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令和5(ワ)8403特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
裁判年月日 令和6年10月22日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社ハウゼコ
被告株式会社トーコー
対象物 笠木下換気構造体
法令 特許権
特許法101条1号1回
特許法100条1項1回
キーワード 侵害28回
間接侵害9回
特許権9回
差止5回
実施2回
分割2回
損害賠償1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。20
事件の概要 1 本件は、発明の名称を「笠木下換気構造体」とする特許(以下「本件特許」 という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が 本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の技5 術的範囲に属する別紙「物件目録」記載の製品(以下「被告製品」という。)を製 造・販売等することは本件特許権の侵害(間接侵害)に当たると主張して、被告に 対し、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の製造・販売等の差止め及 び廃棄を求めるとともに、不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金2億6 930万5000円のうち一部請求として3000万円及びこれに対する令和5年10 9月14日(訴状送達日の翌日であり、不法行為よりも後の日)から支払済みまで 民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

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判決文

令和6年10月22日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和5年(ワ)第8403号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日 令和6年8月20日
判 決
原 告 株 式 会 社 ハ ウ ゼ コ
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 松 村 信 夫
同 塩 田 千 恵 子
10 同 文 今 子
同補佐人弁理士 葛 西 二
同 山 本 直 樹
同 野 口 晴 加
15 被 告 株 式 会 社 ト ー コ ー
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 藤 田 典 彦
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
20 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は、別紙「物件目録」記載の製品を製造し、販売し又は販売の申出をし
てはならない。
25 2 被告は、前項の製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、3000万円及びこれに対する令和5年9月14日か
ら支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、発明の名称を「笠木下換気構造体」とする特許(以下「本件特許」
という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が
5 本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の技
術的範囲に属する別紙「物件目録」記載の製品(以下「被告製品」という。)を製
造・販売等することは本件特許権の侵害(間接侵害)に当たると主張して、被告に
対し、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の製造・販売等の差止め及
び廃棄を求めるとともに、不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金2億6
10 930万5000円のうち一部請求として3000万円及びこれに対する令和5年
9月14日(訴状送達日の翌日であり、不法行為よりも後の日)から支払済みまで
