令和6(ネ)10045特許専用実施権侵害差止請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和6年10月30日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法100条1項1回
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キーワード |
実施6回 差止3回 特許権2回 侵害2回
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主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
1 事案の要旨
本件は、本件専用実施権を有する原告(なお、本件特許の特許権者は原告代20
表者である。)が、被告による被告システムの譲渡の申出等の行為は、将来、
本件専用実施権を侵害し又は侵害するおそれがあるなどと主張して、被告に対
し、本件専用実施権に基づき、差止請求(特許法100条1項)として、被告
システムの生産、使用、譲渡等の差止めを求めるとともに、廃棄等請求(同条
2項)として、被告システムに用いる「マイクロ・ナノバブル発生装置」と称25
する装置及び「活性炭含有担体」と称する担体の各廃棄、被告システムに関す
るウェブページの削除及びパンフレットの廃棄を求める事案である。 |
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判決文
令和6年10月30日判決言渡
令和6年(ネ)第10045号 特許専用実施権侵害差止請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和5年(ワ)第70001号)
口頭弁論終結日 令和6年9月2日
5 判 決
控 訴 人 エンバイロ・ビジョン株式会社
同訴訟代理人弁護士 沼 井 英 明
被 控 訴 人 A B B i T 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 横 井 康 真
同 香 川 希 理
15 同 上 田 陽 太
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
20 本判決において用いる略語は、次のとおりである(原判決で定義している略語は、
そのまま用いている。)。
原告 控訴人(1審原告)
被告 被控訴人(1審被告)
本件特許 発明の名称を「廃水処理装置」とする特許第7061473号
25 本件専用実施権 本件特許に係る特許権の専用実施権
被告システム 別紙物件目録記載の排水処理システム
本件各発明 本件特許の特許請求の範囲請求項1に記載された発明及び同請
求項7に記載された発明
本件明細書 本件特許の願書に添付した明細書及び図面(甲4)
本件意見書 拒絶理由通知書に対する原告の意見書(乙1)
5 構成要件D 本件特許の特許請求の範囲請求項1をAからGまでの符号を付
して分説した場合のDの符号に対応する構成部分(「該第2の収容
槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」と
ある部分)をいう。
第1 控訴の趣旨
10 1 原判決を取り消す。
2 被告は、被告システムの生産、使用、譲渡、貸渡し、輸出若しくは輸入並び
に譲渡及び貸渡しの申出(譲渡及び貸渡しのための展示を含む)をしてはなら
ない。
3 被告は、被告システムに用いる「マイクロ・ナノバブル発生装置」、「活性
15 炭含有担体」を廃棄せよ。
4 被告は、被告システムに係るウェブページを削除せよ。
5 被告は、被告システムに係るパンフレットを廃棄せよ。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
20 本件は、本件専用実施権を有する原告(なお、本件特許の特許権者は原告代
表者である。)が、被告による被告システムの譲渡の申出等の行為は、将来、
本件専用実施権を侵害し又は侵害するおそれがあるなどと主張して、被告に対
し、本件専用実施権に基づき、差止請求(特許法100条1項)として、被告
システムの生産、使用、譲渡等の差止めを求めるとともに、廃棄等請求(同条
25 2項)として、被告システムに用いる「マイクロ・ナノバブル発生装置」と称
する装置及び「活性炭含有担体」と称する担体の各廃棄、被告システムに関す
るウェブページの削除及びパンフレットの廃棄を求める事案である。
原審は、被告システムについて、本件各発明の技術的範囲に属しないなどと
して、原告の請求を棄却した。
これに対し、原告が原判決を不服として本件控訴を提起した。
