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令和5(行ケ)10116審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年2月28日
事件種別 民事
当事者 原告
被告特許庁長官
法令 商標権
商標法3条1項3号9回
商標法3条2項3回
商標法4条1項16号2回
キーワード 審決12回
商標権2回
拒絶査定不服審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。15
事件の概要 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。) (1) 原告は、令和3年10月4日、「Tibet Tiger」の文字を標 準文字で表してなる商標(本願商標)について、第27類「じゅうたん、敷 物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除 く。)」を指定商品として商標登録出願した。25 (2) 原告は、令和4年6月8日付けで、本願商標が商標法3条1項3号及び 4条1項16号に該当することを理由に拒絶査定(原査定)を受けたため、 同年9月13日、拒絶査定不服審判(本件審判)を請求した。

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判決文

令和6年2月28日判決言渡
令和5年(行ケ)第10116号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年1月24日
判 決
原 告 X
同訴訟代理人弁理士 西 村 知 浩
被 告 特 許 庁 長 官
10 同 指 定 代 理 人 岩 谷 禎 枝
同 豊 田 純 一
同 清 川 恵 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
15 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2022-14461号事件について令和5年8月18日にし
た審決を取り消す。
20 第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、令和3年10月4日、「Tibet Tiger」の文字を標
準文字で表してなる商標(本願商標)について、第27類「じゅうたん、敷
物、マット、ラグ、ヨガ用マット、織物製壁紙、壁掛け(織物製のものを除
25 く。 」を指定商品として商標登録出願した。

