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令和6(ラ)10002発信者情報開示命令申立却下決定に対する即時抗告申立事件

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裁判所 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年10月4日
事件種別 民事
法令 その他
キーワード 損害賠償2回
侵害2回
主文 1 原決定を取り消す。
2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。
1 原審は、本件各投稿について、台湾に所在する相手方が、台湾に所在する者5
2 当裁判所は、令和6年7月2日、非訟事件手続法69条1項本文により、相
1 原決定は、相手方が日本において事業を行う者であることを認めたにもかか20
2 仮に、上記解釈が認められないとしても、本件各投稿は、相手方が日本人向
1 プロバイダ責任制限法9条1項3号は、我が国の裁判所が発信者情報開示命
2 相手方が「日本において事業を行う者」といえるか
3 「申立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」といえるか15
4 以上のとおり、本件申立ては、日本において事業を行う者を相手方とし、当
事件の概要 1 原審は、本件各投稿について、台湾に所在する相手方が、台湾に所在する者5 との間で締結された台湾に所在する者向けのプロバイダ契約に基づき提供し たインターネット接続サービスを利用して行われたことがうかがわれるとし て、本件申立ては日本において事業を行う者に対する日本における業務に関す るものであるとはいえないから、日本の裁判所にプロバイダ責任制限法9条 1 項3号所定の国際裁判管轄があるとはいえないとして、本件申立てを却下した。10 これを不服とする抗告人が、主文と同旨の裁判を求めて本件抗告をした。

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判決文

令和6年(ラ)第10002号 発信者情報開示命令申立却下決定に対する即時抗
告申立事件
(原審・東京地方裁判所令和5年(発チ)第10540号)
決 定
抗告人(原審申立人) X
同代理人弁護士 藤 吉 修 崇
同 瀧 坪 渉
10 相手方(原審相手方) 中華電信股份有限公司
主 文
1 原決定を取り消す。
2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。
15 理 由
【略語について】
本決定では、以下の略語を用いる。
・ プロバイダ責任制限法:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発
信者情報の開示に関する法律
20 ・ 本件各投稿:原決定別紙投稿記事目録記載の投稿
第1 事案の要旨
本件は、抗告人が、インターネット接続サービスを提供する台湾法人である
相手方に対し、プロバイダ責任制限法5条1項、8条の規定に基づき、本件各
投稿に係る発信者情報の開示命令の申立てをした事案である。抗告人は、氏名
25 不詳者が、相手方の提供する電気通信設備を経由して、抗告人が著作権を有す
る漫画の画像データを「BOOTH」
(サイト名)のサーバに複数回アップロー
ドしたこと(本件各投稿)が、抗告人の複製権及び公衆送信権を侵害するもの
であり、上記発信者情報の開示が損害賠償請求権等の行使のために必要である
と主張している。
第2 原審の判断及び抗告の提起
5 1 原審は、本件各投稿について、台湾に所在する相手方が、台湾に所在する者
との間で締結された台湾に所在する者向けのプロバイダ契約に基づき提供し
たインターネット接続サービスを利用して行われたことがうかがわれるとし
て、本件申立ては日本において事業を行う者に対する日本における業務に関す
るものであるとはいえないから、日本の裁判所にプロバイダ責任制限法9条 1
10 項3号所定の国際裁判管轄があるとはいえないとして、本件申立てを却下した。
これを不服とする抗告人が、主文と同旨の裁判を求めて本件抗告をした。
2 当裁判所は、令和6年7月2日、非訟事件手続法69条1項本文により、相
手方に対し、抗告状の写し、原決定写し、発信者情報開示命令申立書写し、甲
号証写し等を送付するとともに、事務連絡文書をもって、抗告人の主張に対す
15 る反論や疎明資料があれば、同年8月30日までに提出するように求めて反論
の機会を与えた。相手方は、同年7月5日に上記書面等を受け取ったものの、
上記期限である同年8月30日を過ぎても反論を記載した書面等の提出をし
なかった。
第3 抗告人の主張
20 1 原決定は、相手方が日本において事業を行う者であることを認めたにもかか
わらず、本件各投稿で用いられたサービスが相手方の日本における業務に関す
る訴えではないとして本件申立てを却下したが、プロバイダ責任制限法9条1
項3号の解釈を誤っている。本件申立ては、アクセスプロバイダから投稿者を
特定する発信者情報開示命令手続であり、投稿者を特定するために使用するI
25 Pアドレスから分かるのは、あくまで電気通信事業者(アクセスプロバイダ)
の情報にすぎず、プロバイダ責任制限法自体も、どのようなサービスを用いて
投稿されたのかまで分かる証拠を要求していない以上、同号の「日本における
業務に関するもの」とは、申立ての内容が相手方の日本で行い得る業務範囲に
関連するものであれば足りると解するべきである。
本件でも、相手方は、SIMカード、国際ローミングサービス、子会社を介
5 した業務といった形で日本において業務を行っており、日本向けのサービスを
提供している以上、本件申立ては、日本で行い得る業務範囲に関連するから「日
本における業務に関するもの」に当たるといえる。
2 仮に、上記解釈が認められないとしても、本件各投稿は、相手方が日本人向
けに提供するサービスを使ってされた可能性が相当高いといえるから、本件各
10 投稿で用いられたサービスは相手方の日本における業務に関する訴えである。
すなわち、相手方は、日本人向けにSIMカードを利用できるサービスを行っ
ており、本件各投稿の投稿先である「BOOTH」も日本語で表記された日本
人向けのサービスであり、さらに、本件各投稿も「追加支援のお方ありがとう
ございます。今後もよろしくお願いします。 と流ちょうな日本語で投稿されて

