令和5(ネ)10112損害賠償請求控訴事件
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裁判所 |
原判決変更 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和6年7月4日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
不正競争
不正競争防止法5条2項15回 不正競争防止法2条1項20号3回 不正競争防止法4条1回
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キーワード |
侵害19回 特許権1回 無効1回 損害賠償1回 商標権1回
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主文 |
1 原判決を次のとおり変更する。
4万9960円に対する令和4年2月2日から、うち3306万40
50円に対する令和5年5月27日から、各支払済みまで年3パーセ
2 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを4分し、その3を控訴人の負25
3 この判決は、第1項⑴に限り、仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
1 本件は、生ごみ処理機の製造及び販売を行う被控訴人が、控訴人がその販売
する業務用生ごみ処理機についてウェブページ(控訴人ウェブページ)上に掲
載した表示は、その品質について誤認させるようなものであり、この表示をし
た行為は不正競争防止法2条1項20号の不正競争に該当し、これにより被控10
訴人の営業上の利益が侵害されたと主張して、控訴人に対し、同法4条に基づ
き、損害金1億3605万6823円の一部である9164万3940円及び
うち4928万円に対する令和4年2月2日(不正競争行為の後の日)から、
うち4236万3940円に対する令和5年5月27日(令和5年5月23日
付け訴えの変更の申立書が控訴人に送達された日の翌日)から、各支払済みま15
で民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である
(一部請求)。
原判決は被控訴人の請求を全て認容したので、控訴人が原判決を不服として
控訴した。 |
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判決文
令和6年7月4日判決言渡
令和5年(ネ)第10112号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令
和4年(ワ)第2551号)
口頭弁論終結日 令和6年5月16日
5 判 決
控 訴 人 株式会社エイ・アイ・シー
同訴訟代理人弁護士 錦 織 淳
10 同 新 阜 直 茂
被 控 訴 人 エスキー工機株式会社
同訴訟代理人弁護士 河 部 康 弘
15 同 藤 沼 光 太
同補佐人弁理士 齋 藤 昭 彦
同 齋 藤 博 子
主 文
1 原判決を次のとおり変更する。
20 ⑴ 控訴人は、被控訴人に対し、6801万4010円及びうち349
4万9960円に対する令和4年2月2日から、うち3306万40
50円に対する令和5年5月27日から、各支払済みまで年3パーセ
ントの割合による金員を支払え。
⑵ 被控訴人のその余の請求を棄却する。
25 2 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを4分し、その3を控訴人の負
担とし、その余を被控訴人の負担とする。
3 この判決は、第1項⑴に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
5 2 被控訴人の請求を棄却する。
第2 事案の概要(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。)
1 本件は、生ごみ処理機の製造及び販売を行う被控訴人が、控訴人がその販売
する業務用生ごみ処理機についてウェブページ(控訴人ウェブページ)上に掲
載した表示は、その品質について誤認させるようなものであり、この表示をし
10 た行為は不正競争防止法2条1項20号の不正競争に該当し、これにより被控
訴人の営業上の利益が侵害されたと主張して、控訴人に対し、同法4条に基づ
き、損害金1億3605万6823円の一部である9164万3940円及び
うち4928万円に対する令和4年2月2日(不正競争行為の後の日)から、
うち4236万3940円に対する令和5年5月27日(令和5年5月23日
15 付け訴えの変更の申立書が控訴人に送達された日の翌日)から、各支払済みま
で民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である
(一部請求)。
原判決は被控訴人の請求を全て認容したので、控訴人が原判決を不服として
控訴した。
20 2 前提事実は、原判決「事実及び理由」第2の2(原判決2頁13行目から4
頁17行目まで。)に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点
⑴ 品質誤認表示該当性(争点1)
⑵ 控訴人の故意の有無(争点2)
25 ⑶ 被控訴人の損害発生の有無及び損害額(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
⑴ 争点1(品質誤認表示該当性)について
〔被控訴人の主張〕
前提事実⑸ア①ないし③の表示並びに同イ①及び②の表示は、被控訴人が
製造したものでない控訴人商品を、被控訴人が製造した商品であるかのよう
5 に誤認混同させるものとなっている。
