令和5(行ケ)10087審決取消請求事件
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裁判所 |
一部認容 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和6年7月8日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告デンツプライシロナインコーポレーテッド 被告株式会社DentalBank
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法令 |
商標権
商標法4条1項11号10回 商標法4条1項15号7回 商標法4条1項7号6回 商標法4条1項19号6回
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キーワード |
審決17回 無効5回 商標権5回 無効審判1回
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主文 |
1 特許庁が無効2022-890029号事件について令和5年3月2720
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告
4 この判決に対する原告による上告及び上告受理申立てのための付加期間 |
事件の概要 |
本件は、商標登録無効審判請求に係る不成立審決の取消訴訟である。争点は、
後記1の登録商標(以下「本件商標」という。)が、①商標法4条1項11号に
掲げる商標、②同項15号に掲げる商標、③同項19号に掲げる商標、④同項7
号に掲げる商標に、それぞれ該当するか否かである。10 |
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判決文
令和6年7月8日判決言渡
令和5年(行ケ)第10087号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年5月27日
判 決
原 告 デンツプライ シロナ インコーポレ
ーテッド
同訴訟代理人弁護士 佐 藤 力 哉
10 同 栗 林 知 広
同訴訟代理人弁理士 佐 藤 俊 司
同 山 口 現
同訴訟復代理人弁護士 橋 沙 耶 香
15 被 告 株式会社DentalBank
同訴訟代理人弁護士 木 下 明
同 木 下 比 奈 子
主 文
20 1 特許庁が無効2022-890029号事件について令和5年3月27
日にした審決のうち、登録第6074174号商標の別紙認容指定商品役
務目録記載の指定商品及び指定役務に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告
25 の負担とする。
4 この判決に対する原告による上告及び上告受理申立てのための付加期間
を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2022-890029号事件について令和5年3月27日にし
5 た審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、商標登録無効審判請求に係る不成立審決の取消訴訟である。争点は、
後記1の登録商標(以下「本件商標」という。)が、①商標法4条1項11号に
掲げる商標、②同項15号に掲げる商標、③同項19号に掲げる商標、④同項7
10 号に掲げる商標に、それぞれ該当するか否かである。
1 登録商標
被告は、本件商標の商標権者である(甲1の1・2)。
(1) 登録番号:商標登録第6074174号
(2) 出願日:平成29年10月30日(以下「本件出願日」という。)
15 (3) 登録査定日:平成30年7月18日(以下「本件査定日」という。)
(4) 登録日:平成30年8月24日
(5) 商標の構成:「三金工業」(標準文字)
(6) 商品及び役務の区分並びに指定商品:別紙「指定商品役務目録」(以下
「本件目録」という。)のとおり
20 2 原告(甲61から63まで、弁論の全趣旨)
原告は、米国の会社(デンツプライインターナショナル)とドイツの会社
(シロナデンタルシステムズ)とが平成28(2016)年に合併したことに
より成立した会社であり、歯科医療用製品の販売等を世界的規模で行っている。
別紙引用商標目録記載の商標(甲2の1及び2、甲3の1及び2。以下、同別
25 紙の番号に従い「引用商標1」、「引用商標2」といい、併せて「引用商標」
という。)の商標権者であるデンツプライシロナ株式会社(以下「デ社」とい
う。)は、原告の子会社である。原告は、日本において、デ社を通じて、歯科
用材料・歯科用医療機器の製造販売等を行っている。
3 特許庁における手続の経緯等(争いがない)
原告は、令和4年4月28日、本件商標の商標登録を無効にすることについ
5 て審判を請求した。
特許庁は、これを無効2022-890029号事件として審理し、令和5
年3月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし(出
訴期間90日を付加)、その謄本は、同年4月6日、原告に送達された。
原告は、同年8月4日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
10 4 本件審決の理由の要旨
(1) 商標法4条1項11号該当性について
ア 本件商標は「三金工業」の文字を標準文字で表してなるものであるが、
次の理由により、その構成文字全体をもって一体不可分のものとして認
識され、把握されるものとみるのが相当である。①引用商標及び「三
15 金」、「サンキン」、「SANKIN(Sankin)」の文字からな
る表示(以下「引用商標等」という。)は、本件出願日前及び本件査定
日において、他人の業務に係る商品を表示するものとして我が国及び外
国の需要者の間に広く認識されていたとは認められないこと、②「工業」
の文字部分は、商号においては業種を示す語として一般に使用され、全
20 体として商号の略称と理解させること、③本件商標の構成文字は同書同
大でまとまりよく一体的に表されており、これから生じる「サンキンコ
ーギョー」の称呼は無理なく一連に称呼し得るものであること。
イ そうすると、本件商標は「三金工業」の漢字を表してなるのに対し、
引用商標は、「Sankin」の欧文字と「サンキン」の片仮名を上下
25 二段に横書きしてなるものであるから、その構成文字及び構成態様にお
いて顕著な差異を有し、外観上明確に区別することができる。そして、