5 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張
前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、後記3に当審における当
事者の補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の1から3ま
で(原判決2頁9行目から9頁19行目まで)に記載のとおりであるから、こ
れを引用する。
10 3 当審における当事者の補充主張
争点1(構成要件Dの充足性)について
(原告の主張)
⑴ 本件各発明の目的は「第2の収容槽における廃水処理後の被処理水に含ま
れる残オゾンの低減」を図りつつ、その残オゾンを利用して被処理水の生物
15 処理を促進する点にある。残オゾンは、水酸基ラジカル及び酸素に化学変化
することにより間接的に生物処理を促進させるという重要な役割を担ってい
るから、第2の収容槽においてオゾンを供給することは被処理水の生物処理
の促進という課題の解決に合致し、本件各発明の第2の収容槽とそれに関す
る構成とも相容れる。
20 ⑵ 第2の収容槽で残オゾンを低減させるための本件各発明の特徴は、担体に
担持された活性炭を用いてオゾンの酸素への化学変化を促進させたことにあ
り、このような化学変化の結果として、オゾンが減少するのである。最終的
に第2の収容槽の放流時に被処理水のオゾン濃度を低減する必要はあるが、
廃水処理中にオゾンが存在することは、むしろ効率的な廃水処理に必要であ
25 る。
また、第2の収容槽の酸素供給手段の技術的意義は、第2の収容槽の酸素
供給手段が供給するマイクロナノバブルにより、担体の空孔内に担持された
微生物に対して効果的に酸素が供給され、微生物による生物処理を活性化す
ることにあるから、前記マイクロナノバブルは、少なくとも酸素を含むので
あれば足り、酸素以外の気体(窒素やオゾン)を含むことは排除されない。
5 そして、酸素供給手段は、酸素を含むマイクロナノバブルを放出して循環流
を生成し、第2の収容槽内の被処理水を攪拌するが、これにより、担体の空
孔に集まった残オゾンのマイクロナノバブルが担体に担持された活性炭の作
用によって消滅するとともに、化学反応により水酸基ラジカルと酸素分子が
生成され生物処理が促進される。このような残オゾンの機能を考慮しても、
10 前記マイクロナノバブルが、酸素以外にオゾンを含むことは排除されない。
⑶ 酸素とオゾンは化学変化を起こすことがなく、独立して生物処理に供され
る分子であるから、本件各発明の構成要件D「該第2の収容槽内に酸素を含
むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」は、オゾンの含有が排除さ
れる酸素供給手段ではなく、オゾンが積極的に加えられたマイクロナノバブ
15 ルを供給する供給手段も含むものである。
(被告の主張)
⑴ 本件明細書の記載(段落【0017】等)や本件意見書の記載によれば、
本件各発明は、第2の収容槽において微生物による有機物分解を促進させる
ことを目的とし、かかる微生物が死滅しないよう第1の収容槽から被処理水
20 とともに流入したオゾンの量を早期に低減させることを目的としている。本
件各発明の第2の収容槽において酸素のマイクロナノバブルを供給する目的
は「微生物の活性化」及び「第2の収容槽に残存するオゾンの早期低減」で
あるから、酸素以外に微生物を死滅させるオゾンを追加することはあり得な
い。
25 ⑵ 本件明細書の記載(段落【0017】【0055】等)によれば、微生物
が被処理水中の有機物を捕食することをもって「生物処理」としていること
は明らかであり、オゾンによる微生物の死滅を考慮すると、水酸基ラジカル
や酸素分子が生成されることをもって本件各発明の意図する「生物処理の促
進」といえるものではない。本件意見書が「オゾンにより貴重な微生物を滅
菌してしまう虞がなく」と記載するように、微生物が生存する第2の収容槽
5 にオゾンが投入されると微生物が滅菌されるというデメリットがあるのであ
り、微生物を活性化させて生物処理を促進させることの阻害要因であること
は明らかである。したがって、構成要件Dの酸素供給手段について、酸素の
他にオゾンを含むものは意図されていない。
⑶ 本件各発明には、第2の収容槽において早期にオゾンを低減させたいとい
10 う目的があり、酸素マイクロナノバブルにはオゾンを低減させる化学変化を
促進させる効果がある。よって、構成要件Dの酸素供給手段とは、オゾンを
低減させる化学変化を促進させるために積極的に酸素マイクロナノバブルを
供給するものであるが、前記目的のために、あえて追加的にオゾンなどを供
給するものではないと解するのが自然である。
