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令和5(行ケ)10052特許取消決定取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年3月11日
事件種別 民事
当事者 原告住友重機械工業株式会社
被告特許庁長官
対象物 アシスト装置
法令 特許権
キーワード 進歩性11回
実施6回
特許権2回
刊行物1回
主文 1 原告の請求を棄却する。20
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。) (1) 原告は、発明の名称を「アシスト装置」とする発明について、平成28 年12月7日の特許出願を経て、令和3年5月27日に本件特許(特許第6 890407号)に係る特許権の設定登録を受け(請求項の数5)、同年65 月18日に特許掲載公報が発行された。 (2) 本件特許(請求項1~5に係るもの)について、令和3年10月8日に 特許異議の申立てがされ、特許庁は、同申立てを異議2021-70097 2号事件として審理を行った。 (3) 原告は、令和4年9月7日付けで取消理由通知(決定の予告)を受けた10 ことから、その意見書提出期間内である同年12月9日、本件特許の特許請 求の範囲(訂正対象は請求項1~3)を下記2(1)のとおりに訂正(以下 「本件訂正」という。)する旨の訂正請求をした(訂正後の請求項の数5)。 (4) 特許庁は、令和5年3月23日、本件訂正を認めた上で、本件特許の請 求項1~5に係る特許を取り消すとの異議の決定(以下「本件決定」とい15 う。)をし、その謄本は同年4月3日原告に送達された。

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判決文

令和6年3月11日判決言渡
令和5年(行ケ)第10052号 特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年1月22日
判 決
原 告 住友重機械工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 横 井 康 真
同訴訟代理人弁理士 森 下 賢 樹
10 同 富 所 輝 観 夫
同 吉 田 浩 久
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 後 藤 泰 輔
15 同 井 上 哲 男
同 内 藤 真 徳
同 後 藤 亮 治
同 須 田 亮 一
主 文
20 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が異議2021-700972号事件について令和5年3月23日に
25 した決定のうち、特許第6890407号の請求項1~5に係る特許を取り消
すとの部分を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、発明の名称を「アシスト装置」とする発明について、平成28
年12月7日の特許出願を経て、令和3年5月27日に本件特許(特許第6
5 890407号)に係る特許権の設定登録を受け(請求項の数5)、同年6
月18日に特許掲載公報が発行された。
(2) 本件特許(請求項1~5に係るもの)について、令和3年10月8日に
特許異議の申立てがされ、特許庁は、同申立てを異議2021-70097
2号事件として審理を行った。
10 (3) 原告は、令和4年9月7日付けで取消理由通知(決定の予告)を受けた
ことから、その意見書提出期間内である同年12月9日、本件特許の特許請
求の範囲(訂正対象は請求項1~3)を下記2(1)のとおりに訂正(以下
「本件訂正」という。)する旨の訂正請求をした(訂正後の請求項の数5)。
(4) 特許庁は、令和5年3月23日、本件訂正を認めた上で、本件特許の請
15 求項1~5に係る特許を取り消すとの異議の決定(以下「本件決定」とい
う。)をし、その謄本は同年4月3日原告に送達された。
(5) 原告は、令和5年5月8日、本件決定のうち、本件特許の請求項1~5
に係る特許を取り消すとした部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 本件特許発明の内容
20 (1) 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載(本件訂正後のもの)は、以下のとおり
である(以下、本件訂正後の特許請求の範囲の記載によって特定される発明
を「本件特許発明」といい、その各請求項に係る発明を個別に指すときは、
請求項番号に対応して「本件特許発明1」などという。 。

25 【請求項1】
人体の第一部分と第二部分の間の関節の動きをアシストするアシスト装置
であって、
前記第一部分に装着される第一部材と、
前記第二部分に装着される第二部材と、
前記第一部材と前記第二部材の間に介装される減速機と、を備え、
5 当該減速機は、前記第一部材に連結される固定部材と、前記第二部材に連
結される出力部材と、前記固定部材と前記出力部材の間に配置される主軸受
と、を有し、
前記固定部材と前記出力部材との間には軸受は主軸受のみが配置され、
前記主軸受は、1つの単列式転がり軸受(クロスローラ軸受は含まない)
10 のみにより構成されるか、1つの滑り軸受のみにより構成されるか、前記固
定部材と前記出力部材を直接的に摺接する一箇所の滑り軸受のみにより構成
される(以下、この下線部を「構成B1」という。)アシスト装置。
【請求項2】
人体の第一部分と第二部分の間の関節の動きをアシストするアシスト装置
15 であって、
前記第一部分に装着される第一部材と、
前記第二部分に装着される第二部材と、
前記第一部材と前記第二部材の間に介装される減速機と、を備え、
当該減速機は、前記第一部材に連結される固定部材と、前記第二部材に連
20 結される出力部材と、前記固定部材と前記出力部材の間に配置される主軸受
と、を有し、
前記固定部材と前記出力部材との間には軸受は主軸受のみが配置され、
前記主軸受は、専らラジアル荷重に対応するための1つの単列式転がり軸
受のみにより構成されるか、1つの滑り軸受のみにより構成されるか、前記
25 固定部材と前記出力部材を直接的に摺接する一箇所の滑り軸受のみにより構
成され(以下、この下線部を「構成B2」という。 、

前記減速機は、起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置を含むア
シスト装置。
【請求項3】
5 人体の第一部分と第二部分の間の関節の動きをアシストするアシスト装置
であって、
前記第一部分に装着される第一部材と、
前記第二部分に装着される第二部材と、
前記第一部材と前記第二部材の間に介装される減速機と、を備え、
10 当該減速機は、前記第一部材に連結される固定部材と、前記第二部材に連
結される出力部材と、前記固定部材と前記出力部材の間に配置される主軸受
と、を有し、
前記固定部材と前記出力部材との間には軸受は主軸受のみが配置され、
前記主軸受は、1つの単列式転がり軸受のみにより構成され、
15 前記単列式転がり軸受は、深溝玉軸受により構成される(以下、この下線
部を「構成B3」という。)アシスト装置。
【請求項4】
前記固定部材と前記出力部材を直接的に摺接する滑り軸受は、前記固定部
材と前記出力部材とが直接的に摺接する相互間に潤滑剤が塗布されている請
20 求項1又は2に記載のアシスト装置。
【請求項5】
前記出力部材は、前記出力部材側から作用される外部荷重により、他の部
位に比べてより小さい外部荷重で破断し易い脆弱部を有する請求項1から4
のいずれか一項に記載のアシスト装置。
25 (2) 本件特許明細書及び図面の抜粋を別紙に掲げる。これによれば、本件特
許明細書には、次のような開示があることが認められる。
ア 本件特許発明は、関節の動きをアシストするアシスト装置に関する
(【0001】 。

