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令和6(行ケ)10025審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年10月30日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社アイエーシーインターナショナル
被告ルイスポールセンエイ/エス
法令 商標権
商標法4条1項10号6回
商標法4条1項7号5回
商標法3条2項2回
キーワード 審決12回
無効11回
ライセンス10回
抵触5回
無効審判4回
商標権3回
許諾1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。) (1) 被告は、別紙の構成からなる立体商標(本件商標)について、第11類「ラ25 ンプシェード」を指定商品として平成25年12月13日登録出願をし、平 成28年2月12日に設定登録を受けた(登録第5825191号)。 (2) 原告は、令和2年11月10日、本件商標について無効審判を請求し、特 許庁は、同請求を無効2020-890080号事件として審理を行った。 特許庁は、令和6年2月8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」と の本件審決をし、その謄本は同月15日原告に送達された。5 (3) 原告は、令和6年3月14日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起 した。

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判決文

令和6年10月30日判決言渡
令和6年(行ケ)第10025号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年9月11日
判 決
原告(無効審判請求人) 株式会社アイエーシーインターナショナル
同訴訟代理人弁護士 池 田 智 洋
10 被告(同被請求人) ルイス ポールセン エイ/エス
同訴訟代理人弁護士 渡 辺 惺 之
同訴訟代理人弁理士 村 木 清 司
同 関 口 一 秀
15 同 川 端 佳 代 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
20 第1 請求
特許庁が無効2020-890080号事件について令和6年2月8日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
25 (1) 被告は、別紙の構成からなる立体商標(本件商標)について、第11類「ラ
ンプシェード」を指定商品として平成25年12月13日登録出願をし、平
成28年2月12日に設定登録を受けた(登録第5825191号)。
(2) 原告は、令和2年11月10日、本件商標について無効審判を請求し、特
許庁は、同請求を無効2020-890080号事件として審理を行った。
特許庁は、令和6年2月8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」と
5 の本件審決をし、その謄本は同月15日原告に送達された。
(3) 原告は、令和6年3月14日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2 無効審判において主張された無効原因及び本件審決の理由の要旨
(1) 無効理由1(商標法4条1項7号該当性)について
10 【原告の主張する無効原因】
本件商標は、デザイナーである A (1894~1967)のデザ
インに係るものであるところ、その著作権について、 A の相続人
と被告が締結した有効なライセンス契約の原本の存在が明らかにならない限
り、被告は、本件商標を日本において不正に使用し、また審査・審判手続にお
15 いて特許庁を欺いて権利取得したことになり、これらの行為は国際信義則及
び公序良俗に反するものであり、商標法4条1項7号に該当するというべき
である。
【本件審決の理由の要旨】
商標法上、他人の著作権と抵触する商標について、商標登録を受けること
20 ができない旨を定めた規定は存在しない一方、同法29条は他人の著作権と
登録商標が抵触する場合があることを前提としている。したがって、 A
の相続人と被告のライセンス契約の原本の有無は出願や登録に影響を
及ぼすものではない。
また、本件商標は、登録時に被告の業務に係る商品であることが広く認識
25 されていたことが認められて同法3条2項が適用されており、 A
の相続人と被告の間で具体的なトラブルがあった等の事情も認められず、出
願の経緯に社会的相当性を欠くものであったとの裏付けもない。
(2) 無効理由2(商標法4条1項10号該当性)について
【原告の主張する無効原因】
本件商標の立体的形状が A の知的財産であることが周知である
5 から、商標法4条1項10号に該当する。
【本件審決の理由の要旨】
被告が出願時に本件商標について商標法3条2項の適用を受けるための書
類にデザイナーが A であると記載していたことは、デザインをし
た者が A であることを示すにとどまり、本件商品が A
10 の業務に係ることを意味しないから、本件商標は商標法4条1項10号に該
当しない。
3 取消事由
(1) 商標法4条1項7号該当性の判断の誤り(取消事由1)
(2) 商標法4条1項10号該当性の判断の誤り(取消事由2)
15 第3 当事者の主張
1 取消事由1(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について
【原告の主張】
(1) 本件審決は、商標法上他人の著作権と抵触する商標が商標登録を受けるこ
とができない旨の規定が存在しないことを理由に、公序良俗違反を否定して
20 いるが、公序良俗違反の有無は実質的に判断されるべきである。
(2) 被告が著作権者から正当にライセンスを取得したとする乙1は、 A