製品の「品質」は、製造元の技術力に依存するから、製造元に関する上記
記載は、不正競争防止法2条1項20号の「品質」の表示に該当し、上記表
示は、同号にいう商品の品質を誤認させるような表示に当たる。
また、前提事実⑸ア④、イ③並びにウ①及び②の表示については、被控訴
10 人商品の導入実績を控訴人商品の導入実績と混同させる表示である。
同号の「品質」には、商品の販売実績も含まれる。すなわち、業務用生ご
み処理機のような高価な機械の場合、十分な販売実績があるということは、
販売期間中、性能についての悪評が広まることなく需要者に信用されてきた
ことを意味し、業務用生ごみ処理機の性能や信頼性を示す物差しとなり、商
15 品の「品質」の一部を構成する。したがって、控訴人が、控訴人ウェブペー
ジ上で、控訴人商品の販売実績について虚偽の表示をする行為も、同号にい
う商品の品質を誤認させるような表示に当たる。
〔控訴人の主張〕
争点1に関する控訴人の主張は、次のとおり当審における補充主張を付加
20 するほか、原判決「事実及び理由」第2の4⑴(被告の主張)
(原判決5頁1
8行目から6頁11行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(当審における控訴人の補充主張)
販売実績の表示につき、販売実績を左右する要因は多種多様であり、かつ、
本件で問題となっている生ごみ処理機がありふれた製品にすぎないことから
25 すれば、販売実績の誤認表示が直ちに品質の誤認に直結すると原判決が即断
したことは誤りである。
不正競争防止法が禁ずるのは、他人の信用にただ乗りして顧客を獲得する
行為であるところ、被控訴人の売上実績は控訴人の営業・販売努力の結果に
よるものであり、販売実績に化体された信用を市場において形成、蓄積して
きたのは控訴人なのであるから、控訴人が控訴人ウェブページ上において、
5 被控訴人の過去の売上台数を含めて表記した記事を過誤により残存させてい
たとしても、そのことが他人の信用のただ乗りにはならない。
また、控訴人は、被控訴人との取引継続中であっても、生ごみ処理機本体
に銘板を貼り付けて被控訴人名を表示することも、ウェブページ上に「製造
元エスキー工機」の表示をすることも、極端に忌避していたのであり、被控
10 訴人名を表示することは、生ごみ処理機の販売増大に全くつながらないもの
であった。すなわち、販売実績の誤表示は、控訴人の販売実績の伸長に資す
るどころか、かえってその逆であったのであり、これが品質の誤認につなが
るものではなく、これによって被控訴人の顧客が控訴人に奪われることにつ
ながるものでもない。
15 このように、本件の実態及び実情に照らせば、控訴人表示は品質誤認表示
に当たらない。
⑵ 争点2(控訴人の故意の有無)について
争点2に関する当事者の主張は、原判決「事実及び理由」第2の4⑵(原
判決6頁13行目から7頁8行目まで)に記載のとおりであるから、これを
20 引用する。
⑶ 争点3(被控訴人の損害発生の有無及び損害額)について
〔被控訴人の主張〕(当審における主張を含む。)
ア(ア) 被控訴人と控訴人との間に、侵害行為により侵害者が得た利益額を権
利者の失った利益額(得べかりし利益額)と推定することに何らかの合
25 理性があるといえる程度の競業関係ないし事業の同種性が存在する場合
には、損害が発生しているものとして、損害額についての推定規定であ
る不正競争防止法5条2項を適用することができる。
被控訴人商品及び控訴人商品は、いずれも生ごみ処理機であり、かつ、
微生物処理により生ごみを大幅に減容・減量することを主目的とする装
置であり、排水を伴う「減容・消滅型B」に分類されるものである。両
5 商品の顧客層は保育園、老人ホーム、病院、食品工場等であって共通し
ており、販売エリアも全国及び海外と共通している。したがって、被控
訴人と控訴人との間には、侵害行為により侵害者が得た利益額を権利者
の失った利益額と推定することに何らかの合理性があるといえる程度の
競業関係が存在する。
10 (イ) 被控訴人商品は、
「減容・消滅型B」の生ごみ処理機において40パー
セント近くの高い市場占有率を有している。このように、市場における
被控訴人商品の占有率が一定程度あることからすれば、控訴人表示によ
って被控訴人の営業上の利益が侵害される状況が認められる。
また、本件は、控訴人が、自らが被控訴人の元販売代理店であったこ
15 とを奇貨として、製造元を被控訴人であると偽り、被控訴人商品と全く
同じ「ゴミサー」の名称を用い、被控訴人商品の販売実績を控訴人商品
の販売実績であるかのように表示して、控訴人ウェブページに被控訴人
商品の写真を使用するなどして、被控訴人商品と控訴人商品を積極的に
誤認混同させようとしている事案であり、このような事案において、被
20 控訴人の損害の発生が認められないことはあり得ない。
イ 控訴人が控訴人ウェブページ上において控訴人商品の品質を誤認させる
表示をしていた令和元年5月10日から令和5年4月末までの間、控訴人
商品を販売していたことによる控訴人の限界利益の額は1億2368万
8021円である。
25 したがって、不正競争防止法5条2項により、被控訴人の損害の金額は
同額であると推定される。
ウ 推定の覆滅及び覆滅事由に関する控訴人の主張について
(ア) 令和4年12月22日に行われた原審の書面準備手続の協議に係る
経過表の「協議の結果」の欄には、控訴人代理人が、控訴人が原審で提
出した準備書面⑷で主張した事実は不正競争防止法5条2項の推定を
5 覆滅する事由でもある旨述べたという趣旨の記載がある。しかし、控訴
人代理人は、令和5年2月6日に行われた原審の書面準備手続の協議に
おいて、裁判官からの覆滅事由を主張するか否かの確認に対し、控訴人
は覆滅事由を主張していないと明言している。また、控訴人は、原審で
提出した令和5年4月10日付け準備書面⑼の第2において、損害の覆
