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令和5(行ケ)10128等審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年8月8日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法4条1項7号25回
著作権法101条3回
商標法4条1項19号2回
商標法4条1項8号1回
商標法4条1項1回
商標法4条1回
不正競争防止法2条1項21号1回
キーワード ライセンス107回
審決53回
商標権52回
無効28回
許諾20回
侵害11回
無効審判6回
差止4回
抵触3回
損害賠償1回
主文 1 A~C事件に係る原告の請求をいずれも棄却する。10
2 D~G事件に係る被告の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、全事件を通じ、これを7分し、その3
4 被告のために、この判決に対する上告及び上告受理
事件の概要 A~C事件は、商標登録を無効とした審決の各取消訴訟であり、D~G事件は、 商標登録無効審判請求を不成立とした審決の各取消訴訟である。

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判決文

令和6年8月8日判決言渡
令和5年(行ケ)第10128号審決取消請求事件(A事件)、同第10129号
同請求事件(B事件)、同第10130号同請求事件(C事件)、同第10135
号同請求事件(D事件)、同第10136号同請求事件(E事件)、同第1013
5 7号同請求事件(F事件)、同第10138号同請求事件(G事件)
口頭弁論終結日 令和6年6月4日
判 決
当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり
主 文
10 1 A~C事件に係る原告の請求をいずれも棄却する。
2 D~G事件に係る被告の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、全事件を通じ、これを7分し、その3
を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 被告のために、この判決に対する上告及び上告受理
15 申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 請求
1 原告の請求
(1) A事件
20 特許庁が無効2022-890042号事件について令和5年9月25日にした
審決を取り消す。
(2) B事件
特許庁が無効2022-890075号事件について令和5年9月25日にした
審決を取り消す。
25 (3) C事件
特許庁が無効2022-890076号事件について令和5年9月25日にした
審決を取り消す。
2 被告の請求
(1) D事件
特許庁が無効2022-890070号事件について令和5年9月25日にした
5 審決を取り消す。
(2) E事件
特許庁が無効2022-890071号事件について令和5年9月25日にした
審決を取り消す。
(3) F事件
10 特許庁が無効2022-890073号事件について令和5年9月25日にした
審決を取り消す。
(4) G事件
特許庁が無効2022-890074号事件について令和5年9月25日にした
審決を取り消す。
15 第2 事案の概要
A~C事件は、商標登録を無効とした審決の各取消訴訟であり、D~G事件は、
商標登録無効審判請求を不成立とした審決の各取消訴訟である。
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告は、別紙2商標目録記載の各商標について、それぞれ商標登録を受けた
20 (甲1、43、44、57~64。以下、同目録記載の符号に応じて「本件商標A」
などといい、本件商標A~Gを併せて「本件各商標」という。なお、本判決では、
証拠番号の掲記に際して枝番号の記載は省略する。 。

(2) 被告は、本件各商標がいずれも商標法4条1項7号及び19号に該当し、本
件商標Cは同項8号にも該当すると主張して、本件商標Aにつき令和4年6月3日
25 頃、本件商標D~Gにつき同年8月30日頃、本件商標B及びCにつき同年9月5
日頃、それぞれ商標登録無効審判を請求した(乙4、6、8、10、41~43)。
特許庁は、令和5年9月25日、本件商標A~Cの登録を無効とする旨の各審決
(以下、各商標の符号に対応させて「本件審決A」などという。)並びに本件商標D
~Gについての上記登録商標無効審判の各請求は成り立たない旨の各審判(以下、
各商標の符号に対応させて「本件審決D」などといい、本件審決A~Gを併せて「本
5 件各審決」という。)をした。これらの謄本は、いずれも令和5年10月6日に原告
及び被告に送達された(なお、被告に対し、本件審決D~Gに対する出訴期間とし
て90日が附加された。。

(3) 原告は、令和5年11月6日、本件審決A~Cの取消しを求める各訴え(A
~C事件)を提起し、被告は、同月17日、本件審決D~Gの取消しを求める各訴
10 え(D~G事件)を提起した。
2 本件各審決
(1) 本件審決A~Cの理由の要旨
本件審決A~Cは、本件商標A~Cがいずれも商標法4条1項7号に該当すると
して、商標登録を無効とすべきものとした。その理由の要旨は次のとおりである。
15 原告及びその関係者であるサクラグループ有限会社(以下「サクラグループ」と
いい、原告とサクラグループを併せて「原告等」ということがある。)と被告とは、
2010年(平成12年)12月8日付けで締結されたライセンス契約(以下「本
件ライセンス契約」という。)に基づき、被告が有する知的財産権の独占的使用に係
る契約関係があったところ、別紙3標章目録記載の各標章(以下、同目録の番号に
20 対応させて「本件標章1」などといい、併せて「本件各標章」という。)は、いずれ
も本件ライセンス契約の締結に先立ち被告が創作した商品等に使用されていたから、
本件ライセンス契約が適用される被告の知的財産権に属するといえる。
2020年(令和2年)3月以降、被告からサクラグループに対し、本件契約は
同年12月31日に終了する旨の意思表示が数度にわたりされていた。しかるとこ
25 ろ、サクラグループの関係者は、本件ライセンス契約の終了直前又は直後に、契約
や取引関係が終了することを認識しながら、本件各標章と同一若しくは類似し、又
はこれらを構成に含む商標として本件商標A~Cの登録出願をした。このような登
録出願の経緯や、原告が本件商標A~Cに係る各商標権の被告への移転を重ねて拒
んでいること等に鑑みると、本件商標A~Cの登録出願は、本件ライセンス契約の
条項を悪用して不正の目的でされたものと理解できる。
5 そうすると、本件商標A~Cは、その登録出願の経緯及び目的に社会的相当性を
欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到
底容認し得ない場合に当たるものとして、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそ
れがある商標」に該当する。
(2) 本件審決D~Gの理由の要旨
10 本件審決D~Gは、本件商標D~Gは商標法4条1項7号及び19号のいずれに
も該当しないとして、商標登録を無効とすることはできないとした。その理由の要
旨は次のとおりである。
ア 商標法4条1項19号該当性について
提出された証拠によっては、本件標章2が本件商標D及びEの登録出願時及び登
15 録査定時において、また、「Mark Gonzales」の標章が本件商標F及びGの登録出願
時及び登録査定時において、いずれも被告の作品、デザイン及び商品を表示するも
のとして、我が国並びに外国の需要者に広く認識されていたものとは認められない。
加えて、原告が、不正の目的をもって本件商標D~Gの登録出願を行ったと認める
こともできず、本件商標D~Gを不正の目的をもって使用するものと認めることは
20 できない。
そうすると、本件商標D~Gは、商標法4条1項19号に該当しない。
イ 商標法4条1項7号該当性について
被告が1998年(平成10年)に発行した書籍には、プロデューサーとして原
告代表者の氏名がある。その後、被告と原告等とは、本件ライセンス契約に基づき、
25 被告が有する知的財産権の独占的使用に係る契約関係があったことから、比較的良
好な事業関係にあったと考えられる。本件商標D~Gは、いずれも、このような良
好な事業関係にあったと考えられる期間に登録出願し、登録査定を受けるに至った
ものである。被告と原告との事業関係は2020年(令和2年)3月頃には悪化し
ているが、本件商標D~Gの登録出願はその17年又は18年前に行われており、
事業関係悪化の事実をもって、登録出願時の目的を推し量ることはできない。他に、
5 本件商標D~Gが不正の目的をもって登録出願され、又は使用されていると認める
に足りる事実は見いだせない。
また、本件商標D~Gの登録出願時及び登録査定時において、原告等が被告の標
章にフリーライドし、商標権を持ち出して被告との交渉を有利に進めようとし、又
はライセンス料の請求や標章の使用の差止請求を行ったなどの具体的な問題や損害
10 は確認できない。被告と原告等との間の商標権の譲渡等をめぐる交渉等の事実によ
っては、本件商標D~Gの登録自体が、適正な商道徳に反し、著しく社会的相当性
を欠くとまでは認めるに足りない。
そうすると、本件商標D~Gは、
「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある
商標」ということはできず、商標法4条1項7号に該当しない。
15 第3 原告主張の取消事由(本件審決A~Cについて)
1 取消事由1(手続上の瑕疵)
被告による商標登録無効審判請求がされた令和4年当時、原告等と被告との間に、
本件各商標に関連する民事訴訟が係属していた(東京地方裁判所令和3年(ワ)第
32244号。以下「別件訴訟」という。 。原告は、被告が主張する無効理由と別

