令和5(ワ)70219特許権侵害差止請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和6年10月10日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
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キーワード |
特許権13回 無効9回 進歩性6回 侵害5回 無効審判4回 差止3回 実施3回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
|
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判決文
令和 6 年 10 月 10 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和 5 年(ワ)第 70219 号 特許権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日 令和 6 年 7 月 30 日
判 決
5 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
10 第1 請求
被告は、別紙プログラム目録記載のプログラムの電気通信回線を通じた提供の申
出をしてはならない。
第2 事案の概要
1 本件は、発明の名称を「商取引システム、管理サーバおよびプログラム」とす
15 る特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)
を有する原告が、杭州菜鳥物流信息科技有限公司(以下「菜鳥」という。)及び淘宝
中国控股有限公司(以下「タオバオ」という。)が日本に対して電気通信回線を通じ
て提供し、又は将来的にタオバオが提供する可能性があり、かつ、被告が提供の申
出をしている別紙プログラム目録記載のプログラム(以下「本件プログラム」とい
20 う。)は、本件特許に係る発明の技術的範囲に属するから、被告の上記行為は本件特
許権を侵害する旨主張し、被告に対し、本件特許権に基づき、その提供の申出の差
止め(特許法 100 条 1 項)を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容
易に認められる事実)
25 (1) 当事者等
ア 原告は、物流やシステムに関するコンサルタント業等を行う株式会社である。
イ 被告は、中国の各種越境 EC プラットフォームに出店する日本企業向けに、
その業務の代行サービスを行う株式会社であり、タオバオ又は菜鳥の EC サイト「天
猫国際」における出店代行業務も行っている。
ウ タオバオは、
「天猫国際」を運営する中国法人であり、菜鳥は、本件プログラ
5 ムを提供する中国法人である。
(2) 本件発明及び本件特許権
原告は、以下の特許権(本件特許権)を有する(以下、本件特許の特許請求の範
囲請求項 8 に係る発明を「本件発明」といい、本件特許に係る明細書及び図面を「本
件明細書」という。また、「/」は改行部分を意味する。単語間にあるものを除き、
10 以下同じ。 。
)
特 許 番 号 特許第 6047679 号
出 願 日 平成 28 年 5 月 23 日
登 録 日 平成 28 年 11 月 25 日
発明の名称 商取引システム、管理サーバおよびプログラム
15 特許請求の範囲(【請求項 8】)
コンピュータに、/商品についての商品情報を含む登録要求を受信するステップ
と、/前記登録要求を通関認証装置に送信するステップと、/前記通関認証装置か
ら、前記商品についての、関税に関する情報を含む事前通関情報を取得するステッ
プと、/ユーザ端末と接続して電子商取引を実行する商取引装置に対し、当該商取
20 引装置が前記商品情報とともに前記事前通関情報を前記ユーザ端末からアクセスさ
れるサイトに掲載することができるように、前記事前通関情報を通知するステップ
と/を実行させるためのプログラム。
(3) 本件発明の構成要件の分説
A コンピュータに、
25 B 商品についての商品情報を含む登録要求を受信するステップと、
C 前記登録要求を通関認証装置に送信するステップと、
D 前記通関認証装置から、前記商品についての、関税に関する情報を含む事前
通関情報を取得するステップと、
E ユーザ端末と接続して電子商取引を実行する商取引装置に対し、当該商取引
装置が前記商品情報とともに前記事前通関情報を前記ユーザ端末からアクセスされ
5 るサイトに掲載することができるように、前記事前通関情報を通知するステップ と
F を実行させるためのプログラム。
3 争点
(1) 本件プログラムの構成及び構成要件充足性の有無(争点 1)
(2) 被告による本件プログラムの提供申出の有無(争点 2)
10 (3) 無効理由の有無(争点 3)
ア 本件発明の発明非該当性(争点 3-1)
イ 乙 4 発明を主引例とする進歩性欠如(争点 3-2)
ウ 乙 5 発明を主引例とする進歩性欠如(争点 3-3)
エ 原告の主張に基づく進歩性欠如(争点 3-4)
15 4 争点に関する当事者の主張
(1) 本件プログラムの構成及び構成要件充足の有無(争点 1)
(原告の主張)
ア 本件プログラムの構成
本件プログラムの構成は、別紙「本件プログラムの構成(原告の主張)」記載のと
20 おりである。
イ 構成要件 A の充足
本件プログラムの構成 a(「PC に」)は、本件発明の構成要件 A を充足する。
ウ 構成要件 B の充足
本件プログラムを利用する出品者は、本件プログラムを使用して税関に商品をそ
25 の販売前に登録する場合、商品の通関に必要な情報を入力し、税関等が許可すれば
商品登録が完了する。入力すべき商品情報には、商品の写真等のほか、関税の税率
の計算等に用いられる「HS CODE」と呼ばれるコードの情報も含まれる。このこと
から、本件プログラムは、構成 b(「税関の認証サーバに対して、販売しようとする
商品の商品名等の商品情報を含む商品登録の要求を受け付けるステップ」)を備え
ており、本件発明の構成要件 B を充足する。
5 エ 構成要件 C の充足
本件プログラムにおいては、上記のとおり、入力した情報を出品者が税関の認証
サーバに送信することとされているから、本件プログラムは、構成 c(「前記商品登
録要求を前記税関の認証サーバに送信するステップ」)を備えている。
また、「税関の認証サーバ」は、「通関認証装置」(構成要件 C)に該当する。
10 したがって、本件プログラムの構成 c は、本件発明の構成要件 C を充足する。
オ 構成要件 D の充足
本件プログラムにより出品者の入力した情報が送信されると、税関は、送信され
た商品情報の正否や、ポジティブリスト(輸入可能な商品を列挙したリスト)記載
