令和4(ワ)7393商標権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
一部認容 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
令和6年8月22日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社ディンクス
株式会社海援隊(以下原告海援隊」といい、原告デ
株式会社マル周
有限会社王様舶来館(以下被告王様舶来館」といい、被 被告株式会社ディンクス
株式会社海援隊(以下原告海援隊」といい、原告デ
株式会社マル周
有限会社王様舶来館(以下被告王様舶来館」といい、被
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法令 |
商標権
商標法38条1項7回 民法709条2回 商標法38条2項2回 商標法36条1項2回 不正競争防止法2条1項20号2回 商標法2条3項1号1回 不正競争防止法4条1回 不正競争防止法3条1項1回
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キーワード |
商標権125回 侵害90回 許諾76回 差止25回 損害賠償24回 実施5回 ライセンス3回
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主文 |
1 被告らは、時計若しくはその包装箱若しくは下げ札に、別紙2被告標章目録
2 被告らは、別紙2被告標章目録記載の各標章を付した時計(ただし、別紙7
3 被告らは、原告ディンクスに対し、連帯して、5万9321円及びこれに対
4 被告マル周は、原告ディンクスに対し、69万9141円及びこれに対する15
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 被告らの反訴請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、原告ディンクスに生じた費用の5分の4及び20
8 この判決は第3項及び第4項に限り、仮に執行することができる。
1 被告らは、時計又はその包装箱若しくは下げ札に、別紙2被告標章目録記載
2 被告らは、別紙2被告標章目録記載の各標章を付した、時計並びにその包装
3 被告らは、原告ディンクスに対し、連帯して、127万0500円及びこれ
4 被告マル周は、原告ディンクスに対し、521万9500円及びこれに対す
1 原告らは、被告らが輸入、製造又は販売する別紙3反訴原告標章目録記載の15
2 原告らは、被告マル周に対し、連帯して、1705万7238円及びこれに
3 原告らは、被告王様舶来館に対し、連帯して、49万5000円及びこれに
4 原告らは、別紙4企業目録記載の企業に対し、別紙5訂正文目録記載の訂正
5 原告らは、被告らが輸入、製造又は販売する別紙3反訴原告標章目録記載の
1 略語の定義
2 訴訟物
5年2月7日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅
2月7日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損
3 前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠(枝番号を含む。以下同じ)並びに
22日、破産手続が開始した後、同破産手続の終結により解散した。なお、
29日に、同譲受けによる商標権の移転登録がなされた。また、アンドリュー
0日、Amazonにおけるアカウントを停止され、当該時計を含むすべての
606万2500円( 2425本×2500円/本)及び同額に対する遅延
29、乙18。なお、別紙8損害額一覧表において当事者の主張が一致する本20
4 争点
1 争点A1(平成30年1月18日時点において、エリム貿易が、本件商標権の
2 争点A2(被告らが他社製造被告製品又は自社製造被告製品(戻り分)を販売
3 争点A3(被告らが他社製造被告製品又は自社製造被告製品(戻り分)に被告
4 争点A4(被告らが自社製造被告製品(未納分)を販売することが、エリム貿
5 争点A5(原告らの権利行使が、権利の濫用又は信義則に反するものといえる
6 争点A6(原告ディンクスの損害)について
7 争点A7(原告ディンクスの損害に関する推定覆滅の可否)について15
0%×5%+20%×95%。なお、計算値は23%であるが、被告らが主
98円+239円))を上回らない。
4%( 100%-6%)の割合で覆滅させることが相当である。
8 争点A8(原告ディンクスの損害賠償請求が、信義則に反するものといえるか
9 争点A9(消滅時効の成否)について
31日から3年前の日である令和元年8月30日までの間、被告製品を合計1
135本(内ワイナックに1095本、A社に同年5月13日に販売した4010
1月頃であり、本訴の提起は、そこから3年以内になされているから、消滅時
10 争点A10(被告らによる本件商標権侵害行為の差止め等の要否)について
11 争点B1(本件申告が、被告らが本件商標権を侵害したという虚偽の内容の
12 争点B2(被告マル周の損害)について
4万円( 1年あたりの平均売上額1045万円×平均利益率30%×4
1年あたりの平均販売本数50本×1本あたり利益額3000円×3年)を下
13 争点B3(被告王様舶来館の損害)について20
1年あたりの平均販売本数50本×1本あたり利益額3000円×3年)を下
14 争点B4(予備的差止対象行為の差止めの必要性)について
1 争点A1(平成30年1月18日時点において、エリム貿易が、本件商標権の
7年3月1日から平成30年2月28日までの間、エリム貿易に対し、本件商10
0%で評価した上で買掛金債権と相殺したとして、これを代物弁済と解しつ
2 争点A2(被告らが他社製造被告製品又は自社製造被告製品(戻り分)を販売
1)、その他の者から購入したと認めるに足りる証拠はない。
3 争点A3(被告らが他社製造被告製品又は自社製造被告製品(戻り分)に被告
4 争点A4(被告らが自社製造被告製品(未納分)を販売することが、エリム貿
5 争点A5(原告らの権利行使が、権利の濫用又は信義則に反するものといえる
6 争点A6(原告ディンクスの損害)について
2月1日から同年12月までの間、被告マル周から直接又はエリム貿易を介
30年2月から令和元年12月までの間、Amazonでの販売に加え、卸
17か所分の配送料相当額を原告製品の利益から控除する(計算上売価
395万1072円で1098本購入したことを前提に、より高額の仕入
5、9及び10))、原告ディンクスが被告マル周から仕入れた他社製造5
9円+17円+3円)であると認められる。
2500円+279円)となる。丸型原告製品の売価は1本あたり596
8円であるから、1本あたりの利益は3189円( 5968円-277
9円)と認める。
7 争点A7(原告ディンクスの損害に関する推定覆滅の可否)について
7)、上記の程度で製品の品質管理に問題があったとしても、直ちに、本
20%の割合で覆滅させることが相当である。10
8 争点A8(原告ディンクスの損害賠償請求が、信義則に反するものといえるか
35、37)が認められる。しかし、これによって本件商標権の侵害が許容さ
9 争点A9(消滅時効の成否)について
740円( 3040円/本×1035本+3189円/本×60本)となる。20
1514円( 333万7740円×110%)となるが、これは、解決金と25
40本販売したこと(乙19)を知ったのは、本件訴訟提起後、被告マル周が
10 争点A10(被告らによる本件商標権侵害行為の差止め等の要否)について
8日に被告マル周がエリム貿易から購入した他社製造被告製品を販売等するこ
11 争点B1(本件申告が、被告らが本件商標権を侵害したという虚偽の内容の
12 争点B4(予備的差止対象行為の差止めの必要性)について
13 原告らは、被告らが令和6年5月2日付け訴えの変更申立書において追加し
21か月後であり、かつ、本件訴訟の終盤である。しかし、上記のとおり、予備
14 以上によれば、原告ディンクスの損害賠償請求は、別紙8損害額一覧表の 裁
951円は弁護士費用)及びこれに対する遅延損害金の支払を、被告王様舶来館20
5万9321円及びこれに対する本訴訴状送達の日の翌日である令和4年9月
7日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の連帯支払、並15
1000」、 SG-1100」 SL-1100」、
1800」、 MJ-7100L」、 MJ-77
00」、 MJ-7700SS」、 MJ-770
0BK」、 MJ-7700GP」及び MJEG
1 MCCEEL JURDACN
2 mchel Jurdacn
35
1 MCCEEL JURDACN
2 mchel jurdacn
35
1 株式会社ワイナック
2 アマゾンジャパン合同会社
1 株式会社ワイナックに対する訂正文
2 アマゾンジャパン合同会社に対する訂正文
1 MJ-1500
2 MJ-1800
3 MJ-7100L5
4 MJ-7700
5 MJ-7700SS
6 MJ-7700BK
7 MJ-7700GP
8 MJEG-731010 |
事件の概要 |
1 略語の定義
本判決において使用する略語は、本文中で適宜定義するもののほか、別紙1略10
語表のとおりである。また、原告ら及び被告らは、時計を収容する外箱を、 外
箱」、 包装箱」 化粧箱」などと記しているが、本判決では 包装箱」で統一
する。
2 訴訟物
(1) 本訴請求15
ア 原告海援隊の請求(前記第1の【本訴請求】第1項及び第2項)
原告海援隊が本件商標権を譲り受けたところ、被告マル周が、中国で生産
し、日本へ輸入した被告製品をワイナックや被告王様舶来館等に販売し、被
告王様舶来館が、遅くとも平成30年10月以降、被告製品をECサイトで
販売したことが、いずれも本件商標権を侵害するとの主張を前提とする、被20
告らに対する、商標権侵害行為による損害を停止又は予防するためになす、
商標法36条1項及び2項に基づく、時計又はその包装箱若しくは下げ札に
被告標章を付し、又は、被告製品を、譲渡し、譲渡のために展示し、所持し、 |
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判決文
令和6年8月22日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和4年(ワ)第7393号 商標権侵害差止等請求事件(本訴)
令和5年(ワ)第455号 損害賠償等請求事件(反訴)
口頭弁論終結日 令和6年6月13日
5 判 決
本訴原告兼反訴被告 株式会社ディンクス
(以下 原告ディンクス」という。)
同代表者代表取締役
本訴原告兼反訴被告 株 式 会 社 海 援 隊
(以下 原告海援隊」といい、原告デ
ィンクスと併せて 原告ら」という。)
同代表者代表取締役
15 上記両名訴訟代理人弁護士 速 見 禎 祥
同 溝 内 伸 治 郎
同訴訟代理人弁理士 石 田 知 里
本訴被告兼反訴原告 株 式 会 社 マ ル 周
20 (以下 被告マル周」という。)
同代表者代表取締役
本訴被告兼反訴原告 有限会社王様舶来館
(以下 被告王様舶来館」といい、被
25 告マル周と併せて 被告ら」という。)
同 代 表 者 取 締 役
上記両名訴訟代理人弁護士 山 田 威 一 郎
主 文
1 被告らは、時計若しくはその包装箱若しくは下げ札に、別紙2被告標章目録
記載の各標章を付し、又は、同標章を付した時計若しくは包装箱若しくは下げ
5 札に同標章を付した時計(ただし、別紙7他社製造被告製品品番目録記載の品
番の時計であって、同標章の付された包装箱若しくは下げ札が付されていない
ものを除く。)を、譲渡し、譲渡のために展示し、所持し、輸出し、輸入し、
若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。
