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令和5(ワ)70467民事訴訟 著作権

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裁判所 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和6年3月22日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社h.m.p
被告エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
法令 著作権
著作権法29条1項2回
著作権法10条1項7号1回
キーワード 侵害8回
損害賠償3回
分割1回
主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。15
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 1 事案の概要 本件は、別紙動画目録記載の動画の著作権を有すると主張する原告が、電気通 信事業を営む被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ネットワークであるBit Torrent(以下「ビットトレント」と表記する。)を使用して別紙動画目録 記載の動画(以下「本件動画」という。)の複製物を公衆送信したことで、原告の25 著作権を侵害したことが明らかであるところ、上記氏名不詳者は、被告が提供す る電気通信設備を経由して行ったことから、原告の損害賠償請求権等の行使のた めに必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び 発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1 項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記通信に係る発信者情報の開示を求 めた事案である。5 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容 易に認められる事実。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。) ⑴ 当事者について 原告は、DVDソフト等の製作等を業とする株式会社である(甲18、弁論

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判決文

令和6年3月22日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和5年(ワ)第70467号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和6年2月15日
判 決
原 告 株 式 会 社 h . m . p
同訴訟代理人弁護士 杉 山 央
10 被 告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーショ
ンズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 五 島 丈 裕
主 文
15 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
20 第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、別紙動画目録記載の動画の著作権を有すると主張する原告が、電気通
信事業を営む被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ネットワークであるBit
Torrent(以下「ビットトレント」と表記する。)を使用して別紙動画目録
25 記載の動画(以下「本件動画」という。)の複製物を公衆送信したことで、原告の
著作権を侵害したことが明らかであるところ、上記氏名不詳者は、被告が提供す
る電気通信設備を経由して行ったことから、原告の損害賠償請求権等の行使のた
めに必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び
発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1
項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記通信に係る発信者情報の開示を求
5 めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容
易に認められる事実。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。)
⑴ 当事者について
原告は、DVDソフト等の製作等を業とする株式会社である(甲18、弁論
10 の全趣旨)。
被告は、インターネット接続サービスを提供する株式会社である(弁論の全
趣旨)。
⑵ 発信者情報の保有について(争いがない)
別紙発信者情報目録記載のIPアドレス及び発信元ポート番号を用いて同目
15 録記載の日時に行われた通信(以下「本件通信」という。)は、被告の電気通信
設備を介して行われており、被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有
している。
⑶ ビットトレントの概要等について(甲4から6、9、11)
ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有のネットワークである。
20 特定のファイルをダウンロードしようとするユーザー(リーチャー)は、ファ
イルをダウンロードするためのビットトレントの「クライアントソフト」を自
己の端末にインストールした上で、
「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサ
イトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載
された「トレントファイル」を取得して自己の端末内のクライアントソフトに
25 読み込むと、同端末は、
「トラッカー」と呼ばれる管理サーバと通信を行い、目
的のファイル(データ全部のみならず、ピースと呼ばれるデータの一部も含む。
以下同じ。 を保有している他のユーザーのIPアドレスを取得して通信を行い、

それらのユーザーと接続した上で、当該ファイルのダウンロードを行うもので
ある。ファイルをダウンロードしたユーザーは、自動的にピアとして「トラッ
カー」に登録され、他のピアからの要求に応じて当該ファイルを提供してダウ
5 ンロードさせることになる。
なお、ユーザーは、分割されたファイルを複数のピアから取得するが、クラ
イアントソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや再構
築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。
⑷ 原告による調査(甲1、4、5、9、弁論の全趣旨)
10 原告は、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、本
件動画について、ビットトレントを利用した著作権侵害行為の監視を依頼した。
本件調査会社は、インデックスサイト上で本件動画のトレントファイルをダウ
ンロードし、ビットトレントを管理する会社が開発した「μTorrent」
というクライアントソフト(以下「本件ソフトウェア」という。)を起動して、
15 本件ソフトウェアを用いて当該トレントファイルからダウンロードすることで、
本件動画の複製物であるデータのダウンロードを開始し、当該ダウンロード中、
本件ソフトウェアにより、調査を行っている端末の画面上にビットトレントに
接続して本件動画のデータをアップロード及びダウンロードしているピア(以
下「本件発信者」という。)がしたとされる通信に際して割り当てられたIPア
20 ドレス及びその日時を表示させ、その画面を画像として記録し、さらに、実際
に本件発信者からダウンロードしたファイルを開いて本件動画と比較し、ダウ
ンロードしたデータが本件動画のデータと同一のものであることを確認する方
法により調査を行った(以下、この調査を「本件調査」という。。本件調査の

