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令和6(ネ)10019損害賠償請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年9月25日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法70条2項2回
特許法70条1項1回
特許法70条1回
特許法36条6項1号1回
特許法100条1項1回
キーワード 実施5回
損害賠償3回
特許権2回
無効2回
差止2回
新規性1回
侵害1回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要 1 控訴人の請求 (1) 被控訴人らは、被控訴人製品を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、若 しくは輸出し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。 (2) 被控訴人らは、被控訴人製品を廃棄せよ。 (3) 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して1億円及びこれに対する令和410 年8月25日から支払済みまで年3分の割合による金銭を支払え。 【請求の法的根拠】 (1)について 特許法100条1項に基づく差止請求 (2)について15 同条2項に基づく廃棄請求 (3)について ・ 主請求:不法行為に基づく損害賠償請求(一部請求) ・ 附帯請求:遅延損害金請求(起算日は訴状送達日の翌日、利率は民法所定) 2 原審の判断及び控訴の提起20

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判決文

令和6年9月25日判決言渡
令和6年(ネ)第10019号 損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和4年(ワ)第18830号)
口頭弁論終結日 令和6年7月22日
5 判 決
控訴人(第1審原告) 株 式 会 社 空 ス ペ ー ス
同訴訟代理人弁護士 泊 昌 之
10 同 小 野 沢 庸
被控訴人(第1審被告) トヨタ自動車株式会社
15 被控訴人(第1審被告) 株式会社ジェイテクト
上記両名訴訟代理人弁護士 田 中 昌 利
同 東 崎 賢 治
同 田 島 弘 基
20 同 鐙 由 暢
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
25 (略語は、原判決の例による。)
第1 事案の要旨
本件特許(発明の名称は「転がり装置、及びその製造方法」、特許第396
4926号) の特許権者である控訴人が、被控訴人らによる 被控訴人製品
(ターボチャージャー用アンギュラ玉軸受)の製造、譲渡等が本件特許権の侵
害に当たる旨主張して、その差止め、損害賠償等を求める事案である。
5 第2 当事者の求めた裁判
1 控訴人の請求
(1) 被控訴人らは、被控訴人製品を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、若
しくは輸出し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
(2) 被控訴人らは、被控訴人製品を廃棄せよ。
10 (3) 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して1億円及びこれに対する令和4
年8月25日から支払済みまで年3分の割合による金銭を支払え。
【請求の法的根拠】
(1)について
特許法100条1項に基づく差止請求
15 (2)について
同条2項に基づく廃棄請求
(3)について
・ 主請求:不法行為に基づく損害賠償請求(一部請求)
・ 附帯請求:遅延損害金請求(起算日は訴状送達日の翌日、利率は民法所定)
20 2 原審の判断及び控訴の提起
原判決は、①本件各発明の技術的意義に照らすと、構成要件1-A及び2
-Aの構成は、「個々の転動体に対して公転速度の加減を行うことができ、そ
れに基づき転動体同士の間隔を調整できる構成のもの」と認められ、「転動体
