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令和5(ワ)70040発信者情報開示請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和6年1月31日
事件種別 民事
当事者 原告有限会社プレステージ
被告KDDI株式会社
法令 著作権
著作権法2条1項9号4回
キーワード 侵害34回
損害賠償3回
分割1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(書証は特記しない限り枝番
2 争点
3 争点に対する当事者の主張
1 争点3(プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情5
2 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の発信者情報開示請求
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス(以下、記載省略)
事件の概要 本件は、別紙動画目録記載の動画の著作権を有する原告が、電気通信事業を営む 被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ソフトであるBitTorrent(以下25 「ビットトレント」と表記する。)を使用して当該動画の複製物が記録された端末 をビットトレントのネットワークに接続するなどして送信可能化状態にしたこと などで、原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであるところ、上記 氏名不詳者は、上記の侵害に係る通信を被告の管理する電気通信設備を経由して行 ったことから、原告の損害賠償請求権等の行使のために必要であると主張して、特 定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律5 (以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項所定の発信者情報開示請求権に 基づき、上記の通信に係る発信者情報の開示を求めた事案である。

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判決文

令和6年1月31日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和5年(ワ)第70040号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和5年12月15日
判 決
原 告 有 限 会 社 プ レ ス テ ー ジ
同訴訟代理人弁護士 戸 田 泉
同 角 地 山 宗 行
10 同訴訟復代理人弁護士 新 英 樹
被 告 K D D I 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 今 井 和 男
15 同 小 倉 慎 一
同 山 本 一 生
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
20 事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要等
本件は、別紙動画目録記載の動画の著作権を有する原告が、電気通信事業を営む
25 被告に対し、氏名不詳者がファイル共有ソフトであるBitTorrent(以下
「ビットトレント」と表記する。)を使用して当該動画の複製物が記録された端末
をビットトレントのネットワークに接続するなどして送信可能化状態にしたこと
などで、原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであるところ、上記
氏名不詳者は、上記の侵害に係る通信を被告の管理する電気通信設備を経由して行
ったことから、原告の損害賠償請求権等の行使のために必要であると主張して、特
5 定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
(以下「プロバイダ責任制限法」という。 5条1項所定の発信者情報開示請求権に

基づき、上記の通信に係る発信者情報の開示を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(書証は特記しない限り枝番
を全て含む。)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。)
10 ⑴ 当事者
原告は、ビデオソフト、DVDビデオソフトの制作及び販売等を目的とする
有限会社である(弁論の全趣旨)。
被告は、インターネット接続サービス等の電気通信事業を営む株式会社であ
る(争いがない事実)。
15 被告による発信者情報の保有(争いがない)
別紙発信端末目録記載のIPアドレス及び発信元ポート番号を割り当てら
れた端末から同目録記載の日時(日本標準時)頃に行われた各通信(以下「本
件各通信」といい、これらの端末から本件各通信をした者をそれぞれ「本件各
発信者」という。 は、
) 被告が管理する電気通信設備を経由して行われており、
20 被告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。
ビットトレントの概要等(甲3、弁論の全趣旨)
ビットトレントは、ピアツーピア形式のファイル共有プロトコル及びそのた
