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令和5(ワ)70114不当利得返還等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和6年3月27日
事件種別 民事
当事者 原告
被告ヤマハ発動機株式会社
対象物 自動二輪車のブレーキ制御装置及び挙動解析装置
法令 特許権
特許法134条1回
特許法102条3項1回
キーワード 進歩性7回
新規性7回
特許権6回
無効3回
損害賠償2回
刊行物2回
無効審判1回
侵害1回
ライセンス1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。20
事件の概要 1 事案の概要 本件は、発明の名称を「自動二輪車のブレーキ制御装置及び挙動解析装置」と する特許権を有する原告が、被告が販売している自動二輪車の電子制御装置が同 特許権に係る特許発明の技術的範囲に属するとして、被告に対し、特許権侵害に よる損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき、3億1200万円の一部5 として1億円及び不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日である令和5年 4月18日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害 金又は利息を請求する事案である。

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判決文

令和6年3月27日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和5年(ワ)第70114号 不当利得返還等請求事件
口頭弁論終結日 令和6年2月21日
判 決
原 告 A
同訴訟代理人弁護士 西 垣 建 剛
同 知 念 竜 之 介
10 被 告 ヤ マ ハ 発 動 機 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 長 坂 省
同 友 村 明 弘
同 蕪 城 雄 一 郎
15 同 補 佐 人 弁 理 士 江 口 昭 彦
同 髙 村 和 宗
同 津 田 拓 真
主 文
1 原告の請求を棄却する。
20 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、1億円及びこれに対する令和5年4月18日から支払済
みまで年3分の割合による金員を支払え。
25 2 仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、発明の名称を「自動二輪車のブレーキ制御装置及び挙動解析装置」と
する特許権を有する原告が、被告が販売している自動二輪車の電子制御装置が同
特許権に係る特許発明の技術的範囲に属するとして、被告に対し、特許権侵害に
5 よる損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき、3億1200万円の一部
として1億円及び不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日である令和5年
4月18日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害
金又は利息を請求する事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容
10 易に認められる事実)
ア 原告は、自動車メーカーで研究開発業務に従事する個人である。(弁論の
全趣旨)
イ 被告は自動二輪車を中心とした輸送用機器の製造、販売、研究開発等の事
業を行う株式会社である。(争いなし)
15 原告は、以下の特許権(以下、
「本件特許権」という。 を有している。
) (甲1、
2)
特許番号 特許第4960929号
発明の名称 自動二輪車のブレーキ制御装置及び挙動解析装置
出願日 平成20年7月2日
20 登録日 平成24年3月30日
本件特許権に係る請求項1、7の記載は、以下のとおりである(以下、請求
項1、7に記載された発明を順に「本件発明1」「本件発明2」といい、これ

らの発明を総称して「本件発明」という。また、本件特許に係る明細書及び図
面を「本件明細書」という。その内容の抜粋は別紙本件明細書のとおりである。。

25 (甲2)
ア 請求項1
所謂自動二輪車であり少なくても2つの車輪を有する車両に用いられる
ブレーキ制御装置であって、該ブレーキ制御装置は、車体速検出装置と、車
両挙動検出装置と、ECU(コントロールユニット) と、制動装置と、で構
成され、車体速検出装置は、車輪速センサーであって、検出された信号より
5 車両走行速度を得て、車両挙動検出装置は、進行方向に対して左右ロール方
向と左右横方向の状態を検出するセンサーであって、該検出された信号によ
り傾斜角速度(Ψ)と横加速度(Gken)を得て、ECUは、検出された
信号演算と車両挙動に応じた目標制動力演算及び制動装置へ制動指令を行
うものであって、前記信号演算として、横加速度を検出する加速度センサー
10 のロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)
の導出方法を少なくとも有し、制動装置は、前記ECUからの制動指令によ
り車両を減速させる機構であって、エンジンブレーキとブレーキディスクへ
の加圧減圧の手段を有し、当該車両において、前記傾斜角速度(Ψ)と前記
補正後の横G(Ghosei)の組合せにより、車両挙動が判断され、該車
15 両挙動に応じた目標制動力が決定され、前記車輪で制動がされ、制動により
ロール方向の挙動の抑制が図られること、を特徴とする車両のブレーキ制御
装置。
イ 請求項7
所謂自動二輪車であり少なくても2つの車輪を有する車両の車両解析に
20 用いられる装置であって、該車両解析装置は、前記車両の車両挙動から得ら
れた信号演算を行う装置であり、前記車両の車両挙動から得られる検出信号
として、進行方向に対して左右横方向加速度を検出する横加速度と、左右ロ
ール方向の状態を検出する傾斜角速度(A)または傾斜角度のどちらか一方
もしくは両方と、加速度センサーの車両取り付け高さと、が少なくとも入力
25 されており、信号演算として、前記傾斜角速度(A)または、前記傾斜角度
の時間微分で得られる傾斜角速度(B)のいずれかの傾斜角速度を少なくと
も用い、前記横加速度の補正演算として、加速度センサーのロールによる影
響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法として、
前記横加速度から前記加速度センサーの車両取り付け高さと前記傾斜角速
度(A)または 傾斜角速度(B)のいずれかの積、との差分を求め、該導出
5 された補正後の横G(Ghosei)に基づき車両解析がされること、を特
徴とする挙動解析装置。
本件発明は、次のとおり分説することができる。
(以下、符号に応じて「構成
要件A」などという。)
ア 本件発明1
10 1A 所謂自動二輪車であり少なくても2つの車輪を有する車両に用いら
れるブレーキ制御装置であって、
1B 該ブレーキ制御装置は、車体速検出装置と、車両挙動検出装置と、E
CU(コントロールユニット)と、制動装置と、で構成され、
1C 車体速検出装置は、車輪速センサーであって、検出された信号より車
15 両走行速度を得て、
1D 車両挙動検出装置は、進行方向に対して左右ロール方向と左右横方
向の状態を検出するセンサーであって、該検出された信号により傾斜
角速度(Ψ)と横加速度(Gken)を得て、
1E ECUは、検出された信号演算と車両挙動に応じた目標制動力演算
20 及び制動装置へ制動指令を行うものであって、
1F 前記信号演算として、横加速度を検出する加速度センサーのロール
による影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導
出方法を少なくとも有し、
1G1 制動装置は、前記ECUからの制動指令により車両を減速させる
25 機構であって、
1G2 エンジンブレーキとブレーキディスクへの加圧減圧の手段を有し、
1H 当該車両において、前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の横G(Gh
osei)の組合わせにより、車両挙動が判断され、
1I 該車両挙動に応じた目標制動力が決定され、前記車輪で制動がされ、
制動によりロール方向の挙動の抑制が図られること、を特徴とする車
5 両ブレーキ制御装置。
イ 本件発明2
2A 所謂自動二輪車であり少なくても2つの車輪を有する車両の車両解
析に用いられる装置であって、
2B 該車両解析装置は、前記車両の車両挙動から得られた信号演算を行
10 う装置であり、
2C 前記車両の車両挙動から得られる検出信号として、進行方向に対し
て左右横方向加速度を検出する横加速度と、左右ロール方向の状態を
検出する傾斜角速度(A)または傾斜角度のどちらか一方もしくは両方
と、加速度センサーの車両取り付け高さと、が少なくとも入力されてお
15 り、
2D 信号演算として、前記傾斜角速度(A)または、前記傾斜角度の時間
微分で得られる傾斜角速度(B)のいずれかの傾斜角速度を少なくとも
用い、
2E 前記横加速度の補正演算として、加速度センサーのロールによる影
20 響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法と
して、前記横加速度から前記加速度センサーの車両取り付け高さと前
記傾斜角速度(A)または 傾斜角速度(B)のいずれかの積、との差
分を求め、
2G 該導出された補正後の横G(Ghosei)に基づき車両解析がされ
25 ること、を特徴とする挙動解析装置。
原告は、令和5年11月27日付けで、誤記(特許法134条2の第1項
2号)を理由に本件特許に係る請求項7等の請求項及び本件明細書の記載
の訂正を請求した(以下「本件訂正請求」という。)。同訂正後の請求項
7は次のとおりであり、同訂正後の明細書の記載は、別紙対比表記載のと
おりである。本件口頭弁論終結時には、本件訂正請求による訂正は確定し
5 ていない。(甲18)
請求項7´(下線部が訂正部分)
2A、2B同じ
2C´前記車両の車両挙動から得られる検出信号として、進行方向に対
して左右横方向の加速度を検出する横加速度と、左右ロール方向の
10 状態を検出する傾斜角速度と、加速度センサーの車両取り付け高さ
と、が少なくとも入力されており、
2D´信号演算として、前記傾斜角速度を少なくとも用い、
2E´前記横加速度の補正演算として、加速度センサーのロールによる
影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出
15 方法として、前記横加速度から前記加速度センサーの車両取り付け
高さと前記傾斜角速度の時間微分で得られる傾斜角加速度の積、と
の差分を求め、
2G同じ
ア 被告は、遅くとも平成27年から、別紙被告自動二輪車目録記載の自
20 動二輪車(以下「被告自動二輪車」という。)の製造及び販売を行ってい
る。被告自動二輪車には、スライドコントロールシステム(後輪の横滑り
を検知し、イナーシャルメジャメントユニット(以下「IMU」という。)
からの情報に基づきエンジン出力を制御する機能。 「SCS」
以下 という。 、