イ 高齢者や障害者等の関節の動きをアシストするアシスト装置の開発が進
められている。従来では、ユーザに装着される装着式のアシスト装置が
5 提案されている(【0002】 。このようなアシスト装置は、人体への装

着を前提とすることから、ユーザに負担が生じないように小型化の要請
が高かった。また、近年の高齢者人口の増加によりアシスト装置をより
広く普及させる必要があることから、コスト低減の要請が高かった(【0
004】 。本件特許発明は、アシスト装置の小型化、コスト低減を図る

10 ことをその目的とする(【0005】 。

ウ 本件特許発明は、人体の第一部分と第二部分の間の関節の動きをアシス
トするアシスト装置であって、前記第一部分に装着される第一部材と、
前記第二部分に装着される第二部材と、前記第一部材と前記第二部材の
間に介装される減速機と、を備え、当該減速機は、前記第一部材に連結
15 される固定部材と、前記第二部材に連結される出力部材と、前記固定部
材と前記出力部材の間に配置される主軸受と、を有し、前記固定部材と
前記出力部材との間には軸受は主軸受のみが配置され、前記主軸受は、
1つの単列式転がり軸受のみにより構成されるか、1つの滑り軸受のみ
により構成されるか、前記固定部材と前記出力部材を直接的に摺接する
20 一箇所の滑り軸受のみにより構成される(【0006】 。

エ 第二軸受の技術的意義
(ア) 例えば、産業用ロボットのロボットアームの関節等に組み込まれる、
一般的な減速機の場合、出力側から外部荷重を受ける可能性が高く、
出力側の構成と一体的に連結される部材を支持する軸受は、外部荷重
25 に耐久性を有することが要求される。出力側からの外部荷重によって
軸受に作用する荷重としては、ラジアル荷重(軸受の回転半径方向)、
アキシャル荷重(軸受の回転中心線方向)、モーメント荷重(軸受の回
転直径を軸とする回動方向)が挙げられる。モーメント荷重の耐久性
を持たせるには、減速機は非常に軸方向に大型化が生じる。一方、上
記ラジアル荷重、アキシャル荷重、モーメント荷重の全ての荷重に1
5 つの軸受により耐久性を持たせるには、クロスローラー軸受のような
特種且つ高価な軸受が必要となり、減速機のコスト上昇が避けられな
い(【0041】 。

ロボットアームの場合は、関節より先端部の重量を支える必要があり、
アーム先端部からはツールや運搬対象物の重量に基づく荷重が発生し、
10 アーム先端の移動軌跡に応じて関節があらゆる向きや姿勢を採り得るの
で、ラジアル荷重、アキシャル荷重、モーメント荷重の全てについて大
きな荷重が生じ得る(【0042】 。

(イ) しかしながら、アシスト装置10の関節に組み込まれる減速機40
の場合には、関節より先端部側(出力側)については第二部材22の
15 重量を支えることができれば良く、関節の向きや姿勢はほぼ一定の状
態で使用されるため、軸受に作用する荷重は、専らラジアル荷重であ
り、これに比べてアキシャル荷重やモーメント荷重は非常に小さくな
る。また、そのラジアル荷重も小さい(【0043】 。第二軸受47に

作用する荷重は小さいので、主として回転を支持する目的で 1つの単
20 列式転がり軸受を使用することができる。単列式転がり軸受の一例と
しては、深溝玉軸受が挙げられる(【0044】 。

オ アシスト装置の技術的効果
(ア) 上記アシスト装置10の減速機40は、第二軸受47を1つの単列
式転がり軸受により構成している。アシスト装置の場合、作用する荷
25 重が非常に小さいので、1つの単列式転がり軸受により、安定して回
転を支持できる(【0051】 。

(イ) さらに、第二軸受47を1つの単列式転がり軸受により構成してい
るので、減速機40の小型化、ひいてはアシスト装置10全体の小型
化を図ることが可能となる。また、第二軸受47を1つの単列式転が
り軸受により構成するので、特種且つ高価な軸受を不要とすることが
5 でき、アシスト装置10のコスト低減を図ることが可能となる。特に、
第二軸受47をより世の中に広く普及する深溝玉軸受で構成した場合
には、さらなるコスト低減及び入手容易性により、アシスト装置10
の製造容易性を向上することができる。また、第二軸受47を1つの
滑り軸受で構成した場合にも上記と同じ効果を得ることが可能である
10 (【0052】 。

3 本件決定の理由の要旨
本件決定は、本件特許発明1~5は、いずれも主引用例である甲1(本件特
許出願前に頒布された刊行物である特開2015-217440号公報)及び
周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判
15 断した。その理由の要旨は以下のとおりである(なお、本件特許発明4、5に
係る本件決定の判断部分を含め、後述する取消事由の対象として取り上げられ
ていない点は省略する。 。

