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令和4(ワ)11921特許権侵害に基づく差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和6年7月11日
事件種別 民事
法令 特許権
キーワード 許諾57回
実施36回
特許権34回
侵害33回
間接侵害13回
抵触10回
損害賠償6回
差止3回
ライセンス2回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要

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判決文

令和 6 年 7 月 11 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 4 年(ワ)第 11921 号 特許権侵害に基づく差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和 6 年 5 月 13 日
判 決
5 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
10 第1 請求
1 被告は、別紙目録 1 記載の蓋を製造及び販売してはならない。
2 被告は、別紙目録 1 記載の蓋及びその型枠を廃棄せよ。
3(1) 主位的請求
被告は、原告に対し、2 億 3361 万 0400 円及びこれに対する令和 4 年 7 月 1 日か
15 ら支払済みまで年 6%の割合による金員を支払え。
(2) 予備的請求
被告は、原告に対し、2 億 3361 万 0400 円及びこれに対する令和 4 年 7 月 1 日か
ら支払済みまで年 5%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
20 1 本件は、発明の名称を「側溝及び桝」とする特許(以下「本件特許 1」という。)
及び「U 字溝の改修方法」とする特許(以下「本件特許 2」といい、これと本件特許
1 を併せて「本件各特許」という。)に係る各特許権(以下、各特許権を「本件特許
権 1」などといい、これらを併せて「本件各特許権」という。)を有限会社リタッグ
(以下「リタッグ」という。 と共有する原告が、
) 別紙目録 1 記載の側溝蓋(以下「被
25 告製品」という。)を利用した側溝は本件特許 1 の発明の技術的範囲に、また、被告
製品を利用した別紙目録 2 記載の U 字溝の改修方法(以下「被告方法」という。)
は本件特許 2 の発明の技術的範囲にそれぞれ属するから、被告による被告製品の生
産は本件各特許権を侵害するものとみなされる(被告製品につき、特許法 101 条 1
号又は 2 号。被告方法につき、同条 4 号又は 5 号)と共に、被告製品の製造販売は
原告、リタッグ及び被告の間の本件各特許権の実施許諾契約(以下「本件三社契約」
5 という。)上の債務の不履行に当たる旨を主張し、被告に対し、以下の請求をする事
案である。
(1) 本件各特許権に基づき、被告製品の製造販売の差止め(同法 100 条 1 項)及
び廃棄(その型枠を含む。同条 2 項)。
(2) 金銭請求
10 ア 主位的請求
本件三社契約上の債務の不履行による損害賠償請求権に基づき、合計 2 億 3361 万
0400 円の損害賠償及びこれに対する令和 4 年 7 月 1 日(訴状送達の日の翌日)から
支払済みまで平成 29 年法律第 45 号による改正前の商法 514 条所定の商事法定利率
年 6%の割合による遅延損害金の支払。
15 イ 予備的請求
本件各特許権侵害の不法行為に基づき、合計 2 億 3361 万 0400 円の損害賠償及び
これに対する令和 4 年 7 月 1 日から支払済みまで平成 29 年法律第 44 号による改正
前の民法所定の年 5%の割合による遅延損害金の支払。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容
20 易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は、コンクリート二次製品製造等を業とする株式会社である。また、原
告代表者は、平成 24 年 12 月 17 日以降、原告の代表取締役を務めている。
イ 被告は、コンクリート二次製品の製造販売等を業とする株式会社である。
25 ウ リタッグは、特許の保有利用等を業とする有限会社である。また、A(以下
「A」という。)は、同社の代表取締役を務める者である。
(2) 本件各特許権
原告は、以下の本件各特許に係る特許権(本件各特許権)をリタッグと共有して
いる。
ア 本件特許権 1
5 特 許 番 号 特許第 4199803 号
出 願 日 平成 16 年 10 月 20 日
登 録 日 平成 20 年 10 月 10 日
発明の名称 側溝及び桝
特許請求の範囲
10 【請求項 1】
蓋接面部と接する本体接面部が凹の曲面となっている側溝本体と、前記本体接面
部と接する蓋接面部が凸の曲面となっている蓋とからなり、前記本体接面部が水平
部分を有しない側溝において、前記本体接面部及び蓋接面部の曲率半径が、 11~
25mm であり、前記本体接面部の曲率半径と前記蓋接面部の曲率半径とを等しくす
15 るとともに、前記両接面部の曲率中心が相互に 0.5~1.5mm 離れていることを特徴
とする側溝。
【請求項 2】
請求項 1 の側溝において、前記蓋がレジンコンクリート製又は繊維補強コンクリ
ート製であることを特徴とする側溝。
20 (以下、各請求項に係る発明をそれぞれ「本件発明 1-1」「本件発明 1-2」
、 といい、
これらを併せて「本件発明 1」という。)
イ 本件特許権 2
特 許 番 号 特許第 5172193 号
出 願 日 平成 19 年 4 月 3 日
25 登 録 日 平成 25 年 1 月 11 日
発明の名称 U 字溝の改修方法
特許請求の範囲
【請求項 1】
既存 U 字溝の既存蓋に代えて新たな蓋を装着する U 字溝の改修方法であって、
前記新たな蓋が、フレーム状の一次蓋と、該一次蓋の開口部に脱着自在の二次蓋か
5 らなり、既存 U 字溝の上部を切断することなく、前記一次蓋が前記既存 U 字溝の既
存蓋受部に装着され、接着一体化されることを特徴とする U 字溝の改修方法。
【請求項 2】
請求項 1 の改修方法において、前記二次蓋が前記既存蓋よりも薄いものであるこ
とを特徴とする U 字溝の改修方法。
10 【請求項 3】
請求項 1 又は 2 の改修方法において、前記一次蓋が、所定間隔を隔てて平行に対
向する 2 本の蓋受部材と、該 2 本の蓋受部材を連結する幅方向の連結部材とからな
り、全体がコンクリートで一体に成形されていることを特徴とする U 字溝の改修方
法。
15 (以下、各請求項に係る発明を順に「本件発明 2-1」などといい、これらを併せて
「本件発明 2」という。また、本件発明 1 及び 2 を併せて「本件各発明」という。)
(3) 本件各発明の構成要件の分説
ア 本件発明 1
(ア) 本件発明 1-1
20 1-1A 蓋接面部と接する本体接面部が凹の曲面となっている側溝本体と、
1-1B 前記本体接面部と接する蓋接面部が凸の曲面となっている蓋とからなり、
1-1C 前記本体接面部が水平部分を有しない側溝において、前記本体接面部及び
蓋接面部の曲率半径が、11~25mm であり、
1-1D 前記本体接面部の曲率半径と前記蓋接面部の曲率半径とを等しくすると
25 ともに、
1-1E 前記両接面部の曲率中心が相互に 0.5~1.5mm 離れていることを特徴とす

1-1F 側溝。
(イ) 本件発明 1-2
1-2A 請求項 1 の側溝において、
5 1-2B 前記蓋がレジンコンクリート製又は繊維補強コンクリート製であることを
特徴とする
1-2C 側溝。
イ 本件発明 2
(ア) 本件発明 2-1
10 2-1A 既存 U 字溝の既存蓋に代えて新たな蓋を装着する U 字溝の改修方法であ
って、
2-1B 前記新たな蓋が、フレーム状の一次蓋と、該一次蓋の開口部に脱着自在の
二次蓋からなり、
2-1C 既存 U 字溝の上部を切除することなく、前記一次蓋が前記既存 U 字溝の
15 既存蓋受部に装着され、接着一体化されることを特徴とする
2-1D U 字溝の改修方法。
(イ) 本件発明 2-2
2-2A 請求項 1 の改修方法において、
2-2B 前記二次蓋が前記既存蓋よりも薄いものであることを特徴とする
20 2-2C U 字溝の改修方法。
(ウ) 本件発明 2-3
2-3A 請求項 1 又は 2 の改修方法において、
2-3B 前記一次蓋が、所定間隔を隔てて平行に対向する 2 本の蓋受部材と、該 2
本の蓋受部材を連結する幅方向の連結部材とからなり、
25 2-3C 全体がコンクリートで一体に成形されていることを特徴とする
2-3D U 字溝の改修方法。
(4) 被告の行為
被告は、別紙目録 1 記載の製品のうち、(1)~(4)の被告製品の製造販売をしている
(その余の被告製品の製造販売については、後述のとおり当事者間に争いがある。 。

(5) 本件工法研究会の設立等
5 原告は、平成 8 年頃、リタッグから「リボーン側溝」なる側溝技術についての特
許権(特許第 2514918 号)の実施許諾を受けた後、
「リボーン側溝」よりも蓋を軽量
化し、コンパクトにした技術を発明し、これをリタッグと共に特許出願して本件特
許 1 を得ると共に、当該技術を利用した側溝を「RUG 側溝」と称し、リタッグと共
同して第三者に実施許諾していた。
10 また、原告は、RUG 側溝の技術を基にした発明につきリタッグと共に特許出願し
て本件特許 2 を得ると共に、当該発明に基づく側溝の改修方法を「ECO ンビ工法」
と称し(以下「本件工法」ともいう。 、リタッグと共同して、その実施を目的とし

