ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和5(行ケ)10111 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和6年3月11日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告株式会社田中箸店 被告特許庁長官 |
| 法令 |
商標権 商標法3条1項6号4回 商標法3条1項4号1回 |
| キーワード | 審決13回 拒絶査定不服審判1回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。) (1) 原告は、令和3年10月11日、「田中箸店」の文字を標準文字で表して なる商標(本願商標)について、第8類「スプーン、フォーク及び洋食ナイ フ」及び第21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」 を除く。)」を指定商品として商標登録出願をした(商願2021-132 |
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令和6年3月11日判決言渡
令和5年(行ケ)第10111号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年1月24日
判 決
原 告 株 式 会 社 田 中 箸 店
同訴訟代理人弁理士 田 中 聡
被 告 特 許 庁 長 官
同指定代理人 田 中 瑠 美
同 豊 瀬 京 太 郎
同 須 田 亮 一
同 清 川 恵 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2022-13855号事件について令和5年8月29日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、令和3年10月11日、「田中箸店」の文字を標準文字で表してなる商標(本願商標)について、第8類「スプーン、フォーク及び洋食ナイフ」及び第21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」を指定商品として商標登録出願をした(商願2021-132195)。
(2) 原告は、令和4年5月26日付けで拒絶査定を受けたため、同年9月5日、拒絶査定不服審判を請求した。特許庁は、上記請求を不服2022-13855号事件として審理を行い、令和5年8月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同年9月11日原告に送達された。
(3) 原告は、令和5年10月4日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。本件審決の理由の要旨本件審決の理由の要旨は、以下のとおりである。
(1) 本願商標の構成中の「田中」の文字は、ありふれた氏の一つである「田中」を表したものと認められ、「箸店」の文字は「箸の店」を意味し、箸を取り扱う店の業種を表すものと理解させるものである。
(2) そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「ありふれた氏である田中の姓を有する者による箸を取り扱う店」であることを理解するにとどまり、何人かの業務に係る商品であることを認識することができない。よって、本願商標は商標法3条1項6号に該当する。取消事由商標法3条1項6号該当性の判断の誤り
第3 当事者の主張
(原告の主張)
(1) 本願商標は、漢字4文字からなり、それ自体分離しなければならないほど
長い文字数ではなく、スペース等による分離箇所もなく、また標準文字であるため、同一の大きさかつ同一書体であり、それらの間隔は一定であるので、外観上まとまりよく一体的に表されていることから、需要者がこれを「田中」と「箸店」に分離して認識することはなく、常に一体として認識される。また、本願商標は、全体として「タナカハシテン」と称呼しても別段冗長とはいえず、よどみなく一連に称呼することができる。本願商標は、上記外観と上記称呼の一連性により、一体不可分として扱われるべきものであるのに、本件審決は、本願商標を「田中」と「箸店」に分けて商標法3条1項6号を適用しているが、これは、同項4号を規定した趣旨に反する。同号についての商標審査基準は、著名な地理的名称、ありふれた氏、業種名等やこれらを結合したものに、商号や屋号に慣用的に付される文字や会社等の種類名を表す文字等を結合したものは、原則として、「ありふれた名称」に該当すると判断するものとしているが、本件審決のような判断をすると、このような審査基準を定めた意味もなくなる。同項6号の「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」とは、前各号に掲げるもの以外について、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」であるかを問題とするものであるから、この観点からしても同項4号の判断をしなかった本件審決は誤りである。
(2) iタウンページの検索において、東京都では「田中箸店」に該当するもの