の商品の HS CODE と商品情報が一致するかを審査する。審査の結果、税関の認証
15 サーバにおいて「登録完了」となると、本件プログラムは、その時点で、税関の認
証サーバから、商品情報と HS CODE とが関連付けられて税関の認証サーバに事前
に商品登録がされた旨の情報を受信する。
したがって、本件プログラムは、構成 d(「前記税関の認証サーバから、前記商品
についての、関税に関する情報を含む税関の認証サーバに商品登録された商品情報
20 を受信するステップ」(構成 d)を備える。
また、本件発明の「事前通関情報」(構成要件 D、E)とは、本件明細書の記載に
よれば、「通関認証サーバにて事前登録情報処理が行われたことを示す情報を含む
情報」を意味するものと理解される。
以上より、本件プログラムの構成 d は、本件発明の構成要件 D を充足する。
25 カ 構成要件 E の充足
本件プログラムは、税関の認証サーバに商品登録がされることで菜鳥より付与さ
れる共通商品 ID を入力することにより、同 ID に紐付けられた登録商品の情報(事
前に商品登録された商品情報や HS CODE 等の情報)を EC サイトのサーバへ送信
する。本件プログラムがこのような情報を EC サーバに送信するのは、これらの情
報を EC サイトに掲載できるようにするためである。
5 したがって、本件プログラムは、構成 e(「スマホ等のユーザの通信端末と接続し
て EC を実行する EC サーバに対し、前記商品の関税に関する情報を含む事前に商
品登録された商品の商品情報をスマホ等のユーザの通信端末からアクセスされる
EC サイトに掲載することができるように、前記税関の認証サーバに登録された商
品の商品情報及び当該商品の関税に関する情報を送信するステップ」)を備えてい
10 る。
また、「EC サーバ」は、「商取引装置」(構成要件 E)に該当する。
以上より、本件プログラムの構成 e は、本件発明の構成要件 E を充足する。
キ 小括
以上のとおり、本件プログラムの構成 a~e は、本件発明の構成要件 A~E を充足
15 することから、本件プログラムの構成 f(「を実行させるためのプログラム」)は、本
件発明の構成要件 F を充足する。
したがって、本件プログラムは、本件発明の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
ア 否認ないし争う。
20 イ 構成要件 A の非充足
本件プログラムは、コンピュータに搭載されるものではあるものの、ネットワー
ク上でデータやリソースを提供し、他のコンピュータ(クライアント)のリクエス
トに応答することが主な役割となるコンピュータであるサーバないしサーバ群を使
用する。すなわち、本件プログラムは、個人使用を目的とする単一・独立の情報機
25 器である「PC」を使用しない。したがって、本件プログラムは、本件発明の構成要
件 A を充足しない。
ウ 構成要件 B 及び C の非充足
(ア) 原告が主張する本件プログラムの「税関の認証サーバ」(構成 b、c)につい
て、本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書には記載がなく、その具体的機能に
関する記載もないため、本件プログラムが本件発明の構成要件 B 及び C を充足する
5 ことはない。
(イ) 「登録要求」(構成要件 B、C)とは、商品を EC サイトに掲載する前に行わ
れ通関を可とする認証を得るための登録要求であると解される。しかし、本件プロ
グラムにおいては、そのような登録ないし登録要求を行っていない。したがって、
本件プログラムは原告が主張する構成 b 及び c を備えていない。そうである以上、
10 本件プログラムは、本件発明の構成要件 B 及び C を充足しない。
なお、本件プログラムの構成 c につき、本件プログラムは、EC サイトでの商品掲
載及び管理のために、販売者から EC システムに送られた商品情報をシステム内の
装置等に送信するステップを有するものの、これは、公権力を有しない民間運営者
のシステム内部のステップであり、通関認証の手続とは異なる。
15 エ 構成要件 D 及び E の非充足
本件プログラムにおいては、「税関の認証サーバ」がなく、「登録」ないし「登録
要求」を行わないことから、本件プログラムは、「通関認証装置」(構成要件 D)を
有せず、 (構成要件 D、E)を取得することもない。したがって、本
「事前通関情報」
件プログラムは、本件発明の構成要件 D 及び E を充足しない。
20 また、本件プログラムには HS CODE の入力欄があり、出品者自身が自らこれを
入力するものとされている。EC サイトの画面上に表示される税額は予測されたも
のにすぎず、税関から HS CODE が返ってくるわけではない。
(2) 被告による本件プログラムの提供申出の有無(争点 2)
(原告の主張)
25 被告は、自社のウェブサイトにおいて、天猫国際への出店方法や出店のメリット
等を紹介し、日本企業の出展社を募集する営業活動を行っている。天猫国際に出店
するには、本件プログラムを使って商品を登録する必要があることから、被告のこ
のような営業活動は、本件プログラムの提供の申出を含むものといえる。したがっ
て、被告の行為は本件特許権を侵害する。
(被告の主張)
5 否認する。タオバオ及び菜鳥は本件プログラムを日本に提供しておらず、また、
被告は、天猫国際の営業活動を行っていない。加えて、菜鳥の運営するシステムな
いし本件プログラムを使用しなくとも、天猫国際への出店は可能である。
(3) 本件発明の発明非該当性(争点 3-1)
(被告の主張)
10 ア 「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをい
うところ(特許法 2 条 1 項)、単なる精神活動、数学上の公式、経済上の原則及び人
為的な取決めにとどまるもの等は、
「自然法則を利用した技術的思想の創作」とはい
えない。特許を受けようとする発明に何らかの技術的手段が提示されているとして
も、全体として考察した結果、その発明の本質が人為的な取決め等自体に向けられ
15 ている場合には、特許法上の「発明」に該当するとはいえない。
イ 商品の通関業務は人為的取決めそのものであるところ、本件発明は、人為的
取決めにおいて行われる情報の伝達をコンピュータとネットワークを通じて行うも
のに過ぎず、自然界の現象や秩序について成立する科学的法則(自然法則)を「利
用」することで技術的な問題を解決するものではない。
20 また、本件発明の課題及び効果は、通関処理の円滑な遂行及び商品購入時におけ
る通関の事実上の保証や関税率の把握にある。しかし、その課題は、越境 EC にお
ける通関処理についての人為的取決めに向けられたものであって、自然界の現象や
