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令和5(ワ)70272特許権侵害排除等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和6年10月23日
事件種別 民事
対象物 親綱支柱用治具
法令 特許権
特許法102条2項2回
特許法100条1項1回
キーワード 侵害53回
特許権36回
差止10回
実施7回
進歩性3回
新規性3回
損害賠償2回
主文 1 原告は、第三者に対して、別紙被告製品目録記載1の製品の製造、使用、販
2 原告は、被告会社に対し、55万円及びこれに対する令和5年8月3日から
3 原告の本訴請求をいずれも棄却する。
4 被告会社のその余の反訴請求を棄却する。
5 訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを20分し、その17を原告の負担とし、10
6 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
事件の概要 1 事案の要旨 本訴事件は、発明の名称を「親綱支柱用治具」とする特許第6843385 号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」と いう。)の特許権者である原告が、別紙被告製品目録記載1の製品(以下「被5 告製品」という。)が、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」と いう。)の技術的範囲に属し、被告会社による被告製品の販売等が本件発明の 実施に該当すると主張して、被告会社に対し、特許法100条1項及び2項に 基づき、被告製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、被告らに対し、 民法709条又は会社法429条1項に基づき、損害金550万円(特許法110 02条2項により算定される額の損害500万円及び弁護士費用相当額の損害 50万円)及びこれに対する不法行為の日である令和4年12月1日から支払 済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事 案である。

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判決文

令和6年10月23日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和5年(ワ)第70272号 特許権侵害排除等請求事件(本訴)

令和5年(ワ)第70460号 損害賠償等請求反訴事件(反訴)

口頭弁論終結日 令和6年8月21日

判 決

原告(反訴被告) キョーワ株式会社

(以下「原告」という。)

同訴訟代理人弁護士 西 岡 祐 介

奥 苑 直 飛

今 村 憲

被告(反訴原告) 大嘉産業株式会社

(以下「被告会社」という。)

被 告 Ai

(以下「被告Ai」という。)

被 告 Bi

(以下「被告Bi」という。)

上記3名訴訟代理人弁護士 田 中 伸 一 郎

西 村 英 和

同訴訟代理人弁理士 倉 澤 伊 知 郎

上 潟 口 雅 裕

同訴訟復代理人弁護士 渡 邊 由 水

主 文

1 原告は、第三者に対して、別紙被告製品目録記載1の製品の製造、使用、販

売、貸与又は販売若しくは貸与の申出が特許第6843385号に係る特許権

5 を侵害する旨を告知し、又は流布してはならない。

2 原告は、被告会社に対し、55万円及びこれに対する令和5年8月3日から

支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。

3 原告の本訴請求をいずれも棄却する。

4 被告会社のその余の反訴請求を棄却する。

5 訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを20分し、その17を原告の負担とし、

その余を被告会社の負担とする。

6 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 本訴

(1) 被告会社は、別紙被告製品目録記載1の製品を製造し、販売し、貸与し、又は販売若しくは貸与を申し出てはならない。

(2) 被告会社は、その本店、営業所及び工場に存する前項の物件並びにその半製品(前項の物件の構造を具備しているが、製品として完成していないもの)を廃棄せよ。

(3) 被告らは、原告に対し、連帯して550万円及びこれに対する令和4年12月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。2 反訴

(1) 主文第1項と同旨

(2) 原告は、被告会社に対し、550万円及びこれに対する令和5年8月3日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等

1 事案の要旨本訴事件は、発明の名称を「親綱支柱用治具」とする特許第6843385号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」と

5 いう。)の特許権者である原告が、別紙被告製品目録記載1の製品(以下「被告製品」という。)が、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属し、被告会社による被告製品の販売等が本件発明の実施に該当すると主張して、被告会社に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、被告らに対し、民法709条又は会社法429条1項に基づき、損害金550万円(特許法102条2項により算定される額の損害500万円及び弁護士費用相当額の損害50万円)及びこれに対する不法行為の日である令和4年12月1日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。反訴事件は、被告会社が、原告が別紙投稿目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)を行ったことは、競争関係にある被告会社の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為であって、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号の不正競争行為に該当すると主張して、原告に対し、不競法3条1項に基づき、被告製品の販売等が本件特許権を侵害する旨の告知及び流布することの差止めを求めるとともに、同法4条に基づき、損害金550万円(無形損害500万円並びに弁護士及び弁理士費用相当額の損害50万円)及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和5年8月3日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 当事者原告は、建築及び土木資材等の製造販売並びにリース業務等を目的とする株式会社である。被告会社は、建設仮設資材の製造、販売、レンタル等を目的とする株式会

5 社であり、原告と被告会社は親綱支柱用治具の市場において、競争関係にある。被告Aiは、被告会社の代表取締役であり、被告Biは、被告会社の常務取締役である。

(2) 本件特許原告は、平成29年2月28日、本件特許に係る特許出願(特願2017-36482。以下「本件出願」という。)をし、令和3年2月26日、本件特許権の設定の登録(請求項の数4)を受けた(甲5。本件出願の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。また、明細書の発明の詳細な説明中の段落番号を【0001】などと、図を【図1】などと、それぞれ記載する。。)

(3) 本件特許の特許請求の範囲本件特許の特許請求の範囲のうち本件発明に係る請求項1の記載は、以下のとおりである(甲5)。「親綱支柱を固定するための治具であって、

第1の方向に伸びる矩形状の板と、

前記矩形状の板の前記第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部とを含み、前記矩形状の板の前記第1の方向の逆方向の端部に設けられ、上方向に伸びる上突起部と、をさらに含み、前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、前記治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長い、治具。」

(4) 構成要件の分説本件発明は、次の構成要件に分説することができる(以下、各構成要件につき、頭書の記号に従って「構成要件A」「構成要件B」などという。。、 )A 親綱支柱を固定するための治具であって、B 第1の方向に伸びる矩形状の板と、

5 C 前記矩形状の板の前記第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部とを含み、D 前記矩形状の板の前記第1の方向の逆方向の端部に設けられ、上方向に伸びる上突起部と、をさらに含み、E 前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、前記治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長い、治具。

(5) 被告会社の被告製品の販売等ア 被告会社は、令和4年12月1日以降、被告製品の販売及び貸与を行っている。イ 被告製品は、構成要件A、B及びDを充足する。

(6) 本件投稿ア 原告は、令和5年4月の初め頃、原告代表者のInstagramのアカウントにおいて、原告名義で本件投稿を行った(乙8、9、弁論の全趣旨)。イ 本件投稿は、原告が被告会社に警告書(甲8。被告製品が本件特許権を侵害する旨を内容とするもの。)を送付する前に行われたものである。3 争点(本訴に係る争点)

(1) 文言侵害の成否(争点1)ア 構成要件Cの充足性(争点1-1)イ 構成要件Eの充足性(争点1-2)

(2) 均等侵害の成否(争点2)

(3) 被告Ai及び被告Biが会社法429条1項に基づく責任を負うか(争点3)

(4) 特許権侵害に係る差止め及び廃棄の必要性(争点4)

(5) 特許権侵害に係る損害の発生及び額(争点5)

5 (反訴に係る争点)

