令和5(ワ)70193発信者情報開示請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
東京地方裁判所東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
令和6年4月18日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
著作権
|
キーワード |
侵害23回 損害賠償2回 実施2回 分割1回
|
主文 |
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
|
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 著作権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
令和 6 年 4 月 18 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 5 年(ワ)第 70193 号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和 6 年 2 月 27 日
判 決
5 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
10 略語は別紙略語一覧表のとおり。
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
15 本件は、原告が、本件発信者らがファイル交換ソフトウェア「BitTorrent」を利用
したネットワークシステムを使用して本件各動画を自動公衆送信したことにより本
件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことは明らかであると主張
して、被告に対し、法 5 条 1 項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案であ
る。
20 2 前提事実(当事者間に争いのない事実、顕著な事実、掲記の各証拠(書証の番
号は特に断らない限り枝番号を含む。以下同じ。 及び弁論の全趣旨により容易に認
)
められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、動画の制作等を行う株式会社である。
25 イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式
会社であり、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(特
定電気通信)の用に供される電気通信設備(特定電気通信設備)を用いて他人の通
信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者(特定電気通信
役務提供者。法 2 条 3 号)であって、本件発信者情報を保有している。
(2) 本件各動画の著作権者
5 原告は、その発意に基づき、原告の業務に従事する者に対し、原告における職務
の履行として本件各動画の企画、制作等を行わせ、また、第三者認証機関との対応
を行い、本件各動画のパッケージに原告の名称を表示して、自己の著作の名義の下
に本件各動画を公表した。(甲 2 の 1~30、2 の 32~34、7、18)
したがって、原告は、本件各動画の著作者としてその著作権を有する。
10 (3) BitTorrent の仕組み等
BitTorrent とは、いわゆる P2P 形式のネットワークであり、その概要や使用の手順
は、次のとおりである。(甲 4~6、9)
ア BitTorrent により特定のファイルを配布する場合、まず、当該ファイルを小さ
なデータ(ピース)に細分化し、分割された個々のデータ(ピース)を BitTorrent ネ
15 ットワーク上のユーザー(ピア)に分散して共有させる。
イ BitTorrent を通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、
まず、その使用端末に BitTorrent に対応したクライアントソフト(以下、対応クラ
イアントソフトを含めて「BitTorrent」ということがある。)をインストールした上
で、
「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルの所在
20 等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロードして、これを BitTorrent に
読み込ませる。これにより、BitTorrent は、当該トレントファイルに記録されたトラ
ッカーサーバに接続し、当該特定のファイルの提供者のリストを要求する。トラッ
カーサーバは、ファイルの提供者を管理するサーバであり、ユーザーによる要求に
応じ、自身にアクセスしているファイル提供者の IP アドレスが記載されたリストを
25 ユーザーに返信する。
ウ リストを受け取ったユーザーは、当該ファイルのピースを持つ他の複数のユ
ーザーに接続し、それぞれから当該ピースのダウンロードを開始する。全てのピー
スのダウンロードが終了すると、自動的に元の 1 つの完全なファイルが復元される。
エ 完全な状態のファイルを持つユーザーは「シーダー」と呼ばれる。他方、目
的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ば
5 れるが、ダウンロードが完了して完全な状態のファイルを保有すると、当該ユーザ
ーは自動的にシーダーとなる。シーダーは、リーチャーからの求めに応じて、当該
ファイルの一部をアップロードしてリーチャーに提供する。また、リーチャーは、
目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、既に所持しているフ
ァイルの一部(ピース)を、他のリーチャーの求めに応じてアップロードする。す
10 なわち、リーチャーは、目的のファイルを自らダウンロードすると同時に、他のリ
ーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態に置かれる仕組みとな
っている。
(4) 本件調査
ア 原告は、本件訴訟提起に先立ち、本件調査会社に対し、BitTorrent を使用した
15 本件各動画の著作権侵害に係る調査(本件調査)を委託した。
イ 本件調査は、BitTorrent の開発・管理運営を行う会社が管理・運営する本件ク
