令和5(行ケ)10104審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和6年8月28日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告アンバチュアインコーポレイテッド 被告特許庁長官
|
対象物 |
非常に低い抵抗材料で形成された、電気的デバイス、機械的デバイス、コンピュータデバイス、および5/または、他のデバイス |
法令 |
特許権
特許法36条4項1号3回 特許法17条の21回
|
キーワード |
実施108回 審決14回 分割3回 拒絶査定不服審判1回 優先権1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 原告のために、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない)
19-38972号)。
2 本願発明の内容等
3 本件審決の理由
1のELR導体」及び「第2のELR導体」がいずれも超伝導状態、すなわ
4 原告の主張する審決取消事由
1 本願発明のELR導体又はその一部が超伝導状態となっていることについて
1の層を含み、この面は結晶構造のb面に平行であり、ELR材料の第1層
69】)、平均抵抗(【0052】)、おおよその抵抗率(【0891】)、
36×10-8
2 本願発明の「ジョセフソン接合」は従来技術の「ジョセフソン接合」を超え
8
1】~【0073】)。
005】、【0011】等)、さらに高温とは150K以上の臨界温度で
0-8
10を横切る大きな電圧を生成する。ジョセフソン効果は、理解されるよ20
3】から【0068】まで)が記載されている。そして、温度と抵抗率を
1 本願発明のELR導体又はその一部が超伝導状態となっていることについて
2 本願発明の「ジョセフソン接合」は従来技術の「ジョセフソン接合」を超え
0」を第1のELR導体及び第2のELR導体に含むことにより、ジョセフ
1 実施可能要件についての判断基準
2 本願発明の技術的意義
120K未満の温度)を必要とし、通常は、液体窒素ベースの冷却システム
11】、【0013】~【0015】、【0220】~【0223】、【0
226】)。5
3 検討
2つの超伝導体を弱く結合したときに、電子対がトンネル効果によっ15
4 原告の主張に対する判断
0-8
057】には、前記各図の「離散ステップ 1410」とされるもの以外につ
5 結論
150Kを超える臨界温度を有する改変ELR材料を含む第1のELR導体と、
1 本願発明の課題や解決手段に関連した記載
120K 未満の温度)を必要とし、通常は、液体窒素ベースの冷却システムなどの
2 改変されたELR材料及びELR状態の定義に関連した記載
99.999%の銅である。本発明の様々な実施例では、ELR 材料の部分は0Ω・cm か
3 ELR材料の結晶構造と動作特定に関連する記載
210 の周りの離散的な原子的"境界"または"境界"を形成すると考えることができ
100 中の種々の原子に関連する電子密度(図示せず)とその形状に関連すること
210 の周りの開口原子 250 の境界または外辺部と対応することができる。導波路
210 は、結晶構造 100 を通過する電荷の伝播を制限し又は妨げ、対応する ELR 材
1010 の振動特性を変化させる。そうすることで、変更する材料 1020 は、高い温
1020 は、b-平面(例えば、"a-c"面)に平行である結晶構造 300 の表面に結合す
1020 は、酸素結合導電材料であってもよい。本発明のいくつかの実施例では、5
4 変更されたELR材料の試験結果に関する記載
286K である試験結果 1400 を含んでいる。より詳細に示すために、試験結果 1400
120K~160K までの温度範囲内の試験結果 1400 を示し、図 14G は、84.5K~124.5K
60nA と-60nA の電流を流した。一定の時間間隔で、変更された ELR 材 1060 の電
80.75K、等)の系列に整理された。次に、各温度範囲の平均抵抗測定を求めるた
1410 を含んでおり、各離散ステップ 1410 は、比較的狭い温度範囲での抵抗の急
103K、113K、126K、140K、146K、179K、183.5K、200.5K、237.5K、および 250K
1060 内の開口 310 は、全温度範囲内の他の温度で電荷を伝播することができる。
1500 を示している。より具体的には、試験結果 1500 では、変更する材料 102020
360 の試料は、a-平面又は b-平面に平行な結晶構造 300 の面を露出させるために、
1060 の抵抗のプロットを含んでいる。図 15 は、変更された ELR 材料 1060 の抵抗
1060 の試料をゆっくりと 80K から 275K まで加熱した。加熱しながら、変更され5
175K、225K、および 250K で電荷を伝播することを示している。変更された ELR
1024 ポイント FFT を行い、12 個の最低周波数が除去された全ての情報を用いる15
5 回の試験で得られた。試験結果 1800 は、変更された ELR 材料 1060 の様々な部
1060 の抵抗が測定された温度の全範囲、すなわち 80K~270K にわたる試験結果25
2100 を含む。さらに詳しく説明するために、試験結果 2100 は、図 21B に示すよ
14G で説明したのと同様に、抵抗-温度プロットにおいて種々の離散ステップ
2110 を含む。試験結果 2100 は、変更された ELR 材料 1060 内の開口 310 が約 184K
310 は、他の温度で電荷を伝播するかもしれない。10
2310C の間の開口 310B)がより離れた距離の結果として、より低い温度で電荷を25
5 上記の試験結果を示す図(図14A、15~21B)
6 「変更する材料」に関連する記載
110 の表面に付けられた変更する材料 120 を有する、変更された ELR 材料の組成5
120 は、ELR 材料 110 内に歪みを与えることができる、高い酸素親和性のある材
400、500 を生成すると、本発明の様々な実施例を、種々の REBCO 材料の間の格
7 本願発明のジョセフソン接合に関連する記載15
46B-A ではジョセフソン接合 4600B として、図 46C-A ではジョセフソン接合 4600C
1020 を含む本発明のいくつかの実施例では、バリア 4610 は、変更されていない
4610 の臨界電流を超えると、電圧がバリア 4610 を横切って現れ、次に、この電
4600C の各 ELR 導体 4620 は、ELR 材料 3110 上に積層された変更する材料 2720 を
1 本願発明の技術的意義について 〔原告:認める〕
05】、【0011】、【0013】~【0015】)
2 技術常識について
3 検討 〔原告:争う〕
36 条第 4 項第 1 号の規定には該当しないものと思料致します。」20
293K での実質的に純粋な銅の抵抗率の 50 分の 1(1/50)の範囲の抵抗率で表25 |
事件の概要 |
本件は、特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消
訴訟である。争点は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件(特
許法36条4項1号)を満たすか否かである。 |
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判決文
令和6年8月28日判決言渡
令和5年(行ケ)第10104号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年7月3日
判 決
原 告 アンバチュア インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁護士 浜 田 治 雄
10 被 告 特許庁長官
同 指 定 代 理 人 恩 田 春 香
同 松 永 稔
同 棚 田 一 也
同 海 老 原 え い 子
15 主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 原告のために、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加
期間を30日と定める。
20 事 実 及 び 理 由
(本判決の本文中で用いる略語は、本件審決に定めるものに同じ。)
第1 請求
特許庁が不服2022-8441号事件について令和5年4月24日にした審
決を取り消す。
25 第2 事案の概要
本件は、特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消
訴訟である。争点は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件(特
許法36条4項1号)を満たすか否かである。
1 特許庁における手続の経緯等(争いがない)
(1) 原告は、平成31年3月4日、発明の名称を「非常に低い抵抗材料で形成
5 された、電気的デバイス、機械的デバイス、コンピュータデバイス、および
/または、他のデバイス」とする発明について、特許出願をした(特願20
19-38972号)。
本願は、平成24年(2012年)3月30日を国際出願日とする特許出
願(特願2014-502854号。パリ条約による優先権主張:平成23
10 年(2011年)3月30日、米国)の一部を分割して平成29年5月24
日にした特許出願(特願2017-103000号)の一部をさらに分割し、
新たな出願としたものである。
(2) 原告は、令和4年1月27日付けで拒絶査定を受けたため、同年6月2日、
拒絶査定不服審判を請求し、同日、手続補正書を提出して特許請求の範囲に
15 ついての補正(本件補正)をした。
(3) 特許庁は、同審判請求を不服2022-8441号事件として審理し、令
和5年4月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決を
し(出訴期間90日付加)、その謄本は、同年5月17日、原告に送達され
た。
20 (4) 原告は、同年9月13日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。
2 本願発明の内容等
(1) 本件補正後の特許請求の範囲(請求項の数・20)の記載は、別紙1「特
許請求の範囲」のとおりであり、うち【請求項1】の記載は以下のとおりで
ある。
25 【請求項1】
改変されたELR材料を含む第1のELR導体と、
改変されたELR材料を含む第2のELR導体と、
第1のELR導体と第2のELR導体との間に配置されたバリア材料と、
ここで、修飾ELR材料は、面および結晶構造を有するELR材料の第1
の層を含み、
5 ここで、面は、結晶構造のb面に平行であり、
修飾材料の第2の層は、第1の層の面に結合されており、
改質されたELR材料は、ELR材料単独のものよりも改善された動作特
性を有する、
ELR材料であるジョセフソン接合。
10 (2) 本願明細書の発明の詳細な説明及び図面(本願明細書等)には、別紙2
「本願明細書等の記載事項(抜粋)」の記載がある。
3 本件審決の理由
本件審決の理由の要旨は、別紙3「本件審決の概要」のとおりであり、その
骨子は以下のとおりである。
15 (1) ある種の物質をある温度(臨界温度)以下に冷やしたときに、抵抗値がゼ
ロとなることを「超伝導」又は「超電導」ということ(技術常識1)、2つ
の超伝導体を弱く結合したときに、電子対がトンネル効果によってその結合
部を通過する現象を「ジョセフソン効果」といい、ジョセフソン効果が生じ
るように2つの超伝導体を薄い絶縁膜で隔てるなどして弱く結合するように
20 したものを「ジョセフソン接合」ということ(技術常識2)は、いずれも技
術常識である。
(2) 本願発明は、「第1のELR導体」及び「第2のELR導体」の間に「バ
リア材料」を配置して「ジョセフソン接合」又は「ジョセフソン接合を含む
回路」を構成する発明であるから、本願明細書等の記載が実施可能要件を満
25 たすというためには、技術常識2を踏まえると、本願明細書等に(ア)「第
1のELR導体」及び「第2のELR導体」がいずれも超伝導状態、すなわ
ち抵抗値がゼロの状態にあり、かつ、(イ)「バリア材料」にジョセフソン
効果による電流が流れていることの各事項が記載されている必要がある。
しかし、本願明細書等には、各実施例における導体につき様々な温度にお
ける抵抗値を測定した試験結果が記載されているが、いずれも抵抗値の下限
5 値がゼロとされておらず、各実施例における導体の抵抗値がゼロとなったこ
とを読み取ることはできないから、上記(ア)の事項が記載されているもの
とはいえない。
また、本願明細書等には、本願発明の「第1のELR導体」及び「第2の
ELR導体」の間に配置された「バリア材料」にジョセフソン電流が流れる
10 ことを示す試験結果等は記載されておらず、超伝導状態にはない導体の間に
配置されたバリア材料にジョセフソン効果が発現するという現象が生じ得る
ことを裏付ける試験結果等も記載されていないから、上記(イ)の事項が記
載されているものとはいえない。
(3) したがって、本願明細書等の記載は、その記載及び出願時の技術常識に基
15 づいて、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤を要することなく、本願
発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは
いえないから、実施可能要件を満たすものではない。
4 原告の主張する審決取消事由
実施可能要件に関する判断の誤り
20 第3 当事者の主張
(原告の主張)
1 本願発明のELR導体又はその一部が超伝導状態となっていることについて
(1) 本願発明の目的は、改善された高温低抵抗率動作特性を有するジョセフソ
ン接合を提供するものである。本願発明は複数のジョセフソン接合を含む回
25 路であって、この複数のジョセフソン接合のそれぞれは、臨界温度が150
K(Kelvin)を超える修飾ELR(extremely low resistance)材料を含む
第1のELR導体と、修飾ELR材料を含む第2のELR導体と、バリアを
含み、前記第1のELR導体と前記第2のELR導体との間に配置された材
料であって、改質ELR材料は、面および結晶構造を有するELR材料の第
1の層を含み、この面は結晶構造のb面に平行であり、ELR材料の第1層
5 の面に結合された改質材料の第2層を備えるジョセフソン接合を含む回路で
ある。
(2) 本願明細書等は、抵抗の表現について、抵抗率のほかに抵抗現象(【00
69】)、平均抵抗(【0052】)、おおよその抵抗率(【0891】)、
抵抗値(【0073】)等様々に説明しているが、それがいずれも抵抗率を
10 意味することを当業者は技術常識として直ちに理解する。
一般的理解として、抵抗率は材料の特徴的な特性であり、材料の電流を運
ぶ能力を説明するものであり、材料のサンプルの抵抗にサンプルの断面積を
掛け、サンプルの長さで割ったものとして表され、Ω・cmの単位で表され
る。例えば、銅の抵抗率は3.36×10 -8Ω・cmである。
15 抵抗は抵抗率に直接関連しており、実際には正比例しているので、発明者
らは実験の目的のために、発明材料のサンプルの抵抗(Ω)のみを測定した
が、各サンプルは、それ自体のサイズおよび長さを維持し、したがってこれ
らの係数は抵抗率に対して抵抗をスケーリングする定数にすぎないから当業
者は抵抗と抵抗率との間の1対1の関係を容易に認識し、本発明の特徴に鑑
20 み2つの間の特別な区別を引き出さない。
抵抗/抵抗率の急激な変化は、本発明の材料が非超伝導状態から超伝導状
態に変化することを示す。例えば、図14Aにおいて、抵抗の実際の値(2
Ω、2.5Ωなど)は、図の右側の90.75Kと85.75Kとの間で生
じる抵抗の急激な低下に関連しておらず、または図14B~図14Gに示さ
25 れる抵抗の急激な変化1410にも関連しない。
そこで、本願発明において超伝導状態のELR材料は0Ω・cmから3.