秩序について成立する科学的法則を利用することにより技術的課題を解決する具体
的な手段でもない。また、その効果は、本件発明に係るプログラムにより実現され
25 るコンピュータ(管理サーバ 300)だけでなく、 サーバ 200 や通関認証サーバ 400
EC
との協働によるものであり、コンピュータ自体は、「登録要求」や「事前通関情報」
といった人為的な取決めに基づく各種情報を各サーバ間で送受信するだけの伝達手
段(道具)に過ぎない。
ウ 以上のとおり、本件発明は、その本質が人為的な取決め自体に向けられたも
のであり、「発明」(特許法 2 条 1 項)に該当しない。そうである以上、本件特許は
5 特許法 29 条 1 項柱書に違反してされたものであって、特許無効審判により無効に
されるべきものであるから(同法 123 条 1 項 2 号)、原告は、被告に対し、本件特許
権を行使できない。
(原告の主張)
本件発明に係るプログラムは、単に利用者による情報インプットを処理して当該
10 利用者に伝達するものではなく、通知先を「前記商品情報とともに前記事前通関情
報を前記ユーザ端末からアクセスされるサイトに掲載することができるよう」 「商
な
取引装置」として構成するものである。同プログラムは、事前に通関認証を行う制
度もない状況下で、新たに管理サーバ、通関認証装置及び EC サーバからなるシス
テムを構築し、少なくとも、通関認証装置と協働する具体的手段又は手順を提供す
15 るものであり、ハードウェア資源を活用した演算・制御の処理によって、事前の通
関に関する認証やそれを踏まえた EC サイトへの掲載をシステム的にシームレスに
処理・実現することを特徴とする。また、本件発明は、通関認証装置への登録要求
や事前通関情報といった新規の情報の送受信を行うものであるから、本件発明の全
ステップが特有の情報の演算又は加工を実施するものといえる。
20 したがって、本件発明は、ソフトウェアによる情報処理がハードウェアを用いて
具体的に実現されており、人為的取り決めに向けられたものではないから、「発明」
に該当する。
(4) 乙 4 発明を主引例とする進歩性欠如(争点 3-2)
(被告の主張)
25 ア 特開 2001-142986 号公報(乙 4。以下「乙 4 文献」という。)には、以下の発
明(以下「乙 4 発明」という。)が記載されている。
A2 コンピュータを、電子取引を目的とする、異なる管轄区域特定の情報のリポ
ジトリとして機能する管轄区域データベース・サーバ 100 として動作させるプログ
ラムであって、該管轄区域データベース・サーバ 100 に、
B2 e コマース・クライアント 121 等と通信する e コマース・サーバ 111 等から、
5 購入者の管轄区域と製品コードを伴う情報要求を受信するステップと、
C2 製品コードが対応付けられた製品毎に、現地の法律の下で課される様々な種
類の税(関税を含む。)や製品コードが関連付けられた製品が e コマースによって販
売可能か否か等に関する情報を取得してデータベースに格納するステップと、
D2 e コマース・クライアントと接続して電子商取引を実行する各地 e コマース・
10 サーバに対し、例えば図 2 に例示された情報を e コマース・クライアントからアク
セスされるサイトに掲載することができるように、データベースに格納されている
情報を送信するステップと、
を実行させるプログラム。
イ 本件発明と乙 4 発明との対比
15 乙 4 発明の構成 A2~F2 は、本件発明の構成要件 A~F にそれぞれ相当する。
また、乙 4 発明の技術分野は電子商取引(EC)であり、特に地理的に分散する購
入者への販売に関する事業の運営を支援するコンピュータ分野であり、その課題の
一つは、EC における購入者の管轄区域に関する情報の欠如の問題を解決すること
である。この情報には、関税や通関の業務に関する情報が含まれる。また、乙 4 発
20 明の効果としては、購入された製品が購入者の管轄区域で禁止された場合や税率が
変更された場合でも、製品購入前に、最新の情報が e コマース小売業者及びサイト
を通じて提供されるため、通関業務の円滑化が期待される。
このように、本件発明は、その課題、構成及び効果において、乙 4 発明と相違す
るところがなく、通信相手となる装置や受け渡す情報の呼称に相違点があるとして
25 も、設計的事項に過ぎない。
ウ 小括
したがって、本件発明は、乙 4 発明に基づいて容易になし得た発明であり、本件
特許は、特許法 29 条 2 項に違反してされたものであって、特許無効審判により無効
にされるべきものであるから(同法 123 条 1 項 2 号)、原告は、被告に対し、本件特
許権を行使できない。
5 (原告の主張)
ア 乙 4 発明
乙 4 文献記載の乙 4 発明は、正しくは以下のとおりである。
A2’ e コマース・クライアントと接続して、第一の経済エリアの商品について電
子商取引を実行する e コマース・ウェブサーバと、管轄区域データベース・ポータ
10 ル・サーバとを有する商取引システムに係る管轄区域データベース・ポータル・サ
ーバに、
B2’ e コマース・クライアントが注文した製品について、当該 e コマース・クラ
イアントの管轄区域における関税の情報や当該区域において販売可能かどうかの情
報の取得要求を e コマース・サーバから受信するステップと、
15 D2’ 管轄区域のそれぞれから予め収集した前記の製品の販売に関する法的制約
や関税等の情報から、前記要求に対応する必要な情報を取得するステップと、
E2’ 前記取得した情報を、前記 e コマース・サーバが前記 e コマース・クライア
ントに提供できるように、前記 e コマース・サーバに送信するステップと、
F2’ を実行させるためのプログラム。
20 イ 本件発明と乙 4 発明の相違点
(ア) 相違点 2-1
本件発明は、商品についての商品情報を含む登録要求を受信するのに対して、乙
4 発明では、関税の情報や当該区域において販売可能かどうかの情報の取得要求を
受信するものの、何らかの登録を要求するものではない点。
25 (イ) 相違点 2-2
本件発明は、前記登録要求を通関認証装置に送信するステップを備えるのに対し
て、乙 4 発明はこれに相当する構成を備えていない点。
(ウ) 相違点 2-3
本件発明は、事前通関情報を取得するステップを備えるのに対して、乙 4 発明は
事前通関情報に相当する情報を取得するものではない点。
5 (エ) 相違点 2-4
本件発明は、当該商取引装置が前記商品情報とともに前記事前通関情報をサイト
に掲載することができるように、事前通関情報を商取引装置に通知するステップを
備えるのに対して、乙 4 発明では、取得した情報を、前記 e コマース・サーバが前
記 e コマース・クライアントに提供できるように、前記 e コマース・サーバに送信
