令和5(行ケ)10098審決取消請求事件
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裁判所 |
知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和6年5月14日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告ザプロクターアンドギャンブルカンパニー 被告ライオン株式会社
|
対象物 |
衣料用洗浄剤組成物 |
法令 |
特許権
特許法29条2項5回 特許法29条1項3号2回 特許法36条6項1回
|
キーワード |
実施78回 審決30回 無効15回 進歩性12回 新規性4回 特許権1回 無効審判1回
|
主文 |
1 特許庁が無効2022-800049号事件について令和5年4
3ないし5に係る部分を取り消す。25
2 訴訟費用は、被告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等5
⑴ 被告は、出願日を平成28年9月5日とし(以下「本件出願日」という。)、
発明の名称を「衣料用洗浄剤組成物」とする発明について特許出願(特願2
016-172763号)をし、令和2年6月17日、特許権の設定登録(特
許第6718777号。請求項の数6。以下、この特許を「本件特許」とい
い、本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)を受けた。(甲7)10
⑵ 本件特許に対し、令和3年1月8日に特許異議の申立てがされ(異議20
21-700022号)、同年4月20日付けで取消理由が通知された。被
告は、同年6月18日、意見書を提出するとともに、特許請求の範囲の訂正
請求をした。特許庁は、同年10月27日、上記訂正を認め、請求項1ない
し6に係る特許を維持する旨の異議決定をした。(甲8、9)15
⑶ 原告は、令和4年6月8日、本件特許(上記⑵の異議事件において認めら
れた訂正後の請求項1ないし6)につき、無効審判請求をした(無効202
2-800049号事件。以下「本件審判」という。)。被告は、同年8月
25日、審判事件答弁書を提出するとともに、特許請求の範囲の訂正請求を |
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判決文
令和6年5月14日判決言渡
令和5年(行ケ)第10098号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年3月12日
判 決
原 告 ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー
同訴訟代理人弁護士 宮 嶋 学
10 同 高 田 泰 彦
同 柏 延 之
同 二 枝 翔 司
同訴訟代理人弁理士 反 町 洋
同 小 島 一 真
被 告 ラ イ オ ン 株 式 会 社
同訴訟代理人弁理士 服 部 智
同 川 越 雄 一 郎
20 同 内 田 洋 平
同訴訟代理人弁護士 三 縄 隆
主 文
1 特許庁が無効2022-800049号事件について令和5年4
月20日にした審決のうち、特許第6718777号の請求項1及び
25 3ないし5に係る部分を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
5 1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 被告は、出願日を平成28年9月5日とし(以下「本件出願日」という。 、
)
発明の名称を「衣料用洗浄剤組成物」とする発明について特許出願(特願2
016-172763号)をし、令和2年6月17日、特許権の設定登録(特
許第6718777号。請求項の数6。以下、この特許を「本件特許」とい
10 い、本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)を受けた。(甲7)
⑵ 本件特許に対し、令和3年1月8日に特許異議の申立てがされ(異議20
21-700022号)、同年4月20日付けで取消理由が通知された。被
告は、同年6月18日、意見書を提出するとともに、特許請求の範囲の訂正
請求をした。特許庁は、同年10月27日、上記訂正を認め、請求項1ない
15 し6に係る特許を維持する旨の異議決定をした。(甲8、9)
⑶ 原告は、令和4年6月8日、本件特許(上記⑵の異議事件において認めら
れた訂正後の請求項1ないし6)につき、無効審判請求をした(無効202
2-800049号事件。以下「本件審判」という。)。被告は、同年8月
25日、審判事件答弁書を提出するとともに、特許請求の範囲の訂正請求を
20 した(以下「本件訂正」という。)。上記⑵の異議事件において認められた
訂正後の請求項1ないし6のうち、請求項2及び6は本件訂正により削除さ
れた。(甲21~23)
⑷ 特許庁は、令和5年4月20日、本件訂正を認めた上で、「特許第671
8777号の請求項2、6に係る発明についての本件審判の請求を却下する。
25 特許第6718777号の請求項1、3~5に係る発明についての本件審判
の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、
その謄本は、同年5月9日、原告に送達された(付加期間90日)。
⑸ 原告は、令和5年9月1日、本件審決のうち、本件特許の請求項1及び3
ないし5に係る部分の取消しを求めて本件訴えを提起した。
2 特許請求の範囲の記載
5 本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(下線部は本件訂
正による訂正部分である。以下、本件訂正後の請求項1、3ないし5に記載の
各発明をそれぞれ「本件発明1」「本件発明3」ないし「本件発明5」といい、
、
これらを併せて「本件各発明」という。。
) (甲23)
【請求項1】
10 (A)成分:アニオン界面活性剤(但し、炭素数10~20の脂肪酸塩を除く)
と、
(B)成分:4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテルを含む
フェノール型抗菌剤と、
(C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボン酸型キレ
15 ート剤0.02~1.5質量%と、
(G)成分としてノニオン界面活性剤を含み、
(G)成分の含有量が、衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、20~40質量%
であり、
(G)成分が、
20 下記一般式(I)又は(II)で表される少なくとも1種であり、
R2-C(=O)O-[(EO)s/(PO)t ]-(EO)u -R 3 ・・・(I)
R4-O-[(EO) v/(PO) w ]-(EO) x -H ・・・(II)
(式(I)中、R 2は炭素数7~22の炭化水素基であり、R 3 は炭素数1~6
のアルキル基であり、sはEOの平均繰り返し数を表し、6~20の数であり、
25 tはPOの平均繰り返し数を表し、0~6の数であり、uはEOの平均繰り返
し数を表し、0~20の数であり、EOはオキシエチレン基を表し、POはオ
キシプロピレン基を表す。
式(II)中、R 4は炭素数12及び14の天然アルコール由来の炭化水素であ
り、v、xは、それぞれ独立にEOの平均繰り返し数を表す数で、v+xは3
~20であり、POはオキシプロピレン基を表し、wはPOの平均繰り返し数
5 を表し、wは0~6である。)
(A)成分/(C)成分で表される質量比(A/C比)が10~100である
衣料用洗浄剤組成物(但し、クエン酸二水素銀を含有する組成物を除く)。
【化1】
10 式(c1)中、Aは、それぞれ独立してH、OHまたはCOOMであり、M
は、それぞれ独立してH、Na、K、NH 4 またはアルカノールアミンであり、
nは0~5の整数である。
【請求項3】
さらに(D)成分:酵素を含む、請求項1に記載の衣料用洗浄剤組成物。
15 【請求項4】
(B)成分/(C)成分で表される質量比が0.02~1である、請求項1又
は3に記載の衣料用洗浄剤組成物。
【請求項5】
前記(B)成分の含有量が、衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、0.2~1
20 質量%である、請求項1、 4のいずれか一項に記載の衣料用洗浄剤組成物。
3、 」
3 本件審判で主張された無効理由
原告は、本件審判において、次の無効理由を主張した。なお、原告は、本件
訂正により削除される前の請求項2及び6についても同一の無効理由を主張し
ていたが、以下、本件各発明(本件訂正後の請求項1、3ないし5)に対する
主張の範囲で摘示する。
⑴ 無効理由1(新規性の欠如)
本件 各 発明 は 、 甲1 (IP.com, Biocidal Compositions containing 4,4’-
5 dichloro 2-hydroxy diphenylether (DCPP), The IP.com Journal,
IPCOM000213522D, 2011年(平成23年)12月20日)に記載され
た発明であるから、特許法29条1項3号の発明に該当し、特許を受けるこ
とができない。よって、本件各発明に係る特許は、同法123条1項2号に
該当し、無効とすべきである。
10 ⑵ 無効理由2(進歩性の欠如)
本件各発明は、甲1に記載された発明及び甲2ないし6の記載に基づい
て、出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法
29条2項の規定により特許を受けることができない。よって、本件各発明
に係る特許は、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
15 ⑶ 無効理由3(サポート要件違反)
「(E)成分:硫酸亜鉛一水和物」の存在が特定されておらず、また、(C)
成分が「C-1:メチルグリシン二酢酸三ナトリウム(MGDA)」にまで
特定されていない本件各発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認
識できるように記載された範囲を超えるものである。
20 したがって、本件各発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項
1号に規定する要件を満たしておらず、本件各発明に係る特許は、同法12
3条1項4号に該当し、無効とすべきである。
4 本件審決の理由等
本件審決の理由は、別紙1審決書(写し)記載のとおりであり、原告の主張
25 に対する判断の要旨は次のとおりである。
⑴ 無効理由1及び無効理由2について
ア 甲1に記載された発明
甲1は、4,4’-ジクロロ2-ヒドロキシジフェニルエーテル(DC
PP)を含有する抗菌組成物について開示されたものであり、処方LIに
係る抗菌性液体洗濯洗剤として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が
5 記載されていると認められる。
「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)であるNaLASが8~
17wt%、
R-(OCH 2CH 2 ) n OH(RはC12からC15のアルキル鎖、n=
7)であるNI(7EO)が5~25wt%、
10 C 12-C 18のアルキルポリエトキシレート(3.0)硫酸塩であるSLE
S(3EO)が4~15wt%、
石鹸が0.5~7wt%、
クエン酸が0.1~3wt%、
グリセロールが1~8wt%、
15 プロピレングリコールが0.5~8wt%、
塩化ナトリウムが0~4wt%、
トリエタノールアミンが0.5~5wt%、
香料が0.01~1wt%、
プロテアーゼが0.001~0.01wt%、
20 アミラーゼが0.001~0.01wt%、
リパーゼが0.001~0.01wt%、
蛍光増白剤が0.02~0.5wt%、
4,4’-ジクロロ2-ヒドロキシジフェニルエーテルであるDCPPが0.
01~0.5wt%、
25 クメンスルホン酸塩ナトリウムが0wt%、
MGDA(Trilon (R) M)が0.1~5wt%、
フェノキシエタノールが0wt%、
水/不純物/微量成分が残部からなる、
抗菌性液体洗濯洗剤。」
イ 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点
5 〔一致点〕
「(A)成分:アニオン界面活性剤(但し、炭素数10~20の脂肪酸塩を
除く)と、
(B)成分:4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテルを含
むフェノール型抗菌剤と、
10 (C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボン酸型
キレート剤と、
ノニオン界面活性剤を含む、
衣料用洗浄剤組成物(但し、クエン酸二水素銀を含有する組成物を除く)。
【化1】
式(c1)中、Aは、それぞれ独立してH、OHまたはCOOMであり、
Mは、それぞれ独立してH、Na、K、NH 4またはアルカノールアミンで
あり、nは0~5の整数である。」
〔相違点1〕
20 本件発明1では、 (C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含む
「
アミノカルボン酸型キレート剤」の含有量が「0.02~1.5質量%」
であるのに対し、甲1発明では、当該成分に相当する「MGDA(Tri
lon (R) M)」の含有量が「0.1~5wt%」である点。
〔相違点2〕
本件発明1では、「ノニオン界面活性剤」である「(G)成分が、
下記一般式(I)又は(II)で表される少なくとも1種であり、
R 2 -C(=O)O-[(EO)s/(PO)t ]-(EO)u -R3 ・・・
5 (I)
R 4 -O-[(EO) v /(PO) w ]-(EO) x-H ・・・(II)
(式(I)中、R 2は炭素数7~22の炭化水素基であり、R 3 は炭素数1
~6のアルキル基であり、sはEOの平均繰り返し数を表し、6~20の
数であり、tはPOの平均繰り返し数を表し、0~6の数であり、uはE
10 Oの平均繰り返し数を表し、0~20の数であり、EOはオキシエチレン
基を表し、POはオキシプロピレン基を表す。
式(II)中、R 4は炭素数12及び14の天然アルコール由来の炭化水素
であり、v、xは、それぞれ独立にEOの平均繰り返し数を表す数で、v
+xは3~20であり、POはオキシプロピレン基を表し、wはPOの平
15 均繰り返し数を表し、wは0~6である。」「
) 、(G)成分の含有量が、衣料
用洗浄剤組成物の総質量に対し、20~40質量%であ」るのに対し、甲
1発明では、
「ノニオン界面活性剤」が「R-(OCH 2 CH 2 )n OH(R
はC12からC15のアルキル鎖、n=7)であるNI(7EO) であり、
」
その含有量が「5~25wt%」である点。
20 〔相違点3〕
本件発明1では、(A)成分/(C)成分で表される質量比(A/C比)
「
が10~100である」のに対し、甲1発明では、 (A)成分」に相当す
「
る「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)であるNaLAS」、
「C
12 -C 18 のアルキルポリエトキシレート(3.0)硫酸塩であるSLES
25 (3EO)」及び「クメンスルホン酸塩ナトリウム」の合計含有量が(8+
4+0)~(17+15+0)wt%すなわち「12~32wt%」であ
り、(C)成分」に相当する「MGDA(Trilon(R)
「 M)」の含有
量が「0.1~5wt%」である点。
ウ 相違点についての判断
(ア) 相違点2について
5 a 化合物種の違いについて
甲14(本件審判における乙2)の記載より、天然アルコールは偶
数の炭素からなる直鎖の炭化水素基を有するのに対し、合成アルコー
ル(エチレンを原料とするチーグラー法で得られたものを除く)は奇
数あるいは分枝のアルキル基を含むことが把握できる。
10 「R 4 は炭素数12及び
本件発明1における式(II)の化合物は、
14の天然アルコール由来の炭化水素であ」るから、 4 の炭素数が奇
R
数(例えば13や15)の場合や、R 4 が分枝のアルキル基の場合は除
外されているといえる。
一方、甲15及び16(本件審判における乙3及び4)の記載より、
15 甲1発明の「R-(OCH 2CH 2)n OH(RはC12からC15のア
ルキル鎖、n=7)であるNI(7EO)」は、Neodol(登録商
標)25-7(Shell Chemicals)であり、アルキル
鎖Rの炭素数分布はC 12 が21%、C 13 が29%、C 14 が25%、C
15 が25%と推認される。また、アルキル鎖Rは直鎖に限らず、分枝
20 を有するものも含まれていると推認される。
そうすると、本件発明1における式(II)の化合物と、甲1発明
の「R-(OCH 2 CH 2 ) n OH(RはC12からC15のアルキル
鎖、n=7)であるNI(7EO)」は、R 4 の炭素数が偶数の12及
び14のみで構成されるか、奇数の13及び15をも含んで構成され
25 るかという点、 4 が直鎖のみで構成されるか、
R 分枝を有するものをも
含んで構成されるかという点で相違しており、これらは実質的な相違
点である。
そして、 4は炭素数12及び14の天然アルコール由来の炭化水
「R
素であ」る点を含め、
「ノニオン界面活性剤」が本件発明1にいう「一
般式(I)又は(II)で表される少なくとも1種であ」ることは、
5 甲1に記載がなく、甲2ないし6にも記載されていない。
したがって、甲1発明において、
「ノニオン界面活性剤」 「R-
を (O
CH2CH2)nOH(RはC12からC15のアルキル鎖、n=7)で
あるNI(7EO) から本件発明1にいう
」 「一般式(I)又は(II)
で表される少なくとも1種」に代えることは、当業者が容易になし得
10 ることではない。
b 含有量の違いについて
本件発明1における「ノニオン界面活性剤」である「(G)成分」の
含有量(衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、20~40質量%)と、
甲1発明における「ノニオン界面活性剤」である「R-(OCH 2CH
15 2 )n OH(RはC12からC15のアルキル鎖、n=7)であるNI
(7EO)」の含有量(5~25wt%)は、少なくとも20~25質
量%の範囲で一部重複するが、後者の数値範囲は、前者の数値範囲に
完全に包含されるものではなく、前者の含有量を必ず充足するとはい
えないため、当該含有量は、実質的な相違点である。
20 また、甲1発明の「R-(OCH 2CH 2)n OH(RはC12からC
15のアルキル鎖、n=7)であるNI(7EO)」のうち、アルキル
鎖Rの炭素数が12又は14であるものは21+25=46%であり、
残る54%は炭素数が13又は15と解される。そうすると、甲1発
明において、本件発明1の式(II)の化合物に相当する化合物の含
25 有量は、炭素数に着目しただけでも(5×46/100)~(25×
46/100)wt%すなわち2.3~11.5wt%となり、天然
アルコール由来とはいえない分枝を有するものを差し引けば、その含
有量はさらに少なくなるため、本件発明1で規定される含有量(衣料
用洗浄剤組成物の総質量に対し、20~40質量%)と全く重複せず、
明らかに相違点である。
5 そして、
「ノニオン界面活性剤」である「(G)成分」の含有量が「衣
料用洗浄剤組成物の総質量に対し、20~40質量%であ」ることは、
甲1に記載がなく、甲2ないし6にも記載されていない。
したがって、
「ノニオン界面活性剤」たる「R-(OCH 2 CH 2 )n
OH(RはC12からC15のアルキル鎖、n=7)であるNI(7
10 EO)」の含有量が「5~25wt%」である甲1発明において、「ノ
ニオン界面活性剤」たる「(G)成分」の含有量を「衣料用洗浄剤組成
物の総質量に対し、20~40質量%」に変更することは、当業者が
容易になし得ることではない。
(イ) 相違点3について
15 甲1発明では、 (A)成分」に相当する「直鎖アルキルベンゼンスル
「
ホン酸塩(LAS)であるNaLAS」「C 12-C 18 のアルキルポリエ
、
トキシレート(3.0)硫酸塩であるSLES(3EO)」及び「クメン
スルホン酸塩ナトリウム」の合計含有量が(8+4+0)~(17+1
5+0)wt%すなわち「12~32wt%」であり、 (C)成分」に
「
20 相当する「MGDA(Trilon(R) M)」の含有量が「0.1~5
wt%」であるから、 (A)成分/(C)成分で表される質量比(A/
「
C比) は最小で12/5=2. 最大で32/0.
