令和5(ワ)70210発信者情報開示請求事件
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裁判所 |
東京地方裁判所東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和6年3月7日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
著作権
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キーワード |
侵害23回 損害賠償2回 実施2回 分割1回
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主文 |
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
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判決文
令和 6 年 3 月 7 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 5 年(ワ)第 70210 号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和 6 年 1 月 16 日
判 決
5 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
10 略語は別紙略語一覧表のとおり。
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
15 本件は、原告が、本件発信者がファイル交換ソフトウェア「BitTorrent」を利用
したネットワークシステムを使用して本件動画を自動公衆送信したことにより本件
動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことは明らかであると主張して、
被告に対し、法 5 条 1 項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実、顕著な事実、掲記の各証拠(書証の番
20 号は特に断らない限り枝番号を含む。以下同じ。 及び弁論の全趣旨により容易に認
)
められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、動画の制作等を行う株式会社である。
イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式
25 会社であり、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(特
定電気通信)の用に供される電気通信設備(特定電気通信設備)を用いて他人の通
信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者(特定電気通信
役務提供者。法 2 条 3 号)であって、本件発信者情報を保有している。
(2) 本件動画の著作権者
原告は、その発意に基づき、原告の業務に従事する者に対し、原告における職務
5 の履行として本件動画の企画、制作等を行わせ、また、第三者認証機関との対応を
行い、動画配信サイトに原告のレーベル名を表示して、自己の著作の名義の下に本
件動画を公表した。(甲 2、18、26)
したがって、原告は、本件動画の著作者としてその著作権を有する。これに反す
る被告の主張は採用できない。
10 (3) BitTorrent の仕組み等
BitTorrent とは、いわゆる P2P 形式のネットワークであり、その概要や使用の手
順は、次のとおりである。(甲 4~6、9)
ア BitTorrent により特定のファイルを配布する場合、まず、当該ファイルを小
さなデータ(ピース)に細分化し、分割された個々のデータ(ピース) BitTorrent
を
15 ネットワーク上のユーザー(ピア)に分散して共有させる。
イ BitTorrent を通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザー
は、まず、その使用端末に BitTorrent に対応したクライアントソフト(以下、対応
クライアントソフトを含めて「BitTorrent」ということがある。)をインストールし
た上で、
「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルの
20 所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロードして、これを
BitTorrent に読み込ませる。これにより、BitTorrent は、当該トレントファイルに
記録されたトラッカーサーバに接続し、当該特定のファイルの提供者のリストを要
