったEL社がスマホ留学事務局
として作成し、配信していたことが窺われる。そして、甲7の一連のメールの内容
や体裁が、令和元年9月30日以前と比較し、A個人の名誉や信用はもとより、ス
マホ留学事業のブランドイメージを傷つけるようなものであったことを認めるに足
りる証拠はない。したがって、これらのメールは、原告の同意なく配信されたとい
10 う点において、形式的には、本件組合契約9条1項(1)に反するものということが
できるが、実質的にみれば、各メールの内容がAの名誉や信用を毀損し、又はスマ
ホ留学事業のブランドイメージを損なうものであったということはできない。そし
て、原告も、対外的には受講生に対し、スマホ留学事業を構成するサービスを実施
する義務を負っていたことを併せ考慮すると、令和元年9月30日以降のこれらの
15 メールの配信をもって、除名に伴い組合財産の払戻し請求権が制限されるという重
大な結果に見合うような被告AI及び被告SAIによる本件組合契約の違反行為が
あったと評価することはできないというべきである。」と改める。
(11) 30頁13行目の「本件組合契約」から14行目の「らず、」までを「本件
組合契約には、各組合員がスマホ留学事業と競合する事業を行うことを禁ずる旨の
20 特約はなく、」と、21行目の「原告が弁護士に委任した上で」から23行目の
「であること」までを「原告によるスマホ留学のコンテンツ制作に問題が生じてい
たところに、原告が令和元年7月4日付け通知書(乙A11)及び同年9月30日
付け通知書(甲5の1)により、弁護士を介して、被告らに対し、本件組合からの
脱退の意向があること及びスマホ留学事業の終了等を希望する旨通知し、被告AI
25 の主張する原告による債務不履行の事実を争う姿勢を明らかにしたことから、従前
どおりのスマホ留学のコンテンツの制作を継続することが困難になる蓋然性が高い
状況となった後であること」と、それぞれ改める。
(12) 31頁2行目の「スマホ留学事業によって」から4行目の「手紙を送付し
たりしたこと」までを「スマホ留学のメールマガジンにより、ケンペネEngli
sh及びオンライン留学の広告や紹介記事を配信したり、スマホ留学の顧客に対し
5 てオンライン留学を紹介する葉書を送付したりしたこと」と、9・10行目の「ス
マホ留学事業で獲得したメールアドレスを用いたスマホ留学のメールマガジンの配
信」を「スマホ留学のメールマガジンの配信」と、13行目の「スマホ留学事業に
及ぼす影響」を「スマホ留学事業の売上げ等に及ぼす影響」と、23・24行目の
「EL社による当該返信に」を「EL社が当該虚偽の返信をしたことについて、被
10 告AIに過失が認められるとしても、」と、それぞれ改める。
(13) 32頁14行目の「原告が弁護士に委任した上で」から16行目の「困難
になった後のこと」までを「前記のとおり、従前どおりのスマホ留学のコンテンツ
の制作を継続することが困難になる蓋然性が高い状況となった後のこと」と、26
行目の「甲20号証及び弁論の全趣旨」を「甲20号証、原審における被告AI代
15 表者C及び弁論の全趣旨」と、33頁21・22行目の「被告AI及び被告SAI
の行為であったとしても、」を「少なくとも、」と、24行目の「いえない」を「い
えないものである」と、24~26行目の「そうすると、被告AI及び被告SAI
が本件組合契約から除名されることにより原告が組合財産を単独取得するに至った
とはいえない」を「そうすると、被告AI及び被告SAIが本件組合契約9条1項
20 (2)により除名されたと認めることはできず、原告が組合財産を単独取得するに至
ったということはできない」と、それぞれ改める。
(14) 34頁5行目の「組合契約」を「本件組合契約」と、5・6行目の「しか
し、EL社は組合契約」から12行目の「できない。」までを「しかし、本件組合
契約は、組合契約と業務委託契約の混合契約であって、業務委託契約部分の解除は
25 組合の常務に属する行為(平成29年法律第44号附則34条1項の規定によりな
お従前の例によることとされる場合における同法による改正前の民法670条3
項)ということはできないから、原告が単独でEL社と本件組合との間の業務委託
契約部分を解除することができるかどうかについては疑問がある。また、この点を