めのアプリケーションソフトウェアであり、その利用者間でファイルを共有で
きる。
25 ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとするユ
ーザは、そのコンピュータ端末(以下、このユーザのコンピュータ端末を単
に「ピア」ということがある。)を介してインターネットに接続してトラッカ
ーサイトと呼ばれるウェブサイトに接続し、ダウンロードしたいファイル(以
下「対象ファイル」という。)の在りかなどの情報が記載されたトレントファ
イルと呼ばれるファイル(以下「トレントファイル」という。)をピアにダウ
5 ンロードして読み込ませる。そうすると、ピアはトレントファイルに記載さ
れているトラッカーサーバと呼ばれるファイルの提供者を管理するサーバに
接続され、対象ファイルの提供者のリストを要求する。要求を受けたトラッ
カーサーバは、トラッカーサーバにアクセスしている対象ファイルのピース
を所持するピアのIPアドレスが記載されたリスト(以下「ピアリスト」と
10 いう。)をピアに返信する。ピアリストを受けとったピアは、対象ファイルの
ピースを所持する他のユーザのピアに接続し、その後、そのピアから対象フ
ァイルのピースのダウンロードを開始する。
ビットトレントを使って対象ファイルが配布される場合、そのファイルは
小さいデータの単位(ピース)に分割され、分割されたデータはビットトレ
15 ントのネットワークにつながっているピアに分散して所持されており、ピア
がダウンロードする際には、分散したデータを多くのピアから自らのピアに
ダウンロードして、元のファイルのとおりに一つのファイルを完成させる。
完全なファイルを保有するユーザであるシーダーは、ビットトレントのネ
ットワーク上でアップロード可能な状態にあることがトラッカーサーバにお
20 いて公開され、全てのユーザはダウンロードを完了すると、自動的にシーダ
ーとなる。シーダーは、完全なファイルのダウンロードが完了する前のユー
ザであるリーチャーの求めに対して、当該ファイルの一部をアップロードす
る。リーチャーは、ファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、
既に所持している一部のファイルを、他のリーチャーからのダウンロードの
25 求めに対してアップロードする。すなわち、リーチャーは、自身がダウンロ
ードするのと同時に、他のリーチャーに対してデータをアップロードするこ
ととなる。
ビットトレントネットワークを利用してファイルをダウンロードする際の
通信に関する説明について(甲16)
株式会社HDR(以下「本件調査会社」という。)の代表者の陳述書によれ
5 ば、ビットトレントネットワークを利用して対象ファイルをダウンロードする
場合、以下の通信等のやり取りを経るとされている。
すなわち、各ピアは、トラッカーサーバに対して、ピアリストを要求する通
信をし、トラッカーサーバからピアリストのデータを受信する。
ピアリストのデータを受信したピアは、ピアリストに基づいて、相手方ピア
10 との間で、互いに、ビットトレントのネットワークに参加している相手もピア
であることを確認する「HANDSHAKE」と呼ばれる通信をし、相手方の
ピアへ接続完了を意味する「ACK」と呼ばれる通信をした上で、当該ピアと
相手方のピアとの間で互いが対象ファイルのどの部分を所持しているか確認
する「BITFIELD」と呼ばれる通信をし、当該ピアが相手方ピアの保有
15 するファイルに興味を持っていることを通知する「INTERSTED」と呼
ばれる通信をし、これに対して、相手方ピアが、当該ファイルは当該ピアによ
りダウンロードする(相手方ピアによりアップロードする)ことが可能である
ことを通知する「UNCHOKE」の通信をすることとなる。
これらの通信をした上で、当該ピアがダウンロードを要求する「REQUE
20 ST」と呼ばれる通信をし、相手方ピアがアップロードする通信をすることで、
対象ファイルがダウンロードされることとなる。
原告による調査の内容(甲3、4、10、14)
原告は、本件調査会社に対し、本件調査会社が開発したビットトレントを利
用した著作権侵害に該当する行為をした者の端末に割り当てられたIPアド
25 レス及び送信元ポート番号を調査する目的のソフトウェア(以下「本件ソフト
ウェア」という。)を使用して、別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」と
いう。)の著作権侵害の監視を依頼した。
本件調査会社は、本件ソフトウェアを使用して、インターネットを介して、
原告から指定された本件動画のコンテンツの品番を含むファイルをトラッカ
ーサイトで検索し、本件動画のファイルのハッシュ値(ファイル(データ)を
5 特定の関数で計算して得られる値であり、ファイルからハッシュ値は一意に定
まるが、同じハッシュ値になるようにファイルを改ざんすることが困難である
ことから、ファイルの同一性等の確認に用いられる。 を取得し、
) トラッカーサ
ーバに、本件動画のファイルをアップロードできるピアリストを取得した。そ
して、本件調査会社と当該ピアリストに記載されたピアとの間で、順次、
「HA
10 NDSHAKE」の通信、
「ACK」の通信、
「BITFIELD」の通信、
「I
NTERSTED」の通信がされ、その後に「UNCHOKE」の通信を行っ
たとされたピアについて、本件調査会社は、これをデータベースに登録するこ
ととした。
