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令和4(ワ)2058特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 一部認容 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
裁判年月日 令和6年5月30日
事件種別 民事
当事者 原告城東テクノ株式会社
被告YPC株式会社
法令 特許権
特許法102条2項6回
特許法102条3項2回
特許法36条6項2号1回
特許法36条6項1号1回
特許法36条4項1号1回
特許法126条6項1回
民法709条1回
キーワード 実施48回
侵害34回
特許権24回
無効22回
差止7回
間接侵害7回
許諾4回
訂正審判2回
損害賠償1回
審決1回
進歩性1回
新規性1回
主文 1 被告は、別紙「被告製品目録」記載の各製品を製造し、譲渡し、譲渡の申出
2 被告は、別紙「被告製品目録」記載の各製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、1882万4590円及びうち1119万3000円25
6月30日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを4分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担
6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。5
事件の概要 1 本件は、本件各特許権を有する原告が、被告製品1を製造等する被告の行為 が本件特許権1の侵害(間接侵害)であり、被告各製品を製造等する被告の行為が 本件特許権2及び同3の各侵害(直接侵害)であると主張して、被告に対し、①特15 許法100条1項に基づき被告各製品の製造等の差止めを、②同条2項に基づき被 告各製品の廃棄を、③民法709条に基づき、損害賠償金9407万2953円及 びこれに対する令和4年3月31日(訴状送達日の翌日であり、不法行為よりも後 の日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払 を、それぞれ請求する事案である(なお、①及び②は本件特許権2及び同3の侵害20 を理由とする請求であり、③は本件各特許権の侵害を理由とする請求である。)。 2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定 できる事実) (1) 当事者 原告は、建築用資材の製造、販売等を目的とする株式会社である。25 被告は、各種プラスチック製品の開発及び販売等を目的とする株式会社である。

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判決文

令和6年5月30日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和4年(ワ)第2058号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日 令和6年3月21日
判 決
原 告 城 東 テ ク ノ 株 式 会 社
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 速 見 禎 祥
同 溝 内 伸 治 郎
10 同訴訟代理人弁理士 石 田 知 里
被 告 Y P C 株 式 会 社
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 山 本 健 策
15 同 福 永 聡
同 本 田 輝 人
同訴訟代理人弁理士 森 治
同補佐人弁理士 石 川 大 輔
同 田 中 宏 樹
20 同 橋 本 卓 行
主 文
1 被告は、別紙「被告製品目録」記載の各製品を製造し、譲渡し、譲渡の申出
をしてはならない。
2 被告は、別紙「被告製品目録」記載の各製品を廃棄せよ。
25 3 被告は、原告に対し、1882万4590円及びうち1119万3000円
に対する令和4年3月31日から、うち763万1590円に対する令和5年
6月30日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを4分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担
とする。
5 6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
本判決で用いる主な略語は、別紙「略語表」記載のとおりである。
第1 請求
1 主文第1項、第2項同旨
10 2 被告は、原告に対し、9407万2953円及びこれに対する令和4年3月
31日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、本件各特許権を有する原告が、被告製品1を製造等する被告の行為
が本件特許権1の侵害(間接侵害)であり、被告各製品を製造等する被告の行為が
15 本件特許権2及び同3の各侵害(直接侵害)であると主張して、被告に対し、①特
許法100条1項に基づき被告各製品の製造等の差止めを、②同条2項に基づき被
告各製品の廃棄を、③民法709条に基づき、損害賠償金9407万2953円及
びこれに対する令和4年3月31日(訴状送達日の翌日であり、不法行為よりも後
の日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払
20 を、それぞれ請求する事案である(なお、①及び②は本件特許権2及び同3の侵害
を理由とする請求であり、③は本件各特許権の侵害を理由とする請求である。)。
2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定
できる事実)
(1) 当事者
25 原告は、建築用資材の製造、販売等を目的とする株式会社である。
被告は、各種プラスチック製品の開発及び販売等を目的とする株式会社である。
(2) 原告の特許権
原告は、別紙「特許目録」記載の本件各特許に係る特許権(本件各特許権)を有
している。ただし、本件特許1は存続期間が満了している。(甲1の1ないし甲3
の2)
5 なお、原告は、本件訴訟提起後の令和5年2月3日、本件特許2の請求項1ない
し4の特許請求の範囲の記載に係る訂正審判請求をし(訂正2023-39001
4)、同年4月6日、上記請求を認める審決があり、これが確定したため、請求原
因を本件訂正後の請求項1及び3の発明に基づくものに変更した 。(甲28、3
2)
10 (3) 構成要件の分説
本件発明1、本件訂正発明2-1、本件訂正発明2-3及び本件発明3の各構成
要件は、別紙「蓋(フロア仕様)の構成」、別紙「被告各製品の構成」及び別紙
「充足論(本件発明3)」の各「構成要件」欄記載のとおり分説される。
(4) 被告各製品等の構成及び構成要件充足性
15 ア 被告各製品は、「ふた枠」、「裏蓋」、「外枠」、「ふた板カットガイド」
及び「ねじ」等の各部材から構成される(ただし、被告製品1はフロア用であり、
フロア材を裏蓋に「ふた板固定ねじ」で取り付けるのに対し、CF用(クッション
フロア仕様)である被告製品2は、クッションフロアを裏蓋に両面テープで取り付
けるため、「ふた板カットガイド」や「ふた板固定ねじ」等は付属していな
20 い。)。(甲5)
イ 「蓋(フロア仕様)」は、被告製品1の「裏蓋」及び「ふた枠」に「フロア
材」を組み合わせて構成されるものであり、その概要は、別紙「被告各製品の構造
(概要)」1のとおりである。上記のように構成される床の開口蓋を、以下、単に
「蓋(フロア仕様)」ということがある。
25 被告製品1は、第1世代から第4世代まで形状に変遷があるが(乙2)、構成要
件充足性に関しては同一の構成であることに争いはない。
「蓋(フロア仕様)」は、本件発明1の構成要件1A、1C、1D、1Fを充足
する。(争いなし)
ウ 被告各製品は、別紙「 被告各製品の構造(概要)」2のとおりの構造(形
状)であり、本件訂正発明2-1の構成要件2C、2E、本件訂正発明2-3の 構
5 成要件2C、2L、本件発明3の構成要件3B、3Eをそれぞれ充足する。(争い
なし)
(5) 被告の行為
被告は、少なくとも令和2年6月から令和5年6月末日までの間、被告各製品を
製造及び販売した。(弁論の全趣旨)
10 3 争点
(1) 本件発明1の技術的範囲への属否(被告製品1に関する間接侵害の成否)
(争点1)
ア 文言侵害の成否(争点1-1)
構成要件1B、1Eの充足性
15 イ 均等侵害の成否(争点1-2)
(2) 被告各製品の本件訂正発明2-1の技術的範囲への属否(争点2)
構成要件2A’、2B、2D’の充足性
(3) 被告各製品の本件訂正発明2-3の技術的範囲への属否(争点3)
構成要件2A、2B、2D、2Fないし2Kの充足性
20 (4) 被告各製品の本件発明3の技術的範囲への属否(争点4)
構成要件3A、3C、3Dの充足性
(5) 本件発明1に関する無効理由の有無(争点5)
ア 明確性要件違反(争点5-1)
イ サポート要件違反(争点5-2)
25 (6) 本件訂正発明2-1に関する無効理由の有無(争点6)
ア サポート要件違反(争点6-1)
イ 実施可能要件違反(争点6-2)
ウ 明確性要件違反(争点6-3)
エ 訂正要件違反(争点6-4)
(7) 本件発明3に関する無効理由の有無(争点7)
5 明確性要件違反
(8) 損害の発生及びその額(争点8)
(9) 差止め及び廃棄の必要性の有無(争点9)
第3 争点についての当事者の主張
1 本件発明1の技術的範囲への属否 (被告製品1に関する間接侵害の成否)
10 (争点1)
「蓋(フロア仕様)」の構成についての当事者の主張は、別紙「蓋(フロア仕様)
の構成」の「原告の主張」欄及び「被告の主張」欄各記載のとおりである。
(1) 文言侵害の成否(争点1-1)
本件発明1に係る構成要件充足性(文言侵害)についての当事者の主張は、別紙
15 「充足論(本件発明1・文言侵害)」の「蓋(フロア仕様)の構成要件充足性」欄
の「原告の主張」欄及び「被告の主張」欄各記載のとおりである。
(2) 均等侵害の成否(争点1-2)
本件発明1に係る構成要件充足性(均等侵害)についての当事者の主張は、別紙
「充足論(本件発明1・均等侵害)」の「蓋(フロア仕様)の構成要件充足性」欄
20 の「原告の主張」欄及び「被告の主張」欄各記載のとおりである。
2 被告各製品の本件訂正発明2-1の技術的範囲への属否(争点2)
(1) 被告各製品の構成についての当事者の主張は、別紙「被告各製品の構成」
の「被告各製品」欄の「原告の主張」欄及び「被告の主張」欄各記載のとおりであ
る。
25 (2) 本件訂正発明2-1に係る構成要件充足性についての当事者の主張は、別
紙「充足論(本件訂正発明2-1)」の「構成要件充足性」欄の「原告の主張」欄
及び「被告の主張」欄各記載のとおりである。
3 被告各製品の本件訂正発明2-3の技術的範囲への属否(争点3)
(1) 被告各製品の構成についての当事者の主張は、上記2(1)と同じである。
