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令和6(ネ)10028損害賠償請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年8月29日
事件種別 民事
当事者 被控訴人株式会社テラスカイ
法令 その他
民法709条1回
キーワード 損害賠償7回
実施7回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。15
事件の概要 る。)

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判決文

令和6年8月29日判決言渡
令和6年(ネ)第10028号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令
和5年(ワ)第1569号)
口頭弁論終結日 令和6年7月2日
5 判 決
控 訴 人 X
同訴訟代理人弁護士 鈴 木 祥 平
10 被 控 訴 人 株式会社テラスカ イ
同訴訟代理人弁護士 萬 幸 男
主 文
1 本件控訴を棄却する。
15 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 前項の取り消しに係る被控訴人の請求を棄却する。
20 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要(以下、特に断らない限り、略語は原判決と同一のものを使用す
る。)
1 本件は、被控訴人の元従業員である控訴人が、被控訴人を退職するに際し、
被控訴人が保有する有用で一般的に知られていない情報を持ち出さない旨の誓
25 約をしたにもかかわらず、退職直前の時期に、被控訴人が著作権を有する原判
決別紙著作物目録記載の各資料(以下、同目録の番号順に「本件資料1」などと
いい、これらを併せて「本件資料」という。)をオンラインストレージサービス
「Googleドライブ」上の控訴人個人名義のアカウント(以下「控訴人個
人ストレージ」という。)に被控訴人に無断でアップロードした上、被控訴人担
当者の再三にわたる指摘・警告に虚偽の回答を述べるなどしたことにより、被
5 控訴人に、調査等の対応に当たった被控訴人担当者の残業代等の支出といった
損害を被らせたとして、被控訴人が、このような控訴人の一連の行為(以下「本
件行為」という。)は、社会的に許容される限度を超えるものとして被控訴人に
対する不法行為を構成する旨を主張し、民法709条に基づき、調査等の対応
に当たった控訴人の従業員Aの残業代の支出27万0283円及び弁護士費用
10 38万5000円の合計65万5283円の損害賠償及びこれに対する不法行
為の後であり訴状送達の日の翌日である令和5年3月15日から支払済みまで
民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審が、被控訴人の請求について、調査のため要した費用20万円及び弁護
士費用2万円の合計22万円及びこれに対する上記令和5年3月15日から支
15 払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める限度で認容し、そ
の余を棄却したところ、控訴人が本件控訴を提起した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記
3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事
実及び理由」中、第2の2ないし4(原判決2頁12行目ないし同12頁11
20 行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決2頁25行目の「に退職届を」を「に令和4年1月31日をもって
退職する旨を届け出る退職届を」と、同行目の「同月28日」を「令和3年
12月28日」とそれぞれ改める。
⑵ 原判決3頁16行目の「用いて」の次に「、クラウドインテグレーション
25 統括本部が管理するシステムの記憶装置にアクセスし、」を、同頁18行目の
「対応」の次に「等」をそれぞれ加える。
⑶ 原判決4頁3行目の末尾の次を改行し、
「控訴人は、令和4年1月31日を
もって被控訴人を退職した。」を加える。
3 当審における控訴人の主な補充主張
⑴ 原判決の事実認定には、以下のとおり誤りがある。
5 ア 原判決は、「令和4年2月17日の面談」(2月面談)における控訴人の
発言について、
「被告は、同面談の場でPCを開いて資料の削除を実施した
が、その際、
『これで全部消去できているかはわからない。原告の情報資産