(1) 本件訂正は、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請
求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とす
20 るものであり、その他法定の要件を満たすものとして、これを認める。
(2) 甲1には、以下の発明(甲1発明)が記載されていると認められる。
「 腰と大腿部の間の股関節の動きを補助する(本件特許発明の「アシスト
する」に相当)非外骨格型のロボティクスウェア(同「アシスト装置」
に相当)であって、
25 腰に装着される大腿部上部支持板12b、14b(同「第1部材」に
相当)と、
大腿部に装着される大腿部下部支持板12c、14c(同「第2部材」
に相当)と、
大腿部上部支持板12b、14b(=第1部材)と大腿部下部支持板
12c、14c(=第2部材)の間に介装される減速機構を備えるモー
5 タユニット20a、20bとを備え、
前記減速機構は、位置決めピン38により前記大腿部上部支持板12
b、14bに連結されるハウジングケース34(同「固定部材」に相当)
と、駆動ピン33により前記大腿部下部支持板12c、14cに連結さ
れるサーキュラ・スプライン32a(同「出力部材」に相当)と、当該
10 ハウジングケース34(=固定部材)とサーキュラ・スプライン32a
(=出力部材)の間には1つのベアリング(同「主軸受」に相当)のみ
が配置される非外骨格型のロボティクスウェア。」
(3) 本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明は、次の一致点及び相違点を有する。
15 【一致点】
人体の第一部分と第二部分の間の関節の動きをアシストするアシスト
装置であって、
前記第一部分に装着される第一部材と、
前記第二部分に装着される第二部材と、
20 前記第一部材と前記第二部材の間に介装される減速機と、を備え、
当該減速機は、前記第一部材に連結される固定部材と、前記第二部材
に連結される出力部材と、前記固定部材と前記出力部材の間に配置され
る主軸受と、を有し、
前記固定部材と前記出力部材との間には主軸受のみが配置されるアシ
25 スト装置。
【相違点】
本件特許発明1では、主軸受は、構成B1のとおり構成されているの
に対し、甲1発明では、主軸受である1つのベアリングについて具体的
に特定されていない点。
イ 上記相違点について検討するに、ベアリングとして、クロスローラ軸受
5 でない「単列式転がり軸受」や「滑り軸受」は機械要素として周知の構
成であり、これを甲1発明の主軸受のベアリングの具体的構成として採
用することは当業者にとって容易である。よって、本件特許発明1は、
甲1発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることが
できたものである。
10 (4) 本件特許発明2について
本件特許発明2は、その主軸受が構成B2のとおり構成されているのに
対し、甲1発明は、その主軸受である1つのベアリングについて具体的に特
定されていないという相違点があるが、上記(3)イと同様の理由により、本
件特許発明2は当業者が容易に発明をすることができたものである。
15 (5) 本件特許発明3について
本件特許発明3は、その主軸受が構成B3のとおり構成されているのに
対し、甲1発明は、その主軸受である1つのベアリングについて具体的に特
定されていないという相違点があるが、ベアリングとして、クロスローラ軸
受でない「単列式転がり軸受」は機械要素として周知の構成であり、また、
20 単列式転がり軸受として深溝玉軸受は周知のものであるから、これを甲1発
明の主軸受のベアリングの具体的構成として採用することは当業者にとって
容易である。よって、本件特許発明3は、甲1発明及び周知の技術に基づい
て、当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 本件決定(本件特許取消部分)の取消事由
25 (1) 取消事由1(本件特許発明1の進歩性判断の誤り)
ア 取消事由1(1)(甲1発明の認定の誤り)
イ 取消事由1(2)(本件特許発明1と甲1発明との相違点の認定の誤り)
ウ 取消事由1(3)(本件特許発明1と甲1発明との相違点についての判断
の誤り)
(2) 取消事由2(本件特許発明2の進歩性判断の誤り)
5 ア 取消事由2(1)(本件特許発明2と甲1発明との相違点の認定の誤り)
イ 取消事由2(2)(本件特許発明2と甲1発明との相違点についての判断
の誤り)
(3) 取消事由3(本件特許発明3の進歩性判断の誤り)
ア 取消事由3(1)(本件特許発明3と甲1発明との相違点の認定の誤り)
10 イ 取消事由3(2)(本件特許発明3と甲1発明との相違点についての判断
の誤り)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(本件特許発明1の進歩性判断の誤り)
(1) 取消事由1(1)(甲1発明の認定の誤り)
15 【原告の主張】
ア 本件決定は、甲1発明について、主軸受である1つのベアリングについ
て具体的に特定されていないとするが、甲1発明における「1つのベア
リング」とはクロスローラ軸受であると解すべきであり、本件決定の甲
1発明の認定は誤りである。
20 イ 甲1【0021】には従来型モータユニットの実施形態(図2)につい
て、減速機32としてシルクハット型のハーモニックドライブ(登録商
標)減速機SHG-17-50を使用すると記載されているところ、甲
1【0024】の記載からすると、甲1発明となる図3の減速機(改良
型モータユニット)においても、減速機SHG-17-50が使用され
25 ていると把握できる。そして、甲30、31によれば、減速機SHGシ
リーズのカタログでは、甲1出願の出願日(2014年5月14日)以