トラクションコントロールシステム(後輪のスリップを検知し、車体の傾
25 斜角に応じてエンジン出力を制御する機能。以下「TCS」という。)及
びブレーキコントロールシステム(ブレーキ操作によりホイールがロック
されたとき、ブレーキの油圧を調整する機能。以下「BC」という。)の
機能を有するものがあり、その対応関係は、同目録記載のとおりである。
同目録記載1、2の被告自動二輪車については、自動二輪車の車両挙動を
検知する装置(以下「被告製品3」という。)とTCS及びSCSの機能
5 に係る電子制御装置(以下「被告製品2」という。)を搭載しており、同
目録記載3~8の被告自動二輪車については、被告製品3とTCS、SC
S及びBCの機能に係る電子制御装置(以下「被告製品1」という。)が
組み込まれている。(争いなし)
イ 被告製品1、2を搭載した被告自動二輪車は、車輪の回転速度から車
10 体速度信号を取得する前後輪車速センサー、ロールレート及び車体横
方向加速度を検出するIMUを搭載している。同被告自動二輪車は、車
両挙動安定のために、必要に応じてエンジンECUによってエンジン
出力を抑制することによって車両を減速させることがあり、その出力
制御には、IMUから受領した車体横方向加速度の情報を利用するこ
15 ともある。同被告自動二輪車のうち、被告製品1が搭載された被告自動
二輪車には、さらに、ABS ECUが搭載されており、これがブレー
キの油圧を制御している。被告製品1、2は、いずれも前後輪車速セン
サーを有しているため構成要件1Cを充足し、IMUを搭載している
ため構成要件1Dを充足し、エンジンECU又はABS ECUから
20 の指令によって車両を減速させる機構を有しているから、構成要件1
G1を充足する。他方で、被告製品2は、ABS ECUを有していな
いため、ECUの指令に基づいてブレーキディスクへの加圧減圧の手
段を有しているとはいえず、構成要件1G2を充足しない。(弁論の全
趣旨)
25 被告自動二輪車は、いずれも被告製品3を搭載しており、被告製品3
は、IMUで検出した車体横方向加速度及びロール方向の角速度とタ
イヤ設置点からIMUまでの距離の値が入力されて演算しており、構
成要件2B、2C、2Dを充足する。(弁論の全趣旨)
3 争点
被告製品1、2は、文言上又は文言と均等な構成として、本件発明1の技術
5 的範囲に属するか(争点1)
ア 被告製品1、2は、
「ブレーキ制御装置」であるか(構成要件1A、1B、
1G2)(争点1-1)
イ 被告製品1、2は、
「目標制動力演算」への制動指令を行うか(構成要件1
E)(争点1-2)
10 ウ 被告製品1、2は、「横加速度を検出する加速度センサーのロールによる
影響を取り除く演算」を行った後の「横G(Ghosei)」を用いて車両
挙動を判断しているか(構成要件1F、1H)(争点1-3)
エ 被告製品1、2は、「該車両挙動に応じた目標制動力」を決定しているか
(構成要件1I)(争点1-4)
15 オ 被告製品2は、「ブレーキディスクへの加圧減圧の手段」と均等な構成を
有しているか(構成要件1G2)(争点1-5)
被告製品3は、本件発明2の技術的範囲に属するか(争点2)
ア 被告製品3は、「車両解析に用いられる装置」であるか(構成要件2A)
(争点2-1)
20 イ 被告製品3は、「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算」を
行い、
「該導出された補正後の横G(Ghosei)」に基づき車両解析す
るか(構成要件2E、2G)(争点2-2)
損害(争点3)
本件発明に係る特許に無効事由があるか(争点4)
25 ア サポート要件違反があるか(争点4-1)
イ 明確性要件違反があるか(争点4-2)
ウ 補正要件違反があるか(争点4-3)
エ 本件発明は、特開2006-240491号公報(以下「乙9公報」とい
う。)に記載された発明と同一であるか、又は同発明を主引例発明とする進
歩性欠如があるか(争点4-4)
5 4 争点に対する当事者の主張
被告製品1、2は、
「ブレーキ制御装置」であるか(構成要件1A、1B、1
G2)(争点1-1)
(原告の主張)
被告製品1は、自動二輪車に搭載されるエンジン出力及びブレーキの油圧
10 を制御する電子制御装置であり、被告製品2は、自動二輪車に搭載されるエ
ンジン出力を制御する電子制御装置であるから、「ブレーキ制御装置」に当た
る。
(被告の主張)
否認ないし争う。被告製品1、2はエンジン出力を制御するのみであり、エ
15 ンジンブレーキを有していないから、「ブレーキ制御装置」ではない。
被告製品1、2は、「目標制動力演算」への制動指令を行うか(構成要件1
E)(争点1-2)
(原告の主張)
被告製品1、2のエンジンECU及びABS ECUは、IMUから受領し
20 た車体横方向加速度等の情報に基づき制御量を演算し、エンジン出力制御装
置及びブレーキの油圧を制御するから、車両挙動に応じて目標制動力を決定
している。
(被告の主張)
否認ないし争う。被告製品1、2は、車両挙動に応じて目標制動力を決定し
25 ていない。
被告製品1、2は、「横加速度を検出する加速度センサーのロールによる影
響を取り除く演算」を行った後の「横G(Ghosei)」を用いて車両挙動を
判断しているか(構成要件1F、1H)(争点1-3)
(原告の主張)
被告製品1、2では、エンジン出力制御装置の制御量の演算を行うに当たり、
5 IMUが検出した横方向加速度の値に対して、IMUが左右ロール方向に移動
することにより重畳された加速度を減算する補正処理を行っているから、「横
加速度を検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算」を行っ
ている。そして、被告製品1、2は、同補正処理を行った横方向加速度を用い、
傾斜角及び横滑り加速度を算出しているから、
「前記傾斜角速度(Ψ)と前記補
10 正後の横G(Ghosei)の組合せにより、車両挙動が判断」されている。
被告は、「横加速度を検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除
く演算」について、本件明細書によれば、
Ghosei=Gken-(Ψ・Rhsen) (以下「式A」という。)
であると理解できると主張するが、本件明細書の記載によれば、これが

15 Ghosei=Gken-(Ψ・Rhsen) (以下「式A´」という。)
の誤記であると理解できるから、被告の主張は前提を欠く。
(被告の主張)
否認ないし争う。
本件明細書によれば、「横加速度を検出する加速度センサーのロールによる
20 影響を取り除く演算」は式Aであると理解できるところ、式Aは等号の左右で
次元の異なる明らかに誤った式であり、被告製品1、2でこのような不合理な
演算を行っていないことは明らかである。
式Aが式A´の誤記であるとは認められない。
被告製品1、2は、
「該車両挙動に応じた目標制動力」を決定しているか(構
25 成要件1I)(争点1-4)
(原告の主張)
被告製品1、2では、傾斜角及び横滑り加速度に応じて制御量を決定してい
る。
(被告の主張)
否認ないし争う。
5 被告製品1、2は、車両挙動に応じた目標制動力を決定していない。
被告製品2は、「ブレーキディスクへの加圧減圧の手段」と均等な構成を有
しているか(構成要件1G2)(争点1-5)
(原告の主張)
被告製品2は、「ブレーキディスクへの加圧減圧の手段」(構成要件1G2)
10 を有しておらず、エンジン出力の抑制によって対応しているところ、当該構成
は、次のとおり、「ブレーキディスクへの加圧減圧の手段」と均等である。
ア 第1要件
本件発明1における従来技術にない技術的思想の特徴的部分は、正確な車
両挙動を把握するために傾斜角速度を用いた補正後の横Gを用いることを
15 考案した点にある。被告製品2ではこれを行っており、補正後の横Gを用い
た制動がブレーキディスクへの加圧減圧で行うかエンジン出力の抑制で行
うかは、非本質的な部分に係る相違であるといえる。
イ 第2要件
本件発明1の目的ないし作用効果は「走行時の横Gセンサーと角速度セン
20 サーを関連づけ」することで、二輪車の挙動を正確に検出ないし判断して、
二輪車挙動の変化に応じて車両を制御し、車両を安定化させるというもので
あり、被告製品2は目的ないし作用効果を共通にするものであるから、置換
可能である。
ウ 第3要件
25 車両の挙動を制御して、車両を安定化させるためには、挙動の3要素で
ある縦方向速度、横方向速度及びヨーモーメントを制御する必要があると
ころ、これらを制御する方法としては、油圧ブレーキ(ブレーキディスク)
によって車輪の回転を制御して車両を減速させる方式のほか、加速中の駆
動力全体を制御する方式、駆動系の一部で駆動力を制御する方式(エンジ
ンの点火遅角を行うものを含む。)などによるトラクションコントロール
5 (TCS)が一般に知られてきた。したがって、当業者であれば、本件発明
1のうち、「ブレーキディスクへの加圧減圧の手段」を廃し、「エンジン出
力の抑制」のみに置き換えることは容易であったといえる。
エ 第4要件
本件発明1は、正確な車両挙動を把握するために傾斜角速度を用いた補正
10 後の横Gを用いることを考案した点に特徴があり、これは容易に推考できた
ものではない。
オ 第5要件
被告製品2に係る制御装置を意識的に除外したとみられる事情は存在し
ない。
15 (被告の主張)
否認ないし争う。本件発明1の本質的部分は、センサーによって検出された
補正前の検出横G(Gken)から、Ψ・Rhsen(センサーによって検出
された傾斜角速度と、センサーと路面との間の距離との積)を減算する演算を
行うことと解するべきであるところ、被告製品2はそのような構成を有しない
20 から、少なくとも第1要件を具備しない。
被告製品3は、
「車両解析に用いられる装置」であるか(構成要件2A)
(争
点2-1)
(原告の主張)
被告製品3は、自動二輪車に搭載されるエンジン出力を制御する電子制御
25 装置であるから、車両解析に用いられる装置に当たる。
(被告の主張)
否認ないし争う。
被告製品3は、自動二輪車に搭載されて車両の挙動を把握し、自動二輪車を
制御する装置であるのに対し、本件発明2は、
「車両解析に用いられる装置」で
あり、自動二輪車に搭載される装置ではないから、構成要件2Aの「車両解析
5 に用いられる装置」を充足しない。
被告製品3は、「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算」を行
い、
「該導出された補正後の横G(Ghosei)」に基づき車両解析するか
(構成要件2E、2G)(争点2-2)
(原告の主張)
10 構成要件2Eの「前記横加速度から前記加速度センサーの車両取り付け高
さと前記傾斜角速度(A)または 傾斜角速度(B)のいずれかの積、との差
分を求め」の部分は、本件訂正請求で訂正したとおり、「前記横加速度から前
記加速度センサーの車両取り付け高さと前記傾斜角速度の時間微分で得られ
る傾斜角加速度の積、との差分を求め」の誤記である。
15 挙動解析装置である被告製品3は、IMUが検知した横方向加速度に対し
て、IMUが左右ロール方向に移動することにより重畳された加速度を減算
する補正処理を行うにあたって、タイヤ設置点からIMUまでの距離(ℎ)
(本
件発明2の「加速度センサーの車両取り付け高さ」に当たる。)と傾斜角加速
度(?̇ ? )との積とIMUが検知した車体横方向加速度センサ値(? ? )との差
20 分を求める計算(? ? − ℎ?̇ ? )を行っているから、被告製品3は構成要件2E、
2Gを充足する。
(被告の主張)
否認ないし争う。
「ロールによる影響を取り除く演算」とは、「前記横加速度から前記加速度
25 センサーの車両取り付け高さと前記傾斜角速度(A)または 傾斜角速度(B)
のいずれかの積、との差分を求め」るというものであるところ、これは、次元
の異なる数量の差分を求める演算であって、物理的な意味を持ちえないもの
である。このような奇異な式を実際の製品の制御に採用することはあり得な
い。
原告は誤記を理由に本件訂正請求を行ったが、誤記であるとは認められない。
5 損害(争点3)
(原告の主張)
被告は、遅くとも平成26年4月15日から現在まで、被告製品を搭載した
被告自動二輪車を国内にて製造及び販売をしており、その期間中における被告
自動二輪車の販売額は78億円を下らない。特許法102条3項に基づき原告
10 が受けるべき金銭の額は、その4パーセントに当たる3億1200万円を下ら
ない。ライセンス料相当額は同額を下らず、同額について被告は利得を得てお
り、原告に損失がある。よって、原告は、不法行為による損害賠償又は不当利
得返還請求権に基づき、一部請求として1億円及び遅延損害金または利息を請
求する。
15 (被告の主張)
否認ないし争う。
サポート要件違反があるか(争点4-1)
(被告の主張)
ア 本件発明1について
20 構成要件1Fの関係で、G(Ghosei)の算出方法について言及さ
れているが、これに対応する明細書の記載は、式Aである。しかし、式A
に本件明細書に記載されている、
Gken=g・cosΦ・tanρ-Ψ・Rhen
の式を代入して整理すると次のとおりとなる。
25 Ghosei=g・cosΦ・tanρ-Ψ・Rhen-Ψ・Rhsen
しかし、G(Ghosei)を表す式中には依然として加速度センサー
のロールによる影響の項が残っており、むしろその影響が増幅されてい
る。また、同式では、次元の異なる物理量の差が含まれており、得られる
数値は物理的な意味をなさない。
本件明細書に記載された発明では、Ghensaの値に基づいて、Ψと
5 配分比との対応関係をまず特定し、当該対応関係とΨの値とに基づいて、
配分比を決定するものと理解される。このような配分比の決定方法は、傾