民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定
できる事実)
15 (1) 当事者
原告は、建築用金属製品、亜鉛鉄板その他建築用品の製造・販売等を目的とする
株式会社である。
被告は、亜鉛引鉄板及び一般鋼材の加工・販売、合成樹脂の成型加工、二次製品
の加工・販売等を目的とする株式会社である。
20 (2) 本件特許権
原告は、次の本件特許権を有している。本件特許権の特許請求の範囲、明細書及
び図面(以下、明細書及び図面を「本件明細書」という。)の記載は、別紙「特許
公報」のとおりである(甲2)。なお、平成24年6月27日の原出願(親出願、
特願2012-143663。甲13)の分割として子出願(特願2013-22
25 53)がされているところ、本件特許の出願は、そのさらに分割としてされた孫出
願である。
ア 登録番号 特許第5269264号
イ 出願日 平成25年1月21日
ウ 原出願日 平成24年6月27日
エ 登録日 平成25年5月17日
5 オ 発明の名称 笠木下換気構造体
カ 特許請求の範囲【請求項1】
外壁下地材及び前記外壁下地材の外面に取付けられた胴縁を介して取付けられた
外壁材とその上方に設置される笠木との間の部分に設置することができる笠木下換
気構造体であって、
10 前記外壁下地材の上端部の外方側に対して垂直方向に延びる第1垂直部と、前記
第1垂直部の上端側に接続され、外方に向かってほぼ水平方向に延びる第1水平部
と、前記第1水平部の外方側に接続され、垂直下方に延びると共に長手方向に所定
間隔で複数の開口が形成された第2垂直部と、前記第2垂直部の下方側に接続さ
れ、前記第1垂直部の方向に所定距離を残して延びる第2水平部とからなる笠木下
15 部材と、
前記笠木下部材内に配置され、通気性能及び防水性能を発揮する換気部材とを備
え、
前記笠木下部材の前記第1垂直部は前記外壁下地材と前記胴縁との間の隙間に差
し込むようにして設置されることができる、笠木下換気構造体。
20 (3) 構成要件の分説
本件発明の構成要件は、別紙「本件発明に関する充足論(文言侵害)」の「構成
要件」欄のAないしEのとおり分説される。
(4) 被告製品ないし被告製品を部材とする笠木下換気構造体の構成
ア 被告製品の構造(形状)の概要は、別紙「図面」記載1の各図面のとおりで
25 あり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体の構造図の概要は、同記載2の図面
のとおりである。被告製品の構成には争いがあり、原告の主張は、別紙「被告製品
の構造」の「原告の主張」欄記載のとおりであり、被告の主張は 、同「被告の主
張」欄記載のとおりである。
イ 被告製品を部材とする笠木下換気構造体の構成には争いがあり、原告の主張
は、別紙「本件発明に関する充足論(文言侵害)」の「被告製品を部材とする笠木
5 下換気構造体の構成」欄の「原告の主張」欄記載のとおりであり、被告の主張は、
同「被告の主張」欄記載のとおりであるが、被告製品を部材とする笠木下換気構造
体が、本件発明の構成要件A、B-1ないしB-5、Eを充足することは、被告は
争っていない。
(5) 被告の行為
10 被告は、令和3年4月頃から、被告製品を笠木下換気構造体の部材として製造・
販売し、販売の申出をしている(争いがない。)。
3 争点
(1) 本件発明の技術的範囲への属否(被告製品に関する間接侵害の成否)(争
点1)
15 ア 文言侵害の成否(争点1-1)
イ 均等侵害の成否(予備的主張。争点1-2)
(2) 損害の発生及びその額(争点2)
(3) 差止め等の必要性の有無(争点3)
第3 争点についての当事者の主張
20 1 本件発明の技術的範囲への属否(被告製品に関する間接侵害の成否)(争点
1)
(1) 文言侵害の成否(争点1-1)
本件発明に係る構成要件C及びDの充足性(文言侵害)についての当事者の主張
は、別紙「本件発明に関する充足論(文言侵害)」の「構成要件充足性」欄の「原
25 告の主張」欄及び「被告の主張」欄各記載のとおりである。
原告は、本件発明の構成要件C及びDの充足性が肯定されることを前提に、被告
製品は、被告製品を部材とする笠木下換気構造体(侵害品)の構造の一部を構成す
る部材であり、同構造体の「生産にのみ用いられる物」に該当するとして、被告製
品に関する間接侵害(特許法101条1号)が成立する旨主張している。これに対
し、被告は、上記の充足性が否定される以上、被告製品に関する間接侵害は成立し
5 ない旨主張している。
(2) 均等侵害の成否(予備的主張。争点1-2)
