ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和5(行ケ)10037 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和6年4月10日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告X
株式会社ピーシーエス 被告サステイナブルエネルギー開発株式会社 |
| 対象物 | 有機性廃棄物処理システム |
| 法令 |
特許権 特許法38条4回 |
| キーワード | 審決17回 特許権10回 無効9回 実施3回 無効審判1回 侵害1回 |
| 主文 | 1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯等(争いのない事実、弁論の全趣旨) (1) 被告は、令和元年11月1日、発明の名称を「有機性廃棄物処理システム」 とする発明について特許出願をし、令和2年8月27日、本件特許に係る特 許権(請求項の数2)の設定登録を受けた。なお、被告は、本件特許出願に 係る願書に本件発明の発明者としてa(被告代表者)、原告X’及びbの310 名を記載し、本件特許に係る特許公報にも同3名が発明者として記載された。 (2) 原告らは、令和3年8月24日、共同出願要件違反(特許法38条)の無 効理由があると主張して、本件特許(請求項1、2に係るもの)の無効審判 請求をした。 |
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令和6年4月10日判決言渡
令和5年(行ケ)第10037号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年2月5日
判 決
原 告 X
(以下「原告X’」という。)
原 告 株式会社ピーシーエス
(以下「原告会社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 片 岡 匡 敏
被 告 サステイナブルエネルギー開発
株式会社
同訴訟代理人弁護士 河 部 康 弘
同 藤 沼 光 太
同訴訟代理人弁理士 押 谷 昌 宗
同 井 上 彰 文
主 文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
【略語】本判決で用いる略語は、別紙1「略語一覧」のとおりである。なお、本件審決中で使用されている略語は、本判決でもそのまま踏襲している。
第1 請求
特許庁が無効2021-800073号事件について令和5年3月10日にした審決(本件審決)を取り消す。
5 第2 事案の概要1 特許庁における手続の経緯等(争いのない事実、弁論の全趣旨)
(1) 被告は、令和元年11月1日、発明の名称を「有機性廃棄物処理システム」とする発明について特許出願をし、令和2年8月27日、本件特許に係る特許権(請求項の数2)の設定登録を受けた。なお、被告は、本件特許出願に係る願書に本件発明の発明者としてa(被告代表者)、原告X’及びbの3名を記載し、本件特許に係る特許公報にも同3名が発明者として記載された。
(2) 原告らは、令和3年8月24日、共同出願要件違反(特許法38条)の無効理由があると主張して、本件特許(請求項1、2に係るもの)の無効審判請求をした。
(3) 特許庁は、同請求を無効2021-800073号として審理した上、令和5年3月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同月20日原告らに送達された。
(4) 原告らは、同年4月14日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 本件発明の概要
(1) 本件発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)の記載(分説は本件審決による。)A 有機性廃棄物を低分子化する亜臨界水処理装置と、B 低分子化された有機性廃棄物からメタン生成菌によりバイオガスを生成するメタン発酵装置と、C メタン発酵により生成されたバイオガスから硫化成分を除去する脱硫装置と、D 硫化成分を除去したバイオガスから二酸化炭素を取り除くガス精製装置と、
5 E メタン発酵により生成された消化液から有害物質を加圧浮上分離させる固液分離装置と、F 消化液からさらに固形分を分離する高度水処理装置とを備え、G 前記固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された消化液は、前記亜臨界水処理装置、前記メタン発酵装置又は前記固液分離装置において再利用されることを特徴とするH 有機性廃棄物処理システム。
