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令和3(ワ)18031等民事訴訟 特許権

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和6年3月22日
事件種別 民事
対象物 携帯電話、Rバッジ、受信装置
法令 特許権
特許法104条の34回
特許法29条2項2回
特許法29条1項3号2回
特許法102条3項2回
特許法36条6項2号1回
特許法36条6項1号1回
特許法36条4項1号1回
特許法29条1回
特許法104条1回
キーワード 実施27回
進歩性23回
無効23回
特許権18回
新規性10回
無効審判9回
審決6回
損害賠償3回
侵害3回
訂正審判2回
許諾1回
刊行物1回
分割1回
優先権1回
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事件の概要 本件は、発明の名称を「携帯電話、Rバッジ、受信装置」とする特許第4710 89092号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件 特許権」という。)を有していた原告モビリティ及び本件特許権の専用実施権 者である原告モビリティ・エックスが、被告による別紙被告製品目録記載の各 製品(以下「被告各製品」という。)の製造及び譲渡が本件特許権及び本件特 許権の専用実施権の侵害に当たり、これにより損害を被ったと主張して、不法15 行為に基づく損害賠償として、原告モビリティが、被告に対し、1500万円 並びにうち500万円に対する第1事件の訴状送達の日の翌日である令和3年 8月5日から及びうち1000万円に対する第2事件の訴状送達の日の翌日で ある同年10月1日から各支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合によ る遅延損害金の支払を、原告モビリティ・エックスが、被告に対し、500万20 円及びこれに対する第1事件の訴状送達の日の翌日である同年8月5日から支 払済みまで前記同様の遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。

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判決文

令和6年3月22日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(ワ)第18031号 特許権侵害に基づく損害賠償請求事件(第1事件)
令和3年(ワ)第23863号 特許権侵害に基づく損害賠償請求事件(第2事件)
口頭弁論終結日 令和6年1月12日
5 判 決
第1事件原告兼第2事件原告 株 式 会 社 モ ビ リ テ ィ
(以下「原告モビリティ」という。)
第 1 事 件 原 告 モビリティ・エックス株式会社
(以下「原告モビリティ・エックス」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 寒 河 江 孝 允
被 告 株式会社ジィ・シィ企画
同訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二
木 村 広 行
20 井 深 大
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
25 第1 請求
1 第1事件
(1) 被告は、原告モビリティに対し、500万円及びこれに対する令和3年8
月5日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
(2) 被告は、原告モビリティ・エックスに対し、500万円及びこれに対する
令和3年8月5日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払
5 え。
2 第2事件
被告は、原告モビリティに対し、1000万円及びこれに対する令和3年1
0月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
10 本件は、発明の名称を「携帯電話、Rバッジ、受信装置」とする特許第47
89092号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件
特許権」という。)を有していた原告モビリティ及び本件特許権の専用実施権
者である原告モビリティ・エックスが、被告による別紙被告製品目録記載の各
製品(以下「被告各製品」という。)の製造及び譲渡が本件特許権及び本件特
15 許権の専用実施権の侵害に当たり、これにより損害を被ったと主張して、不法
行為に基づく損害賠償として、原告モビリティが、被告に対し、1500万円
並びにうち500万円に対する第1事件の訴状送達の日の翌日である令和3年
8月5日から及びうち1000万円に対する第2事件の訴状送達の日の翌日で
ある同年10月1日から各支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合によ
20 る遅延損害金の支払を、原告モビリティ・エックスが、被告に対し、500万
円及びこれに対する第1事件の訴状送達の日の翌日である同年8月5日から支
払済みまで前記同様の遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によ
り容易に認められる事実)
25 (1) 当事者(甲1、2、弁論の全趣旨)
ア 原告モビリティは、情報処理に関する研究、開発及びソフトウェア、ハ
ードウェアの開発、制作及び販売等を業とする株式会社であり、令和4年
4月17日まで本件特許権を有していた者である。
イ 原告モビリティ・エックスは、令和4年4月17日まで本件特許権の専
用実施権者であった。
5 ウ 被告は、電気通信事業、コンピュータシステムの企画・開発・設計・
販売・使用許諾・実施許諾・運用、情報処理サービス、決済システムに
関するハードウェア・ソフトウェアの開発・製造・輸入・販売、インタ
ーネット・その他通信ネットワークを利用した商品取引に関する企画、
電子決済等代行業、電子マネーその他・前払式支払手段の発行・販売、
10 その他の関連事業を業とする株式会社である。
(2) 本件特許
ア 原告モビリティは、平成14年4月17日(優先日平成13年4月17
日(以下「本件優先日」という。、優先権主張国日本)を国際出願日とす

る特許出願(特願2002-584251号)の一部を分割して、平成2
15 0年5月7日、本件特許の特許出願をし、平成23年7月29日、本件特
許権の設定登録(請求項の数6)を受けた(甲1、2)。
イ 原告モビリティは、平成30年12月6日、本件特許の特許請求の範囲
及び明細書の訂正を求める訂正審判請求(訂正2018-390195)
をし、特許庁は、平成31年1月29日付けで訂正を認める旨の審決をし、
20 同審決は確定した(甲1、3、弁論の全趣旨)。
また、原告モビリティは、令和2年3月6日、本件特許の特許請求の
範囲及び明細書の訂正を求める訂正審判請求(訂正2020-3900
21)をし、特許庁は、同年6月30日付けで訂正を認める旨の審決を
し、同審決は確定した(甲1、4、弁論の全趣旨)。
25 ウ 本件特許の特許請求の範囲
本件特許に係る前記イの各審決による訂正後の特許請求の範囲の請求項
1、3、4及び5の記載は、次のとおりである(以下、同請求項5に係る
発明を「本件発明」といい、本件特許に係る前記イの各審決による訂正後
の明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。また、本件明細書の発
明の詳細な説明中の段落番号を【0001】などと記載し、図を「図1」
5 などという。。

【請求項1】
RFIDインターフェースを有する携帯電話であって、当該携帯電話の
スイッチを押すことで生成されるトリガ信号又はリーダライタから送信
されるトリガ信号を、当該携帯電話の所有者が第三者による閲覧や使用
10 を制限し、保護することを希望する被保護情報に対するアクセス要求と
して受け付ける受付手段と、前記トリガ信号に応答して、RFIDイン
ターフェースを有するRバッジに対してRバッジを一意に識別できる識
別情報を要求する要求信号を送信する送信手段と、前記Rバッジより識
別情報を受け取って、該受け取った識別情報と当該携帯電話に予め記録
15 してある識別情報との比較を行う比較手段と、前記比較手段による比較
結果に応じて前記受付手段で受け付けた前記アクセス要求を許可または
禁止するアクセス制御手段とを備え、前記アクセス制御手段は、当該比
較手段で前記アクセス要求を許可するという比較結果が得られた場合は、
前記アクセス要求が許可されてから所定時間が経過するまでは前記被保
20 護情報へのアクセスを許可することを特徴とする携帯電話。
【請求項3】
請求項1記載の携帯電話であって、アプリケーションプログラムやデバ
イスドライバをインターネットを経由してダウンロードして新たな機能
を追加および/または更新する手段を有することを特徴とする携帯電話。
25 【請求項4】
前記新たな機能はプリペイドカード、キャッシュカード、デビッドカー
ド、クレジットカード、定期券、乗車券、電子マネー、アミューズメン
ト施設のチケット、公共施設のチケットのうち少なくとも1つであるこ
とを特徴とする請求項3記載の携帯電話。
【請求項5】
5 請求項4記載の携帯電話との間で送受信するためのRFIDインターフ
ェースを有し、個別情報の発信要求を前記携帯電話に発信する発信手段
と、前記携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報であるか否
かを判断する判断手段とを有し、前記判断手段で受信した判断情報が、
前記要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間
10 で処理を行うことを特徴とする受信装置。
エ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3及び4に係る発明並びに本件
発明を構成要件に分説すると、次のとおりである(以下、分説した構成
要件を符号に対応させて、「構成要件A」などという。。

【請求項1】
15 A RFIDインターフェースを有する携帯電話であって、
B 当該携帯電話のスイッチを押すことで生成されるトリガ信号又はリー
ダライタから送信されるトリガ信号を、当該携帯電話の所有者が第三
者による閲覧や使用を制限し、保護することを希望する被保護情報に
対するアクセス要求として受け付ける受付手段と
20 C 前記トリガ信号に応答して、RFIDインターフェースを有するRバ
ッジに対してRバッジを一意に識別できる識別情報を要求する要求信
号を送信する送信手段と、
D 前記Rバッジより識別情報を受け取って、該受け取った識別情報と当
該携帯電話に予め記録してある識別情報との比較を行う比較手段と、
25 E 前記比較手段による比較結果に応じて前記受付手段で受け付けた前記
アクセス要求を許可または禁止するアクセス制御手段とを備え、
F 前記アクセス制御手段は、当該比較手段で前記アクセス要求を許可す
るという比較結果が得られた場合は、前記アクセス要求が許可されて
から所定時間が経過するまでは前記被保護情報へのアクセスを許可す