以上のような調査の結果、本件各通信は、本件動画のデータを保有している
15 ピアからの「UNCHOKE」の通信であるとされた通信であって、本件調査
会社のデータベースに登録されたものである(以下、この手法によって、別紙
発信端末目録の「発信時刻」欄記載の各日時に同目録の「IPアドレス」欄記
載の各IPアドレス及び「ポート番号」欄記載の各送信元ポート番号が割り当
てられた端末から、
「UNCHOKE」の通信として、本件各通信がされたとす
20 る調査の結果を「本件調査結果」という。。

2 争点
原告が本件動画の著作権者であるか(争点1)
本件各通信が、本件各発信者から本件調査会社に対する「UNCHOKE」
の通信であるといえるか(争点2)
25 プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情報の流
通によって」原告の「権利が侵害されたことが明らか」といえるか(争点3)
3 争点に対する当事者の主張
争点1(原告が本件動画の著作権者であるか)
(原告の主張)
本件動画の監督は原告の従業員であり、原告における職務の履行として、本
5 件著作物を作成した。一方、原告は、本件動画を最初に発意して企画し、本件
著作物を収録したDVDのパッケージに、原告の法人名を表示し、自己の著作
の名義の下に公表した。原告と本件動画の監督間の契約・勤務規則等に、著作
権に関する別段の定めはない。よって、本件動画は、原告が「職務上作成する
著作物」にあたり、その著作者及び著作権者は原告である(著作権法第15条
10 第1項・第17条第1項)。
(被告の主張)
否認ないし争う。
争点2(本件各通信が、本件各発信者から本件調査会社に対する「UNCH
OKE」の通信であるといえるか)について
15 (原告の主張)
別紙発信端末目録の「発信時刻」欄記載の各日時と同目録の「IPアドレス」
欄記載の各IPアドレス及び「ポート番号」は、本件調査結果のとおり、本件
動画のファイルの保有者に関するピアリストに載っていたピアからの「UNC
HOKE」の通信をした端末に割り当てられていたIPアドレス及び送信元ポ
20 ート番号と、その通信の日時であり、これらが正確であることは、本件ソフト
ウェアの同一性確認試験によっても確認されている。
別件訴訟の裁判例で、通信自体が存在しないと認定された点については、本
件ソフトウェアの精度に疑いを生じさせる事情ではない。技術仕様上契約者に
割り当てていない送信元ポート番号が記録された点については、このようなも
25 のについては除外する仕様に変えた。
本件各発信者に対する意見照会については、本件各発信者に虚偽の回答をす
る動機があり、虚偽のものである。
本件動画については、発売日に先行してネットで令和4年4月28日から配
信されており、本件動画の発売日以前の通信が検知されていることは本件ソフ
トウェアの動作の正確性を疑わせる事情には当たらない。
5 (被告の主張)
次の事情に照らせば、本件ソフトウェアが原告が主張するとおりに動作した
とする原告の主張は信用できず、本件各通信が、本件各発信者から本件調査会
社に対する「UNCHOKE」の通信であるとはいえない。
ア 原告が主張する確認試験は、本件ソフトウェアに係るものであるか明らか
10 ではなく、また、同試験はあくまで試験用ファイルを用いたものであるなど、
信頼できる内容ではない。
イ 複数の裁判例により、本件ソフトウェアによって存在しない通信や、技術
仕様上契約者に割り当てていない送信元ポート番号が検出されたことなど
を理由に本件ソフトウェアの信頼性が否定されたこと。
15 ウ 本件各発信者に対する意見照会の結果、多数の契約者が身に覚えがないな
どと回答していること。
エ 本件動画の発売日以前の通信が検知されていること。
争点3(プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害
情報の流通によって」原告の「権利が侵害されたことが明らか」といえるか)
20 について
(原告の主張)
ア 本件各発信者は、前記1 の仕組みに照らせば「公衆の用に供されている
電気通信回線に接続している自動公衆送信装置」に当たるトラッカーサーバ
に自らが所持する本件動画に係るファイル情報、IPアドレス等を通知し、
25 これがトラッカーサーバに記録されたことで「情報を記録」したといえるか
ら、本件動画は、同記録をもって送信可能化された(著作権法第2条1項9
号の5イ)。
また、本件各発信者は、本件動画に係るファイルを自身の端末の共有フォ
ルダに蔵置し、クライアントソフトを起動した状態でトラッカーサーバに接
続しており、当該端末はトラッカーサーバと一体となって「情報が記録され」
5 た「自動公衆送信装置」に当たり、その時点で「公衆の用に供されている電
気通信回線への接続」がされたといえるから、本件動画は送信可能化された
といえる(著作権法2条1項9号の5ロ)
イ 本件各発信者は、上記のとおり継続して本件動画をアップロード可能な状
態に置くことで、継続して本件動画の送信可能化をしているといえる。
10 ウ 本件各通信は、本件各発信者の端末に保有している本件動画のファイル
がアップロード可能であることを通知する「UNCHOKE」の通信であ
り、本件各発信者の端末が自動公衆送信し得るような状態となっていたこ
とを示す通信である。したがって、本件各発信者からの「UNCHOKE」
の通信時点において、本件動画は自動公衆送信し得るような状態になって
15 いたのであり、本件各発信者は、「UNCHOKE」の通信時点において、
