令和4(ワ)11025等特許権侵害差止等請求本訴事件、不当利得返還請求反訴事件
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裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
令和6年10月21日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社エコプロ
株式会社ウィズユークラブ 被告株式会社エコプロ
株式会社ウィズユークラブ
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法令 |
特許権
不正競争防止法2条1項20号8回 民法650条1項2回 不正競争防止法5条3項2回 特許法102条3項1回 民法709条1回 民法167条1項1回 不正競争防止法2条1項2号1回
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キーワード |
特許権64回 侵害32回 実施7回 差止5回 損害賠償4回 進歩性1回 新規性1回 分割1回
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主文 |
1 原告の請求を、いずれも棄却する。
2 被告の請求を、いずれも棄却する。
3 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、各自の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本判決における略語は、本文中に定義するもののほか、以下のとおりである。 |
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判決文
令和6年10月21日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和4年(ワ)第11025号 特許権侵害差止等請求本訴事件
令和5年(ワ)第4348号 不当利得返還請求反訴事件
口頭弁論終結の日 令和6年8月23日
判 決
本訴原告兼反訴被告 株式会社エコプロ
(以下「原告」という。)
同代表者代表取締役 P1
同訴訟代理人弁護士 辻本希世士
辻本良知
同補佐人弁理士 丸山英之
本訴被告兼反訴原告 株式会社ウィズユークラブ
(以下「被告」という。)
同代表者代表取締役 P2
同訴訟代理人弁護士 岡田晃朝
主 文
1 原告の請求を、いずれも棄却する。
2 被告の請求を、いずれも棄却する。
3 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、各自の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
【本訴請求】
1 被告は、別紙1の1被告製品目録記載1ないし10の物件を製造し、販売し、
又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は、別紙1の1被告製品目録記載1ないし10の物件を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、6820万円及びこれに対する令和4年12月21日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
【反訴請求】
1 原告は、被告に対し、350万9924円及びこれに対する令和5年5月1
6日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告は、被告に対し、90万2861円及びこれに対する令和5年5月16
日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本判決における略語は、本文中に定義するもののほか、以下のとおりである。
(1) 本件特許 別紙2「特許権目録」記載の特許(特許第4796334
号)
(2) 本件特許権 本件特許に係る特許権
(3) 本件発明 本件特許に係る発明。なお、本件特許の請求項の項番に従
い「本件発明1」「本件発明2」「本件発明3」「本件発
明4」といい、「本件発明」というときは、これらの総称
を意味する。
(4) 本件明細書 本件特許の「明細書及び図面」であり、その記載は、別紙
3「特許公報」(以下、同特許公報の項番は、単に【●●
●●】と、【】付の番号で特定する。)のとおりである。
(5) 被告製品 別紙1の1「被告製品目録」記載の製品の総称
2 訴訟物
(1) 本訴請求
ア 原告の、被告に対する、本件特許権侵害を理由とする特許法100条1
項及び2項に基づく差止め及び侵害予防行為としての廃棄請求権
イ 原告の、被告に対する、被告が平成24年頃から被告製品を製造販売し
たことによる本件特許権侵害を理由とする民法709条に基づく6000
万円の損害賠償請求権
ウ 原告の、被告に対する、平成24年頃から、被告が原告に無断で原告の
商号を冒用した会社法8条1項違反、被告製品に原告の商号を付すことで、
被告製品が原告の製造販売に係るものであるかのように表示した品質等誤
認惹起行為(不正競争防止法2条1項20号)、被告製品に「特許取得済」
との表示を用いた品質等誤認惹起行為(不正競争防止法2条1項20号)
の各行為を理由とする6200万円(内6000万円について営業損害と
して、上記イと選択的併合。内200万円について、無形損害として)の損
害賠償請求権
エ イ及びウによる損害賠償額の6200万円に対する弁護士費用として6
20万円の民法709条に基づく損害賠償請求権
オ エの元本合計6200万円に対する、不法行為の日の後の日である令和
4年12月21日から支払済みまで民法(不法行為日が令和2年4月1日
より前の日であるとして、平成29年法律第44号附則17条3項の規定
によりなお従前の例によることとされる場合における同法による改正前の
民法。以下、本訴請求に係る法定利率及び後記する反訴で主張される時効
期間について同じであり、改正前の法律を「改正前商法」、「改正前民法」
という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の附帯請求
(2) 反訴請求
ア 被告の、原告に対する、被告が平成23年6月から令和4年6月までの
間、原告の三井住友銀行からの借入金のうち、合計350万9924円を
第三者弁済したことを前提とする、同額の民法650条1項に基づく委任
事務処理費用償還請求権又は民法702条1項に基づく事務管理費用償還
請求権若しくは民法703条に基づく不当利得返還請求権
イ 被告の、原告に対する、被告代表者が、本件特許権の登録費用90万2
861円を原告に代わって支払い、よって、原告が法律上の原因なく同額
の利得を得たことによる民法703条に基づく不当利得返還請求権(債権
譲渡により被告代表者から被告に移転)
ウ ア及びイの各元本に対する、履行請求日である令和5年5月16日から
支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の附帯請
求
3 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠(枝番含む。以下同じ)及び弁論の