の法定相続人である B との間で作成されたものと
され、乙2は、 B 死亡後に同人の相続人との間で作成さ
れたものとされるが、 B やその相続人が A
25 の著作権を承継したことの証明も、身分関係の証明も、署名の真正の証明も
されておらず、乙1については B の署名すらない。ま
た、乙1は、 A の死亡から約10年後、乙2は B
の死亡から約15年後に作成されたものであり、書証上、本件商標権の
対象商品の著作権の許諾関係には空白期間がある。
そして、従前の原告の子会社と被告の間の無効審判や訴訟において乙1、
5 2が提出されていないことからすれば、これらは、被告により後日作成され
た書面であるとの疑義を免れない。
被告が、商標法3条2項の適用を受けるために提出した証拠には上記の空
白期間内のものが複数存在し、また、デザインに関し被告の名称が存在せず
A の名称しか記載されていないものが複数存在する。
10 以上によれば、被告は特許庁を欺いて本件商標権を取得したことになり、
国際信義則及び公序良俗に反し、これは商標法4条1項7号に該当する。
【被告の主張】
審決の判断に誤りはなく、原告の主張は失当である。
原告の主張は、被告の本件商標に関するライセンスの有効性に関する合理的
15 根拠を欠く猜疑に発しているが、これに全く根拠のないことは乙1、2から明
らかである。
牽強付会な本件提訴は司法制度の濫用を疑わせるものである。
2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について
【原告の主張】
20 (1) 本件商標は、教科書において、「モダンデザインの代表的ペンダント P
H5・・・ A´ 」(甲25)、「1925年 PHランプ・
・・ A´ 」(甲26)として写真が掲載されており、 A
の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されている商標とし
て、商標法4条1項10号に該当する。
25 (2) A の相続人と被告の間で締結されたライセンス契約が有効でな
いとすれば、デザイナーの有名な商品を盗用して商品化した業者が、立体商
標の登録出願をして権利を取得できるようになり、このようなことを許すと
すれば商標法の趣旨に反する。
【被告の主張】
上記1において述べたところと同じである。
5 第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について
(1) 原告は、被告は特許庁を欺いて本件商標権を取得したものであり、国際信
義則及び公序良俗に反し、これは商標法4条1項7号に該当する旨主張する。
(2) まず、原告は、被告が A 又はその相続人から本件商標に係る商
10 品の著作権についてライセンス契約の締結を受けていないとして、これを問
題とするところ、商標法には、他人の著作権と抵触するような商標登録を禁
じる規定はなく、むしろそのような商標登録が発生し得ることを前提に、同
法29条により先行著作権との調整を図っているのであって、他人の著作権
との抵触の一事をもってしては、同法4条1項7号に該当しないというべき
15 である。 A の相続人と被告との間の著作権に関するライセンス契
約の成否、有効性いかんの問題は、同号該当性に影響を及ぼすものではない
(蛇足ながらあえて付け加えると、乙1、2に係るライセンス契約の成立及
び有効性を疑うべき事情は見当たらない。)。
(3) また、本件商標は、出願過程において、被告の業務に係る商品であること
20 が広く認識されていたことが認められて商標法3条2項が適用されていると
ころ、被告と A 又はその相続人との間で、本件商標に係る著作権
について紛争となっている等、その出願が国際信義に反するような事情が生
じていることの主張立証はない。本件は、単に、原告において、「被告による
A のデザインの盗用」という根拠のない憶測を述べているにすぎ
25 ない事案といわざるを得ない。
(4) 以上のとおりであって、本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとし
た本件審決の判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について
(1) 原告は、本件商標は、 A の業務に係る商品を表示するものとし
て広く認識されている商標として、商標法4条1項10号に該当する旨主張
5 する。
しかし、原告は、本件商標が「 A の」業務に係る商品を表示する
ものであることを表示するものとして周知であることを示す具体的な立証を
しない。甲25、26を含め、本件商標の形状をデザインした者が A
であることを示す証拠はあるが、業務の主体が A であることを
10 示すものではない。
(2) 原告は、 A の相続人と被告の間で締結されたライセンス契約が
有効でないとすれば、デザイナーの有名な商品を盗用して商品化した業者が、
立体商標の登録出願をして権利を取得できるようになる旨主張するが、同主
張は商標法4条1項10号の要件とはかかわりのないものである(なお、上
15 記ライセンス契約の成立及び有効性を疑うべき事情がないことは上記のとお
りである。)。
(3) 以上のとおりであって、本件商標が商標法4条1項10号に該当しないと
した本件審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。
3 結論
20 以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決につい
て取り消されるべき違法は認められない。よって、原告の請求を棄却すること
として、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
25 裁判長裁判官
宮 坂 昌 利
裁判官
本 吉 弘 行
5 裁判官
岩 井 直 幸
別紙

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