」 4、 1=320となり、
本件発明1で規定される数値範囲(10~100)と重複する。しかし、
この2.4ないし320という数値範囲は、本件発明1で規定される数
25 値範囲(10~100)に包含されない数値範囲(2.4以上10未満
及び100超320以下)も含んでおり、本件発明1で規定される数値
範囲(10~100)を必ず充足するとはいえないため、A/Cの質量
比は、実質的な相違点である。
そして、 (A)成分/(C)成分で表される質量比(A/C比)が1
「
0~100である」ことは、甲1に記載がなく、甲2ないし6にも記載
5 されていない。
したがって、 (A)成分/(C)成分で表される質量比(A/C比)
「 」
のとり得る値が最小で2.4、最大で320である甲1発明において、
その質量比を「10~100」とさらに限定することは、当業者が容易
になし得ることではない。
10 (ウ) 相違点1について
本件発明1における「(C)成分:下記式(c1)で表される化合物を
含むアミノカルボン酸型キレート剤」の含有量(0.02~1.5質量%)
と、甲1発明における「MGDA(Trilon(R) M) の含有量
」 (0.
1~5wt%)は、少なくとも0.1~1.5質量%の範囲で一部重複
15 するが、後者の数値範囲は、前者の数値範囲に完全に包含されるもので
はなく、前者の含有量を必ず充足するとはいえないため、当該含有量は、
実質的な相違点である。
そして、 (C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含むアミノ
「
カルボン酸型キレート剤」の含有量が「0.02~1.5質量%」であ
20 ることは、甲1に記載がなく、甲2ないし6にも記載されていない。
したがって、本件発明1の「(C)成分」に相当する「MGDA(Tr
ilon(R) M)」の含有量が「0.1~5wt%」である甲1発明に
おいて、その含有量を「0.02~1.5質量%」に変更することは、
当業者が容易になし得ることではない。
25 エ 結論
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明ではないから、特許法29条1
項3号の発明に該当せず、また、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし
6の記載に基づいて、出願前に当業者が容易に発明することができたもの
ではないから、同条2項の規定により特許を受けることができない発明に
は当たらない。
5 本件発明3ないし5は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さらに
特定事項を加えたものであるから、本件発明1と同様である。
⑵ 無効理由3について
本件各発明の課題は、本件明細書の段落【0004】の記載より、
「衣類が
湿った状態で菌が増殖しやすい環境においても、十分な防臭効果が得られ、
10 防臭効果に優れる衣料用洗浄剤組成物を提供すること」と認められる。
そして、本件明細書に記載された、本件発明1で規定される組成を充足す
る衣料用洗浄剤組成物である実施例と、上記組成を充足しない衣料用洗浄剤
組成物である比較例とを用いた防臭効果の評価の結果によれば、当業者は、
(A)成分、
(B)成分及び(C)成分を少なくとも含有することで、上記課
15 題が解決できる一方、
(A)成分、
(B)成分、
(C)成分のうち少なくともい
ずれかの成分を含有しなければ、上記課題が解決できないことを十分認識す
ることができた。
上記実施例で使用される(C)成分は、式(c1)のAがH、MがNa、
nが0の化合物、すなわちメチルグリシン二酢酸三ナトリウム(MGDA)
20 に限られているが、当業者であれば、A、M、nに関し他の選択肢を組み合
わせた化合物を(C)成分とした場合でも、上記実施例と同様又は類似の防
臭効果が得られ、上記課題が解決できることを認識できるといえる。
したがって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された
範囲を超えているとはいえない。また、本件発明3ないし5は、本件発明1
25 を直接又は間接的に引用し、さらに特定事項を加えたものであるから、本件
発明1と同様である。
5 原告の主張する本件審決の取消事由
⑴ 取消事由1
本件各発明の甲1発明に対する新規性の判断の誤り
⑵ 取消事由2
5 本件各発明の甲1発明に対する進歩性の判断の誤り
⑶ 取消事由3
本件各発明のサポート要件違反の有無に関する判断の誤り
第3 当事者の主張
1 取消事由1(本件各発明の甲1発明に対する新規性の判断の誤り)について
10 〔原告の主張〕
次のとおり、本件審決が認定した本件発明1と甲1発明との相違点は、いず
れも形式的な相違点であって、実質的な相違点ではないから、本件発明1は甲
1発明と同一の発明である。
⑴ 相違点2について
15 甲1発明の「R-(OCH 2CH2 )n OH(RはC12からC15のアルキ
ル鎖、n=7)であるNI(7EO)」に関し、ここでのNIは、ノニオン(非
イオン)を表す「Non-Ionic」を意味するものであり、特定の原料
や関連する商品名を意味するものではない。本件審決は、甲15及び16を
根拠として、甲1発明のNI(7EO)がNeodol25-7であると判
20 断し、これを前提に相違点2が実質的な相違点であるとの結論を導いている
が、上記判断は誤りであって、NI(7EO)は、アルキル基がC12から
C15の範囲であり、EOの付加数の平均値が7程度のアルコールエトキシ
レートであれば、いずれも使用可能であるものという趣旨と考えるのが合理
的である。
25 そして、アルキル基のC12ないしC15という数値範囲は、AE(アル
コールエトキシレート)のアルキル基として洗剤などの分野で汎用されてい
る数値を記載したものにすぎず、必ずしもC12ないしC15全てのアルキ
ル基が存在しなければならないことを意味するものではない。従前から、C
12ないしC15として、天然由来のアルコール(炭素数12及び14の直
鎖アルコール)が用いられており、昨今においては、石油由来の高級アルコ
5 ール(分岐アルコール)と天然油脂由来の高級アルコール(直鎖アルコール)
との価格差が小さくなっていることなども相まって、特に天然由来のアルコ
ールの割合が増えている。
以上によれば、甲1発明のNI(7EO)について、そのアルキル鎖(R)
には天然由来のアルコール(炭素数12及び14の直鎖アルコール)である
10 ものも含まれるから、本件発明1に規定する「式(II)中、R 4 は炭素数1
2及び14の天然アルコール由来の炭化水素であり」という構成は、甲1発
明の「RはC12からC15のアルキル鎖」に包含される関係にあるから、
この点は両発明の相違点に該当しない。
また、NI(7EO)の配合量についても、20ないし25質量%の範囲
15 で重複している。
したがって、相違点2は形式的な相違点にすぎず、実質的な相違点に該当
しない。
⑵ 相違点1について
本件発明1における「(C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含む
20 アミノカルボン酸型キレート剤」の含有量(0.02~1.5質量%)と、
甲1発明におけるMGDA(Trilon M) の含有量
」 (0.1~5wt%)
は、少なくとも0.1ないし1.5質量%の範囲で一部重複している。この
ように本件発明1の範囲が引用発明と一部重複する以上、少なくともその部
分に関しては一致点と判断されるべきである。
25 また、甲1の処方XXXIVは、MGDAに関して「3.13%MGDA
(Trilon®M、有効成分40%、BASF、納品時に使用)」と記載し
ており、この記載によれば、上記処方はMGDAを1.252質量%(3.