同士の間隔を一定に保持する保持器を有する軸受」はこれに該当しない、②
25 被控訴人製品は、保持器によって玉同士の間隔を常に一定に保持されている
ものであるから、構成要件1-A及び2-Aを充足しないとの判断を示し、
控訴人の請求を全部棄却する判決をした。これに対し、原判決を不服とする
控訴人が下記のとおり控訴を提起した。
【控訴の趣旨】
(1) 原判決を取り消す。
5 (2) 上記1(1)~(3)と同旨
第3 前提事実等
1 前提事実は、原判決(原裁判所による更正決定後のもの。以下同じ。)の第
2の1(2頁~)に記載するとおりであるから、これを引用する。
2 本件各発明の概要
10 (1) 特許請求の範囲の記載
本件発明1(請求項4)及び本件発明2(請求項1)の特許請求の範囲
の記載は、上記引用に係る原判決の第2の1(3)のとおりであるが、後に取
り上げる構成要件1-A及び2-A、構成要件1-C及び2-Cを以下に再
掲する。
本件発明1(請求項4) 本件発明2(請求項1)
1-A 少なくとも1対の転送溝によ 2-A (同左)
り構成される転送路と、転送路の間に
転動自在に介挿させた複数の転動体に
より構成され、
1-C 転送路の一部に転動体が一方 2-C 片側の転送溝の少なくと
の転送溝のみに当接する無負荷領域を も一部について転動体との間に作
生成し、 用する摩擦力を、対向する転送溝
の転動体との間に作用する摩擦力
に対し大きくすると共に、
15 (2) 本件明細書には、原判決の第3の1(1)(24頁~)のとおりの記載が
あり、これによれば、本件各発明は、次のような技術的意義を有するものと
認められる。すなわち、①従来の軸受装置においては、個々の転動体の公転
速度の微小な相違に起因した転動体同士の接触である「競い合い」が発生し、
摩擦抵抗の増大、潤滑不良等の原因となっていたこと、②これを解決するた
めに従来から行われていた保持器等を転動体の間に介挿する方法は、生産性
5 低下、材質の制約による耐環境性能の制約等の要因となっていたこと、③本
件各発明は、これを解決するため、転送路の特定領域において転動体との接
触角を増大、減少させることにより、転動体の公転速度を低下又は増加させ、
それに基づき転動体同士の間隔を調整できるようにしたこと、④その結果、
上記「競い合い」を避けることができるというものである。
10 第4 争点及び争点に関する当事者の主張
1 本件の争点は以下のとおりである。なお、原審の上記判断を受けて、当審
では、構成要件1-A及び2-Aの充足性を中心に主張立証が行われた。
(1) 被控訴人製品の本件各発明の技術的範囲の属否(争点1、2)
具体的には、本件発明1との関係で、構成要件 1-A、1-C、1-D及び
15 1-E、本件発明2との関係で、構成要件2-A、2-C、2-D及び2-
Eのそれぞれの充足性が争われている。
(2) 特許無効又は法定実施権の抗弁(争点3)
具体的には、①公然実施発明に係る新規性欠如(争点3-1)、②先使用
権(争点3-2)の成立、③本件各発明のサポート要件違反(争点3-3、
20 4)のそれぞれの有無が争われている。
(3) 控訴人の損害額(争点4)
2 争点に関する当事者双方の主張は、当審における当事者双方の補充的主張
を以下のとおり加えるほか、原判決の第2の3(7頁~)に記載のとおりで
あるから、これを引用する。
25 3 当審における当事者双方の補充的主張(構成要件1-A及び2-Aの充足
性に関して)
【控訴人】
(1) 構成要件1-Aの文言上、軸受に保持器が付いているかは全く問題とさ
れておらず、かえって本件明細書【0028】には保持器付軸受についても
本件発明1の実施により同段落記載の各効果が発生するとの記載があるから、
5 被控訴人製品は、たとえ保持器を有しているとしても、構成要件1-A(及
びこれと同一の構成である構成要件2-A)を充足すると解すべきである。
(2) 原判決は、被控訴人製品の「転動体同士の間隔を一定に保持する保持器」
について、本件発明1と異なり、複数の転動体に対する公転速度の加減を
行った上で、それに基づき転動体同士の間隔を調整することはできないと判
10 断したが、「転動体同士の間隔を一定に保持する保持器」などというものは
実世界では存在し得ない。転動体と保持器は完全に密着しているのではなく、