5 G ことを特徴とする携帯電話。
【請求項3】
H 請求項1記載の携帯電話であって、アプリケーションプログラムやデ
バイスドライバをインターネットを経由してダウンロードして新たな
機能を追加および/または更新する手段を有することを特徴とする携
10 帯電話。
【請求項4】
I 前記新たな機能はプリペイドカード、キャッシュカード、デビッドカ
ード、クレジットカード、定期券、乗車券、電子マネー、アミューズ
メント施設のチケット、公共施設のチケットのうち少なくとも1つで
15 あることを特徴とする請求項3記載の携帯電話。
【請求項5】
J 請求項4記載の携帯電話との間で送受信するためのRFIDインター
フェースを有し、
K 個別情報の発信要求を前記携帯電話に発信する発信手段と、
20 L 前記携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報であるか否か
を判断する判断手段とを有し、
M 前記判断手段で受信した判断情報が、前記要求した個別情報であると
判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行う
N ことを特徴とする受信装置。
25 (3) 被告の行為等
ア 被告は、業として、被告各製品を製造及び譲渡している。
イ 被告各製品は、構成要件Jを充足する。
(4) 先行文献
本件優先日前に頒布された刊行物として、次のものがある(乙7、9、1
0、12)。
5 ア 特開2000-20767号公報(以下「乙7文献」という。)
イ 特開平10-162176号公報(以下「乙12文献」という。)
ウ 特開2000-222176号公報(以下「乙9文献」という。)
エ Klaus Finkenzeller「RFIDハンドブック-非接
触ICカードの原理と応用」日刊工業新聞社(以下「乙10文献」とい
10 う。)
2 争点
(1) 被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
ア 構成要件Kの充足性(争点1-1)
イ 構成要件Lの充足性(争点1-2)
15 ウ 構成要件Mの充足性(争点1-3)
エ 構成要件Nの充足性(争点1-4)
(2) 無効の抗弁の成否(争点2)
ア 明確性要件違反(争点2-1)
イ サポート要件違反(争点2-2)
20 ウ 実施可能要件違反(争点2-3)
エ 乙7文献を主引用例とする新規性又は進歩性欠如(争点2-4)
オ 乙12文献を主引用例とする新規性又は進歩性欠如(争点2-5)
カ 乙9文献を主引用例とする進歩性欠如(争点2-6)
キ 乙10文献を主引用例とする進歩性欠如(争点2-7)
25 ク ソニー株式会社(以下「ソニー」という。)がFeliCaカードのユ
ーザーに提供した「FeliCaカード ユーザーズマニュアル Ve
rsion 2.02」と題する書面(乙16。以下「乙16文献」と
いう。)又は乙16文献に記載された発明の公然実施品(以下「乙16製
品」という。)を主引用例とする進歩性欠如(争点2-8)
(3) 原告らの損害及び損害額(争点3)
5 第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1-1(構成要件Kの充足性)について
(原告らの主張)
本件明細書には、「携帯端末10は、図13に示すように、メモリ30上の
データ格納部34に個別情報340を記憶する。ここでは、個別情報340
10 としてカード情報を記憶している例について説明する。(
」【0088】、
)「個別
情報340には、複数のカード情報(例えば、図13のA、B、C)を記憶す
ることも可能でその中から利用するカードを選択する機能を備える。 (
」 【00
89】、
)「以下、個別情報340をカード情報と置き換えて説明する。 (
」【00
90】)などと記載されていることに照らすと、「個別情報」が被告のいう「R
15 バッジを一意に識別できる識別情報」に限定されないことは明らかである。
被告各製品は、携帯端末に製造ID(IDm)を要求するから、「個別情報
の発信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を備えており、構成要件Kを
充足する。
(被告の主張)
20 (1) 請求項5に係る本件発明と請求項1、3及び4に係る各発明との関係
本件発明に係る「受信装置」は、「請求項4記載の携帯電話との間で送受
信するためのRFIDインターフェースを有し」(構成要件J)という構成
を有するものであり、本件特許の請求項4は請求項3に従属し、請求項3は
請求項1に従属する。そうすると、請求項4に記載の「キャッシュカード、
25 デビッドカード、クレジットカード、定期券、乗車券、電子マネー」等の機
能を搭載した携帯電話の不正取得者の不正利用を防止するためには、請求項
1に係る発明の構成に従って、携帯電話と対をなして使用されるRバッジと
の「識別情報」の比較をして、これが一致するとの比較結果が得られた場合
にのみ、被保護情報(電子マネー情報など)へのアクセスを許可して決済を
させることが必要であり、本件発明に係る「受信装置」もそれに対応するべ
5 きである。
例えば、本件明細書には、請求項1に係る発明の実施例として、モバイル
Suica搭載のスマートフォンで自動改札を通過する場合、正当なスマー
トフォン保有者はRバッジを保有しているので、改札の前にスマートフォン
をRバッジに近接させて情報のやり取りをさせて両者の「識別番号」(携帯
10 電話やRバッジに一意に割り振られる番号)を比較して、これが、アクセス
制御手段により、アクセス要求を許可するといった比較結果が得られた場合
にのみ、「被保護情報」である電子マネー情報にアクセスを許可するとして
いる。請求項1に係る上記の実施例の記載に照らすと、本件発明に係る「受
信装置」も同様の効果を有する必要があるといえる。
15 以上によれば、本件発明に係る「受信装置」は、携帯端末に定期券・乗車
券・クレジットカード・鍵などの機能を内蔵させ、その機能を受信装置で受
け取る場合に、まず、携帯端末の使用者が正当な使用者かをRバッジで確認
できるような「受信装置」であるべきと解される。
(2) 「個別情報」の文言解釈
20 前記(1)の解釈を前提として、本件明細書の「携帯端末10は、図13に
示すように、メモリ30上のデータ格納部34に個別情報340を記憶する。
ここでは、個別情報340としてカード情報を記憶している例について説明
する。(
」 【0088】 、
) 「さらに、個別情報340は、携帯端末10の固体そ
れぞれを識別する識別情報を利用することもできる。 【0097】
」 )等の記
25 載に照らすと、「個別情報」とは、「カード情報」や「識別情報」、すなわち、
携帯端末に一意に割り振られる情報やRバッジを一意に識別できる識別情報
を含むものであると解される。
(3) 被告各製品の構成及びあてはめについて
被告各製品は、携帯端末とは別にRバッジを設けて、両者間で識別情報の
やり取りをする構成、すなわち、「個別情報の発信要求を前記携帯電話に発
5 信する発信手段」を全く備えていない。
(4) 小括
よって、被告各製品は、構成要件Kを充足しない。
2 争点1-2(構成要件Lの充足性)について
(原告らの主張)
10 被告各製品は、携帯端末に製造ID(IDm)を要求し、これを受信して、
製造ID(IDm)の製造者コードで個別情報(被告各製品に店員が設定した、
客に伝えられた電子マネー・クレジットカード等)が判断できなければ、その
後の処理を継続し、得られた情報が、要求した個別情報かを判断する。
したがって、被告各製品は、「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し
15 た個別情報であるか否かを判断する判断手段とを有し」ているといえ、構成要
件Lを充足する。
(被告の主張)
(1) 「判断手段」の意義
前記1(被告の主張)(1)の本件発明に係る「受信装置」の解釈並びに同
20 「受信装置」が構成要件L及びMの構成を備えることが必要であることに照
らすと、本件発明の「受信装置」は、個別情報であるか否かの「判断」を行
う手段を有するものであると解される。また、当然の前提として、「前記判
断手段で受信した判断情報が、前記要求した個別情報であると判断」するた
めには、「受信装置」が「個別情報」をあらかじめ受信装置内に保有してい
25 ることが必須である。
そして、前記1(被告の主張)(2)のとおり、「個別情報」とは、携帯端
末に一意に割り振られる情報又はRバッジを一意に識別できる識別情報であ
ると解される。
(2) 被告各製品の構成及びあてはめについて
5 被告各製品は、「個別情報」に該当する携帯端末に一意に割り振られる情
報又はRバッジを一意に識別できる識別情報をあらかじめ保有していないた
め、「前記携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報であるか否か
を判断する」ことはできない。
(3) 小括
10 よって、被告各製品は、構成要件Lを充足しない。
3 争点1-3(構成要件Mの充足性)について
(原告らの主張)
前記1(原告らの主張)のとおり、被告各製品は、携帯端末から得られた情
報が要求した個別情報かを判断し、要求した個別情報であれば処理を継続する
15 から、「前記判断手段で受信した判断情報が、前記要求した個別情報であると
判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行う」といえる。
したがって、被告各製品は構成要件Mを充足する。
(被告の主張)
前記2(被告の主張)のとおり、被告各製品は、構成要件Lの「前記携帯電
20 話から受信した個別情報が要求した個別情報であるか否かを判断する」判断手
段を備えていないから、「前記判断手段で受信した判断情報が、前記要求した
個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行う」こと
もできない。
よって、被告各製品は、構成要件Mを充足しない。
25 4 争点1-4(構成要件Nの充足性)について
(原告らの主張)
被告各製品は、構成要件JないしMの特徴を備える「受信装置」であるから、
構成要件Nを充足する。
(被告の主張)
被告各製品は、構成要件KないしMをいずれも充足しないから、構成要件K
5 ないしMの特徴を備える「受信装置」とはいえない。
よって、被告各製品は、構成要件Nを充足しない。
5 争点2-1(明確性要件違反)について
(被告の主張)
本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、明確性要件(特許法36条6項2
10 号)に違反し、本件発明に係る本件特許は、特許無効審判により無効とされる
べきものと認められ(同法123条1項4号)、特許法104条の3第1項に
より本件発明に係る本件特許権の行使は認められない。
すなわち、本件発明に係る特許請求の範囲には、「前記判断手段で受信した
判断情報が、前記要求した個別情報であると判断されたときに、」と記載され
15 ているところ、「受信した判断情報」の意義について本件明細書には何らの説
明もなく、その意義が不明である。
また、「判断情報」自体の意義も不明であることから、「前記判断手段で受信
した判断情報…判断されたときに」との記載が、「前記判断手段で受信した」
と読むのか、「前記判断手段で判断されたとき」と読むのかを一義的に理解す
20 ることができない。
したがって、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利
益を及ぼすほどに不明確であるから、明確性要件に違反する。
(原告らの主張)
争う。
25 6 争点2-2(サポート要件違反)について
(被告の主張)
(1) 本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件(特許法36条6
項1号)に違反し、本件発明に係る本件特許は、特許無効審判により無効
とされるべきものと認められ(同法123条1項4号)、特許法104条の
3第1項により本件発明に係る本件特許権の行使は認められない。
5 すなわち、前記5(被告の主張)のとおり、本件明細書には「受信した
判断情報」 について一切開示がないから、そもそも、本件発明は発明の詳
細な説明に記載された発明ではない。
また、本件明細書の「本発明は…その目的とするところは、個人情報や
金銭的価値のある情報を統合して管理する場合に当該情報の第三者による不
10 正使用を確実に防止するための情報保護システムを提供することにある。」
(【0009】)及び「本発明の他の目的は、かかる情報保護システムを実現
するための情報保護方法を提供することにある。(
」 【0010】)という記載
に照らすと、本件発明が解決しようとする課題は、個人情報や金銭的価値の
ある情報を統合して管理する場合に当該情報の第三者による不正使用を確実
15 に防止する点にあるものと解される。しかし、前記5(被告の主張)のとお
り、本件発明における「受信した判断情報」の意義や、「前記判断手段で受
信した判断情報が…判断されたとき」の意義を理解することができないから、
当業者は、本件発明により上記課題を解決できると認識することができない。
したがって、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に
20 違反する。
(2) 仮に、「受信した判断情報」とは、「受信した個別情報」であると理解でき、
「前記判断手段で受信した判断情報が…判断されたとき」とは、「前記判断
手段で受信した個別情報が前記要求した個別情報であると判断されたとき」
を意味すると理解できるとしても、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、
25 サポート要件に違反する。
すなわち、本件発明はサブコンビネーション発明であるところ、構成要
件Jの「請求項4記載の」は、本件発明の受信装置の構造及び機能を何ら特
定していないから、本件発明の要旨は、「請求項4記載の」の部分を除外し
て特定されるべきであり、その結果、本件発明に係る受信装置は、携帯端末
に個別情報を要求し、受信した個別情報が要求した個別情報であると判断さ
5 れた場合に前記携帯端末と処理を行うだけのものとなる。そうすると、当業
者は、本件発明により「第三者による不正使用を確実に防止する」との課題
を解決できると認識することができない。
したがって、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に
違反する。
10 (原告らの主張)
構成要件Jの「請求項4記載の」は、本件発明の受信装置の構造及び機能を
特定しており、当業者は、本件発明により「第三者による不正使用を確実に防
止する」との課題を解決できると認識することができる。
したがって、被告の主張は理由がない。
15 7 争点2-3(実施可能要件違反)について
(被告の主張)
本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、実施可能要件(特許法36条4項
1号)に違反し、本件発明に係る本件特許は、特許無効審判により無効とされ
るべきものと認められ(同法123条1項4号)、特許法104条の3第1項
20 により本件発明に係る本件特許権の行使は認められない。
すなわち、前記6(被告の主張)(1)のとおり、本件明細書には「受信した
判断情報」について一切開示がなく、その意義が不明であり、これにより、
「前記判断手段で受信した判断情報…判断されたとき」の意義も不明となるか
ら、当業者は、本件発明に係る受信装置を作ることができない。
25 また、前記6(被告の主張)のとおり、仮に、「受信した判断情報」とは、
「受信した個別情報」であると理解でき、「前記判断手段で受信した判断情報
が…判断されたとき」とは、「前記判断手段で受信した個別情報が前記要求し
た個別情報であると判断されたとき」を意味すると理解できたとしても、当業
者は、本件発明により「第三者による不正使用を確実に防止する」との課題を
解決できると認識することができないから、本件発明の課題を解決するために
5 は、少なくとも過度の試行錯誤を必要とする。
したがって、本件明細書の記載は実施可能要件に違反するといえる。
(原告らの主張)
争う。
8 争点2-4(乙7文献を主引用例とする新規性又は進歩性欠如)について
10 (被告の主張)
本件発明は、次のとおり、乙7文献に記載された発明と同一であるか、同発
明に基づき本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであっ
て、特許法29条1項3号又は2項の規定により特許を受けることができない
ものである。したがって、本件発明に係る本件特許は、特許無効審判により無
15 効とされるべきものと認められ(同法123条1項2号)、特許法104条の
3第1項により本件発明に係る本件特許権の行使は認められない。
(1) 本件発明の要旨認定について
本件発明は、二つ以上の装置を組み合わせて成る全体装置の発明に対し、
それに組み合わされる情報処理装置(受信装置)の発明であるから、サブコ
20 ンビネーション発明と解される。
仮に、構成要件Jの「請求項4記載の」という事項が、本件発明の特許請
求の範囲の請求項中に記載された「他の装置」(携帯電話)に関する事項で
あり、当該「他の装置」(携帯電話)のみを特定する事項であって、当該請
求項に係る発明(受信装置)の構造、機能等を何ら特定してないとすれば、
25 本件発明については、構成要件Jの「請求項4記載の」という事項を除外し
て発明の要旨を認定すべきである。
(2) 乙7文献に記載された発明の認定について
ア 乙7文献には次の構成を有する発明(以下「乙7発明」という。)が記
載されていると認められる(以下、乙7発明の構成を「乙7j」などと
いう。。