全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、産業廃棄物関連事業並びに健康器具や健康機器及び環境衛生に
関する機器の製造販売等を業とする株式会社である。P1は、原告の代表
取締役である。(乙5)
イ 被告は、健康食品の販売及びアイデア製品の企画販売等を業とする株式
会社であり、P2が、代表取締役に就任している(乙8)。
(2) 原告の特許権
原告は、本件特許権を有している(甲1)。また、本件明細書の記載は別紙
3のとおりである(甲2)。
(3) 被告製品について
被告製品のうち、別紙1の1記載10のものは、存在に争いがあるが、存
在すると認めるに足りる証拠がない。
また、その余の被告製品は、構造の共通性から、同記載1ないし7のもの
と同記載8及び9のものとに区別される(以下、前者を「被告製品α」と、後
者を「被告製品β」といい、これらをまとめて「販売被告製品」という。な
お、構造の相違点に起因する販売被告製品の構成に関する当事者の主張は後
記する。)。
被告は、遅くとも平成24年頃から、現在までに製造を中止したものも含
め、被告製品α及びβを製造販売し、又は、販促目的で製造配布するなどし
ている(弁論の全趣旨)。
(4) 構成要件の分説、販売被告製品の構成及び構成要件充足性
本件特許の請求の範囲及びその分説は、別紙4の1及び4の2の「請求項」
欄記載のとおりである。販売被告製品の構成のうち、当事者間で争いがない
ものは、別紙4の1及び4の2の「争いの有無及び当事者の主張」において、
「⃝」と記載されているものである。また、販売被告製品の構成のうち、本件
発明の構成要件を充足することに争いがない部分は、別紙5の1及び5の2
の「被告の主張」欄に「〇」と記載されているものである。
(5) 原告は、平成17年頃、三井住友銀行から弁済期間を7年とする事業ロー
ンを借り入れており(以下「本件借入金」という。)、平成18年8月31日
時点における借入額は738万円であった。
(6) 被告は、令和4年7月20日頃までの間、被告事務所の表札及び郵便受け
に被告の商号とともに、原告の商号を表記していた。なお、現在は、原告の商
号は表示されていない。(甲13ないし15、乙17)
(7) 被告は、別紙1の1記載1ないし5の製品を販売する際、総発売元として
原告の商号を記載し、「特許取得済」との記載をしていた(甲3ないし7、1
6、17)。なお、現在は、原告の商号及び「特許取得済」との記載はない。
(8) 被告は、令和5年5月15日(反訴状が送達された日)、P2が、被告に
対し、反訴請求中、P2の原告に対する、P2が支払った本件特許の登録に
関する費用に相当する90万2861円分の不当利得返還請求権を譲渡した
と主張した(当裁判所に顕著)。
(9) 被告は、令和5年11月28日、本件特許権に関する取得時効を援用する
との意思表示をした。また、原告は、後記第3の12【原告の主張】に係る消
滅時効を援用するとの意思表示をした。(当裁判所に顕著)
4 争点
〔本訴請求に関する主張〕
(1) 被告製品の構成(争点A1)
(2) 文言侵害が成立するか(争点A2)
(3) 均等侵害が成立するか(争点A3)
(4) 原告の損害(特許権侵害分)(争点A4)
(5) 差止め及び廃棄の必要性(争点A5)
(6) 被告が本件特許権を時効により取得したか(争点A6)
(7) 被告が不正の目的をもって原告の商号を表記したか(争点A7)
(8) 被告製品に原告の商号を付したことが品質等誤認惹起行為(不正競争防止
法2条1項20号)に該当するか(争点A8)
(9) 被告製品に「特許取得済」との表示をしたことが品質等誤認惹起行為(不
正競争防止法2条1項20号)に該当するか(争点A9)
(10) 原告の損害(会社法違反及び不正競争防止法分)(争点A10)
〔反訴請求に関する主張〕
(1) 原告が、被告に対し、本件借入金について被告が第三者弁済することを委
託したか並びに同第三者弁済について事務管理に基づく費用償還又は不当利
得返還請求ができるか(争点B1)
(2) P2による本件特許権の登録費用等の支払があったか及び同支払について
不当利得返還請求ができるか(争点B2)
(3) P2から被告への債権譲渡につき対抗要件を備えたか(争点B3)
(4) (1)(2)の各請求権につき消滅時効が成立するか(争点B4)
(5) 消滅時効を援用することが権利の濫用に該当し、許されないか(争点B5)
第3 争点についての当事者の主張
1 本訴請求のうち、特許権侵害(争点A1からA3)に関する当事者の主張は、
別紙4の1ないし別紙6に各記載のとおりである。
2 争点A4(原告の損害(特許権侵害分))について
【原告の主張】
(1) 特許法102条3項に基づき推定される損害額 6000万円
被告は、平成24年頃に被告製品を販売し始めてから現在に至るまでの間、
1枚当たり約1000円で少なくとも60万枚を販売した。被告製品に対す
る実施料率は10%を下回らない。
よって、原告は、被告の特許権侵害により、少なくとも6000万円(=1
000円/枚×60万枚×10%)の損害を被った。
なお、本件特許権侵害に基づく請求と後記8(1)の会社法違反及び不正競争
行為に基づく本件特許権の実施料相当額の請求は選択的な関係に立つもので
あり、いずれかのうち、最も高額なものが採用されるべきである。
(2) 弁護士費用 600万円
被告に対し、上記損害額の賠償を求めるために必要かつ相当な弁護士費用
は、上記のとおりである。
(3) 合計 6600万円
【被告の主張】
争う。
3 争点A5(差止め及び廃棄の必要性)について
【原告の主張】
被告は、現在も被告製品を製造・販売しており、被告製品が本件訴訟におい
て本件特許権を侵害していることを争うなどしていることも考慮すれば、本件
特許権侵害の予防のため、被告製品の製造等の行為の差止め及び廃棄を求める
必要がある。
【被告の主張】
争う。
4 争点A6(被告が本件特許権を時効により取得したか)について
【被告の主張】
被告は、遅くとも平成23年9月末日には、原告が事実上廃業したことから、
本件特許を使用したダニ捕りマットの製造販売事業を含む事業を譲り受け、こ
れに伴い、本件特許権も譲り受けたものと信じていた。その後、被告は、原告
から何ら異議を述べられることなく販売被告製品を製造販売し、特許更新費用
を支払い続けたことで、令和2年10月1日まで、善意かつ無過失の状態で、
平穏公然と本件特許権を準占有していた。
よって、被告は、本件特許権を時効により取得した。
【原告の主張】
原告と被告の間で、本件特許権を含むダニ捕りマット事業の移転について話
し合われたことはなく、本件特許権を譲渡するような話をしたこともない。ま
た、特許権移転の効力要件は移転登録であるところ、その登録名義が原告のま
ま、被告が本件特許権を取得したと信じることはあり得ない。
原告は、被告が販売被告製品を製造販売していたことを知っていたが、本件
借入金を含む多額の事業資金の返済に奔走しており、そのような中で被告に対
し、異議を述べることができなかったに過ぎない。
5 争点A7(被告が不正の目的をもって原告の商号を表記したか)について
【原告の主張】
被告は、原告がその表示を止めるよう警告するまで、原告に無断で、被告本
店所在地の表札や郵便受けに原告の商号を表記していた。被告は、この間、原
告の商号の信用力や原告名義の本件特許権の存在にただ乗りし、営業上の利益
を得ようとしていたものであるから、原告の商号を表記していた行為は、不正