10 滅事由を控訴人が主張立証しなければならない場合があることを明確
に認識した上で、
「本件の場合(そもそも『覆滅事由』は問題にならない)」
と主張している。
このように、控訴人は、損害の覆滅事由が問題になり得ることを認識
しながら、覆滅事由についての主張を撤回し、損害の覆滅事由を争点化
15 せず、損害の発生の有無のみを争点化したものである。
控訴人は、控訴理由書においても、覆滅事由について一切主張してい
ない。また、仮に、控訴人が原審において覆滅事由の主張をしていたの
であれば、控訴理由書において、原判決が控訴人による覆滅の主張を無
視しており、判断を遺脱している旨の主張をするはずであるが、そのよ
20 うな主張もない。
そして、控訴人が当審で提出した令和6年4月11日付け準備書面(控
訴審第2)における主張は、その主張する事実が損害の覆滅事由の主張
においてどのような意味をもつのか、裁判例において示された類型との
関係で整理を行っておらず、覆滅事由について審理をするとなると、主
25 張の整理及び主張立証の応酬が必要になり、訴訟の完結を遅延させる。
以上の事情によれば、控訴人が、当審でした覆滅事由の主張は、時機
に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
(イ) 控訴人は、生ごみ処理機の性能には差異がないと主張しているが、そ
うであれば、むしろ、どこのメーカーが製造した商品であるか、商品に
十分な販売実績があるかといった点が、商品の信頼性を示すものとして、
5 購入決定において重要な要素となる。控訴人表示の内容は、本来被控訴
人以外が表示できないものであり、特許権や商標権のような独占的なも
のであるから、一般的な不正競争防止法2条1項20号の事案のように
大きな推定覆滅が認められる余地はなく、また、生ごみ処理機という製
品の性質に照らして販売実績は需要者の購入意思決定に直結するから、
10 損害の推定は覆滅されない。
(ウ) 控訴人は、
〔控訴人の主張〕イ①ないし⑨の主張(以下「主張①」ない
し「主張⑨」という。)を損害の覆滅事由に関する事実の主張であるとす
るが、これらの事実が損害の覆滅事由においてどのような意味を有する
のかを明らかにしていない。
15 主張①ないし④については、被控訴人は控訴人以外にも販売代理店を
有していたのであり、被控訴人商品の販売を控訴人に全面的に依存して
いたとはいえない。控訴人が得意とする保育園等が購入する生ごみ処理
機は、小型のものが多く、その単価は数百万円程度であるが、控訴人以
外の販売代理店が販売する生ごみ処理機には、食品工場などで利用され
20 る中型・大型のものが含まれ、このようなものには1台当たりの販売金
額が数千万円になるものもあって、販売金額ベースにすれば、被控訴人
が控訴人に全面依存していたとはいえない。また、当時の顧客は、実績
のある被控訴人商品であるからこそ購入したと考えられ、顧客が控訴人
からでなければ被控訴人商品を購入しなかったとの事実の主張立証はな
25 い。したがって、主張①ないし④に係る事情は、損害の推定を覆滅させ
る事情に当たらない。
主張⑤については、製品ごとの性質に差がないのであれば、製造メー
カーや販売実績が重要であることは、前記(イ)のとおりであり、性能に差
異がないとの事実は、本件では損害の推定の覆滅を否定する事情に当た
る。
5 主張⑥については、控訴人は「真摯な販売努力」について乙39ない
し44の証拠を提出しているが、これらの証拠からは、保育研究会や民
間保育園協会などにおいて控訴人がどのような販売努力を行ったのか明
らかではない。また、控訴人が秀でた販売能力を有していたことの立証
もない。
10 主張⑦については、被控訴人の製品であると表示することが有害であ
るとの具体的事実もなければ、その立証もされていない。
主張⑧については、被控訴人が控訴人との取引停止後も被控訴人商品
を販売できていることは、控訴人と競合する保育園施設に被控訴人商品
を販売していること(甲24~26)からも明らかであるし、被控訴人
15 の顧客が保育園等から大規模な食品工場に推移したことで、被控訴人の
業績は好調である。
主張⑨については、控訴人は、被控訴人から指摘を受けた後1年半以
上も控訴人表示をそのままにしていたのであり、品質誤認表示を意図的
に削除しなかったものである。
20 以上のとおり、主張①ないし⑨に係る事情は、いずれも被控訴人の損
害の推定を覆滅する事情として認めることはできない。
(エ) 仮に、控訴人による控訴人商品の販売が、一部控訴人の営業努力によ
るものであったとしても、上記(ウ)のとおり、具体的にどのような営業努
力がされたのか等の主張立証がないから、被控訴人の損害の推定覆滅の
25 割合が2割を超えることはない。
〔控訴人の主張〕(当審における主張を含む。)
ア 不正競争防止法5条2項は、損害額のみを推定する規定であり、損害の
発生は被控訴人が主張立証する必要がある。
しかし、被控訴人は、控訴人との取引を一方的に打ち切った後の被控訴
人商品の販売実績を主張立証することを頑なに拒否しており、本件におい
5 て、被侵害者の売上減少等による逸失利益がそもそも生じているのか全く
不明である。このように、損害の発生についての主張立証が放棄されてい
るにもかかわらず、損害額が不正競争防止法5条2項によって推定される
ということはない。
イ 本件においては、以下の①ないし⑨に主張する(主張①ないし⑨)とお
10 りの事実が存在する。
① 被控訴人商品は、2000年代に入ると販売台数が年間50台程度ま
で激減したこと。
② 代わって控訴人による販売台数が着実に伸長したこと。
③ 被控訴人商品の販売は控訴人の販売力に全面依存するようになった
15 こと。
④ 上記③は、被控訴人の控訴人に対する不当な一方的取引停止直前まで
続いたこと。