5 乙7j 携帯電話端末1との間で送受信するための無線通信部3aを有
し、
乙7k 駅識別番号及び端末識別番号を要求するパターン波形を前記携
帯電話端末1に発信する発信手段と、
乙7l 前記携帯電話端末1から受信した駅識別番号及び端末識別番号
10 が要求した駅識別番号及び端末識別番号であるか否かを検査す
る識別番号検出部3bとを有し、
乙7m 前記識別番号検出部3bで受信した駅識別番号及び端末識別番
号が、前記要求した駅識別番号及び端末識別番号であると判断
されたときに、前記携帯電話端末1との間で精算した運賃を送
15 信するなどの処理を行う
乙7n ことを特徴とする出口機3
イ 乙7文献には、乙7発明の他、次の構成を有する発明(以下「乙7′発
明」という。)も記載されている(以下、乙7′発明の構成を「乙7′j」
などという。。

20 乙7′j 携帯電話端末1との間で送受信するための無線通信部3
aを有する
乙7′n ことを特徴とする出口機3
(3) 本件発明と乙7発明及び乙7′発明との対比について
ア 構成要件Jについて
25 乙7j及び乙7′jの「携帯電話端末1」は、構成要件Jの「携帯電話」
に相当する。
また、本件明細書において、「RFID」は、「非接触自動識別システム」
と表現されていること(【0025】 、
) 「RFIDにはさまざまな変調方式
や周波数、通信プロトコルを利用したものがあるが、本発明は特定の方式
に限定されるものではなく、どのような方式を利用してもよい。 (
」 【00
5 27】)と記載されていることに照らすと、構成要件Jの「RFID」と
は、少なくとも非接触自動識別システムを含むものといえる。
他方、乙7文献の記載(【0022】ないし【0025】等)によれば、
乙7発明の「出口機3」は、駅識別番号及び端末識別番号などを非接触で
自動的に識別するシステムであるから、「RFID」を構成するものであ
10 り、「無線通信部3a」は、そのインターフェース(機器や装置が他の機
器や装置などと交信し、制御を行う接続部分)であるから、構成要件Jの
「RFIDインターフェース」に相当する。
よって、本件発明と乙7発明及び乙7′発明とは、構成要件Jに係る構
成を備える点において一致する。
15 イ 構成要件KないしMについて
本件明細書の記載(【0086】ないし【0099】)によれば、構成要
件Kの「個別情報」に特段の限定はないものと解される。
したがって、乙7発明の「駅識別番号及び端末識別番号を要求するパタ
ーン波形」(乙7k) 「駅識別番号及び端末識別番号」
、 (乙7kないし乙
20 7m)及び「識別番号検出部3b」(乙7l)は、それぞれ、本件発明の
「個別情報の発信要求」(構成要件K) 「個別情報」
、 (判断情報)(構成要
件KないしM)及び「判断手段」(構成要件L)に相当することが明らか
である。
よって、本件発明と乙7発明とは、構成要件KないしMに係る構成を備
25 える点において一致する。
ウ 構成要件Nについて
乙7発明及び乙7′発明の「出口機3」は、構成要件Nの「受信装置」
に相当するから、本件発明と乙7発明及び乙7′発明とは、構成要件N
に係る構成を備える点において一致する。
(4) 一致点及び相違点について
5 本件発明と乙7発明及び乙7′発明を対比すると、乙7発明は、本件発
明の各構成を備えるから本件発明と同一であり、乙7′発明は、構成要件J
及びNの構成を備える点において本件発明の構成と一致するが、構成要件K
ないしMの構成を備えない点において本件発明の構成と相違する。
(5) 当業者は相違点に係る本件発明の構成を容易に想到できることについて
10 ア 乙7発明
仮に、乙7発明と本件発明との間に何らかの相違点があるとしても、当
業者が適宜設計することができる程度のものであって、本件発明は、乙7
発明に基づいて容易に発明することができたものであるから、進歩性が欠
如している。
15 イ 乙7′発明
当業者は、乙7′発明に、乙9文献に記載された技術(以下「乙9技術」
という。)を組み合わせることによって、本件発明を容易に発明すること
ができる(以下、乙9技術の構成を「乙9″j」などという。。

(ア) 乙9文献の記載
20 乙9文献には、次の乙9技術が記載されている。
乙9″j 通信対象との間で送受信するためのアンテナ401及び送
受信回路402を有し、
乙9″k 乱数Aを要求する乱数aを前記通信対象に発信する発信手
段と、
25 乙9″l 前記通信対象から受信した乱数Aが要求した乱数Aである
か否かを判断する判断手段とを有し、
乙9″m 前記判断手段で受信した乱数Aが、前記要求した乱数Aで
あると判断されたときに、前記通信対象との間で乱数Bを返
信するなどの処理を行う
乙9″n ことを特徴とするリーダ/ライタ400
5 乙9技術のリーダ/ライタ400は、所定のレスポンス信号や乱数を
非接触で自動的に識別するシステムであるから、本件発明の「RFID」
を構成するものであり、乙9″jの「アンテナ401及び送受信回路4
02」はそのインターフェースであるといえる。
そうすると、乙9技術の「アンテナ401及び送受信回路402」、
10 「乱数Aを要求する乱数a」 「乱数A」及び「リーダ/ライタ400」

は、それぞれ、本件発明の「RFIDインターフェース」 「個別情報の

発信要求」 「個別情報」
、 (判断情報)及び「受信装置」に相当すること
が明らかであり、本件発明と、少なくとも構成要件K、L及びMの構成
の点で一致している。
15 (イ) 容易想到性
乙7文献に触れた当業者は、周知技術であるセキュリティの観点から
の乙9技術に開示された相互認証処理の導入を当然に動機付けられるか
ら、乙7′発明に、同発明と同一技術分野にある乙9技術を適用し、本
件発明を容易に発明することができる。
20 (6) 小括
よって、本件発明の構成は乙7発明の構成と同一であって、本件発明は新
規性を欠いている。仮に、本件発明と乙7発明との間に相違点が認められ
るとしても、その相違点は設計事項にすぎないから、当業者にとって、乙
7発明に基づいて本件発明を発明することは容易であり、また、当業者に
25 とって乙7′発明に乙9技術を組み合わせることにより本件発明を発明す
ることは容易であるから、本件発明は進歩性を欠いている。
(原告らの主張)
(1) 「請求項4記載の」との文言について
被告は、本件発明はサブコンビネーション発明であるとして、構成要件J
の「請求項4記載の」との文言は、本件発明の受信装置の構造及び機能を何
5 ら特定していないと主張するが、「請求項4記載の」との文言は、本件発明
の受信装置の構造及び機能を特定している。
したがって、請求項4による特定を度外視した被告の無効主張に理由はな
い。
(2) 「RFIDインターフェース」について
10 本件発明は、「RFIDインターフェースを利用した情報保護技術に関す
る」【0001】
( )ものである。
本件明細書において、「RFID」とは、「Radio Frequenc
y Identifycation」の略称であって、無線通信に含まれる
と定義されているから(【0025】 、
) 「RFID」は、無線通信の範疇の中
15 の特定の一部であることが明示されているといえ、単なる「無線通信」とは
異なるものである。
他方で、乙7文献の「無線通信部」は、構成要件Jの「RFIDインター
フェース」に関する技術内容に関して何ら開示も示唆もしていない。
したがって、乙7発明及び乙7′発明は、「RFIDインターフェース」
20 の構成を有していない。
(3) 「個別情報」について
本件明細書の「…個別情報340としてカード情報を記憶している例につ
いて説明する。 (
」【0088】 、
)「個別情報340には、複数のカード情報…
を記憶することも可能で…」 【0089】
( )及び「個別情報340をカード
25 情報と置き換えて説明する。 (
」 【0090】)との記載に照らすと、構成要件
K、L及びMの「個別情報」とは、具体的には「カード情報」であるといえ
る。これに対し、乙7発明の「駅識別番号及び端末識別番号」すなわち「入
口機を通過するたびに書換えられる駅識別番号」及び「端末識別番号」は、
カード情報ではないから、構成要件K、L及びMの「個別情報」に該当しな
い。
5 (4) 「判断手段」について
構成要件Lの「受信した個別情報が要求した個別情報であるか否かを判断
する判断手段」は、要求した特定のデータと他のデータを比較して一致して
いるかどうかを判断する手段である必要がある。
しかし、乙7発明において、「出口機3」の「識別番号検出部3b」は、
10 単に、「駅識別番号及び端末識別番号」を検出しているだけであり、受信し
た「駅識別番号及び端末識別番号」が要求した「駅識別番号及び端末識別番
号」であるか否かを比較して一致しているかを判断してはいない。
したがって、乙7発明の「識別番号検出部3b」は、「判断手段」(構成要
件L)に該当しない。
15 (5) 乙7′発明と乙9技術との組合せについて
乙9技術は、乱数発生に関する発明であり、乙7′発明と技術分野が異
なる。
また、乙7′発明及び乙9技術には、本件発明の「個別情報」に相当す
るものも存在しない。
20 したがって、乙7′発明に乙9技術を組み合わせても、本件発明と同一
の構成にはならず、また、技術分野が異なるから組合せの動機付けもない。
(6) 小括
以上によれば、本件発明には新規性又は進歩性が欠如しているとの被告の
主張に理由はない。
25 9 争点2-5(乙12文献を主引用例とする新規性又は進歩性欠如)について
(被告の主張)
本件発明は、次のとおり、乙12文献に記載された発明と同一であるか、同
発明に基づき、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたもので
あって、特許法29条1項3号又は2項の規定により特許を受けることができ
ないものである。したがって、本件発明に係る本件特許は、特許無効審判によ
5 り無効とされるべきものと認められ(同法123条1項2号)、特許法104
条の3第1項により本件発明に係る本件特許権の行使は認められない。
(1) 乙12文献に記載された発明の認定について
ア 乙12文献には次の構成を有する発明(以下「乙12発明」という。)
が記載されていると認められる(以下、乙12発明の構成を「乙12j」
10 などという。。