斜角速度(Ψ)とGhensaとの組合せ」による車両挙動に応じて「目
標制動力」の配分比を決定するものといえる。Ghensaは、「補正後
の横G(Ghosei)を用いて算出されるパラメータの1つであるが、

10 「前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の横G(Ghosei)の組合せ」
による目標制動力の決定を、Ghensaを算出することなく他の方法を
用いても行い得ることは、本件明細書の発明の詳細な説明においては一切
示されておらず、示唆もされていない。
そうすると、本件明細書に記載された発明を構成要件1Hに示される
15 「前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の横G(Ghosei)の組合せに
より」との表現にまで拡張又は一般化することはできない。
イ 本件発明2について
前記ア と同様に、構成要件2Eの演算では、加速度センサーのロール
による影響の項は残り、むしろ増幅されており、また、結果として得られ
20 る数値は物理的な意味を持ち得ない。
前記ア で主張したとおり、本件明細書に記載された発明は、「傾斜角
速度(Ψ)とGhensaとの組合せ」によって車両挙動を解析するもの
ではあるが、これを、構成要件2Gに示される「該導出された補正後の横
G(Ghosei)に基づき」との表現にまで拡張又は一般化することは
25 できない。
ウ よって、本件発明は、少なくとも本件明細書に記載されていない発明を含
むものであるといえる。
(原告の主張)
否認ないし争う。
ア 被告の主張ア 、イ について
5 別紙対比表記載のとおり本件明細書には誤記があり、誤記訂正後の【00
63】等によれば、傾斜走行時に検出される検出横G(Gken)には、ロ

ール速度の変化の影響である加速度成分(Ψ・Rhsen)が重畳されてい
ること、そして、重畳された当該加速度成分は、傾斜角速度センサーの速度

変化である傾斜角加速度(Ψ)を減算することで取り除くことができること
10 が分かる。よって、「横加速度を検出する加速度センサーのロールによる影
響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導出方法」
(構成
要件1F)は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている。また、補
正後の横G(Ghosei)の導出方法は、加速度センサーのロールによる
影響を取り除き、
「走行時の傾斜により検出された検出横G(Gken)に車
15 両のロールによる誤差が重畳される」という課題を解決できるものと認識で
きる。
イ 被告の主張ア 、イ について
本件明細書の【0050】【0060】によれば、ハイブリットセンサー

20により検出される数値、すなわち、①加速度や傾斜角速度といった数値
20 ないしそれに対応する車両の動きを含む概念として「車両挙動」と表現して
いる。さらに、
【0080】によれば、②ニュートラルステアー、オーバース
テアー、アンダーステアーといった走行軌跡となる車両の動き(横滑り)を
含む概念として「車両挙動」と表現している。さらに、
【0083】によれば、
補正後の横G(Ghosei)を用いて、規範横G(Gkihan)との差
25 分である偏差G(Ghensa)を導出することで、アンダーステアーやオ
ーバーステアーといった「車両挙動」を判断することが説明されている。
以上を前提に、
【0084】の記載から、アンダーステアーかオーバーステ
アーか(すなわち、Ghensaがマイナス符号かプラス符号か)及び角速
度(Ψ)が傾斜側又は倒立側にどの程度発生しているかに応じて、配分比を
決定することが分かる。このことから、本件明細書には、角速度(Ψ)が傾
5 斜側又は倒立側にどの程度発生しているか、すなわち上記①の「車両挙動」、
及びアンダーステアーかオーバーステアーか(Ghensaがマイナス符号
かプラス符号か)、すなわち上記②の「車両挙動」により配分比、すなわち目
標制動力を決定することが示されている。
明確性要件違反があるか(争点4-2)
10 (被告の主張)
ア 本件発明1について
構成要件1Hについて、本件明細書に記載されているのは、「傾斜角速度
(Ψ)とGhensaとの組合せ」によって車両挙動を解析することであっ
て、本件明細書には「前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の横G(Ghos
15 ei)の組み合せ」により、車両挙動を判断することについては一切示され
ていない。その結果、構成要件1Hにおいて、
「前記傾斜角速度(Ψ)と前記
補正後の横G(Ghosei)の組み合わせにより」車両挙動が判断される
ことの技術的な意義を理解することができず、本件発明1は不明確である。
さらに、Ghensaは傾斜角速度の測定値(Ψ)のみの関数となってお
20 り、加速度センサーで測定される横Gの値や、補正後の横G(Ghosei)
の関数とはなっていない。つまり、本件明細書等に記載の発明では、傾斜角
速度の測定値(Ψ)のみの値に基づいてGhensaが算出され、このGh
ensaに応じて前後ブレーキの配分比が決定される。この点からしても、
構成要件1Hにおいて、
「前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の横G(Gho
25 sei)の組み合わせにより」車両挙動が判断されることの技術的な意義を
理解することができず、本件発明1は不明確である。
イ 本件発明2について
構成要件2Eについて、本件明細書には、「横加速度を検出する加速度セ
ンサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghos
ei)の導出方法」は一切示されていない。その結果、
「ロールによる影響を
5 取り除く演算」を行うことの技術的な意義を当業者が理解することはできず、
本件発明2は極めて不明確である。
(原告の主張)
否認ないし争う。前記 の原告の主張のとおりである。
補正要件違反があるか(争点4-3)
10 (被告の主張)
ア 平成21年7月27日付け手続補正の補正要件違反
新規事項1
原告は、以下の図23を新たに追加したところ、これは、新規事項の追
加に当たる。
新規事項2
本件明細書【0090】の記載のうち、少なくとも「U.S.状態にあ
れば、前輪が80%後輪が20%O.S.状態にあれば、前輪が20%後
輪が80%になる事を示している。 との事項、
」 及び、
「また、このU.S.
/O.S./N.S.の線の引き方によりGhensaと角速度変化に応
じた前後輪へのブレーキ配分の重み付け変更が可能である。引き方は、直
線とは限らない。ここで示している配分比は、説明のために用いたもので
5 あり配分比を限定するものではない。 との追加部分は、
」 いずれも、当初明
細書等には一切記載されていない。
新規事項3
本件明細書の【0084】のうち、少なくとも「油圧フィードバックは、
油圧の圧力検出信号でありPIDコントローラーの出力結果でもあるが
10 油圧系の温度による伝達特性の応答性改善にも使用することができる。」
との追加部分は、当初明細書等に一切記載されていない。
イ 平成23年10月18日付け手続補正の補正要件違反
新規事項4
本件明細書の【0063】のうち、少なくとも「しかしながら、センサ
15 ーの実車への配置が車体中心線から離れると円周上の軌跡とGセンサー
の検出方向(接線)とが離れていく事象が生じることから、Rsenとh
senが等しくならず無視できない状況に陥ると傾斜角度による補正な
どが必要になってくる。よって、センサー配置は重心位置近くであり車体
中心線上にあるのが望ましい。」との追加部分は、当初明細書等に一切記
20 載されていない。
新規事項5
本件明細書の【0069】のうち、少なくとも「傾斜角の範囲全体に渡
り理論検出横Gが存在していることが容易にわかる。」との追加部分は、
当初明細書等に一切記載されていない。
25 新規事項6
本件明細書の【0073】のうち、少なくとも「この様に、式の『Ψ・
Rhsen』の項について、ゼロにしたデーターは、定常円旋回時に得ら
れたデーターと呼ばれることがある。 との追加部分、
」 及び「これらの理論
検出横Gの上記等号式に関わる上記変数には、傾斜角の範囲全体に渡り、
傾斜角に応じ検出される車両特有の横加速度の数値が関係として導かれ
5 る。」との追加部分は、当初明細書等に一切記載されていない。
新規事項7
本件明細書の【0088】の、
「よって、Gkihanは、ある傾斜角の
時に既に定常円旋回などから得られたデーターを基に数値が導かれてい
る。Ghoseiは、上記のある角度において変化する傾斜変化の補正を
10 行った定義上の傾斜変化ゼロの横Gであるため、リアルタイムに補正され
たデーターには外部から加えられた車体のロール因子以外のGが数値と
して含まれている。偏差横Gは、時々刻々と角度が変化することへの追従
されるGとする為の式であり、ある傾斜角における外部から加えられた横
加速度であり、重量を掛ければ加えられた外力となる。 との追加部分は、

15 当初明細書等に一切記載されていない。
(原告の主張)
否認ないし争う。
ア 新規事項1について
被告が指摘する事項は、当初明細書の【0090】、図19の記載から自
20 明である。
イ 新規事項2について
被告が指摘する事項は、当初明細書の【0090】、図19の記載から自
明である。
ウ 新規事項3について
25 被告が指摘する事項は、当初明細書の図19で言及されているPIDコ
ントローラーを使用する当業者にとっては自明である。
エ 新規事項4について
被告が指摘する事項は、当初明細書の【0014】【0046】【00
、 、
61】【0062】【0063】及び図8の記載から自明である。
、 、
オ 新規事項5について
5 被告が指摘する事項は、当初明細書の【0027】の表1、【0086】
及び【0087】の記載から自明である。
本件発明は、乙9公報に記載された発明と同一であるか、又は同発明を主引
例発明とする進歩性欠如があるか(争点4-4)
(被告の主張)
10 別紙新規性、進歩性に係る被告の主張記載のとおり。
(原告の主張)
ア 新規性について
乙9公報に記載された発明は、「横加速度を検出する加速度センサーのロ
ールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横G(Ghosei)の導

