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令和5(ワ)70391民事訴訟 著作権

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裁判所 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和6年3月25日
事件種別 民事
当事者 原告グラフィティジャパン株式会社
法令 著作権
キーワード 侵害11回
許諾1回
損害賠償1回
主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録1及び2記載の各情報を開示せよ。15
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要

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判決文

令和 6 年 3 月 25 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 5 年(ワ)第 70391 号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和 6 年 2 月 27 日
判 決
原 告 グラフィティジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士 杉 山 央
10 被 告
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 五 島 丈 裕
主 文
15 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録1及び2記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
20 第2 事案の概要
本件は、別紙侵害著作物目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)の
著作権を有するとする原告が、被告が提供するインターネット接続サービスを
介してファイル共有ネットワークに本件各動画に係るファイルがアップロード
されたことにより、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害され
25 たことが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠
償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。 条 1
)5
項に基づき、別紙発信者情報目録 1 及び 2 記載の各発信者情報(以下「本件発
信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨
により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号
5 を含む。以下同じ。)
(1) 当事者等
ア 原告は、本件各動画の著作権を有する。(甲 2、18)
イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む
株式会社であり、本件発信者情報を保有している。
10 (2) 「BitTorrent」の仕組み等
「BitTorrent」(ビットトレント)とは、いわゆる P2P 形式のネットワーク
である。ビットトレントにおいては、ユーザがファイルをダウンロードする
際には、ファイルの情報が記載された「torrent ファイル」
(以下「トレントフ
ァイル」という。)をダウンロードし、これをビットトレントに対応したクラ
15 イアントソフトで読み込んだ上で、インターネット上にあるファイルをダウ
ンロードすることが必要となる。また、ビットトレントを利用してダウンロ
ードするファイルは、完成した一つのファイルではなく、当該ファイルが断
片化(ピース化)されたファイル(以下「ピース」という。)であり、ビット
トレントにおいて各ピースをダウンロードすることにより当該ファイルが完
20 成する。
ユーザは、ある特定のファイルをダウンロードする際、トレントファイル
をダウンロードし、取得したいピースを有する他のユーザ(以下「ピア」と
いう。)から、当該ピースをダウンロードする。当該ユーザは、当該ピースの
ダウンロードを開始すると同時に、当該ピースのダウンロードが終了する前
25 から当該ピースのアップロードを行うことになる。あるファイルのピースの
ダウンロードが全て行われると、当該ユーザは当該ファイル全部のデータを
有することになり、それ以降はピースのアップロードのみを行うこととなる。
(以上につき、甲 4~6)
(3) 原告による本件各動画のビットトレント上のアップロード調査
原告は、本件訴訟提起に先立ち、調査会社(以下「本件調査会社」という。)
5 に対し、ビットトレントにおける本件各動画に係るファイルのアップロード
の有無につき調査(以下「本件調査」という。 を委託した。
) 本件調査会社は、
「μtorrent」と称するクライアントソフト(以下「本件クライアントソフト」
という。)を使用して本件調査を行い、原告に対し、その調査結果として、本
件各動画に係るファイル(ピース)をダウンロードしつつアップロードして
10 いるユーザにおいて、別紙発信者情報目録 1 及び 2 記載の各日時(以下、こ
れらを併せて「本件日時」という。)に同記載の各 IP アドレス(以下、これ
らを併せて「本件 IP アドレス」といい、本件日時、本件 IP アドレス等によ
り特定される氏名不詳者による通信を「本件通信」という。)が使用されてい
ることを報告した(甲 1、2、4~9)。
15 2 本件の争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以下の
とおりである。
(原告の主張)
本件調査会社は、調査対象となる本件各動画をインデックスサイトで検索し
て、トレントファイルをダウンロードし、本件クライアントソフトを起動して、
20 本件各動画に係るファイルのダウンロードを行った。本件クライアントソフト
は、ビットトレントを使用しているピアの IP アドレス等の情報を表示する機能
を有するところ、別紙発信者情報目録 1 及び 2 記載の日時に上記ダウンロード
に対応するアップロードを行ったピアが接続した IP アドレスは、別紙発信者情
報目録 1 及び 2 記載のとおりであった。このことは、ダウンロード中の時点で
25 ある上記日時における本件クライアントソフトの実行画面のスクリーンショッ
ト(以下「本件実行画面」という。 「ダウンロード中」との文字や IP アド
)に、
レスが表示されていることからうかがわれる。また、上記によりダウンロード
された動画は、本件各動画と同一内容であった。
そうすると、本件通信を行った氏名不詳者(以下「本件発信者」という。 は、