(2) 本件発明2に係る特許請求の範囲(請求項2)の記載(分説は本件審決による。)I 前記固液分離装置の後に、排出される固形分中にプラスチックの残留が認められた場合、残留プラスチックを回収し、別途設置の残渣ガス化装置を備え乾留ガスを生成し、高圧ボイラーで燃料として利用する残渣ガス化装置を備えることを特徴とするJ 請求項1に記載の有機性廃棄物処理システム。3 本件審決の理由の要旨本件審決の理由の要旨は別紙2のとおりであり、その骨子は以下のとおりである。
(1) 発明者であるといえるためには、発明の課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与する必要がある。願書に記載された発明者が発明者と推認されるとしても、願書への記載をもって特許を受ける権利が発生するわけではない。
(2) 本件明細書の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は「有機性廃棄物からバイオガスを高効率で生成して発電のエネルギー源とするとともに、発酵残渣及び消化液を適切に処理することにより廃棄物を殆ど生じない有機性廃棄物処理システムを提供すること」(本件明細書【0017】)であり、課題を解決するための手段は、本件発明1及び2のとおりの発明特定
5 事項を全て有するシステムである(【0019】、【0022】)。そして、本件発明1の個々の発明特定事項である「有機性廃棄物を低分子化する亜臨界水処理装置」、「低分子化された有機性廃棄物からメタン生成菌によりバイオガスを生成するメタン発酵装置」、「メタン発酵により生成されたバイオガスから硫化成分を除去する脱硫装置」、「硫化成分を除去したバイオガスから二酸化炭素を取り除くガス精製装置」という発明特定事項における「ガスから二酸化炭素を取り除くガス精製装置」、「メタン発酵により生成された消化液から有害物質を加圧浮上分離させる固液分離装置と、消化液からさらに固形分を分離する高度水処理装置」、「固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された消化液が前記亜臨界水処理装置、前記メタン発酵装置又は前記固液分離装置において再利用されること」という発明特定事項における「消化液」を「メタン発酵装置」「において再利用されること」は、いずれも本件特許の出願前の公知文献(本件明細書【0015】に記載されたもの等)に記載された技術的事項であるのに対し、これらを全て有するシステムが、本件特許の出願前の公知文献に記載等されたものであることを示す客観的な証拠はない。そうすると、本件発明の課題解決手段を基礎づける部分、すなわち、本件発明1の特徴的部分は、下記のとおり、本件発明1の個々の発明特定事項を全て組み合わせたものである。<特徴的部分A>(注:本件発明1の各構成要件に相当する部分に(A)~
(H)を付した。)有機性廃棄物を低分子化する亜臨界水処理装置(A)と、低分子化された有機性廃棄物からメタン生成菌によりバイオガスを生成するメタン発酵装置(B)と、メタン発酵により生成されたバイオガスから硫化成分を除去する脱硫装置(C)と、硫化成分を除去したバイオガスから二酸化炭素を取り除くガス精製装置(D)と、メタン発酵により生成された消化液から有害
5 物質を加圧浮上分離させる固液分離装置(E)と、消化液からさらに固形分を分離する高度水処理装置(F)とを備えた有機性廃棄物処理システム(H)において、前記固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された消化液が前記亜臨界水処理装置、前記メタン発酵装置又は前記固液分離装置において再利用されること(G)。同様に、本件発明2の特徴的部分は、特徴的部分Aに加え、次の特徴的部分であると認められる。<特徴的部分B>前記固液分離装置の後に、排出される固形分中にプラスチックの残留が認められた場合、残留プラスチックを回収し、別途設置の残渣ガス化装置を備え乾留ガスを生成し、高圧ボイラーで燃料として利用する残渣ガス化装置を備えること。
(3) 原告らが提出した証拠からは、原告X’が、本件発明の課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、特徴的部分Aの完成に創作的に寄与したことを窺わせる根拠は見出せない。
