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令和4(ワ)70013発信者情報開示請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和6年3月25日
事件種別 民事
法令 著作権
キーワード 侵害43回
損害賠償2回
実施2回
分割1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要

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判決文

令和 6 年 3 月 25 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 4 年(ワ)第 70013 号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和 6 年 2 月 9 日
判 決
5 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
10 略語は別紙略語一覧表のとおり。
第1 請求
被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
15 本件は、原告が、本件発信者らがファイル交換ソフトウェア「BitTorrent」を利用
したネットワークシステムを使用して本件動画に係るファイルを送信可能化したこ
とにより本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことは明らかであ
ると主張して、被告に対し、法 5 条 1 項に基づき、本件発信者情報の開示を求める
事案である。
20 2 前提事実(当事者間に争いのない事実、顕著な事実、掲記の各証拠(書証の番
号は特に断らない限り枝番号を含む。以下同じ。 及び弁論の全趣旨により容易に認

められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、主にアダルトビデオの制作、販売を業とする有限会社である。
25 イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式
会社であり、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(特
定電気通信)の用に供される電気通信設備(特定電気通信設備)を用いて他人の通
信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者(特定電気通信
役務提供者。法 2 条 3 号)であって、本件発信者情報を保有している。
(2) 本件動画に係る著作権の帰属
5 原告は、本件動画に係る著作権を有する(甲 1)。
(3) BitTorrent の仕組み等
BitTorrent とは、いわゆる P2P 形式のネットワークであり、その概要や使用の手
順は、次のとおりである。
ア BitTorrent により特定のファイルを配布する場合、まず、当該ファイルを小さ
10 なデータ(ピース)に細分化し、分割された個々のデータ(ピース)を BitTorrent ネ
ットワーク上のユーザー(ピア)に分散して共有させる。
イ BitTorrent を通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、
まず、その使用端末に BitTorrent に対応したクライアントソフト(以下、対応クラ
イアントソフトを含めて「BitTorrent」ということがある。)をインストールした上
15 で、
「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルの所在
等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロードして、これを BitTorrent に
読み込ませる。これにより、BitTorrent は、当該トレントファイルに記録されたトラ
ッカーサーバに接続し、当該特定のファイルの提供者のリストを要求する。トラッ
カーサーバは、ファイルの提供者を管理するサーバであり、ユーザーによる要求に
20 応じ、自身にアクセスしているファイル提供者の IP アドレスが記載されたリストを
ユーザーに返信する。
ウ リストを受け取ったユーザーは、当該ファイルのピースを持つ他の複数のユ
ーザーに接続し、それぞれから当該ピースのダウンロードを開始する。全てのピー
スのダウンロードが終了すると、自動的に元の 1 つの完全なファイルが復元される。