その間には隙間があるのであり、転動体も軸受が回転中はその隙間を絶えず
動くことになるから、たとえ保持器が存在したとしても、「転動体同士の間
隔が一定に保持される」ということはない。転動体と保持器との間に隙間が
15 ある以上、軸受中に保持器が存在したとしても、本件発明1を実施すること
によって転動体に対する公転速度の加減を行うことは可能である。
(3) 控訴人が、市販の保持器付軸受に本件発明1を実施することにより、本
件発明1の企図する効果が得られるかを確認する実験を行ったところ、摩擦
損失が低減されていることが判明しており、本件発明1の効果が生じている
20 ことが確認されている(甲37)。
【被控訴人ら】
(1) 構成要件の解釈に当たっては発明の作用効果が参酌されるべきであり
(特許法70条2項)、本件各発明の技術的意義(転動体同士の接触である
「競い合い」をなくす作用効果を有する。)に基づいて構成要件1-A及び
25 2-Aにおける「転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体により構
成され」を解釈すれば、転動体同士の間隔を保持器によって保持し、その結
果転動体同士の「競い合い」を生じさせない被控訴人製品は、これらの構成
に該当しないと解すべきである。
(2) 控訴人は、転動体同士の間隔を一定に保持する保持器を有する軸受にお
いて、転動体と保持器が繰り返し接触することを防ぐという効果を奏するこ
5 とを立証するために甲37の実験結果を提出する。しかし、控訴人は、原審
における争点整理手続において、保持器を有する軸受も本件各発明の構成要
件1-A及び2-Aを充足すると繰り返し主張しており、その過程で実験結
果を提出する機会は十分に存在した。しかも、甲37の実験の信用性には疑
義が多数存在するため、この主張立証を許容すると、被控訴人らがこれを争
10 うことになって訴訟の完結が遅延することは明らかである。よって、甲37
は時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきである。
第5 当裁判所の判断
1 当裁判所は、被控訴人製品は、構成要件1-A及び2-Aを充足すると認
められるものの、構成要件1-C及び2-Cを充足しないから、結論的には
15 原審と同様、控訴人の請求は全て棄却すべきものと判断する。その理由は、
以下のとおりである。
2 構成要件1-A及び2-Aの充足性について
(1) 構成要件1-A及び2-A(その内容は両者共通)は、前記第3の2
(1)のとおりであるところ、前提事実(6)(前記引用に係る原判決第2の1
20 (6)、5~6頁)のとおり、被控訴人製品は、転動体である複数の玉と、玉
が転がる外輪と内輪とで構成される軌道輪(転送路)を有する軸受(アン
ギュラ玉軸受)であるから、「少なくとも1対の転送溝により構成される転
送路」と、「転送路の間に転動自在に介挿させた複数の転動体」により構成
されていることは明らかである。
25 (2) これに対し、被控訴人らは、特許法70条2項を根拠に、本件各発明の
作用効果を参酌すれば、被控訴人製品のように「転動体同士の間隔を保持器
によって保持するもの」は構成要件1-A及び2-Aから除外して解釈(限
定解釈)されるべきであるとの趣旨の主張をする。
しかし、特許発明の技術的範囲は、飽くまでも「特許請求の範囲の記載
に基づいて定めなければならない」(特許法70条1項)のであり、明細書
5 の記載内容は、特許請求の範囲に記載された用語の意義を明らかにする限度
で考慮されるにすぎない(同条2項)。明細書の記載を考慮するという名の
下に、特許請求の範囲に記載されていない事項を特許発明の技術的範囲に取
り込むような同条2項の拡張解釈(技術的範囲の限定解釈)は、「特許請求
の範囲」と「明細書(発明の詳細な説明)」の役割分担を無視するに等しく、
10 許されない。
被控訴人らの主張する上記限定解釈は、「特許請求の範囲に記載された
用語の意義」の解釈という限度を超え、明細書(発明の詳細な説明)の記載
を根拠に、転動体同士の間隔を制御する構成に関する事項を特許発明の技術
的範囲に取り込もうとするものにほかならず、特許法70条の許容するとこ
15 ろではない。
