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令和4(ワ)18776損害賠償請求事件

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裁判所 一部認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和6年4月18日
事件種別 民事
法令 著作権
キーワード 侵害45回
損害賠償23回
許諾9回
実施7回
ライセンス5回
分割1回
主文 1 被告は、原告KADOKAWAに対し、4億0575万5964円及びこれに対す
2 被告は、原告集英社に対し、4億2923万0844円及びこれに対する令
3 被告は、原告小学館に対し、9億0165万5469円及びこれに対する令
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを40分し、その36を被告の負担とし、その1を原
6 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。
事件の概要

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判決文

令和 6 年 4 月 18 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 4 年(ワ)第 18776 号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和 6 年 2 月 9 日
判 決
5 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 被告は、原告KADOKAWAに対し、4億0575万5964円及びこれに対す
る令和4年8月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告集英社に対し、4億2923万0844円及びこれに対する令
10 和4年8月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告小学館に対し、9億0165万5469円及びこれに対する令
和4年8月5日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを40分し、その36を被告の負担とし、その1を原
15 告KADOKAWAの負担とし、その1を原告集英社の負担とし、その余
を原告小学館の負担とする。
6 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
略語は別紙略語一覧表のとおり。
20 第1 事案の要旨
本件は、出版社である原告らが、本件作品の各著作権者から本件作品を出版及び
公衆送信することにつき出版権又は独占的利用権の設定を受けているところ、被告
が、本件サイトにおいて、本件作品の画像データを自動公衆送信(送信可能化を含
む。 したことは、
) 本件作品に係る原告らの出版権又は独占的利用権を侵害すると主
25 張して、被告に対し、損害賠償を求める事案である。
第2 当事者の求めた裁判
1 被告は、原告 KADOKAWA に対し、4 億 5083 万 9961 円及びこれに対する令
和 4 年 8 月 5 日から支払済みまで年 5%の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告集英社に対し、4 億 7692 万 3161 円及びこれに対する令和 4 年 8
月 5 日から支払済みまで年 5%の割合による金員を支払え。
5 3 被告は、原告小学館に対し、10 億 0183 万 9410 円及びこれに対する令和 4 年
8 月 5 日から支払済みまで年 5%の割合による金員を支払え。
(請求の法的根拠)
いずれも
主たる請求:不法行為に基づく損害賠償請求権(民法 709 条、719 条。損害額に
10 つき著作権法 114 条 3 項(主位的主張)又は 1 項(予備的主張))
なお、本件において原告らが損害賠償請求の対象とする被告の行為は、平成 29 年
6 月~平成 30 年 4 月の間のものである。
附帯請求:遅延損害金請求権(起算日:訴状送達日の翌日、利率:平成 29 年法律
第 44 号による改正前の民法所定の法定利率)
15 第3 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張の要旨
1 前提事実(証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。なお、証拠を摘
示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。以下同じ。)
(1) 当事者
原告らはいずれも出版社であり、原告 KADOKAWA は別紙作品目録 1 記載の各漫
20 画の、原告集英社は別紙作品目録 2 記載の各漫画の、また、原告小学館は別紙作品
目録 3 記載の各漫画のコミック単行本等をそれぞれ発行又は電子配信している。甲

1~3、5)
被告は、少なくとも本件サイト(com)の開設、運営に関与した者である。
(2) 本件作品に係る原告らの権利等
25 原告らは、それぞれ、平成 29 年 6 月~平成 30 年 4 月の間を含め、本件作品の各
著作権者から、別紙作品目録 1~3 の各「許諾区分」欄記載のとおり、本件作品につ
いて出版権の設定又は独占的な利用許諾を受けていた。
原告らは、原告ら又は原告 KADOKAWA の完全子会社の電子配信サイトにおいて
のみ、上記各別紙の各「販売価額(税込)」欄記載の金額で、本件作品(ただし、別
紙作品目録 3 の番号 174~221 の作品を除く。)を電子配信していた。また、原告小
5 学館は、別紙作品目録 3 の番号 174~221 の各作品については電子配信しておらず、
同目録の「販売価額(税込)」欄記載の金額で、コミック単行本等の紙媒体によって
のみ発行していた。
(以上につき、甲 5)
(3) 本件サイトの概要
10 本件の対象となるウェブサイト(本件サイト)は、
「漫画村」と称するウェブサイ
トのうち、本件サイト(com)、本件サイト(net)及び本件サイト(org)である。
本件サイトは、平成 28 年 1 月 18 日に本件サイト(com)のドメイン登録がされ、
平成 29 年 6 月 27 日に本件サイト(net)のドメインに変更された後、同年 8 月 29
日、本件サイト(org)のドメインに変更され、平成 30 年 4 月に閉鎖された。
15 本件サイトは、数万件以上の漫画作品等の画像データを不特定多数の利用者が無
償で閲覧可能な状態としたものであるところ、掲載作品には本件作品がいずれも含
まれていた。本件作品の本件サイトへの掲載について、原告らによる許諾はない。
(以上につき、甲 5、6、8、9、14~17、46)
(4) 被告に対する刑事事件
20 福岡地方裁判所は、令和 3 年 6 月 2 日、被告に対する著作権法違反、組織的な
犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件(同庁令和元年(わ)
第 1181 号等)につき、懲役 3 年及び罰金 1000 万円に処し、6257 万 1336 円を追徴
する旨の判決(甲 49)を宣告し、その後、同判決は確定した。
その「罪となるべき事実」のうち、著作権法違反罪に係る事実の概要は、被告が、
25 共犯者 3 名と共謀の上、法定の除外事由がなく、かつ著作権者の許諾を受けないで、
平成 29 年 5 月 11 日頃に漫画「キングダム 516 話 陥落の武器」の画像データを、
また、同月 29 日頃に漫画「ワンピース 866 話 “NATURALBORN DESTROYER”」
の画像データを、それぞれ、インターネットに接続された氏名不詳者が管理する場
所不詳に設置されたサーバコンピュータの記録装置に記録保存して、その頃から、
前者については同月 17 日までの間、後者については同月 31 日までの間、インター
5 ネットを利用する不特定多数の者に自動的に公衆送信し得る状態にし、各作品の著
作権者の著作権等を侵害した、というものである。
(5) 原告らの被告に対する損害賠償債務の履行請求
ア 原告集英社は、被告に対し、令和 4 年 3 月 3 日付け「催告書」(甲 22 の 1)
において、別紙作品目録 2 記載の作品を含む同原告の発行・電子配信する漫画作品
10 について、本件サイトに掲載されたことによる権利利益侵害に係る損害賠償債務の
履行を請求して催告し、同催告書は、同月 4 日に被告に到達した(甲 22 の 2)。
イ 原告 KADOKAWA 及び同小学館は、それぞれ、被告に対し、同年 4 月 12 日
付け「通知書」(甲 23 の 1、24 の 1)において、別紙作品目録 1 及び 3 各記載の作
品を含む各原告の発行・電子配信する漫画作品について、本件サイトに掲載された
15 ことによる権利利益侵害に係る損害賠償債務の履行を請求して催告し、各通知書は、
いずれも同月 13 日に被告に到達した(甲 23 の 2、24 の 2)。
(6) 本件訴えの提起
原告らは、令和 4 年 7 月 28 日、本件訴えを提起した。
(7) 消滅時効の援用
20 被告は、令和 4 年 11 月 15 日付け答弁書を第 1 回弁論準備手続期日(令和 5 年 5
月 30 日実施)において陳述し、本件における原告の被告に対する不法行為に基づく
損害賠償請求権について消滅時効を援用した。
2 争点
(1) 被告による権利侵害(公衆送信(送信可能化を含む。)の有無(争点 1)

25 (2) 被告の故意の有無(争点 2)
(3) 損害額(争点 3)
(4) 消滅時効の成否(原告らが損害及び加害者を知った時)(争点 4)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点 1(被告による権利侵害(公衆送信(送信可能化を含む。 )の有無)