送信可能化により原告の公衆送信権を侵害しているから、プロバイダ責任
制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって」原
告の「権利が侵害されたことが明らか」であるといえる。
(被告の主張)
20 ア 本件において本件各発信者の行為が著作権法2条1項9号の5イに当た
るとの主張も、同号ロに当たるとの主張も争う。
また、本件各発信者は、本件ソフトウェアがピースの保持を検知した際に、
再生が可能となる最低限度のピースすら保持していなかった可能性がある
ため、原告の送信可能化権が侵害されていたことが立証できているとはいえ
25 ない。
イ 原告が開示を求める通信であるハンドシェイクに係る通信は、侵害情報の
流通によって直接的に権利侵害をもたらすものではないから、当該通信で把
握される情報は、プロバイダ責任制限法5条1項柱書で規定されている「当
該権利の侵害に係る発信者情報」に当たらない。
第3 当裁判所の判断
5 1 争点3(プロバイダ責任制限法5条1項1号の「当該開示の請求に係る侵害情
報の流通によって」原告の「権利が侵害されたことが明らか」といえるか)につ
いて
本件の事案に鑑み、争点3から判断する。
⑴ 本件で、原告は、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき発信者情報開示請
10 求を行うところ、同項により発信者情報開示請求権が認められるためには、同
項1号の要件を満たすこと、すなわち、「当該開示の請求に係る侵害情報の流
通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害された」ことが明らかである
ことが必要である。そして、同号の「侵害情報」は、特定電気通信による情報
の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が当該権利を侵害したとす
15 る情報をいう(プロバイダ責任制限法2条5号)。
本件において、原告は、本件発信者が、
「UNCHOKE」の通信(前記第2
の1 )時点において、送信可能化により原告の公衆送信権を侵害している旨
主張している。そして、原告は、本件動画についての公衆送信権を被侵害権利
であるとしており、原告は、別紙発信者情報目録記載の各情報を特定発信者情
20 報以外の発信者情報として開示の請求をしていると解されるから、「UNCH
OKE」の通信による情報の流通によって原告の公衆送信権が侵害され、同通
信が侵害情報の送信であると主張して、本件各通信の送信に係る者の氏名その
他の情報の開示を請求していると解される。そうすると、本件において、プロ
バイダ責任制限法5条1項1号の要件を満たすためには、「UNCHOKE」
25 の通信による情報の流通によって本件動画の送信可能化による公衆送信権が
侵害されたことが明らかといえる必要があることとなる。
⑵ 著作権法2条1項9号の5は、送信可能化の定義について、「次のいずれか
に掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。」旨規定し、
イとして「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信
装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体の
5 うち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒
体」という。 に記録され、
) 又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する
機能を有する装置をいう。以下同じ。 の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、

情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体と
して加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆
10 送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。」
と規定し、ロとして「その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自
動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用
に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受
信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連
15 の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。」と規定している。このような
著作権法の文言や、著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定
した趣旨、目的は、公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行う送信
(後に自動公衆送信として定義規定が置かれたもの)が既に規制の対象とされ
ていた状況の下で、現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を