の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使
用するものであり、会社法8条1項に違反する。
【被告の主張】
否認し争う。
会社法8条1項の「不正の目的」とは、不正な活動を行う積極的な意思をい
うところ、原告と被告の会社の目的は明らかに異なっており、被告には、誤認
惹起をさせる目的がない。また、P1は、原告が事実上廃業した後、被告に対
し、自動車保険や自動車のリース契約名義等の関係で原告の名義を継続して使
用したいから、被告本店所在地宛に郵便物が届くようにするため、被告本店所
在地に原告の商号を掲示してほしいと依頼した。原告が被告に対し警告するま
で原告の商号を表記していたのは、単にこのような状態が放置されていたから
に過ぎず、被告には不正の目的はない。
6 争点A8(被告製品に原告の商号を付したことが品質等誤認惹起行為(不正
競争防止法2条1項20号)に該当するか)について
【原告の主張】
被告は、原告が製造販売しているものではないにもかかわらず、被告製品を
製造販売する際、同商品に原告の商号を表記することで、原告の商号の信用力
や原告名義の本件特許権の存在にただ乗りし、営業上の利益を得ていた。かか
る行為は、不正競争防止法2条1項20号が定める品質等誤認惹起行為に該当
する。
【被告の主張】
否認し争う。
原告の商号は、会社名に過ぎず、品質等誤認惹起行為の対象となる「商品の
原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内
容、用途若しくは数量について」の表示ではない。商号や商品名自体の利用は、
不正競争防止法2条1項2号の著名表示冒用行為として別途規制されており、
商号の使用を同項20号の品質等誤認惹起行為とすることはできない。
また、原告は、平成25年から2年間、被告の下請として販売被告製品を製
造していたが、そのときも、同製品に原告の商号が付されていたにもかかわら
ず一度も異議を述べていない。そうすると、原告は、販売被告製品に商号を付
すことを承諾していたものであり、不正競争に該当することはあり得ない。
加えて、原告は、ダニ捕りマット事業を行っておらず、ダニ捕りマットの製
造販売について被告と競争関係にない。
7 争点A9(被告製品に「特許取得済」との表示をしたことが品質等誤認惹起
行為(不正競争防止法2条1項20号)に該当するか)について
【原告の主張】
被告は、原告が当該表示を止めるよう警告するまで、被告製品を製造販売等
するにあたり、本件特許の特許権者でないにもかかわらず「特許取得済」等の
表示を用いていた。この間の表示行為は、商品の品質、内容について誤認させ
るような表示をし、その表示をした商品を譲渡し若しくは電気通信回路を通じ
て提供したものであるから、品質等誤認惹起行為(不正競争防止法2条1項2
0号)に該当する。
【被告の主張】
「特許取得済」との記載は、一般消費者との関係で損害が発生することはあ
り得ても、それは、不当景品類及び不当表示防止法の問題であり、原告との関
係で不正競争行為となるものではない。
販売被告製品は、本件特許権を侵害していないから、「特許取得済」との表
示があったとしても、原告の信用を利用し、原告の権利を侵害するものではな
い。
また、原告は、ダニ捕りマット事業を行っておらず、ダニ捕りマットの製造
販売について被告と競争関係にない。
8 争点A10(原告の損害(会社法違反及び不正競争防止法分))について
【原告の主張】
(1) 本件特許権の実施料相当額 6000万円
被告は、原告の商号や「特許取得済」の表示を用いることで、本件特許権の
存在にただ乗りし、営業上の利益を得ていた。よって、不正競争防止法5条
3項を類推適用し、本件特許権の実施料相当額の損害が生じたものとして、
当該金額を請求することができるものというべきである。
前記2(1)のとおり、被告が支払うべき本件特許権の実施料相当額は600
0万円であるから、被告の会社法違反及び不正競争行為によって、原告は同
額の損害を被った。
なお、会社法違反及び不正競争行為に基づく本件特許権の実施料相当額の
請求と前記2(1)の本件特許権侵害に基づく損害は選択的な関係に立つもので
あり、いずれかのうち、最も高額なものが採用されるべきである。
(2) 無形損害 200万円
被告の会社法違反及び不正競争行為により、原告には、無形の損害が発生
し、その金額は200万円とすることが相当である。
(3) 弁護士費用 620万円
被告に対し、上記(1)及び(2)の合計額である6200万円の損害の賠償を求
めるために必要かつ相当な弁護士費用は上記のとおりである。
(4) 合計 6820万円
【被告の主張】
争う。なお、品質等誤認惹起行為に対し、不正競争防止法5条3項が類推適
用される余地はない。
9 争点B1(原告が、被告に対し、本件借入金について被告が第三者弁済する
ことを委託したか並びに同第三者弁済についての事務管理に基づく費用償還又
は不当利得返還請求ができるか)について
【被告の主張】
原告は、平成23年6月頃、原告を事実上休眠させた際、本件借入金を含む
事業資金の返済に窮していたことから、被告に対し、被告が本件借入金を第三
者弁済することを依頼し、被告はこれを引き受けた。
被告は、このような原告の依頼に基づき、別紙7の2記載のとおり、平成2
3年6月から令和4年6月まで、三井住友銀行に対し、本件借入金の弁済とし
て、合計350万9924円を支払った。
よって、被告は、原告に対し、民法650条1項に基づき、同額の委任事務
処理費用償還請求権を有する。
仮に、準委任契約の成立が認められなかったとしても、この第三者弁済は原
告の意思に反しないものであるから、事務管理に該当するので、被告は、原告
に対し、同額の事務管理費用償還請求権を有する。さらに、事務管理も認めら
れない場合であったとしても、被告の第三者弁済により、原告は、同弁済額相
当額の支払を免れ、利得を得ており、かかる利得に法律上の原因がないから、
被告は、原告に対し、同額の不当利得返還請求権を有する。
【原告の主張】
争う。
被告は、平成23年6月頃、三井住友銀行との間で、P2が原告の事業を実
質的に取り仕切っていたことから、本件借入金についても責任を取るべきであ
るとして、以後、P2が被告を通じて本件借入金を支払い、その債務を引き受
けることを申し出て、P1及び三井住友銀行ともその内容で協議が成立した。
本件借入金は、被告のみが利益を得ているダニ捕りマット事業のために借り入
れたものであり、その利益帰属との対応関係に鑑みても、P2が弁済すること
は合理的なものであった。
よって、被告による第三者弁済は、原告からの委託に基づくものではなく、
被告の申し出によりなされたものであるから、準委任契約自体が存在しない。
また、被告は、自分の事務として第三者弁済を行ったのであるから事務管理
も成立しないし、上記引受けの申し出に基づくものであるから、法律上の原因
があるので不当利得も成立しない。
10 争点B2(P2による本件特許権の登録費用等の支払があったか及び同支払
について不当利得返還請求ができるか)について
【被告の主張】
P2は、別紙7の1記載のとおり、本件特許権の登録費用として合計90万
2861円を支払った。本件特許権の特許権者は原告であるから、これらの費
用は原告が負担すべきであり、P2が負担すべき理由はない。
よって、P2は原告に対し、同額の不当利得返還請求権を有する。
【原告の主張】
否認し争う。