⑤ その背景の一つとして、被控訴人の製品は、多数の同業他社が製造す
る同種製品に比して何ら特別な性能・品質を有するものではなく、格別
20 の営業努力がなければ容易に売れるものではないという厳然たる事実
があること。
⑥ その背景のもう一つとして、控訴人の真摯な販売努力と秀でた販売能
力があったこと。
⑦ 被控訴人と控訴人との取引が継続している間においても、被控訴人商
25 品そのものに被控訴人の表示をしたり、ウェブページ上にこれを表記し
たりすることは、その販売向上に有益であるどころか、むしろ有害であ
ったこと。
⑧ 被控訴人の控訴人に対する不当極まりない一方的取引停止後、被控訴
人がそれまで全面依存していた控訴人の販売力に頼ることができなく
なったため、被控訴人商品は全くといってよいほど売れなくなったこと。
5 ⑨ 被控訴人が問題とする控訴人ウェブページ上などの記載は、そもそも
過去から連綿と続いたものが、取引停止後も一時的に残存していたもの
にすぎないこと。
上記の主張①ないし⑨に係る事実からすれば、被控訴人商品には顧客吸
引力はなく、控訴人ウェブページ上などの記載によって、被控訴人の販売
10 実績の低下その他の悪影響(損害)が生じる余地はない。
被控訴人商品は、その品質の優位性によってではなく、控訴人の販売力
の優位性によって販売台数が伸長したのであって、被控訴人が、圧倒的販
売割合を占める販売代理店である控訴人に対する出荷を一方的に停止す
れば、被控訴人の売上げは当然に激減するのである。したがって、仮に、
15 被控訴人商品の売上げが減少したとしても、それは被控訴人による一方的
な出荷停止の必然的な結果であり、控訴人の行為(控訴人表示を掲載した
こと)との因果関係はない。
ウ 不正競争防止法5条2項の推定規定の適用に当たっては、当該事案の全
体像を総合的に考察すべきこと、競業関係にあるというだけで同項を用い
20 て安易に推定を働かせてはならないことが重要である。
原判決は、控訴人表示によって品質誤認が生じ、これによって生じた被
控訴人の売上減少の金額は控訴人の売上増大の金額であるという因果の
連鎖を、
「市場の共通性」のみで正当化しているが、これは極めて粗雑な理
論である。
25 エ 推定覆滅及び覆滅事由について
控訴人は、上記イのとおり、控訴人の行為によって被控訴人に損害が発
生したことを否認する旨主張し、その根拠事実を挙げているが、本件にお
いては、損害発生及びその因果関係の積極否認の主張と、推定の覆滅の主
張とでは、これらを基礎付ける事実が一致する。控訴人は、損害の発生及
び因果関係の否認の主張とともに、推定が覆滅されるとの主張をしており、
5 その根拠事実は主張①ないし⑨に係る事実である。
被控訴人は、控訴人の当審における推定覆滅に関する主張が時機に後れ
た攻撃防御方法であるとして却下するよう申し立てている。しかし、控訴
人は、上記のとおり、推定覆滅について原審から主張してきたのであって、
被控訴人の申立てはその前提を欠き、失当である。
10 第3 当裁判所の判断
当裁判所は、原判決と異なり、被控訴人の請求については、6801万40
10円及びうち3494万9960円に対する令和4年2月2日から、うち3
306万4050円に対する令和5年5月27日から、各支払済みまで年3パ
ーセントの割合による金員の支払を求める範囲で理由があるから認容し、その
15 余の請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、以下の
とおりである。
1 争点1(品質誤認表示該当性)について
争点1に関する判断は、後記⑴のとおり補正し、後記⑵のとおり当審におけ
る控訴人の主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第3の
20 1(原判決8頁23行目から12頁18行目まで)に記載のとおりであるから、
これを引用する。
⑴ 原判決の補正
ア 原判決9頁9行目の後に改行して次のとおり加える。
「 前提事実⑸ア③の『生ゴミ処理機ゴミサー製造元 エスキー工機株式会
25 社』との表示は、控訴人商品は被控訴人が製造した商品であるとの事実を
需要者に認識させるものである。
上記表示がされた期間(令和元年5月8日から令和3年8月30日まで)
において、控訴人は被控訴人の製造した生ごみ処理機の販売を行っておら
ず、この期間に控訴人が販売していた生ごみ処理機はテクノウェーブが製
造した商品(控訴人商品)であったから、上記表示は事実と異なる内容を
5 記載したものである。
生ごみ処理機のような機械は、その製造者によって、製造される機械が
本来有すべき性能を備えるものとなっているか否か、不具合の多寡などが
左右されるといえる。
また、生ごみ処理機は、小さいものでも1台約100万円、大きいもの
10 であれば1台数千万円もする高額の商品であることからすると(甲38の
1・2、乙73~76、弁論の全趣旨)、その需要者は、生ごみ処理機の購
入に当たっては慎重に検討を行い、その製造者についても、生ごみ処理機
の製造に関する実績を有する者であるか否か等を検討すると考えられ、上
記表示を認識した需要者が、インターネット上の検索等により、被控訴人
15 が製造する『ゴミサー』という名称の生ごみ処理機が長期にわたって販売
されてきた事実を把握し、被控訴人が製造元であるとされる控訴人商品の
品質を信頼することがあり得るといえる。
以上によれば、控訴人商品の製造元が被控訴人であると表示したことは、
需要者に対し、商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性が
20 あるから、生ごみ処理機である控訴人商品の品質について誤認させるよう
な表示に該当すると認められる。」
イ 原判決9頁10行目の冒頭に「また、」を加える。
⑵ 当審における控訴人の補充主張に対する判断