13×0.4)配合しているから、本件発明1の「0.02~1.5質量%」
に含まれるといえ、これによってMGDAが4,4’-ジクロロ2-ヒドロ
キシジフェニルエーテル(DCPP)による殺菌効果を高めることも甲1に
5 記載されている。
したがって、相違点1は実質的な相違点に該当しない。
⑶ 相違点3について
甲1発明について、
(A)成分/(C)成分で表される質量比(A/C比)
は最小で12/5=2.4、最大で32/0.1=320となり、本件発明
10 1で規定される数値範囲(10~100)と重複するのであって、本件発明
1の範囲が引用発明と一部重複する以上、少なくともその部分に関しては一
致点と判断されるべきである。
また、甲1の処方XXXIVのMGDA1.252質量%を前提とすれば、
A/C比は9.6ないし25.6となり、本件発明1の10ないし100に
15 より近接した値になる。
したがって、相違点3は実質的な相違点に該当しない。
〔被告の主張〕
⑴ 相違点2について
甲1発明に配合されるノニオン界面活性剤成分のNI(7EO)について
20 は、
「R-(OCH 2CH 2 )n OH」を指すとされているところ、このRは「C
12からC15のアルキル鎖であり」とされている以上の特定はないから、
本件発明1の式(II)に係る、R 4 が炭素数12及び14の天然アルコール
由来の炭化水素であるノニオン界面活性剤とは化合物として相違する。
また、甲1発明のNI(7EO)は、甲15の記載(段落【0034】)も
25 考慮すれば、甲1の処方V、VIに用いられているNeodol25-7E
である蓋然性が高い。Neodolは、合成アルコールエトキシレートに係
る商品群であること(乙4)からすれば、甲1発明のNI(7EO)におけ
るアルキル基NIにおいても炭素数が奇数のアルキル基を含む蓋然性が高い。
さらに、甲16の記載(段落【0063】)によれば、「ネオドール25」
の代表的特性として、C12アルコール21%、C13アルコール29%、
5 C14アルコール25%、C15アルコール25%等であることが理解でき
るところ、仮に、炭素数12及び14のアルコールに由来する成分を含む点
で本件発明1の(G)成分に係る化合物と重複し得るとしても、甲1発明に
おいてその含有量は、5ないし25質量%のうちの46質量%(上記21%
と25%の合計)、すなわち2.3ないし11質量%であり、本件発明1にお
10 ける20ないし40質量%とは相違する。
以上のとおり、甲1発明に配合されるノニオン界面活性剤成分のNI(7
EO)に相当する化合物種については甲1からは必ずしも明らかではないも
のの、関連する文献を参照してNI(7EO)中のアルキル基NIの具体的
構造について最大限に解釈したとしても、本件発明1の式(II)に係る炭
15 素数12及び14のアルコールに由来するR 4とは相違し、また、洗浄剤組成
物に対する当該成分の含有量においても相違するといえるのであるから、本
件審決において、本件発明1における式(II)の化合物と甲1発明に係る
NI(7EO)が実質的に相違し、また、天然アルコール由来成分の含有量
においても相違すると判断した点に誤りはない。
20 ⑵ 相違点1について
上記⑴と同様、
(C)成分の含有量に関し、本件発明1に係る数値範囲が引
用発明と一部重複するとしても、技術思想を具体化したものとして実質的に
相違していると認定すべきである。
原告が指摘する、甲1の処方XXXIVの記載は、MGDAを40%含有
25 するTrilonMをMGDAとして3.13%となるように希釈して使用
したと読むのが自然である。また、そもそも処方XXXIVは、添加剤とし
てMGDAを混合したDCPP抗菌剤について、その殺菌効果が高まること
をEN1276殺菌試験によって確認したものであって、本件発明1のよう
にMGDAを配合した衣料用洗浄剤組成物によって繊維を処理した場合の防
臭効果の程度やその評価について直接参考となるものではない。
5 したがって、相違点1が実質的相違点でないとする原告の主張に根拠はな
い。
⑶ 相違点3について
原告は、A/C比に関し、本件発明1に係る数値範囲が引用発明と一部重
複する以上、その構成に関しては一致点と判断すべきである旨主張するが、
10 この主張が相当でないことは、相違点1及び相違点2と同様であって、相違
点3が実質的相違点でないとする原告の主張に根拠はない。
2 取消事由2(本件各発明の甲1発明に対する進歩性の判断の誤り)について
〔原告の主張〕
⑴ 相違点2について
15 本件発明1の一般式(II) 4 -O-[
(R (EO)v /(PO)w ]-(EO)
x -H)のR 4に関し、本件明細書では、段落【0034】において、
「直鎖又
は分岐鎖であってもよい」 「炭素数12~14の第2級アルコール由来のア
、
ルキル基が好ましい」との記載が存在するのみで、
「炭素数12及び14の天
然アルコール由来の炭化水素」に関する記載は存在しない。また、直鎖アル
20 コールは第1級アルコールであるから、上記記載内容からすれば、炭素数1
2及び14の天然アルコール(第1級アルコール)は、むしろ好ましい選択
肢ではないことが読み取れる。
本件明細書の実施例を参酌しても、G-3(LMAO。アルキル基が炭素
数12及び14の天然アルコール(第1級アルコール) )を用いた実施例8
。
25 と、G-4(EOPOノニオン。アルキル基が炭素数12の第2級アルコー
ル及び炭素数14の第2級アルコール)とで全く作用効果の差がみられず、
本件各発明に関し、式(II)のR 4 について、炭素数12及び14の天然ア
ルコール由来の炭化水素(直鎖の炭化水素)とするか、石油アルコール由来
の炭化水素(分岐のある炭化水素)とするかは、当業者が通常の創作能力の
発揮として行う設計事項にすぎない。
5 したがって、「アルキル基が炭素数12及び14の天然アルコール由来の
もの」を用いる積極的な動機付けがなくても容易想到と判断されるべきもの
である。
仮にこの点を措くとしても、石油由来の高級アルコールと油脂由来の高級
アルコールとの価格差が少なくなったことに加え、アルキル基が直鎖である
10 ことにより、起泡性が高くなり、洗浄性がより高まることや、環境負荷に関
し、石油由来の高級アルコール(分岐アルコール)と比較して、天然油脂由
来の高級アルコール(直鎖アルコール)の方が生分解性が良好である点を考
慮すれば、甲1発明の「RはC12からC15のアルキル鎖」として、天然
由来のアルコール(炭素数12及び14の直鎖アルコール)を用いる明確な
15 動機付けが見出せる。
また、本件発明1の(G)成分の一般式(I)は、本件明細書の実施例に
おいてG-2として用いられているメチルエステルエトキシレート(MEE)
であると考えられるところ、洗浄性能や消臭効果の向上などの観点から、甲
1発明のアルコールエトキシレート(NI(7EO))に代わって、これと同
20 程度のアルキル基ないしEOの付加数を有するメチルエステルエトキシレー
ト(MEE)を用いる動機付けも存在し、相違点2の式(I)についても容
易想到と認められる。
さらに、本件明細書の実施例において、非イオン性界面活性剤 (G)
( 成分)
を用いた実施例は、
(G)成分を用いない実施例と比べて、一貫して優れた防
25 臭効果が得られるとは認識できず、本件明細書の段落【0026】において
も、
(G)成分は含んでも含まなくてもよい任意成分として位置付けられてい
る。しかも、上記実施例において(G)成分とされている成分のうち、本件
発明1に規定する一般式(I)又は一般式(II)に該当するのは、G-2、
G-2’及びG-3のみであるが、実施例6のG-3をG-4に置き換えた
実施例8において作用効果に差異が見られないなど、本件発明1において(G)
5 成分を一般式(I)又は一般式(II)に限定する技術的意味は不明である。
以上によれば、相違点2に関して、本件発明1は甲1発明に対して進歩性
を欠く。
⑵ 相違点1について
仮に相違点1が実質的な相違点であるとしても、本件明細書の段落【00
10 23】の記載からも明らかなとおり、防臭効果や酵素安定化効果を得るため
に(C)成分を一定程度以上配合する必要があるのは、このような化合物の
性質上当然のことであり、経済性の観点から一定程度以下にすべきことも当
然の設計思想であって、本件各発明の課題解決とは何ら関係がない。
また、他の公知文献である甲30(国際公開2014/109380号公
15 報)、甲33(特開2013-136682号公報)、甲34(特開2016
-17133号公報)に記載の配合割合の数値範囲は、いずれも本件発明1
の0.02ないし1.5質量%に含まれている。
したがって、
(C)成分に該当する化合物につき、本件発明1に規定の0.
02ないし1.5質量%の範囲内にすることは極めて容易であり、むしろ1.
20 5質量%を超える値にしなければならない理由が見当たらない。
以上によれば、相違点1は、当業者が甲1発明を基に極めて容易に想到し
得たものである。
⑶ 相違点3について
本件発明1においては、
(A)成分であるアニオン界面活性剤の配合割合は
25 何ら規定されていないところ、アニオン界面活性剤と(C)成分のようなキ
レート剤の割合さえ規定すれば所望の防臭効果等が得られるということは考
えられない。
また、本件明細書の実施例には、A/C比が10ないし100を充足しな
い例も数多く含まれており、A/C比が上記範囲を上回る実施例の防臭効果
の評価が、A/C比が上記範囲内の実施例の評価よりも良好な値となってい
5 るものがある。
以上のことからすれば、本件発明1のA/C比10ないし100という数
値範囲は、単なる設計事項にすぎない。
また、公知文献(甲30、33、34)によれば、
(A)成分に相当するア
ニオン界面活性剤と(C)成分(MGDA)について、A/C比を10ない
10 し100の範囲とすることは、当該技術分野における処方において一般的に
採用されている範囲にすぎず、これによって良好な消臭効果や酵素安定性と
いった本件各発明において意図する作用効果も十分に達成されていることが
読み取れる。したがって、相違点3が仮に実質的相違点に該当するとしても、
上記各公知文献を適宜参酌することによって、当業者が極めて容易に想到し
15 得たといえる。
以上によれば、相違点3は、当業者が甲1発明を基に極めて容易に想到し
得たものである。
⑷ 被告の主張に対する反論
甲1で言及されているAATCC100法は、本件明細書の実施例と少な
20 くとも同程度の強い異臭が発生するような厳しい条件下における試験である。
また、MGDAのような添加物を加えることによってDCPPによる殺菌効
果が向上することも、甲1に記載されている。しかも、本件明細書の実施例
は、その防臭効果の評価からすれば、
「3点:異臭がやや強く感じられる」と
いう程度のものであり、顕著な防臭効果を発揮しているとはいえない。した
25 がって、本件発明1が、甲1から予測不可能な顕著な作用効果をもたらすも
のとはいえない。
⑸ア 上記⑴ないし⑶のとおり、本件発明1が甲1発明と相違点があるとして
も、本件発明1の構成は当業者が極めて容易に想到し得たものにすぎない。
また、本件発明1について予測できない顕著な作用効果は何ら存在しない。
したがって、本件発明1は甲1発明に対して進歩性を欠くものである。
5 イ 本件発明3ないし5が本件発明1と同様に進歩性を有するとした本件審
決の判断は、本件発明1が進歩性を充足するとの前提が成り立たないため、
誤りである。また、本件発明3ないし5に特有の構成を基に進歩性を充足
するとは認められない。
〔被告の主張〕
10 ⑴ 相違点2について
ア 相違点2に係るノニオン界面活性剤は、衣類が湿った状態で菌が増殖し、
強い異臭が発生するような厳しい条件下でも優れた防臭効果を奏する衣
料用洗浄剤組成物を提供するとの課題を解決するために、他の成分と共に
配合した場合の各成分の安定性や洗浄効果、殺菌作用等を考慮しつつ、
(C)
15 成分や(A)成分の含有量などと併せて特定されたものである。そして、
本件明細書に記載された実施例、比較例を参照すると、化合物種や含有量
等が特定された本件発明1に係る洗浄剤組成物が上記課題を解決し、格別
の効果を奏していることが理解できる。
したがって、甲1発明との上記相違点やその適用が当該技術分野におけ
20 る単なる設計事項であり、動機付けが無くても容易想到であるとの原告の
主張は失当である。
イ 甲1発明におけるノニオン界面活性剤NI(7EO)と本件発明1に係
る(G)成分について、その化合物種、含有量のいずれにおいても実質的
に相違することは、前記1〔被告の主張〕⑴のとおりである。
25 また、本件審決が甲1発明と認定した、甲1における「処方LI」は、
洗浄剤組成物における特定の成分の配合割合が一定の範囲をもって示さ
れるのみで、実際には非常に広範な組成物群が想定され、その抗菌性につ
いても、いかなる洗浄剤組成物がどの程度の抗菌作用及び脱臭効果を奏す
るものかについて開示するものではないから、甲1発明が衣料用洗浄剤組
成物としてどの程度の防臭効果を奏するのかは不明である。
5 そして、
(G)成分は、本件発明1に係る他の成分と共に配合した場合の
各成分の安定性や洗浄剤組成物全体としての洗浄効果、殺菌作用等を考慮
して選択されるものであり、本件発明1が解決すべき課題とした衣類が湿
った状態で菌が増殖し、強い臭気が発生するような厳しい条件下での防臭
作用については、甲1発明や他の引用文献に記載された技術的事項から認
10 識することはできないのであって、甲1発明において、
(G)成分の化合物
種や含有量、他の成分の配合量、配合割合に着目し、これらを特定すると
の技術思想は見出せない。
また、ノニオン界面活性剤成分として配合されているNI(7EO)に
代えて、本件発明1に係る(G)成分を用いることによって、他の洗浄剤
15 組成物の成分に係る特定と相俟って、強い異臭が発生するような厳しい条
件下でも優れた防臭効果を奏する衣料用洗浄剤組成物が得られているこ
とにも鑑みれば、甲1発明及び他の公知技術から、ノニオン界面活性剤成
分として配合されているNI(7EO)に代えて、本件発明1に係る(G)
成分を用いることについて当業者が容易に想到し得るとの根拠を見出す
20 ことはできない。
経済的な理由や環境負荷への配慮等から(G)成分を選択し得るとの事
情のみでは、本件各発明の課題を認識しない甲1発明におけるノニオン界
面活性剤成分を本件発明1に係る(G)成分に置き換えた洗浄剤組成物に
想到する動機付けとはならない。
25 ウ 仮に、甲1発明のNI(7EO)に代えて本件発明1に係る(G)成分
を配合すること、更には配合量において本件発明1の範囲とすることが動
機付けられたとしても、上記イのとおり、甲1発明に係る衣料用洗浄剤組
成物がどの程度の防臭効果を奏するのかは不明であり、抗菌や脱臭の程度
についてもせいぜい上記AATCC100-2004法で評価される一
定の抗菌作用が期待されることを示唆しているにすぎないことに鑑みれ
5 ば、本件発明1によって、衣類が湿った状態で菌が増殖しやすい環境にお
いても高い防臭効果を奏する洗浄剤組成物が得られるとの効果は、甲1発
明において相違点2並びに他の相違点(相違点1、3)に係る発明特定事
項を適用した場合に奏するものとして当業者が予測することができた範
囲を超える顕著な効果といえるから、当業者が容易に発明をすることがで
10 きたものではないというべきである。
⑵ 相違点1について
甲1発明において、
(C)成分の含有量に着目し、これを特定の範囲とする
との技術思想は見出せず、
(C)成分の含有量を一定の範囲内とした本件発明
1について、他の成分に係る特定と相俟って、厳しい条件下においても防臭