前から現在に至るまで、いずれの減速機も1つのクロスローラのみによ
り主軸受を構成していると記載されている。
また、甲1発明の出願があった当時、アシスト装置に用いられる波動
減速機の技術分野において、クロスローラ軸受又は一対の軸受により波
5 動減速機の主軸受を構成することが一般的であった。
以上の点からすると、甲1発明の1つのベアリングは、カタログの減
速機と同様、クロスローラ軸受であると解するのが妥当である。
【被告の主張】
ア 乙1~3の図中の丸で囲った箇所に記載されているように、軸受の技術
10 分野において、玉軸受の玉を図中に円で示すことは、一般的な表示手段
であり、甲13や甲30に示されるクロスローラ軸受の表記(菱形)と
は明らかに異なっている。当業者であれば、甲1の図3(甲1発明)の
主軸受の中央に記載された円は玉軸受の玉であると認識するのであり、
甲1の図3の主軸受を一義的にクロスローラ軸受であるとは認識しない。
15 イ また、甲1の図3に示される改良型モータユニットについて、「減速機
SHG-17-50」を使用するとは明記されていない。かえって、甲
1の図3の改良型モータユニットの減速機の構造と甲30の減速機SH
G-17-50の構造は異なっており、甲30にある主軸受であるクロ
スローラ軸受の表記とも一致しないから、当業者は甲30の減速機SH
20 G-17-50のユニットがそのまま甲1の図3の改良型モータユニッ
トにおいて使用されているとは理解しない。
ウ 乙4の1、乙5に記載されているように、波動減速機を使用したロボッ
トアームにおいて1つの単列転がり軸受を主軸受とする構成は知られて
いるから、波動減速機の技術分野において、クロスローラ軸受又は一対
25 の軸受により波動減速機の主軸受を構成することが一般的である(技術
常識)」という原告の主張は失当である。
エ よって、本件決定が、甲1発明について主軸受を「1つのベアリング」
と認定した点に誤りはない。
(2) 取消事由1(2)(本件特許発明1と甲1発明との相違点の認定の誤り)
【原告の主張】
5 ア 上記(1)のとおり、甲1発明の「1つのベアリング」は、1つのクロス
ローラ軸受であると解するのが相当であり、甲1発明では主軸受である
1つのベアリングについて具体的に特定されていないとした本件決定の
相違点の認定には誤りがある。
イ また、主軸受に関する構成を本件特許発明1と甲1発明との相違点とす
10 る上では、アシスト装置に用いられる減速機の主軸受に着目した前提と
なる構成A「(アシスト装置の)減速機は、・・・前記固定部材と前記出力
部材の間に配置される主軸受と、を有し、」と、その主軸受の種類に関し
て規定した構成B1とを合わせたまとまりのある構成を相違点として認
定すべきである。構成B1のみを相違点とする認定は、アシスト装置に
15 用いられる減速機とは無関係の軸受のみに着目して相違点を把握しよう
とするものであり、相違点を殊更に細かく分けて認定するものとして誤
りである。
【被告の主張】
ア 上記(1)で述べたように、甲1発明において、主軸受を「1つのベアリ
20 ング」と認定した点に誤りはない。
イ 原告が主張する構成Aは一致点であって相違点ではないから、本件決定
が相違点を殊更に細かく分けてそれぞれの相違点について分離して判断
したというものでもない。したがって、構成Aと構成B1とを合わせた
まとまりのある構成を相違点として認定すべきとの主張は失当である。
25 (3) 取消事由1(3)(本件特許発明1と甲1発明との相違点についての判断
の誤り)
【原告の主張】
本件決定は、本件特許発明1と甲1発明との相違点に係る容易想到性を
肯定する判断をしたが、以下のとおり誤りである。
ア 本件特許発明1と甲1発明との相違点は、アシスト装置に用いられる減
5 速機の主軸受に関する点にあり、本件特許発明1の容易想到性を判断す
るに当たって考慮すべき当業者は、単にアシスト装置の技術分野に属す
る当業者というより、アシスト装置向けの減速機の技術分野に属する当
業者とするのが適切である。
そして、アシスト装置向けの減速機の技術分野における当業者にとっ
10 ては、産業用ロボット向けの減速機の技術分野で技術常識としていた耐
荷重の高いクロスローラ軸受又は一対の軸受から、本件特許発明1のよ
うに、耐荷重の低い1つの単列式転がり軸受(クロスローラ軸受を除く。)
等に置換することを想到することは困難であり、ここに第1の阻害要因
があった。
15 被告は、前記のとおり前提となる構成Aを捨象して、乙1、2のよう
なアシスト装置に用いられる減速機の主軸受とは無関係の単なる機械要
素としての「単列式転がり軸受」が周知技術であると主張しており、失
当である。
イ また、産業用ロボット向けの減速機の技術分野の技術常識からすれば、
20 耐荷重の低下により産業用ロボット向けの減速機において主軸受に要求
される耐久性を損ないかねない改変をしようという動機付けは生まれな
い。
ウ 被告は、特許異議申立事件の手続において審理判断されていない乙7等
(乙4の1、乙5、乙7、乙8)に基づいて容易想到性の主張をしてい
25 るが、後知恵であり、特許権者である原告の防御の機会を不当に奪うも
のであって、許されるべきではない。しかも、乙7、8は、甲1発明の
減速機とは、減速機構の種類及び減速段数も異なる特殊な遊星歯車減速
機構について開示したものであり、これに着目する意味はない。
【被告の主張】
ア 乙1、2から、軸にかかる荷重の方向や大きさ、許容されるコスト等の
5 条件に応じて、適切な軸受を選択することは技術常識であり、単列「深
溝玉軸受」に代表される「単列式転がり軸受」や、「滑り軸受」は周知で
ある。そうすると、アシスト装置である甲1発明において、軸にかかる
荷重の方向や大きさ、許容されるコスト等の条件を考慮したうえで、主
軸受である1つのベアリングとして、周知の「単列式転がり軸受」や