(6) 不競法2条1項21号該当性(争点6)ア 本件投稿を行うことが「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」といえるか(争点6-1)イ 故意又は過失の有無(争点6-2)

(7) 不競法違反に係る差止めの必要性(争点7)

(8) 不競法違反に係る損害の発生及び額(争点8)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(文言侵害の成否)について

(1) 争点1-1(構成要件Cの充足性)について

(原告の主張)

ア 別紙原告作成図面目録記載1及び4の図面(以下、同目録の図面を、項番に従って「原告図面1」 「原告図面2」などという。、 )のとおり、被告製品は、一枚の板を原告図面1の赤点線部分に沿って垂直に折り曲げたものであるところ、一枚の板を折り曲げたからといって、板の定義から外れることはなく、原告図面4の赤線部分(以下「本件対象部分」という。)は一枚の板と評価することができ、被告製品の本質は、原告図面5のとおり、折り曲げられた一枚の板の一部(同図面の赤斜線部分)をくり抜いたものといえる。そうすると、本件対象部分が、本件発明における「矩形状の板」に該当し、その「端部」には「U字状に折り曲げられた折り曲げ部」が存在している。イ したがって、被告製品は、「前記矩形状の板の前記第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部とを含」んでいるから、構成要件Cを充足する。(被告らの主張)

5 ア 原告図面1ないし5は、あくまで原告の作成した模式図にすぎず、被告

製品の実際の形状等を示したものではない。被告製品の実際の形状等は、別紙被告図面目録記載1及び2の図面(以下「被告図面1」及び「被告図面2」という。)のとおりであって、被告製品のフック部(被告図面1及び2の右側に存在するU字状の部分のことを指す。以下同じ。)は、垂直方向において底板と接しておらず(被告図面1及び2の黄色部分参照)、このようなフック部も含めた全体を一つの板と解することなどできない。イ また、構成要件Cは「矩形状の板」であることを前提としており、「矩形」とは長方形を意味するが、本件対象部分が長方形でないことは明らかであり、このような全体の形状が「矩形状の板」に該当するともいえない。ウ いずれにせよ、被告製品が構成要件Cを満たさないことは明らかである。

(2) 争点1-2(構成要件Eの充足性)について

(原告の主張)

前記(1)

(原告の主張)

のとおり、本件対象部分は、被告製品における「矩形状の板」に該当し、そうだとすれば、原告図面4のエの長さが、「前記矩形状の板の第1の方向端部よりも逆方向の端部までの長さ」に相当することとなる。したがって、被告製品の「前記矩形状の板の第1の方向端部よりも逆方向の端部までの長さ」は「前記治具が取付けられる形鋼のフランジ幅より長い」といえるから、被告製品は構成要件Eを充足する。(被告らの主張)前記(1)(被告らの主張)のとおり、原告が「矩形状の板」であると主張する本件対象部分を一枚の板と解することはできないし、この部分は「矩形状」でもないから、

(原告の主張)

はその前提を欠いている。そして、被告製品には、100型(被告図面1)及び125型(被告図面

5 2)の二種類が存在するところ、いずれも底部の板の長さは100mmであ

り(被告図面1及び2の赤色部分参照)、取付対象の形鋼のフランジ幅より長くはない。したがって、被告製品は、「前記矩形状の板の第1の方向端部よりも逆方向の端部までの長さ」が「前記治具が取付けられる形鋼のフランジ幅より長い」とはいえないから、構成要件Eを充足しない。

2 争点2(均等侵害の成否)について

(原告の主張)

(1) 構成要件C及びEについての均等侵害

ア 第1要件(本件発明の構成中の被告製品と異なる部分が本質的部分でないこと)について(ア) 本件対象部分を一つの板と評価せず、被告製品の折り曲げ部が「矩形状の板」の端部ではなく、その側板に存在していると評価した場合、本件発明の構成と被告製品の構成は、以下の各部分で異なることになる(以下、これらの部分を「異なる部分1」及び「異なる部分2」という。。)(異なる部分1)本件発明は「前記矩形状の板の前記第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部(構成要件C)」を有するのに対し、被告製品は「側板の前記第1の方向の端部」で上記折り曲げ部を有する。(異なる部分2)本件発明は「前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、前記治具が取付けられる形鋼のフランジ幅より長い、治具(構成要件E)」であるのに対し、被告製品は「前記側板の前記第1の方向端部」より逆方向の端部までの長さがフランジ幅より長い。

5 (イ) 本件発明における従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する

特徴的部分は、①U字状に折り曲げられた折り曲げ部を有し、②その反対方向における長さをフランジ幅よりも長くしていることであり、これによって、一般に普及しているH鋼や支柱に使用することができるようになっている。これに関し、被告らは、本件発明の従来技術として本件出願の審査段階における拒絶理由通知書に「引用文献1」として掲記されている文献(乙17。実願昭58-43562号(実開昭59-148851号)のマイクロフィルム)に記載された発明(以下「乙17発明」という。)を指摘するが、乙17発明は、一般に普及していない特殊なH鋼に使用されるもので、取付部と支柱が一体となっているものであるから、本件発明との関係で従来技術であるとは評価できない。仮にこれを従来技術と評価するとしても、本件発明は、従来技術と比較して貢献の程度が大きい発明である、いわゆるパイオニア発明に該当する。以上によれば、本件発明の本質的部分の認定においては、本件特許の特許請求の範囲の一部を上位概念化することができ、具体的には、①U字状に折り曲げられた折り曲げ部を有しており、かつ、②その反対方向における長さをフランジ幅よりも長くしていることが、本件発明の本質的部分に該当する。(ウ) この点、被告製品は、原告図面4のとおり、①U字状に折り曲げられた折り曲げ部を有し、②折り曲げ部から反対方向における長さ(原告図面のエ)はフランジ幅より長くなっている。そうだとすれば、被告製品は、本件発明の本質的部分を共通に備えていると認められるから、異なる部分1及び2は、いずれも本件発明の本質的部分ではなく、均等の第1要件を充足する。イ 第2要件(置換可能性)について

5 異なる部分1及び2について、本件発明の構成要件C及びEを、「側板

の前記第1方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部」及び「前記側板の前記第1の方向端部より逆方向の端部まで逆方向の端部までの長さは、前記治具が取付けられる形鋼のフランジ幅より長い、治具」と置き換えたとしても(下線部は置き換えた部分を意味する。、本件発明と同様の効果を有するから、均等の第2要件を充足する。)ウ 第3要件(置換容易性)について前記イで主張した事情からすれば、本件発明の構成要件C及びEを前記イのとおり置き換えることは、本件発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に想到することができたものであるから、均等の第3要件を充足する。エ 第4要件(被告製品の容易推考性)及び第5要件(意識的除外等の特段の事情)について本件において、被告製品は、本件出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから本件出願時に容易に推考できたものではなく、また、被告製品が本件出願の手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない。したがって、均等の第4要件及び第5要件を充足する。

(2) 構成要件Bについての均等侵害

ア 本件対象部分を「矩形状の板」ではなく、「凹状の板」であると評価した場合、被告製品と本件発明との間では以下の部分で異なることになる(以下、この部分を「異なる部分3」という。。)(異なる部分3)本件発明は「第1の方向に伸びる矩形状の板(構成要件B)」を有するのに対し、被告製品は「第1の方向に伸びる凹状の板」を有する。なお、構成要件CないしEについても、同様に「矩形状の板」の部分が「凹状の

