令和4(ワ)70028商標権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
令和6年1月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告ヴェンガーエスアー 被告TRAVELPLUSINTERNATIONAL株式会社
|
法令 |
商標権
商標法36条1項1回
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キーワード |
商標権7回 侵害3回 無効2回 差止2回 優先権1回
|
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。15
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
1 事案の要旨
本件は、別紙原告商標目録記載の登録商標(以下「原告商標」という。)に
係る商標権(以下「原告商標権」という。)を有する原告が、別紙被告標章目
録記載1の標章(以下「被告標章」という。)は原告商標に類似するから、被
告が被告標章を付したバックパック、肩掛けかばん、ブリーフケース、旅行か5
ばん及びカジュアルバッグ(以下「被告商品」という。)を輸入、譲渡し、又
は譲渡のために展示すること、並びに被告標章を付した宣伝用のパンフレット
ほかの広告宣伝物を展示し、又は頒布することは、いずれも原告商標権を侵害
すると主張して、商標法36条1項及び37条1号に基づき、被告商品の譲渡
等の差止めを、同法36条2項に基づき、被告商品及びその広告宣伝物の廃棄10
を、それぞれ求めるとともに、民法709条及び商標法38条3項に基づき、
損害金5000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年11
月11日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金
の支払を求める事案である。 |
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判決文
令和6年1月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和4年(ワ)第70028号 商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和5年10月25日
判 決
5 原 告 ヴェンガー エス アー
同訴訟代理人弁護士 松 永 章 吾
同訴訟復代理人弁護士 丸 山 悠
同訴訟代理人弁理士 前 川 砂 織
同 補 佐 人 弁 理 士 岡 野 真 未 子
10 被 告 TRAVELPLUS INTERNATIONAL 株式会社
同訴訟代理人弁護士 中 野 博 之
同訴訟復代理人弁護士 辻 野 篤 郎
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
15 2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、別紙被告標章目録記載1の標章を付したバックパック、肩掛けかば
20 ん、ブリーフケース、旅行かばん、カジュアルバッグを輸入、譲渡し、又は
譲渡のために展示してはならず、同標章を付した宣伝用のパンフレットほか
の広告宣伝物を展示し、又は頒布してはならない。
2 被告は、前項の製品及び広告宣伝物を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、5000万円及びこれに対する令和4年11月11日
25 から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
本件は、別紙原告商標目録記載の登録商標(以下「原告商標」という。)に
係る商標権(以下「原告商標権」という。)を有する原告が、別紙被告標章目
録記載1の標章(以下「被告標章」という。)は原告商標に類似するから、被
5 告が被告標章を付したバックパック、肩掛けかばん、ブリーフケース、旅行か
ばん及びカジュアルバッグ(以下「被告商品」という。)を輸入、譲渡し、又
は譲渡のために展示すること、並びに被告標章を付した宣伝用のパンフレット
ほかの広告宣伝物を展示し、又は頒布することは、いずれも原告商標権を侵害
すると主張して、商標法36条1項及び37条1号に基づき、被告商品の譲渡
10 等の差止めを、同法36条2項に基づき、被告商品及びその広告宣伝物の廃棄
を、それぞれ求めるとともに、民法709条及び商標法38条3項に基づき、
損害金5000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年11
