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令和5(行ケ)10109審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年4月24日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社イデア
被告特許庁長官
法令 商標権
特許法50条1回
特許法169条3項1回
商標法3条1項3号1回
キーワード 審決38回
拒絶査定不服審判4回
主文 1 原告の請求を棄却する。15
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。詳細は第4の1に 譲る。) (1) 原告は、令和2年8月27日、「奇跡のラカンカ」の文字を横書きして なる商標(本願商標)について登録出願した(本件出願)。その指定商品25 (令和3年9月12日付け手続補正後のもの)は、第30類「ラカンカを加 味した菓子(果物、野菜、豆類又はナッツを主原料とするものを除く。)、ラ カンカを加味したコーヒー、ラカンカを加味した食用粉類、ラカンカを加味 したパン、ラカンカを使用した調味料、ラカンカを加味した穀物の加工品、 ラカンカを加味したぎょうざ、ラカンカを加味した紅茶、ラカンカを加味し た茶」である。5 (2) 原告は、令和4年1月25日付けで、本願商標が商標法3条1項3号 (以下、商標法の条文を摘示するときは、条・項・号のみで表記する。)に 該当することを理由に拒絶査定(原査定)を受けたため、同年4月29日、 拒絶査定不服審判(本件審判)を請求した。

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判決文

令和6年4月24日判決言渡

令和5年(行ケ)第10109号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和6年3月25日

判 決

原 告 株 式 会 社 イ デ ア

同訴訟代理人弁理士 小 川 清

被 告 特 許 庁 長 官

同 指 定 代 理 人 須 田 亮 一

同 冨 澤 武 志

同 旦 克 昌

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が不服2022-6605号事件について令和5年8月17日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。詳細は第4の1に譲る。)

(1) 原告は、令和2年8月27日、「奇跡のラカンカ」の文字を横書きしてなる商標(本願商標)について登録出願した(本件出願)。その指定商品(令和3年9月12日付け手続補正後のもの)は、第30類「ラカンカを加味した菓子(果物、野菜、豆類又はナッツを主原料とするものを除く。 、ラ)カンカを加味したコーヒー、ラカンカを加味した食用粉類、ラカンカを加味したパン、ラカンカを使用した調味料、ラカンカを加味した穀物の加工品、ラカンカを加味したぎょうざ、ラカンカを加味した紅茶、ラカンカを加味し

5 た茶」である。

(2) 原告は、令和4年1月25日付けで、本願商標が商標法3条1項3号(以下、商標法の条文を摘示するときは、条・項・号のみで表記する。)に該当することを理由に拒絶査定(原査定)を受けたため、同年4月29日、拒絶査定不服審判(本件審判)を請求した。特許庁は、上記請求を不服2022-6605号事件として審理を行い、令和5年8月17日、本願商標が3条1項6号に該当するとして、「本件審判の請求は、成り立たない。請求の趣旨中、『審判費用は特許庁の負担とする』との請求は、却下する。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同月31日原告に送達された。

(3) 原告は、令和5年10月2日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 本件審決の理由の要旨

(1) 本願商標の構成中の「奇跡」の文字は「常識では考えられない神秘的な出来事」等の意味を有する語であり、また、「ラカンカ」の文字は「中国に産するウリ科植物の一種の果実」の意味を有する語である「羅漢果」の文字を片仮名表記したものと容易に理解でき、本願商標は、全体として「常識では考えられない神秘的な羅漢果」程の意味合いを容易に認識させるものである。そして、「奇跡」の文字は「奇跡の○○」の形で、「常識では考えられないような○○」程の意味合いで広く一般に使用されており、また、飲食料品を取り扱う業界において、「奇跡」の文字が「奇跡の○○」の形で、商品そのものや商品の原材料の宣伝広告に使用されている。そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「常識では考えられないような羅漢果」程の意味合いを表示したものと認識するにすぎず、商品の原材料の宣伝広告に一般的に使用される語句を表したものと理解させるに止まり、何人かの業務に係る商品であることを表示したものと認識

5 することはないというのが相当である。したがって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であるから、3条1項6号に該当する。

(2) なお、原査定は、本願商標が3条1項3号に該当するものとして拒絶したものであるが、本願商標は、上記のとおり、自他商品の識別標識としての機能を有しないものとするものであるから、この当審の認定、判断の内容は、原査定と実質的に相違するものではない。