乙12j 携帯通信端末11との間で送受信するための無線送受信部
132を有し、
乙12k 正当性のあるチケットデータの発信要求を前記携帯通信端末
11に発信する発信手段と、
15 乙12l 前記携帯通信端末11から受信したチケットデータが正当性
のあるチケットデータであるか否かを判断する判断手段とを
有し、
乙12m 前記判断手段で受信したチケットデータが、正当性のあるチ
ケットデータであると判断されたときに、前記携帯通信端末
20 11との間で「確認済みチケットデータ」を送信するなどの
処理を行う
乙12n ことを特徴とする自動改札機13
イ 乙12文献には、次の構成を有する発明(以下「乙12′発明」とい
う。)も記載されている(以下、乙12′発明の構成を「乙12′j」な
25 どという。。

乙12′j 携帯通信端末11との間で送受信するための無線送受信部
132を有する
乙12′n ことを特徴とする自動改札機13
(2) 本件発明と乙12発明及び乙12′発明との対比について
ア 構成要件Jについて
5 乙12j及び乙12′jの「携帯通信端末11」は、電話番号にダイヤ
ルインすることで通話料金等が課金されるものであるから、構成要件Jの
「携帯電話」に相当する。
また、前記8(被告の主張)(3)ア記載のとおり、構成要件Jの「RF
ID」とは、少なくとも非接触自動識別システムを含むものといえる。そ
10 して、「自動改札機13」(乙12n及び乙12′n)は、チケットデータ
を非接触で自動的に識別するシステムであるから、「RFID」に相当す
るものであり、「無線送受信部132」(乙12j及び乙12′j)は、そ
のインターフェースであるから、構成要件Jの「RFIDインターフェー
ス」に相当する。
15 イ 構成要件KないしMについて
前記8(被告の主張)(3)イ記載のとおり、構成要件Kの「個別情報」
の内容に特段の限定はないものと解される。したがって、乙12発明の
「チケットデータ」(乙12kないし乙12m)及び「正当性のあるチケ
ットデータ」(乙12l)は、それぞれ、本件発明の「個別情報」(判断情
20 報)(構成要件KないしM)及び「要求した個別情報」(構成要件L)に相
当し、「前記携帯通信端末11から受信したチケットデータが正当性のあ
るチケットデータであるか否かを判断する判断手段」(乙12l)は、「判
断手段」(構成要件L)に相当する。
ウ 構成要件Nについて
25 乙12発明及び乙12′発明の「自動改札機13」(乙12n及び乙1
2′n)は、構成要件Nの「受信装置」に相当する。
(3) 一致点及び相違点について
本件発明と乙12発明及び乙12′発明を対比すると、乙12発明は、
本件発明の各構成を備えるから本件発明と同一であり、乙12′発明は、
構成要件J及びNの構成を備える点において本件発明の構成と一致するが、
5 構成要件KないしMの構成を備えない点において本件発明の構成と相違す
る。
(4) 当業者は相違点に係る本件発明の構成を容易に想到できることについ

ア 乙12発明
10 仮に、乙12発明が、単にチケットデータを要求するものであって、正
当性のあるチケットデータを要求するものではないために、乙12発明の
「正当性のあるチケットデータ」が本件発明の「要求した個別情報」に相
当せず、乙12発明の「チケットデータ」が本件発明の「要求した個別情
報」に相当する結果、本件発明が「要求した個別情報であるか否かを判断
15 する判断手段とを有し」 「…前記要求した個別情報であると判断されたと

きに、前記携帯電話との間で処理を行う」ものであるのに対して、乙12
発明は、「正当性のあるチケットデータであるか否かを判断する判断手段
とを有し」 「…正当性のあるチケットデータであると判断されたときに、

前記携帯通信端末11との間で…処理を行う」点で、両者が形式的に相違
20 するとしても、これは実質的な相違点ではないか、当業者が適宜設計する
事項にすぎない。
すなわち、乙12発明では、「正当性のあるチケットデータであるか否
かを判断」するのであるから、かかる判断において携帯通信端末11から
受信したものがチケットデータであるか否かの判断も行われているといえ
25 る。したがって、乙12発明において、自動改札機13が、単に「チケッ
トデータ」を要求するにすぎないとしても、携帯通信端末11から受信し
たものが「チケットデータ」であるか否かを判断しているといえるし、そ
のように解すことができないとしても、「正当性のあるチケットデータで
あるか否かを判断」する前提として、そもそも、「チケットデータである
か否かを判断する」構成を採用することは、当業者が適宜設計する事項に
5 すぎない。
イ 乙12′発明
乙12′発明と本件発明は、構成要件KないしMの点で相違するが、当
業者は、乙12′発明に、乙9技術を組み合わせることによって、本件発
明を容易に発明することができる。
10 すなわち、乙12文献に触れた当業者は、周知技術であるセキュリティ
の観点からの認証処理の導入を当然に動機付けられ、基本的構成が同一で
あり、同一技術分野にある乙9技術を適用し、本件発明を容易に発明する
ことができる。
(5) 小括
15 よって、本件発明の構成は乙12発明の構成と同一であって、本件発明は
新規性を欠いている。仮に、本件発明と乙12発明との間に相違点が認めら
れるとしても、実質的な相違点とはならないか、設計事項にすぎないから、
当業者にとって、乙12発明から本件発明を発明することは容易であり、ま
た、当業者にとって、乙12′発明に乙9技術を組み合わせることにより本
20 件発明を発明することは容易であるから、本件発明は進歩性を欠いている。
(原告らの主張)
(1) 「請求項4記載の」との文言について
前記8(原告らの主張)(1)のとおり、「請求項4記載の」との文言は、本
件発明の受信装置の構造及び機能を特定している。
25 したがって、請求項4による特定を度外視した被告の無効主張に理由はな
い。
(2) 「RFIDインターフェース」について
前記8(原告らの主張)(2)のとおり、「RFID」は、無線通信の中の特
定の一部であることが明示されているといえ、単なる「無線通信」とは異な
るものである。
5 乙12発明及び乙12′発明の携帯通信端末11と自動改札機13は、携
帯電話と基地局との間の当時における一般的な通信方式に使用する電波の強
度を変えて(弱い電波)で行っているにすぎず、その通信は、携帯電話と基
地局との間の当時における一般的な通信方式であって、単なる「無線通信」
といえるから、構成要件Jの「RFIDインターフェース」の構成を有して
10 いない。
(3) 「判断手段」について
前記8(原告らの主張)(4)のとおり、構成要件Lの「受信した個別情報
が要求した個別情報であるか否かを判断する判断手段」は、要求した特定の
データと他のデータを比較して一致しているかどうかを判断する手段である
15 必要があるから、特定の利用者の1つのチケットデータの発信を要求し、受
信したチケットデータが要求した特定の1つのチケットデータであるか否か
を判断するものである。
しかし、乙12発明は、特定の利用者の特定の1つのチケットデータの発
信を要求するものではなく、単にチケットであることを示すチケットデータ
20 の送信を要求するものである。
また、乙12文献には、受信したチケットデータが要求した特定の1つの
チケットデータであるか否かを判断する判断手段については、何ら開示も示
唆もしていない。
よって、乙12発明は、構成要件Lの「受信した個別情報が要求した個別
25 情報であるか否かを判断する判断手段」の構成を備えていない。
(4) 乙12′発明と乙9技術との組合せについて
前記8(原告らの主張)(5)のとおり、乙9技術は、乱数発生に関する発
明であり、乙12′発明と技術分野が異なる。また、乙12′発明及び乙
9技術には、本件発明の「個別情報」に相当するものもない。
したがって、乙12′発明に乙9技術を組み合わせても、本件発明と同
5 一の構成にはならず、また、技術分野が異なるから組合せの動機付けもな
い。
(5) 小括
以上によれば、本件発明には新規性又は進歩性が欠如しているとの被告の
主張に理由はない。
10 10 争点2-6(乙9文献を主引用例とする進歩性欠如)について
(被告の主張)
本件発明は、次のとおり、乙9文献に記載された発明に基づき、本件優先日
前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項
の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件発明
15 に係る本件特許は、特許無効審判により無効とされるべきものと認められ(同
法123条1項2号)、特許法104条の3第1項により本件発明に係る本件
特許権の行使は認められない。
(1) 乙9文献に記載された発明の認定について
ア 乙9文献には次の構成を有する発明(以下「乙9発明」という。)が記
20 載されていると認められる(以下、乙9発明の構成を「乙9j」などと
いう。。

乙9j 非接触ICカード100との間で送受信するためのアンテナ
401及び送受信回路402を有し、
乙9k 所定のレスポンス信号を要求するポーリング信号を前記非接
25 触ICカード100に発信する発信手段と、
乙9l 前記非接触ICカード100から受信した所定のレスポンス
信号が要求した所定のレスポンス信号であるか否かを判断する
判断手段とを有し、
乙9m 前記判断手段で受信した所定のレスポンス信号が、前記要求
した所定のレスポンス信号であると判断されたときに、前記非
5 接触ICカード100との間で相互認証の処理を行う
乙9n ことを特徴とするリーダ/ライタ400
イ 乙9文献には、次の構成を有する発明(以下「乙9′発明」という。)
も記載されている(以下、乙9′発明の構成を「乙9′j」などという。。

乙9′j 非接触ICカード100との間で送受信するためのアンテナ
10 401及び送受信回路402を有し、
乙9′k 乱数Aを要求する乱数aを前記非接触ICカード100に発
信する発信手段と、
乙9′l 前記非接触ICカード100から受信した乱数Aが要求した
乱数Aであるか否かを判断する判断手段とを有し、
15 乙9′m 前記判断手段で受信した乱数Aが、前記要求した乱数Aであ
ると判断されたときに、前記非接触ICカード100との間
で乱数Bを返信するなどの処理を行う
乙9′n ことを特徴とするリーダ/ライタ400
(2) 本件発明との対比について
20 ア 乙9発明
乙9発明のリーダ/ライタ400は、所定のレスポンス信号や乱数を非
接触で自動的に識別するシステムであるから、本件発明の「RFID」を
構成するものであり、乙9jの「アンテナ401及び送受信回路402」
はそのインターフェースであるといえる。
25 そうすると、乙9発明の「アンテナ401及び送受信回路402」(乙
9j) 「所定のレスポンス信号を要求するポーリング信号」
、 (乙9k)、
「所定のレスポンス信号」(乙9kないし乙9m)及び「リーダ/ライタ
400」(乙9n)は、それぞれ、本件発明の「RFIDインターフェー
ス」(構成要件J) 「個別情報の発信要求」
、 (構成要件K) 「個別情報」