P2は、本件特許の出願に際し、事務手続を担当していた。しかし、少なく
とも、被告が設立された平成20年11月17日までの間は、原告の計算で本
件特許権に関する費用が支弁されていた。原告が金融機関から事業資金を借り
入れていたのは、このような費用を支弁するためでもあった。そうすると、少
なくとも同日までの費用は、P2が支払ったものとは認められない。
また、別紙7の1記載の費用には、本件特許権の維持管理費用のほか、弁理
士への手数料や見解書作成費用が含まれている。しかし、本件特許権の維持管
理のために弁理士に依頼する必要はないし、見解書作成費用は、本件特許権を
維持管理するための費用ですらない。
加えて、被告は、被告製品の製造販売が本件特許権の実施に該当し得るもの
として、これを製造販売し、その利益を全て得ていたものであり、損失がない。
よって、本件特許権の登録費用等相当額の不当利得返還請求権は成立しない。
11 争点B3(P2から被告への債権譲渡につき対抗要件を備えたか)について
【原告の主張】
P2は、原告に対し、被告に本件特許権の登録費用等相当額の不当利得返還
請求権を譲渡したと通知していないし、原告はかかる債権譲渡を承諾していな
い。
よって、原告は、被告が債務者対抗要件を具備するまで、被告を債権者と認
めない。
【被告の主張】
P2の被告に対する債権譲渡は、反訴状により通知した。
12 争点B4(争点B1及び争点B2記載の各請求権につき消滅時効が成立する
か)について
【原告の主張】
被告は、平成23年6月から第三者弁済をしていたが、本件反訴請求に至る
まで、原告に対し、何ら、求償権を行使しなかった。本件特許権の登録費用に
ついても同様である。
よって、被告の反訴請求に係る各債権のうち、① 委任事務処理費用償還請
求権については、改正前商法522条に基づき、平成30年5月10日(裁判
上の請求をした日の前日である令和5年5月10日の5年前の応当日)までに
発生したものについて、② その余の請求権については、改正前民法167条
1項に基づき、平成25年5月10日(裁判上の請求をした日の前日の10年
前の応当日)までに発生したものについて、いずれも、消滅時効が完成してお
り、原告は、これらの消滅時効を援用する。
【被告の主張】
争う。
13 争点B5(消滅時効を援用することが権利の濫用に該当し、許されないか)
について
【被告の主張】
原告は、本店所在地において事業を行わなくなった後も、なお、登記上、本
店所在地を移転させておらず、被告が時効を中断させるために手続を取ろうと
してもこれを著しく困難にしていた。
このような原告が消滅時効を援用することは、権利の濫用に該当し、許され
ない。
【原告の主張】
争う。
第4 当裁判所の判断
1 当裁判所は、本訴請求及び反訴請求はいずれも理由がないものと判断するが、
以下、判断の便宜上、特許権侵害に関する争点A2(文言侵害が成立するか)
及びA3(均等侵害が成立するか)について先に判断した後に、その余の本訴
請求及び反訴請求に関する事実認定を行った上で、争点について必要な判断を
行う。
2 争点A2(文言侵害が成立するか)について
(1) 販売被告製品に存する、ダニ誘引剤を挟んだ2枚のガーゼや不織布が、
「誘
引剤袋」であって、構成要件A−3の「ダニ用食餌入りの多孔質通気性袋」に
該当するかについて検討する。
(2) 「袋」の辞書的意義
「袋」の字義を検討すると、「袋」とは、物を入れるもの、布・紙・革な
どの柔らかい素材で作り、口を閉じられるようにしたものを意味する(甲3
6、乙31)。すなわち、必ずしも開口部のない密閉構造である必要まではな
いものの、内包物を保持する際には容易に口を閉じ、拡散を防止することが
できることが求められるものと解される。
(3) 本件明細書の記載
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の情況に鑑み、ダニ誘引物質で誘引したダニを粘着剤によ
って捉えて死滅させるダニ捕獲マットとして、強力な誘引作用及び捕捉作用
を有し、大きな捕獲能力を発揮できるものを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ダニ捕獲マットは、(中略)ダニ誘引香料を含浸した織物シート1と、両
面粘着テープ2と、ダニ用食餌3入りの多孔質通気性袋4と、多孔質通気性
カバー5とで構成され、(中略)、前記多孔質通気性袋4は、その少なくと
も一部が前記織物シート1と前記両面粘着テープ2との間に位置して、残部
が該両面粘着テープ2の外面側に位置するように配置され、これら織物シー
ト1及び両面粘着テープ2と多孔質通気性袋4の被着一体化物の全体が前記
多孔質通気性カバー5にて被覆されてなるものとしている。
【0010】
請求項1の発明に係るダニ捕獲マットによれば、織物シートに含浸された
ダニ誘引香料により、マット配置部から離れた広範囲の領域から多数のダニ
を誘引して集めることができると共に、ダニ食餌入りの多孔質通気性袋が両
面粘着テープの表裏両側に配置するから、マットに集まった多数のダニを該
多孔質通気性袋のダニ食餌によって更に表裏両側から多孔質通気性カバーの
内側へ誘い込み、両面粘着テープ2の粘着層に触れさせて捕捉することがで
きる上、その粘着層が混ぜ物のない粘着剤成分のみからなって強い粘着力を
発揮できるから、接触したダニを逃さずに確実に捕獲拘束して死滅させるこ
とができ、もって大きな捕獲能力による極めて高い防ダニ効果が得られる。
【0020】
(略)多孔質通気性袋4の千鳥状配置により、1袋のみで両面粘着テープ
2の表裏両側に配置できるから、構成材料の数が少なくて済み、それだけマ
ット製作が容易になる。
(4) 検討
上記本件明細書の記載によると、本件発明は、大きなダニ捕獲能力を発揮
することを目的として、その手段は、ダニ誘引物質を含浸させた織物シート
からダニ誘引物質を拡散させることで広い範囲のダニを誘引した上で、マッ
トの内部にダニ捕獲用の粘着テープと、これに対して千鳥状に被着させたダ
ニ用食餌を入れた多孔質通気性袋を配することで、ダニ誘引物質で誘引され
たダニを、マットの表裏両面からさらに内部に侵入させ、粘着テープに触れ
させ、そこで捕捉するようにするというものである。
そして、ダニを誘引させる物質として、「香料」を織物シートに含侵させた
上、「食餌」入りの多孔質通気性袋を配置させる位置を両面粘着テープの表
裏両面に配置させることにより、多孔質通気性カバーの内側に誘い込み、混
ぜ物のない粘着層に触れさせて補足させる構成をとるものであるから、本件
発明において「多孔質通気性袋」は、食餌が同位置にとどまり、粘着層の粘着
力を低減させない機能を備えるべきことが想定されているといえる。加えて、
多孔質通気性袋の構造上、一袋でこれらが実現でき、構成材料の数も減らす
ことができるようになっている。
以上を踏まえると、構成要件A−3にいう「多孔質通気性袋」とは、辞書
的にも、本件明細書の記載からも、少なくとも内包物を内部で保持し、拡散
を防止することができる構造を有することが必要であると解することが相当
である。一方、販売被告製品では、ダニ誘引物質が2枚の不織布シートやガ
ーゼ等で重ねて挟み込まれているのみであり、その周囲からダニ誘引物質が
零れ落ちるようなものであるから、誘引物質を内部で保持することができる
構造であるとは認められない。
この点、原告は、本件発明における「袋」の意義について、ダニ食餌を入れ