のほかにも、各種情報を色々なファイルに格納したため、自らが認識して
いないフォルダに格納したかもしれないから。 との趣旨の発言をした」
』 旨
10 認定した(原判決18頁4行目ないし7行目)。
しかし、控訴人は、2月面談において、被控訴人の情報システム・マネ
ージャーであるBの立ち会い・面前において、被控訴人の求めに応じてパ
ソコンを開いた上で、本件資料等の削除を実施している(この点は、控訴
人と被控訴人間で争いはない。。これによって、控訴人による本件誓約書

15 (甲3)の違反の状態は、完全に是正されている。
また、控訴人は、原審でも、Googleドライブのデータ消去時に控
訴人が「これで全部消去できているかどうかはわからない」と発言をした
ことについては、否認している。控訴人はそのような発言を一切していな
い。
20 原判決は、控訴人と被控訴人の主張が対立している事実について、何ら
の客観的証拠を挙げることなく、一方の言い分に基づいて、被控訴人が主
張する「控訴人の発言の存在」を認定している点で事実認定に誤りがある
ということができる。上記の発言の有無は、新誓約書(甲18)の作成の
必要性の判断に影響する事実である。
25 イ Aの業務内容、所要時間等について、原判決は、
「Aは、同年1月~同年
2月にかけて、通常業務を行う傍ら、本件に関し、上記オの各業務のほか、
2月面談の結果を踏まえ、民事事件ないし刑事事件として提訴等する場合
に必要となる資料の検討、損害賠償請求前に送付する警告書の送付の可否
とその文案の検討及びこれらに関する顧問弁護士との協議のため、令和4
年1月は、定時時間内に合計8.5時間、時間外に合計3.5時間を、同
5 年2月は、定時時間内に合計13時間、時間外に合計19時間を費やした」
(原判決18頁9行目ないし15行目)と認定した。
しかし、民事事件ないし刑事事件として提訴等する場合に必要となる資
料の検討、損害賠償請求前に送付する警告書の送付の可否とその文案の検
討及びこれらに関する顧問弁護士との協議のため、令和4年1月は、定時
10 時間内に合計8.5時間、時間外に合計3.5時間を、同年2月は、定時
時間内に合計13時間、時間外に合計19時間を費やしたということを裏
付ける証拠は、Aの自己申告以外に何らの客観的証拠はない。
「カレンダー」
(甲15)についても、Aの自己申告でしかない。
被控訴人は、「カレンダー」(甲15)の「情報セキュリティー案件(東
15 京)」という記載だけをもって上記業務を行った旨の裏付けとしているが、
Aが具体的に何の業務を行ったのかわからず、「情報セキュリティー案件
(東京)」という項目と控訴人の本件行為との「関連性」は、一切、客観的
証拠によって立証されていないのである。原判決が「カレンダー」
(甲15)
の「情報セキュリティー案件(東京)」との記載のみで、被控訴人の主張通
20 りの業務を行ったと認定している点は、証拠に基づく判断をしているとは
到底いえない。
なお、
「カレンダー」
(甲15)の「情報セキュリティー案件(東京)」の
横には、『確定』という文字が記載されているもの」と「
「 『確定』という文
字が記載されていないもの」がある。このことからすると、スケジュール
25 の枠を「仮に確保しているもの」についても、本件の業務時間に計上して
いる可能性が極めて高いといえる。
ウ 令和4年2月及び3月のAの業務についても、新誓約書の文案の作成作
業、経緯報告書の作成に同年2月及び3月には定時時間内・時間外におい
てそれぞれ合計3.5時間の時間を費やしたということを裏付ける証拠は、
Aの自己申告以外に何らの客観的証拠はない。
「カレンダー」
(甲15)に
5 ついても、Aの自己申告でしかない。
エ 令和4年4月及び5月のAの業務についても、新誓約書の案(甲18)
について、顧問弁護士との協議及び加筆修正作業を行ったこと、損害賠償
請求を提訴する可能性を考慮し、経緯報告書の作成とこれに必要な証拠の
収集等について、顧問弁護士と協議の上、作業を進めるために、同年4月
10 は定時時間内に合計12時間、時間外に合計5時間を、同年5月は、定時
時間内に10.5時間、時間外に17.5時間をそれぞれ費やしたことを
裏付ける証拠は、Aの自己申告以外にない。
「カレンダー」
(甲15)につ
いても、Aの自己申告でしかない。
オ 令和4年6月のAの業務について、Aが新誓約書の案の変更交渉を進め
15 るために同月には定時時間内に合計7時間、時間外に合計11時間費やし
たことを裏付ける証拠は、Aの自己申告以外に何らの客観的証拠はない。
「カレンダー」
(甲15)についても、Aの一方的な自己申告に過ぎないも
のである。