本件発明に係る構成要件Cの充足性(均等侵害)についての当事者の主張は、別
紙「本件発明に関する充足論(均等侵害)」の「均等侵害の成否」欄の「原告の主
張(予備的主張)」欄及び「被告の主張」欄各記載のとおりである。
10 2 損害の発生及びその額(争点2)
〔原告の主張〕
被告は、令和3年4月から令和5年3月までの2年間に被告製品を29万500
0個販売しており、原告の製品(本件発明の実施品)の単位数量当たりの利益額は
879円であるから、上記期間における本件特許権の侵害による原告の逸失利益は
15 2億5930万5000円となり、同金額が原告の損害額と算定される(特許法1
02条1項1号)。
これに、弁護士費用相当額1000万円を加えた2億6930万5000円が原
告の損害額である。
〔被告の主張〕
20 争う。
3 差止め等の必要性の有無(争点3)
〔原告の主張〕
被告は、令和3年4月から現在に至るまで、被告製品の製造・販売及び販売の申
出をしているから、本件特許権侵害の予防のため、前記製造等の行為の差止め及び
25 被告製品の廃棄を求める必要がある。
〔被告の主張〕
争う。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)について
被告製品を部材とする笠木下換気構造体が、本件発明の構成要件A、B-1ない
5 しB-5、Eに係る構成を有することは争いがない。
そこで、争いのある構成要件Cの充足性(「前記笠木下部材内に配置され、通気
性能及び防水性能を発揮する換気部材」を備えるか)及び同Dの充足性(「前記笠
木下部材の前記第1垂直部は前記外壁下地材と前記胴縁との間の隙間に差し込むよ
うにして設置されることができる」か)が問題となる。
10 (1) 文言侵害の成否(争点1-1)について
ア 構成要件Cの充足性(「前記笠木下部材内に配置され、通気性能及び防水性
能を発揮する換気部材」を備えるか)について
(ア)a 構成要件Cの「前記笠木下部材内に配置され、通気性能及び防水性能を
発揮する換気部材」との文言は、「換気部材」が、「笠木下部材内に配置され」て
15 いることと、「通気性能及び防水性能を発揮する」ものであることとをいずれも備
える旨を規定するものである。
b また、本件明細書には、以下の内容が示されている(以下で指摘する各段落
の具体的記載及び図面は、別紙「特許公報」のとおりである。)。
(a) 先行技術文献である特許文献1(特開2007-138422号公報。甲
20 11)に示されるような従来の笠木下換気構造体では、設置時に本体部と通路部と
を別々に、かつ蛇行通路が形成されるように所定の位置関係で腰壁パネルに取り付
ける必要があり、複雑な構造であるため、迅速な設置が困難であるとともに、換気
量が少ないものであったこと(【0009】)に加え、笠木下部分における雨水の浸入
は、覆い部材内の蛇行通路によって移動距離を長くして防止しているのみであるた
25 め、暴風雨等で雨量が極端に増加したときの防水機能としての信頼性が十分ではな
く、さらには、虫等が蛇行通路を介して建物内に侵入するおそれがある(【0010】)
という課題があった。本件発明は、かかる課題を解決するためものであり、迅速な
設置を可能にするとともに、通気機能及び防水機能の信頼性の高い笠木下換気構造
体を提供することを目的としている(【0011】)。
(b) 前記課題を解決するための手段
5 本件発明は、外壁下地材及び外壁下地材の外面に取り付けられた胴縁を介して取
り付けられた外壁材とその上方に設置される笠木との間の部分に設置することがで
きる笠木下換気構造体であって、外壁下地材の上端部の外方側に対して垂直方向に
延びる第1垂直部と、第1垂直部の上端側に接続され、外方に向かってほぼ水平方
向に延びる第1水平部と、第1水平部の外方側に接続され、垂直下方に延びると共
10 に長手方向に所定間隔で複数の開口が形成された第2垂直部と、第2垂直部の下方
側に接続され、第1垂直部の方向に所定距離を残して延びる第2水平部とからなる
笠木下部材と、笠木下部材内に配置され、通気性能及び防水性能を発揮する換気部
材とを備え、笠木下部材の第1垂直部は外壁下地材と胴縁との間の隙間に差し込む
ようにして設置されることができる(【0012】)。
15 (c) 本件発明の効果
換気部材が笠木下部材に一体化されるため、笠木下部分への取付けが容易で通気
機能及び防水機能の信頼性が向上し、また、笠木下部材の位置決めが容易になるた
め、取付作業が効率的になる(【0024】)。
(d) 本件明細書の【図1】(笠木下換気構造体の外観形状を示した正面図)及