15 効果に優れるとの格別の効果が確認されていることも考慮すれば、甲1発明
において(C)成分の含有量を特定することによって本件各発明に係る特定
の洗浄剤組成物に至る動機付けはない。
甲1においては、MGDAを含有する処方LIと、MGDAを含有してい
ない処方XLIX、L、LIIが、いずれもAATCC100法による評価
20 において優れた抗菌効果を示しており、甲1発明に係る洗浄剤組成物におい
て、本件発明1の(C)成分に相当するMGDAを必須の成分としてその含
有量に着目する理由はない。
原告が指摘する甲30、33及び34に記載されている洗浄剤は、いずれ
も本件発明1に係る(B)成分であるフェノール型抗菌剤を含むものではない。
25 また、甲30及び34に記載された洗浄剤組成物はいずれも酵素を配合した
ものであり、その保存安定性や活性を良好にすることなどを目的として、ア
ミノカルボン酸が添加されており、甲33に記載された洗浄剤組成物は、本
件発明1と同様に消臭効果を狙ったものではあるが、金属とアミノカルボン
酸キレート剤の併用でアニオン界面活性剤の存在下でも防臭効果を示すもの
である。このように、これらの文献に記載された洗浄剤組成物は、本件発明
5 1に係る洗浄剤組成物とは主たる成分において異なるものであり、MGDA
の配合量がたまたま本件発明1における(C)成分の含有量と一致する部分
があるとしても、そのことをもって甲1発明におけるMGDA配合量として
採用する動機付けとはならない。
仮に、甲1発明において(C)成分の含有量を本件発明1に係る範囲とす
10 ることが動機付けられるとしても、前記⑴ウのとおり、本件発明1による効
果は、甲1発明における相違点1ないし3に係る発明特定事項を適用した場
合に奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕
著なものであるから、当業者が容易に発明をすることができたものではない
というべきである。
15 ⑶ 相違点3について
相違点3が単なる設計事項であるとの原告の主張が失当であることは、相
違点2と同様である。
また、相違点2及び相違点1と同様、甲1発明において、
(C)成分の含有
量に加えてA/C比についても着目し、これを特定の範囲とするとの技術思
20 想は見出せない。そして、本件発明1について格別の効果が確認されている
ことにも鑑みれば、甲1発明においてA/C比を調整することによって本件
発明1に係る特定の洗浄剤組成物に想到する動機付けは見出せない。
甲30、33及び34も、前記⑵のとおり、洗浄剤組成物としては本件発
明1と異なるものであり、これら文献に記載された実施例から算出されるA
25 /C比がたまたま本件発明1と一致するものがあるとしても、それを甲1発
明に適用する動機付けとはならない。A/C比が最小で2.4、最大で32
0である甲1発明において、
「10~100」とさらに限定することは、当業
者が容易に想到することではない。
また、本件明細書の実施例15や22を参照すれば、抗菌剤の含有量が同
じ、あるいは多い場合であっても、A/C比が上記範囲を外れるときには防
5 臭効果が劣ることから、甲1発明において防臭性の向上に影響し得る指標と
なり得るA/C比が好適な範囲内である、本件発明1に係る特定の洗浄剤組
成物に至る動機付けはない。
仮に、甲1発明においてA/C比を本件発明1に係る範囲とすることが動
機付けられるとしても、前記⑴ウ及び⑵のとおり、本件発明1による効果は、
10 甲1発明における相違点1ないし3に係る発明特定事項を適用した場合に奏
するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なも
のであるから、当業者が容易に発明をすることができたものではないという
べきである。
⑷ 以上のとおり、本件発明1は甲1発明に基づく進歩性を満たす。
15 また、本件発明3ないし5は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さ
らに特定事項を加えたものであるから、本件発明1と同様、特許法29条2
項の規定により特許を受けることができない発明ではない。
3 取消事由3(本件各発明のサポート要件違反の有無に関する判断の誤り)に
ついて
20 〔原告の主張〕
⑴ 本件各発明の構成によりその課題を解決できると認識できないこと
本件明細書の実施例による防臭効果の評価によれば、本件各発明の構成に
よって得られる効果はせいぜい「3点:異臭がやや強く感じられる」という
程度であり、
「衣類が湿った状態で菌が増殖しやすい環境においても、十分な
25 防臭効果が得られ、防臭効果に優れる衣料用洗浄剤組成物を提供する」とい
う本件各発明の課題解決の水準に達していない。
また、上記防臭効果の評価に用いた臭気評価布について、本件明細書の段
落【0055】の記載された条件からは、湿った状態で菌が増殖しやすい環
境であることは読み取れず、異臭が発生しやすい条件下で試験が行われたと
いえる根拠もない。プロテアーゼのような衣類用洗剤の分野で汎用的に使用
5 されている成分を含有することのみによって、防臭効果が3. (実施例6)
2
から2.3(実施例9)へと大きく改善していることも考慮すれば、
「3点:
異臭がやや強く感じられる」という程度の評価しか得られなかったのは、段
落【0055】に記載の条件が特別過酷であったからではなく、本来課題解
決に不可欠なはずの成分が含まれていなかったことによると考えられる。
10 以上によれば、本件各発明の課題を解決するためには、 (E)成分:硫酸
「
亜鉛一水和物」の存在が不可欠であると考えるほかない。
⑵ 本件明細書の効果が(C)成分一般に当てはまらないこと
本件各発明がサポート要件を充足することの根拠として本件審決が挙げ
た甲13(別紙3「文献の記載」9)、甲17(別紙3「文献の記載」10)
15 及び甲18(別紙3「文献の記載」11)
(本件審決における乙1、5及び6)
は、いずれも、本件各発明の課題に関して何ら評価がなされておらず、かつ、
その構成は本件発明1の一般式(c1)とは必ずしも一致しないため、上記
根拠となり得るものではない。
また、共通基本骨格がアミノカルボン酸と酷似している「C-3:クエン
20 酸三ナトリウム」が用いられた比較例が明らかに実施例よりも効果が劣って
いることも考慮すれば、構造の僅かな違いでも本件各発明において重要な意
味を持つと考えるのが合理的であり、上記(c1)のnの数が多くなり、か
つAがCOOMのようにキレート剤としての機能を有する官能基である場合
についてまで、実施例と同様又は類似の防臭効果が得られるとは認識できな
25 い。
したがって、仮に本件明細書の実施例から何らかの効果を認識し得るとし
ても、(C)成分としてメチルグリシン二酢酸三ナトリウム (MGDA)以
外を用いた場合についてサポートされているとは認められない。
⑶ (G)成分として「G-1:椰子脂肪酸」が必須であること
甲12の記載などに示されているように、椰子脂肪酸などの脂肪酸も消臭
5 効果を併せ持つことは技術常識であり、G-1成分が抑泡やすすぎ性の向上
のための泡コントロール剤としての効果だけではなく、十分な防臭効果を得
る効果も有すると考えられる。したがって、
(G)成分に関し、G-1成分を
含まない場合についてまでサポートされているとは認められない。
⑷ 以上のとおり、本件発明1はサポート要件を充足せず、本件発明1を引用
10 する本件発明3ないし5も同様である。
〔被告の主張〕
⑴ 本件各発明の構成によりその課題を解決できると認識できること
本件各発明は、実施例に記載されているとおり、強い異臭が発生する厳し
い条件下における防臭効果の評価を行っていることから、防臭効果の判定が
15 「3点:異臭がやや強く感じられる」に相当する例においても、高い防臭効
果は得られたと評価することに何ら問題はなく、 (E)成分:硫酸亜鉛一水
「
和物」を含まない実施例についても、当業者は、本件発明1で特定される洗
浄剤組成物によって、衣類が湿った状態で菌が増殖しやすい環境においても
高い防臭効果を有すること、すなわち、本件各発明の課題が解決できること
20 を十分認識できるといえる。
したがって、本件各発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題を解
決できることを当業者が認識できる範囲内のものである。
⑵ 本件各発明の効果が式(c1)で表される化合物一般に当てはまること
式(c1)で表される化合物は、
「C-1:メチルグリシン二酢酸三ナトリ
25 ウム(MGDA)」やグルタミン酸二酢酸塩(GLDA)に代表される洗浄剤
に配合されるキレート剤として知られるアミノカルボン酸化合物であり(甲
13、17、18)、これらが洗浄剤組成物におけるキレート剤として好適に
用いられることからみて、本件明細書の記載に接した当業者であれば、一般
式(c1)で表される化合物の共通の基本骨格を有し、そこに結合する置換
基の種類が本件発明1において定めたAの範囲の化合物について、洗浄剤組
5 成物に配合されるキレート剤化合物として同等の機能を発揮し、防臭効果に
優れた衣料用洗浄剤を提供するとの課題の解決に寄与することが理解できる。
したがって、
「当業者であれば、A、M、nに関し他の選択肢を組み合わせ
た化合物を(C)成分とした場合でも、実施例6~7、9~14、20と同
様又は類似の防臭効果が得られ、前記アで示した課題が解決できることを認
10 識できるといえる。」との審決の判断に誤りはない。
また、
「C-3:クエン酸三ナトリウム」を配合した実施例が、本件発明1
の(C)成分に該当する成分を配合した実施例よりも効果において劣ること
が、本件発明1のサポート要件を満たさないことの根拠となることはない。
⑶ (G)成分として「G-1:椰子脂肪酸」は必須でないこと
15 衣料用洗浄剤において、主に抑泡やすすぎ性の向上のための泡コントロー
ル剤として椰子脂肪酸(G-1)に代表される脂肪酸が少量添加されること
は、当該技術分野における技術常識であり、本件明細書に接した当業者は、
当該成分が本件各発明の課題である「衣類が湿った状態で菌が増殖しやすい
環境において、十分な防臭効果」を得るために必要な成分とはいえないこと
20 を十分に理解するのであって、全ての実施例に(G-1)が含まれているこ
とのみをもって、当該成分が本件各発明の課題を解決するために必要な成分
であるとはいえない。
したがって、本件審決が、
「G-1:椰子脂肪酸」が本件発明1で必須成分
として特定されなくても、当業者は、本件発明1の構成を備えることで、本
25 件各発明の課題を解決できることを十分認識できるとした点に誤りはない。
⑷ 以上のとおり、サポート要件に関する本件審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 本件各発明の技術的意義等
⑴ 特許請求の範囲
本件特許に係る特許請求の範囲の記載は、前記第2の2に記載のとおりで
5 ある。
⑵ 本件明細書の記載
本件明細書の記載は、別紙2特許公報(甲7)の【発明の詳細な説明】の
とおりである。
⑶ 本件各発明の技術的意義
10 上記⑴の特許請求の範囲及び上記⑵の本件明細書の記載によれば、本件各
発明の技術的意義は次のとおりであると認められる。
ア 技術分野
本件各発明は、衣料用洗浄剤組成物に関する。(段落【0001】)
イ 背景技術
15 近年、衛生志向の高まりから、衣料用洗浄剤組成物には、衣類に付着し
た汚れの除去(洗浄効果)だけでなく、衣類から発生する嫌な臭いの抑制
(防臭効果)が求められているが、衣類から発生する嫌な臭い発生の原因
として衣類に付着した菌と汚れの関与が考えられており、洗濯時に衣類に
残存した菌は、衣類の乾燥過程でタンパク質等の汚れを栄養源に増殖し臭
20 いを発生することから、洗濯中および洗濯後の乾燥時において菌を制御す
ることが高い防臭効果に寄与する。(段落【0002】)
防臭効果を付与した従来の衣料用洗浄剤組成物には菌の増殖を抑制す
るためカチオン界面活性剤などの抗菌剤が配合されていたが、衣料用洗浄
剤組成物にアニオン界面活性剤と併用すると配合効果が発揮できず、十分
25 な菌の抑制効果が得られないといった問題があった。(段落【0002】)
そこで、共存するアニオン界面活性剤の影響を受けにくいトリクロサン
などのフェノール型抗菌剤を含む衣料用洗浄剤組成物が提案されている
(例えば、特開2001-146681号公報参照。。
)(段落【0002】)
ウ 本件各発明が解決しようとする課題
しかし、上記特許公報に記載された衣料用洗浄剤組成物では、衣類が湿
5 った状態で菌が増殖しやすい環境において、十分な防臭効果が得られなか
ったことから、本件各発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、防
臭効果に優れる衣料用洗浄剤組成物を提供することを課題とする。(段落
【0004】)
つまり、本件各発明の課題は、衣類が湿った状態で菌が増殖しやすい環
10 境においても防臭効果に優れる衣料用洗浄剤組成物を提供することであ
る。
エ 課題を解決するための手段
発明者は、特定のアニオン界面活性剤と、フェノール型抗菌剤と、アミ
ノカルボン酸型キレート剤とを組み合わせることにより上記課題を解決
15 できることを見出し、本件各発明を完成するに至った。
(段落【0005】)
オ 本件各発明の効果
本件各発明によれば、防臭効果に優れる衣料用洗浄剤組成物を提供でき
る。(段落【0007】)
カ 発明を実施するための形態
20 本件各発明の衣料用洗浄剤組成物は、以下の(A)成分、
(B)成分、
(C)
成分及び(G)成分を本件各発明の各請求項に記載の所定量あるいは量比
で含有する組成物である。(段落【0008】~【0034】)
(ア) (A)成分:アニオン界面活性剤(但し炭素数10~20の脂肪酸塩
を除く)
25 (A)成分は、炭素数10ないし20の脂肪酸塩を除く少なくとも一
種のアニオン界面活性剤であり、界面活性剤の種類によらず防臭効果と
酵素安定性を発揮できる。(段落【0009】~【0012】)
(イ) (B)成分:フェノール型抗菌剤
(B)成分は、4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエー
テル(慣用名:ダイクロサン)を含むフェノール型抗菌剤で、洗濯後の
5 衣類等の繊維製品に抗菌性を付与する成分であり、衣料用洗浄剤組成物
中においてアニオン界面活性剤と共存させても、アニオン界面活性剤に
よる洗浄性を損なわずに抗菌性を発揮できる。(段落【0013】~【0
018】)
(ウ) (C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボン
10 酸型キレート剤
(C)成分は、下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボ
ン酸型キレート剤であり、
(C)成分と(B)成分との併用により高い防
臭効果が得られる。さらに、(C)成分により、酵素((D)成分)の安
定性を損なうことなく、
(C)成分が寄与する洗浄性能(たとえばプロテ
15 アーゼの場合、タンパク汚れに対する洗浄性能)を向上させることがで
きる。
(式(c1)中、Aは、それぞれ独立してH、OHまたはCOOMであ
り、Mは、それぞれ独立してH、Na、K、NH 4またはアルカノールア
20 ミンであり、nは0~5の整数である。)
(C)成分の含有量は、衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、0.0
1ないし2質量%が好ましく、0.02ないし1.5質量%がより好ま
しく、
(C)成分の含有量が下限値以上であると、十分な防臭および酵素