2 被告らは、別紙2被告標章目録記載の各標章を付した時計(ただし、別紙7
10 他社製造被告製品品番目録記載の品番の時計を除く。)、並びに、同標章を付
した、時計の包装箱及び下げ札を廃棄せよ。
3 被告らは、原告ディンクスに対し、連帯して、5万9321円及びこれに対
する令和4年9月7日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支
払え。
15 4 被告マル周は、原告ディンクスに対し、69万9141円及びこれに対する
令和4年9月7日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払
え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 被告らの反訴請求をいずれも棄却する。
20 7 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、原告ディンクスに生じた費用の5分の4及び
原告海援隊に生じた費用を被告らの負担とし、被告マル周に生じた費用の5分
の1及び被告王様舶来館に生じた費用の25分の1を原告ディンクスの負担と
し、その余は各自の負担とする。
8 この判決は第3項及び第4項に限り、仮に執行することができる。
25 事 実 及 び 理 由
第1 請求
【本訴請求】
1 被告らは、時計又はその包装箱若しくは下げ札に、別紙2被告標章目録記載
の各標章を付し、又は、時計又はその包装箱若しくは下げ札に同標章を付した
時計を、譲渡し、譲渡のために展示し、所持し、輸出し、輸入し、若しくは電
5 気通信回線を通じて提供してはならない。
2 被告らは、別紙2被告標章目録記載の各標章を付した、時計並びにその包装
箱及び下げ札を廃棄せよ。
3 被告らは、原告ディンクスに対し、連帯して、127万0500円及びこれ
に対する令和4年9月7日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員
10 を支払え。
4 被告マル周は、原告ディンクスに対し、521万9500円及びこれに対す
る令和4年9月7日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払
え。
【反訴請求】
15 1 原告らは、被告らが輸入、製造又は販売する別紙3反訴原告標章目録記載の
標章を付した時計が、商標登録第2696178号の商標権を侵害するとの事
実を告知、流布してはならない。
2 原告らは、被告マル周に対し、連帯して、1705万7238円及びこれに
対する令和5年2月7日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を
20 支払え。
3 原告らは、被告王様舶来館に対し、連帯して、49万5000円及びこれに
対する令和5年2月7日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を
支払え。
4 原告らは、別紙4企業目録記載の企業に対し、別紙5訂正文目録記載の訂正
25 文を、本判決確定の日から10日以内に送付せよ。
〔反訴請求の趣旨第1項に対する予備的請求〕
5 原告らは、被告らが輸入、製造又は販売する別紙3反訴原告標章目録記載の
標章を付した時計のうち、品番が MJ-1500」、 MJ-1800」、
MJ-7100L」、 MJ-7700」、 MJ-7700SS」、 M
J-7700BK」、 MJ-7700GP」及び MJEG-7310」の
5 時計を、別紙3反訴原告標章目録記載の標章を付した包装箱を付けずに販売す
る行為が、商標登録第2696178号の商標権を侵害するとの事実を告知、
流布してはならない。
第2 事案の概要
1 略語の定義
10 本判決において使用する略語は、本文中で適宜定義するもののほか、別紙1略
語表のとおりである。また、原告ら及び被告らは、時計を収容する外箱を、 外
箱」、 包装箱」 化粧箱」などと記しているが、本判決では 包装箱」で統一
する。
2 訴訟物
15 (1) 本訴請求
ア 原告海援隊の請求(前記第1の【本訴請求】第1項及び第2項)
原告海援隊が本件商標権を譲り受けたところ、被告マル周が、中国で生産
し、日本へ輸入した被告製品をワイナックや被告王様舶来館等に販売し、被
告王様舶来館が、遅くとも平成30年10月以降、被告製品をECサイトで
20 販売したことが、いずれも本件商標権を侵害するとの主張を前提とする、被
告らに対する、商標権侵害行為による損害を停止又は予防するためになす、
商標法36条1項及び2項に基づく、時計又はその包装箱若しくは下げ札に
被告標章を付し、又は、被告製品を、譲渡し、譲渡のために展示し、所持し、
輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供することの差止請求権、
25 並びに、被告製品並びにその包装箱及び下げ札の廃棄請求権
イ 原告ディンクスの請求(同第3項及び第4項)
原告ディンクスは、本件商標権について、時計を許諾商品として独占的通
常使用権を許諾され、平成30年2月1日から現在まで、本件商標を使用し
た時計を製造販売していたところ、被告マル周が、令和元年11月までに、
上記アのとおり本件商標権を侵害する被告製品を少なくとも3000本販
5 売し、被告王様舶来館が、内300本について被告マル周から仕入れ、販売
したとの主張を前提とする、
(ア) 被告マル周に対する、民法709条に基づく、本件商標権侵害による損
害賠償金649万円(うち59万円は弁護士費用)及び同額に対する本訴
訴状が被告マル周に送達された日の翌日である令和4年9月7日から支
10 払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の請求権。
ただし、被告マル周が被告王様舶来館に被告製品を販売し、被告王様舶来
館が顧客に販売したものについて、損害が二重に認められるものではない
から、同請求の内、後記(イ)の被告王様舶来館に対する請求と同額の部分に
ついては同被告との連帯となる。(上記の請求中、521万9500円の
15 請求(附帯請求を含む。)について、被告マル周のみに対する請求)
(イ) 被告王様舶来館に対する、民法709条に基づく、本件商標権侵害によ
る損害賠償金127万0500円(うち11万5500円は弁護士費用)
及び同額に対する本訴訴状が被告王様舶来館に送達された日の翌日であ
る令和4年9月7日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合
20 による遅延損害金の請求権(ただし、全額について被告マル周と連帯とな
る。)
(ウ) なお、後記のとおり、原告ディンクスが請求原因として整理した損害額
は、被告マル周が賠償すべき損害額が391万5744円、被告王様舶来
館が賠償すべき損害額が10万4923円(いずれも附帯請求分を除く。)
25 であり、前記各請求額とは異なっている。
(2) 反訴請求
ア 被告らの請求(前記第1の【反訴請求】第1項及び第5項)
〔主位的請求(第1項)〕
原告らが、共同して、被告マル周の取引先で被告製品をAmazonにお
いて販売していたワイナック及びアマゾンに対し(ワイナックに対しては令
5 和元年10月頃、アマゾンに対しては同年12月頃)、ワイナック及び被告
マル周から被告製品を仕入れ、Amazonにおいて販売していた被告王様
舶来館における被告製品の販売行為が原告ディンクスの商標権を侵害する
旨の虚偽の事実を告知又は流布し、被告らの営業上の信用を害したことによ
る、原告らに対する、不正競争防止法3条1項に基づく信用毀損行為の差止
10 請求権
〔予備的請求(第5項)〕
被告マル周は、平成30年1月18日当時、本件商標権について独占的通
常使用権の許諾を受けていたエリム貿易から他社製造被告製品を購入した
ことから、被告らが他社製造被告製品について反訴原告標章を付した包装箱
15 を付けずに販売する行為は、本件商標権の侵害に該当しないところ、今後、
被告らがこのような方法で他社製造被告製品の在庫品を販売する行為が本
件商標権の侵害に該当するとの虚偽の事実を原告らが告知、流布すれば、被
告らの営業上の信用が害されることによる、原告らに対する、不正競争防止
法3条1項に基づく営業誹謗行為の差止請求権。なお、予備的請求は、主位
20 的請求に包含される一部請求である。
イ 被告マル周の請求(同第2項)
原告らがなした前記アの主位的請求の信用毀損行為により、被告マル の
営業上の利益が侵害されたとする、原告らに対する、不正競争防止法4条に
基づく、損害賠償金1705万7238円(うち155万0658円は弁護
25 士費用)及び同額に対する反訴状が原告らに送達された日の翌日である令和
5年2月7日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅
延損害金の請求権(連帯)
ウ 被告王様舶来館の請求(同第3項)
原告らがなした前記アの主位的請求の信用毀損行為により、被告王様舶来
館の営業上の利益が侵害されたとする、原告らに対する、不正競争防止法4
5 条に基づく、損害賠償金49万5000円(うち4万5000円は弁護士費
用)及び同額に対する反訴状が原告らに送達された日の翌日である令和5年
2月7日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損
害金の請求権(連帯)
エ 被告らの請求(同第4項)
10 被告らの、原告らに対する、不正競争防止法14条に基づく、前記アの主
位的請求の信用毀損行為によって被告らに必要となった営業上の信用回復
措置としての訂正文送付請求権
3 前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠(枝番号を含む。以下同じ)並びに
弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
15 (1) 当事者等
ア 原告海援隊は、商標権のライセンス管理業務、商品製造企画、これらに伴
うコンサルティング業務等を行う会社である。
イ 原告ディンクスは、時計、バッグ、アクセサリー等の製造 販売を行う会
社である。原告ディンクスは、本件商標を付した時計を製造 販売している。
20 ウ 被告マル周は、時計及び関連商品の製造、輸入、国内卸等を行う会社であ
る。被告マル周は、平成30年1月頃まで、後記のエリム貿易からの委託に
基づき、被告標章を付した時計を主に中国で製造し、同社に販売していた。
また、被告マル周は、遅くとも同年12月以降、時計並びにその包装箱及び
下げ札(以下、包装箱及び下げ札を総称して 包装箱等」という。)に被告
25 標章を付した被告製品を、ワイナックや被告王様舶来館等に販売した。
エ 被告王様舶来館は、ECサイト 王様舶来館」の管理 運営、時計の販売
等の事業を行う会社である。被告王様舶来館は、遅くとも令和元年10月以
降、楽天市場やAmazon等のECサイトを通じて被告製品を販売し、又
は販売のために展示し、所持していた。
オ ワイナックは、被告マル周から被告製品を購入し、Amazon等で販売
5 していた会社である。
カ アンドリュースは、本件商標について、商標登録出願をし、最初の商標権
者であった会社である。
キ エリム貿易は、アンドリュースとの間で、本件商標権について、紳士 婦
人腕時計を許諾商品とする独占的通常使用権の許諾を受け、本件商標を付し
10 た時計を製造、販売していた会社である。しかし、エリム貿易は、平成30
年2月28日に廃業し、同年3月14日頃、別件破産事件を申し立て、同月
22日、破産手続が開始した後、同破産手続の終結により解散した。なお、
エリム貿易とアンドリュースとの間の独占的通常使用権の許諾期間につい
ては争いがある。(乙3、14ないし16)
15 (2) 被告マル周は、平成30年1月18日、エリム貿易から、他社製造被告製品
を2126本購入した。また、被告マル周は、同日、エリム貿易から、自社製