カ 調査に対する非協力的な対応を重ねたとの原判決の認定(原判決20頁)
20 につき、控訴人は、2月面談において、被控訴人の情報システム・マネー
ジャーであるBの立ち会い・面前において、本件資料等の削除の実施に協
力をしているから、控訴人が非協力的な対応を重ねているというのは事実
と異なる。控訴人は、Bの要請に基づいて、控訴人のパソコンを開いた上
で、Bの目の前で本件資料等の削除を実施している。上記アのとおり、こ
25 れによって、控訴人の本件誓約書(甲3)の違反の状態は、完全に是正さ
れているから、原判決の事実認定には誤りがある。
⑵ 原判決の相当因果関係の判断には、以下のとおり誤りがある。
ア 原判決は、Aの残業代と本件行為の相当因果関係に関して、その業務内
容、所要時間及び残業の必要性・相当性の点で特段不合理な点は窺われな
いと判断した(原判決22頁6行目ないし9行目) しかし、
。 Aの業務内容、
5 所要時間及び残業の必要性・相当性の点において、合理的な経験則から判
断すれば、極めて不合理な点ばかりであるということを指摘しなければな
らない。原審は、業務内容と所要時間の対応関係や所定時間内で対応でき
る業務内容か否か(残業の必要性・相当性)について、全く検討をしてい
ないといわざるを得ない。
10 イ 原判決は、令和4年1月及び2月の業務内容及び要した時間について、
①控訴人の事情聴取に向けた準備(原判決17頁15行目ないし18行
目)、②民事事件・刑事事件として提訴等する場合の必要資料の検討、③警
告書の送付の可否とその文案の検討、④顧問弁護士との協議に合計44時
間(8.5時間+3.5時間+13時間+19時間=44時間)を要した
15 とするが(原判決18頁9行目ないし15行目)、残業の必要性・相当性の
観点から本件を見ると、①ないし④の業務をする上で、令和4年1月から
2月までの間に合計で44時間もの時間を費やすことは合理的な経験則
からしてあり得ない時間数である。44時間も打ち合わせの準備、資料の
検討、文案の検討、顧問弁護士との協議を行っていたなどということは、
20 にわかに信じられないことである。これは、業務内容に対応する所要時間
として、著しく過剰な時間を計上していると言わざるを得ない(「過剰計
上」。あるいは、便乗的に他の業務を行っていた時間を本件業務の時間に

計上しているものである(「便乗計上」。

原判決は、①ないし④の作業をするのに「一般的に」44時間も要する
25 ものなのかどうか(「必要性・相当性」)という点を全く考慮しておらず、
この点で原判決の判断には誤りがあるといわざるを得ない。「相当因果関
係ある損害」を判断するにあたっては、
「実際にかかった時間」ではなくて、
一般的に「必要性・相当性が認められる時間」しか計上できないはずであ
る。仮に、①ないし④の作業が実際に行われていたとしても、同作業をす
るのに、令和4年1月及び2月の定時時間である「21.5時間の範囲内」
5 (8.5時間+13時間=21.5時間)で業務を遂行することは十分に
可能である。
①については、Aは、令和4年7月5日付「メール」
(乙1) 「会社は、

『退職時に会社の情報資産を持ち出しているか、いないか』自体のチェッ
クは通常の退職手続き時の一つのプロセスとして実施しています。そのた
10 め、上記は今回我々が定義した『損害』にはあたらないと考えています。」
と述べており、上記の情報システムチームのBとの打ち合わせは、まさに、
この「退職手続き時のプロセスの一環」なのである。また、法的紛争の相
手方に対してどのような措置を講じるかについては、専ら、当事者の判断
によるものであるから、その検討時間の残業代につき相手方に責任を負わ
15 せるのは相当であるとはいえない。
②については、
「訴訟等の準備」
(資料の検討)に要した残業代を「損害」
として請求するものであるが、一般論として、当事者間に法的紛争が生じ
た場合に、その「法的紛争の解決の時間的コスト」は、双方が各自負担を
するものである。
「当事者の訴訟準備等にかかる時間的コスト」
(資料の検
20 討、書面の検討・作成、弁護士との協議等の時間)を「相当因果関係ある
損害」として認めるということであれば、その旨を明示的に判決によって
示して頂きたい。一般に、会社が損害賠償請求訴訟を提起する場合には、
会社担当者及び事件の関係者が業務上で「訴訟の準備」
(資料の作成や弁護
士との協議)をする必要が生じる。訴訟準備のために残業が生じた場合に、
25 その「訴訟準備のための残業代」を「相当因果関係ある損害」として計上
することが出来るとすれば、今後の会社の損害賠償実務に大きな影響を与
えるものである。
ウ 原判決は、令和4年3月の業務内容及び要した時間について、①新誓約