結果、調査を行っている端末の画面には、本件動画のデータをアップロード及
25 びダウンロードしていた際の本件発信者がしたとされる本件通信の日時及びそ
の際に割り当てられたIPアドレスとして、別紙発信者情報目録記載の日時及
びIPアドレスが表示された(以下「本件調査結果」という。。

3 争点及びこれに対する当事者の主張
⑴ 原告が本件動画の著作権者であるか(争点1)
(原告の主張)
5 本件動画は映画の著作物であるところ、原告の従業員らが、原告の発意に基
づき、監督、編集等を担当して作成されたものであり、本件著作物の全体的な
製作に関する決定は、原告の代表者や従業員により行われているから、著作権
法29条1項により、原告に著作権が帰属する。
(被告の主張)
10 否認ないし争う。
⑵ 本件通信は本件調査会社が本件動画の複製ファイルをダウンロードした際の
通信であるといえるか(争点2)
(原告の主張)
μTorrentでは、データの取得元のIPアドレスを表示させる仕組み
15 を有しているところ、本件ソフトウェアはビットトレントを管理する会社が提
供したものであり、ビットトレントを通じて取得した情報を正確に利用者に提
供している。また、機械のメカニズムとして取得した内容が不正確である場合
や曖昧である場合、ソフトウェア等は止まる。
そして、本件調査の際のキャプチャー画像は、上部が本件調査会社の端末の
20 状況を、下部が本件発信者の端末の状況をそれぞれ示しているが、上部が「ダ
ウンロード中」の表示をしている場合、本件調査会社は本件発信者から現にフ
ァイルのダウンロードをしていることを示す。また、本件調査会社は、ダウン
ロードしたファイルのデータが本件動画のデータと同一であることを確認して
いる。
25 したがって、本件調査結果は信用でき、その本件調査結果によれば、本件調
査会社は、本件発信者が違法にアップロードした本件動画の複製ファイルを取
得していることは明らかであり、本件通信は本件調査会社が本件動画の複製フ
ァイルをダウンロードした際の通信であるといえる。
(被告の主張)
本件ソフトウェアは、一般社団法人テレコムサービス協会が認定する監視ソ
5 フトウェアではなく、ピアツーピアネットワークの監視を目的としたシステム
によるものでもない。そして、原告が提出したキャプチャー画像は、本件ソフ
トウェアのプログラムの実行における動作の過程で表示されるIPアドレスの
正確性やこれが割り当てられている通信の意味を立証するまでのものではなく、
本件通信の存在やその意味については何ら立証されていない。
10 加えて、本件キャプチャー画像の内容をみても「下り速度」の表示がない。
また、ビットトレントネットワークを利用した通信はトラッカーサーバーを
介してネットワークの形成やファイルの送受信をする過程で様々な通信をして
おり、原告が適当な時刻にキャプチャーした画面で表示されたIPアドレスを
摘示してその組合せにより主張する本件通信が、本件動画をダウンロードした
15 際の通信であるということはできない。
したがって、本件通信は本件調査会社が本件動画の複製ファイルをダウンロ
ードした際の通信であるとはいえない。
⑶ 本件通信によって、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたと評価できる
か(争点3)
20 (原告の主張)
本件調査結果によれば、本件調査会社が現に本件発信者から本件動画ファイ
ルのデータをダウンロードしているのであるから、自動公衆送信の態様により
公衆送信権侵害をしていることは明らかである。
なお、本件調査会社は、ダウンロードしたデータについて本件動画の内容を
25 確認し、記録している。
(被告の主張)
本件通信により本件動画のファイルのピースが送信されたとしても、自動公
衆送信権の侵害が認められるためには、当該ピースにより本件動画の表現の本
質的特徴が感得できる必要があるが、本件通信によって送信されたピースにつ
いて、本件動画の表現の本質的特徴が感得できる程度のものであることの立証
5 はなく、仮に、本件通信が本件動画のファイルを構成するピースを送信したも
のであるとしても、自動公衆送信権侵害は認められない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
本件動画は、いずれも映画の著作物(著作権法10条1項7号)に当たる(弁
10 論の全趣旨)ところ、証拠(甲18の1、27)によれば、本件動画は、原告代
表者がプロデューサーとして企画し、制作させた物であって、本件動画の監督や
出演者等に対する出演料について原告が負担していて、原告が業務として製作し