(2) 原告は、令和4年6月8日付けで、本願商標が商標法3条1項3号及び
4条1項16号に該当することを理由に拒絶査定(原査定)を受けたため、
同年9月13日、拒絶査定不服審判(本件審判)を請求した。
特許庁は、上記請求を不服2022-14461号事件として審理を行
い、令和5年8月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決
5 (本件審決)をし、その謄本は同年9月22日原告に送達された。
(3) 原告は、令和5年10月18日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を
提起した。
2 本件審決の理由の要旨
本願商標は、「Tibet Tiger」の文字を標準文字で表してなると
10 ころ、これは構成全体として「チベットのトラ」ほどの意味合いを容易に理解、
認識させるものである。そして、「じゅうたん、敷物、ラグ」の取引状況に鑑
みると、「Tibet Tiger」の文字よりなる本願商標をその指定商品
中「チベットで生産又は販売される、トラの図柄を描いた、あるいは、トラの
形状を模したじゅうたん、チベットで生産又は販売される、トラの図柄を描い
15 た、あるいは、トラの形状を模した敷物、チベットで生産又は販売される、ト
ラの図柄を描いた、あるいは、トラの形状を模したラグ」に使用しても、これ
に接する取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地、品質を表示したもの
と理解するにとどまり、自他商品の識別標識とは認識しないというべきである。
また、原告は、本願商標をその指定商品に第三者より先に使用した実績があ
20 り今日の信用形成に貢献したとも主張するが、その事実を客観的に認めること
はできず、仮に第三者より先に使用していたとしても本願商標は自他商品の識
別力を有さないものと判断される。
したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当し、また、上記商品以
外の「じゅうたん、敷物、ラグ」に使用するときは、商品の品質の誤認を生ず
25 るおそれがあるから、同法4条1項16号に該当する。
3 取消事由
(1) 商標法3条1項3号該当性の判断の誤り
(2) 商標法3条2項該当性に関する判断の誤り
(3) 商標法4条1項16号該当性の判断の誤り
第3 取消事由に関する当事者の主張
5 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)
(1) 原告の主張
ア 本願商標は、あくまでも「Tibet Tiger」という一つの意味
合いを生じる一種の造語を表したものとして認識されるものである。日
本における取引者・需要者にとってチベットという地名は必ずしも著名
10 ではなく、トラの分類を考えてもベンガルトラ、アムールトラなどは存
在するものの(甲13)、チベットトラという亜種(分類)は存在しな
い。本願商標は、本件審決等が認定した意味合いである「チベットに生
息するトラ」、「チベットのトラ」を直接的かつ具体的に表示したもの
ではない。
15 イ 本願の指定商品はトラの体及び肉・内臓を直接的に使用した商品ではな
いから、本願商標は指定商品との関係では商品の特徴等を直接的に表示
するものではない。仮に本願商標が商品の産地又は販売地、品質等を想
起させるとしても、それは意味合いを暗示させるにすぎないから、商標
法3条1項3号に該当しない。
20 ウ 本件審決が判断の根拠としたインターネット情報は、広辞苑等の公式的
な辞典ではなく、個人が自由に作成するものであり、取引者・需要者が
商品の産地・販売地等として認識するほどの影響力は発揮しない。仮に
複数のウェブサイトやブログで共通の内容が記載されているとしても、
共通の担当者による文書作成であるか、あるいは単に内容を模倣しただ
25 けの可能性も少なくなく、このような出所も分からないような正体不明
のネット情報で、しかも審判段階で提出されていない証拠までを根拠と
して、商標法3条1項3号該当性を判断することは違法である。
エ 本願商標を構成する「Tibet Tiger」という文字は、原告が
事業において「チベタンタイガー」として使用していた商標である。原
告は、平成30年8月21日から現在まで使用品の販売を継続し、その
5 商品に「チベタンタイガー」の文字を使用している(甲6~9)。原告
の商品の販売実績は他の業者のそれを大きく凌駕しており、原告による
商品の販売実績によって「チベタンタイガー」、「チベタンタイガーラ
グ」の文字が広く世間に認識されている。原告が本願商標に係る商標権
を取得することは公益的な観点からも許されるべきである。
10 (2) 被告の主張
後記第4の1と同趣旨である。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性に関する判断の誤り)
(1) 原告の主張
上記1(1)エのように、原告は、本願商標を長年にわたり継続的に使用し
15 ており、その結果、本願商標は原告の商標として認識され始め、現在に至っ
ているから、本願商標は商標法3条2項によって登録されるべきである。
(2) 被告の主張
後記第4の2と同趣旨である。
3 取消事由3(商標法4条1項16号該当性の判断の誤り)
20 (1) 原告の主張
上記1のとおり、本願商標は商標法3条1項3号に該当せず、本願商標
が指定商品である「じゅうたん、敷物、ラグ」などに使用されても、商品の
品質の誤認を生じるおそれもないから、同法4条1項16号にも該当しない。
(2) 被告の主張
25 後記第4の3と同趣旨である。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(1) 商標法3条1項3号は、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効
能、用途、形状(包装の形状を含む。・・・)、生産若しくは使用の方法若し
くは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、
5 提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の
特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからな
る商標」は、商標登録を受けることができない旨を規定しているが、これは、
同号掲記の標章は、商品の産地、販売地その他の特性を表示、記述する標章
であって、取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものである
10 から、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであ
るとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合、自他商品・役
務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないことから、登録を許さな
いとしたものである。
(2) 原告は、日本における取引者・需要者にとってチベットという地名は必
15 ずしも著名ではなく、チベットトラという亜種(分類)も存在しないなどと
して、本願商標は「Tibet Tiger」という造語として認識される
旨主張する。
しかし、本願商標の構成中の「Tibet」の文字は「チベット(中国南
西部の自治区)」を意味する英語であり(乙1、3) 「Tiger」の文字