造被告製品(戻り分)を514本譲り受けた。なお、後記のとおり、この譲受
けが、返品か買戻しかは争いがある。(乙1、2)
(3) 原告ディンクス及びアンドリュースは、平成30年2月3日、アンドリュー
20 スが原告ディンクスに対し、同月1日から令和5年1月31日まで、本件商標
について許諾商品を時計とする独占的通常使用権を許諾する、商標等使用許諾
契約を締結した(甲3)。
(4) 原告海援隊は、アンドリュースから本件商標権を譲り受け、令和元年11月
29日に、同譲受けによる商標権の移転登録がなされた。また、アンドリュー
25 ス及び原告らは、同年12月3日及び4日、上記原告ディンクスに対する独占
的通常使用権の許諾者としての地位が原告海援隊に移転したことを相互に確
認した。(甲1、4、5)
(5) 原告ディンクスは、令和元年10月頃、ワイナックが、Amazonにおい
て、原告ディンクスが製造 販売する商品ではない時計に MCCEEL J
URDACN」の標章を付して販売し、本件商標権を侵害しているとして、ア
5 マゾンを通じて侵害報告を行った。これにより、ワイナックは、同年11月1
0日、Amazonにおけるアカウントを停止され、当該時計を含むすべての
時計を販売することができなくなった。
その後、ワイナックが原告ディンクスに対し、被告マル周から侵害品たる被
告製品を仕入れ、少なくとも2425本を販売したことを開示した上で、原告
10 ディンクスとワイナックは、令和2年1月29日、ワイナックが本件商標権に
関する商標権侵害を認め、ワイナックが、原告ディンクスに対し、損害賠償金
606万2500円( 2425本×2500円/本)及び同額に対する遅延
損害金の支払義務を負うことを認め、内460万円を解決金として支払うこと
並びにワイナックが保有する在庫を原告ディンクスに引き渡すこと(第三者に
15 預託している場合、預託先から返却を受けた後に原告ディンクスに引き渡すこ
と)を主たる内容とする和解契約(以下 本件和解契約」という。)を締結し
た。
ワイナックは、同月30日、同和解契約に基づき、原告ディンクスに対し、
解決金として460万円を支払い、後記のとおり、保有在庫を原告ディンクス
20 に引き渡した。(甲6)
(6) 原告ディンクスは、令和元年12月頃、アマゾンに対し、被告王様舶来館に
よる被告標章を付した時計の販売が、本件商標権を侵害していると申告した
(以下、(5)記載の、ワイナックに関する申告行為と併せて、 本件申告」とい
う。)。これにより、被告王様舶来館は、同月30日、Amazonにおける
25 被告標章を付した時計の販売を停止された。(乙13)
(7) ワイナックは、本件和解契約に基づいて支払った460万円について、侵害
品の仕入先である被告マル周に対して求償等を求める別件訴訟を提起した。な
お、原告ディンクスは、別件訴訟において、ワイナックの補助参加人として参
加した。
被告マル周及びワイナック並びに原告ディンクスは、令和4年3月29日、
5 別件訴訟の第11回弁論準備手続期日において、被告マル周がワイナックに対
し、本件和解契約に基づく解決金の求償分として251万6580円の支払義
務があることを認めること等を内容とする訴訟上の和解をした(以下 別訴和
解」という。)。このとき、ワイナックと被告マル周との間及びワイナックと
原告ディンクスとの間では、清算条項が定められたが、被告マル周と原告ディ
10 ンクスとの間では清算条項が定められなかった。(甲7)
(8) 本件商標と被告標章及び反訴原告標章は類似し、かつ、商品も類似している
(当事者も争っていない。)。
(9) 原告ディンクスが製造販売する本件商標を付した時計(以下 原告製品」と
いう。)は、品番に MJ」を含むものと SG」又は SL」を含むものが
15 ある。このうち、品番に MJ」を含むものは、他社製造被告製品と同様に、
ケース部分が丸いもの(以下 丸型原告製品」という。)であり、 SG」又
は SL」を含むものは、自社製造被告製品と同様のトノー型(以下 トノー
型原告製品」という。)である。
(10) 被告らが販売した被告製品の数量及びその商流は以下のとおりである(甲
20 29、乙18。なお、別紙8損害額一覧表において当事者の主張が一致する本
数については争いがない。)。
ア 被告マル周からワイナックに販売され、同社が需要者に販売したもの
他社製造被告製品60本及び自社製造被告製品2259本。なお、ワイナ
ックは、被告製品の約95%をAmazonで、残り約5%を小売店で販売
25 していた。
イ 被告マル周からワイナック以外の3社(以下 A社、B社、C社」という。)
に販売されたもの
他社製造被告製品162本
ウ 被告マル周から被告王様舶来館に販売後、被告王様舶来館から需要者に販
売済みのもの
5 他社製造被告製品25本
エ 被告マル周からワイナックに販売後、ワイナックから原告ディンクスに引
き渡されたもの
自社製造被告製品302本及び他社製造被告製品8本。内自社製造被告製
品301本及び他社製造被告製品8本は、本件和解契約に基づき、原告ディ
10 ンクスに無償で引き渡され、内自社製造被告製品1本は、原告ディンクスが、
本件商標権侵害の調査目的でワイナックから購入した。
オ 被告マル周から被告王様舶来館に販売された後、原告ディンクスが、被告
王様舶来館から、本件商標権侵害の調査目的で購入したもの
他社製造被告製品2本
15 (11) 被告マル周がエリム貿易から購入した他社製造被告製品は、包装箱の付い
た状態のものではなかったが、被告らは、製品を販売する際、被告標章を付し
た包装箱等を付していた(甲8、9)。
(12) 原告ディンクスは、上記(10)エでワイナックから引き渡された自社製造被告
製品301本及び他社製造被告製品8本を、本件口頭弁論終結時まで保管して
20 おり、販売していない。
(13) 被告らは、令和5年2月3日、エリム貿易の代表取締役であったP1(大阪
市(以下略))に対し、訴訟告知を行い、同訴訟告知書は、同月7日、同人に
送達された(当裁判所に顕著)。
(14) 被告らは、令和5年12月26日、本件第7回弁論準備手続期日において、
25 原告ディンクスの被告マル周に対する損害賠償請求のうち、本訴が提起された
令和4年8月31日より3年前の日である令和元年8月30日までに被告マ
ル周が被告製品を販売したことによって発生した損害賠償請求権につき、消滅
時効を援用するとの意思表示をした(当裁判所に顕著)。
4 争点
(1) 本訴請求に関する争点
5 ア 平成30年1月18日時点において、エリム貿易が、本件商標権の通常使
用権者としての地位を有していたか(争点A1)
イ 被告らが他社製造被告製品又は自社製造被告製品(戻り分)を販売するこ
とが、エリム貿易から許諾され、又は、実質的に本件商標権を侵害しないと
いえるか(争点A2)
10 ウ 被告らが他社製造被告製品又は自社製造被告製品(戻り分)に被告標章が
付された包装箱等を付して販売することが、エリム貿易から許諾され、又は、
実質的に本件商標権を侵害しないといえるか(争点A3)
エ 被告らが自社製造被告製品(未納分)を販売することが、エリム貿易から
許諾されていたといえるか(争点A4)
15 オ 原告らの権利行使が、権利の濫用又は信義則に反するものといえるか(侵
害論)(争点A5)
カ 原告ディンクスの損害(争点A6)
キ 原告ディンクスの損害に関する推定覆滅の可否(争点A7)
ク 原告ディンクスの損害賠償請求が、信義則に反するものといえるか(損害
20 論)(争点A8)
ケ 消滅時効の成否(争点A9)
コ 被告らによる本件商標権侵害行為の差止め等の要否(争点A10)
(2) 反訴請求に関する争点
ア 本件申告が、被告らが本件商標権を侵害したという虚偽の内容のものであ
25 ったか(争点B1)
イ 被告マル周の損害(争点B2)
ウ 被告王様舶来館の損害(争点B3)
エ 被告らが、他社製造被告製品に、反訴原告標章を付した包装箱等を付けず
に販売する行為について、本件商標権を侵害するとの事実を告知、流布する
行為(以下 予備的差止対象行為」という。)の差止めの必要性(争点B4)
5 第3 争点に関する当事者の主張
1 争点A1(平成30年1月18日時点において、エリム貿易が、本件商標権の
通常使用権者としての地位を有していたか)について
【被告らの主張】
エリム貿易は、平成29年以前から、アンドリュースから本件商標権につい
10 て、独占的通常使用権の許諾を受けており、かかる許諾は、少なくとも、原告デ
ィンクスがアンドリュースから本件商標権について独占的通常使用権の許諾を
受けた平成30年2月3日までの間、継続していた。よって、被告マル周がエリ
ム貿易から他社製造被告製品を買い受け、又は、自社製造被告製品の戻しを受け
た同年1月18日時点で、エリム貿易は本件商標権の通常使用権者であったか
15 ら、被告マル周は、正当な使用許諾権を付与された者からこれらの被告製品を購
入したものである。
原告らは、エリム貿易がアンドリュースに実施料を支払っていなかったこと
から、同日時点で、同許諾が解除されていたと主張するが、アンドリュースは、
同年1月分及び2月分の支払を免除しており、債務不履行に基づく解除はなさ
20 れていない。
【原告らの主張】
エリム貿易は、従前、アンドリュースから本件商標権について独占的通常使用
権の許諾を受けていたものであるが、平成30年3月22日に、別件破産事件を
申し立てており、これに先立つ同年1月時点で、通常使用権の実施料を支払って
25 いなかった。このような状況において、アンドリュースは、同年2月3日、原告
ディンクスに対し、本件商標権について独占的通常使用権を許諾した。また、別
件破産事件において、エリム貿易の破産管財人は、同年1月時点で、同社には本
件商標権についての使用許諾権が付与されていなかったことを前提として、管
財業務を行った。
以上の事実を踏まえると、エリム貿易の本件商標権に関する通常使用権の許
5 諾は、同月18日時点で、同社の債務不履行により解除されており、同日時点で、
同社は本件商標権を実施することができなかったものというべきである。よっ
て、被告マル周は、同日、いずれも正当な使用許諾権が付与されていなかった者
から被告製品を譲り受けたものである。
2 争点A2(被告らが他社製造被告製品又は自社製造被告製品(戻り分)を販売
10 することが、エリム貿易から許諾され、又は、実質的に本件商標権を侵害しない
といえるか)について
【被告らの主張】
他社製造被告製品は、平成30年1月18日、被告マル周が本件商標権の独占
的通常使用権者であるエリム貿易から購入したものであり、その販売はエリム
15 貿易から許諾されていたといえる。
被告マル周は、同日、エリム貿易から自社製造被告製品(戻り分)を譲り受け
ているが、この譲受けの性質は返品ではなく、買戻し(ないし代物弁済)であっ
た。したがって、自社製造被告製品(戻り分)は、正当な使用許諾権を付与され
ていたエリム貿易から購入したものにすぎない。
20 また、自社製造被告製品(戻り分)は、一度エリム貿易に納品されており、そ
の管理下で品質が保証されていたのであるから、これを販売したとしても、商標
の品質保証機能は害されず、本件商標権侵害に関する実質的違法性が認められ
ない。
【原告らの主張】
25 仮に、平成30年1月18日時点でエリム貿易が本件商標権の独占的通常使
用権者であったとしても、被告らが同年2月1日以降販売した他社製造被告製
品及び自社製造被告製品(戻り分)が、被告マル周が同年1月18日にエリム貿
易から譲り受けたものであるかは明らかでないし、同製品が、エリム貿易が使用
許諾を受けていた範囲で製造されたものであるかも明らかではない。
また、被告マル周が同日に自社製造被告製品(戻り分)を譲り受けた行為の実
5 体は、返品であり、元の売買契約を解除した上で、その原状回復をなすためのも
のであった。この場合、買主は、売主に対し、売主又は製品供給者として通常負
うべき瑕疵担保責任を負わないことが通常である。したがって、返品された商品
が、再度、流通過程に置かれた場合、商標権者の意思に基づき、適法に流通に置