(2) 本件訂正発明2-3に係る構成要件充足性についての当事者の主張は、別
5 紙「充足論(本件訂正発明2-3)」の「構成要件充足性」欄の「原告の主張」欄
及び「被告の主張」欄各記載のとおりである。
4 被告各製品の本件発明3の技術的範囲への属否(争点4)
(1) 被告各製品の 構成についての当事 者の主張は、別紙「 充足論(本件発明
3)」の「被告各製品」欄の「原告の主張」欄及び「被告の主張」欄各記載のとお
10 りである。
(2) 本件発明3に係る構成要件充足性についての当事者の主張は、別紙「充足
論(本件発明3)」の「構成要件充足性」欄の「原告の主張」欄及び「被告の主張」
欄各記載のとおりである。
5 本件発明1に関する無効理由の有無(争点5)
15 本件発明1に関する無効理由の有無についての当事者の主張は、別紙「無効論
(本件発明1)」の「被告の主張」欄及び「原告の主張」欄各記載のとおりである。
6 本件訂正発明2-1に関する無効理由の有無(争点6)
本件訂正発明2-1 に関する無効理由の有無についての当事者の主張は、別紙
「無効論(本件訂正発明2-1)」の「被告の主張」欄及び「原告の主張」欄各記
20 載のとおりである。
なお、被告は、本件訂正が認められないことを前提に、本件訂正前の本件特許2
の特許請求の範囲請求項1に係る発明に関し、特開平10-37936号公報(乙
23)記載の発明に基づく新規性・進歩性欠如をも主張しているが、本件訂正は確
定している(前記第2の2(2))。
25 7 本件発明3に関する無効理由の有無(争点7)
本件発明3に関する無効理由の有無についての当事者の主張は、別紙「無効論
(本件発明3)」の「被告の主張」欄及び「原告の主張」欄各記載のとおりである。
8 損害の発生及びその額(争点8)
(原告の主張)
(1) 被告は、遅くとも令和2年から令和5年6月30日までの間、被告各製品
5 を販売した。上記期間の売上高は、少なくとも●(省略)●円(税込)を下らず、
仕入金額(合計●(省略)●円)及び運賃(合計●(省略)●円)であるから、限
界利益の額(特許法102条2項)は合計8557万2953円となる。よって、
同条項により推定される原告の損害は8557万2953円である。
(2) 被告の主張する推定覆滅事由についての原告の主張は、別紙「損害論(推
10 定覆滅)」の「原告の主張」欄のとおりである。
(3) 仮に、特許法102条2項による損害の推定が一部覆滅されるとしても、推
定覆滅事由が「特許発明が侵害品の部分にのみ実施されている」との事由でない限
り、推定覆滅部分について同条3項が適用される。
本件訂正発明2-1、同2-3及び本件発明3の実施料率の相場は3.5ないし
15 3.9%程度であるが、各発明の効果が重要であること、原告と被告とが強い競合
関係にあることなどから原告が被告に対して本件特許2及び同3の実施許諾をする
関係にないこと、同条4項が侵害プレミアムとして相場を超える実施料率を規定し
ていることなどに照らせば、実施料率は8%とすべきである。
(4) 原告が本件のために弁護士及び弁理士に依頼して要した費用850万円は、
20 被告の侵害行為と相当因果関係がある損害である。
(被告の主張)
(1) 被告が令和2年6月から令和5年 6 月30日までの間、被告各製品を販売
したこと、原告主張の売上高、仕入金額、運賃額及びこれを前提とした被告各製品
全体の限界利益の額については、いずれも認める。ただし、被告各製品における発
25 明(本件訂正発明2-1、同2-3及び本件発明3)の実施部分は「外枠」のみで
あり、当該外枠の限界利益は、970万8162円である。
(2) 特許法102条2項の適用に係る主張については、別紙「損害論(推定覆
滅)」の「被告の主張」欄記載のとおり、推定覆滅事由があり、上記限界利益の額
まで推定は覆滅される。
(3) 特許法102条3項の適用に係る主張は、否認ないし争う。
5 (4) 弁護士費用等の主張は争う。
9 差止め及び廃棄の必要性の有無(争点9)
(原告の主張)
被告は、遅くとも令和2年以降、被告各製品を製造・販売しており、本件訴訟に
おいて充足論及び無効論を争うなどしていることも考慮すれば、本件特許権侵害の
10 予防のため、被告各製品の製造等の行為の差止め及び廃棄を求める必要がある。
なお、設計変更前の被告各製品の完成在庫が存在しない等の被告の主張は、客観
的な裏付けを欠く。
(被告の主張)
否認し争う。
15 被告は、既に被告各製品の設計変更をし、設計変更前の製品の販売をしていない。
また、設計変更前の完成品在庫もなく、部材も廃棄予定であるから、設計変更前の
製品の販売再開の予定もない。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明1の技術的範囲への属否(被告製品1に関する間接侵害の成否)
20 (争点1)について
(1) 「蓋(フロア仕様)」の構成
証拠(甲4、5、7、20の1、20の2)によれば、「蓋(フロア仕様)」の
構成は、別紙「蓋(フロア仕様)の構成」の「裁判所の認定」欄記載のとおりであ
ると認められる。
25 (2) 本件明細書1の記載
本件明細書1には、別紙「本件明細書1(抜粋)」の記載がある。
(3) 文言侵害の成否(争点1-1)
ア 構成要件1Bの充足性
「蓋(フロア仕様)」が「周縁部を除く複数個所を、裏面からネジ止めで固定さ
れる」(特に「周縁部を除く」)の構成を備えるかが問題となる。構成要件1Bの
5 うち、同部分以外の充足性について、当事者間に争いはない。
(ア) 「周縁部を除く複数個所」の意義
特許請求の範囲には、「周縁部を除く複数個所」が蓋表板における裏面からのネ
ジ止め位置であるとの記載(構成要件1B)はあるが、当該ネジ止め位置のすべて
が「周縁部を除く」部分のみに位置すると限定する記載はない。
10 本件明細書1には、本件発明1の課題(蓋基板に対して固定することによって、
蓋装着時の段差やガタ付きを防止した床の開口蓋を提供すること(【0005】))
を解決する手段の一部として、構成要件1Bの構成(蓋表板の構成を「周縁部を除
く複数個所」の要所を裏面からネジ止めで固定される構成(【0006】、【00
13】))とされたことが記載されている(なお、すべてのネジ止め位置が中央部
15 寄りに位置されている【図3】は、実施例にすぎない(【0012】))。
これらによれば、構成要件1Bの「周縁部を除く複数個所を、裏面からネジ止め
で固定される」とは、複数の「周縁部を除く」個所部分のみがネジ止めで固定され
るとの趣旨ではなく、フロア材の周縁(「まわり。ふち。」〔広辞苑第7版〕参照)
を除く複数の個所がネジ止めで固定されるとの趣旨であり、それ以外の部分のネジ
20 止めについて何らかの限定をするものではないと解される。
(イ) 「蓋(フロア仕様)」は、上記(1)のとおり、フロア材が、少なくとも8
か所は中央部寄りに位置するネジ止めにより裏面から固定されるから(甲5)、仮
に、被告主張のとおり残りの12か所のネジ止めが「周縁部」に位置したとしても、
「周縁部を除く複数個所を、裏面からネジ止めで固定される」を充足する(なお、
25 甲7、8によれば、被告製品1のフロア材の20か所のネジ止めは、いずれも周縁
部を除く個所に位置しているともいえる。)。
(ウ) これに対し、被告は、本件明細書1の記載(【0004】、【0006】、
【0010】、【0013】)からすると、本件発明1において、蓋基板と蓋表板
のネジ止め箇所から周縁部が除かれている理由は、蓋表板の撓みは蓋枠の鍔が蓋表
板の周縁を「強く」押さえることで矯正され、蓋基板と蓋表板のネジ止めによって
5 矯正されるものではないことを明示するものと解されるから、構成要件1Bの「周
縁部を除く」は、蓋表板の周縁が蓋基盤とネジ止めされないことで、蓋表板の中央
部を支点として機能することを所期した発明特定事項である旨主張する。しかし、
上記の本件明細書1の記載をみても、周縁部がネジ止め固定されてはならないこと
まで特定したものとは解されないから、被告の上記主張は採用できない。
10 また、被告は、上記解釈に沿った原告の主張は、出願過程の原告の主張(蓋表板
の「中央部」でネジ止めされるとの主張)と矛盾し、原告の主張は信義則違反又は
禁反言の原則に照らして許されないなどと主張する。この点、出願過程における意
見書(乙26)には、本件発明1について「蓋表板と蓋基板とは中央部で、蓋枠と
蓋基板とは周縁部で、ネジ止めされています」との記載があるが、これは、ネジ止
15 めの固定方法について、本件発明1では、意見書記載の「引用例1」の方法(蓋表
板と蓋基板とが周縁部ですべて一体的にネジ止め固定される方法)に対し、上記2
つの固定方法が開示されていることを説明したものにすぎず、周縁部を含む中央部
以外の部分における蓋表板と蓋基板のネジ止めを排除する趣旨の説明とは解されな
い。したがって、原告の上記主張は、出願過程の意見書の内容と矛盾しないから、
20 被告の上記主張は採用できない。
イ 構成要件1Eの充足性
「蓋(フロア仕様)」が「強く押さえられて」、「ネジ孔」、「締込み固定」の
各構成を備えるかが問題となる。構成要件1Eのうち、上記各部分以外の充足性に
ついて、当事者間に争いはない。事案に鑑み、「ネジ孔」の充足性から判断する。
25 (ア) 特許請求の範囲及び本件明細書1には、文言上、蓋枠が「ネジ孔」を有す
ること以外に、「ネジ孔」の構成や形態、具体的には、「ネジ孔」が単一の部材で
構成されるのか、複数の部材の組合せにより構成されるものを含むのかを明示する
記載はない(「ネジ孔」が単一の部材による構成されることを示す【図1】、【図
2】、【図4】は、いずれも実施例にすぎない(【0012】)。「ねじあな」の
語義は「ねじの切ってある孔。ボルト穴」(広辞苑第7版)、「ねじを受け入れる
5 螺旋状の溝の切ってある孔。雌ねじの穴やボルト穴」(大辞林(乙4))であり、
「あな(穴・孔)」とは「くぼんだ所または、向うまで突き抜けた所」である(広
辞苑第7版)とされている。これらの語義に照らせば、「ネジ孔」とは「ねじの切
ってあるくぼんだ所又は突き抜けた所」であり、そのような部位全体をいうものと
解するのが自然である。このような解釈は、本件明細書1に記載された本件発明1
10 の課題及び作用効果とも整合する。
(イ) 「蓋(フロア仕様)」では、ふた枠(構成要件1Eの「蓋枠」に該当する
と認められる。)が有するのは「ふた枠アシストねじ円弧部」という円弧状の部材
であり、ふた枠アシストねじ円弧部とこれと対となる裏蓋表面の円弧部が当接して
円形状の空間が形成され(別紙「被告各製品の構造(概要)」1記載の写真)、こ
15 の空間部分にふた枠アシストねじが挿入される。すなわち、上記空間部分は、ふた
枠に形成される「ふた枠アシストねじ円弧部」と裏蓋に形成される円弧部という 2
つの部材の組合せにより構成されるにすぎず、「ふた枠アシストねじ円弧部」のみ
では「ねじの切ってあるくぼんだ又は突き抜けた」部位全体とはいえない。そうす
ると、「蓋(フロア仕様)」において、蓋枠が「ネジ孔」を有するとはいえないか
20 ら、構成要件1Eを充足しない。
ウ 以上のとおり、「蓋(フロア仕様)」は構成要件1Eを充足しないから、そ