月11日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金
の支払を求める事案である。
15 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特
記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
⑴ 当事者(弁論の全趣旨)
原告は、明治26年にスイス連邦で創業し、大正11年に法人化された、
かばん製品等の製造販売を行う会社であり、日本国を含む世界の市場におい
20 てかばん製品等を販売している。
被告は、かばん製品の製造販売等を行う株式会社である。
⑵ 原告商標権
原告は、原告商標権を有している(甲1、2)。
⑶ 被告の行為等
25 ア 被告は、遅くとも令和2年1月頃から、中国において製造した被告標章
を付した被告商品を輸入し、これにつき日本国内において販売の申出及び
販売をしている。
イ 被告商品は、いずれも原告商標の指定商品に該当する。
3 争点
⑴ 原告商標と被告標章の類否(争点1)
5 ⑵ 商標法4条1項1号該当性(争点2)
⑶ 損害の発生及び額(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告商標と被告標章の類否)について
(原告の主張)
10 ⑴ 外観について
ア 原告商標と被告標章とは、四隅が直角でない略四角形(略正方形)と、
これに囲まれた略相似形である略四角形(略正方形)と、その内部(中央)
に位置する幅広の十字から成るという点において共通し、略四角形(略正
方形)の縁(辺)の態様(丸みを帯びているか直線状であるか)、四隅の
15 態様、十字の幅、色彩、十字に刻まれた斜線の有無、各縁(辺)の中央か
ら十字に接する細い線の有無において異なっている。
両者の上記共通点は、原告商標の指定商品及び被告商品の取引者、需要
者が着目する図形の全体的構成に関わる部分であり、図形全体として共通
した印象を与えるから、両者は外観において混同のおそれがあるといえる。
20 他方、両者の上記相違点は、①略四角形(略正方形)の縁(辺)が、や
や丸みを帯びているか(原告商標)、直線状であるか(被告標章)、②十
字の幅が、外縁部分の幅の3倍程度であるか(原告商標)、1.5倍程度
であるか(被告標章)、③外縁部分や十字が白色で外縁部分の内部の十字
を除く部分が黒であるか(原告商標)、外縁部分や十字が銀色で外縁部分
25 の内部の十字と細い線を除く部分が赤であるか(被告標章)、④その四隅
の円型の窪みと、その周囲の隆起部分の有無、⑤十字に刻まれた斜線の有
無、⑥縁取りの各辺の中央から十字に向かって垂直に伸びる細い線の有無
というものであるところ、上記①ないし③については、それぞれの内容自
体に照らし、全体的構成に関わる上記共通点と比べると微差というべきも
のであり、上記共通点から全体として受ける類似の印象を凌駕するものと
5 はいえない。
また、上記④ないし⑥については、銀色の立体的形状として現れている
ものであり、見る角度や光の加減によっては、その相違点を認識すること
が困難となるものである。
したがって、原告商標と被告標章は、外観上類似する。
10 イ 被告の主張する相違点は基本的に上記①ないし⑥の点に収斂するもので
あり、これらの相違点のほかには、⑦十字の長辺と短辺の長さの比が10
対3であるか(原告商標)、10対4であるか(被告標章)という点を主
張するのみであるが、これも微差であるというべきであり、結局、全体と
して受ける類似との印象を凌駕するものとはいえない。
15 ⑵ 観念について
原告商標及び被告標章からは、いずれも図形中央の十字の図形により、
「十字」又は「クロス」との観念が生ずるから、両者は観念も類似する。
⑶ 称呼について
原告商標及び被告標章からは、いずれも図形中央の十字の図形により、
20 「ジュウジ」又は「クロス」との称呼が生ずるから、両者は称呼も類似する。
⑷ 取引の実情について
被告商品は専らインターネット上のショッピングサイトにおいて販売され
ているものであるところ、当該ショッピングサイト上に掲載されている画像
は、不鮮明なものがほとんどであり、これは被告の広告宣伝用のホームペー
25 ジにおける被告商品の画像においても同様である。また、被告標章は、被告
商品のワンポイントマークとして小さく表示されているにとどまる。
そうすると、被告が最も重大な相違点として主張している十字に刻まれた
斜線の有無については、見る角度や光の加減によってはその差異を認識する
ことが困難であり、現に、被告標章のみを抜き出して接写し、これを拡大し