36×10-8Ω・cmの範囲の抵抗率を有すると特定した。
(3) 被告は、サンプルの非遷移部分を含むサンプル全体にわたって抵抗を測定
した場合に、改良ELR材料のサンプルの一部が非超伝導状態から超伝導状
態へ超伝導遷移することを原告が実証したという事実を無視し続けている。
5 「サンプルの関連部分を分離することができ、サンプルのそのような分離さ
れた部分でのみ測定を行うことができれば、改良されたELR材料のサンプ
ルのその部分で完全な超伝導遷移が完全に実証されることになる」ことと、
「改良ELR材料のサンプルの一部が非超伝導状態から超伝導状態へ超伝導
遷移する」ことを前提として、本願明細書等の記載は実施可能要件を満たす。
10 (4) A博士の宣誓書(甲19)を証拠として提出する。原告はこの宣誓書の宣
言自体が真実であると主張するものではないが、ジョセフソン接合技術を多
面的に理解するとき周知の制限された特定思考に固執してはならないことを
主張する。
本願明細書等に記載され、A博士の宣誓書によって支持されるように、改
15 良ELR材料のより大きなサンプルの一部のみが超伝導状態に遷移すると、
図14B~Gの離散的なステップ1410に示されるように、より大きなサ
ンプルの全体的な抵抗は「離散的なステップ」を含むか、または抵抗率がゼ
ロになる一方で、他の部分の抵抗率は、それらの非超伝導値のままである。
例:図14F
2 本願発明の「ジョセフソン接合」は従来技術の「ジョセフソン接合」を超え
るものであり、ELR導体が超伝導体でなくともジョセフソン効果が発生して
いることについて
5 (1) 本願発明は、周知のジョセフソン接合技術を超越したジョセフソン接合技
術を提供するものであり、ジョセフソン接合技術に属する限り電流が流れる
のは正しく常識である。本件審決の判断思考は周知のジョセフソン接合技術
を前提とするものであり、周知技術の構成要件が記載されていないとの誤っ
た結論に陥っている。
10 (2) 本願明細書等においては、ELR材料が0Ω・cmから3.36×10 -
8
Ω・cmの範囲の非常に低い抵抗率を有すること及び試験結果が開示され
ており、ELR材料が銅の抵抗率の50分の1の範囲であることが指摘され
ており(【0014】)、その試験結果も詳細に記述されている(【005
1】~【0073】)。
15 本願発明は、高温超伝導(HTS)材料を改質した第1導体と、HTS
材料を改質した第2導体と、これら2つの導体間に配置されたバリア材料
とからなる、改良されたジョセフソン接合回路であり、このことを当業者
が技術的に理解することに障害はない。本願明細書等には、繰り返し、高
温で極めて低い抵抗すなわちELR材料で動作する特性が記載され(【0
005】、【0011】等)、さらに高温とは150K以上の臨界温度で
あり(【0241】)、極めて低い抵抗とは0Ω・cmから3.36×1
5 0-8Ω・cmの範囲の抵抗率であって(【0014】)、本願発明の試験
結果として、金属クロムを選択して実施し、温度と抵抗の関係をプロット
したものが【0051】及び図14Aに記載されているから、当業者は本
願発明を実施することができる。
本願発明の様々な実施例によれば、従来のジョセフソン接合の一般的な
10 種類のいずれかは、上述のような改良されたELR材料を用いて構成する
ことができる。一般的に言えば、ジョセフソン接合4600は、いわゆる
ジョセフソン効果を示す。ここでは、ELR状態でELR導体4620を
通って流れる電流もまた、非常に低い抵抗状態でELR導体4620の間
の接合部を横切って流れることができる。ジョセフソン接合は、例えばバ
15 リア4610を備えてもよい。バリア4610に流れる電流は、ジョセフ
ソン電流と呼ばれる。臨界電流に達するまで、ジョセフソン電流は、非常
に低い抵抗でバリア4610を通って流れることができる。しかし、バリ
ア4610の臨界電流を超えると、電圧がバリア4610を横切って現れ、
次に、この電圧は、さらに臨界電流を低減し、それによって、バリア46
20 10を横切る大きな電圧を生成する。ジョセフソン効果は、理解されるよ
うに、様々な回路におけるジョセフソン接合4600で利用されてもよい。
本願明細書等には、金属としてクロム、パナジウム、ビスマスならびに
コバルト等を選択した試験結果(【0051】、【0059】、【006
3】から【0068】まで)が記載されている。そして、温度と抵抗率を
25 プロットしたものが、図14A~図14Gである。
(被告の主張)
1 本願発明のELR導体又はその一部が超伝導状態となっていることについて
(1) 本願明細書等には、当業者が実施し得る程度に、その構造、組成等が明ら
かであって、原告が主張するような150Kを超える温度において超伝導状
態、すなわち抵抗率が0Ω・cmであるELR材料が開示されているとはい
5 えない。
(2) 抵抗率ρは、超伝導状態か否かに関わらず、物質の断面積をS、長さをℓ、
抵抗値をRとすればρ=RS/ℓで表されるものであって、ある物質の抵抗
値がゼロであれば、抵抗率もゼロであり、また、ある物質の抵抗値がゼロで
なければ、抵抗率もゼロではない。
10 (3) 原告の主張する「改良ELR材料のサンプルの一部が非超伝導状態から超
伝導状態へ超伝導遷移する」との前提は、何ら試験結果等により裏付けられ
ておらず、また、実際にサンプルから超伝導状態へ遷移した部分のみを分離
し、測定することはできないから、誤りである。
原告が、非超伝導状態から超伝導状態へ超伝導遷移した「改良ELR材料
15 のサンプルの一部」のみを取り出して本願発明を実施し得ると主張している
としても、本願明細書等は、改良ELR材料のサンプルについて、超伝導状
態へ遷移した部分のみを分離する具体的な方法等を何ら開示、示唆するもの
ではない。
また、仮に「改良ELR材料のサンプルの一部が非超伝導状態から超伝導
20 状態へ超伝導遷移」するとしても、本願明細書等に開示されたELR材料は
超伝導体ではないから、本願明細書等に開示されたELR材料によって、
「2つの超伝導体を薄い絶縁膜で隔てるなどして弱く結合するようにしたも
の」(技術常識2)であるジョセフソン接合を実施することはできない。
(4) 本願明細書等の図14B~G、図15、図16~20、図21Bに示され
25 る「離散的なステップ」が、「改良ELR材料のより大きなサンプルの一部
のみが超伝導状態に遷移」し、「一方で、他の部分の抵抗率は、それらの非
超伝導値のままである」という物理現象に起因することは、何ら試験結果等
により裏付けられたものではない。
2 本願発明の「ジョセフソン接合」は従来技術の「ジョセフソン接合」を超え
るものであり、ELR導体が超伝導体でなくともジョセフソン効果が発生して
5 いることについて
(1) 本願明細書等において、本願発明が、周知のジョセフソン接合技術ではな
く、極めて低いもののゼロではない抵抗値の範囲内であってもジョセフソン
接合を実現できることは、何ら試験結果等により裏付けられていない。そう
すると、技術常識についての原告の主張は、根拠のない前提に基づくもので
10 あるから、理由がない。
(2) 本願明細書等のいずれの図面も、超伝導状態、すなわち抵抗率が0Ω・c
m(抵抗値もゼロ)である「変更されたELR材料1060」を開示するも
のではなく、技術常識2によれば、これらの「変更されたELR材料106
0」を第1のELR導体及び第2のELR導体に含むことにより、ジョセフ
15 ソン接合に係る本願発明を構成することはできない。
すなわち、本願明細書等に開示された構造(本願層構造)、組成等が明ら
かなELR材料によって、ジョセフソン接合に係る本願発明を実施すること
はできず、本願明細書等には、ほかにその構造、組成等が明らかであって、
高温状態において超伝導状態すなわち抵抗率が0Ω・cm(抵抗値もゼロ)
20 であるELR材料の開示はない。
また、本願明細書等には、本願発明の「第1のELR導体」及び「第2の
ELR導体」の間に配置された「バリア材料」にジョセフソン電流が流れる
ことを示す試験結果等は記載されていない。そして、技術常識2によれば、
超伝導状態(すなわち0Ω・cmの抵抗率)でなく、非常に低い抵抗状態の
25 ELR導体の間に配置されたバリアに流れる電流は、ジョセフソン電流では
ないから、単に非常に低い抵抗状態である場合の「第1のELR導体」、
「第2のELR導体」、及び「第1のELR導体」と「第2のELR導体」
との間に配置された「バリア材料」は、「ジョセフソン接合」を構成しない。
第4 当裁判所の判断
1 実施可能要件についての判断基準
5 特許法36条4項1号に規定する実施可能要件については、明細書の発明の
詳細な説明が、当業者において、その記載及び出願当時の技術常識に基づいて、
過度の試行錯誤を要することなく、特許請求の範囲に記載された発明を実施す
ることができる程度に明確かつ十分に記載されているかを検討すべきである。
2 本願発明の技術的意義
10 別紙1「特許請求の範囲」及び別紙2「本願明細書等の記載事項(抜粋)」
の記載内容によれば、本願発明の技術的意義は、次のとおりと認められる(内
容は本件審決の認定に同じ。)。
(1) 本願発明は、非常に低い抵抗(ELR)材料で形成された一つ又は複数の
コンポーネントを含むジョセフソン接合又はジョセフソン接合を含む回路の
15 発明である(【0005】)。
(2) 従来の超伝導エレメントを使用して動作するデバイスにおいては、電流を
最小抵抗又はゼロ抵抗で輸送する能力を有する様々な成分の高温超伝導(H
TS)材料が利用されてきたが、HTS材料は非常に低い動作温度(例えば、
120K未満の温度)を必要とし、通常は、液体窒素ベースの冷却システム
20 等の高価なシステムを使用して上記のような動作温度までコンポーネントを
冷却する必要があるため、実施コストを増大 させるなどの問題があった
(【0003】)。
(3) 本願発明は、「第1のELR導体」及び「第2のELR導体」に、従来の
HTS材料に関連付けられる転移温度より高い温度において非常に低い抵抗
25 を提供する、「面及び結晶構造を有するELR材料の第1の層」を含む「改
変されたELR材料」と、「第1の層」の面に結合する「修飾材料の第2の
層」とからなる構成(本願層構造)とし、これらの間に「バリア材料」を配
置して、「ジョセフソン接合」又は「ジョセフソン接合を含む回路」を構成
することにより、上記の課題を解決するものである(【0005】、【00
11】、【0013】~【0015】、【0220】~【0223】、【0
5 226】)。
3 検討
(1) 証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事項は、本願の原出願
日である平成24年3月30日当時の技術常識であったと認められる。
原告は、これらの技術常識を争う主張もしているが、原告の主張を裏付け
10 るに足りる証拠はない。
ア 技術常識1
ある種の物質をある温度(臨界温度)以下に冷やしたときに、抵抗値が
ゼロとなることを「超伝導」又は「超電導」ということ。
イ 技術常識2
15 2つの超伝導体を弱く結合したときに、電子対がトンネル効果によっ
てその結合部を通過する現象を「ジョセフソン効果」といい、ジョセフ
ソン効果が生じるように2つの超伝導体を薄い絶縁膜で隔てるなどして
弱く結合するようにしたものを「ジョセフソン接合」ということ。
(2) 前記2のとおり、本願発明は、本願層構造をとる「第1のELR導体」と
20 「第2のELR導体」の間に「バリア材料」を配置して、「ジョセフソン接