た実施許諾契約を第三者との間で締結していった。
さらに、原告及びリタッグは、平成 21 年 1 月 21 日、リボーン側溝を広く普及さ
15 せ、本件工法の拡布に努めることを目的とする「「リボーン側溝」ECO ンビ工法技
(甲 10)に係る契約(以下、後記合意解約後の契約も含めて「原告・リタ
術協力書」
ッグ基本契約」という。)を締結した上で、平成 22 年 11 月 2 日、複数のライセンシ
ーと共に、
「全国リボーン側溝工業会」内に「ECO ンビ工法研究会」
(以下「本件工
法研究会」といい、これに会員として参加する企業を「会員企業」とい う。なお、
20 上記名称により正式に設立されたのは、平成 28 年 7 月 19 日である。 を設立した。

被告は、本件工法研究会の設立当初からこれに会員として参加している。
なお、原告とリタッグは、平成 22 年 8 月 4 日、上記契約を合意解約した上で、上
記契約と同様の目的のもと、本件工法に係る共同でのライセンス供与について定め
る「リボーン側溝 ECO ンビ工法ライセンス供与に係る合意書」
(甲 13)に係る契約
25 を締結した。
(上記のほか、甲 7~9、12、乙 2、3)
(6) 本件三社契約
原告、リタッグ及び被告は、平成 22 年 4 月 2 日、 「リボーン側溝」ECO ンビ工

(甲 5)に係る契約(本件三社契約)を締結した。本件三
法一次蓋技術提供契約書」
社契約の内容は、以下のとおりである。
5 ア 用語の定義(2 条)
本件三社契約において「一次蓋」とは、「リボーン側溝」ECO ンビ工法における

ECO ンビ工法一次蓋」をいい、これを「本件製品」という。
ECO ンビ工法二次蓋には本件発明 1 に係る「リボーン側溝」RUG 型の側溝蓋を
使用し、これを「二次蓋」という。
10 イ 製造・販売等(3 条、4 条)
原告及びリタッグは、被告に対し、本件製品を製造販売等するために必要な技術
提供をし、香川県内においてこれを製造販売することを許諾する。
ウ ロイヤリティー(5 条)
被告は、原告に対し、上記許諾の対価として契約金 50 万円を、リタッグに対して
15 は被告が販売した本件製品の総売上高に 2%の率を乗じた額の実施料を支払う。
エ 二次蓋の購入(16 条)
被告は、本件製品に二次蓋を添付して販売しようとする場合、原則として二次蓋
を製造する正当な権原を有する者からこれを購入しなければならない。
オ 二次蓋の供給
20 被告が二次蓋の入手に支障を来した場合又はそのおそれのある場合、原告、リタ
ッグ及び被告が協議の上、速やかに被告が二次蓋を入手できるように対策を講じな
ければならない(17 条本文)。
原告が不測の事態により被告に対して二次蓋を供給できなくなった場合、リタッ
グは、被告に対して二次蓋の製造を許可するなど、被告が二次蓋を入手できるよう
25 に協力する(18 条本文)。
3 争点
(1) 本件各発明の技術的範囲への属否(争点 1)
(2) 間接侵害の成否(争点 2)
(3) 均等侵害の成否(争点 3)
(4) 債務不履行責任の成否(争点 4)
5 (5) 原告の同意又は実施許諾の有無(争点 5)
(6) 損害の発生及びその額(争点 6)
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点 1(本件各発明の技術的範囲への属否)
(原告の主張)
10 ア 本件発明 1
(ア) 別紙目録 1 記載の側溝蓋(被告製品)を利用した側溝本体(以下「本件側溝」
ともいう。 の構成は、
) 被告製品に接する側溝本体の接面部が凹の曲面となっており
(1a)、側溝本体と接する被告製品接面部が凸の曲面となっており(1b)、側溝本体
接面部が水平部分を有さず、本体接面部及び被告製品接面部の曲率半径が 20mm で
15 あり(1c)、本体接面部の曲率半径と被告製品接面部の曲率半径が等しく(1d)、両
接面部の曲率中心が相互に 1.5mm 離れており(1e)、被告製品がレジンコンクリー
ト製であることを特徴とする(1f)、側溝(1g)というものである。
この被告製品及び本件側溝からなる構成は、本件発明 1 の各構成要件を充足し、
本件発明 1 それぞれの技術的範囲に属する。
20 (イ) 被告の主張について
本件発明 1 は、蓋と側溝本体の接触面の構造に関する発明であり、側溝本体の構
成については、接面部の構造を除けば限定されておらず、また、課題解決手段を基
礎付ける技術的意義を持たない。さらに、本件工法においては、一次蓋が従前の側
溝と固着されている間に二次蓋が取り換えられることもあるところ、その際には、
25 一次蓋は従前の側溝と一体のものとなっているため、当業者は、二次蓋を既存の側
溝本体にはめる蓋として認識する。このため、被告製品を利用した本件側溝は、本
件発明 1 の構成要件を充足する。
イ 本件発明 2
被告方法の構成は別紙目録 2 記載のとおりであるところ、被告方法は、本件発明
2 の各構成要件を充足し、本件発明 2 それぞれの技術的範囲に属する。
5 (被告の主張)
ア 被告製品のうち、別紙目録 1 記載の(5)~(10)の側溝蓋の製造販売は否認する。
イ 本件発明 1 について
(ア) 被告製品及び本件側溝からなる構成のうち、構成 1a 及び 1b は否認し、その
余は不知。
10 被告製品(別紙目録 1 記載の(1)~(4)の側溝蓋)は、本件側溝との接面部を有しな
い。被告製品は、側溝用の蓋が、フレーム状の一次蓋と当該一次蓋の開口部に脱着
自在な二次蓋という 2 種類の蓋から構成される場合における二次蓋であるところ、
このような側溝用の蓋の場合、側溝本体に接するのは一次蓋のみであり、一次蓋の
みに接する二次蓋が側溝本体と接することはない。
15 (イ) 本件発明 1 の構成要件 1-1A 及び 1-1B の充足は否認し、その余は不知ないし
争う。
ウ 本件発明 2
被告方法の構成は不知。本件発明 2 の各構成要件の充足は不知ないし争う。
(2) 争点 2(間接侵害の成否)
20 (原告の主張)
ア 特許法 101 条 1 号の間接侵害
被告製品は、本件発明 1 の「蓋」に当たるところ、本件側溝にはめ込まれること
により初めて機能する側溝用蓋であり、社会通念上、他の経済的、商業的又は実用
的用途に用いられる可能性は考えられない。このため、被告製品は、
「物の生産のみ
25 に用いる物」(特許法 101 条 1 号)に当たる。
また、被告は、そのような被告製品を業として製造している。
したがって、被告による業としての被告製品の生産は、本件特許権 1 の侵害とみ
なされる。
イ 特許法 101 条 2 号の間接侵害
仮に被告製品が「その物の生産にのみ用いる物」に当たらないとしても、二次蓋
5 (被告製品)は、原告のみが製造を担っていたものであり、また、本件側溝と組み
合わせることでしかその効果を発揮できない物であって、
「物の生産に用いる物」に
当たり、かつ、汎用品ではない。加えて、本件発明 1 は、積荷荷重に十分耐えつつ、
側溝本体及び蓋の小型軽量化を実現すると共に、側板部の外面をフラットにできる
音のしない側溝を開発することをその課題とし、側溝と蓋とのそれぞれの接面部の
10 曲率半径や曲率中心位置を調整することによって、この課題を解決している。この
ため、本件発明 1 に係る蓋を用いることで、同発明の課題は初めて解決されるとい
える。すなわち、被告製品は、本件発明 1 の課題の解決に不可欠なものである。
さらに、被告は、原告及びリタッグと本件三社契約を締結したライセンシーであ
るから、本件発明 1 が特許発明であること及び被告製品が本件発明 1 の実施に用い
15 られることを知っていた。
したがって、被告による業としての被告製品の生産は、間接侵害(特許法 101 条