(4) 加えて、原告らは、「亜臨界水処理装置により低分子化された有機性廃棄物」において、有機性の有害物質は低分子化により無毒化されて残っていないので、本件発明1における「有害物質を加圧浮上分離された消化液」は有り得ないと主張する。上記主張は、特徴的部分Aのうち「前記固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された消化液が前記亜臨界水処理装置、前記メタン発酵装置又は前記固液分離装置において再利用されること(G)」という事項は技術的に意味がない構成であり、本件発明1の特徴的部分を構成し得ないという趣旨であるが、本件発明1における「有害物質を加圧浮上分離させる固液分離装置」(構成要件E)及び「前記固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された消化液が前記亜臨界水処理装置、前記メタン発酵装置又は前記固液
5 分離装置において再利用される」(構成要件 G)という事項は、本件明細書(特に【0058】、【0059】)を勘案すると、いずれも技術的に意味のある実質的な構成要件であり、本件発明1の特徴的部分Aを構成するものである。したがって、「有害物質を加圧浮上分離された消化液」はあり得ないものと認識している原告X’が、本件発明の課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、特徴的部分Aの完成に創作的に寄与したとは考えられない。また、原告らは、本件発明2における「残留プラスチックを回収し、別途設置の残渣ガス化装置を備え乾留ガスを生成し」(構成要件I)についてもあり得ない旨主張していることから、上記同様の理由により、特徴的部分Bの完成に創作的に寄与したとは考えられない。
(5) 以上に対して、被告が提出した証拠は、本件発明の課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、特徴的部分A及び特徴的部分Bの完成に創作的に寄与したのが被告代表者単独であり、原告X’は寄与していないことを窺わせるものである。
(6) そうすると、原告X’が、本件発明の共同発明者であったということはできず、原告会社が本件発明に係る特許を受ける権利を有しているともいえない。したがって、本件特許は、特許法38条の規定に違反してされた特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法123条1項2号に該当し無効とすべきものであるとはいえない。4 本件審決の取消事由共同出願要件違反(特許法38条)についての判断の誤り
第3 当事者の主張
【原告らの主張】
5 本件発明1の発明の特徴的部分が特徴的部分Aであることは認めるが、以下
のとおり、特徴的部分Aは原告X’が単独で完成させたものであるから、原告X’が共同発明者ではないとした本件審決の判断には誤りがある。なお、本件発明2の発明の特徴的部分が特徴的部分A及び特徴的部分Bであることは認め、特徴的部分Bを被告代表者が発明したことは争わない。
1 原告X’が特徴的部分Aを完成させた経緯
(1) 原告X’は、昭和58年頃から、本件発明の基本的部分の着想を得て、具
体化のために検査研究をしてきた(甲18~20)。そして、原告X’は、本件特許の基礎部分についての特許を取得しており(甲27~33)、これらの特許があった上で、本件発明1が完成に至った。
(2) 特徴的部分Aの創作の具体的経緯は、以下のとおりである。
ア 原告X’は、昭和61年4月26日のチェルノブイリ原発事故を契機として、亜臨界水処理装置を使って放射能汚染を除去できるのではないかと考えるに至った(甲19、47)。イ 原告X’は、平成21年頃から、北海道の医療製品メーカーである株式会社ムトウの工場を実験場として使用しており、同工場に設置されていた医療製品処理用の圧力釡を亜臨界水処理の圧力釡として使用することを考えるようになった(甲48、49)。このように、有機性廃棄物処理システムの着想の創作過程は、遅くとも同年には存在した。後記オの資料(甲52の1)には、原告X’が平成22年に行った、亜臨界水処理装置として用いた上記圧力容器の計算のファイルが添付されている。ウ 原告X’が発明者の一人となっている特許第5792450号(甲35)は、平成22年10月6日に出願されているところ、特許請求の範囲(請求項1)は有機物を亜臨界水処理装置に導入することが内容となっており、その効果は「有害物質を効果的に除去し、あるいは有機成分が均質化した液肥を製造する」というものであって、本件で問題となっている有機物処
5 理システムにほかならない。