(判断情報)(構成要件KないしM)及び「受信装置」(構成要件N)に相
5 当する。
イ 乙9′発明
乙9′発明の「アンテナ401及び送受信回路402」 「乱数Aを要求

する乱数a」 「乱数A」及び「リーダ/ライタ400」は、それぞれ、本

件発明の「RFIDインターフェース」(構成要件J) 「個別情報の発信

10 要求」(構成要件K) 「個別情報」
、 (判断情報)(構成要件KないしM)及
び「受信装置」(構成要件N)に相当することが明らかである。
(3) 一致点及び相違点について
本件発明と乙9発明及び乙9′発明とを対比すると、本件発明が、受信装
置と送受信等を行うのが「携帯電話」であるのに対して、乙9発明及び乙
15 9′発明では「非接触ICカード100」である点で両者は相違するが、前
記(2)のとおり、その余の構成は一致する。
(4) 当業者は相違点に係る本件発明の構成を容易に想到できることについ

ア 周知技術
20 次の文献並びに乙7文献及び乙12文献の記載内容に照らすと、本件優
先日当時において、受信装置に相当する機器が非接触ICカードと非接触
の送受信を行う従来技術に代えて、受信装置に相当する機器が携帯電話と
非接触の送受信を行うものとすることが広く行われており、受信装置を携
帯電話との間で送受信するためのRFIDインターフェースを備えるもの
25 とすることが周知技術になっていることが明らかである。
(ア) 特開平9-81811号公報(平成9年3月28日公開。以下「乙
13文献」という。)
乙13文献には、ICカードと入場の可否を判断する機器が接触又
は非接触(無線交信)により送受信を行う従来技術とともに、携帯電
話に相当する携帯電話機と受信装置に相当する端末装置が無線で送受
5 信を行う構成並びに受信装置に相当する端末装置が携帯電話との間で
送受信するためのRFIDインターフェースに相当する近距離送受信
制御部及び近距離アンテナを備える構成が開示されている。
(イ) 特開2001-52213号公報(平成13年2月23日公開。以下
「乙14文献」という。)
10 乙14文献には、ICカードと自動改札機とが非接触(無線通信)
により送受信を行う従来技術とともに、携帯電話に相当する携帯電話
器と受信装置に相当する非接触式自動改札機が非接触で送受信を行う
構成が開示されており、受信装置に相当する非接触式自動改札機が携
帯電話との間で送受信するためのRFIDインターフェースに相当す
15 るトランスミッタ及びアンテナを備えることが開示されている。
(ウ) 実用新案登録第3064207号公報(平成12年1月7日公開。
以下「乙15文献」という。)
乙15文献には、非接触型ICカードと改札システムとが非接触に
より送受信を行う従来技術が実質的に開示されるとともに、非接触型
20 ICカードに代えて、非接触型ICチップを備えた携帯電話と受信装
置に相当する改札口等のゲート側とがアンテナを介して非接触で送受
信を行う構成が開示されており、受信装置に相当する改札口等のゲー
ト側が携帯電話との間で送受信するためのRFIDインターフェース
に相当するアンテナ等を備えることが実質的に開示されている。
25 イ 容易想到性
乙9文献に触れた当業者は、前記アの周知技術に動機付けられ、乙9発
明又は乙9′発明に当該周知技術を適用するか、乙7、乙12、乙13、
乙14又は乙15の各文献に開示された構成を適用することで、本件発明
を容易に想到することができる。
(5) 小括
5 よって、当業者にとって、乙9発明又は乙9′発明に周知技術を組み合わ
せることにより、本件発明を発明することは容易であるといえ、本件発明は
進歩性を欠いている。
(原告らの主張)
(1) 「請求項4記載の」との文言について
10 前記8(原告らの主張)(1)のとおり、「請求項4記載の」との文言は、本
件発明の受信装置の構造及び機能を特定している。
したがって、請求項4による特定を度外視した被告の無効主張に理由はな
い。
(2) 「RFIDインターフェース」について
15 被告は、乙9発明のリーダ/ライタ400は、所定のレスポンス信号や乱
数を非接触で自動的に識別するシステムであるなどと主張するが、乙9文献
には、乙9発明のリーダ/ライタ400が所定のレスポンス信号や乱数を非
接触で「自動的に識別」するとの記載がない。
したがって、被告の主張は前提を誤るものであり、乙9発明及び乙9′発
20 明は、「RFIDインターフェース」の構成を有していない。
(3) 「個別情報」について
構成要件KないしMの「個別情報」とは、具体的には「カード情報」であ
るところ、乙9文献には、「レスポンス信号」は、乱数生成回路により生成
される「認証用乱数b」であり、使用する毎に常に変動する乱数であると記
25 載されており、構成要件KないしMの「個別情報」とは明らかに異なってい
る。
したがって、乙9発明及び乙9′発明は、構成要件KないしMの「個別情
報」の構成を有していない。
(4) 乙9発明又は乙9′発明と周知技術との組合せについて
乙7、乙12ないし乙15各文献は、いずれも、「RFIDインターフェ
5 ース」の構成を開示していない。
したがって、受信装置が携帯電話との間で送受信するための「RFID
インターフェース」を備えることが、本件優先日前に、周知技術となって
いたとはいえない。
(5) 小括
10 以上によれば、本件発明には進歩性が欠如しているとの被告の主張に理由
はない。
11 争点2-7(乙10文献を主引用例とする進歩性欠如)について
(被告の主張)
本件発明は、次のとおり、乙10文献に記載された発明に基づき、本件優先
15 日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2
項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件発
明に係る本件特許は、特許無効審判により無効とされるべきものと認められ
(同法123条1項2号)、特許法104条の3第1項により本件発明に係る
本件特許権の行使は認められない。
20 (1) 乙10文献に記載された発明の認定について
ア 乙10文献には次の構成を有する発明(以下「乙10発明」という。)
が記載されていると認められる(以下、乙10発明の構成を「乙10j」
などという。。

乙10j B型カードとの間で送受信するためのRFIDインターフ
25 ェースを有し、
乙10k ATQBを要求するREQBコマンドを前記B型カードに
発信する発信手段と、
乙10l 前記B型カードから受信したATQBを誤りなく受信した
か否かを判断する判断手段とを有し、
乙10m 前記判断手段で受信したATQBを誤りなく受信したと判
5 断されたときに、前記B型カードとの間でATTRIBコマ
ンドを送信して活性状態にするなどの処理を行う
乙10n ことを特徴とするリーダ
イ 乙10文献には、次の構成を有する発明(以下「乙10′発明」とい
う。)も記載されている(以下、乙10′発明の構成を「乙10′j」な
10 どという。。

乙10′j B型カードとの間で送受信するためのRFIDインターフ
ェースを有する
乙10′n ことを特徴とするリーダ
(2) 本件発明との対比について
15 ア 乙10発明
乙10発明の「RFIDインターフェース」(乙10j)は、本件発明
の「RFIDインターフェース」(構成要件J)に相当する。
また、仮に、本件発明の「判断手段」が、「受信した個別情報が要求し
た個別情報であるか否かを判断する」手段であると広く解釈するのであれ
20 ば、乙10発明の「ATQBを要求するREQBコマンド」(乙10k)、
「ATQB」(乙10kないし乙10m) 「受信したATQBを誤りなく

受信したか否かを判断する判断手段」(乙10l) 「前記判断手段で受信

したATQBを誤りなく受信したと判断されたときに」(乙10m)及び
「リーダ」(乙10n)は、それぞれ、本件発明の「個別情報の発信要求」
25 (構成要件K)「個別情報」
、 (判断情報)(構成要件KないしM)「受信し

た個別情報が要求した個別情報であるか否かを判断する判断手段」(構成
要件L)「前記判断手段で受信した判断情報が、前記要求した個別情報で

あると判断されたとき」(構成要件M)及び「受信装置」(構成要件N)に
相当する。
イ 乙10′発明
5 乙10′発明の「RFIDインターフェース」(乙10′j)は、本件
発明の「RFIDインターフェース」(構成要件J)に相当する。
また、乙10′発明の「リーダ」(乙10′n)は、「受信装置」(構成
要件N)に相当する。
(3) 一致点及び相違点について
10 本件発明と乙10発明及び乙10′発明を対比すると、本件発明は受信装
置と送受信等を行うのが「携帯電話」であるのに対して、乙10発明では
「B型カード」である点で、両者は相違するが、その余の構成は一致する。
また、本件発明は受信装置と送受信等を行うのが「携帯電話」であるのに
対して、乙10′発明では「B型カード」である点及び構成要件KないしN
15 の構成を備えない点において、両者は相違するが、その余の構成は一致する。
(4) 当業者は相違点に係る本件発明の構成を容易に想到できることについ

乙10文献に触れた当業者は、前記10(被告の主張)(4)アの周知技術
に動機付けられ、乙10発明又は乙10′発明に当該周知技術を適用する
20 か、乙7、乙12、乙13、乙14又は乙15の各文献に開示された構成
を適用することで、本件発明を容易に想到することができる。
(5) 小括
よって、当業者にとって、乙10発明又は乙10′発明に周知技術を組み
合わせることにより、本件発明を発明することは容易であるといえ、本件発
25 明は進歩性を欠いている。
(原告らの主張)
(1) 「判断手段」について
被告は、乙10発明の、受信装置による受信したATQBを誤りなく受信
したとの判断(乙10l)が、構成要件Lの「受信した個別情報が要求した
個別情報であるか否かを判断する判断手段」に相当すると主張する。
5 しかし、乙10文献には、上記判断の判断基準についての開示も示唆もな
いから、「判断手段」(構成要件L)の構成を有しているとはいえない。
(2) 小括
以上によれば、乙10発明に被告主張の周知技術を適用しても、本件発明
と同一の構成に至ることはできないから、本件発明には進歩性が欠如してい
10 るとの被告の主張に理由はない。
12 争点2-8(乙16文献又は乙16製品を主引用例とする進歩性欠如)に
ついて
(被告の主張)
本件発明は、次のとおり、乙16文献に記載された発明及び同発明と構
15 成を一にする乙16製品により公然実施された発明に基づき、本件優先日前
に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項
の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件発
明に係る本件特許は、特許無効審判により無効とされるべきものと認められ
(同法123条1項2号)、特許法104条の3第1項により本件発明に係
20 る本件特許権の行使は認められない。
(1) 乙16文献に記載された発明の認定について
ア 乙16文献には次の構成を有する発明(以下「乙16発明」という。)
が記載されていると認められる(以下、乙16発明の構成を「乙16j」
などという。。