合」又は「ジョセフソン接合を含む回路」を構成する発明であるから、前記
(1)の技術常識を踏まえると、本願発明においては、①「第1のELR導体」
と「第2のELR導体」がいずれも超伝導状態、すなわち抵抗値がゼロの状
態にあり、かつ②「バリア材料」にジョセフソン効果によるトンネル電流が
25 流れていることとなる。
そうすると、本願明細書等の記載が実施可能要件を満たすというためには、
本願明細書等に前記①及び②の各事項が記載されている必要があるというべ
きである。
そして、前記①の事項については、本願明細書等には本願発明の様々な実
施例とその試験結果が記載されているが、それらのいずれからも各実施例に
5 おける導体の抵抗値がゼロとなったことを読み取ることはできず、本願発明
の「第1のELR導体」と「第2のELR導体」が超伝導状態にあることを
示す試験結果等は記載されていない。前記②の事項については、本願発明の
「第1のELR導体」と「第2のELR導体」の間に配置された「バリア材
料」にジョセフソン電流が流れる旨の段落【0223】の記載は、超伝導状
10 態にない導体の間に配置されたバリア材料にジョセフソン効果が発現すると
いう前記技術常識2に反する内容であり、このような現象が生じ得ることを
裏付ける試験結果等が記載されていなければ、当業者は本願発明を実施する
ことができると認識するものではないところ、前記「バリア材料」にジョセ
フソン電流が流れることを示す試験結果等は記載されていない。したがって、
15 本願明細書等に前記①及び②の各事項が記載されているといえないことは、
本件審決が認定するとおりである。
4 原告の主張に対する判断
(1) これに対し、原告は、以下のとおり、本願発明のELR導体又はその一部
が超伝導状態となっている旨主張するので、以下検討する。
20 ア まず、原告は、本願発明の第1のELR導体に含まれる修飾ELR材料
の臨界温度が150Kを超える旨主張する。
しかし、当業者が実施し得る程度にその構造、組成等が明らかであっ
て、150Kを超える温度において超伝導状態すなわち抵抗値がゼロで
あるELR材料は、本願明細書等に開示されていない。
25 イ 次に、原告は、本願明細書等で説明される抵抗現象、平均抵抗、おおよ
その抵抗率、抵抗値等の表現が抵抗率を意味することを当業者は直ちに
理解する、図14A~図14AGが示す抵抗/抵抗率の急激な変化は、
本願発明の材料が非超伝導状態から超伝導状態に変化することを示す、
本願発明において超伝導状態のELR材料は0Ω・cmから3.36×1
0-8Ω・cmの範囲の抵抗率を有すると特定したと主張する。
5 しかし、抵抗率ρは「ρ=RS/ℓ」の式(S:物質の断面積、ℓ:長さ、
R:抵抗値)で表され(甲16~18)、抵抗値Rと抵抗率ρの関係は
物質の断面積Sと長さℓに応じて変化するから、抵抗値Rと抵抗率ρは区
別されるものである。確かに、断面積S及び長さℓの値が一定であれば、
抵抗値Rは抵抗率ρと正比例するから、抵抗値Rが減少するときは、抵
10 抗率ρも減少しているという関係にあるが、抵抗値と抵抗率の定義が異
なる以上、図14A~図14Gが示す「抵抗値」をもって、本願発明の
ELR材料が3.36×10 -8 Ω・cm以下の範囲の「抵抗率」を有す
ると当業者が理解することはできない。
また、いずれにせよ、超伝導状態とは抵抗値がゼロの状態であり(技術
15 常識1)、その場合は抵抗率もゼロとなるが、本願発明の材料の抵抗値
がゼロとなった試験結果等が記載されていないことは、前記のとおりで
ある。
図14A~図14Gが示す抵抗の急激な変化が本願発明の材料が非超伝
導状態から超伝導状態に変化することを示すとの点については、裏付け
20 となる試験結果等は本願明細書等に記載されていない(なお、段落【0
057】には、前記各図の「離散ステップ 1410」とされるもの以外につ
いてであるが、部分的な超伝導状態以外の要因によって生じる可能性が
記載されている。)。
ウ 原告は、さらに、改良ELR材料のサンプルの一部が非超伝導状態から
25 超伝導状態へ超伝導遷移することを実証した、A博士の宣誓書(甲19)
もこれを支持すると主張する。
しかし、改良ELR材料のサンプルの一部が非超伝導状態から超伝導状
態へ超伝導遷移することが試験結果等により裏付けられたものでないこ
とは前記のとおりであり、A博士の宣誓書(甲19)の内容をみても、
原告の主張を裏付けるに足りる具体的根拠は記載されていない。
5 仮に「改良ELR材料のサンプルの一部が非超伝導状態から超伝導状態
へ超伝導遷移」するとしても、本願発明はそのような「超伝導状態のサ
ンプルの一部」を取り出して「第1のELR導体」、「第2のELR導
体」とするものではなく(その具体的方法も本件明細書等に記載されて
いない。)、ELR導体そのものは超伝導体ではない(したがって、技
10 術常識2に照らすと、ジョセフソン接合を実施することはできない。)。
エ 以上によれば、本願発明のELR導体又はその一部が超伝導状態となっ
ている旨の原告の主張は、採用することができない。
(2) 原告は、本願発明の「ジョセフソン接合」は従来技術の「ジョセフソン接
合」を超えるものであり、ELR導体が超伝導体でなくともジョセフソン効
15 果が発生している旨主張する。
しかし、超伝導状態にない導体の間に配置されたバリア材料にジョセフソ
ン効果が発現するというのは前記技術常識2に反する内容であり、このよう
な現象が生じ得ることを裏付ける試験結果等が本願明細書等に記載されてい
ないことは、既に述べたとおりである。
20 A博士の宣誓書(甲19)の内容をみても、原告の主張を裏付けるに足り
る具体的根拠は記載されておらず、その他原告の縷々主張する点を裏付ける
証拠はない。
したがって、原告の主張は、採用することができない。
5 結論
25 以上のとおり、本願明細書等には、①「第1のELR導体」と「第2のEL
R導体」がいずれも超伝導状態、すなわち抵抗値がゼロの状態にあり、かつ②
「バリア材料」にジョセフソン効果によるトンネル電流が流れていることが記
載されているとはいえず、当業者において、本願明細書の記載及び出願時の技
術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本願発明を実施できる
程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえず、これを争う原告の主張
5 に理由はないから、本願明細書等の記載は、特許法36条4項1号に規定する
要件(実施可能要件)を満たすものとは認められない。なお、仮に本件補正が
特許法17条の2第5項各号に掲げる事項を目的とするものとはいえず、補正
を認めるべきではなかったと考えた場合でも、前記したところによれば、本願
明細書等の記載が実施可能要件を満たさないとの結論には変わりはない。
10 したがって、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清 水 響
裁判官
菊 池 絵 理
裁判官
20 頼 晋 一
別紙1
特許請求の範囲
【請求項1】
本文「事実及び理由」第2の2(1)に記載のとおり。
5 【請求項2】
前記バリア材料が絶縁材料を含む、請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項3】
前記バリア材料が導電性材料を含む、請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項4】
10 前記バリア材料が導電性金属を含む、請求項3に記載のジョセフソン接合。
【請求項5】
前記バリア材料が半導体材料を含む、請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項6】
前記バリア材料がELR材料を含む、請求項1に記載のジョセフソン接合。
15 【請求項7】
前記第1のELR導体および前記第2のELR導体はそれぞれ、修正されたE
LR材料から形成されたELRワイヤを含む、請求項1に記載のジョセフソン接
合。
【請求項8】
20 前記第1のELR導体および前記第2のELR導体はそれぞれ、改変されたE
LR材料から形成されたELRナノワイヤを含む、請求項1に記載のジョセフソ
ン接合。
【請求項9】
前記第1のELR導体および前記第2のELR導体はそれぞれ、修正されたE
25 LR材料から形成されたELRトレースを含む、請求項1に記載のジョセフソン
接合。
【請求項10】
前記修飾されたELR材料は、150を超える温度でELR状態で動作する、
請求項1に記載のジョセフソン接合。
【請求項11】
5 ジョセフソン接合であって、
150Kを超える臨界温度を有する改変ELR材料を含む第1のELR導体と、
改変されたELR材料を含む第2のELR導体と、
第1のELR導体と第2のELR導体との間に配置されたバリア材料とを備え、
ここで、修飾ELR材料は、面および結晶構造を有するELR材料の第1の層
10 を含み、
ここで、面は、結晶構造のb面に平行であり、
修飾材料の第2の層は、第1の層の面に結合されている
ELR材料のジェセフソン接合(注:「ジョセフソン接合」の誤記と思われ
る。)
15 【請求項12】
前記バリア材料が絶縁材料を含む、請求項11に記載のジョセフソン接合。
【請求項13】
バリア材料が導電性材料を含む、請求項11に記載のジョセフソン接合。
【請求項14】
20 バリア材料が導電性金属を含む、請求項13に記載のジョセフソン接合。
【請求項15】
バリア材料が半導体材料を含む、請求項11に記載のジョセフソン接合。
【請求項16】
バリア材料がELR材料を含む、請求項11に記載のジョセフソン接合。
25 【請求項17】
前記第1のELR導体および前記第2のELR導体はそれぞれ、修正されたE
LR材料から形成されたELRワイヤを含む、請求項11に記載のジョセフソン
接合。
【請求項18】
前記第1のELR導体および前記第2のELR導体はそれぞれ、修飾されたE
5 LR材料から形成されたELRナノワイヤを含む、請求項11に記載のジョセフ
ソン接合。
【請求項19】
前記第1のELR導体および前記第2のELR導体はそれぞれ、修正されたE
LR材料から形成されたELRトレースを含む、請求項11に記載のジョセフソ
10 ン接合。
【請求項20】
複数のジョセフソン接合を含む回路であって、
この複数のジョセフソン接合のそれぞれは、
臨界温度が150Kを超える修飾ELR材料を含む第1のELR導体と、
15 修飾ELR材料を含む第2のELR導体と、
バリアを含み、
前記第1のELR導体と前記第2のELR導体との間に配置された材料であっ
て、
改質ELR材料は、面および結晶構造を有するELR材料の第1の層を含み、
20 この面は結晶構造のb面に平行であり、
ELR材料の第1層の面に結合された改質材料の第2層を備えるジョセフソン
接合を含む回路
以 上
別紙2
本願明細書等の記載事項(抜粋)
1 本願発明の課題や解決手段に関連した記載
5 【0003】
従来の超伝導エレメントを使用して動作する、電気的デバイス、機械的デバイ
ス、コンピュータデバイス、および/または他のデバイスは、超伝導状態におけ
る超伝導エレメントを維持するために高価な冷却システムに依存するなどの様々
な欠点に苦しんでいる。例えば、従来の超電導コンデンサは、電流を最小抵抗ま
10 たはゼロ抵抗で輸送する能力を有する、さまざまな成分の高温超伝導(HTS)材
料を利用している。しかしながら、HTS 材料は、非常に低い動作温度(例えば、