20 び【図2】(図1で示したⅡ-Ⅱラインの拡大断面図)は、本件発明の一つの実施
の形態を示すものであり、【図3】は、図1で示される換気部材の外観形状を示し
た概略斜視図である(【0030】)。
これらの図面を参照すると、笠木下換気構造体1は、鋼板のプレス加工によって
形成された笠木下部材10と、笠木下部材10内に取付けられた換気部材20とか
25 ら構成されている(【0032】)。笠木下部材10は、垂直方向に延びる第1垂直部
11と、第1垂直部11の上端側に接続され、設置状態において外方(【図2】の
左側)に向かってほぼ水平方向に延びる第1水平部12と、第1水平部12の外方
側に接続され、垂直下方に延びる第2垂直部13と、第2垂直部13の下方側に接
続され、第1水平部12と平行に、かつ第1垂直部11の方向に所定距離を残して
延びる第2水平部14とから構成されていて 、第2垂直部13には、長手方向
5 (【図1】の左右方向)に所定間隔で複数の開口18が形成されている
(【0033】)。換気部材20は、幅方向の断面が矩形形状を有し、長手方向に対し
ては笠木下部材の長手方向の長さとほぼ同一長さを有する棒形状を有していて、具
体的には、換気部材20は各々が凹凸断面形状を有する合成樹脂シートを複数積層
した状態で熱融着によって相互に接続して一体化されており、一方側面(外方面)
10 から他方側面(内方面)へ貫通する通気孔21が多数形成されている(【0040】)。
このような換気部材20は、特許第2610342号(乙2参照)において開示さ
れている棟カバー材と基本的に同一構造であり、これによって一定条件下にあって
は、換気部材20は通気孔21を介しての通気を可能にするとともに、通気孔21
を介しての雨水や虫等の侵入を阻止する通気性能及び防水性能を発揮するものとな
15 る(【0041】)。このように、【図1】で示した笠木下換気構造体1は、笠木下部
材10と通気性能及び防水性能を発揮する換気部材20とを一体化したものである
(【0042】)。
c 検討
(a) 前記aのとおり、構成要件Cは、「換気部材」について、「笠木下部材内
20 に配置され」ていることと、「通気性能及び防水性能を発揮する」ものであること
とをいずれも備える旨を規定している。
(b) そして、前記bのとおり、本件明細書の記載によれば、本件発明は、従来
の笠木下換気構造体の有する課題(複雑な構造であるため、迅速な設置が困難であ
るとともに、換気量が少ないものであったことに加え、笠木下部分における雨水の
25 浸入は、覆い部材内の蛇行通路によって移動距離を長くして防止しているのみであ
るため、暴風雨等で雨量が極端に増加したときの防水機能としての信頼性が十分で
はなく、さらには、虫等が蛇行通路を介して建物内に侵入するおそれがある。)を
解決するために、構成要件B-1ないしB-4に規定される構成を有する「笠木下
部材」と、笠木下部材内に配置され、通気性能及び防水性能を発揮する「換気部材」
とを備え、「笠木下部材」の第1垂直部は外壁下地材と胴縁との間の隙間に差し込
5 むようにして設置されることができる笠木下換気構造体を提供するものである。
(c) 前記(a)及び(b)で述べたことに照らせば、構成要件Cが規定する「換気部
材」については、当業者にとって、少なくともそれ自体が「通気性能及び防水性能」
を有することを要すると解するのが構成要件Cの自然な文言解釈であり、かつ、本
件明細書の記載にも合致する。
10 (イ) 被告製品を部材とする笠木下換気構造体についてみると、その概要は別紙
「図面」記載2のとおりであるところ、原告は、傾斜部⑤が「通気性能及び防水性
能を発揮する換気部材」に相当する旨主張する。しかし、傾斜部⑤は、それが「笠
木下部材」(第1垂直部①ないし第2水平部④)内に配置されたものに当たり得る
としても、ガルバリウム鋼板からなる板状物であって(弁論の全趣旨)、傾斜部⑤
15 自体が素材としての通気性能を有するものとは認められない。傾斜部⑤の上部と第
1水平部との間には一定の空間が確保されており、当該空間を通気路と想定するこ
とはできるけれども、当該空間が「換気部材」(又はその一部)に該当するとはい
えず(原告も傾斜部⑤が「換気部材」に相当すると主張している。)、「換気部材」
が通気性能を有すると解することはできない。傾斜部⑤は、その傾斜を含む形状に
20 よって遮断性能(防水性能)を担っていることから、明らかに通気が可能な領域を
狭めており、「換気部材」として通気性能を発揮しているものとは認められない。
したがって、被告製品を部材とする笠木下換気構造体は、構成要件Cの「通気性
能…を発揮する換気部材」を充足しない。