エ 原告X’は、平成23年、亜臨界水処理の有無の比較を微生物の呼吸量で計測する「亜臨界コンポストガス発生量比較」の実験を行い(甲50)、平成24年、北海道室蘭市の楢崎造船に対し、亜臨界水処理による有機物処理についてプレゼンテーションを行った(甲51)。オ 原告X’は、平成27年1月頃、公益財団法人原子力バックエンド推進センターに対し、「広域の土壌汚染を処理するスリックスシステム」の各資料(甲52の1の1、2)に基づく説明を行った。上記資料では、有機化合物汚染等を無害化できること、亜臨界水処理により無害化された分解物が生じることが説明されており、フローチャートには、本件発明の基幹部分である亜臨界水処理施設が組み込まれた有機物処理システムが示されている。そして、同法人が発行する「デコミッショニング技報」第53号(2016〔平成28〕年3月)に掲載された原告X’の論文(甲19論文)には、上記のスリックスシステムによるセシウム汚染士壌等の大量処理システムが提案されている。これは、後記(3)イのとおり、特徴的部分Aを備えた有機性廃棄物の処理システムである。カ 原告らは、平成28年2月2日の書面(甲53)において、亜臨界水処理により発酵を妨げる有害有機物の影響を効果的に排除できる旨の説明をしている。キ 原告会社従業員が平成30年10月15日に原告X’に送信したメール(甲54)には、「亜臨界水処理によるメタン発酵原料の分解率測定実験計画」、「アルカリを添加した亜臨界水処理における余剰汚泥の可能性に関する研究」などのファイルが添付されている。ク 原告らは、令和元年9月22日、「はやしミルクファーム糞尿処理バイオマス発電プロジェクト」の業務を受託する契約を締結し(甲26)、令
5 和3年11月に施工を完了した。同契約で実施されたはやしミルクファー
ムシステムは、後記(3)ウのとおり、特徴的部分Aを全て含むシステムである。
(3) 原告らにより特徴的部分Aが具体化されていること
ア エコワークス苫小牧等のシステムエコワークス苫小牧(平成17年1月15日契約、同年5月31日施工完了。甲21、22)、各務原バイオガスプラント(平成29年8月17日契約、同年11月30日施工完了。甲23)、クークスバイオガス発電所(平成29年8月17日契約、同年11月30日施工完了。甲24)、信州中野エコパワーランド第一バイオガス発電所水処理設備(平成30年4月18日契約、同年11月30日施工完了。甲25)において、原告らによる本件発明の基本的部分の着想を具体化したプラントが実現した。「エコワークス苫小牧フローシート」(甲57、別紙3)は、これらのプラントのフロー図を示すものである。これらのプラントには、亜臨界水処理装置(A)がないが、特徴的部分Aの他の処理システムはすべて存在している。このエコワークス苫小牧のシステムを基礎として亜臨界水処理装置(A)が付加されたものが本件発明1であって、これは原告X’の基本的な創作的寄与を裏付けるものである。イ スリックスシステムスリックスシステム(スリックス〔SRICS〕は「Strontium、Iodine、Cesium」の略称である。)とは、有機物を含む原材料を加圧浮上装置で濃縮して亜臨界水処理装置で処理し低分子化するものであり、別紙4のとおり、本件発明1の根幹部分が存在する。亜臨界水処理装置(A)により処理された汚泥等の有機分は、さらにその後微生物処理をして、その残渣を処理して減容させる等の一連の操作をしている。ここで微生物処理
5 した後は有機物の量が少なく、低分子化されているのでメタンガスの発
生量は少なくなるが、もし有機物の量が多く、嫌気性のメタン発酵でメタンガス回収が有利なら嫌気性微生物を使い、脱硫や炭酸ガス分離の技術をシステムの要素として利用しメタン発酵をシステムとして使うことが当然考えられている。したがって、スリックスシステムのフローチャート(甲19、58、別紙4)には特徴的部分Aの(B)、(C)、(D)、(G)がないものの、(B)、
(C)、(D)、(G)を使うことまで含んでいる。
ちなみに、エコワークス苫小牧等のシステムのように有機物が多い場合には、嫌気性の発酵槽(B)とそこから排出された消化液の処理に加圧浮上槽を分離装置(E)として使い、その後高度水処理装置(F)として膜活性汚泥槽を使い処理して放流を行うことになる。そして、加圧浮上槽で分離した嫌気性汚泥は発酵槽(B)に戻ることになる。ウ はやしミルクファームシステムはやしミルクファームシステムの内容は別紙5のとおりであり(甲55)、以下のとおり、特徴的部分Aを全て含むものである。
(A) ①~③、HE-1、HE-2 の各設備
(B) ②~⑥、G-0 の各設備
(C) G-2 の設備
(D) G-4 の設備
(E) ⑦~⑪、⑪-2、⑫、⑬、⑱、⑲の各設備
(F) ⑭~⑰の各設備
(G) ②の設備
(H) フローの全体
2 本件特許公報における発明者の記載
被告が自ら出願した本件特許に係る特許公報の発明者欄に原告X’の名前が
5 あることから、被告は原告X’が本件特許の発明者であることを自認していた
といえる。
3 被告代表者の寄与がないこと