の余の点について検討するまでもなく、被告製品1の本件発明1に関する文言侵害
(間接侵害)の成立を認めることはできない。
(4) 均等侵害の成否(争点1-2)
25 上記(3)のとおり、「蓋(フロア仕様)」は、構成要件1Eの蓋枠が「ネジ孔」
を備える構成を有しておらず、少なくともこの点において本件発明1と相違すると
ころ、均等侵害(間接侵害)が成立するか検討する。
ア 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる
方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、①同
部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件)、②同部分を対象製品等におけ
5 るものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏
するものであって(第2要件)、③上記のように置き換えることに、当該発明の属
する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等
の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件)、④対象製品
等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願
10 時に容易に推考できたものではなく(第4要件)、かつ、⑤対象製品等が特許発明
の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなど
の特段の事情もないとき(第5要件)は、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載
された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが
相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判
15 決・民集52巻1号113頁参照)。
事案に鑑み、第2要件及び第3要件について検討する。
イ 上記(3)のとおり、本件発明1は、蓋枠の裏面に形成される「ネジ孔」にネ
ジをねじ込んで蓋表板と蓋基板を密着状に固定し、段差やガタ付きを防止するとの
作用効果を奏することになるのに対し、「蓋(フロア仕様)」は、被告製品1のふ
20 た枠に設けられるふた枠アシストねじ円弧部とこれと対となる裏蓋の円弧部が組み
合わさって形成される空間にふた枠アシストねじが締め込まれて、裏蓋とフロア材
を密着状に固定し、段差やガタ付きを防止されることになり、この点では本件発明
1と同一の作用効果を奏するから、均等侵害の第2要件は認められる。
一方、ネジが締め込まれる空間は、複数部材より形成される場合と比較して単一
25 の部材により形成される方がネジによるより強度の締込み(固着力)が実現される
というのが技術常識であると解されるところ、当業者において、本件発明1の「ネ
ジ孔」の構成から、あえて締込みの強度が低下すると考えられる被告製品1の上記
構成に置換することが容易であることを裏付けるに足りる証拠はないから、均等侵
害の第3要件を認めることはできない。
ウ したがって、「蓋(フロア仕様)」について、本件発明1に対する均等侵害
5 (間接侵害)の成立を認めることはできない。
(5) 小括
以上によれば、「蓋(フロア仕様)」は本件発明1の構成要件を充足しないから、
被告製品1が本件発明1に係る本件特許権1を侵害すると認めることはできない。
2 被告各製品の本件訂正発明2-1の技術的範囲への属否(争点2)
10 (1) 本件明細書2の記載
本件明細書2には、別紙「本件明細書2(抜粋)」の記載がある。
(2) 構成要件2A’の充足性
被告各製品が、「開口部の取付対象面に対して垂直方向に奥行きのある取付孔」
を充足するかが問題となる。構成要件2A’のうち、被告各製品が上記部分以外を
15 充足することは、当事者間に争いがない。
ア 「取付孔」
特許請求の範囲には、「取付孔」について、「取付対象面に対して垂直方向に」
「奥行きのある」構成を有し、取付部材が「嵌挿される」ものであるとの記載があ
るが(構成要件2B)が、具体的な形状(特に、貫通の有無や取付孔の周囲すべて
20 が囲われているか。)を明示する記載はなく、本件明細書2(実施例を除く。)にも
そのような明示的な記載はない(なお、実施例(【0042】 【0055】 【00
、 、
62】)には、「取付孔は…開口部側から根太方向へ向けて水平に貫通した孔」との
記載があるが、実施例の記載のみをもって、「取付孔」が貫通を要する構成である
と解することはできない。 。

25 また、前述のとおり、「孔(あな)」とは、「くぼんだ所。または、向うまで突き
抜けた所。 (広辞苑第7版。前述)の字義を有するが、当該字義から必ずしも貫通

している、又は、その周囲がすべて面で囲まれていることを要するとの趣旨が導か
れるものではない。なお、本件明細書2には、「取付孔」について、作業者の技量
によらずに取付体の密着性や気密性等を確実に確保し、これらの点において施工 の
質を均一にするとの課題を解決するための手段の一部の構成であると記載されてい
5 る(【0014】 【0015】
、 )ところ、貫通していない又は周囲すべてが面で囲ま
れていない「取付孔」が直ちに上記作用効果を奏さないとはいえない。
したがって、構成要件2A’の「取付孔」とは取付部材が嵌挿されるくぼんだ所
又は貫通した所であると解するのが相当である。これに反して、貫通していること
や周囲が面で囲まれていることを要するとする被告の主張は採用できない。
10 イ 「取付対象面に対して垂直方向に奥行きのある」
特許請求の範囲や本件明細書2には、「取付孔」が「取付対象面に対して垂直方
向」にあるとの記載があり、「垂直方向」の向きを特定する記載はない(なお、実
施例(【0042】、【0055】、【0062】)には「取付孔は…開口部側か
ら根太方向へ向けて水平に貫通した孔」との記載があるが、実施例の記載から「垂
15 直方向」の向きを特定できるものではないし、同記載をもっても「垂直方向」の向
きが限定されるとはいえない。)。また、上記アで指摘した本件訂正発明2-1の
課題や作用効果との関係において、「垂直方向」の向きが技術的意義を有すると 解
する理由も見当たらない。
そうすると、「取付対象面に対して垂直方向に奥行きのある」は、その文言どお
20 り、(「取付孔」が)取付対象面に対して「垂直方向」の「奥行きのある」との構
成と解するのが相当である。
ウ 被告各製品の外枠は、別紙「被告各製品の構造(概要)」のとおり、取付部
材が挿入される部分が存在し、同部分は外枠表面よりくぼんでいる(なお、同くぼ
み部分全体が貫通しているわけではないが、一部は貫通している。)から、上記
25 「取付孔」を備えているといえる。また、上記「取付孔」に相当する部分は、取付
対象面である外枠側面に対して垂直方向(開口部側から根太側への方向又はその反
対方向)に存在する。
以上のとおり、被告各製品は、別紙「被告各製品の構成」の「裁判所の認定」の
「2a’」欄記載の構成を有するものと認められ、構成要件2A’「開口部の取付
対象面に対して垂直方向に奥行きのある取付孔」を備えているから、同構成要件を
5 充足する。
(3) 構成要件2D’の充足性
被告各製品が、「打設」、「前記取付体に、前記取付対象面に対して水平な所定
方向へ向かう力を加えるための傾斜する面を有して構成」を充足するかが問題とな
る。被告各製品が、上記部分以外を充足することは、当事者間に争いがない。
10 ア 「打設」
(ア) 特許請求の範囲には、「固定具」が「取付対象面」に「打設」されるとの
記載があるが(構成要件2D’)、「打設」や「固定具」の意義を明示する記載は
ない。他方、本件明細書2には、挿通孔に「固定具(例えば釘、螺子、ピン等)を
挿通して打設する…」(【0016】)と記載され、挿通孔に挿通して打設する際
15 の「挿通」に用いられる固定具に「螺子」(ねじ)が含まれるとの記載がある。そ
して、ネジが固定具となる場合、ネジによる固定方法とは締込みであることが技術
常識といえる。そうすると、構成要件2D’の「打設」には、釘やピンの打込みの
みならず、ネジの締込みも含まれると解される。
(イ) 証拠(甲5、10の1、10の2)によれば、被告各製品は、「取付対象
20 面に対して」「外枠固定ねじ」が挿入されて締め込まれる構成を有し、構成要件2
D’の「打設」を充足する。
イ 「前記取付体に、前記取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう力を加え
るための傾斜する面を有して構成」
(ア) 取付対象面に対して水平な所定方向」
25 特許請求の範囲の記載から、構成要件2D’の「水平な所定方向」とは、文言ど
おり、「取付対象面」と水平な方向と解するのが自然である。そして、本件明細書
2には、「取付対象面」とは、「取付体が取り付けられる面であって、上記取付体
の取付孔に嵌挿された取付部材が接触する面」(【0017】)であると記載され
ているから、「取付対象面に対して水平な所定方向」とは、取付対象面(取付孔に
挿入された取付部材が接触する面)と水平な方向(本件明細書2の【図4】(b)で
5 は上下方向)と解される。
この点、被告は、本件明細書2の【図4】(b)の190b、191bが取付対象
面であり、これに対して「水平な所定方向」とは同図の左右方向であると主張する
が、同図により被告主張のような解釈をすることはできない。
(イ) 「前記取付体に、前記取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう力を加
10 えるための傾斜する面を有して構成」
特許請求の範囲には、「取付部材」の特徴について「…固定具が…取付対象面に
打設された際に、前記取付体に、前記取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう
力を加えるための傾斜する面を有して構成されている」(構成要件2D’)と記載
されているから、上記構成は、「打設された際」の構成であるといえる。また、本
15 件明細書2には、「固定具」の「打設」の時期につき、「取付体を取付対象面に当
接させ、取付体に形成された取付孔に取付部材を嵌挿した後に、挿通孔に固定具
(例えば釘、螺子、ピン等)を挿通して打設することにより…」(【0016】)
との記載がある。そうすると、「前記取付体に、前記取付対象面に対して水平な所
定方向へ向かう力を加えるための傾斜する面を有して構成」には、「取付孔に取付
20 部材を嵌挿した後に…固定具…を挿通して打設」「された際」の構成も含まれ、打
設前の時点の取付部材が「傾斜する面」を有している必要はないといえる。
これに対し、被告は、取付部材単体で、取付対象面に対して水平な所定方向に向
かう力を加えるように構成されていることが発明特定事項であると主張する。この
点、本件明細書2の実施例には上記主張と矛盾しない記載があるが、あくまで実施