はなく、原告の本社がある福井県では原告のみが該当する(甲1、2)。平成25年7月に、福井県におけるメインバンクのシェアが45%で福井県内最大である福井銀行(甲4)の広告が、福井県内のシェアが約80%である福井新聞一面下に掲載され、その広告の中で「田中箸店」が若狭塗の伝統を受け継ぐ老舗であることなどが紹介された(甲3)。ここで、福井県小浜市の塗箸の全国シェアは約8割である(甲5)。このことから、全国の塗り箸関係者の約6割が「田中箸店」を知ったといえる。さらに、原告は、伝統的な塗り箸のみならず、新商品の開発にも力を入れており、株式会社キャンドゥから新商品ヒット賞を受賞するなど、百均ショップ業界ではよく知られた存在である(甲9~11)。原告は、令和3年1月28日に楽天に出店し(甲15、28)、令和5年月30日までに台所用品及びスプーン等を●●●●●●●点、●●●●●●●●●円を売り上げ(箸については●●●●●●●膳、●●●●●●●●●円)、令和3年4月30日にアマゾンに出店し(甲29、32、33)、令和5年6月30日までに台所用品及びスプーン等を●●●●●●●●●●●●●●円を売り上げ(箸については●●●●膳、●●●●●●●●円)、令和4年2月28日にスーパーデリバリーに出店し(甲27、30、31)、令和5年6月30日までに台所用品及びスプーン等を●●●●●●●点販売し、●●●●●●●●●円を売り上げた(箸については●●●●●●膳、●●●●●●●●●円)。事業売却案件のウェブサイトでみると、SNS運用、ECショップ運用、仕入れ先およびブランディングを活用しても、3年間の利益は890万円であり(甲43)、中小企業の利益率が29.1%である(甲44)ことからすると、その売上は1000万円程度であるから、原告の売上は、自他商品の識別力が生じるだけのものであったことを示すものである。原告は、平成24年2月8日から同月10日までの日程で東京ビッグサイトにて行われた「第73回東京インターナショナル・ギフト・ショー春20」及び平成25年6月26日から同月28日までの日程で同場所にて行われた「テーブルウェア/キッチンウェアEXPO」に原告商品を出展したところ(甲7)、食欲減退色で食べ過ぎを抑制し、滑り止めなしでつかみにくい「ダイエット応援箸」が「朝日新聞DIGITAL」(甲8)に紹介された。また、箸を持ちながらスマートフォンを操作できる菜箸である「菜箸deスマホ」が、「日経トレンディ」(甲12、平成27年8月)、「NHKニュースおはよう日本」 「まちかど情報室」の (甲13、平成28年3月)、「MonoMax日用品優秀モノ決定版!」(甲14、平成30年1月)で紹介されている。朝日新聞DIGITALではまだ発売されていない「ダイエット応援箸」が「田中箸店」から平成25年9月に販売されることを告知しており(甲8)、ヨドバシ.comでは、販売される商品のメーカーとして「田中箸店」のタグを作っている(甲35)。これらは、「田中箸店」が自他商品の識別力を有しているからにほかならない。原告は、箸の頭付近に動物のイラストと名前が描かれた「うちの子箸」を開発し(甲15) さらに、箸の頭付近に描かれる動物を柴犬等に絞り、、 「国内最大の柴犬メディア」と冠している「柴犬メディア」のスポンサーに令和2年11月25日~12月14日の間になり、[柴づくしの食卓!]として柴犬等の名前が入る「うちの子箸」、「うちの子重箱」および「うちの子一合枡」等を「田中箸店」が付された「柴犬メディア」のホームページを介して販売し(甲16)、20日間で約8000回の閲覧があった。特別顕著性が認められるためには、需要者がその商品又は役務が特定の者の業務に係るものであることを認識することができるかではなく、自他商品又は自他役務を区別し、それが一定の出所から流出したものであることを一般的に認識させることができれば足りるが、上記事情からは、その商品が一定の出所から流出したものであることを需要者は認識しているといえる。このように取引されていることから、本願商標は、取引の実情を考慮しても、自他商品の識別力を欠き、商標として機能を果たし得ないものではない。
(被告の主張)
後記第4の1と同趣旨である。
第4 当裁判所の判断
取消事由(商標法3条1項6号該当性の判断の誤り)について
(1) 「田中」と「箸店」の組合せからの一般的理解についてア 本願商標は、「田中」の文字と「箸店」の文字を結合した結合商標であるところ、その構成中の「田中」の文字は、「全国名字大辞典」(平成23年9月20日発行、乙1)によれば、日本を代表する地形姓で、沖縄を除く西日本では全て15位以内、東日本でも全て50位以内に入っていること(乙1)、②「名字由来net」のウェブサイト(乙2)において、全国順位が4位であること、③「姓名分布&姓名ランキング」のウェブサイト(乙3)によれば、平成19年10月までに発刊された全国の電話帳に掲載されている世帯を基準にすると、全国で4番目に多い氏であることがそれぞれ認められ、日本国内ではありふれた氏と認められる。イ 本願商標の構成中、「箸店」の「箸」の文字は、「中国や日本などで、食事などに物を挟み取るのに用いる細長く小さい二本の棒。」(乙4)の意味、「店」の文字は、「品物を置き並べて商売するところ。その品物を商うみせ。」(乙5)の意味をそれぞれ有する語として辞書に登載されている。そうすると、本願商標の構成のうち「箸店」の部分は、箸を取り扱う店程度の意味を有するものと理解される。各種ウェブサイトによれば、「箸店」の語が、「箸を取り扱う店」の店舗名や商号の一部として広く採択、使用されており、「岩多箸店」(乙6、42)、「株式会社 伊勢屋箸店」(乙7)、「やまご箸店」(乙8)、「(有)府中宮崎箸店」(乙9)、「有限会社せいわ箸店」(乙10)、「小山箸店」(乙11)、「フクイチ箸店株式会社」(乙12)、「タケダ箸店」(乙13)、「神戸屋箸店」(乙14)、「坂田箸店」(乙15)等がある。ウ そうすると、本願商標は、ありふれた氏である「田中」と、箸を取り扱う店を表すものとして広く使用されている「箸店」を組み合わせた「田中箸店」を標準文字で表したものであり、「田中」の氏又は当該氏を含む商号を有する法人等が経営主体である箸を取り扱う店というほどの意味を有する「田中箸店」というありふれた名称を、普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標で、本願商標の指定商品のうち、第21類「台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く。)」には、「箸」が含まれる(乙43、44)ことも考慮すれば、販売実績に基づく識別力の獲得が認められるなどの特別の事情がない限り(この点は後記(2)において判断する。)自他商品の識別力を有しないものと解される。エ 原告は、本願商標は、外観と称呼の一連性により、一体不可分として扱われるべきものである旨主張するが、一連一体の商標であっても、自他商品の識別力を有するか否かを検討する上では、個々の構成部分の意味を検討するプロセスが否定されるものではなく、原告の主張は採用できない。また、原告は、iタウンページの検索において、東京都では「田中箸店」に該当するものがなく、原告の本社がある福井県では原告のみが該当する旨主張するが、上記ウの判断を左右するものではない。