書の文案作成作業、②訴状作成時に使用する経緯報告書の作成に合計7時
間(3.5時間+3.5時間=7時間)を要したとする(原判決18頁1
5 7行目ないし26行目)ところ、本件行為があった場合に、被控訴人が新
誓約書の案(甲18)を作成するかどうかは、被控訴人独自の判断であっ
て、一般的に被控訴人が誓約書の作成を余儀なくされる(新誓約書の締結
の必要性)という関係にはない。控訴人は、令和3年(2021年)12
月28日の時点で、既に被控訴人に本件誓約書(甲3)を提出している。
10 被控訴人が提示した新誓約書の案(甲18)と本件誓約書を比較して、法
的な取り扱いに特段の差はない。控訴人において情報資産を削除できてい
ないものがあったとしても、本件誓約書の第1条で対応可能であって、新
たに新誓約書を締結する必要性はない。その必要性がない新誓約書を作成
するためにAが残業した際の残業代は、相当因果関係がある損害であると
15 は到底いえない。また、およそ7頁の分量の経緯報告書(甲1)とおよそ
2頁の分量の新誓約書の案(甲18)の文案を作成するのに、合計で7時
間もかけたというのは、過剰な時間の計上(相当性を欠く)であるといわ
ざるを得ない。
エ 原判決は、令和4年4月及び5月の「業務内容」及び「要した時間」に
20 ついて、①新誓約書の案の顧問弁護士との協議及び加筆修正作業、②経緯
報告書の作成とこれに必要な証拠の収集等に合計45時間(12時間+5
時間+10.5時間+17.5時間=45時間)を要したとする(原判決
19頁1行目ないし8行目)ところ、およそ7頁の分量の経緯報告書(甲
1)とおよそ2頁の分量の新誓約書の案(甲18)の文案を作成するのに、
25 合計で45時間もかけたというのは、過剰な時間の計上(必要性・相当性
を欠く)である。一般に、令和4年3月の定時時間内の3.5時間(原判
決18頁24行目ないし25行目)及び同年4月、5月の定時時間内の2
2.5時間(12時間+10.5時間=22.5時間、原判決19頁5行
目ないし7行目)の合計26時間あれば、十分に、経過報告書(甲1)と
新誓約書の案(甲18)の作成はできるはずである。
5 オ 原判決は、令和4年6月の「業務内容」及び「要した時間」について、
新誓約書の案の変更交渉(顧問弁護士とも協議をした)につき、合計18
時間(7時間+11時間=18時間)を要したとする(原判決19頁9行
目ないし20行目)ところ、
「新誓約書案の変更交渉の経緯」については、
「メール」(乙1)によるやり取りで明らかである。「新誓約書案の交渉」
10 に18時間もかかるような内容ではないことは、一目瞭然である。その意
味で、新誓約書案の変更交渉をするのに定時時間内の7時間で必要かつ十
分であるといえる。控訴人との交渉に合計18時間もの時間をかける必要
性はないし、実際にも控訴人と被控訴人との間のメール(乙1)を見れば、
そのような時間はかかっていないことがわかるはずである。
15 被控訴人が主張している18時間の時間の計上は、過剰であるといわざ
るを得ない。本件業務の遂行のために残業の必要性も相当性も認められな
いことは明らかである。例えば、令和4年6月14日は、1日で「10時
30分から11時30分までの1時間」「14時から14時30分までの

30分」「20時から22時半までの2時間半」の合計4時間の「情報セ

20 キュリティー案件」の時間が割かれているが(甲15)、1日に4時間も対
応が必要な内容ではないことは、一般の経験則からしてもすぐ分かる話で
ある。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、被控訴人の請求については、原判決が認容した限度で理由があ
25 り、その余は理由がないものと判断する。その理由は、当審における控訴人の
主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴
人の主な補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」
中、第3の1ないし4(原判決12頁13行目ないし23頁23行目)に記載
のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決14頁12行目の「1つ」を「一つ」と改める。
5 ⑵ 原判決15頁17行目の「用いて」の次に「、クラウドインテグレーショ
ン統括本部が管理するシステムの記憶装置にアクセスし、」を加える。
⑶ 原判決17頁13行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。
「被控訴人から貸与を受けたPCを含む貸与物の控訴人からの返還につい