25 例にすぎず、被告主張のとおり解釈することはできない。
(ウ) 証拠(甲9、10の1、10の2)によれば、被告各製品は、傾斜面を有
する取付部材が、外枠(「取付体」に相当する。)の取付孔に嵌挿され、挿通孔に
外枠固定ねじが締め込まれた際、外枠からランナー状のもので接続された傾斜面を
有する補助体と当接し、外枠上面部から底面部方向(いわゆる鉛直方向)に向かう
力が加えられることになるから、別紙「被告各製品の構成」の「被告各製品」の
5 「裁判所認定」欄の「2d’」欄記載の構成を備えるものと認められ、「前記取付
体に、前記取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう力を加えるための傾斜する
面を有して構成」を有する。
ウ したがって、被告各製品は、構成要件2D’を充足する。
被告は、被告各製品において、補助体を備えるのは外枠であるから、取付部材が
10 取り付けられた状態でも、被告各製品は取付部材が備える部位によって取付体に対
し所定方向へ向かう力を加えるように構成されていないと主張するが、上記イ認定
のとおり、外枠固定ねじが締めこまれた際に、取付部材の傾斜面が補助体と当接し、
外枠の取付対象面に対して水平方向に向かう力が加えられることは明らかであり、
被告の主張は採用できない。
15 (4) 小括
以上のとおり、被告各製品は、構成要件2A’及び同2D’を充足し、同2A’
を前提とする同2Bも充足するから、本件訂正発明2-1の技術的範囲に属すると
認められる。
3 被告各製品の本件訂正発明2-3の技術的範囲への属否(争点3)
20 (1) 本件明細書2の記載
本件明細書2には、別紙「本件明細書2(抜粋)」の記載がある。
(2) 構成要件2A、2B、2Fの各充足性
構成要件2Aの充足性については、被告各製品が、「取付対象面に対して垂直方
向に奥行きのある」、「取付孔」の構成を有するかが争われているところ、構成要
25 件2A’の充足性の判断(上記2(2))と同様の理由から、被告各製品は、構成要
件2Aを充足し、構成要件2Aを前提とする同2B、同2Fも充足する。
(3) 構成要件2D、2Kの各充足性
構成要件2Dの充足性については、被告各製品が、「打設」、「取付対象面に対
して水平な所定方向へ向かう力を加えるように構成」の構成を有するかが争われて
いるところ、構成要件2D’の充足性の判断(上記2(3))と同様の理由から、被
5 告各製品は、構成要件2Dを充足し、同2Kが規定する上記各構成も備えるものと
認められる(なお、構成要件2D’は「取付対称面に対して水平な所定方向へ向か
う力を加えるための傾斜する面を有して構成」との文言となっているが、被告の主
張する非充足の理由は同様である。)。
(4) 構成要件2Gないし2Kの各充足性
10 ア 構成要件2Gの充足性
(ア) 構成要件2Gの充足性については、被告各製品が、「補助体」が取付部材
に備わっている構成を有するかが争われている。
特許請求の範囲には、「補助体」が「取付対象面に対して傾斜する傾斜面を有す
る本体」「の内側に設置され、前記傾斜面と当接する当接面を有する」ものであ り
15 (構成要件2F、2G)、「取付部材」の「本体は…固定具が前記取付対象面に打
設された際に、前記傾斜面を前記補助体の前記当接面に摺接させながら移動する」
ことを前提とする構成を特徴とするとの記載がある(構成要件2K、2L)。また、
本件明細書2には、【課題を解決するための手段】の一つとして本件訂正発明2-
3が提供されることを前提に、「補助体」については、上記の構成要件と同様の記
20 載のほか、「取付体の取付孔に本体を嵌挿するとともに、補助体を、その当接面が
本体の傾斜面と当接するように設置」との記載があるにとどまる(【0022】、
【0023】)。これらによれば、「補助体」は「本体」の内側に設置されるもの
であり、「打設」の際にその傾斜面が「本体」の傾斜面と当接するものであるが、
「打設」前から取付部材に備わっていなければならないことや、「打設」前に「補
25 助体」が取付部材の「本体」の内側に設置されていることを要するとまで解するこ
とはできない。
この点、被告は、本件明細書2の段落【0026】、【0027】及び【003
4】には、既に「補助体」を備える「取付部材」を取付孔に嵌挿することしか開示
されていないとして、「補助体」は取付け前から「取付部材」に備わっていなけれ
ばならない旨を主張する。しかし、これらの段落の記載をみても「取付部材」の取
5 付け(打設)前に「補助体」が「取付部材」に存在していることまで開示されてい
るとは解されず、被告の主張は認められない(なお、【図5】には、打設前(ひい
ては取付前)に「補助体」が「本体」の内側に設置されていることが開示されてい
るが、あくまで実施例にすぎない。)。
(イ) 証拠(甲9)によれば、被告各製品の「補助体」は、外枠(「取付体」)
10 にランナー状のもので接続されており、打設前ないし取付前の取付部材には存在し
ていないが、取付部材が取付孔に嵌挿されて外枠固定ねじによりねじ込み固定され
た際、取付部材の「本体」の傾斜面と上記補助体の傾斜面が当接して当該補助体が
取付部材に備わり、この際、当該補助体は本体の内側に設置されることとなる。そ
うすると、被告各製品は、別紙「被告各製品の構成」の「被告各製品」の「原告の
15 主張」欄の「2g」欄記載のとおり、取付部材が「補助体」を備える構成を有する
と認められ、構成要件2Gを充足する。
イ 構成要件2Hないし2Kの充足性
各構成要件の充足性についても、被告は,取付部材が「補助体」を備えていない
として争っているところ、上記アと同様の理由から、被告各製品は、 取付部材が
20 「補助体」を備える構成を有すると認められ、構成要件2Hないし2Kを充足する。
(5) 以上によれば、被告各製品は、本件訂正発明2-3の技術的範囲に属する
と認められる。
4 本件発明3の技術的範囲への属否(争点4)
(1) 本件明細書3の記載
25 本件明細書3には、別紙「本件明細書3(抜粋)」の記載がある。
(2) 構成要件3Aの充足性
被告各製品が、構成要件3Aの「開口部から根太側へ向けて貫通する取付孔」を
充足するかが問題となり、同構成要件の上記以外を充足することは当事者間に争い
がない。
ア 「貫通する取付孔」
5 特許請求の範囲には、「取付孔」が「貫通する」ものであると明示されてい る
(構成要件3A)。他方、「孔」については、特許請求の範囲及び本件明細書3に
は具体的な解釈に係る記載はなく、その字義(前記2(2))からすると、「貫通す
る取付孔」とは「取付けのための、向うまで突き抜けた(貫通する)所」と解され
る(なお、「貫通する」の意義は、後述イの点も問題となる。)。
10 イ 「開口部側から根太側へ向けて貫通する」
特許請求の範囲には、「取付孔」が「基体」に設けられ、支持部材が嵌挿される
こと、「開口部側から根太側へ向けて貫通する」との記載があり(構成要件3A、
同3C)、貫通の方向は明示されているが、貫通の形状や大きさ、いかなる時点で
貫通していることを要するかについての記載はなく、本件明細書3にもこれらの点
15 を明示する記載はない。そうすると、「開口部側から根太側へ向けて貫通する」と
は、文言どおり、「開口部側から根太側」へ穴の大きさに関係なく貫通していれば
足りると解される。
これに対し、被告は、本件明細書3(【0014】、【0015】、【図8】)
には、本件発明3の床開口用枠体は、床面に係止した状態で取付孔に支持部材を開
20 口部側から嵌挿することが記載され、また、段落【0009】には、床面に枠体の
係止部を係止させた状態で枠体を根太に固定するとの施工手順が記載されていると
して、「開口部側から根太側へ向けて貫通する」とは、取付孔が開口部側から根太
側へ向けて、枠部材の係止部を床面に係止した状態で、支持部材を開口部側から嵌
挿することができるように貫通していると解すべきであると主張する。しかしなが
25 ら、段落【0009】の記載は、施工の困難性を解消するために補助根太を省略す
る従来技術の施工手順を示すものである。一方、本件発明3は、補助根太を省略し
て施工作業の簡略化を図りつつ、高い位置精度で設置可能とし、枠体自身の変形の
防止により気密性及び断熱性を確保してガタつきを防止し、設置個所の自由度を高
めるとの課題解決手段を提供し、作用効果を奏する技術である(本件明細書3【0
011】、【0012】、【0026】)ところ、本件発明3の構成によれば、上
5 記課題解決等のためには、開口部側から根太側へ向けた方向に貫通する取付孔があ
れば足り、枠部材の係止部を床面に係止した状態で上記「貫通」となる構成が必要
であると解する理由は見当たらない。また、段落【0014】及び【0015】の
記載は施工手順の例示にすぎず、特許請求の範囲に施工手順に関する限定をする文
言がないにもかかわらず、これをもって、本件発明3の技術的範囲につき、支持部
10 材の嵌挿が「枠部材の係止部を床面に係止した状態」に限定されていると解するこ
とはできない。よって、被告の上記主張は採用できない。
ウ 被告各製品は、その外枠(「基体」)において、取付部材(「支持部材」)
が嵌挿された孔は、別紙「被告各製品の構造(概要)」(2(3)の写真)のとおり、
開口部側から根太側に貫通部分が存在し、「開口部側から根太側へ向けて貫通する
15 取付孔」を備える。よって、被告各製品は、構成要件3Aを充足する。
(3) 構成要件3C、3Dの充足性
上記(2)のとおり、被告各製品は構成要件3Aの「取付孔」を備えるから、これ
を前提とする構成要件3C及び同3Dをいずれも充足する。
(4) 小括
20 以上によれば、本件各製品は、本件発明3の技術的範囲に属すると認められる。
5 本件訂正発明2-1に関する無効理由の有無(争点6)
構成要件2D’は「前記挿通孔に挿通された前記固定具が前記取付対象面に打設
された際に、前記取付体に、前記取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう力を
加えるための傾斜する面を有して構成されている」と記載するところ、被告は、本
25 件訂正発明2-1には、サポート要件違反、実施可能要件違反、明確性要件違反及
び訂正要件違反の各無効理由があると主張する。以下、順に検討する。
(1) サポート要件違反(争点6-1)
ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件(特許法36条6項1号)に適合する
か否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求
の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な
5 説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、
また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照ら
し当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判
断すべきものである。