本件商標の構成全体から生じる「サンキンコーギョー」の称呼と引用商
標から生じる「サンキン」の称呼とは、構成音数及び音構成において明
らかに相違する。さらに、本件商標と引用商標は、いずれも特定の観念
を生じないものである。
5 ウ したがって、本件商標と引用商標とは、両者の外観、観念、称呼等に
よって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に
考察すれば、両者が相紛れるおそれのない非類似の商標というべきであ
るから、本件商標の登録は、商標法4条1項11号に違反してされたも
のとはいえない。
10 (2) 商標法4条1項15号該当性について
「三金」の文字には自他識別力が認められないこと、その他前記(1)と同
様の理由から、本件商標と引用商標等は非類似の商標というべきであり、そ
の類似性の程度は高いものとはいえないこと、「三金」、「サンキン」又は
「SANKIN」の文字を含む登録商標や会社名は多数存在し(乙1の1~
15 3)、独創性が高いとはいえないことからすれば、被告が本件商標をその指
定に係る商品役務について使用しても、取引者、需要者をして引用商標等を
連想又は想起させることはなく、その商品役務が他人であるデ社又はこれと
関係を有する者の業務に係るものであるかのように混同を生ずるおそれはな
い。
20 したがって、本件商標の登録は、商標法4条1項15号に違反してされた
ものとはいえない。
(3) 商標法4条1項19号該当性について
前記のとおり、引用商標等は、デ社の業務に係る商品を表示するものとし
て我が国における需要者の間に広く認識されているものとは認められず、本
25 件商標と非類似の商標というべきであり、本件商標は引用商標等を連想し、
又は想起させることのないものである。
また、本件商標が引用商標等の出所識別機能を希釈化させ、又はその信用、
名声、顧客吸引力を毀損させるなど不正の目的をもって使用するものという
べき事情は見いだせない。
したがって、本件商標の登録は、商標法4条1項19号に違反してされた
5 ものとはいえない。
(4) 商標法4条1項7号該当性について
引用商標等は、デ社の業務に係る商品を表示するものとして我が国におけ
る需要者の間に広く認識されているものとは認められず、具体的に、被告が
原告の事業の遂行を妨害や阻止しようとしているとか、本件商標の登録出願
10 が剽窃に当たることなどを裏付ける証拠もない。
したがって、本件商標は、その登録を維持することが商標法の予定する秩
序に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に該当すると
まではいえないから、本件商標の登録は、商標法4条1項7号に違反してさ
れたものとはいえない。
15 5 原告主張の審決取消事由
(1) 商標法4条1項11号該当性の判断の誤り(取消事由1)
(2) 商標法4条1項15号該当性の判断の誤り(取消事由2)
(3) 商標法4条1項19号該当性の判断の誤り(取消事由3)
(4) 商標法4条1項7号該当性の判断の誤り(取消事由4)
20 第3 取消事由に関する当事者の主張
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について
(原告の主張)
(1) 本件商標は「三金」と「工業」を組み合わせて構成される結合商標であり、
「三金」の部分が要部である。
25 ア 「工業」の文字は、商標又は商号の一部として使用された場合、単に企
業の業態を表すものとして理解されるから、本件商標の「工業」の部分は
自他識別力を有しない。特定の標章と「工業」を組み合わせた商標あるい
は商号から「工業」の部分を省略し、自他を識別するための表示として特
定の標章部分のみが使用される例は多数ある(甲65)。
イ これに対し、「三金」の部分は、以下のとおり、強い出所識別機能を有
5 する。
引用商標の商標権者であるデ社は、昭和2年に「三金電化研究所」とし
て創業、昭和23年に「三金工業株式会社」として設立され、平成14年
に「デンツプライ三金株式会社」に商号変更した会社であり、平成29年
に現商号の「デンツプライシロナ株式会社」に変更するまで、100年近
10 くにわたり会社名に「三金」を使用してきた。
また、デ社は、製造販売する歯科用材料や歯科用医療機器の製品名に引
用商標等を使用し(甲8、9、111)、引用商標等を使用して積極的な
宣伝広告活動を行っており(甲69~136)、「歯科機器・用品年鑑」
に掲載された歯科材料・歯科用金属の市場及びメーカーの動向に関する記
15 事によれば、主要メーカーとして販売実績も上位であった(甲114)。
デ社の販売する商品のうち、商品名に「サンキン」、「三金」又は「S
ANKIN」を含む商品の販売開始時期及び純売上額の例は、別紙「サン
キン」等を商品名に付した商品一覧表(以下「本件一覧表」という。)の
とおりであり、長年にわたり数千万円規模の売上高を計上している。
20 以上のとおり、「三金」を含む引用商標等は、本件商標の出願時におい
て、歯科医療従事者を中心とする取引者・需要者の間で、デ社が製造販売
する歯科用材料・歯科用医療機器、さらにデ社の製造販売業を表示するも
のとして高い周知性を有していた。
ウ 仮に「三金」の部分に周知性が認められないとしても、少なくとも「三
25 金」の識別力は「工業」よりも相対的に高いことからすれば、本件商標は、
「三金」の部分のみを分離して観察することが取引上不自然といえるほど
不可分に結合しているものではない。
エ そうすると、本件商標の「三金」の部分からは「サンキン」の称呼が生
じ、また、前記のとおりデ社の商品や事業の表示として高い周知性を獲得
していたことから、デ社の商品や事業、さらにデ社自体との観念が生じる。
5 また、引用商標についても、同様に「サンキン」の称呼とデ社の商品や
事業、さらにデ社自体との観念が生じる。
したがって、本件商標と引用商標は、外観が異なるものの、引用商標の
「Sankin」と「サンキン」は「三金」の読み方を欧文字又はカタカ
ナにしたものと容易に理解されるから、外観の相違は小さく、称呼及び観
10 念の同一性を凌駕するものではないから、類似するといえる。
(2) 本件商標の指定商品のうち、少なくとも以下のもの(本件目録の実線の下
線を引いたもの)は、引用商標1及び引用商標2の各指定商品と同一又は類
似する。
ア 第5類「薬剤、医療用試験紙」は、引用商標1の指定商品「消化器官用
15 薬剤、外皮用薬剤、血液用剤、診断用薬剤」を包含し、同一又はいずれも