15 いることからすると、日本人の投稿者が、相手方が日本において提供するサー
ビスに基づき本件各投稿を投稿した可能性は相当高い。
また、本件各投稿に使用された相手方のインターネット接続サービスは、
「B
OOTH」のサーバである日本国内サーバへアクセスしたものであり、そのた
めには相手方が日本のプロバイダやネットワーク組織による相互接続をする必
20 要があるから、本件各投稿は相手方が台湾で提供するインターネット接続サー
ビスのみで完結するものではない。
よって、本件申立ては相手方の「日本における業務に関するもの」といえる。
第4 当裁判所の判断
1 プロバイダ責任制限法9条1項3号は、我が国の裁判所が発信者情報開示命
25 令の申立てについて管轄権を有する場合として、同項1号及び 2 号に掲げるも
ののほか、日本において事業を行う者を相手方とする場合において、申立てが
当該相手方の日本における業務に関するものであるときを定めている。
ところで、近年における情報流通の国際化の現状を考えると、インターネッ
ト上の国境を越えた著作権侵害に対する司法的救済に支障が生じないよう適切
な対応が求められている。地域的・国際的にオープンな性格を有するインター
5 ネット接続サービスの特性を踏まえると、当該サービスを提供する事業者の業
務が「日本における」ものか否かを形式的・硬直的に判断することは適切でな
く、その利用の実情等に即した柔軟な解釈・適用が必要になると解される。
こうした点を踏まえて、以下具体的に検討する。
2 相手方が「日本において事業を行う者」といえるか
10 一件記録によれば、相手方は台湾に所在し、電気通信業を営む法人であるも
のの、日本国内において、主に台湾からの旅行者のために国際ローミングサー
ビスを提供しており、日本の空港等では日本から台湾への旅行者向けにSIM
カードを販売していることが認められる。そうすると、相手方は、
「日本におい
て事業を行う者」に当たるということができる。
15 3 「申立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」といえるか
一件記録によれば、本件各投稿がされたサイトである「BOOTH」は、日
本語が使用される日本向けのサイトであって、相手方が台湾で提供するインタ
ーネット接続サービスが、当該サイトのサーバに接続され、その結果、本件各
投稿がされたこと、本件各投稿のうちの一部の投稿(甲4の1)には、
「お初の
20 オリジナルTL漫画です。よろしくお願いします」 「追加支援のお方ありがと

うございます。今後もよろしくお願いします。 との流ちょうな日本語による記

載があることが認められ、本件各投稿は、日本人向けに提供されているSIM
カードその他の相手方の日本人向けサービスを利用して行われた可能性が高い
といえる。
25 そして、上記のとおり、当裁判所は、相手方に対して反論等の提出を求めた
ものの、期限を過ぎても相手方からの応答はなかったのであり、本件において、
上記判断を覆すに足りる証拠もない。
以上によると、本件各投稿は、実質的に見て日本に居住する日本人向けとし
か考えられないようなインターネット接続サービスを利用して行われたといえ
る。そのような場合に、あえて国内のプロバイダを経由することなく、外国に
5 業務の本拠を置くプロバイダが利用されたからといって、当該業務が「日本に
おける」ものでないとして我が国の国際裁判管轄を否定するのは相当でない。
本件申立ては、
「申立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」に当た
るというべきである。
4 以上のとおり、本件申立ては、日本において事業を行う者を相手方とし、当
10 該相手方の日本における事業に関する訴えであると認められるから、プロバイ
ダ責任制限法9条1項3号により、日本の裁判所に国際裁判管轄があるという
のが相当である。
そうすると、国際裁判管轄がないことを理由に抗告人の本件申立てを却下し
た原決定は相当ではなく、本件抗告は理由がある。よって、原決定を取り消し、
15 原審において更に審理を尽くさせるため本件を東京地方裁判所に差し戻すこと
として、主文のとおり決定する。
令和6年10月4日
知的財産高等裁判所第4部
20 裁判長裁判官 宮 坂 昌 利
裁判官 本 吉 弘 行
裁判官 岩 井 直 幸

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