(3) ところで、本件各発明は、前記第3の2(2)のとおりの技術的意義を有
するところ、被控訴人製品のような、転動体同士の間隔を一定に保持する保
持器を有するものについては、本件各発明の構成に基づいて前記課題(前記
第3の2(2)①、②)が解決されると理解することはできない(この趣旨を
20 いう限度で、原判決の第3の2(1)、(2)の判断〔29頁16行目~22行
目、30頁6行目~21行目〕には首肯できる点がある。)。「転動体同士
の間隔を保持器によって保持するもの」は、本件各発明の技術的範囲から除
外して解釈されるべきであるとする被控訴人らの前記主張は、以上の見地か
ら理解できないではないが、この点は、サポート要件(特許法36条6項1
25 号)違反による特許無効の抗弁の問題として扱うべき事項であって、上述の
ような無理のあるクレーム解釈を行うべきものではない。
(4) 以上により、被控訴人製品は、構成要件1-A及び2―Aを充足するも
のであり、保持器を備えていることは、その充足を認める妨げになるもので
はない。
なお、被控訴人らは、控訴人が当審において提出した甲37が時機に後れ
5 た攻撃防御方法に当たるからこれを却下すべきであると主張するが、同証拠
は上記判断に影響を及ぼすものではなく、その提出は本件訴訟の完結を遅延
させることになるものとは認められない。よって、被控訴人らの時機に後れ
た攻撃防御方法の却下の申立てはこれを却下することとする。
3 構成要件1-Cの充足性について
10 (1) 前記前提事実(6)のとおり、アンギュラ玉軸受である被控訴人製品は、
予圧をかけて玉と内輪、玉と外輪を弾性変形させて、内輪軌道溝及び外輪軌
道溝と、玉との間の隙間をなくした状態で使用されるものであるから、「転
動体が一方の転送溝のみに当接する」ものではなく、「無負荷領域を生成」
するとはいえない。この点は、被控訴人ら提出の乙3、17の第三者機関に
15 よる解析結果からも裏付けられるところである。
(2) これに対し、控訴人は、本件発明1が「物の発明」であり「方法の発明」
ではないから、構成要件該当性の判断に当たっては、被控訴人製品の使用者
がどのように使用するか(予圧がかかっているか)は考慮すべきでないと主
張する。
20 しかし、本件明細書には、「この玉軸受を外輪固定、内輪回転で使用し、
内輪には上方荷重Fが加わる場合に図の上半分13が負荷領域、下半分14
が無負荷領域、となる。内輪12が右(CW)回転するとボールは負荷領域
において内輪につられて左廻りに自転しながら右へ公転するが、無負荷領域
に侵入後は内輪と離れ遠心力により外輪の転送溝1上を慣性力により自転、
25 公転の方向を維持しつつZ-Z断面より接触角変化路aに入る。」(【00
43】)、「さらに、図2の無負荷領域は・・・予圧を付与された玉軸受で
あって、接触角変化路を他の転送溝部分より深く生成することによりボール
との隙間を設ける方法としても良い。」(【0047】)と記載されている
ところ、無負荷領域が生成されるプロセスとして説明されている「上方荷重
F」や「予圧」は、いずれも玉軸受の使用状態で生じるものであるから、
5 「無負荷領域を生成」の解釈に当たって、使用状態を考慮すべきでない旨を
いう控訴人の主張は、明細書の記載と矛盾するものであって、採用できない。
(3) また、控訴人は、上記乙3、17における第三者機関による解析結果に
ついて、①遠心力を考慮していない点で誤りであり、さらに、②当該解析結
果による数値を基に控訴人が計算したところ、その遠心力の接触角方向分力
10 の値は8.4Nであり、これは予圧によって内輪から玉が受ける荷重●●●
●より大きいから、内輪と玉が接触していないと主張する。
しかし、上記解析結果は遠心力を考慮してされたものであり(乙17)、
①の主張はこの解析結果を正解しないものであって、採用できない。
上記②の主張については、本件において控訴人の上記計算結果を裏付け
15 るに足りる証拠がないのみならず、仮に、控訴人が算出する遠心力の接触角
方向分力の値8.4Nを前提にするとしても、乙3、17によれば、内輪か
ら玉が受ける荷重は、回転数が●●●●●●●●●●●、真円度崩れ●●●、
ボール位置 0deg、荷重方向 0deg のときに最小で28.72N、最大で35.