(原告らの主張)
5 ア 被告が本件サイトの管理・運営に関与していたこと
被告は、本件サイト(com)だけでなく、本件サイト(net)及び本件サイト(org)
の管理・運営にも関与しており、自ら又は協力者に指示して、本件作品のアップロ
ードを実行していた。
イ 公衆送信について
10 本件サイトは、そこに掲載された本件作品を含む漫画等の画像データを閲覧しよ
うとする不特定多数の利用者からの求めに応じて、本件サイトのサーバから自動的
に当該画像データを当該利用者に送信するものである。
本件サイトに漫画等の画像データを掲載する方法には、本件サイトのサーバの記
録媒体に画像データを手作業でアップロードする方法(方法①)と、被告及び共犯
15 者らと無関係なサーバコンピュータ(第三者サーバ)に存在する画像データを、本
件サイトのサーバにリバースプロキシの設定をすることにより閲覧できるようにす
る方法(方法②)の 2 種類があり、本件サイトにおける漫画等の画像データの掲載
は、全て方法①又は②のいずれかによる。
いずれの方法による場合も、本件サイトの利用者は、掲載作品の画像データを閲
20 覧するために、本件サイトのサーバにアクセスしてその送信を求め、本件サイトの
サーバは、この求めに応じ自動的に本件作品の画像データを本件サイトのサーバか
ら直接送信していた。方法②の場合も、利用者が第三者サーバに対して本件作品の
画像データの送信を求めることはなく、第三者サーバから利用者に対して当該画像
データが直接送信されることもない。
25 したがって、本件作品の画像データの本件サイトへの掲載は、方法①又は②のい
ずれによるにせよ、本件作品の画像データを本件サイトで閲覧可能な状態にし、本
件サイトにアクセスした不特定多数の利用者に対して自動的に送信した行為にほか
ならず、これは自動公衆送信(著作権法 2 条 1 項 9 号の 4)に該当する。
ウ 送信可能化について
(ア) 本件サイトのサーバにリバースプロキシを設定することにより、インターネ
5 ットに接続されている「自動公衆送信装置」である本件サイトのサーバの記録媒体
に、第三者サーバに記録保存されていた本件作品の画像データが利用者の求めの都
度入力されることになる。このため、上記設定行為は、
「自動公衆送信装置の公衆送
(著作権法 2 条 1 項 9 号の 5 イ)に当たる。ま
信用記録媒体に情報を入力すること」
た、これにより本件サイトのサーバにおいて本件作品の画像データが自動公衆送信
10 し得るようになった(同号の 5 柱書)といえる。
したがって、上記行為は、自動公衆送信装置である本件サイトのサーバにおける
「送信可能化」に該当する。
(イ) 被告は、インターネットに接続されている「自動公衆送信装置」である本件
サイトのサーバの記録媒体に、利用者の求めの都度、第三者サーバに記録保存され
15 ていた本件作品の画像データが入力されること、それにより当該利用者に対して本
件サイトのサーバから当該画像データが自動的に送信されるようにすることを意
図・意欲して、リバースプロキシの設定等をした者である。
したがって、被告は、本件サイトのサーバにおいて生じている当該画像データの
送信可能化の行為主体といえる。
20 (ウ) 被告の主張について
「送信可能化」が生じるかどうかの検討にあたっては、特定の自動公衆送信装置
に着目すべきところ、ある自動公衆送信装置において送信可能化された画像データ
等であっても、それを取得して別の自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に入力、
記録等することにより、当該別の自動公衆送信装置においては、それまで自動的に
25 公衆送信し得なかったものが自動公衆送信し得るようになる(すなわち当該別の自
動公衆送信装置において送信可能化が生じる)こととなる。このことを踏まえると、
送信可能化の対象となる画像データ等につき、他の自動公衆送信装置において未だ
送信可能化されていないものに限定するのは適切でない。
また、いわゆるリーチサイト等の場合、提供された送信元識別符合等(URL 等)
を用いて利用者が送信元に対して侵害著作物等の送信を求め、その求めに応じて送
5 信元が利用者に対して侵害著作物等を送信する。すなわち、リーチサイト等の場合、
送信元から利用者に対する侵害著作物等の送信は、リーチサイト等運営者のサーバ
を経由することなく、利用者に対して直接行われる。他方、リバースプロキシ設定
行為は、閲覧者のリクエストに応じて、侵害コンテンツのデータ自体を第三者サー
バから取得して受信者に送信するという点で、データを送信せずに侵害を示す URL
10 を表示するリンクを張る行為とは、その態様を異にする。
(被告の主張)
ア 公衆送信について
被告は、本件作品の画像データにつき、自らアップロードしたことも、協力者を
通じてアップロードしたこともない。被告は、他者の求めに応じて、本件サイト(com)
15 の設立に関わり、システム開発・管理、広告業者とのやり取りを担当したことはあ
るが、本件サイト(net)及び本件サイト(org)には関与していない。
また、本件サイト(org)においては、少なくとも平成 29 年 10 月 4 日時点におい
て、一覧表示がなされ、その画面を見れば作品の画像が閲覧可能であるかのように
受け取れるものであっても、数百冊以上の規模で、画像が壊れ、実際には閲覧不可
20 能であったことがうかがわれる。このため、本件サイトの一覧画面をクローリング
して作品情報を収集したとしても、そのことをもって当該作品の画像が本件サイト
で閲覧可能であったとはいえず、本件作品に係る画像データにつき、本件サイトに
アクセスした不特定多数の利用者に対し自動的に送信したとはいえない。
イ 送信可能化について
25 被告は、本件サイト(com)の開設・運用にあたり、リバースプロキシ設定等を通
じて、同サイトの URL にアクセスすることによって、被告が運営に関わっていない
第三者によって既にアップロードされ、インターネットを通じて一般に閲読可能で
あった画像データについて閲読を可能とする設定を行った。このような被告の行為
は、第三者により既にインターネット上において「自動公衆送信し得る」状態を作
出されていた侵害コンテンツに誘導するものに過ぎないから、文理上、
「自動公衆送
5 (著作権法 2 条 1 項 9 号の 5)ものである送信可能化とはいい
信し得るようにする」
がたい。
また、いわゆるリーチサイト等にみられるように、第三者が既にインターネット
上で「自動公衆送信し得る」状態を作出し、公衆による侵害コンテンツへのアクセ
スが可能な状態において、当該コンテンツに誘導する行為の権利侵害性については、
10 令和 2 年法律第 48 号による改正後の著作権法により、公衆を侵害コンテンツに殊
更に誘導するものであると認められるウェブサイト・アプリや、主として公衆によ
る侵害コンテンツの利用のために用いられるものと認められるウェブサイト・アプ
リが、当該侵害著作物等に係る著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為と「み
なす」と規定された。上記改正前に被告がした上記リバースプロキシ設定行為は、
15 結果としてデータが公衆に受信できる状況を作り出すという意味で、データの送信
ではなくウェブサイトに侵害コンテンツの所在を示すリンクを貼る行為と等価であ
って、送信可能化には当たらない。
(2) 争点 2(被告の故意の有無)
(原告らの主張)
20 被告は、故意に原告らの権利を侵害した。
(被告の主張)
否認ないし争う。
(3) 争点 3(損害額)について
(原告らの主張)
25 ア 本件作品の閲覧数(公衆送信の回数)
(ア) 平成 29 年 6 月~平成 30 年 4 月の間の本件サイトへのアクセス総数(いわゆ
るページビュー数ではなく、訪問者数を意味する。 は、 億 3781 万と推計される。
) 5
このため、アクセスした利用者が 1 アクセス当たり平均して漫画コミック 1 巻を閲
覧したとすると、上記期間中に本件サイトにて合計 5 億 3781 万巻の閲覧があった
と推計される。
5 また、本件サイトに掲載されていた作品巻数は、最大で 7 万 2577 巻程度と推計さ
れる。
そうすると、本件サイトにおける作品 1 巻当たりの平均閲覧数は、7410(≒5 億
3781 万/7 万 2577)を超えることになるところ、本件作品はいずれも人気作品であ
るから、本件作品 1 巻当たりの閲覧数はこれを上回ると考えられる。
10 したがって、本件作品は、上記期間に、それぞれ、少なくとも 7410 回は閲覧(公
衆送信)されたといえる。
(イ) 被告の主張について
被告自身、自らの Twitter(現 X)のアカウントにおいて、漫画村の月間利用者が
8500 万人であった旨投稿しているところ、上記推計の基礎となる調査結果によれば、
15 本件サイトのアクセス数は最大でも平成 30 年 3 月に 9286 万であり、その数値は近
似しているから、上記推計の正確性に欠けるところはない。
また、被告は、漫画村の月間ユニークユーザーが 8500 万人であったとも投稿して
いるところ、同一人物が同一月内に複数回本件サイトを訪問することがあり得るこ
とを踏まえると、被告の当該投稿を前提とすれば、サイトアクセス数(セッション
20 数)はその何倍にもなり得る。
イ 主位的主張(著作権法 114 条 3 項)
(ア) 著作権法 114 条 3 項の「受けるべき金銭の額」
a 対象期間当時の本件作品の販売価額(税抜金額)は、それぞれ、別紙作品目録
1~3 の「販売価額」欄記載の額である。仮に原告らが被告に本件サイトを通じた本
25 件作品の公衆送信を許諾したとすれば、それにより被告から受けるべき金銭の額は、
公衆送信 1 回につき、この「販売価額」に当時の消費税率 8%を加算した金額であ
る別紙作品目録 1~3 の「販売価格(税込)」欄記載の金額を下回ることはない。
したがって、本件サイトにおける本件作品の公衆送信によって原告らが受けるべ
き金銭の額は、別紙作品目録 1~3 の「原告主張損害額」欄記載の額(=「販売価額
(税込)」欄記載の金額×「アクセス数」欄記載の回数)のとおりであり、その合計
5 額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 4 億 0985 万 4510 円
・原告集英社につき 4 億 3356 万 6510 円
・原告小学館につき 9 億 1076 万 3100 円
b 被告の主張について
10 漫画定額読み放題サイトにおいては、ユーザーから定額の利用料を収受しており、
各作品の権利者に対しては、各漫画作品に対するアクセス数等の指標に応じて、当
該サイトの売上の一定割合を一定の計算式に従って分配するのが通例である。他方、
本件サイトは無償でアクセス可能であり、このような売上を観念することはできな
い。その意味で、漫画定額読み放題サイトは、本件サイトと同種のサイトとはいえ
15 ない。
加えて、本件サイトでは、ユーザーは、いつでも自分の好きな時に好きな場所に
おいて、完全に無料で各漫画作品を閲覧することができ、しかも広告を一定時間視
聴し終わるまでは各漫画作品を閲覧できないといった制約を受けることもなかった。
原告らは、本件作品をそのようなサービスの対象とすることを許諾したことはない
20 から、そのライセンス相当額は存在しない。また、本件サイトにおいて本件作品が
自由に閲覧できるようにされることにより、本件作品を閲覧することの対価を支払
う動機がユーザーから失われ、本件作品の有償での販売活動が著しく困難になる。
さらに、原告らは、本件作品について、対象作品及び期間を限定したプロモーシ
ョンの場合を除き、漫画定額読み放題サイトの対象とすることを許諾したことはな
25 い。原告らは、自ら又は完全子会社が管理・運営する漫画閲覧サイトを通じて本件
作品を有償で販売していた。そうである以上、
「定額読み放題」か否か以前の問題と
して、そもそも、他の漫画閲覧サイト運営者に対するライセンス料を基準にするこ
と自体が妥当でない。
このため、仮に、本件サイトのようにユーザーがいつでもどこでも無料で本件作
品を閲覧できる態様での提供をあえて許諾するとすれば、本件作品の販売価格と同
5 額を求めることが合理的であり、ユーザーから定額利用料を収受する漫画定額読み
放題サイトに対するライセンス料を参照することは不適当である。
(イ) 弁護士費用相当損害金
原告らは、本件訴えの遂行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任した。その弁
護士費用のうち、上記損害額の 10%が被告による著作権侵害行為と相当因果関係の
10 ある支出である。したがって、弁護士費用相当損害金の額は、それぞれ、以下のと
おりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 4098 万 5451 円
・原告集英社につき 4335 万 6651 円
・原告小学館につき 9107 万 6310 円。
15 (ウ) 損害額合計
以上より、原告らの損害額の合計は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 4 億 5083 万 9961 円
・原告集英社につき 4 億 7692 万 3161 円
・原告小学館につき 10 億 0183 万 9410 円
20 ウ 予備的主張(著作権法 114 条 1 項)
(ア) 著作権法 114 条 1 項の損害額
a 本件サイトのユーザーは、本件サイトにアクセスしさえすれば、本件作品に係
る画像データを何らの制限なく閲覧することが可能であった。本件サイトにおける
1 アクセス当たりの平均滞在時間は 16 分から 25 分程度であるところ、これは漫画
25 コミック 1 巻を読むのに十分な時間である。また、本件サイトが利用していた米国
クラウドフレア社の提供するコンテンツデリバリネットワーク(CDN)サービスは、
通信の遅滞による影響を受けないから、ダウンロードして漫画を読むのと同等の効
果をもつものであった。
したがって、本件においては、著作権法 114 条 1 項が適用又は類推適用される。
b 電子書籍が販売された際に出版権者ないし独占的利用権者が著作権者に支払
5 う金額は、一般に販売価額の 15~20%である。
したがって、被告による侵害行為がなければ販売することができた本件作品に係
る正規商品の単位数量当たりの原告らの利益の額は、少なくとも対象期間当時にお
ける本件作品の販売価額(税抜金額)(別紙作品目録 1~3 の「販売価額」欄に記載
の額)の 80%を下回ることはない。
10 そうすると、著作権法 114 条 1 項に基づく原告らの損害額の合計は、それぞれ、
以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3 億 2788 万 3608 円
・原告集英社につき 3 億 4685 万 3208 円
・原告小学館につき 7 億 2861 万 0480 円