た別紙被告標章目録記載1の画像においてさえ、ほとんど看取することがで
5 きない。また、これを看取できる場合であっても、別紙被告標章目録記載1
の画像に比して、小さいか又は不鮮明な画像がほとんどであるから、結局、
当該相違点は、上記共通点から全体として受ける類似との印象を凌駕するも
のとはいえず、その余の相違点についても、同様である。
このような事情に加え、被告商品は数千円という比較的廉価で取引されて
10 いる商品であり、消費者は、短い時間で購入商品を決定することも少なくな
く、被告商品に付されたロゴをさほど注意深く確認して購入するともいえな
いことを踏まえると、需要者が、原告商標と被告標章の些細な相違点を看取
することは著しく困難であり、出所の混同が生じる可能性は極めて高い。
⑸ 小括
15 よって、原告商標と被告標章は、類似しているといえる。
(被告の主張)
⑴ 外観について
ア 被告標章の外観について
被告標章は、別紙被告標章目録記載2のとおり、2mm程度の厚みの金
20 属光沢のある正方形の板を欄間彫刻状に切り抜いた構造である(以下、上
記のように切り抜かれた部分を「通風部」といい、「通風部」を切り抜い
た後の中心部の十字のことを「彫刻部」という。。
)
「通風部」は、8本の直線が90度-90度-90度-90度-270
度-90度-270度-90度の角を成した8角形の形状である。正方形
25 の板には、この「通風部」が4個配置され、「通風部」から赤色の下地が
見えている。
「彫刻部」の表面には、水平方向を0度として約20度の角度で斜め
に4本の直線の溝が形成されている。当該直線の溝の断面は、略凹型を
成している。この溝は、「彫刻部」の中心に2回回転軸(360/2度
回転させると自らと重なる軸)を有するように配置されている。「彫刻
5 部」には、その外周に存在する正方形の板から、「彫刻部」の上下左右
に直線状の支持棒が接続されている。当該支持棒と表面の溝を捨象すれ
ば、「彫刻部」は箱文字の十字に見える。
正方形の板の4つの角には、円形の凹部が4個形成され、これにより、
当該円形凹部の内側にあたかもリベットの頭部が埋め込まれているよう
10 な外観を呈する。この4つのリベット頭部状部分の各間には、正方形の
板の辺長の70%の長さで、幅が同辺長の10%である棒状凹部が4個
形成されている。
このように、被告標章は、金属光沢のある正方形の板を欄間彫刻状に
切り抜いた構造であり、支持棒で支えられた十字の輪郭を持つ「彫刻部」
15 の表面に斜めに4本の直線の溝が形成されている点が印象的な構造であ
る。また、金属光沢のある正方形の板の4つの角にリベットの頭部が埋
め込まれているような外観を持ち、あたかも欄間彫刻の4隅にリベット
が打ち込まれて固定されているように見えるのも特徴である。さらに、
金属光沢のある正方形の板の周辺部に、棒状凹部が4個配置され、額縁
20 のような外観を成している。
イ 原告商標との対比
前記アのとおり、被告標章は「彫刻部」の表面の4本の直線の溝と支持
棒を捨象すれば十字と見えるため、その点では、原告商標の十字と外観が
共通する。
25 しかし、被告標章の形状は正方形であるのに対し、原告商標の形状は、
円弧からなるループ状図形となっており、原告商標と被告標章とは、全体
の形状が正方形か略正方形かにおいて、相違している。
十字を2本の長方形が十文字に重なっていると見た場合の、長方形の長
辺と短辺の長さの比は、原告商標が10対3であり、2本の長方形が重な
っている正方形部分の辺長よりも、その上下左右に存在する長方形部分の
5 辺長(長辺)の方が長くなっており、原告商標における十字はシャープな
印象を与える。一方、被告標章の場合、十字を2本の長方形が十文字に重
なっていると見た場合の、長方形の長辺と短辺の長さの比は、10対4で
ある。そのため、十字の縦および横の直線が太くなり、被告標章の十字は
ずんぐりした印象を与える。
10 また、被告標章の「彫刻部」の上下左右に支持棒が存在し、その支持棒
によって、「彫刻部」がその周囲の金属光沢のある正方形の板と接続され、
あたかも欄間彫刻のごとく、彫刻が吊り下げられているような形状となっ
ている。「彫刻部」の表面には、斜めに4本の直線の溝が形成され、単な
る十字とは異なる独特の縞模様が付された表面に仕上げられている。この
15 溝は、略凹型の断面の形状を成しており、その幅は、十字を2本の長方形
が十文字に重なっていると見た場合の、長方形の短辺の約4分の1もの大
きさを有する。そのため、被告標章は、溝の略凹型の断面の形状と相まっ
て、直線状の溝が印象的に映えるようになっている。
さらに、被告標章の場合、十字の周囲に存在する、金属光沢のある正方
20 形の周辺部には、棒状凹部が4個配置され、額縁のような外観を成してい