求する。トラッカーサーバは、ファイルの提供者を管理するサーバであり、ユーザ
ーによる要求に応じ、自身にアクセスしているファイル提供者の IP アドレスが記
25 載されたリストをユーザーに返信する。
ウ リストを受け取ったユーザーは、当該ファイルのピースを持つ他の複数のユ
ーザーに接続し、それぞれから当該ピースのダウンロードを開始する。全てのピー
スのダウンロードが終了すると、自動的に元の 1 つの完全なファイルが復元される。
エ 完全な状態のファイルを持つユーザーは「シーダー」と呼ばれる。他方、目
的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ば
5 れるが、ダウンロードが完了して完全な状態のファイルを保有すると、当該ユーザ
ーは自動的にシーダーとなる。シーダーは、リーチャーからの求めに応じて、当該
ファイルの一部をアップロードしてリーチャーに提供する。また、リーチャーは、
目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、既に所持しているフ
ァイルの一部(ピース)を、他のリーチャーの求めに応じてアップロードする。す
10 なわち、リーチャーは、目的のファイルを自らダウンロードすると同時に、他のリ
ーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態に置かれる仕組みとな
っている。
(4) 本件調査
ア 原告は、本件訴訟提起に先立ち、本件調査会社に対し、BitTorrent を使用し
15 た本件動画の著作権侵害に係る調査(本件調査)を委託した。
イ 本件調査は、BitTorrent の開発・管理運営を行う会社が管理・運営する本件
クライアントソフトを使用して行われた。
本件クライアントソフトは、ダウンロードをするトレントファイルを検索し、
BitTorrent を使用しているピアの情報を表示する機能を有しており、本件クライア
20 ントソフトを利用することにより、ピースのダウンロード及びアップロードを行っ
ているピアの IP アドレスを解明することが可能である。
本件調査の概要は、以下のとおりである。
すなわち、本件調査会社担当者は、インデックスサイトにおいて本件動画に係る
ファイルを検索して、トレントファイルをダウンロードし、端末にダウンロードし
25 た当該トレントファイルをもとに、本件クライアントソフト上で本件動画に係るピ
ースをダウンロードした。本件調査会社は、当該ダウンロード中に当該端末に当該
ピアの IP アドレスとして表示されている IP アドレスを確認し、スクリーンショッ
トして保存した。
本件調査会社担当者は、本件発信者の IP アドレスを確認し、ダウンロードした
ファイルの動画と本件動画とを見比べてその同一性を確認した。
5 ウ 本件調査会社は、原告に対し、本件調査の結果、別紙発信者情報目録の「日
時」欄記載の日時に本件動画に係るファイルがアップロードされていること、この
アップロードの通信に本件 IP アドレスが使用されていることなどを報告した。
(以
上につき、甲 1、5、7、9、28)
3 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以
10 下のとおりである。
(原告の主張)
(1) 本件調査会社は、本件調査によって、本件発信者から本件動画のピースをダ
ウンロードし、これを保有する本件発信者が接続している IP アドレス、接続日時
等を特定した。また、本件調査会社担当者は、ダウンロードしたファイルの動画と
15 本件動画とを見比べてその同一性を確認した。
したがって、本件発信者は、本件調査会社の求めに応じて自動的に本件動画のピ
ースを送信したといえる。このような行為は、原告の本件動画に係る公衆送信権侵
害に当たる。
(2) 被告の主張について
20 ア 本件クライアントソフトは、BitTorrent を管理する会社が提供するソフトウ
ェアであるから、BitTorrent を通して取得した情報を正確に利用者に提供している
といえ、信頼できるものである。
イ 本件 IP アドレスの特定に関しては、
「上り速度」の記載がなくともダウンロ
ードは進行するから、その記載がなかったとしても、本件調査会社がダウンロード
25 できていなかったことにはならない。
また、本件調査会社担当者は、本件 IP アドレスから取得した動画データを確認
する作業を行っており、その作業には 1 分以上を要する。このことを踏まえ、本件
発信者による通信の時刻を「00 秒」と特定したものである。本件調査会社担当者は、
キャプチャー画面をスクリーンショットした時(分)の「00 秒」時点には正に当該
画面を視認していたのであって、虚偽の報告をする必要はない。そのほか、被告に
5 おいて、本件 IP アドレスが 2 名以上に割り当てられており特定できないなどとい
った事実もない。
ウ 一般的に、本件発信者による送信時点で保有しているファイルの保有率が低