(1) 被告は、東日本大震災を契機として着想したと述べているだけで、課題解
決に向けての実験等を行い工夫を重ねるなどの創作的寄与は全くしておらず、本件発明1の発明者であるとは到底いえない。
(2) 被告代表者は、原告X’から、以下の説明を受けていた。
ア 被告代表者は、平成29年8月頃、原告が施工したクークスバイオガス発電所(上記1(3)ア)の加圧浮上装置を見学し、実際のプラントにおける有機物処理の技術的な事項の詳細な説明を受けた。イ 被告代表者は、平成30年頃、エコアクティブ三笠工場の亜臨界水処理を見学し、亜臨界水処理の技術的なことの詳細な説明を受けた。ウ 被告代表者は、平成31年初め頃以降、東京大手町のトゥルーバーグループホールディングス株式会社において、原告X’が行った試験の効果の説明に顔を出し、メタン発酵での亜臨界水処理のガス増加の効果について詳細な説明を聞いた。エ 被告所有のマンションにおいて、c、原告X’及びbが協同するため結集する機会があった。被告が本件特許を出願したのは、その数か月後の令和元年11月1日である。
4 本件請負契約書
原告会社と被告は、令和2年5月29日、「ISOP」のシステムに係る工事等請負契約を締結しており、その契約書(本件請負契約書、甲59)の内容は、以下のとおり、原告X’が本件発明の発明者の一人であることを裏付けるものである。
(1) 本件契約は、本件特許を実施するISOP装置の請負契約であり、その内
容は、本件特徴的部分Aの設備の請負である。
5 (2) 本件契約書3条1項なお書きには、「契約金額には乙(注:原告会社)の
保有する特許権の使用料等も含まれ、乙は甲(注:被告)に対し他の名目による金員の請求はしないものとする。」とあるとおり、ISOPの特許権は原告会社が有する前提となっている。
(3) なお、本件契約書10条には「本契約の履行に発生した知的財産権等の設
定を甲が行うことに乙は関知しない。」とあるが、本件契約は既存の知的財産権を前提に完成できる前提となっており、被告によれば本件発明は平成30年1月19日又は同月29日に完成しているから(乙6の1)、同条項は本件発明に係る特許権を指すものではない。仮にそうでないとしても、本件契約においては添付の一般仕様書が優先すると定められているところ(2条)、一般仕様書には「知的財産権の帰属等に関しては、貢献度に応じて受注者及び発注者間で協議して定める。」と規定されている。5
(被告の主張)
1(2)に対する反論原告らは、本件審判の手続において、亜臨界水処理装置(A)によって「有機性の有害物質」は無毒化されて残っていないと主張したが、これは亜臨界水処理装置(A)による処理をしたことを前提としているところ、本件発明1は各装置を併存的に記載してあるだけで、その処理の順序については記載していないことからすれば、上記主張は、特徴的部分Aの一部を否定するものではない。【
(被告の主張)
】
1 原告X’が共同発明者でないこと
(1) 本件審決が認定するとおり、本件発明1の特徴的部分は請求項 1 記載の事
項全部の組み合わせである特徴的部分Aであるところ、原告X’が特徴的部分Aの各構成要素全部を組み合わせることについて創作的に寄与したものではないから、原告X’は共同発明者ではない。なお、特許の無効理由は、特許権侵害訴訟であれば無効の抗弁に位置付け
5 られるものであり、特許の無効を主張する側が立証責任を負う事項であるか
ら、原告X’が共同発明者であることの立証責任は原告らにある。
(2) 原告らは、本件審判の手続において、亜臨界水処理装置(A)を利用すれば
有機性の有害物質は低分子化により無毒化されていて全く残っていないので、有害物質、すなわち『有害物質を加圧浮上分離された消化液』はあり得ない旨主張し、特徴的部分Aのうち「メタン発酵により生成された消化液から有害物質を加圧浮上分離させる固液分離装置(E)」の必要性を否定しているから、原告X’が本件発明を独自に着想することはあり得ず、特徴的部分Aの完成に創作的に寄与したとは考えられない。なお、特徴的部分Aを構成する各装置は、請求項1の記載のとおり、後の工程が前の工程を前提にした経時的要素を含んでおり、その順序は入れ替えられない。
2 原告らの主張に対する反論
(1) 原告X’が特徴的部分Aを創作した経緯について
ア 原告らが主張する経緯のうち、スリックスシステム及びはやしミルクファームシステムについては、後記(2)のとおり、特徴的部分Aの全ての構成を含むものではない。イ 特許第5792450号(甲28、35)は、亜臨界水処理を使用して有機物を原料とする液肥を製造する方法の発明であって、本件発明とは無関係であり、特徴的部分Aの(B)、(C)、(D)及び(G) に相当する構成の記載もない。その余の特許(甲27、29~33)も同様であるか(甲9、10)、又はそもそも特許の内容が不明である。ウ 原告らが挙げるその余の証拠は、特徴的部分Aに関しての記載がないか、不明であるか、関連する記載等があっても亜臨界水処理装置(A) 、メタン発酵装置(B)等の特徴的部分Aの一部が記載等されているにすぎないも