5 板」と異なることになる。

イ 前記(1)アのとおり、本件発明の本質的部分は、①U字状に折り曲げられた折り曲げ部を有し、②その反対方向における長さをフランジ幅よりも長くしていることであるところ、被告製品は、本件発明の本質的部分を共通に備えていると認められるから、異なる部分3は、本件発明の本質的部分ではなく、均等の第1要件を充足する。ウ そして、異なる部分3についても、均等の第2要件ないし第5要件を満たすことは、前記(1)イないしエのとおりである。

(3) 小括

前記(1)及び(2)のとおり、被告製品の構成の認定方法にかかわらず、被告製品は、均等の第1要件ないし第3要件を充足している上、本件において均等の第4要件及び第5要件を否定するような事情はないから、被告製品は、本件発明と均等なものとして、本件発明の技術的範囲に属する。(被告らの主張)

(1) 構成要件C及びEについての均等侵害

ア 第1要件(本件発明の構成中の被告製品と異なる部分が本質的部分でないこと)について(ア) 原告は、本件発明が、従来技術と比較して貢献の程度が大きい、いわゆるパイオニア発明に該当するから、本件特許の特許請求の範囲の一部を上位概念化することができるとした上で、構成要件C及びEを上位概念化した「①U字状に折り曲げられた折り曲げ部を有し、②その反対方向における長さをフランジ幅よりも長くしている」という構成が本件発明の本質的部分であると主張する。(イ) しかしながら、上記①については、乙17発明が備えている構成であり、構成要件Cの内容自体は、親綱支柱を固定するための治具についての新たな解決手段を開示するものではない。

5 また、原告は、本件出願において、乙17発明に基づく拒絶理由が通

知されたことから、構成要件D及びEを追加する補正を行い、特許査定を得ているが、補正によって追加された構成要件Eも、新たな解決手段を開示するものではない。したがって、本件発明を従来技術と比較して貢献の程度が大きい発明であるといえないことは明らかである。(ウ) この点、本件発明は、構成要件Cにおいて、「折り曲げ部」の剛性を作業者の落下時に生じる衝撃加重に抗うのに十分なものとするために、「矩形状の板」の端部全体に渡って折り曲げるものとした上で、乙17発明との差異を出すために構成要件Eを追加したものである。そうすると、本件発明においては、構成要件C及びEの構成が一体不可分となって、挟締金具を設置する手間などを不要とし、簡単に親綱支柱を設置する矩形状の板をフランジに固定し、フランジから親綱支柱が離れないようにするという、従来技術にはない機能を実現している。したがって、本件発明の一部を上位概念化して本質的部分を解釈することは許されず、本件発明の本質的部分とは、構成要件C及びEのことを指すと解するべきである。そして、被告製品は構成要件C及びEの構成をいずれも備えていないから、本件発明の本質的部分において異なっており、均等の第1要件を充足しない。イ 第2要件(置換可能性)について本件発明は、「矩形状の板の一方側の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に逆方向に折り曲げられた折り曲げ部」が矩形状の板の全幅にわたって、フランジと係合することによって、設置するのに手間がかからない親綱支柱取付治具を提供するものである。他方、被告製品は、矩形状の板の端部に存在する側板から延びるフック

5 部とフランジとを係合させることによって、製造が容易で、軽量で運びや

すい親綱支柱取付治具を提供するものである。したがって、本件発明と被告製品の作用効果は同一ではないから、均等の第2要件を満たさない。ウ 第3要件(置換容易性)について前記イのとおり、本件発明と被告製品の作用効果は同一ではなく、両者の異なる部分が設計上の微差などと呼べるようなものではないから、均等の第3要件を充足しない。エ 第5要件(意識的除外等の特段の事情)について本件発明の構成要件Eは、乙17発明等に基づく拒絶理由の通知後に行われた補正によって加えられた限定であり、その構成を備えない被告製品は、「特許請求の範囲から意識的に除外されたもの」であるから、均等の

第5要件を充足しない。

(2) 構成要件Bについての均等侵害

原告は、本件対象部分を「凹状の板」であると評価した上で、構成要件Bについての均等侵害を主張する。しかしながら、前記1(2)(被告らの主張)のとおり、被告製品のフック部も含めた全体を一つの「板」と解することはできないから、

(原告の主張)

は、その前提から誤っており、理由がない。

(3) 小括

以上のとおり、被告製品は、本件発明と均等なものとして、本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。

3 争点3(被告Ai及び被告Biが会社法429条1項に基づく責任を負うか)

(原告の主張)

被告Aiは被告会社の代表取締役、被告Biは同社の常務取締役であり、かつ、被告製品に係る特許出願において発明者と記載され、被告製品の販売等を

5 主導して行っており、被告会社と共同して本件特許権の侵害を行っている。

会社の取締役は、会社が第三者の特許権を侵害する行為に及ぶことを主導してはならず、また、他の取締役の業務執行を監視して、会社がそのような行為に及ぶことのないように注意すべき義務を負っているところ、被告Ai及び被告Biによる特許権侵害行為は、このような注意義務に違反するものである。また、被告Ai及び被告Biは、被告会社の行為が本件特許権を侵害するものであることを知りながら、被告会社による当該侵害行為を継続させていたのであるから、被告Ai及び被告Biに悪意があることは明らかである。したがって、被告Ai及び被告Biは会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負っている。(被告Ai及び被告Biの主張)被告製品の販売等が本件特許権を侵害するものではないことは、前記1及び2(被告らの主張)のとおりである。このことを措くとしても、原告は、被告会社が出願した特許の発明者として被告Ai及び被告Biが記載されていたこと以上の事実に関する主張立証をしていない。いずれにしても、被告Ai及び被告Biが会社法429条1項に基づく責任を負っているとはいえない。

4 争点4(特許権侵害に係る差止め及び廃棄の必要性)について

(原告の主張)

前記1ないし2

(原告の主張)

のとおり、被告製品の販売等は本件特許権を侵害するものであるから、本件においては、被告製品の販売等を差し止め、被告製品及びその半製品を廃棄する必要性がある。(被告会社の主張)否認ないし争う。

5 争点5(特許権侵害に係る損害の発生及び額)について

(原告の主張)

5 (1) 逸失利益(特許法102条2項により算定される額)

被告会社は、被告製品1個当たり3000円を下回らない金額で販売しており、その販売に直接関連して追加的に必要となった経費は2000円を上回らないと考えられ、そうすると、被告製品1個当たりの限界利益は1000円を下回らない。そして、金属製品を製造する場合の製造ロットは5000個を下回らないと考えられるから、本件における逸失利益(特許法102条2項により算定される額)は、500万円(1000円×5000個)となる。