安定性の効果が得られやすく、上限値以下であると経済的に好ましい。
(段落【0019】~【0023】)
(A)成分/(C)成分で表される質量比(A/C比)は、5ないし
700が好ましく、10ないし560が好ましく、10ないし100が
5 さらに好ましい。A/C比を上記数値範囲内とすることにより、十分な
防臭及び酵素安定性の効果が得られる。
(エ) (G)成分:一般式(I)又は(II)で表される少なくとも1種で
あるノニオン界面活性剤。
(A)(B)(C)成分の他に、酵素(
、 、 (D)成分)、金属化合物((E)
10 成分)(A)成分以外の界面活性剤(
、 (G)成分)等を含んでよく、
(G)
成分としては、炭素数10~20の脂肪酸塩、ノニオン界面活性剤、両
性界面活性剤等が挙げられる。
このうち、ノニオン界面活性剤としては、下記一般式(I)又は(I
I)で表されるものが好ましい。
15 R2-C(=O)O-[(EO)s /(PO)t ]-(EO)u-R 3 ・・・
(I)
R4-O-[(EO) v /(PO) w ]-(EO) x -H ・・・(II)
式(I)中、R 2 は炭素数7ないし22の炭化水素基であり、R 3 は炭
素数1ないし6のアルキル基であり、sはEOの平均繰り返し数を表し、
20 6ないし20の数であり、tはPOの平均繰り返し数を表し、0ないし
6の数であり、uはEOの平均繰り返し数を表し、0ないし20の数で
あり、EOはオキシエチレン基を表し、POはオキシプロピレン基を表
す。
式(II)中、R4は炭素数6ないし22の炭化水素であり、10ない
25 し20が好ましく、10ないし18がさらに好ましい。R 4 は、直鎖又は
分岐鎖であってもよい。R 4としては、具体的には、炭素数12ないし1
4の第2級アルコール由来のアルキル基が好ましい。
式(II)中、vはEOの平均繰り返し数を表し、3ないし20の数
であり、wはPOの平均繰り返し数を表し、0ないし6の数であり、x
はEOの平均繰り返し数を表し、0ないし20の数であり、EOはオキ
5 シエチレン基を表し、POはオキシプロピレン基を表す。
(G)成分としては、ノニオン界面活性剤が、洗浄力、液の安定性の
観点から好ましく、衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、20ないし4
0質量%であることが好ましい。
(以上、段落【0026】 【0030】~【0034】 【0039】
、 、 )
10 ⑷ 本件明細書における実施例及び防臭効果の測定について
本件明細書には、
(A)成分、
(B)成分、
(C)成分及び(G)成分として、
それぞれ複数の組成物を調製し、各成分の組成物を様々な割合で配合して得
られた実施例1ないし22及び比較例1ないし8の衣料用洗浄剤組成物を用
いた防臭効果の評価(以下「本件防臭効果評価」という。)について記載され
15 ている。(段落【0046】以下)
本件防臭効果評価の方法は、以下のとおりである。
混紡シャツ(綿60%、ポリエステル40%)を30代又は40代の男性
11人に14時間着用させた後、各例の洗浄剤組成物を用いて、洗濯機(J
W-Z23A型、ハイアール社製)の通常コースで洗濯処理(水温約15℃、
20 硬度約3゜DHの水道水を注水、浴比30倍)を行った。その際、衣料用洗
浄剤組成物の洗濯機への投入量を10mL/水道水30Lとし、実施例21、
22のみ、投入量を20mL/水道水30Lとして洗濯処理を行った。
洗浄終了後に、約25℃、相対湿度60%RHの室内にて12時間乾燥後、
洗浄せずに2日間家庭で使用した。家庭での使用中、洗浄は行っていない。
25 2日間使用後、ポリ袋に密封した状態で回収し、25℃の条件で1日間保管
したものを臭気評価布とした。
臭気評価布に対して、6段階臭気強度評価法により11名の専門パネラー
臭いを評価した。得られた評価点の平均点数を求め、以下の判定基準により
評価した。
ア 防臭効果の評価基準
5 0点:異臭が全くしない。
1点:異臭がやっと感知できる程度に感じられる。
2点:異臭が弱く感じられる。
3点:異臭がやや強く感じられる。
4点:異臭が強く感じられる。
10 5点:異臭が強烈に感じられる。
イ 判定基準
◎:11名の平均点数が0.0点以上1.5点未満。
〇:11名の平均点数が1.5点以上2.5点未満。
△:11名の平均点数が2.5点以上3.5点未満。
15 ×:11名の平均点数が3.5点以上5.0点以下。
2 取消事由1(本件各発明の甲1発明に対する新規性の判断の誤り)について
⑴ 甲1の記載内容は、別紙3「文献の記載」1のとおりである。
この甲1の記載内容によれば、甲1には本件審決が認定した甲1発明(前
記第2の4⑴ア)が記載されていると認められる。この甲1発明が甲1に記
20 載されていることについては、当事者間に争いがない。
そして、甲1発明の内容に照らせば、本件発明1と甲1発明との一致点及
び相違点は、本件審決が認定した前記第2の4⑴イのとおりであると認めら
れる。
⑵ 相違点2について
25 ア 相違点2に係る技術常識について
甲10(別紙3「文献の記載」2)、甲11(別紙3「文献の記載」3)
及び甲14(別紙3「文献の記載」4)には、それぞれ別紙3「文献の記
載」2ないし4のとおりの記載が存在する。
これらの記載の内容によれば、R-O-(CH 2CH 2 O) n -Hの化学
式で表されるAE(アルコールエトキシレート)におけるアルキル基につ
5 いて、一般の洗剤に含まれるものはアルキル基「R」がC12ないしC1
5であるものを主体とし、アルキル基「R」の原料として油脂由来(天然
物由来)の高級アルコール(天然アルコール)と石油由来の高級アルコー
ル(合成アルコール)のいずれもが利用されており、天然アルコールは偶
数の炭素からなる直鎖の炭化水素基を有するのに対し、石油由来の合成ア
10 ルコール(エチレンを原料とするチーグラー法で得られたものを除く)に
ついては、炭素数が奇数であるものを含むか、又は分枝鎖の炭化水素基を
有することが、本件出願日当時の技術常識であったものと認められる。
なお、甲1発明のNI(7EO)及び本件発明1の(G)成分の一般式
(II)は、AE(アルコールエトキシレート)に該当する(甲10、1
15 1、31、32、弁論の全趣旨)。
イ 本件発明1の(G)成分と甲1発明のNI(7EO)との対比
本件発明1のノニオン界面活性剤である(G)成分のうち、一般式(I
「R 4-O-[
I) (EO)v /(PO)w]-(EO)x -H」で表される化
合物におけるR 4は、
「炭素数12及び炭素数14の天然アルコール由来の
20 炭化水素」であるとされているが、これは、上記アの技術常識によれば、
炭素数12及び炭素数14の直鎖の炭化水素であることを意味するもの
と認められる。そうすると、炭素数が奇数であるか、又は分枝鎖を有する
炭化水素基は、上記R 4 に該当せず、このような炭化水素基を有する化合物
は、一般式(II)で表される化合物から除外されるものと認められる。
25 他方、甲1発明に含まれるノニオン界面活性剤は「R-(OCH 2CH 2)
n OH(RはC12からC15のアルキル鎖、n=7)」であるNI(7E
O)である。このNI(7EO)の構造式は、本件発明1の(G)成分の
「R」と「R4」
一般式(II)においてw=0、v+xが7とした場合と、
との違いを除き、構造式としては共通する(「EO」(オキシエチレン基)
は「‐CH 2CH 2O‐」である(甲10、37) )
。。
5 しかし、甲1発明のNI(7EO)における「RはC12からC15の
アルキル鎖」はその文言以上の特定はなく、炭素数が奇数(13又は15)
であるか、又は分枝鎖の炭化水素基を除外するものとは認められず、天然
アルコール由来のものに限定されるとは認められない。
そうすると、上記アの技術常識からすれば、当業者は、甲1発明のアル
10 キル基「R」につき、
「C12からC15のアルキル鎖」として、偶数の炭
素からなる直鎖の炭化水素基を有する天然アルコール由来のものと、炭素
数が奇数であるか、又は分枝鎖の炭化水素基を有する合成アルコール由来
のものの両方を利用できると認識するものといえる。
以上によれば、相違点2は実質的な相違点であるというべきであり、こ
15 れが形式的な相違点にすぎないとは認められない。
ウ 原告の主張に対する判断
原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑴のとおり、相違点2は形式的な
相違点であり、本件審決の判断が誤りであると主張する。
この点、本件審決は、甲1のNI(7EO)がNeodol25-7と
20 いう特定の商品を指すものとであると認定し、これを前提に相違点2が実
質的な相違点であると判断しているが、NI(7EO)がNeodol2
5-7を指すと認定すべき根拠はないというべきである。すなわち、甲1
の処方LIの箇所には、NI(7EO)に関し、
「NI(7EO)はR-(O
CH 2 CH 2 ) n OHを指すところ、このRはC12からC15のアルキル
25 鎖であり、n=7である。」との記載があるのみであり(別紙3「文献の記
載」1⑺の記載)、商品名は記載されていない。また、甲15(特表201
4-529660号公報)の段落【0034】には、
「NI7EOは、C1
2-15アルコールエトキシレート7EO非イオン性Neodol(登録
商標)25-7(Shell Chemicalsから)である。」との記
載があるが、これは甲15の実施例においてNI(7EO)として用いる
5 具体的な商品を記載したものと解され、NI(7EO)がNeodol2
5-7を指すものと解すべき根拠とはならない。しかし、上記ア及びイの
説示によれば、NI(7EO)がNeodol25-7を指すものではな
いとしても、相違点2が実質的な相違点であると認められるとの結論は左
右されないというべきである。
10 甲1発明のアルキル基Rが、偶数の炭素からなる直鎖の炭化水素基を有
する天然アルコール由来のものを利用できるとしても、炭素数が奇数であ
るか、又は分枝鎖の炭化水素基を有する合成アルコール由来のものも利用
できるのであるから、本件発明1の(G)成分の一般式(II)における
R4が「炭素数12及び炭素数14の天然アルコール由来の炭化水素」に限
15 定されていることと相違しているというべきであり、前者が後者を包含し
ているから形式的な相違点にすぎないと解することはできない。
そして、その他原告が前記第3の1〔原告の主張〕⑴で主張する内容を
検討しても、上記イの結論は左右されない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
20 ⑶ 相違点1について
ア 甲1発明におけるMGDA(Trilon M)の含有量「0.1~5
wt%」は、本件発明1における(C)成分の含有量「0.02~1.5
質量%」と一部重複するものの、甲1発明における含有量の割合の範囲は、
本件発明1における含有量の割合の範囲に該当しないものを含んでいる。
25 したがって、本件発明1と甲1発明との相違点1は実質的な相違点であ
るというべきであり、これが形式的な相違点であるとは認められない。
イ 原告の主張に対する判断
原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑵のとおり、相違点1は形式的な
相違点にすぎないと主張する。
しかし、本件発明1における(C)成分の含有量は0.02ないし1.
5 5質量%であり、甲1発明におけるMGDA(Trilon M)の含有
量は0.1ないし5wt%(質量%)であって、上記アのとおり、甲1発
明における含有量の割合の範囲は、本件発明1における含有量の割合の範
囲に該当しないものを含んでいる。そうすると、数値が一部重複している
からといって、相違点1が形式的な相違点にすぎないと解すべきというこ
10 とにはならない。
原告が挙げる甲1の処方XXXIVには、
「3.13%MGDA(Tri
lon ®M、有効成分40%、BASF、納品時に使用)」との記載がある
が、この記載は、MGDAを40%含有するTrilon Mを、MGD
Aとして3.13%となるように希釈して使用したと読むのが自然である
15 から、上記処方が、MGDAを1.252質量%配合したものとは認めら
れない。また、甲1発明は甲1の処方LIの配合によるものであって、仮
に、甲1において挙げられたLI以外の処方におけるMGDAの含有量が、
本件発明1における(C)成分の含有量の割合に含まれるとしても、その
ことによって、本件発明1と甲1発明との相違点1が形式的な相違点にす
20 ぎないと解すべきことにはならない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑷ 相違点3について
ア 本件審決が相違点3の認定において指摘するとおり(前記第2の4⑴イ)、
甲1発明は、
(A)成分に相当するアニオン界面活性剤である各成分の合計
25 が12ないし32wt%であり、
(C)成分に相当するMGDA(Tril
on M)の含有量が0.1ないし5wt%であるが、A/C比について
は特定されていない。上記の両成分の含有量の範囲から計算すると、A/
C比の値は、最小で2.4、最大で320となる。
他方、本件発明1では、 (A)成分/(C)成分で表される質量比(A
「
/C比)が10~100である」とされている。
5 そうすると、甲1発明において算出されるA/C比の範囲は、本件発明
1のA/C比の範囲に該当しないものを含むといえる。
したがって、本件発明1と甲1発明との相違点3は実質的な相違点であ
るというべきであり、これが形式的な相違点であるとは認められない。
イ 原告の主張に対する判断
10 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑶のとおり、相違点3は形式的な
相違点にすぎないと主張する。
しかし、相違点1に関する原告の主張と同様、甲1発明において算出さ
れるA/C比の範囲と、本件発明1のA/C比の範囲が一部一致すること
をもって、相違点3が形式的な相違点にすぎないと解すべきことにはなら
15 ず、かつ、甲1の処方LI以外の処方に関して算定したA/C比の範囲が
本件発明1のA/C比の範囲に含まれるからといって、相違点3が形式的
な相違点にすぎないと解すべきことにもならない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑸ 以上によれば、本件発明1と甲1発明との相違点1ないし3のいずれも、
20 実質的な相違点であるといえるから、本件発明1と甲1発明が同一であると
は認められない。
また、本件発明3ないし5は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さ
らに特定事項を加えたものであるから、本件発明1と同様、これらの発明が
甲1発明と同一であるとは認められない。
25 したがって、取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(本件各発明の甲1発明に対する進歩性の判断の誤り)について
⑴ 相違点2について
ア 相違点2に係る技術常識について
前記2⑵のとおり、甲10、11及び14によれば、AE(アルコール
エトキシレート)におけるアルキル基について、一般の洗剤に含まれるも
5 のはアルキル基がC12ないしC15であるものを主体としていること
が本件出願日当時の技術常識であったと認められるが、さらに、甲10に
よれば、近年は油脂由来(天然物由来)の高級アルコール(天然アルコー
ル)と石油由来の高級アルコール(合成アルコール)の価格差が少なくな