ビットトレントを用いて自ら又は他のユーザと共同して、別紙発信者情報目録
5 1 及び 2 記載の日時に、本件調査会社に対して本件各動画に係るファイル(ピ
ース)を自動公衆送信したものといえる。
したがって、原告の本件各動画に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたこ
とは明らかである。
(被告の主張)
10 (1) 別紙発信者情報目録 1 及び 2 記載の通信(本件通信)は、以下の点で、本
件各動画に係るファイルのダウンロード時の通信とはいえない。
すなわち、本件クライアントソフトはフリーソフトウェアに過ぎず、信頼
性が認められるシステムとして認定されたものでも P2P ネットワークの監視
を目的としたものでもない。また、原告の主張はプログラムの理解を踏まえ
15 た主張でもない。本件実行画面には本件発信者が接続したとされる IP アドレ
スが表示されているが、これは、本件クライアントソフトのプログラムの動
作の過程で表示される IP アドレスの正確性や通信の意味合いを立証するも
のではない。
加えて、いわゆる P2P 方式でファイルを共有するネットワークでは、ファ
20 イルのダウンロードに至るまでには、ピア間の通信だけを取り上げても、通
信相手がピアであることを確認する通信(HANDSHAKE)等の複数の通信が
される。本件実行画面は、ダウンロード中とされる適当な時刻におけるもの
に過ぎないから、これをもってダウンロード時の通信に係るものということ
はできない。
25 さらに、本件実行画面を見ても、ファイルのダウンロードやアップロード
の進行を示す表示 「下り速度」
( 、
「上り速度」 すら示されていないことから、