かれたものとは評価できず、商標の出所表示機能や品質保証機能は害される。し
10 たがって、本件商標権侵害に関する実質的違法性は認められる。
よって、被告マル周による、他社製造被告製品又は自社製造被告製品(戻り分)
の販売行為は、本件商標権を侵害する。
3 争点A3(被告らが他社製造被告製品又は自社製造被告製品(戻り分)に被告
標章が付された包装箱等を付して販売することが、エリム貿易から許諾され、又
15 は、実質的に本件商標権を侵害しないといえるか)について
【原告らの主張】
被告マル周は、平成30年1月18日、エリム貿易から包装箱が付されていな
い他社製造被告製品を購入した後又は自社製造被告製品(戻り分)の返品を受け
た後、自ら、被告標章が付された包装箱等を付けて転売しており、かかる行為は、
20 それ自体、商標法2条3項1号又は2号の使用に該当するから、商標権者から改
めて再使用許諾を受けなければならないが、被告らはかかる許諾を得ておらず、
かつ、これを正当化すべき理由もない。
よって、被告らによる、他社製造被告商品又は自社製造被告製品(戻り分)の
販売行為は、本件商標権を侵害する。
25 【被告らの主張】
上記1のとおり、他社製造被告製品(時計)は、本件商標権の正規許諾製品で
ある。被告マル周は、被告標章が付された包装箱等を製造し、これを付して他社
製造被告製品を販売したものであるが、これらの包装箱等は、被告マル周がエリ
ム貿易からの発注を受けて製造したものであった。したがって、エリム貿易は、
被告らが、被告標章が付された包装箱等を付して他社製造被告製品を販売する
5 ことを了承していたものである。
また、自社製造被告製品(戻り分)は、被告マル周がエリム貿易に納入後、買
い戻した製品である。商標権者等が販売した商品を再包装して販売する行為は、
それ自体、商標権者等の使用権を侵害するものではないし、登録商標に対する信
頼を害するものではないから、本件商標権侵害に関する実質的違法性が認めら
10 れない。加えて、上記のとおり、包装箱等は、被告マル周がエリム貿易から発注
を受けて製造したものであり、エリム貿易は、被告らが、被告標章が付された包
装箱等を付して自社製造被告製品を販売することを了承していた。
4 争点A4(被告らが自社製造被告製品(未納分)を販売することが、エリム貿
易から許諾されていたといえるか)について
15 【被告らの主張】
エリム貿易は、被告マル周に対し、発注数以上の被告製品やその部品を製造す
ること、時計本体やベルトを保有し、これらを組み合わせて完成品とすることを
許諾していた。自社製造被告製品(未納分)は、平成30年1月までの間に、エ
リム貿易のこのような指示及び許諾を得て製造されたものである。
20 よって、被告らによる自社製造被告製品(未納分)の販売は、本件商標の正当
な使用許諾権を付与されていたエルム貿易の使用許諾のもとでなされたもので
あり、本件商標権を侵害しない。
【原告らの主張】
被告らの主張を前提としても、被告らは、エリム貿易のために製造して納品す
25 る限度で許諾されていたものであり、独自に、自社製造被告製品を販売すること
までも許諾されていたものではない。
また、再使用権者による商標の使用を認める再使用許諾権は、それによって、
使用権者の商品販売と競合し、売上に影響するおそれがあることなどから、商標
権者としても利害関係があり、明示的な定めなく、認められるようなものではな
い。しかし、被告らは、アンドリュースとエリム貿易の間で再使用許諾権が付与
5 されていたことについて何ら主張立証していない。
仮に、エリム貿易が、平成30年1月当時、再使用許諾権付の使用許諾を得た
上で、被告マル周に対し、自社製造被告製品(未納分)を独自に販売することま
で許諾していたとしても、同年2月以降は、原告ディンクスが本件商標権に係る
独占的通常使用権の許諾を受けていたのであるから、その時点で、被告らの再使
10 用権は存在しなくなっている。
よって、被告らによる、自社製造被告製品(未納分)の販売行為は、本件商標
権を侵害する。
5 争点A5(原告らの権利行使が、権利の濫用又は信義則に反するものといえる
か(侵害論))について
15 【被告らの主張】
(1) 原告ディンクスについて
被告マル周は、少なくとも平成30年1月までの間、本件商標権の独占的通
常使用権者であったエリム貿易からの要望を受け、自社製造被告製品を製造し
ていたほか、エリム貿易からの注文に柔軟かつ即時に対応できるよう、完成品
20 や部品の多数の在庫を抱える必要があった。
一方、原告ディンクス及びエリム貿易の近しい関係性に鑑みれば、原告ディ
ンクスは、エリム貿易から独占的通常使用権者の地位を引き継いだ後、それま
での間、エリム貿易からの委託等に基づき、被告製品を製造、販売し、多数の
在庫を抱えていた被告マル周に損失を与えないように、在庫品の買取り等をす
25 るなど適宜の対応をとるべき信義則上の義務を負っていた。
しかし、原告ディンクスは、被告製品の一部を購入して正規品として販売し
ておきながら、その他の被告製品については、商標権侵害品であると主張した
り、アンドリュースから独占的通常使用権を許諾されたときに、被告マル周に
対し、エリム貿易が通常使用権者ではなくなったことを告げることもなく、そ
のまま、顧客から引合いのあった分の被告製品を発注し、被告らの販売行為を
5 誘発させた上で損害賠償請求等をなしたりしており、上記信義則上の義務に反
することはもちろん、本件商標権を濫用している。
よって、原告ディンクスの被告らに対する請求は、信義則に反し、権利の濫
用に該当するものであるから認められない。
(2) 原告海援隊について
10 商標権者が自己の保有する登録商標に関して使用許諾契約を行う場合、その
ブランド価値を維持するため、使用権者を適切に管理する必要があり、許諾製
品の製造委託先の情報等を報告させることが一般的である。そうすると、アン
ドリュースはエリム貿易からの委託を受け、被告マル周が被告製品を製造、販
売していた状況を把握していたものといえ、そうであるならば、アンドリュー
15 スは、エリム貿易との使用許諾契約を解除する際には、被告製品や在庫品等を
買い受けたり、新たな使用権者に買い取らせたりする等の方法で、被告マル周
への被害を最小限に抑えるように努力すべき信義則上の義務を負っていた。
よって、仮に、本件商標権をアンドリュースが保有し続けていた場合、アン
ドリュースが被告らに対し、差止請求権を行使することは明らかに不当である
20 ところ、原告海援隊は、アンドリュースから本件商標権を譲り受けた以上、信
義則上の義務に違反した状態も引き継いだのであるから、原告海援隊が被告ら
に対し差止請求権を行使することは、信義則に反し、認められない。
【原告ディンクスの主張】
商標権者との間で新たに使用許諾契約を締結した者が、旧使用権者のもとで行
25 われていた取引関係について当然にこれを引き継いだり、取引関係者の利益を確
保したりすべき法的義務はない。
原告ディンクスが、独占的通常使用権者として商標権を行使することは、法的
に認められた権利行使であり、不当性はなく、信義則違反も権利濫用も認められ
ない。
【原告海援隊の主張】
5 製造委託先が、使用権者からの注文に即応するために、一定の在庫を抱えるべ
き法的義務はなく、被告マル周が被告製品について在庫を抱えていたとしても、
それは、被告マル周の選択にすぎない。また、使用権者が変わった際、旧使用権
者の取引先が抱える在庫を、新たな使用権者が引き受けるなどし、旧使用権者の
取引先の損失を補填すべき法的義務はなく、このような問題は、もっぱら、旧使
10 用権者と当該取引先の間の契約において解消されるべき問題である。
よって、原告海援隊に、信義則違反は認められない。
6 争点A6(原告ディンクスの損害)について
争点A6に関する当事者の主張は、別紙8 損害額一覧表」の 原告ディンク
スの主張」欄及び 被告らの主張」欄に記載のとおりである。
15 7 争点A7(原告ディンクスの損害に関する推定覆滅の可否)について
【被告らの主張】
(1) 販売可能数量について
ア ワイナック販売分について
本件商標は、市場において高い知名度を有するものではなく、かつ評価も
20 低い。したがって、被告製品が販売されていなかった場合、被告製品の需要
者の一定割合は、デザインや価格帯が似通った他社製品を購入していたもの
といえる。特に、被告商品が販売されていた小売店の顧客は、フランクミュ
ラー風のデザインと安価な価格にひかれて被告製品を購入したものと考え
られ、本件商標の顧客誘引力により被告製品を購入した者はごくわずかであ
25 る。
また、原告ディンクスが海外から輸入して販売している原告製品には、裏
蓋に、本件商標のことを mchel Jurdcn」と誤って刻印して
いたようなものもあり、原告らが、適切なブランド管理をしていたとも考え
難く、本件商標による需要者の信用維持がなされているとはいえない。
さらに、原告ディンクスは、Amazonにおいて、原告製品のケースの
5 素材を偽って販売しており、なお、需要者の信用維持機能が低下している。
以上の点を踏まえると、ワイナック販売分については、少なくとも、小売
店販売分について80%、Amazon販売分について20%の割合で、原
告ディンクスでは販売することができなかった事情があるというべきであ
る。
10 よって、被告マル周のワイナック販売分の損害については、22%( 8
0%×5%+20%×95%。なお、計算値は23%であるが、被告らが主
張する割合は22%である。)の割合で商標法38条1項による推定を覆滅
させることが相当である。
イ A社、B社及びC社販売分について
15 A社、B社及びC社の商流は明らかではないが、Amazonで販売して
いたとすれば、侵害申告がなされていたものと考えられるから、その主たる
市場はAmazon以外であったものといえる。
そうすると、上記アの小売店における覆滅事情と同様に、本件商標のブラ
ンド価値等を踏まえると、80%の割合で商標法38条1項による推定を覆
20 滅させることが相当である。
ウ 被告王様舶来館販売分について
被告王様舶来館は、Amazonにおいて被告製品を販売していたとこ
ろ、上記アのとおり、Amazonにおける販売については、20%の割合
で商標法38条1項による推定を覆滅させることが相当である。
25 (2) 包装箱等部分のみが本件商標権を侵害することについて
被告製品のうち、他社製造被告製品は、被告マル周が、使用許諾権を有して
いたエリム貿易から購入したものであり、これを販売すること自体は本件商標
権を侵害しない。そうすると、他社製造被告製品と同型の丸型原告製品に関す
る本件商標権侵害による損害は、包装箱等部分のみから生じるところ、上記の
とおり、そもそも、包装箱等のみでは、顧客誘引力はない。また、仮に損害が
5 発生するとしてもその割合は、丸型原告製品の仕入価格3598円に対し、包
装箱の仕入価格が239円であることを考慮し、約6%( 239円÷(35
98円+239円))を上回らない。
よって、丸型原告製品に関する商標法38条1項による損害額の推定は、9
4%( 100%-6%)の割合で覆滅させることが相当である。
10 【原告ディンクスの主張】
(1) 販売可能数量について
ア ワイナック販売分について
本件商標は、ブランド名鑑にも掲載される人気のあるブランドであり、エ
リム貿易や原告ディンクスがライセンス料を支払ってでも製造販売をしよ
15 うと考えるようなものであった。また、本件商標は、手ごろな価格でフラン
スのデザイナーを意識した高級感がある時計が得られるとのイメージを作
出しており、需要者もそのイメージを高く評価していた。
原告ディンクスは、ワイナックが被告製品を販売していた時期を含めて、
特段の問題なく原告製品を販売できていたのであるから、管理が杜撰であっ
20 たり、売上の低下が生じる状態であったりしていたとはいえない。
以上のとおり、被告らが指摘する推定覆滅事由は、いずれも、商標法38
条1項による損害額の推定を覆滅させるようなものではない。
イ A社、B社及びC社販売分について