本件明細書2には、作業者の技量によらず、取付体の密着性や気密性等を確実に
10 確保することができるとともに、その密着性や気密性等の点において施工の質を均
一に保つことが可能な取付部材を提供すること等の課題(【0014】)を解決す
るための手段である発明の構成の一部として、取付部材が「前記挿通孔に挿通され
た前記固定具が前記取付対象面に打設された際に、前記取付体に、前記取付対象面
に対して水平な所定方向へ向かう力を加える」構成を備えていることが記載されて
15 いる(【0015】)。また、本件明細書2には、取付部材の上記構成について、
3つの実施形態(取付部材の説明部分につき【0039】ないし【0066】)が
挙げられ、上記「水平な所定方向へ向かう力」については矢印で図示されている
(【0058】、【0065】)。そうすると、当業者は、本件明細書2の記載に
より、固定具が取付対象面に打設された際に、取付部材に形成された傾斜面とこれ
20 に当接する部材を介した力の伝達により上記取付対象面に対して水平な所定方向に
向かう力が加えられることになるとの構成をもって、本件訂正発明2-1の上記課
題を解決できると認識し得るといえる。また、当業者において、発明の実施に当た
っては、明細書記載の実施形態等に限定されず、部材の形状や個数を適宜工夫する
ことは当然であり、本件訂正発明2-1の構成要件2D’に記載された構成につい
25 ても、本件明細書2に記載ないし示唆されたものというべきである。
したがって、本件訂正発明2-1は、「発明の詳細な説明に記載したものである」
といえるから、サポート要件違反の無効理由があるとはいえない。
イ これに対し、被告は、特に、2つの部材(本体と舌片、本体と補助体)の相
互作用による構成を用いずにどのように構成要件2D’の構成を達成することがで
きるのか、本件明細書2から当業者は理解することができないと主張する。しかし、
5 上記アのとおり、本件明細書2は、固定具が取付対象面に打設された際に、取付部
材に形成された傾斜面と当接する部材を介した力の伝達により「水平な所定方向へ
向かう力」が生じることを開示し、本件訂正発明2-1が記載されたものといえる
のであって、上記各部材の相互作用による構成を用いない構成により構成要件2D
’の構成を達成する手段が本件明細書2に具体的に記載されていないとしても、サ
10 ポート要件に違反するとはいえない。よって、被告の主張は採用できない。
(2) 実施可能要件違反(争点6-2)
明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件(特許法36条4項1号)に適
合するか否かは、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常
識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができ
15 る程度に発明の構成等の記載があるか否かを検討して判断すべきである。
上記(1)のとおり、本件明細書2には構成要件2D’の実施形態が記載されてい
る上、「ための傾斜する面を有して」との部分を除いて本件訂正発明2-1の発明
特定事項である構成要件2D’の構成がすべて記載されている。また、同部分は、
後記(4)アのとおり、本件訂正前の構成要件2Dにおける取付部材の構成を限定し
20 て特定したものである。
以上によれば、本件明細書2の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明2-
1を実施することができる程度に発明の構成が記載されているといえるから、本件
訂正発明2-1に関する実施可能要件違反の無効理由があるとはいえない。
(3) 明確性要件違反(争点6-3)
25 ア 特許請求の範囲が明確性要件(特許法36条6項2号)に適合するか否かは、
同要件の趣旨(特許請求の範囲に記載された発明が明確に把握できないときに権利
の及ぶ範囲が第三者に不明確となって不測の不利益を及ぼすことを防止するとの趣
旨)に照らし、特許請求の範囲の記載から、当該発明の概念が明確に特定されるか
否かを検討して判断すべきである。
被告は、構成要件2D’の「前記取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう力
5 を加えるための傾斜する面」が規定する事項の外延が不明確である旨主張する。
本件訂正発明2-1の特許請求の範囲の記載(具体的には、構成要件2A’、2
D’及び2Eの記載)をみると、「取付部材」は、床面、天井面又は壁面に形成さ
れた開口部の取付対象面に取付体を取り付けるための部材であり、「傾斜する面」
を有すること、当該「傾斜する面」は、取付体に、前記「取付対象面に対して水平
10 な所定方向へ向かう力」を加えるためのものであることが明らかである。そして、
当該「傾斜する面」は、「取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう力」を加え
るものであれば足り、他の部材と組み合わさってそのような力を加えるものか否か
の限定はされていないのであるから、当業者にとって、取付部材に係る本件訂正発
明2-1の発明の概念が明確に特定されているといえる。
15 したがって、構成要件2D’の記載をもって、本件訂正発明2-1に関する明確
性要件違反の無効理由があるとはいえない。
イ この点、被告は、構成要件2D’の「傾斜する面」の特定が明確でないなどと
主張するが、上記アのとおり、「傾斜する面」は「取付部材」に備えられ、固定具
が取付対象面に打設された際に、取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう力を
20 加えるものであることが明らかであり、「傾斜する面」と他の部材との組合せによ
って取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう力が加わるかどうかが変わり得る
としても、構成要件2D’に規定される事項の外延が不明確とはいえない。
(4) 訂正要件違反(争点6-4)
ア 本件訂正前の構成要件2Dは「前記挿通孔に挿通された前記固定具が前記取
25 付対象面に打設された際に、前記取付体に、前記取付対象面に対して水平な所定方
向へ向かう力を加えるように構成されていることを特徴とする」というものである。
本件訂正後の構成要件2D’は「前記挿通孔に挿通された前記固定具が前記取付対
象面に打設された際に、前記取付体に、前記取付対象面に対して水平な所定方向へ
向かう力を加えるための傾斜する面を有して構成されていることを特徴とする」
というものである。本件訂正により下線部が追加されているが、本件訂正は、訂正
5 前の構成要件2Dにおける取付部材の構成をより限定して特定したものであり、本
件明細書2の実施例や図面に適合する内容のものである。
したがって、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもので
あるとはいえず、訂正要件(特許法126条6項)に違反するものではないから、
本件訂正発明2-1には、同訂正要件違反による無効理由があると認めることはで
10 きない。
イ これに対し、被告は、例えば、取付部材が「当接面を有する補助体」を備え
ず「傾斜面を有する本体」を備える構成について、本件訂正前の構成要件2Dでは
非充足となるが、本件訂正後の構成要件2D’では充足となるから、本件訂正は実
質上特許請求の範囲を拡張するものであると主張する。しかしながら、本件訂正は、
15 取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう力を加える構成を限定するものである
から、本件訂正の帰結として被告主張のような構成要件充足性の結論に差異が生じ
るとはいえず、被告の主張は前提に誤りがあり失当である。
(5) 小括
以上のとおり、本件訂正発明2-1に関する無効理由があるとの被告の主張はい
20 ずれも採用できない。
6 本件発明3に関する無効理由(明確性要件違反)の有無(争点7)
被告は、構成要件3Aの「開口部側から根太側へ向けて貫通する取付孔」とは、
開口用枠体が床面に係止した状態で、支持部材を開口部側から嵌挿できるような貫
通の態様を発明特定事項としているところ、本件明細書3の記載を見ても上記「開
25 口部側から根太側へ向けて貫通する取付孔」の意義は明らかではなく、不明確な記
載であると主張する。
しかしながら、上記4(2)のとおり、構成要件3A「開口部側から根太側へ向け
て貫通する取付孔」とは、被告主張のような開口用枠体が床面に係止した状態のみ
を前提とするものと解することはできないから、被告の上記主張は前提を欠く。ま
た、当業者は、特許請求の範囲の記載の文言から、「開口部側から根太側へ向けて
5 貫通する取付孔」の意義(取付けのための、開口部側から根太側に向けての方向に、
向こうまで突き抜けた所(前記4(2)))を容易に理解することができるといえる。
したがって、本件発明3に関する明確性要件違反の無効理由があるとはいえない。
7 損害の発生及び額(争点8)
(1) 特許法102条2項に基づく主張について
10 ア 限界利益額
被告は、少なくとも令和2年6月1日から令和5年6月末までの間、被告各製品
を販売し、この間の限界利益額(被告各製品の全体)は合計8557万2953円
(税込)である。(争いなし)
被告は、被告各製品における本件訂正発明2-1、同2-3及び本件発明3の実
15 施部分は一部であるから、損害額算定における限界利益額は、上記一部に相当する
限界利益額を基準とすべきであると主張するが、被告の指摘する事情は、推定覆滅
事由として考慮すべきであるから、上記主張は採用できない。
イ 推定覆滅事由
特許法102条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得
20 た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠ける
ことを主張立証した場合には、その限度で前記の推定は覆滅される。
(ア) 部分実施(本件特許2及び同3の寄与の程度等)
被告各製品は、外枠(床開口用枠体及び取付部材)、蓋セット、ビスセット、梱
包ケース、断熱材により構成されるところ、本件訂正発明2-1、同2-3及び本
25 件発明3の実施部分は上記外枠のみである。(争いなし)
原告は、原告製品(高気密型床下点検口・収納庫)における本件訂正発明2-1、
同2-3及び本件発明3の実施部分の構成である「スライドコア」は、原告製品の
使用において不可欠であり、容易かつ精度のよい施工を実現するといった重要かつ
優れた効果を有し、顧客誘引力の源泉となっているところ、「スライドコア」と強
い類似性を有する被告各製品の「外枠」も顧客誘引力の源泉となるから、上記部分
5 実施による推定覆滅は大きいものではない旨主張する。
確かに、原告製品のパンフレットには「スライドコア方式が簡単施工で高い気密
性を実現する」ことが記載されているが、他にも顧客を誘引するための特徴(例え
ば、耐荷重性に優れていること、蓋枠パッキンによる気密性の確保、肌に優しい樹