2 号)として、本件特許権 1 の侵害とみなされる。
ウ 特許法 101 条 4 号の間接侵害
被告製品は、本件発明 2 の「二次蓋」に相当し、同発明に係る方法の使用にのみ
20 用いる専用品である。
したがって、被告による業としての被告製品の生産は、間接侵害(特許法 101 条
4 号)として、本件特許権 2 の侵害とみなされる。
エ 特許法 101 条 5 号の間接侵害
仮に本件発明 2 の「二次蓋」に相当する被告製品が被告方法の専用品に当たらな
25 いとしても、被告製品は、被告方法に使用するものであり、また、汎用品でないこ
とは本件発明 1 の場合と同様である。
さらに、本件発明 2 は、既存 U 字溝の蓋受部分の補修を省略し、補修時に発生す
るコンクリート廃棄物をなくし、容易に新たな軽量蓋を装着できるようにして現場
の工期を短縮すること及び老朽化した U 字溝の強度を改善することを課題とする
ところ、この課題は、フレーム状の一次蓋とその開口部に脱着自在な二次蓋からな
5 る新たな蓋をし、既存 U 字溝の上部を切除することなく、一次蓋を既存 U 字溝の既
存蓋受部に装着させ、接着させて一体化することにより解決される。このため、一
次蓋から脱着自在な二次蓋を用いることにより、本件発明 2 の課題は初めて解決さ
れる。
加えて、本件三社契約のライセンシーである被告は、本件発明 2 が特許発明であ
10 ること及び二次蓋である被告製品がその発明の実施に用いられることを知っていた。
したがって、被告による業としての被告製品の生産は、間接侵害(特許法 101 条
5 号)として、本件特許権 2 の侵害とみなされる。
(被告の主張)
ア 間接侵害(特許法 101 条 1 号及び 2 号)の不成立
15 被告製品を組み込む本件側溝は、本件発明 1 の構成要件 1-1A 及び 1-1B を充足し
ない。そうである以上、被告製品は、本件発明 1 の実施品の生産にのみ用いる物(特
許法 101 条 1 号)及び実施品の生産に用いる物(同条 2 号)のいずれにも該当しな
い。
したがって、被告による被告製品の生産につき、本件特許権 1 の間接侵害は成立
20 しない。
イ 間接侵害(特許法 101 条 4 号及び 5 号)の不成立
被告製品は、これと寸法が適合する側溝であればどのような側溝にも用いること
ができるものであり、本件工法による被告方法にしか用いることのできないもので
はない。したがって、被告製品は、本件発明 2 の「方法の使用にのみ用いる物」
(特
25 許法 101 条 4 号)には当たらない。
また、発明の「課題の解決に不可欠なもの」とは、その発明の本質的部分すなわ
ち従来技術では解決できなかった課題の解決の実現に不可欠なものでなければなら
ない。本件発明 2 においては、蓋を 2 つに分けて脱着自在にするという発想とその
構造こそが従来技術に見られない特徴的手段とされており、二次蓋自体は従来技術
のとおりの蓋に過ぎず、何ら特徴的構造を有しない。したがって、本件発明 2 の二
5 次蓋に相当するものとされる被告製品は、本件発明 2 による「課題の解決に不可欠
なもの」(特許法 101 条 5 号)に該当しない。
したがって、被告による被告製品の生産につき、本件特許権 2 の間接侵害は成立
しない。
(3) 争点 3(均等侵害の成否)
10 (原告の主張)
仮に、一次蓋を接着した側溝が本件発明 1 の「側溝本体」(構成要件 1-1A)に該
当しないとしても、被告製品を利用した本件側溝は、以下のとおり、本件発明 1 の
均等侵害に該当する。
すなわち、本件発明 1 は、上記のとおり、側溝本体と蓋の接面部の構造により課
15 題を解決するものであり、側溝本体の接面部以外の構造は課題解決に関係がなく、
明細書にも特に限定される旨の記載はない。したがって、
「側溝本体」が接合面を除
いた側溝本体の構造であるか、側溝本体と一次蓋からなる構造であるかは、本件発
明 1 の本質的部分ではない(均等の第 1 要件)。
また、本件発明 1 の「側溝本体」を側溝本体と一次蓋からなる構造を置き換えた
20 としても、本件発明 1 と同一の作用効果を奏すると共に(第 2 要件)、侵害時の当業
者にとって、被告製品の製造時におけるその置き換えは容易に想到可能であったと
いえる(第 3 要件)。
加えて、一次蓋を備える側溝本体及び二次蓋は、本件特許 2 に係る出願により公
知となった技術であり、本件特許 1 に係る出願時の公知技術と同一又はこれから当
25 業者が容易に遂行できたものではなく(第 4 要件)、同時点において、一次蓋を側溝
本体に付加する構成が意識的に除外されたものに当たる などの特段の事情もない
(第 5 要件)。
したがって、被告製品を利用した本件側溝の構成については、本件発明 1 の均等
侵害が成立する。
(被告の主張)
5 本件発明 1 の本質的部分は、
「蓋接面部と接する本体接面部が凹の曲面となり、そ
の曲面が一定の曲率半径を有する側溝本体」 「本体接面部と接する蓋接面部が凸
と、
の曲面となり、その曲面が一定の曲率半径を有する蓋」との両方であり、その一方
のみではない。他方、本件工法においては、側溝本体は「既存 U 字溝」であり、そ
の形状は何ら指定されていない。このように、本件発明 1 の構成と本件工法により
10 完成する構造とは異なり、その相違は本件発明 1 の本質的部分に関する相違である。
したがって、被告製品を利用した本件側溝の構成は、本件発明 1 との関係で、均等
の第 1 要件を充足しない。
また、上記のとおり、本件工法においては既存の側溝本体の形状につき何らの指
定もされていないことから、本件発明 1 の構成に代えて本件工法により完成する構
15 造を採用した場合、本件発明 1 の作用効果は生じ得ない。このため、本件工法によ
り完成する構造に置き換えようとする動機は存在しないから、当業者がそのような
置き換えを容易に想到することもできない。したがって、均等の第 2 及び第 3 要件
も充足しない。
(4) 争点 4(債務不履行責任の成否)
20 (原告の主張)
本件三社契約においては、ライセンシーに対するリボーン側溝の一次蓋の製造販
売等に係る実施許諾のみが目的とされており、ライセンシーは、二次蓋の製造につ
いては権原が与えられておらず、「二次蓋を製造する正当な権原を有する者から二
次蓋を購入しなければならない」とされ、その「正当な権原」を有するのは原告の
25 みである。
しかるに、リタッグは、原告の同意を得ることなく、被告による二次蓋の製造に
同意し、被告は、遅くとも平成 26 年 12 月から、二次蓋である被告製品の製造を開
始し、自ら二次蓋を入手した。これは、本件三社契約に違反するものといえる。
(被告の主張)
否認ないし争う。
5 本件三社契約上、二次蓋を製造する正当な権原を有する者は原告に限定されてお
らず、リタッグもこれに含まれ、事実上二次蓋を製造できるのが原告のみであった
に過ぎない。また、被告による被告製品の製造開始は平成 27 年 5 月である。
さらに、原告は、後記のとおり、本件三社契約締結後、繰り返し、リタッグが被
告に対し被告製品の製造販売を許諾することに同意し、又は、被告に対してこれを
10 許諾した。したがって、被告による被告製品の製造販売は、本件三社契約に基づく
被告の債務の不履行に当たらない。
(5) 争点 5(原告の同意又は実施許諾の有無)
(被告の主張)
ア 被告は、平成 27 年 5 月に被告製品の製造を開始し、同年 12 月にその販売を
15 開始したところ、これに先立ち、リタッグは、被告に対し、被告製品の製造販売を
許諾した(以下、この許諾契約を「リタッグ許諾契約」という。 。