(3) 請求人の「審判費用は特許庁の負担とする」との請求については、拒絶査定不服審判に関する費用は請求人が負担する旨定められているから(56条1項で準用する特許法169条3項)、実定法上の根拠を欠く不適法な請求であり、却下すべきである。3 取消事由拒絶査定の理由と異なる拒絶理由(3条1項6号)により審判請求不成立とした本件審判の手続上の瑕疵

第3 取消事由に関する当事者の主張

1

(原告の主張)

(1) 原査定では、本願商標は「商品の品質」を普通に表示し、3条1項3号

に該当するとして拒絶査定がされ、原告はこれに対する後記(2)の不服理由を述べたにもかかわらず、本件審決では同拒絶理由を判断せず、本願商標が同項6号に該当するとして、本件審判の請求が成り立たないと判断しており、肩透かしの審決であって、審判手続に違法がある。出願人が請求したのは「拒絶査定不服審判請求」であり、「審査やり直し審判」ではない。

(2) 原査定においては、3号該当性を判断するに際し、「商品の品質等を表

示したものとして需要者、取引者によって一般に認識されるか否かを基準に判断するものと解されて」いるとするが、同号には「需要者・取引者」とか「認識」とかの言葉は書かれておらず、当該解釈は誤りである。

5 また、原査定は、本願商標に接する取引者、需要者は、本願商標全体か

ら「栄養素が豊富なラカンカ」程の意味合いを容易に理解し、これをその指定商品に使用しても、その商品が「栄養素が豊富なラカンカを使用した商品」であること、すなわち、商品の品質を表示したものと認識するにとどまるとするが、「品質」という言葉の意味をどのように解釈してそのように認識するのかについて説明がされていない。本願商標が表示しているのは、「奇跡のラカンカ」であり、「栄養素が豊富なラカンカ」ではない。2

(被告の主張)

(1) 本件審決の手続の適法性について

ア 本件審決は、本願商標について、拒絶査定(原査定)に係る拒絶理由である3条1項3号を含め拒絶理由の有無を審理した結果、同項6号に該当すると判断した。この点、拒絶査定に対する審判において拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には、商標登録出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならないが(55条の2第1項が準用する15条の2)、その趣旨に鑑みれば、55条の2第1項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由」に当たるか否かは、適用される法条が異なっているか否かも含め、理由の内容を実質的に検討して判断すべきである。その結果、拒絶査定と審決の判断内容が実質的に相違するものではなく、その審理の内容も同一といえるときは、査定の理由と異なる新たな拒絶の理由があったとはいえない。そして、3条1項は、商標登録の要件を定めたものであって、自己の業務に係る商品又は役務についての出所表示機能を欠くとする商標を列挙するものであるところ、その規定の体裁及び内容等からみて、同項1号~5号の規定は、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」とみなすものを例示的に列挙するも

5 のであり、同項6号の規定は、1号~5号において例示的に列挙された

もの以外に、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」と認められるものを総括的、概括的に規定しているものである。3条1項の趣旨に照らせば、1号~5号と、総括規定である6号とでは、その判断の内容において「商標が出所識別標識としての機能を有しない」という点で共通しており、実質的に相違するものではない。本件においても、原査定と本件審決は、いずれも本願商標をその指定商品に使用しても自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであって、3条1項所定の商標登録の要件を欠く商標に該当するという共通の結論を示したものといえ、両者はその判断の内容において実質的に相違するものではない。イ また、商標のうちには、本願商標が識別力を有しないこと自体は明白といえても、3条1項1号~5号に例示されたいずれの類型に分類することが最も適切かが必ずしも明らかではなく、複数の号に重複して適切に分類し得る商標があり得る。このような商標について、審査段階において同項各号の一を挙げ、もって例示とともに識別力欠如という不登録事由の本質的部分を拒絶理由としてひとたび通知をなしたにもかかわらず、後続の手続において、審査段階の拒絶理由通知において類型の例示として挙げられた号が例示として最適でなかったとの事後的な判断により拒絶理由通知が違法性を帯びるとした場合、例示の再選択が最適でなかったというにすぎない理由で手続の瑕疵を争い得ることになる。こうした事態に備え、審査の当初から出願人のあらゆる主張の可能性を想定して拒絶理由を通知するとすれば、実質は同一ないし極めて近い観点から多数の拒絶理由が別個の拒絶理由として列挙されることになり、拒絶理由相互の関係が不明確で複雑なものになり、取引実情の調査に時間がかか