5 のであり、原告X’が特徴的部分Aを単独で創作したことや、その創作に
寄与したことを裏付けるものではない。
(2) 原告らによる特徴的部分Aの具体化について
ア エコワークス苫小牧等のシステムについて原告の挙げる各契約書等(甲21~25)には、システムの構成についての記載はない。原告らが上記システムのフローシートであるとする甲57(別紙3)は、本件特許出願前に作成されたものであるのか不明である。また、仮に同じフローシートが本件特許出願前に作成されていたとしても、特徴的部分Aの(A)~(D)に相当する構成の記載がない。イ スリックスシステムについてこれは、放射能により汚染された処理土や排水の処理についてのシステムであり(甲19)、本件発明のようなメタンガスを高効率で生成することを前提とした有機性廃棄物の処理システムとは無関係である。また、上記システムのフローチャート(甲58、別紙4)には、特徴的部分Aの(B)、(C)、(D)及び(G)に相当する構成の記載がない。ウ はやしミルクファームシステムについて原告の挙げる業務委託契約書(甲26)には、システムの構成についての記載はない。バイオガス発電フローシート(甲55、別紙5)については、上記契約に基づいて施工された設備のものであるのか不明である上、本件特許出願後の令和2年に作成されたものである(同証拠に係る証拠説明書3)。また、特徴的部分Aの(G) 、すなわち(E)に相当する装置で処理された消化液が同(A) 、(B) 又は(E)で再利用されることの記載がない。
(3) 本件特許公報における発明者の記載について
被告が原告X’らの名前を発明者として願書に記載したのは、本件特許を
5 実施するに当たり、システムを構成する装置になぜ原告らの装置を採用する
のか、という出資者からの質問を想定し、共同開発者であるからという理由で説明する方が容易であると考えたためであって、原告X’が共同発明者であることを認めていたからではない(甲4、乙1の1、乙23)。
(4) 被告代表者の寄与について
ア 被告は、本件審判事件の答弁書(乙24)において、被告代表者が公知技術と自身のアイデアを組み合わせて特徴的部分Aを全て想到したことを説明しており、本件審決は、これを覆す事情が存在せず、原告X’が共同発明者ではない旨認定している。イ 被告代表者は、原告らが主張する見学や説明会
(原告の主張)
3(2))に行っているが、原告X’から特徴的部分Aの全ての構成を有する発明についての説明を受けた事実はない。
(5) 本件請負契約書について
同契約書の記載が原告X’が本件発明の発明者の一人であることを裏付けるとする原告らの主張は、否認し争う。
第4 当裁判所の判断
1 原告らは、本件発明1の特徴的部分Aは原告X’が完成させたと主張し、完成に至る経緯等を主張するので、順に検討する。
2 特徴的部分Aに係る原告X’の寄与について
(1) 原告らは、原告X’が昭和58年頃から本件発明の基本的部分の着想を得て、具体化のための検査研究を行い、本件特許の基礎部分についての特許の取得や各種施設の設計施工等を経て、エコワークス苫小牧等のシステム(平成17年5月31日以降に順次施工完了)、スリックスシステム(平成27年~平成28年に発表)、はやしミルクファームシステム(令和元年9月22日契約、令和3年11月施工完了)により本件発明1の特徴的部分Aを具体化し、単独で完成させた旨主張する。
5 (2) 本件発明1は、本件審決が述べるとおり、個々の発明特定事項のほぼ全て(「硫化成分を除去したバイオガスから二酸化炭素を取り除くガス精製装置」という発明特定事項における「ガス精製装置」が「硫化成分を除去したバイオガス」から二酸化炭素を取り除くこと、「固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された消化液が前記亜臨界水処理装置、前記メタン発酵装置又は前記固液分離装置において再利用されること」という発明特定事項における「消化液」が「固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された」ものであること及び「亜臨界水処理装置」又は「固液分離装置」「において再利用されること」を除く。)が本件特許の出願前の公知文献に記載された技術的事項であるから、本件発明1の特徴的部分である特徴的部分Aは、本件発明1の個々の発明特定事項を全て組み合わせたものであり、原告X’がその完成(すなわち個別の構成要素ではなく、それらを組み合わせること)にどのように創作的に寄与したかが問題となる。