り、天然油脂由来の高級アルコールが多く用いられるようになってきたこ
10 とも、本件出願日当時の技術常識であったことが認められる。
また、甲36(別紙3「文献の記載」5)、甲37(別紙3「文献の記載」
6)には、それぞれ別紙3「文献の記載」5及び6のとおりの記載が存在
し、これらの記載からも、AE(アルコールエトキシレート)における炭
素数が12ないし15のアルキル基の原料として、天然アルコールが用い
15 られていることが、本件出願日当時の技術常識であったことが認められる。
以上によれば、従前から、洗剤に用いるAE(アルコールエトキシレー
ト)は、C12ないし15(炭素数12~15)のアルキル基を有するも
のが主体であって、そのC12ないし15のアルキル基の原料として、油
脂由来の偶数の炭素からなる直鎖の炭化水素基を有する天然アルコール
20 (炭素数12及び14の直鎖アルコール)が、石油由来の合成アルコール
と同様に、一般に用いられており、特に近年は、価格差が少なくなったこ
となどから、天然アルコール(炭素数12及び14の直鎖アルコール)が
多く用いられるようになってきたことが、本件出願日当時の技術常識であ
ったと認められる。
25 他方、天然アルコール由来の炭化水素と合成アルコール由来の炭化水素
とで、いずれか一方が他方よりも衣料用洗浄剤の組成物に適しているとの
技術常識があったとは認められない。
イ 本件発明1における(G)成分の技術的意義について
本件明細書の段落【0026】は、
(A)成分以外の界面活性剤を(G)
成分と称することとしているが、段落【0008】は、
「本発明の衣料用洗
5 浄剤組成物は、以下の(A)成分、
(B)成分及び(C)成分を含有する組
成物である。」と記載し、同段落では(G)成分は本件各発明の衣料用洗浄
剤に必須の組成物とは位置付けられていない。また、段落【0026】の
記載によれば、(G)成分は、(A)成分ないし(C)成分のほかに「含ん
でいてもよい」とされる他の成分の一つとして位置付けられているにすぎ
10 ない。
本件発明1は、
(G)成分を一般式(I)又は(II)のいずれか1種と
特定しており、一般式(II)のR 4 を「炭素数12及び14の天然アルコ
「R 4 は、直鎖又
ール由来の炭化水素」であるとするが、本件明細書には、
」「R 4 としては、具体的には、炭素数12~1
は分岐鎖であってもよい。 、
15 4の第2級アルコール由来のアルキル基が好ましい。」との記載はあるも
のの(段落【0034】、R 4 として炭素数12及び14の天然アルコール
)
由来の炭化水素が好ましいとの記載は本件明細書に存在せず、本件発明1
の(G)成分の一般式(II)においてR 4 が炭素数12及び14の天然ア
ルコール由来の炭化水素であるとされた理由は本件明細書の記載からは
20 明らかでない。
また、本件明細書に記載された本件防臭効果評価では、
(A)成分、
(B)
成分、
(C)成分及び(G)成分として、それぞれ複数の組成物を調製し、
各成分の組成物を様々な割合で配合して得られた実施例1ないし22及
び比較例1ないし8の衣料用洗浄剤組成物が用いられている。本件防臭効
25 果評価で用いられた(G)成分は、G-1、G-2、G-2’、G-3及び
G-4の5種類であり、このうち本件発明1で特定された(G)成分に該
当するものはG-2、G-2’及びG-3であるが、実施例1ないし22
のうち、実施例1ないし5にはG-1ないしG-4のいずれも配合されて
おらず、実施例6、7及び9ないし20には、G-1が2質量%、G-2、
G-2’又はG-3のいずれか2種類が合計30質量%含まれ、実施例2
5 1及び22には、G-1が1質量%、G-2及びG-3が各7.5質量%
(合計15質量%)含まれている。そして、防臭効果の評価の結果をみる
と、G-2、G-2’又はG-3のいずれかを合計30質量%含む実施例
6、7及び9ないし20が、G-1ないしG-4のいずれの成分も含まな
い実施例1ないし5並びにG-2及びG-3を合計15質量%含むにと
10 どまる実施例21及び22に比べて一貫して優れた防臭効果を得られて
いるとは認められず、実施例6、7、12などは、むしろ、実施例1ない
し5、21及び22よりも防臭効果が劣る結果となっている。
以上のとおり、本件明細書の記載からは、
「(A)成分以外の界面活性剤」
という意味での(G)成分は、含まれていてもよいという位置付けの成分
15 であって、重要性が高くなかったものであり、本件発明1で特定された(G)
成分に該当するG-2、G-2’及びG-3についても、本件防臭効果評
価において、これらの成分を用いた実施例が他の実施例に比べて優れた防
臭効果を得られていないのであって、これらのことからすれば、本件発明
1において、
(G)成分を一般式(I)又は一般式(II)で表される少な
20 くとも1種であるとし、一般式(II)のR 4を炭素数12及び14の天然
アルコール由来の炭化水素と特定したことについて、格別の技術的意義が
あるとは認められない。
ウ 上記ア及びイによれば、炭素数12及び14の天然アルコール由来の炭
化水素が、甲1発明の「C12からC15のアルキル鎖」に包含されるも
25 のであることは当業者に明らかであり、天然アルコール由来の炭化水素と
合成アルコール由来の炭化水素とで、いずれか一方が他方よりも衣料用洗
浄剤の組成物に適しているとは認められず、どちらを選択するかについて
格別の技術的意義があるとも認められないから、アルコールエトキシレー
ト(AE)のC12ないし15(炭素数12~15)のアルキル鎖の原料
として、近年多く用いられている、油脂由来の偶数の炭素からなる直鎖の
5 炭化水素基を有する天然アルコール(炭素数12及び14の直鎖アルコー
ル)を用いることは、当業者が当然に想起するものであるといえる。
エ 甲1発明において、NI(7EO)の含有量は「5~25wt%」とさ
れているところ、特定された範囲内で含有量を規定することは、当業者の
設計事項にすぎないというべきである。
10 オ 以上によれば、甲1発明のNI(7EO)において、本件出願日当時の
技術常識を考慮し、
「C12からC15のアルキル鎖」として天然アルコー
ル(炭素数12及び14の直鎖アルコール)由来の炭化水素を採用し、か
つ、ノニオン界面活性剤((G)成分)の含有量を、甲1発明における含有
量の範囲内で検討して「20~25質量%」にすることによって、相違点
15 2に係る構成を導くことは、当業者が容易に想到することができたものと
いうべきである。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とす
ることは、甲1発明並びに甲10、11、14、36及び37に記載され
た各周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであ
20 るといえる。
⑵ 相違点1について
前記相違点2に係る判断と同様に、甲1発明の(C)成分に相当するMG
DA(Trilon M)の含有量についても、特定された範囲内で含有量
を規定することは、当業者の設計事項であるから、その含有量を、甲1発明
25 における含有量「0.1~5wt%」の範囲内で検討し、
「0.1~1.5質
量%」にすること(相違点1に係る構成を導くこと)は、当業者が容易に想
到することができたものといえる。
⑶ 相違点3について
上記⑵のとおり、甲1発明において、
(C)成分に相当するMGDA(Tr
ilon M)の含有量を、甲1発明における含有量「0.1~5wt%」
5 の範囲内で検討し、
「0.1~1.5質量%」にすることは、当業者の設計事
項にすぎない。
また、甲1発明において、アニオン界面活性剤である(A)成分の含有量
についても、その含有量の合計である「12~32wt%」の範囲内で、当
業者が適宜設定し得る事項である。
10 そして、
(A)成分と(C)成分を甲1発明に記載の各含有量の数値範囲内
で設定した結果として、A/C比を「最小で2.4、最大で320」の範囲
内である「10~100」とすること(相違点3に係る構成を導くこと)も、
当業者にとって格別の創意工夫を要するものであるとは解されず、当業者が
容易に想到することができたものといえる。
15 ⑷ 上記⑴ないし⑶のとおり、本件発明1は、甲1発明並びに甲10、11、
14、36及び37に記載された各周知技術に基づいて、当業者が容易に発
明をすることができたものであり、特許法29条2項により特許を受けるこ
とができない発明であると認めるのが相当である。
⑸ 被告の主張に対する判断
20 ア 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕⑴アのとおり、相違点2が設計事
項であるとは認められない旨主張する。
しかし、前記⑴イのとおり、本件明細書の記載からは、 (A)成分以外
「
の界面活性剤」という意味での(G)成分は、含まれていてもよいという
位置付けの成分であって、重要性が高くなかったものであり、本件発明1
25 で特定された(G)成分に含まれるG-2、G-2’及びG-3について
も、本件防臭効果評価において、これらの成分を用いた実施例が他の実施
例に比べて優れた防臭効果を得られていないことからすれば、本件発明1
において、
(G)成分を一般式(I)又は一般式(II)に特定したことに
格別な技術的意義があるとは認められず、少なくとも、ノニオン界面活性
剤((G)成分)の含有量を、甲1発明における含有量の範囲内で検討し、
5 「20~25質量%」としたことは、当業者における設計事項であると認
められる。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
イ 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕⑵イのとおり、甲1発明における
ノニオン界面活性剤成分を本件発明1の(G)成分に置き換える動機付け
10 がない旨主張する。
しかし、甲1発明のNI(7EO)と、本件発明1の(G)成分の式(I
I)で表される化合物とは、一般式において共通し、R 4(炭素数12及び
14の天然アルコール由来の炭化水素)の部分においてのみ異なるが(前
記2⑵イ) 炭素数12及び14の天然アルコール由来の炭化水素は、
、 甲1
15 発明のNI(7EO)のRである「C12からC15のアルキル鎖」に包
含されるものであることが明らかであり、かつ、天然アルコール由来の炭
化水素と合成アルコール由来の炭化水素とで、いずれか一方が他方よりも
衣料用洗浄剤の組成物に適しているとの技術常識があるとは認められな
いから(前記⑴ア、ウ)、甲1発明のNI(7EO)において、「C12か
20 らC15のアルキル鎖」の原料として、天然アルコール(炭素数12及び
14の直鎖アルコール)を選択する動機付けがなかったとはいえず、相違
点2に係る構成を想到し得ないとも解されない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
ウ 被告は、相違点1に関し、甲1発明において(C)成分の含有量を特定
25 することによって本件各発明に係る特定の洗浄剤組成物に至る動機付け
はないと主張する。
この点、甲1発明において(C)成分に相当する成分であるMGDA(T
rilon M)について、甲1は、製剤の抗菌効果を向上させる添加剤
の一つであるとしており(別紙3「文献の記載」1⑸)、MGDAのような
添加剤の使用はDCPPによる殺菌効果を高めるものであると記載して
5 いる(別紙3「文献の記載」1⑻)。
そうすると、甲1発明において、DCPPによる殺菌効果ないし抗菌効
果を高め、臭気の抑制効果を高めるのに十分となるように、その含有量を
甲1発明の範囲(0.1~5wt%)内で設定し、0.1ないし1.5質
量%にすることは当業者が適宜なし得たことにすぎないというべきであ
10 り、甲1発明の上記数値範囲の中から本件発明1の(C)成分の割合を選
択する動機付けがないとはいえず、相違点1に係る構成を想到し得ないと
も解されない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
エ 被告は、相違点3に関し、相違点3が設計事項にすぎないとはいえない
15 とか、甲1発明においてA/C比を調整することによって本件発明1に係
る特定の洗浄剤組成物に想到する動機付けはないなどと主張する。
しかし、上記ウのとおり、甲1の記載によれば、甲1発明において(C)
成分に相当するものであるMGDAは、DCPPによる殺菌効果を向上さ
せるための添加剤として配合され、その含有量の範囲が示されているので
20 あるから、その含有量の範囲内で数値の範囲を選択することは、当業者の
設計事項であるといえる。また、甲1発明には(A)成分に相当するアニ
オン界面活性剤が配合されているところ、甲31(別紙3「文献の記載」
7)、甲33(別紙3「文献の記載」8)には、それぞれ別紙3「文献の記
載」7及び8のとおりの記載が存在し、これらの記載によれば、アニオン
25 界面活性剤は、衣類の洗浄の成分であり、他の成分による消臭効果を向上
させる効果も有することが、本件出願日時点における技術常識であったと
認められるから、甲1発明のアニオン界面活性剤の含有量を、その洗浄等
の効果を高めるのに十分なように、甲1発明における範囲内(合計で12
~32wt%)で検討することも、当業者の設定事項であるといえる。
そうすると、
(A)成分と(C)成分を甲1発明に記載の各含有量の数値
5 範囲内で設定した結果として、A/C比を最小で2.4、最大で320(前
記2⑷ア)の範囲内である「10~100」とすることも、当業者にとっ
て格別の創意工夫を要するとはいえず、当業者の設計事項であるといえる
し、A/C比を「10~100」とする動機付けがないともいえないから、
相違点3に係る構成を想到し得ないとは解されない。
10 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
オ 被告は、前記第3の2〔被告の主張〕⑴ウ、⑵及び⑶のとおり、本件発
明1による効果は、甲1発明における相違点1ないし3に係る発明特定事
項を適用した場合に奏するものとして当業者が予測することができた範
囲を超える顕著なものであるから、容易想到性が否定される旨主張する。
15 本件発明1の効果、とりわけその程度が、予測できないものであるかに
ついては、本件出願日当時、本件発明1の構成が奏するものとして当業者
が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測す
ることができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点
から検討すべきである(最高裁平成30年(行ヒ)第69号令和元年8月
20 27日第三小法廷判決・裁判集民事262号51頁参照)。
本件審決が述べるとおり、本件明細書に記載された本件防臭効果評価の
実施例1ないし22の組成物のうち、本件発明1で規定された組成を充足
するものは、実施例6、7、9ないし14及び20であるが(本件審決書
51頁)、これらの実施例の防臭効果の評価結果は、実施例9が「2.3/
25 〇」、実施例10が「1.4/◎」、実施例11が「1.2/◎」であるが、
それ以外の実施例は、評価値が2.6ないし3.4であり、いずれも判定
は「△」である。本件防臭効果評価における評価及び判定の基準(前記1
⑷)からすれば、本件発明1の実施例に該当するものの防臭効果は、一定
の効果が得られたことは認められるものの、実施例9ないし11を除き、
その効果が明らかに優れたものであるとはいえない。本件発明1の実施例
5 に該当しない実施例の評価値は2.8ないし3.4であり、本件発明1の