て、Aがこれらを受領することとなったところ、同日午前10時33分頃の
10 メールで、控訴人は、同月28日が最終勤務日となるが、同日午後5時まで
勤務する予定であるところから、同日午後5時から6時までの間に上記貸与
物をAに返却する旨を連絡した。
しかし、控訴人は、新型コロナウイルス感染により、同月28日は欠勤し、
そのまま同月31日に被控訴人を退社した。」
15 ⑷ 原判決17頁14行目の「甲10、」の次に「11、」を加え、同頁19
行目の「被告と2月面談を実施した」を「控訴人が新型コロナウイルス感染
症から回復した後、前記貸与物等の返還を受け、本件資料の持出しに関連し
た事情を聴くため2月面談を実施した」と、同頁25行目の「被告は、」を
「控訴人は、本件資料持出しの動機については退職後の自身の勉強のためで
20 あると供述し、」とそれぞれ改める。
⑸ 原判決18頁8行目の「27」の次に「、乙1」を加える。
⑹ 原判決19頁1行目の「新誓約書案」を「新誓約書の案」と、同頁9行目
の「13日、」の次から同頁13行目の末尾までを「Aを通じて控訴人に連
絡を取り、本件資料の持出しに関して新たな誓約書の提出を求め、控訴人も
25 これを検討する意思を示したことから、その素案を送付した。これにつき控
訴人から意見が出されるなどしたことから、控訴人とAとの間でメールでの
やり取りがなされ、その結果を踏まえて、本件資料につき『下記資料は貴社
のクラウドインテグレーション統括本部が管理しているシステムの記憶装置
のフォルダに保存されており、貴社の正社員だけが業務目的に限りアクセス
できる情報資産であり、貴社が社外秘として管理する、業務上有用であり一
5 般的には知られていない情報が記載されているものですので、これらを無断
複製し、社外に持ち出した行為は2021年12月28日、私が貴社に提出
した『退職における誓約書』に違反する行為であり、私は自らに非があるこ
とを認めます』などとする内容を含む新誓約書の案(甲18)が令和4年6
月20日に控訴人に送信された。控訴人は、同月22日、これに対し、『内
10 容確認いたしました。こちらの内容にてお願いします。原本送付、お手数お
かけしますが宜しくお願い致します。』と返信し、同日、Aも、『再考案に
て記名捺印いただけるとのこと、ありがとうございます。それでは本日原本
をX様のご自宅に郵送させていただきますので、記名捺印の上、返送いただ
ければ幸いです。』と返信した。控訴人は、同月23日に、Aに対し、『追
15 加で二点確認させてください。内容を確認したいだけですので、書類を再作
成してほしいという意図ではありません。これにより貴社に損害が生じた場
合には、当該誓約書に従って賠償する責任 上記文面についてです。』とし、
『①損害はどのようなことを想定されていますでしょうか。』、『②当該誓
約書に従って賠償する、の従ってとは、誓約書内のどの文面にかかっていま
20 すでしょうか。』との2点を質問し、これにAは回答するなどした。」とそ
れぞれ改め、同頁20行目の「乙1」の次に「、弁論の全趣旨(原審におけ
る令和5年9月29日付け被告準備書面⑶3頁)」を加える。
⑺ 原判決20頁11行目の「不正持出しの記録を示されてもなお」を「不正
持出しの記録を示されると、控訴人はそれまで開発関連資料のアップロード
25 を一度も行っておらず、その可能性がないにもかかわらず(甲27)、本件
資料1及び2につき『この2点ですね』とした上で、『他のファイルをフォ
ルダごと保存した際に入ったかもです』などと、あたかも過失により複製が
されたかのように弁解し、ことさら不正確な情報を伝えるなど、」と改める。
⑻ 原判決21頁14行目の「Bに」を「Bらに」と、同頁15行目の「あわ
よくば」を「ことさら不正確な情報を伝えるなどして」とそれぞれ改める。
5 ⑼ 原判決22頁24行目の「による」の次に「、退職の直前に至るまで継続
的に行われた」を、同頁25行目の「洗い出し、」の次に「既に退職した」
をそれぞれ加える。
⑽ 原判決23頁10行目の「被告の」から同頁11行目の「対応が」までを
「控訴人は被控訴人の調査に非協力的であり、資料を示された後も虚偽の弁
10 解をするなど、控訴人による被控訴人の調査を妨害する対応が」と改める。
2 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断は、以下のとおりである。
⑴ 控訴人は、前記第2の3⑴ア及びカのとおり、2月面談において、自らが
認識していないフォルダに情報を格納したかもしれない旨発言しておらず、
原判決は、言い分が対立している事実について一方の言い分に基づき事実認