(2) 弁護士費用相当額の損害

前記(1)の損害額等からすれば、本件で相当因果関係を有する弁護士費用相当額は50万円を下らない。

(3) 小括

以上によれば、原告には合計550万円の損害が発生している。(被告らの主張)否認ないし争う。

6 争点6(不競法2条1項21号該当性)について

(1) 争点6-1(本件投稿を行うことが「他人の営業上の信用を害する虚偽の

事実を告知し、又は流布する行為」といえるか)について(被告会社の主張)前記1及び2(被告らの主張)のとおり、被告製品は本件特許権を侵害するものではないところ、本件投稿では、被告製品の販売等が本件特許権を侵害する旨の記載がされているから、本件投稿は、「虚偽の事実を告知し、又は流布」するものである。そして、原告と被告会社は、親綱支柱取付治具の市場において競争関係にあり、また、親綱支柱取付治具として市場に流通している製品は、原告が本件発明を利用して製造、販売等する製品(以下「原告製品」という。)と被

5 告製品の二種類のみであることからすれば、原告や被告会社の取引先は、本

件投稿が被告会社又は被告製品を対象とするものであることを容易に理解することができる。したがって、本件投稿を行うことは、「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」であるといえる。

(原告の主張)

本件投稿は、原告代表者の個人的なアカウントを利用して投稿されたものであり、同アカウントで行われている投稿は、本件投稿を除き原告代表者の趣味の内容に関するものにすぎない。さらに、原告は、本件投稿を投稿してから約24時間で削除している上、本件投稿では、被告会社や被告製品についての直接的な言及はないこと、本件投稿に添付されている本件特許の特許証においては、特許番号、特許権者の住所又は氏名、出願番号等の情報が黒塗りにされていることなどからすれば、本件投稿の閲覧者において、本件投稿が被告会社又は被告製品を対象とするものであると読み取ることはできない。したがって、本件投稿を行うことが「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」であるとはいえない。

(2) 争点6-2(故意又は過失の有無)について

(被告会社の主張)本件投稿では均等侵害について言及されているから、原告は文言侵害が成立しないことを認識していたといえる。そして、均等侵害は例外的な場合に成立するにとどまるものにすぎず、原告もそのことを理解していたにもかかわらず、被告会社の反論等を確認することなく、本件投稿に及んでいる。したがって、原告には、不正競争行為について、故意又は過失がある。

(原告の主張)

原告製品と被告製品は、その形状が類似している上、被告は被告製品に関

5 する特許出願を行っているが、その出願の請求項の大部分について、新規性

又は進歩性を欠くという理由から、拒絶理由通知を受けている。さらに、原告は、本件投稿を行う前に、その顧問弁護士及び顧問弁理士から、被告製品が本件特許権を侵害する旨の見解を得ていた。そうだとすれば、原告には、不正競争行為について、故意又は過失があるとはいえない。

7 争点7(不競法違反に係る差止めの必要性)

(被告会社の主張)前記6(1)(被告会社の主張)のとおり、本件投稿を行うことは、「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」であるから、本件においては、被告製品の販売等が本件特許権を侵害する旨の告知又は流布することに係る差止めの必要性がある。

(原告の主張)

否認ないし争う。

8 争点8(不競法違反に係る損害の発生及び額)について

(被告会社の主張)

(1) 無形損害

本件投稿は、被告会社又は被告製品を強い表現でおとしめるものであり、刑事責任にも言及し、顧客を巻き込むことも示唆する脅迫的な文言を含んでいる。さらに、原告は、被告製品を排除し、原告製品の売上げを増加させる意図で本件投稿を行っており、現に、被告会社は、本件投稿を受けて、取引先や同業者から問合せを受けた上、被告製品に関する営業活動等を取りやめ、顧客からの見積依頼を断らざるを得なくなっている。そして、被告会社の親綱支柱用治具の売上げは、概ね年間3000万円程度であり、本件投稿による影響は1年程度継続することが見込まれることにも照らすと、原告の不正競争行為によって被告会社に生じた無形損害は50

5 0万円を下回ることはない。

(2) 弁護士及び弁理士費用相当額の損害

被告会社は、原告からの警告状に対し、回答期間の猶予を依頼し、その猶予期間内に回答をしたにもかかわらず、原告は、そのような被告会社の回答より前に、本件訴訟を提起しており、それによって、被告会社は、本訴への対応に加えて、反訴提起を余儀なくされたものである。そうすると、原告による不正競争行為と相当因果関係のある弁護士及び弁理士費用相当額は50万円を下回ることはない。

(3) 小括

以上によれば、原告の不正競争行為により、被告会社には合計550万円の損害が発生している。

(原告の主張)

(1) 無形損害

被告会社が無形損害の根拠として提出している証拠は、被告Aiの陳述書のみであり、この陳述書の内容を裏付ける客観的証拠は存在しない。さらに、上記陳述書に記載されているのは、主に被告Aiが顧客から「原告が被告会社に対して訴訟提起すること」を聞いたということであって、このような記載をもって、本件投稿の内容について、取引先等から問合せを受けていたとはいえない。そうすると、本件投稿によって、被告会社に無形損害が生じたとはいえない。

(2) 弁護士及び弁理士費用

前記(1)のとおり、被告会社は本件投稿によって何らの損害を被っていないから、原告の不正競争行為と相当因果関係のある弁護士及び弁理士費用を観念することはできない。

(3) 小括

5 以上によれば、原告の不正競争行為によって被告会社に損害が発生してい

るとはいえない。

第4 当裁判所の判断

1 本件明細書の記載事項等

(1) 本件明細書(甲5)の「発明の詳細な説明」には、以下の記載がある(下記記載中に引用する図面については、別紙本件明細書図面目録参照)。ア 【技術分野】【0001】この発明は親綱支柱用治具に関し、特に、形鋼に親綱支持用の親綱支柱を取り付けるための親綱支柱用治具に関する。イ 【背景技術】【0002】従来、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置する場合は、次のように行われていた。すなわち、図4(A)に示すように、フランジ幅の狭い梁101のフランジ101aに親綱支柱110の取付部ボルト110aを奥まで挿入できる厚板プレート102を挟締金具103を以て固定し、フランジ幅の狭い梁101と厚板プレート102とを一体化して親綱支柱110を設置していた。…【0004】また、図5は、他の方法を示す図4(A)に対応する側面図であり、ここでは、親綱支柱110がフランジ幅の狭い梁104から作業者の墜落時の衝撃荷重が生じたとき、親綱支柱110が水平方向に離脱しないように、親綱支柱110の設置側と反対方向より引張金具105にて引っ張ることによって、フランジ幅の狭い梁104と親綱支柱110とが離れないように固定されるように安全対策を講じていた。なお、親綱支柱は、例えば特開平8-270207号公報に開示されている。

5 ウ 【発明が解決しようとする課題】【0006】従来のフランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置する場合は、上記のように行われていた。しかしながら、従来の方法では、挟締金具での厚板プレートの固定や、反対方向に引っ張る金具等の設置に手間がかかるという問題があった。【0007】この発明は上記のような問題点に鑑みてなされたもので、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない、親綱支柱取付治具を提供することを目的とする。エ 【課題を解決するための手段】【0008】この発明に係る、親綱支柱を固定するための治具は、親綱支柱を固定するための治具であって、第1の方向に伸びる矩形状の板と、矩形状の板の第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部と、を含む。【0009】好ましくは、矩形状の板の第1の方向の逆方向の端部に設けられ、上方向に伸びる上突起部をさらに含む。オ 【発明の効果】【0013】この発明に係る親綱支柱用治具は、矩形状の板の一方側の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に逆方向に折り曲げられた折り曲げ部を有するため、U字状の折り曲げ部を幅の狭いフランジ部に係合した状態で、親綱支柱の取付具を位置決めして固定できる。【0014】