15 (イ) 弁護士費用相当損害金
原告らは、本件訴えの遂行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任した。その費
用のうち、上記損害額の 10%が被告による著作権侵害行為と相当因果関係のある支
出である。したがって、弁護士費用相当損害金は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3278 万 8360 円
20 ・原告集英社につき 3468 万 5320 円
・原告小学館につき 7286 万 1048 円
(ウ) 損害額合計
以上より、原告らの損害額の合計は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3 億 6067 万 1968 円
25 ・原告集英社につき 3 億 8153 万 8528 円
・原告小学館につき 8 億 0147 万 1528 円
(被告の主張)
ア 否認ないし争う。
本件作品の閲覧数(公衆送信の回数)について、その推計の基礎とする実数値は
数倍のブレが発生することが多いといわれていることなどから、推計の正確性には
5 疑義がある。
イ 主位的主張について
著作権法 114 条 3 項による損害額は、本件サイトと同規模の漫画閲覧サイト(漫
画定額読み放題サービスサイト)の運営者と原告らとの間で締結されるべきライセ
ンス利用契約のライセンス料相当額に限られる。
10 ウ 予備的主張について
(ア) 受信複製物について
著作権法 114 条 1 項について、売上減少の逸失利益が生じるためには、単にユー
ザーが閲覧したということでは十分ではなく、コンテンツを購入したのと同等の反
復利用可能性が必要である。したがって、
「譲渡等数量」は、著作物又は実演等の複
15 製物(受信複製物)に限定される。受信複製物は、ユーザーのダウンロード操作に
よって作成されるものに限られ、ストリーミング配信や単なる閲覧の場合はこれに
含まれない。
本件サイトは、基本的にはダウンロード操作を要せずに漫画が閲覧できるタイプ
のサイトであり、ユーザーが特にダウンロードを意図して特殊な操作をしない限り、
20 ダウンロードはできなかった。このため、受信複製物の数量はごく限られ、多く見
積もっても 100 分の 1 を超えることはない。
また、仮に貸与と同様の類推適用を認めるとしても、その数量につきダウンロー
ドと同等程度の評価をすることはできず、通常の漫画ダウンロード作品と同等の反
復利用分を減じる必要がある。
25 (イ) 単位数量当たりの利益の額について
「単位数量当たりの利益の額」とは、限界利益を指すところ、原告らが主張する
単位数量当たりの利益の額は粗利益であって、限界利益でない。
また、平成 30 年当時の電子書籍の価格構造及び原告らの主張する著作権者に対
する支払を考慮すると、原告らの単位数量当たりの利益は、販売価格の 30%〜45%
を上回らないことになる。したがって、仮に粗利益を中心に考えても、単位数量当
5 たりの利益の額が販売価額(税込)の 30%を超えることはない。
(4) 争点 4(消滅時効の成否(原告らが損害及び加害者を知った時))
(被告の主張)
ア 仮に、原告らの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が成立すると
しても、これらの請求権は、いずれも時効により消滅している。
10 イ 原告らは平成 30 年 4 月までに「損害」を知っていたこと
以下の事情に鑑みると、原告らは、平成 30 年 4 月までには「損害」を知っていた
といえる。
すなわち、原告らは、平成 30 年 4 月 11 日までに、本件サイトにつき、DCMA に
基づき、Google に対し、著作権侵害を理由とする削除通知フォームへの申立てを行
15 った。Google は、これを受けて、本件サイトのトップページを検索結果から削除し
た。
また、同月 2 日には、政府の知的財産戦略本部に本件サイトを念頭に置いた検討
会議が設置されたところ、その委員に原告 KADOKAWA の当時の代表者が選任され
た。同年 6 月 22 日に開催された検討会議第 1 回会合において配布された事務局資
20 料には、本件サイトが名指しされている。さらに、原告 KADOKAWA の上記代表者
は、同会合において「漫画村」について言及した。そうすると、原告 KADOKAWA
は、同日までに、本件サイトによる損害を知っていたといえる。さらに、同会議の
委員には、原告 KADOKAWA のほかにも大手出版社の代表取締役が選任される状態
に至っていたのであるから、原告集英社及び同小学館も、同日までに本件サイトに
25 よる損害を知っていた。
これらの事情等に鑑みると、原告らは、平成 30 年 4 月までに「損害」を知ってい
たといえる。
ウ 原告らは遅くとも平成 30 年 11 月までに「加害者」を知っていたこと
以下の事情に鑑みると、原告らは、遅くとも平成 30 年 11 月までには「加害者」
を知っていたといえる。
5 (ア) 平成 29 年 8 月には、インターネット上で、本件サイトに被告が関与してい
ること及び被告に関する情報が公開されていた。
また、原告らは、平成 30 年 2 月 13 日、知的財産戦略本部・検証・評価・企画委
員会コンテンツ分野に、本件サイトを念頭に置いて、
「海賊版にはブロッキングが有
効」との申入れを行った。加えて、同年 3 月、原告らが関与する出版広報センター
10 が海賊版対策に関するワーキンググループを発足させ、海賊版に対する情報の一元
化を行い、原告らも、同年 4 月頃から、海賊版対策の会議を開催し、本件サイトを
含む海賊版サイトに関する情報や被害対策についての協議を行い、本件サイトに関
する情報を共有していた。
さらに、同月 13 日には、NHK の記者が本件サイトの運営者として被告を特定し、
15 その連絡先を把握して被告を取材し、同記者と被告との会話の様子が同月 18 日に
放送された。
同年 5 月 18 日には、原告集英社から、本件サイト及び被告をモデルとして登場さ
せたコミックスが刊行された。
同年 10 月 10 日及び同年 11 月 1 日には、日本国内の権利者から委任を受けた弁
20 護士が米国で匿名訴訟を提起し、ディスカバリー制度を利用するなどして、17 日間
程度で本件サイトの運営者として被告の氏名、住所等を特定できることが報道され、
同年 10 月 15 日に開催された検討会議の会合にもそのような内容の資料が提出され
た。また、同月 12 日、原告 KADOKAWA の当時の代表者は、インターネット上の
テレビ番組において、本件サイト運営者の身元が判明したのは非常に良いニュース
25 である旨を発言した。同月 26 日、原告小学館の当時の顧問弁護士も、インターネッ
ト上のニュースサイトに対し、既に本件サイトの運営者とみられる人物に「たどり
着いている」旨を発言した。
(イ) 上記(ア)の事情に加え、前記イの経緯に鑑みると、遅くとも平成 30 年 11 月ま
でには、社会通念上、原告らが調査すれば容易に被告に対する損害賠償請求が可能
な程度にその氏名、住所が判明し得る状態にあり、本件サイトを念頭に置いた海賊
5 版サイトへの対策等に絶大な関心を抱いて調査研究をしていた原告らは、遅くとも
この頃までには、被告に対する損害賠償請求が可能な程度に加害者を知っていたと
いえる。
(ウ) 原告らが加害者を知ったとする平成 31 年 4 月 16 日の時点は、本件サイトの
運営に関わっていたとの情報がインターネット上で広く公開されている状況にはな
10 かった共犯者らを含めた加害者全員を知った時を意味するに過ぎない。
エ 小括
したがって、原告らは、遅くとも平成 30 年 11 月までには、被告に対する損害賠
償請求が可能な程度に損害及び加害者を知っていたといえる。
(原告らの主張)
15 ア 原告集英社が加害者を知ったのは、本件サイトに係る告訴について、警察か
ら被疑者が特定された旨の連絡を受けた平成 31 年 4 月 16 日である。また、原告集
英社は、令和 4 年 3 月 3 日付け催告書により、被告に対し、本件訴えに係る損害賠
償債務の履行を請求して催告を行い、同催告書は、同月 4 日に被告に到達した。
他方、原告 KADOKAWA 及び同小学館が加害者を知ったのは、フィリピン入国管
20 理当局が本件サイトの運営者として被告を拘束したことを発表した日である同年 7
月 9 日である。また、原告 KADOKAWA 及び同小学館は、それぞれ、令和 4 年 4 月
12 日付け催告書により、被告に対し、本件訴えに係る損害賠償債務の履行を請求し
て催告を行い、同催告書は、同月 13 日に被告に到達した。
イ 被告の主張について
25 被告が縷々指摘する事実は、いずれも原告らが加害者を知った時を裏付けるもの
ではない。
すなわち、まず、原告らが過去に Google に対して DMCA に基づく申立てをした
ことはあり、その時点で原告らが本件作品のうち当該申立ての対象とした作品に係
る損害の発生を現実に認識していた可能性はあるとしても、加害者を知ったのは当
該申立ての後である。
5 また、米国の匿名訴訟手続の利用については、それにより得られる情報は「契約
者」として登録されている情報に過ぎず、本件のようなインターネットを悪用した
侵害事案において、契約者として登録された情報が当然に加害者本人の情報である
とは限らない。仮に、契約者として登録されていた情報が結果的に加害者本人の情
報であったとしても、契約者を知り得ることをもって当然に「容易に」加害者を知
10 り得ることになるわけではない。加えて、本件は被告以外の共犯者と共に遂行され
た侵害事案であるところ、被告の法的責任を裏付ける具体的な関与態様等は契約者
情報だけからは判明しない。本件においてそうした事情が判明するには、最終的に
は刑事手続の進展を待つ必要があった。
さらに、弁護士が米国で匿名訴訟を提起するという手法は、当時、インターネッ
15 トを悪用した国際的な侵害事案に係る最先端の対応事例として紹介されたものであ
り、実務上定着していたような手法では全くない。米国の匿名訴訟も各手続は独立
している以上、同種の訴訟を提起したからといって必ず同様に開示されていたとい
う保証もない。
一般に、捜査機関に刑事事件化を依頼した事案においては、捜査や立件の妨げに
20 ならないよう留意する必要もある。民事上可能な手続があるからといって、当然に
それらの手続の全てを実施し得るわけではない。
したがって、米国の訴訟手続を利用することが可能であったとしても、原告らは、
本件サイトの運営者である加害者を容易に知り得たとはいえない。
その他被告が縷々指摘する事情も、いずれも原告らが本件サイトの運営者である
25 加害者を容易に知り得たことを裏付けるに足りるものではない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実のほか、証拠(各項に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事
実が認められる。
(1) 本件サイトについて
5 ア 本件サイトの運営形態
本件サイトにより漫画等の閲覧を可能とする方法としては、①本件サイトのサー
バの記録媒体に漫画等の画像データを手作業でアップロードする方法(方法①)と、
②本件サイトとは別のサーバコンピュータ(第三者サーバ)に存在する画像データ
を、本件サイトのサーバにリバースプロキシの設定をすることにより閲覧できるよ
10 うにする方法(方法②)があった。リバースプロキシとは、オリジンサーバ(本件
においては第三者サーバ)とユーザー(本件サイトの閲覧者)との間のデータ送信
を中継する機能又はその機能を有するサーバ(本件においては本件サイトのサーバ)
をいう。リバースプロキシには、一般的に、オリジンサーバのセキュリティや匿名
性を高めると共に、送信されるデータをキャッシュ(一時保存)することによりオ
15 リジンサーバヘの負荷を軽減する機能がある。
また、本件サイトは、クラウドフレア社が提供する CDN サービスを利用してい
た。同社の CDN サービスは、世界各所に CDN サーバを設置し、画像データ等を
CDN サーバにキャッシュしておくことで、ウェブサイトにアクセスしようとするユ
ーザーに対し、物理的に最も近い CDN サーバデータからデータを配信し、これに
20 より上記サイトの通信速度を確保するなど、データ伝送の効率化を図ることができ、
かつ、CDN サーバのプロキシ機能により、セキュリティと共に上記ウェブサイトの
サーバの匿名性が高まるという特徴がある。このため、本件サイトの場合、運営者
が、そのサーバにリバースプロキシを設定することで方法①又は②によりそのサー
バを通じて漫画等の画像データを閲覧可能な状態を作出すると共に、CDN サービス
25 を利用することで、ユーザーは、CDN サーバから本件サイトが閲覧可能とした漫画
等の画像データを取得し、閲覧することができることとなる。
(以上につき、甲 35、36、47、52)
イ 本件サイト相互の関係
本件サイトについては、平成 28 年 1 月 18 日に本件サイト(com)のドメイン登
録がされ、平成 29 年 6 月 27 日に本件サイト(net)のドメインに変更された後、同
5 年 8 月 29 日、本件サイト(org)のドメインに変更されたものである。
これら 3 つのドメインの相互関係については、それぞれリダイレクト(アクセス
したウェブサイトから、別のウェブサイトに自動的に移動させること)の設定がな
されていた時期が存在する(甲 50)。また、本件サイト(com)のドメインで使用さ
れていた Google アナリティクスの ID「(ID は省略)」は、同年 6 月 30 日当時、本件
10 サイト(net)のドメインにおいても使用されていた(甲 56、57)。その後の同年 7
月 5 日までに本件サイト(com)のドメインの上記 ID が「(ID は省略)」に変更され
ると、同月 7 日までに本件サイト(net)のドメインの上記 ID も同じ ID に変更され
た(甲 58、59)。さらに、本件サイト(net)は、平成 29 年 9 月 30 日当時、そのト
ップページに、
「新デザインできました。http://(以下省略)/テストお願いします。」
15 と掲載していた(甲 60)。
これらの経緯に鑑みると、本件サイトは、上記ドメインの変更を経ても、その内
容は概ね同一性を保っていたことがうかがわれる。
ウ 本件サイトの利用方法
本件サイトにおいては、ジャンルや 50 音、キーワードによって、閲覧可能な漫画
20 等を検索することができ、ユーザーが検索結果から閲覧したいタイトルをクリック
すれば、当該作品がブラウザ上に表示され、ブラウザをスクロールすることにより
作品を閲覧することができる仕組みとなっている。すなわち、 本件サイトでは、漫
画等の画像ファイルをユーザーの端末にダウンロード(複製(いわゆる端末のキャ
ッシュは除く。)することなく、ストリーミング形式により閲覧することが可能で

