知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和6(ワ)70106 特許使用料請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

令和6(ワ)70106特許使用料請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和6年11月15日
事件種別 民事
当事者 原告アキシオン株式会社
被告アキシオン・トーキョー株式会社
法令 民法559条2回
民法541条1回
キーワード 実施35回
特許権32回
許諾30回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。10
事件の概要 1 事案の要旨15 本件は、原告が、被告に対し、原告と被告との間で締結された別紙特許権目 録記載の各特許権(以下、同目録の項番に従って「本件特許権1」ないし「本 件特許権3」といい、これらを併せて「本件各特許権」という。)について通 常実施権を許諾する契約に基づき、令和6年1月から同年3月までの実施許諾 料合計600万円(以下「本件許諾料」という。)の支払を求める事案である。20 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲括弧内の証拠(以下、書証 番号は特記しない限り枝番を含む。)、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著である ことにより容易に認められる事実) (1) 当事者(甲1、弁論の全趣旨) 原告及び被告は、いずれも、フルボ酸の研究開発等を行う株式会社である。25 (2) 「新事業提携契約及び特許専用実施権契約」の締結及びその内容 原告と被告は、令和4年12月29日、「新事業提携契約及び特許専用実 施権契約」(以下「本件契約」という。)を締結した。本件契約においては、 原告が、被告に対し、本件各特許権について通常実施権を許諾し、被告が、

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和6年11月15日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(ワ)第70106号 特許使用料請求事件
口頭弁論終結日 令和6年8月27日
判 決
5 原 告 アキシオン株式会社
被 告 アキシオン・トーキョー株式会社
同訴訟代理人弁護士 市 川 穣
主 文
1 原告の請求を棄却する。
10 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は、原告に対し、600万円を支払え。
第2 事案の概要等
15 1 事案の要旨
本件は、原告が、被告に対し、原告と被告との間で締結された別紙特許権目
録記載の各特許権(以下、同目録の項番に従って「本件特許権1」ないし「本
件特許権3」といい、これらを併せて「本件各特許権」という。)について通
常実施権を許諾する契約に基づき、令和6年1月から同年3月までの実施許諾
20 料合計600万円(以下「本件許諾料」という。)の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲括弧内の証拠(以下、書証
番号は特記しない限り枝番を含む。、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著である