5 その結果、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない、親綱支柱取付治具を提供できる。カ 【発明を実施するための形態】【0017】図1(A)~(E)を参照して、親綱支柱用治具10は、図1(A)において、右方向(第1の方向)に伸びる矩形状の板11と、矩形状の板11の左方向の端部下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部12と矩形状の板11の右方向の端部に設けられ、上方向に伸びる上突起部13とを含む。上突起部13の裏面にも、逆方向に設けられた下突起部15を設けてもよい。…【0021】次に、この親綱支柱用治具10の使用方法について説明する。図2は、この親綱支柱用治具10の使用方法を示す図である。図2(A)~(B)は親綱支柱用治具10を適用される梁に使用するH形鋼材のフランジに取付ける状態を示し、図2(C)は親綱支柱用治具10をH形鋼材のフランジに取付けた後に、親綱支柱を取り付ける状態を示す図であり、図2(D)は図2(C)において、矢印IID-IIDで示す部分の矢視図(平面図)である。…

(2) 前記(1)の記載事項によれば、本件明細書には、本件発明に関し、以下のとおりの開示があると認められる。ア 従来、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置する場合には、親綱支柱の取付用ボルトを奥まで挿入できる厚板プレートを挟締金具で固定をし、梁と厚板プレートを一体化する形で行っており、また、作業者の墜落時の衝撃荷重が生じたとき、親綱支柱が水平方向に離脱しないように、親綱支柱の設置側と反対方向より引張金具にて引っ張ることによって、梁と親綱支柱とが離れないように固定する安全策を講じていたが、これらの方

5 法では、挟締金具での厚板プレートの固定や、反対方向に引っ張る金具等の設置に手間がかかるという問題があった(【0002】 【0004】及、び【0006】。)イ 本件発明は、前記アの問題点を解決するため、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない、親綱支柱取付治具を提供することを目的として、第1の方向に伸びる矩形状の板と、矩形状の板の

第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り

曲げ部を含む構成を採用したものである(【0007】ないし【0009】。)このような構成を採用することで、U字状の折り曲げ部を幅の狭いフランジ部に係合した状態で、親綱支柱の取付具を位置決めして固定でき、その結果、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない親綱支柱取付治具を提供できるとの効果を奏する(【0013】及び【0014】。)

2 争点1(文言侵害の成否)について(1) 争点1-1(構成要件Cの充足性)についてア 構成要件Cの解釈本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「親綱支柱を固定するための治具であって、 (構成要件A) 「第1の方向に伸びる矩形状の板と、」 、 」(構成要件B)及び「前記矩形状の板の前記第1の方向の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部とを含み、 (構成要件」C)との記載がある。これらの記載によれば、本件発明の「治具」は、「矩形状の板」と「折り曲げ部」という構成を含んでいること、「矩形状の板」は、「第1の方向に伸び」ていること、「折り曲げ部」は、「矩形状の板の」「第1の方向の端部」でU字状に折り曲げられたものであることを理解できる。

5 また、本件明細書においては、上記の特許請求の範囲の記載に対応する記載(【0008】)のほか、本件発明の親綱支柱用治具がその効果を奏するための構成として、「矩形状の板の一方側の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に逆方向に折り曲げられた折り曲げ部を有する」との記載(【0013】)がある上、本件発明を実施するための形態として、「図1(A)において、矩形状の板11の左方向の端部下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部12」との記載(【0017】)があり、この実施形態が【図1】に示されている。これらの記載及び図面から、「折り曲げ部」は、「矩形状の板」の端部となる箇所でU字状に折り曲げられることで形成されたものであると理解できる。そして、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書において、「矩形状の板」を定義する記載はないものの、証拠(乙11ないし16)によれば、「矩形」の通常の語義について、「直角四辺形」ないし「長方形」を意味するものと認められる。そうすると、本件発明における「矩形状の板」は、直角四辺形ないし長方形のような形をした板であると理解できる。以上によれば、本件発明の「矩形状の板」は、直角四辺形ないし長方形のような形をした板であり、同「折り曲げ部」は、「矩形状の板」がその「端部」となる箇所でU字状に折り曲げられることで形成されたものであって、「矩形状の板」の「端部」と連続するものと解するのが相当である。イ 被告製品の構成及びあてはめ証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、別紙被告製品目録記載2及び別紙被告図面目録記載1及び2のとおり、被告製品は、長方形の底板とその上面の両短辺に沿って存在する側板及びフック部を備えていること、フック部は、側板の端部に存在しており、長方形の底板とは接していないことが認められる。そうすると、被告製品のフック部は、側板の端部と連続するものであっ

5 て、本件発明の「矩形状の板」に相当する長方形の底板の端部と連続するものではないから、本件発明の「折り曲げ部」に該当しないというべきである。したがって、被告製品は、本件発明の「折り曲げ部」の構成を備えないから、構成要件Cを充足するとは認められない。ウ 原告の主張について原告は、本件対象部分が、本件発明における「矩形状の板」に該当し、その「端部」には「U字状に折り曲げられた折り曲げ部」が存在しているから、被告製品は構成要件Cを充足すると主張する。しかしながら、前記アのとおり、本件発明の「矩形状の板」は、直角四辺形ないし長方形のような形をした板を意味するものと解すべきところ、本件対象部分は、その形状からして直角四辺形ないし長方形のような形であるとはいうことはできない。また、前記イのとおり、被告製品のフック部は、垂直方向において、その長方形の底板とは接しておらず、本件対象部分の端部と連続する部分が下方に折り曲げられて形成されたものではないから、原告が原告図面5に基づいて主張するように、折り曲げられた一枚の板が赤斜線部分において繰り抜かれたものと評価することはできない上、そもそも、折り曲げられて立体状になったもの全体を一枚の板と認めることはできないというべきである。したがって、原告の上記主張は、その前提を欠くものであって採用できない。(2) 争点1-2(構成要件Eの充足性)についてア 構成要件Eの解釈本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「親綱支柱を固定するための治具」(構成要件A) 「第1の方向に伸びる矩形状の板」、 (構成要件B)、