また、原告は、以下のとおり、リタッグに対しリタッグ許諾契約につき同意し、
又は、直接被告に対し被告製品の製造販売を許諾した。
したがって、被告による被告製品の製造販売は本件各特許権を侵害するものでは
20 なく、また、本件三社契約に違反するものでもない。
イ 平成 24 年 7 月面談における原告の同意
被告は、本件三社契約に基づき、本件工法の一次蓋の製造を開始すると共に、原
告から同工法の二次蓋の購入を開始し、本件工法を実施するための 2 種類の蓋を取
り揃え、側溝の改修工事を実施する土木工事業者に販売していた。
25 しかし、その後間もない頃、原告から被告に納入される二次蓋に品質不良のある
ことが明らかとなり、他の会員企業からも、同様の問題があるとのクレームがリタ
ッグに寄せられた。この当時、原告が被告を含む会員企業に納入していた二次蓋は、
原告が管理する中国工場で製造されたものであり、品質不良の原因は、原告が中国
工場で製造する二次蓋にあった。
また、原告は、同じ頃、会員企業に対し、二次蓋を納期に遅れて引き渡すことが
5 度々あった。
しかし、二次蓋を製造することができるのは原告のみであったことから、会員企
業は、これらの問題があったにもかかわらず、本件工法の実施を継続するため、原
告から二次蓋を購入せざるを得なかった。
リタッグは、本件工法研究会を主導する立場から、これらの問題を解決すべく、
10 平成 22 年 11 月 18 日、原告に対してその対策を求めたが、その後も問題は解決され
なかった。
そのような状況において、平成 24 年 6 月 19 日、原告は、裁判所に対し民事再生
手続開始の申立てをした。これを知った会員企業の間では、以後原告から二次蓋が
購入できなくなるのではないかとの懸念が広まり、多くの会員は、顧客である土木
15 工事業者に対する新規の営業活動を一旦停止し、また、原告に対する新規の二次蓋
の購入申込みを停止した。
このため、リタッグは、同年 7 月 13 日、会員企業に対し、二次蓋の供給不安及び
品質問題等の問題を解決するため、原告、リタッグ及び会員企業の間で締結してい
る契約(本件三社契約(17 条、18 条)と同様のもの)に基づき、原告に代わる二次
20 蓋の供給元として、被告及び株式会社ヤマウ(以下「ヤマウ」という。)を検討して
いる旨を表明する内容の書簡を交付した。
このような状況において、原告は、同月 16 日、リタッグとの面談(以下「平成 24
年 7 月面談」という。)において、二次蓋の供給を安定化させる対策を協議し、同社
に対し、民事再生手続開始後も原告が会員企業に対し品質が担保された中国製二次
25 蓋を供給すること、日本製二次蓋の製造については、原告がヤマウに対する製造委
託を検討して同社と協議することと共に、リタッグが被告の工場において日本製二
次蓋の製造販売を許諾することに同意した。
すなわち、原告は、同日、リタッグに対し、将来的にリタッグが被告に対して二
次蓋(被告製品)の製造販売を許可することにつき同意した。
ウ 平成 25 年 5 月会議における原告の同意又は許諾
5 原告は、平成 24 年 7 月面談において、リタッグに対し、原告は日本製二次蓋の生
産を中止し、中国工場に生産拠点を移す旨の報告をすると共に、ヤマウに日本製二
次蓋の製造委託をすることを検討することとしていた。また、原告は、平成 24 年 8
月頃、リタッグに対し、改めて OEM 製造を申し出て、日本製二次蓋につきヤマウ
を含む製造委託先を探すこととなった。しかし、原告は、その後もヤマウとの交渉
10 を進展させることができず、日本製二次蓋の製造委託先を見つけることができなか
ったため、品質問題のない日本製二次蓋の供給不安定が解消することはなかった。
原告が同年 12 月 6 日に裁判所から再生計画認可決定を得た後である同月 12 日、
本件工法研究会臨時会議において、日本製二次蓋の製造について協議がされ、原告
がヤマウとの間で製造委託に関する契約交渉をすることが確認された。しかし、そ
15 の後も、原告とヤマウとの契約交渉は進展せず、原告は、会員企業に対し、日本製
二次蓋を販売することができなかった。
平成 25 年 5 月 28 日に開催された本件工法研究会臨時会議(以下「平成 25 年 5 月
会議」という。)においては、主に、日本製二次蓋の安定的な供給を図るための対策
について議論がされた。その際、平成 24 年 7 月面談で決定された事項についても再
20 検討がされた。同面談においては、原告とリタッグとの間で、被告が二次蓋の製造
をした場合、被告が原告及びリタッグに対しそれぞれ 2%の実施料を支払うことが
予定されていたが、原告は、平成 25 年 5 月会議において、被告が二次蓋を製造する
場合、原告としては実施料の支払を受けなくてよい旨を述べた。当該発言は、被告
製品の製造販売につき、原告による同意又は許諾があったことを前提とするもので
25 あり、又は、少なくともこれをもって原告が改めてそのような同意又は許諾を与え
たものといえる。
したがって、原告は、遅くとも平成 25 年 5 月 28 日、被告が被告製品の製造販売
をすることについて、同意又は許諾をした。
エ リタッグ許諾契約の締結等
リタッグは、平成 24 年 7 月面談又は平成 25 年 5 月会議における原告の同意又は
5 許諾を踏まえ、平成 26 年 8 月 8 日、被告との間で、二次蓋の製造販売の許諾に係る
契約(リタッグ許諾契約)を締結した。
被告は、同契約に基づき、平成 27 年 5 月に被告製品の試作品を製造し、同年 12
月に被告製品の販売を開始した。
オ 平成 28 年 9 月会議における原告の同意又は許諾
10 平成 28 年 9 月 14 日に開催された本件工法研究会会議(以下「平成 28 年 9 月会
議」という。)においても、二次蓋の品質不良及び安定的な供給に関する問題が協議
された。その際、会員企業が二次蓋を原告から購入することが確認されると共に、
原告及びリタッグにより、被告による二次蓋の製造販売が許諾された。
したがって、原告は、平成 28 年 9 月 14 日、被告による被告製品の製造販売につ
15 き、改めて同意又は許諾をした。
カ 令和 3 年 3 月会議における原告の同意又は許諾
令和 3 年になるまで、原告が会員企業に販売した中国製二次蓋の品質不良の問題
は解決することがなく、また、その引渡しが遅延することが度々あった。また、平
成 24 年 7 月面談で行うこととされた原告とヤマウとの製造委託契約締結に向けた
20 交渉も、令和 3 年に至るまで進展していなかった。
このような状況において、原告は、令和 3 年 2 月、会員企業に対し、原告中国工
場の閉鎖及び原告が会員に対し二次蓋を供給することができない旨を伝える文書を
送付した。同文書には、中国工場閉鎖の原因が、リタッグが「RUG 集水スリット蓋」
なる蓋につき原告の了解を得ずに第三者に対し製造委託したことにあるかのような
25 記載があった。
これを受け、同年 3 月 9 日、本件工法研究会臨時会議(以下「令和 3 年 3 月会議」
という。)が開催された。同会議において、原告は、二次蓋の製造状況について、中
国工場及び日本工場いずれにおいてももはや二次蓋の製造を行うことができない状
態である旨を説明すると共に、原告自身が被告から二次蓋を購入しなければ会員へ
の二次蓋の供給ができない旨を述べた。当該発言は、被告が二次蓋を製造販売する
5 ことを前提とするものである。
したがって、原告は、同日、被告による被告製品の製造販売につき、同意又は許
諾をしたといえる。
キ 本件三社契約 18 条所定の条件の成就
本件三社契約では、被告は、自ら製造する一次蓋に二次蓋を組み合わせて販売す
10 る場合、原則として二次蓋を製造する正当な権原を有する者からこれを購入しなけ
ればならず(16 条)、原告が不測の事態により被告に二次蓋を供給できなくなった
場合、リタッグは、被告に対して二次蓋の製造を許可するなど、被告が二次蓋を入
手できるように協力する旨定められている(18 条)。これによれば、本件三社契約
においては、不測の事態により被告に対して二次蓋を供給できなくなったことを停
15 止条件として、リタッグが被告に対し二次蓋の製造を許可することにつき、原告も
同意することが合意されていたことになる。
原告は、令和 3 年 2 月に、原告中国工場の閉鎖を会員企業に対して通知し、また、
令和 3 年 3 月会議において、二次蓋を全く製造できない状況に陥った旨説明した。
このことは、遅くとも同年 3 月 9 日時点で、不測の事態により被告に対して二次蓋
20 を供給できなくなった場合に該当する状況が原告に生じたことを意味する。
したがって、同日時点において、被告による被告製品の製造販売につき、原告の
同意があったといえる。
(原告の主張)
原告が被告による被告製品の製造販売につき同意又は許諾をしたことはない。
25 原告がリタッグ許諾契約に基づくリタッグ単独での被告への実施許諾に同意した
旨の記載のある書面は存在せず、そのような同意を踏まえた実施許諾書も作成され
ていない。本件工法研究会では、原告及びリタッグが会員企業に本件各特許権の実
施許諾をする場合には、会員企業との間で契約書を作成することが通常であり、従
前と同様の三者間契約を明確に締結しないこと、事後的に原告から二次蓋の製造販
売について実施許諾を行う旨の書面を取得しないことは不自然である。
5 また、平成 25 年 5 月会議において二次蓋製造の実施許諾を受ける会社として仮
定されていたのは、被告ではなかった。
加えて、原告代表者は、令和元年 11 月 8 日付けメール(以下「令和元年 11 月メ
ール」という。)において、リタッグ代表者に対し、本件工法の二次蓋の製造に関す
る権利を有しない会社による製造販売の問題を解消したい旨明記している。当時、
10 原告の許諾を得ることなく二次蓋の製造販売を行っていたのは被告のみであり、上
記メールは、原告がこれを問題視しており、被告に実施許諾していなかったことを
示すものである。
本件三社契約 18 条については、原告の中国工場が閉鎖した原因は被告が実施許
諾なく被告製品を製造販売したことによる原告の売上悪化にある。すなわち、同条
15 所定の停止条件の成就は、被告の本件各特許権侵害の不法行為又は本件三社契約違
反によるものであって、被告が不正に条件を成就させたものであるから、条件は成
就しなかったものとみなされる(民法 130 条 2 項)。
(6) 争点 6(損害の発生及びその額)
(原告の主張)
20 ア 主位的請求
原告は、被告の本件三社契約違反(債務不履行)により、二次蓋の売上が悪化し、
これを原因として、二次蓋の製造のみを行っていた中国工場を閉鎖するに至った。
被告が現在までに被告製品の販売によって得た利益額は 1 億 3361 万 0400 円を下
らないところ、被告の債務不履行により生じた原告の損害の額もこれと同程度であ
25 る。
加えて、原告は、二次蓋と併せて一次蓋を製造して第三者に販売したり、一次蓋
を設置する際に充填剤の漏れを止めるための仮止め金具の賃貸をしたりしていた が、
二次蓋の製造ができなくなったことで、これらの業務を中止せざるを得なくなった。
これによる損害額は 1 億円である。
以上より、原告は、被告に対し、債務不履行に基づき、合計 2 億 3361 万 0400 円
5 の損害賠償請求権及びこれに対する令和 4 年 7 月 1 日(訴状送達の日の翌日)から
支払済みまで平成 29 年法律第 45 号による改正前の商法 514 条所定の商事法定利率
年 6%の割合による遅延損害金請求権を有する。
イ 予備的請求
上記のとおり、被告が現在までに被告製品の販売によって得た利益額は 1 億 3361
10 万 0400 円を下らないことから、同額をもって、本件各特許権の特許権者である原告
が受けた損害の額と推定される(特許法 102 条 2 項)。
そのほかに、二次蓋と併せて一次蓋を製造し、第三者に販売するなどの業務を中
止せざるを得なくなったことによる損害が発生し、その額が 1 億円であることは、
上記のとおりである。
15 以上より、原告は、被告に対し、本件各特許権侵害の不法行為に基づき、合計 2
億 3361 万 0400 円の損害賠償請求権及びこれに対する(訴状送達の日の翌日)から
支払済みまで平成 29 年法律第 44 号による改正前の民法所定の年 5%の割合による
遅延損害金請求権を有する。
(被告の主張)
20 主位的請求及び予備的請求のいずれに係る事実についても、否認ないし争う。
被告が被告製品の販売を開始した平成 27 年 12 月~令和 4 年 6 月の間の売上額は
合計約 3300 万円に過ぎず、利益額はこれより更に少額であり、販売管理費等も考慮
すれば赤字であった。また、原告の二次蓋の売上が減少したのは、原告が中国工場
で製造した製品の品質不良や原告の再三にわたる納入期限不遵守により、原告への
25 発注が減少したことによるものに過ぎない。さらに、原告が一次蓋の製造販売等の
業務ができなくなったことによる損害額については、その算定根拠がない。
第3 当裁判所の判断
事案に鑑み、争点 5(原告の同意又は実施許諾の有無)について判断する。
1 認定事実
前提事実(前記第 2 の 2)、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が
5 認められる。
(1) 原告による二次蓋の供給に係る問題の発生等
ア 原告による二次蓋供給開始と問題の発生
(ア) 原告は、平成 22 年 4 月 2 日、リタッグと共に被告との間で本件三社契約を
締結し、これに基づき、被告に対する二次蓋の供給を開始した。また、原告は、本
10 件三社契約と同様の契約を締結した会員企業に対しても、二次蓋の供給を開始した。
(イ) しかし、被告は、同月 20 日、リタッグに対し、
「レジン蓋の試験結果と考察」
と題するメール(乙 8 の 1)を送付して、
「レジン蓋は、裏面に細かなひび割れが起
こります。ヤマウ社の蓋のみ対策が出来ていることが分かります。」などと伝えた。
また、同メール添付の「スリット付レジン蓋の問題」と題する書面(乙 8 の 2)に
15 は、
「1.現状」「スリット付のレジン蓋にクラックが発生している事例が多数存在し