控訴人は、前記第2の4⑴〔控訴人の主張〕の(当審における補充主張)
25 のとおり、本件の実態及び実情に照らせば、控訴人表示は品質誤認にはつな
がらないと主張する。
しかし、仮に、被控訴人商品が、生ごみ処理機として、控訴人商品その他
の同種の商品とその性能に大きな差異がないとしても、それによって、テク
ノウェーブが製造した控訴人商品の製造者を被控訴人であると表示すること
や、控訴人商品の販売実績として実際よりも多い数値を表示したことが、品
5 質誤認表示に当たらないことにはならない。すなわち、仮に、控訴人商品が
他社の同種の商品と性能に大きな差異がないとしても、需要者が、生ごみ処
理機として控訴人商品を購入するか否かを判断する際に、控訴人商品の製造
者の実績や当該商品の販売実績を考慮する可能性があることは変わらない。
たとえ被控訴人商品の売上げに控訴人の営業努力が寄与していたとして
10 も、被控訴人が製造した被控訴人商品が長期にわたって販売されてきた実績
が形成されたことには変わらず、生ごみ処理機の需要者はこのような実績も
考慮して購入する商品を決定すると考えられるから、控訴人商品の製造者を
被控訴人であると表示したことが品質誤認表示に当たるとの結論は左右され
ず、控訴人商品の販売実績として実際よりも多い数値を表示したことが品質
15 誤認表示に当たるとの結論も変わらない。
控訴人が、令和元年5月8日から令和3年8月30日まで、控訴人ウェブ
ページにおいて控訴人商品の製造者が被控訴人であると表示していたことか
らすれば、控訴人が、被控訴人商品の販売代理店であった時期において、生
ごみ処理機本体及びウェブページ上において被控訴人商品の製造元が被控訴
20 人と表示していなかったとは認め難い。また、仮に、控訴人が被控訴人商品
の販売代理店であった時期において上記表示をしていなかったとしても、そ
のことによって、控訴人表示が品質誤認表示に当たらないことにはならない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
2 争点2(控訴人の故意の有無)について
25 控訴人は、被控訴人商品を被控訴人の代理店として販売していた頃から掲載
していた前提事実⑸アの控訴人表示を、被控訴人との代理店契約が終了した後
もそのまま掲載し続けていたこと(弁論の全趣旨)、及び、被控訴人が、控訴人
との間で行われた商標登録無効請求に係る審判手続において提出した令和2年
2月25日付けの審判事件弁駁書において、控訴人ウェブページ上でテクノウ
ェーブ製の控訴人商品の製造元が被控訴人と表示されていることを指摘したに
5 もかかわらず(甲19) 控訴人はその後も前提事実⑸ア①ないし④の表示を控
、
訴人ウェブページ上に掲載し続けたことからすれば、控訴人が前提事実⑸アな
いしウのとおり、控訴人商品の製造者及び販売実績について虚偽の事実を表示
したことについて、控訴人の故意があったと認めることができる。
控訴人は、控訴人表示につき、削除することを失念したにすぎず、故意はな
10 かったと主張するが、上記説示内容に照らして採用することができない。
3 争点3(被控訴人の損害発生の有無及び損害額)について
⑴ 前提事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ
る。
ア 被控訴人が被控訴人商品を製品化して販売を開始した平成4年から、平
15 成29年までにおける被控訴人商品の年間販売台数は、別紙「被控訴人商
品販売台数一覧」記載のとおりである。(甲34、35)
イ 平成12年度から平成18年度までの業務用生ごみ処理機全体の販売台
数は、それぞれ、2036台(平成12年度) 1895台
、 (平成13年度)、
1685台(平成14年度)、1534台(平成15年度)、1092台(平
20 成16年度)、881台(平成17年度)、610台(平成18年度。ただ
し平成18年4月から11月まで。)であった。(甲28)
ウ 控訴人商品の販売先(納入先の施設)は、保育園、老人ホーム、病院、
食品工場、官公庁、飲食店、船舶等であって、その販売エリアは日本国内
全体及び海外である。他方、被控訴人商品の販売先(納入先の施設)は、
25 保育園、老人ホーム、病院、食品工場、社員食堂、公園等であり、その販
売エリアは日本国内全体及びメキシコ等である。
(甲11、41、乙4、5)
⑵ 被控訴人の損害の発生の有無及び不正競争防止法5条2項の適用の有無に
ついて
ア 前提事実⑸アないしウのとおり、控訴人は、控訴人ウェブページ上にお
いて、令和元年5月8日から令和3年8月30日まで、控訴人商品の製造
5 者を被控訴人であると表示し、令和元年5月8日から令和5年4月30日
まで、控訴人商品の販売実績として実際よりも多い数値を表示して、品質
誤認表示をした。
被控訴人商品と控訴人商品は、いずれも生ごみ処理機である上、前記⑴
ウのとおり、被控訴人商品と控訴人商品の販売先(納入先の施設)及び販
10 売エリアは一部において共通している。
また、前記⑴アのとおり、被控訴人商品は、被控訴人と控訴人との間で
被控訴人商品の販売代理店契約が締結されていた時期である平成4年な
いし平成29年において、別紙「被控訴人商品販売台数一覧」記載のとお
りの台数が販売された。前記⑴イの業務用生ごみ処理機全体の販売台数は、
15 年度ごとの数値であり、別紙「被控訴人商品販売台数一覧」とは各年の始
期及び終期が異なると考えられるが、仮にその点を措いて、平成12年度
の業務用生ごみ処理機全体の販売台数で、平成12年の被控訴人商品の販
売台数を除して算出される数値を、平成12年度における被控訴人商品の
市場占有率であると考えると、約13.2パーセントとなり、同様に平成
20 13年度から平成17年度までの市場占有率を算出すると、それぞれ、約
11.1パーセント、約10.6パーセント、約6.9パーセント、約8.