医薬品であって類似する(類似群コード01B01)。
イ 第5類「医療用油紙、衛生マスク、オブラート、ガーゼ、カプセル、眼
帯、耳帯、生理帯、生理用タンポン、生理用ナプキン、生理用パンティ、
脱脂綿、ばんそうこう、包帯、包帯液、胸当てパッド、綿棒」は、引用商
20 標1の指定商品「衛生マスク、絆創膏」を含み、同一又はいずれも衛生用
品であって類似する(類似群コード01C01)。
ウ 第5類「歯科用材料」は、引用商標1の指定商品「歯科用材料」と同一
である。
エ 第10類「医療用指サック、おしゃぶり、氷まくら、三角きん、支持包
25 帯、手術用キャットガット、吸い飲み、スポイト、乳首、氷のう、氷のう
つり、哺乳用具、魔法哺乳器」と、引用商標1の指定商品「衛生マスク、
絆創膏」とは、いずれも衛生用品であって、類似する(類似群コード01
C01)。
オ 第10類「人工鼓膜用材料、補綴充てん用材料(歯科用のものを除
く。)」と、引用商標1の指定商品「歯科用材料」とは、いずれも医療補
5 助品であって類似する(類似群コード01C03)。
カ 第10類「義歯、医療用マウスピース、医療用機械器具」は、引用商標
2の指定商品「医療用機械器具(診断用機械器具・治療用機械器具・歯科
用機械器具・医療用X線装置を含む)」に包含され同一である(類似群コ
ード10D01、10D02)。
10 キ 第10類「医療用手袋」は、引用商標2の指定商品「医療用手袋」と同
一である(類似群コード17A09)。
(3) したがって、本件商標は、先願に係る他人の登録商標である引用商標と類
似し、その指定商品は引用商標の指定商品と同一又は類似するものを含むも
のであるから、商標法4条1項11号に該当する。
15 (被告の主張)
本件商標が商標法4条1項11号に該当しないとする審決の判断に誤りはな
い。
(1) 本件商標は、「工業」の部分を含む構成文字全体が一体不可分のものとし
て認識、把握される。例えば「三菱重工業」、「川崎重工業」は、「工業」
20 を除いて観念されることはない。わずか漢字4文字の「三金工業」から「三
金」のみを抽出する根拠はない。
(2) 原告提出の各証拠をみても、引用商標自体が商品に使用されたものはない。
デ社の広告宣伝に係る各証拠をみても、引用商標等が商標として使用された
ものはなく、広告主である「デンツプライ三金株式会社」等の表示があるの
25 みで、広告全体に占めるその面積等は非常に小さい。
(3) デ社の商品の販売実績をみても、例えば平成26(2014)年度におい
て、首位のジーシーが174億円であるのに対し5位のデ社は36億円にす
ぎず、そのシェアは小さい(甲114の6)。引用商標等を商品名に付した
商品については、仮に毎年数千万円規模の売上げがあったとしても、例えば
平成28(2016)年度の歯科材料、矯正、インプラント、金属の合計市
5 場規模は1396億円であり(甲114の8)、周知性を裏付けるほどの売
上額ではない。
2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について
(原告の主張)
(1) 本件商標と引用商標等との類似性の程度
10 前記1(原告の主張)(1)のとおり、類似性の程度は極めて高い。
(2) 引用商標等の周知著名性及び独創性の程度
前記1(原告の主張)(1)イのとおり、引用商標等は高い周知性を獲得
している。
また、引用商標等は、辞書等に載録のない造語であり、独創性は高い。被
15 告が挙げる「三金」の文字を含む登録商標の例は、歯科医療に係る分野で独
創性があることを否定するものではない。
(3) 本件商標の指定商品・指定役務とデ社の業務に係る商品・役務との間の性
質、用途又は目的における関連性の程度、取引者及び需要者の共通性
本件商標の指定商品と、デ社の業務に係る商品である歯科用材料及び歯科
20 用医療機器は、いずれも医療用品又は衛生用品という性質を有し、同一又は
類似の商品であるといえる。
また、本件商標の指定役務のうち、「義歯の加工」は、歯科用材料及び歯
科用医療機器の製造に含まれる。「金属の加工」及び「セラミックの加工」
は、金属又はセラミックを材料とする歯科用材料及び歯科用医療機器の製造
25 と関連性が高い。さらに、近年、歯科医療の現場において、歯科用医療機器
の作製を目的とした3Dプリンターの導入が進んでおり(甲116)、デ社
を含む原告グループも同様の事業展開を進めている(甲117)。かかる取
引の実情を踏まえれば、「金属加工機械器具の貸与、化学機械器具の貸与、
3Dプリンターの貸与、材料処理情報の提供」の役務も、デ社の前記業務と
高い関連性を有する。
5 また、本件商標の指定商品・指定役務と、歯科用材料及び歯科用医療機器
の取引者及び需要者には、いずれも歯科医療従事者等が含まれるから、需要
者層も共通するものである。
(4) その他取引の実情
ア 被告は、その目的に歯科用材料、機械器具等の製造、販売等を含む会社
10 であり(甲12の4)、実際にかかる製品を販売している(甲118)。
イ デ社は、かつて「三金工業株式会社」の商号を使用しており、本件商標
はこの商号の「株式会社」を省略したに過ぎないものであるから、被告が
本件商標の指定商品役務に本件商標を使用した場合、取引者・需要者は、
これらの商品役務がデ社又はそのグループ会社のものであるとの混同を生
15 ずるおそれがある。
(5) したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に該当する。
(被告の主張)
本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとする審決の判断に誤りはな
い。
20 (1) 本件商標が引用商標等に類似しないこと、引用商標等に周知性が認められ
ないことは、前記のとおりである。
(2) また、「三金」の文字については「とんかつ三金」などの登録商標や「株
式会社三金」、「三金商事株式会社」などの会社名(乙1の1)が多数あり、
「サンキン」、「SANKIN」の文字についても同様であるから(乙1の
25 2・3)、引用商標等の文字や称呼の独創性が高いとはいえない。
(3) このように、本件商標は、被告がこれをその指定商品及び指定役務につい
て使用しても、その商品及び役務がデ社又はそのグループ会社のものである
との混同を生ずるおそれはない。
3 取消事由3(商標法4条1項19号該当性の判断の誤り)について
(原告の主張)
5 (1) 被告は引用商標等の高い周知性を認識していたこと
引用商標等は、原告の業務に係る歯科用材料及び歯科用医療機器、及びそ