」「5.考察」「ECO ンビ工法 2 次蓋については一般的レジン蓋と同じような
ている。 、 、
結果になっていますので、施工後クラック等が発生しクレーム対象になりかねない
ように思われますので何らかの対策が必要だと考えます。」などと記載されている。
(ウ) リタッグは、同年 11 月 18 日、原告に対し、「契約書について」と題するメ
20 ール(乙 9)を送付して、以下のような指摘をした(「/」は改行部分を示す。以下
同じ。 。

・「弊社に対してライセンシーの方々から御社における下記の契約履行について
強くクレームがはいっております。」
・「1.いつになったら当社の基準に合った蓋を納品していただけるのか?/「契
25 約当初から当社の規格に合った蓋の製作をお願いしているのだが半年経過してもい
まだに満足できる製品が納品されない。当社は半年間営業が停止している。これは
契約違反ではないか?」」
・ 2.過 去 の施 工 に 於い て 問 題の あ っ た 蓋に 対 し ての 対 応 は どう な っ てい るの

か?/施工時の立ち会い検査で不具合のある蓋が発見され、即座に交換はしていた
だいたのだが、/(1)「この不具合がどうして発生したのか?」…/(4)もし同様な問
5 題が発生した場合にどのように対処していただけるのか?」/これに対する回答が
未だに無く、この状態では今後、施工するにあたり不安がある。/というクレーム
です。」

「弊社にこのような複数のクレームが入る状況下では、共有権者の弊社としては
この問題を放置できません。/現行契約ですらこのような状況ですので、既存のラ
10 イセンシーの方々が早急に「御社以外の蓋の製造者」及び「第 18 条」等の必要性を
感じておられる事をご理解下さい。」
・「以上の状況を踏まえて、弊社から御社への要請は/1.早急にライセンシーの
要求する蓋を納品していただく事。/2.ライセンシーの指摘する問題点の調査結果
と対策とをライセンシーに報告して、ご納得いただく事。/上記 2 点、御社に於い
15 てこれらを速やかに遂行していただけない場合、弊社といたしましては「共有権者
の責任として」具体的に何らかの製造供給対策をしてライセンシーに提示せざるを
えません。」
イ 強度試験の実施
平成 23 年 1 月 14 日に開催された本件工法研究会において、原告の申出により角
20 型蓋の強度試験を行うことが合意され、同年 4 月 8 日、原告、リタッグ、被告及び
ヤマウほかが参加して、原告製レジン二次蓋とヤマウ製レジン二次蓋との強度試験
が実施された。その際の議事録(乙 24)には、
「三.公開強度試験内容、会議のまと
め」として、以下の記載がある。

「中越製陶社から提供された承認願い(試験表)が中国製レジン蓋のものではな
25 く、中越製陶社田上工場で製造されたレジン蓋の試験表を承認願いとして役所に提
出されていたように思われ、非常にあぶない使い方だと感じる。(カンケン社)」

「本来は、実際に納品されるリボーン形状(接面部が曲面)のレジン蓋で試験す
べきであるが、中越製陶社の申出で、四角形状のレジン蓋で試験することになった。」

「中越製陶社が用意したレジン蓋は日本製であり、実際に契約者に納品されるレ
ジン蓋は中国製であるから、今回の強度試験データは参考程度にしかならない。」
5 ・
「中越製陶社が今後も契約者に納品するレジン蓋は中国製である。
(中越製陶社)」

「新潟で地震があった場合、供給不安が残る。そのような場合でも、供給元は供
給する責任があるし、契約者は供給されなければ困る。故に、東日本と西日本の各
地域に一社用意して危険回避を図るべきである。」

「日本の役所は、安価だからといって中国産を望んでいるわけでなく、日本産を
10 望む役所も多い。契約者は安全面で危険回避を図らなければいけないことからも、
日本で製造され供給される体制を、東日本と西日本で二社用意してほしい。」

「地震震災が起きた場合、1 社では供給できない状況となることが考えられ、そ
の場合、中越製陶社は中国で製造して供給する事になり、…安定的な供給問題など
で皆さんの不安は解消できないのかなと感じている。そういった問題を早急に解決
15 する上で、…別地域で二社を用意する方向で進める。(リタッグ社)」
(上記のほか、甲 32~35)
ウ 原告の民事再生手続開始申立て
原告は、事業を行う新潟県の土管事業の減少によりその売上高が数年で半減し、
金融機関からの資金調達も困難になったことで資金繰りに窮し、平成 24 年 6 月 19
20 日、新潟地方裁判所三条支部に対して民事再生手続開始の申立てをし、その旨債権
者に対して通知した。(乙 10)
(2) 本件工法研究会等の対応
ア 平成 24 年 7 月面談及びこれに至る経緯
(ア) 本件工法研究会は、同年 7 月 3 日に会議を行い、本件工法に係る二次蓋供給
25 問題について協議した。リタッグは、その際に提供を求められた見解書として、会
員企業に対し、同月 13 日付け「リボーン側溝 Eco ンビ工法にかかる二次蓋供給問
題の件」と題する書面(乙 11)を送付した。同書面には、以下の記載がある。
・「4 会員より、二次蓋の供給不安・危険回避・製造産地(中国工場で製造)な
どの問題が上程され、問題解決を求められた。」
・「5 前記 4 により、弊社は OEM として、日本製二次蓋が製造できる別の二次
5 蓋製造者を用意すべく打合わせ中であることを会員に開示していた最中、中越製陶
株式会社が民事再生申請に至った。(同社は供給継続の意思表明あり)」