15 第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原告の請求は理由がないからいずれも棄却すべきものと判断す
る。その理由は、後記2のとおり当審における当事者の補充主張に対する判断
を付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の第3(原判決9頁の20行目
から20頁11行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
20 その理由の要旨は、本件各発明の構成要件D「該第2の収容槽内に酸素を含
むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」の供給手段は、オゾンが積極
的に加えられたマイクロナノバブルを供給する供給手段を含まないというべき
ところ、被告システムでは、第2の収容槽に当たる曝気槽内にマイクロナノバ
ブルを供給する装置があり、そのマイクロナノバブルには、オゾンが意図的、
25 積極的に加えられていると認められるから、被告システムは構成要件Dを充足
しないというものである。
2 当審における当事者の補充主張について
⑴ 原告は第2の収容槽における廃水処理後の被処理水に含まれる残オゾンは、
水酸基ラジカル及び酸素に化学変化することにより間接的に生物処理を促進
させるという重要な役割を担っているから、第2の収容槽においてオゾンを
5 供給することは被処理水の生物処理の促進という課題の解決に合致し、本件
各発明の第2の収容槽とそれに関する構成とも相容れるなどと主張する。
しかしながら、残オゾンがその化学変化を通じて生物処理を促進させると
いう役割を担っていることが事実だとしても、そのことから直ちに本件各発
明上、第2の収容槽において、オゾンを追加供給することが想定されている
10 ということにはならない。すなわち、本件明細書における、本件各発明の廃
水処理方法の「特徴によれば、第1の収容槽にて、オゾン供給工程でオゾン
によって殺菌処理された被処理水と残オゾンに対し、好気性微生物を担持し
た担体を収容した第2の収容槽にて、生物処理工程で酸素を含むマイクロナ
ノバブルを供給することで、この酸素で活性化した好気性微生物による被処
15 理水の生物処理を効果的に行うとともに、残オゾンに付加された酸素により
水酸基ラジカル及び酸素に積極的に化学変化させることで、この残オゾンを
早期に低減させることができる」(段落【0017】。下線部は当裁判所が
付したもの。以下同じ。)との記載や、本件意見書における「各担体の表面
に形成された空孔内に、この空孔の径よりも微小なマイクロナノバブルに含
20 まれる酸素が付着し、同様に担体の空孔内に付着した残オゾンが活性炭の触
媒機能により積極的に酸素に化学変化させることで、これら豊富な酸素によ
って、好気微生物を活発化させて有機物分解を促進するばかりか、残オゾン
を早期に低減させるという効果を奏します。」(本件意見書⑷、P.6~7)
「活性炭の粉末に形成されたポーラスに、残オゾンのオゾン分子を集めるこ
25 とで、酸素分子への積極的な化学変化を促進することができるため、オゾン
により貴重な微生物を滅菌してしまう虞がなく、オゾン処理後の生物処理を
効果的に行うことができます」(本件意見書⑷、P.7)などの記載に照ら
すと、本件各発明は、被処理水中の残オゾンを化学変化させ、生物処理を促
進することにより残オゾンを早期に低減させることを想定しているというこ
とができるが、第2の収容槽における生物処理を促進するためオゾンを追加
5 供給するという技術的思想まで示しているとは認められない。むしろ、本件
明細書のこれらの記載によれば、本件各発明は、あくまでも第2の収容槽に
被処理水とともに流入する残オゾンについて、その早期低減を実現すること
を目的とし、かつ、当該目的の実現に当たっては、微生物を滅菌させること
なく、第2の収容槽における微生物による有機物分解を行うことを想定して
10 いるものと認めるのが相当である。そうすると、第2の収容槽においてオゾ
ンを積極的に供給することは、第2の収容槽に流入する残オゾンの早期低減
を実現するという本件各発明の目的に反するというべきであるから、本件各
発明の課題の解決に合致するものとはいえず、本件各発明の第2の収容槽と
それに関する構成とも相容れないというべきである。
15 よって、原告の主張を採用することはできない。
⑵ 原告は、本件各発明の特徴は、活性炭を用いてオゾンの酸素への化学変化
を促進させたことであって、このような化学変化の結果、オゾンが減少する
のであり、廃水処理中にオゾンが存在することは、むしろ効率的な廃水処理
に必要であるから、第2の収容槽の酸素供給手段が供給するマイクロナノバ