15 定を行ったもので誤りであり、控訴人は2月面談の時点で本件誓約書違反の
状態を完全に是正しており、新誓約書作成の必要性はなく、非協力的な対応
を重ねてもいない旨を主張する。
しかし、2月面談の事実経過については、証拠に照らし補正の上で引用し
た原判決第3の1⑷オのとおり認められるほか、控訴人は、本件訴訟におい
20 て、控訴人がAと令和4年6月13日から同年7月7日までにやり取りした
メールを乙第1号証として提出するのみであり、2月面談における控訴人と
Aらとのやり取りにつき認識の相違があるとするのであれば、これに関する
控訴人主張を裏付ける立証活動を容易に行えるにもかかわらず、これを行っ
ていないことに照らすと、その他の書証や一連の事実経過に照らし合理性を
25 有する被控訴人提出の各証拠に依拠して事実認定を行うことに何ら問題はな
い。
また、本件誓約書は控訴人による本件資料の持出し以前に作成されたもの
であり、控訴人において、本件誓約書に違反する持出しを故意に行い、これ
についての弁解も変遷する中において、本件資料の複製物等の取扱いについ
て、本件誓約書における誓約で足りるものとはおよそ考え難く、新誓約書の
5 作成を求めるのは当然に必要なことであり、控訴人の被控訴人の調査に対す
る対応も、既に述べたとおりおよそ協力的なものとはいえないものである。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑵ 控訴人は、前記第2の3⑴イないしオ及び⑵のとおり、原判決は主張が対
立する点について一方の言い分に基づき客観性のないAの報告書等に依拠し
10 て事実認定を行っている点で誤りであり、Aの残業の必要性や損害との相当
因果関係の判断も誤りである旨を主張する。
しかし、控訴人は、退職後の自身の勉強のため参考資料として利用しよう
と考えて本件資料を控訴人個人ストレージにアップロードして複製し保管し
た旨主張しているところ(原判決6頁20行目ないし22行目)、この自身の
15 勉強のために持ち出したとの動機については、2月面談時に供述したもので
あるが(乙1)、この主張は、少なくとも本件資料が退職後においても勉強に
資する資料であると認識した上で故意に持ち出したことを自認するものとい
うことができ、控訴人が同面談以前に表明していた、あたかも過失により複
製がされたかの如き弁明とは内容的に全く異なるものである。
20 しかも、2月面談の時点において、控訴人は、エンジニアリング事業を行
うものの、被控訴人のリセラーとしての機能も担うとする会社(乙1)に就
職しており、2月面談においても、同面談における控訴人の発言の内容(補
正の上で引用した原判決第3の1⑷オ)によれば、控訴人による資料の持出
しの全貌と、その後の資料ないしその複製物の行方は明らかにはなっていな
25 いものであるから、被控訴人において、補正の上で引用した原判決第3の1
⑷カ及び同⑸アないしウのとおりの業務を行うことについて、十分合理性が
あるというべきである。「カレンダー」(甲15)は、業務の効率化を図るた
めに作成され(甲23)、各日に行われた業務が時刻に従ってほぼ間断なく列
挙されているものであり、そのような文書の性質、内容に照らすと、業務に
要した時間について、基本的にそれに基づいて認定することには、合理性が
5 認められるといえる。
本件は、控訴人による本件誓約書違反の事実について、被控訴人が確認を
行ったのに対し、本件資料の持出しについての資料を示されるまで、控訴人
は、不快な連絡を受けたからBからの聴取には応じないなどとして調査を妨
害しようとし、同資料を示された後においても虚偽の弁解をするなどした事
10 案であり、2月面談を経ても持出しの全貌等が明らかにならず、被控訴人の
業務と一部関連する業態の会社に就職した控訴人に対する訴訟準備等のため
Aの行った残業に係る費用の支出は、補正の上で引用した原判決第3の3⑴
のとおり、控訴人の不法行為と相当因果関係のある損害といえる。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
15 3 以上に認定判断したところは、当審における控訴人のその余の補充主張によ
っても、左右されるものではない。
4 よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することと
して、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
25 中 平 健
裁判官
5 今 井 弘 晃
10 裁判官
水 野 正 則

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