い場合にも、動画として再生することは可能である。また、BitTorrent 等のファイ
ル交換ソフトにおいてはある時点までに移転したピースが結合されて一連の動画と
10 して閲覧することが可能となるところ、本件発信者による通信がされた時点で本件
動画のうちのどの部分であるか確認することはできない。そうである以上、本件発
信者による通信の時点で侵害の事実が認められれば、動画ファイルのうちどの部分
であるかなどといった点までの立証は不要とするのが合理的である。
(被告の主張)
15 不知ないし争う。
(1) 本件クライアントソフトは特定方法等の信頼性が認められたシステムでは
ないから、これを利用した本件調査は信用性を欠く。
(2) 原告の立証は、以下の点で不十分である。
ア 本件 IP アドレスの特定に関し
20 (ア) 本件調査において把握される通信としては、本件発信者と本件調査会社、す
なわちピア間の通信に限っても、BitTorrent 上で相手方がピアであることを確認す
る「HAND SHAKE」、接続の完了を通知する「ACK」、互いが対象ファイルのどの
部分を所持しているのかを確認する「BITFIELD」 自分が当該ファイルに興味を持
、
っていることを通知する「INTERESTED」、これに対して、相手方が当該ファイル
25 をアップロード可能であることを通知する「UNCHOKE」、ダウンロードする側が
アップロードを要求する「REQUEST」、これに応じて実際にピースを送信する
「PIECE(DOWNLOAD)」といった複数の通信がある。このため、適当な時刻に
本件調査会社担当者の端末に表示された本件 IP アドレスをもって、本件動画ファ
イルの全部又は一部をダウンロードした時の通信(「PIECE(DOWNLOAD))に
」
当たるということはできない。
5 (イ) 本件調査において把握された通信の時刻(秒)につき、担当者による確認作
業に 1 分以上を要することを理由として「00 秒」と特定されているが、動的 IP ア
ドレスはネットワークに接続するたびに異なるものが割り当てられることを踏まえ
ると、原告が主張する時刻に本件 IP アドレスが割り当てられていたとは限らない。
(ウ) 本件調査時のキャプチャー画面には本件動画ファイルのアップロードの進
10 行を示す表示である「上り速度」の表示がない。このため、同画面は本件動画のフ
ァイルの全部又は一部をダウンロードした時の通信を示すものではないことがうか
がわれる。
イ 公衆送信権侵害に関し
本件発信者の送信により本件動画ファイルのピースが送信されたとしても、これ
15 により公衆送信権が侵害されたといえるためには、当該ピースにより本件動画の表
現の本質的特徴が感得できる必要がある。
しかし、ファイルを細分化したピースを転送し合うという BitTorrent の仕組みに
よれば、本件発信者から送信された 1 つのピースから本件動画の表現の本質的特徴
を直接感得できる映像を再生できない可能性がある。また、本件調査において本件
20 調査会社担当者は本件動画と本件侵害動画との同一性を確認したというが、本件調
査は BitTorrent ネットワークを介して様々なピアからピースをダウンロードする
ものであり、本件発信者に係るピアからのみピースをダウンロードしたとは限らな
い。
したがって、本件発信者による自動公衆送信権侵害があったとはいえない。
25 第3 当裁判所の判断
1 争点(権利侵害の明白性)について
(1) BitTorrent 及び本件クライアントソフトの仕組み並びに本件調査の方法な
いし内容(前提事実(3)、(4))を踏まえると、本件発信者は、その端末に BitTorrent
をインストールし、本件動画のファイルに係るピースをダウンロードすると共に当
該ピースを不特定の者からの求めに応じて BitTorrent ネットワークを介して自動
5 的に送信し得るようにし、被告から本件 IP アドレスの割当を受けてインターット
に接続された状態の下、別紙発信者情報目録の「日時」欄記載の日時において、本
件調査会社の求めに応じ、自動的に本件動画のファイルのピースをアップロードし
たことが認められる。
そうすると、本件動画に係るファイル(ピース)は、本件 IP アドレスが割り当て
10 られた本件発信者により、公衆からの求めに応じて自動的に公衆送信されたものと
いえる。すなわち、本件発信者は本件動画に係るデータを自動公衆送信したもので
あり、これにより、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたこと
は明らかである(法 5 条 1 項 1 号)。
(2) 被告の主張について
15 ア 被告は、本件調査について、本件クライアントソフトがいわゆる認証ソフト
ウェアでないこと、
「上り速度」が表示されていないことを指摘して、本件調査は信
用できない旨や、本件発信者の送信に係る 1 つのピースからでは本件動画の表現の