たものであることが明らかであり、本件動画の製作者は原告である。そして、本
件動画の監督や出演者等は本件動画の製作に参加していて、本件動画の製作への
15 参加を約束していたことが推認することができるから、本件動画の著作権者は原
告であると認められる(著作権法29条1項)。
この点を争う被告の主張は採用できない。
2 争点2について
⑴ 本件調査会社が本件ソフトウェアを使用して本件調査をした際に本件ソフ
20 トウェアの状況をキャプチャーされた画像(甲1)によれば、本件調査の際に
は本件ソフトウェア上の本件調査会社の端末の状況が「ダウンロード中」であ
ることを示す表示がされているところ、証拠(甲9)によれば、当該表示は、
本件調査会社がファイルをダウンロードしていることを示す表示であると認
められ、実際に本件動画の複製ファイルのデータがダウンロードされている
25 (甲7、8)。
そして、本件調査会社がした本件調査と類似する調査においては、調査対象
となる動画データの約21.3パーセントをダウンロードするのに約50分
(甲14)かかったが、その間、対象となる動画に関してピアに割り当てられ
ているものとして表示されたIPアドレスは一度も変化しなかった。前記第2
の2⑷のとおりの本件調査の内容からすると、本件調査の際も同様であったと
5 推認することができる。
加えて、証拠(甲1)によれば、本件調査会社が前記キャプチャー画像を記
録したのは、本件調査会社の端末が本件動画を継続的にダウンロードしている
時であり、また、上記端末の画面には、その時点で本件調査会社の端末に上記
ダウンロードに係る送信をしていた者に割り当てられていたIPアドレスが
10 表示されていたと認められる。
前記第2の2⑷の事実にこれらの事情を併せ考えれば、本件通信は本件調査
会社が本件動画の複製物のファイルをダウンロードした際の通信であると認
められる。
⑵ 被告は、本件ソフトウェアが一般社団法人テレコムサービス協会の認定する
15 監視ソフトウェアではなく、ピアツーピアネットワークの監視を目的としたシ
ステムでないことなどを指摘する。しかし、前記⑴に述べた点に照らせば、こ
れらの事情から直ちに本件ソフトウェアのIPアドレスの表示等の正確性に
疑義が生じるとはいえない。
また、被告は、本件調査の中で記録された前記のキャプチャー画像の内容に
20 「下り速度」の表示がないことを指摘する。しかし、 (甲14)
証拠 によれば、
本件調査会社は、本件調査と同様の調査において、本件調査におけるのと同様
の表示状態であったにもかかわらず対象の動画をダウンロードできているこ
とが認められ、これらは本件調査においても同様と認められるから、この点に
関する被告の主張は前記認定を左右しない。
25 加えて、被告は、ビットトレントネットワークを利用した通信はトラッカー
サーバーを介してネットワークの形成やファイルの送受信をする過程でデー
タをダウンロードする際様々な通信をすることから、本件通信が本件動画のデ
ータをダウンロードしている際の通信であるかどうか不明である旨主張する
が、前記⑴で述べたところに照らせば採用できない。
したがって、被告の主張は採用できない。
5 3 争点3について
証拠(甲8)によれば、本件動画の複製物がダウンロードされていることが認
められ、その複製物からは、本件動画の表現の本質的特徴を感得することができ
る。
4 以上によれば、本件発信者は、本件通信において原告が著作権を有する本件動
10 画の複製物を公衆送信した。著作権法の権利制限事由の存在など著作権侵害の成
立を阻却する事由を基礎づける事実も認められず、本件発信者は本件通信により
原告の権利を侵害したことが明らかである。
弁論の全趣旨によれば、原告は本件発信者に対して損害賠償請求等をする予定
であることが認められる。そのためには、原告に本件通信の発信者情報の開示を
15 する必要があるといえるから、原告には、プロバイダ責任制限法5条1項2号の
「正当な理由がある」といえる。
第4 結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 杉 田 時 基
裁判官 仲 田 憲 史
(別紙)
発信者情報目録
以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の
氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
記載省略
(別紙)
動画目録
記載省略
以上

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