20 は「トラ」を意味する英語であって(乙2、4)、これらはいずれも平易な
英単語として我が国においても一般に親しまれている。これらの文字を空白
一字分間に挟んで並べた本願商標は、構成全体として「チベットのトラ」ほ
どの意味合いを容易に理解、認識させるものと認められ、その旨をいう本件
審決の判断に誤りはない。日本の取引者・需要者にとってチベットという地
25 名が必ずしも著名でないことを認めるに足りる証拠はなく、また、チベット
トラという亜種(分類)が存在しないことは上記認定を妨げるものではない。
(3) 原告は、本願商標の指定商品はトラの体等を直接的に使用した商品では
ないから、本願商標は指定商品との関係で商品の特徴等を直接的に表示する
ものではない旨主張するので、以下検討する。
ア 証拠(甲15~17、乙5~16)によれば、ウェブサイト上では、本
5 願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラグ」との関係において、チ
ベットやネパールはじゅうたんの生産地及び販売地として知られており、
じゅうたんはチベット民族の伝統的な手工芸品であるとされ、チベット
民族やネパールに在住しているチベット難民によって手織りされている
じゅうたんは「チベットじゅうたん」と称され、世界4大じゅうたんの
10 一つに数えられ、丈夫で耐久性に優れているなどと紹介されていること
が認められる。
また、同様にウェブサイト等では(甲6~9、18~21、23、2
4、乙23、25~52)、本願の指定商品中の「じゅうたん、敷物、ラ
グ」との関係において、トラ柄又はトラの図柄等を表す語として「Ti
15 ger」又は「タイガー」の文字が使用されており、「チベットじゅうた
ん」の中でも、トラのモチーフは、位の高い僧侶のために作られていた
ことから格の高い文様、由緒あるものといわれ、トラの図柄を描いた、
あるいは、トラの形状を模した「チベットじゅうたん」は、生産地及び
販売地の地域を表す語(チベタン〔Tibetan〕、チベット〔Tib
20 et〕)と、トラを意味する「Tiger」とを組み合わせて「Tibe
tan Tiger(Rug) 、
」 「チベタンタイガー(ラグ)」又は「チ
ベットタイガー(カーペット)」などと称されて多数販売されていること
も認められる。
イ 上記アのような取引の実情を踏まえると、「Tibet Tiger」
25 の文字よりなる本願商標をその指定商品中、トラの図柄又はトラの形状
のチベットじゅうたん、チベット製ラグ等に使用した場合、これに接す
る取引者、需要者は、単に商品の産地又は販売地であるチベット、ある
いはトラの図柄又は形状といった品質を表示したものと理解するにとど
まるというべきである。
ウ この点につき、原告は、本件で提出されている証拠がインターネット上
5 の情報にすぎず、出所不明の情報であるとも主張するが、前記アの認定
証拠について、その信用性を疑わしめる事情は見当たらない。
そもそも原告が自らの販売実績を示すために提出した証拠(甲6~9)
からも、ヤフオク(ヤフーオークション)というメジャーなサイトにお
いて原告の取扱商品以外のものも含め、「チベタンタイガーラグ」 「チベ

10 タンタイガー絨毯」という用語を「商品タイトル」(商品の一般名称)に
掲げた取引が行われている事実が客観的に認められるところである。
(4) 原告は、自身の事業において「チベタンタイガー」という標章を使用し
て商品を販売してきたとして、原告が本願商標に係る商標権を取得すること
は公益的な観点からも許されるべきであると主張する。
15 しかし、後述する商標法3条2項の規定による識別力の獲得が認められる
場合は別として、公益性の観点から商標法3条1項3号該当性を否定する原
告の主張は独自の見解に基づくものであり、採用できない。
(5) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとし
た本件審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。
20 2 取消事由2(商標法3条2項該当性に関する判断の誤り)について
原告は、本願商標を長年にわたり継続的に使用してきたとして、本願商標
は商標法3条2項によって登録されるべきであると主張する。
しかし、本件において、本願商標である「Tibet Tiger」が使
用された結果、需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することが
25 できることを認めるに足りる証拠はない。すなわち、原告が使用してきたと
主張する標章は「チベタンタイガー」というものであり(甲6~9) 「Ti

bet Tiger」という本願商標そのものではない。本願商標はローマ
字で構成されるものであり、その読み方も「チベット タイガー」というも
のであるから、片仮名で構成され、しかも「チベタン」という部分において
読み方も異なる上記標章とは、外観および呼称において異なっており、需要
5 者の認識上も大きな差異が存在するといわざるを得ず、商標としての同一性
は認められないといえる。
また、この点を措くとしても、当該標章の使用期間、販売数量等について
十分な立証があるとはいえない。
よって、商標法3条2項による登録を認めなかった本件審決に違法はない。
10 3 取消事由3(商標法4条1項16号該当性の判断の誤り)について
上記1で判断したところによれば、本願商標をその指定商品中、産地、販売
地がチベットではなく、図柄や形状がトラと関係のない「じゅうたん、敷物及
びラグ」に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるといえる
から、商標法4条1項16号に該当する。
15 この点に関する本件審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由3の主張は理
由がない。
4 結論
以上によれば、本願商標は商標法3条1項3号に該当し、同条2項の適用は
認められず、同法4条1項16号にも該当するから、原告主張の取消事由はい
20 ずれも理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。した
がって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
25 宮 坂 昌 利
裁判官
岩 井 直 幸
5 裁判官
頼 晋 一

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