20 件訴訟との争点とが重複していること等から、特許庁に対し、別件訴訟の判決確定
を待ってから正式に反論したい旨の答弁を行った。
しかし、特許庁は、原告に対して何らの釈明をせず、主張立証を促しもせず、被
告に弁駁書の提出を求め、被告から提出された弁駁書を原告に送付することもなく
審理を終結し、本件審決A~Cに至っている。このような審理過程は、被告の主張
25 にのみ依拠し、原告に適切な反論の機会を与えない一方的なものであって、原告の
防御権を侵害するものであるから、審理不尽であって、それ自体、審決を無効とす
べき重大な手続上の瑕疵である。
したがって、本件審決A~Cは、上記手続上の瑕疵の存在を理由として取り消さ
れるべきである。
2 取消事由2(商標法4条1項7号該当性判断の誤り)
5 (1) 事実認定の誤り
本件審決A~Cは、次のとおり、本件各商標に関する事実を誤って認定している。
ア 商標を構成するデザインの著作権は原告が保有していること
本件審決A~Cは、原告が、本件各標章と同一若しくは類似し又はこれらを構成
に含む商標として本件商標A~Cの登録出願をしたなどと認定した。
10 しかし、本件商標A~Cを構成するデザイン、具体的には、①本件商標Aの構成
から「(what it isNt)」の文字を除いたイラストデザイン(以下「エンジェル2」
という。本件標章1と同じ。、
) ②本件商標Bを構成するイラストデザイン(以下「エ
ンジェル1」という。本件標章2と同じ。)及び③本件商標Cを構成するサイン様デ
ザイン(以下「本件サイン」という。)は、いずれも、原告が契約により著作権を取
15 得しているものである。
すなわち、原告は、2000年(平成12年)9月頃、当時被告が従業員として
勤務していたCujo Art Literature, Inc.(以下「クジョー」という。)及び丙1(以
下「丙1」という。)との間で、被告と丙1のコラボレーションアルバムの制作に関
する契約(Music Production Service Agreement。甲109。以下「MPSA契約」
20 という。)を締結した。被告は、クジョーの従業員として契約書に署名している。
MPSA契約2条では、文言上、楽曲(Music Works、Sound Recordings)の著作
権を原告に移転し、「Cover Artwork」については「exclusive rights」を原告に設
定する旨の記載となっている。しかし、MPSA契約の準拠法とされるべき米国著
作権法101条が「exclusive licenseの付与」を「copyright transfer(著作権譲
25 渡)」の一形態と定義していることや、当事者間の合理的意思解釈の観点からして、
MPSA契約2条は、「Cover Artwork」の著作権についても原告に移転する旨の条
項と解される。そして、原告は、2001年(平成13年)1月までに、クジョー
及び丙1から、MPSA契約に基づく成果物として、楽曲のほか、手書きの歌詞カ
ード(挿絵を含む。、CDジャケット等の納品を受けた(甲119~123)
) 。エン
ジェル1、2及び本件サインは、いずれもこの成果物に含まれているから、MPS
5 A契約における「Cover Artwork」として、同契約に基づき、原告がこれらの著作権
を取得したといえる。
なお、被告は、エンジェルは被告が遅くとも1995年(平成7年)に創作した
キャラクターであると主張するが、被告が同年に創作したとするイラストと、エン
ジェル1、2とはデザインが異なる。エンジェル1、2のデザインが単純なもので
10 あることからすると、その著作権の範囲は限定的に解されるべきである。したがっ
て、エンジェル1、2は、過去に被告が創作したものとは異なる新規の著作物であ
り、MPSA契約の成果物として原告にその著作権が移転されたものである。
以上のとおり、本件商標A~Cを構成するデザインの著作権は原告が有している
から、その登録出願は正当であり、何ら非難されるべきものではない。
15 イ エンジェル1、2及び本件サインには、本件ライセンス契約が適用されない
こと
本件審決A~Cは、原告等が、本件ライセンス契約の終了直前又は直後に、契約
や取引関係が終了することを認識しながら、本件商標A~Cの登録出願をしたと認
定して、これを不正の目的を推認する事情としている。
20 しかし、本件商標A~Cを構成するエンジェル1、2及び本件サインは、200
1年(平成13年)1月までにMPSA契約に基づき原告に納品された成果物であ
るのに対し、本件ライセンス契約は被告とサクラグループとの間で2010年(平
成22年)に締結されている。この先後関係からして、エンジェル1、2及び本件
サインに本件ライセンス契約が適用される余地はない。また、サクラグループと原
25 告とは別法人であるから、原告が本件ライセンス契約に拘束される理由もない。
次に、本件ライセンス契約は、1条において、被告が、サクラグループに対し、
「(被告)の氏名、画像及び(被告)が創作・所有するデザインを、衣料品、アクセ
サリー、販促・広告用素材、及びフットウェアを除くあらゆるアイテム…に使用す
る独占的権利(exclusive rights)を許諾する」旨が規定されている。ここで、米
国著作権法101条が「exclusive licenseの付与」を「copyright transfer(著作
5 権譲渡) の一形態と定義していることからすると、
」 創作物について独占的権利を許
諾するには、許諾する者が当該創作物の著作権を100%有していなければならな
いと解される。しかし、エンジェル1、2及び本件サインの著作権は、前記アのと
おり、MPSA契約に基づき原告が保有しており、被告は著作権を有していなかっ
たのであるから、本件ライセンス契約により独占的権利を許諾することはできない。
10 なお、本件ライセンス契約は、原告が自らを出所として20年近く展開してきた
エンジェル1と「MARK GONZALES」のブランドを強化することを目的として、サクラ
グループが、被告から、原告の上記ブランドと相性の良い被告の著作物(グラフィ
ックデザイン)をアジア圏で独占的に使用する許諾を受けることを内容とするもの
であって、ブランド・商標ではなく、商品用デザインの提供を受けるという性質の
15 契約にすぎない。
以上のとおり、本件商標A~Cを構成するエンジェル1、2及び本件サインには、
本件ライセンス契約は適用されないから、原告が、本件ライセンス契約の終了直前
又は直後に本件商標A~Cの登録出願をしたとしても何ら問題はない。
(2) 商標法4条1項7号の解釈適用の誤り
20 ア 有効に存続する商標権に係る構成の組合せにすぎないこと
本件商標Aは、現に原告が商標権を有する本件商標D、Eの構成(エンジェル2)
と、商標登録第6447375号の構成(甲52。 (what it isNt))とを組み合
「 」
わせたものにすぎない。上記の商標権はいずれも有効に存続しており、原告は適法
に商標権を行使できるから、これらの商標権に係る構成を組み合わせたにすぎない
25 本件商標Aが、商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くということはあり得ない。
イ 商標法4条1項7号の適用は極めて限定的にされるべきであること
商標法4条1項7号は、本来、公序良俗に反する商標の登録を禁止する規定であ
るから、構成自体に公序良俗違反のない商標が同号に該当するのは、その登録出願
の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定
する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られると解される。
5 本件では、前記(1)アのとおり、原告は、MPSA契約に基づき、エンジェル1、
2及び本件サインの著作権を取得し(仮に著作権を取得していないとしても独占的
に使用する権利を取得し)、その後、本件商標D~Gの登録出願をしたが、被告はこ
れらの登録出願に何らの異議を述べないばかりか、本件商標F、Gの登録出願を承
諾している(甲117) 本件商標A~Cの登録出願も、
。 出願された時期は異なるが、
10 本件商標D~Gの登録出願と同じ根拠に基づきされており、特に問題はない。
被告は、本件審決A~Cが認定した事実に加えて、原告等が知的財産権の返還義
務を拒んでいるとか、(what it isNt)
「 」ブランドを展開して一般消費者を誤認させ
ているとか、他の商標出願をしているとか、被告のライセンシーに対して通知書を
送付したことが営業妨害や不正競争に該当するとか、本件商標Cの使用はパブリシ
15 ティ権を侵害するなど、種々の事情を主張する。原告は、これらの主張を全て争う
が、そもそも、契約の解釈の相違や権利関係の紛争等の私的領域の問題は、商標法
4条1項7号該当性の判断に際しては考慮されるべき事項ではないから、これらの
主張は、無効理由として失当である。
(3) 小括
20 以上のとおり、本件審決A~Cは、正しく事実を認定せず、また商標法4条1項
7号の解釈適用を誤っており、これらの誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであ
るから、いずれも取り消されるべきである。
第4 被告の反論(本件審決A~Cについて)
1 取消事由1(手続上の瑕疵)について
25 原告は、審判手続における審理が原告の防御権を侵害するものであり、本件審決
A~Cには審理不尽があるなどとして、重大な手続上の瑕疵があると主張する。
しかし、原告は、特許庁から答弁指令がされた時点で、既に本件の原告訴訟代理
人弁護士らを代理人として、被告等を相手方として別件訴訟を提起していたほか、
本件各商標に関する連絡、交渉を被告との間で行っていた(甲107、乙36~3
8)。そのため、原告は、答弁書を提出するに際して代理人弁護士から十分な法的助
5 言を受け又は受け得たものである。仮に、原告が、各答弁書における主張立証が不
十分であることを認識しながらあえて十分な防御をしなかったのであれば、防御の
機会を放棄したに等しい。そのような状況において、特許庁が釈明権を行使し、又
は原告に再度主張立証の機会を与える義務はない。
したがって、本件審決A~Cに、原告が主張するような重大な手続上の瑕疵はな
10 く、取消事由1には理由がない。
2 取消事由2(商標法4条1項7号該当性判断の誤り)について
(1) 原告の主張について
ア 原告は、MPSA契約に基づき、原告がエンジェル1、2及び本件サインの
著作権を保有していると主張する。
15 しかし、MPSA契約には、「Cover Artwork」につき、単に宣伝の目的の限りで
Tシャツ等に使用できる旨の定めがあるにとどまり、著作権譲渡を定めた条項はな
い。かえって、MPSA契約6条は、アーティスト(クジョー及び丙1を指す。)が、
音響作品のリリースに併せて制作される全ての作曲、Tシャツ、宣伝用資料の制作
に関する完全な支配権を保持し、原告が商業用のデザインを制作する前にはアーテ
20 ィストから書面による承諾を要する旨が規定されている。したがって、エンジェル
1、2の著作権が原告に譲渡されているとはいえない。本件サインは、そもそも著
作物ではないが、仮に著作物であるとしても、原告に譲渡されてはいない。
もともと、エンジェルは、被告が遅くとも1995年(平成7年)には創作した
キャラクターであり(乙16)、被告が、30年以上前からスケートボーダー及びア
25 ーティストとして非常に著名な人物であったこと(甲7~17、乙12~14)等
からすると、エンジェルのイラスト及び被告の氏名の略称である「Mark Gonzales」
の文字列は、被告を強く連想、想起させ、強い顧客誘引力を持つものである。この
ような被告を象徴するキャラクターや略称について、被告が、原告等に半永続的な
権利帰属を認めるはずがない。
イ 原告は、エンジェル1、2及び本件サインにつき本件ライセンス契約は適用
5 されないと主張する。
しかし、まず、原告は、形式的には2010年(平成22年)頃に締結された本
件ライセンス契約の当事者ではないが、原告代表者の妻が代表者を務めるサクラグ
ループと一体となって、本件ライセンス契約に基づき、「Mark Gonzales」というブ
ランド名で、日本を含むアジア地域において、被告が保有する知的財産権を使用し
10 た衣料品等の商品を展開するライセンスビジネスを行っていたから、実質的に本件
ライセンス契約の当事者といえる。
次に、本件ライセンス契約は、2条で定義されている「Materials」、すなわち、
被告の画像、デッサン、詩、ストーリー、「Gonzo Cuntry」及び「Mark Gonzales」
の名称に適用される。そして、エンジェルは1995年(平成7年)までに被告が
15 創作したものであり、本件サインは1998年(平成10年)に発行されたアート
ブックに使用された「Mark Gonzales」を筆記体で書したもので被告の略称でもある
から、エンジェル1、2及び本件サインのいずれにも、本件ライセンス契約が適用
される。本件ライセンス契約は、原告等がMPSA契約に違反して被告に無断で被
告の略称や作品を利用したライセンスビジネス等を行っていたことから、当時サク
20 ラグループが商標権者となっていた本件商標D~Gに係る商標権の登録を維持する
前提を明らかにした上、契約継続中のアジア地域における権利保護等はサクラグル
ープを通じて行うものとし、契約の終了時にはこれらの商標権等が被告に返還され
るべきことを約する趣旨で締結されたものである(同契約11条参照)。
このような本件ライセンス契約の趣旨からして、本件ライセンス契約の終了後に
25 原告等がエンジェルのデザインや被告の名称を含む商標の登録出願をすることは予
定されていないし、契約の終了前であっても、原告等は、契約が終了すれば登録出
願に係る権利を被告に返還すべきことを了知していたのであるから、本件商標A~
Cの登録出願が健全な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くという本件審決A
~Cの認定判断は正当である。
ウ 原告は、本件商標Aについて、現に原告が商標権を有する本件商標D、Eの
5 構成(エンジェル2)と、別の商標権を有する商標「(what it isNt)」を組み合わ
せたものにすぎないから、商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くということは
あり得ないと主張する。
しかし、エンジェルは被告が創作したキャラクターとして被告を強く連想、想起
させ、(what it isNt)
「 」の文字列についても被告と丙1が創作したCDアルバムの
10 タイトルであってやはり被告を強く連想、想起させるものである。前記のとおり、
MPSA契約によってこれらの著作権が原告に移転したということはなく、本件ラ
イセンス契約が終了すれば原告等が使用することはできない。また、被告は、本件
商標D、Eに係る商標登録も無効とされるべき旨本件で主張している。
(2) 本件商標A~Cが商標法4条1項7号に該当する事情の補足
15 原告は、商標法4条1項7号は、極めて限定的に適用されるべき旨主張する。
しかし、本件では、本件審決A~Cが認定した事情に加えて、①原告等が、本件
ライセンス契約が終了したにもかかわらず、本件各商標に係る商標権及び被告に関
連する知的財産権を被告に返還する義務の履行を拒んでいること、②原告は、遅く
とも2021年(令和3年)12月頃から、被告の許諾なく、被告の作品を利用し
20 た「
(what it isNt)」ブランドを展開し、アダルトグッズのブランドとのコラボレ
ーション等もして、一般消費者を誤認させていること(甲53、54、130、乙
26、30、31、33、49)、③本件商標A~C以外にも、日本、韓国、中国、
台湾等において、エンジェルのデザインや被告の略称を用いた商標の登録出願を繰
り返していること(甲131、132、乙35、52~54)、④原告等は、本件ラ
25 イセンス契約に伴う信義則上の義務として、被告のライセンスビジネスを妨げては
ならない義務を負っているのに、これに違反して、被告のサブライセンシーに対し
て商品の製造、販売等の停止を求める通知書を送付する等しており(乙34、55、
56、59、71、72) これらの行為は営業妨害を超えて不正競争に当たること、