措くとしても、EL社に対する業務委託がスマホ留学事業の必要不可欠な要素であ
ったとまでは認められないから、原告がEL社の債務不履行を理由に業務委託部分
5 のみならず、組合契約部分まで当然に解除することができると解すべき根拠も見当
たらない。そもそも、本件において、原告の本件組合契約9条1項(2)に基づく被
告AI及び被告SAIの除名が認められないことは、前記ウのとおりであるから、
原告は、本件組合の財産に対して持分権以上の権利を有するものではなく、原告が
本件組合から脱退したとしても、原告は、単独で本件組合の財産全部の払戻しを受
10 けることはできない。そうすると、結局、仮に、EL社の地位を承継した被告LS
が本件組合の財産を占有しているとしても、他の組合員である被告AI及び被告S
AIの了承を得ることなく、原告が、被告LSに対し、単独で組合財産全部の引渡
しを請求することはできない。」と、それぞれ改める。
(15) 36頁6行目の「(2)(ア)」を「(2)ア」と、20行目の「(イ)」を「イ」
15 と、37頁6行目の「(ウ)」を「ウ」と、18行目の「(エ)」を「エ」と、同行目の
「9月3日」を「平成30年9月3日」と、23行目の「(オ)」を「オ」と、それ
ぞれ改める。
(16) 原判決の第3の4(3)イ(39頁11行目から42頁15行目まで)及び同
(4)(42頁16行目から43頁6行目まで)の「被告ら」(ただし、41頁4行目
20 の「被告ら」を除く。)を全て「被告AI及び被告SAI」と、39頁8行目の
「スマホ留学事業においては」から10行目末尾までを「本件組合の経費として支
出することができるのは、本件組合の業務の執行のための費用というべきである
が、前記のとおり、経費の計上に関する特段の合意が認められない以上、具体的な
支出については、本件組合契約で定められた役割分担に基づき本件組合の業務を執
25 行する各組合員に合理的な裁量が認められていたものと解するのが相当である。そ
うすると、ある支出がされた場合において、それが組合員全体の利益につながる支
出であると一応説明することができるものであるときは、当該裁量の範囲内の支出
として、その支出の適否が問題となることはあり得るとしても、通常、債務不履行
又は不法行為に該当することはなく、当該支出についておよそ組合員の全体の利益
につながる支出であると説明することができないときにはじめて債務不履行又は不
5 法行為に該当する違法な行為になるというべきである。」と改め、40頁16行目
の「広告宣伝費」を「広告宣伝費(10項)」と、41頁4行目の「被告ら」を
「被告AI及び被告LS」と、11行目の「被告が」を「被告AI及び被告SAI
が」と、11・12行目の「構成員への報酬として計上した金員」を「構成員への
報酬として計上した金員(11項(1))」と、20行目の「AIHDに係る費用」を
10 「AIHDに係る費用(11項(6))」と、42頁10行目の「被告の」を「被告A
I及び被告SAIの」と、43頁5行目の「利益分配金」を「利益分配金相当額の
損害賠償金」と、8行目の「C’」を「C」と、それぞれ改める。
(17) 44頁16行目から21行目までを次のとおり改める。
「原告は、EL社が保有する顧客情報に関して被告らが不正競争行為を行ったと
15 主張して差止め等及び損害賠償を請求する。しかし、本件組合契約5条1項による
と、スマホ留学事業の顧客情報は、本件組合契約4条に定める利益配分割合で、原
告、被告AI及び被告SAIにそれぞれ帰属するのであるから、被告AI及び被告
SAIはスマホ留学事業の顧客情報について権利を有する者であり、被告AI及び
被告SAIが、それぞれスマホ留学事業の顧客情報を取得し、これを利用すること
20 は、本件組合契約上、想定されていたことである。その他に本件において、原告又
はEL社の営業秘密(又は限定提供データ)について、被告AI及び被告SAIに
よる不正取得行為又はEL社による不正開示行為があったことを認めるに足りる主
張立証はない。したがって、被告らに原告が主張する不正競争行為が成立するとは
認められない。」
25 (18) 46頁13行目の「各社が」を「一部が」と、15・16行目の「そのよ
うな情報を」を「各組合員固有の事業活動に支障が生じないようにするため、上記