る。これに加え、金属光沢のある正方形の4つの角には、リベットの頭部
が埋め込まれているような円形凹部が配置され、あたかも欄間彫刻の4隅
にリベットが打ち込まれ、商品の表面に欄間彫刻が固定されているように
見える。そして、原告商標には4回回転軸(360/4度回転させると自
25 らと重なる軸)が存在するのに対し、被告標章には2回回転軸しか存在し
ない。
したがって、原告商標と被告標章とは、外観上明らかに異なっている。
⑵ 観念について
原告商標からは「白十字」の観念が生じるのに対し、被告標章からは「斜
線付き箱文字十字」の観念が生じるため、両者の観念も類似しない。
5 ⑶ 称呼について
原告商標の称呼は、「シロジュウジ」 「ホワイトクロス」であるのに対し、
、
被告標章の称呼は「シャセンシマツキジュウジ」「オブリークラインストラ
、
イプクロス」であり、「ジュウジ」 「クロス」の部分が共通するものの、そ
、
れ以外の部分が強く印象的であるから、両者の称呼も類似しない。
10 ⑷ 取引の実情について
ア 被告は、「SWISSWIN」という文字からなる別紙被告商標目録記
載1の登録商標(以下「被告商標1」という。)を有しているところ、被
告が被告商品を販売する場合は、必ず「SWISSWIN」のブランド名
を商品タグに付しており、この商品タグを付したリュックサックは、日本
15 国内において、著名なものとなっている。
また、被告商品のインターネット上のショッピングサイトでは、被告標
章の画像だけを掲載することはなく、「SWISSWIN」 「スイスウィ
、
ン」などのブランド名も目立つ部分に表示されている。
そして、上記ショッピングサイトに掲載されている被告標章の画像は、
20 拡大して表示できるようになっており、需要者は、前記⑴で主張した原告
商標と被告標章の相違点を容易に認識することができる。
イ さらに、需要者が、ショッピングサイト等において商品を検索する場合
に、「十字」 「クロス」などの称呼や観念で検索することはほとんどなく、
、
むしろ、「AISFA」 「Coleman」 「SALOMON」などのブ
、 、
25 ランド名を用いて検索することが、一般的に行われており、被告商品を検
索する場合にも、「SWISSWIN」又は「スイスウィン」といったブ
ランド名が使用されるものと考えられる。
加えて、被告商品をショッピングサイトで購入する際にクリックすべき
ボタンには、「swisswin」や「スイスウィン」といった表示が存
在しており、そうだとすれば、需要者としても、そのような表示を確認し
5 た上で、リュックサックを購入するはずである。
ウ このような取引の事情に鑑みれば、被告標章の使用によって出所の混同
が生じているとはいえない。
⑸ 小括
以上によれば、原告商標と被告標章は類似しない。このことは、被告が被
10 告標章と同一の内容の別紙被告商標目録記載2の登録商標(以下「被告商標
2」という。)を取得できたことからも明らかである。
2 争点2(商標法4条1項1号該当性)について
(被告の主張)
商標がその一部に国旗等を顕著に有する場合は、商標全体として商標法4
15 条1項1号に該当するものと判断され、同号該当性の判断基準は、国旗等の
権威を損じ、国家等の尊厳性を害する程度のものか否かである。
スイス連邦の国旗(以下「スイス国旗」という。)の特徴は、①白色の十
字の図形をその中心に有すること、②白十字を2本の長方形が十字に重なっ
ていると見た場合の、長方形の長辺と短辺の長さの比が10対3であり、2
20 本の長方形の重心が同一の位置になるように直交していること、③4回回転
軸を有すること、④赤の地色であることの4点であるところ、原告商標は上
記①ないし③の特徴をいずれも有している。
そして、原告商標の十字の地色は黒であるものの、地色を赤とすることが
排除されているわけではないから、上記④の特徴も有している。
25 このように、原告商標は、スイス国旗が有する四つの特徴を有しているか
ら、その一部にスイス国旗を顕著に有することは明らかである。
したがって、原告商標は、スイス国旗の権威を損じ、スイス連邦の尊厳性
を害する程度にスイス国旗と類似しているから、商標法4条1項1号の無効
理由がある。
(原告の主張)
5 被告は、原告商標はスイス国旗に類似しており、商標法4条1項1号の無効
理由があると主張する。
しかし、スイス国旗の特徴は正方形である赤の地色の中心に十字の図形が配
置されていることにあるが、原告商標はスイス国旗の特徴である赤の地色の有
無において相違するばかりか、全体の形状が正方形か略正方形かにおいても相
10 違し、さらに、原告商標の丸みを帯びた外縁部分の色彩及び形状は、スイス国
旗の構成とは大きく異なる。
そして、国旗における色彩は、国旗を表示する重要な要素というべきであり、