の製造販売業を示す表示として、遅くとも本件商標の出願時において周知と
なっていた。被告は、平成24年に創業し、その目的に歯科用材料、機械器
具等の製造、販売等を含む会社であり、実際にも、歯科用材料、機械器具等
10 の販売等を行っているから、本件出願日において、被告が引用商標等及びそ
の高い周知性を認識していたことは明らかである(このことは、被告の子会
社である株式会社ギコウ(以下「ギコウ社」という。)が原告に提出した令
和2年11月27日付け最終意向書(甲12の6。以下「本件意向書」とい
う。)にも表れている。)。
15 (2) 被告は引用商標等の高い周知性を利用して急速な事業拡大を目指していた
こと
原告は、令和2(2020)年11月頃、歯科矯正製品等の製造工場(那
須工場)の事業譲渡を企図していたところ、ギコウ社は原告に対し、本件意
向書(甲12の6)を提出し、入札に参加した。
20 本件意向書には「…『三金(Sankin)』という名称が、矯正歯科の分野で
は今でもブランドの権威を持っていることです。デンツプライ シロナ社の
矯正歯科用製品については、パートナーが行った目隠し調査を通じて、一部
の矯正歯科医から非常に高い評価を得ており、ほとんどの矯正歯科医が『三
金』製品として認知しています。一方、私たちギコウは、矯正歯科技工分野
25 への進出準備を進めており、両社の既存顧客はほぼ重なっていないことから、
矯正歯科事業を急速に拡大するための大きな販売シナジーを発揮することが
できます。」、「そのため、デンタルバンクの子会社として、新たに『三金
デンタル株式会社』を設立し、同社を那須事業の買収主体としています。」
と記載されており、ギコウ社が引用商標等の高い周知性を利用して急速な事
業拡大を目指していることを自認している(甲12の6)。なお、ギコウ社
5 は、那須工場の事業を落札するに至らなかった。
(3) 引用商標等を含む複数の商標について出願・登録等をしていること
さらに、被告は、買収が未確定であった同月時点において、「三金デンタ
ル株式会社」を設立し、本件商標のほかに「SANKINDENTAL」及
び「三金デンタル」の商標を出願して登録を受けており(甲12の2・3)、
10 引用商標等の高い周知性を利用しようとしていることが明らかに窺われる。
(4) 以上からすると、被告は、本件商標についても、引用商標等の高い周知性
を認識した上で、これを利用して急速に事業を拡大するためにその出願を行
ったことは容易に想像することができるから、本件商標は、信義則に反する
不正の目的で出願されたといえ、商標法4条1項19号に該当する。
15 (被告の主張)
原告の主張は争う。本件審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について
(原告の主張)
前記3のとおり、被告は、引用商標等の高い周知性を認識した上で、これを
20 利用して急速に事業を拡大するために本件商標を出願したものであるから、本
件商標は、引用商標等の高い周知性やこれに化体した信用、名声及び顧客吸引
力にただ乗り(フリーライド)する目的で出願されたものであって、剽窃的な
出願であることは明らかであり、本件商標の登録出願の経緯には社会的相当性
を欠くものがある。
25 このような商標登録の維持を許せば、前記の那須工場に係る歯科矯正製品等
事業を正当に譲り受けた者による事業展開が脅かされ、落札していない被告が
引用商標等に係るブランドのもとで行われている前記事業をいわば横取りする
ことを認めることにほかならず、公正な取引秩序が害されることは必至であり、
商標法の予定する秩序に反するというべきである。
したがって、本件商標は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある
5 商標」に当たり、商標法4条1項7号に該当する。
(被告の主張)
原告の主張は争う。本件審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について
10 (1) 本件商標と各引用商標の類否
ア 判断枠組み
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用
された場合に、その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれが
あるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役
15 務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印
象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかも、その商
品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状
況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和43年2月27日第三
小法廷判決(昭和39年(行ツ)第110号)民集22巻2号399頁参
20 照)。
また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、みだりに分
離観察すべきではないが、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し
商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認められ
る場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じな
25 いと認められる場合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察すること
が取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められ
ない場合には、その構成部分の一部を抽出し、その部分だけを他人の商標
と比較して商標の類否を判断することも許されると解すべきである(最高
裁昭和38年12月5日第一小法廷判決(昭和37年(オ)第953号)
民集17巻12号1621頁、最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決
5 (平成3年(行ツ)第103号)民集47巻7号5009頁、最高裁平成
20年9月8日第二小法廷判決(平成19年(行ヒ)第223号)裁判集