5 る。そして、争点が不明確になることで出願人にとっても防御の観点か

ら不利益となる。ウ また、16条は、商標登録出願について拒絶理由を発見しないときは登録査定すべき旨を定めているが、同条が政令で定める期間の制限(1年6月。商標法施行令3条1項)を課した趣旨は、我が国がマドリッド協定議定書に加入したことにより、国際商標登録出願に当たっては領域指定の通報が行われた日から1年6月以内に拒絶理由が出願人に通知されることとなったことを受け、国内出願についても期間の限定を設けたところにある。そして、55条の2第2項は16条を準用し、拒絶査定に対する審判において、審判の請求に理由があるとする場合には登録審決すべき旨を定めるところ、審査の続審である拒絶査定に対する審判において、拒絶査定の理由と異なる拒絶理由がより適切なものであると考えた場合であってもその趣旨を及ぼすとすれば、商標登録出願の日から1年6月を経過した後は、審査段階で発見した拒絶理由とは異なる拒絶理由によって、請求を理由なしとする審決をすることはできないと思われる。また、商標登録出願の日から1年6月を経過した後は、審判段階でより適切と考えた拒絶理由を通知すること(55条の2第1項が準用する15条の2)もできないと解される。しかしながら、拒絶査定に対する審判の段階においては、実際上、大半の商標登録出願が政令で定める期間を経過しているから、同期間後に拒絶査定に対する審判においてより適切と考えた拒絶理由を発見した場合も含め、同期間内に拒絶理由を発見し得なければ16条の趣旨を及ぼして出願商標を登録しなければならないとすると、拒絶査定に対する審判において、審査の結論を維持しつつその理由中の瑕疵を治癒する手段が事実上ほぼないということに帰する。この場合、実体上は登録要件に適合しないことが明らかな商標についてもいわば自動的に登録を認めざる

5 を得ないという事態が一定数発生し、その不当性は明らかである。

そこで、特許庁の実務上は、上記アの解釈を前提に、審査段階において示された拒絶理由と審判段階でより適切と考えた拒絶理由とが共通の結論をなし、その内容において実質的に相違するものではない場合は、審判段階でより適切と考えた拒絶理由はそもそも実質的に新たな拒絶理由ではないものとしつつ、一方で、出願人に十分な反論の機会を与え、出願人にとって不測の事態とならないように、審尋を行っている。本件でも、原告は、令和3年8月5日付けの拒絶理由通知に対して、本願商標の3条1項3号該当性について意見書を提出する機会を与えられているし、本件審判手続においても、本件審決が新たな拒絶理由を示すものはないにもかかわらず、本願商標が同項6号に該当する旨の審尋(乙36、37)がされ、意見書を提出する機会を与えられている。そうすると、本件審決は、55条の2第1項において準用する15条の2に違反するものでもない。エ 以上からすると、原査定と本件審決は、その判断の内容において実質的に相違するものではなく、本件審決が新たな拒絶理由を示したものとはいえない。また、原告には意見書を提出する機会が与えられなかったものでもない。本件審決は44条1項の審判として内容的にも手続的にも何ら違法はない。

(2) 本願商標の3条1項6号該当性について

後記第4の2と同趣旨である。

第4 当裁判所の判断

1 本件手続経過の詳細前記第2の1の事実に後掲の証拠を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件出願(令和2年8月27日)に対し、特許庁審査官は、令和3年8月13日付けで拒絶理由を通知した(甲2)。その「適用条文」には3条1

5 項3号が掲げられ、同号(品質等表示)に該当する理由として、下記(3)の拒絶査定と同様の記載がされていた(なお、上記拒絶理由通知には、6条1項〔指定商品又は指定役務の表示が不明確〕の指摘も併記されていたが、この点に関しては、指定商品に係る誤記を訂正する同年9月12日付けの補正により問題は解消された。)。

(2) 原告は、上記拒絶理由通知所定の意見書提出期間内である令和3年9月13日付けで意見書(甲3、以下「本件意見書」という。)を提出した。本件意見書には、次のような意見が示されていた。すなわち、「奇跡」という言葉は、辞書によれば「常識では考えられない神秘的な出来事」などとされており、「奇跡のラカンカ」との商標は「常識では考えられない神秘的な果物:ラカンカ」という意味を表している。そのような意味を普通に用いられる方法で表示している標章なのであり、拒絶査定通知にいう「栄養素が豊富な果実:ラカンカ」の意味を普通に用いられる方法で表示している標章ではない、というものである。