ライアントソフトを使用して行われた。
本件クライアントソフトは、ダウンロードをするトレントファイルを検索し、
BitTorrent を使用しているピアの情報を表示する機能を有しており、本件クライアン
20 トソフトを利用することにより、ピースのダウンロード及びアップロードを行って
いるピアの IP アドレスを解明することが可能である。
本件調査の概要は、以下のとおりである。
すなわち、本件調査会社担当者は、インデックスサイトにおいて本件各動画に係
るファイルを検索して、トレントファイルをダウンロードし、端末にダウンロード
25 した当該トレントファイルをもとに、本件クライアントソフト上で本件各動画に係
るピースをダウンロードした。本件調査会社は、当該ダウンロード中に当該端末に
当該ピアの IP アドレスとして表示されている IP アドレスを確認し、スクリーンシ
ョットして保存した。
本件調査会社担当者は、本件発信者らの IP アドレスを確認し、ダウンロードした
ファイルの動画と本件各動画とを見比べてその同一性を確認した。
5 ウ 本件調査会社は、原告に対し、本件調査の結果、別紙発信者情報目録の「日
時」欄記載の各日時に本件各動画に係るファイルがアップロードされていること、
このアップロードの通信に本件 IP アドレスが使用されていることなどを報告した。
(以上につき、甲 1 の 1~30、1 の 32~34、5、8、9)
3 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以
10 下のとおりである。
(原告の主張)
(1) 本件調査会社は、本件調査によって、本件発信者らから本件各動画のピース
をダウンロードし、これを保有する本件発信者らが接続している IP アドレス、接続
日時等を特定した。また、本件調査会社担当者は、ダウンロードしたファイルの動
15 画と本件各動画とを見比べてその同一性を確認した。
したがって、本件発信者らは、本件調査会社の求めに応じて自動的に本件各動画
のピースを送信したといえる。このような行為は、原告の本件各動画に係る公衆送
信権侵害に当たる。
(2) 被告の主張について
20 ア 本件クライアントソフトは、BitTorrent を管理する会社が提供するソフトウェ
アであるから、BitTorrent を通して取得した情報を正確に利用者に提供しているとい
え、信頼できるものである。
イ 本件 IP アドレスの特定に関しては、「下り速度」と「上り速度」の記載がな
くともダウンロードは進行するから、その記載がなかったとしても、本件調査会社
25 がダウンロードできていなかったことにはならない。
ウ 一般的に、本件発信者らによる送信時点で保有しているファイルの保有率が
低い場合にも、動画として再生することは可能である。また、BitTorrent 等のファイ
ル交換ソフトにおいてはある時点までに移転したピースが結合されて一連の動画と
して閲覧することが可能となるところ、本件発信者らによる通信がされた時点で本
件各動画のうちのどの部分であるか確認することはできない。そうである以上、本
5 件発信者らによる通信の時点で侵害の事実が認められれば、動画ファイルのうちど
の部分であるかなどといった点までの立証は不要とするのが合理的である。
(被告の主張)
不知ないし争う。
(1) 本件クライアントソフトは特定方法等の信頼性が認められたシステムでは
10 ないから、これを利用した本件調査は信用性を欠く。
(2) 原告の立証は、以下の点で不十分である。
ア 本件 IP アドレスの特定に関し
(ア) 本件調査において把握される通信としては、本件発信者らと本件調査会社、
すなわちピア間の通信に限っても、BitTorrent 上で相手方がピアであることを確認す
15 る「HAND SHAKE」、接続の完了を通知する「ACK」、互いが対象ファイルのどの部
分を所持しているのかを確認する「BITFIELD」、自分が当該ファイルに興味を持っ
ていることを通知する「INTERESTED」、これに対して、相手方が当該ファイルをア
ップロード可能であることを通知する「UNCHOKE」、ダウンロードする側がアップ
ロードを要求する「REQUEST」、これに応じて実際にピースを送信する「PIECE
20 (DOWNLOAD)」といった複数の通信がある。このため、適当な時刻に本件調査会
社担当者の端末に表示された本件 IP アドレスをもって、本件各動画ファイルの全部
又は一部をダウンロードした時の通信(「PIECE(DOWNLOAD) )に当たるという
」
ことはできない。
(イ) 本件調査時のキャプチャー画面には、基本的に、本件動画ファイルのダウン
25 ロードやアップロードの進行を示す表示である「下り速度」と「上り速度」の表示
がない。このため、同画面は本件各動画のファイルの全部又は一部をダウンロード
した時の通信を示すものではないことがうかがわれる。
イ 公衆送信権侵害に関し
本件発信者らの送信により本件各動画ファイルのピースが送信されたとしても、
これにより公衆送信権が侵害されたといえるためには、当該ピースにより本件各動
5 画の表現の本質的特徴が感得できる必要がある。
しかし、ファイルを細分化したピースを転送し合うという BitTorrent の仕組みに
よれば、本件発信者らから送信された 1 つのピースから本件各動画の表現の本質的
特徴を直接感得できる映像を再生できない可能性がある。また、本件調査において
本件調査会社担当者は本件各動画と本件侵害動画との同一性を確認したというが、
10 本件調査は BitTorrent ネットワークを介して様々なピアからピースをダウンロード
するものであり、本件発信者らに係るピアからのみピースをダウンロードしたとは
限らない。
したがって、本件発信者らによる自動公衆送信権侵害があったとはいえない。
第3 当裁判所の判断
15 1 争点(権利侵害の明白性)について
(1) BitTorrent 及び本件クライアントソフトの仕組み並びに本件調査の方法ない
し内容(前提事実(3)、(4))を踏まえると、本件発信者らは、その端末に BitTorrent
をインストールし、本件各動画のファイルに係るピースをダウンロードすると共に
当該ピースを不特定の者からの求めに応じて BitTorrent ネットワークを介して自動
20 的に送信し得るようにし、被告から本件 IP アドレスの割当を受けてインターネット
に接続された状態の下、別紙発信者情報目録の「日時」欄記載の各日時において、
本件調査会社の求めに応じ、自動的に本件各動画のファイルのピースをアップロー
ドしたことが認められる。
そうすると、本件各動画に係るファイル(ピース)は、本件 IP アドレスが割り当