25 あった。
もっとも、本件サイトにおいては、仕様として各画像ファイルを保存するための
専用の機能は設けられていないものの、各画像ファイルを保存することを制限する
ような技術や機能も採用されていなかった。そのため、ユーザーが通常の OS やブ
ラウザの機能を用いて「名前を付けて画像を保存」したり、スクリーンショットを
撮影したり、画像ダウンロードソフトを利用したりなどといった一般的な方法によ
5 って各画像ファイルをユーザーの端末の記録媒体に保存することは可能であった。
(以上につき、甲 31、41)
(2) 本件サイトに関する被告と関係者との通信
ア 被告は、平成 27 年 7 月 3 日~平成 29 年 2 月 14 日の間、本件サイトの他の
関係者 5 名と構成していた LINE グループ「ちーむ はにらん」において、次の内
10 容の通信をするなどして、本件サイトや本件サイトのドメイン登録名義及びアフィ
リエイト収入の入金先である「World Job Project」について言及するなどしていた。
(甲 44)
・「漫画村の画像の url 隠そうと思ってテストしてた」
・「今漫画村のメンテしてる」
15 ・
「http://(以下省略)、
」「自分のホームページ作ってもアピールする人がいなかっ
た」
・「http://(以下省略) 、
」 「SV の開発とサポートってことにしておいた」「全部俺