民事228号561頁参照)。
イ 本件商標の分離観察の可否について
(ア) 本件商標を構成する「三金工業」の文字のうち、「工業」の部分は産
10 業分野等を表す周知の一般名詞であるから、出所識別標識としての称呼、
観念が生じないのに対し、「三金」の文字は、「三つの金」程度の意味
を想起し得るか、特別な意味を持たない造語又は固有名詞と認識される
ものであるから、出所識別標識としての称呼、観念が生じ得るものとい
える。
15 そして、原告は、本件商標の「三金」の部分からは、過去に「三金工
業株式会社」、「デンツプライ三金株式会社」の商号を用い、商品名に
「三金」、「サンキン」又は「SANKIN(Sankin)」の標章
を用いて歯科用材料や歯科用医療機器を製造販売してきたデ社の商品や
事業、さらにデ社自体との観念が生じる旨主張するので、この点につい
20 て検討する。
(イ) 以下の各項に掲げる証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認
められる。
① デ社は、「三金電化研究所」の名称で創業され、昭和23年10月
29日、「三金工業株式会社」を商号とし、医療用具、医療用、衛生
25 用製品の製造、販売及び修理等を目的とする会社として設立され、歯
科用材料、歯科用医療機器等を製造販売してきた。デ社は、平成14
年1月1日、デンツプライインターナショナルの資本参加に伴い商号
を「デンツプライ三金株式会社」に変更した後、デンツプライインタ
ーナショナルとシロナデンタルシステムズの合併に伴い、平成29年
1月1日、現商号である「デンツプライシロナ株式会社」に変更した
5 (甲6、甲7の1、甲61)。
② 株式会社アールアンドディ発行の「歯科機器・用品年鑑」に記載さ
れた、平成19(2007)年度から平成30(2018)年度まで
(いずれも当年4月から翌年3月まで)における国内の歯科材料(金
属・薬品を除く)及び歯科用金属の販売実績をみると、デ社の販売実
10 績は、歯科材料では主要メーカーのうち概ね4位~5位、歯科用金属
では主要メーカーのうち概ね6位~7位(平成29年度以降は主要メ
ーカー10社に入っていない)であり、例えば平成27(2015)
年度(甲114の7)でみると、歯科材料の販売実績額は66億円で、
市場全体(373億円)の17.7%、首位であるジーシー(187
15 億円)の35.3%であり、歯科用金属の販売実績額は30億円で、
市場全体(851億円)の3.5%、首位であるジーシー(189億
円)の15.9%であった(甲114の1~10)。
③ デ社は、遅くとも昭和33年以降、商品名の一部に「三金」、「サ
ンキン」又は「SANKIN」の文字を含む歯科用材料、歯科用医療
20 機器等を製造販売しており、それら商品の販売開始時期及び平成18
(2006)年以降の純売上額は、本件一覧表のとおりである(本件
一覧表記載の各証拠及び弁論の全趣旨)。なお、引用商標自体の使用
を裏付ける証拠は乏しいが、サンキンアルミキャップ(甲9の3)、
サンキンクリストバライト(甲150)等の商品の包装等には、引用
25 商標の上段ローマ字部分が付されている。
④ デ社は、「デンツプライ三金株式会社」に商号変更した後も、広告
宣伝として、前記③の商品を含むカタログやパンフレットを頒布する
ほか、歯科医療関係の学会誌、業界紙等に自社商品の広告宣伝等を掲
載し、少なくとも平成26年3月23日から平成27年3月23日ま
での間に18回、一般紙(中國新聞、西日本新聞、毎日新聞、北海道
5 新聞)に「デンツプライ三金株式会社」又は「Dentsply Sankin(二
段構成)」の会社名を表示する広告を掲載した(甲8の1~5、甲9
の1~3、甲69~111の3、甲119~136)。
⑤ 新聞記事では、昭和58年10月28日付けの日経新聞に「三金工
業とともに歯科材料の総合大手三社のひとつ」、平成2年10月13
10 日付け日経産業新聞に「歯科材料大手の三金工業」、平成14年2月
5日付け北海道新聞に「歯科器材製造販売大手のデンツプライ三金」
と記載した記事が掲載された(甲10~12の1)。
⑥ 被告の子会社であるギコウ社は、平成27年、デ社から歯科技工所
「三金ラボラトリーセンター」の事業の一部を承継する合意をし、平
15 成28年10月11日、事業承継した歯科技工所の名称を「 Giko
Tokyo」とする歯科技工所開設届をした(乙2の1~3、乙3)。ま
た、被告は、平成29年10月30日に本件商標を出願した後、令和
2年11月12日、商標「三金デンタル」(標準文字)の出願を、同
月30日、商標「SANKINDENTAL」(標準文字)の出願を
20 それぞれ行い、いずれも商標登録された。さらに、同月18日、被告
の子会社として「三金デンタル株式会社」が設立され、同月27日、
ギコウ社から原告に対し、原告の那須工場の事業買収を申し入れる本
件意向書が提出された。本件意向書には、「三金(Sankin)」という
名称が矯正歯科の分野で高いブランド力を有していると認識している
25 こと、新たに設立した前記「三金デンタル株式会社」を事業買収主体
とする予定であることが記載されていた(甲12の2~6)。
(ウ) 前記(イ)の各事実によれば、デ社は、遅くとも昭和23年の設立から
平成13年末までの約53年間「三金工業株式会社」の商号を、平成1
4年から平成28年末までの約15年間「デンツプライ三金株式会社」
の商号を、それぞれ使用し、長年にわたり歯科用材料、歯科用医療機器
5 等を製造販売しており、その事業実績は少なくとも業界の中堅規模以上
であったと認められる。また、デ社は、歯科医療関係者を中心とする需
要者に会社名を表示する広告宣伝を継続的に行い、「三金」、「サンキ
ン」又は「SANKIN」を商品名に含む商品についても、本件商標が
出願された平成29年まで長年にわたり継続的に製造販売され、年間数
10 千万円程度の純売上額を恒常的に上げていたことが認められる。
デ社の事業譲渡に係る経緯をみても、被告及びギコウ社は、デ社の歯
科技工所等の事業を譲り受ける価値があるものと判断するとともに、
「三金」、「SANKIN」の知名度、ブランド力をも評価していたと
みるのが相当であり、このことは、歯科医療関係者の認識の程度を裏付
15 ける事情の一つといえる。
そうすると、本件商標の指定商品に含まれる歯科用材料、義歯等の取
引者、需要者である歯科医療関係者の間では、「三金」の表記及びその
称呼の表記である「サンキン」、「SANKIN」は、デ社又はその製