⑤本件商標Cは、被告の略称を構成に含むところ、これを被告の承諾なく本来予定
していない態様で使用することは被告のパブリシティ権を侵害すること、⑥原告が、
5 嫌がらせの目的で、被告訴訟代理人弁護士に対して懲戒請求をしていること等の事
実を考慮すると、本件商標A~Cの登録出願は、商標法の予定する秩序に反するこ
とが明らかである。
(3) 小括
以上のとおり、本件審決A~Cが、本件商標A~Cの登録出願は商道徳に反し、
10 著しく社会的妥当性を欠くとしたことは正当であるから、取消事由2には理由がな
い。
第5 被告主張の取消事由(本件審決D~Gについて・商標法4条1項7号該当
性判断の誤り)
1 本件審決D~Gは、出願登録時及び登録査定時以後の事情を考慮していない
15 こと
被告は、本件商標D~Gに係る商標登録を無効とすべき理由を、商標法46条1
項6号の規定に基づき主張した。同号は、商標登録がされた後において、登録商標
が同法4条1項7号に掲げる商標に該当するものになっているときに、当該商標登
録を無効とすべき旨の規定である。
20 しかし、本件審決D~Gは、本件商標D~Gの登録出願時及び登録査定時におけ
る原告等の行為等を検討するにとどまり、その後の事実関係を検討していない。次
に述べるとおり、現在に至るまでの事実関係を正しく考慮すると、本件商標D~G
も、商標法4条1項7号に該当することは明らかである。
2 本件商標D~Gが商標法4条1項7号に該当すること
25 (1) 本件商標D~Gについて、本件ライセンス契約が適用され、原告は本件商標
D~Gに係る商標権を被告に返還すべき義務があること
ア 前記第4の2(1)イで述べたとおり、被告は、2010年(平成22年)頃、
サクラグループとの間で本件ライセンス契約を締結しているが、原告も同契約の実
質的当事者である。そして、本件ライセンス契約2条によると、同契約は、被告の
画像、デッサン、詩、ストーリー、「Gonzo Cuntry」及び「Mark Gonzales」の名称
5 に適用される。
本件ライセンス契約は、原告等が、本来、宣伝目的の限りでのみTシャツ等に
「Cover Artwork」を使用できるとするMPSA契約に違反し、被告に無断で、被告
の略称や作品を利用したライセンスビジネスを行っていたことから、当時サクラグ
ループが商標権者となっていた本件商標D~Gに係る商標権の登録を維持する前提
10 を明らかにし、契約の終了時にはこれらの商標権を含む知的財産権を被告に返還す
ることを約するものである。そのため、本件ライセンス契約11条では「Y(被告)
は、本素材及び本製品に関する全ての知的財産権を保持するものとする。サクラ(サ
クラグループ)は、許諾された全ての製品にYが著作者であることを明示し、各商
品に「(c) Mark Gonzales」との表示を行うものとする。サクラは、Yの要求に応じ
15 てサクラが行った登録をYに返却することを条件に、「Gonzo Cuntry」 「Mark