10 するものの、事前通関情報に相当する情報を、商品情報とともにサイトに掲載する
ことができるように通知するものではない点。
ウ 本件発明の非容易想到性
本件発明は、EC サイトへの商品情報の掲載前に通関に関する認証処理がシステ
ム的に行われることで、商品の輸入の際の通関処理自体を迅速、簡易、確実にする
15 ものであって、通関認証装置の概念も本件発明によって着想されたものである。他
方、乙 4 発明は、EC サイトでの販売に当たり、通関の際に必要となる情報をクライ
アントに提供して補助するにとどまり、クライアントによる通関手続や税関による
通関処理自体は、システムとは無関係に事後的に行われるものである。このように、
本件発明と乙 4 発明は、技術的思想が根本的に異なるものであり、両者の相違点は
20 この技術的思想の違いが具体化したものであって、設計的事項ではない。したがっ
て、本件発明は、乙 4 発明に基づき、当業者が容易に想到できるものではない。
(5) 乙 5 発明を主引例とする進歩性欠如(争点 3-3)
(被告の主張)
ア 乙 5 発明
25 米国特許公開公報(US2002/0120527 A1。乙 5。以下「乙 5 文献」という。)には、
以下の発明(以下「乙 5 発明」という。)が記載されている。
A3 コンピュータを、見積マネージャ 314 を含む国際処理システム 120 として動
作させるコンピュータ実行命令すなわちプログラムであって、国際処理システム
120 に、
B3 フローコントローラ 102 を介して国際価格見積又は購入取引の要求を受信す
5 ると共に、商品データベース 32 から商品情報を取得するステップと、
C3 関税を含む商品の国際価格見積を行う関税見積システム 110 に対して、商品
が国際国境を超える前に国際価格見積又は購入取引の要求に対応する商品に関する
情報、例えば商品の説明、仕向け国及び現地通貨建ての商品価格を送信するステッ
プと、
10 D3 関税見積システム 110 から、関税等のほか商品の輸入制限(例えば禁止や必
要な許可)の特定に使用される情報を受信するステップと、
E3 顧客コンピュータ 20 と接続して電子商取引を実行する加盟店電子商取引シ
ステム(加盟店システム)18 に対し、当該加盟店システム 18 が、図 2、図 3 に例示
される情報を顧客コンピュータ 20 からアクセスされる HTTP(S)サイト(ウェブサ
15 イト)に掲載することができるように、商品情報と共に関税等のほか商品の輸入制
限(例えば禁止や必要な許可)の特定に使用される情報を送信するステップと、
F3 を実行させるプログラム。
イ 本件発明と乙 5 発明の対比
乙 5 発明の構成 A3~F3 は、本件発明の構成要件 A~F にそれぞれ相当する。
20 また、乙 5 発明の技術分野は、越境 EC モールの運営を支援するためのコンピュ
ータの分野であり、その課題の一つは、国境を超えた商品の購入を可能にする EC シ
ステムにおいて、購入者がその商品を購入した後に関税が請求されたり、販売不可
とされたりしたときの煩雑さを回避することにある。乙 5 発明の効果としては、そ
の商品が国境を超える前に、関税を含む関連情報が顧客に提供できるので、購入者
25 がその商品を受け取る前に関税が請求されたときの煩雑さが回避される。
このように、本件発明は、その課題、構成及び効果において、乙 5 発明と相違す
ることがなく、通信相手となる装置や受け渡す情報の呼称に相違点があるとしても、
設計的事項に過ぎない。
ウ 小括
したがって、本件発明は、乙 5 発明に基づいて容易になし得た発明であり、本件
5 特許は、特許法 29 条 2 項に違反してされたものであって、特許無効審判により無効
にされるべきものであるから、原告は、被告に対し、本件特許権を行使できない。
(原告の主張)
ア 本件発明と乙 5 発明との相違点
(ア) 相違点 3-1
10 本件発明は、商品についての商品情報を含む登録要求を受信するのに対して、乙
5 発明は何らかの登録を要求するものではない点。
(イ) 相違点 3-2
本件発明は、前記登録要求を通関認証装置に送信するステップを備えるのに対し
て、乙 5 発明はこれに相当する構成を備えていない点。
15 (ウ) 相違点 3-3
本件発明は、事前通関情報を取得するステップを備えるのに対して、乙 5 発明は
事前通関情報に相当する情報を取得するものではない点。
エ 本件発明の非容易想到性
本件発明と乙 5 発明の相違点は、本件発明と乙 4 発明の場合と同様に、両者の根
20 本的な技術的思想の違いが具体化したものである。したがって、これらの相違点は
設計的事項ではなく、本件発明は、乙 5 発明に基づき、当業者が容易に想到できる
ものではない。
(6) 原告の主張に基づく進歩性欠如(争点 3-4)
(被告の主張)
25 本件プログラムの内容は、乙 4 文献及び乙 5 文献に開示されている。このため、
本件プログラムが本件発明の技術的範囲に属するのであれば、本件発明は、乙 4 発
明及び乙 5 発明と実質的に同一の発明ということになる。そうすると、本件特許は、
特許法 29 条 2 項に違反してされたものであって、特許無効審判により無効にされ
るべきものであるから、原告は、被告に対し、本件特許権を行使できない。
(原告の主張)
5 本件プログラムの内容が乙 4 発明及び乙 5 発明と異なることは、本件発明と乙 4
発明及び乙 5 発明とに相違点があるのと同様である。
第3 当裁判所の判断
事案に鑑み、構成要件 D 及び E の充足性(争点 1)について、まず判断する。
1 本件明細書の記載等
10 本件明細書(甲 2)には、以下の記載がある。
(1) 技術分野
本発明は、経済圏を跨いだ物流を実現させるためのシステムに関する。 【0001】
( )
(2) 背景技術
近年、EC(E-commerce;電子商取引)サイトを利用して、国を跨いだ商取引事業
15 (いわゆる越境 EC)が注目されている。特許文献 1 では、個人輸入の偽装を防止し
て税関業務が円滑に進むようにするための物流情報システムが開示されている。同
システムにおいては、まずユーザからの要求に応じて EC サイトにて商品の購入が
確定すると、仲介業者端末にて検品や税率の計算が行われる。検品結果や税率の情
報はサーバに送信され、サーバにおいてユーザの管理や関税が加味された費用を支
20 払うための請求情報の生成が行われる。請求情報はユーザ端末および仲介業者端末
に送信される。仲介業者は、ユーザの支払いを確認すると、商品の発送および関税
の支払を代行する。 【0002】
( )
(3) 発明が解決しようとする課題
特許文献 1 のシステムにおいては、商品購入後に通関手続きが実行されるため、
25 例えば商品が税関に到着した際に通関条件を満たしていないことが事後的に判明す
る場合がある。この場合、税関側の業務が増え、物流が滞留する一因となる。すな