その表示をもってダウンロード時の通信に係るものであるかはわからない。
以上のとおり、本件通信は、本件調査会社がビットトレントを介して本件
各動画に係るファイルをダウンロードした時の通信とはいえない。
(2) 仮に本件通信が本件各動画に係るファイル(ピース)をダウンロードする
5 通信であるとしても、これにより送信されたピースについて、本件各動画の
表現の本質的特徴が感得できる程度のものであることの的確な主張立証はな
い。ファイルを細分化したピースを転送し合うというビットトレントの仕組
みを踏まえれば、本件通信により送られた 1 つのピースからは、本件各動画
の表現の本質的特徴を直接感得できる映像を再生できない可能性は十分にあ
10 る。したがって、仮に本件通信がピースを送信したものであるとしても、こ
れにより自動公衆送信権が侵害されたとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(権利侵害の明白性)について
(1) 前提事実、証拠(甲 1、2、4~9、11~14、17、19~21、26)及び弁論の全
15 趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件クライアントソフトは、ビットトレントの制作会社により開発され、
維持されており、ビットトレントのプロトコル定義で設定されたガイドラ
インを遵守し、これに準拠している。本件クライアントソフトは、ビット
トレントを利用しやすくするために、トレントファイルを読み込み、ピー
20 スをダウンロードすると共に、ダウンロードに対応するアップロードをす
るピアの IP アドレス等の情報を表示する機能を有する。
イ 本件調査会社は、調査対象となる本件各動画の品番を確認し、これをイ
ンデックスサイトの検索フォームに入力して検索し、本件各動画に係るト
レントファイルをダウンロードした。その上で、本件クライアントソフト
25 を起動して上記トレントファイルを読み込み、本件各動画に係るピースを
有するピアからピースのダウンロードを開始した。その際、本件クライア
ントソフトの実行画面には、ダウンロードに対応するアップロードを行っ
たピアの IP アドレスが表示された。ダウンロードされたピースに係る映像
は全てのピース(完全な状態のファイル)がダウンロードされる前におい
ても再生できるところ、本件調査会社は、そのダウンロード中において、
5 ダウンロードしたピースに係る映像が再生できることを確認した。その後、
ダウンロード進行中の時点である別紙発信者情報目録 1 及び 2 記載の日時
に、本件クライアントソフトの実行画面のスクリーンショット(甲 1。本
件実行画面)を撮影し、上記 IP アドレスを保全した。上記アップロードを
行ったピアの IP アドレスは別紙発信者情報目録 1 及び 2 記載のとおりで
10 あった。また、こうしてダウンロードされた完全な状態のファイルと本件
各動画とは、同一の内容であった。
(2) 検討
本件調査会社による調査及びこれに使用した本件クライアントソフトそれ
自体の信頼性については、その点に疑義を抱くべき具体的な事情が見当たら
15 ないことなどに鑑みると、十分に信頼し得るものといってよい。
そうすると、前記前提事実及び認定事実によれば、別紙発信者情報目録 1
及び 2 記載の日時に同目録記載の IP アドレスを割り当てられた本件発信者
は、ビットトレントを通じ、本件調査会社の求めるところにより、本件各動
画に係るファイル(ピース)をアップロードしたということができる。した
20 がって、本件発信者は、本件各動画に係るファイルの全部又は一部を公衆か
らの求めに応じ自動公衆送信したものと認められる。
また、弁論の全趣旨によれば、原告はこれを許諾していないものとみられ
ると共に、その他の違法性阻却事由の存在もうかがわれない。
したがって、本件発信者の上記行為により、本件各動画に係る原告の著作
25 権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかといってよい。
(3) 被告の主張について
ア 被告は、本件実行画面に表示された IP アドレスの正確性に疑問があるこ
とや、本件実行画面に表示された通信がダウンロード時の通信に係るもの
かどうかは不明であることなどを指摘して、本件通信(別紙発信者情報目
録 1 及び 2 記載の通信)をダウンロード時の通信とみることはできないと
5 主張する。
しかし、本件クライアントソフトがフリーソフトウェアであるとしても、
ビットトレントの仕組みに照らすと、正確な IP アドレスを取り込むもので
なければビットトレントを利用しやすくするためのソフトとして成り立
たないものと考えられる上、本件実行画面に表示された IP アドレスが不正
10 確であることをうかがわせる証拠は見当たらない。したがって、被告の指
摘する事情は本件調査の信頼性に合理的な疑いを抱かせるものではない。
また、証拠(甲 1)によれば、本件実行画面には、ダウンロードに至る前
の通信とみられる「ピアに接続中」ではなく、ダウンロード時の通信とみ
られる「ダウンロード中」のステータスが表示されている。また、本件実
15 行画面にはダウンロードやアップロードの進行を示す「下り速度」や「上
り速度」の表示はないものの、一般にこれらの表示がなくてもダウンロー
ドは進むものとみられるし、実際に本件各動画に係るファイルのダウンロ
ードは完了している。そのほか、本件通信がダウンロード時の通信でない
ことをうかがわせる証拠はない。そうすると、本件実行画面に表示された
20 通信すなわち本件通信は、本件調査会社が本件発信者から本件各動画に係
るファイル(ピース)をダウンロードした時の通信と認められる。
イ 被告は、本件通信により送信されたピースについて、本件各動画の表現
の本質的特徴が感得できる程度のものであることの的確な主張立証はなく、
自動公衆送信権が侵害されたとはいえないとも主張する。
25 しかし、前記前提事実及び認定事実によれば、本件発信者は、本件通信
及びこの前後において継続的に行った本件各動画に係るファイル(ピース)
をアップロードする通信により、自ら又は他のユーザと共同して、本件調
査会社に対し、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得し得る映像を再
生可能なファイルを送信したものといえる。そうである以上、本件発信者
は、原告の本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害する通信
5 を行ったものと認められる。
ウ 以上より、この点に関する被告の主張はいずれも採用できない。
2 その他の要件について
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対して、本件各動画に係る著
作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求等をする準備をしていると認められ
10 ることから、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法 5 条
1 項 2 号)があるといえる。
3 まとめ
以上より、原告は、法 5 条 1 項に基づき、被告に対し、本件発信者情報の開
示請求権を有する。
15 第4 結論
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第 47 部
裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
小 口 五 大
裁判官
吉 野 弘 子
10 (別紙侵害著作物目録省略)
別紙
発信者情報目録1
以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の
5 氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
(以下省略)

別紙
発信者情報目録2
以下の日時に以下のIPアドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の
5 氏名又は名称、住所及び電話番号
(電子メールアドレス保有なし)
(以下省略)

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