Gonzales」及びYのデザインを保護のために登録することができるものとする。 と

され、同12条では「本契約で明確に移転されていない全ての権利はYに留保され
る。」とされている。ここで、本件商標D~Gに係る商標権を特に返還の対象から除
外する旨の規定はない。このため、本件ライセンス契約の終了に伴い、原告等は、
20 本件商標D~Gに係る商標権を被告に返還すべき義務を負うに至った。
そうであるのに、原告等は、被告に商標権を返還するどころか、本件ライセンス
契約の形式的な当事者であるサクラグループから原告に対して商標権を移転させる
などして(甲43、44、60、62)、被告からの返還要求を拒んでいる。このよ
うな原告等の行為は、原告が本件商標D~Gに係る商標権を保有し続けることが、
25 商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くことに至ったと評価する一事情である。
イ 原告は、本件商標D~Gの登録出願の根拠として、MPSA契約に基づきエ
ンジェル2や被告の略称を使用できるとか、本件商標F、Gの登録出願には被告に
よる承諾(Consent)がある等と主張する。
しかし、前記第4の2(1)アのとおり、MPSA契約は、楽曲の著作権は原告に譲
渡されるとする一方、CDジャケットや盤面のデザイン(Cover Artwork)の著作権
5 が原告に譲渡される旨の条項はなく、宣伝の目的の限りでTシャツ等に使用できる
とするにとどまるから、エンジェルの著作権は原告には移転していない。また、M
PSA契約には商標の登録出願を許諾する規定はないから、登録出願を正当化する
根拠となり得ない。
他方、被告が本件商標F、Gの出願登録に際して承諾をしたことは事実である。
10 しかし、被告は、原告等に対して本件商標F、Gに係る商標権の返還を請求し、ま
た、本件商標F、Gの商標登録を無効とすべき旨求めるなどしているのであるから、
既に上記承諾は撤回されている。ここで、本件商標F、Gは、被告の略称からなる
商標であるところ、人は、その氏名を他人に冒用されない権利を有しており、人の
氏名に関する顧客誘引力を排他的に利用する権利としてパブリシティ権が認められ
15 ていることに照らすと、人の氏名又は略称からなる商標の登録出願について承諾を
した場合であっても、当該人の業務上の信用を害するような悪質な態様で商標を使
用している場合等には、別途、商標法4条1項7号に事後的に該当し得るというべ
きであり、本件はまさにそのような事案といえる。
(2) 原告等は、本件ライセンス契約に伴う信義則上の義務に違反して、被告のラ
20 イセンスビジネスを妨害していること
原告等は、本件ライセンス契約に伴う信義則上の義務として、被告のライセンス
ビジネスを妨げてはならない義務を負っている。
しかし、前記第4の2(2)のとおり、原告等は、これに違反して、被告の許諾なく、
2021年(令和3年)12月頃から、被告の作品等を利用した「(what it isNt)」
25 ブランドを日本や韓国で展開し、拡大させ、同ブランドにあたかも被告が関与して
いるかのように一般消費者を誤認させ、アダルトグッズのブランドとのコラボレー
ションもしている(甲53、54、乙30~33)。このようなブランド展開は、2
000年(平成12年)頃に締結され、CDアルバムの宣伝の目的のみに使用を限
ったMPSA契約ではおよそ正当化できない。
また、原告は、被告のサブライセンシーに対して商品の製造、販売等の停止を求
5 める通知書を送付し、現に停止を余儀なくされたサブライセンシーもいる(乙34、
55、56、59、71、72)。これらの行為は、被告の営業妨害に当たるのみな
らず、不正競争防止法2条1項21号の不正競争に当たる。
さらに、原告は、本件ライセンス契約の終了直前又は直後に本件商標A~Cの登
録出願をしたほか、日本、韓国、中国、台湾等において、エンジェルのデザインや
10 被告の名称を用いた商標の登録出願をしている(甲131、132、乙35、52
~54)。
(3) 小括
以上のとおり、原告等は、本件ライセンス契約の終了により、本件商標D~Gに
係る商標権を被告に返還すべき義務があるのにこれを怠っているほか、信義則上の
15 義務に違反して被告のライセンスビジネスを妨害している。
加えて、上記の事実関係に照らすと、原告等は、 (what it isNt)
「 」ブランド等、
被告の作品等を使用したライセンスビジネスを原告等が展開する正当な根拠がない
ことを知りながら、被告の略称やエンジェル等の作品が有する信用、名声及び顧客
誘引力にフリーライドする目的を有していることが明らかである。
20 そうすると、エンジェルや被告の略称により構成される本件商標D~Gを原告が
保有し続けることは、被告の信用等にフリーライドする不正の目的によってされて
いるといえるし、一般消費者の利益も害しているから、商標を使用する者の業務上
の信用の維持を図り、需要者の利益を保護するという商標法の目的に反する。
したがって、当初は適法に登録された本件商標D~Gも、現在、これらに係る商
25 標権を原告が保有し続けることは、商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くとい
うべきであるから、事後的に、商標法4条1項7号に該当するに至っている。
よって、同法46条1項6号により、本件商標D~Gの登録はいずれも無効とす
べきところ、本件審決D~Gは、登録出願時及び登録査定時より後の事情をほとん
ど考慮せず誤った結論に至っているから、取り消されるべきである。
第6 原告の反論(本件審決D~Gについて)
5 1 本件商標D~Gに本件ライセンス契約が適用されるとの主張について
被告は、本件ライセンス契約に基づき、原告等が、本件商標D~Gに係る商標権
を返還すべき義務を負うと主張する。
しかし、前記第3の2(1)アで述べたとおり、MPSA契約に基づき、エンジェル
2の著作権は原告に帰属しており(仮に著作権が帰属しないとしても独占的使用権
10 を有しており)、原告は、この正当な権利を根拠として、平成15年、エンジェル2
を構成とする本件商標D、Eの出願登録をした。また、原告は、MPSA契約2条
4項により被告の氏名を使用することが許されているため、被告の明示的な承諾(甲
117)を得て、平成14年に被告の氏名を構成とする本件商標F、Gを登録出願
したものである。
15 本件ライセンス契約は、本件商標D~Gの登録出願からかなり遅れた2010年
(平成22年)に締結されており、先後関係からしても、また、既に原告が著作権
を取得していることや被告による承諾があることからしても、本件商標D~Gは本
件ライセンス契約の対象ではない。なお、本件ライセンス契約を締結しているのは
サクラグループであって原告ではないから、この点からも原告が何らかの義務を負
20 うことはない。
したがって、原告が本件商標D~Gに係る商標権を返還する義務などないから、
これを拒むことは当然であり、商道徳に反するということはない。
2 原告が信義則上の義務に違反して被告のライセンスビジネスを妨害している
との主張について
25 上記1のとおり、原告は、MPSA契約に基づき、エンジェルの著作権及び被告
の氏名を使用する権利を取得し、自ら資本を投下して本件商標D~Gの顧客誘引力
を高めたものであり、エンジェルや「Mark Gonzales」のブランド、また、MPSA
契約の成果物に由来する「(what it isNt)」ブランドも、いずれも原告等が築き上
げてきたブランドであって、これらは出所として原告等を表示するものである。こ
のため、原告等が「(what it isNt)」ブランドを日本や海外で展開することに何の
5 問題もないし、一般消費者がこれによって誤認しているということもない。
他方、被告は、MPSA契約の当事者ですらなく、MPSA契約の効力を否定し
得る立場にもないのに、原告が築き上げてきたエンジェルや「Mark Gonzales」ブラ
ンドの信用にフリーライドする目的で、MPSA契約に反して、自ら国内ライセン
シーなどを通じて勝手にライセンスビジネスを始めている。このような被告の行為
10 に対して、原告等が、正当な商標権者又はエンジェルの著作権者として、被告のサ
ブライセンシーに警告書送付等の権利行使をするのは当然であり、非難される理由
はない。
3 商標法4条1項7号の解釈について
上記1、2のとおり、被告が主張する事実関係等はいずれも誤っている。もっと
15 も、そもそも、前記第3の2(2)イのとおり、商標法4条1項7号の適用は極めて限
定的にされるべきものであり、契約の解釈の相違や権利関係の紛争等の私的領域の
問題は、同号の適用に際して考慮されるべき事項ではない。本件商標D~Gについ
ては、MPSA契約や被告による承諾など正当な根拠に基づいて登録出願されてお
り、出願時やその前後の事情も考慮すると、現在の当事者の関係が悪化したことを
20 もって、事後的に、公序良俗に反する商標に当たることになったなどと判断される
べきではない。
したがって、本件審決D~Gが、本件商標D~Gが商標法4条1項7号に該当し
ないと判断したことは相当であるから、被告が主張する取消事由には理由がない。
第7 当裁判所の判断
25 1 認定事実
掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(1) 被告と「エンジェル」
被告は、米国を拠点とするスケートボーダーであって、1984年(昭和59年)
頃、スケートボード雑誌の表紙に掲載され、日本でも平成3年に日本経済新聞で「米
国の人気プロ」等として紹介された。被告は、アート活動も行っており、1990
5 年代から、映像作品や出版物の制作に関与したほか、米国等においてグループ展、
二人展等に出展し、1998年(平成10年)にはドイツで個展を開いた。その後、
米国のほか、欧州、日本等で個展を開き、また各種展示会への出展や、映像等の作
品の制作に関与している。(甲6、14~17、乙12)
被告は、1995年(平成7年)頃から1998年(平成10年)頃にかけて、
10 関与した映像作品、出版物その他の商品に、次のキャラクターを創作して公表した。
(乙16~20)。
また、雑誌「THRASHER」の1998年(平成10年)2月号には、被告の創作し
た文章の挿絵内に、次のキャラクターが描かれている。(乙1、2)
その後、被告は、アディダスのスニーカー、スケートボードブランドDELUXEのス
ケートボード等に、次のキャラクターを創作して公表した。
(乙13、21、98~
110)
上記にみられるような、横に羽を広げている鳥に似たこれらのキャラクターは、
総じて「エンジェル」又は「シュムー」と呼ばれ(以下、単に「エンジェル」とい
う。、アディダスは、1998年(平成10年)から現在に至るまで、エンジェル