(3) しかし、原告らが特徴的部分Aを具体化したとするエコワークス苫小牧等のシステム、スリックスシステム、はやしミルクファームシステムは、以下のとおり、いずれも、特徴的部分Aを全て含むものではない。ア エコワークス苫小牧等のシステム(甲57、別紙3)について特徴的部分Aの各構成要素についてみると、まず、存在しないと原告らが認める亜臨界水処理装置(A)のほか、脱硫装置(C)、ガス精製装置(D)の各機器も存在しない。また、原告らが「G」の符号を付した部分についても、「再利用水」「洗浄水」がどこから来るものか判然とせず、「前記固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された消化液が前記亜臨界水処理装置、前記メタン発酵装置又は前記固液分離装置において再利用されること」(G)を備えているとはいえない。さらに、甲57のフローシートが本件特許出願日である令和元年11月
5 1日より前に作成されたことを裏付ける証拠はない(産業廃棄物処分業許可証〔甲22〕の別紙3-1以下には「フローシート参照」との記載が複数あるが、これが甲57のフローシートであるか否かは証拠上不明である。)。イ スリックスシステム(甲58、別紙4)についてスリックスシステムは、別紙4のフローチャートの表題からも明らかなとおり、セシウム等による汚染土壌の処理システムであり、有機性廃棄物処理システム(特徴的部分Aの(H))ではない。また、特徴的部分Aの各構成要素についてみると、上記システムのフローチャートにはメタン発酵装置(B)、脱硫装置(C)、ガス精製装置(D) の各機器が存在せず、また、加圧浮上槽(甲58で「E」の記号が付されたものの一つ)で処理された水が再び加圧浮上槽に戻されるフローは見て取れるものの、「前記固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された消化液が前記亜臨界水処理装置、前記メタン発酵装置又は前記固液分離装置において再利用されること(G)」を備えているとはいえない。ウ はやしミルクファームシステム(甲55、別紙5)について特徴的部分Aのうち「前記固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された消化液が前記亜臨界水処理装置、前記メタン発酵装置又は前記固液分離装置において再利用されること(G)」について、「⑫加圧浮上処理設備」、「⑬加圧浮上処理槽」を経た処理水が、原告らが「F」の記号を付した⑭~⑰の装置を経て「工場利用」されると記載されているのみで、どのように利用するかは記載されていないから、上記(G)を備えているとはいえない。原告らは、②の処理物貯留槽が上記(G)に当たると主張するが、採用できない。さらに、甲55のフローシートは令和2年に作成されたものであり(同証拠に係る原告ら提出の証拠説明書)、本件特許出願日以前に同内容の
5 ものが作成されたことを裏付ける証拠はない。(4) そして、上記の各システム以外の点については、原告らの挙げる証拠(甲18~20、27~33、35、47~54等)を検討しても、原告X’が亜臨界水処理装置及びこれを利用した有機性排気物処理等を中心とする研究等を行い、関連する特許発明(本件特許明細書【0015】に先行技術文献として挙げられている【特許文献4】の特許第5792450号(甲35)、【特許文献5】の特許第6327993号(甲5)、【特許文献6】特許第6377087号(甲8)、【特許文献8】の特許第6120427号(甲9)、本件審決が本件発明1の発明特定事項の一部を記載するものとして挙げる特許第6445393号(甲7)、特許第6395199号(甲10)を含む。)をしたこと、原告会社が原告X’の研究に基づく事業を行ってきたことは認められるものの、これらを総合しても、原告X’が発明したと認められるのは本件発明1の個々の発明特定事項の一部であって、本件発明1の発明特定事項を全て組み合わせたものである特徴的部分Aを原告X’が単独で着想し、完成させたことを示す証拠はない。もちろん、共同発明者といえるためには、他の発明者と共同して発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与することをもって足りるが、そのような具体的事実についての原告らの主張はなく、裏付けとなる証拠もない。