15 出方法」を有していないことが明らかである。それゆえ、傾斜角加速度(Ψ)
と補正後の横G(Ghosei)の組合せにより判断される「車両挙動」に
応じた目標制動力の決定が行われていないことも明らかである。したがって、
本件発明と乙9公報に記載の制御装置及び駆動システムとは、「横加速度を
検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正
20 後の横G(Ghosei)の導出方法」(構成要件1F)「当該車両におい

て、前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の横G(Ghosei)の組合せに
より、車両挙動が判断され」(構成要件1H)及び「該車両挙動に応じた目
標制動力が決定され」の有無の点で明確に異なることから、本件発明は何ら
新規性を欠くものではない。
25 イ 進歩性について
被告のいうように乙6資料に記載された計算式から「 ? − ℎ?̇ ? )の演算
(?
式」を論理的に導くことが可能であったとしても、そのことから、自動二輪
車に搭載された加速度センサーにロールによる加速度が重畳されてしまう
こと、傾斜角速度センサーの検出値を微分して得られた傾斜角加速度を減算
することで重畳された当該加速度を排除することが可能であること及び
5 「 ? − ℎ?̇ ? )の演算式」自体が、本件発明の出願当時に公知であったとい
(?
うことは到底できない。よって、当業者において、乙9公報及び乙6資料の
記載から当該相違点に係る構成が容易に想到できたとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 本件明細書に記載された本件発明の意義
10 本件明細書には、別紙本件明細書の記載があり、それによれば、本件発明の意
義は次のように説明されている。
傾斜走行を伴う自動二輪車等の安全装置である自動ブレーキ装置を実現する
ため、自動二輪車等の傾斜角を検出する方式が提案されてきた。しかし、これま
での横Gセンサーの計測値から算出した検知方法では、走行中は、遠心力の作用
15 により、横Gセンサーの計測値から傾斜角度を算出することができなかった。ま
た、角速度センサーのみを用いる方法では、誤認識をしてしまう可能性があった。
本件発明は、自動二輪車等について、走行時の横Gセンサーと角速度センサー
を関連付けることによって、従来は、正確な傾斜角の検出ができなかった諸問題
を解決して、車両の走行状態での正確な横G(なお、この「正確な横G」が何を
20 意味するのか(何と比べて横(水平)なのか)の記載は本件明細書にはない。)
を検出し、ひいては、横Gセンサーと角速度センサーを関連付けることにより、
車両の挙動を把握することが可能になり、車両挙動を安定化するための自動ブレ
ーキ装置の実現を目的とするものである。
そして、本件発明により、これまで関連付けがされてこなかった走行時の傾斜
25 角と横Gの関係が明確になり、走行状態での車両挙動が評価できるようになり、
傾斜走行時に傾斜角に応じ車両を安定に制御するための基準(規範横G)が計算
できることとなり、車両傾斜時のブレーキアシストによる車両の安定制御が可能
になる。
(以上、
【0001】【0003】
、 【0008】【0010】【0012】
、 、
等)。
2 サポート要件違反があるか(争点4-1)について
5 本件発明1について
ア 本件発明1の構成要件1Fは、「前記信号演算として、横加速度を検出す
る加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った補正後の横
G(Ghosei)の導出方法を少なくとも有し、」というものであり、構
成要件1Hは、「当該車両において、前記傾斜角速度(Ψ)と前記補正後の
10 横G(Ghosei)の組合せにより、車両挙動が判断され、・・・」とい
うものであり、本件発明1は、算出された補正後の横G(Ghosei)を
利用するECUによって車輪を適切に制動し、これによってロール方向の挙
動の抑制を図る車両ブレーキ制御装置(構成要件1I)であるとされている。
そして、本件発明1は、前記1のとおり、自動二輪車等の制御装置につ
15 いて、従来は、正確な傾斜角の検出ができなかったという課題を解決して、
車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたというものである。
これらからすると、構成要件1F及び1Hの「横G(Ghosei)」は、
従来はできなかった正確な傾斜角の検出を行うなどした上で算出された、
車両の傾斜走行状態での正確な横Gであると認められる。
20 ここで、制動指令の前提となる「横G(Ghosei)」は、
「横加速度を
検出する加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算を行った」
(構
成要件1F)ものであるとされていることから、「横G(Ghosei)」
は、横加速度を検出する加速度センサーの検出値を基に、これに補正をか
けて得られる値であると理解できる。もっとも、本件発明1の特許請求の
25 範囲には、「横G(Ghosei)」について、単に加速度センサーの値か
ら「ロールによる影響を取り除く演算を行った」(構成要件1F)と記載す
るのみで、どのような演算をするかは明示されていない。そうすると、特
許請求の範囲には、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載さ
れ、その解決のための構成は記載されていないといえる。
イ 本件明細書には本件発明の意義として前記1のとおりの記載があり、車両
5 の正確な傾斜角の検出ができず、正確な横Gを検出できなかったという課題
を解決して、車両の走行状態での正確な横Gを検出できるようにしたという
ものであるとされている。
もっとも、本件明細書には、従前は検出できなかった正確な傾斜角の検出
をどのようにするかや、その傾斜角が判明した場合に正確な横Gを算出する
10 ためにどのような補正を行うかについての記載はない。
他方、本件明細書には、センサーによる検出結果を補正して横Gを算出す
る方法として、
Ghosei = Gken - (Ψ・Rhsen) (式A)
との記載がある 【0073】。
( ) 本件明細書の【0073】では、
「Gken」
15 は、実際の走行傾斜時に検出される検出横Gであるとされ、「Ψ」は傾斜角
速度、「Ghosei」はΨを用いたGkenの補正後の横Gであるとされ
ていて(なお、
「Rhsen」について、本件明細書には定義がないものの、
「hsen」について路面とセンサとの距離であることを示唆する記載があ
ったり(【0050】
【0058】
【0061】、図8、9)「RはGセンサー

20 #23の実車取付けの高さ(図8b hsen)(
」【0063】)との記載、
Ψ・Rhsenについて、Rhsenに1を代入した上で「但し、センサー
取り付け高さ Rを1mとする。」との記載(【0074】)があったりする
ことから、「Rhsen」車体を垂直にしたときのセンサ取り付け位置の高
さであることを一応推測できる。、その「Ghosei」は、本件発明の課

25 題として言及されている「正確な横G」であると理解することができる。そ
して、式Aは、その体裁から、本件発明の意義(前記1参照)として記載さ
れている、「横Gセンサー」で検出されたGkenと「角速度センサー」で
検出されたΨを用いて「正確な横G」を算出する方法を記載した式であると
理解できる。
しかしながら、「Ψ・Rhsen」からは、傾斜角は算出されないし、式
5 Aから、傾斜角を算出することなく「正確な傾斜角の検出ができなかった諸
問題」が解決されていると理解することもできない。さらに、Ghosei
及びGkenは、加速度の次元(長さ/時間2)を有し、Ψ・Rhsenは
速度の次元(長さ/時間)の次元を有していることから、式Aは物理学上、
明らかに意味を持たない式である(弁論の全趣旨)。
10 そして、本件明細書には、式Aの他に、センサーによる測定値を基に「正
確な横G」を算出する方法についての記載はない。
ウ 本件明細書によれば、本件発明は、車両制御のためには「正確な横G」の
取得が必要であるところ、横加速度を検出する加速度センサーの値をその
まま用いることができないこと、当該値から正確な横Gを算出するために
15 は傾斜角度を取得することが必要だがそれができないことが課題として記
載され、本件発明はその課題に対して、車両の傾斜走行状態での正確な横
Gを算出したものであるとされており、「横加速度を検出する加速度セン
サーのロールによる影響を取り除く演算を行った」という「横G(Ghos
ei)」についての、当該演算が、本件発明の課題解決の根幹に当たる部分
20 であるといえるといえる。
しかしながら、特許請求の範囲には、その演算について、従来の課題を
解決するに足りる構成は記載されていない。また、本件明細書の発明の詳
細な説明をみても、関係する記載は前記イのとおりである。本件明細書の
式A(【0073】)が、一応、上記の演算であると理解することはできる
25 が、他に、関係する記載はない。そして、前記イのとおり、式Aは本件発明
の課題とされている傾斜角を算出しない上、そもそも物理学上意味をなさな
い式であり、当業者はおよそ式Aを用いて車両制御に利用可能な横G(Gh
osei)が算出できると理解できるものではない。
エ 原告は、本件明細書の記載は、別紙対比表のとおり誤記があり、正しく
は同表の「訂正後」欄記載のとおりであると主張する。構成要件1Fの「演
5 算」については、式Aのみが当たり得るところ、式Aは前記イで認定した
とおり、次元の異なる物理量の差し引きをしていることから物理学上意
味をなさない式であり、当業者は、式Aに何らかの誤りがあると理解する
ことができるといえる。この点について式Aについて、原告が主張すると
おり

10 Ghosei=Gken-(Ψ・Rhsen) (式A´)

(ただし、「Ψ」は傾斜角加速度)
の誤記であると理解すれば、減算される物理量の次元が異なるという問題
については解消される。しかし、次元を整える目的のみであれば、その訂
正の方法は式A´とすることに限られるものではないのであり、他に解消
15 方法を考え得るのであり、その考え得る解消方法が物理法則やそれを踏ま
えた技術常識等に照らして不合理であることを認めるに足りる証拠はな
い。そうすると、式Aの記載のみから、どのような誤記であるかのかが一
義的に定まるものであるとはいえない。

さらに、原告は、式Aについて「Ψ」を「Ψ」に訂正するに当たって、
20 そのままでは式Aに関する説明が記載されている【0073】のその他の
記載と矛盾が生じるため、式Aのみならず、同段落における他の「Ψ」の

記載も「Ψ」に訂正し、1か所の「傾斜角速度」との記載も「傾斜角加速
度」に訂正するものとしている。
しかし、原告が主張する訂正により、訂正後の【0073】は、
「この補
25 正後の横G(Ghosei)は、(0063)式のGkenから傾斜角加速

度(Ψ)を用いた補正であり、
(0067)の式に対して、傾斜角が変化し

ない状況である。すなわち、式の「Ψ・Rhsen」の項については、ゼ
ロとなることから二つの式を整理し記述すると、・・・」との記載を含むこ

とになるが、傾斜角加速度(Ψ)がゼロであっても、傾斜角速度(Ψ)が
ゼロでないとき(定速傾斜時)は傾斜角が変化する状況なのだから、傾斜
. .
5 角加速度(Ψ)に関する項「Ψ・Rhsen」がゼロであることは直ちに
「傾斜角が変化しない状況」を意味するものではないから、原告が主張す
る訂正をすると同記載部分の趣旨が理解できなくなってしまう。他方で、