(3) 特許庁審査官は、令和4年1月25日付けで本件出願に対する拒絶査定をした。その理由の要旨は、食品を取り扱う業界においては、栄養素が豊富な商品について、「奇跡の〇〇」(〇〇に食品名が入る)の語を用いて称している実情が認められることから、本願商標に接する取引者、需要者は、本願商標全体から「栄養素が豊富なラカンカ」程の意味合いを容易に理解し、これをその指定商品に使用しても商品の品質を表示したものと認識するにとどまるというのが相当であり、したがって、原告提出の本件意見書を踏まえても、本願商標が3条1項3号に該当するとした拒絶理由の認定は覆せないというものである(甲4)。

(4) 原告は令和4年4月29日付けで本件審判の請求をした。その請求の理由として掲げられているのは、上記第3の1(2)と同趣旨である(甲5)。なお、この時点で、本件出願から既に1年8か月が経過していた。

5 (5) 特許庁審判官は、令和5年5月30日付けで「審尋」と題する書面(乙37、以下「本件審尋書面」という。)を原告に送付した。本件審尋書面は、①本願商標は3条1項6号に該当する旨の合議体の判断及びその理由(本件審決の理由と同旨)を示すとともに、②原査定は同項3号に該当するとして本願を拒絶したが、同項6号に該当するとの理由も原査定の認定、判断と実質的に相違せず、新たな拒絶の理由に当たらないものであるとして、③意見があれば40日以内に回答書を提出するよう求めるものである。(6) 原告は、上記回答書提出期限経過の前後を通じて何らの反論も提出しなかったところ、特許庁審判官は、令和5年8月17日、前記第2の2のとおりの本件審決をした。

2 本件審判の手続上の瑕疵について(1) 15条の2は、特許庁審査官が拒絶査定をしようとするときは出願人に対し拒絶理由通知を行うことを必要的な手続として法定し、55条の2第1項は、拒絶査定不服審判において「査定の理由と異なる拒絶の理由」を発見した場合にこれを準用している。これらの規定は、拒絶理由について出願人・審判請求人に何らの弁明の機会が与えられないのは不公平であり、反論を通じて審査官・審判官に再考を求める機会を確保するのが適切であることから定められたものであり、特許法50条、159条2項等と同趣旨のものと理解される。本件において、拒絶の原査定及びこれに先立つ拒絶理由通知の根拠条文としては3条1項3号が掲げられていたのに対し、本件審決は同項6号を拒絶の理由としているが、本件審決に先立って新たな拒絶理由通知は行われていない(以上は争いがない。)。そこで、本件審決の理由が55条の2第1項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由」に当たるか否かを検討する必要がある。(2) 商標法は、商標登録出願に対して拒絶査定をすべき場合を15条各号に

5 おいて限定的に列挙し、法定の期間内に拒絶の理由を発見しないときは商標登録の査定をしなければならない旨を定める(16条)。このような商標法の構造に照らして、拒絶理由通知にいう「拒絶の理由」とは、商標法が定める具体的な登録拒絶事由(根拠条文)を示して、これに該当することの説明をするものと解すべきであり、根拠条文が異なれば、原則として、それのみをもって「異なる拒絶の理由」に当たるというべきである。この点、被告は、3条1項は出所表示機能を欠く商標を列挙するところ、例示的列挙である1号~5号による拒絶と総括規定である6号による拒絶とでは、判断内容が実質的に相違するものでないから、本件審決の理由と査定の理由は「異なる拒絶の理由」に当たらない旨主張している。しかし、3条1項各号の実定法上の意義としては、それぞれが独立した別個の登録拒絶事由を定めるものであり、同項6号の「前各号に掲げるもののほか」の文言からも明らかなように、同項6号と同項1号~5号との間に概念上の上下関係、包摂関係があるわけではない(参考までに、本来的な意味での例示列挙の立法例として、著作権法30条の4、同法47条の4第1項があるが、3条1項がこれらと異なることは明らかである。)。被告の上記主張は、3条1項の全体としての趣旨、各号の担う実質的な役割・機能を説明する文脈であれば、誤りとはいえないが、行政庁による公権力の行使(本件では商標登録出願の拒絶)は、具体的な根拠条文に基づいて行われるのが法治国家の基本であり、「拒絶の理由」の異同についても、拒絶の根拠条文が第一義的な基準になると考えるべきである。根拠条文の異なる拒絶について、その背景にある立法趣旨において共通性があるからといって、「異なる拒絶の理由」に当たらないなどということはできない。(3) 以上の原則を踏まえつつも、個別具体的な事情により、査定と審決とで拒絶の根拠条文は異なっても、両者の判断内容が実質的に同一(大が小を兼ねる関係を含む。)であり、改めて弁明の機会を付与する必要がないといえ

