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令和5(ワ)70500発信者情報開示請求事件

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裁判所 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和6年8月8日
事件種別 民事
法令 著作権
キーワード 侵害14回
損害賠償2回
実施1回
主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録1及び2記載の各情報を開
2 訴訟費用は被告の負担とする。
1 事案の要旨15
2 前提事実(当事者間に争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容
2 条 3 項)である。
1、22 の 2)5
2 の「日時」欄記載の各日時に本件各動画に係るファイルがアップロードされてい25
3 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以
1 争点(権利侵害の明白性)について
1 つのピースからでは、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得することができ
6 の 2、7 の 1~7 の 3、8 の 1~8 の 3、14)によれば、一般的に、本件クライアントソ
2 その他の要件について
2 号)があるといえる。
事件の概要

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判決文

令和 6 年 8 月 8 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 5 年(ワ)第 70500 号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和 6 年 7 月 4 日
判 決
5 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録1及び2記載の各情報を開
示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
10 事 実 及 び 理 由
略語は別紙略語一覧表のとおり。
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
15 1 事案の要旨
本件は、原告が、本件発信者らがファイル共有ネットワークである BitTorrent を
使用して、本件各動画のデータを自動公衆送信したことにより原告の著作権(公衆
送信権)を侵害したことが明らかであるとして、本件各通信に係るインターネット
接続サービスを提供した被告に対し、法 5 条 1 項に基づき、本件発信者情報の開示
20 を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容
易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、動画の制作等を行う特例有限会社である。
25 イ 被告は、電気通信事業等を行う株式会社であり、特定電気通信役務提供者(法
2 条 3 項)である。
本件各通信は、いずれも被告の特定電気通信設備を介して行われ、被告は、本件
発信者情報を保有している。
(2) 本件各動画の著作権者
原告は、著作物である本件各動画の著作権者である。(甲 18 の 1、18 の 2、22 の
5 1、22 の 2)
(3) BitTorrent の仕組み等
BitTorrent とは、いわゆる P2P 形式のファイル共有ネットワークであり、その概要
や仕様は、次のとおりである。(甲 4、5、6 の 1、6 の 2、9、31 の 1、31 の 2)
ア BitTorrent によりファイルを共有する場合、当該ファイルを小さなデータ(ピ
10 ース)に細分化し、このピースが BitTorrent ネットワーク上のユーザー(ピア)に共
有される。
イ BitTorrent を通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、
その使用端末に BitTorrent に対応したクライアントソフト(ファイルをダウンロー
ドするためのソフト。以下、対応クライアントソフトを含めて「BitTorrent」という
15 ことがある。 をインストールした上で、
) インデックスサイトと呼ばれるウェブサイ
トに接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウン
ロードして、これを BitTorrent に読み込ませる。これにより、BitTorrent は、当該ト
レントファイルに記録されたトラッカーと呼ばれるサーバに接続し、当該特定のフ
ァイルを保有する他のピアの IP アドレス等の情報を取得する。
20 ウ 他のピアの IP アドレス等を取得したユーザーは、当該ファイルのピースを持
つ他のピアと接続し、同ピアから当該ピースのダウンロードを開始する。全てのピ
ースのダウンロードが終了すると、自動的に元の 1 つの完全なファイルが復元され
る。
エ 完全な状態のファイルを持つユーザーをシーダーといい、目的のファイルに
25 つきダウンロードが完了する前のユーザーをリーチャーいう。ダウンロードが完了
して完全な状態のファイルを保有するに至ったユーザーは、自動的にシーダーとな
る。シーダーは、リーチャーからの求めに応じて、当該ファイルの一部をアップロ
ードしてリーチャーに提供する。この際、リーチャーは、目的のファイル全体のダ
ウンロードが完了する前であっても、既に保有しているファイルの一部(ピース)
を、他のリーチャーの求めに応じてアップロードする。リーチャーは、目的のファ
5 イルを自らダウンロードすると同時に、他のリーチャーに当該ファイルの一部を送
信することが可能な状態となる。
(4) 本件調査(甲 1 の 1~1 の 8、7 の 1~7 の 3、8 の 1~8 の 3、9、11 の 1、11
の 2、12、20、27)
ア 原告は、本件訴訟提起に先立ち、本件調査会社に対し、BitTorrent を使用した