9パーセント、約9.4パーセントとなる。そうすると、被控訴人商品は、
その販売台数が非常に多かったとまではいえず、高い市場占有率を得てい
たともいえないが、長期にわたり、相当程度の台数の販売があり、ある程
25 度の市場占有率を獲得していたものといえる。
以上の各事情を総合すれば、控訴人が、控訴人商品の製造元を被控訴人
と表示し、控訴人商品の販売実績として実際よりも多い数値を表示した品
質誤認表示によって、控訴人商品及び被控訴人商品の売上げに影響が及び、
被控訴人の営業上の利益が侵害され、損害が発生したものと認められる。
そして、控訴人の品質誤認表示による被控訴人の損害については、不正
5 競争防止法5条2項が適用され、令和元年5月8日から令和5年4月30
日までの期間において控訴人が控訴人表示によって受けた利益の額が被
控訴人の受けた損害の額であると推定される。
上記期間における控訴人の限界利益の額は1億2368万8021円
であると認められる(前提事実⑷。なお、被控訴人は、損害が発生した期
10 間を令和元年5月10日から令和5年4月30日と主張するが、この期間
としても限界利益の額は上記金額となる。。この限界利益の額は、乙76
)
に基づくものであるが、乙76に記載された控訴人商品の売上日によれば、
上記限界利益のうち、令和4年2月2日(被控訴人の請求金額のうち49
28万円に対する遅延損害金の起算日)までに発生したものは6355万
15 9921円、同月3日以降に発生したものは6012万8100円となる。
イ 控訴人の主張について
控訴人は、前記第2の4⑶〔控訴人の主張〕アのとおり、被控訴人は控
訴人との取引終了後における被控訴人商品の販売実績を主張立証してお
らず、被控訴人に売上減少等の逸失利益が生じているのか不明であるから、
20 損害額が不正競争防止法5条2項によって推定されるということはない
と主張する。
しかし、被控訴人と控訴人との間の販売代理店契約が終了した後の被控
訴人商品の販売台数や売上高が明らかでないとしても、本件で認められる
前記アの各事情を総合すれば、控訴人が控訴人表示をしたことによって被
25 控訴人の営業上の利益が侵害されたものと認定することができるという
べきであり、被控訴人が上記販売台数や売上高を主張立証しないことをも
って、被控訴人の利益が侵害されたと認められないことにはならず、その
他、上記認定を左右する事情は認められない。
また、控訴人は、前記第2の4⑶〔控訴人の主張〕イのとおり、被控訴
人商品には顧客吸引力はなく、控訴人ウェブページ上の記載によって、被
5 控訴人の販売実績の低下は生じないとか、仮に、被控訴人商品の売上げが
減少したとしても、それは被控訴人による一方的な出荷停止の必然的な結
果であり、控訴人が控訴人表示を掲載したこととの因果関係はないと主張
する。
しかし、前記アのとおり、被控訴人商品は、被控訴人と控訴人が販売代
10 理店契約を締結していた時期において、長期にわたって一定程度の台数の
販売があり、ある程度の市場占有率を獲得していたのであって、被控訴人
商品についてこのような実績が形成されていたことからすれば、控訴人商
品の製造元が被控訴人であるとの表示及び控訴人商品の販売実績を実際
よりも多い数値とした表示を控訴人ウェブページに掲載し、控訴人商品の
15 製造元及び販売実績に関する誤認混同を需要者に生じさせたことによっ
て、被控訴人商品の売上げに影響が及んだと認められるのであり、これら
の間に因果関係がないとは解されない。
したがって、控訴人の上記各主張は採用することができない。
⑶ 推定の覆滅及び覆滅事由について
20 ア 不正競争防止法5条2項が適用されるためには、被侵害者に、侵害者に
よる不正競争がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存
在することが必要と解されるから、そのような事情が認められない場合に
は、同項による推定が覆滅されるものと解される。そして、同法2条1項
20号による不正競争においては、市場において競業他社が複数存在する
25 状況において、侵害者の品質誤認表示がなかったとした場合に、特定の被
侵害者の売上げのみが増加するという定型的な関係を認めることは困難
であるから、他の類型の不正競争の場合に比較して、推定の覆滅が広く認
められるべきであり、推定覆滅の事由としては、①侵害者と被侵害者の業
務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性) ②市場における競合品
、
の存在及び被侵害者の市場占有率、③侵害者の営業努力(ブランド力、宣
5 伝広告等)、④侵害品の性能(機能、デザイン等品質誤認表示以外の性能)
など、被侵害者の現実の損害が、侵害者の得た利益よりも少ない事情を考
慮すべきである。
イ 控訴人は、本件表示による被控訴人の損害につき、不正競争防止法5条
2項による損害の推定が覆滅されると主張する。
10 これに対し、被控訴人は、前記第2の4⑶〔被控訴人の主張〕ウ(ア)のと