わち、特許文献 1 の技術において、通関業務に係るユーザ側の負担が軽減されるこ
とは期待されるものの、通関処理の円滑化という点では改善の余地があった。
(【0004】)
本発明は、通関処理を円滑化することを目的とする。 【0005】
( )
5 (4) 発明の効果
本発明によれば、通関処理の円滑化が実現する。 【0007】
( )
(5) 発明を実施するための形態
商取引システム 10 は、図 1 に示すように商品管理サーバ 100 と、EC サーバ 200
と、管理サーバ 300 と、通関認証サーバ 400 と、ユーザ端末 500 を含む。管理サー
10 バ 300 は、第 2 ネットワーク 802 を介して通関認証サーバ 400 と接続する一方、第
1 ネットワーク 801 を介して EC サーバ 200 および商品管理サーバ 100 と接続する。
(【0009】)
【図 1】
15 商取引システム 10 は、2 つの経済圏(国その他の地域であって、他の圏からの商
品の流入の際に通関処理が必要な圏)を跨いで商品を流通させるためのものである。
具体的には、ユーザ端末 500 を操作するユーザ(商品の購入者…)が、EC サーバ
200 によって構築される、X 国(例えば日本)内に設立された法人が運営するサイ
トを利用して商品を購入し、その商品を X 国内にある倉庫 901(例えば配送業者が
所有)から、A 国(例えば中国)内の配送先 904 へ商品を配送するためのものであ
る。この際、商品は A 国の税関 903 を経由することになる。 【0010】
( )
5 経由地 902 は、管理サーバ 300 と提携する配送業者の管理下にあり X 国の所定の
場所に設置される。…EC サーバ 200 のサイトで購入した全ての商品については、配
送先が A 国内である場合、管理サーバ 300 の指示の下、倉庫 901 から一旦経由地
902 へ配送される。/税関 903 は、A 国の税関あるいはこれに相当する物品の輸入
を管理する A 国当局によって管理され、A 国への物品の流入を管理する。具体的に
10 は、税関 903 は物品が A 国の基準に適合するか否かを検査するとともに、必要に応
じて所定の関税を徴収する。 【0012】
( )
ユーザ端末 500 は、EC サーバ 200 と接続して電子商取引を実行する。…ユーザ
端末 500 は、…情報処理装置であって、EC サーバ 200 にアクセスして EC サーバ
200 によって構築されるウェブサイトを表示し、ユーザによって入力された指示に
15 基づいて、商品の購入および配送の指示を EC サーバ 200 へ送信する機能を有する。
(【0013】)
商品管理サーバ 100 は、例えば、商品の製造メーカや商品の卸業者によって所有
され、EC サーバ 200 によって構築されるウェブサイト上で販売対象として掲載さ
れる商品についての情報を保有する装置である。 【0014】
( )
20 図 2 は、管理サーバ 300 の機能構成を示す。管理サーバ 300 は、EC サーバ 200 で
扱う商品について税関 903 における通関に関する登録処理(以下、事前通関処理と
いう)を支援する情報処理装置である。具体的には、管理サーバ 300 は、第 1 通信
部 310 と、データ処理部 320 と、第 2 通信部 330 と、記憶部 340 と、配送管理部 350
を含む。 【0015】
( )
【図 2】
第 1 通信部 310 は、受付部 311 と通知部 312 とを含む。受付部 311 は、商品情報
を含む登録要求を商品管理サーバ 100 から受信する。通知部 312 は、通関認証サー
5 バ 400 から取得した事前通関情報を EC サーバ 200 に通知する。事前通関情報には、
少なくとも、通関認証サーバ 400 にて事前登録処理が行われたことを示す情報を含
み、通関処理の結果(適合/不適合)、その商品に課せられる関税の率や額、関税を
計算するため情報(物品ごとに定められた区分を示す情報(HS コード)等)、その
他通関処理に関連する情報が含まれてもよい。 【0016】
( )
10 データ処理部 320 は、プロセッサとして実装され、翻訳処理部 321 とフォーマッ
ト変換部 322 と事前検品部 323 とを含み、管理サーバ 300 からの要求に基づいて通
関認証サーバ 400 に事前通関を依頼するために必要なデータを生成する。 【0017】
( )
事前検品部 323 は、商品管理サーバ 100 から取得した商品情報が、税関 903 が要
求する基準を満たしているかを判定する。例えば、税関 903 が自国内への流通を許
15 可する商品についての所定の特性に関する情報を要求している場合において、商品
管理サーバ 100 から受信した商品情報にそのような特性についての情報項目が存在
するか否かを確認する。基準を満たさないと判定した場合、フォーマット変換部 322
は通知部 312 を介して追加の情報を商品管理サーバ 100 へ要求する。なお、事前検
品部 323 は、情報項目の不足を判定することに加え、情報の内容(例えば商品のサ
20 イズ、重さ、特性、用途、性質等)が税関 903 の要求を満たすか否かを判定し、満
たさない場合は、通知部 312 を介して、税関 903 において不適合である(換言する
と、禁制品に該当する)旨を商品管理サーバ 100 に通知してもよい。 【0018】
( )
事前検品部 323 にて基準を満たすと判定された場合、翻訳処理部 321 は、必要に
応じて、X 国の公用語で記載されている商品情報を A 国の公用語に翻訳する。
5 (【0019】)
第 2 通信部 330 は、要求部 331 と、取得部 332 と関税処理部 333 とを含む。要求
部 331 は、事前通関依頼を通関認証サーバ 400 に送信する。加えて、要求部 331 は、
ECサーバ 200 から受信した受注情報を通関認証サーバ 400 に送信する。 取得部
/
332 は、商品管理サーバ 100 から受け付けた商品についての事前通関情報を通関認
10 証サーバ 400 から取得する。関税処理部 333 は、通関認証サーバ 400 からの要求に
応じて、税関 903 で処理された商品について、逐次または一括して、関税の支払い
処理を行う。 【0020】
( )
記憶部 340 はハードディスクや半導体メモリ等の記憶装置であって、 のほか、
OS
プロセッサによって実行されると上記の機能を管理サーバ 300 に実現させるための
15 プログラムを記憶する。通関認証サーバ 400 から受信した事前通関情報をその商品
情報に対応付けて記憶する。 【0021】
( )
図 3 は、通関認証サーバ 400 および税関端末 800 の機能構成を示す。通関認証サ