10 「滑り軸受」を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、甲1発明の構造からして、産業用ロボットに比して、主軸受にか
かる荷重が小さいことは明らかである。同様に、乙9の記載(段落【0
008】 【0012】 【0013】
、 、 )の記載からも、非外骨格型のアシス
ト装置において、主軸受に作用する荷重が小さいことは、本件特許の出
15 願前に知られていたと理解できる。
イ 原告が技術常識と主張する事項は、産業用ロボットに関するものであっ
て、使用形態及び構造が大きく異なるアシスト装置に関するものではな
いから、「主軸受に要求される耐久性を損ないかねない改変をしようとい
う動機付けは生まれない」という点は、アシスト装置である甲1発明に
20 はそのまま適用できない。
かえって、乙7、8に示されるように、アシスト装置において、出力軸
を支持する主軸受として、クロスローラ軸受ではない1つの単列転がり
軸受を採用したものが一般に知られていたから、アシスト装置である甲
1発明の主軸受として周知の「単列式転がり軸受」等を採用し、本件特
25 許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
2 取消事由2(本件特許発明2の進歩性判断の誤り)
(1) 取消事由2(1)(本件特許発明2と甲1発明との相違点の認定の誤り)
【原告の主張】
上記1(2)ア及び同イにおいて構成B1について述べたところと同様であ
る。
5 【被告の主張】
上記1(2)の被告の主張と同旨である。
(2) 取消事由2(2)(本件特許発明2と甲1発明との相違点についての判断
の誤り)
【原告の主張】
10 本件決定は、本件特許発明2と甲1発明との相違点に係る容易想到性を
肯定する判断をしたが、以下のとおり誤りである。
ア 本件特許発明2の容易想到性を判断するに当たっても、アシスト装置に
用いられる減速機の主軸受を1つのクロスローラ軸受とした甲1発明を
出発点として検討し、前記前提となる構成Aと構成B2を合わせたまと
15 まりのある構成として判断すべきである。波動減速機の技術分野におい
ては、クロスローラ軸受又は一対の軸受を主軸受として用いることが一
般的である上、クロスローラ軸受以外の1つの単列式転がり軸受、1つ
の滑り軸受又は一箇所の滑り軸受のみを主軸受に採用することは、一般
的とはいえないという技術常識がある。このため、産業用ロボット向け
20 の減速機の技術分野で技術常識としていた、アキシャル荷重、モーメン
ト荷重にも対応できる1つのクロスローラ軸受又は一対の軸受から、本
件特許発明2のように、専らラジアル荷重に対応するための1つの単列
式転がり軸受、1つの滑り軸受又は一か所の滑り軸受に置換することに
は、アシスト装置向けの減速機の技術分野における当業者にとって第2
25 の阻害要因があった。
イ また、減速機がアシスト装置に用いられる場合、その主軸受に作用する
荷重が専らラジアル荷重であり、これに比べてアキシャル荷重やモーメ
ント荷重は小さくなるという第2の特有の事情があり、これに気づかな
ければ、甲1発明のアキシャル荷重、モーメント荷重にも対応できるク
ロスローラ軸受から、本件特許発明2のような、専らラジアル荷重に対
5 応するための1つの単列式転がり軸受、1つの滑り軸受又は一箇所の滑
り軸受に主軸受を置換しようとする、耐久性を損ないかねない改変をし
ようという動機付けは生まれない。
【被告の主張】
ア 乙1、2から分かるように、単列「深溝玉軸受」等の「単列式転がり軸
10 受」は専らラジアル荷重に対応することは技術常識である。そうすると、
甲1発明の1つの主軸受として採用し得る周知の単列「深溝玉軸受」等
の「単列式転がり軸受」は、「専らラジアル荷重に対応するための」「単
列式転がり軸受」といえる。してみると、甲1発明のアシスト装置にお
いて、軸にかかる荷重の方向や大きさ、許容されるコスト等の条件を考
15 慮したうえで、主軸受である1つのベアリングとして、周知の「単列式
転がり軸受」を採用し、「主軸受は、専らラジアル荷重に対応するための
1つの単列式転がり軸受のみにより構成」されたものとすることは、当
業者が容易に想到し得たことである。
イ 乙4の1、乙5に記載されているように、波動減速機を使用したロボッ
20 トアームにおいて1つの単列転がり軸受を主軸受とする構成は知られて
いる。
3 取消事由3(本件特許発明3の進歩性判断の誤り)
(1) 取消事由3(1)(本件特許発明3と甲1発明との相違点の認定の誤り)
【原告の主張】
25 上記1(2)ア及び同イにおいて構成B1について述べたところと同様であ
る。
【被告の主張】
上記1(2)の被告の主張と同旨である。
(2) 取消事由3(2)(本件特許発明3と甲1発明との相違点についての判断
の誤り)
5 【原告の主張】
上記2(2)の原告の主張と同旨である。
【被告の主張】
上記2(2)の被告の主張と同旨である。
第4 当裁判所の判断
10 1 取消事由1(本件特許発明1の進歩性判断の誤り)について
(1) 取消事由1(1)(甲1発明の認定の誤り)について
ア 原告は、甲1発明における「1つのベアリング」がクロスローラ軸受で
あり、本件決定が当該ベアリングについて具体的に特定されていないと
したことは誤りであると主張する。
15 しかし、本件決定が 甲1発明 として認定した 改良型モータユニット
(【0024】)のハウジングケース34(固定部材に相当)とサーキュ
ラ・スプライン32a(出力部材に相当)の間に配置されている「1つ
のベアリング」がどのような軸受であるのかは、甲1の記載上、不明と
いうほかない。原告は、甲1の「従来型モータユニット」に関する記載
20 として「減速機32としてシルクハット型のハーモニックドライブ(登
録商標)減速機SHG-17-50を使用し」たとの記載があり(【00
21】 、減速機SHGシリーズはいずれも1つのクロスローラのみによ