本質的特徴を直接感得することができる映像を再生できない可能性があるから、公
衆送信権侵害があったとはいえない旨を主張する。
20 イ しかし、本件クライアントソフトは、BitTorrent の開発・管理運営を行う会
社に管理・運営されており、BitTorrent プロトコル定義で設定されたガイドライン
を遵守したものである(前提事実(4)イ、甲 9)。また、BitTorrent の仕組みに照らす
と、本件クライアントソフトにおいて対象となるファイルのピースのダウンロード
及びアップロードを行っているピアの IP アドレスを正確に取得・表示するもので
25 なければクライアントソフトとして十分な機能を果たし得ないと解される。
また、証拠(甲 1、23)によれば、一般的に、クライアント側のアップロード速
度である「上り速度」の表示がなくとも、BitTorrent を介したファイルのダウンロ
ードが進むことが確認されている。さらに、本件調査においても、 [強制]ダウン
「
ロード中 15.1%」との表示、すなわち、手動により当該ファイルのダウンロードが
進んでいる状態が示されており、その後、本件侵害動画のファイルのダウンロード
5 が完了したことが認められる。
その他本件クライアントソフトや本件調査の信用性を疑わせるに足りる具体的な
事情は見当たらない。
ウ また、前提事実(4)のとおり、本件調査会社担当者は、本件調査に際し、本件
発信者の IP アドレスを確認すると共に、ダウンロードしたファイルの動画と本件
10 動画とを見比べてその同一性を確認している。さらに、証拠(甲 7、8)によれば、
本件侵害動画と本件動画には複数の同一シーンが含まれていることが認められる。
このため、本件侵害動画は少なくとも本件動画の一部であり、前者は後者を複製し
たものであることがうかがわれる。加えて、ダウンロード中であって保有率が相当
少ない場合にも当該ファイルの動画を再生できること及び本件侵害動画が再生でき
15 ることが確認されている(前提事実(4)イ、甲 29)。そうすると、本件発信者が送信
し、本件調査会社担当者がダウンロードした本件侵害動画のファイル(ピース)は、
本件動画の表現の本質的特徴を直接感得し得る程度に再生可能であったものとみら
れる。
エ 以上より、この点に関する被告の主張はいずれも採用できない。
20 2 その他の要件について
上記のとおり、本件発信者による本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)侵
害が認められるところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対する不法
行為に基づく損害賠償請求等の権利行使を予定していることが認められるから、原
告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法 5 条 1 項 2 号)が認め
25 られる。
以上より、原告は、被告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有する。
第4 結論
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第 47 部
裁判長裁判官
10 杉 浦 正 樹
裁判官
久 野 雄 平
20 裁判官
吉 野 弘 子
(別紙)
当 事 者 目 録
原 告 株 式 会 社 h . m . p
同訴訟代理人弁護士 杉 山 央
エヌ・ティ・ティレゾナント株式会社訴訟承継人
被 告 株 式 会 社 NTT ド コ モ
同訴訟代理人弁護士 五 島 丈 裕
(別紙)
発信者情報目録
以下の日時に以下の IP アドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の
氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
日時 (省略)
(省略)
IP アドレス (省略)
ポート番号 (省略)
(別紙侵害著作物目録 省略)
(別紙)
略 語 一 覧 表
本件発信者 本件侵害動画をアップロードした氏名
不詳者
本件動画 別紙侵害著作物目録記載の動画
法 特定電気通信役務提供者の損害賠償責
任の制限及び発信者情報の開示に関す
る法律
本件発信者情報 別紙発信者情報目録記載の発信者情報
本件調査会社 本件調査を実施した調査会社
本件調査 本件調査会社の実施した BitTorrent を
利用した本件動画の著作権侵害に係る
調査
本件クライアントソフト 「µtorrent」と称するクライアントソ
フト
本件 IP アドレス 別紙発信者情報目録の「IP アドレス」
欄記載の IP アドレス
本件侵害動画 本件調査会社が本件発信者らからダウ
ンロードした本件動画に係る動画ファ
イル
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