ーバ 400 は、通信部 410 と、依頼処理部 420 と、データベース 430 と、通信部 490
と、関税処理部 460 とを含み、管理サーバ 300 からの要求に応じて事前通関情報を
20 生成する。とともに、税関 903 からの要求に応じて税関に到着した商品をチェック
する。 【0023】
( )
【図 3】
通信部 410 は、受信部 411 および送信部 412 を含み、管理サーバ 300 との間で情
報の授受を行うための通信インタフェースとして実装される。加えて、通信部 410
5 は、管理サーバから受注情報を取得する。/受信部 411 は、データ処理部 320 で生
成された情報を内包する事前通関依頼を受信する。送信部 412 は、依頼処理部 420
にて生成された事前通関情報を管理サーバ 300 へ送信する。また、関税処理部 460
から供給された関税の支払要求を管理サーバ 300 へ送信する。 【0024】
( )
依頼処理部 420 は、適否判定部 421 および税率算出部 422 を含み、プロセッサと
10 して実装される。適否判定部 421 は、管理サーバ 300 からの要求に応じて、該要求
に内包された商品情報に基づいて事前通関情報を生成する。具体的には、税関端末
800 にアクセスして商品情報を送信し、その商品が税関 903 において通過を認めら
れている商品であるか否かを問い合わせ、問い合わせの結果をデータベース 430 に
記憶する。/適合した場合、税率算出部 422 は、データベース 430 に記憶された情
15 報を参照し、その商品の関税についての情報(税率や税額、あるいは関税を決定す
るために必要な情報(HS コード等の商品区分の情報))を、データベース 430 に記
憶されたデータベースを参照して決定する。そして、事前通関に適合した旨および
決定した関税を事前通関情報に内包させる。…なお、通関が不適合であると判定さ
れた場合、不適合を示す情報が事前通関情報に内包される。 【0025】
( )
20 データベース 430 は、ハードディスクや半導体メモリ等の記憶装置であって、通
関認証サーバ 400 を動作させるためのプログラムのほか、通関の適否を判定するた
めに必要な情報および関税の計算に必要な情報(例えば、税額と区分の対応テーブ
ル)が記憶される。加えて、データベース 430 には、依頼処理部 420 にて生成され
た事前通関情報が記憶される。/通信部 490 は、税関端末 800 と接続し、必要に応
5 じて、輸入の適否の判定に必要な情報や関税に計算に必要な情報を税関端末 800 か
ら取得する。 【0026】
( )
税関端末 800 は、税関当局によって運用されるコンピュータであって、税関職員
はこのコンピュータに記憶された情報に基づいて、税関 903 に到着した商品を処理
する。具体的には、商品識別部 450 が、税関 903 に到着した商品を特定する。商品
10 認識部 450 は、例えば、商品の包装に貼付された商品の ID を表すバーコードを読
み取る装置として実装される。通信部 820 は、通関識別サーバ 400 との間で情報の
授受を行う。 【0027】
( )
通関判定部 440 は、データベース 810 を参照し、その商品に対して事前通関処理
が行われているか否かを判定する。具体的には、到着した商品に合致する商品 ID を
15 有する事前通関情報が存在するかを確認し、存在する場合、当該商品 ID に対応する
受注情報を抽出し、EC サーバ 200 の ID が予め登録されたものであるかをチェック
する。加えて、購入者 ID をチェックする。例えば、税関 903 の規則上、同一の購入
者による A 国内への商品の持ち込みに制限が存在する場合、この制限に該当しない
かを確認する。上記のチェックを全てパスすると、通関処理が完了した旨が記憶さ
20 れるとともに、税関職員または税関 903 に設けられた自動搬送装置…によって仕分
けされて税関外に運ばれ、所定の配送業者によって所定の配送先へ届けられる。事
前通関処理が行われていなければ、通常の処理(検品、関税の区分や額の計算、配
送先への呼出し通知等)を行う。 【0028】
( )
関税処理部 460 は、データベース 430 を参照し、税関 903 でのチェックを受けた
25 旨を表す情報が存在するすべての商品について、関税を支払うよう、送信部 412 を
介して管理サーバ 300 へ要求する。 【0029】
( )
図 4 は EC サーバ 200 の機能構成を示す。EC サーバ 200 は EC(E-commerce)サ
イトを運営する事業者によって管理される。EC サーバ 200 は、取引実行部 210 と、
記憶部 220 と、通信部 230 と、…表示制御部 240 とを含む。 【0030】
( )
【図 4】
記憶部 220 は、ハードディスクや半導体メモリ等の記憶装置であって、OS のほか
プロセッサによって実行されると下記の機能を EC サーバ 200 に実現させるための
プログラムを記憶する。/EC サーバ 200 の機能を実現するためのプログラムのほ
か、ユーザ端末 500 から取得したユーザ情報(ログイン ID、パスワード、ユーザ識
10 別 ID、住所、氏名等、クレジットカード番号等の決済情報、その他 EC サイトを利
用するために予めユーザから取得した情報)、掲載している商品の在庫についての
情報、商品情報、管理サーバ 300 から受信した事前通関情報、商取引が成立した際
に EC サーバ 200 にて生成される受注情報が記憶される。 【0031】
( )
表示制御部 240 は、管理サーバ 300 から取得した商品情報と事前通関情報とに基
15 づいて、サイトに表示するコンテンツを作成する。 【0032】
( )
通信部 230 は、管理サーバ 300、ユーザ端末 500、倉庫 901、与信管理サーバ…と
の間で情報の授受を行うための通信インタフェースとして実装される。通信部 230
は、管理サーバ 300 から商品情報と事前通関情報とを受信する。また、通信部 230
は、表示制御部 240 にて生成されたコンテンツを、ユーザからの要求に応じてユー
ザ端末 500 に提供する。また、通信部 230 は、商品情報によって特定される商品を
税関 903 経由で流通させる旨の指示をユーザ端末 500 から受付ける。具体的には、
商品の購入およびユーザが指定する配送先への配送依頼をユーザ端末 500 から受け
付けると、取引実行部 210 へ供給する。また、通信部 230 は、購入処理部 212 にて
5 生成された受注情報を管理サーバ 300 へ送信する。 【0033】
( )
取引実行部 210 は、プロセッサとして実装され、商取引に関する情報を処理する。
取引実行部 210 は、決済処理部 211 と購入処理部 212 とを含む。決済処理部 211 は、