り主軸受を構成しているから(甲30、31)、改良型である甲1発明も
同様にクロスローラ軸受を使用していると主張するが、甲1発明が従来
25 型モータユニットと同じ減速機を使用しているかどうかは明らかでない。
ところで、被告が主張するとおり、 甲1の図3の主軸受の中央に は
「円」の記載があるところ、軸受の技術分野において設計等で断面略図
として記載する際には、玉軸受の玉を図中では「円」で示すのが一般的
であり(乙1~3)、クロスローラ軸受を表す場合には菱形が用いられて
いること(甲13、30)も認められる。しかし、上記図3の主軸受の
5 図示がこれを意識したものかどうかは判然とせず、これをもって甲1発
明における「1つのベアリング」が玉軸受であるとまで断定することは
できない。そうであっても、当該「1つのベアリング」がクロスローラ
軸受であると即断できないことに変わりはない。
イ また、原告は、甲1の出願があった当時、アシスト装置である甲1発明
10 に用いられる波動減速機の技術分野において、クロスローラ軸受又は一
対の軸受により主軸受を構成することが一般的であったとも主張するが、
この主張を裏付ける証拠はない。
ウ よって、甲1発明に関し、主軸受である1つのベアリングについて具体
的に特定されていないとする本件決定の認定に誤りはない。
15 (2) 取消事由1(2)(本件特許発明1と甲1発明との相違点の認定の誤り)
について
ア 上記(1)のとおり、本件決定における甲1発明の認定に誤りはなく、甲
1発明においては、本件特許発明1と異なり、主軸受である1つのベア
リングについて具体的に特定されていないとする本件決定の相違点の認
20 定も相当である。
イ 原告は、前提となる構成Aと構成B1を合わせたまとまりのある構成を
相違点として認定すべきであると主張する。この主張は、構成B1に係
る相違点について判断するに当たり、当該相違点は構成Aが前提となっ
ているという技術的コンテキストを踏まえた判断が必要という趣旨をい
25 うものと理解される。よって、そのような趣旨の主張として、後記取消
事由1(3)において、これを踏まえた判断をすることとする。
(3) 取消事由1(3)(本件特許発明1と甲1発明との相違点についての判断
の誤り)について
ア 原告は、甲1発明における「1つのベアリング」がクロスローラ軸受で
あることを前提に、本件決定がした容易想到性の判断の誤りを主張する
5 が、前記のとおり本件決定における甲1発明の認定に誤りがない以上、
原告の主張はその前提を欠く。
イ また、原告は、本件特許発明1の容易想到性を判断するに当たって考慮
すべき当業者は、アシスト装置向けの減速機の技術分野に属する当業者
とすべきであると主張する。しかし、そうだとしても、甲1発明のアシ
10 スト装置に触れた当業者が、適切な軸受を選択するために、軸にかかる
荷重の方向や大きさを計測し、その計測結果に基づいて、周知の軸受の
選択肢の中から最適、安価な軸受に設計変更しようとすることは、当業
者の通常の創作能力の発揮にすぎないというべきである。このことは、
原告の主張する当業者の対象いかんによって異なるものではない。
15 そもそも、甲1発明のアシスト装置は、両端を人体に取り付けて使用
されるものであり(甲1)、産業用ロボットとは使用形態及び構造が大き
く異なる。のみならず、アシスト装置において予測される動作に伴う負
荷の程度を考えれば、片持式に先端部を支持する産業用ロボット(甲1
5の図2、甲26の図7、甲29の3頁「産業用ロボット」の例)に比
20 較して、主軸受にかかる荷重が小さいことは構造上明らかである。産業
用ロボット向けの減速機に関する技術常識がアシスト装置にそのまま妥
当すると当業者が考える根拠はない。
ウ 原告は、前提となる構成Aを捨象して、アシスト装置用減速機の主軸受
と無関係な単なる機械要素としての単列式転がり軸受が周知技術である
25 こと(乙1、2)を根拠に容易想到性の判断をするのは不当であるとの
趣旨の主張をする。
しかし、本件決定の判断も、当裁判所の上記イの判断も、単なる機械
要素としての単列式転がり軸受の周知性を根拠とするものではなく、ア
シスト装置用減速機と産業用ロボット用減速機の違いを踏まえて、アシ
スト用減速機においていかなる主軸受が選択されるかという点に着目し
5 た議論を述べているところであり、原告の主張する構成Aの前提(技術
的コンテキスト)を十分踏まえたものである。
エ 原告は、産業用ロボット向けの減速機の技術常識からすれば、耐荷重の
低下により耐久性を損ないかねない改変をしようという動機付けは生ま
れない旨主張する。
10 しかし、アシスト装置用減速機が、産業用ロボット向けの減速機にお
いて要求されるような大きなラジアル荷重、アキシャル荷重及びモーメ
ント荷重に対応しなければならないという技術常識を認めるに足りる証
拠はなく、原告の主張は、乙 7 等に関するものも含め、その前提を欠くも
のである。
15 (4) 小括
よって、取消事由1に関する原告の主張(1)~(3)は、いずれも採用する
ことができない。
2 取消事由2(本件特許発明2の進歩性判断の誤り)について
(1) 取消事由2(1)(本件特許発明2と甲1発明との相違点の認定の誤り)
20 について
前記1(2)記載のとおり、甲1発明においてクロスローラ軸受が用いられ
ていると認定することはできず、本件特許発明2と甲1発明の相違点に関す
る本件決定の認定に誤りはない。
(2) 取消事由2(2)(本件特許発明2と甲1発明との相違点についての判断
25 の誤り)について
ア 原告は、甲1発明における「1つのベアリング」がクロスローラ軸受で
あることを前提に、本件決定がした容易想到性の判断の誤りを主張する
が、前記同様、本件決定における甲1発明の認定に誤りがない以上、原
告の主張はその前提を欠く。
イ 本件特許発明2の構成B2には、本件特許発明1の構成B1と異なり、
5 「1つの単列式軸受」につき「専らラジアル荷重に対応するため」との
特定事項が付加されているところ、原告は、減速機がアシスト装置に用
いられる場合、その主軸受に作用する荷重は専らラジアル荷重であり、
これに比べアキシャル荷重やモーメント荷重は小さくなるという事情が
ある、これに気づかなければ、構成B2を採用する動機付けは生まれな
10 い旨主張する。
しかし、原告の主張する上記事情は、甲1発明の1つのベアリングに
関し、適切な軸受を選択するために軸にかかる荷重の方向や大きさを計
測するという当業者の通常の創作能力の範囲内において、自ずと理解・
把握し得るものにすぎない。そうすると、構成B2の「専らラジアル荷
15 重に対応するため」の特定事項も、進歩性を基礎づけるものとはいえな
い。
(3) 小括
よって、取消事由2に関する原告の主張(1)及び(2)は、いずれも採用す
ることができない。
20 3 取消事由3(本件特許発明3の進歩性判断の誤り)について
(1) 取消事由3(1)(本件特許発明3と甲1発明との相違点の認定の誤り)
について
前記1(2)のとおり、甲1発明においてクロスローラ軸受が用いられてい
ると認定することはできず、本件特許発明3と甲1発明の相違点に関する本
25 件決定の認定に誤りはない。
(2) 取消事由3(2)(本件特許発明3と甲1発明との相違点についての判断
の誤り)について
ア 原告は、甲1発明における「1つのベアリング」がクロスローラ軸受で
あることを前提に、本件決定がした容易想到性の判断の誤りを主張する