120K 未満の温度)を必要とし、通常は、液体窒素ベースの冷却システムなどの
高価なシステムを使用して、そのような動作温度までコンポーネントを冷却する
ことにより実現される。このような冷却システムは、実施コストを増大させ、広
15 範な商用使用および民生用使用、および/または、これらの材料を用いるコンデ
ンサへの適用を妨げる。現在の HTS ベースのデバイスでは、これらの問題および
他の問題が存在する。
【0005】
変更された、開口された、積層された、および/または、それ以外の、新しい
20 非常に低い抵抗(ELR)材料で形成された 1 つまたは複数のコンポーネントを含
む、電気的デバイス、機械的デバイス、コンピュータデバイス、および/または
他のデバイス、コンポーネント、システム、および/または、装置が記載される。
ELR 材料は、通常は現在の高温超伝導体(HTS)に関連付けられる温度よりも高
い温度での電流に対する非常に低い抵抗を提供し、とりわけ、高温度におけるデ
25 バイスの動作特性を向上させる。
2 改変されたELR材料及びELR状態の定義に関連した記載
【0011】
本説明のために、非常に低い抵抗("ELR")材料は、HTS 材料、完全に導電す
る材料(例えば、完全導体)、および非常に低い抵抗を有する他の導電性材料を
5 含む超伝導材料を含み得るが、これだけに限定されるものではない。本明細書に
記載されるように、これらの ELR 材料は、変更された ELR 材料、開口された ELR
材料および/または新しい ELR 材料、ELR 膜及び/又は他の ELR 成分材料(例えば、
ナノワイヤ、ワイヤ、テープなど)を形成するために使用することができるもの
として記載される。これらの ELR 材料は、電子に対して非常に低い抵抗を示す、
10 及び/又は、150K 以上の温度などの高温で、環境圧力または標準圧力で、極めて
高い電子のコンダクタンスを示す。本章では、とりわけ、本 ELR 材料の構造と動
作特性を説明する。
【0013】
本説明のために、ELR 材料の動作特性、および/または、本発明の様々な実施
15 例は、ELR 状態における ELR 材料の抵抗(例えば、超伝導体、超電導状態に関す
る)、ELR 状態に対する ELR 材料の転移温度、ELR 状態における ELR 材料の電荷
を伝播する容量、ELR の材料の 1 つまたはそれ以上の磁気特性、ELR 材料の一つ
またはそれ以上の機械的性質、および/または、ELR 材の材料、他の動作特性を
含むことができるが、これらに限定されるものではない。さらに、本説明のため
20 に、改良された動作特性は、高温での ELR 状態(例えば、超電導状態を含む)に
おける動作、その同じ温度(またはより高い温度)で増加した電荷伝播容量での
動作を含むことができる。
【0014】
この説明のために、"非常に低い抵抗"は、超伝導材料タイプ II の超伝導状態
25 での磁束流抵抗の大きさと同じような抵抗であり、一般に、0Ω-cm から 293K
での実質的に純粋な銅の抵抗率の 50 分の 1(1/50)の範囲の抵抗率で表現する
ことができる。例えば、本明細書で使用されるような、実質的に純粋な銅は
99.999%の銅である。本発明の様々な実施例では、ELR 材料の部分は0Ω・cm か
ら 3.36x10-8Ω-cm の範囲の抵抗率を有する。
【0015】
5 一般的に理解されるように、転移温度は、ELR 材料が非常に低い抵抗で"動作
する"又は、非常に低い抵抗を示す(又は示し始める)温度、および/または、
ELR 材料と関連する他の現象を示す温度である。非常に低い温度で動作するとき、
この ELR 材料は、ELR 状態にあると呼ばれる。転移温度より高い温度で、ELR 材
料は、非常に低い抵抗を示さなくなり、ELR 材料は、非 ELR 状態又は通常の状態
10 にあると呼ばれる。換言すれば、転移温度は、ELR 材料が非 ELR 状態と ELR 状態
との間で変化する温度である。理解されるように、いくつかの ELR 材料に対して
転移温度は、非 ELR 状態と ELR 状態との間で ELR 材料が変化する温度範囲とする
ことができる。また、理解されるように、ELR 材料は、転移温度のヒステリシス
を持ち、ELR 材料が温かいときの転移温度と ELR 材料が冷たいときの転移温度と
15 を有する。
3 ELR材料の結晶構造と動作特定に関連する記載
【0021】
図 2 を参照すると、公知の ELR 材料の従来の理解では、抵抗現象を担うものと
20 して複数の開口原子 250 によって、結晶構造 100 内に形成された開口 210 を認め
ることができなかった。(例えば、開口が単一の単位セル 400 の描写において容
易に明らかではない図 4 が参照される。)ある意味では、開口原子 250 は、開口
210 の周りの離散的な原子的"境界"または"境界"を形成すると考えることができ
る。本発明のいくつかの実施例では、本発明のいくつかの実施例及び図 2 に示す
25 ように、開口 210 は、結晶構造 230 の第 1 の部分 220 と第2の部分 100 の間に現
れるが、本発明のいくつかの実施例では、開口 210 は種々の他の結晶構造の他の
部分に現れるかもしれない。開口 210 は図 2 において、単純な"球体"としての原
子の記載に基づいて示されており、そのような開口は、開口 250 を含む結晶構造
100 中の種々の原子に関連する電子密度(図示せず)とその形状に関連すること
が理解される。
5 【0022】
本発明の種々の態様によれば、開口 210 は、結晶構造 100 を通る電荷の伝播を
促進し、開口 210 が結晶構造 100 を通る電荷の伝播を促進するとき、ELR 材料は
ELR 状態で動作する。この説明のために、(それぞれの形態に沿って)"伝播す
る"および/または"伝播を促進する"とは、一般に、"伝導する"、および/または"
10 伝導を促進する"、およびその各形態、および、"輸送"、および/または"輸送を
促進する、"、およびその各形態、および、"ガイドする"、および/または"ガイ
ドを促進する"、およびその各形態、および/または、"運ぶ"、"容易に運ぶ""、
およびその各形態を指す。この説明のために、電荷は、正電荷又は負電荷、およ
び/または、そのような電荷のペアまたは他の組み合わせを含むことができ、さ
15 らに、そのような電荷は、1 つまたは複数の粒子の形態で、または、1つまたは
複数の波または波束の形態で結晶構造 100 を通って伝播する。
【0023】
本発明のいくつかの実施例では、結晶構造 100 を通る電荷の伝播は、導波路に
類似する方法であってもよい。本発明のいくつかの実施例では、開口 210 は、結
20 晶構造 100 を通過する電荷を伝播する導波路であってもよい。導波路とその操作
は、一般的によく理解されている。特に、導波管の内部を取り囲む壁は、開口
210 の周りの開口原子 250 の境界または外辺部と対応することができる。導波路
とその操作に関連する一態様は、その断面である。原子レベルで、開口 210 およ
び/またはその断面は、ELR 材料の温度変化で実質的に変更することができる。
25 例えば、本発明のいくつかの実施例では、ELR 材料の温度変化は、開口 210 の変
化を引き起こすことができる。その変化は、次に、ELR 材料を ELR 状態から非 ELR
状態へ遷移させるかもしれない。例えば、ELR 材料の温度が上昇すると、開口
210 は、結晶構造 100 を通過する電荷の伝播を制限し又は妨げ、対応する ELR 材
料は、ELR 状態から非 ELR 状態へ遷移するかもしれない。同様に、例えば、ELR
材料の温度が低下すると、開口 210 は、結晶構造 100 を通過する電荷の伝播を容
5 易にし(制限又は妨害するのとは対照的に)、対応する ELR 材料は、非 ELR 状態
から ELR 状態へ遷移するかもしれない。
【0037】
本発明の様々な実施例によれば、種々の公知の ELR 材料の結晶構造は、公知の
ELR 材料および/または変更されていない ELR 材料に対して、改善された動作特
10 性で動作するように変更することができる。理解されるように、本発明のいくつ
かの実施例では、改善された動作特性は、例えば、結晶構造 100 の上に、材料の
原子が第1の部分 220 と第2の部分 230 の間に一つまたは複数の結合を形成する
ことによって、開口 210 を橋渡しするように材料を積層することによって実現す
ることができる。結晶構造 100 の上に材料を積層する変更例は、種々の実験によ
15 る試験結果と関連して以下でさらに詳細に記載される。
【0038】
図 10 は、第2視点から見たときの本発明の様々な実施例の変更された ELR 材
料 1060 の変更された結晶構造 1010 を示す図である。図 11 は、第 1 の視点から
見たときの本発明の様々な実施例の変更された ELR 材料 1060 の変更された結晶
20 構造 1010 示す。ELR 材料 360(例えば、図 3 などに示される)は、変更された
ELR 材料 1060 を形成するために変更される。変更する材料 1020 は、図 11 に示す
ように、変更された ELR 材料 1060 の変更された結晶構造 1010 を形成するよう
に、ELR 材料 360 の結晶構造 300 の原子(図 3)と結合する。図示されるように、
変更する材料 1020 は、第 1 の部分 320 と第 2 の部分 330 との間の隙間を橋渡し、
25 それによって、とりわけ、特に、開口 310 の領域における変更された結晶構造
1010 の振動特性を変化させる。そうすることで、変更する材料 1020 は、高い温
度で開口 310 を維持する。したがって、本発明のいくつかの実施例では、変更す
る材料 1020 は、結晶構造 300 中の適切な原子と適合して結合するように選択さ
れる。
【0039】
5 本発明のいくつかの実施例及び図 10 に示されているように、変更する材料
1020 は、b-平面(例えば、"a-c"面)に平行である結晶構造 300 の表面に結合す
る。変更する材料 1020 が"a-c"面と結合する実施例では、a 軸の方向に延びる開
口 310 と a 平面に横たわる断面が維持される。そのような実施例では、電荷キャ
リアは、a 軸の方向に開口 310 を通過して流れる。
10 【0040】
本発明のいくつかの実施例において、変更する材料 1020 は、a 平面(例えば、
"b-c"面)に平行である結晶構造 300 の表面と結合する。変更する材料 1020 が
"b-c"面と結合するような実施例では、b 軸の方向に延びる開口 310 と b 平面に横
たわる断面が維持される。そのような実施例では、電荷キャリアは、b軸の方向
15 に開口 310 を通過して流れる。
【0041】
本発明の種々の実施例では、変更する材料 1020 を有する ELR 材料 360 の特定
の面に積層することを含む(すなわち、ELR 材料 360 の特定の表面を変更する材
料 1020 で変更すること)。この説明から理解されるように、ELR 材料 360 の"表
20 面を変更すること"への言及は、最終的に、ELR 材料 360 の一つまたは複数の単
位セル 400 の面(場合によっては一面以上)を変更することを含む。すなわち、
変更する材料 1020 は、実際に ELR 材料 360 の単位セル 400 内の原子に結合する。
【0042】