5 る特段の事情が認められる場合には、「異なる拒絶の理由」に当たらないと解釈する余地もあり得るので、以下、この点について検討する。本件において、原査定を不服として本件審判を請求した原告の立場で考えると、原査定で示された理由(上記1(3))を争うべく、「本願商標の『奇跡の』は『栄養素が豊富な』という意味を表すものではなく、したがって品質等表示(3条1項3号)に該当するものではない」という反論に注力するのが自然な対応と解される。現に原告は審判請求書でその趣旨を含む主張をしている一方、3条1項6号が適用される可能性まで視野に入れた主張はしていない。これに対し、本件審決の判断(上記第2の2)は、本願商標の「奇跡の」について、「常識では考えられないような」程の意味合いで理解されるとして、原査定と異なる前提に立って、同項6号に当たるとの判断をしている。これらは、大きな意味において、出所表示機能を欠く商標かどうかという議論として括れないわけではないが、議論の出発点となるべき「奇跡の」の意味するところの認定に変更が生じているため、出願人・審判請求人に求められる防御の対象及び範囲も大きく異なったものとなっている。そうすると、原査定と本件審決の理由を対比する限りにおいて、その判断内容が実質的に同一であるなどということはできず、改めて弁明の機会を付与する必要があったと考えざるを得ない。本件において、上記特段の事情は認められないというべきである。なお、本件において、本件審尋書面の送付により反論の機会が事実上付与されているという事情は認められるものの、原査定の理由と本件審決の理由が客観的に同一といえるかという議論とは次元の異なる問題であるから、手続上の違法が審決に結論に影響を及ぼすか否かの場面(後記3参照)で考慮されることは格別、「拒絶の理由」の異同に関する上記判断を左右するものではない。(4) 被告は、本件審判の手続を正当化する理由として、3条1項の適用上、

5 識別力を有しない商標であること自体は明らかであっても、同項のいずれの類型に分類することが適切か明らかでなく、複数の号に重複して分類し得る商標もあり得る点を挙げる。しかし、そのような問題があるとすれば、最初の拒絶理由通知・拒絶査定において、複数の根拠条文を掲げておけば(本件に即していえば「3条1項3号又は6号」など)足りることであり、「異なる拒絶の理由」に当たる場合を限定的に解釈すべき根拠となるものではない。なお、この点につき、被告はさらに、多数の拒絶理由を列挙することになり、拒絶理由相互の関係が不明確で複雑なものとなり、出願人にとっても防御の観点から不利益となるとも主張する。しかし、本件で問題となっている3条1項各号の選択に関していえば、合理的に適用が考えられる複数の号の組合せは限定的と解されるし、出願人の防御という観点からいっても、被告が主張するように3条1項各号の拒絶理由はどれも実質的に異ならないという前提での運用よりも、防御の範囲はむしろ明確になるといえる。以上のとおり、被告の上記各主張は失当である。

(5) 次に、被告は、拒絶査定に対する審判の段階においては、実際上、16条(商標法施行令3条1項)の期間を経過しているのが大半であるから、新たな拒絶理由通知が必要になるとすると、実体上は登録要件に適合しない商標の登録も自動的に認めざるを得なくなり、不当である旨主張する。仮に、被告が述べる上記のような実情が避け難いものだとすれば、拒絶理由通知の手続(15条の2)が審判手続について準用(55条の2第1項)される際に、16条所定の期間制限がどのように作用するのかを再検討することを含めた吟味が必要になると解されるが、それ以前の問題として、上記(4)で述べたように、最初の拒絶理由通知・拒絶査定において複数の根拠条文を掲げておくという実務上の運用による対応をまずは行うべきものであり、かつ、それで基本的に対処可能と考えられる。いずれにせよ、被告の上記主