が、前記同様、本件決定における甲1発明の認定に誤りがない以上、原
5 告の主張はその前提を欠く。
イ 本件特許発明3の構成B3では、本件特許発明1の構成B1及び本件特
許発明2の構成B2と異なり、単列式転がり軸受が「深溝玉軸受により
構成される」との特定事項が付加されている。しかし、単列式転がり軸
受として深溝玉軸受は周知のものであり、かつ、これを甲1発明の1つ
10 のベアリングとして採用することを阻害するような事情も認められない
から、構成B3の「深溝玉軸受により構成される」の特定事項も、進歩
性を基礎づけるものとはいえない。
(3) 小括
よって、取消事由3に関する原告の主張(1)及び(2)は、いずれも採用す
15 ることができない。
4 結論
以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件決定にこれ
を取り消すべき違法は認められない。よって、原告の請求を棄却することとし
て、主文のとおり判決する。
20 知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
宮 坂 昌 利
25 裁判官
岩 井 直 幸
裁判官
頼 晋 一
別紙
本件特許明細書の記載等(抜粋)
【発明の詳細な説明】
5 【技術分野】
【0001】
本発明は、関節の動きをアシストするアシスト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
10 高齢者や障害者等の関節の動きをアシストするアシスト装置の開発が進められ
ている。従来では、ユーザに装着される装着式のアシスト装置が提案されている
(例えば特許文献1参照)。
この従来のアシスト装置は、ユーザの腰に装着する腰締結部材と、腰締結部材
に関節を介して垂下された脚部補助フレームとを有している。
15 上記脚部補助フレームは、ユーザの脚部に装着され、関節にはモータと減速機
が内蔵されている。
そして、モータから脚部補助フレームに回動動作が付与されて、ユーザの歩行
動作のアシストが行われていた。
【発明の概要】
20 【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなアシスト装置は、人体への装着を前提とすることから、ユーザに負
担が生じないように小型化の要請が高かった。
また、近年の高齢者人口の増加によりアシスト装置をより広く普及させる必要
25 があることから、コスト低減の要請が高かった。
【0005】
本発明は、アシスト装置の小型化、コスト低減を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、人体の第一部分と第二部分の間の関節の動きをアシストするアシス
5 ト装置であって、前記第一部分に装着される第一部材と、前記第二部分に装着され
る第二部材と、前記第一部材と前記第二部材の間に介装される減速機と、を備え、
当該減速機は、前記第一部材に連結される固定部材と、前記第二部材に連結される
出力部材と、前記固定部材と前記出力部材の間に配置される主軸受と、を有し、前
記固定部材と前記出力部材との間には軸受は主軸受のみが配置され、前記主軸受は、
10 1つの単列式転がり軸受のみにより構成されるか、1つの滑り軸受のみにより構成
されるか、前記固定部材と前記出力部材を直接的に摺接する一箇所の滑り軸受のみ
により構成される。
【発明の効果】
【0007】
15 本発明によれば、アシスト装置の小型化、コスト低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態に係るアシスト装置の分解斜視図である。
【図2】関節ユニットの関節中心線に沿った断面図である。
20 (【図3】及び【図4】は省略)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[アシスト装置の概略]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
25 図1は本発明の実施の形態に係るアシスト装置の分解斜視図、図2は後述する
関節ユニットの関節中心線Oに沿った断面図である。
【0010】
本発明の実施の形態に係るアシスト装置10は、人体の特定の関節における所
定部位に対して回動動作を行うためのトルクを付与して、ユーザの関節の回動動作
の補佐を行うためのものである。
5 【0011】
図1に示すように、アシスト装置10は、左股関節の動きをアシストする。ア
シスト装置10は、第一部材21と、第二部材22と、関節ユニット30とを備え
ている。
【0012】
10 第一部材21は、人体の第一部分としての腰部の左側面に配置される。
第一部材21は、固定側環状部211と第一延出部212と第一円弧板213
とを備え、これらは一体的に形成されている。
【0013】
固定側環状部211は、円形環状であり、その外縁部の一端から半径方向外側
15 に向かって前述した第一延出部212が延出されている。固定側環状部211は、
その厚さ方向に貫通する座ぐり穴が周方向に沿って複数形成されている。そして、
各座ぐり穴に通された複数のボルト485により、当該固定側環状部211と、後
述するハウジング45と、後述する外歯歯車42とが、いずれも関節中心線Oを中
心とする同心状態でモータハウジング48に締結固定されている。
20 【0014】
第一延出部212は板状であって、その延出端部には第一円弧板213が設け
られている。アシスト装置10の使用時には、第一延出部212はその延出端部が
上方に向けられた状態でユーザの腰部の左側面側に配置される。
また、この第一延出部212は、図2に示すように、その延出端部が人体に接
25 近するように、固定側環状部211側となる根元部分がクランク状に屈曲形成され
ている。
【0015】
第一円弧板213は、第一延出部212の延出方向から見て円弧状に湾曲した
板状体である。第一延出部212を腰部の左側面に沿わせると、この第一円弧板2
13は、円弧の内側が腰部に密着する。そして、第一円弧板213は、人体の腰部
5 に巻かれた腰部ベルト(不図示)に固定され、第一部材21を装着状態とすること
ができる。
【0016】
第二部材22は、人体の第二部分としての大腿部の左側面に配置される。
第二部材22は、可動側環状部221と第二延出部222と第二円弧板223
10 とを備え、これらは一体的に形成されている。
【0017】
可動側環状部221は、円形環状であり、その外縁部の一端から半径方向外側
に向かって前述した第二延出部222が延出されている。図2に示すように、可動
側環状部221は、その厚さ方向に貫通する座ぐり穴が周方向に沿って複数形成さ
15 れている。そして、各座ぐり穴に通された複数のボルト464により、当該可動側
環状部221と、後述するスペーサ46とが、関節中心線Oを中心とする同心状態
で連結されている。
【0018】
第二延出部222は板状であって、その延出端部には第二円弧板223が設け
20 られている。アシスト装置10の使用時には、第二延出部222はその延出端部が
下方に向けられた状態でユーザの大腿部の左側面側に配置される。
また、この第二延出部222は、図2に示すように、前述した第一延出部21
2よりも関節中心線Oに沿った方向について人体側に配置されているので、当該第
一延出部212のようにクランク状に屈曲されずに真っ直ぐに延出されている。
25 【0019】