のことなんだよなぁ」
イ 被告は、平成 29 年 5 月 1 日~同年 7 月 31 日の間、本件サイトの他の関係者
20 2 名と構成していた LINE グループ「村住民の掟」において、次の内容の通信をする
などして、本件サイトの更新作業等についての連絡・情報共有を行っていた。 甲 37)

・平成 29 年 5 月 2 日
「管理画面絡(から)みてほしいんだけど」 「http://(以下省略)
、 」
「ジャンル頁で漫画のアップがない作品が表示されるバグ修正」 「自動取得のス

25 ピードアップテストしてるから投稿増えるかも」
・同月 3 日
「需要ありそうなの発売カレンダーでアップして欲しい」「今日の人気漫画を参

考に単行本無いやつ結構あるから単行本アップ行って欲しい」
・同月 4 日
「今アクセス伸びてるから毎日(更新を)やって欲しい」
5 ・同月 6 日
「一部サーバーで画像が表示されないバグ修正」
・同月 7 日
「残念だけど pv 落ちるから単行本は他の人に投げるからもういいや」 「今後は

週刊誌の分割の日だけ作業して欲しい」
10 ・同月 9 日
「サムネイル直した」 「壊れたサーバーも復帰処理しておきます」

・同月 22 日
「サーバーの 1 台が調子悪くて何度直しても駄目だから取り替えとく」
・同年 7 月 5 日
15 「村アップデートしてて今から 3 時間くらい管理画面止まります」
また、同 LINE グループにおいては、そのほかに、本件サイトにアップロードす
る漫画の画像データの入手先及び更新に関する情報共有も行われていた。
さらに、被告は、同 LINE グループが作成される以前である平成 29 年 4 月頃、そ
の構成員 1 名との間で、本件サイトに関する作業を担当したいとの同人の申入れを
20 受け入れ、仕事内容及び報酬についての説明をした。(甲 38)
ウ 被告は、平成 29 年 1 月 22 日~同年 11 月 2 日の間、本件サイトの関係者 3 名
との LINE グループ「真ハニ部屋」において、次のような内容の通信をした。 45)
(甲
・平成 29 年 1 月 29 日
「pv 急に 3 倍になったから元から作り直し中」
25 ・同年 5 月 3 日~同月 4 日
(アダルトサイトである「シェアビデオ」が DDos 攻撃の対象となっていること
を受けて)「漫画村も明日防御固める」 「漫画村も鉄壁の守りいれた。
、 」
・同年 8 月 20 日
「対策おわた」「取り敢えずビュワー部分だけなおした」「ソフトバンクに攻撃
、 、
するように指示しなくては」
5 (3) 本件サイト(net)及び本件サイト(org)に係る本件調査
なお、本項においては、
「本件サイト」は、本件サイト(net)と本件サイト(org)
を指す。
ア 本件調査の実施
原告らは、調査会社に対し、各原告の取り扱う作品につき、本件サイトにおける
10 掲載作品数及びアクセス数等の調査を委託した(本件調査)。本件調査の概要は、次
のとおりである。
本件サイトにおける掲載作品情報について、まず、本件サイトにおいて、表示方
法を「作品タイトルのみ」、ソート順を「人気順」としてスクレイピングし、これに
「作品タイトル」「著者」「登録巻数」「タイトル URL」「ジャンル」に係る
より、 、 、 、 、
15 情報を収集する。Google Books API により作品名及び著者名から出版社を特定する
と共に、出版社ごとの作品リスト等とマッチングするなどして、出版社ごとの作品
を特定した。本件調査に係るスクレイピングは、平成 30 年 4 月 6 日に実施された。
また、本件サイトのアクセス数は、ウェブサイト分析ツール「SimilarWeb」を利用
して算出された。SimilarWeb においては、訪問者が 1 つ以上のページにアクセスし
20 た場合にウェブサイトの訪問(セッション)とみなし、30 分以内に同じサイトへの
アクセスがあった場合は同じ訪問に含まれ、 分以上操作を行わなかった場合やそ
れ以降にユーザーが再びアクティブになった場合は新たな訪問としてカウントする
ことになっており、また、新しいセッションは午前 0 時に開始されることとされて
いる。
25 (以上につき、甲 6、51)
イ 本件調査の結果
本件調査の当時、本件サイトには、全体で、作品タイトル数 8223 冊、作品巻数 7
万 2577 巻の作品が掲載されていた。また、平成 29 年 6 月~平成 30 年 4 月の間に
おける本件サイトのアクセス総数は、5 億 3781 万回超(月平均 4889 万 2057 回)、
平均滞在時間は 19 分 18 秒であった。(甲 6、8、9、14~17)
5 (4) 被告自身の本件サイトに関する言及
なお、本項において、「/」は改行部分を示す。
ア 被告は、令和 4 年 7 月 30 日、Twitter に「漫画村の月間利用者は 8500 万人で
日本最大。」などと投稿した。(甲 10)
イ 被告は、令和 3 年 10 月 5 日発行の自著「漫画村の真相 出過ぎた杭は打た
10 れない」(甲 52)において、「漫画村」について、次のように述べている。
・「そもそもぼくが主導して作ったサイトではありません。、
」「サーバー周りやテ
クノロジー関係の部分ではぼくが主導的な役割を果たしていたと思います。でもそ
れは、会社で言うならば CTO(最高技術責任者)のようなもので、ぼくは経営方針
のすべての責任者である CEO(最高経営責任者)では決してなかったのです。(59

15 頁)

「ぼくの出した条件は、…プログラム開発やサーバー周りはやるけれども、メイ
ンとしてはあくまでもDさんの事業であることを明確にしてほしい、ということで
した。/そもそもDさんに誘われて始めた事業なのですから当然です。サイトで得
た収益は、50:50 で配分する、というルールにしました。 、「運営会社」はぼくの会
」「
20 社でしたが、そこから収益は半分半分に分配されていました。(66 頁、67 頁)

・「漫画村は、その後、2018 年 2 月時点で、月に 1 億 6000 万のアクセスがあり、
…と一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)が発表したそうです…。」
(78 頁)

「この問題を、同じく違法アップロードに悩む放送局が取り上げました。2018 年
25 2 月 11 日、NHK が漫画村を含む、いわゆる「海賊版サイト」について取り上げたの
です。、
」「この番組が放送されてから、漫画村のアクセスはむしろ、さらに爆発的に
増えたのです。(78 頁~79 頁)


「結果的に実施されなかったとはいえ、ブロッキング問題をめぐって政治主導で
状況がめまぐるしく変化していました。…/ぼくはその状況に、そして先述のよう
な国の対応にたしかにウンザリしていました。とはいえ、最終的にサイトを閉じる
5 という決断をし、ぼくにその指示を出したのは主たる運営者のDさんです。…/と
もかく漫画村というサイトを閉鎖し、ぼくはフィリピンに飛びました。 (89 頁)

・「漫画村のプログラムコードをすべて書き(ただし、オーナーではない)、それ
で捕まり罰せられ、みなさんに手伝ってもらって再起しようとしている人間として
は、…」(195 頁)
10 2 争点 1(被告による権利侵害(公衆送信(送信可能化を含む。 )の有無)

(1) 被告による本件サイトの管理・運営への関与
本件サイト(com)及び本件サイト(net)において、各ドメインの Google アナリ
ティクスの ID は同一のものが使用されていたこと(前記 1(1)イ)、及び、本件サイ
ト(net)が、トップページに、
「新デザインできました。http://(以下省略)/テスト
15 お願いします。」と掲載し、本件サイト(org)にユーザーを誘導していたこと(前
記 1(1)イ)は、いずれも、本件サイトの主たる管理・運営者に一貫性・連続性があ
ることをうかがわせる。これらに加え、本件サイトはいずれも「漫画村」と称する
ウェブサイトであること、本件サイト間ではそれぞれリダイレクトの設定がされて
いた時期があるところ、そのような設定を本件サイトに無関係な第三者がすること
20 は考え難いことなどを考えると、本件サイトの主たる管理・運営者には一貫性・連
続性があることがうかがわれる。
また、被告自身は、他の関係者の求めに応じて本件サイト(com)の設立に関わ
り、システム開発・管理、広告業者とのやり取りを担当したことは認めている。加
えて、被告による本件サイト関係者との LINE グループにおけるやり取り(前記 1(2))
25 の内容からは、技術的事項への対応にとどまらず、掲載作品の選定を含む本件サイ
ト(net)及び本件サイト(org)の管理・運営に関して、被告が積極的に関与してい
たことがうかがわれる。加えて、被告は、自著(甲 52)において、
「漫画村」につい
て、少なくとも技術面では主導的な役割を果たしていたことやその閉鎖に至る経緯
等も述べているところ(前記 1(4)イ) その記述からは、
、 被告は、本件サイト(com)
に限らず、本件サイトの開設から閉鎖に至るまで、本件サイトの管理・運営に一貫
5 して積極的に関与していたことがうかがわれる。
これらの事情に鑑みると、被告は、本件サイトの開設当初から閉鎖に至るまで、
本件サイトの管理・運営に一貫して連続的かつ積極的に関与していたことが認めら
れる。これに反する被告の主張は採用できない。
(2) 本件サイトにおける公衆送信の有無について
10 ア 前記(1(1)ア)のとおり、本件サイトに漫画等を掲載する方法には、本件サイ
トのサーバの記録媒体に漫画等の画像データを手作業でアップロードする方法(方
法①)と、被告及び関係者らと無関係な第三者の設置したサーバコンピュータ(第
三者サーバ)に存在する画像データを、本件サイトのサーバにリバースプロキシの
設定をすることにより閲覧できるようにする方法(方法②)があったことが認めら
15 れる。
本件サイトにおいて本件作品の画像データが閲覧可能とされるに際し、個別に方
法①又は②のいずれの方法が行われたかについては、証拠上必ずしも判然としない。
もっとも、被告は、本件作品の画像データを自ら又は協力者を通じてアップロード
したことはなく、本件サイト(com)につき、リバースプロキシの設定等を通じて、
20 本件サイト(com)の URL にアクセスすることによって、被告が運営に関わってい
ない第三者によって既にアップロードされ、インターネットを通じて一般に閲読可
能であった画像データの閲読を可能とする設定を行ったとしている。被告と本件サ
イトの他の関係者による LINE グループでのやり取りや被告の自著の内容も、これ
に沿うものと理解される。
25 これらの事情を踏まえると、本件作品は、いずれも方法②により、本件サイトに
おいて閲覧可能とされていたものとみるのが合理的である。
イ したがって、被告は、本件サイトの他の関係者と共同して、本件サイト(net)
及び本件サイト(org)において、方法②により(さらに、本件サイトのサーバにつ
き CDN サービスをも利用して)、ユーザーの求めに応じて本件作品の画像データを
閲覧可能としていたものといえる。
5 このプロセスを子細に見ると、本件サイトのサーバは、インターネット回線に接
続し、リバースプロキシの設定により第三者サーバから送信された画像データを、
不特定多数のユーザーによる本件サイト上の本件作品のサムネイル又は URL のク
リック等に応じて、自己にキャッシュされたデータに基づき(本件サイトのサーバ
に画像データのキャッシュがある場合)、又は第三者サーバから画像データの送信
10 を受け(キャッシュがない場合)、CDN サービスを通じて、ユーザーによる本件作
品の画像データの閲覧を可能とするものといえる。
そうすると、本件サイトのサーバは、公衆の用に供されている電気通信回線に接
続している自動公衆送信装置であり、これに第三者サーバから取得した本件作品の
画像データを記録し(画像データのキャッシュがある場合) 又は画像データが記録