ることができ、かつ、一つの袋のみで粘着テープの表裏両面に配置すること
ができればよく、口を閉塞している必要はないから、被告製品も、多孔質通
気性袋を有すると主張するが、上記説示に照らし、採用できない。
(5) よって、販売被告製品は、構成要件A−3を充足せず、同構成要件を充足
することを前提とする構成要件C、D、F及びGも充足しない。
3 争点A3(均等侵害が成立するか)について
上記2のとおり、本件発明は、ダニ食餌を零れ落ちさせることなく保持する
ことができる「多孔質通気性袋」に収納することで、粘着テープの高い粘着力
を実現するとともに、構成材料の数を減らすことを実現しており、そのために
袋構造を有することが本質的要素となっているものと認められる。
そうすると、多孔質通気性袋に代わり、挟み込んだ物が零れ落ち得る2枚の
不織布やガーゼでダニ誘引物質を挟み込む構造を有している販売被告製品は、
本件発明の非本質的部分で相違点があるに過ぎないとはいえないし、これらを
置換したときの作用効果が同一であるともいえない。
よって、第1要件(非本質的部分)及び第2要件(置換可能性)がいずれも
認められないことから、均等侵害は成立しない。
4 小括(特許権侵害について)
(1) 以上の次第であり、被告製品は、本件特許の技術的範囲に属しないので、
原告の本件特許権侵害に関する主張(争点A1ないしA6)は、その余の争
点について判断するまでもなく理由がない。
(2) なお、被告は、原告の均等侵害の主張について、時機に後れた攻撃防御方
法として却下することを求めているが、その審理のために訴訟が遅延するも
のとは認められないから、採用しない。
5 認定事実(会社法違反、不正競争防止法違反及び反訴請求関係)
証拠(甲48、乙32)及び掲記の証拠並びに弁論の全趣旨によれば以下の
事実が認められ、これに反する証拠は採用できない。
(1) 原告は、平成14年9月26日、設立された。このとき、P1は、子供の
ころからの知己であるP2から、P2及びP3が役員に就任していた石油リ
サイクル事業等を目的とする株式会社ギケンが破産する可能性があること、
その事業を存続させる必要があることから、新会社として原告を設立し、P
1が原告の代表者に就任することを依頼された。P1は、かかるP2の依頼
を引き受け、原告の代表取締役に就任したが、石油リサイクル事業に関する
経験はなかった。(乙3ないし5)
(2) 原告が設立されてからもP3が原告の経営に関与し、石油リサイクル事業
が続けられていたが、原告の経営は行き詰まるようになった。そして、原告
が平成16年3月頃、金融機関から事業資金として1000万円を借り入れ
た際、P1がその連帯保証人となった。また、P3は、平成16年11月26
日に原告の代表取締役に就任し、P2は、同日、原告の代表権のない取締役
に就任したが、P3は平成17年1月7日に辞任し、原告の経営から退き、
P2も、同月28日に取締役を辞任した。この頃から、原告は、石油リサイク
ル事業を営まなくなり、同年2月13日、本店所在地を、P1の住所地付近
から現在の所在地に移転した。(乙5、7)
(3) P1及びP2は、平成17年頃から、ダニ捕りの事業を行うために本件発
明の開発に着手した。そのため、原告は、平成17年3月、金融機関から同事
業のために1000万円の追加融資を受け、P1がこれを連帯保証した。ま
た、原告は、同年頃、三井住友銀行から本件借入金を借り入れた。
(4) P2は、平成17年頃、弁理士に本件特許の出願等を依頼してその費用を
負担し、以後、令和4年7月まで、本件特許権に関し、別紙7の1記載の各費
用(合計90万2861円)を支払った(乙13)。なお、本件特許は、P1
及びP2を共同発明者、原告を特許権者として、平成17年6月7日に出願
され、平成23年7月7日、特許査定を受け、同年8月5日、登録された(甲
1、2)。
(5) P2は、平成20年11月17日、原告の本店所在地を本店所在地として
被告を設立し、代表取締役に就任した(乙8)。
この頃、原告は、鶏卵販売事業も行っており、原告及び被告の共同名義(た
だし、連絡先メールアドレスは被告のもの)で、鶏卵販売のチラシが作成さ
れていた(甲19)が、ダニ捕りマット事業は行っていなかった。一方、被告
は、販売被告製品の製造販売を行い、その利益は、すべて、被告に帰属してい
た。うち、原告の商号及び「特許取得済」の記載がある販売被告製品は、平成
20年頃から令和4年7月20日頃まで、継続して製造販売されていた(甲
15)。
(6) P2は、平成21年10月30日、代表取締役として重任されるP1とと
もに原告の代表権のない取締役となった。その後、原告の法人登記は、令和
3年10月5日まで、何ら変更等がなされていなかった。(乙16)
(7) 原告は、平成23年6月頃から実質的に事業を停止し、この頃から、被告
が三井住友銀行の原告名義の口座(乙10。以下、「乙10口座」という。)
に係る通帳を管理するようになった(乙10)。このとき、P1、P2及び三
井住友銀行は、本件借入金の返済方法について協議し、実質的に原告の事業
を取り仕切っていたP2が、被告を通じて本件借入金を返済していくことと
なった。
(8) 被告は、平成23年6月20日から令和4年6月30日にかけて、本件借
入金の分割弁済日に先立ち、乙10口座に必要資金を振り込む方法で、別紙
7の2記載の各支払日に、本件借入金を第三者弁済した。なお、平成23年
6月20日以降、乙10口座の入出金のほとんどは、本件借入金の支払のた
めのものであった。(乙10)
(9) P1は、平成25年7月頃、被告から委託を受け、販売被告製品を製造・販
売していた。このとき、販売被告製品には、原告の商号や「特許取得済」との
表記がされていた。(乙14)
(10) 被告は、平成27年10月1日、本店所在地を原告の本店所在地から現在
の本店所在地に移転した(乙8)。
(11) 原告について、令和3年10月5日、同月1日の株主総会の決議により解
散し、P1が清算人兼代表清算人に就任した旨の登記並びにP1及びP2の
取締役、代表取締役の抹消登記がそれぞれされた。
また、同年11月9日、同年10月2日に会社継続の決議を行い、同日付
でP1のみが取締役兼代表取締役に、P4が監査役に就任し、P5が令和元
年10月31日に退任した旨の登記がされた。(乙16)
(12) 原告は、令和4年7月6日頃、被告に対し、被告の本店所在地に原告の商
号を表記すること及び被告製品に「特許取得済」と表記することを止めるこ
とを求めるとともに、被告製品が本件特許権を侵害するとの警告を記載した
警告書を送付した(甲15)。
(13) 令和4年10月頃、被告本店所在地を宛先(住所)とする原告宛の郵便物
が、配達されることがあった(乙11)。
(14) 原告の登記上の本店所在地には、令和5年2月時点で、原告の事務所等が
存在していなかった(乙9)。
6 争点A7(被告が不正の目的をもって原告の商号を表記したか)について
(1) 上記認定事実によれば、原告が、平成23年以降、実質的に休眠状態にあ
ったこと、その頃から被告が乙10口座に係る通帳を保管し、出納管理をし
ていたこと、被告が平成27年10月1日に本店所在地を原告の登記上本店
所在地から移転させた後も、移転後の被告の本店所在地に原告宛の郵便物が
配達されていたことが認められる。
(2) 原告が、平成23年6月頃以降、実質的に休眠状態にあったことに鑑みれ
ば、被告が、その後、原告宛の郵便物を被告所在地に配達させる必要があっ