たとえば、a 平面に平行な ELR 材料 360 の表面を変更することは、単位セル 400
25 の"b-c"面を変更することを含む。同様に、b-平面に平行な ELR 材料 360 の表面
を変更することは、単位セル 400 の"a-c"面を変更することを含む。本発明のい
くつかの実施例では、変更する材料 1020 は、c 軸に平行な平面に対して実質的
に平行である ELR 材料 360 の表面に結合される。この説明のために、c 軸に平行
な平面は、一般に ab 平面と呼ばれ、理解されるように、a 面および b 面を含む。
理解されるように、ab 面に平行な ELR 材料の表面 360 は、単位セル 400 の"a-c"
5 面と"b-c"面の混合物から形成される。変更する材料 1020 が ab 面に平行な表面
と結合するような実施例では、a 軸の方向に延びる開口 310 と b 軸方向に延びる
開口 310 が維持される。
【0043】
本発明のいくつかの実施例において、変更する材料 102 は導電性材料であって
10 もよい。本発明のいくつかの実施例では、変更する材料 102 は、高い酸素親和性
材料であるかもしれない。(すなわち、酸素と容易に結合する材料)("酸素結
合材料")。本発明のいくつかの実施例では、変更する材料 1020 は、酸素と容易
に結合する導電性材料("酸素結合導電材料")であってもよい。このような酸素
結合導電材料は、クロム、銅、ビスマス、コバルト、バナジウム、チタンを含む
15 が、それだけには限定されない。このような酸素結合導電材料は、ロジウムまた
はベリリウムもまた含むことができるが、それだけには限定されない。他の変更
する材料は、ガリウム又はセレンを含むことができる。他の変更する材料は、銀
を含んでもよい。さらに他の変更する材料を用いることもできる。
【0044】
20 本発明のいくつかの実施例では、変更する材料 1020 の酸化物は、ELR 材料 360
を変更する材料 1020 で変更するときの様々な操作の間に形成するかもしれない。
したがって、本発明のいくつかの実施例では、変更する材料 1020 は、変更する
材料 1020 の実質的に純粋な形態および/または変更する材料 1020 の種々の酸化
物をを含むことができる。換言すれば、本発明のいくつかの実施例では、ELR 材
25 料 360 は、変更する材料 1020 および/または変更する材料 1020 の種々の酸化物
を含む。一例として、本発明のいくつかの実施例では、変更する材料 1020 は、
クロム及び/又は酸化クロムを(CrxOy)を含んでもよいが、それに限定されるも
のではない。
【0045】
本発明のいくつかの実施例では、ELR 材料 360 は、YBCO であり、変更する材料
5 1020 は、酸素結合導電材料であってもよい。本発明のいくつかの実施例では、
ELR 材料 360 は、YBCO であり、変更する材料 1020 は、クロム、銅、ビスマス、
コバルト、バナジウム、チタン、ロジウム、またはベリリウムを含む群から選択
されるが、これらに限定されない。本発明の実施例では、ELR 材料 360 は、YBCO
であり、変更する材料 1020 は、クロム、銅、ビスマス、コバルト、バナジウム、
10 チタン、ロジウム、及びベリリウムからなる群から選択され得る。本発明のいく
つかの実施例では、ELR 材料 360 は、YBCO であり、変更する材料 1020 は他の変
更する材料であってもよい。
4 変更されたELR材料の試験結果に関する記載
15 【0051】
図 14A-14G は、上記記載されたようにして得られた試験結果 1400 を示す。試験
試験結果 1400 は温度の関数(K)として変更した ELR 素材 1060 の抵抗のプロット
を含んでいる。より具体的には、試験試験結果 1400 は、変更された ELR 素材 1060
であり、変更する材料 1020 はクロムであり、ELR 材料 360 は YBCO である。図 14A
20 は、変更された ELR 材料 1060 の抵抗が測定された温度の全範囲、すなわち、84K~
286K である試験結果 1400 を含んでいる。より詳細に示すために、試験結果 1400
は、様々な温度範囲に分割されて図示されている。図 14B は、240K~280K までの
温度範囲内の試験結果 1400 を示し、図 14C は、21K~250K までの温度範囲内の試験
結果 1400 を示し、図 14D は、180K~220K までの温度範囲内の試験結果 1400 を示
25 し、図 14E は、150K~190K までの温度範囲内の試験結果 1400 を示し、図 14F は、
120K~160K までの温度範囲内の試験結果 1400 を示し、図 14G は、84.5K~124.5K
までの温度範囲内の試験結果 1400 を示している。
【0052】
試験結果 1400 は、変更された ELR 材料 1060 の様々な部分が ELR 材料 360 に比
べて、より高い温度において ELR 状態で動作することを示している。6つの試料
5 の分析試験が行われた。各試料分析試験では、変更された ELR 材料 1060 はゆっ
くりと約 286K から 83K まで冷却された。冷却しながら、DC オフセットおよび/ま
たは熱電対効果の影響を低減するために、電流源は、デルタモードの構成で+
60nA と-60nA の電流を流した。一定の時間間隔で、変更された ELR 材 1060 の電
圧を電圧計で測定した。各試料分析試験では、電圧測定の時系列は、512 点の高
10 速フーリエ変換("FFT")を用いてフィルタ処理された。フィルタリ処理された
データのうち FFT の最も低い 44 の周波数はデータから除外され、残りのデータ
は時間領域に戻された。各試料分析試験でフィルタ処理されたデータは、その後、
試験結果 1400 を生成するために統合された。
より具体的には、6つの試料の分析試験のすべての抵抗の測定は、"ビニング"
15 と呼ばれる方法で温度範囲(例えば、80K~80.25K、80.25K~80.50K、80.5K~
80.75K、等)の系列に整理された。次に、各温度範囲の平均抵抗測定を求めるた
めに各温度範囲で測定された抵抗測定は、平均化された。これらの平均抵抗測定
により試験結果 1400 が得られた。
【0053】
20 試験結果 1400 は、温度に対する抵抗のプロットである種々の離散ステップ
1410 を含んでおり、各離散ステップ 1410 は、比較的狭い温度範囲での抵抗の急
激な変化を示している。各離散ステップ 1410 では、変更された ELR 材料 1060 の
離散部分は、各温度でそのような部分の電荷伝播容量に電荷を伝播し始める。非
常に小さなスケールで、変更されている ELR 材 360 の表面は、完全に平滑ではな
25 いので、ELR 材料 360 の表面に露出された開口 310 は、通常は、変更された ELR
材 1060 試料の全幅または全長にわたって延びていない。したがって、本発明の
いくつかの実施例では、変更する材料 1020 は、ELR 材料 360 の表面全体を覆い、
開口 310 の間で電荷を運ぶ導体として作用することができる。
【0054】
試験結果 1400 の詳細を説明する前に、ELR 材料 360 と変更する材料 1020 の
5 様々な特性を説明する。これらの材料の抵抗対温度("R-T")の個別のプロファ
イルは、一般によく知られている。これらの材料の個々の R-T プロファイルは、
試験結果 1400 に見られる離散ステップ 1410 と同様の特徴を含むとは考えられな
い。実際、ELR 材料 360 の変更されていない試料と変更する材料 1020 は、同じで
あり、しばしば同一の試験方法と測定装置でそれぞれ試験された。各例では、
10 ELR 材料 360 の変更されていない試料の R-T プロファイルと変更する材料の RT
プロファイルは、単独では離散ステップ 1410 と同様の機能を含んでいなかった。
従って、離散ステップ 1410 は、変更する材料 1020 と変更する ELR 材料 360 の結
果であり、温度上昇時に開口 310 を維持し、それによって、変更する材料 1060
が、本発明の様々な実施例の高い温度において、ELR 状態のままでいられること
15 が可能となる。
【0055】
各離散ステップ 1410 では、変更された ELR 材料 1060 内の開口 310 の様々な開
口が、各開口 310 の電荷伝播容量に電荷の伝播を開始する。電圧計で測定した結
果、各電荷伝播開口 310 は、変更された ELR 材料 1060 の試料を通過する見かけ
20 の電圧が少しだけ低下する、短絡として現れる。見かけの電圧は、開口 310 の追
加の開口が電荷の伝播を開始すると、変更された ELR 材料 1060 の試料温度が ELR
材料 360 の転移温度(すなわち、変更していない ELR 材料が YBCO の場合の転移
温度は、約 90K である)に達するまで低下し続ける。
【0056】
25 試験結果 1400 は、変更された ELR 材料 1060 内の開口 310 が、約 97K、100K、
103K、113K、126K、140K、146K、179K、183.5K、200.5K、237.5K、および 250K
で、電荷を伝播することを示している。理解されるように、変更された ELR 材料
1060 内の開口 310 は、全温度範囲内の他の温度で電荷を伝播することができる。
【0057】
試験結果 1400 は、離散ステップ 1410 として識別されていない比較的狭い温度
5 範囲での抵抗の比較的急激な変化を含んでいる。これらの他の変化のいくつかは、
試験(例えば、FFT、フィルタリング、等)中に得られる測定値に使用されるデ
ータ処理技術からのアーティファクトであるかもしれない。これらの他の変化の
いくつかは、様々な温度で開口 310 に影響を与える変更された結晶構造 1010 中
の共振周波数に起因する抵抗の変化であるかもしれない。これらの他の変化のい
10 くつかは、追加の離散ステップ 1410 であるかもしれない。また、270~274K の
温度範囲における抵抗の変化は、変更された ELR 材 1060 中に存在する水と関連
付けられる可能性があり、この水の一部は変更された ELR 材料 1060 の試料調製
中に導入された可能性がある。
【0058】
15 変更する材料 1020 は ELR 材料 360 の転移温度以上の温度でよく伝導するの対
して、ELR 材料 360 は通常は伝導しないという点で、試験結果 1400 は、離散ステ
ップ 1410 に加えて、ELR 材料 360 の R-T プロファイルと異なっている。
【0059】
図 15 は、ELR 材料 360 と変更する材料 1020 の試料に対する追加の試験結果
20 1500 を示している。より具体的には、試験結果 1500 では、変更する材料 1020
は、クロムであり、ELR 材料 360 は YBCO である。試験結果 1500 では、ELR 材料
360 の試料は、a-平面又は b-平面に平行な結晶構造 300 の面を露出させるために、
上述した様々な技術を用いて調製された。試験結果 1500 は、変更された ELR 材
料 1060 にロックインアンプと K6221 電流源を用いて 24.0Hz で 10nA の電流を流
25 して得られた。試験結果 1500 は、温度の関数(K)として、変更された ELR 材料