造販売する商品を表すものとして、広く認識されていたと認められる。
20 (エ) 以上の事実を前提に判断すると、本件商標は、「工業」の部分が出所
識別標識としての称呼、観念が生じないのに対し、「三金」の部分は、
取引者、需要者のうち歯科医療関係者に対しては現に出所識別標識とし
ての印象を強く与えているということができる。そうすると、当該部分
は、その他の取引者、需要者からみても同様に出所識別標識としての称
25 呼、観念が生じ得るものである。これらの点に鑑みると、本件商標の
「三金」と「工業」とは、分離して観察することが取引上不自然である
と思われるほどに不可分的に結合していると認めることはできず、「三
金」の部分を抽出し、引用商標と比較して商標の類否を判断することも
許されると解するのが相当である。
これに反する被告の主張は、採用することができない。
5 ウ 本件商標と引用商標の類否
(ア) 本件商標の「三金」の部分は漢字2文字からなり、引用商標は「Sa
nkin」と「サンキン」を縦に重ねて組み合わせたものであり、外観
において相違する。
(イ) 本件商標の「三金」部分、引用商標の「Sankin」及び「サンキ
10 ン」の部分からは、いずれも「サンキン」の称呼が生ずる。
(ウ) 前記のとおり、取引者・需要者のうち歯科医療関係者においては、本
件商標の「三金」の部分、引用商標の「Sankin」と「サンキン」
からは、デ社及びその商品の観念が生ずると認められる。
その他の取引者・需要者においては、本件商標の「三金」の部分は特
15 定の意味を持たない造語等と認識され、引用商標の「Sankin」と
「サンキン」からも、同様に特定の意味を持たない造語等と認識される
といえる。
(エ) 以上のとおり、本件商標の「三金」の部分と引用商標は、外観におい
て相違するが、称呼は同一であり、観念も取引者・需要者のうち歯科医
20 療関係者においてはデ社及びその商品の観念を生じさせる点で共通して
いる。他方、「三金」それ自体は特定の意味を持たない造語にすぎない
から、その他の取引者・需要者において、異なる観念を生じさせるもの
ではない。これらを全体的に考察すると、互いに類似するものと認めら
れる。
25 そうすると、本件商標は、全体として、引用商標と類似すると認めら
れる。
(2) 本件商標の指定商品役務と引用商標の指定商品役務の類否
ア 本件目録記載の本件商標の指定商品・指定役務(以下「指定商品等」と
いう。)のうち、本件目録に実線の下線を引いた指定商品(第5類「薬剤、
医療品試験紙、医療用油紙、衛生マスク、オブラート、ガーゼ、カプセル、
5 眼帯、耳帯、生理帯、生理用タンポン、生理用ナプキン、生理用パンティ、
脱脂綿、ばんそうこう、包帯、包帯液、胸当てパッド、綿棒、歯科用材
料」、第10類「医療用指サック、おしゃぶり、氷まくら、三角きん、支
持包帯、手術用キャットガット、吸い飲み、スポイト、乳首、氷のう、氷
のうつり、哺乳用具、魔法哺乳器、人工鼓膜用材料、補綴充てん用材料
10 (歯科用のものを除く。)、義歯、医療用マウスピース、医療用機械器具、
医療用手袋」)及び第5類「サプリメント」(以下、併せて「本件薬剤等
商品」と総称する。)については、いずれも医薬品、衛生用品又は医療補
助品であって、引用商標1の指定商品である第5類「消化器官用薬剤、外
皮用薬剤、血液用剤、診断用薬剤、歯科用材料、衛生マスク、絆創膏」又
15 は引用商標2の指定商品である第10類「医療用機械器具(診断用機械器
具・治療用機械器具・歯科用機械器具・医療用X線装置を含む)、医療用
手袋」と同一の商品又はこれらに類似する商品であると認められる。また、
本件商標の指定役務(第40 「金属の加工、セラミックの加工、義肢又
は義歯の加工(「医療材料の加工」を含む。)、金属加工機械器具の貸与、
20 化学機械器具の貸与、3Dプリンターの貸与、材料処理情報の提供」)の
うち、「義歯の加工(「医療材料の加工」を含む。)」については、少な
くとも引用商標1の指定商品である第5類「歯科用材料」又は引用商標2
の指定商品である第10 「歯科用機械器具」の製造に含まれるか、又は
これに密接に関連する役務と考えられるから、商品役務間の同一性又は類
25 似性が認められる。
イ これに対し、本件商標の指定商品のうち、本件薬剤等商品を除いたもの
(第5類「乳幼児用粉乳、食餌療法用飲料、食餌療法用食品、乳幼児用飲
料、乳幼児用食品」、第10類「睡眠用耳栓、防音用耳栓、業務用美容マ
ッサージ器」、「家庭用電気マッサージ器」)は、いずれも医薬品、衛生
用品又は医療補助品とは用途及び需要者を異にするものと考えられ、取引
5 の実情として、通常同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認混同され
るおそれがあると認められるような事情が存在する旨の主張立証もないか
ら、引用商標1又は引用商標2の各指定商品と同一又はこれらに類似する
商品であるとは認められない。また、本件商標の指定役務のうち前記「義
歯の加工(「医療材料の加工」を含む。)」を除いた各役務(第40
10 「金属の加工、セラミックの加工、義肢の加工(「医療材料の加工」を含
む。)、金属加工機械器具の貸与、化学機械器具の貸与、3Dプリンター
の貸与、材料処理情報の提供」)についても、通常同一営業主の提供する
役務と誤認混同されるおそれがある役務であって引用商標1又は引用商標
2の指定商品に類似する役務であるとまでは認められない。
15 (3) 取消事由1についての結論
以上によれば、本件商標は、その指定商品等のうち本件薬剤等商品及び
「義歯の加工(「医療材料の加工」を含む。)」の役務については、商標法
4条1項11号に該当するから、この点に関する本件審決の判断は誤りであ
る。
20 2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について
(1) 判断枠組み
商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標
と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度
や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品・役務(以下「商品等」
25 という。)との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等
の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指