当該箇所について、
「Ψ」を「Ψ」に訂正しなければ、その内容は理解可能
である。
10 同様に、原告が主張する訂正後の【0073】の「・・・この様に、式

の「Ψ・Rhsen」の項について、ゼロにしたデーターは、定常円旋回
時に得られたデーターと呼ばれることがある。・ 」
・ ・ との記載についても、
定常円旋回時には、傾斜角が一定になるため、
「傾斜角速度」が0になると
ころ、
「傾斜角加速度」に関する項が0になっても、
「傾斜角」が変化しな
15 いとは限らない(傾斜角加速度が0の場合には、定速傾斜の場合も含まれ
る。)のであるから、訂正すると同記載部分の趣旨が理解できなくなって
しまう。この点についても、当該箇所について訂正しなければその内容は
理解可能である。
さらに、式Aは、測定された加速度(Gken)を角速度(Ψ)の値に
20 よって補正する式であるといえるが、これは、「走行時の横Gセンサーと
角速度センサーを関連付けることによって、従来は、正確な傾斜角の検出
ができなかった諸問題を解決」(前記1)という本件明細書に記載されて
いる課題解決の基本的な方法として明示されている手法に文言上最も沿
うものである。他方、式Aを式A´に訂正すると少なくとも直接的にはこ
25 れに文言上最も沿うものとはいえない内容になってしまう。
また、原告は、誤記を訂正した後の【0063】の記載によれば、傾斜
走行時に検出される検出横G(Gken)には、ロール速度の変化の影響

である加速度成分(Ψ・Rhsen)が重畳されていること、重畳された
当該加速度成分は、傾斜角速度センサーの速度変化である傾斜角加速度

(Ψ)を減算することで取り除くことができることが分かるなどと主張す
5 る。
しかし、前記イで説示したとおり、本件明細書においてセンサーで取得
した加速度の値を修正して得られる制御に用いる加速度として言及され
ているのは【0073】の横G(Ghosei)のみであり、
【0063】
には、本件発明1の「横G(Ghosei)」の算出方法は記載されてい
10 ない。仮に、【0063】に本件発明1に係る「加速度センサーのロール

による影響を取り除く演算」が「Ψ・Rhsen」を減算する趣旨である
ことを示唆する記載があると評価できるとしても、【0073】の方がよ
り直接的な制御に用いる修正後の加速度を算出する方法に関する記載で
あると評価できるにもかかわらず、式Aについては、前記イで説示した問
15 題がある。
また、【0063】には、
Gken=g・cosΦ・tanρ-Ψ・Rhen

(訂正後は「Gken=g・cosΦ・tanρ+Ψ・Rhsen」)

という式が記載されており、訂正後の式には「Ψ・Rhsen」という項
20 が含まれているものの、これを減算(訂正後は加算)した「g・cosΦ・
tanρ」が物理学上、本件発明で算出することが課題とされている「正
確な横G」に当たり、同物理量が判明すれば「正確な傾斜角の検出ができ
なかった諸問題」を解決できるものと理解できると認めるに足りる証拠は
ない。そうすると、仮に【0063】の記載が原告の主張するとおりの誤
25 記であると認定できるとしても、当該式のみからでは、センサーによる検

出値である「Gken」から「Ψ・Rhsen」を減算することが課題解
決につながり、構成要件1Fの「ロールによる影響を取り除く演算」に当
たるものであると理解できるとはいえない。
また、原告の主張中には、【0063】より前の【0061】【006

2】の記載から【0063】の記載が誤記であることが理解できると主張
5 する部分があるが、
【0061】、
【0062】にも多数の誤記があり、
「Ψ」

と「Ψ」に関する誤記のみならず「-」と「+」に関する誤記まであり、
どの部分が誤記であるのか容易に理解できるとは認め難い。もともと、本
件明細書では、その全体にわたって、その説明の当初から基本的に一貫し
て加速度の次元の物理量から角速度(周速度)の次元の物理量を加算ない
10 し減算するという式を前提とする内容で説明が記載されていて、前記エ
で説示したとおり、当該式に直接関連しない部分についてもこれと矛盾し
ない内容になっていた。そのような本件明細書について、当該式を訂正す
ると別の部分と矛盾が生じる内容になっている。これらからすると、当業
者は、本件明細書に記載の誤りがあることを理解するとしても、本件明細
15 書において、本来どのようなことが記載されようとしていたのかや、どの
部分がどのような誤記であるかを理解することができるとは認められな
い。
以上のとおり、当業者は、式Aに含まれる項の次元が異なることから何
らかの誤りがあることは理解できるものの、次元の違いによる問題を解消
20 する方法は原告が主張する訂正に限られるものではなく、また、式Aの内
容等から、次元の違いによる問題を解消するためには、式A´に訂正する
以外の方法はないと当業者が理解できると認めるに足りる証拠はない。さ
らに、式Aの訂正と整合するように、本件明細書の式Aに関する記載部分
を訂正していくと、それまで問題なかった明細書の記載の趣旨が理解でき
25 なくなったり、整合しなくなってしまうことが認められる。
これらの事情からすると、本件明細書の記載から、式Aが式A´の誤記
であると理解できるとはいえない。よって、式Aについて式A´の誤記で
あると理解できることを前提とする原告の主張はその前提を欠く。
オ 本件発明1の意義は前記1のとおりである。そして、本件発明1の構成
要件1Fには、従来の課題を解決するものを用いることのみが記載され、
5 その解決のための構成は記載されていないといえるところ、前記ウのと
おり、その課題の解決のための構成について、本件明細書に記載がある
とはいえない。また、その記載がないにも関わらず、当該課題について、
当業者がそれを解決できると認識できることを認めるに足りない。そう
すると、本件発明1は、本件明細書に記載された説明で、本件明細書の発
10 明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認
識できる範囲のものであるとはいえないし、当業者が技術常識に照らし発
明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。よって、本
件発明1は、本件明細書に記載された発明であるとはいえない。
本件発明2について
15 ア 本件発明2は、算出された補正後の横G(Ghosei)を利用する、自
動二輪車の車両解析装置であるとされており、横G(Ghosei)の算出
方法については、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと傾斜
角速度の積との差分を求めるものとされている。
本件明細書においてこれに関する記載としては式Aに関する記載がある
20 が、当該記載は本件明細書に記載された課題を解決する発明であると理解で
きないものであることについては、前記 で説示したとおりである。他に本
件明細書には当該部分に係る記載があるとはいえない。よって、本件発明2
は本件明細書に記載されている発明であるとはいえない。
イ この点について、原告は、構成要件2Eの補正後の横G(Ghosei)
25 の算出方法について、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと
「傾斜角速度」の積との差分との記載は、横加速度から加速度センサーの
車両取り付け高さと「傾斜角加速度」の積との差分の誤記であると主張す
る。
しかし、本件明細書には、補正後の横Gに関する記載は式Aに関する記
載しかなく、ここには、「傾斜角加速度」の積との記載はない。原告は、式
5 Aが式A´の誤記であると主張するが、これが誤記であると理解できない
ことについては前記 エで説示したとおりである。そうすると、仮に構成
要件2Eが2E´の誤記であると理解できるとしても、本件発明2が本件
明細書に記載された発明であるとは認められない。
よって、本件発明のいずれについても、本件明細書に記載された発明であ
10 るとはいえず、サポート要件を欠くものであると認められる。
第4 結論
以上のとおりであって、本件発明のいずれについてもサポート要件を欠き、こ
れらの発明に係る特許について、特許無効審判により無効にされるべきものとい
える。したがって、原告はその権利を行使することができず、その余の争点につ
15 いて判断するまでもなく、原告の請求には理由がないから棄却することとし、主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
20 裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 杉 田 時 基
裁判官 仲 田 憲 史
別紙 本件明細書
(記載省略)


別紙 対比表
訂正後 訂正前 備考
【訂正特許請求の範囲】 【特許請求の範囲】
【請求項4】 【請求項4】
前記車両のECUにおいて、 前記車両のECUにおいて、
前記信号演算として、加速度センサ 前記信号演算として、加速度センサ
ーのロールによる影響を取り除く ーのロールによる影響を取り除く
演算を行った補正後の横G(Gho 演算を行った補正後の横G(Gho
sei)の導出方法として、前記検 sei)の導出方法として、前記検
出された横加速度(Gken)から 出された横加速度(Gken)から
加速度センサーの車両取り付け高 加速度センサーの車両取り付け高
さ(hsen)と前記検出された傾 さ(hsen)と前記検出された傾
斜角速度(Ψ)の時間微分で得られ 斜角速度(Ψ)の積、との差分を求 追加
る傾斜角加速度の積、との差分を求 めること、の導出方法を有する事、
めること、の導出方法を有する事、 を特徴とする請求項1または請求
を特徴とする請求項1または請求 項3に記載のブレーキ制御装置。
項3に記載のブレーキ制御装置。
【請求項7】 【請求項7】
所謂自動二輪車であり少なくても 所謂自動二輪車であり少なくても
2つの車輪を有する車両の車両解 2つの車輪を有する車両の車両解
析に用いられる装置であって、該車 析に用いられる装置であって、該車
両解析装置は、前記車両の車両挙動 両解析装置は、前記車両の車両挙動
から得られた信号演算を行う装置 から得られた信号演算を行う装置
であり、前記車両の車両挙動から得 であり、前記車両の車両挙動から得
られる検出信号として、進行方向に られる検出信号として、進行方向に
対して左右横方向の加速度を検出 対して左右横方向の加速度を検出
する横加速度と、左右ロール方向の する横加速度と、左右ロール方向の
状態を検出する傾斜角速度と、加速 状態を検出する傾斜角速度(A)ま 削除
度センサーの車両取り付け高さと、 たは傾斜角度のどちらか一方もし
が少なくとも入力されており、 くは両方と、加速度センサーの車両
取り付け高さと、が少なくとも入力
されており、
信号演算として、前記傾斜角速度を 信号演算として、前記傾斜角速度
少なくとも用い、 (A)または、前記傾斜角度の時間 削除
微分で得られる傾斜角速度(B)の
いずれかの傾斜角速度を少なくと
も用い、
前記横加速度の補正演算として、加 前記横加速度の補正演算として、加
速度センサーのロールによる影響 速度センサーのロールによる影響
を取り除く演算を行った補正後の を取り除く演算を行った補正後の
横G(Ghosei)の導出方法と 横G(Ghosei)の導出方法と
して、前記横加速度から前記加速度 して、前記横加速度から前記加速度
センサーの車両取り付け高さと前 センサーの車両取り付け高さと前
記傾斜角速度の時間微分で得られ 記傾斜角速度(A)または傾斜角速 変更
る傾斜角加速度の積、との差分を求 度(B)のいずれかの積、との差分
め、 を求め、
該導出された補正後の横G(Gho
該導出された補正後の横G(Gho sei)に基づき車両解析がされる
sei)に基づき車両解析がされる こと、を特徴とする挙動解析装置。
こと、を特徴とする挙動解析装置。
【訂正明細書】 【明細書】
【0061】 【0061】
走行中のハイブリットセンサー2 走行中のハイブリットセンサー2
0には、路面との距離hsenがあ 0には、路面との距離hsenがあ
り車両が左右にロール(ロール速度 り車両が左右にロール(ロール速度
は角速度検出値(Ψ))することで は角速度検出値(Ψ))することで
センサーはタイヤを軸とする円周 センサーはタイヤを軸とする円周
上の軌跡を通過することになるが 上の軌跡を通過することになるが
角速度センサー22の変化は円周 角速度センサー22の変化は円周
上の軌跡上の速度変化として発生 上の軌跡上の速度変化として発生
する。すなわち、速度変化は加速度 する。すなわち、速度変化は加速度
であるから加速度センサー23に であるから加速度センサー23に
重畳され検出されるため角加速度 重畳され検出されるため角速度に 追加
による補正項を減算する必要があ よる補正項を減算する必要がある。
る。 以上のことから、走行傾斜時に検出
以上のことから、走行傾斜時に検出 されるべく横G(Gken)の考え
されるべく横G(Gken)の考え 方は、
方は、 Gken=(ベクトル(C) -
) (ベ
Gken=(ベクトル(C) -
) (ベ クトル(D’))-(Ψ)となる。 変更