「現在、二次蓋の供給不安を回避すべく、日本製二次蓋の安定供給を図る為、上
記のエコンビ契約書第 17・18 条(二次蓋の供給について)に基づき、弊社 OEM と
して製造(予定社:株式会社ヤマウ、株式会社カンケン)を検討・打合せ中であり、
10 二次蓋の供給は可能と考えますので、少々お時間を頂戴致したく存じます。」
(イ) リタッグは、同月 16 日、原告代表者の希望で同人と直接面談し、二次蓋供
給問題につき協議をした(平成 24 年 7 月面談)。リタッグは、会員企業に対し、同
月 17 日付け「Eco ンビ工法にかかる二次蓋の供給について」と題する書面(乙 7)
を送付し、平成 24 年 7 月面談の内容につき、以下の報告をした。
15 「2 中越製陶(株)は、…二次蓋を中国工場で生産し、中国製二次蓋(レジン蓋)
として供給する。…
4 日本製二次蓋(レジン蓋)を供給する場合、中越製陶がヤマウ社に製造委託す
る事を検討し、同社がヤマウ社へ協議を申し込む。
5 日本製二次蓋(レジン以外)を希望する契約者には、リタッグが認可した日本
20 工場で OEM 生産した日本製二次蓋を供給する。
6 5 の場合、リタッグの OEM 日本工場として、カンケン社を予定する。…
8 上記 5~7 につき、中越製陶は、カンケンによる二次蓋製造を許可する。
9 カンケン社が二次蓋を製造した場合の特許実施に基づくリタッグ、中越製陶
への実施料は 2%を考える。
25 10 危険回避の流通手段として、日本工場は 2 社(リタッグ OEM 含む)とする。」
イ 平成 25 年 5 月会議及びこれに至る経緯
(ア) リタッグは、平成 24 年 7 月面談の内容を踏まえ、日本製二次蓋の生産がな
くなることによる需要者に対する品質・信用の低下・供給不安等を招く懸念から、
関係社との協議により、OEM 生産を行う方向で調整をしていた。その過程で、原告
は、平成 24 年 8 月頃、改めてリタッグに対し、
「OEM 生産を任せて頂きたい」との
5 申出をした。これを受け、リタッグも原告に OEM 生産に係る一切を任せていた。
しかし、リタッグは、関係社から、 Eco ンビ二次蓋の型枠が届かず生産できない。

在庫が底をつく。営業損失、信用低下等の不利益が発生する。…リタッグに OEM 権
限を戻して早期解決し、安定供給を図るべきだ」との苦情を受けたとして、会員企
業に対し、同年 11 月 13 日付け「リボーン側溝 Eco ンビ工法研究会 臨時会議開催
10 のご案内」と題する書面(乙 12)を送付し、上記事情を説明すると共に、「OEM 実
施にて日本製品を欲する市場への安定供給を図り、併せて Eco ンビ工法拡販に関す
る情報交換を図る」ことを目的とし、
「製造元の中越製陶株式会社に対して再調査・
再確認を行い、…ご報告致したく存じます」として、臨時会議を開催する旨伝えた。
(イ) 原告は、同年 12 月 6 日、裁判所により再生計画認可決定を得た(乙 13)。
15 (ウ) 同月 12 日、本件工法研究会臨時会議が開催された。同会議の議事録(甲 11)
には、
「4.議題協議内容のまとめ」として、
「1 日本製レジン蓋の OEM 製造先とし
て、株式会社ヤマウに製造委託する。 、
」「3 OEM での製造・販売の責任は、中越製
陶株式会社とする。 、
」 「7 中国製 Eco ンビ二次蓋の供給は従来どおり、中越製陶株
式会社。」との記載がある。
20 その後、原告は、ヤマウとの交渉を進め、平成 25 年 3 月 16 日、被告に対し、日
本製レジン蓋の供給可能な仕切り価格(ヤマウのレジン製造工場にて工場渡し価格)
を提示した。しかし、被告は、同日、原告に対し、
「既に入設している価格と比較を
して高すぎます。/引き取り運賃並びに商流を考慮すれば検討するまでもありませ
ん。 、
」 「数量が大量ですので、赤字を出してまでは出来ません。」などとして、再検
25 討を求めた。(甲 24)
(エ) 同年 5 月 28 日、原告、リタッグ、被告及びヤマウらが参加して、本件工法
研究会臨時会議(平成 25 年 5 月会議)が開催された。その資料(乙 14)によれば、
「リボーン側溝 Eco ンビ工法に使用する「日本製レジン二次蓋」の製造について」
を議題とし、上記平成 24 年 12 月の「会議の決定事項にかかる不履行及び遅延によ
る内容変更要請」等が開催理由とされると共に、
「解決すべき問題点」として、以下
5 の事項が指摘されている。
・「中越製陶社とヤマウ社間の協議進展及び契約状況と、今後の見込み」

「現在のかかえる重要な問題点/一 赤字流通になっている意味(カンケン社の
説明必要)…/二 レジン蓋の仕入価格の安定について…/三 レジン蓋の供給安
定について…/危険回避として、供給先は二社必要。 権利者はこれを怠っている)
( 」
10 平成 25 年 5 月会議においては、原告がヤマウに製造委託した場合の被告の仕入
価格や型枠の製造主体、原告が廃業した場合等における危険の回避等について議論
がされた。その中で、リタッグは、
「カンケンさんの方で作っていただいてもう勝手
に作ってくれてヤマウさんとこでやるならやってくださいと、ただやった、販売し
た分製造した分についてはお互い家の権利があるので、うちと御社中越さんのとこ
15 ろに実施料を払ってくださいと、そういう話を今するところなんですね。」などと、
ヤマウへの製造委託の問題とは別に、被告への製造委託についても議論することを
提案し、
「一番大事なことは製品を流しております。安心安全な製品を早く流す。…
もし中越さんがそれができないんであれば、とりあえずこっちでできるところで探
すと、そうしなければ契約者に対する契約不履行です。」などと指摘した。原告も、
20 民事再生手続開始申立てに触れつつ、「実際の再発防止というかそういう危険性を
なくすという意味合いにおいて、必要不可欠なんだろうというふうに私も自覚して
おります。」と述べて、その議論の必要性を認めた。
また、同会議の議論の中で、原告代表者は、
「型枠を変える場合には全責任を持つ
っていうようなお話もありましたけれども、…私は精一杯取り組もうとして、ヤマ
25 ウさんと協議して価格も精一杯のところで出させてはいただいてるんですけれども、
それがうまくないからこういう形という形でやられるようであれば、私どももロイ
ヤリティの 2%結構ですんで、責任持って取り組んでいただければ結構です。 、
」「そ
の代わり私は何もそこが日本製においてというか、責任を持てませんけれども、…
ちょっと手が離れてしまう格好になってしまうのかなというふうに思うんですけれ
どもここまでどうしてもということになれば、私は型枠についてですね、責任負え
5 なくなってしまうんじゃないかなという…不安があるんで、ちょっとその辺はご理
解いただければ」などと発言した。型枠メーカーの変更に関する一連の議論はそれ
に伴い被告が二次蓋を製造することも念頭に置いたものと理解されることも踏まえ
ると、原告代表者の上記発言は、被告による二次蓋の製造販売を許容する趣旨のも
のとも理解し得る。
10 (上記のほか、甲 22、28、29、乙 15、17)
(3) リタッグ許諾契約の締結及びその後の状況
ア リタッグ許諾契約の締結と被告製品の製造販売の開始
(ア) 被告は、平成 26 年 8 月 8 日、リタッグとの間で、同日付け 「リボーン側溝」

Eco ンビエ法二次蓋委託製造契約書」
(乙 6)に係る契約(リタッグ許諾契約)を締
15 結した。同契約書には、以下の記載がある 「甲」
( はリタッグ、
「乙」は被告を指す。 。

・「第 2 条(本契約にかかる知的財産権)/本件「リボーン側溝」Eco ンビ工法
(以下、
「Eco ンビ工法」という)にかかる知的財産権(甲保有)は、次のとおりで
ある。/一 Eco ンビ工法の技術は、特許第 5172193 号(【発明の名称】U 字溝の改
修方法)である。/二 Eco ンビ工法に関連する桝は、特許第 4199803 号(【発明の
20 名称】側溝及び桝)である。」
・「第 3 条(二次蓋の製造における製造委託・OEM 契約)/第 2 条一項、二項の
特許権における Eco ンビ工法に使用する蓋(以下、「二次蓋」という)につき、甲
は乙に、二次蓋の製造を委託する。」
「第 7 条(二次蓋の実施料)/乙は甲に対し、リボーン側溝技術提供契約書に基

25 づく実施料を支払うこととする。」
・「第 15 条(特記事項)/二 本契約は、平成 25 年 5 月 28 日…開催したリボー
ン側溝 Eco ンビ工法研究会臨時会議での合意事項を基礎として作成。/二 「リボ
ーン側溝」Eco ンビ工法一次蓋技術提供契約書にかかる二次蓋の供給者(本件特許
権者中越製陶株式会社)による日本製二次蓋の製造停止・供給不能にかかる不履行
における損害を防ぐ 為の危険回避の措置である。 /三 本契約に至った原因 /1
5 「リボーン側溝」Eco ンビ工法一次蓋技術提供契約書第 16 条乃至第 18 条…/2 特
許法第 73 条 2 項(共有にかかる特許権)」
(イ) 被告は、リタッグ許諾契約に基づき、平成 27 年 5 月に被告製品の製造を開
始し、同年 12 月にその販売を開始した。(乙 20)
イ 平成 28 年 9 月会議の開催等
10 (ア) 平成 28 年 9 月 14 日、原告、リタッグ及び被告ほか会員企業が参加して、本
件工法研究会臨時会議(平成 28 年 9 月会議)が開催された。同会議の議事録(乙
16)には、以下の記載がある。