定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、
総合的に判断されるべきである(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判
決(平成10年(行ヒ)第85号)民集54巻6号1848頁〔レールデュ
タン事件〕参照)。
5 (2) あてはめ
ア 本件商標とデ社の表示との類似性の程度
前記1(1)イ、ウで述べた理由から、「三金」、「サンキン」及び「S
ANKIN」の表示(以下「三金」等の表示という。)は、歯科医療関係
者の間では、デ社又はその製造販売する商品を表すものとして広く認識さ
10 れおり、「三金」等の表示と本件商標「三金工業」は類似し、その類似性
の程度も相当程度高いといえる。
イ 「三金」等の表示の周知著名性及び独創性の程度
前記1(1)イのとおり、「三金」等の表示は、歯科医療関係者の間では
周知であったと認められるが、これ以外の取引者、需要者の間では、周知
15 であったとまでは認められない。また、独創性が認められないことは、デ
社及び被告が関係するもの以外にも「とんかつ三金」、「サンキン」又は
「SANKIN」の文字を図案化等した商標、「株式会社三金」、「サン
キン株式会社」等の例が多数存在することからも明らかである(乙1の1
~3)。
20 なお、引用商標自体については、「三金」等の表示以上の周知性、独創
性を有するとは認められない。
ウ 本件商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との関連性等
(ア) デ社は、歯科医療関係者を需要者とする歯科用材料、歯科用医療機器
等を製造販売しており(前記1(1)イ(イ))、少なくとも本件商標の指定
25 役務のうち「義歯の加工」については、デ社の製造販売する商品との類
似性が認められることは前記のとおりである。しかるところ、証拠(甲
116、117)及び弁論の全趣旨によれば、「金属の加工」「セラミ
ックの加工」は、金属又はセラミックを材料とする歯科用材料及び歯科
用医療機器の製造と関連性が高いこと、近年、歯科用材料等を作製する
ための3Dプリンターの導入が進んでおり、デ社を含む原告グループに
5 おいても、歯科医療のために設計された3Dプリンターを利用し、自動
化した歯科治療システムを提供していることが認められるところ、この
ような実情は、本件出願日である平成29年10月30日の時点でも存
在していたことが推認され、これに反する証拠はない。これを踏まえる
と、本件商標の指定役務のうち後で述べる「義肢の加工」及び歯科用材
10 料等との類似性が認められる「義歯の加工」(前記1(2)ア)を除く各
役務(第40 「金属の加工、セラミックの加工、金属加工機械器具の
貸与、化学機械器具の貸与、3Dプリンターの貸与、材料処理情報の提
供」。以下「本件金属加工等役務」という。)は、デ社又はそのグルー
プ会社の業務に係る商品又は役務と密接に関連しているものと認められ、
15 その取引者及び需要者も歯科医療関係者であるという共通点が認められ
るというべきである。
(イ) 他方、本件商標の指定商品のうち、本件薬剤等商品以外のもの(第5
類「乳幼児用粉乳、食餌療法用飲料、食餌療法用食品、乳幼児用飲料、
乳幼児用食品」、第10類「睡眠用耳栓、防音用耳栓、業務用美容マッ
20 サージ器、家庭用電気マッサージ器」)及び指定役務のうち「義肢の加
工(「医療材料の加工」を含む。)」の役務については、デ社又はその
グループ会社の業務に係る商品又は役務との性質、用途又は目的におけ
る関連性は乏しく、取引者及び需要者の共通性も認め難い。
原告は、本件薬剤等商品以外の指定商品も医療用品又は衛生用品とい
25 う歯科用材料及び歯科用医療機器と同じ性質を有し、同一又は類似の商
品である旨主張するが、これらの指定商品が医療又は衛生の用途で通常
用いられることを裏付ける証拠はなく、デ社その他の歯科用材料及び歯
科用医療機器を製造販売する事業者がそれらの商品を通常製造販売して
いる等、商品・役務の出所の混同を生じさせるような事情も認められな
い。
5 エ 以上の事情を総合すると、本件商標は「三金」等の表示と類似しており、
「三金」等の表示は、歯科医療関係者の間において、デ社又はその製造販
売する商品を表すものとして広く認識されている上、デ社又はそのグルー
プ会社の業務に係る商品又は役務は本件金属加工等役務と密接に関連して
いるのであるから、本件商標を本件金属加工等役務に使用するときは、そ
10 の取引者及び需要者である歯科医療関係者において、その役務がデ社又は
同社と緊密な関係にある事業者の業務に係る役務であると誤信されるおそ
れがあるということができる。
(3) 取消事由2についての結論
以上によれば、本件商標は、本件金属加工等役務に使用されたときは、商
15 標法4条1項15号に該当するから、この点に関する本件審決の判断は誤り
である。
3 取消事由3(商標法4条1項19号該当性の判断の誤り)について
原告は、被告は引用商標等の高い周知性を認識し、その周知性を利用して急
速な事業拡大を目指しており、引用商標等を含む複数の商標について出願・登
20 録等をしていることから、本件商標は信義則に反する不正の目的で出願された
旨主張する。
しかし、原告の主張する経緯については前記1(1)イ(イ)⑥のとおりと認めら
れるところ、これらの経緯は、本件商標が信義則に反する不正の目的で出願さ
れたことを直ちに裏付けるものではない。
25 実際にも、被告が現在まで本件商標を使用したり本件商標に基づく権利を行
使したりする等した事情は窺われないことに加え、デ社は本件商標の出願日
(平成29年10月30日)に先立つ同年1月1日に「三金」を含まない現商
号に変更しており(前記1(1)イ(イ)①)、その頃の「三金」等を商品名に含む
商品は全体の売上高からみるとごく一部であることからすると(同②、③)、
被告が本件商標の使用を企図して登録出願することが、デ社との関係で信義則
5 に反するとまでは認め難い。
以上の事情に照らすと、本件商標が「不正の目的をもって使用をするもの」
に該当するとみるべき理由はなく、このことは、前記2(2)ウ(イ)の指定商品及
び指定役務については、一層明らかである。
したがって、本件商標は商標法4条1項19号に該当しないとする本件審決
10 の判断に誤りはない。
4 取消事由4(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について