ことにより容易に認められる事実)
(1) 当事者(甲1、弁論の全趣旨)
25 原告及び被告は、いずれも、フルボ酸の研究開発等を行う株式会社である。
(2) 「新事業提携契約及び特許専用実施権契約」の締結及びその内容
原告と被告は、令和4年12月29日、「新事業提携契約及び特許専用実
施権契約」(以下「本件契約」という。)を締結した。本件契約においては、
原告が、被告に対し、本件各特許権について通常実施権を許諾し、被告が、
原告に対し、その実施許諾料(本件許諾料)として月額200万円を支払う
5 ことが定められた。
なお、本件契約の契約書(甲2)においては、被告代表者個人名義の記名
押印しか存在しないが、本件契約が原告と被告との間で締結されたことは当
事者間に争いがない。
(3) 本件特許権2に係る専用実施権の設定
10 原告は、令和5年3月23日、本件特許権2を含めた三つの特許権(ただ
し、本件特許権1及び3は含まれない。)について、特許権者である株式会
社日本ソフケン(以下「日本ソフケン」という。)から、地域を日本全国、
期間を本特許権の存続期間中、内容を全部とする専用実施権の設定を受けた
(甲10、11)。
15 (4) 被告による本件契約の解除に至る経緯
ア 被告は、令和5年12月20日、原告に対し、本件特許権1及び3は、
原告が他の共有者からこれらの特許権に係る発明の実施について許諾を受
けている事実を確認できないため、被告においてもその発明の実施ができ
ない状況になっていると主張して、書面到達後1週間以内に他の共有者か
20 らの承諾書が提示されない場合は、債務不履行に基づき本件契約を解除す
る旨を記載した「催告兼解除通知書」を送付し、同書面は、同月29日に
原告に到達した(乙1)。
イ また、被告は、令和6年6月28日、原告に対し、本件特許権1及び3
に係る発明の「実施権を創設する義務」を履行するように求めるとともに、
25 書面到達後1週間以内に上記の義務を履行しない場合は本件契約を解除す
る旨を記載した「被告第1準備書面」を送付し、同書面は、同年7月4日
に原告に到達した(当裁判所に顕著な事実)。
ウ さらに、被告は、前記(2)のとおり、本件契約の契約書(甲2)には被
告代表者個人名義の記名押印しか存在せず、形式的には被告の記名押印が
存在しないこと等を踏まえ、令和6年8月8日、被告代表者との連名で、
5 原告及び原告代表者に対し、前記ア及びイと同趣旨の「催告兼解除通知書」
を送付し、同書面は、原告に対しては同月15日に、原告代表者に対して
は同月12日に、それぞれ到達した(乙13、14)。
(5) 本件訴訟に至る経緯(当裁判所に顕著な事実)
原告は、令和6年3月6日、東京簡易裁判所に対し、被告を債務者として
10 本件許諾料及び申立手続費用の支払を求める支払督促を申し立て、同月8日、
同旨の支払督促が発せられ、同月13日、同支払督促の正本が被告に送達さ
れた。
そうしたところ、被告が、同月19日、上記支払督促に対して異議を申し
立てたため、本件訴訟に移行した。
15 3 争点
本件契約の解除の成否
第3 争点に関する当事者の主張
(被告の主張)
1 特許権について実施権を許諾する権限を有しない者が、第三者に実施権を許
20 諾するような場合には、他人の権利を実施許諾の目的とした場合に該当するか
ら、同契約は当事者間では有効に成立しつつ、許諾者は、実施権者のために約
定の実施権を創設すべき義務を負うものと解される(民法559条、561
条)。
そして、本件特許権1及び3については、原告以外の第三者による共有にな
25 っており、かつ、原告は、それらの共有者から専用実施権の設定を受けるなど
しておらず、通常実施権を許諾する権限を有していない。そのため、原告は、
本件契約に基づき、被告に対し、これらの特許権についての通常実施権を創設
すべき義務を負うところ、同義務を履行していないから、原告には、本件契約
に係る債務不履行がある。
2 被告は、原告に対し、令和5年12月29日到達の「催告兼解除通知書」及
5 び同年7月4日到達の「被告第1準備書面」により、さらに、被告代表者との
連名で、原告及び原告代表者に対し、同年8月15日及び同月12日にそれぞ
れ到達の「催告兼解除通知書」により、前記2の義務の履行の催告及び本件契
約の解除の意思表示をした。
3 したがって、本件契約の解除により、被告は本件許諾料の支払義務を負わな
10 い。
(原告の主張)
被告は、原告において通常実施権を創設すべき義務があると主張するが、本
件契約の契約書にはそのような義務は記載されていない。さらに、本件各特許
権はいずれも被告の事業のために不必要な特許であり、原告が被告に対して別
15 の特許発明の実施を許諾していることや、本件契約の契約書では、本件各特許
権について、原告が「特許庁への登録保全が出来ない」ものであると明記され
ていること(同契約書7条)を踏まえると、原告が本件契約に基づき上記の義
務を負っていると解することはできない。
そして、原告は本件契約に定められた内容を遵守しており、何ら債務不履行
20 は存在しない。
したがって、本件契約の解除は認められない。
第4 当裁判所の判断
1 特許権者の同意を得ることなく他人に通常実施権を許諾した場合であっても、
契約締結後に特許権者から許諾を得ることは可能であるから、通常実施権を許
25 諾する権限を有しない者が第三者に通常実施権を許諾した場合であっても、契
約を締結した当事者間においてその契約の効力を直ちに否定する必要はない。
しかしながら、このような実施許諾契約は、他人の権利を目的とした契約と
いえるから、通常実施権を許諾する権限を有しないにもかかわらず、これを許
諾した者は、民法559条及び561条に基づき、通常実施権者のために通常