固有の情報を」と、それぞれ改める。
(19) 47頁6行目の「EL社が取得、管理していた情報であって、」を「EL社
が取得、管理していた情報であり、本件組合の各組合員に帰属するものであっ
て、」と改める。
5 2 当審における当事者の追加及び補足主張に対する判断
(1) 組合財産引渡請求について
ア 原告は、被告らの本件組合契約違反の重大性は、一連の事実関係を総合考慮
して評価すべきであると主張するが、本件において認められた被告らの本件組合契
約の違反行為を総合しても、除名された組合員が払戻しを受ける地位を失うほどの
10 重大な違反行為がされたと認めることはできない。
イ 原告はLINE@アカウントの名義をAからケンペネEnglishに変更
して盗用したことが、LINE@アカウントの登録者との間では、個人情報の目的
外利用であり、個人情報保護法17条2項に違反すると主張する。しかし、同アカ
ウントはスマホ留学事業のためにEL社が管理していたものであって、A個人が管
15 理していたものではないから、AのアカウントをEL社が「盗用」したということ
はできない。また、スマホ留学事業のために個人情報を登録し、同アカウントから
の情報提供を受けていた顧客との関係では、これらの顧客に対し告知され、又は公
表されていた利用目的の具体的内容についての主張立証はなく、個人情報保護法1
7条2項の「合理的に認められる範囲」を超えて利用目的が変更されたことを認め
20 るに足りる主張立証もない。それのみならず、顧客との関係で、EL社に個人情報
保護違反の事実があったとしても、そのことが直ちに原告との関係において不法行
為又は債務不履行を構成するものということはできないから、結局、原告の前記主
張は、原告による本件組合契約の解除を正当化するに足りる理由となるものではな
い。
25 ウ その余の組合財産引渡請求に係る当審における原告の主張については、前記
補正の上引用した原判決の「理由」中の2(原判決21頁22行目から34頁13
行目まで)に判示するとおりである。
(2) 経費不当算入に係る請求について
ア 原告の主張について
前記補正の上引用した原判決の「理由」中の4(原判決34頁17行目から43
5 頁6行目まで)に判示するとおりである。なお、仮に、本件組合において、10万
円を超える支出について事前に他の組合員の承認を得るという運用が実施されてい
たとしても、事前承認を得ていない経費について、直ちに不正な支出であるものと
みなすという合意があったことはうかがえないのであって、この点においても、1
0万円ルールに係る原告の主張には理由がない。
10 また、Eへの支払が貸金の弁済であったことや、広告宣伝費に本件組合の事業と
は別の事業に関する広告宣伝費が含まれていることを認めるに足りる証拠はなく、
アプリが完成していないとしても、証拠(乙A57、58)に照らせばアプリ開発
のための活動をしていたことはうかがえるのであるから、開発費用の支払をしたこ
とが不合理とはいえない。
15 イ 被告AI及び被告SAIの主張について
被告AI及び被告SAIは、原告の脱退表明に対処するために支出された支払報
酬及び通信費は、スマホ事業の利益につながる支出であるから、経費として計上す
ることができる旨主張する。しかし、組合員同士の紛争の解決のための費用は、た
だちに組合の業務の執行のための経費であるということはできないし、これを本件
20 組合の経費として認める旨の組合員間の合意の存在も認められない。また、仮に、
それがスマホ事業の利益につながる支出であると解した場合でも、当該紛争の解決
のための費用は、被告AI及び被告SAIのみならず同じく組合員である原告にも
発生するのであるから、被告AIらの支払った弁護士費用等のみを経費として計上
することは均衡を欠くというべきである。したがって、このような経費の計上は、
25 原告に対する関係で正当なものと認めることはできないから、被告AI及び被告S
AIの主張は採用することができない。それのみならず、本件組合の経費として松
田綜合法律事務所に対して支払った「支払報酬」及び「通信費」は、前記補正の上
引用した原判決の「理由」の2(1)ウのとおり、被告AIが原告との交渉のために
委任した弁護士に係る費用であって、被告AIのための費用であるというほかな