10 本件各動画の著作権侵害に係る調査(本件調査)を委託した。本件調査会社は、
BitTorrent の制作会社が開発・管理する本件クライアントソフトを使用して本件調査
を行った。同ソフトは、ダウンロードするトレントファイルを検索し、BitTorrent を
使用しているピアの情報を表示する機能を有している。
イ 本件調査は、本件クライアントソフトを利用して、ピースのダウンロード及
15 びアップロードを行っているピアの IP アドレス等の調査を行うもので、その概要
は、以下のとおりである。
本件調査会社の担当者は、インデックスサイトにおいて本件各動画に係るファイ
ルを検索して、トレントファイルをダウンロードし、当該トレントファイルを基に、
本件クライアントソフト上で本件各動画に係るピースをダウンロードする。その上
20 で、当該ダウンロード中に当該端末にピースのダウンロード及びアップロードを行
っているピアの IP アドレスを確認し、スクリーンショットをする。同担当者は、同
ピアからダウンロードした本件動画ファイルと本件各動画とを見比べてその同一性
を確認している。
ウ 本件調査会社は、原告に対し、本件調査の結果、別紙発信者情報目録 1 及び
25 2 の「日時」欄記載の各日時に本件各動画に係るファイルがアップロードされてい
ること、このアップロードの通信(本件各通信)に本件 IP アドレスが使用されてい
ることなどを報告した。
3 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以
下のとおりである。
(原告の主張)
5 (1) 本件調査会社は、本件調査によって、本件発信者らから本件各動画のピース
をダウンロードし、これを保有する本件発信者らが接続している IP アドレス及び接
続日時等を特定した。また、本件調査会社担当者は、ダウンロードした本件動画フ
ァイルと本件各動画とを見比べてその同一性を確認している。
したがって、本件発信者らは、本件調査会社の求めに応じて自動的に本件各動画
10 のピースを送信したといえる。このような行為は、原告の本件各動画に係る著作権
(公衆送信権)侵害に当たる。
(2) 被告の主張について
本件クライアントソフトは、BitTorrent を管理する会社が提供するソフトウェアで
あるから、情報を正確に利用者に提供しているものといえ、信頼できる。本件 IP ア
15 ドレスの特定に関しては、
「下り速度」と「上り速度」の記載がなくともダウンロー
ドは進行するから、その記載がないことが直ちにダウンロードが行われなかったこ
とを意味するものではない。また、BitTorrent では、ファイルの保有率が低い場合で
あっても動画を再生することは可能であることなどから、本件動画ファイルは、本
件各動画の表現の本質的特徴を直接感得し得る程度に再生可能であったといえる。
20 (被告の主張)
(1) 本件調査の信用性等について
本件クライアントソフトは、信頼性が認められたシステムではないし、以下の点
からも信用性に疑問があり、これを利用した本件調査は信用性を欠く。
ア 本件調査において把握される通信としては、本件発信者らと本件調査会社、
25 すなわちピア間の通信に限っても、本件各動画のピースのダウンロードのほか、複
数の通信がある。このため、本件 IP アドレスは、本件各動画ファイルの全部又は一
部をダウンロードした時の通信であるとはいえない。
イ 本件調査時のキャプチャー画面には、本件各動画のダウンロードの進行を示
す「下り速度」や「上り速度」の表示のないものがある。したがって、この通信は、
本件各動画のファイルの全部又は一部をダウンロードした時のものとはいえない。
5 (2) 公衆送信権侵害について
公衆送信権侵害の成立には、本件発信者らによって送信されたピースにより本件
各動画の表現の本質的特徴が感得できる必要がある。しかし、本件発信者らによっ
て送信されたピースは細分化されたものであるから、本件各動画の表現の本質的特
徴を直接感得できる映像を再生できない可能性がある。したがって、本件発信者ら
10 による公衆送信権侵害があったとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(権利侵害の明白性)について
(1) 前提事実(3)及び(4)により認められる BitTorrent と本件クライアントソフトの
仕組み及び本件調査の方法ないし内容を踏まえると、本件発信者らは、その端末に
15 BitTorrent をインストールし、本件各動画のファイルに係るピースをダウンロードす
ると共に、当該ピースを不特定の者からの求めに応じて BitTorrent ネットワークを
介して自動的に送信し得る状態にし、被告から本件 IP アドレスの割当を受けてイン
ターネットに接続された状態の下、別紙発信者情報目録 1 及び 2 の「日時」欄記載
の各日時において、本件調査会社の求めに応じ、自動的に本件各動画のファイル(ピ
20 ース)をアップロードしたことが認められる。
そうすると、本件各動画に係るファイル(ピース)は、本件 IP アドレスが割り当
てられた本件発信者らにより、公衆からの求めに応じて自動的に公衆送信されたも
のといえる。したがって、本件発信者らは、本件各動画に係るデータを自動公衆送
信したものであり、これにより、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が
25 侵害されたことは明らかである(法 5 条 1 項 1 号)。
(2) 被告の主張について
ア 被告は、本件調査について、本件クライアントソフトがいわゆる認証ソフト
ウェアでないことや「下り速度」及び「上り速度」が表示されていないことなどを
指摘して、本件調査は信用できない旨主張すると共に、本件発信者らの送信に係る
1 つのピースからでは、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得することができ
5 る映像を再生できない可能性がある旨主張し、公衆送信権侵害があったとはいえな
いとする。
イ 本件調査の信用性について
前提事実(3)及び(4)イ並びに証拠(甲 9)によれば、BitTorrent は、クライアントソ
フトを利用して特定のファイルを保有する他のユーザーの IP アドレス等の情報を