5 のデザインを付したスニーカー、Tシャツ等を、被告とのコラボレーション商品と
して販売しており、DELUXEは、エンジェルを被告の代表的デザインと位置付け、2
0年以上にわたり、エンジェルのデザインを付したスケートボードや関連商品を販
売している。(甲10、11、84~94、96~99、乙13、21)
(2) 原告による被告アートブックのプロデュース(甲18)
10 原告及び原告代表者は、被告のアートブックをプロデュースし、同アートブック
は平成10年5月26日、日本で発行された。このアートブックにも、エンジェル
のデザインが複数用いられている。
(3) MPSA契約の締結(甲109)
原告は、2000年(平成12年)10月20日頃、クジョー及び丙1との間で、
15 MPSA契約を締結した。MPSA契約には、次の条項があり、原告が、アーティ
ストに対し、契約書署名時及び納入マテリアル納品時にそれぞれ2万5000米ド
ルを支払う旨も合意された。
「1.1 アーティストは、一定の音楽作品(作曲及び作詞のことで、以下「音
楽作品」という。)及び当該音楽作品の演奏録音(以下「録音物」という。)を制作
20 し、またそれらのアルバムカバーアート及び/又は写真(以下「カバーアート」と
いう。)を創作するサービス(以下「本サービス」という。)をサクラに提供する。」
「2.1 音楽作品及び録音物の著作権は、第4条に定める納入マテリアルの納
入時にサクラに移転される。
2.2 サクラは、コンパクトディスク、音楽テープ、DVDその他の媒体(以
下「音響作品」という。)により録音物の全部又は一部をこれらの著作権の保護期間
中、日本、米国、ラテンアメリカ及び欧州を含み、かつ、これらに限定されない世
界各国(以下「ワールドワイドベース」という。)において、インターネット等の通
5 信ネットワークを通じて再生、配給、リリース、演奏、放送、送信し、かつ、その
他の手段により活用する独占権を有する。
2.3 サクラは、音響作品及びアーティストの宣伝目的のため、これらの著作
権の保護期間中、音響作品と併せてTシャツ等用に製作される一切のアルバムカバ
ーアート及び/又は写真を複製して販売する独占権を有する。
10 2.4 サクラは、音響作品及びアーティストの宣伝目的のため、Y及び丙1の
名前を使用する権利を有する。」
「6.1 アーティストは、音響作品のリリースに併せて制作される全ての作曲、
Tシャツ及び/又は宣伝資料に対し完全な制作管理(権)を保有する。」
なお、クジョーは、被告のライセンスビジネスに伴う税負担を軽減させることを
15 目的として2000年(平成12年)4月19日にネバダ州で設立された法人であ
り、当時被告の妻であった丙2が過半数の株式を取得していた。被告は、クジョー
との間で1999年(平成11年)10月1日付け雇用契約書を締結していたが、
現実には従業員ではなく書記(Secretary)兼財務担当(Treasurer)役員の立場に
あった。このため、MPSA契約の署名も被告がクジョーを代表して行った。
(甲1
20 18、153~155、乙63、65~67)
(4) 本件アルバムの発売
被告及び丙1は、MPSA契約に従い、音楽作品及びカバーアートを制作してこ
れらを原告に納品し、平成13年1月24日、CDアルバム「(what it isNt)(以

下「本件アルバム」という。)が日本国内で発売された。本件アルバムのジャケット
25 には、エンジェル2のイラストや、手書き様の「(what it isNt)」の文字列が掲載
されている。また、被告は、同月頃、原告の求めに応じて、エンジェル1を描き、
これを原告に提供した。
(甲21、119~121、123、133、乙62、64)
(5) 本件商標D~Gの登録出願等
原告は、平成14年11月25日、「MARK GONZALES」との文字列からなる本件商
標F、Gの登録出願をし、平成15年3月17日、エンジェル2のデザインからな
5 る本件商標D、Eの登録出願をした。本件商標F、Gの登録出願に対しては、特許
庁審査官から、商標法4条1項8号に該当する旨の拒絶理由通知がされたため、原
告は、被告から2003年(平成15年)8月26日付けで承諾書(Consent)を受
領した。本件商標D、Eは平成15年10月24日に、本件商標F、Gは平成16
年4月16日に、それぞれ登録された。
(甲43、44、57~62、117、13
10 8、139)
原告は、平成15年2月頃、ライセンシーを通じて、被告の作品を表現した衣服
等を「新ブランド」として発売すると発表し、その後も、ライセンシーを変えて「Mark
Gonzales」ブランドを展開していった。(甲23~32、36~42、68~77、
137)
15 原告は、平成21年6月29日、本件商標D~Gに係る商標権をサクラグループ
に移転させてその登録を了した。(甲43、44、60、62)
(6) 本件ライセンス契約の締結等(甲22)
被告は、2010年(平成22年)12月8日、サクラグループとの間で本件ラ
イセンス契約を締結した。本件ライセンス契約には次の条項があり、被告と既に契
20 約関係にあるアディダスのビジネスと抵触しないように配慮されていた。
「1)Y(以下「Y」という。)は、サクラグループ(以下「サクラ」という。)
に対し、本契約の条件に従い、2011年1月1日から1年間、靴とその関連商品
を除く衣料品、アクセサリー、プロモーション、広告素材その他の商品(以下、単
に「商品」という。)に、Yが創作し所有するYの氏名、画像、デザインを独占的に
25 使用する権利を許諾する。」
「2)Yは、アジア地域においてサクラがYの画像、デッサン、詩、ストーリー
並びに「Gonzo Cuntry」及び「Mark Gonzales」の名称(以下、併せて「素材」とい
う。)を商品に独占的に使用し、製造し、販売することに同意する。この契約の他の
定めに関わらず、アディダス・インターナショナルBVのために同社やその関係者
が製造したスポーツ及びレジャー用の靴並びに関連するアクセサリーに性質上又は
5 特徴上同一又は類似の商品にサクラが素材を使用することは固く禁じられる。Yは、
彼のオリジナル作品や展示会での限定商品を販売することができる。」
「3)サクラは、Yの事前承認を得ることを条件に、新規に提出された素材及び
過去の素材の全部又は一部を使用することができる。ただし、Yは単独かつ絶対的
な裁量により、これを保留することができる。」
10 「10)サクラは、その選択により、最大10年間、同一の条件で本契約を更新
することができる。」
「11)Yは、素材と商品に対する全ての知的財産権を保持する。サクラは、許
諾を受けた全ての商品にYをアーティストとして明示し、
「(c)Mark Gonzales」を付
して製作しなければならない。サクラは、Yの要求があればサクラが行った登録を
15 Yに返却することを条件として、「Gonzo Cuntry」「Mark Gonzales」及びYのデザ

インを保護のために登録することができる。」
(7) 本件ライセンス契約締結後の事情等
被告は、平成26年頃、サクラグループに対し、同社が故意に被告とアディダス
との関係を妨害したと主張して、本件ライセンス契約の解除を求めた。これに対し、
20 原告代表者は、アディダスジャパンがサクラグループの権利を侵害している等と主
張し、本件ライセンス契約の見直しを含めた和解交渉がされた。その中で、原告代
表者は、本件ライセンス契約11条に定める登録の返還時期につき、被告の要求が
あった時ではなく本件ライセンス契約の終了時とすべき旨の修文提案をした。被告
は、この頃から、本件ライセンス契約に定めるサクラグループからのロイヤリティ
25 (年額4万米ドル)を受領しなくなった。(甲114、乙27、28)
(8) 本件ライセンス契約終盤の交渉等
被告は、令和2年3月、日本の弁護士を通じて、サクラグループに対し、更新さ
れてきた本件ライセンス契約は同年12月31日で終了するところ、被告はサクラ
グループと再度契約をする意思はないが、サクラグループのライセンシーとの間で
直接ライセンス契約を締結する用意がある、本件ライセンス契約11条に基づき全
5 ての商標権の返還を求める、未払となっている6年分のロイヤリティ合計24万米
ドルの支払を求める等の内容を含む通知書を送付した。これに対し、原告代表者は、
本件ライセンス契約10条の規定により、本件ライセンス契約の終期は令和3年1
2月31日までであるなどと反論した。サクラグループは、その後、契約の終期を
同日とすることを前提としたロイヤリティ合計32万米ドルを被告に支払った。 甲