おり、控訴人は原審において不正競争防止法5条2項の損害の推定の覆滅
の主張を撤回しており、当審における推定の覆滅の主張は時機に後れた攻
撃防御方法に当たるとして、これを却下するよう申し立てている。
そこで検討するに、控訴人は、原審及び当審を通じ、第一次的には、被
15 控訴人に損害が発生したことを否認するとともに、損害が発生していると
しても控訴人の行為によって生じたものではないとして、因果関係を否認
しており、不正競争防止法5条2項が適用されないとの主張もしていると
解されるが、原審で提出した令和5年2月9日付け「準備書面(兼求釈明
書) と題する書面の第1の5の末尾
」 (同書面6頁)において、
「『抗弁事由』
20 というも『積極否認』というも、法定要件充足の主張・立証責任分配の問
題であり、どちらにせよ被告としてはこれを積極的に主張・立証する意思
であることに変わりはない。 と記載するなど、
」 控訴人が原審で提出した準
備書面には、同項が適用されることを前提に、推定の覆滅を主張している
ものと解される記載がある。原審で令和4年12月22日に行われた書面
25 による準備手続の協議について作成された経過表には、控訴人(第1審被
告)の述べた内容として、準備書面⑷に主張した事実は、損害発生の否認
の理由であるとともに同項の推定を覆滅する事由である旨の記載がある
(当裁判所に顕著な事実)。
他方、原審で令和5年2月6日に行われた書面による準備手続の協議に
ついて作成された経過表には、控訴人の述べた内容として、損害は発生し
5 ていないので、被控訴人(第1審原告)の主張に対して覆滅事由は主張し
ていない旨の記載がある(当裁判所に顕著な事実)。
被控訴人が証拠として提出した、同日の協議に関して被控訴人代理人が
作成したものであるとする「期日報告書⑺」と題する書面(甲43)には、
覆滅事由については主張しない旨控訴人代理人が述べたことを示す記載
10 がある。
しかし、上記経過表は、口頭弁論期日又は弁論準備手続期日の期日調書
と異なり、これに記載された当事者の陳述が法的効果を有することはない。
また、上記経過表及び上記甲43の書面のいずれにも、控訴人代理人が、
同日以前における覆滅事由の主張を撤回すると述べた旨の記載は存在し
15 ない。
そして、上記甲43の記載によれば、控訴人代理人は、損害が発生して
いるとの心証が開示されたら覆滅事由について主張したい旨述べ、受命裁
判官から、裁判所の心証次第で反論することは許されないと言われたのに
対し、それであれば覆滅事由については主張しないと述べたとされている。
20 そうすると、控訴人代理人としては、損害が発生していると認められるの
であれば覆滅事由を主張したいとの考えを有しており、そのことを明らか
にしていたと認められる。
さらに、前記令和5年2月9日付け「準備書面(兼求釈明書)」は、同月
6日の上記協議の後に提出されたものである。
25 これらの事情を総合すれば、控訴人代理人が、令和5年2月6日に行わ
れた書面による準備手続の協議において、上記甲43の書面に記載された
内容の発言をしたとしても、控訴人が、原審において、不正競争防止法5
条2項による損害の推定の覆滅を主張していないとか、推定覆滅の主張を
撤回したということはできない。
そうすると、控訴人が当審でした推定覆滅の主張が、時機に後れて提出
5 した攻撃防御方法であるとは認められない。
また、控訴人は、当審において、令和6年4月11日付け準備書面(控
訴審第2)及び同年5月9日付け準備書面(控訴審第3)により推定覆滅
の主張をしているが、これらの準備書面が陳述された同月16日の第2回
口頭弁論期日において弁論が終結されているから(当裁判所に顕著な事
10 実)、上記各準備書面における推定覆滅の主張によって訴訟の完結が遅延
したとは認められない。
以上によれば、控訴人が当審でした推定覆滅の主張が時機に後れた攻撃
防御方法であるとして却下を求める被控訴人の申立ては、理由がないから
これを却下する。
15 ウ 控訴人が推定覆滅の事由として主張するのは、前記第2の4⑶〔控訴人
の主張〕イの①ないし⑨(主張①ないし⑨)である(令和6年4月11日
付け準備書面(控訴審第2)第1)。
そこで検討するに、主張⑤及び⑥に関し、まず、控訴人商品及び被控訴
人商品の市場においては、前記⑵アのとおり、複数の競業他社が存在し、
20 被控訴人商品はある程度の市場占有率を獲得していると認められるもの
の、その市場占有率は高いとはいえないから、推定覆滅事由にあたると認
められる。
また、控訴人代表者は保育園業界との人脈を有しており、控訴人は、被
控訴人との間で被控訴人商品に関する販売代理店契約を締結していた時
25 期において、この人脈を生かすとともに、保育関係の研修会等において被
控訴人商品を展示するなどして、保育園に被控訴人商品を販売するための
営業努力を行い、保育園に対して被控訴人商品を販売していたと認められ
る(乙36、39、71、弁論の全趣旨) そして、
。 このような営業努力は、