25 乙16j 非接触ICカードとの間で送受信するためのRFIDイン
ターフェースを有し、
乙16k IDm(PMm)を要求するPollingコマンドを前
記非接触ICカードに発信する発信手段と、
乙16l 前記非接触ICカードから受信したIDm(PMm)が要
求したIDm(PMm)であるか否かを判断する判断手段と
5 を有し、
乙16m 前記判断手段で受信したIDm(PMm)が、前記要求し
たIDm(PMm)であると判断されたときに、前記非接触
ICカードとの間でRequest Serviceコマンド、
Authentication1コマンドなどの処理を行う
10 乙16n ことを特徴とするリーダ/ライタ
イ ソニーは、平成12年10月当時、乙16製品を発売していた。
そして、当業者であれば、乙16製品のカードとリーダ/ライタの送受
信(PollingコマンドやIDm(PMm)の送受信や、その後の処
理の送受信)を傍受することで、リーダ/ライタが、非接触ICカードと
15 の間で送受信するためのRFIDインターフェースを有し、所定のコマン
ドを送信して、非接触ICカードが所定のデータを返信し、その後の処理
が継続される構成を有していることを確認することは容易である。また、
当業者であれば、非接触ICカードが所定のデータを返信するタイミング
で、当該所定のデータとは異なるデータを返信させたときのリーダ/ライ
20 タの反応から、同リーダ/ライタが、前記非接触ICカードから受信した
所定のデータが要求した所定のデータであるか否かを判断する判断手段と
を有し、前記判断手段で受信した所定のデータが、前記要求した所定のデ
ータであると判断されたときに、前記非接触ICカードとの間で処理を行
う構成を備えていると容易に確認できる。
25 以上によれば、次の構成を有する発明(以下「乙16′発明」という。)
が、平成12年10月当時、乙16製品により公然と実施されていたと認
定できる(以下、乙16′発明の構成を「乙16′j」などという。。

乙16′j 非接触ICカードとの間で送受信するためのRFIDイ
ンターフェースを有し、
乙16′k 所定のデータを要求する所定のコマンドを前記非接触I
5 Cカードに発信する発信手段と、
乙16′l 前記非接触ICカードから受信した所定のデータが要求
した所定のデータであるか否かを判断する判断手段とを有し、
乙16′m 前記判断手段で受信した所定のデータが、前記要求した所
定のデータであると判断されたときに、前記非接触ICカー
10 ドとの間で処理を行う
乙16′n ことを特徴とするリーダ/ライタ
(2) 本件発明との対比について
ア 乙16発明
乙16発明の「RFIDインターフェース」(乙16j)は、本件発明
15 の「RFIDインターフェース」(構成要件J)に相当する。
また、乙16発明の「IDm(PMm)を要求するPollingコマ
ンド」(乙16k) 「IDm(PMm) (乙16kないし乙16m)及び
、 」
「リーダ/ライタ」(乙16n)は、それぞれ、本件発明の「個別情報の
発信要求」(構成要件K)「個別情報」
、 (判断情報)(構成要件KないしM)、
20 「受信装置」(構成要件N)に相当する。
イ 乙16′発明
乙16′発明の「RFIDインターフェース」(乙16′j)は、本件
発明の「RFIDインターフェース」(構成要件J)に相当する。
また、乙16′発明の「所定のデータを要求する所定のコマンド」(乙
25 16′k) 「所定のデータ」
、 (乙16′kないし乙16′m)及び「リー
ダ/ライタ」(乙16n)は、それぞれ、本件発明の「個別情報の発信要
求」(構成要件K) 「個別情報」
、 (判断情報)(構成要件KないしM)及び
「受信装置」(構成要件N)に相当する。
(3) 一致点及び相違点について
本件発明と乙16発明及び乙16′発明を対比すると、本件発明は、受信
5 装置と送受信等を行うのが「携帯電話」であるのに対して、乙16発明及び
乙16′発明では「非接触ICカード」である点で、両者は相違するが、そ
の余の構成は一致する。
(4) 当業者は相違点に係る本件発明の構成を容易に想到できることについ

10 乙16文献又は乙16′発明に触れた当業者は、前記10(被告の主張)
(4)アの周知技術に動機付けられ、乙16発明又は乙16′発明に当該周知
技術を適用するか、乙7、乙12、乙13、乙14又は乙15の各文献に
開示された構成を適用することで、本件発明を容易に想到することができ
る。
15 (5) 小括
よって、当業者にとって、乙16発明及び乙16′発明に周知技術を組み
合わせることにより、本件発明を発明することは容易であるといえ、本件発
明は進歩性を欠いている。
(原告らの主張)
20 (1) 「請求項4記載の」との文言について
前記8(原告らの主張)(1)のとおり、「請求項4記載の」との文言は、本
件発明の受信装置の構造及び機能を特定している。
したがって、請求項4による特定を度外視した被告の無効主張に理由はな
い。
25 (2) 乙16文献は本件優先日前に公知となったものではないこと
被告は、乙16文献が、本件優先日前に秘密保持義務なく公開されたこと
及び乙16′発明が本件優先日前に公然実施されたことの立証をしていない。
したがって、被告の、乙16発明又は乙16′発明に基づく進歩性欠如の
主張には理由がない。
(3) 「判断手段」について
5 前記8(原告らの主張)(4)のとおり、構成要件Lの「受信した個別情報
が要求した個別情報であるか否かを判断する判断手段」は、要求した特定の
データと他のデータを比較して一致しているかどうかを判断する手段である
必要がある。
被告は、乙16発明及び乙16′発明の、前記非接触ICカードから受信
10 したIDm(PMm)が要求したID(PMm)であるか否かを判断する判
断手段(乙16l)が、構成要件Lの「受信した個別情報が要求した個別情
報であるか否かを判断する判断手段」に相当すると主張する。
しかし、乙16文献には、「リーダ/ライタはカードを捕捉する為に、P
ollingコマンドを常に送信する…。 、
」 「カードはPollingコマ
15 ンドへの応答として、カードの製造ID(IDm)と製造パラメータ(PM
m)をリーダ/ライタに返送します。 、
」 「…リーダ/ライタはIDmを取得
すると、…このIDmを使ってカードを特定します。…」と記載されており、
Pollingコマンドは、ICカードを特定するためのコマンドにすぎず、
特定のIDm(PMm)(所定のデータ)の発信を要求するコマンドではな
20 い。
したがって、乙16発明及び乙16′発明のリーダ/ライタは、要求した
特定のデータと他のデータを比較して一致しているかどうかを判断する手段
ではないから、「判断手段」(構成要件L)の構成を有しているとはいえない。
(4) 小括
25 以上によれば、乙16発明及び乙16′発明に被告主張の周知技術を適用
しても、本件発明と同一の構成に至ることはできないから、本件発明には進
歩性が欠如しているとの被告の主張に理由はない。
13 争点3(原告らの損害及び損害額)について
(原告モビリティの主張)
被告は、令和4年3月31日まで、被告各製品を譲渡し、少なくとも23
5 4億2599万7000円の売上を得ている。
そして、本件特許権の実施料率は5%と算定すべきである。
よって、特許法102条3項により、原告モビリティには、少なくとも1
1億7129万円(1万円未満切り捨て。)の損害が生じているといえる。
もっとも、本件においては、上記損害金の一部である1500万円のみを
10 請求する。
(原告モビリティ・エックスの主張)
被告は、令和3年6月30日まで、被告各製品を譲渡し、少なくとも98
億7775万7000円の売上を得ている。
そして、本件特許権の実施料率は5%と算定すべきである。
15 よって、特許法102条3項により、原告モビリティ・エックスには、少
なくとも4億9388万円(1万円未満切り捨て。)の損害が生じていると
いえる。
もっとも、本件においては、上記損害金の一部である500万円のみを請
求する。
20 (被告の主張)
争う。
第4 当裁判所の判断
1 本件明細書の記載事項等
(1) 本件明細書(甲2)には、次のような記載がある(下記記載中に引用する
25 図14については別紙図面目録1を参照)。
ア 【技術分野】
【0001】
本発明はRFIDインターフェースを利用した情報保護技術に関する
ものである。
【背景技術】
5 【0002】
近年、市場には膨大な数の磁気カードが流通している。一例として、
クレジットカード、キャッシュカード、プリペイドカード、社員証や
学生証、通行証、各種証明書発行用カード、図書館の貸出カード、入
退室管理カードなどがあげられる。これらのカードは特定の目的ごと
10 に提供されているため、場合によっては外出時に何枚ものカードを携
行しなければならない。しかしながら、カードの枚数によっては非常
にかさばる上に、必要なときに必要なカードをすぐに取り出しにくい
などの問題がある。
【0007】
15 そこで、携帯電話、PHS、携帯情報端末(PDA)、ノートパソコン
などの携帯端末に多目的ICカードを統合したり、複数のICカード
の機能を搭載したり、あるいは搭載可能な仕組み(ICカードとして
の機能を実行するためのソフトを所定のサーバ等にダウンロード可能
な形態で提供し、そのソフトをダウンロードする、あるいはこのよう
20 なソフトが搭載された、カード用専用チップを装着する等)を用意す
るなどし、この端末に対してセキュリティ対策を施す方法が検討され
ている。ICカードには大きく分けて接触型と非接触型の2種類があ
り、カードに記録されたデータを利用するには接触型の場合は専用の
端末(以下、「リーダライタ」と呼ぶ)にカードを挿入しなければなら
25 ないが、非接触型ではその必要がなく、リーダライタにかざすだけで
よい。したがって、携帯端末をパスワードで保護し、端末にあらかじ
め記録されたパスワードと所有者が入力するパスワードとが一致した
場合にのみICカードの機能を利用できるようにする方式が考えられ
る。しかしながら、このような方式ではカード機能を利用するたびに
端末にパスワードを入力しなければならない煩わしさがあり、リーダ
5 ライタにかざすだけでよいという非接触型ICカードの利点が半減し
てしまう。また、パスワード自体は所有者個人を特定する手段にはな
らず、何らかの理由でパスワードが漏洩した場合に、悪意の拾得者が
不正入手したパスワードを利用して端末にアクセスする可能性もある。
【発明が解決しようとする課題】
10 【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするとこ
ろは、個人情報や金銭的価値のある情報を統合して管理する場合に当
該情報の第三者による不正使用を確実に防止するための情報保護シス
テムを提供することにある。
15 イ 【課題を解決するための手段】
【0015】
…本発明の第2の形態によれば、前記携帯電話との間で送受信するため
のRFIDインターフェースを有し、個別情報の発信要求を前記携帯電
話に発信する発信手段と、前記携帯電話から受信した個別情報が要求し
20 た個別情報であるか否かを判断する判断手段とを有し、前記判断手段で
受信した判断情報が、前記要求した個別情報であると判断されたときに、
前記携帯電話との間で処理を行うことを特徴とする受信装置が得られる。
ウ 【発明の効果】
【0017】
25 以上詳細に説明したように、本発明では、携帯端末に定期券・クレジ
ットカード・運転免許書などの個人情報を携帯端末に登録することが
できる。
【0018】
また、携帯端末に一意に割り振られる識別情報をもとに携帯端末の利
用状況の履歴を取ることが確実に行われ悪用を防ぐことができる。
5 【0019】
さらに、携帯端末が悪意を持つ第3者に渡っても、対応するレッドバ
ッジ(ICチップ)などがない限り悪用できない。
【0020】
また、これにより、利用した覚えのない料金を支払う必要がない。
10 【0021】
或いは、携帯端末に記憶されている個人データの流出を防ぐことが可
能になる。
エ 【発明を実施するための最良の形態】
【0085】
15 第2の実施の形態では、携帯端末10に(ICカードで行われている)
定期券・乗車券・クレジットカード・鍵などの機能を内蔵させる個別
情報システムについて説明する。ここでは、クレジットカードなどカ
ード機能を携帯端末10に内蔵させる場合を例に説明する。…
【0086】
20 他の実施の形態における個別情報
システム11は、図12に示すように、携帯端末10とRFIDイン
ターフェースの送受信部20’(受信部)を組み込んだ受信装置60と
で概略構成される。
【0087】
25 受信装置60は、送受信部20’と制御部40’が設けられ、携帯端
末10から個別情報を読み取る機能を備えている。この受信装置60
に携帯端末10を近づけて個別情報を読み取るようにするため、送受
信部20’には、近接型を使用することが好ましい。
【0088】
携帯端末10は、図13に示すように、メモリ30上のデータ格納部
5 34に個別情報340を記憶する。ここでは、個別情報340として
カード情報を記憶している例について説明する。
【0089】
個別情報340には、複数のカード情報(例えば、図13のA、B、
C)を記憶することも可能でその中から利用するカードを選択する機
10 能を備える。さらに、カードに応じたアプリケーションプログラム3
3を複数用意し、各カードに応じた機能を持たせることが可能である。
【0090】
以下、個別情報340をカード情報と置き換えて説明する。
【0091】
15 次に、本実施の形態の動作を図14のフローチャートに従って説明す
る。
【0092】
携帯端末10で、利用するカードを選択して(S120)、携帯端末1
0を受信装置60に近づける。受信装置60では、例えば、受信装置
20 60に設けられている読み取りスイッチの押下によって、カード情報
340の読み取り指示を受け取ると、読み取りコマンドを送受信部2
0に送る(S220)。そこで、送受信部20から指定されているカー
ドのカード情報340(個別情報)の発信要求(パワーパルスなど)
を携帯端末10に発信する(S221)。
25 【0093】
携帯端末10では、カード情報340の発信要求を受け取ると選択さ
れているカード情報340を発信する(S122)。受信装置60では、
受信したカード情報340が、要求したカード情報であれば処理を続
行するが(S224)、要求したカード情報でない場合はエラー終了す
る(S225)。
5 【0094】
本実施の形態では、携帯端末10にカード機能を持たせる場合につい
て説明したが、定期券や乗車券の機能を持たせることも可能である。
この場合には、受信装置60の送受信部20には、多少離れた位置か
ら読み取り可能なように近接型を利用することが好ましい。
10 【0095】
また、携帯端末10に鍵の機能を持たせることも可能である。この場
合には、受信装置60の送受信部20には、やや離れた位置から読み
取り可能なように近傍型または近接型を利用することが好ましい。
【0096】
15 また、電子マネー・クレジットカード・会員権・診察券・健康保健
所・身分証明書・アミューズメント施設のチケット類の機能を持たせ
ることも可能である。
【0097】
さらに、個別情報340は、携帯端末10の固体それぞれを識別する
20 識別情報を利用することもできる。
(2) 前記(1)の記載事項によれば、本件明細書には、本件発明に関し、次のよ
うな開示があることが認められる。
ア 近年、クレジットカード、キャッシュカード、プリペイドカード等の膨
大な数の磁気カードが市場に流通しているところ、これらのカードは特定
25 の目的ごとに提供されているため、場合によっては外出時に何枚ものカー
ドを携行しなければならず、カードの枚数によっては非常にかさばる上
に、必要なときに必要なカードをすぐに取り出しにくいなどの問題がある
(【0002】。そこで、携帯電話などの携帯端末に多目的ICカードを