たとは認められないし、被告が、原告の商号を使用することで不正の利益を
得ることができたものとも認められない。むしろ、このような郵便物の処理
は、原告又はP1の残務処理等の都合上、原告名義の郵便物を受け取る必要
があったが、原告の登記上の本店所在地では郵便物を受け取ることができな
かったことから、その便宜として、被告所在地に配達するようにしていたも
のと考えられる。このような場合、被告は、被告の本店所在地において原告
宛の郵便物を受け取るために、原告の商号を被告の本店所在地に表記する必
要があったものといえる。また、原告が、被告に対し、被告の本店所在地に原
告の商号を表記することを止めるよう求め、被告がこれに応じてからも、な
お、被告の本店所在地宛に原告宛の郵便物が配達されているが、原告の要請
に応じた被告が、殊更に、原告宛の郵便物を受け取ろうとする理由はないか
ら、結局、原告宛の郵便物が被告の本店所在地に配達されていたのは、P1
も納得した上でのことと推認される。
よって、被告が、不正の目的をもって、本店所在地に原告の商号を表記し
ていたとは認められない。
(3) 以上の次第であり、原告の主張は採用できない。
7 争点A8(被告製品に原告の商号を付したことが品質等誤認惹起行為(不正
競争防止法2条1項20号)に該当するか)について
不正競争防止法2条1項20号にいう品質等誤認惹起行為は、品質について
誤認惹起させる行為を規制しているものであり、出所識別機能を有する商品等
表示の冒用行為を規制するものではない。
そうすると、被告製品に原告の商号を付したことを品質等誤認惹起行為と構
成する原告の主張は、主張自体失当であり、採用できない(なお、原告の商号
が著名表示であると認めるに足りる証拠はない)。
8 争点A9(被告製品に「特許取得済」との表示をしたことが品質等誤認惹起
行為(不正競争防止法2条1項20号)に該当するか)
原告は、被告が被告製品に「特許取得済」との表示をしたことが品質等誤認
惹起行為に該当すると主張する。
しかし、不正競争行為というためには、当該行為によって原告の営業上の利
益を侵害され又は侵害されるおそれがあることを要するところ、原告は、被告
から販売被告製品の製造を受託したことはあっても、自ら製造販売したことは
なく、本件口頭弁論の終結時においても同様である。
そうすると、原告と被告は競争関係にないから、被告が販売被告製品に「特
許取得済」と表示した行為は、不正競争に該当しない。
原告の主張は採用できない。
9 争点B1(原告が、被告に対し、本件借入金について被告が第三者弁済する
ことを委託したか並びに同第三者弁済について事務管理に基づく費用償還又は
不当利得返還請求ができるか)について
(1) 前記認定事実によれば、原告が平成23年6月頃、実質的に休眠状態とな
ったこと、原告及びP1は、その頃、本件借入金を弁済することが困難であ
ったこと、被告が、その頃から、乙10口座を管理し、被告の計算で本件借入
金を第三者弁済するようになったことが認められる。このような経緯に鑑み
れば、原告及び被告は、平成23年6月頃、少なくとも、以後被告の計算で本
件借入金を第三者弁済していくことを合意したものと認められる。
(2) そこで、かかる合意が、弁済委託であったものと認められるか否かを検討
するに、本件借入金により、ダニ捕りマット事業が運営されていたこと、被
告のみがダニ捕りマット事業による利益を得ていたこと、被告は、原告に対
し、販売被告製品の製造を委託することができた(よって、求償権を行使し
得た。)にもかかわらず、反訴が提起されるまで、第三者弁済分の求償権を行
使していなかったことが認められる。これらの事実に加え、前記認定に係る
平成23年6月当時の原告及びP1の資力や組織運営状況等も踏まえると、
上記の第三者弁済に関する合意の際に、被告が、事後的に原告に対し求償す
ることは想定されておらず、むしろ、被告が本件借入金の弁済を引き受けた
ものというべきである。
この点、被告は、弁済委託等がなければ他人の債務を弁済することはない
などとも主張する。しかし、被告は、本件特許権が原告名義であったにもか
かわらず、本件発明の技術的範囲に属するものと解し得る表示をしていた販
売被告製品を製造販売し、その利益を全て得ていた。そうすると、被告が、金
融機関に対する弁済を継続することで、強制執行等により本件特許権が第三
者に譲渡されることを回避し、実質的に被告が管理できるようにした上で、
その名義と利益帰属主体の齟齬を解消する便法の一つとして本件借入金の第
三者弁済をすることは、当時の被告にとっては相応に合理的であったとも言
い得るものであって、被告の主張は採用の限りでない。
(3) 以上の次第であり、原告が被告に対し本件借入金の弁済を委託したものと
は認められず、本件借入金に対する被告の第三者弁済は、被告が自ら引き受
けたものと認められるから、事務管理及び不当利得のいずれにも該当しない。
被告の主張は採用できない。
10 争点B2(P2による本件特許権の登録費用等の支払があったか及び同支払
について不当利得返還請求ができるか)について
(1) 上記認定事実のとおり、P2は弁理士に対し、本件特許権の登録費用等と
して90万2861円を支払ったものと認められる(原告は、少なくとも被
告が設立された平成20年11月17日までは、P2ではなく原告の計算で
支弁されていたと主張するが、客観的証拠(乙13)に反し、採用できない。 。
)
(2) ここで、被告は、債権譲渡の点は措くとして、これらの費用を法律上の原
因なく支払ったことで、原告に利得が発生した一方で被告に損失が発生した
と主張する。
しかし、被告は、販売被告製品が本件発明の技術的範囲に属さないにして
も、これに「特許取得済」との表示をして利益を得、かつ、その利益の全てを
取得していた。そうすると、本件特許権の登録費用等は、少なくとも本件本
訴の提起前までは、被告が本件特許権を自らの利益を確保するため利用する
に当たり必要な費用として負担していたものというべきであって、実際、利
益を得ていたのであるから、これを支払うことには法律上の原因があり、ま
たこれによって被告に損失が発生したともいえない。
(3) 以上の次第であり、原告が、被告の損失のもとで本件特許権の登録費用等
相当額を不当に利得したものとは認められず、被告の主張は採用できない。
11 小括(会社法違反及び不正競争防止法に関する本訴請求並びに反訴請求につ
いて)
以上の次第であり、本訴請求中特許権侵害に関するもの以外の請求(会社法
違反及び不正競争防止法に関する請求)及び反訴請求は、その余の争点につい
て判断するまでもなくいずれも理由がない。
第5 結論
よって、原告の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも理由がないから、いず
れも棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法64条、61条を適用し
て、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
松 阿 彌 隆
裁判官
阿 波 野 右 起
裁判官
西 尾 太 一
(別紙1の1)
被告製品目録
1 ダニ捕ってポイ
2 ダニポイポイ
3 ダニを集めて捕るシート
4 ダニ捕りバスター
5 ダニ集めてポイ
6 ラビガード(RabbiGuard)
7 ダニ捕りポイポイ
8 ダニシート
9 ダニ捕りシート