その重要な要素を含まない原告商標は、スイス国旗と類似又はその一部にスイ
ス国旗を顕著に有する場合には該当しない。
15 したがって、被告の上記主張は理由がない。
3 争点3(損害の発生及び額)について
(原告の主張)
被告の商標権侵害による原告の損害額は5000万円を下らない。
(被告の主張)
20 争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告商標と被告標章の類否)について
⑴ 商標の類否について
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合
25 に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべ
きであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、
称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体
的に考察すべく、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得るかぎり、
その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和39年
(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号3
5 99頁、最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判
決・民集51巻3号1055頁参照)。
⑵ 原告商標について
原告商標は、外側に配置されたやや丸みを帯びた縁(辺)及び角を有する
略四角形(略正方形。以下「外側の四角形」という。)と、これに囲まれた
10 略相似形である、同様にやや丸みを帯びた縁(辺)及び角を有する略四角形
(略正方形。以下「内側の四角形」という。)と、その内部(中央)に位置
する幅広の十字から成り、外側の四角形の縁と内側の四角形の縁とが成す部
分(外縁部分)は白色、内側の四角形の内部は白色である十字を除いて黒色
である。
15 ⑶ 被告標章について
被告標章は、別紙被告標章目録記載1及び2のとおり、直線状の縁(辺)
と略直角を有する四角形(正方形。外側の四角形)と、これに囲まれた直線
状の縁(辺)と丸められた角を有する略四角形(正方形。内側の四角形)と、
その内部(中央)に位置する幅広の十字から成り、外縁部分は銀色、内側の
20 略四角形の内部は銀色である十字を除いて赤色である。
そして、十字においては、斜線状の溝が4本存在し、十字の上下左右には
外縁部分に向けた直線状の指示棒が存在する。また、外縁部分の四隅には円
型凹部が、上下左右の縁には棒状凹部が存在する。
⑷ 対比
25 ア まず、外観について、原告商標と被告標章は、外側に配置された四角形
状の図形(略四角形又は四角形。外側の四角形)と、これに囲まれた四角
形状の図形(略四角形又は四角形。内側の四角形)と、その内部(中央)
に位置する幅広の十字から成るという点において共通することが認められ
る。
しかしながら、前記⑵及び⑶で説示したとおり、原告商標と被告標章は、
5 ①外側の四角形がやや丸みを帯びた縁及び角を有する略四角形であるか
(原告商標)、直線状の縁と略直角を有する四角形であるか(被告標章)、
②内側の四角形がやや丸みを帯びた縁及び角を有するか(原告商標)、直
線状の縁と丸められた角を有するか(被告標章)、③外縁部分の四隅には
円型凹部が、上下左右の縁には棒状凹部が存在するか、④外縁部分の色が
10 白色であるか(原告商標)、銀色であるか(被告標章)といった外縁部分
に係る形状や色彩において相違が認められる。
また、内側の四角形の内部や十字においても、⑤十字において、直線状
の溝が存在するか、⑥十字の上下左右に外縁部分に向けた直線状の指示棒
が存在するか、⑦十字以外の色が黒色であるか(原告商標)、赤色である
15 か(被告標章)、⑧十字の色が白色であるか(原告商標)、銀色であるか
(被告標章)といった点において異なることが認められる。
このように、原告商標と被告標章との間には、外縁部分、外側及び内側
の四角形並びに十字の形状や色彩において、多くの相違点が存在しており、
原告商標は、四角形に囲まれた十字から成る比較的単純な構成の商標であ
20 り、取引者及び需要者としてもその相違点を看取しやすいことも踏まえる
と、原告商標と被告標章はその外観からして、取引者及び需要者に異なる
印象を与えるものといえ、類似しているとはいえない。
イ また、観念及び称呼については、前記アのとおり、原告商標及び被告標