統合するなどし、この端末に対してセキュリティ対策を施す方法が検討さ
れており、ICカードのうちの非接触型では、リーダライタにかざすだけ
5 でよいことから、携帯端末をパスワードで保護し、端末にあらかじめ記録
されたパスワードと所有者が入力するパスワードとが一致した場合にのみ
ICカードの機能を利用できるようにする方式が考えられるが、このよう
な方式では、カード機能を利用するたびに端末にパスワードを入力しなけ
ればならない煩わしさがあり、リーダライタにかざすだけでよいという非
10 接触型ICカードの利点が半減してしまい、また、パスワード自体は所有
者個人を特定する手段にはならず、何らかの理由でパスワードが漏洩した
場合に、悪意の拾得者が不正入手したパスワードを利用して端末にアクセ
スする可能性もあるといった課題があった(【0007】 。

イ 「本発明」は、前記アの課題に鑑み、個人情報や金銭的価値のある情報
15 を統合して管理する場合に当該情報の第三者による不正使用を確実に防止
するための情報保護システムを提供することを目的として、携帯電話との
間で送受信するためのRFIDインターフェースを有し、個別情報の発信
要求を同携帯電話に発信する発信手段と、同携帯電話から受信した個別情
報が要求した個別情報であるか否かを判断する判断手段とを有し、同判断
20 手段で受信した判断情報が要求した個別情報であると判断されたときに、
同携帯電話との間で処理を行うことを特徴とする受信装置を提供するもの
である(【0009】 【0015】。
、 )「本発明」では、携帯端末に定期券・
クレジットカード・運転免許書などの個人情報を携帯端末に登録すること
ができる、また、携帯端末に一意に割り振られる識別情報をもとに携帯端
25 末の利用状況の履歴を取ることが確実に行われ悪用を防ぐことができる、
さらに、携帯端末が悪意を持つ第3者に渡っても、対応するレッドバッジ
(ICチップ)などがない限り悪用できない、これにより、利用した覚え
のない料金を支払う必要がない、あるいは、携帯端末に記憶されている個
人データの流出を防ぐことが可能になるといった効果を奏する。 【001