5 「前記矩形状の板の前記第1の方向の端部」(構成要件C) 「前記矩形状、の板の前記第1の方向の逆方向の端部」(構成要件D)及び「前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、前記治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長い、治具」(構成要件E)との記載がある。これらの記載から、本件発明に係る「治具」が「形鋼のフランジ」に「取付けられる」こと、「治具」が備える「矩形状の板」は、「第1の方向に伸び」ており、「第1の方向の端部」と「第1の方向の逆方向の端部」という対向する二組の端部を有していること、「第1の方向端部より逆方向の端部までの長さ」が「形鋼のフランジの幅」より長いことを理解できる。しかしながら、前記(1)アのとおり、「矩形状の板」が直角四辺形ないし長方形のような形の板を意味することから、「矩形状の板」には、対向する平行な二辺に係る端部が二組存在し、「第1の方向端部より逆方向の端部までの長さ」がいずれの組の端部の間の長さを意味するのかは、明らかではない。この点に関し、本件明細書においては、本件発明の効果に関し、「この発明に係る親綱支柱用治具は、矩形状の板の一方側の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に逆方向に折り曲げられた折り曲げ部を有するため、U字状の折り曲げ部を幅の狭いフランジ部に係合した状態で、親綱支柱の取付具を位置決めして固定できる。」との記載(【0013】)があり、本件発明を実施するための形態に関し、「親綱支柱用治具10は、図1(A)において、右方向(第1の方向)に伸びる矩形状の板11と、矩形状の板11の左方向の端部下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部12と矩形状の板11の右方向の端部に設けられ…」との記載(【0017】)及び「図2は、この親綱支柱用治具10の使用方法を示す図である。図2(A)~(B)は親綱支柱用治具10を適用される梁に使用するH形鋼材のフランジに取付ける状態を示し…」との記

5 載(【0021】)があり、それらの各実施形態が【図1】及び【図2】に示されている。これらの記載及び図面から、「矩形状の板」の「第1の方向」の「端部」とは、U字状の折り曲げ部が係合されるH形鋼材のフランジ部の辺と平行な辺に係る端部を意味するものと理解できる。そうすると、構成要件Eの「矩形状の板」の「第1の方向端部」と「逆方向の端部」は、「形鋼のフランジ」に「治具」が取り付けられる際に、「形鋼のフランジ」の辺と平行になる二辺に係る端部を意味し、同「前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さ」とは、これらの端部の間の長さを意味するものと解される。イ 被告製品の構成及びあてはめ前記(1)で検討したとおり、本件発明の「矩形状の板」に該当するのは、被告製品の底板である。そして、証拠(甲7、乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、①被告製品の底板の辺に係る端部のうち被告製品が取り付けられる形鋼のフランジの辺に平行な二辺に係る端部の間の長さは100mmであること及び②被告製品が取り付けられる形鋼のフランジの幅は100mm又は125mmであることが認められる。したがって、被告製品の「前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さ(上記①)」が「前記治具が取付けられる形鋼のフランジの幅(上記②)より長い」とはいえないから、被告製品が構成要件Eを充足するとは認められない。ウ 原告の主張について原告は、本件対象部分が被告製品における「矩形状の板」に該当することを前提に、原告図面4のエの長さが、「前記矩形状の板の第1の方向端部よりも逆方向の端部までの長さ」に相当すると主張する。しかしながら、前記(1)ウのとおり、そもそも本件対象部分が本件発明

5 における「矩形状の板」であるとは認められないから、原告図面4のエの長さが、「前記矩形状の板の第1の方向端部よりも逆方向の端部までの長さ」に相当すると解することもできない。したがって、原告の上記主張は採用できない。

(3) 小括以上のとおり、被告製品は構成要件C及びEを充足するとは認められないから、文言侵害は成立しない。

3 争点2(均等侵害の成否)について(1) 本件で問題となる均等侵害の主張について原告は、①被告製品のフック部(折り曲げ部)が「矩形状の板」ではなく側板の端部に設けられていると認められることを前提にした構成要件C及びEについての均等侵害並びに②本件対象部分が「矩形状の板」ではなく「凹状の板」であると認められることを前提にした構成要件Bについての均等侵害という二つの主張をする。これらのうち上記②の主張については、前記2(1)ウのとおり、そもそも本件対象部分が「一枚の板」であるとはいえないから、それを「凹状の板」と認めることはできない。したがって、同主張は、その前提を欠いており採用できない。そこで、以下、上記①の主張に係る均等侵害の成否について、検討する。(2) 均等侵害の成立要件特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、①同部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件)、②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって(第2要件)、③上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者

5 (当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件)、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件)、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第5要件)は、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。(3) 第1要件(本件発明の構成中の被告製品と異なる部分が本質的部分でないこと)についてア 本質的部分の認定について

第1要件にいう特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許

請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきであり、上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち、特許発明の実質的価値は、その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり、そして、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化したものとして認定され、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のも

5 のとして認定されるものと解される。ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。そのような場合には、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載のみから認定される場合に比べ、より特許請求の範囲の記載に近接したものとなり、均等が認められる範囲がより狭いものとなると解される。イ 乙17発明について(ア) 昭和59年10月4日に公開された公開実用新案公報(乙17)(以下「乙17文献」という。)には、以下の記載がある(下記の記載中に引用する図面については、別紙乙17文献図面目録参照。。)「1.考案の名称命綱取付装置2.実用新案登録請求の範囲下面一側から下方へ垂下片を突設するとともに、上面他側から側方へ水平片を突設した梁へ取付ける命綱取付装置であって、鉛直方向へ延びる本体下部にU字形フック部を設けるとともに上部に命綱取付穴を設けそのU字形フック部を前記垂下片へ係合して本体下部側面を前記梁の一側面に沿わせることにより本体上部を前記梁の上方へ突出配置した命綱支持具と、略L字状本体の横片先端を下方へ折返してコ字形フック部を形成したものでそのコ字形フック部を前記水平片へ係合して横片を前記梁の上面に載置した状態で縦片を前記命綱支持具の本体側面に対接固定した連結具とを備えた命綱取付装置。3.考案の詳細な説明

5 〔技術分野〕この考案は、高所での建築作業を命綱を用いて安全に行なう場合に使用する命綱取付装置に関するものである。〔背景技術〕従来より、高所での建築作業を安全に行なうために命綱を用いることが提案されている。ところが、建物外周壁上部の作業を行なう場合は、建物外周壁上部に沿って命綱を取付けることが困難であり、特に、建物入隅部への取付けはほとんど不可能に近かった。〔考案の目的〕この考案の目的は、命綱を建物外周壁上部に沿った任意位置へ簡単に取付けることができる命綱取付装置を提供することである。〔考案の開示〕この考案の命綱取付装置は、下面一側から下方へ垂下片を突設するとともに上面他側から側方へ水平片を突設した梁へ取付けるものであって、本体下部にU字形フック部を有するとともに本体上部に命綱取付穴を有する命綱支持具の、そのU字形フック部を上記垂下片へ係合して本体下部側面を梁の一側面に沿わせることにより本体上部を梁の上方へ突出配置し、略L字形本体の横片先端を下方へ折返してコ字形フック部を形成した連結具の、そのコ字形フック部を上記水平片へ係合して横片を梁の上面に載置した状態で、縦片を命綱支持具の本体側面に対接固定したものである。このように構成した結果、命綱支持具を梁の長手方向に沿った任意位置に配置して、命綱を建物外周壁上部に沿った任意位置へ簡単に取付けできる。この考案の一実施例を第1図ないし第4図を用いて説明する。すなわち、この命綱取付装置は、第1図に示す命綱支持具1と連結具2とで構成し屋根梁3へ取付可能である。