10 33~35、113)
被告は、令和3年以降も、原告等に対し、本件ライセンス契約が終了したことを
理由として、本件各商標に係る商標権の移転登録を求め、被告の作品を使用した商
品等を販売等しないよう求めた。また、被告は、同年11月頃、原告等のライセン
シーに対して、令和4年1月1日以降は被告の作品を使用した商品を販売等しない
15 ように求め、原告等がこれに抗議、訂正を求めるなどした。
(甲48~51、105
~108)
(9) 「(what it isNt)」ブランドの展開、本件商標A~Cの登録出願等
原告は、上記(8)の交渉等がされている令和2年頃から、ライセンシーを通じて、
「Mark Gonzales」に加えて、(what it isNt)
「 」という本件アルバムのタイトルを
20 押し出したブランド展開を進めるようになり、令和3年から、
「wiisnt.com」のウェ
ブドメイン名を取得し、韓国でのライセンス展開も行うようになった。
(甲53、5
4、129、130、135、乙30~33、49、87~96)
また、原告等は、令和2年頃から令和5年頃にかけて、本件商標A~Cのほか、

(what it isNt)」という文字列を含む商標、
「マークゴンザレス」の文字列を含む
25 商標、エンジェルのデザインを含む商標について複数の登録出願をし、韓国、中国
及び台湾でも複数の商標登録出願をした。さらに、サクラグループは、令和2年1
0月19日には本件商標D、Eに係る商標権を、令和3年11月24日には本件商
標F、Gに係る商標権を、それぞれ原告に移転させてその登録を了した。
(甲1、4
3、44、52、59、60、62~67、131、132、134、乙35、5
2~54)
5 (10) 被告による日本でのブランド展開
被告は、令和4年頃、自らのブランドを管理する米国法人であるTULUMIZE Inc.を
介して、株式会社志風音との間で、マスターライセンス契約を締結し、同社又はサ
ブライセンシーを通じて、「Mark Gonzales ARTWORK COLLECTION」という衣服等の
ブランドの展開を始めた。これに対し、原告が、これらの商品の販売等は原告が有
10 する本件各商標等に係る商標権やエンジェルの著作権を侵害するものであるとし
て、同サブライセンシーや販売店に対して警告書を送付するなどした。(甲126、
150~152、157~163、乙15、34、55、61、71~73)
(11) 法的紛争
原告等と被告との間には、現在、本件各商標に係る商標登録無効審判の審決取消
15 訴訟である本件訴訟が係属している。
また、現在、原告が被告に対し、エンジェルのデザイン等に関する著作権の帰属
の確認、商標権の返還義務の不存在確認等を求める別件訴訟が東京地方裁判所に係
属中であるほか、被告のライセンシーである株式会社志風音が原告及び原告代表者
に対し、商標権等侵害に基づく差止請求権及び損害賠償請求権の不存在確認を求め
20 る訴訟が東京地方裁判所に係属中である。(乙78、弁論の全趣旨)
韓国では、被告が、韓国における原告のサブライセンシーに対してエンジェル及
び被告の略称のサインが付された商品の製造販売等の差止等を請求した事案におい
て、2024年(令和6年)2月、ソウル中央地方法院において判決が言い渡された。
また、被告が、エンジェル2を構成とする商標に係る商標登録を無効とすべき旨の
25 商標登録無効審判請求をし、韓国特許審判院の審決に対する取消訴訟につき、20
23年(令和5年)10月に韓国特許法院において、2024年(令和6年)2月
に大法院において判決がされた。(乙51、68、69)
米国では、被告が、2023年(令和5年)、原告等を被告として、原告によるエ
ンジェルの米国著作権登録の無効宣言等を求める訴訟をニューヨーク南部地区連邦
地方裁判所に提起した。(乙3)
5 2 商標法4条1項7号該当性の判断(原告主張の取消事由2及び被告主張の取
消事由について)
(1) 前記1の認定事実を前提に、エンジェルや被告の名前に関する法律関係等に
ついて検討する。
ア 前記1の認定事実(1)によると、エンジェルは、被告が1995年(平成7年
10 )頃から複数の作品等を通じて公表し、アディダスや DELUXE は、20年以上にわた
り、被告を象徴するキャラクターとしてエンジェルを使用しているものであって、
エンジェルは、被告が創作したキャラクターであると認められる。
イ 前記1の認定事実(3)~(5)によると、原告は、2000年(平成12年)1
0月、丙1及び当時の被告のライセンスビジネスを管理する米国法人であったクジ
15 ョーとの間で、MPSA契約を締結した。同契約では、その中核的な目的である本
件アルバムと、創作者である丙1及び被告を宣伝する目的の範囲内で、原告に対し、
本件アルバムのアルバムカバーアート及び写真をTシャツ用等に複製して販売する
独占的な権利と、被告及び丙1の名前を使用する権利が許諾されている(条項2.
3、2.4)。したがって、原告は、上記目的の限りにおいて、本件アルバムのジャ
20 ケットに描かれているエンジェル2のイラストや「Mark Gonzales」の文字列を使用
することができる立場にあったといえる。
そして、MPSA契約には明示されていないが、目的が限定されているとはいえ、
Tシャツ等にアルバムカバーアート等を複製して販売する権利や被告の氏名を使用
する権利が原告に許諾されていたことからすると、被告(クジョー)としては、当
25 該販売が国内で円滑に行われるべく、原告が商標登録出願をすることを少なくとも
黙認していたと推認できる。このことは、被告が、原告による本件商標F、Gの登
録出願に承諾を与えたこととも合致する。
なお、原告は、MPSA契約により、原告がエンジェル1、2及び本件サインの
著作権を取得したと主張する。しかし、前記1の認定事実(3)によると、MPSA契
約には、音楽作品及び録音物の著作権を原告に移転する旨の条項(2.1)はある
5 が、アルバムカバーアートについては、宣伝の目的の範囲内でTシャツ用等に複製
して販売する独占的な権利が原告に与えられているにすぎない(2.3)。原告は、
米国著作権法101条は「exclusive licenseの付与」を「copyright transfer(著
作権譲渡)」の一形態と定義しているなどと主張するが、同条は、 「著作権の移転」

とは、著作権または著作権に含まれるいずれかの排他的権利の譲渡、モゲージ設定、
10 独占的使用許諾その他の移転、譲与または担保契約をいい、その効力が時間的また
は地域的に制限されるか否かを問わないが、非独占的使用許諾は含まない。(公益