く、本件組合のための費用に当たるとはいえない。そして、被告AI及び被告SA
5 Iが相談した上でこのような「支払報酬」及び「通信費」を本件組合の経費に計上
し、原告の分配金を減少させたのであるから、同各被告らが「支払報酬」及び「通
信費」を本件組合の経費に計上した行為は共同不法行為に当たる。
したがって、この点にかかる被告AI及び被告SAIの主張は採用することがで
きない。
10 (3) 顧客名簿の不正使用に係る請求について
ア 原告は、EL社が営業秘密又は限定提供データの保有者であり、被告AI及
び被告SAIはEL社から営業秘密又は限定提供データの開示を受けたと主張する
が、そうであるとすれば、開示された営業秘密又は限定提供データが原告の営業秘
密又は限定提供データであるということはできないはずである。もともと、前記補
15 正の上引用した原判決のとおり、スマホ留学の顧客情報は各組合員に帰属するもの
であり(本件組合契約5条1項)、被告AI及び被告SAIが自らに帰属する顧客
情報を使用することは、不正競争行為に当たるものではない。
イ さらに、本件組合契約は、スマホ留学以外の特定の商品又はサービスを「対
象案件」として、その紹介をするため、スマホ留学の顧客情報を用いることを予定
20 している(本件組合契約6条4項等)。したがって、被告らが、顧客情報をケンペ
ネEnglishやオンライン留学の紹介に用いたことをもって、直ちに本件組合
契約に違反すると認めることはできない。
ウ 原告は、本件組合契約7条2項を文字通り解釈すると本件組合契約締結以前
に提供された情報は、同項の「機密情報」には該当しなくなるから不合理である旨
25 主張する。しかし、原告及び被告らとの間で平成29年3月1日に締結された業務
委託契約書(乙A102)によれば、本件組合契約締結前のスマホ留学事業に関す
る機密情報については、上記業務委託契約書9条に本件組合契約7条2項と同じ内
容の機密保持に関する条項が設けられていることが認められ、本件組合契約の締結
により当該条項の効力が失われたと解すべき理由は見当たらない。したがって、当
事者の合理的意思解釈として、本件組合契約締結前の機密情報については前記業務
5 委託契約書9条に基づく保護の対象となると解するのが相当であるから、原告の主
張する点は、本件組合契約7条2項をその文言どおり解釈することの妨げとなるも
のではない。
3 結論
以上の次第で、原告の請求(利益分配請求を除く。)のうち、経費不当算入に係
10 る請求については、被告AI及び被告SAIに対し、連帯して、17万1946円
及びこれに対する最後の不法行為の日である令和元年9月30日から支払済みまで
改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある
が、その余の請求はいずれも理由がない。これと同旨の原判決は相当であるから、
原告の控訴並びに被告AI及び被告SAIの各控訴をいずれも棄却することとし
15 て、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
25 清 水 響
裁判官
浅 井 憲
裁判官
勝 又 来 未 子
(別紙)
当事者目録
控訴人兼被控訴人(原審原告) 株式会社Ichido Up
(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 家 永 勲
10 大 平 健 城
被控訴人兼控訴人(原審被告) 株 式 会 社 A I
(以下「被告AI」という。)
被控訴人(原審被告) 株式会社LS Creation
(以下「被告LS」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 松 田 純 一
20 兼 定 尚 幸
被告AI訴訟復代理人兼被告LS訴訟代理人弁護士 勝 俣 安 登 武
被控訴人兼控訴人(原審被告) 株 式 会 社 S A I
(以下「被告SAI」といい、被告AI
25 及び被告LSと併せて「被告ら」という。)
同訴訟代理人弁護士 大 塚 一 暁
川 﨑 裕 恭
(別紙謝罪広告目録省略)

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