25 エ 完全な状態のファイルを持つユーザーは「シーダー」と呼ばれる。他方、目
的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ば
れるが、ダウンロードが完了して完全な状態のファイルを保有すると、当該ユーザ
ーは自動的にシーダーとなる。シーダーは、リーチャーからの求めに応じて、当該
ファイルの一部をアップロードしてリーチャーに提供する。また、リーチャーは、
目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、既に所持しているフ
5 ァイルの一部(ピース)を、他のリーチャーの求めに応じてアップロードする。す
なわち、リーチャーは、目的のファイルを自らダウンロードすると同時に、他のリ
ーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態に置かれる仕組みとな
っている。
(4) 本件調査
10 原告は、本件訴訟提起に先立ち、本件調査会社に対し、BitTorrent を使用した本件
動画の著作権侵害に係る調査(本件調査)を委託した。本件調査は、本件調査会社
が開発した本件ソフトウェアを使用して行われた。その概要は、以下のとおりであ
る。
本件調査会社は、トラッカーサイトにおいて、本件動画の著作権侵害が疑われる
15 ファイルを検索し、そのハッシュ値を取得して本件ソフトウェアに登録する。本件
ソフトウェアは、トラッカーサーバに接続し、本件動画に係るファイル提供者リス
トを要求して、トラッカーサーバから当該提供者の IP アドレス等が記載されたリス
トの返信を受け、記録する。本件ソフトウェアは、当該リストに記録されたユーザ
ーに接続をして、応答確認(HandShake)を経て、当該ユーザーからの目的のファイ
20 ル(ピース)をダウンロード(アップロード)可能であることの通知(UNCHOKE)
を受け、データベースに記録する。この UNCHOKE 通信は、ファイル(ピース)の
ダウンロード(アップロード)を伴わない。
本件発信者情報は、本件調査の結果判明した上記 UNCHOKE 通信に係るものであ
る。すなわち、本件発信者らは、別紙動画目録記載の発信時刻に同記載の IP アドレ
25 ス及びポート番号を用いて UNCHOKE 通信を行った者である。
(以上につき、甲 2~5、8)
3 争点
(1) 権利侵害の明白性(争点 1)
(2) 本件発信者情報の「当該権利の侵害に係る発信者情報」該当性(争点 2)
4 争点に関する当事者の主張
5 (1) 権利侵害の明白性(争点 1)
(原告の主張)
本件調査において UNCHOKE 通信がされたということは、本件発信者 らが 、
BitTorrent を介し他のユーザーからの要求に応じて本件動画に係るファイル(ピー
ス)を送信可能な状態にしていたことを示す。また、本件発信者らは、BitTorrent の
10 ネットワークにそれぞれ接続した上、本件動画のデータをダウンロードして自己の
端末内に複製している。
したがって、原告の本件動画に係る著作権(公衆送信権(送信可能化権))が侵害
されたことは明らかである。
(被告の主張)
15 ア 本件ソフトウェアは特定方法等の信頼性が認められたシステムではない。
また、原告が訴え提起時に本訴の対象としていた発信者情報には、発信元ポート
番号として割り当てられることのないポート番号が付されていたり、プライベート
ネットワーク、すなわち、インターネットに接続できない回線サービスを利用した
IP アドレスが付されたものがあり、仮に、本件ソフトウェアにおいて IP アドレス
20 及びポート番号が正確に記録されているのであればこのような事象は発生しないは
ずである。
したがって、本件ソフトウェアの検知結果は信用性を欠く。
イ 原告は、本件ソフトウェアが別紙端末目録記載の各通信を検知したことや本
件ソフトウェアの動作について、BitTorrent 画面のキャプチャ等の証拠を提出しな
25 い。したがって、この点に関する立証は不十分である。
(2) 本件発信者情報の「当該権利の侵害に係る発信者情報」該当性(争点 2)
(原告の主張)
本件発信者らは、本件動画のデータをダウンロードした後、継続して本件動画を
アップロード状態に置くことで、本件動画の送信可能化権侵害(著作権法 2 条 1 項
9 号の 5 ロ)を継続している。UNCHOKE 通信はこの送信可能化権侵害の事実を裏
5 付けるものである。
したがって、本件発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」 法 5 条 1 項)