脂一体成形品であること、バリアフリープラン対応であることなど)を有すること
10 が記載されている(甲11の19)。また、被告各製品にも、外枠以外の構成にお
いて、薄型化・軽量化設計であることやバリアフリー設計であること、抗菌仕様で
あることといった顧客の誘引に影響する特徴がある(甲4)。外枠に関する施工の
容易性や高い気密性は需要者が注目する特徴であると考えられるものの、他の特徴
と比較して特に重視される事項であるとまでは認めるに足りず、原告製品の「スラ
15 イドコア」ないしこれに相当する部材といえる被告各製品の外枠が、各々の製品に
おいて強い顧客誘引力を有していると評価することはできない。
そうすると、被告各製品における発明の実施部分が外枠のみであるとの点は、相
当程度の推定覆滅事由になると解するのが相当である。
(イ) 市場の同一性及び市場における競合品
20 被告各製品及び原告製品は、樹脂枠を備えた床下点検口・収納庫である。本件訂
正発明2-1、同2-3及び本件発明3の効果は、施工の容易性や気密性及び断熱
性の確保、ガタ付きの防止であるところ、被告各製品のカタログ(甲4)によれば、
被告各製品は、床開口寸法が606×606mm(外形寸法622×622。高さ
は67.5mm、182.5mm、463mmのものなど複数の型がある。)であ
25 り、施工が容易でバリアフリー設計であり、気密性及び断熱性等を訴求している。
また、原告製品のカタログ(甲11、12〔枝番を含む。〕)によれば、原告製品
は、床開口寸法が606×606mmのものなどであり(幅広サイズなど複数の型
がある。)、防腐高気密型、高耐久、高断熱、バリアフリー等を訴求している。
これらによれば、被告各製品及び原告製品の需要者は、各製品において、床下点
検口・収納庫の形状、性能や操作の容易性を重視するものと解されるから、被告各
5 製品と同程度の形状、性能、機能及び操作性を実現し、同種の用途に用いられる製
品は競合品に該当するというべきである。
被告が競合品であると主張する製品(甲14ないし18〔各枝番を含む。以下同
じ〕、乙32、33)のうち、少なくとも、Panasonic製の床下収納ユニ
ットの「高気密・高断熱住宅用」(甲14)と、DAIKEN製の「ホーム床点検
10 口」(甲15)は、被告各製品の寸法と同程度の型であるものがあり、性能や機能、
操作性において同程度であるといえるから、被告各製品及び原告製品と性能、用途
等において共通する競合品であると認められる(その余の製品については、形状や
訴求されている性能や機能、操作性が一部被告各製品と合致するものの、同程度と
までは認められない。)。他方で、床下収納点検口・収納庫の市場における被告各
15 製品や原告製品の市場占有率が明らかではなく、また、上記競合品の販売価格と乙
第35号証から推知される被告各製品の販売価格との間には一定の差があることは
否定できない。
以上によれば、市場において上記競合品が存在することは推定覆滅事由となるが、
これをもって大幅な推定覆滅を認めることは相当ではない。
20 (ウ) 被告の営業努力
特許法102条2項の推定を覆滅する事由として認められる被告の営業努力とは、
通常の範囲を超える格別の工夫や営業努力をいう。被告は、被告各製品の売上につ
いて被告の営業努力によるところが大きいと主張するが、これを認めるに足りる証
拠はないから、この点は覆滅事由として認めることはできない。
25 (エ) 推定覆滅の程度
被告は、上記のほかにも被告製品の機能や工夫をもって推定覆滅事由に該当する
などと主張するが、証拠がなく、当該主張を採用することはできない。
以上の検討した諸事情を総合考慮すると、部分実施であること及び一定数の競合
品が存在することによる推定覆滅が認められるところ、本件においては8割の限度
で損害額の推定が覆滅されると解するのが相当である。これに反する原告及び被告
5 の主張はいずれも採用できない。
(2) 特許法102条3項に基づく主張について
原告は、同条2項の推定覆滅が一部でも認められたとしても、推定覆滅の理由が
「特許発明が侵害品の部分のみに実施されている」という推定覆滅事由でない限り
は、当該推定覆滅部分については、同条3項を適用することができると主張する。
10 この点、同条2項の規定により推定される特許権者が受けた損害額は、特許権者
が侵害者の侵害行為がなければ自ら販売等をすることができた実施品又は競合品の
売上げの減少による逸失利益に相当するものであるのに対し、同項による推定の推
定覆滅部分について、特許権者が実施許諾をすることができたと認められるときは、
特許権者は、売上げの減少による逸失利益とは別に、実施許諾の機会の喪失による
15 実施料相当額の損害を受けたものと評価できるから、同条3項の適用が否定される
ことにはならないと解される(知的財産高等裁判所令和2年 第10024号・令
和4年10月20日特別部判決参照)。
本件においては、上記競合品が存在することは同条2項による推定覆滅事由の一
つとなるが、当該推定覆滅部分について原告に実施許諾の機会があったと認めるに
20 足りる証拠はない。したがって、当該推定覆滅部分について、同条3項を適用する
ことはできないというべきである。
(3) 以上によれば、上記(1)アの限界利益額8557万2953円から8割の推
定覆滅がされた1711万4590円(税込)が、被告の被告各製品の販売による
原告の損害であると認められる。
25 また、本件の事案の内容、経過等にかんがみ、原告の弁護士費用及び弁理士費用
171万円は、被告の特許権侵害行為と相当因果関係がある原告の損害と認める。
したがって、原告の損害額は1882万4590円となる。
(4) 遅延損害金の起算日につき、原告は、訴状送達の日の翌日である令和4年
3月31日であると主張する。上記損害は令和2年6月1日から令和5年6月末ま
での間(37か月間)の限界利益額を前提とするものであるところ、本件証拠上、
5 令和2年6月1日から令和4年3月31日までの間(22か月間)及び同年4月 1
日から令和5年6月30日までの間(15か月間)の各限界利益額は明らかではな
いから、当該期間の限界利益額は、全体の限界利益額を対象期間に応じて案分した
額と推認し、これに対応する弁護士費用も同様に対象期間に応じて按分した額と推
認するのが相当である。そうすると、令和2年6月1日から令和4年3月31日ま
10 での間、及び、同年4月1日以降の間の損害額は、次のとおりとなる。
ア 令和2年6月1日から令和4年3月31日までの間 1119万300
0円
(計算式)1711 万 4590 円×22/37+171 万円×22/37
≒1017 万 6243 円+101 万 6757 円(小数点以下四捨五入)
15 イ 令和4年4月1日から令和5年6月30日までの間 763万1590円
(計算式)1711 万 4590 円×15/37+171 万円×15/37
≒693 万 8347 円+69 万 3243 円(小数点以下四捨五入)
そして、上記アの損害の遅延損害金の起算日は令和4年3月31日であり、上記
イの損害の遅延損害金の起算日は最終の不法行為の日である令和5年6月30日と
20 認めるのが相当である。
8 差止め及び廃棄の必要性の有無(争点9)
被告は、被告各製品の設計を変更し、設計変更前の被告各製品の販売は令和5年
6月末日をもって終え、完成在庫品もなく部材も廃棄予定であり、今後販売予定も
ないと主張するが、設計変更の事実を除いて、被告の上記主張を裏付ける客観的な
25 証拠はない。加えて、被告が、本件において、本件訂正後の発明の技術的範囲への
属否や本件各特許の有効性を争っていることを踏まえると、なお本件特許権2及び
3を侵害するおそれがあるというべきである。
したがって、被告各製品の製造、譲渡等の差止め、及び、被告各製品の廃棄の必
要性があると認められる。
9 結論
5 よって、原告の請求は主文の限度で理由があるからその限度で認容し、その余は
理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。なお、主文1項及び2
項については、仮執行宣言は相当でないから付さないこととする。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
15 武 宮 英 子
裁判官
阿 波 野 右 起
25 裁判官
島 田 美 喜 子
(別紙)
被告製品目録
1 商品名
5 気密樹脂枠床下点検口600型(フロア用)
断熱樹脂枠床下点検口600型(フロア用)
具体的な型番の例示
PT612K-W(L/M/D)〈12mmフロア用〉
10 PT615K-W(L/M/D)〈15mmフロア用〉
PT612D-W(L/M/D)〈12mmフロア用〉
PT615D-W(L/M/D)〈15mmフロア用〉
ZPT612K-W(L/M/D)〈12mmフロア用〉
ZPT615K-W(L/M/D)〈15mmフロア用〉
15 ZPT612D-W(L/M/D)〈12mmフロア用〉
ZPT615D-W(L/M/D)〈15mmフロア用〉
BS-PT612K-W(L/M/D)〈12mmフロア用〉
BS-PT615K-W(L/M/D)〈15mmフロア用〉
BS-PT612D-W(L/M/D)〈12mmフロア用〉
20 BS-PT615D-W(L/M/D)〈15mmフロア用〉
※ただし、W(L/M/D)はカラー記号であり、製品の色によって変わる。
2 商品名
気密樹脂枠床下点検口600型(CF用)
25 断熱樹脂枠床下点検口600型(CF用)
具体的な型番の例示
PT6CFK-W(L/M/D)〈CF用〉
PT6CFD-W(L/M/D)〈CF用〉
ZPT6CFK-W(L/M/D)〈CF用〉
5 ZPT6CFD-W(L/M/D)〈CF用〉
BS-PT6CFK-W(L/M/D)〈CF用〉
BS-PT6CFD-W(L/M/D)〈CF用〉
※ただし、W(L/M/D)はカラー記号であり、製品の色によって変わる。
※「CF用」とは、クッションフロア用を意味する。
以 上
(別紙)
略語表
・ 本件特許1 :別紙「特許目録」記載1の特許(特許第4185792号)
5 ・ 本件特許権1 :本件特許1に係る特許権
・ 本件発明1 :本件特許1の特許請求の範囲【請求項1】に係る発明
・ 本件明細書1 :本件特許1の「明細書及び図面」
・ 本件特許2 :別紙「特許目録」記載2の特許(特許第5197972号)
・ 本件特許権2 :本件特許2に係る特許権
10 ・ 本件訂正 :訂正審判請求(訂正2023-390014号)の訂正
・ 本件訂正発明2-1:本件訂正後の本件特許2の特許請求の範囲【請求項1】
に係る発明
・ 本件訂正発明2-3:本件訂正後の本件特許2の特許請求の範囲【請求項3】
に係る発明
15 ・ 本件明細書2 :本件特許2の「明細書及び図面」
・ 本件特許3 :別紙「特許目録」記載3の特許(特許第5208433号)
・ 本件特許権3 :本件特許3に係る特許権
・ 本件発明3 :本件特許3の特許請求の範囲【請求項1】に係る発明
・ 本件各特許 :本件特許1、同2、同3の総称
20 ・ 本件各特許権 :本件特許権1、同2、同3の総称
・ 被告製品1 :別紙「被告製品」目録記載1の製品
・ 被告製品2 :別紙「被告製品」目録記載2の製品