7】ないし【0021】。

5 2 争点2-5(乙12文献を主引用例とする新規性又は進歩性欠如)について
本件の事案に鑑み、争点2-5から判断する。
(1) 乙12文献の記載事項について
ア 乙12文献には、次のような記載がある(下記記載中に引用する図1、
図2、図3及び図8については別紙図面目録2を参照)。
10 (ア) 【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄道分野等に広く普及している
自動改札に関し、特に自動改札通過時のチケットの処理を非接触で行
う自動改札システムに関する。
(イ) 【発明の実施の形態】…
15 【0016】図1は本発明に係る自動改札システムの一実施形態の構
成を示すブロック図である。
【0017】この実施形態の自動改札システム1は、携帯通信端末1
1と、自動改札機13と、基地局15と、電話回線網17と、チケッ
トセンター19とから構成されている。
20 【0019】…携帯通信端末11は、ダウンロードされたチケットデ
ータを、自動改札機13から送信要求された場合には、その要求に従
ってこのデータを出力するようになっている。
【0020】この携帯通信端末11は、図2に示すように、…自動改
札を通過する際のチケットデータを記憶するチケットデータ記憶部1
25 13、チケットデータをダウンロードする際の発行依頼の電話番号
(後述する)を基地局15に無線で送信し、この発行依頼により発行
されたチケットセンター19からのチケットデータを基地局15から
無線で受信する対基地局無線送受信部14、自動改札機13と無線で
送受信を行う対自動改札無線送受信部115、…で構成されている。
【0022】自動改札機13は、携帯通信端末11から受信したチケ
5 ットデータに基づき、改札扉の開閉を行うものであって、図3に示す
ように、各構成部分を制御する制御部131、携帯通信端末11に記
憶されているチケットデータの送信要求を送信するとともに、チケッ
トデータを受信する無線送受信部132、チケットデータの検査を行
わずに改札口を通過しようとする利用者を検知する人間検知センサ1
10 33、制御部131の指示に基づき、改札扉を開閉して利用者の改札
口からの通過を制御する通過制御部134および使用済みチケットの
通し番号を記憶するチケットデータベース135から構成されている。
【0023】この通し番号は、チケットデータごとに異なる番号が割
振りされており、このデータベース135に登録されているものと同
15 じ通し番号を有するチケットデータは不正チケットと見なされる。
【0036】この実施形態の受動改札システムに使用されるチケット
データには、…暗号化されたチケット種別および通し番号を有してい
る。…
【0056】…入場時の通信手順について自動改札機13は、利用
20 者がいようといまいと関係なしに、携帯通信端末に対するチケット
データ送信要求を常時定期的に送信している(図8中の①、②、③、
④参照)。
【0057】利用者が自動改札機13に近づき、携帯通信端末11
を自動改札機13にかざすと、携帯通信端末13は、自動改札機1
25 3からのチケットデータ送信要求を受信し、チケットデータを自動
改札機13に送信する(図8中の⑤参照)。
【0059】自動改札機13は、携帯通信端末11からチケットデ
ータを受信すると、このデータを解読し、改札機を通過できる種類
のチケットであるか否かを判定するとともに、使用済みチケットデ
ータベース135を検索して同じ通し番号を有するチケットが既に
5 使われているか否かを判定する。
【0060】自動改札機13は、チケットデータの正当性が確認で
きた場合には、通し番号がそのままで、チケット種別…を確認済み
の種別に更新した新しいチケットデータを作成し、これを暗号化し
て「確認済みチケットデータ」として携帯通信端末11に送信する
10 とともに(図8中の⑥参照)、このチケットデータの通し番号を使用
済みチケットデータベース135に登録する。
【0061】携帯通信端末11は、「確認済みチケットデータ」を受
信すると、旧チケットデータを破棄し、この「確認済みチケットデ
ータ」をチケットデータ記憶部113に記憶するとともに、チケッ
15 トデータを更新完了した旨を自動改札機13に送信する(図8中の
⑦参照)。
【0062】自動改札機13は、携帯通信端末11からチケットデ
ータを更新完了した旨を受信すると、再び携帯通信端末11に対し
てチケットデータ送信要求を送信する(図8中の⑧参照)。
20 【0063】携帯通信端末11は、すると、既に更新されたチケッ
トデータを自動改札機13に出力する(図8中の⑨参照)。
【0064】自動改札機13は、携帯通信端末11から更新された
チケットデータを受信すると、上述したようにして再びこのチケッ
トデータの正当性をチェックし、チェックした結果、チケットデー
25 タが正しければ、利用者の通行を許可する。
イ 前記アの記載事項によれば、前記第3の9(被告の主張)(1)アのとお
り、乙12文献には乙12jないし乙12nの構成を有する乙12発明が
記載されていると認められる。
ウ 乙12の各構成が本件発明の構成要件JないしMの構成にそれぞれ相当
するか否かを検討する前提として、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電
5 話との間で送受信するための」との記載の性質について検討する。
原告らは、構成要件Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信す
るための」との記載は、本件発明の受信装置の構造及び機能を特定して
いるから、請求項1ないし4の解釈を踏まえて請求項5に係る本件発明
の構成を認定すべきであると主張するものと解される。
10 そこで検討すると、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の各記
載によれば、本件発明は、受信装置が、携帯電話との間で送受信するた
めのRFIDインターフェースを介して同携帯電話に対して個別情報の
発信要求をし、これに対し、同携帯電話が、要求された個別情報を送信
し、受信装置が、同携帯電話から受信した個別情報が要求した個別情報
15 であるか否かを判断し、受信した判断情報が前記要求した個別情報であ
ると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理を行うという、二つ
以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明に対し、それに組み合わ
される受信装置の発明すなわちサブコンビネーション発明であって、本
件発明に係る特許請求の範囲の請求項5には、受信装置とは別の他の装
20 置すなわち他のサブコンビネーションである携帯電話に関する事項が記
載されているものと理解できる。
そして、サブコンビネーション発明においては、特許請求の範囲の請求
項中に記載された他の装置に関する事項が、形状、構造、構成要素、組成、
作用、機能、性質、特性、行為又は動作、用途等の観点から当該請求項に
25 係る発明の特定にどのような意味を有するかを把握し、発明の技術的範囲
を画する必要があるところ、他の装置に関する事項が、当該他の装置のみ
を特定する事項であって、当該請求項に係る発明の構造、機能等を何ら特
定していない場合には、他の装置に関する事項は当該請求項に係る発明を
特定するために意味を有しないといえる。
本件特許の特許請求の範囲において、構成要件Jの「RFIDインター
5 フェースを有し、」との記載は、受信装置が「RFIDインターフェース
を有し」ていることを、構成要件Kの記載は、受信装置が「個別情報の発
信要求を前記携帯電話に発信する発信手段」を有していることを、構成要
件Lの記載は、受信装置が「前記携帯電話から受信した個別情報が要求し
た個別情報であるか否かを判断する判断手段」を有していることを、構成
10 要件Mの記載は、受信装置が「前記判断手段で受信した判断情報が、前記
要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電話との間で処理
を行う」ことを、それぞれ特定していると認められるのに対し、構成要件
Jの「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するための」との記載は、
上記の構造、機能等を有する受信装置と送受信をする携帯電話の構造、機
15 能等を請求項4記載の構成に限定するものにすぎず、受信装置の構造、機
能等自体を何ら特定していないから、「請求項4記載の携帯電話」との記
載は、受信装置に係る発明を特定するために意味を有するものであると認
めることはできない。
以上によれば、上記の「請求項4記載の携帯電話との間で送受信するた
20 めの」を除外して請求項5に係る本件発明の要旨を認定することが相当で
あるというべきであって、原告らの上記主張を採用することはできない。
エ 乙12発明と本件発明の構成の対比
(ア) 構成要件Jについて
a 本件明細書には、「RFID」の意義について、無線通信に用いら
25 れる「非接触自動識別システム(RFID:Radio Frequ
ency Identifycation) (
」 【0025】)と記載
されていること、一般的な意義として、「RFID」とは、「ICタグ
に同じ。RF信号を用いてID情報をやりとりすることからの名称。」
とされ、「RF」とは、「無線周波数。無線通信や放送に使われる高い
周波数のこと。」と解されていること(広辞苑第7版)に加え、技術
5 常識に照らせば、「ID」とは、対象の識別に係る情報であると認め
られること(弁論の全趣旨)に照らすと、本件発明の「RFIDイン
ターフェース」とは、無線を介して対象の識別に係る情報を送信又は
受信するためのインターフェースであると解するのが相当である。
そして、乙12文献の「この通し番号は、チケットデータごとに
10 異なる番号が割振りされており、このデータベース135に登録さ
れているものと同じ通し番号を有するチケットデータは不正チケッ
トと見なされる。 (
」 【0023】 、
) 「この実施形態の受動改札システ
ムに使用されるチケットデータには、…暗号化されたチケット種別
および通し番号を有している。…」 【0036】 、
( ) 「…携帯通信端末
15 13は、自動改札機13からのチケットデータ送信要求を受信し、
チケットデータを自動改札機13に送信する。 (なお、
」 「携帯通信端
末13」は「携帯通信端末11」の誤記であると認められる。以下
同じ。 (
) 【0057】)及び「自動改札機13は、携帯通信端末11
からチケットデータを受信すると、このデータを解読し、改札機を
20 通過できる種類のチケットであるか否かを判定するとともに、使用
済みチケットデータベース135を検索して同じ通し番号を有する
チケットが既に使われているか否かを判定する。 (
」 【0059】)と
の記載によると、乙12発明において、乙12k、乙12l及び乙
12mの「チケットデータ」に割り振られた「通し番号」及び「チ
25 ケット種別」は、チケットを識別するための情報として用いられる
ものであると理解できる。
そうすると、乙12発明の「自動改札機13」が備える「無線送
受信部132」は、無線を介してチケットを識別するための情報を
取得するインターフェースであるといえるから、構成要件Jの「R
FIDインターフェース」に相当する。
5 b 原告らは、「RFIDインターフェース」は、単なる「無線通信」
とは異なるものであり、乙12発明の携帯通信端末11と自動改札機
13は、携帯電話と基地局との間の当時における一般的な通信方式を
使用するものにすぎないから、「RFIDインターフェース」に相当
しないと主張する。
10 しかし、前記aのとおり、本件発明の「RFIDインターフェース」
は、無線を介して対象の識別に係る情報を取得するためのものであっ
て、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書にも、「RFIDイン
ターフェース」に関し、無線の通信方式を特定の方式に限定したもの
であることをうかがわせる記載はない。
15 また、「RFIDインターフェース」の文言が、無線の通信方式を
特定の方式に限定したものでないことは、本件明細書の「RFIDに
はさまざまな変調方式や周波数、通信プロトコルを利用したものがあ
るが、本発明は特定の方式に限定されるものではなく、どのような方
式を利用してもよい。 (
」 【0027】)との記載からも明らかである。
20 したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(イ) 構成要件Kについて
構成要件Kの「個別情報」の意義は、本件特許の特許請求の範囲の記
載からは明らかではないところ、本件明細書の「…携帯端末10に(I
Cカードで行われている)定期券・乗車券・クレジットカード・鍵など
25 の機能を内蔵させる個別情報システムについて説明する。ここでは、ク
レジットカードなどカード機能を携帯端末10に内蔵させる場合を例に
説明する。 (
」 【0085】、
)「個別情報340には、複数のカード情報…
を記憶することも可能で…」 【0089】 、
( ) 「本実施の形態では、携帯
端末10にカード機能を持たせる場合について説明したが、定期券や乗
車券の機能を持たせることも可能である。 (
」 【0094】)及び「また、
5 電子マネー・クレジットカード・会員権・診察券・健康保健所・身分証
明書・アミューズメント施設のチケット類の機能を持たせることも可能
である。 (
」 【0096】)との記載に照らせば、「個別情報」とは、定期
券・乗車券・クレジットカード・鍵などの機能に関する個別の情報であ
ると理解することができる。
10 一方、乙12文献の「…携帯通信端末13は、自動改札機13からの
チケットデータ送信要求を受信し、チケットデータを自動改札機13に
送信する。 (
」 【0057】)及び「自動改札機13は、携帯通信端末11
からチケットデータを受信すると、このデータを解読し、改札機を通過
できる種類のチケットであるか否かを判定するとともに、使用済みチケ
15 ットデータベース135を検索して同じ通し番号を有するチケットが既
に使われているか否かを判定する。 (
」【0059】)との記載に照らすと、
乙12発明において、乙12kの「チケットデータ」は、個別の乗車券
として機能するための情報であるといえ、「個別情報」(構成要件K)に
相当する。
20 (ウ) 構成要件Lについて
a 前記(イ)で説示したとおり、本件発明の「チケットデータ」は、個
別の乗車券として機能するための情報であるから、「個別情報」に相
当する。
また、乙12文献の「自動改札機13は、携帯通信端末11からチ
25 ケットデータを受信すると、このデータを解読し、改札機を通過でき
る種類のチケットであるか否かを判定するとともに、使用済みチケッ
トデータベース135を検索して同じ通し番号を有するチケットが既
に使われているか否かを判定する。 (
」 【0059】)との記載に照らす
と、乙12発明において、自動改札機13は、携帯通信端末11から
送信されたチケットデータが正当性のあるものであるか、すなわち、
5 改札機を通過できる種類のチケットであるか否か及び使用済みチケッ
トデータベース135を検索して同じ通し番号を有するチケットが既
に使われているか否かを判定するものであると理解できるから、「…
受信した個別情報が要求した個別情報であるか否かを判断する判断手
段」(構成要件L)に相当する。
10 b 原告らは、構成要件Lの「…受信した個別情報が要求した個別情報
であるか否かを判断する判断手段」は、特定の利用者の1つのチケッ
トデータの発信を要求し、受信したチケットデータが要求した特定の
1つのチケットデータであるか否かを判断するものであるところ、乙
12発明の「自動改札機13」は、特定の利用者の特定の1つのチケ
15 ットデータの発信を要求するものではなく、また、受信したチケット
データが要求した特定の1つのチケットデータであるか否かを判断す
る判断手段ではないから、「…受信した個別情報が要求した個別情報
であるか否かを判断する判断手段」に相当するものではないと主張す
る。
20 しかし、本件特許の特許請求の範囲において、「要求した個別情報」
が「特定の利用者の1つのチケットデータ」であるとの限定はされて
おらず、また、本件明細書においても、「受信装置」が受信した「個
別情報」が、特定の利用者の特定の1つのチケットデータに限られる
ことをうかがわせる記載はない。
25 したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(エ) 構成要件Mについて
前記(イ)及び(ウ)の説示を前提とすると、乙12発明の「自動改札機1
3」は、「前記判断手段で受信した判断情報」(構成要件M)である「チ
ケットデータ」が、「前記要求した個別情報」(構成要件M)である「正
当性のあるチケットデータ」であると判断されたときに、「前記携帯通
5 信端末11との間で「確認済みチケットデータ」を送信するなどの処理
を行う」ものであるから、その構成は、「前記判断手段で受信した判断
情報が、前記要求した個別情報であると判断されたときに、前記携帯電
話との間で処理を行う」(構成要件M)構成に相当する。
(オ) 構成要件Nについて
10 前記(ウ)で説示したとおり、乙12発明の「自動改札機13」は、「チ
ケットデータ」を受信する受信装置であるといえるから、「受信装置」
(構成要件N)に相当する。
(2) 小括
以上によれば、本件発明は、乙12発明と同一の構成を有しているから、
15 新規性を欠いており、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもの
と認められ、原告らは被告に対してその権利を行使することができない(特
許法104条の3第1項、123条1項2号、29条1項3号)。
第5 結論
以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はい
20 ずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
國 分 隆 文
裁判官
5 間 明 宏 充
裁判官
10 バ ヒ ス バ ラ ン 薫
(別紙)
被告製品目録
1 被告がCASTLES TECHNOLOGY社から購入したVEGA300
0に、被告がカスタマイズしたアプリ(クレジットアプリ、決済アプリ)等を搭
載した製品及びクレジット決済時に使用される、CARD CREW PLUS
2 上記1の製品をカスタマイズした製品
以上
(別紙)
図面目録1
図14
(別紙)
図面目録2
1 図1
2 図2
3 図3
4 図8

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