に該当する。
(被告の主張)
UNCHOKE 通信は、あるピアが自身の保有しているファイルをアップロード可能
10 であることを要求元に対し通知する通信に過ぎず、これにより本件動画が送信可能
化されたとはいえない。したがって、UNCHOKE 通信に係る本件発信者情報は、
「当
該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない。
また、法及び法施行規則は、権利侵害をもたらす通信から把握される情報とそれ
以外の通信から把握される情報を明確に区別し、後者については、契約の申込等、
15 ログイン、ログアウト及び契約の終了のための通信(侵害関連通信)から把握され
る情報に限り、開示が認められる場合を規定する。そうすると、UNCHOKE 通信は
侵害関連通信に該当せず、これにより把握される情報は特定発信者情報にも該当し
ない。
第3 当裁判所の判断
20 1 争点 2(本件発信者情報の「当該権利の侵害に係る発信者情報」該当性)につ
いて
事案に鑑み、争点 2 から判断する。
(1) 「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」
「当該権利の侵害に係る発信者情報」の開示請求権を有する(法 5 条 1 項)「発
は、 。
25 (法 2
信者情報」とは「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報」
条 6 号)をいい、
「侵害情報」とは「特定電気通信による情報の流通によって自己の
権利を侵害されたとする者が当該権利を侵害したとする情報」(同条 5 号)を指す。
また、「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、「特定発信者情報」と「特定発信者
情報以外の情報」に区別され、「特定発信者情報」とは、「発信者情報であって専ら
侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるもの」であり(法 5 条 1 項)、同省
5 令において、ログイン時通信等の 4 つの類型の通信のうち、侵害情報の送信と相当
の関連性を有するものとされている(法施行規則 5 条)。これらの規定に鑑みると、
法は、開示請求の対象につき、権利侵害をもたらす通信の発信者情報を中核としつ
つ、権利侵害をもたらす通信以外の通信の発信者情報にも拡大しているところ、そ
の外延は、上記のログイン時通信等の 4 つの類型の通信の発信者情報すなわち「特
10 定発信者情報」に限られるものと解される。そうすると、
「特定発信者情報以外の発
信者情報」とは、権利侵害をもたらす通信の発信者の特定に資する情報を意味する
ものと理解される。
(2) 前提事実(3)及び(4)によれば、本件調査における UNCHOKE 通信は、本件動
画に係るファイル提供者リストに記録されたユーザーに接続した本件ソフトウェア
15 に対し、当該ユーザーからのファイル(ピース)のダウンロード(アップロード)
が可能であることを通知するものに過ぎず、ファイル(ピース)のダウンロード(ア
ップロード)を伴わない。このため、仮に、本件発信者らが、本件動画に係るファ
イルのダウンロードすなわち「情報を記録」することにより(著作権法 2 条 1 項 9
号の 5 イ) 又は、
、 当該ファイルの情報が記録された端末を公衆の用に供されている
20 電気通信回線に「接続」することにより(同号ロ)、送信可能化を完了していたとし
ても、UNCHOKE 通信それ自体は、原告の本件動画に係る公衆送信権(送信可能化
権)侵害をもたらす通信ではない。そうである以上、UNCHOKE 通信に係る本件発
信者情報は、「特定発信者情報以外の発信者情報」ではなく、また、「特定発信者情
報」にも当たらない。
25 したがって、本件発信者情報は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」(法 5 条 1
項)に該当しない。
(3) 原告は、UNCHOKE 通信は本件発信者らによる送信可能化権侵害の状態が継
続していることを裏付けるものであるから、本件発信者情報は「当該権利の侵害に
係る発信者情報」に該当すると主張する。
しかし、上記のような本件における UNCHOKE 通信の内容を踏まえると、これを
5 もって送信可能化権が侵害されたとすることはできない。また、UNCHOKE 通信が
送信可能化権の侵害状態の継続を裏付けるものであるとしても、これをもって著作
権法 2 条 1 項 9 号の 5 イ又はロに該当するもの、その他原告の権利侵害をもたらす
通信とはいえない。仮に、本件における UNCHOKE 通信を著作権法 2 条 1 項 9 号の
5 ロ所定の「接続」として権利侵害行為と捉えたとしても、UNCHOKE 通信がファ
10 イルのダウンロードを伴わない以上、
「侵害情報の流通」による権利侵害があったと
いうことはできず、法 5 条 1 項 1 号の要件を欠く。
したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
2 まとめ
(法 5 条 1
以上のとおり、本件発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」
15 項)に該当しない。したがって、原告は、被告に対し、同項に基づく本件発信者情
報の開示請求権を有しない。
第4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれらをいずれも棄却することと
して、主文のとおり判決する。
20 東京地方裁判所民事第 47 部
裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
久 野 雄 平
裁判官
10 吉 野 弘 子
(別紙)
当事者目録
原 告 有 限 会 社 プ レ ス テ ー ジ
同訴訟代理人弁護士 戸 田 泉
同 角 地 山 宗 行
同 籠 屋 恵 嗣
10 被 告
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 松 田 真
(別紙)
発信者情報目録
別紙動画目録記載の各 IP アドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に被告から割り
当てられていた契約者に関する以下の情報。
5 ① 氏名又は名称
② 住所
③ 電子メールアドレス(但し、動画目録 29、33、63、79、94、96 は除く)
(別紙動画目録 省略)
(別紙著作物目録 省略)
(別紙)
略 語 一 覧 表
本件発信者ら 本件侵害動画をアップロードした氏名
不詳者ら
本件動画 別紙著作物目録記載の動画
法 特定電気通信役務提供者の損害賠償責
任の制限及び発信者情報の開示に関す
る法律
法施行規則 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任
の制限及び発信者情報の開示に関する法
律施行規則(令和 4 年総務省令第 39
号)
本件発信者情報 別紙発信者情報目録記載の発信者情報
本件調査会社 本件調査を実施した調査会社
本件調査 本件調査会社の実施した BitTorrent を利
用した本件各動画の著作権侵害に係る調

本件ソフトウェア 「著作権侵害検出システム」又は
「BitTorrent 監視システム ver1」と称す
るソフトウェア
本件 IP アドレス 別紙動画目録の「IP アドレス」
欄記載の各 IP アドレス
本件侵害動画 本件調査会社が本件発信者らからダウン
ロードした本件各動画に係る動画ファイ

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