・ 被告各製品 :被告製品1、同2の総称
以上
(別紙)
特許目録
5 1 特許番号 特許第4185792号
発明の名称 床の開口蓋
出願日 平成15年3月17日
登録日 平成20年9月12日
特許請求の範囲【請求項1】の記載:荷重に対して容易に撓まないように、リ
10 ブが設けられた蓋基板と、この蓋基板の上に重ねて配し、周縁部を除く複数個所を、
裏面からのネジ止めで固定される蓋表板と、この蓋表板の周側縁に設けられる蓋枠
とからなり、蓋枠は、その上端に内向きに鍔を有して、この鍔で蓋表板の周縁を上
面から押え付け、また、蓋枠はその裏面に、複数のネジ孔を有し、蓋基板の裏面か
らネジによって、蓋基板に締込み固定され、蓋枠の鍔により、蓋表板の周縁が強く
15 押えられて、蓋基板に密着させられるようになる、床の開口蓋。
(※存続期間満了)
2 特許番号 特許第5197972号
発明の名称 取付部材
20 出願日 平成19年2月23日
登録日 平成25年2月15日
特許請求の範囲【請求項1】の記載:床面、天井面又は壁面に形成された開口
部の取付対象面に対して垂直方向に奥行きのある取付孔が形成された取付体を、前
記取付対象面に取り付けるための取付部材であって、前記取付孔に嵌挿される外形
25 を有し、前記取付対象面に対して略垂直方向に、固定具が挿通される挿通孔が形成
され、前記挿通孔に挿通された前記固定具が前記取付対象面に打設された際に、前
記取付体に、前記取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう力を加えるための傾
斜する面を有して構成されていることを特徴とする取付部材。
特許請求の範囲【請求項3】の記載:取付対象面に対して垂直方向に奥行きの
ある取付孔が形成された取付体を、前記取付対象面に取り付けるための取付部材で
5 あって、前記取付孔に嵌挿される外形を有し、前記取付対象面に対して略垂直方向
に、固定具が挿通される挿通孔が形成され、前記挿通孔に挿通された前記固定具が
前記取付対象面に打設された際に、前記取付体に、前記取付対象面に対して水平な
所定方向へ向かう力を加えるように構成され、前記取付孔に嵌挿され得る筒形状を
有するとともに、その内側に前記取付対象面に対して傾斜する傾斜面を有する本体
10 と、前記本体の内側に設置され、前記傾斜面と当接する当接面を有する補助体とを
備え、前記挿通孔は、前記本体と前記補助体との両方に、互いに連通するように形
成され、前記補助体に形成された前記挿通孔は、前記固定具と略同じ径を有し、前
記本体に形成された前記挿通孔は、前記固定具を前記挿通孔に対して相対的に前記
傾斜面の傾斜方向に沿って移動させ得る形状を有し、前記本体は、前記挿通孔に挿
15 通された前記固定具が前記取付対象面に打設された際に、前記傾斜面を前記補助体
の前記当接面に摺接させながら移動することにより、前記取付体に、前記取付対象
面に対して水平な所定方向へ向かう力を加えるように構成されていることを特徴と
する取付部材。
(なお、下線部は、本件訂正による訂正部分である。)
3 特許番号 特許第5208433号
発明の名称 床開口用枠体、床構造、及び、床開口用枠体の設置方法
出願日 平成19年2月15日
登録日 平成25年3月1日
25 特許請求の範囲【請求項1】の記載:床の開口部に嵌合され得る形状を有し、
前記開口部側から根太側へ向けて貫通する取付孔が複数設けられている基体と、前
記基体に設けられ、床面に係止される係止部とからなる枠部材、及び、前記取付孔
に嵌挿され得る形状を有し、前記開口部側から根太側へ向けて固定具が挿通される
挿通孔が形成された支持部材を備え、前記基体は、前記係止部から前記開口部の側
面に沿って下方に垂下する板状部と、前記板状部に対して直交するように設けられ
5 た筒状部とを含んで構成され、前記筒状部が、前記取付孔を有することを特徴とす
る床開口用枠体。
( 別 紙)
被 告各製品の構造(概要)
5 1 被 告 製品1の「蓋(フロ ア仕様)」
(甲5)
(上)裏蓋 (下)ふた枠
(甲20の1)
2 被 告 各製品 の「外枠」・「取付部材」 (甲9、甲21)
(1) 全体図
(外枠・外側側面角部)
5 (2) 取付部材
(取付部材 :外枠に嵌められた状態)
(3) 外枠 (取付部材が嵌められる部分。 取付部材を外した状態)
( 中 心部の円状穴は「挿通孔」)
5 ( 第2 世代:外枠下部に開 放部) (手前:開口部、奥:根太部)
(手 前 :根太 部、奥:開口部 ) (同。ただし、 開口部の両側部を 切取 り )
(別紙)
本 件明細書1(抜粋)
5 ・ 【 発明の属する技術分 野】
・ 【 0001】
「本発明は、住宅の床に設けられる床下点検口や床下収納庫などの開口に使用す
る蓋に関する。」
・ 【発明が解決しようとする課題】
10 ・ 【0004】
「ところが前記の従来の蓋は、蓋枠が蓋表板に対して固定される構造であって、
蓋基板には特に強くは固定されない。この為、蓋表板に撓みがあると、それを固定
時には修正できないので、この撓みが、そのまま蓋の外形に現れて、蓋装着時に床
面との間で段差が生じたり、ガタ付きが出たりすることになる。特に、この現象は、
15 蓋表板を2枚構造にしたり、木材を用いたフローリング構造にした時に顕著であ
る。」
・ 【0005】
「本発明は、このような点に鑑み、蓋枠を、蓋基板に対して固定することによっ
て、蓋表板に撓みがあっても、これを固定時に修正して、常に正確な外形に保てる
20 ようにし、蓋装着時の段差やガタ付きを防止した床の開口蓋を提供するにある。更
に本発明は、簡単な構造で、保形性に富み、蓋装着時の安定が良く、長期に互って
高い気密性を保持できる床の開口蓋を提供するにある。」
・ 【課題を解決するための手段】
【0006】
25 「…蓋基板の上に重ねて配し、周縁部を除く複数個所を、裏面からのネジ止めで
固定される蓋表板と、この蓋表板の周側縁に設けられる蓋枠とからなり、蓋枠は、
その上端に内向きに鍔を有して、この鍔で蓋表板の周縁を上面から押え付け、また、
蓋枠はその裏面に、複数のネジ孔を有し、蓋基板の裏面からネジによって、蓋基板
に締込み固定され、蓋枠の鍔により、蓋表板の周縁が強く押えられて、蓋基板に密
着させられるようになることにある。」
5 ・ 【発明の実施の形態】
・ 【0009】
「蓋1は、図2 に示されるように、蓋基板11と、蓋表板12と、蓋枠13と
からなる。…蓋表板12は、蓋基板11の表面に重ねて配設され、図3に示される
ように、裏面から周縁部を除く複数個所の要所をネジ14で止めて固定される。」
10 ・ 【0010】
「…蓋枠13の裏面には、適所にネジ孔17が設けられていて、ネジ18によっ
て、蓋基板11の裏面に締込み固着される。19は蓋基板11に設けられたネジ貫
通孔である。このネジ18による締込みによって、蓋枠13は強く蓋基板11に引
き寄せられるので、蓋表板12の縁辺に撓みがあっても、修正されて、強く蓋基板
15 11に密着されることになり、開口に装着した時に、段差ができたり、ガタ付きが
生じたりすることがない。
・ 【0012】
「本発明は、前記の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載の
範囲内で自由に変形実施可能である。特に、材質や詳細な形状は自由である。ま
20 た、蓋表板の種類も自由である。」
・ 【0013】
・ 【発明の効果】
「この発明は、荷重に対して容易に撓まない蓋基板の表面に、蓋表板を重ねて、
その周縁部を除く複数個所を裏面からネジ止め固定すると共に、蓋枠を、蓋基板に
25 対してネジによって、裏面から締付け固定する方式であるから、撓みに対して強固
な蓋基板の表面に蓋表板がネジ止め固定され、その上、蓋基板には蓋枠がしっかり
締付固定され、蓋枠の内鍔で蓋表板の周縁が上面から強く押えられて、蓋表板に撓
みなどがあっても修正されるようになる。」
・【図面の詳細な説明】
【図1】開蓋状態の要部の断面図。
5 【図2】蓋の分解状態の要部の断面図。
【図3】蓋の裏面図。
【図4】他の実施例の蓋の要部の断面図。
【図1】 【図2】
【図3】 【図4】
(別紙)
本 件明細書2(抜粋)
5 ・ 【技術分野】
・ 【0001】
「本発明は、例えば、床下収納庫、床下点検口、天井点検口、部屋のコーナー用
のステッチ部材等の設置に用いられる取付部材に関する。」
・ 【発明が解決しようとする課題】
10 ・ 【0014】
「本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業者の
技量によらず、取付体の密着性や気密性等を確実に確保することができるとともに、
その密着性や気密性等の点において施工の質を均一に保つことが可能な取付部材を
提供することにある。また、本発明は、床下収納庫や床下点検口等のための床開口
15 用枠体に好適に用いることができ、補助根太を省略して施工作業の簡略化を図りつ
つ、高い位置精度で設置可能であり、枠体(取付体)自身の変形を防止することに
より気密性及び断熱性を確保するとともに躓き等を防止し、更に設置箇所の自由度
が高い取付部材を提供することを目的とする。」
・ 【課題を解決するための手段】
20 ・ 【0015】
以上のような目的を達成するために、本発明は、以下のようなものを提供する。
「(1) 取付対象面に対して垂直方向に奥行きのある取付孔が形成された取付
体を、上記取付対象面に取り付けるための取付部材であって、
上記取付孔に嵌挿される外形を有し、
25 上記取付対象面に対して略垂直方向に、固定具が挿通される挿通孔が形成され、
上記挿通孔に挿通された上記固定具が上記取付対象面に打設された際に、上記取
付体に、上記取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう力を加えるように構成さ
れていることを特徴とする取付部材。
・ 【0016】
「(1)の発明によれば、取付体を取付対象面に当接させ、取付体に形成された取
5 付孔に取付部材を嵌挿した後に、挿通孔に固定具(例えば釘、螺子、ピン等)を挿
通して打設することにより、取付体に、取付対象面に対して水平な所定方向へ向か
う力が加わる。従って、その力によって、取付体を、例えば床面、天井面、壁面等
の面に押し付けることが可能であり、取付体を取り付けつつ密着性や気密性を確保
することができる。また、釘等の固定具の打設方法によって密着性や気密性を確保
10 するものではなく、取付部材の構造によって密着性や気密性を確保するものである
ため、作業者の技量によらず、取付体の密着性や気密性等を確実に確保することが
できるとともに、その密着性や気密性等の点において施工の質を均一に保つことが
可能となる。」
・ 【0017】
15 「なお、本発明において、取付対象面とは、取付体が取り付けられる面であっ
て、上記取付体の取付孔に嵌挿された取付部材が接触する面をいう。取付体の密着
性や気密性等は、必ずしも、取付対象面との間のものをいうものではない。」
・ 【0018】
「さらに、本発明は、以下のようなものを提供する。
20 (2) 上記(1)の取付部材であって、
上記取付孔に嵌挿される外形を有する本体部と、上記本体部に設けられた舌片と