5 張は、「今更新たな拒絶理由通知ができないから異なる拒絶の理由ではないと強弁する」というに等しいものであり、採用することはできない。

(6) 以上に述べたところをまとめると、原査定の理由と本件審決の理由は、そもそも拒絶の根拠条文が異なる上、両者の判断内容が実質的に同一で改めて弁明の機会を付与する必要がないといえる特段の事情も認められないから、両者は「異なる拒絶の理由」に当たると認めるのが相当である。そうすると、本来、55条の2第1項、15条の2所定の新たな拒絶理由通知が必要であったところ、この手続を履践することなく本件審決に進んだ本件審判の手続には瑕疵があるというべきである(仮に16条の期間制限のために新たな拒絶理由通知をすることが許されなかったという事情があるとしても、瑕疵があることに変わりはない。)。

3 審決の結論に影響すべき瑕疵といえるか審判手続に瑕疵(違法)があっても、それが審決の結論に影響を及ぼすようなものと認められない場合には、審決取消事由とはなり得ないと解される(手続上の違法に限らず、実体上の違法がある場合であっても、この理に変わりはない。)。そこでこの点を検討するに、本件審判手続においては、本件審尋書面が原告に送付され、本件審決の理由が事前に明らかにされ、曲がりなりにも弁明の機会が与えられていたということができる。もちろん、本件審尋書面の送付をもって法定の手続である拒絶理由通知と同視することはできず、適式な弁明の機会が付与されていたということはできないが、審決の理由について何らの予告のないまま、不意打ち的に判断が示された場合とは状況が大きく異なる。加えて、本件審尋書面及び本件審決で示された拒絶の理由は、原告が本件意見書中で主張していた内容(本願商標は「常識では考えられない神秘的な果物:ラカンカ」という意味を普通に用いられる方法で表示している標章であるとの趣旨)を逆手に取って、本願商標の意味するところについては原告の主張

5 を全面的に採用した上で、そのような意味に理解される本願商標は3条1項6

号に該当することになると切り返したものである。そして、当裁判所は、後記

で判断するとおり、取引者、需要者が理解・認識するであろう本願商標の意

味内容について原告が本件意見書で主張したところを前提とすれば、やはり3

条1項6号に該当することになると判断する。そうすると、仮に、原告に適式

な弁明の機会が付与されていたとしても、本件意見書で自ら主張していた内容

を覆すのでない限り有効な反論はなし得ないし、本件意見書と矛盾する内容と

なることを承知の上であえて反論をしたとしても、禁反言の原則に反する主張

又は合理的理由のない場当たり的な対応と受け止められる状況が容易に予想さ

れたところである。

本件における以上の事情を総合すれば、本件審判の手続に上記2で述べた瑕

疵はあるものの、その手続上の違法は、審決の結論に影響を及ぼすものではな

いと解するのが相当である。

よって、原告主張の取消事由は採用できない。

本願商標の3条1項6号該当性について

念のため、本願商標の3条1項6号該当性についても検討しておく。

本願商標は、「奇跡のラカンカ」の文字を横書きしてなるところ、その構成

中の「奇跡」や「ラカンカ」の文字の意味を一般に理解し得る意味(乙3~5)

として理解すれば、「ラカンカ」は中国に産するウリ科の植物「羅漢果」の片

仮名表記であり、本願商標は全体として「常識では考えられない神秘的な羅漢

果」程の意味合いを認識させるものである。以上は、原告自身が本件意見書の

中で主張しているとおりである。

そして、証拠(乙6~35)によれば、「奇跡」の文字は、「奇跡の果物」、

「奇跡の野菜」 「奇跡のブドウ」 「奇跡のイチゴ」などといったように、

、 、 「常

識では考えられないような」といった程度の意味合いで広く一般に使用されて

おり、飲食料品を取り扱う業界において商品ないしその原材料の宣伝広告に使

用されていることが認められる。

そうすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、

需要者は、商品の宣伝広告に一般に使用されるような「常識では考えられない

ような羅漢果」程の意味合いを表示したものと認識するにすぎず、何人かの業

務に係る商品であることを表示したものと認識することはないといえる。した

がって、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識する

ことができない商標であるから、3条1項6号に該当する。

結論

以上のとおり、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主

文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

宮 坂 昌 利

裁判官

岩 井 直 幸

裁判官

頼 晋 一

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第68回東北大学知財セミナー

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