被控訴人と控訴人との販売代理店契約が終了し、控訴人がテクノウェーブ
製の控訴人商品を取り扱うようになった後も行われており、控訴人が、保
5 育関係の研修会等において控訴人商品を展示したこともある(乙40~4
4、71、弁論の全趣旨)。これらの事実によれば、控訴人による控訴人商
品の販売先には保育園が含まれることが推認される。
以上によれば、控訴人による控訴人商品の販売については、控訴人の営
業努力もこれに寄与したと認められるのであって、品質誤認表示(控訴人
10 表示)のみによってその販売が達成されたとは認められないから、推定覆
滅事由にあたると認められる。
もっとも、控訴人が控訴人商品の販売についてした営業努力については、
保育関係の研修会等における控訴人商品の展示以外には、その具体的内容
の主張立証があるとはいえない。また、控訴人が営業努力を行った相手で
15 ある保育園等において、控訴人商品を購入するか否かの判断に当たり、控
訴人ウェブページに掲載された控訴人商品に関する情報を確認し、控訴人
表示を認識した可能性があるから、控訴人の営業努力があったからといっ
て、控訴人表示が控訴人商品及び被控訴人商品の売上げに影響を与えなか
ったと認められることにはならない。
20 そして、主張①ないし④及び⑦ないし⑨は、覆滅事由に当たるとは認め
られず、その他、不正競争防止法5条2項の損害の推定を覆滅する事由の
主張立証があるとは認められない。
以上の事情を総合すると、控訴人表示による損害額の算定における推定
覆滅の割合は、5割と認めるのが相当である。
25 ⑷ 前記⑵アのとおり、令和元年5月8日から令和5年4月30日までの期間
における控訴人の限界利益の金額は1億2368万8021円であり、この
うち令和4年2月2日までに発生した分が6355万9921円、同月3日
以降に発生した分が6012万8100円であるところ、上記⑶ウのとおり、
控訴人表示による損害額の算定における推定覆滅の割合を5割と認めるのが
相当であるから、控訴人表示による被控訴人の損害の金額は、同月2日まで
5 につき3177万9960円(小数点以下切り捨て) 同月3日以降につき3
、
006万4050円となる。
また、控訴人の品質誤認表示と相当因果関係のある弁護士費用は、令和4
年2月2日までの品質誤認行為に係るものとして317万円、同月3日以降
の品質誤認行為に係るものとして300万円を認めるのが相当である。
10 したがって、被控訴人は、控訴人に対し、不正競争防止法4条に基づく損
害賠償請求として、6801万4010円及びうち3494万9960円に
対する令和4年2月2日から、うち3306万4050円に対する令和5年
5月27日から、各支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅
延損害金を請求することができると認められる。
15 4 その他、当事者が主張する内容を検討しても、当審における上記認定判断(原
判決引用部分を含む。)は左右されない。
5 結論
以上によれば、被控訴人の請求については、控訴人に対し、6801万40
10円及びうち3494万9960円に対する令和4年2月2日から、うち3
20 306万4050円に対する令和5年5月27日から、各支払済みまで年3パ
ーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認
容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきところ、これと異なる原判決
は不当であり、本件控訴は一部理由がある。
よって、主文のとおり判決する。
25 知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
5 東 海 林 保
10 裁判官
今 井 弘 晃
裁判官
水 野 正 則
別紙
被控訴人商品販売台数一覧
年 被控訴人商品販売台数(台)
平成4年(1992年) 4
平成5年(1993年) 13
平成6年(1994年) 93
平成7年(1995年) 98
平成8年(1996年) 96
平成9年(1997年) 131
平成10年(1998年) 269
平成11年(1999年) 284
平成12年(2000年) 269
平成13年(2001年) 211
平成14年(2002年) 179
平成15年(2003年) 106
平成16年(2004年) 98
平成17年(2005年) 83
平成18年(2006年) 68
平成19年(2007年) 58
平成20年(2008年) 54
平成21年(2009年) 58
平成22年(2010年) 52
平成23年(2011年) 70
平成24年(2012年) 56
平成25年(2013年) 78
平成26年(2014年) 86
平成27年(2015年) 78
平成28年(2016年) 89
平成29年(2017年) 74
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