1060 の抵抗のプロットを含んでいる。図 15 は、変更された ELR 材料 1060 の抵抗
が温度の全範囲、すなわち 80K~275K で測定された試験結果 1500 を含む。試験
結果 1500 は、変更された ELR 材料 1060 の様々な部分が ELR 材料 360 より高い温
度で ELR 状態で動作することを示している。5 つの試料の分析試験は、変更され
た ELR 材料 1060 の試料でなされた。各試料分析試験では、変更された ELR 材料
5 1060 の試料をゆっくりと 80K から 275K まで加熱した。加熱しながら、変更され
た ELR 材料 1060 の試料の電圧が一定の時間間隔で測定され、抵抗は、電流源か
ら算出された。各試料分析試験では、抵抗測定値の時系列は、1024 ポイントの
FFT を用いてフィルタ処理した。しかし、すべての FFT から最も低い 15 の周波数
がデータから除去され、フィルタ処理された抵抗測定値は、時間領域に戻された。
10 各試料分析試験でフィルタ処理された抵抗測定値は、試験結果 1500 を生成する
ために上記説明したビニングプロセスを用いて統合された。次に、各温度範囲で
の抵抗測定値は、各温度範囲での平均抵抗測定値を得るために一緒に平均化され
た。これらの平均抵抗測定値は、試験結果 1500 を形成する。
【0060】
15 試験結果 1500 は、抵抗対温度プロットにおいて、種々の離散ステップ 1510 を
含む。各離散ステップ 1510 は、図 14A~図 14G で説明した離散ステップ 1410 と
類似する、比較的狭い温度範囲で抵抗が比較的急激に変化することを示しいる。
各離散ステップ 1510 では、変更された ELR 材料 1060 の離散部分は、各温度での
離散部分の電荷伝播容量に電荷を伝播する。
20 【0061】
試験結果 1500 は、変更された ELR 材料 1060 内の開口 310 が約 120K、145K、
175K、225K、および 250K で電荷を伝播することを示している。変更された ELR
材料 1060 内の開口 310 は、理解されるように、全温度範囲内の他の温度で、電
荷を伝播するかもしれない。
25 【0062】
図 16-20 は、ELR 材料 360 および各種変更する材料 1020 の試料に対する追加の
試験結果を示す。これらの追加の試験結果では、ELR 材料 360 の試料は、結晶構
造 300 の表面を a 面または b 面、または a 面または b 面のいくつかの組み合わせ
に対して実質的に平行となるように露出させ、これらの露出面上に変更する材料
が積層されるように、上述した様々な技術を用いて調製された。これらの変更さ
5 れた各試料は、ゆっくりと約 300K から 80K まで冷却された。以下に説明するよ
うに、加温しながら、電流源は、電流を変更された試料にデルタモード設定で印
加した。一定時間毎に、変更された試料の電圧を測定した。各試料の分析試験で
は、電圧測定の時系列は、FFT を用いて周波数領域で最低の周波数を除去するフ
ィルタ処理し、フィルタ処理された測定値は、時間領域に戻された。保持された
10 周波数の数は、一般に、各データ・セットで異なる。各試験からフィルタ処理さ
れたデータは、その後、ビニングされ、一緒に平均化されて図 16-21 に示す試験
結果を生成した。
【0063】
図 16 は、温度の関数(K)として、変更された ELR 材料 1060 の抵抗のプロッ
15 トを含む試験結果 1600 を示す。試験結果 1600 では、変更する材料 1020 はバナ
ジウムであり、ELR 材料 360 は YBCO である。試験結果 1600 は、20nA 電流源を使
用し、1024 ポイントの FFT を行い、12 個の最低周波数が除去された全ての情報
を用いる 11 回の試験で得られた。試験結果 1600 は、変更された ELR 材料 1060
の様々な部分が ELR 材料 360 よりもより高い温度において ELR 状態で動作するこ
20 とを示している。試験結果 1600 は、図 14A-14G で説明したのと同様に、抵抗-
温度プロットにおいて種々の離散ステップ 1610 を含む。試験結果 1600 は、変更
された ELR 材料 1060 内の開口 310 が約 267K、257K、243K、232K、および 219K で
電荷を伝播することを示している。変更された ELR 材料 1060 内の開口 310 は、
他の温度で電荷を伝播するかもしれない。
25 【0064】
図 17 は、温度の関数(K)として、変更された ELR 材料 1060 の抵抗のプロッ
トを含む試験結果 1700 を示す。試験結果 1700 では、変更する材料 1020 は、ビ
スマスであり ELR 材料 360 は YBCO である。試験結果 1700 は、400nA の電流源を
使用し、1024 ポイントの FFT を行い、12 個の最低周波数が除去された全ての情
報を用いる 5 回の試験で得られた。試験結果 1700 は、変更された ELR 材料 1060
5 の様々な部分が ELR 材料 360 よりも高い温度において ELR 状態で動作することを
示している。試験結果 1700 は、図 14A-14G で説明したのと同様に、抵抗-温度
プロットにおいて種々の離散ステップ 1710 を含む。試験結果 1700 は、変更され
た ELR 材料 1060 内の開口 310 が約 262K、235K、200K、172K、および 141K で電荷
を伝播することを示している。変更された ELR 材料 1060 内の開口 310 は、他の
10 温度で電荷を伝播するかもしれない。
【0065】
図 18 は、温度の関数(K)として、変更された ELR 材料 1060 の抵抗のプロッ
トを含む試験結果 1800 を示す。試験結果 1800 では、変更する材料 1020 は銅で
あり、ELR 材料 360 は YBCO である。試験結果 1800 は、200nA の電流源を使用し、
15 1024 ポイント FFT を行い、12 個の最低周波数が除去された全ての情報を用いる
5 回の試験で得られた。試験結果 1800 は、変更された ELR 材料 1060 の様々な部
分が ELR 材料 360 よりもより高い温度において ELR 状態で動作することを示して
いる。試験結果 1800 は、図 14A-14G で説明したのと同様に、抵抗-温度プロッ
トにおいて種々の離散ステップ 1810 を含む。試験結果 1800 は、変更された ELR
20 材料 1060 内の開口 310 が約 268K、256K、247K、235K、および 223K で電荷を伝播
することを示している。変更された ELR 材料 1060 内の開口 310 は、他の温度で
電荷を伝播するかもしれない。
【0066】
図 19 は、温度の関数(K)として、変更された ELR 材料 1060 の抵抗のプロッ
25 トを含む試験結果 1900 を示す。試験結果 1900 では、変更する材料 1020 はコバ
ルトであり、ELR 材料 360 は YBCO である。試験結果 1900 は、420nA 電流源を使
用し、1024 ポイントの FFT を行い、12 個の最低周波数が除去された全ての情報
を用いる 11 回の試験で得られた。試験結果 1900 は、変更された ELR 材料 1060
の様々な部分が ELR 材料 360 よりもより高い温度において ELR 状態で動作するこ
とを示している。試験結果 1900 は、図 14A-14G で説明したのと同様に、抵抗-
5 温度プロットにおいて種々の離散ステップ 1910 を含む。試験結果 1900 は、変更
された ELR 材料 1060 内の開口 310 が約 265K、236K、205K、174K、および 143K で
電荷を伝播することを示している。変更された ELR 材料 1060 内の開口 310 は、
他の温度で電荷を伝播するかもしれない。
【0067】
10 図 20 は、温度の関数(K)として、変更された ELR 材料 1060 の抵抗のプロッ
トを含む試験結果 2000 を示す。試験結果 2000 では、変更する材料 1020 はチタ
ンであり、ELR 材料 360 は YBCO である。試験結果 2000 は、100nA 電流源を使用
し、512 ポイントの FFT を行い、11 個の最低周波数が除去された全ての情報を用
いる 11 回の試験で得られた。試験結果 2000 は、変更された ELR 材料 1060 の様々
15 な部分が ELR 材料 360 よりもより高い温度において ELR 状態で動作することを示
している。試験結果 2000 は、図 14A-14G で説明したのと同様に、抵抗-温度プ
ロットにおいて種々の離散ステップ 2010 を含む。試験結果 2000 は、変更された
ELR 材料 1060 内の開口 310 が約 266K、242K、および 217K で電荷を伝播すること
を示している。変更された ELR 材料 1060 内の開口 310 は、他の温度で電荷を伝
20 播するかもしれない。
【0068】
図 21A~21B は、温度の関数(K)として、変更された ELR 材料 1060 の抵抗の
プロットを含む試験結果 2100 を示す。試験結果 2100 では、変更する材料 1020
はクロムであり、ELR 材料 360 は YBCO である。図 21A は、変更された ELR 材料
25 1060 の抵抗が測定された温度の全範囲、すなわち 80K~270K にわたる試験結果
2100 を含む。さらに詳しく説明するために、試験結果 2100 は、図 21B に示すよ
うに、150K~250K の温度範囲で拡大された。試験結果 2100 は、図 16~20 で説明
したのと同様の方法で得られた。具体的には、試験結果 2100 は 300nA の電流源
を使用して 25 回の試験で得られた。これらの試験データは、64 サイドポイント
と 4 次多項式を用いて、Savitzy-Golay で平滑化された。試験結果 2100 は、変更
5 された ELR 材料 1060 の様々な部分が ELR 材料 360(ここでは、BSSCO)よりも高
い温度で ELR 状態として動作することを示している。試験結果 2100 は、図 14A-
14G で説明したのと同様に、抵抗-温度プロットにおいて種々の離散ステップ
2110 を含む。試験結果 2100 は、変更された ELR 材料 1060 内の開口 310 が約 184K
と 214K で電荷を伝播することを示している。変更された ELR 材料 1060 内の開口
10 310 は、他の温度で電荷を伝播するかもしれない。
【0073】
上述した種々の試験結果は、とりわけ、開口 310 上の変更する材料 1020 の影
響が互いに近接する関係で変化すること示している図 14 の試験結果 1400 は、本
発明の種々の実施例を支持している。具体的には、試験結果 1400 中の各離散ス
15 テップ 1410 は、変更された ELR 材料 1060 によって運ばれた電荷の変化に対応す
る。なぜなら、特定の層 2310 中の開口 310(より適切には、図示のように隣接
する層間で形成された開口 310)は、そのような開口 310 の電荷伝播容量に電荷
を伝播するからである。変更する材料 1020 により近い層 2310 中の開口 310 は、
より高い温度の離散ステップに 1410 に対応するが、変更する材料 1020 からより