(2) 販売実績等に基づく識別力の獲得について上記(1)ウで述べた特段の事情の有無について以下検討する。ア 原告は、福井銀行の広告が、福井県内のシェアが約80%である福井新聞一面下に掲載され、「田中箸店」が紹介されたところ(甲3)、福井県小浜市の塗箸の全国シェアは約8割である(甲5)から、全国の塗り箸関係者の約6割が「田中箸店」を知った旨主張するが、本願商標の需要者は全国の一般需要者を含むものであり、それらの者が「田中箸店」を知ったということにはならない。イ 原告は、令和3年1月28日に楽天、同年4月30日にアマゾン、令和4年2月28日にスーパーデリバリーに出店し、台所用品及びスプーン等を、令和5年6月30日までに、楽天で●●●●●●●点、●●●●●●●●●円(箸については●●●●●●●膳、●●●●●●●●●円)、アマゾンで●●●●点、●●●●●●●●円(箸については●●●●膳、●●●●●●●●円) スーパーデリバリーで●●●●●●●点、、 ●●●●●●●●●円(箸については●●●●●●膳、●●●●●●●●●円)売り上げた旨主張する。しかし、仮にそれが事実であるとしても、本願商標が商品に付されていたか否かなど使用態様は不明であるし、他の同種製品の販売実績が不明であるため、この販売実績が、本願商標を付した商品について一定の出所に由来するものと需要者に認識させるに足りるものであるかも明らかでない。原告は、SNS運用、ECショップ運用、仕入れ先及びブランディングを活用しても、その売上は1000万円程度であるから(甲43、44)、原告の上記売上をもって、自他商品の識別力が生じていたことは明らかである旨主張するが、甲43は、日用雑貨などをECサイトで販売している事業の個別の売却案件例における当該事業の売上を示すもので、指定商品に関する実情を示すものとはいえない。ウ 原告は、平成24年2月8日から同月10日までの日程で東京ビッグサイトにて行われた「第73回東京インターナショナル・ギフト・ショー春2012」及び平成25年6月26日から同月28日までの日程で同場所にて行われた「テーブルウェア/キッチンウェアEXPO」に原告商品を出展したところ(甲7) 「ダイエット応援箸」 「朝日新聞DIGITAL」、 が(甲8)に紹介され、箸を持ちながらスマートフォンを操作できる菜箸である「菜箸deスマホ」 「日経トレンディ」が、 (甲12、平成27年8月)、「NHKニュースおはよう日本」の「まちかど情報室」(甲13、平成28年3月)、「MonoMax日用品優秀モノ決定版!」(甲14、平成30年1月)で紹介されている旨主張するが、これら紹介記事に掲載されている商品写真(実際に販売される際の包装された状態のもの)をみる限り、当該商品には、専ら「ダイエット応援箸」、「菜箸deスマホ」というキャッチ―な商品名を大書した表示がされている一方、本願商標が商品に付されているかどうかは不明である(裏面等に「製造元・田中箸店」などと記載されている可能性はあるが、確認できない。)。また、原告は、朝日新聞DIGITALが発売前の「ダイエット応援箸」が「田中箸店」から平成25年9月に販売されることを告知していること(甲8)、ヨドバシ.comが、販売される商品のメーカーとして「田中箸店」のタグを作っている(甲35)ことを、「田中箸店」が自他商品の識別力を有していることの証左である旨主張するが、これらは、商品紹介において必要とされる情報としてメーカー名を明らかにしているという域を出るものではなく、本願商標が自他商品の識別力を有することを直ちに意味するものとはいえない。また、原告は、箸の頭付近に動物のイラストと名前が描かれた「うちの子箸」を開発したほか、箸の頭付近に描かれる動物を柴犬等に絞った上、「国内最大の柴犬メディア」と冠している「柴犬メディア」のスポンサーになったと主張するが、原告の主張によっても、当該期間は令和2年11月25日~12月14日と1か月にも満たないものである上、閲覧数も8000回にとどまっている。エ 以上によれば、本願商標が販売実績等により需要者に広く認識され出所識別力を取得したなどの特段の事情は認められないというべきである。
(3) 原告は、本件審決が、商標法3条1項4号該当性を判断せずに、同項6号について判断したのが不当である旨主張するが、いずれにせよ同項4号又は6号該当性を巡る実質的な議論は尽くされており、原告の防御に欠けるところはない。この点が審決を取り消すべき瑕疵に当たるとはいえない。
(4) 以上のとおりであって、本願商標が自他商品の識別力を有しないとした本件審決の判断に誤りはない。結論以上によれば、原告主張の取消事由は理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。したがって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
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岩 井 直 幸
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