第二円弧板223は、第二延出部222の延出方向から見て円弧状に湾曲した
板状体である。第二延出部222を大腿部の左側面に沿わせると、この第二円弧板
223は、円弧の内側が大腿部に密着する。そして、第二円弧板223は、人体の
大腿部に巻かれた大腿部ベルト(不図示)に固定され、第二部材22を装着状態と
することができる。
5 【0041】
[第二軸受の技術的意義]
例えば、産業用ロボットのロボットアームの関節等に組み込まれる、一般的な
減速機の場合、出力側から外部荷重を受ける可能性が高く、出力側の構成と一体的
に連結される部材を支持する軸受は、外部荷重に耐久性を有することが要求される。
10 出力側からの外部荷重によって軸受に作用する荷重としては、ラジアル荷重
(軸受の回転半径方向)、アキシャル荷重(軸受の回転中心線方向)、モーメント荷
重(軸受の回転直径を軸とする回動方向)が挙げられる。
モーメント荷重の耐久性を持たせるには、出力側の構成と一体的に連結される
部材を回転中心線方向について離間した二箇所で二つの軸受により支持すれば良い
15 が、その場合、減速機は非常に軸方向に大型化が生じる。
一方、上記ラジアル荷重、アキシャル荷重、モーメント荷重の全ての荷重に一
つの軸受により耐久性を持たせるには、クロスローラー軸受のような特種且つ高価
な軸受が必要となり、減速機のコスト上昇が避けられない。
【0042】
20 ロボットアームの場合は、関節より先端部の重量を支える必要があり、アーム
先端部からはツールや運搬対象物の重量に基づく荷重が発生し、アーム先端の移動
軌跡に応じて関節があらゆる向きや姿勢を採り得るので、ラジアル荷重、アキシャ
ル荷重、モーメント荷重の全てについて大きな荷重が生じ得る。
【0043】
25 しかしながら、アシスト装置10の関節に組み込まれる減速機40の場合には、
関節より先端部側(出力側)については第二部材22の重量を支えることができれ
ば良く、第二部材22の先端部には重量物が搭載されず、関節の向きや姿勢はほぼ
一定の状態で使用される。このため、軸受に作用する荷重は、専らラジアル荷重で
あり、これに比べてアキシャル荷重やモーメント荷重は非常に小さくなる。また、
そのラジアル荷重も小さい。
5 【0044】
上記減速機40において、「出力側の構成と一体的に連結される部材(出力部
材)」としてはスペーサ46が該当し、その「部材を支持する軸受(主軸受け)」と
しては第二軸受47が該当する。
上述したように、第二軸受47に作用する荷重は小さいので、主として回転を
10 支持する目的で一つの単列式転がり軸受を使用することができる。単列式転がり軸
受の一例としては、深溝玉軸受が挙げられる。
【0045】
なお、単列式転がり軸受としては、単列の深溝玉軸受の他に、単列の円筒ころ
軸受、単列の針状ころ軸受等が好適である。
15 大型化する複列の軸受や高価なアンギュラ軸受、円錐ころ軸受、自動調心軸受、
クロスローラー軸受は含まれない。また、スラスト軸受全般も含まれない。
また、単列式転がり軸受の他に、滑り軸受を使用しても良い。滑り軸受として
は、軸受単体として独立した部材であることは要求されず、例えば、ハウジング4
5の内周面に内歯歯車43の外周面が直接的に摺接して、これら相互間に滑り軸受
20 を構成するような場合も含まれる。この場合、両者の摺接面に、グリース等の潤滑
剤を塗布するのが好ましい。
【0046】
[アシスト装置の動作]
次に、アシスト装置10の動作について説明する。
25 ユーザの腰部の左側面側において、第一延出部212が上方に向けられ、第二
延出部222が下方に向けられた状態で、第一円弧板213が人体の腰部に腰部ベ
ルトで固定され、第二円弧板223が人体の大腿部に大腿部ベルトで固定され、装
着される。
そして、関節ユニット30は、中空モータ31の駆動により、第二部材22に
対して、関節中心線Oを中心とする回動動作を付与する。これにより、第二部材2
5 2がユーザの前後方向に回動し、人体の骨盤に対して大腿部の骨格部分を、股関節
を中心として前後に屈曲・伸展させて、ユーザの歩行動作などをアシストすること
ができる。
【0047】
このとき、減速機40では、中空モータ31の駆動により、偏心カム41が回
10 転すると、第一軸受44を介して偏心カム41の運動が外歯歯車42の基部421
に伝わる。外歯歯車42の基部421は、回転しないようにハウジング45及び
モータハウジング48に固定されているので、偏心カム41の回転に追従して外歯
歯車42が回転することはなく、外歯歯車42の基部421は、回転する偏心カム
41の外周形状に倣って長軸部分による膨出位置が周回する運動が得られる。この
15 周回の周期は、偏心カム41の高速な回転周期に比例する。
【0048】
このように、偏心カム41の回転により外歯歯車42の基部421が変形する
と、偏心カム41の長軸の回転に従って外歯歯車42と内歯歯車43との噛合う位
置が回転方向に変化する。ここで、外歯歯車42と内歯歯車43との歯数に違いが
20 あると、噛合う位置が一周するごとに噛合わされる外歯歯車42の歯部と内歯歯車
43の歯部との対応関係がずれていくので、これにより外歯歯車42と内歯歯車4
3との間で相対的な回転が生じる。ここでは、外歯歯車42が固定されているので、
内歯歯車43に回転が生じる。
例えば、内歯歯車43の歯数が102で、外歯歯車42の歯数が100であれ
25 ば、偏心カム41の回転運動は減速比102:2で減速されて内歯歯車43に伝達
される。
そして、これにより、第二部材22には減速された回動動作が付与される。
【0051】
[アシスト装置の技術的効果]
上記アシスト装置10の減速機40は、第一部材21に連結される固定部材を
5 構成するハウジング45と、第二部材22に連結される出力部材を構成する内歯歯
車43との間に配置される第二軸受47を、1つの単列式転がり軸受により構成し
ている。
アシスト装置の場合、作用する荷重が非常に小さいので、一つの単列式転がり
軸受により、安定して回転を支持できる。
10 【0052】
さらに、第二軸受47を1つの単列式転がり軸受により構成しているので、減
速機40の小型化、ひいてはアシスト装置10全体の小型化を図ることが可能とな
る。
また、第二軸受47を1つの単列式転がり軸受により構成するので、特種且つ
15 高価な軸受を不要とすることができ、アシスト装置10のコスト低減を図ることが
可能となる。特に、第二軸受47をより世の中に広く普及する深溝玉軸受で構成し
た場合には、さらなるコスト低減及び入手容易性により、アシスト装置10の製造
容易性を向上することができる。
また、第二軸受47を一つの滑り軸受で構成した場合にも上記と同じ効果を得
20 ることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 アシスト装置
21 第一部材
25 22 第二部材
30 関節ユニット
31 中空モータ
40 減速機(撓み噛合い式歯車装置)
41 偏心カム
42 外歯歯車
5 43 内歯歯車(出力部材)
44 第一軸受
45 ハウジング(固定部材)
46 スペーサ(出力部材)
47 第二軸受(主軸受、深溝玉軸受)
10 48 モータハウジング(固定部材)
463、464 ボルト
465 薄肉部(脆弱部)
O 関節中心線
【図1】
【図2】

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