実施例に該当するものの評価が、該当しないものの評価よりも高い(防臭
効果がより優れている)とも認められない。
実施例9ないし11のうち、実施例9は(D)成分(プロテアーゼ)が、
実施例10は(E)成分(硫酸亜鉛一水和物)が、実施例11は(D)成
10 分及び(E)成分が、それぞれ配合されており、これらの成分が配合され
たことによって、他の実施例よりも防臭効果が優れたものになったと考え
られる。
以上によれば、本件発明1に規定された組成を充足する組成物である実
施例の防臭効果の評価の結果をもって、本件発明1の効果が、本件各発明
15 の構成が奏するものとして当業者が予測することのできなかったもので
ある、あるいは当該構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を
超える顕著なものであるとは認められない。
すなわち、本件発明1による効果が、甲1発明における相違点1ないし
3に係る発明特定事項を適用した場合に奏するものとして当業者が予測
20 することができた範囲を超える顕著なものであるとは認められない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
⑹ア 以上によれば、本件発明1の甲1発明に対する進歩性に関する本件審決
の判断は誤りであり、本件発明1は、特許法29条2項により特許を受け
ることができない発明であると認められる。
25 イ 本件審決は、本件発明3ないし5について、これらの発明が、本件発明
1を直接又は間接に引用し、さらに特定事項を加えたものであることを前
提として、本件発明1と同様、特許法29条2項の規定により特許を受け
ることができない発明ではないと判断したが、本件発明1の進歩性に関す
る本件審決の判断が誤りであることは上記アのとおりであるから、本件発
明3ないし5に関する上記判断も誤りである。
5 ウ よって、取消事由2は理由がある。
4 取消事由3(本件各発明のサポート要件違反の有無に関する判断の誤り)に
ついて
⑴ 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範
囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載され
10 た発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載
により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである
か否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の
技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであ
るか否かを検討して判断すべきものと解される。
15 ⑵ 前記1⑶ウのとおり、本件各発明の課題は、衣類が湿った状態で菌が増殖
しやすい環境においても、防臭効果に優れる衣料用洗浄剤組成物を提供する
ことである。
⑶ 本件明細書においては、特定のアニオン界面活性剤と、フェノール型抗菌
剤と、アミノカルボン酸型キレート剤とを組み合わせることにより、上記本
20 件各発明の課題を解決できることが見出されたことが示されている(段落【0
005】 。
)
そして、本件明細書に記載された本件防臭効果評価では、本件発明1に規
定された組成を充足する組成物も実施例の一部で用いられている。本件防臭
効果評価の方法は前記1⑷のとおりであり、衣類が湿った状態で菌が増殖し
25 やすい環境における試験条件であると認められる。本件発明1に規定された
組成を充足する組成物の防臭効果の評価結果は、前記3⑸オのとおりであり、
(D)成分又は(E)成分が含有されていないものも含め、一定の防臭効果
が得られたことが認められる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らし、本件発明1
は、当業者が前記⑵の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、か
5 つ、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
また、本件発明3ないし5は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さ
らに特定事項を加えたものであるから、本件発明1と同様、上記⑵の本件各
発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
⑷ 原告の主張に対する判断
10 ア 原告は、前記第3の3〔原告の主張〕⑴のとおり、本件各発明は、本件
各発明の課題を解決できると認識することのできないものであると主張
する。
しかし、本件発明1の実施例に該当するものの防臭効果が、
「3点:異臭
がやや強く感じられる」という程度であったとしても、一定の防臭効果が
15 得られたことは、本件防臭効果評価の結果によって認められる。
(E)成分
を配合した実施例10及び11は、他の実施例に比べてさらに優れた防臭
効果が得られているが(前記3⑸オ) (E)成分を含有しない本件発明1
、
の実施例についても一定の防臭効果が得られたといえる。
そうすると、本件各発明の効果が予測できない顕著なものであったとは
20 いえないものの(前記3⑸オ) サポート要件違反の有無についてみれば、
、
本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らし、本件発明1は、当業者が
前記⑵の課題を解決できると十分に認識できる範囲のものであり、かつ、
発明の詳細な説明に記載されたものということができる。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
25 イ 原告は、前記第3の3〔原告の主張〕⑵のとおり、本件明細書からは、
本件発明1の(C)成分としてメチルグリシン二酢酸三ナトリウム(MG
DA)以外を用いた場合についてサポートされているとは認められないと
主張する。
この点、本件防臭効果評価において本件発明1で規定された組成を充足
する組成物の実施例(実施例6、 9ないし14及び20)
7、 は全て、
(C)
5 成分としてC-1:メチルグリシン二酢酸三ナトリウムが用いられている。
しかし、
(C)成分はアミノカルボン酸型キレート剤であるところ(本件
明細書の段落【0019】 、式(c1)で表される化合物の中ではメチル
)
グリシン二酢酸三ナトリウム(MGDA)が特に望ましいとされているが
(段落【0022】 、その他にも、式(c1)中、A、M、nがメチルグ
)
10 リシン二酢酸三ナトリウムと異なるものも用い得る旨の記載がされてい
る(段落【0021】 【0022】 。
、 )
また、甲13(別紙3「文献の記載」9)には、別紙3「文献の記載」
9のとおりの記載が存在するところ、この記載からは、式(c1)で表さ
れる化合物が広く洗浄剤組成物におけるキレート剤として好適に用いら
15 れることが理解される。甲17(別紙3「文献の記載」10)及び甲18
(別紙3「文献の記載」11)には、それぞれ別紙3「文献の記載」10、
11のとおりの記載が存在し、これらの記載からも上記同様の理解を得る
ことができる。
したがって、式(c1)で表される化合物については、A、M、nがメ
20 チルグリシン二酢酸三ナトリウムの場合の数値である場合に限らず、キレ
ート剤としての作用効果を奏することは、本件出願日当時の技術常識であ
ったと認められる。
また、本件防臭効果評価の比較例で用いられた(C-3)成分(クエン
酸三ナトリウム)を用いた比較例の防臭効果が各実施例より劣っているこ
25 とをもって、式(c1)で表される化合物がメチルグリシン二酢酸三ナト
リウムとわずかでも異なれば防臭効果が異なってくるとか、式(c1)の
nの数が多くなると防臭効果が得られなくなると認められることにはな
らない。
以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明及び本件出願日当時の技
術常識に照らし、本件明細書に接した当業者は、本件発明1の(C)成分
5 としてメチルグリシン二酢酸三ナトリウム以外を用いた場合であっても、
本件発明1は前記⑵の課題を解決することができると認識すると認めら
れる。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、前記第3の3〔原告の主張〕⑶のとおり、本件発明1の(G)
10 成分に関し、G-1(椰子脂肪酸)を含まない場合についてまでサポート
されているとは認められないと主張する。
しかし、甲19(別紙3「文献の記載」12)及び甲20(別紙3「文
献の記載」13)には、それぞれ別紙3「文献の記載」12及び13のと
おりの記載があり、これらの記載によれば、衣料用洗浄剤において、抑泡
15 やすすぎ性の向上のための泡コントロール剤として、椰子脂肪酸などの脂
肪酸が少量添加されることは、本件出願日当時における技術常識であった
と認められる。
そうすると、本件防臭効果評価において本件発明1で規定された組成を
充足する組成物の実施例が全てG-1(椰子脂肪酸)を含んでいるとして
20 も、本件明細書に接した当業者は、上記技術常識に基づき、椰子脂肪酸が
本件発明1の課題の解決のために必要な成分ではないことを理解すると
認められる。
原告が指摘する甲12は、著者が明らかでないインターネット上のブロ
グの記載と認められ、その記載の内容が本件出願日当時の技術常識である
25 と認めることはできない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑸ 以上によれば、取消事由3は理由がない。
5 結論
以上のとおりであり、取消事由1及び3は理由がないが、取消事由2は理由
があり、本件審決のうち、特許第6718777号の請求項1及び3ないし5
5 に係る部分は取り消されるべきものであって、原告の請求は認容されるべきで
ある。
よって、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
東 海 林 保
裁判官
20 今 井 弘 晃
25 裁判官
水 野 正 則
(別紙1審決書写し、別紙2特許公報写し省略)
別紙3
文献の記載
1 甲 1 ( IP.com, Biocidal Compositions containing 4,4’-dichloro 2-hydroxy
5 diphenylether (DCPP), The IP.com Journal, IPCOM000213522D、2011年
(平成23年)12月20日)
⑴ 「4,4’-ジクロロ2-ヒドロキシジフェニルエーテル(DCPP)を含有
する抗菌組成物
抗菌化合物4,4’-ジクロロ2-ヒドロキシジフェニルエーテル(DCPP)
10 は、洗浄剤および消毒剤に配合することができます。これらは、硬質表面の洗
浄製品、洗濯用洗剤、布地用コンディショナー、手洗い食器洗い製品、硬質表
面の消毒および除菌用製品、万能クリーナー、床用クリーナー、ガラスクリー
ナー、キッチンクリーナー、バスクリーナー、衛生クリーナー、布地の衛生リ
ンス製品、カーペットクリーナー、家具クリーナー、さらには硬質および軟質
15 の表面の調整、シール、ケアまたは処理用製品であり得ます。
それらの洗浄及び殺菌製品は、固体、粉末、顆粒、ケーキ、バー、錠剤、液
体、ペースト又はゲルであることができる。また、すぐに使用できる製品であ
る場合もあれば、洗浄、洗濯、処理、調整工程の前または最中に希釈される濃
縮物である場合もあります。
20 DCPPを含むこれらの洗浄および消毒製品の目的の中には、製品で処理さ
れる硬質および軟質表面上の細菌、真菌、酵母、ウイルス及び藻類のような微
生物の死滅、制御および/または増殖の抑制が含まれる。DCPPはまた、こ
れらの表面上の前述の微生物の代謝を操作するという意味でも利点を有し、そ
の結果、臭気を抑制する可能性がある。殺生物効果又は抗菌効果は、処理され
25 た物品および/または表面が洗浄/殺菌製剤またはその希釈液と直接接触して
いるときに起こり、処理期間内に終了する即効性であり得る。しかし、抗菌効
果は、適用後、処理された表面で起こり続ける、より長い持続的な効果である
こともできる。以下では、この段落で言及されたこれらの効果すべてを指すた
めに、
『抗菌効果』という語句を用いることにする。
(1頁1~25行、
「甲第1
号証の抄訳」1、2頁)
5 ⑵ 「これらの言及された洗浄及び抗菌製品において、DCPPは、DCPPの
抗菌効果を強化、改善、延長、復元、増強、支持、加速又は拡大するため、又
は製品中のDCPP活性分子を安定化するために、さらなる化学物質、製品、
混合物及び/又はポリマー(下記c-fを参照)と組み合わせることができる。
DCPP活性分子の安定化とは、例えば、洗浄製品中のDCPP自体の化学分
10 解の抑制、DCPPを含む製品の変色の抑制、またはDCPPを有する洗浄製
品の不快な臭いの抑制を意味する。
ここで開示されているのは、すなわち、以下成分を含む第1段落に記載の洗
浄及び消毒剤製品である。
(a)0.01-10% DCPP
15 (b)0-80%、例えば0.5-20%の1種以上の界面活性剤
(c)0-50%、例えば0.1-10%の1種以上のハイドロプロピック剤
(d)DCPPに加え、0-50%、例えば0.01-20%の1種以上の殺
菌活性物質
(e)0-50%、例えば0.1-20%の、洗浄または殺菌製品の抗菌効果
20 を改善し得る1種以上のさらなる添加剤
(f)0-10%、例えば0.001-5%の、組成中の活性DCPPを安定
化させることができる1種以上の薬剤を含む。
以下、
(b)~(f)の成分の例について説明する。(3頁10~29行、
」 「甲
第1号証の抄訳」2、3頁)
25 ⑶ 「(b)界面活性剤
界面活性剤(b)は、通常、アニオン性、カチオン性、ノニオン性又は両性
であってよい少なくとも1種の界面活性剤からなる。
アニオン性界面活性剤は、例えば、硫酸塩、スルホン酸塩、カルボン酸塩の
界面活性剤またはそれらの混合物であることができる。しばしば用いられるの
は、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸
5 塩、オレフィンスルホン酸塩、脂肪酸塩、アルキルおよびアルケニルエーテル
カルボン酸塩または α-スルホン脂肪酸塩またはそのエステルである。
しばしば用いられるスルホン酸塩は、例えば、アルキル基中に10~20個
の炭素原子を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル基中に8~18
個の炭素原子を有するアルキル硫酸塩、アルキル基中に8~18個の炭素原子
10 を有するアルキルエーテル硫酸塩、椰子油または獣脂から得られ、以下を有す
る脂肪酸塩である。
アルキル部分の炭素原子数は8~18個である。アルキルエーテル硫酸塩に
添加されるエチレンオキサイド単位の平均モル数は、1~20であり、好まし
くは1~10である。アニオン性界面活性剤におけるカチオンは、アルカリ金
15 属カチオンが好ましく、特にナトリウムまたはカリウム、より好ましくはナト
リウムである。好ましいカルボキシレートは、式R 19 ’-CON(R 20’)CH 2
COOM 1、ここでR 19’はC9 -C17 アルキルまたはC 9 -C17 アルケニル、R
20 ’ はC1 -C4 アルキル、M 1 はアルカリ金属、特にナトリウムのサルコシン酸
塩である。
20 ノニオン性界面活性剤は、例えば、第1級または第2級アルコールエトキシ