社団法人著作権情報センターのウェブサイト掲載の和訳による。下線は当裁判所に
よる。 として、
) 著作権そのものの譲渡(assignment) 独占的使用許諾
と、 (exclusive
license)とを並列に書き分けており、独占的使用許諾により著作権そのものが移転
15 するとの解釈は採用できない。その他の原告の主張によっても、原告が、MPSA
契約により、エンジェル1、2及び本件サインの著作権を取得したとは認められな
い。
ウ 前記1の認定事実(5)、(6)によると、被告は、平成22年、原告から本件商
標D~Gに係る商標権の移転を受けて商標権者となっていたサクラグループとの間
20 で、
「Yが創作し所有するYの氏名、画像、デザインを独占的に使用する権利を許諾
する」(1条)旨の本件ライセンス契約を締結した。上記文言のほか、同契約では、
「新規に提出された素材及び過去の素材の全部又は一部」が使用できるとされ(3
条) かつ、
、 長く被告と契約関係にあるアディダスのビジネスと抵触しないように配
慮されていたこと(1条、2条)、原告の主張によっても、本件ライセンス契約の成
25 立には原告代表者が関与していたことに照らすと、本件ライセンス契約は、MPS
A契約、その後の原告による商標D~Gの登録出願、サクラグループへの商標権移
転、原告等による商品販売等の事実を受け、エンジェル2や「MARK GONZALES」から
なる本件商標D~Gを含め、被告の名前や、被告が創作し今後創作する作品等の使
用を、今後は原告ではなくサクラグループに許諾し、さらに、サクラグループによ
る商品の販売等がアディダスのビジネスと抵触しないように、物品を限定するなど
5 している点において、これまでMPSA契約が存在したことを前提として、事実上
MPSA契約の内容を更改することも含めて、原告等及び被告との間で、新たに上
記内容の合意をしたものということができる。
エ 前記1の認定事実(7)~(10)によると、本件ライセンス契約で配慮されていた
にもかかわらず、平成26年頃、サクラグループとアディダスジャパンとの間で紛
10 争が生じ、被告は、本件ライセンス契約の解除を求め、ロイヤリティを受領しない
ようになった。
被告は、令和2年に入ると、同年12月31日が本件ライセンス契約の終期であ
るとの認識で、その後はサクラグループと契約を更新等する意思はないこと、サク
ラグループのライセンシーとの間では契約を締結する意思があること、全ての商標
15 権の返還をすることなどを求めるようになった。本件ライセンス契約については、
被告も、令和3年12月31日分までの本件ライセンス契約上のロイヤリティ又は
ロイヤリティ相当額を受領し、サクラグループやサクラグループからのライセンシ
ーに対し、同日までは被告の作品を使用した商品の販売等を容認し、令和4年1月
1日以降は同販売等をしないことを求めるようになったが、サクラグループは、令
20 和2年から3年にかけて本件商標D~Gに係る商標権を原告に順次移転させ、原告
は、令和4年1月1日以降も、ライセンシーを通じて「(what it izNt)」ブランド
を展開して、エンジェル1、2や「Mark Gonzales」の名称を使用した商品を販売等
する一方、被告のサブライセンシーに対しては、本件各商標等に係る商標権やエン
ジェルの著作権を侵害する旨の警告書等を送付するなどしている。
25 (2) 本件商標A~Cについて(原告の主張する取消事由2について)
ア 以上のとおり、被告は、平成26年頃、サクラグループに対して本件ライセ
ンス契約の解除を求め、令和2年頃には、本件ライセンス契約終了後はサクラグル
ープとライセンスビジネスを継続する意思がないことを示し、全ての商標権の返還
を求めるなどした。これに対し、原告は、サクラグループから本件商標D~Gに係
る商標権の移転を受けて、本件ライセンス契約の最終盤期である令和2年頃から、
5 日本、韓国、中国、台湾等で、「Mark Gonzales」「
、(what it isNt)」等の文字列や
エンジェルのデザインを含む商標の登録出願を多数行い、本件ライセンス契約が終
了したことが明白である令和4年1月1日以降も、ライセンシーを通じて「Mark
Gonzales」やエンジェルが付された商品を販売等している。しかし、上記にみたと
おり、原告は、MPSA契約によってエンジェル1、2及び本件サインの著作権を
10 取得したとはいえないし、本件ライセンス契約は事実上MPSA契約の内容を更改
することを含むものである。仮にMPSA契約がいまだ有効であるとしても、同契
約上、原告に許容されているのは本件アルバムの宣伝目的で、かつ、Tシャツ等へ
のカバーアートの複製と被告等の氏名の使用にとどまっているのに、原告が現在行
っている「(what it isNt)」ブランドの展開は、本件アルバムの宣伝目的の範囲内
15 や、カバーアートの複製の範囲を越えるものである。しかも、原告は、本件ライセ
ンス契約の終了後、被告が自ら展開する日本国内のサブライセンシーや販売店に警
告書を送付するなどして、被告のブランド展開を阻止しようとしている。
このような令和2年以降の原告の動きからすると、原告は、本件商標A~Cを出
願した時点(令和2年12月26日及び令和3年6月30日)において、原告等と
20 被告との紛争が顕在化し、本件ライセンス契約が終了した後はエンジェル1、2や
被告の名称が使用できなくなることを十分了知しながら、これらの商標の登録を得
た後は、商標権に基づき、被告が自ら日本国内で展開するエンジェルや「Mark
Gonzales」の名称を用いた商品の販売等の差止めを求めるなどして、原告等以外の
者がこれらの商品を販売することを妨害、阻止する不正の目的、意図を有していた
25 と認められる。
そうすると、このような原告の本件商標A~Cの登録出願は、商標登録出願につ
いて先願主義を採用している我が国の法制度を前提としても、「商標を保護するこ
とにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に
寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法1条)に反
し、公正な商標秩序を乱すものというべきであり、かつ、健全な法感情に照らし条
5 理上も許されないというべきであるから、本件商標A~Cは、商標法4条1項7号
の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきで
ある。
イ 原告は、MPSA契約により原告がエンジェル1、2及び本件サインの著作
権を取得したと主張するが、同主張が採用できないことは前記(1)イのとおりであ
10 る。
原告は、エンジェル1、2及び本件サインには本件ライセンス契約が適用されな
いと主張し、その理由として、①本件アルバム制作時と本件ライセンス契約の先後
関係、②原告とサクラグループが別法人であること、③被告はエンジェル1、2及
び本件サインについて100%の著作権を有していないこと等を挙げる。しかし、
15 ①につき、既に制作されたデザイン等を後に契約の対象とすることはあり得ること
であり、契約が遅れてされたからといって対象に含まれないということにはならな
い。②につき、サクラグループの代表者が原告代表者の妻であること、原告代表者
が本件ライセンス契約の締結に関与していることは原告自らが認めていること(原
告代表者の陳述書(甲156)、サクラグループと原告とは、互いに本件商標D~