「4.資料の発送について/以下は、後日、事務局より会員に発送する。…/3 リ
タッグ社 カンケン社がレジン二次蓋製造に至った経緯資料一式」
15 ・「5.議題協議内容のまとめ…/3 リタッグは、OEM 委託先のヤマウ社の辞退に
より、OEM 先をカンケン社としレジン二次蓋製造に至った経緯の資料を会員に提
(前記 4-3)
出する。 …/5 中越製陶社は、会員が日本製レジン二次蓋を要求すれば、
OEM 委託先として、ヤマウ社と交渉する。委託製造締結後、日本製レジン二次蓋を
提供する。/6 リタッグは今後、中越製陶社とヤマウ社間の委託製造に一切関与し
20 ない。…/8 現行の、リボーン側溝エコンビ工法技術提供契約書の内容は変更しな
い。/9 会員は、上記契約どおり、中越製陶社よりレジン二次蓋を購入する。/カ
ンケン社は、自社生産又は中越製陶社より購入する。」
また、同議事録には、
「資料<エコンビ工法技術提供契約にかかる現契約書の内容
確認>」として本件三社契約 16 条~18 条と同一内容の記載を示した上で、以下の
25 記載がある(なお、「乙」とは原告を指す。 。

「注 2)丙のカンケンは、これまでの経緯から、前記第 18 条を行使されたことで
契約は見直し。但し、今後も乙より購入見込みの為、解約はせず。/現在、リタッ
グの OEM 契約先として、日本製レジン二次蓋を製造。/<原因>カンケン社製造
に至った理由/ヤマウ製造の場合、型枠負担は、中越製陶社かカンケン社か研究会
のいずれかが条件だったが結論出されず。ヤマウは受託製造のみ。
(ヤマウB専務意
5 見)」
(イ) 平成 28 年 9 月会議の議事録につき、原告は、同年 10 月 11 日、本件工法研
究会事務局を務めるリタッグに対し、質問メールを送付した(乙 17 にその記載が引
用されている。 。なお、同メールにおいて、被告がリタッグ許諾契約に基づき被告

製品の製造販売を開始したことをもって本件各特許権の侵害に当たるなどとして違
10 法ないし不当とし、又はその点に関する疑義を示す記載は、少なくとも明示的には
見当たらない。
これに対し、リタッグは、本件工法研究会事務局として、同月 26 日付け「ECO ン
ビ工法研究会大阪会議議事録に関する質疑応答」と題する書面(乙 17)により回答
した。同書面には、以下の記載がある(なお、「名古屋会議」とは、平成 25 年 5 月
15 会議を指すものと見られる。 。


「◎レジン二次蓋の製造と安定供給の問題について/本契約では、中越製陶社の
一社によるレジン二次蓋製造・供給であるが、これが当初から問題視され、安定供
給困難など万が一の事態が生じた場合、市場や需要者に供給不安を与え、…会員は
多大な損害を被る恐れがある。/…本契約も、他の二次蓋製造社を用意しないと、
20 万が一の時、これまでの努力で築きあげた市場と信頼を損ない、会員の不利益が増
す。/よって、本契約には契約者双方に「危険回避」の義務が生じるのは当然であ
って経営者として認識すべき事と説明したはずです。以上は、名古屋会議以前から、
会議で再三に渡り指摘されてきた事案であり、御社はこれを拒み続けた結果、結局
のところ、中国製二次蓋の供給にこだわり、日本製二次蓋を供給できず、本件事態
25 に至った事を認識すべきと、カンケン社から厳しくご指摘を受けてきました。/当
然に、弊社に対しても「危険回避責任」を指摘されており、…故に、弊社リタッグ
は、OEM 事案を進めざるを得なかった理由がある。/よって、御社以外で二次蓋製
造社を確保する事は法係争を避ける為の当然の措置であり、…」
・「平成 28 年 10 月 19 日、当事者であった株式会社ヤマウ…専務取締役に、御社
とヤマウ間における当時の OEM 関係の経緯につき再確認を求めたところ、下記の
5 とおり確認できましたので、ご報告致します。/一 前記 A1 の<中越製陶社に対
する OEM 条件>につき、全く進行せず。/二 上記一につき、カンケン社及びリ
タッグに、その旨を伝えていた事。…/四 上記一~三の理由の他、型枠提供も無
い為、ヤマウ社での製造委託はできない旨をカンケン社とリタッグに伝えて、製造
断念したこと。」/五 カンケン社へ移譲(OEM 製造)してはどうかと名古屋会議
10 で伝えた事。…/七 今後の提案としては、Eco ンビ蓋の委託製造は、リタッグ又
はカンケン社からの委託受注(全て買い受け)が無い限り、委託は引き受けできな
い事。」
ウ 原告代表者とAとのやり取り
(ア) Aは、令和元年 10 月 4 日以前に、原告代表者に対し、
「二次蓋の生産管理一
15 切につき、重大懸念が生じたため」などとして、本件工法に関する質問書を送付し
た。同日、原告代表者がAに対してその趣旨を確認するメールを送付したところ、
Aは、同月 7 日、原告代表者に対し、本件工法研究会会長との肩書を付して返信し
た。その返信メールには、以下の記載がある。
「御社の中国工場の製造実態、製品の生産工程や強度試験、試験データ、それら試
20 験写真等が、御社から提出された形跡がない…上に、昨年の総会で、…C社長にこ
れら資料の提出を求めたところ、C社長から企業秘密として拒まれたと聞いており
ます。…/以前から、会員より御社製造のレジン蓋の品質管理体制を問題視され、
それが、昨年の研修会で、御社レジン蓋の状況写真で製造不備を懸念された通りで
あり、…」
25 (イ) これに対し、原告代表者は、同月 18 日、Aに対し、先のAのメールでは「重
大な懸念が生じたこと」の具体的な詳細が示されていないなどとして、その説明を
再度求めた。これを受け、Aは、同月 21 日、原告代表者に対して返信のメールを送
付した。その返信メールには、以下の記載がある。
・ 「重大な懸念が生じたこと」については、エコンビ工法における質問書の通り

なので、速やかに、二次蓋製造者の管理体制の確認を求めます。」
5 ・ 「重大な懸念」については、熊本の研修会で議論された内容による総合的懸念

です。管理体制がずさんの指摘が強く、供給者は管理責任を問われている。」
(ウ) 原告代表者は、同月 29 日、Aに対し、質問書に対する回答を記載すると共
に、
「重大な懸念が生じたこと」についての具体的詳細な説明を重ねて求めるメール
を送付した。
10 また、原告代表者は、同年 11 月 8 日、Aから同月 5 日に受領した「ご確認」と題
するメールに対する回答のメールを送信した。同返信メールには、同年 5 月 8 日に
原告代表者がリタッグを訪問し、Aと会談をした目的が両社の「協力体制強化によ
り更なる販売拡大を目指す事」及び「ECO ンビ工法二次蓋製造権利を有さない社で
製造 販売される問題を解消したい」
・ ことであったこと、 重大な懸念が生じたこと」

15 について具体的詳細な説明を求める旨などが記載されている。
(ウ全体につき、甲 25)
エ 令和 3 年 3 月会議の開催及びこれに至る経緯
(ア) 原告中国工場の閉鎖
原告は、令和 3 年 2 月頃、関係取引先に対し、
「中国工場閉鎖に関するご通知」と
20 題する文書(乙 18)を送付した。同文書には、以下の記載がある。
「更にはリタッグ社が RUG 集水スリット蓋を弊社の了解が無い中、第三者へ委

託生産開始による影響を受け、弊社は、業績の苦しい状態からなかなか抜け出せず
におります。」
「弊社中国工場を閉鎖する事とし ECO ンビ工法二次蓋(RUG 側溝蓋)につきま

25 して、今後は弊社からは商品供給が出来なくなる事を、あらかじめ報告させていた
だきます。」
・ 月 4 日にリタッグ社…と通話にて下記事項に関して確認しました。/1.リ
「2
タッグ社は商品(RUG 集水スリット蓋)の品質と安定供給実現する為として、数年
前から第三者による OEM 製造を実施してきたこと。…/3.弊社が中国工場を直ぐ
に閉じた場合等にも備えていたとの事で、第三者による OEM 製造実施により、商
5 品供給において各会員様に対する如何なる問題も生じない事。」
(イ) 令和 3 年 3 月会議の開催
原告による上記通知を受け、同年 3 月 9 日、本件工法研究会の臨時会議(令和 3
年 3 月会議)が開催された。同会議においては、以下の発言がされた(丸括弧内は
) (乙 19)
発言社を示す。 。
10 ・
「リタッグさんの方にお伺いをさせて頂いた所、私共の中で、もしも中国工場を
閉じなければいけない状況に至ったけれども、そういう状況でも、なんとか、随分
前に発表した製造体制によって安定した供給体制が取れてるので、心配入りません
よと、お答え頂けましたので、それを持って、…その後、リタッグさんの方からで
きるだけ早く、工場を閉じることを早く知らしめて頂いて、工場を閉じるという状
15 況で進めることになっています。 (原告)