を備え、
上記挿通孔は、少なくとも上記舌片に形成されており、
上記舌片は、弾性を有し、その一端のみが上記本体部に固定されるとともに、そ
25 の他端側が上記取付対象面から離れる方向に傾斜しており、
上記舌片は、上記挿通孔に挿通された上記固定具が上記取付対象面に打設された
際に、上記取付対象面と水平になるように移動し、その際に生じる復元力によっ
て、上記取付体に、上記取付対象面に対して水平な所定方向へ向かう力を加えるよ
うに構成されていること
を特徴とする。」
5 ・ 【0022】
「さらに、本発明は、以下のようなものを提供する。
(4) 上記取付孔に嵌挿され得る形状を有し、上記取付対象面に対して傾斜す
る傾斜面を有する本体と、上記傾斜面と当接する当接面を有するとともに、上記本
体を介さずに上記取付体と接触する接触面を有する補助体とを備え、上記挿通孔
10 は、上記本体と上記補助体との両方に、互いに連通するように形成され、上記補助
体に形成された上記挿通孔は、上記固定具を上記挿通孔に対して相対的に上記傾斜
面の傾斜方向に沿って移動させ得る形状を有し、上記本体に形成された上記挿通孔
は、上記固定具と略同じ径を有し、上記補助体は、上記挿通孔に挿通された上記固
定具が上記取付対象面に打設された際に、上記当接面を上記本体の上記傾斜面に摺
15 接させながら移動することにより、上記取付体に、上記取付対象面に対して水平な
所定方向へ向かう力を加えるように構成されている請求項1に記載の取付部材。」
・ 【0023】
「(4)の発明によれば、取付体の取付孔に本体を嵌挿するとともに、補助体
を、その当接面が本体の傾斜面と当接するように設置し、挿通孔に固定具を挿通さ
20 せて取付対象面に打設すると、補助体が、当接面を本体の傾斜面に摺接させながら
移動し、補助体の接触面が 取付体を押圧する。その結果、取付体に、上記取付対
象面に対して水平な所定方向へ向かう力が加わることになる(図5参照)。従っ
て、取付体の密着性や気密性等を確実に確保することができるとともに、作業者の
技量によらず、その密着性や気密性等の点において施工の質を均一に保つことが可
25 能となる。」
・ 【発明の効果】
・ 【0037】
「本発明によれば、作業者の技量によらず、取付体の密着性や気密性等を確実に
確保することができるとともに、その密着性や気密性等の点において施工の質を均
一に保つことが可能となる。
5 また、本発明によれば、床下収納庫や床下点検口等のための床開口用枠体に好適に
用いることができ、補助根太を省略して施工作業の簡略化を図りつつ、高い位置精
度で設置可であり、枠体(取付体)自身の変形を防止することにより気密性及び断
熱性を確保するとともに躓き等を防止し、更に設置箇所の自由度が高めることがで
きる。」
10 ・ 【発明を実施するための最良の形態】
・ 【0042】
「基体12は、係止部11から垂下し、気密シール82を介して床板90の側面
90bに接する外側部17と、外側部17の途中から開口部99側に突出し、蓋8
1を支持する部分を構成する台座部15と、外面に突部16を備えるとともに内側
15 に取付孔14が形成された角筒状部13とを備える。突部16は、収納ボックス8
0の脱落やズレを防止するためのものである。取付孔14は、開口部99側から根
太91方向へ向けて水平方向に貫通した孔であり、後述する取付部材40が嵌挿さ
れる。」
・ 【0044】
20 「釘93を挿通孔43、44に挿通し、根太91に打ち込むと、図1(b)に示
すように、舌片42の弾性力に抗して、舌片42の下端側が開口部99側から根太
91方向に移動する。その結果、舌片42には、上端を軸として下端側が開口部9
9側へ戻ろうとする復元力(矢印A方向)が働くが、釘93が根太91に固定され
ているため、その付勢力は、枠部材10の係止部11を押し下げる力(矢印B方向)
25 となる。
このように、第1実施形態に係る取付部材40によれば、枠部材10(取付体)
に、取付対象面(側面90a、91b)の水平な所定方向( 鉛直下方) に向かう
力を加えることができるとともに、枠部材10を取付対象面に押し付ける力を加え
ることができる。…」
・ 【0048】
5 「舌片42には、固定具としての釘( 図示せず) が挿通される挿通孔43が形
成されている。なお、挿通孔43は、開口部側(図3(c)における左側)の径が
大きいテーパ状を有している。従って、釘が打ち込まれることによって舌片42が
根太側(図3(c)における右側)に移動した際の舌片42の破損を防止すること
ができる。
10 また、本体部41の内側には、台座部41bが設けられている。釘等の固定具が
打ち込まれると、舌片42は、鉛直方向を向いて台座部43と面接触する。
舌片42が鉛直方向を向いた際に面接触する位置に台座部43が設けられている
ので、固定具を打ち込んだ際に舌片42が破損することを防止することができる。
なお、本発明において、固定具としては、特に限定されるものではなく、例え
15 ば、釘、螺子、ピン等の従来公知のものを採用することができる。」
・ 【0055】
「基体112は、係止部111から垂下して床面190の側面190bに接する
外側部117と、外側部117の途中から開口部199側に突出し、蓋181を支
持する部分を構成する台座部115と、外面に突部116を備えるとともに内側に
20 取付孔114が形成された角筒状部113とを備える。突部116は、収納ボック
ス(図示せず)の脱落やズレを防止するためのものである。取付孔114は、開口
部199側から根太191方向へ向けて水平方向に貫通した孔であり、取付部材1
40が嵌挿される。
・ 【0058】
25 「図4(b)に示すように、釘193を挿通孔143、153に挿通して取付対
象面(側面191b)に打設すると、本体141は、傾斜面142を補助体151
の当接面152に、図中の矢印C方向に向けて摺接させながら移動する。その結
果、枠部材(取付体)110に、取付対象面(側面190b、191b)に対して
水平な所定方向(鉛直下方)へ向かう力が加わり、枠部材110は、図中の矢印D
方向に移動する。
5 係止部111により気密パッキン183が床面190aに押し付けられ、枠部材
110と床面190aとが密着し、気密性及び断熱性が確保される。」
・ 【0062】
「基体412は、係止部411から垂下して床面490の側面490bに接する
外側部417と、外側部417の途中から開口部499側に突出し、蓋481を支
10 持する部分を構成する台座部415と、外面に突部416を備えるとともに内側に
取付孔414が形成された角筒状部413とを備える。突部416は、収納ボック
ス(図示せず)の脱落やズレを防止するためのものである。取付孔414は、開口
部499側から根太491方向へ向けて水平方向に貫通した孔であり、取付部材4
40が嵌挿される。」
【図1】
【図4】
【図5】
(別紙)
本 件明細書3(抜粋)
5 ・ 【 技術分野】
・ 【0001】
「本発明は、床開口用枠体、該床開口用枠体が設置された床構造、及び、該開口
用枠体の設置方法に関する。」
・ 【課題を解決するための手段】
10 ・ 【0012】
「以上のような目的を達成するために、本発明は、以下のようなものを提供す
る。
(1)床の開口部に嵌合され得る形状を有し、上記開口部側から根太側へ向けて
貫通する取付孔が複数設けられている基体と、上記基体に設けられ、床面に係止さ
15 れる係止部とからなる枠部材、及び、上記取付孔に嵌挿され得る形状を有し、上記
開口部側から根太側へ向けて固定具が挿通 される挿通孔が形成された支持部材を
備え、上記基体は、上記係止部から上記開口部の側面に沿って下方に垂下する板状
部と、上記板状部に直交するように設けられた筒状部とを含んで構成され、上記筒
状部が、上記取付孔を有することを特徴とする床開口用枠体。」
20 ・ 【0013】
「図11に示したように、固定具により直接、枠体が支持される構造であると、
強度が不足し、枠体が変形するおそれがある。しかしながら、(1)の発明では、
枠部材の取付孔に支持部材が嵌挿され、その支持部材の挿通孔に固定具が打ち込ま
れるため、枠部材が支持部材によって支持されることになる。従って、補助根太を
25 省略しても、強度を確保することができるため、変形等を防止することができ、気
密性及び断熱性を確保するとともに躓き等を防止することができる。」
・ 【0014】
「また、(1)の発明によれば、枠部材を開口部に嵌合し、上記枠部材の係止部
を床面に係止した状態で、各取付孔に支持部材を嵌挿し、支持部材の挿通孔に固定
具(例えば釘、螺子、ピン等)を打ち込むことにより、枠体を開口部に設置するこ
5 とができるため、枠体の設置に際して部材の位置合わせが不要である。従って、補
助根太を省略して施工作業の簡 略化を図りつつ、高い位置精度で設置可能であ
る。」
・ 【0015】
「更に、(1)の発明によれば、床板の開口部の側面と根太の側面とに段差があ
10 る場合であっても、枠体を設置することができる。すなわち、枠部材の係止部を床
面に係止した状態で各取付孔に支持部材を嵌挿する際、支持部材が根太の側面に接
する位置まで、支持部材を押し込み、その状態で支持部材の挿通孔に固定具を打ち
込むことにより、床板の開口部の側面と根太の側面とに段差がある場合であって
も、枠体を設置することができる。従って、(1)の発明に係る床開口用枠体は、
15 設置箇所の自由度が高いものである。更に、(1)の発明によれば、支持部材が嵌
挿される取付孔を有する筒状部が、板状部に対して直交するように設けられている
ため、枠部材の強度を確保することができ、枠部材の変形をより確実に防止するこ
とができるからである。」
・ 【発明の効果】
20 ・ 【0026】
「本発明によれば、補助根太を省略することにより施工作業の簡略化を図りつ
つ、高い位置 精度で設置可能であり、枠体自身の変形を防止することにより気密
性及び断熱性を確保すくとともに躓き等を防止し、更に設置箇所の自由度を高める
ことができる。」
25 ・ 【発明を実施するための最良の形態】
・ 【0051】
「図8(a)に示すように、枠部材10は、係止部11と、基体12とからな
る。基体12は、係止部11から垂下する外側部17と、外側部17の途中から開
口部側(図8(b)における左側)に突出する台座部15と、台座部15の下側に
設けられ、開口部側から根太側(図8(b)における右側)の方向に貫通する取付
5 孔14を有する角筒状部13と、内側部19とを備えている。このように、本発明
において、枠部材を構成する基体は、床板の開口部の側面に沿って係 止片から下
方に垂下する板状部(外枠部17)と、該板状部に対して直交するように設けられ
た筒状部(角筒状部13)とを含んで構成され、その筒状部が、開口部側から根太
側 に向けて貫通する取付孔を有することが望ましい。 板状部に、支持部材が嵌挿
10 される取付孔を有する筒状部を該板状部と直交するように設けることで、枠部材の
強度を確保することができ、枠部材の変形をより確実に防止することができるから
である。」

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