15 された第三者サーバの当該画像データを記録保存している部分を自己の公衆送信用
記録媒体として加え(キャッシュがない場合)、これにより、公衆からの求めに応じ
自動的に公衆送信し得るようにしたものといえる。すなわち、被告は、他の関係者
と共に、本件サイトのサーバにより本件作品の画像データを送信可能化(著作権法
2 条 9 号の 5 イ)したものと認められる。
20 なお、仮に本件作品の画像データの中に方法①により閲覧可能とされたものがあ
ったとしても、当該アップロード行為は、
「公衆の用に供されている電気通信回線に
接続している自動公衆送信装置…の公衆送信用記録媒体に情報を記録」するもので
あるから、やはり「送信可能化」に当たる。
ウ 被告の主張について
25 これに対し、被告は、本件サイトにつきリバースプロキシの設定等を行ったこと
は、第三者により既にインターネット上において「自動公衆送信し得る」状態を作
出していた侵害コンテンツに誘導するものに過ぎず、「自動公衆送信し得るように
する」ものとはいえない旨主張する。
しかし、本件サイトのサーバに係る被告及び他の関係者の行為につき、送信可能
化に該当することは上記のとおりである。リバースプロキシの設定とリーチサイト
5 等とが等価であるとする点も、ユーザーに対し、画像データが第三者サーバから直
接提供されるか(リーチサイト等の場合)、本件サイトのサーバ(リバースプロキシ
により第三者サーバからデータを都度取得する場合を含む。 を介し、
) 本件サーバに
よるものとして提供されるかという相違があることに鑑みると、これらを等価とい
うことはできない。
10 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(3) 本件作品が公衆送信に供されていたこと
本件サイトには本件作品が掲載されており、本件作品全てについて、公衆送信に
供されていたと認められる(前提事実(3))。
この点につき、被告は、本件サイトにおいて、一部の作品について不具合が指摘
15 されていたことから、本件作品の全てが本件サイトにおいて公衆送信に供されてい
たとはいえない旨主張する。
確かに、本件サイト(org)において、
「問題のあるファイルを報告」というページ
の送信フォームに「数巻はあるが続きの巻が無い」 「画像が壊れている」 「画像が
、 、
ばらばら」等の理由が設定されていること、その下部に「現在数百冊の画像壊れ、
20 抜けを修正中です。修正が終わり次第リクエストを受け付けますのでもうしばらく
お待ちください。
(今は送信できません。」
) などの説明書きが掲載されていた時期が
あることが認められる(乙 9)。しかし、上記ページは定型的なものに過ぎず、その
説明書きの記載内容の真偽も定かでない。また、本件作品について、上記不具合が
発生していたことをうかがわせる具体的な事情も見当たらない。
25 したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(4) 小括
以上より、被告は、他の関係者と共同して、本件サイト(net)及び本件サイト(org)
において、本件作品の画像データを公衆送信(送信可能化)したものであり、これ
により、原告らの本件作品に係る出版権又は独占的利用権が侵害されたものと認め
られる。
5 3 争点 2(被告の故意の有無)
前記 1 及び 2 認定の各事実によれば、被告は、故意により、原告らが有する本件
作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害につき、被告には故意があったことが認
められる。これに反する被告の主張は採用できない。
したがって、被告は、原告らに対し、上記権利侵害の不法行為に基づく損害賠償
10 責任を負う。
4 争点 3(損害額)
(1) 著作権法 114 条 3 項に基づく損害について
ア 原告らは、原告らが有する本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害行
為を行った被告に対し、出版権の侵害については著作権法 114 条 3 項に基づき、ま
15 た、独占的利用権の侵害については同項の類推適用により、本件作品の出版権又は
独占的利用権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の
額として、その損害賠償を請求することができるといえる。
イ 利用料率について
(ア) 本件サイトにおいては、ユーザーは無償で本件作品の閲覧が可能であり、ユ
20 ーザーから閲覧可能とすることの対価を得ていないという意味では、侵害による売
上高は観念できない。
もっとも、本件作品は、原告らが、別紙作品目録 1~3 の各「販売価額(税込)」
欄記載の金額で、原告ら又は原告 KADOKAWA の完全子会社の電子配信サイトで電
子配信され、又は、コミック単行本等として販売されていたものである(前提事実
25 (2))。そうすると、原告らは、本件作品に係る出版権又は独占的利用権に基づき、こ
れらの販売による利益を受けていたものと認められる。
また、本件サイトでは、ファイルをユーザーの端末にダウンロード(複製(いわ
ゆる端末のキャッシュは除く。)することなく、いわゆるストリーミング形式によ

り無償で閲覧することが想定されていた。もっとも、閲覧にあたり、ユーザーは、
広告の視聴等の制約を受けることなく閲覧することが可能であった。また、本件サ
5 イトにおいては、閲覧した画像ファイルの保存操作を制限するような技術や機能は
採用されておらず、ユーザーにおいて、各画像ファイルをユーザーの端末の記録媒
体に保存することも可能であった(以上につき、前記 1(1)イ)。これらの事情に鑑み
ると、ユーザーにとっては、ストリーミング形式での閲覧が想定されているとはい
え、本件サイトを通じて本件作品の閲覧が可能である限り、本件サイトにアクセス
10 しさえすれば何らの制限なく本件作品を無償で閲覧可能な状態に置かれるといえる。
これは、実質的には、ユーザーが本件サイトにアクセスする都度、電子配信された
本件作品を購入したのと異ならない状態が実現されているものと評価することがで
きる。
これらの事情その他本件に表れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件におい
15 て、被告による侵害行為に対し、原告らが本件作品に係る出版権又は独占的利用権
(著作権法 114 条 3 項)の算定
の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する金額」
にあたっては、別紙作品目録 1~3 の「裁判所認定損害額」欄記載のとおり、「販売
価額(税込)」欄の金額から 10%を控除した金額に、各作品の閲覧数を乗じた額とす
ることが相当である。これに反する原告らの主張は採用できない。
20 (イ) 被告の主張について
被告は、本件サイトと同規模の漫画閲覧サイト運営者(漫画定額読み放題サービ
スサイト)と原告らとの間で締結されるべきライセンス利用契約のライセンス料を
基礎に損害額を算定すべきである旨主張する。
しかし、そもそも、本件作品のうち電子配信の対象となっていない作品(別紙作
25 品目録 3 の番号 174~221)については、この主張が妥当する余地はない。
また、その他の本件作品についても、上記のとおり、原告らは、自ら又は完全子
会社が管理・運営する電子配信サイトを通じて有償でのみ電子配信しているのであ
って、これらの作品が漫画定額読み放題サービスの対象とされていることを認める
に足りる証拠はない。そうすると、原告らにとっては、本件作品を同サービスの対
象とする動機はなく、仮に本件作品を同サービスの対象として利用許諾契約を締結
5 するとすれば、本件作品の販売価格と同額ないしこれに近い額を利用料として設定
すると考えることには合理性がある。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
ウ 閲覧数
本件調査によれば、平成 29 年 6 月~平成 30 年 4 月の間の本件サイトへのアクセ
10 ス総数は 5 億 3781 万超と推計される。また、本件サイトの平均滞在時間は約 20 分
程度でされるところ(前記 1(3)イ)、この平均滞在時間は、漫画作品 1 巻を閲覧する
のに一応十分な時間といえる。これを踏まえ、本件サイトにアクセスしたユーザー
が 1 アクセス当たり漫画 1 巻を閲覧したとすると、上記期間中、本件サイトにおい
ては、合計 5 億 3781 万巻の閲覧があったと推計されるとみてよい。
15 また、本件調査時に本件サイトに掲載されていた作品巻数は 7 万 2577 巻とされ
るから、本件サイトにおける本件作品 1 巻当たりの平均閲覧数は、7410 回を下回ら
ないものとみられる。
この点、被告は、SimilarWeb によるアクセス数の推計は不正確である旨を指摘し
て、これを損害額算定の基礎とすることはできないと主張する。
20 確かに、本件調査の推計が依拠する SimilarWeb による調査結果の信頼性について
は、これを疑問視する見解も見受けられるが(例えば乙 6)、本件において、その調
査手法ないし結果の信頼性を疑わせる具体的な事情は証拠上見当たらない。その点
を措くとしても、本件調査においては、平成 29 年 6 月~平成 30 年 4 月の間におけ
る本件サイトへの月平均サイトアクセス数は 4889 万 2057 回とされている(前記
25 1(3)イ)。他方、被告は本件サイトの管理・運営に関与し、利用者数の状況を把握し
得る立場にあり、現に把握していたと考えられるところ(前記 1(2)、(4))、被告によ
れば、令和 4 年 7 月時点の投稿ではあるものの、月間利用者は 8500 万人とされ(前
記 1(4)ア)、また、平成 30 年 2 月時点の本件サイトの月間アクセス数は 1 億 6000 万
とされている(前記 1(4)イ) 被告の本件サイト利用者数に関する上記各言及には誇