20 規制することにあり(最高裁平成21年(受)第653号同23年1月18日
第三小法廷判決・民集65巻1号121頁参照)、自動公衆送信前の準備段階
の行為に着目してその行為を規制したものであることなどに照らせば、「送信
可能化」に当たるのは、同号のイ又はロに列挙されている行為であるとするの
が相当であると解される。そして、それらの行為により対象の著作物が自動公
25 衆送信し得るようにされた場合、上記に述べたとおりの「送信可能化」の意義
から、それらの行為によって自動公衆送信し得るようにされた著作物について
は、別途、同号のイ又はロに該当する行為がされたときに再び「送信可能化」
に該当する行為がされたといえると解される。
本件各通信は、前記第2の1 のとおりの手法による調査の結果、「UNC
HOKE」の通信であるとされた通信である。前記第2の1 の認定事実のと
5 おり、本件調査会社の説明によれば、本件各発信者の端末から「UNCHOK
E」の通信が行われるのは、
「ACK」の通信及び「BITFIELD」の通信
の後であるとされる。そして、本件調査会社の説明によれば、
「ACK」の通信
は、ビットトレントのネットワークに参加している相手もピアであることを確
認する「HANDSHAKE」の通信の後の、接続完了を意味する通信である
10 とされ、これは、インターネットを介してビットトレントネットワークへの接
続を完了していることを知らせる通信であると解される。また、「BITFI
ELD」の通信は、当該ピアと相手方のピアとの間で互いが対象ファイルのど
の部分を所持しているか確認する通信であるとされ、「UNCHOKE」の通
信は、ピアが相手方ピアの保有するファイルに興味を持っていることを通知す
15 る「INTERSTED」の通信に対し、アップロードすることが可能である
ことを通知する通信であるとされる。
以上のような本件調査会社の説明を前提とし、本件調査結果について本件調
査会社の説明のとおりの事実が認められる場合、本件各通信をしたピアにおい
ては、
「UNCHOKE」の通信をする時点より前の時点で、既に本件動画のフ
20 ァイルの少なくとも一部が複製されて当該ピアに記録された上で、当該ピアが
インターネットに接続されビットトレントのネットワークにも接続されるな
どして、本件動画のファイルのピースが他のピアに自動公衆送信(アップロー
ド)し得る状態になっていたこととなる。そして、既に述べたとおり、ある行
為により自動公衆送信し得るようにされた著作物について、別途、著作権法2
25 条1項9号の5のイ又はロに該当する行為がされたときに再び「送信可能化」
に該当する行為がされたといえると解されるが、本件においては、「UNCH
OKE」の通信がされたとされる時点において、本件動画について、更に、同
号のイ又はロに該当する何らかの行為が行われたことを認めるに足りない。な
お、特定電気通信による情報の流通によって権利が侵害されたことに関し、そ
れ自体では権利侵害性のない通信について、プロバイダ責任制限法は、「侵害
5 関連通信」
(プロバイダ責任制限法5条3項)を総務省令で定めるとして、その
範囲を明らかにしている。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び
発信者情報の開示に関する法律施行規則5条は、侵害関連通信として複数の通
信を定めるところ、そこに上記の「UNCHOKE」に該当する通信が規定さ
れているとは認められず、また、
「UNCHOKE」の通信時点において、本件
10 調査会社の端末に対して本件動画のファイルのピースが送信(自動公衆送信)
されているともいえない。
⑶ 原告は、本件各通信が「UNCHOKE」の通信であると特定した上で、本
件各通信に係る発信者情報についてプロバイダ責任制限法5条1項に基づき
その開示を請求しているところ、以上に述べたところによれば、本件調査結果
15 に至る手法と本件調査会社の説明に基づく「UNCHOKE」の通信の内容に
よると、直ちに本件各通信に係る情報の流通によって、公衆送信権が侵害され
たと認めることはできない。また、その他、本件各通信に係る情報の流通によ
って、公衆送信権が侵害されたことを認めるに足りる事情の主張、立証はない。
よって、本件各通信に係る情報の流通によって、原告の「権利が侵害された
20 ことが明らか」であるとはいえない。
2 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の発信者情報開示請求
権は、いずれも認められない。
第4 結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
25 東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴 田 義 明
5 裁判官 杉 田 時 基
裁判官 仲 田 憲 史
(別紙)
発信者情報目録
別紙発信端末目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に被告から
5 割り当てられていた契約者に関する以下の情報。
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス(以下、記載省略)
(別紙)
発信端末目録
記載省略
(別紙)
動画目録
記載省略

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