レート、特に、アルコール基当たり平均1~20モルのエチレンオキシドでエ
トキシル化されたC 8 -C 20 脂肪族アルコールであり得る。アルコール基当た
り平均1~10モルのエチレンオキシドでエトキシル化された第1級および第
2級C 10 -C 15脂肪族アルコールがより好ましい。非エトキシル化ノニオン性
25 界面活性剤、例えばアルキルポリグリコシド、グリセロールモノエーテルおよ
びポリヒドロキシアミド(グルカミド)も同様に使用することができる。
アニオン性及び/又はノニオン性界面活性剤に加えて、組成物はカチオン性
界面活性剤を含んでもよい。可能なカチオン性界面活性剤には、すべての一般
的なカチオン性表面活性化合物、特に織物柔軟化効果を有する界面活性剤が含
まれる。 (3頁30行~4頁17行、
」 「甲第1号証の抄訳」4、5頁)
5 ⑷ 「(d)さらなる殺菌活性分子
・・・JMアクティケアのような銀化合物、または例えばクエン酸銀(Ti
nosan SDC ®)のような有機銀複合体、または銀ゼオライトや銀ガラス
化合物(例えばイルガガードB500、イルガガードB6000、イルガガー
ドB7000)等、
(WO-A-99/1879、EP1041879B1)に
10 記載の無機銀複合体等;Cu、Zn、Sn、Au等の金属の無機または有機複
合体・・」(5頁26行、7頁34~39行、「甲第1号証の抄訳」5頁)
⑸ 「(e)製剤の抗菌効果を向上させるさらなる添加剤
・・・他の添加剤(e)は、金属キレート剤および錯化剤からなり、例えば、
EDTA、NTA、アラニン二酢酸またはホスホン酸、エチレンジアミン四酢
15 酸(EDTA) β-アラニン二酢酸
、 (EDETA) ホスホンメチルキトサン、
、
カルボキシメチルキトサン、ヒドロキシエチレンジアミン四酢酸、ニトリル三
酢酸(NTA)およびエチレンジアミン二酢酸(S,S-EDDS、R,R-
EDDSまたはS,R-EDDS)、トリポリリン酸塩、ポリカルボン酸塩、有
機リン酸塩、アミノアルキレンポリ(アルキレンホスホン酸)、MGDA(Tr
20 ilon ® M、BASF)、Dissolvine ® GL(AKZO)などの
アミノ酸アセテートの他、ベイピュア ® CX(Lanxess)などのアスパ
ラギン酸誘導体などである。(7頁41行、8頁3~12行、
」 「甲第1号証の抄
訳」6頁)
⑹ 「処方例
25 以下のとおり殺菌性製品の組成物(I~LXII)が開示されている。以下、
各製剤(I~XXV)について、各組成番号ごとに、その組成、製造情報、技
術情報、および抗菌性または殺生物性活性を記載する。製剤(I~XXV)に
おいて、Tinosan ® HP100は、DCPP30%と1,2-プロピレ
ングリコール70%との混合物である。」
(9頁10~15行、
「甲第1号証の抄
訳」6、7頁)
5 ⑺ 「抗菌性液体洗濯洗剤の処方XLIX~LII(数値は処方中のwt%)
これらの組成物において、酵素は純酵素のパーセントで示される。NI(7
EO)はR-(OCH 2 CH 2)nOHを指すところ、このRはC12からC15
のアルキル鎖であり、n=7である。NaLASは直鎖アルキルベンゼスルホ
10 ン酸塩(LAS)を、SLES(3EO)はC 12 -C18 のアルキルポリエトキ
シレート(3.0)硫酸塩を、SDSはドデシル硫酸塩ナトリウムを指す。
これらの液体洗剤組成物XLIX~LIIは、例えば肺炎桿菌、黄色ブドウ
球菌、サルモネラ菌および大腸菌に対して、AATCC 100-2004法
に従って評価すると、処理した繊維(綿、ポリエステル、ナイロン、ウールな
15 ど)に対して非常に優れた長期にわたる抗菌効果を示す。 (36頁1行~最終
」
行、「甲第1号証の抄訳」7、8頁)
⑻ 「添加物による向上効果
・・・
(XXXIV)0.025% DCPP、35% 1,2-プロピレング
リコール、3.13% MGDA(Trilon ® M、有効成分40%、BA
SF、納品時に使用)、水で100%にメスアップしpH=8.0になるように
5 クエン酸で調整した抗菌・殺菌性混合物
処方XXXIIIとXXXIVは全て80%濃度でEN1276殺菌試験(洗
浄条件(0.03%アルブミン) 5分接触、
、 室温、緑膿菌ATCC15442)
を行った。処方XXXIIIは2logのLOG減少を示し、処方XXXIV
は5log以上のLOG減少を示した。従って、MGDAのような添加剤の使
10 用はDCPPによる殺菌効果を高めるものである。 (31頁下から7行、下か
」
ら3行~32頁6行、「甲第1号証の抄訳(追加分) )
」
2 甲10(大矢勝、界面活性剤とは[7]:AE(アルコールエトキシレート)、
2006年(平成18年)9月24日)
15 「アルコールエトキシレート(Alchol Ethoxylates,略称A
E)はLASと並んで大量に使用されている非イオン界面活性剤です。
⑴ AEの化学構造
AEは一般にR-O-(CH 2 CH 2 O) n -Hの化学式で表されますが、こ
れは第1級AEと呼ばれるタイプです。この界面活性剤はアルキル基の鎖長と
20 エチレンオキサイド(CH 2CH 2 O)の付加モル数で非常に多種類のものが製
造されます。
一般の洗剤に含まれるものはアルキル基がC12~C15を主体とし、エチ
レンオキサイドの付加モル数の平均値が3~10程度のものが欧州では商業的
に重要度の高いものになっており、生態影響評価においては、アルキル基の炭
25 素数13.3、エチレンオキサイド付加モル数8.2に標準化して毒性を評価
しています。日本では炭素数12~15のAEがPRTR法の第一種指定化学
物質になっています。
原料として油脂由来の高級アルコールと石油由来の高級アルコールが利用さ
れます。油脂由来の高級アルコールは、油脂を加水分解して脂肪酸または脂肪
酸エステルを高圧・高温条件下で水素で還元して得られます。アルキル基は直
5 鎖型で、水酸基はアルキル基の末端につながります。天然物由来の高級アルコ
ールは不飽和のオレイルアルコールを含んでいたり、炭素数の大部分が偶数で
あることが特徴です。天然物由来の脂肪酸の炭素数は、その殆どが偶数である
ためです。
石油由来の高級アルコールは、製造法によりチーグラーアルコール、オキソ
10 アルコール、そして第2級アルコールがあります。チーグラーアルコールは構
造的に天然由来の高級アルコールと同様で、直鎖型で端末に水酸基を有します。
オキソアルコールは炭素鎖の途中にメチル基(-CH 3 )の分岐がある構造で
す。第2級アルコールは-O-(CH 2CH 2O) n -Hの部分がアルキル基の
途中につながって一箇所だけ枝分かれのある形になったタイプを指します。
15 以前は石油由来の高級アルコールが油脂由来の高級アルコールよりもかなり
安価でしたが、最近はその価格差が少なくなり、天然油脂由来の高級アルコー
ルが多く用いられるようになってきました。 (1頁左欄1行~右欄11行)
」
3 甲11(平成18年度NEDO成果報告資料-アルコールエトキシレート詳細
20 リスク評価書-、2007年(平成19年)4月27日、要約-0~3頁)
⑴ 「本書は、アルコールエトキシレート(以後「AE」と略す、別名「ポリオ
キシエチレンアルキルエーテル」)に関する詳細リスク評価の成果をまとめた
ものである。 (要約-1頁5~6行)
」
⑵ 「2.生産と流通に関する情報
25 AEの生産量は2002年から増加する傾向にあり、2003年の生産量(他
物質の誘導体原料としての分も含む)は約17万 t で、非イオン系界面活性剤
の3割強を占めている。また、化管法指定範囲のC12~15の同族体群の流
通量は、全AE流通量の6~8割を占めている。 (要約-3頁8~11行)
」
⑶ 「4.国内市販洗浄剤に含まれるAE同族体組成
本詳細リスク評価のために実施したAE同族体組成の委託調査の結果、洗浄
5 剤製品ごとにAEの同族体組成は異なっていた。また、一般家庭での使用率が
高い洗浄剤製品中には、C12~15EO0~15の範囲の同族体が多く配合
されており、その殆どが偶数のC鎖を持つものであることが分かった。 (要約
」
-3頁20~23行)
10 4 甲14(加藤秋男編著、パーム油・パーム核油の利用、初版第1刷、1990
年(平成2年)7月31日、株式会社幸書房、212~215頁)
「天然の油脂を構成する脂肪酸あるいはアルコールの特徴は、偶数の炭素からな
る直鎖の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を有することである。したがって、こ
れらを原料として得られる天然高級アルコールも、偶数の炭素鎖を有している。
15 合成アルコールでも、エチレンを原料とするチーグラー法では、天然と同じ偶数
の炭素鎖を有する直鎖で飽和の高級アルコールが得られるが、それ以外の方法で
は奇数あるいは分枝のアルキル基を含んだものしか得られない。 (212頁第1
」
1~17行)
20 5 甲36(特開平1-174599号公報)
「成分B:エチレングリコールエーテル基を2~4個有する直鎖状1級C 12 -C
15 アルコールまたは2位にメチル分枝を有する相当するアルコール10~15
重量%、
成分C:エチレングリコールエーテル基を6~8個有する直鎖状飽和1級C 12
25 -C 15 アルコールまたは2位にメチル分枝を有する相当するアルコール4~8
重量%、 (702頁右上9~16行)
」
「成分Bは、アルコール基中に炭素原子を12~15個有し、天然または合成の
アルコール(オキソアルコール)から誘導し得る。 (702頁右下3~5行)
」
「成分Cは、成分Bと同様のアルコールまたはアルコール混合物から誘導し、グ
リコールエーテル基を平均6.5~7.5個有することが好ましい。 (702頁
」
5 右下11~13行)
6 甲37(橋本賀之、界面活性剤の環境配慮と新しい機能追求理想材料を追求す
るアプローチ、第一工業製薬社報 No.551 2010冬)
「環境配慮型のアルコールエトキシレート(AE)は、天然由来またはオキソ法
10 由来(主に2-メチル分岐体と直鎖体の混合物)の炭素数12~15の高級アル
コールにエチレンオキサイド(EO)を付加重合させて得られる製品が主流であ
る。 (11頁左欄6~10行)
」
7 甲31(洗剤・洗浄百科事典(新装版)、朝倉書店、2011年(平成23年)
15 3月10日第2刷)
「陰イオン界面活性剤は、衣料用や身体用の洗浄剤をはじめとして、最も多く用
いられている界面活性剤である。 (70頁5~6行)
」
8 甲33(特開2013-136682号公報)
20 「【0016】
<(A)成分>
(A)成分は、アニオン界面活性剤である。
(A)成分を含有することで、被洗浄
物に付着した汚れや臭気成分を良好に除去できると共に、消臭効果の向上が図れ
る。これは、繊維製品用洗浄剤が洗浄水に分散された洗浄液中で、
(A)成分が、
25 (B)成分と(C)成分とで形成された錯体を取り込むと共に、
(D)成分と会合
体を形成し、この会合体が繊維製品に吸着することで、消臭効果を発揮するため
と考えられる。」
9 甲13(特表2012-515827号公報)
「【技術分野】
5 【0001】
本発明は、キレート剤のアルカリ土類金属塩、それを含む組成物、並びにそ
れに関する方法及び使用に関する。本発明は詳細には、良好な酸化安定性を与
えるそのような塩、組成物、方法、及び使用に関する。
【0002】
10 本発明は、詳細には漂白用途での使用における、重金属及び遷移金属のキレ
ート剤に特に関する。
【背景技術】
【0003】
過酸化物及び過酸などの化合物を含む活性酸素系漂白組成物は、幅広い種類
15 の用途において、例えば洗濯、食器洗浄、及び他の洗浄用組成物において;パ
ルプ及び紙の漂白において;及びパーソナルケア組成物において、一般に使用
される。」
「【0026】
好ましくは、キレート剤は、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、グルタミ
20 ン酸,N,N-二酢酸(GLDA,glutamic acid,N,N-diacetic acid)、・・・
から選択される。・・・
【0028】
酸性キレート剤は、MGDA、GLDA、・・・から選択されるのが適切で
ある。
25 【0029】
好ましくは、酸性キレート剤は、MGDA、GLDA、・・・から選択され
る。
【0030】
メチルグリシン二酢酸(MGDA)は式Iに示される構造を有する:
【0031】
5 【化1】
【0032】
MGDAはエナンチオマーか又はその混合物として存在してもよい。好まし
くはこれはラセミ混合物として存在する。
10 【0033】
グルタミン酸N,N-二酢酸(GLDA)は式IIに示される構造を有する:
【0034】
【化2】
」
10 甲17(特表2017-536306号公報)
「【0009】
本発明は、水溶性洗浄用パウチ、すなわち洗浄組成物を収容するパウチを提供
するものである。パウチは、単一の区画又は複数の区画を有することができる。
20 少なくとも1つの区画が液体組成物を含み、その液体組成物はアミノカルボン酸
錯化剤を含む。錯化剤は、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、グルタミン酸二
酢酸(GLDA)、それらの塩及びそれらの混合物から好ましくは選択され
る。・・・」
11 甲18(特許第3889250号公報)
5 「【0020】
(a1)成分としては、分子内にCOOM基(MはH、Na、K、NH 4 )を2~
5個、好ましくは3~5個有する化合物が挙げられる。中でも洗浄性能、環境適
性の点で下記一般式(I)で表される化合物が好ましい。
【0021】
10 【化1】
【0022】
〔式中、Rは-(CH 2 )n -Aであり、AはH、OH、COOMであり、MはH、
Na、K、NH 4、好ましくはNaであり、nは0~5の数を示す。〕」
12 甲19(特開昭61-288000号公報)
「本発明(c)成分である炭素数8~20の脂肪酸は、飽和脂肪酸又は不飽和脂
肪酸のどちらでもよく0.5~3%配合される。この様な脂肪酸としてはラウリ
ン酸を主成分とする椰子酸、オレイン酸を主成分とする牛脂脂肪酸、パーム脂肪
20 酸が好ましい。
脂肪酸が0.5%未満ではすすぎ性に対する効果は見られず、3%を越えると
すすぎ性に寄与する効果は変らず、逆に洗濯時における起泡性を悪くするため好
ましくない。」(744頁左上12~右上2行)
「本発明の液体洗剤組成物は・・・更に陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性
剤及び脂肪酸を特定量配合したことにより洗浄力は勿論、洗濯中には粉末洗剤に
匹敵する豊かな泡立ちを示し、すすぎ時には速やかに泡が消えるという特徴を有
する。」(745頁左下5~14行)
5 13 甲20(特許庁公報10(1998)-25〔7159〕周知・慣用技術集(衣
料用粉末洗剤)、日本国特許庁、平成10年3月26日)
「3.1.1.7 高級脂肪酸塩(石けん)
(中略)
【原料】
10 ・脂肪酸
・天然油脂(ヤシ油、牛脂、大豆油、パーム油、パーム核油、綿実油、豚脂等)
・天然油脂由来の脂肪酸及びメチルエステル
(中略)
【物性/特性/特徴】
15 (中略)
・泡コントロール剤(すすぎ性、低泡性)として配合される。
【配合量】
かつては、石けんを主基剤とする粉末洗剤も多く見られたが、cmcが高いた
め使用量が多くなる上に、低温溶解性や耐硬水性に劣るため、主用途は泡コント
20 ロール剤として二次的に添加されることが多い。この目的では最大10%配合さ
れる。」(13、14頁)
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