(ウ) これに対し、原告は、本件発明の「換気部材」の文言は、雨水の浸入を軽
25 減しつつ通気通路を確保する部材を総称するものであり、被告製品の傾斜部⑤のよ
うに、第2水平部から45度の角度をもって立ち上がり、その上部が第1水平部に
接しないようにその長さが調整された部材も含まれるのであって、このような部材
は外部から浸入する雨水を遮蔽することにより雨水の浸入を軽減するとともに、該
傾斜部の上部と第1水平部との間に非接触部分を設けることにより、該間隙部を通
じて笠木下換気構造体の内外の通気を行い、通気通路を構成しているから、「通気
5 性能及び防水性能を発揮する換気部材」に該当する旨主張する。
しかし、前記(ア)のとおり、「換気部材」は、それ自体が通気性能を有する必要
があるというべきである。一方、被告製品は、前記(イ)のとおり、傾斜部自体に通
気性能はなく、開口(別紙図面の⑥)から笠木下部材内部に向かう気流を第1水平
部下部と傾斜部上端との間に存在する気道方向に通気することにより笠木下部材内
10 部と外部との間の通気が行われるとしても、それは単に通気路を残しているにすぎ
ず、傾斜部に通気性能があると認めることはできないから、被告製品を部材とする
笠木下換気構造体の構成cは、被告主張のとおり「前記第2水平部の内方端に接続
され、外方に向けて内角約45度に傾斜して延びる傾斜部と、を有する笠木下部材
であって、前記傾斜部は、開口から浸入する雨水を遮断してその浸入を防止する防
15 水性能を有し、前記第1垂直部側と開口側とを換気する換気経路を遮断して蛇行経
路とし、」と認定されることとなる(同様に、被告製品の傾斜部の構造は別紙「被
告製品の構造」の「被告の主張」欄の「(き)」のとおり認定される。)。そうする
と、構成cは構成要件Cを充足せず、原告の主張は採用できない。
(エ) したがって、被告製品を部材とする笠木下換気構造体が構成要件Cを充足
20 する旨の原告の主張は採用できない。
イ 以上のとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体は構成要件Cを充足
しないから、その余の点について検討するまでもなく、被告製品に関する文言侵害
(間接侵害)の成立を認めることはできない。
(2) 均等侵害の成否(予備的主張。争点1-2)について
25 前 記(1)のとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体は、構成要 件 C の
「通気性能…を発揮する換気部材」との構成を備えておらず、少なくともこの点に
おいて本件発明と相違するため、原告が予備的に主張する均等侵害(間接侵害)の
成否につき検討する。
ア 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる
方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、①同
5 部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件)、②同部分を対象製品等におけ
るものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏
するものであって(第2要件)、③上記のように置き換えることに、当該発明の属
する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等
の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件)、④対象製品
10 等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願
時に容易に推考できたものではなく(第4要件)、かつ、⑤対象製品等が特許発明
の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなど
の特段の事情もないとき(第5要件)は、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載
された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが
15 相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判
決・民集52巻1号113頁参照)。
事案に鑑み、まず第2要件及び第3要件について検討する。
イ 第2要件について