実施権を許諾する権限を取得すべき義務を負うものと解される。
5 2 本件においては、前提事実(2)のとおり、本件契約は、原告が、被告に対し、
本件各特許権について通常実施権を許諾することなどを約したものであるが、
証拠(乙11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許権1は国土防災技
術株式会社及び日本ソフケンの共有に係るものであり、本件特許権3は、両社
と日本ミクニヤ株式会社の共有に係るものであることが認められる。そうする
10 と、原告は、被告に対し、本件契約に基づく債務として、上記の共有者から被
告のために通常実施権を許諾する権限を取得すべき債務(以下「本件債務」と
いう。)を負っていたものと解される。
しかしながら、前提事実(3)のとおり、原告は、本件特許権2について、そ
の単独の特許権者である日本ソフケンから専用実施権の設定を受けているもの
15 の、弁論の全趣旨によれば、本件特許権1及び3については、上記の共有者か
ら被告のために通常実施権を設定する旨の許諾を得ていないものと認められる。
したがって、原告には本件債務の不履行があるといえる。
これに対し、原告は、①本件各特許権はいずれも被告の事業のために不必要
な特許であり、原告が被告に対して別の特許発明の実施を許諾していることや、
20 ②本件契約の契約書では、本件各特許権について、原告が「特許庁への登録保
全が出来ない」ものであると明記されていること(同契約書7条)から、原告
には債務不履行がないと主張する。
しかしながら、上記①については、本件全証拠によっても、本件各特許権は
いずれも被告の事業のために不必要な特許であり、原告が被告に対して別の特
25 許発明の実施を許諾しているという事実を認めることはできないから、原告の
主張はその前提を欠くものである。
また、上記②についても、本件契約は、原告が、被告に対し、本件各特許権
について通常実施権を許諾することを目的にした契約であること(前提事実
(2))からすると、原告の指摘する契約書の文言のみをもって本件債務の存在
を否定することはできないというべきである。
5 そうすると、原告の上記主張はいずれも採用できない。
3 そして、本件債務は期間の定めのない債務に該当するものと解されるところ、
前提事実(4)アのとおり、被告は、令和5年12月20日、原告に対し、書面
到達後1週間という期間を定めてその債務の履行を催告するとともに、その履
行がない場合は本件契約を解除する旨を記載した「催告兼解除通知書」を送付
10 して、この書面は、同月29日に原告に到達し、上記の催告期間は既に経過し
ている。
4 以上によれば、原告による本件契約に係る債務不履行、被告による相当の期
間を定めての履行の催告、その期間内に履行がされなかったこと及び解除の意
思表示という、催告による解除の要件(民法541条本文)が充たされている
15 から、本件契約の解除により、被告は本件許諾料の支払義務を負わないという
べきである。
第5 結論
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとお
り判決する。
20 東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
25 國 分 隆 文
裁判官
塚 田 久 美 子
裁判官
木 村 洋 一
(別紙)
特許権目録
1 特許番号 特許第5354633号
5 発明の名称 有機酸によって製造された腐植液を用いた無機質資材又は有機質
資材の機能増進および機能回復方法
出願日 平成25年1月28日
出願番号 特願2013-13799
登録日 平成25年9月6日
10 2 特許番号 特許第6331206号
発明の名称 フルボ酸溶液の良否評価方法及びフルボ酸溶液の製造方法
出願日 平成29年11月22日
出願番号 特願2017-224893
登録日 平成30年5月11日
15 3 特許番号 特許第6559621号
発明の名称 海草・藻類の再資源化方法
出願日 平成28年7月11日
出願番号 特願2016-136872
登録日 令和1年7月26日
20 以上

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (1月20日~1月26日)

1月22日(水) - 東京 港区

特許発明の書き方(化学)

1月22日(水) - 大阪 大阪市

つながる特許庁inKANSAI

1月24日(金) - 神奈川 川崎市

図書館で学ぶ知的財産講座 第3回

来週の知財セミナー (1月27日~2月2日)

1月28日(火) - 東京 港区

はじめての特許調査(Ⅰ)

1月29日(水) - 東京 港区

はじめての特許調査(Ⅱ)

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

特許業務法人 湘洋内外特許事務所

〒220-0004 横浜市西区北幸1-11-15 横浜STビル8階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

日本知財サービス 特許出願・商標登録事務所

〒106-6111 東京都港区六本木6丁目10番1号 六本木ヒルズ森タワー 11階 横浜駅前オフィス:  〒220-0004  神奈川県横浜市西区北幸1丁目11ー1 水信ビル 7階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

牛田特許商標事務所

東京都板橋区東新町1-50-1 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許