上記アに加え、推定覆滅事由は、被告らに主張立証責任があるところ、そ
25 もそも、被告らは、A社、B社及びC社の具体的名称や業態を明らかにして
いない。そうすると、これらの者が、どこでどのように販売していたかが明
らかではない以上、商標法38条1項による損害額の推定を覆滅し得ない。
ウ 被告王様舶来館販売分について
上記アのとおり、Amazonにおける販売について、推定の覆滅事由は
ない。
5 (2) 包装箱等部分のみが本件商標権を侵害することについて
時計の需要者は、たとえブランドの時計であっても、商標が付されていない
無地の包装箱に入っている時計を好んで購入することはない。また、使用許諾
もなく、正規代理店でもない販売店にとってみれば、ブランドロゴが入った包
装箱があるか否かは、需要者に対する顧客誘引力を大きく左右することから、
10 重要な問題となる。
原告製品のようなブランドの時計の本質的特徴は MCCEEL JURD
ACN」という本件商標が付されていることであり、売上の源泉はこの点に集
約されるといえる。
そうすると、他社製造被告製品について、包装箱等を付したことのみが本件
15 商標権侵害に該当するとしても、そのことによって、本件商標権侵害と因果関
係がある損害が左右されるものではない。
8 争点A8(原告ディンクスの損害賠償請求が、信義則に反するものといえるか
(損害論))について
【被告らの主張】
20 原告ディンクスがAmazonにおいて販売している原告製品のカバーは、
ステンレス製ではなく、より安価な合金ステンレスメッキ製となっている。しか
し、原告ディンクスは、Amazonの商品説明において、これをステンレス製
と偽って表示しており、かかる虚偽表示は、不正競争防止法2条1項20号や不
当景品類及び不当表示防止法5条1号に違反しているものである。
25 このように、違法に販売されている原告製品について、その逸失利益の賠償を
求めることは、クリーンハンズの原則に違反し、信義則上、認められない。
【原告ディンクスの主張】
原告製品のカバーの大部分を占める裏蓋部分はステンレス製であり、原告製
品の表示に特段の虚偽はない。
また、被告らの主張は、自らの本件商標権侵害とは何ら関係がない事実を論難
5 しているにすぎない。
9 争点A9(消滅時効の成否)について
【被告らの主張】
被告マル周は、平成30年12月20日以後、本訴が提起された令和4年8月
31日から3年前の日である令和元年8月30日までの間、被告製品を合計1
10 135本(内ワイナックに1095本、A社に同年5月13日に販売した40
本)販売していたところ、原告らは、被告製品が販売されていた事実及び被告マ
ル周が販売していた事実を知っていた。
よって、被告マル周が同年8月30日までに被告製品を販売したことによっ
て発生した損害賠償請求権は、時効により消滅している。
15 【原告ディンクスの主張】
(1) 原告ディンクスは、被告マル周が、平成30年2月1日以降も被告製品の在
庫を保有していることを知ったことから、被告マル周に対し、このままでは本
件商標権を侵害することとなること、廃棄処分をするのであれば、原告ディン
クスが引き取って販売することを告げた。しかし、被告マル周が、不当に高額
20 な買取価格を提示してきたことから、買取りの話はまとまらなかった。
そこで、改めて原告ディンクスが被告マル周に対し、本件商標権を侵害する
ことになることを告げると、被告マル周は、文字盤などのブランドを変更して
販売すると述べた。そのため、原告ディンクスは、被告マル周が、被告標章を
使用したまま、被告製品を販売し続けるなどとは考えていなかった。
25 その後、原告ディンクスは、令和元年10月頃、ワイナックが被告製品を販
売していることを知り、同年11月、調査のために被告製品を購入した。その
後、原告ディンクスがワイナックと交渉する中で、被告マル周が被告製品を販
売していたことを知るに至った。
なお、A社に販売した分については本件訴訟中にその事実が明らかになった
ものであるし、現時点でも、販売先の名称が明らかではないから、損害の事実
5 自体、認識していなかった。
以上のとおり、原告ディンクスが損害及び加害者を知ったのは、令和元年1
1月頃であり、本訴の提起は、そこから3年以内になされているから、消滅時
効は成立しない。
(2) 被告マル周がワイナックに被告製品を販売し、ワイナックがこれを転売し
10 た行為は、被告マル周とワイナックの共同不法行為に当たるところ、原告ディ
ンクスは、ワイナックから、本件和解契約に基づき、解決金460万円の支払
を受けた。
この解決金の充当方法については、特に合意がないことから、法定充当がな
されることとなるところ、被告マル周がワイナックに販売したもののうち、時
15 期が古いものについての損害賠償債務から順に充当される。
そうすると、単位数量当たりの利益額を原告ディンクスが主張する金額と仮
定すると、令和元年8月30日までにワイナックに販売された被告製品の内訳
にかかわらず、同日までに販売された1095本分の損害賠償債務は、すべて、
上記解決金により充当されているから、時効によって消滅すべき損害賠償債務
20 は認められない。
10 争点A10(被告らによる本件商標権侵害行為の差止め等の要否)について
【原告海援隊の主張】
上記2ないし4の【原告らの主張】で述べた被告らの行為は本件商標権を侵害
する行為である。被告マル周は、被告製品を中国で生産し、これを輸入し、又は、
25 現在国内で所持する被告製品を中国に輸出する可能性があり、被告王様舶来館
は、被告マル周の関連会社で、実質的に一体と考えられ、主体を入れ替えて侵害
行為を行う蓋然性があるから、被告らの本件商標権侵害行為による損害を停止
又は予防するため、被告製品の販売の申出等の差止め、並びに、被告製品及び包
装箱等の廃棄を求める必要がある。
【被告らの主張】
5 争う。
11 争点B1(本件申告が、被告らが本件商標権を侵害したという虚偽の内容の
ものであったか)について
【被告らの主張】
上記1ないし4の【被告らの主張】のとおり、被告らは、本件商標権を侵害し
10 ていなかった。それにもかかわらず、原告らは、故意又は過失により、共同して、
虚偽の内容を含む本件申告をなし、被告らの営業上の信用を毀損した。したがっ
て、被告らは、原告らに対し、損害賠償を求めるほか、原告らによる信用毀損行
為の差止め及び信用回復措置としての訂正文送付を求める必要がある。
【原告らの主張】
15 上記1ないし4の【原告らの主張】のとおり、被告らは、本件商標権を侵害し
ており、本件申告の内容は、何ら、虚偽ではない。
12 争点B2(被告マル周の損害)について
【被告マル周の主張】
(1) ワイナックに対する告知によって生じた損害
20 ア ワイナックに支払った解決金 251万6580円
被告マル周は、別件訴訟において成立した裁判上の和解に基づき、ワイナ
ックに対し、251万6580円を支払った。
しかし、同解決金を支払うに至ったのは、原告らが、ワイナックに対し、
虚偽の事実を告知したことに端を発しており、同告知がなければ、別件訴訟
25 が提起されることも、被告マル周が解決金を支払うこともなかった。
イ ワイナックとの取引停止による逸失利益 1254万0000円
被告マル周は、令和元年11月に原告らが虚偽の事実の告知を行うまでの
間、ワイナックと継続的に時計の取引を行っており、その1年あたりの平均
売上は1045万円、利益率は約30%であった。しかし、同告知があった
ことから、ワイナックとの取引が停止し、現在まで、4年以上にわたり、取
5 引は停止したままである。
よって、ワイナックに対する告知により、4年分の利益に相当する125
4万円( 1年あたりの平均売上額1045万円×平均利益率30%×4
年)を下回らない逸失利益が生じた。
(2) アマゾンに対する告知によって生じた損害 45万0000円
10 被告王様舶来館は、令和元年12月30日及び同月31日に、原告ディンク
スが、被告王様舶来館の取引先であったアマゾンに対し、上記虚偽の事実の告
知を行ったことから、現在に至るまで、3年以上にわたり、被告製品をAma
zonで販売できなくなった。その結果、被告王様舶来館に被告製品を販売し
ていた被告マル周は、被告王様舶来館に対し、被告製品を販売することができ
15 なくなった。
被告王様舶来館が、Amazonにおいて販売していた被告製品(いずれも
他社製造被告製品であった。)の本数は、令和元年5月頃から同年12月末頃
までにかけて27本であり、1年あたり50本の販売が見込まれた。また、1
本あたりの平均利益額は3000円を下らなかった。
20 よって、アマゾンに対する告知により、3年分の利益に相当する45万円(
1年あたりの平均販売本数50本×1本あたり利益額3000円×3年)を下
回らない逸失利益が生じた。
(3) 小計 1550万6580円
(4) 弁護士費用 155万0658円
25 原告らに対し、上記小計の損害の賠償を求めるために必要かつ相当な弁護士
費用は、上記のとおりである。
(5) 合計 1705万7238円
【原告らの主張】
(1) ワイナックに対する告知によって生じた損害
ア ワイナックに支払った解決金
5 被告マル周は、別件訴訟において、裁判官から被告製品が本件商標権を侵
害するとの心証開示を受け、自ら、訴訟上の和解による解決を選択し、解決
金を支払った。
よって、ワイナックに支払った解決金は、被告マル周の選択に基づくもの
であり、仮に、本件告知が虚偽の事実を含むものであったとしても因果関係
10 が認められない。
イ ワイナックとの取引停止による逸失利益
ワイナックが被告マル周との取引を停止したのは、本件告知後の被告マル
周の対応に、ワイナックが不信感を抱いたためであり、その結果、被告マル
周は、別件訴訟を提起されるまでに至った。
15 よって、ワイナックとの取引停止による逸失利益は、被告マル周の対応や
ワイナックの選択に基づくものであり、仮に、本件告知が虚偽の事実を含む
ものであったとしても因果関係が認められない。
(2) その余の損害について
いずれも争う。
20 13 争点B3(被告王様舶来館の損害)について
【被告王様舶来館の主張】
(1) アマゾンとの取引停止による逸失利益 45万0000円
被告王様舶来館は、令和元年12月30日及び同月31日に、原告ディンク
スが、被告王様舶来館の取引先であったアマゾンに対し、上記虚偽の事実の告
25 知を行ったことから、現在に至るまで、3年以上にわたり、被告製品をAma
zonで販売できなくなった。
被告王様舶来館が、Amazonにおいて販売していた被告製品(いずれも
他社製造被告製品であった。)の本数は、令和元年5月頃から同年12月末頃
までにかけて27本であり、1年あたり50本の販売が見込まれた。また、1
本あたりの平均利益額は3000円を下らなかった。
5 よって、アマゾンに対する告知により、3年分の利益に相当する45万円(
1年あたりの平均販売本数50本×1本あたり利益額3000円×3年)を下
回らない逸失利益が生じた。
(2) 弁護士費用 4万5000円
原告らに対し、上記損害の賠償を求めるために必要かつ相当な弁護士費用
10 は、上記のとおりである。
(3) 合計 49万5000円
【原告らの主張】
いずれも争う。
14 争点B4(予備的差止対象行為の差止めの必要性)について
15 【被告らの主張】
被告らが、平成30年1月18日当時、本件商標権について使用許諾権を付与
されていたエリム貿易から購入した他社製造被告製品に、反訴原告標章を付し
た包装箱等を付けずに販売することは、正規に入手した正規許諾製品をそのま
ま転売するものであり、何ら本件商標権を侵害するものではない。
20 被告らは、今後、他社製造被告製品を、反訴原告標章を付した包装箱等を付け
ずに販売することを計画しているところ、原告らが本件告知のように、本件商標
権を侵害する行為であると告知、流布すれば、被告らの営業上の信用がさらに毀
損される。
よって、少なくとも、予備的差止対象行為については、被告らの損害を予防す
25 るために、これを差し止める必要性がある。