10 その他、上記1∼9と同じく別紙被告製品説明書に記載の構成を備
える各製品
以上
(別紙2)
特許権目録
特許番号 特許第4796334号
発明の名称 ダニ捕獲マット
出願日 平成17年6月7日
登録日 平成23年8月5日
以上
(別紙3、別紙7の1及び同2 添付省略)
(別紙4の1)
充足論(被告製品の構成)検討表1
本件発明1 請求項 原告の主張 争いの有無及び当事者の主張
A−1 ダニ誘引香料を含浸した織物シートと、 ダニを誘引する香料が付着した織物シートと、 ⃝
A−2 両面粘着テープと、 粘着テープと、 〇
【原告の主張】
本件発明における「多孔質通気性袋」は、袋その
ものを縫製等することによりダニ用食餌を入れら
れるようにすることに限定したものではなく、両
面粘着テープに接着させたり、縫製された多孔質
通気性カバーに被包させることも想定している。
A−3 ダニ用食餌入りの多孔質通気性袋と、 誘引剤を入れた誘引剤袋と、 被告製品の「誘引剤袋」は、これと同様の構成で
ある。
【被告の主張】
被告製品は、2枚の不織布シートでダニ用食餌を
挟んでいるのみであって、当該不織布シートは袋
状に形成されていないから、「誘引剤袋」との構
成を備えない、
A−4 多孔質通気性カバーとで構成され、 外装生地とで構成され、 〇
【原告の主張】
被告製品βの略図は、織物シートが存すること
を認めている。被告製品2及び4と同じであり、
前記織物シートの片面に前記両面粘着テープ 前記織物シートの一方の面に粘着テープが貼着 被告製品βにも織物シートが存する。
B
が貼着されると共に、 されるとともに、 【被告の主張】
被告製品αについては認める。
被告製品βには、ダニ誘引剤を含浸した織物
シートはなく、ガーゼがあるのみである。
C 前記多孔質通気性袋は、 前記誘引剤袋は、 〇
その少なくとも一部が前記織物シートと前記 略半分が織物シートと一の粘着テープとの間に
C−1 〇
両面粘着テープとの間に位置して、 位置して、
残部が該両面粘着テープの外面側に位置する 残りの略半分が他の粘着テープの外面側に位置
C−2 〇
ように配置され、 するように配置され、
これら織物シート及び両面粘着テープと多孔 織物シート、粘着テープ、誘引剤袋が被着され
D 質通気性袋の被着一体化物の全体が前記多孔質 て形成された一体化物の全体が外装生地にておお 〇
通気性カバーにて被覆されてなる われている
E ダニ捕獲マット。 ダニ捕獲マット。 〇
(別紙4の2)
充足論(被告製品の構成)検討表2
本件発明2 請求項 原告の主張 争いの有無及び当事者の主張
F 前記多孔質通気性袋は、 誘引剤袋は、 ⃝
【原告の主張】
被告製品βの略図は、織物シートが存することを
認めている。被告製品2及び4と同じであり、被告
その半部が前記織物シートと前記両面粘着テープとの間に位 略半分が織物シートと一の粘着テープとの間に位 製品βにも織物シートが存する。
F−1
置し 置し、 【被告の主張】
被告製品αについては認める。
被告製品βには、ダニ誘引剤を含浸した織物シー
トはなく、ガーゼがあるのみである。
且つ残りの略半分が他の粘着テープの外面側に位
F−2 且つ残部が前記両面粘着テープの外面側に位置するように、 ⃝
置するよう
F−3 千鳥状に配置され、 粘着テープに対して互い違いに配置され、 〇
【原告の主張】
別紙5の1のとおり、被告製品に配されているも
のも多孔質通気性袋であり、これが粘着テープに被
着している。
G 全体が前記両面粘着テープに被着している 全体が粘着テープに被着している
【被告の主張】
販売被告製品は、同寸矩形の2枚の不織布シート
が重ねて配されているのみであり、多孔質通気性袋
は存在しない。
H 請求項1記載のダニ捕獲マット。 前記〔1〕記載のダニ捕獲マット。 ⃝
本件発明3 請求項 原告の主張 争いの有無及び当事者の主張
【原告の主張】
被告製品の織物シートは、コットンのワッフル状
の生地からなる。ワッフル地とは凹凸のある敷物を
意味し、高い形態安定性や強度を発揮するところ、
被告製品3の織物シートを拡大した写真では、凹凸
が確認できる。また、被告製品における織物シート
は、単なる織物シートのような軟弱な素材ではな
織物シートがコットンのワッフル状の生地からな
I 前記織物シートがコットンのワッフル地からなる く、ワッフル地特有の形態安定性及び強度を有して
る
いる。そうすると、被告製品においてもワッフル地
が用いられている。
【被告の主張】
販売被告製品には、ガーゼ及び不織布シートを備
えているが、ガーゼは平織り生地であるし、不織布
シートは、文字通り、織らない布状のものであるか
らワッフル地ではない。
J 請求項1又は2に記載のダニ捕獲マット。 前記〔1〕又は〔2〕に記載のダニ捕獲マット。 ⃝
本件発明4 請求項 原告の主張 争いの有無及び当事者の主張
前記多孔質通気性カバーが裏毛側を外面側にしたコットンの 外装生地が裏毛側を外面としたコットンの裏生地
K ⃝
裏毛地からなる からなる
前記〔1〕∼〔3〕のいずれかに記載のダニ捕獲
L 請求項1∼3のいずれかに記載のダニ捕獲マット。 ⃝
マット。
(別紙5の1)
充足論(文言侵害)検討表1
本件発明1 請求項 原告の主張 被告の主張
被告製品の織物シートには、ダニを誘引する香料が付着してい 「含浸」とは、香料等を液体に溶いて生地等に染み込ませるこ
る。本件発明1における「含浸」とは、織物シートにダニ誘引香 とを指すところ、販売被告製品では、製造費用や仕入費用が高額
料の成分が保持された状態にすることを意味するものであり、か である「含浸した織物シート」は用いておらず、含浸がない安価
A−1 ダニ誘引香料を含浸した織物シートと、 つ、これで足りる。被告が主張するように、液体物質である香料 な薄いガーゼを使用している。
を生地等に染み込ませるなどというのは、一般的な用法にも整合 被告製品αでは、ダニ誘引香料とガーゼがあるだけで、ガーゼ
しないし、本件明細書でもそのような意味であることを示唆する に香料を含浸させていないし、被告製品βでは、そもそもガーゼ
記載はない。 ですらない。
A−2 両面粘着テープと、 争いがない。 〇
被告製品の誘引剤袋は多数の細孔が開いていて通気性を有して
いるから多孔質通気性袋に相当する。また、その誘引剤袋にはダ 販売被告製品では多孔質通気性袋は使っていない。袋の形状に
ニ用食餌に相当する誘引剤が入れられている。よって、被告製品 製造すると経費がかかるため、販売被告製品は誘引剤を不織布等
は構成要件A−3を充足する。 で挟み込んだのみであって、縫製により口が閉塞されていない。
本件発明における多孔質通気性袋は、袋そのものを縫製等をす すなわち、被告製品αでは、2枚の不織布は重ねて配されてい
ることでダニ用食餌を入れられるように限定するものではなく、 るのみで、袋状には形成していないし、被告製品βでは、不織布
両面粘着テープに被着させたり、縫製された多孔質通気性カバー と両面シートが重ねて配されているだけで袋状には形成されてい
A−3 ダニ用食餌入りの多孔質通気性袋と、
に被包されることをも想定している。被告製品における誘引剤袋 ない。
も、ダニ食餌を入れられるし、1つの袋のみで両面粘着テープの むしろ、販売被告製品は、ダニの誘引力を確保するため、袋状
表裏両面に配置できることから、構成要件A−3を充足するもの に形成されていない2枚のガーゼなどをあえて上下又は左右に2
というべきである。 箇所の隙間を開け、意図的に袋にならないように粘着テープを貼