クトル(D’))+(Ψ)となる。 変更
【0062】 【0062】
それぞれのベクトルを式として表 それぞれのベクトルを式として表
せば せば
Gken=(g・sinΦ) {A’ Gken=
- ・ (g・sinΦ) {A’
- ・
cos(90-Φ+ρ)}・cos cos(90-Φ+ρ)}・cos
Φ Φ

+(Ψ・Rhsen) -(Ψ・Rsen) 変更
式を整理し 式を整理し 変更
Gken=g{sinΦ-tan Gken=g{sinΦ-tan 追加

(Φ-ρ)・cosΦ}+Ψ・Rh (Φ-ρ)・cosΦ}-Ψ・Rs 変更
sen en
ρは、前記したようにΦの一時関数 ρは、前記したようにΦの一時関数
とするとき とするとき
Gken=g{sinΦ-tan Gken=g{sinΦ-tan

(Φ・Kp)・cosΦ}+Ψ・R (Φ・Kp)・cosΦ}-Ψ・R 変更
hsen sen 追加
を導くことができる。 を導くことができる。
【0063】 【0063】
この式のg{sinΦ-tan(Φ・ この式のg{sinΦ-tan(Φ・
Kp)・cosΦ}の部分は、重力 Kp)・cosΦ}の部分は、重力
成分と遠心力成分の差分を求める 成分と遠心力成分の差分を求める
構成になっているため、直接傾斜の 構成になっているため、直接傾斜の
戻り角から求める式に変換すれば、 戻り角から求める式に変換すれば、
Gken=g・cosΦ・tanρ Gken=g・cosΦ・tanρ

+Ψ・Rhsen -Ψ・Rhen 変更
と変形でき、シンプルな式になる。 と変形でき、シンプルな式になる。
ここで、表されるΦは車両の理論バ ここで、表されるΦは車両の理論バ
ンク角度であり理論傾斜角でもあ ンク角度であり理論傾斜角でもあ
る、傾斜角速度センサー22から検 る、傾斜角速度センサー22から検
出される角速度Ψ(rad/se 出される角速度Ψ(rad/se
c)を時間積分して得られた角度で c)を時間積分して得られた角度で
あり、ρは傾斜戻り角であり、Rは あり、ρは傾斜戻り角であり、Rは
Gセンサー#23の実車取付けの Gセンサー#23の実車取付けの
高さ(図8bhsen)をそれぞれ 高さ(図8bhsen)をそれぞれ
示している。 示している。
ここでのセンサーの配置と検出に ここでのセンサーの配置と検出に
ついて明確にする。 ついて明確にする。
センサーの配置については、(00 センサーの配置については、(00
61)文中にも「・・・路面との距 61)文中にも「・・・路面との距
離hsenがあり、センサーはタイ 離hsenがあり、センサーはタイ
ヤを軸とする円周上軌跡を通過す ヤを軸とする円周上軌跡を通過す
る・・・」ことが(0062)式の る・・・」ことが(0062)式の
「・・・(Ψ・Rsen)」で記述 「・・・(Ψ・Rsen)」で記述
される。センサーの検出方向として される。センサーの検出方向として
の軸は、横方向の加速度であり、
(図 の軸は、横方向の加速度であり、
(図
8b))及び(図9)のGkenが 8b))及び(図9)のGkenが
示す方向であり、前記の円周との接 示す方向であり、前記の円周との接
線といえる。すなわち、車体の倒立 線といえる。すなわち、車体の倒立
が鉛直線と一致するとき車体中心 が鉛直線と一致するとき車体中心
線は鉛直線と重なり、円周上の半径 線は鉛直線と重なり、円周上の半径
hsenで定まる高さのポイント hsenで定まる高さのポイント
も前記の接線も一点で合致し横加 も前記の接線も一点で合致し横加
速度補正に用いるRsenは理想 速度補正に用いるRsenは理想
に近づく。しかしながら、センサー に近づく。しかしながら、センサー
の実車への配置が車体中心線から の実車への配置が車体中心線から
離れると円周上の軌跡とGセンサ 離れると円周上の軌跡とGセンサ
ーの検出方向(接線)とが離れてい ーの検出方向(接線)とが離れてい
く事象が生じることから、Rsen く事象が生じることから、Rsen
とhsenが等しくならず無視で とhsenが等しくならず無視で
きない状況に陥ると傾斜角度によ きない状況に陥ると傾斜角度によ
る補正などが必要になってくる。よ る補正などが必要になってくる。よ
って、センサー配置は重心位置近く って、センサー配置は重心位置近く
であり車体中心線上にあるのが望 であり車体中心線上にあるのが望
ましい。 ましい。
【0064】 【0064】
g・cosΦ・tanρを第一項と g・cosΦ・tanρを第一項と

し、Ψ・Rhsenを第二項として し、Ψ・Rhsenを第二項として 変更
説明する。 説明する。
【0073】 【0073】
続いて、制御装置として構築する方 続いて、制御装置として構築する方
法に移る。 法に移る。
実際の走行傾斜時に検出される検 実際の走行傾斜時に検出される検
出横G(Gken)は、傾斜角の時 出横G(Gken)は、傾斜角の時

間的変化である傾斜角加速度(Ψ) 間的変化である傾斜角速度(Ψ)を 追加
を用いた補正が必要であることか 用いた補正が必要であることから 変更
ら補正後の横G(Ghosei)は 補正後の横G(Ghosei)は

Ghosei=Gken-(Ψ・R Ghosei=Gken-(Ψ・R 変更
hsen) hsen)
として表される。 として表される。
この補正後の横G(Ghosei) この補正後の横G(Ghosei)
は、(0063)式のGkenから は、(0063)式のGkenから

傾斜角加速度(Ψ)を用いた補正で 傾斜角速度(Ψ)を用いた補正であ 追加
あり、(0067)の式に対して、 り、(0067)の式に対して、傾 変更
傾斜角が変化しない状況である。す 斜角が変化しない状況である。すな

なわち、式の「Ψ・Rhsen」の わち、式の「Ψ・Rhsen」の項 変更
項については、ゼロとなることから については、ゼロとなることから二
二つの式を整理し記述すると、上記 つの式を整理し記述すると、上記の
のGhoseiの等号式は、 Ghoseiの等号式は、
Ghosei=Gken=g・co Ghosei=Gken=g・co
sΦ・tanρ=理論検出横G(G sΦ・tanρ=理論検出横G(G
kihan) kihan)

の関係となる。この様に、式の「Ψ・ の関係となる。この様に、式の「Ψ・ 変更
Rhsen」の項について、ゼロに Rhsen」の項について、ゼロに
したデーターは、定常円旋回時に得 したデーターは、定常円旋回時に得
られたデーターと呼ばれることが られたデーターと呼ばれることが
ある。 ある。
そして、これらの理論検出横Gの上 そして、これらの理論検出横Gの上
記等号式に関わる上記変数には、傾 記等号式に関わる上記変数には、傾
斜角の範囲全体に渡り、傾斜角に応 斜角の範囲全体に渡り、傾斜角に応
じ検出される車両特有の横加速度 じ検出される車両特有の横加速度
の数値が関係として導かれる。 の数値が関係として導かれる。
【0074】 【0074】