原告は、本件商標は、引用商標の高い周知性やこれに化体した信用、名声及
び顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する目的で出願されたものであって、
剽窃的な出願である旨主張する。
15 しかし、前記3で述べた事情に照らすと、被告が本件商標の使用を企図して
登録を出願することが不正、不当なただ乗り(フリーライド)を目的とする剽
窃的な出願であると評価することはできない。
なお、原告が主張するデ社那須工場の事業譲渡については、早くとも令和2
年11月以降というその時期からみて、本件商標出願の経緯との関係は認め難
20 く、前記認定を左右するものではない(前記事業の譲受人が「引用商標等に係
るブランドのもとに」事業を営んでいる事実を裏付ける証拠もない。)。
したがって、本件商標は商標法4条1項7号に該当しないとする本件審決の
判断に誤りはない。
5 結論
25 以上のとおり、本件目録記載の指定商品等のうち本件薬剤等商品及び「義歯
の加工(「医療材料の加工」を含む。)」の役務について、本件商標は商標法
4条1項11号に該当し、取消事由1はその限度で理由があり、本件商標は、
本件目録記載の指定役務のうち本件金属等加工役務に使用されるときは同項1
5号に該当し、取消事由2はその限度で理由があるから、本件審決のうちこれ
らの指定商品及び指定役務(別紙認容指定商品役務目録記載の指定商品及び指
5 定役務)に係る部分を取り消し、その余の取消事由はいずれも理由がないから、
原告のその余の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
10 裁判長裁判官
清 水 響
15 裁判官
菊 池 絵 理
20 裁判官
頼 晋 一
(別紙)
認容指定商品役務目録
第5類 薬剤、医療用試験紙、医療用油紙、衛生マスク、オブラート、ガーゼ、カ
5 プセル、眼帯、耳帯、生理帯、生理用タンポン、生理用ナプキン、生理用
パンティ、脱脂綿、ばんそうこう、包帯、包帯液、胸当てパッド、綿棒、
歯科用材料、サプリメント
第10類 医療用指サック、おしゃぶり、氷まくら、三角きん、支持包帯、手術用
キャットガット、吸い飲み、スポイト、乳首、氷のう、氷のうつり、哺乳
10 用具、魔法哺乳器、人工鼓膜用材料、補綴充てん用材料(歯科用のものを
除く。)、義歯、医療用マウスピース、医療用機械器具、医療用手袋
第40類 金属の加工、セラミックの加工、義歯の加工(「医療材料の加工」を含
む。)、金属加工機械器具の貸与、化学機械器具の貸与、3Dプリンター
の貸与、材料処理情報の提供
15 以 上
(別紙)
指定商品役務目録
(注)実線の下線を引いた商品は、原告が引用商標の指定商品と同一又は類似と主
5 張するもの(商標法4条1項11号関係)、点線の下線を引いた役務は、原告が
デ社の業務に係る商品(歯科用材料又は歯科医療器具)等との関連性が高いと主
張するもの(同項15号関係)である。
第5類 薬剤、医療用試験紙、医療用油紙、衛生マスク、オブラート、ガーゼ、カ
10 プセル、眼帯、耳帯、生理帯、生理用タンポン、生理用ナプキン、生理用
パンティ、脱脂綿、ばんそうこう、包帯、包帯液、胸当てパッド、綿棒、
歯科用材料、乳幼児用粉乳、サプリメント、食餌療法用飲料、食餌療法用
食品、乳幼児用飲料、乳幼児用食品
第10類 医療用指サック、おしゃぶり、氷まくら、三角きん、支持包帯、手術用
15 キャットガット、吸い飲み、スポイト、乳首、氷のう、氷のうつり、哺乳
用具、魔法哺乳器、人工鼓膜用材料、補綴充てん用材料(歯科用のものを
除く。)、睡眠用耳栓、防音用耳栓、業務用美容マッサージ器、義歯、医
療用マウスピース、医療用機械器具、家庭用電気マッサージ器、医療用手
袋
20 第40類 金属の加工、セラミックの加工、義肢又は義歯の加工(「医療材料の加
工」を含む。)、金属加工機械器具の貸与、化学機械器具の貸与、3Dプ
リンターの貸与、材料処理情報の提供
以 上
(別紙)
引用商標目録
1 引用商標1(商標登録第3102237号)
5 (1) 商標の構成
(2) 商品の区分及び指定商品
第5類 消化器官用薬剤、外皮用薬剤、血液用剤、診断用薬剤、歯科用材料、
衛生マスク、絆創膏
10 (3) 出願日 平成4年12月10日
(4) 設定登録日 平成7年11月30日
(5) 商標権者 デンツプライシロナ株式会社
2 引用商標2(商標登録第4048984号)
15 (1) 商標の構成
引用商標1に同じ
(2) 商品の区分及び指定商品
第10類 医療用機械器具(診断用機械器具・治療用機械器具・歯科用機械
器具・医療用X線装置を含む)、医療用手袋
20 (3) 出願日 平成4年12月10日
(4) 設定登録日 平成9年8月29日
(5) 商標権者 デンツプライシロナ株式会社
以 上
(別紙)
「サンキン」等を商品名に付した商品一覧表
純売上額(甲138、145、149)
商品名 販売開始時期
2006年 2013年 2017年
サンキン KTチンキャップ 1961年7月(甲154) ¥5,588,558 ¥5,001,426 ¥3,495,536
サンキン プロトラクター 遅くとも1988年5月(甲155) ¥2,464,712 ¥2,462,921 ¥2,712,983
サンキン リトラクター 遅くとも1988年5月(甲155) ¥3,555,363 ¥1,928,001 ¥1,286,565
三金ネット 遅くとも1988年5月(甲155) ¥2,675,866 ¥1,628,544 ¥1,408,478
サンキン ポリカーボクラウン 1976年5月(甲154) ¥10,180 ¥31,590 ¥16,643,062
サンキン アルミキャップ 1960年3月(甲154) ¥41,660,639 ¥23,268,246 ¥15,520,630
サンキン クリストバライト 遅くとも1988年5月(甲155) ¥6,493,043 ¥3,739,599 ¥1,733,616
サンキン サージカルスーチャー 遅くとも1995年11月(甲151) ¥10,852,964 ¥7,139,456 ¥5,778,910
SANKIN カラーボウル 1969年11月(甲154) ¥341,120 ¥528,307 ¥698,580
サンキン ミキシングチップ 遅くとも1988年1月(甲156) ¥190,650 ¥171,470 ¥140,000
参考:合計 ¥73,833,095 ¥45,899,560 ¥49,418,360
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