張が含まれている可能性も否めないものの、上記各数値と本件調査での推計に係る
5 数値との乖離の程度等を考慮すると、その可能性を考慮してもなお、少なくとも、
本件調査結果として推計された閲覧数が本件サイトの現実の閲覧数を上回るものと
はうかがわれない。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
エ 著作権法 114 条 3 項に基づき算定される損害額
10 以上によれば、本件において、原告らが「受けるべき金銭の額に相当する金額」
(著作権法 114 条 3 項)は、別紙作品目録 1~3 の「裁判所認定損害額」欄記載のと
おり、
「販売価額(税込)」欄記載の金額から 10%を控除した金額に、各作品の閲覧
数 7410 回を乗じた金額と認めるのが相当である。
このような損害額の合計額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
15 ・原告 KADOKAWA につき 3 億 6886 万 9059 円
・原告集英社につき 3 億 9020 万 9859 円
・原告小学館につき 8 億 1968 万 6790 円
(2) 弁護士費用相当損害金
原告らは、本件訴訟の提起に当たり訴訟代理人弁護士に委任せざるを得なかった
20 ものであり、本件に表れた一切の事情を考慮すると、被告の不法行為と相当因果関
係のある弁護士費用相当損害金の額は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 3688 万 6905 円
・原告集英社につき 3902 万 0985 円
・原告小学館につき 8196 万 8679 円
25 (3) 小括
したがって、本件作品に係る出版権又は独占的利用権の侵害の不法行為に係る原
告らの損害額の合計は、それぞれ、以下のとおりとなる。
・原告 KADOKAWA につき 4 億 0575 万 5964 円
・原告集英社につき 4 億 2923 万 0844 円
・原告小学館につき 9 億 0165 万 5469 円
5 なお、原告らは、予備的に著作権法 114 条 1 項に基づき算定される損害額をも主
張する。しかし、原告らの主張を前提としても上記認定に係る損害額を上回ること
はないから、この点に関して判断する必要はない。
5 争点 4(消滅時効の成否(原告らが損害及び加害者を知った時))
(1) 認定事実
10 前記各認定事実のほか、証拠(各項に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、
以下の事実が認められる。
ア NHK 記者による取材等
(ア) 「無能ブログ」と題するブログにおいて、平成 29 年 8 月 2 日、
「漫画違法配
信サイト「漫画村」の黒幕に迫る」と題する投稿(乙 1)がされた。当該投稿におい
15 ては、本件サイト(com)のドメイン登録の名義人であるセーシェル共和国の法人
「World Job Project」を手掛かりとして調査すると「C’」という人物がアメリカで
創業した企業名にたどり着くこと、本件サイト(com)のデータベースに格納された
メールアドレスのデータに「C”」が含まれていることなどを根拠として、
「C’」が
本件サイトの運営者であると推論している。
20 (イ) NHK の記者は、平成 30 年 4 月上旬、被告が本件サイトの運営者であると見
込み、被告に対して電話取材を行った。その内容につき、当該記者は、令和元年 7
月 9 日付け「漫画村容疑者との一問一答」と題するニュース記事(乙 2)を掲載し
ている。これによれば、取材の際、当該記者は、被告に対し、本件サイトの運営者
であるか否か等について質問したものの、被告は、
「自分がやっているっていう人は
25 いないんじゃないんですか。、
」「違います。」などと回答した。このような被告の対
応を踏まえ、当該記者は、被告は「漫画村のサイトに関連して、プログラム開発な
どを担うとする会社の関係者だと認めた。一方で、自らが漫画村の運営者であるこ
とは否定した。」などとその取材結果をまとめている。
同様の内容は、NHK 取材班を著者とする「暴走するネット広告 1 兆 8000 億円
市場の落とし穴」と題する書籍(令和元年 6 月 10 日電子書籍版発行。乙 20)にも
5 記載されている。
(ウ) なお、新聞及び雑誌において、被告が身柄拘束された令和元年 7 月 9 日より
前の時点における実名報道は見当たらない。(甲 20、21)
イ 政府におけるインターネット上の海賊版対策に関する検討等
(ア) 知的財産戦略本部は、「検証・評価・企画委員会座長決定」として、平成 30
10 年 4 月 2 日、
「昨今、運営管理者の特定が困難であり、侵害コンテンツの削除要請す
らできないマンガを中心とする巨大海賊版サイトが出現し、多くのインターネット
ユーザーのアクセスが集中する中、順調に拡大しつつあった電子コミック市場の売
り上げが激減するなど、著作権者、著作隣接権者又は出版権者の権利が著しく損な
われる事態となっている。」などとして、「インターネット上の海賊版対策に関する
15 検討会議(タスクフォース)(検討会議)を設置することとした。検討会議の委員