20 遠い層 2310 中の開口 310 は、より低い温度の離散ステップ 1410 に対応する。離
散ステップ 1410 は、変更する材料 1020 に所与の相対距離の開口 310(すなわち、
層 2310A と層 2310B 間の開口 310A)が特定の温度で電荷を伝播し、すぐに最大電
荷伝播容量に達する、という意味で"離散"である。別の離散ステップ 1410 は、
変更する材料 1020 からより離れた距離の開口 310(すなわち、層 2310B と層
25 2310C の間の開口 310B)がより離れた距離の結果として、より低い温度で電荷を
伝播し、開口 310 に対する変更する材料 1020 の影響を軽減するときに、達成さ
れる。各離散ステップ 1410 は、変更する材料 1020 からの距離に基づいて電荷を
運び始める開口 310 の別の組に対応する。しかしながら変更する材料 1020 は、
ある距離において、いくつかの開口 310 に高い温度で電荷を運ばせるような十分
な影響を開口 310 に及ぼすことができないので、それ故に、そのような開口 310
5 は、ELR 材料 360 の温度と一致する温度で電荷を伝播する。
5 上記の試験結果を示す図(図14A、15~21B)
図14A、15、21A、21Bは、ELR材料がYBCO、変更する材料が
クロムの場合の試験結果である。
10 【図14A】
【図15】
【図21A】
【図21B】
【図16】ELR材料がYBCO、変更する材料がバナジウムの場合の試験結果
【図17】ELR材料がYBCO、変更する材料がビスマスの場合の試験結果
【図18】ELR材料がYBCO、変更する材料が銅の場合の試験結果
【図19】ELR材料がYBCO、変更する材料がコバルトの場合の試験結果
【図20】ELR材料がYBCO、変更する材料がチタンの場合の試験結果
6 「変更する材料」に関連する記載
【0119】
いくつかの実施例では、ELR 材料に変更する成分を適用することは、ELR 材料
の結晶構造内の 1 つまたはそれ以上の酸素原子を ELR 材料内に移動させ、ELR 材
料の結晶構造を引っ張る酸素濃度勾配を形成するかもしれない。いくつかの実施
5 例では、クロムなどの変更する成分は、ELR 材内の酸素原子の"ゲッター"として
作用し、それによって、酸素原子を変更する成分に向かって移動させ、次に、
ELR 材料の結晶構造内または、その一部の領域を引っ張るかもしれない。
【0121】
本発明のいくつかの実施例では、組成物の種々の領域または部分にある歪みは、
10 ELR 材料の動作特性(例えば、動作温度、電流容量など)を向上させるように、
ELR 材の結晶構造中の開口に影響を与える。
【0122】
結晶構造を有する材料の変更は、その材料が期待される温度よりも高い温度で
材料に電流を流すように、非常に低い抵抗のような低い抵抗を示すさせることが
15 できる。いくつかの実施例では、変更は、上述したように、適切な表面上に変更
する材料の層を付けるまたは形成する工程を含むことができる。変更する材料が
付けられた、または形成された層は、歪みを発生させるか、あるいは材料の結晶
構造を作る原子、および/または、結合の一部またはすべてに力をかけることが
できる。この力または歪みは、材料が低い抵抗又は非常に低い抵抗なのような異
20 なる抵抗特性を示すように、この材料を変更するかもしれない。すなわち、材料
内で力や歪みが発生すると、材料は、材料内の特定の場所、および/または、特
定の領域で、酸素拡散勾配を発生させる、および/または、維持させる、および/
または、材料の結晶構造を、ねじれさせる、歪ませる、開かせる、閉じさせる、
硬くする、または、1 つの場所から別の場所に電子の輸送を容易にする材料内の
25 開口の幾何学的配置を維持するまたは変更するなど、配向および/または幾何学
的配置を維持するか変更するかもしれない。
【0126】
いくつかの実施例では、種々の組成物は、ELR 材料の適切な表面上に付けられ
た、または形成された、1 つまたはそれ以上の変更する材料を含む。図 1-Z は、
ELR 材料 110(本明細書では変更されていない ELR 材料 110 と呼ぶ)と ELR 材料
5 110 の表面に付けられた変更する材料 120 を有する、変更された ELR 材料の組成
物 100(本明細書では変更された ELR 材料 100 と呼ぶ)を示している。
【0129】
いくつかの実施例では、変更する材料 120 は、例えば、クロム、銅、ビスマス、
コバルト、バナジウム、チタン、ロジウム、またはベリリウムなどの金属、また
10 は金属などの金属酸化物であってもよい。いくつかの実施例では、変更する材料
120 は、ELR 材料 110 内に歪みを与えることができる、高い酸素親和性のある材
料、"ゲッター"材料、ELR 材料 110 の格子定数と異なる 1 つまたはそれ以上の格
子定数を有する材料(別の ELR 材料を含む)であるかもしれない。例えば、いく
つかの実施例では、変更する材料 120 は、ELR 材料 110 内に歪みを引き起こすた
15 めに、容易に酸素と結合する、酸素を引きつける、または、酸素を捕まえる材料、
または、酸素含有量および/または ELR 材料内の酸素分布を変更する強い酸素親
和性を有するかもしれない。いくつかの実施例では、変更する材料 120 は、ELR
材 110 内に歪みを引き起こすために、ELR 材料 110 の格子定数と一致しない 1 つ
またはそれ以上の格子定数を有するかもしれない。
20 【0137】
説明したように、組成物 400 は、同じ ELR 材料の(例えば、REBCO)の異なる
形態または変異体の複数の層を含み、これらの同じ ELR 材料の異なる形態は ELR
材料の 1 つまたはそれ以上に歪みを引き起こすかもしれない。例えば、層間の酸
素含有量を変える(例えば、YBCO 中の Os と O7 との間の酸素化学量論/分率を変
25 化させる)と、層内の ELR 材料の結晶構造の結合を歪ませる、層間の格子不整合
を引き起こすかもしれない。また、例えば、層間の ELR 材料の結晶配向を変える
(例えば、ELR 材料の一つの層は a 軸配向を有し、別の層は、b 軸配向性を有す
る)と、層間の格子不整合を引き起こし、それにより同じような歪みを引き起こ
すかもしれない。
【0140】
5 別の ELR 材料または ELR 材料の異なる形態の層で形成されている組成物 300、
400、500 を生成すると、本発明の様々な実施例を、種々の REBCO 材料の間の格
子不整合(例えば、YBCO と NBCO)、または、類似の格子定数(例えば、BSCCO な
ど)を有する他の材料に利用して、ELR 材料の層の種々の層に応力をかける/歪
ませることを可能にする。いくつかの実施例では、追加された歪みは、ELR 材料
10 の結晶構造中の開口の周りのフォノン周波数、および/または、分布及び/又は、
振幅を変更し、ELR 材料の抵抗の低下を可能にし、より高い温度において ELR 状
態で動作するなどの改良された動作特性およびその他の利点を可能にするが、こ
れらに限定されるものではない。
15 7 本願発明のジョセフソン接合に関連する記載
【0220】
図 46A-A~図 46H-A は、本発明の 1 つまたはそれ以上の実施例に係る様々なジ
ョセフソン接合 4600 を示す(図 46A-A ではジョセフソン接合 4600A として、図
46B-A ではジョセフソン接合 4600B として、図 46C-A ではジョセフソン接合 4600C
20 として、図 46D-A ではジョセフソン接合 4600D として、図 46E-A ではジョセフソ
ン接合 4600E として、図 46F-A でジョセフソン接合 4600F として、図 46G-A では
ジョセフソン接合 4600G として、図 46H-A ではジョセフソン接合 4600H として記
載される)。図 46A-A は、バリア 4610 によって分離された二つの ELR 導体 4620
を含むジョセフソン接合 4600A を示す。本発明のいくつかの実施例では、各 ELR
25 導体 4620 は、本発明の様々な実施例係る、改善された動作特性で動作する ELR
材料を含む。例えば、本発明のいくつかの実施例では、各 ELR 導体 4620 は、改
善された動作特性を持つ変更された ELR 材料 1060 を含み、本発明のいくつかの
実施例では、各 ELR 導体 4620 は、改善された動作特性を持つ新しい ELR 材料を
含む。本発明のいくつかの実施例では、各 ELR 導体 4620 は、本発明の様々な実
施例に係るナノワイヤセグメント 4110 を備える。
5 【0221】
本発明のいくつかの実施例では、バリア 4610 は、ELR 導体 4620 の間に配置さ
れ、ELR 導体 4620 に電気的に結合されている絶縁材料を含む。これらの実施例
では、バリア 4610 は、非常に薄く、通常は 30 オングストローム以下であること
が理解される。本発明のいくつかの実施例では、バリア 4610 は、ELR 導体 4620
10 との間に配置された導電性金属などの導電性材料を含む。本発明のいくつかの実
施例では、バリア 4610 は、ELR 導体 4620 との間に配置された強磁性金属などの
導電性材料を含む。これらの実施例では、バリア 4610 は、絶縁材料よりも厚く
てよく、通常は、数ミクロンの厚さを有することが理解される。本発明のいくつ
かの実施例では、バリア 4610 は、ELR 導体 4620 との間に配置された、導電性金
15 属などの半導電性材料を含む。本発明のいくつかの実施例では、バリア 4610 は、
ELR 導体 4620 の材料と異なる ELR 材料などの、他の材料(すなわち、異なる化学
組成、異なる結晶構造、異なる結晶構造の配向、異なる位相、異なる粒界、異な
る臨界電流、異なる臨界温度を有するなどの意味で異なる)を含むが、これらに
限定されるものではない。本発明のいくつかの実施例では、バリア 4610 は、ELR
20 導体 4620 の材料と同じ ELR 材料を含むが、1 つまたはそれ以上の機械的な態様が
異なっている(すなわち、ELR 導体 4620 の厚さと異なる ELR 材料の厚さ、ELR 導
体 4620 の幅と異なる ELR 導体 4620 の幅、または他の機械的な相違)。いくつか
の実施例では、バリア 4610 は、ELR 導体 4620 との間に形成された、部分的なま
たは完全な空隙を含む。これらの実施例では、バリア 4610 は、空気または他の
25 気体で満たされた空隙を含むことができる。ELR 導体 4620 が変更された ELR 材料
1020 を含む本発明のいくつかの実施例では、バリア 4610 は、変更されていない
ELR 材料 360 を含んでもよい。
【0222】
従 来 の ジ ョ セ フ ソ ン 接 合 の 一 般 的 な 種 類 は 、 超 伝 導 体 - 絶 縁 体 -超 伝 導 体
("SIS")、超伝導体-通常導体-超伝導体("SNS")、超伝導体-鉄強磁性金属超
5 伝導体("SFS")、超伝導体-絶縁体-通常導体-絶縁体-超伝導体("SINIS")、超
伝導体-絶縁体-通常導体-超伝導体("SINS"),超電導体-コンストリクション-超
伝導体("SCS")などを含む。図 46I-A は、トンネル接合(SIS)、点接触、
Daydem ブリッジ(SCS)、サンドイッチ接合、種々の厚さのブリッジ、およびイ