5 詳説すると、命綱支持具1は、第3.4図に示すように、アングルで構成した本体4の一片4а下端にU字形金具5を溶接固定して、そのU字形金具5の溝奥にゴムパッキン6を取付ける。また、一片4aの略中央高さにボルト挿通穴7を穿孔し、本体4の他片4b上部に命綱取付穴8を穿孔する。連結具2は、L字形金具本体の横片2a先端を下方へ折返してコ字形フック部2bを形成し、縦片2cに上記ボルト挿通穴7に対応したボルト挿通穴2dを形成し、コ字形フック部2bの溝奥にゴムパッキン2eを取付ける。この命綱取付装置の屋根梁3への取付けはつぎのようにして行なう。…その後、連結具2の横片2aを屋根梁3の上面に載せてコ字形フック部2bを屋根梁3の屋内側水平片3bの屋内側に対向配置し、そのまま連結具2を屋外側へ水平移動させて、コ字形フック部2bを屋内側水平片3bに係合するとともに、縦片2cを本体4の側面に対接する。この状態で第4図に示すように、連結具2のボルト挿通穴2dが命綱支持具1のボルト挿通穴7に一致する。そこで、第3図に示すボルト11を両ボルト挿通穴7.2dに通してナット12を締結することにより、連結具2を命綱支持具1へ連結する。こうして、U字形金具5と連結具2とで、命綱支持具1を屋根梁3へ取付ける。…このように、命綱支持具1を、U字形金具5と連結具2を介して屋根梁3へ取付けるようにしたため、命綱支持具1を屋根梁3に沿った任意位置に配置できて命綱である親綱13を建物外周壁上部に沿った任意位置に簡単に取付けできる。…〔考案の効果〕この考案の命綱取付装置によれば、命綱を建物外周壁上部に沿った任意位置に簡単に取付けできるという効果がある。」

5 (イ) 前記(ア)の記載事項によれば、乙17文献には、次のような技術事項を開示する乙17発明が記載されていると認められる。すなわち、乙17発明は、本体下部のU字形フック部を梁の下部と垂直方向で係合させるとともに、略L字状本体の横片先端を下方に折り返して形成させたコ字形フック部を梁の上部と水平方向で係合させるという構成を採用したものであり、このような構成を採用することによって、命綱を建物外周壁上部に沿った任意位置へ簡単に取り付けることができるとの効果を奏するものである。ウ 本件発明の本質的部分(ア) 本件発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の各記載によれば、本件発明は、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない、親綱支柱取付治具を提供するという課題を解決することを目的として(【0006】及び【0007】 、矩形状の板の端部で上下)方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部を含み(構成要件C)、かつ、矩形状の板の第1の方向端部より逆方向の端部までの長さが、治具が取付けられる形鋼のフランジの幅より長い(構成要件E)という構成を採用したものであり、このような構成を採用することにより、U字状の折り曲げ部を幅の狭いフランジ部に係合した状態で、親綱支柱の取付具を位置決めして固定でき、その結果、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからない、親綱支柱取付治具を提供できるとの効果を奏する(【0013】及び【0014】)ものであると認められる。そして、上記の「U字状に折り曲げられた折り曲げ部」は、これを幅の狭いフランジ部に係合した状態で親綱支柱の取付具を位置決めして固定できることから、フランジ幅の狭い形鋼の梁に親綱支柱を設置するのに手間がかからないようにするという課題解決に寄与する構成であるということができる。

5 他方、本件明細書には、乙17発明の存在を明示ないし示唆する記載は存在しないが、前記イのとおり、本件出願までに公知となっていた乙17発明は、命綱取付装置を梁に簡単に取り付けるために、本体下部のU字形フック部を梁の下部と垂直方向で係合させるとともに、略L字状本体の横片先端を下方に折り返して形成させたコ字形フック部を梁の上部と水平方向で係合させるという構成を採用しており、このうちコ字形フック部(乙17文献図面目録の【第3図】2b)は、命綱支持具を梁の長手方向に沿った任意位置に配置して命綱を建物外周壁上部に沿った任意位置へ簡単に取付けることができるという、構成要件Cの「U字状に折り曲げられた折り曲げ部」と同様の効果を奏するものと認められる。そうすると、乙17発明は、本件発明との関係で従来技術に相当するものであり、かつ、本件明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されている部分は、本件出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分であったと認められるから、本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分の認定に当たっては、乙17発明の内容も参酌して認定されるべきである。そして、上記のとおり、設置するのに手間がかからないようにするとの課題解決に寄与する構成要件Cの「U字状に折り曲げられた折り曲げ部」と同様の構成については、乙17発明が既に備えていたものであるから、本件発明と従来技術である乙17発明との主な差異は、本件発明では、折り曲げ部の存在する端部から逆方向の端部までの長さが治具を取り付ける形鋼のフランジ幅より長いのに対し、乙17発明では、コ字形フック部の存在する端部から逆方向の端部までの長さが同フック部と係合させる梁の上部の幅(フランジ幅)と同一であるという点にすぎない。したがって、本件発明は、従来技術と比較してその貢献の程度が大き

5 いとはいえないから、その特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化したものとして認定することはできず、本件発明の本質的部分は、特許請求の範囲に近接したものとなるというべきである。(イ) 以上によれば、本件発明における従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分については、原告が主張するように「①U字状に折り曲げられた折り曲げ部を有し、②その反対方向における長さをフランジ幅よりも長くしている」という構成であると認めることはできず、矩形状の板の端部で上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部を設けた上で、この折り曲げ部の存在する端部から矩形状の板の逆方向の端部までの長さを治具が取付けられる形鋼のフランジ幅よりも長くするという構成、すなわち、構成要件C及びEにより近接した構成であると認定されるべきである。エ 被告製品の第1要件の充足性前記2で説示したとおり、被告製品は構成要件C及びEをいずれも充足するとは認められず、本件発明の「治具」は、「上下方向に間隔を開けてU字状に折り曲げられた折り曲げ部」が「前記矩形状の板の前記第1の方向の端部」と連続する(構成要件C)のに対し、被告製品は、本件発明の「折り曲げ部」に相当するフック部が、同「矩形状の板」に相当する底板ではなく、側板の端部と連続しており、また、本件発明の「治具」は、「前記矩形状の板の前記第1の方向端部より逆方向の端部までの長さは、前記治具が取付けられる形鋼のフランジ幅より長い」(構成要件E)のに対し、被告製品は、「矩形状の板」の「第1の方向端部より逆方向の端部までの長さ」に相当する、形鋼に取り付けられた際に形鋼のフランジの二辺と平行になる二辺に係る底板の端部間の長さが、形鋼のフランジの幅より長いとはいえない。したがって、本件発明と被告製品とは本件発明の本質的部分において異

5 なっているというべきであり、両者の異なる部分が本件発明の本質的部分ではないといえないから、均等の第1要件を満たすとは認められない。(3) 小括以上によれば、被告製品は、その余の要件を検討するまでもなく、本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとはいえず、前記2のとおり文言侵害も成立しないから、本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない。