10 取得することでファイル共有を実現する仕組みを有すること、本件クライアントソ
フトは、BitTorrent の制作を行った会社により開発・管理され、BitTorrent のガイド
ラインを遵守したものであることがそれぞれ認められる。これらによれば、上記ガ
イドラインを遵守した本件クライアントソフトは、BitTorrent の上記仕組みを的確に
機能させるため、対象ファイルのピースのダウンロード及びアップロードを行って
15 いるピアの IP アドレスを正確に取得・表示する機能を有しているものと合理的に推
認できる。
以上に加え、証拠(甲 1 の 1~1 の 8、2 の 1~2 の 8、3 の 1~3 の 8、4、5、6 の 1、
6 の 2、7 の 1~7 の 3、8 の 1~8 の 3、14)によれば、一般的に、本件クライアントソ
フト上において、接続しているピアのダウンロード速度を意味する「下り速度」及
20 びアップロード速度を意味する「上り速度」の表示がない場合でも、BitTorrent を介
したファイルのダウンロードが進むことがあることが認められるから、その表示の
有無をもって直ちにファイルのダウンロードの有無を決することはできない。その
上で、本件調査においても、本件クライアントソフト上、本件発信者らによる通信
につき、いずれも「ダウンロード中」との表示がされている。このように、当該フ
25 ァイルのダウンロードが進んでいる状態であることが本件クライアントソフト上で
も示され、本件各動画のファイル(甲 8 の 1~8 の 3)が実際にダウンロードされて
いることも踏まえれば、本件発信者らによるアップロードが行われていたというべ
きである。その他、本件調査の信用性を疑わせるに足りる具体的な事情は認められ
ない。
ウ ファイルの再生可能性について
5 前提事実(4)によれば、本件調査会社の担当者は、本件調査に際し、本件発信者ら
の IP アドレスを確認すると共に、ダウンロードしたファイルの動画と本件各動画と
を見比べてその同一性を確認していることが認められる。さらに、証拠(甲 7 の 1
~7 の 3、8 の 1~8 の 3)によれば、本件動画ファイルと本件各動画には複数の同一
シーンが含まれていることが認められる。このため、本件動画ファイルは、少なく
10 とも本件各動画の一部であり、前者は後者を複製したものであることがうかがわれ
る。その上、証拠(甲 8 の 1~8 の 3、21)によれば、ダウンロード中であって保有
率が相応に少ない場合にも当該ファイルの動画を再生できること及び本件動画ファ
イルが再生できることも認められる。これによれば、本件発信者らが送信し、本件
調査会社担当者がダウンロードした本件動画ファイルを構成するファイル(ピース)
15 は、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得し得る程度に再生可能であったもの
と推認できる。
エ 小括
以上によれば、この点に関する被告の主張はいずれも採用できない。
2 その他の要件について
20 上記のとおり、本件発信者らによる本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)
侵害が認められるところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者らに対する
不法行為に基づく損害賠償請求等の権利行使を予定しているものと認められる。し
たがって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法 5 条 1 項
2 号)があるといえる。
25 以上より、原告は、被告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有する。
第4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれらをいずれも認容することと
して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第 47 部
5 裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
石 井 奈 沙
裁判官
志 摩 祐 介
(別紙)
当 事 者 目 録
原 告 有限会社オフィスサイレンス
同訴訟代理人弁護士 杉 山 央
被 告
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 五 島 丈 裕
(別紙)
発信者情報目録 1
以下の日時に以下の IP アドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の
氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス
5 (以下省略)
(別紙)
発信者情報目録 2
以下の日時に以下の IP アドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の
氏名又は名称、住所及び電話番号
5 (以下省略)
(別紙侵害著作物目録 省略)
(別紙)
略 語 一 覧 表
本件各通信 別紙発信者情報目録 1 及び 2 記載の IP アドレ
スを用いた同目録記載の日時に行われた各通信
本件発信者ら 本件各通信をした氏名不詳者ら
本件各動画 別紙侵害著作物目録記載の各動画
法 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限
及び発信者情報の開示に関する法律
本件発信者情報 別紙発信者情報目録 1 及び 2 記載の発信者情報
本件調査 BitTorrent を利用した本件各動画の著作権侵害
に係る調査
本件調査会社 本件調査を実施した調査会社
本件クライアントソフト µtorrent と称するクライアントソフト
本件 IP アドレス 別紙発信者情報目録 1 及び 2 の「IP アドレ
ス」欄記載の各 IP アドレス
本件動画ファイル 本件調査会社が本件発信者らからダウンロード
した動画ファイル

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