【原告らの主張】
原告らは、他社製造被告製品が、正規許諾製品であるのであれば、これに反訴
原告標章を付した包装箱を付けることなく販売することについて、本件商標権
を侵害する意思はないし、これまでも、そのようなことはしていない。
よって、原告らが、予備的差止対象行為をなす蓋然性がなく、これを差し止め
5 る必要性はない。
第4 判断
1 争点A1(平成30年1月18日時点において、エリム貿易が、本件商標権の
通常使用権者としての地位を有していたか)について
(1) 証拠(乙3、16)及び弁論の全趣旨によれば、アンドリュースが、平成2
10 7年3月1日から平成30年2月28日までの間、エリム貿易に対し、本件商
標権の独占的通常使用権を許諾していたことが認められる。
(2) 原告らは、エリム貿易が平成30年1月分及び同年2月分の実施料を支払
っていなかったことや、別件破産事件におけるエリム貿易の破産管財人が、同
年1月18日時点でエリム貿易に対して使用許諾権が付与されていなかった
15 ことを前提としていたことを指摘する。
しかし、アンドリュースは同年1月分及び同年2月分の実施料の請求権を放
棄しており(乙16)、これらの不払を理由として使用許諾権を付与した契約
が解除されていたとは認められない。
確かに、別件破産事件において、エリム貿易の破産管財人は、同年5月28
20 日付けの業務要点報告書(第1回)において、エリム貿易が、同年1月末頃、
被告マル周に対し、被告製品を譲渡し、被告マル周がこれを一方的に簿価の5
0%で評価した上で買掛金債権と相殺したとして、これを代物弁済と解しつ
つ、本件商標権に関する使用許諾権の問題があり、売却が困難であったとの事
情を踏まえて否認権対象行為としなかった旨述べている(甲14)。しかし、
25 本件商標の使用許諾権に関しては、破産管財人がエリム貿易とアンドリュース
との間の契約関係を詳細に調査したものではなく、動産買取業者の査定の結
果、ライセンスが必要と言われたというにすぎないから、破産管財人の判断が、
直ちに、エリム貿易が使用許諾権を付与されていなかったことを示すものとは
いえない。
(3) 以上によれば、平成30年1月18日時点において、エリム貿易は、本件商
5 標権の通常使用権者としての地位を有していたものと認められる。
2 争点A2(被告らが他社製造被告製品又は自社製造被告製品(戻り分)を販売
することが、エリム貿易から許諾され、又は、実質的に本件商標権を侵害しない
といえるか)について
(1) 他社製造被告製品の販売について
10 上記1のとおり、エリム貿易は平成30年1月18日に本件商標権の通常使
用権者としての地位を有していたものと認められるから、被告マル周が、同日、
エリム貿易から購入した他社製造被告製品(時計)を販売することは、それ自
体、正規に入手した正規許諾商品を転売したにすぎず、本件商標権を侵害する
ものではない。
15 なお、原告らは、被告マル周が販売した他社製造被告製品が、エリム貿易か
ら購入したものであるかは明らかではないと主張するが、被告マル周が同日、
エリム貿易から他社製造被告製品を2126本購入したことが認められ(乙
1)、その他の者から購入したと認めるに足りる証拠はない。
(2) 自社製造被告製品(戻り分)の販売について
20 ア 証拠によれば、エリム貿易が、平成29年11月10日に被告マル周に対
する買掛金の支払を遅延してから、被告マル周がエリム貿易に対し、在庫分
での代物弁済によることも含めて提案し、債権回収にかかっていたところ
(乙14)、被告マル周が、平成30年1月18日、エリム貿易から現金及
び事務所にあった在庫商品の殆どである自社製造被告製品(戻り分)を譲り
25 受けたこと、その際、被告マル周がエリム貿易に一度納品した自社製造被告
製品の戻りに係る伝票の数量欄に -」が記載され、売上取消しを意味する
表記となっていること(乙2)が認められる。
被告らは、自社製造被告製品(戻り分)は買戻品ないし代物弁済品である
旨主張するが、かかる売買契約ないし代物弁済契約を裏付ける証拠はなく、
上記の伝票の記載からすると、自社製造被告製品(戻り分)は、被告マル周
5 がエリム貿易に販売した商品を返品処理したものと認めるのが相当である。
したがって、自社製造被告製品(戻り分)に係る売買契約は解除されたもの
といえるから、これを再販売するにあたっては、新たに本件商標権の使用権
者から許諾を受ける必要があるが、新たな使用権者となった原告ディンクス
はこれを許諾していない。
10 イ よって、被告らが自社製造被告製品(戻り分)を販売したことは、本件商
標権を侵害する。
3 争点A3(被告らが他社製造被告製品又は自社製造被告製品(戻り分)に被告
標章が付された包装箱等を付して販売することが、エリム貿易から許諾され、又
は、実質的に本件商標権を侵害しないといえるか)について
15 (1) 他社製造被告製品
ア 被告らは、エリム貿易から本件商標が付されていない包装箱等を渡されな
がら、自ら、本件商標に類似する被告標章が付された包装箱等を製造し、こ
れを付して被告製品を販売していたところ、かかる行為は、本件商標権者以
外の者が権限なくなし得ないものであり、たとえ、被包物が正規許諾商品で
20 あったとしても商標権侵害に該当すると解することが相当である。
そうすると、被告らが被告標章を付した包装箱等を付して他社製造被告製
品を販売したことは、本件商標権を侵害するものというべきである。
イ 被告らは、エリム貿易から包装箱等の製造を委託されており、これを使用
することも許諾されていた、登録商標に関する信頼を害しないから実質的違
25 法性がないと主張する。
しかし、仮に包装箱等の製造を委託されていたとしても、当然に、被告ら
がこれを使用し、被告製品を販売することまで許諾していたとは認められな
い。また、アンドリュース及びエリム貿易の間の独占的通常使用権の許諾契
約上、使用権者は、アンドリュースに対し、許諾商品の製造開始に先立ち、
製造する商品のすべてについての完成品又は包装箱等を含めた製品マップ
5 を提出し、アンドリュースによる品質確認及び承認を受けなければならず、
再包装も禁止するものとされていた(乙16。同契約4条2項、8項)。そ
うすると、エリム貿易限りで、被告マル周が製造する被告標章を付した包装
箱を被告マル周が独自に使用することが許諾されていたとは認められない。
ウ 以上のとおりであり、被告らが他社製造被告製品(時計)自体を販売する
10 ことは本件商標権の侵害に当たらないものの、被告標章を付した包装箱等を
付して販売したことは、本件商標権を侵害するものと認められる。
(2) 自社製造被告製品(戻り分)
上記2のとおり、自社製造被告製品(戻り分)は、時計の販売それ自体が本
件商標権を侵害するところ、これに被告標章を付した包装箱等を付して販売す
15 る行為は、上記(1)と同様、本件商標権を侵害するものと認められる。
4 争点A4(被告らが自社製造被告製品(未納分)を販売することが、エリム貿
易から許諾されていたといえるか)について
被告らは、エリム貿易が、被告らに対し、自社製造被告製品の在庫等を一定数
確保することを要求していたことから、これを売却することも許諾されていた
20 と主張する。しかし、被告らの主張を前提としても、製造と在庫の保管までが許
諾されていたにすぎず、自ら販売することまで無限定に許諾していたとは認め
られない。
そうすると、自社製造被告製品(未納分)を販売したことは、エリム貿易及び
原告ディンクス双方の許諾なくなされたものであるから、本件商標権を侵害す
25 るものと認められる。
5 争点A5(原告らの権利行使が、権利の濫用又は信義則に反するものといえる
か(侵害論))について
(1) 被告らの主張は、要するに、エリム貿易と原告ディンクスの近しい関係性か
ら、原告ディンクスは、独占的通常使用権者の地位を引き継ぐに当たり、エリ
ム貿易の委託等により多数の在庫を抱えていた被告マル周の損失を最小限と
5 すべき信義則上の義務を負う、原告海援隊は、被告マル周の上記状況を把握し、
その損失を最小限とすべき信義則上の義務を負うアンドリュースから当該義
務を引き継いだというものである。
原告ディンクスやアンドリュースが、被告マル周の上記状況を把握していた
とは認めるに足りないが、仮に何らかの事情で把握していたとしても、本件商
10 標権者及び独占的通常使用権者の交代に当たり、新権利者が被告ら主張の義務
を負うとは認められない。
(2) よって、原告らが、被告らが主張する信義則上の義務を負っていたとはいえ
ず、本訴における請求は、原告らが本件商標権等に基づく権利行使をしている
にすぎないから、権利の濫用にも当たらない。
15 (3) 以上のとおり、原告らの権利行使に関する権利の濫用又は信義則違反に関
する被告らの主張は採用できない。
6 争点A6(原告ディンクスの損害)について
(1) 商標法38条1項に基づく損害額について
ア 原告ディンクスが被告マル周から仕入れた被告製品の取扱いについて
20 証拠(甲24、乙28、29)によれば、原告ディンクスが、平成30年
2月1日から同年12月までの間、被告マル周から直接又はエリム貿易を介
して被告製品を合計3392本(内他社製造被告製品は1318本)仕入れ
たこと、原告ディンクスが平成30年2月から令和元年12月までの間にA
mazonで原告製品を1543本販売したことが認められる。
25 被告らは、以上の仕入本数と販売本数の相違から、原告ディンクスがAm
azonのほかに卸売をしており、卸値はAmazonの売価の80%程度
であるから、Amazonでの売価に卸値を1 1の割合で加味して原告製
品の売価を算定すべきである旨主張する。しかし、原告ディンクスが、平成
30年2月から令和元年12月までの間、Amazonでの販売に加え、卸
売も行っていたと認めるに足りる証拠はない(被告らが、原告ディンクスに
5 よる卸売を推認させるものとして指摘する、原告製品が販売されているEC
サイトの資料(乙25)は、いずれも、令和5年11月当時のものであり、
平成30年2月から令和元年12月までの間の状態を示すものではない。 。
)
また、仮に原告ディンクスがAmazon以外でも原告製品を販売していた
としても、当該販売の価格がAmazonの売価の80%であるとか、Am
10 azonより利益率が低いと認定できる証拠はない。そうすると、原告ディ
ンクスの販売価格及び仕入価格について、被告マル周からの仕入れ分や卸値
を考慮すべきものとは認められない。
イ トノー型原告製品の売価について
(ア) Amazonでの売価について
15 a 証拠(甲33)によると、原告ディンクスが、平成30年12月1日
から令和元年12月23日までの間にAmazonでトノー型原告製
品1096本を499万7455円で販売し、これに伴って、プロモー
ション割引額及びプロモーション割引の税金として25万6720円
を支払ったことが認められる(499万7455円は、支払後の金額で
20 ある。)。
原告ディンクスは、プロモーション割引とは、原告製品以外の製品も
販売している原告ディンクスのAmazonのショップに対し、規約に
基づき設定された広告料を、各商品ごとに割り付けて支払っているもの
であり、変動費的な性質を有さないと主張する。一般に広告費は個別の
25 販売に伴って生じるものとはいえないが、上記1096本の販売全てに
プロモーション割引額が適用されているのではなく、一部の販売に対し
て適用されていること、その適用条件が証拠上、明らかではないことな
どを踏まえると、一定の条件を満たす販売行為に付随して発生したもの
と認められ、原告ディンクスが主張するような、固定費的な広告費であ
るとは認められない。
5 よって、プロモーション割引に係る費用は、原告製品の利益から控除
する(計算上売価に含めない)ことが相当である。
b 被告らは、原告ディンクスのAmazonの売上資料中、手数料控除
後の入金額のほうが商品売上高よりも高くなっているものが117か
所あることを指摘した上で、その原因が1個当たり927円の配送料で
10 あり、その合計10万8459円を控除すべきであると主張する。