記憶部 220 を参照し、商品購入に係る決済処理を行う。具体的には、記憶部 220 に
記憶された情報を用いて図示せぬ決済サーバに接続し、代金(商品の費用、配送費
10 用、EC サーバ 200 や管理サーバ 300 に支払う手数料、および関税等)をユーザの口
座から引き落とす処理を行う。 【0034】
( )
購入処理部 212 は、ユーザ端末 500 や記憶部 220 から取得した情報に基づいて、
取引ごと(一つの購入商品ごと)に受注情報を生成する。 【0035】
( )
図 5 は、商取引システム 10 の動作例を示す。まず、商取引システム 10 を構成す
15 る各 EC サーバ 200 は、EC サーバ 200 の ID を管理サーバ 300 および通関認証サー
バ 400 を介して税関端末 800 へ送信し、予め税関端末 800 に EC サーバ 200 を登録
しておく。また、ユーザは予め EC サイトで会員登録を行っているものとする。
【0036】
商品管理サーバ 100 は、EC サーバ 200 に掲載したい商品の商品情報を管理サー
バ 300 へ送信する(S102)。管理サーバ 300 にて、商品情報のチェック(事前検品)
20 を行い、必要に応じて商品情報に対して翻訳処理やフォーマット変換を行って、通
関認証サーバ 400 に照会するためのデータを生成する(S104)。生成されたデータ
は、事前通関依頼に内包され通関認証サーバ 400 に送信される(S106)。通関認証サ
ーバ 400 は、事前通関依頼を受け取ると、必要に応じて税関端末 800 にアクセスし、
通関の適否や関税の計算を行って事前通関情報を生成する(S108) 生成された事前
。
25 通関情報は、データベース 430 に記憶されるとともに通関認証サーバ 400 から管理
サーバ 300 へ送信される(S110)。管理サーバ 300 は、通関認証サーバ 400 から事前
通関情報を受信すると、記憶部 340 に記憶するとともに(S112)、EC サーバ 200 へ
転送する(S114)。以上で事前通関処理が完了する。 【0037】
( )
【図 5】
5 EC サーバ 200 は、取得した商品情報に基づいてその商品についてのコンテンツ
を生成する(S116)。このコンテンツがユーザ端末 500 にて表示された例を図 6 に
示す。この例では、管理サーバ 300 から取得した商品情報から、商品 ID、商品名、
価格、商品詳細の情報が抽出されるとともに、この商品について管理サーバ 300 か
ら取得した関税率および事前通関が行われているか否かの情報が表示される。
10 (【0038】)
図 5 に戻り、ユーザ端末 500 から EC サーバ 200 にアクセスして図 6 のような画
面を確認したユーザは、商品の購入を決定すると、購入対象の商品の指定や配送先
の住所等の必要な情報を入力するなどの所定の操作を行う(S202) 入力された情報
。
は EC サーバ 200 に送信される(S204)。EC サーバ 200 は、入力された情報に基づ
15 いて受注情報を生成する(S206)。受注情報は、管理サーバ 300 へ送信されて税関端
末 800 に登録される(S208)。管理サーバ 300 は受注情報に基づいて発送に必要な
情報を発送端末 9011 へ送信する(S210)。以後、X 国内の所定の配送業者によって
商品が倉庫 901 から経由地 902 に配送され、管理端末 9021 および税関端末 800 に
いてチェック が行わ れ、最終的に 配送 先 904 へ商品が届 けられること になる 。
(【0039】)
上記実施例によれば、購入者や商品の受取人等が税関に出向いて通関手続きをす
る手間が省かれる。よって、税関にて物流が滞留することがなく、通関処理が円滑
に遂行する。また、商品購入時には、その商品が税関を通過することが事実上保証
5 されているので、商品が確実に到着するという安心感がユーザに与えられる。さら
に、ユーザは商品購入時に関税率を事前に把握することができるので、関税を考慮
して購入対象の商品を検討することができる。 【0040】
( )
本発明は、物品が税関当局を跨いで流通する商取引であればいかなる形態のもの
でも適用可能であり、取引商品の種類や金銭の授受を含む取引の形態については、
10 上記の例に限定されない。なお、税関とは、2 つの経済圏の間の物品の移動を監視
する機関であればよい。/管理サーバ 300 の機能を 2 以上の装置に分離して実装さ
せてもよい。/要するに、本発明の管理サーバは、商品についての商品情報を含む
登録要求を受信する受付手段と、前記登録要求を通関認証装置に送信する要求手段
と、前記通関認証装置から前記商品についての事前通関情報を取得する取得手段と、
15 前記事前通関情報を、ユーザ端末と接続して電子商取引を実行する商取引装置に通
知する通知手段とを有していればよい。 【0042】
( )
2 本件プログラムの内容
証拠(甲 7 のほか、各項に掲げたもの)及び弁論の全趣旨によれば、本件プログ
ラムによる商品登録(初回、逐次単一登録の場合)は、以下の手順により行われる。
20 (1) 出品者は、本件プログラムにログインした後に表示される以下の画面におい
て、「初回逐次単一登録」を選択する。
(2) 「初回逐次単一登録」を選択すると、出品者が出品する商品情報を入力する
10 ための画面が表示される。この商品情報入力画面において出品者が保税倉庫や共通
の商品 ID、主な通関のために必要な情報を入力すると、その後、以下のとおり、商
品の写真及び HS CODE の入力を促す画面が表示される。同画面の HS CODE の入
力部分は、HS CODE を自ら入力する欄と「システム推奨 HS CODE」を選択できる
チェックボックスとが設けられている。
15 HS CODE とは、
「商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約」
に基づいて定められた番号(品目コード)である。商品を輸出入する際、各商品は
いずれかの品目コードに分類され、その品目コードにより、原産地規則や関税率を
調べることができる。(甲 8 の 1)
(3) 出品者が全ての情報の入力を終えると、以下の画面が表示される。この画面
において提出を意味する「提交审核」のボタンを選択すると、入力された商品情報
が税関の認証サーバに送信され、自動的に審査に入る。税関の認証サーバにおいて
「登録完了」となると、その旨の情報を受信し、上記(1)の画面上の当該商品に係る
5 ステータス欄の記載が「登録完了」のステータス表示になる。
(4) 商品登録がされると、出品者が本件プログラムを操作することにより、以下
のとおり、共通商品 ID を入力するポップ画面(甲 9)が表示される。この ID は、