3 本件特許公報における発明者の記載について被告が本件特許出願に係る願書に本件発明の共同発明者として原告X’を記載しており、本件特許に係る特許公報にも原告X’が発明者として記載されていること(前記第2の1(1))自体は、一般的にいえば被告が原告X’を共同発明者と認識していたことを推認させる事実といえる。しかし、被告代表者は、上記記載をした理由について、陳述書(乙20)及び本件審判における口頭陳述(乙23)中で、本件特許を事業化する上で原告会社の販売する装置の採用を予定していたところ、出資者に対しては共同発明
5 者であることを理由とした方が説明しやすいと考えたためであると述べているところ、その内容には一応の合理性が認められることに加え、後記5のとおり、原告会社と被告との間で、被告の「ISOPシステム」のために原告会社が亜臨界水処理装置の製造等を行う内容の請負契約が締結されていたことは、被告代表者の上記陳述を裏付ける事実といえる。そうすると、上記発明者の記載をもって、被告が原告X’を共同発明者と認識していた事実を推認させるということはできない。
4 被告代表者に対する説明等原告らは、特徴的部分Aの完成に被告代表者が寄与していないと主張し、これを裏付ける事情として、被告代表者が原告会社の施工した施設を見学等した機会において説明を受けていた等主張するところ、被告代表者が原告の主張する施設の見学等をしたことについては、被告も争わない。しかし、原告らの主張する説明の具体的内容が不明であることに加え、上記2で述べたとおり、本件発明1の個々の発明特定事項は公知文献に記載された技術的事項であり、原告会社が施工した施設等は特徴的部分Aを全て備えるものではなく、原告X’が研究等を行っていたのは特徴的部分Aの一部にすぎないこと、原告X’が被告代表者と共同して特徴的部分Aの完成に創作的に寄与した具体的事実も窺えないことからすると、上記原告らの主張は、原告X’が特徴的部分Aの完成に創作的に寄与したことを裏付けるものとはいえない。
5 本件請負契約書について(1) 原告らは、本件請負契約書の「契約金額には乙(注:原告会社)の保有する特許権の使用料等も含まれ、乙は甲(注:被告)に対し他の名目による金員の請求はしないものとする。」(3条1項なお書き)との規定は、「ISOPシステム」の特許権すなわち本件特許を原告会社が保有することが前提となっている旨主張する。
(2) しかし、本件請負契約書(甲59)によれば、この契約は、原告会社が被
5 告に対し、被告が建設する「ISOPシステム」のために「亜臨界水処理施設及び付帯設備等」の設計、製造、設置及び設置後の技術指導等を行い(1条)、被告はその対価として契約金1億2500万円を原告会社に支払う(3条)というものであって、原告らが指摘する3条1項なお書きの規定は、「亜臨界水処理施設及び付帯設備等」に係るものである。そして、この「ISOPシステム」、「亜臨界水処理施設及び付帯設備等」が特徴的部分Aの全部を備えるものであると認めるに足りる証拠はなく、本件請負契約書3条1項なお書きにいう「乙の保有する特許権」が本件特許権を指しているかどうかは不明というほかない。そもそも、原告会社は「亜臨界水処理装置及び付帯設備等」に関連する可能性のある特許権を複数保有している(甲30~33)ところ、そのような原告会社との間で、同設備の設計、製造、技術指導等の対価を支払う契約を締結する際に、特許発明の技術的範囲の属否等の厳密な検討を経ているか否かに関わりなく、およそ原告会社の保有する一切の特許権の使用料が契約金に含まれることを明らかにしておくことは、予防的な法務事務の基本というべき処理にすぎない。また、本件請負契約書の作成当時(令和2年5月29日)、既に被告単独で本件特許の出願がなされていたことに照らしても、本件特許(又は特許を受ける権利)が原告会社に帰属することが前提になっていたとは考え難い。以上、いかなる観点から考えても、本件請負契約書3条1項なお書きの規定は、原告らの主張を基礎づけるものとはいえない。
6 以上のとおり、原告らの主張及び本件各証拠を検討しても、原告X’が特徴的部分Aを単独で完成させたとは認められず、被告代表者又は同人以外の第三者と共同して特徴的部分Aの完成に創作的に寄与したことを認めるだけの具体的な主張立証もない。そうすると、本件特許に共同出願要件違反(特許法38条)の無効理由があ
5 るとはいえないとした本件審決の判断に、誤りはない。
7 結論以上によれば、本件審決にこれを取り消すべき違法はないこととなる。よって、原告らの請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
宮 坂 昌 利
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
頼 晋 一
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