章には、いずれも図形の中央に十字が存在することから、「十字(ジュウ
25 ジ)」又は「クロス」といった観念や称呼が生じるから、同一であるとい
える。
なお、被告は、被告標章については、「斜線付き箱文字十字」という観
念及び「シャセンシマツキジュウジ」又は「オブリークラインストライプ
クロス」という称呼が生じるため、原告商標と被告標章の観念や称呼は異
なると主張するが、上記の観念や称呼は一般的に用いられているものとは
5 認め難く、被告の主張を採用することはできない。
ウ 次に、取引の実情に関し、証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば、被
告商品は、主にインターネット上のショッピングサイトで販売されている
こと、被告商品のショッピングサイトにおいては、被告標章の内容を拡大
した画像も存在していることが認められ、このような画像においては、前
10 記アで説示した原告商標と被告標章との外観上の相違点の大部分を看取す
ることができる。
そして、一般的に取引者及び需要者がショッピングサイトで商品を購入
する際には、主に商品名やブランド名等を利用して商品を検索し、購入す
る商品を選択するものといえ、「十字(ジュウジ)」又は「クロス」といっ
15 た観念や称呼に基づき、商品の検索等を行うことは想定し難い。
また、証拠(甲3、4、乙4、5)及び弁論の全趣旨によれば、被告商
品のショッピングサイトにおいては、被告商品の写真とともに、「SWI
SSWIN」というブランド名(被告商標1)やロゴ(被告商標2)が付
記されており、かつ、その商品名にも「SWISSWIN」や「スイスウ
20 ィン」などと記載されていることが認められる。通常のインターネットシ
ョッピングにおいては、購入に至るまでには複数のステップがあり、その
都度「SWISSWIN」というブランド名やロゴを確認できることにも
照らすと、需要者としては、上記のブランド名等を確認した上で、商品の
購入に至るものといえる。
25 このようなインターネットショッピングの実情に照らすと、原告商標と
被告標章に共通点があったとしても、それだけで需要者が商品の出所を誤
認混同するとは認められない。
エ これに対し、原告は、①被告商品のショッピングサイトに掲載されてい
る画像のほとんどは不鮮明なものであり、原告商標と被告標章の相違点を
看取できないことや、②被告商品は、数千円という比較的廉価で取引され
5 ている商品であり、被告商品に付されたブランド名等をさほど注意深く確
認して購入するとはいえないことを、商品の出所につき誤認混同を生ずる
おそれがあることの根拠として主張する。
しかし、上記①について、被告商品のショッピングサイトにおいて、原
告商標と被告標章との間に存在する外観上の相違点の大部分を看取できる
10 画像も存在していることは、前記ウで説示したとおりであって、一部の被
告標章の画像が不鮮明であることのみをもって、取引者及び需要者がその
商品の出所を誤認混同するとはいえない
また、上記②について、証拠(甲3、4、乙4、5)及び弁論の全趣旨
によれば、「SWISSWIN」というブランド名は、ショッピングサイ
15 トの上部や商品名の先頭などの比較的認識しやすい箇所に記載されている
ことが認められ、そうだとすれば、被告商品が比較的廉価であるとしても、
取引者及び需要者が、被告商品の購入に至るまでの間に、商品のブランド
名すら確認しないという事態は、容易に想定し難いというべきである。
したがって、原告の上記主張はいずれも採用できない。
20 ⑸ 小括
以上によれば、原告商標と被告標章とが同一の商品であるかばん製品(原
告商標の指定商品及び被告商品)に使用された場合に、その外観、観念及び
称呼によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その
商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察したとしても、原告商標と
25 被告標章とは、原告商標の指定商品や被告商品に使用された場合に、商品の
出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない。
したがって、原告商標と被告標章が類似するとは認められない。
2 結論
よって、その余について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由が
ないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
5 東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
10 國 分 隆 文