「ここはそのカンケンさんに作ってもらって、自分がまたできるようになったと
きに、また、その時にまた私も一緒にやりたいよと、いうようなところで、…快く
カンケンさんにお願いするような方法が一番いいんじゃないでしょうかね。 、
」 「ち
ょっと一次供給はできないけど、その間、カンケンさんからお願いしますよと快い
20 感じが一番いいんじゃなかろうかなって思うんですけど。 (会員企業)


「私共は今供給できない状況になりましたので、それこそ、私共もカンケンさん
の製造した製品を供給受けなければならないような、あの、不足の事態にまで陥っ
てしまっていますので、リタッグ社の OEM 製造のその供給を私共も、皆さん同様
に受けさせて頂く状況になろうかと、…そういうことを逆に私共からもお願いしな
25 ければいけない、そういう状況になっております」(原告)
・「誰に対して誰に何をお願いするんですか。 (リタッグ)

「リタッグ社に対して、カンケンさんに OEM 製造かけてるわけですよね。かけ

」「今現在、…ずいぶん前から OEM 製造かけてこられたと思
てきたわけですよね。 、
うんですけれども、…OEM 製造かけてきた製品を、私共も買わせて頂くお願いをし
なければならない、そういう状況になっております」(原告)
5 ・
「私共というのは、中越製陶さんがカンケンさんから買うということで、よろし
いですか」(リタッグ)

「カンケン、今、…二次蓋を製造してるというのはカンケン社になろうかと思い
ますので、あのカンケン社で作られた製品をなんとか分けて頂きたい、そういう風
に考えております。 (原告)

10 ・
「C社長自身がこれまで、カンケンさんや、もしくはリタッグの方に対して、特
許に抵触するということを今まで言ってきたんですよ。今後、それを言わないとい
うことを保証できますか?今、買うって言ってるのに、それ買うって作ってるのは、
OEM で作っているのはカンケンさんですよ。 、
」 「今後は、リタッグが認めた OEM、
今の所はカンケンさんですけれども、それ以外の人には多分認めませんが、その
15 OEM で作ってもらっている人に対して特許に抵触していると言うことは一切言わ
ないで頂きたいんですが、そこは、お約束できますか?」(リタッグ)
「今後、こういう不足の事態になった事による OEM 製造が必要な事態になった

という、そういうことは事実ですので、…これからは、カンケンさんに頼って、カ
ンケンさんの製品に頼らせて頂きたい、いうふうに思っています。 (原告)

20 ・
「特許に抵触すると言うことは、カンケンさんが、特許にっていうかあの、契約
に抵触するっていうのは、カンケンさんが抵触するのではなくて、…リタッグさん
が抵触するっていう部分は、…供給の今回の問題が…起こった後のことと前のこと
はちょっと違うんじゃないでしょうかね。 、
」 「カンケンさんに対してではなくてリ
タッグさんに対して言っています。 、
」 「カンケンさんはリタッグの許可を得てやっ
25 てるわけですよね。カンケンさんは何もあの抵触するんじゃなくて、…」(原告)

「特許権者が特許権に抵触することはないですね。権利の範囲内です。(リタッ

グ)

「特許に抵触するんじゃなくて、二社間の契約に抵触するんじゃないですかね。」
(原告)
2 検討
5 (1) 原告の同意又は実施許諾の有無(争点 5)について
ア 前提事実及び前記認定に係る経緯を併せ考慮すれば、本件に関する一連の経
緯については、以下のように要約し得る。
すなわち、原告は、平成 21 年 1 月の本件三社契約締結後間もない時期からリタッ
グ、被告その他会員企業から、原告が供給する製品の品質及び安定供給に関する問
10 題点等を繰り返し指摘されたものの、これを解消し得ず、むしろ平成 23 年 3 月の東
日本大震災の発生や平成 24 年 6 月の原告による民事再生手続開始申立てを受けて、
より具体的な対応を強く求められるようになった。具体的には、遅くとも平成 24 年
7 月面談において、リタッグが、原告に対し、ヤマウ及び被告を委託先とする OEM
製造による二次蓋の供給を強く求め、原告もこれに応じ、原告はヤマウとの協議を
15 開始し、リタッグは、被告に対する委託を検討するようになった。しかし、原告と
ヤマウとの OEM 製造に関する協議は価格面の問題等から契約締結には至らず、原
告自身、平成 25 年 5 月会議において、複数社による二次蓋の製造の必要性を認める
発言や、製造に伴う責任と関連付けてその場合の許諾料に関する自己の意見を述べ、
被告による二次蓋の製造販売を許容する趣旨のものと理解し得る発言をした。これ
20 を受けて、リタッグは、本件三社契約 18 条に基づく措置として、被告との間でリタ
ッグ許諾契約を締結し、被告は、これに基づき、被告製品の製造販売を開始した。
他方、この頃、原告とヤマウとの OEM 製造に関する協議は具体的に進展していな
い状況にあった。このような状況の中で、リタッグは、原告に対し、引き続き原告
による二次蓋の安定的な供給等につき強い懸念を示し、他方、原告は、被告による
25 被告製品の製造販売を問題視する姿勢を示すようになっていた。ところが、令和 3
年 2 月に原告が二次蓋を製造していた中国工場の閉鎖を関係取引先に通知するとい
う事態を受け、令和 3 年 3 月会議が開催されることとなった。この際、原告は、被
告による被告製品の製造販売という事情をもって、原告中国工場の閉鎖の一因と示
唆しつつも、同事情を閉鎖により取引先に対する商品の供給に支障が生じないこと
を示すものと位置付けて会員企業に説明し、さらに、原告としても、その後の二次
5 蓋の供給は被告による被告製品の製造販売に依存せざるを得ないとの考えを明示的
に示した。また、同会議において、原告は、被告による被告製品の製造販売と本件
各特許権との関係につき、被告による本件各特許権の侵害の問題ではなく、原告と
リタッグとの契約(原告・リタッグ基本契約)に関する問題であるとの認識を示し
た。
10 イ こうした一連の経緯を踏まえると、原告は、遅くとも令和 3 年 3 月会議にお
いて、リタッグに対し、同社と被告とのリタッグ許諾契約につき、その契約締結時
に遡って同意をしたものとみるのが相当である。
なお、リタッグ許諾契約締結の契機となったとみられるのは、平成 25 年 5 月会議
での原告の発言であるが、当時リタッグ許諾契約は未だ締結されておらず、また、
15 その契約内容に即した検討等がされたといった事情も見当たらないことなどを踏ま
えると、この時点では、原告は、リタッグが被告に対し二次蓋の OEM 製造を委託
するという方向性の確認ないし承認をしたにとどまるものとみられる。
(2) 原告の主張について
これに対し、原告は、リタッグ許諾契約に係るリタッグに対する同意又は被告製
20 品の製造販売に係る被告に対する本件各特許権の許諾のいずれも行っていない旨を
主張する。
しかし、原告は、令和 3 年 3 月会議の時点で約 10 年の長きにわたり、リタッグ、
被告その他会員企業から本件工法に係る二次蓋の品質や安定供給に関する問題を指
摘され続けたにもかかわらず、会員企業の納得を十分に得られる対応を実現できな
25 いまま、民事再生手続開始申立てや二次蓋の製造を行っていた中国工場の閉鎖に追
い込まれた状況にあった。このため、原告は、同会議において、本件三社契約(及
び被告以外の会員企業との同様の契約)に基づく二次蓋の供給に係る原告の責任を
免れ、又は軽減するには、当時既に約 5 年の実績のあるリタッグ許諾契約に基づく
被告による被告製品の製造販売を承認するほかに方法がない立場に置かれていたも
のと推察される。また、被告による被告製品の製造販売につき、本件各特許権の侵
5 害の問題ではなく、原告・リタッグ基本契約に関する問題であるとする発言も、同
契約ではリタッグが自ら製造し、又は第三者に製造させることを想定していないと
みられること(20 条等)を踏まえると、合理的であり首肯し得る問題意識と考えら
れる。
その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用
10 できない。
3 まとめ
以上によれば、原告は、リタッグ許諾契約につきリタッグに対して同意し、被告
は、このリタッグ許諾契約に基づき被告製品の製造販売を行っていたものと理解さ
れる。そうすると、その余の点につき論ずるまでもなく、被告による本件三社契約
15 に係る債務の不履行があったとはいえず、また、本件各特許権侵害も成立しない。
したがって、原告は、被告に対し、特許権侵害に基づく差止め及び廃棄請求権並
びに債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償請求権をいずれも有しない。
第4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主
20 文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第 47 部
裁判長裁判官
25 杉 浦 正 樹
裁判官
石 井 奈 沙
裁判官
志 摩 祐 介
別紙
当事者目録
原 告 中 越 製 陶 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 髙 橋 淳
宮 川 利 彰
被 告 株 式 会 社 カ ン ケ ン
同訴訟代理人弁護士 辰 野 嘉 則
桑 原 秀 明
馬 場 嵩 士
小 山 浩
(別紙目録1、2 省略)

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