補正項として用いているΨ・Rhs 補正項として用いているΨ・Rhs 変更
enの部位の影響度はゆっくりの enの部位の影響度はゆっくりの
スラローム走行で発生し得るロー スラローム走行で発生し得るロー
ル速度の変化を1秒間に0→0.2 ル速度の変化を1秒間に0→0.2
5π「rad/sec」(45de 5π「rad/sec」(45de
g/sec)変化だったと想定した g/sec)変化だったと想定した
場合発生するG(Grol)は 場合発生するG(Grol)は
Grol=0.25*3.14*1 Grol=0.25*3.14*1
=0.785「m/s^2」(但し、 =0.785「m/s^2」(但し、
センサー取り付け高さRを1mと センサー取り付け高さRを1mと
する。) する。)
であり、重力加速度9.81「m/ であり、重力加速度9.81「m/
s^2」との影響度は0.785/ s^2」との影響度は0.785/
9.81を算出すると約8%となり 9.81を算出すると約8%となり
制御を考える際、無視できない項目 制御を考える際、無視できない項目
であることが分かる。 であることが分かる。
よって、補正の必要性が裏づけされ よって、補正の必要性が裏づけされ
る。 る。
傾斜時の規範横G(Gkihan) 傾斜時の規範横G(Gkihan)
と実際に走行時に発生する補正を と実際に走行時に発生する補正を
行った横G(Ghosei)から、 行った横G(Ghosei)から、
目標値を得るための制御値を求め 目標値を得るための制御値を求め
るには偏差をとればよい。 るには偏差をとればよい。
すなわち、スムーズで安定した走行 すなわち、スムーズで安定した走行
でいるときには前記したように規 でいるときには前記したように規
範Gとなることから補正後の検出 範Gとなることから補正後の検出
横Gと規範Gとの差分を下記の式 横Gと規範Gとの差分を下記の式
から偏差G(Ghensa)を から偏差G(Ghensa)を
Ghensa=Ghosei-G Ghensa=Ghosei-G
kihan kihan
求めることができる。 求めることができる。
【0085】 【0085】
「請求項2」に記述される、 「請求項2」に記述される、
車両に搭載された車両挙動検出用 車両に搭載された車両挙動検出用
センサーとして、進行方向に対して センサーとして、進行方向に対して
左右横方向加速度を検出する加速 左右横方向加速度を検出する加速
度センサー及び進行方向に対して 度センサー及び進行方向に対して
左右ロール方向角速度を検出する 左右ロール方向角速度を検出する
角速度センサーを少なくとも搭載 角速度センサーを少なくとも搭載
する車両において、 する車両において、
「請求項1」の車両傾斜角度の検出 「請求項1」の車両傾斜角度の検出
を角速度センサーから検出された を角速度センサーから検出された
角速度出力(Ψ)の値を時間積分し 角速度出力(Ψ)の値を時間積分し
て得られる車体の理論バンク角 て得られる車体の理論バンク角
(Φ)及び直進走行時のタイヤ路面 (Φ)及び直進走行時のタイヤ路面
接地点と傾斜走行時のタイヤ路面 接地点と傾斜走行時のタイヤ路面
接地点の位置移動によって定義さ 接地点の位置移動によって定義さ
れる理論バンク角の傾斜戻り角 れる理論バンク角の傾斜戻り角
(ρ)より、理論バンク角から傾斜 (ρ)より、理論バンク角から傾斜
戻り角を減算した実バンク角(Φ- 戻り角を減算した実バンク角(Φ-
ρ)値を算出し、走行時に発生する ρ)値を算出し、走行時に発生する
左右横方向加速度を 左右横方向加速度を
1) 傾斜走行時の理論検出横G
、 (G 1) 傾斜走行時の理論検出横G
、 (G
kihan)を kihan)を
Gkihan=g{sinΦ-ta Gkihan=g{sinΦ-ta
n(Φ-ρ)・cosΦ} n(Φ-ρ)・cosΦ}
または または
Gkihan=g・cosΦ・ta Gkihan=g・cosΦ・ta
nρ nρ
の式を用いた規範G値の算出、を行 の式を用いた規範G値の算出、を行
う「請求項1」の具現化した算出方 う「請求項1」の具現化した算出方
法 法
2)、走行時に変化する実際の検出 2)、走行時に変化する実際の検出
横G(Gken)を少なくとも傾斜 横G(Gken)を少なくとも傾斜
角の時間微分(dΦ/dt)値であ 角の時間微分(dΦ/dt)値であ

る傾斜角加速度(Ψ)を用いた補正 る傾斜角速度(Ψ)を用いた補正を 追加
を行い、補正後の横G(Ghose 行い、補正後の横G(Ghosei) 変更
i)を を

Ghosei=Gken-(Ψ・R Ghosei=Gken-(Ψ・R 変更
hsen) hsen)
の式を用いて補正した値の算出G の式を用いて補正した値の算出G
値、 値、
3)、1)から求めた理論検出横G 3)、1)から求めた理論検出横G
(Gkihan)と2)から求めた (Gkihan)と2)から求めた
補正後の横G(Ghosei)の差 補正後の横G(Ghosei)の差
分を算出した偏差横G(Ghens 分を算出した偏差横G(Ghens
a)を a)を
Ghensa=Ghosei-G Ghensa=Ghosei-G
kihan kihan
の式を用いて偏差の値の算出G値、 の式を用いて偏差の値の算出G値、
上記1)、2)、3)から、3種類 上記1)、2)、3)から、3種類
の横G値Gkihan、Ghose の横G値Gkihan、Ghose
i、Ghensa、を算出し車両の i、Ghensa、を算出し車両の
挙動をGhensaの値から、 挙動をGhensaの値から、
Ghensa≒0(ゼロ)ならばニ Ghensa≒0(ゼロ)ならばニ
ュートラルステアー(N.S.) ュートラルステアー(N.S.)
Ghensa>0(正)ならばオー Ghensa>0(正)ならばオー
バーステアー(O.S.) バーステアー(O.S.)
Ghensa<0(負)ならばアン Ghensa<0(負)ならばアン
ダーステアー(U.S.) ダーステアー(U.S.)
と判断され、Ghensaの符号と と判断され、Ghensaの符号と
値に基づき演算式又はテーブルに 値に基づき演算式又はテーブルに
従って、前輪後輪へのブレーキ配分 従って、前輪後輪へのブレーキ配分
が決定される事を特徴とする二輪 が決定される事を特徴とする二輪
車のブレーキ装置、 車のブレーキ装置、
について説明する。 について説明する。
【0086】 【0086】
項目1)は、バンク角によって理想 項目1)は、バンク角によって理想
的な横Gが存在しており車両が安 的な横Gが存在しており車両が安
定して走行している際には表1で 定して走行している際には表1で
示したように安定した遠心力の発 示したように安定した遠心力の発
生になることから、車両のロールに 生になることから、車両のロールに
よる角加速度の補正項を取り除い よる角速度の補正項を取り除いた 追加
た傾斜と遠心力とのバランス状態 傾斜と遠心力とのバランス状態を
を検出することである。よって、セ 検出することである。よって、セン
ンサーからの検出G(Gken)か サーからの検出G(Gken)から
ら補正項を取り除き記述すれば規 補正項を取り除き記述すれば規範
範横Gは、Gkihan=g・co 横Gは、Gkihan=g・cos
sΦ・tanρの様に表される。 Φ・tanρの様に表される。
【0087】 【0087】
項目2)は、走行時の傾斜により検 項目2)は、走行時の傾斜により検
出された検出G(Gken)は車両 出された検出G(Gken)は車両
のロールによる誤差が重畳される のロールによる誤差が重畳される
ためロール成分を取り除くために ためロール成分を取り除くために
角加速度の補正を行うことが必要 角速度の補正を行うことが必要と 追加
となる。すなわち、センサーからの なる。すなわち、センサーからの検
検出G(Gken)から規範G成分 出G(Gken)から規範G成分の
の部位を実際の検出される横G(G 部位を実際の検出される横G(Gk
ken)に置換え、角加速度による en)に置換え、角速度による補正 追加
補正を行えば規範同様にロールに を行えば規範同様にロールによる
よる影響を排除した補正後の制御 影響を排除した補正後の制御で使
で使用できるG(hosei)が導 用できるG(hosei)が導け、
け、

Ghosei=Gken-(Ψ・R Ghosei=Gken-(Ψ・R 変更
hsen)の様に表される。 hsen)の様に表される。
ここで補正項として傾斜角加速度 ここで補正項として傾斜角速度を 追加
を加味している理由は、前記したよ 加味している理由は、前記したよう
うに制御上無視できない要素にな に制御上無視できない要素になっ
っているためである。その他にもセ ているためである。その他にもセン
ンサー取り付け高さが加速減速に サー取り付け高さが加速減速によ
よる高さの変化、タイヤ空気圧、タ る高さの変化、タイヤ空気圧、タイ
イヤ横ずれ量等々により変化する ヤ横ずれ量等々により変化するな
など、補正項は考えられるが重要な ど、補正項は考えられるが重要なも
ものに絞る。 のに絞る。
以上
別紙 被告自動二輪車目録
(記載省略)
別紙 新規性、進歩性に係る被告の主張
1 新規性について
(1)本件発明1と乙9公報に記載された発明との対比
ア 構成要件1Aについて
5 乙9公報には以下の記載がある。
「本発明は、自動二輪車の運動状態を制御する自動二輪車の制御装置及び
自動二輪車の駆動システムに関し」(段落0001)
「出力トルク演算部123は、決定した駆動力Fxを発生させるために必
要なモータ14の出力トルク指示値ITmをモータ制御部16に出力する。」
10 (段落0080)
乙9公報には、上記のように、自動二輪車の駆動力を調整することについ
て記載されているが、ブレーキを制御することについて明示的な記載はない。
しかし、原告の主張によれば、本件発明1の「ブレーキ制御装置」は、エン
ジン出力、すなわち、車両の駆動力を調整する装置をも広く含む概念という
15 ことになる。したがって、原告の上記主張を前提とすれば、構成要件1Aは
乙9公報に記載されている。
イ 構成要件1Bについて
乙9公報には以下の記載がある。
「センサ部110は、車速センサ111、操舵角センサ112、ヨーレー
20 トセンサ113、横加速度センサ114及び傾斜角センサ115によって構
成されている。(段落0035)

「車両制御部120は、センサ部110を構成する各センサから出力され
たデータに基づいて、自動二輪車10の運動状態を判定し、自動二輪車10
をニュートラルステアに近付けるように制御する。(段落0039)

25 乙9公報の「車速センサ111」は、構成要件1Bの「車体速検出装置」
に該当する。
乙9公報の「横加速度センサ114及び傾斜角センサ115」は、構成要
件1Bの「車両挙動検出装置」に該当する。
乙9公報の「車両制御部120」は、構成要件1Bの「ECU(コントロ
ールユニット)」に該当する。
5 また、原告の主張を前提とすれば、構成要件1Bの「制動装置」は、車両
の駆動力を調整するための装置を広く包含する概念ということになる。
これらによれば、構成要件1Bは乙9公報に記載されている。
ウ 構成要件1Cについて
乙9公報には以下の記載がある。
10 「車速センサ111は、上述したように、前輪11近傍に装着されており、
自動二輪車10の車速Vを検出する。(段落0036)

上記記載は、車速センサ111が、前輪11の回転速度に基づいて車体速
度を検出するセンサであることを示すものである。
これによれば、構成要件1Cは乙9公報に記載されている。
15 エ 構成要件1Dについて
乙9公報には以下の記載がある。
「傾斜角センサ115は、自動二輪車10に生じる傾斜角、具体的には、
自動二輪車10のバンク角θを検出する。(段落0038)

「横加速度センサ114は、自動二輪車10に生じる横加速度g yを検出
20 する。(段落0037)