オン注入ブリッジ(左から右、上から下)を含むジョセフソン接合のさまざまな
10 例を示すが、これらに限定されるものではない。図 46J-A は、ステップエッジ
SNS 接合、ステップエッジ粒界接合、ランプエッジ接合部、両結晶粒界接合(左
から右、上から下)を含むジョセフソン接合の他の例を示すが、これらに限定さ
れるものではない。本発明の様々な実施例によれば、上記の種類のジョセフソン
接合のいずれかは、従来のジョセフソン接合の超伝導材料の代わりに、上述のよ
15 うな改良された ELR 材料を用いて構成することができる。
【0223】
一般的に言えば、ジョセフソン接合 4600 は、いわゆるジョセフソン効果を示
す。ここでは、ELR 状態で ELR 導体 4620 を通って流れる電流もまた、非常に低い
抵抗状態で ELR 導体 4620 の間の接合部を横切って流れることができる。ジョセ
20 フソン接合は、例えば、バリア 4610 を備えてもよい。バリア 4610 に流れる電流
は、ジョセフソン電流と呼ばれる。臨界電流に達するまで、ジョセフソン電流は、
非常に低い抵抗でバリア 4610 を通って流れることができる。しかし、バリア
4610 の臨界電流を超えると、電圧がバリア 4610 を横切って現れ、次に、この電
圧は、さらに臨界電流を低減し、それによって、バリア 4610 を横切る大きな電
25 圧を生成する。ジョセフソン効果は、理解されるように、様々な回路におけるジ
ョセフソン接合 4600 で利用されてもよい。
【0226】
図 46C-A および図 46D-A は、いわゆる"ワイヤ構成"のジョセフソン接合 4600
を示す。図 46C-A は、本発明の様々な実施例に係る改善された動作特性を示す変
更された ELR 材料を含む ELR 導体 4620 を含むジョセフソン接合 4600C を示す。
5 図 46C-A に示すように、本発明のいくつかの実施例では、ジョセフソン接合
4600C の各 ELR 導体 4620 は、ELR 材料 3110 上に積層された変更する材料 2720 を
含む変更された ELR 材料を含む。本発明のいくつかの実施例では、変更された
ELR 材は、基板 2420 上に積層されてもよい(すなわち、ELR 材料は、基板 2420
上に積層される)。ELR 導体 4620 は、理解されるように、変更された ELR 材料の
10 他の形態を含んでもよい。図示のように、バリア 4610 は、ELR 導体 4620 の間に
配置され電気的に ELR 導体 4620 と結合されている。
以 上
別紙3
本件審決の概要
注:原告の認否を各項の冒頭に示す。
1 本願発明の技術的意義について 〔原告:認める〕
5 本願の特許請求の範囲の記載及び別紙2の本願明細書等の記載によれば、本願
発明の技術的意義は、次のとおりである。
(1) 本願発明は、非常に低い抵抗(ELR)材料で形成された一つ又は複数のコ
ンポーネントを含むジョセフソン接合又はジョセフソン接合を含む回路の発明
である。(【0005】)
10 (2) 従来の超伝導エレメントを使用して動作するデバイスにおいては、電流を最
小抵抗又はゼロ抵抗で輸送する能力を有する様々な成分の高温超伝導(HTS)
材料が利用されてきたが、HTS材料は非常に低い動作温度(例えば、120
K未満の温度)を必要とし、通常は、液体窒素ベースの冷却システム等の高価
なシステムを使用して上記のような動作温度までコンポーネントを冷却する必
15 要があるため、実施コストを増大するなどの問題があった。(【0003】)
(3) 本願発明は、「第1のELR導体」及び「第2のELR導体」に、従来のH
TS材料に関連付けられる転移温度より高い温度において非常に低い抵抗を提
供する、「面及び結晶構造を有するELR材料の第1の層」を含む「改変され
たELR材料」と、「第1の層」の面に結合する「修飾材料の第2の層」とか
20 らなる構成(以下「本願層構造」という。)とし、これらの間に「バリア材
料」を配置して、「ジョセフソン接合」又は「ジョセフソン接合を含む回路」
を構成することにより、上記の課題を解決しようとするものである。(【00
05】、【0011】、【0013】~【0015】)
2 技術常識について
25 (1) 技術常識1 〔原告:争う〕
量子工学ハンドブック(乙1)の記載によれば、「ある種の物質をある温度
(臨界温度)以下に冷やしたときに、抵抗値がゼロとなることを「超伝導」又
は「超電導」という。」ことは、技術常識である(技術常識1)。
(2) 技術常識2 〔原告:認める〕
岩波理化学辞典第5版(乙2)の記載によれば、「2つの超伝導体を弱く結
5 合したときに、電子対がトンネル効果によってその結合部を通過する現象を
「ジョセフソン効果」といい、ジョセフソン効果が生じるように2つの超伝導
体を薄い絶縁膜で隔てるなどして弱く結合するようにしたものを「ジョセフソ
ン接合」という。」ことは、技術常識である(技術常識2)。
3 検討 〔原告:争う〕
10 (1) 本願発明は、本願層構造をとる「第1のELR導体」及び「第2のELR導
体」の間に「バリア材料」を配置して「ジョセフソン接合」又は「ジョセフソ
ン接合を含む回路」を構成する発明であるから、上記技術常識2を踏まえると、
本願発明においては、(ア)「第1のELR導体」及び「第2のELR導体」
がいずれも超伝導状態、すなわち抵抗値がゼロの状態にあり、かつ、(イ)
15 「バリア材料」にジョセフソン効果による電流が流れていることとなる。
そうすると、本願明細書等の記載が実施可能要件を満たすというためには、
本願明細書等に上記(ア)及び(イ)の各事項が記載されている必要がある。
(2) 本願明細書等には、本願発明の実施例として、本願層構造における「改変さ
れたELR材料」としてYBCOを、「修飾材料」としてクロム、バナジウム、
20 ビスマス、銅、コバルト又はチタンを用いて本願層構造とした導体が記載され
ており、これらの導体につき、様々な温度における抵抗値を測定した試験結果
が記載されている(【0051】~「0068】、図14A~21B)。そし
て、これらの試験結果について、「改変されたELR材料」の様々な部分が
「ELR材料」より高い温度において「ELR状態」(本願明細書等において、
25 「ELR状態」とは、ELR材料が非常に低い温度で動作する状態をいい、超
伝導状態を含むものとされている(【0013】、【0015】)。)で動作
することが示されている旨が記載されている(【0052】、【0059】、
【0063】~【0068】)。
しかしながら、図14A~21Bは、いずれも上記の各試験結果を抵抗-
温度曲線で示したグラフであるところ、抵抗値の下限値がゼロとされておらず、
5 各実施例における導体の抵抗値がゼロとなったことを読み取ることはできない。
そうすると、これらの記載において、上記の各実施例における導体の抵抗値が
ゼロであること、すなわち本願発明の「第1のELR導体」及び「第2のEL
R導体」が超伝導状態にあることを示す試験結果等は記載されていない。
以上によれば、本願明細書等に上記(ア)の事項が記載されているものと
10 はいえない。
(3) また、本願明細書等に上記(イ)の事項が記載されているか否かについて検
討すると、本願明細書等には、本願発明における「ジョセフソン接合」の構造
に関する記載(【0220】~【0222】、【0226】)があるほか、本
願発明の「バリア材料」に「ジョセフソン電流」が流れる旨が記載されている
15 (【0223】)。
しかしながら、本願明細書等には、本願発明の「第1のELR導体」及び
「第2のELR導体」の間に配置された「バリア材料」にジョセフソン電流が
流れることを示す試験結果等は記載されていない。かえって、上記(2)で検討
したとおり、本願明細書等には、「第1のELR導体」及び「第2のELR導
20 体」が超伝導状態にあることが記載されているものとはいえないことからすれ
ば、上記【0223】には、超伝導状態にはない導体の間に配置されたバリア
材料にジョセフソン効果が発現するという、前記の技術常識2に反する現象が
生じる旨が記載されていることとなる。そうすると、本願明細書等において、
このような現象が生じ得ることを裏付ける試験結果等が記載されていなければ、
25 当業者は、本願発明を実施することができると認識するものではないというべ
きであるところ、本願明細書等にはそのような記載は存在しない。
以上によれば、本願明細書等には上記(イ)の事項が記載されているもの
とはいえない。
(4) 以上のとおり、本願明細書等には、上記(ア)及び(イ)の各事項が記載さ
れているものとはいえないから、本願明細書等の記載が、その記載及び出願時
5 の技術常識に基づいて、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤を要するこ
となく、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されてい
るものとはいえない。
したがって、本願明細書等の記載は、実施可能要件を満たすものではない。
(5) 請求人は、令和4年7月21日に提出された手続補正書により補正された審
10 判請求書において、
「(2-1)実施可能要件について
本願の請求項 1 に対して、拒絶理由通知では、課題を解決する手段につい
て、段落0219~0232、図46-A~図46H-Aについて、ジョセ
フソン効果の発現がなされていないと認定されています。
15 一方、本願の明細書の図14A-14Gに変更されたELR素材の試験
結果が記載されております。明細書に記載の通り、より高い温度においてE
LR状態で動作するものであり、すなわち、非常に低い抵抗であることは示
されております。そのことは当業者であれば十分実施可能な程度に記載され
ているものであります。すなわち、本願の発明の詳細な説明は、特許法第
20 36 条第 4 項第 1 号の規定には該当しないものと思料致します。」
旨主張する。
上記主張について検討すると、「非常に低い抵抗」に関し、本願明細書の発
明の詳細な説明には、「非常に低い抵抗は、超伝導材料タイプ II の超伝導状
態での磁束流抵抗の大きさと同じような抵抗であり、一般に、0Ω-cm から
25 293K での実質的に純粋な銅の抵抗率の 50 分の 1(1/50)の範囲の抵抗率で表
現することができる。例えば、本明細書で使用されるような、実質的に純粋な
銅は 99.999%の銅である。本発明の様々な実施例では、ELR 材料の部分は0
Ω・cm から 3.36x10-8Ω-cm の範囲の抵抗率を有する。」(【0014】)と
記載されている。
この記載によると「非常に低い抵抗」とは、「改変されたELR材料」が上
5 記の範囲内の抵抗率において動作することを意味するものといえるが、図14
A~14Gには、いずれも導体の抵抗値が記載されているに過ぎず、抵抗率は
記載されていないことから、図14A~14Gに、「改変されたELR材料」
が「非常に低い抵抗」、すなわち「ELR状態」で動作することを示している
とはいえない。
10 加えて、上記(2)で示したように、図14A~14Gには、導体の抵抗値が
ゼロとなったことを読み取ることはできないから、これらの記載から、本願発
明の「第1のELR導体」及び「第2のELR導体」が超伝導状態にあること
を示す試験結果であるということはできない。
そうすると、請求人の上記主張は採用できない。
15 以 上
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