また、縫製により口を閉塞していないことのみをもって「袋」 り付け、香料の2割程度が不織布の隙間から周囲にこぼれ落ち、
にあたらないとすることは、本件明細書からは読み取ることがで 8割程度が不織布に挟まれて保持されるようにしている。
きない。
A−4 多孔質通気性カバーとで構成され、 争いがない。 〇
被告製品αについては認める。
前記織物シートの片面に前記両面粘着テープ 被告製品βは、別紙4の1のとおり、織物シートを備えてい
B 被告製品βについては、別紙4の1のとおり、織物シートを備
が貼着されると共に、 る。
えていない。
C 前記多孔質通気性袋は、
その少なくとも一部が前記織物シートと前記 構成要件A−3に関する主張と同旨であり、被告製品には、多 構成要件A−3に関する主張と同旨であり、多孔質通気性袋が
C−1 孔質通気製袋に相当する織物シートがある。 存在しない。
両面粘着テープとの間に位置して、
残部が該両面粘着テープの外面側に位置する
C−2
ように配置され、
これら織物シート及び両面粘着テープと多孔 構成要件A−3に関する主張と同旨であり、被告製品は、織物
D 質通気性袋の被着一体化物の全体が前記多孔質 シート、粘着テープ、誘引剤袋が被着されて形成された一体化物 構成要件A−3に関する主張と同旨
通気性カバーにて被覆されてなる の全体が外装生地に覆われており、構成要件Dを充足する。
E ダニ捕獲マット。 争いがない。 〇
(別紙5の2)
充足論(文言侵害)検討表2
本件発明2 請求項 原告の主張 被告の主張
F 前記多孔質通気性袋は、
その半部が前記織物シートと前記両面粘着テープとの間に位置
F−1
し
構成要件A−3に関する主張と同旨 構成要件A−3に関する主張と同旨
F−2 且つ残部が前記両面粘着テープの外面側に位置するように、
F−3 千鳥状に配置され、
構成要件A−3に関する主張と同旨で、被告製品には多孔
質通気性袋が存在する。 構成要件A−3に関する主張と同旨で、販売被告製品には
また、被告製品の誘引剤袋は、全体が粘着テープに被着し 多孔質通気性袋は存在しない。
ており、構成要件Gを充足する。本件発明2は、ダニ用食餌 また、被告製品αでは、2枚の不織布シートが中央に一定
が入った多孔質通気性袋が1枚で両面粘着テープの表裏に千 の隙間をあけて並び配された幅広の両面テープ状部材2枚に
G 全体が前記両面粘着テープに被着している 鳥状に配されるようにすることで、構成材料の数を少なく、 張り付けられていて、中央の5mmないし1cmの隙間部分
容易に制作できることを企図している。したがって、構成要 には貼り付けられていない。被告製品βも不織布シートと粘
件Gにおける「全体」とは、1枚の多孔質通気製袋をもって 着テープの重ね合わせのサイズや方向が一致せず、全部の面
両面粘着テープの表裏双方に被着している状態を修飾的に表 に張り付けられているわけではない。よって、「全体」が粘
すものであり、多孔質通気性袋のわずかな隙間もない全面が 着テープに被着していない。
両面粘着テープに被着していることを要するものではない。
H 請求項1記載のダニ捕獲マット。 前記〔1〕記載のダニ捕獲マット。 争う。
本件発明3 請求項 原告の主張 被告の主張
被告製品は、別紙4の2のとおり、ワッフル地の織物シー 被告製品は、別紙4の2のとおり、ワッフル地の織物シー
I 前記織物シートがコットンのワッフル地からなる
トを備えている。 トを備えていない。
J 請求項1又は2に記載のダニ捕獲マット。 前記〔1〕又は〔2〕に記載のダニ捕獲マット。 争う。
本件発明4 請求項 原告の主張 被告の主張
前記多孔質通気性カバーが裏毛側を外面側にしたコットンの裏
K 外装生地が裏毛側を外面としたコットンの裏生地からなる ⃝
毛地からなる
L 請求項1∼3のいずれかに記載のダニ捕獲マット。 前記〔1〕∼〔3〕のいずれかに記載のダニ捕獲マット。 争う。
(別紙6)
充足論(均等侵害)検討表
要件 原告の主張 被告の主張
非充足部分 被告製品における誘引剤袋が本件発明における多孔質通気性袋に該当しないこと
本件発明では、織物シートに含浸させたダニ誘引香料によって、マットを
配置した場所から離れた広範囲の領域から多数のダニを誘引して集める効果
を生じさせるためにダニ誘引剤を含浸させた織物シートを用いており、この
シートの存在は必須であり、本質的部分である。
本件発明の本質的特徴は、ダニ誘引物質によりダニを両面粘着テープの表 また、多孔質性通気袋のダニ食餌によってさらに表裏両面からダニを内側
裏両面に誘い込んだうえで、ダニの誘引とは別の構成によりダニの捕捉を実 に誘い込むことも企図しており、ダニ食餌が袋で保持されていることも必須
現する点であり、多孔質通気性袋はこれに寄与するものである。 であり、かつ、置き換えが不可能な事項である。
被告製品は、通気性を備える2枚のガーゼ内にダニ用食餌が保持されるよ そして、ダニ食餌が袋内で保持されることで、ダニ誘引剤との混合が生じ
第1要件 うに意図的に構成されており、これによって、本件発明がダニ用食餌入り多 ず、混ぜ物のない粘着剤成分のみからなる強い粘着力を生じさせることがで
(非本質的部分) 孔質通気性袋を発明特定事項とした技術的意義を実現している。 き、ガーゼでは拡散され保持できない、袋による確実な保持が可能となるの
そうすると、被告製品は、本件発明と本質的特徴において同一の構成を備 であるから、袋構造には本質的特徴が存する。
えており、2枚のガーゼから成る誘引剤袋が多孔質通気性袋に該当しないと 本件発明では、ダニ用食餌とダニ誘引香料が明確に区別されて用いられて
しても、そのような相違点は、本件発明における本質的部分には当たらな いるところ、誘引力が強いが誘引範囲が狭く粘着剤より内側にある食餌と、
い。 誘引力に劣るが誘引範囲が広く粘着剤外にも拡散する香料とでは役割が異な
り、特に、食事が粘着剤の内側から出ないようにする構造は本質的に必要と
されている部分である。
よって、被告製品が多孔質通気性袋を有しないことは、本質的部分に相違
がある。
第1要件で記載した通り、被告製品は、マットの表裏両側からダニを誘引 ガーゼであれば挟み込んでいる食餌又はダニ誘引剤が粘着剤周辺に拡散さ
第2要件
し、その粘着層は混ぜ物のない粘着剤成分で構成され強い粘着力を保持でき れ、混ぜ物がある場合と同様の状態が生じるため、本件発明と同一の作用効
(置換可能性)
ることから、本件発明と同様の高い防ダニ効果を得ることができる。 果を得ることはできない。
袋は素材となる部材を複数縫い合わせるなどして製造しているところ、一
第3要件 ガーゼと多孔質通気性袋は構造も構成も意義も全く異なっており、置換で
定の空間内に内容物を保持するために2枚のガーゼを縫い合わることなく密
(置換容易性) きない。
着して重ね合わせることは何ら困難ではない。
本件発明は、明確性要件違反を理由とする拒絶理由通知を受けたことがあ
第4要件 るが、新規性や進歩性の欠如を理由とする拒絶理由通知を受けたことはな
否認し争う。
(容易推考性) い。本件発明は、公知技術と同一ではなく、かつ、公知技術から容易に推考
できたものではないことはこのような審査経過から明らかである。
第5要件 被告製品が本件特許の出願手続において意識的に除外されたものにあたる
否認し争う。
(意識的除外等) などの特段の事情は存しない。
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