には、原告 KADOKAWA の当時の代表者も選任された。(乙 13)
(イ) 同月 13 日、知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議は、
「インターネット上の
海賊版サイトに対する緊急方針」を決定し、本件サイトを含む特に悪質な 3 つの海
賊版サイト等について、「法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な措
20 置として」「ブロッキングを行うことが適当」とした。(乙 16)
(ウ) 検討会議第 1 回会合(同年 6 月 22 日実施)において、原告 KADOKAWA の
当時の代表者は、本件サイトの被害について言及した。(乙 14)
(エ) 同年 10 月 10 日、日本国内の権利者から委任を受けた弁護士が同年 6 月に米
国で匿名訴訟を提起し、ディスカバリー制度(クラウドフレア社に対する証拠開示
25 手続)を利用するなどして、17 日間程度で、本件サイトの運営者の氏名、住所等の
情報の開示を受け、開示対象となった人物の氏名及び住所が特定されたことが
「BuzzFeedNews」により報道された(乙 3)。もっとも、当該記事に被告の氏名等は
記載されておらず、また、
「この契約者が、漫画村を運営していた可能性が高いとい
う。」とされるにとどまる。
当該訴訟の代理人を務めた弁護士は、検討会議等を宛先として、同年 10 月 10 日
5 付け「意見書(ディスカバリー制度を利用した海賊版サイト運営者の特定について)」
と題する意見書(乙 17)を提出した。当該意見書において、当該弁護士は、
「米国内
の CDN…サービスを利用している海賊版サイトについては、ディスカバリー制度を
」「訴訟提起から Cloudflare から
利用することにより、運営者の特定は可能である。、
の情報開示まで 17 日であり、…実効性が高い。」などとしている。
10 当該意見書は、検討会議第 9 回会合(同月 15 日実施)において、資料として提供
された(乙 15)。
(オ) 同年 11 月 1 日、朝日新聞は、
「漫画村運営者を特定、提訴を検討」などとす
る見出しの記事(乙 4)を掲載し、
「海賊版サイト「漫画村」に無断で作品を掲載さ
れたとして、…配信ネットワークを提供する米クラウドフレア社に対し、漫画村運
15 営者の情報開示を求めた訴訟で、開示記録から運営者の氏名や住所などが特定でき
たことがわかった。 、
」 「運営者に著作権侵害の損害賠償請求訴訟を起こすことを検
討している。、
」「漫画村をめぐっては、6 月に米カリフォルニア州で別の漫画家がク
ラウドフレアを提訴した裁判で、運営者側の氏名、住所などが開示されていた。」な
どと報道した。ただし、当該記事においても、被告の氏名等は記載されていない。
20 ウ 原告らの本件サイトに対する対応
(ア) 原告らは、平成 30 年 2 月 13 日、知的財産戦略本部の検証・評価・企画委員
会コンテンツ分野に対し、本件サイト等のいわゆる海賊版サイトを念頭において、
「海賊版にはブロッキングが有効」などとの申入れを行った。(乙 28)
(イ) 原告らを含む複数の出版社は、同年 4 月 11 日までに、Google に対し、DMCA
25 に基づき、本件サイトについて著作権侵害の情報提供又は削除の申立てを行い、
Google は、同日、検索結果から本件サイトのトップページへのリンクを削除した。
(乙 10、11)
(ウ) 同年 10 月 12 日、原告 KADOKAWA の当時の代表者は、インターネットテレ
ビの番組において、
「漫画村運営者の身元が判明したのはすごく良いニュース」と発
言した。(乙 31)
5 エ 本件サイトに係る著作権法違反被疑事件に係る警察の捜査状況及び原告らに
よる本件サイトに関する告訴等
(ア) 警察は、平成 29 年 5 月 17 日、本件サイト(com)に対するサイバーパトロ
ールを通じて、同サイトに「キングダム 516 話」が同月 11 日に登録され、掲載され
ていることを把握し、同サイトのトップページ及び当該作品が表示されたページを
10 キャプチャーし、保存した。(甲 41)
(イ) 同月 31 日、警察は、ACCS の情報提供を受け、原告集英社が出版等する「ONE
PIECE866 話」が本件サイト(com)に掲載されていることを確認し、その画像デー
タを保存した。(甲 31)
原告集英社は、警察からの鑑定嘱託を受けた ACCS の依頼に基づき上記画像デー
15 タについて鑑定し、同年 6 月 14 日、上記画像データは、作者である漫画家が著作権
を有し、原告集英社が出版権を有する著作物が記録されているものであること等を
報告した。(甲 32)
(ウ) 同年 9 月 7 日、警察は、本件サイト(net)の URL から IP アドレスを調査し
たところ、CDN サービスを提供するクラウドフレア社に割り当てられた IP アドレ
20 スであること、このため、本件サイト(net)のウェブサーバの特定には至らなかっ
たことなどが明らかになった。(甲 35)
(エ) 原告 KADOKAWA は、平成 30 年 9 月 28 日、本件サイト(org)について、
同サイト掲載作品である著作物「機動戦士ガンダム THE ORIGIN(24)」の著作権者
と共に、出版権者として、被告訴人を氏名不詳者(本件サイト(org)の公衆送信用
25 記録媒体に上記著作物の情報を記録・蔵置して送信可能化した者)として、同著作
物に係る著作権法違反の事実で告訴した。(甲 19 の 1)
また、原告小学館は、同日、本件サイト(org)について、同サイト掲載作品であ
る著作物「「名探偵コナン」第 94 巻」の著作権者と共に、独占的利用権の権利者と
して、被告訴人を氏名不詳者(本件サイト(org)の公衆送信用記録媒体に上記著作
物の情報を記録・蔵置して送信可能化した者)として、同著作物に係る著作権法違
5 反の事実で告訴した。(甲 19 の 2)
さらに、原告集英社は、同日、以下の 3 件の告訴をした。(甲 29、39)
・本件サイト(net)について、同サイト掲載作品である著作物「ワンピース カ
ラー版 1」の著作権者と共に、出版権者として、被告訴人を氏名不詳者(A)(本件
サイト(net)の公衆送信用記録媒体に上記著作物の情報を記録・蔵置して送信可能
10 化した者)として、同著作物に係る著作権法違反の事実で告訴。
・本件サイト(org)について、同サイト掲載作品である「ワンピース モノクロ
版 1」の著作権者とともに、出版権者として、被告訴人を氏名不詳者(B)(本件サ
イト(org)の公衆送信用記録媒体に上記著作物の情報を記録・蔵置して送信可能化
した者)として、同著作物に係る著作権法違反の事実で告訴。
15 ・本件サイト(net)について、同サイト掲載作品である著作物「キングダム 528
話「犬戎の末裔」」の著作権者と共に、独占的利用権の権利者として、被告訴人を氏
名不詳者(本件サイト(net)の公衆送信用記録媒体に上記著作物の情報を記録・蔵
置して送信可能化した者)として、同著作物に係る著作権法違反の事実で告訴
(オ) 警察は、平成 31 年 2 月 20 日、この頃までに本件サイトに係る著作権法違反
20 被疑事件の捜査において本件サイトの関係者として把握されていた者(3 名)のス
マートフォン 3 台を差し押さえた。
このうち 1 台について、平成 31 年 3 月 11 日~同月 22 日の間に警察がデータの
解析を行ったところ、LINE グループ「ちーむ はにらん」のメンバーに被告が含ま
れること及びそのグループ内でのトーク内容が判明した。警察は、その内容に基づ
25 き、被告が本件サイトを管理・運営していたこと、本件サイトのドメイン登録名義
及びアフィリエイト収入の入金先であるセーシェル共和国の法人「World Job Project」
が被告の関与するものであること、同社の日本代理店とされる会社は被告が代表取
締役を務める日本法人であること、本件サイトの Google アナリティクスのトラッ
キング ID の登録メールアドレスが被告のメールアドレスであることなどを把握し
た。(前記 1(2)ア、甲 44)
5 また、他の 2 台について、同年 4 月 4 日及び令和元年 5 月 20 日~同月 21 日に警
察がデータの解析を行ったところ、1 つからは、LINE グループ「村住民の掟」のメ
ンバーに被告が含まれること及びそのグループ内でのトーク内容が(前記 1(2)イ、
甲 37)、もう 1 つからは LINE グループ「真ハニ部屋」のメンバーに被告が含まれる
こと及びそのグループ内でのトーク内容が、それぞれ判明した(前記 1(2)ウ。 45)
甲 。
10 (カ) 平成 31 年 4 月 1 日、警察は、上記「ONE PIECE866 話」の画像データの本件
サイトへの登録時期を捜査し、平成 29 年 5 月 29 日であることが判明した。 34)
(甲
(キ) 原告集英社は、平成 31 年 4 月 16 日、警察から、上記作品及び「キングダム
516 話」に係る著作権法違反の事実について、被疑者を特定した旨情報提供を受け
た。
15 原告集英社は、令和元年 5 月 13 日付け(同月 14 日受理)で、本件サイトについ
て、上記 2 作品につき、いずれも著作権者と共に、出版権者ないし独占的利用権の
権利者として、被告訴人を被告他 3 名として、これらの著作物に係る著作権法違反
の事実で追加告訴した。
(以上につき、甲 30、40)
20 (ク) 原告集英社は、警察からの鑑定嘱託を受けた ACCS からの依頼に基づき上記
「キングダム 516 話」の画像データについて鑑定し、平成 31 年 4 月 18 日、上記画
像データは、作者である漫画家が著作権を有し、原告集英社が発行する著作物であ
ることなどを報告した。なお、上記鑑定嘱託において被疑者とされる者には被告も
含まれる。(甲 42)。
25 (ケ) 令和元年 7 月 9 日、フィリピン入国管理局は、マニラ空港において、本件サ
イトの運営者として、被告を拘束した。なお、これに関する同局の発表については、
被告につき、「C’容疑者」として実名で報道された。(甲 20)
(2) 検討
ア 原告らが本件に係る損害を知った時期
原告らは、平成 30 年 4 月 11 日までに、Google に対して、DMCA に基づき、本件
5 サイトについて著作権侵害の情報提供又は削除の申立てを行い、Google は、同日、
本件サイトへのリンクを検索結果から削除した(前記(1)ウ(イ))。そうすると、原告
らは、同日までには本件に係る損害を知ったと認められる。これに反する原告らの
主張は採用できない。
イ 原告らが本件に係る加害者を知った時期
10 (ア) 「加害者を知った時」
(民法 724 条)とは、加害者に対する賠償請求が事実上
可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味し、被害者が不法行
為の当時加害者の住所・氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対
する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、
被害者が加害者の住所・氏名を確認したとき、初めて「加害者を知った時」にあた
15 るものというべきである(最高裁昭和 48 年 11 月 16 日第二小法廷判決・民集 27 巻
10 号 1374 頁)。
(イ) 被告は、原告らが、遅くとも平成 30 年 11 月までに「加害者」を知っていた
旨主張する。
まず、平成 30 年 11 月までに、本件サイトの管理・運営に関与した者として被告
20 の氏名、住所等が判明していたと認めるに足りる客観的証拠はない。
確かに、同年 10 月 10 日までには、日本国内の権利者が、弁護士に委任し、米国
の訴訟手続を通じて本件サイトの利用する CDN サービスの契約者情報を入手し、
その者の氏名、住所等を特定し、かつ、その旨が公表されている(前記 1(1)イ(エ))。
しかし、その際、当該契約者として被告の氏名等が明らかにされていたことをう
25 かがわせる具体的な事情はない。これ以前に本件サイトの運営者ないし関係者とし
て被告の氏名等を挙げるブログ記事はあったものの(前記(1)ア(ア))、被告を特定す
る根拠としては確実なものとはいい難く、なお推測の域を出ない程度のものに過ぎ
ない。また、NHK の記者による被告に対する取材もされたが(前記(1)ア(イ))、これ
も、取材時点では被告を本件サイトの運営者と特定するには至っていない。
また、本件サイトの運営者を特定する手法という観点からみても、上記米国の訴
5 訟手続を利用する手法は、当該事件では一定の成果を上げたものといえるとしても、
他の事件でも同様に有効な手法として機能するものであるか否かは、必ずしも明ら
かでない。その点を措くとしても、少なくとも、平成 30 年 10 月ないし同年 11 月当
時、海賊版サイトによる著作権侵害事案の加害者の特定方法として、日本において
一般化されていたとまではいい難い。
10 加えて、上記当時、本件サイトについては、著作権法違反被疑事件として警察に
よる捜査が既に進められており、原告らも、既に本件について告訴を行っていた(前
記(1)エ)。捜査機関が刑事事件として被疑者の特定等に関する捜査を進めており、
剰え自ら捜査機関に対し告訴をした事案においては、捜査の妨げにならないように、
告訴人としては、少なくとも当面の間は捜査状況の推移を見守り、自ら加害者の特
15 定を図る措置を取ることを控えることは、一般的にみられるところである。
これらの事情を総合的に考慮すると、原告らは、平成 30 年 11 月時点で、原告ら
に対する出版権等侵害の不法行為の加害者につき、氏名等は把握していないまでも、
本件サイトの運営に当たる特定の人物として具体的に被告を認識していたとはいえ
ず、また、米国の訴訟手続を利用するなどして調査すれば容易に加害者及びその氏
20 名等を特定し得る状況にあったともいえない。したがって、この時点では、原告ら
は、損害賠償請求が可能な程度に被告が加害者であることを知っていたとはいえな
い。これに反する被告の主張は採用できない。
(ウ) そうすると、原告らが加害者である被告を知った時点は、原告集英社につい
ては、警察から被疑者を特定した旨情報提供を受けた平成 31 年 4 月 16 日の時点で
25 あり(前記(1)エ(キ))、原告 KADOKAWA 及び同小学館については、早くとも、フィ
リピン入国管理当局が本件サイトの運営者として被告を拘束したことを発表した令
和元年 7 月 9 日の時点(前記(1)エ(ケ))と認められる。
また、被告に対し、原告集英社は令和 4 年 3 月 4 日到達に係る催告書により、原
告 KADOKAWA 及び同小学館はいずれも同年 4 月 13 日到達に係る催告書により、
それぞれ、本件訴訟に係る損害賠償債務の履行を請求して催告を行った上(前提事
5 実(5))、同年 7 月 28 日、本件訴えを提起した(前提事実(6))。
したがって、本件における原告らの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求
権については、いずれも消滅時効は完成していない(民法 150 条、 条 1 項 1 号)
147 。
6 まとめ
以上より、原告 KADOKAWA は、被告に対し、本件作品に係る出版権又は独占的
10 利用権の侵害の不法行為に基づき、合計 4 億 0575 万 5964 円の損害賠償請求権及び
これに対する不法行為以降の日である令和 4 年 8 月 5 日(訴状送達の日の翌日)か
ら支払済みまで平成 29 年法律第 44 号による改正前の民法所定の年 5%の割合によ
る遅延損害金請求権を有する。
同様に、原告集英社は、被告に対し、不法行為に基づき、合計 4 億 2923 万 0844
15 円の損害賠償請求権及びこれに対する令和 4 年 8 月 5 日から支払済みまで年 5%の
割合による遅延損害金請求権を有する。
また、原告小学館は、被告に対し、不法行為に基づき、合計 9 億 0165 万 5469 円
の損害賠償請求権及びこれに対する令和 4 年 8 月 5 日から支払済みまで年 5%の割
合による遅延損害金請求権を有する。
20 第5 結論
よって、原告らの請求はいずれも主文の限度で理由があるからその限りでこれら
を認容し、その余をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
25 東京地方裁判所民事第 47 部
裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官久野雄平及び裁判官吉野弘子はいずれも差支えのため、署名押印できな
い。
裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
(別紙)
当 事 者 目 録
5 原 告 株式会社 KADOKAWA
(以下「原告 KADOKAWA」という。)
原 告 株 式 会 社 集 英 社
10 (以下「原告集英社」という。)
原 告 株 式 会 社 小 学 館
(以下「原告小学館」という。)
上記 3 名訴訟代理人弁護士 前 田 哲 男
同 中 川 達 也
同訴訟復代理人弁護士 福 田 祐 実
同 中 込 悠 斗
被 告 C
同訴訟代理人弁護士 木 村 道 也
(別紙)
略語一覧表
本件作品 別紙作品目録 1~3 記載の各漫画作品の総称
本件サイト(com) 「漫画村」と称するサイトのうち、ドメインが
「(省略)」のもの
本件サイト(net) 「漫画村」と称するサイトのうち、ドメインが
「(省略)」のもの
本件サイト(org) 「漫画村」と称するサイトのうち、ドメインが
「(省略)」のもの
本件サイト 本件サイト(com)、本件サイト(net)及び本件サ
イト(org)の総称
検討会議 知的財産戦略本部の設置した「インターネット上の
海賊版対策に関する検討会議」
DMCA 米国デジタルミレニアム著作権法
本件調査 原告らが、調査会社に委託した、本件サイトにおけ
る掲載作品数及びアクセス数の調査
ACCS 一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会

(別紙作品目録1~3 省略)

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