20 ブルが、酸素以外にオゾンを含むことは排除されないなどと主張する。
しかしながら、後記のとおり、酸素供給手段とオゾン供給手段とは区別さ
れるべきである。本件各発明においては、「第2の収容槽にて、生物処理工
程で酸素を含むマイクロナノバブルを供給することで、この酸素で活性化し
た好気性微生物による被処理水の生物処理を効果的に行う」(段落【001
25 7】【0055】等)ことが予定されている。他方、オゾンが酸素への化学
変化を通じて生物処理を促進する機能を有するとしても、同時に、本件意見
書が言及するように、オゾンには、「貴重な微生物を滅菌してしまう虞」が
ある。したがって、化学変化の結果、オゾンが減少することになるからとい
って、微生物の存在する第2の収容槽に、微生物を死滅させる虞のあるオゾ
ンを積極的に追加供給し、被処理水の生物処理を行うことが、本件各発明に
5 おける効率的な廃水処理に適合するということは困難である(なお、本件明
細書においても、第2の収容槽の廃水処理中にオゾンが存在することが廃水
処理において必須である旨の説明や、第2の収容槽に供給されるマイクロナ
ノバブルの酸素にオゾンを含ませる構成としてもよい旨の説明や、第2の収
容槽に供給されるマイクロナノバブルの酸素にオゾンを含ませても微生物の
10 生物処理能力に影響がない旨の説明は、一切されていない。)。
よって、原告の主張を採用することはできない。
⑶ 原告は、酸素とオゾンは、独立して生物処理に供される分子であるから、
本件各発明の構成要件D「該第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブ
ルを供給する酸素供給手段」は、オゾンが積極的に加えられたマイクロナノ
15 バブルを供給する供給手段をも含むなどと主張する。
しかしながら、前記のとおり、本件各発明は、第1の収容槽から第2の収
容槽に被処理水とともに流入する残オゾンの早期低減を実現することを目的
とし、第2の収容槽である生物処理工程において供給される酸素を含むマイ
クロナノバブルにより、残オゾンを化学変化させることで、残オゾンの早期
20 低減を実現することを内容とするものである。本件各発明の文言上、「オゾ
ン供給手段」と「酸素供給手段」とは区別して用いられているのであって、
酸素を含むマイクロナノバブルを供給する際、自然界に存在するオゾンが含
まれることがあったとしても、あくまでも供給の目的は酸素であって、オゾ
ンではないから、構成要件Dの「酸素供給手段」の中に「オゾンを追加供給
25 する手段」まで含まれると解することは困難である(構成要件D「該第2の
収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブルを供給する酸素供給手段」は、酸
素を含むマイクロナノバブルを供給する供給手段である限り、酸素以外の気
体等を含むマイクロナノバブルが供給される場合も、これに該当すると解す
ることはできても、あくまでも、酸素を含むマイクロナノバブルを供給する
ための酸素供給手段であることが前提であるから、オゾンを追加供給する目
5 的の供給手段まで、これに該当するということはできない。本件明細書にお
いても、酸素を含む空気が圧縮部内に噴出されて液体と混合しマイクロナノ
バブルとされる(段落【0042】【0043】参照)などとしており、酸
素を含む空気等がマイクロナノバブルに含まれることは想定されているが、
それ以外にオゾン等が付加されることは想定されていない。)。したがって、
10 本件各発明の構成要件D「該第2の収容槽内に酸素を含むマイクロナノバブ
ルを供給する酸素供給手段」には、オゾンが積極的に加えられたマイクロナ
ノバブルを供給する供給手段は含まれないものと解するのが相当である。
よって、原告の主張を採用することはできない。
3 小括
15 以上によれば、原告の本件請求は、いずれも理由がない。そして、当事者の
主張に鑑み、本件記録を検討しても、上記認定判断を左右するに足りる的確な
主張立証はない。
第4 結論
よって、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することと
20 して、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
25 裁判長裁判官
清 水 響
裁判官
5 菊 池 絵 理
裁判官
10 頼 晋 一
(別紙)
物 件 目 録
「マイクロ・ナノバブル発生装置」と称する装置及び「活性炭含有担体」と称す
5 る担体を用いた「ABBIT排水処理システム」と称する排水処理システム
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