25 てられた本件発信者らにより、公衆からの求めに応じて自動的に公衆送信されたも
のといえる。すなわち、本件発信者らは本件各動画に係るデータを自動公衆送信し
たものであり、これにより、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害
されたことは明らかである(法 5 条 1 項 1 号)。
(2) 被告の主張について
ア 被告は、本件調査について、本件クライアントソフトがいわゆる認証ソフト
5 ウェアでないこと、
「下り速度」及び「上り速度」が表示されていないことを指摘し
て、本件調査は信用できない旨や、本件発信者らの送信に係る 1 つのピースからで
は本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得することができる映像を再生できない
可能性があるから、公衆送信権侵害があったとはいえない旨を主張する。
イ しかし、本件クライアントソフトは、BitTorrent の開発・管理運営を行う会社
10 により管理・運営されており、BitTorrent プロトコル定義で設定されたガイドライン
を遵守したものである(前提事実(4)イ、甲 9)。また、BitTorrent の仕組みに照らす
と、本件クライアントソフトにおいて対象となるファイルのピースのダウンロード
及びアップロードを行っているピアの IP アドレスを正確に取得・表示するものでな
ければクライアントソフトとして十分な機能を果たし得ないと解される。
15 また、証拠(甲 1 の 1~30、1 の 32~34、14、23)によれば、一般的に、クライ
アント側のダウンロード速度である「下り速度」及びアップロード速度である「上
り速度」の表示がなくとも、BitTorrent を介したファイルのダウンロードが進むこと
が確認されている。さらに、本件調査においても、本件発信者らによる通信につき、
それぞれ、「ダウンロード中 94.4%」(甲 1 の 1)「
、[強制]ダウンロード中 94.4%」
20 (甲 1 の 27)などの表示にみられるように、自動又は手動により当該ファイルのダ
ウンロードが進んでいる状態が示されており、その後、本件侵害動画のファイルの
ダウンロードが完了したことが認められる。
その他本件クライアントソフトや本件調査の信用性を疑わせるに足りる具体的な
事情は見当たらない。
25 ウ また、前提事実(4)のとおり、本件調査会社担当者は、本件調査に際し、本件
発信者らの IP アドレスを確認すると共に、ダウンロードしたファイルの動画と本件
各動画とを見比べてその同一性を確認している。さらに、証拠(甲 7、 によれば、
8)
本件侵害動画と本件各動画には複数の同一シーンが含まれていることが認められる。
このため、本件侵害動画は少なくとも本件各動画の一部であり、前者は後者を複製
したものであることがうかがわれる。加えて、ダウンロード中であって保有率が相
5 当少ない場合にも当該ファイルの動画を再生できること及び本件侵害動画が再生で
きることが確認されている(前提事実(4)イ、甲 27)。そうすると、本件発信者らが
送信し、本件調査会社担当者がダウンロードした本件侵害動画のファイル(ピース)
は、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得し得る程度に再生可能であったもの
とみられる。
10 エ 以上より、この点に関する被告の主張はいずれも採用できない。
2 その他の要件について
上記のとおり、本件発信者らによる本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)
侵害が認められるところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者らに対する
不法行為に基づく損害賠償請求等の権利行使を予定していることが認められるから、
15 原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法 5 条 1 項 2 号)が認
められる。
以上より、原告は、被告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有する。
第4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれらをいずれも認容することと
20 して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第 47 部
裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官久野雄平及び同吉野弘子はいずれも差支えのため、署名押印できない。
裁判長裁判官
5 杉 浦 正 樹
(別紙)
当 事 者 目 録
原 告 グラフィティジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士 杉 山 央
被 告
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 五 島 丈 裕
(別紙)
発信者情報目録
以下の日時に以下の IP アドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の
次の情報
5 (1) 1、2、4、7、10~26、29、30 番の契約者
氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
(2) 3、5、6、8、9、27、28、32~34 番の契約者
氏名又は名称、住所、電話番号
(以下省略)
(別紙侵害著作物目録 省略)
(別紙)
略 語 一 覧 表
本件発信者ら 本件侵害動画をアップロードした氏名不詳者ら
本件各動画 別紙侵害著作物目録記載の各動画の総称
法 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限
及び発信者情報の開示に関する法律
本件発信者情報 別紙発信者情報目録記載の発信者情報
本件調査会社 本件調査を実施した調査会社
本件調査 本件調査会社の実施した BitTorrent を利用した
本件各動画の著作権侵害に係る調査
本件クライアントソフト 「µtorrent」と称するクライアントソフト
本件 IP アドレス 別紙発信者情報目録の「IP アドレス」欄記載
の各 IP アドレス
本件侵害動画 本件調査会社が本件発信者らからダウンロード
した本件各動画に係る動画ファイル
最新の判決一覧に戻る