79Nとなり、あるいは回転数が●●●●●●●●●●、その余の条件が同
20 様のときには荷重が最小で31.44N、最大で38.90Nになるので
あって、いずれも控訴人が主張する上記遠心力の接触角方向分力の値8.4
Nを上回っているから、控訴人の主張はその前提を欠く。玉が遠心力によっ
て外輪側に押され、内輪側と離れる結果、「転動体が一方の転送溝のみに当
接する無負荷領域を生成」する旨をいう控訴人の主張は、具体的な裏付けに
25 基づかないものといわざるを得ない。
(4) 以上によると、被控訴人製品が本件発明1の構成要件1-Cを充足する
と認めることはできない。
4 構成要件2-Cの充足性について
(1) 本件明細書には、構成要件2-Cに関する説明として、「また負荷荷重
が非常に小さい場合、作動すべりによる摩擦を直動案内の減衰性を高める目
5 的で利用する場合、作動すべり領域に十分な潤滑剤を供給できる場合、等の
条件によっては、図1の逃げ31、つまり無負荷領域を設けない構成も可能
である。さらに接触角変化路aの滑り摩擦係数を高くせず、接触角変化路に
対向する転送溝の摩擦係数を、低摩擦係数の皮膜をコーティングする、等の
方法により低くしても良い。また図1は、非循環型の直動案内装置として例
10 示したが本発明はこれに限定されるものではなくボールねじ装置(例えば、
特開2005-69281)等にも適用できる。」(【0040】)、「使
用形態で軸受の外輪に掛る負荷が小さい領域であってもボールが内外輪から
荷重を受ける用途においては、接触角変化路の表面粗さを粗くする、もしく
は接触角変化路と対向する側の内輪(または外輪)の転送溝に潤滑剤を多く
15 噴霧する、等の手段により接触角変化路の摩擦力を対向する転送溝に対して
大きくすれば良い。」(【0064】)の記載がある。すなわち、本件発明
1におけるような「無負荷領域」(構成要件1-C)を設けない場合であっ
ても、一方の転送溝の接触角変化路の摩擦力を対向する転送溝に対して大き
くすることで本件発明2における構成要件2-Cを採用することができると
20 いう選択肢が示されており、摩擦力に違いを生じさせるための具体的な方法
として、対向する転送溝に低摩擦係数の皮膜をコーティングする、潤滑剤を
多く噴霧するといった手段が例示されている。
(2) これを被控訴人製品についてみるに、被控訴人製品において、本件明細
書に例示されている上記手段を含め、外輪側にかかる玉の摩擦力と内輪側に
25 かかる玉の摩擦力に違いを生じさせるための構成を備えていると認めるに足
りる証拠はない。
控訴人は、被控訴人製品においては遠心力が生じるから、外輪側にかかる
玉の摩擦力は内輪側にかかる玉の摩擦力に比べて大きくなる旨主張するが、
玉軸受において当然に想定される遠心力の作用とは別に、摩擦力に違いを生
じさせるための具体的な手段に言及している本件明細書の記載にも照らすと、
5 遠心力の発生という一事のみによって構成要件2-Cが当然に充足するとは
考え難いし、これを措くとしても、本件において、被控訴人製品の外輪側に
かかる玉の摩擦力が内輪側にかかる玉の摩擦力より大きくなっていることを
示す具体的な証拠はない。
(3) よって、被控訴人製品が本件発明2の構成要件2-Cを充足すると認め
10 ることはできない。
第6 結論
以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、控訴人の本訴請求
は理由がないというべきであり、これを棄却した原判決はその結論において相
当である。よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主
15 文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
宮 坂 昌 利
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
25 岩 井 直 幸

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