前記(1)で判示したとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体においては、
20 傾斜部⑤が、「笠木下部材」内に配置されたものに当たり得るとしても、少なくと
もそれ自体が通気性能を有する「換気部材」ではないという点で、本件特許の特許
請求の範囲に記載された構成とは異なる。
原告は、本件発明の作用効果は、笠木下部分への取り付けが容易で、外壁下地材
の上端部の外方側に対して第1垂直部を当接させることにより笠木下部材の位置決
25 めが容易になることにあり、「換気部材」を傾斜部⑤へと置き換えても、被告製品
が本件発明と同一の目的を達成し同一の作用効果を奏することを妨げるものではな
い旨主張する。
しかし、本件発明が解決しようとする課題は、迅速な設置が困難であることに限
られるものではなく(前記(1)ア(ア)c)、本件明細書の記載からすると、本件発明
の目的ないし作用効果は、雨水や虫等の浸(侵)入を防止し、通気機能及び防水機
5 能の信頼性の高い笠木下換気構造体を提供する ことにもあると認められる (前記
(1)ア(ア)b(a)~(c))。そして、別紙「図面」記載1及び2の各図面のとおり、被
告製品を部材とする笠木下換気構造体は、開口⑥及び傾斜部⑤と第1水平部②との
隙間から建物内に雨水や虫等が浸(侵)入し得る構造となっているから、構成要件
Cにおける「換気部材」を傾斜部⑤に置き換えた場合、迅速な設置を可能にし、換
10 気量を確保するという本件発明の目的は達成し得るとしても、雨水や虫等の浸(侵)
入を防止し、通気機能及び防水機能の信頼性の高い笠木下換気構造体を提供すると
いう本件発明の目的を達成することができないし、本件発明と同一の作用効果を奏
するともいえない。したがって、均等侵害の第2要件を認めることはできない。
ウ 第3要件について
15 本件発明は、従来技術である蛇行経路タイプの換気部材を用いた場合の課題(迅
速な設置が困難で換気量も少ないこと、蛇行経路を介して雨水や虫等が浸(侵)入
するおそれがあること等)を解決する換気部材を採用したものといえるところ(前
記(1)ア(ア)b(a)、(b))、「換気部材」を従来技術である蛇行経路タイプに近い傾
斜部⑤に置き換えることについては阻害要因があるものと認められる。原告は、通
20 気性能と防水性能を生じさせるために、笠木下部材内に浸入する雨水を遮断する遮
蔽板を笠木下部材により蛇行型の通気通路を構成することで同様の目的を達し得る
ことは広く知られており、当業者であれば、被告製品のように雨水を遮断する遮蔽
板と笠木下部材により蛇行型の通気通路を構成する方法を用いることは容易に想到
し得る旨主張する。しかし、そもそも本件発明の「換気部材」を被告製品の「傾斜
25 部」に置き換えると、第2垂直部に形成される「複数の開口」(その上下方向の位
置関係に特段の限定はない。)の「傾斜部」より上方部分において、笠木下部材内
に直通経路の通気路が形成され、防水性能を保持できなくなる可能性がある。その
ため、防水性能を保持するには「複数の開口」と「傾斜部」の位置関係や高さに創
意工夫を要することとなるから、当業者が、被告製品の製造等の時点において上記
置換えを容易に想到することができたものとは認められない。したがって、均等侵
5 害の第3要件を認めることはできない。
エ 以上のことからすると、被告製品に関して、本件発明に対する均等侵害(間
接侵害)の成立を認めることはできない。
(3) 小括
以上のとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体は、本件発明の技術的範
10 囲に属しないから、被告製品に関する間接侵害は認められない。
2 結論
よって、その余の争点につき判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由が
ないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
20 武 宮 英 子
裁判官
阿 波 野 右 起
裁判官
西 尾 太 一
(別紙)
物 件 目 録
笠木下換気構造体の換気部材である以下の製品
5 1 製品名
KanKEY eco
2 品番
S-KKY
3 製品の構造
10 概要は別紙「図面」記載1のとおり
以 上
(別紙)
図 面
1 被告製品
図1 正面図
図2 側面図

図3 背面図
図4 平面図
図5 底面図
25 以 上
2 被告製品を部材とする笠木下換気構造体の構造図

以 上

別 紙 特 許公報は省略

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