裁判官
15 バ ヒ ス バ ラ ン 薫
裁判官
20 木 村 洋 一
(別紙)
原告商標目録
登録番号 国際登録第1002196号
5 国際登録日 2009年(平成21年)1月16日
(優先権主張 2008年(平成20年)8月14日米国出願)
国内登録日 2010年(平成22年)11月5日
商品の区分 第8類、9類、14類、18類、25類
指定商品 第18類 All-purpose dry bags、 luggage、 backpacks、
10 daypacks、 duffel bags、 utility bags、 shoulder bags、
casual bags、 briefcases、 non-motorized wheeled packs、
cosmetic cases sold empty and toiletry cases sold
empty、 travel bags、 small personal leather goods、
namely、 wallets、 billfolds、 credit card cases、 neck、
15 necklace wallets、 and shaving bags sold empty;
umbrellas and name and calling card cases、 cosmetic
cases sold empty、 toiletry cases sold empty、 luggage
tags、 waistpacks、 bags worn on the body、 business
cases、 travel bags、 all-purpose personal care bags、
20 small personal leather goods; shoe bags for travel;
unfitted bags for handheld electronic devices;
waistpacks for holding electronic devices.等
(参考訳)
汎用防水バッグ、旅行かばん、バックパック、デイパック(日帰
25 りハイキング用などの小型ナップサック)、ダッフルバッグ、多
用途のかばん、肩掛けかばん、カジュアルバッグ、ブリーフケー
ス、車輪の付いたバック(原動機付きのものを除く。)、化粧品
用ケース(中身が入っていないもの)、旅行かばん、革製の小さ
な身の回りの物、すなわち財布、札入れ、クレジットカード入
れ、首にぶら下げる財布・ネックレス付きの財布、シェービング
5 バッグ(中味が入っていないもの)、傘及び名刺用ケース、化粧
品用ケース(中身なし)、化粧品入れ(空のもの)、旅行かばん
用タグ、ウエストパック、身体に装着させるかばん、書類かば
ん、旅行かばん、汎用の身の回りの物を入れるかばん、革製の小
さな身の回りの物、旅行用靴袋、手持ち式の電子式装置に不向き
10 なバッグ、電子式装置保持用のウエストパック等
登録商標
以上
(別紙)
被告標章目録
1 (バッグ正面に付されたロゴ)
2
溝
直線状の支持棒
棒状凹部
通風部 通風部
90 度 90 度 彫刻部
棒
270 度 90 度
状
凹 通風部
270 度 90 度 通風部
部
90 度
90 度
棒状凹部
円形凹部
リベット頭部状部分
以上
(別紙)
被告商標目録
1 登録番号 商標登録第6026579号
登録日 平成30年3月9日
商品の区分 第18類、28類
指定商品 第18類 スイス製のバッグ,スイス製の袋物,スイス製のバ
ックパック,スイス製の財布,スイス製の通学用かばん,スイス
製のスーツケース,スイス製の旅行用トランク,スイス製のハン
ドバッグ,スイス製の革製包装用袋,スイス製の旅行用衣服かば
ん,スイス製の旅行かばん,スイス製のスポーツバッグ,スイス
製の未加工または半加工の革,スイス製の革製旅行用具入れ,ス
イス製の買い物袋,スイス製の旅行用小型手提げかばん
第28類 スイス製のゴルフクラブ用バッグ,スイス製のスキ
ー用バッグ,スイス製のスケートボード用バッグ,スイス製のテ
ニス用バッグ
登録商標(標準文字)
2 登録番号 商標登録第5888647号
登録日 平成28年10月14日
商品の区分 第18類、28類
指定商品 第18類 バッグ,袋物,バックパック,財布,通学用かばん,
スーツケース,旅行用トランク,ハンドバッグ,革製包装用袋,
旅行用衣服かばん,旅行かばん,スポーツバッグ,未加工または
半加工の革,革製旅行用具入れ,買い物袋,旅行用小型手提げか
ばん
第28類 ゴルフクラブ用バッグ,スキー用バッグ,スケートボ
ード用バッグ,テニス用バッグ
登録商標
以上
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