商品をその販売ページに連携させるために必要なものであり、これを入力すること
により、ユーザの通信端末と接続して EC を実行する EC サイトのサーバへ、当該
15 商品に関する情報が送信される。
3 本件プログラムの構成要件充足性
(1) 構成要件 D について
上記認定によれば、本件プログラムを実行した際に送信又は受信される情報のう
ち、関税に関する情報といえるものは、HS CODE のみである。もっとも、本件プロ
5 グラムにおいて、 CODE は、
HS 出品者が自ら入力し、 「システム推奨 HS CODE」
又は
を選択することとして、原則として出品者が入力すべき情報とされている。なお、
不明な場合はそのまま提出することも可能であるが、その場合、菜鳥が正しいコー
ドに修正することが可能であり、その際は菜鳥から指定された HS CODE を利用す
べきこととされている(甲 7)。
10 他方、本件プログラムを実行して入力した商品情報が認証サーバで審査されるこ
とにより、税関の認証サーバから「登録完了」というステータス情報を受信するこ
とは認められるものの、それ以外にいかなる情報を受信するかは必ずしも明らかで
なく、HS CODE その他関税に関する情報を受信することを認めるに足りる証拠は
ない。そのため、本件プログラムが受信する情報に「関税に関する情報」が含まれ
15 るとはいえないから、本件プログラムは、
「前記商品についての、関税に関する情報
を含む税関の認証サーバに商品登録された商品情報を受信するステップ」との(構
成 d)を有するとはいえない。
加えて、本件明細書【0016】の記載によれば、 (構成要件 D)
「関税に関する情報」
とは、
「その商品に課せられる関税の率や額、関税を計算するため[の]情報(物品
20 ごとに定められた区分を示す情報(HS コード)等)」を指すものと理解されるとこ
ろ、「登録完了」のステータス情報をもって、「出品者が入力した HS CODE を含む
商品に関する情報が登録されたとの情報」と理解するとしても、それ自体は「関税
に関する情報」とはいえない。
そうすると、本件プログラムは、本件発明の構成要件 D の「前記通関認証装置か
25 ら、前記商品についての、関税に関する情報を含む事前通関情報を取得するステッ
プ」を充足しない。これに反する原告の主張は採用できない。
(2) 構成要件 E について
「ユーザ端末と接続して電子商取引を実行する商取引装置」(構成要件 E)とは、
EC サイトのサーバ(EC サーバ)をいうものと理解される。前記 2(4)認定のとおり、
商品登録がされると、出品者が本件プログラムを操作して共通商品 ID を入力する
5 EC
ことにより、 サーバへ当該商品に関する情報が送信される。本件プログラムを実
行することによる商品情報の登録と天猫国際の EC サイトにおける商品ページの作
成が連携していることは、株式会社 ACD 代表者作成の陳述書(甲 21)からもうか
がわれる。
しかし、そもそも、本件プログラムは、税関の認証サーバから送信された関税に
10 関する情報を含む事前通関情報を取得するステップを実行させるものとはいえず
(前記(1)) 本件発明の構成要件 D を充足しない以上、
、 同構成要件で定義される「前
記事前通関情報」を通知するステップ」を実行させるものということもできない。
その点を措くとしても、本件プログラムが EC サーバに対し具体的にいかなる情報
を送信しているかは、証拠上必ずしも明らかでない。本件登録プログラムと連携す
15 る EC サーバの出品者側の画面のキャプチャ画像(甲 10) 天猫国際で商品を購入し
、
ようとする際の画面の遷移(甲 11)及び本件プログラムの連携する EC サーバの出
品者側の画面のキャプチャ画像(甲 12)は、いずれも、本件プログラムとは別のプ
ログラムを実行したものに過ぎず、これらをもって、本件プログラムが EC サーバ
に送信する情報が必ずしも明らかになるわけではない。天猫国際で販売されている
20 商品の価額が輸入税込みの金額で表示されていることを示すスクリーンショット
(甲 22 の 1 の 1、22 の 2 の 1、22 の 3 の 1、22 の 4 の 1、22 の 5 の 1、22 の 6 の
1、22 の 7 の 1、22 の 8 の 1、22 の 9 の 1、22 の 10 の 1)についても同様である。
したがって、本件プログラムは、
「電子商取引を実行する商取引装置に対し、…前
記事前通関情報を通知するステップ」を実行させるものとは認められないから、本
25 件発明の構成要件 E を充足しない。これに反する原告の主張は採用できない。
4 まとめ
以上によれば、本件プログラムの構成は、少なくとも本件発明の構成要件 D 及び
E を充足しないから、本件プログラムは本件発明の技術的範囲に属しない。
したがって、その余の点につき論ずるまでもなく、本件プログラムは、本件特許
5 権を侵害するものとはいえない。このため、原告は、被告に対し、本件特許権侵害
に基づく差止請求権を有しない。
第4 結論
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり
判決する。
10 東京地方裁判所民事第 47 部
裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
石 井 奈 沙
裁判官
志 摩 祐 介
別紙
当事者目録
原 告 株式会社 BWB
同訴訟代理人弁護士 溝 田 宗 司
清 水 節
渡 邉 佳 行
関 卓 人
佐 藤 貴 夫
同 補 佐 人 弁 理 士 太 田 健
被 告 アリババ株式会社
同訴訟代理人弁護士 山 﨑 順 一
江 嵜 宗 利
同 弁理士 鈴 木 正 剛
別紙
プログラム目録
「菜鸟网络商家工作台」という名称の中国へ商品を輸出する際に用いられる商品登
5 録用のプログラム
別紙
本件プログラムの構成(原告の主張)
a PC に、
5 b 税関の認証サーバに対して、販売しようとする商品の商品名等の商品情報を含
む商品登録の要求を受け付けるステップと、
c 前記商品登録要求を前記税関の認証サーバに送信するステップと、
d 前記税関の認証サーバから、前記商品についての、関税に関する情報を含む税
関の認証サーバに商品登録された商品情報を受信するステップと、
10 e スマホ等のユーザの通信端末と接続して EC を実行する EC サーバに対し、前記
商品の関税に関する情報を含む事前に商品登録された商品の商品情報をスマホ等の
ユーザの通信端末からアクセスされる EC サイトに掲載することができるように、
前記税関の認証サーバに登録された商品の商品情報及び当該商品の関税に関する 情
報を送信するステップと、
15 f を実行させるためのプログラム。
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