この117か所のうち、数か所に、1個当たり927円の配送料が計
上されていたことは当事者間に争いがない。この点、原告ディンクスは、
配送料が、実際の配送の有無や実費額にかかわらず、Amazonとの
規約に基づき支払われるものである、その金額も、927円よりも大き
15 いものも小さいものもあると主張する。しかし、原告ディンクスは、A
mazonとの規約を含め、かかる主張を裏付ける具体的な証拠は提出
していない。
ECサイトで製品を販売する際、配送料がかかることは十分に起こり
得ること、時計1個当たりの配送料が927円となることが不合理とは
20 いえないことを踏まえると、少なくとも、上記117か所について1回
あたり平均して927円の配送料が計上されていたものとして、上記1
17か所分の配送料相当額を原告製品の利益から控除する(計算上売価
から控除する)ことが相当である。
(イ) 小括
25 以上の次第であり、トノー型原告製品1本あたりの売価は、プロモーシ
ョン割引額に係る費用を控除した後のAmazonでの売価に配送料を
控除して求めた4460円 (499万7455円-10万8459円)
(
÷1096本)であると認められる。
ウ トノー型原告製品の販売経費について
(ア) 仕入単価
5 原告ディンクスの提出するCNVOCCE(甲19、25、26、30)
によれば、原告製品のうち、海外から輸入したものの仕入価格(単価)は
税込みで1446円であると認められる。
被告らは、これらのCNVOCCEには、数値や様式に食い違い等があ
り、信用できないと主張する。しかし、インボイスは税関にも提出すべき
10 書類であり、その内容を変造することが困難なものである上に、被告らは、
変造等を示す具体的な主張立証をしていない。
そうすると、上記CNVOCCEの信用性を否定すべきとは認められ
ず、上記認定は左右されない。
(イ) その他の費用
15 証拠(甲30、31)によれば、原告ディンクスは、トノー型原告製品
を輸入する際、トノー型原告製品を含め、2614本の製品の航空運賃と
して7万8320円を支払ったことが認められる。よって、トノー型原告
製品の輸入時運賃は1本あたり29円( 7万8320円÷2614本)
であると認められる。
20 包装箱の単価は、原告ディンクスの方が被告らよりも高額のものを主張
しており、証拠(甲20)からも税込259円であると認められる。また、
保証書及びタグについても、証拠(甲21の1 2)から、税込17円で
あると認められる。
また、Amazon向けの仮定送料税込3円については、弁論の全趣旨
25 により、これを認める。
よって、輸入時運賃、包装箱、保証書及びタグ等の費用は、合計308
円( 29円+259円+17円+3円)であると認められる。
(ウ) 小括
以上のとおり、トノー型原告製品の販売経費は、1本あたり1754円
( 1446円+308円)となる。そして、上記(ア)のとおり、原告製品
5 の販売単価は、1本あたり4460円であると認められるから、1本あた
りの利益は2706円( 4460円-1754円)であると認められる。
エ 丸型原告製品に関する損害を計上することについて
被告らは、丸型原告製品に関する損害について、本件商標を付した包装箱
等を付したことに起因するものに限られるところ、包装箱等は何ら売上に貢
10 献していないから、このような損害は認められないと主張する。
しかし、前示のとおり、被告らの行為が本件商標権を侵害することは明ら
かであって、被告ら主張の点は、後記のとおり、覆滅事由として検討するこ
とは別として、損害そのものを否定すべき理由はない。
被告らの主張は採用できない。
15 オ 丸型原告製品の売価について
丸型原告製品のAmazonにおける売価は1本あたり5968円であ
ると認められる(争いがない。)。
被告らは、同額に卸値を加味して平均値を売価とすべきである旨主張する
が、前記アと同様の理由で採用できない。
20 カ 丸型原告製品の販売経費について
(ア) 仕入単価
原告ディンクスは、被告マル周及びエリム貿易から仕入れた価格を加味
し、丸型原告製品の仕入単価が2500円を上回らないとして、同額と主
張する。
25 一方、被告らは、原告ディンクスが被告マル周から他社製造被告製品を
395万1072円で1098本購入したことを前提に、より高額の仕入
単価を主張する。しかし、証拠(甲35、乙29の1ないし16)による
と、この1098本中、1000本は、 MCCEEL JURDACN」
とは別ブランドの Norma Jlanl」の時計であると認められ(請
求明細書に MJ MM-1926」との記載があるもの(乙29の3、
5 5、9及び10))、原告ディンクスが被告マル周から仕入れた他社製造
被告製品は、90本程度であると認められる。
そして、証拠(乙28、29)によれば、他社製造被告製品の仕入単価
は2500円を下回るものであることが認められる。
よって、丸型原告製品の仕入単価は2500円と認めるのが相当であ
10 る。
(イ) 包装箱、保証書及びタグ等の単価
上記ウ(イ)と同様、包装箱、保証書及びタグ等の単価は279円( 25
9円+17円+3円)であると認められる。
(ウ) 小括
15 以上のとおり、丸型原告製品の販売経費は、1本あたり2779円(
2500円+279円)となる。丸型原告製品の売価は1本あたり596
8円であるから、1本あたりの利益は3189円( 5968円-277
9円)と認める。
(2) 商標法38条2項に基づく損害額について
20 原告ディンクスは、ワイナックから引き渡された309本分について、被告
マル周が、ワイナックに販売したことから利益を得ており、商標法38条2項
に基づく損害が観念できると主張する。しかし、これら309本分は、市場に
出回る前に原告ディンクスに戻っており、現実に原告ディンクスの売上を失わ
せていない。
25 そうすると、原告ディンクスの商標法38条2項に基づく請求は、その損害
の発生自体を観念できないから理由がない。
7 争点A7(原告ディンクスの損害に関する推定覆滅の可否)について
(1) 販売可能数量について
ア ワイナック販売分について
(ア) 本件商標の顧客誘引力について
5 証拠(甲23、34、乙6、37)及び弁論の全趣旨によれば、本件商
標は、市場において一定の知名度を有してはいるものの、本件商標のみを
以て顧客誘引力を有するようないわゆるハイブランドのものではなく、程
よい高級感を有する安価な時計に付されていたものであったことが認め
られる。
10 特にAmazonのようなECサイトを利用する需要者は、実物を見る
ことができないことから、本件商標の付された製品と同様の価格帯及び特
徴を有する製品をも選好することが考えられる。そのような市場を前提と
する場合、本件商標のみに注目して製品を購入する者が殆どであるとまで
はいい難い。
15 そうすると、商流を問わず、被告らによる本件商標権侵害がなかったと
しても、原告ディンクスが、ワイナック等が販売した分の全てについて販
売できたとまでは認められず、この点に係る覆滅割合は、上記の事情を踏
まえると20%とすることが相当である。
(イ) ブランド管理について
20 被告らは、原告ディンクスが、本件商標のブランド管理を怠っており、
本件商標の信用維持機能が損なわれていたと主張する。原告製品の初期の
生産ロットには、 mchel Jurdcn」との誤記があったこと
(乙33、34)、Amazonの原告製品の商品説明では、ケースがス
テンレス製であると記載されていた一方で、原告製品のケースには、合金
25 及びステンレスメッキも用いられていたことが認められるが(乙35、3
7)、上記の程度で製品の品質管理に問題があったとしても、直ちに、本
件商標の顧客誘引力が低下するとは認められないし、原告製品のケースの
素材については、原告製品の価格帯やその価格帯に期待される需要者のニ
ーズに照らすと、そのことのみを以て、購入意思を変更する者が有意な割
合で存在するとは認められない。
5 (ウ) 以上のとおり、販売可能数量につき、本件商標の顧客誘引力に鑑みれば、
推定された損害額について、20%の割合で覆滅させることが相当であ
る。
イ A社、B社及びC社販売分について
A社、B社及びC社の商流は明らかではないが、上記アと同様の理由で、
10 20%の割合で覆滅させることが相当である。
ウ 被告王様舶来館販売分について
上記アと同様の理由で、20%の割合で覆滅させることが相当である。
(2) 包装箱等部分のみが本件商標権を侵害することについて
被告製品のうち、他社製造被告製品は、被告マル周が、使用許諾権を有して
15 いたエリム貿易から購入したものであり、これを販売すること自体は本件商標
権を侵害せず、被告標章を付した包装箱等を付したことのみが本件商標権を侵
害する行為である。
この点、原告ディンクスは、包装箱に標章が付されているか否かは、需要者
の選好に直結し、利益の源泉であると主張する。ブランド時計では、商標を付
20 した包装箱それ自体にも商品価値があり、その有無で取引価格が大きく変わる
ことがある。そのため、上記の本件商標権侵害行為と相当因果関係のある利益
が包装箱の原価により割りつけられた部分のみと解することは相当ではない。
一方、製品の価格帯や本件商標の知名度に鑑みれば、時計本体のデザインや価
格も相当程度売上に貢献しており、その覆滅割合は40%とすることが相当で
25 ある。
8 争点A8(原告ディンクスの損害賠償請求が、信義則に反するものといえるか
(損害論))について
(1) 被告らは、原告ディンクスが、Amazonにおいて、トノー型原告製品の
ケースの素材を偽って販売し、不正競争防止法2条1項20号や不当景品類及
び不当表示防止法5条1号に違反しているにもかかわらず、利益相当分の賠償
5 を求めることが信義則に違反すると主張する。
原告ディンクスのトノー型原告製品の商品ページには、同原告製品のケース
素材がステンレス鋼と記載されていること、原告製品の裏蓋には、ステンレス
メッキを意味する STAINLESS STEEL BACK」と記載されていること(乙33、
35、37)が認められる。しかし、これによって本件商標権の侵害が許容さ
10 れる理由になるとも解されないから、被告らによる本件商標権侵害によって生
じた原告ディンクスの損害の賠償を請求することが信義則に違反するとはい
えない。
(2) よって、被告らの損害論に関する信義則違反の主張は採用できない。
9 争点A9(消滅時効の成否)について
15 (1) ワイナックに販売したことに起因する損害賠償債務について
被告らが、消滅時効が完成したと主張する債務のうち、ワイナックに被告製
品1095本を販売した部分に係るものについては、消滅時効の完成という点
で、被告らに最も有利に、1095本中60本を丸型、その余をトノー型と仮
定し、1本あたりの利益を原告ディンクス主張額で考えたとしても333万7
20 740円( 3040円/本×1035本+3189円/本×60本)となる。
また、解決金は令和2年1月30日に支払われたところ、同最大損害額に、原
告ディンクスが主張する被告らによる本件商標権侵害の始期である平成30
年2月1日から令和2年1月30日までの1年364日分の、不法行為時にお
ける民法所定の年5分の割合による遅延損害金約10%を加えると、367万
25 1514円( 333万7740円×110%)となるが、これは、解決金と
して支払われた460万円を下回る。
そして、原告ディンクス及びワイナックが、同解決金の充当方法について法
定充当以外の方法によるとの合意をしたと認めるに足りる証拠はないから、上
記債務については、争点A6ないしA8の判断の如何を問わず、全部、解決金
により充当済みであり、消滅時効を援用する対象となる債務は存在しない。
5 (2) A社に販売したことに起因する損害賠償債務について
原告ディンクスが、被告マル周が、令和元年5月13日にA社に被告製品を
40本販売したこと(乙19)を知ったのは、本件訴訟提起後、被告マル周が
同販売行為を令和5年12月22日付け被告準備書面(7)で明らかにしたと