20 Gの移転を繰り返しており、被告に関するビジネスの関係では一体的に活動してい
るとみられることから、原告が、形式的にサクラグループと別法人であることを理
由に、本件ライセンス契約上の義務等を免れようとすることは、信義則上、許され
ないというべきである。③につき、MPSA契約によりエンジェル1、2及び本件
サインの著作権が原告に移転していないことは前記のとおりであり、原告が提出す
25 る他の証拠等によっても、本件ライセンス契約時に、被告が、エンジェル1、2及
び本件サインの使用を許諾する権限がなかったとは認められない。
原告は、本件商標Aについて、有効に存続する既存の商標の組合せにすぎないか
ら、商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠くということはあり得ないと主張する。
しかし、構成自体は既存の商標の組合せであっても、前記のとおり、原告は、不正
な目的、意図をもって登録出願しているといえるから、同主張は採用できない。
5 原告は、契約の解釈の相違や権利関係の紛争等の私的領域の問題は、商標法4条
1項7号該当性の判断に際しては考慮されるべき事項ではないと主張する。しかし、
本件商標A~Cに関していえば、前記のとおり、原告は、原告等と被告との紛争が
顕在化してから、本件ライセンス契約の終了を間近に控えていることを了知しなが
ら、契約終了後も原告等以外の者がエンジェルや「Mark Gonzales」の名称を用いた
10 商品を販売することを妨害、阻止する意図をもって登録出願したといえるのであっ
て、このような登録出願を新たに許容することは、商標制度について無用の混乱を
もたらし、社会公共の利益にも反するというべきであるから、その背後に契約上の
解釈の相違や権利関係の紛争等、私的領域の問題があるとしても、公序良俗に反す
る商標と認めることは妨げられない。
15 ウ したがって、本件商標A~Cは、商標法4条1項7号に該当するというべき
であるから、原告が主張する本件審決A~Cの取消事由2には理由がない。
(3) 本件商標D~Gについて(被告の主張する取消事由について)
ア これに対し、本件商標D~Gについては、前記(1)イのとおり、MPSA契約
には明示されていないが、同契約の実質的当事者というべき被告は、目的が限定さ
20 れているとはいえ、Tシャツ等にアルバムカバーアート等を複製して販売する権利
や、被告の氏名を使用する権利を原告に許諾していたのであるから、当該販売が国
内で円滑に行われるべく、原告が商標登録出願をすることを少なくとも黙認してい
たと推認できるし、原告による本件商標F、Gの登録出願に承諾を与えている。そ
うすると、この頃(平成14~15年)にされたエンジェル2を構成とする本件商
25 標D、E及び「MARK GONZALES」の文字列からなる本件商標F、G(指定商品は、D
及びGが第18類(かばん類等)、E及びFが第25類(洋服等))の各登録出願に
ついて、原告に不正の目的、意図等を認めることはできない。
前記(1)及び(2)のとおり、その後、本件ライセンス契約が締結され、その最終盤
期においては原告等と被告との間で紛争となり、原告が、不正の目的をもって商標
登録出願するなどの事態となったが、少なくとも、平成26年頃に被告が本件ライ
5 センス契約上のロイヤリティの受領を拒むようになるまでは、サクラグループによ
る被告に関連する商品のライセンス事業は円滑に進められていたとみられ、また、
被告も、結局は令和3年12月31日までのロイヤリティ又はロイヤリティ相当額
を受領している。そうすると、原告等と被告との紛争が深刻になったのは、被告が
原告等に対して、本件ライセンス契約を更新等する意思がないとし、全ての商標権
10 の返還を求めるようになった令和2年頃からというべきであり、その間、本件商標
D~Gに関しては、登録後15年以上の間、契約に沿って、安定的に使用されてき
たということができる。
そして、出願時に不正の目的、意図等が認められない商標についてライセンス契
約を締結し、その利用関係等を整理するのであれば、その契約の定めにより、契約
15 終了時に当該商標権をどのように取り扱うか等を規律することができるのであっ
て、現実に、本件ライセンス契約11条においても、登録した権利の返却に関する
条項が設けられているところである。本来、商標法4条1項7号は、商標の構成自
体に公序良俗違反がある場合に商標登録を認めない規定であって、商標の構成自体
に公序良俗違反がないとして登録された商標について、例えば、社会通念の変化に
20 よって、その構成が善良の風俗を害するおそれがある商標となるなど反公益的性格
を帯びるようになっている場合、後発的に同号に該当し、同法46条1項6号の規
定により無効とすべき場合がないとはいえない。しかし、本件商標D~Gに関して
いえば、原告等と被告との間で後発的に法的紛争が生じたのは、当事者間の契約の
解釈の相違や、商標の使用態様等によるものであって、その商標の構成自体が、社
25 会的妥当性を欠くことになったものではなく、また、いまだ社会通念に照らして著
しく妥当性を欠き、反公益的性格を帯びるようになったというものでもなく、これ
らは本来的には民事訴訟等により解決されるべきものである。
そうすると、本件商標D~Gの査定登録時以降の事情を考慮したとしても、本件
商標D~Gが、商標法4条1項7号に該当するに至ったということはできない。
イ 被告は、本件商標D~Gについて本件ライセンス契約が適用され、原告はこ
5 れらに係る商標権を被告に返還すべき義務があるのにこれを怠っていると主張す
る。確かに、上記のとおり、本件ライセンス契約は、本件商標D~Gをも念頭にお
いて締結されたものと認められるが、商標権の移転登録義務があるのであれば、そ
の履行を請求すべきであって、これを拒んでいるからといって登録に係る商標が公
序良俗に反するとなるものではない。
10 被告は、原告等が本件ライセンス契約に伴う信義則上の義務に違反して、被告の
ライセンスビジネスを妨害しているとか、原告は、被告の信用等にフリーライドす
る目的を有していると主張する。確かに、前記のとおり、原告は、令和2年頃以降、
原告等と被告との紛争が顕在化した後、不正の目的をもって本件商標A~Cを出願
し、原告等以外の者がエンジェルや「Mark Gonzales」の名称を用いた商品を販売等
15 することを妨害、阻止しようとし、また、本件商標D~Gに係る商標権等により、
被告のサブライセンシーや販売店に警告書を送付した事実も認められる。しかし、
前記のとおり、本件ライセンス契約を締結した時点で、本件商標D~Gは、関係者
間において何ら問題なく存続していたのであるから、契約終了後の帰属等について
は契約で規律することができたはずであるし、不当な権利行使については、別途権
20 利の濫用や不正競争防止法等の規律により、またパブリシティ権の問題についても、
民事訴訟等で解決されるべき筋合いのものである。本件商標A~Cの登録出願に不
正の目的があったからといって、原告が本件商標D~Gについて商標権を保持し続
けることまでもが、商標法の目的に反して公正な商標秩序を乱すとか、健全な法感
情に照らし条理上も許されないということはできない。
25 ウ したがって、本件商標D~Gが、商標法4条1項7号に該当するに至ったと
いうことはできないから、被告が主張する本件審決D~Gの取消事由には理由がな
い。
3 原告の主張する取消事由1について
原告は、特許庁が、本件審決A~Cに先立って、原告から、別件訴訟の判決確定
を待ってから正式に反論したい旨の答弁書を受領したのに、何の釈明もせず、主張
5 立証を促しもせず、被告から提出された弁駁書を原告に送付することもなく審理を
終結したとして、防御権の侵害、審理不尽の違法があると主張する。
しかし、証拠(甲112、乙36~40)によると、原告は、本件商標Aについ
ては令和4年7月4日頃に、本件商標B、Cについては同年11月16日頃に、そ
れぞれ答弁指令を受け、前者については同年8月12日付けで、後者については同
10 年11月23日付けで、同じ内容の答弁書を提出している。そして、証拠(甲10
5~108)によると、原告は、既に令和3年12月23日には、代理人弁護士を
選任し、本件各商標に関する被告代理人の主張に具体的根拠をもって反論している
のであるから、答弁指令を受けた段階で、審判請求人(被告)の主張に具体的に反
論することは十分可能であり、その機会が与えられていたというべきである。
15 また、特許庁は、審判事件の進行において、関連する商標の侵害訴訟が裁判所に
係属していたとしても、その訴訟の判断には影響を受けず、別件訴訟が係属してい
るからといって、その判決の確定まで審理を停止する義務はないというべきである。
なお、証拠(乙36~38)によると、原告が被告作成の弁駁書の副本を受領して
いなかったとは認められない。
20 したがって、本件審決A~Cの手続に、防御権侵害や審理不尽の違法があるとは
認められず、原告の主張する取消事由1は理由がないばかりか、主張としても失当
である。
4 結論
以上の次第であり、原告が主張する本件審決A~Cの取消事由にはいずれも理由
25 がなく、また、被告が主張する本件審決D~Gの取消事由にも理由がない。
よって、原告及び被告の各請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
本 多 知 成
裁判官
遠 山 敦 士
裁判官
20 天 野 研 司
(別紙1)
当事者目録
A~C事件原告兼D~G事件被告
サクラインターナショナル
株式会社
(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 田 中 圭 祐
吉 永 雅 洋
蓮 池 純
鈴 木 勇 輝
村 松 誠 也
神 﨑 建 宏
同訴訟復代理人弁護士 佐 藤 匠
宝 屋 敷 恭 男
A~C事件被告兼D~G事件原告

(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 成 川 弘 樹
金 子 禄 昌
葛? 谷 滋 基
遠 藤 賢 祐
(別紙2)
商標目録
A 商標登録第6447374号(甲1)
商標の構成
登録出願日 令和2年12月26日
設定登録日 令和3年9月27日
指定商品
第18類 愛玩動物用被服類、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、傘、
ステッキ、つえ、皮革
第25類 被服、エプロン、靴下、手袋、ネクタイ、バンダナ、保温用サポ
ーター、マフラー、耳覆い、帽子、ベルト、履物、仮装用衣服、
運動用特殊衣服、運動用特殊靴
B 商標登録第6527914号(甲63)
商標の構成
登録出願日 令和3年6月30日
設定登録日 令和4年3月15日
指定商品
第18類 愛玩動物用被服類、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、傘、
ステッキ、つえ、皮革
第25類 被服、エプロン、靴下、手袋、ネクタイ、バンダナ、保温用サポ
ーター、マフラー、耳覆い、帽子、ベルト、履物、仮装用衣服、
運動用特殊衣服、運動用特殊靴
C 商標登録第6527915号(甲64)
商標の構成
登録出願日 令和3年6月30日
設定登録日 令和4年3月15日
指定商品
第18類 愛玩動物用被服類、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、傘、
ステッキ、つえ、皮革
第25類 被服、エプロン、靴下、手袋、ネクタイ、バンダナ、保温用サポ
ーター、マフラー、耳覆い、帽子、ベルト、履物、仮装用衣服、
運動用特殊衣服、運動用特殊靴
D 商標登録第4721594号(甲57)
商標の構成
登録出願日 平成15年3月17日
設定登録日 平成15年10月24日
指定商品
第18類 かばん類、袋物、かばん金具、がま口口金、皮革製包装用容器、
愛玩動物用被服類、携帯用化粧道具入れ、傘、ステッキ、つえ、
つえ金具、つえの柄、乗馬用具、皮革
E 商標登録第4721595号(甲58)
商標の構成
登録出願日 平成15年3月17日
設定登録日 平成15年10月24日
指定商品
第25類 洋服、コート、Tシャツ、スポーツシャツ、ポロシャツ、靴下、
手袋、帽子、その他の被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、
バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特
殊靴
F 商標登録第4765359号(甲59)
商標の構成
登録出願日 平成14年11月25日
設定登録日 平成16年4月16日
指定商品
第25類 洋服、コート、Tシャツ、スポーツシャツ、ポロシャツ、靴下、
手袋、帽子、その他の被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、
バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特
殊靴
G 商標登録第4769801号(甲61)
商標の構成
登録出願日 平成14年11月25日
設定登録日 平成16年5月14日
指定商品
第18類 かばん類、袋物、かばん金具、がま口口金、皮革製包装用容器、
愛玩動物用被服類、携帯用化粧道具入れ、傘、ステッキ、つえ、
つえ金具、つえの柄、乗馬用具、皮革
以 上
(別紙3)
標章目録



以 上

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不正競争裁判例 著作権裁判例

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神奈川県相模原市中央区淵野辺

今週の知財セミナー (11月18日~11月24日)

来週の知財セミナー (11月25日~12月1日)

11月25日(月) - 岐阜 各務原市

オープンイノベーションマッチング in 岐阜

11月26日(火) - 東京 港区

企業における侵害予防調査

11月27日(水) - 東京 港区

他社特許対策の基本と実践

11月28日(木) - 東京 港区

特許拒絶理由通知対応の基本(化学)

11月28日(木) - 島根 松江市

つながる特許庁in松江

11月29日(金) - 東京 港区

中国の知的財産政策の現状とその影響

11月29日(金) - 茨城 ひたちなか市

あなたもできる!  ネーミングトラブル回避術

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