傾斜角センサ115が検出する「バンク角θ」は、
「左右ロール方向」の状
態に該当する。また、横加速度センサ114が検出する「横加速度gy」は、
「左右横方向の状態」に該当する。
これらによれば、構成要件1Dは乙9公報に記載されている。
25 オ 構成要件1Eについて
乙9公報には以下の記載がある。
「車両制御部120は、自動二輪車10の運動状態や、モータ14からフ
ィードバックされるモータ実電流値iに基づいて、自動二輪車10がニュー
トラルステアに近付くような出力トルク指示値ITmを決定する。」
(段落00
40)
5 上記における「自動二輪車10の運動状態や、モータ14からフィードバ
ックされるモータ実電流値i」は、構成要件1Eの「検出された信号演算と
車両挙動」に該当する。
また、車両制御部120が行う「出力トルク指示値ITmを決定する」処理
は、構成要件1Eの「目標制動力演算及び制動装置へ制動指令」に該当する。
10 以上のとおり、構成要件1Eは乙9公報に記載されている。
カ 構成要件1Fについて
乙9公報には以下の図4が記載されている。
【乙9公報の図4】
15 上記の図4は、横加速度gyと傾斜角θ(バンク角)を含む複数の検出信
号に基づいて、横滑り加速度に相当するタイヤ横力Fy’を算出することを
示すものである。乙9公報には、「加速度センサーのロールによる影響を取
り除く演算」を行うことや、当該演算を行った「補正後の横G(Ghose
i)の導出方法」については明示的には記載されていない。しかし、原告は、
20 二輪車において、横加速度の検出値を用いる制御を行う場合には、実用性を
確保するために、横加速度の検出値に対する「上記補正」
(傾斜角速度の減算
補正(? ? − ℎ?̇ ? ))が必ず行われているはずであり、当該補正は、構成要件1
Fの「加速度センサーのロールによる影響を取り除く演算」に該当すると主
張しており、仮に、原告の上記主張を前提とすれば、乙9公報の図4に示さ
5 れる制御も、横加速度gyをそのまま用いてはおらず、実用性確保のために、
横加速度gyについて傾斜角速度の減算補正(? ? − ℎ?̇ ? )を行っており、当
該補正は、構成要件1Fの「加速度センサーのロールによる影響を取り除く
演算」に該当するということになる。
これらによれば、原告の主張を前提とすれば、構成要件1Fは乙9公報に
10 記載されている。
キ 構成要件1G1について
乙9公報には以下の記載がある。
「モータ制御部16は、車両制御部120によって出力された出力トルク
指示値ITmに応じて、インバータ15に供給する出力電流値を制御する。」
15 (段落0041)
モータ制御部16が行う制御により、インバータ15に供給する出力電流
値が変化すると、車両の速度は変化する。このような速度変化には、減速及
び加速の両方が含まれることは明らかである。
したがって、構成要件1G1は乙9公報に記載されている。
20 ク 構成要件1G2について
乙9公報には以下の記載がある。
「本発明は、電気モータに限らず他のパワーユニット(例えば、エンジン)
にも適用することができる。(段落0095)

乙9公報に記載の発明を、エンジンを搭載した自動二輪車に適用する場合
25 には、エンジンブレーキによる駆動力の調整が行われることとなる。
したがって、構成要件1G2は乙9公報に記載されている。
ケ 構成要件1Hについて
前記カ(構成要件1Fについて)のとおり、乙9公報には、
「補正後の横G
(Ghosei)」の導出方法等については明示的には記載されていない。
しかしながら、原告の主張(前記カの主張)を前提とすれば、乙9公報の図
5 4等に示される制御も、
「補正後の横G(Ghosei)」を用いた制御とい
うことになり、補正後の横Gを制御に用いることは、『傾斜角速度(Ψ)
「 』及
び『補正後の横G(Ghosei)』の『組み合わせ』に相当する。」という
ことになる。
したがって、原告の主張を前提とすれば、構成要件1Hは乙9公報に記載
10 されている。
コ 構成要件1Iについて
乙9公報には以下の記載がある。
「出力トルク演算部123は、補正ヨーモーメントMC、及び上述した(式
9)を用いて、補正ヨーモーメントMCに応じたタイヤ横力Fy’
(具体的に
15 は、Fy’R)を演算する。(段落0078)

「出力トルク演算部123は、補正ヨーモーメントM Cに応じたタイヤ横
力Fy’及び摩擦円データDに基づいて、補正ヨーモーメントM Cに応じた
タイヤ横力Fy’に対応する駆動力Fx(具体的には、FxR)を決定する。」
(段落0079)
20 「出力トルク演算部123は、決定した駆動力Fxを発生させるために必
要なモータ14の出力トルク指示値ITmをモータ制御部16に出力する。」
(段落0080)
前記アの原告の主張を前提とすれば、構成要件1Bの「制動」は、車両の
駆動力を調整することを広く包含する概念ということになる。また、乙9公
25 報の「タイヤ横力Fy’に対応する駆動力Fx」を決定し発生させる処理は、
ロール方向の挙動の抑制を図る処理に該当する。
以上のように、構成要件1Iは乙9公報に記載されている。
サ 小括
以上のとおり、仮に、本件発明と被告製品との対比にかかる原告の主張を
前提とすれば、乙9公報には、本件発明1の構成要件1Aないし1Iの全て
5 が記載されていることになる。したがって、本件発明1は、本件特許の出願
前に頒布された刊行物である乙9公報に記載された発明であり、新規性を欠
く。
(2)本件発明2と乙9公報に記載された発明との対比
ア 構成要件2Aについて
10 乙9公報には以下の記載がある。
「本発明は、自動二輪車の運動状態を制御する自動二輪車の制御装置及び
自動二輪車の駆動システムに関し」(段落0001)
「車両制御部120は、自動二輪車10の運動状態や、モータ14からフ
ィードバックされるモータ実電流値iに基づいて、自動二輪車10がニュー
15 トラルステアに近付くような出力トルク指示値ITmを決定する。」
(段落00
40)
「自動二輪車10がニュートラルステアに近付くような出力トルク指示
値ITm」を決定する処理は、自動二輪車10の運動状態等に基づいて行われ
る処理であるから、車両制御部120が車両の車両解析を行っていることは
20 明らかである。
したがって、構成要件2Aは乙9公報に記載されている。
イ 構成要件2Bについて
乙9公報には以下の記載がある。
「車両制御部120は、自動二輪車10の運動状態や、モータ14からフ
25 ィードバックされるモータ実電流値iに基づいて、自動二輪車10がニュー
トラルステアに近付くような出力トルク指示値ITmを決定する。」
(段落00
40)
上記の処理は、構成要件2Bの「前記車両の車両挙動から得られた信号演
算」を行う処理に該当する。
したがって、構成要件2Bは乙9公報に記載されている。
5 ウ 構成要件2Cについて
乙9公報には以下の記載がある。
「横加速度センサ114は、自動二輪車10に生じる横加速度g yを検出
する。(段落0037)

「傾斜角センサ115は、自動二輪車10に生じる傾斜角、具体的には、
10 自動二輪車10のバンク角θを検出する。(段落0038)

「なお、バンク角演算部121Bには、傾斜角センサ115に代えて、ロ
ールレートセンサを接続してもよい。この場合、バンク角演算部121Bは、
ロールレートセンサによって出力されるロールレートrと、(式3)とを用
いてバンク角θを演算することができる。(段落0048)

15 このように、乙9公報には、車両の横加速度、傾斜角速度(ロールレート
r) 傾斜角度
、 (バンク角θ)のそれぞれを車両挙動として得ることが記載さ
れている。
乙9公報には、「加速度センサーの車両取り付け高さ」については明示的
には記載されていない。しかし、原告の主張を前提とすれば、乙9公報の車
20 両制御部120も、 ? − ℎ?̇ ? )
(? の演算を行っているはずであるから、車両制
御部120には「加速度センサーの車両取り付け高さ」であるhが入力され
ているということになる。すなわち、原告の主張を前提とすれば、構成要件
2Cは乙9公報に記載されている。
エ 構成要件2Dについて
25 乙9公報には以下の記載がある。
「傾斜角センサ115は、自動二輪車10に生じる傾斜角、具体的には、
自動二輪車10のバンク角θを検出する。(段落0038)

「なお、バンク角演算部121Bには、傾斜角センサ115に代えて、ロ
ールレートセンサを接続してもよい。この場合、バンク角演算部121Bは、
ロールレートセンサによって出力されるロールレートrと、(式3)とを用
5 いてバンク角θを演算することができる。(段落0048)

このように、乙9公報には、ロールレートセンサによってロールレートr
を検出することが記載されている。ロールレートrは、構成要件2Dにおけ
る「前記傾斜角速度(A)」に該当する。
したがって、構成要件2Dは乙9公報に記載されている。
10 オ 構成要件2Eについて
乙9公報には、「補正後の横G」やその導出方法については明示的には記
載されていない。しかし、上記ウ(構成要件2Cについて)で述べたように、
原告の主張を前提とすれば、乙9公報に示される制御も、実用性を確保する
ために、ロールによる影響を取り除く補正、具体的には傾斜角速度の減算補
15 正(? ? − ℎ?̇ ? )を必ず行っているということになる。減算補正(? ? − ℎ?̇ ? )
は、横加速度から加速度センサーの車両取り付け高さと傾斜角速度(A)と
の積、との差分を求め、補正後の横G(Ghosei)を導出する処理に他
ならない。
したがって、原告の主張を前提とすれば、構成要件2Eは乙9公報に記載
20 されている。
カ 構成要件2Gについて
乙9公報には、「補正後の横G」に基づく車両解析については明示的には
記載されていない。しかし、上記ウ(構成要件2Cについて)で述べたよう
に、原告の主張を前提とすれば、乙9公報に示される制御も、実用性を確保
25 するために、補正後の横G(Ghosei)を導出する処理や、補正後の横
G(Ghosei)に基づく車両解析等を行っているということになる。
したがって、原告の主張を前提とすれば、構成要件2Gは乙9公報に記載
されている。
キ 小括
以上のとおり、仮に、本件発明2と被告製品との対比にかかる原告の主張
5 を前提とすれば、乙9公報には、本件発明2の構成要件2AないしGの全て
が記載されていることになる。したがって、本件発明2は、本件特許の出願
前に頒布された刊行物である乙9公報に記載された発明であり、新規性を欠
く。
2 進歩性について
10 前記1のとおり、仮に、原告の主張を前提とすれば、乙9公報には、本件発明
1の構成要件1Aないし1Iの全て、及び、本件発明2の構成要件2Aないし2
Gの全てが記載されており、少なくとも、本件発明1及び本件発明2は、いずれ
も、乙9公報に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た。
また、原告の主張(構成要件1F及び構成要件2Eの「ロールによる影響を取
15 り除く演算」が「 ? − ℎ?̇ ? )の演算」を含むものである。
(? )を前提とすれば、こ
れらの構成は、本件特許の出願時に公知であった「二輪車の運動方程式構築の基
礎知識」と題する資料(以下「乙6資料」という。)に記載されている。したがっ
て、本件発明1及び本件発明2は、乙9公報に記載された発明及び/又は乙6資
料に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであり、進歩性を
20 欠く。
以上

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