きであり、それまでは知り得なかったものと認められる。
10 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が損害及び加害者を知
った時が起算日となるところ(民法724条1号)、損害を知ったというため
には、具体的な損害額までは特定できなくとも、損害の発生自体は認識するこ
とを要する(最高裁平成8年(オ)第2607号同14年1月29日第三小法
廷判決 民集56巻1号218頁)。この点、ECサイト等で需要者に対して
15 販売されている場合、その販売行為自体が把握できれば、買主が誰であるかを
個々に特定せずとも、損害の発生を認識しうるが、被告マル周からA社への販
売のような、企業間での卸売の場合、販売先が明らかにならなければ、損害が
発生していたこと自体、認識し得ない。
そうすると、原告ディンクスは、本件訴訟係属中に、A社への販売によって
20 生じた損害を知ったものと認められるから、かかる販売行為によって生じた損
害賠償債務について、時効は完成していない。
(3) 以上のとおり、被告らの消滅時効に関する主張はいずれも採用できない。
10 争点A10(被告らによる本件商標権侵害行為の差止め等の要否)について
前示のとおり、被告らが、時計若しくはその包装箱等に被告標章を付し、又は、
25 同標章を付した時計若しくは包装箱等に被告標章を付した時計を譲渡等するこ
とは、本件商標権の侵害に該当するところ、被告マル周は中国の工場で製造され
た被告製品を輸入して被告王様舶来館等に販売し、被告王様舶来館はこれを顧
客に販売し、販売のために展示し、所持していたものであり(弁論の全趣旨)、
被告らは本件において侵害を争い、在庫品を保持しているから、被告らが共同し
てかかる侵害行為を行う蓋然性が認められる。したがって、原告海援隊の差止め
5 及び在庫品の廃棄の請求を認めるべきである。
ただし、被告らが、被告標章を付した包装箱等を付さずに、平成30年1月1
8日に被告マル周がエリム貿易から購入した他社製造被告製品を販売等するこ
とは本件商標権を侵害するものではない。また、被告らが、エリム貿易以外の者
から他社製造被告製品と同品番の製品を購入したとは認められず、かつ、同社が
10 すでに破産、解散していること、被告マル周がこれまで他社製造被告製品と同品
番の製品を製造した事実が認められないことからすると、同日に被告マル周が
エリム貿易から購入した他社製造被告製品以外に、他社製造被告製品と同品番
の製品を被告らが譲渡、所持等する蓋然性が高いとはいえない。そうすると、原
告海援隊の請求中、別紙7他社製造被告製品品番目録記載の品番の時計に、被告
15 標章を付した包装箱等を付さずに販売等する行為について差止めを求めたり、
同製品の廃棄を求めたりする部分は理由がない。
11 争点B1(本件申告が、被告らが本件商標権を侵害したという虚偽の内容の
ものであったか)について
上記2ないし5のとおり、被告らは本件商標権を侵害していたのであるから、
20 本件申告は虚偽の内容のものではない。
被告らの主張は採用できず、本件申告が虚偽の内容のものであることを前提
とする被告らが主張する損害はいずれも認められない。
12 争点B4(予備的差止対象行為の差止めの必要性)について
被告らは、予備的差止対象行為について、本件商標権を侵害するものではない
25 行為について虚偽の事実を告知されるおそれがあるから、差し止める必要があ
ると主張する。
しかし、原告らは、被告らが、反訴原告標章を付した包装箱等を付することな
く他社製造被告製品を販売することについて、かかる行為が本件商標権を侵害
するものではないと判断されるのであれば、このことについてアマゾン等に申
告する意思はないと陳述しており、現に、本件訴訟の口頭弁論終結時までに、原
5 告らがそのような申告行為をし、又はする蓋然性が認められるような事情は認
められない。
よって、予備的差止対象行為については、これを差し止める必要性が認められ
ない。
13 原告らは、被告らが令和6年5月2日付け訴えの変更申立書において追加し
10 た予備的請求について、時機に後れた攻撃防御方法であるから却下することを
求める。確かに、被告らが予備的請求を追加したのは、本訴が提起されてから約
21か月後であり、かつ、本件訴訟の終盤である。しかし、上記のとおり、予備
的請求については、それまでの主張立証に加え、追加の主張立証を求めるまでも
なく判断が可能であるから、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると
15 は認められない。
よって、原告らの時機に後れた攻撃防御方法として被告らの予備的請求を却
下する旨の申立ては理由がないから却下する。
14 以上によれば、原告ディンクスの損害賠償請求は、別紙8損害額一覧表の 裁
判所の判断」欄記載のとおり、被告マル周に対し、75万8462円(内6万8
20 951円は弁護士費用)及びこれに対する遅延損害金の支払を、被告王様舶来館
に対し、5万9321円(内5393円は弁護士費用)及びこれに対する遅延損
害金の支払を、それぞれ求める限度で理由があるところ、被告王様舶来館が賠償
すべき損害額については、被告マル周が被告王様舶来館に製品を販売し、これを
同被告が顧客の販売したことにより損害額であって、被告マル が賠償すべき
25 損害額としても計上されており、損害賠償額が二重に加算されるものではない
るから、被告らの不真正連帯債務と解するのが相当である。また、原告海援隊の
差止め及び廃棄請求は、上記10のとおりの限度で理由があり、被告らの反訴請
求は、全部理由がない。
第5 結論
以上の次第で、①原告海援隊の請求は、商標法36条1項及び2項に基づ
5 き、被告らに対し、時計若しくはその包装箱等に被告標章を付し、又は、同標
章を付した時計若しくは包装箱等に同標章を付した時計(ただし、別紙7他社
製造被告製品品番目録記載の品番の時計であって、同標章が付された包装箱等
が付されていないものを除く。)を、譲渡し、譲渡のために展示し、所持し、
輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供することの差止め、並び
10 に、被告標章を付した時計(ただし、別紙7他社製造被告製品品番目録記載の
品番の時計を除く。)及び同標章を付した時計の包装箱等の廃棄を求める限度
で理由があり、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、②
原告ディンクスの請求は、民法709条に基づき、被告らに対し、損害賠償金
5万9321円及びこれに対する本訴訴状送達の日の翌日である令和4年9月
15 7日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の連帯支払、並
びに、被告マル周に対し、損害賠償金69万9141円及びこれに対する同日
から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度
で理由があり、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、③
被告らの反訴請求はいずれも理由がないから全部棄却することとする。
20 訴訟費用については、本訴反訴を通じ、民訴法64条(ただし、原告海援隊
の請求部分については、訴訟物の価額、認容率等を考慮し、同条ただし書を適
用した。)、65条1項本文、61条を適用し、主文第3項及び第4項につい
て、申立てにより、同法259条1項に基づき、仮執行をすることができるこ
とを宣言し、主文第1項及び第2項については相当でないから仮執行宣言を付
25 さないこととして、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
武 宮 英 子
裁判官
15 阿 波 野 右 起
20 裁判官
西 尾 太 一
(別紙1)
略語表
略語 意味、説明等
アンドリュース 株式会社アンドリュース クリエイティヴ
ワイナック 株式会社ワイナック(本店所在地 埼玉県さいたま
市(以下略))(甲7)
アマゾン アマゾンジャパン合同会社。ECサイトである A
mazon」を運営している。
Amazon アマゾンが運営するECサイト
エリム貿易 株式会社エリム貿易。なお、後記の別件破産事件に
より破産し、解散した。(甲14)
別件訴訟 東京地方裁判所令和2年(ワ)第26284号事件。
原告はワイナック、被告は被告マル周、補助参加人
は原告ディンクスであった。(甲7)
別件破産事件 大阪地方裁判所平成30年(フ)第955号事件。
破産者エリム貿易の破産事件である。(甲14)
本件商標権 別紙6商標権目録記載の商標権
本件商標 本件商標権に係る登録商標
被告標章1ないし3 別紙2被告標章目録記載の各標章。数字は、同目録
の項番
被告標章 被告標章1ないし3の総称
反訴原告標章1ないし3 別紙3反訴原告標章目録記載の各標章。数字は、同
目録の項番
反訴原告標章 反訴原告標章1ないし3の総称
被告製品 時計又はその包装箱若しくは下げ札に被告標章を
付した時計。
なお、以下の 自社製造被告製品」及び 他社製造
被告製品」はいずれも被告標章が付された時計であ
るが、被告標章の付された包装箱や下げ札が付され
ているとは限らない。
自社製造被告製品 被告製品中、品番が SG-1000」、 SL-
1000」 SG-1100」 SL-1100」
、 、
SG-3000」、 SL-3000」の時計。
いずれも、被告標章が付されており、ケース部分が
縦型長方形のトノー型といわれるものである。これ
らは、被告マル周が製造したものである。(乙10)
他社製造被告製品 被告製品中、品番が MJ-1500」、 MJ-
1800」、 MJ-7100L」、 MJ-77
00」、 MJ-7700SS」、 MJ-770
0BK」、 MJ-7700GP」及び MJEG
-7310」の時計。いずれも、被告標章が付され
ており、ケース部分が丸型のものである。これらは、
被告ら以外の業者が製造し、エリム貿易に販売した
製品を、被告マル周が購入したものである。(乙9)
自社製造被告製品(戻り 被告マル周が製造し、エリム貿易に販売した自社製
分) 造被告製品のうち、平成30年1月18日に、同社
から被告マル周に戻ったもの。なお、この戻りの性
質には争いがある。(乙2、10)
自社製造被告製品(未納 被告マル周が製造した自社製造被告製品のうち、エ
分) リム貿易に販売したことがなく、在庫として保有
し、又は、新規に製造したもの。
(別紙2)
被告標章目録
1 MCCEEL JURDACN
2 mchel Jurdacn
5 3
以上
(別紙3)
反訴原告標章目録
1 MCCEEL JURDACN
2 mchel jurdacn
5 3
以上
(別紙4)
企業目録
1 株式会社ワイナック
2 アマゾンジャパン合同会社
5 以上
(別紙5)
訂正文目録
1 株式会社ワイナックに対する訂正文
株式会社マル周が輸入、製造又は販売する別紙3反訴原告標章目録に記載の
5 標章を付した時計は、商標登録第2696178号の商標権を侵害するもので
はありませんでした。
2 アマゾンジャパン合同会社に対する訂正文
有限会社王様舶来館が販売する別紙3反訴原告標章目録に記載の標章を付し
た時計は、商標登録第2696178号の商標権を侵害するものではありませ
10 んでした。
以上
(別紙6)
商標権目録
登録番号 商標登録第2696178号
出願年月日 平成3年2月5日
5 登録年月日 平成6年9月30日
登録商標
商品及び役務の区分 第9類、第14類
指定商品 第9類 眼鏡
10 第14類 時計
以上
(別紙7)
他社製造被告製品品番目録
1 MJ-1500
2 MJ-1800
5 3 MJ-7100L
4 MJ-7700
5 MJ-7700SS
6 MJ-7700BK
7 MJ-7700GP
10 8 MJEG-7310
以上
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