4 争点3(被告Ai及び被告Biが会社法429条1項に基づく責任を負うか)について原告は、被告製品の販売等が本件特許権を侵害するものであることを前提に、被告Ai及び被告Biが会社法429条1項に基づく責任を負うと主張するが、前記2及び3で説示したことからすれば、被告製品の販売等が本件特許権を侵害すると認めることはできない。したがって、原告の上記主張は、その前提を欠くものであって理由がなく、被告Ai及び被告Biが会社法429条1項に基づく責任を負うとは認められない。

5 争点6(不競法2条1項21号該当性)について(1) 争点6-1(本件投稿を行うことが「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」といえるか)について前提事実(1)、証拠(乙18、29)及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告会社は、親綱支柱用治具の市場において競争関係にあり、本件投稿が行われた当時、同市場に流通している製品は、原告製品と被告製品の二つのみであり、同時期において、被告製品は、原告製品の唯一の競合品であったことが認められる。そして、前提事実(1)、証拠(乙8、18、29)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿は、原告名義で行われたものであるところ、本件投稿におい

5 ては、「先ずはコピー品・バッタもんの特許申請を取り下げなさい」 「次に、既に生産したコピー品・バッタもんを全品・1つ残らず回収し全てを破棄しなさい。普段から仲良くさせて頂いているお客様を取り込み・盾にしているからと言って 私や会社が躊躇するような事象ではありません」 「特許法違、反は刑事事件に類する犯罪です」「今日より2週間の猶予を与えます。それ、でも謝意や動きがないのであれば告訴します」という内容が記載されていた上、刑事告訴、特許権の侵害の罪の法定刑や刑事罰及び均等侵害に関する解説、本件特許権の特許証が添付されていたこと、同特許証においては、その一部が黒塗りになっていたものの、発明の名称(親綱支柱用治具)、出願日及び登録日は黒塗りされておらず、特許権者の住所の一部も分かる状態になっていたことが認められる。このような親綱支柱用治具の業界内の状況及び本件投稿の内容に照らすと、原告や被告会社の取引先としては、本件投稿は、被告会社による被告製品の販売等が本件特許権を侵害するとの事実を述べるものであると理解すると認められる。そうすると、前記2及び3で説示したとおり被告製品が本件特許権を侵害するものではない以上、本件投稿の内容は、被告会社の「虚偽の事実」であると認めるのが相当である。また、前記の本件投稿の内容に加え、証拠(乙8、18、29)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿を見た複数の被告会社の取引先が、被告会社に問合せを行っていたことが認められることからすると、仮に原告が主張するように本件投稿が投稿から約24時間で削除されていたとしても、本件投稿が被告会社の「営業上の信用を害する」ものであることは明らかである。そして、前提事実(6)アのとおり、本件投稿は、原告代表者のInstagramのアカウントにおいて行われたものであるところ、証拠(乙8、18、29)及び弁論の全趣旨によれば、同アカウントの内容は、不特定又は

5 多数の人物が閲覧可能なものであったと認められるから、本件投稿は、被告会社による被告製品の販売等が本件特許権を侵害するとの事実を「流布する行為」といえる。以上によれば、本件投稿を行うことは、「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を」「流布する行為」に該当すると認められる。(2) 争点6-2(故意又は過失の有無)についてア 前記(1)アのとおり、本件投稿では、均等侵害に関する解説が添付されており、原告は、本件投稿が行われた当時、被告製品について文言侵害が成立しない可能性を認識していたものといえる。そして、前提事実(6)イのとおり、本件投稿は、原告から被告会社に対する警告書(甲8)の送付前に行われたものであって、被告会社の特許権侵害に関する認識を確認することなくされたものである。さらに、原告において被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると判断したことが、合理的な根拠に基づくものであったと認めるに足りる証拠はない。このような事情からすれば、原告には不正競争行為について、少なくとも過失があったものと認められる。イ 原告は、①原告製品と被告製品は、その形状が類似している上、被告会社は被告製品に関する特許出願を行っているが、その出願の請求項の大部分について、新規性又は進歩性を欠くという理由から、拒絶理由通知を受けていること、②原告は、本件投稿を行う前に、その顧問弁護士及び顧問弁理士から、被告製品が本件特許権を侵害する旨の見解を得ていたことを、故意又は過失を否定する事情として主張する。しかしながら、上記①について、製品の一部の形状が類似していたり、被告製品の内容を前提にした特許出願の大部分が新規性又は進歩性を欠くという判断がされていたりしたとしても、その事実は、被告製品が本件発

5 明の技術的範囲に属することを直ちに裏付けるものではない。さらに、証拠(甲23)及び弁論の全趣旨によれば、上記の拒絶理由通知は、本件投稿後の令和5年7月10日付けで行われたものであることが認められ、原告は、上記通知を認識した上で本件投稿を行ったわけでもないから、上記通知の存在等が原告の過失を否定する事情になるとはいえない。また、上記②について、そもそも原告が顧問弁護士及び顧問弁理士から受けていた見解の具体的内容は明らかではない上、仮に原告が何らかの見解を得ていたとしても、被告会社の見解を全く確認することなく本件投稿を行ったことを正当化する事情にはならず、このような事情も過失を否定する事情にならないというべきである。したがって、原告の上記主張はいずれも採用できない。

6 争点7(不競法違反に係る差止めの必要性)原告は、本件投稿を投稿してから約24時間で削除していると主張するが、本件投稿の内容及びこれに至る経緯(前記5(1)ア及び(2))並びに本件に現れた諸事情を総合考慮すると、本件においては、原告が更に被告製品の販売等が本件特許権を侵害する旨の告知又は流布するおそれがあるというべきであるから、同行為に係る差止めの必要性が認められる。

7 争点8(不競法違反に係る損害の発生及び額)について(1) 無形損害前記5(1)アのとおり、本件投稿は、被告製品の販売等が本件特許権を侵害するものであり、かつ、被告会社が謝罪等を行わない場合は刑事告訴することを流布するものである。そして、証拠(乙18、29)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿を見た複数の被告会社の取引先が、被告会社に問合せを行っていたほか、被告会社は、本件投稿を受けて被告製品の営業活動等を控えていたことが認められる。他方で、本件投稿においては、被告会社や被告製品の名称が直接記載され

5 ているわけではない上、本件投稿が長期間にわたって表示されていたと認めるに足りる証拠はないことからすれば、本件投稿が被告会社の取引先に与えた影響は限定的なものであったことがうかがわれる。以上の事情に加え、被告会社の信用低下の度合いに関する立証の程度など、本件に現れた諸事情を総合考慮すると、原告の不正競争行為により被告会社に生じた無形損害の額については、50万円と認めるのが相当である。(2) 弁護士及び弁理士費用事案の難易、前記(1)で認定した損害額及びその他本件で現れた諸般の事情に照らすと、本件において原告の不正競争行為と相当因果関係を有する弁護士及び弁理士費用については、5万円と認めるのが相当である。(3) 小括したがって、原告の不正競争行為により被告会社が被った損害額は、55万円であると認められる。

第5 結論

以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由がない一方で、被告会社の原告に対する反訴請求は、被告製品の販売等が本件特許権を侵害する旨の告知及び流布することの差止め並びに55万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和5年8月3日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。よって、反訴請求を主文第1項及び第2項の限度で認容し、本訴請求及びその余の反訴請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部

裁判長裁判官

國 分 隆 文

裁判官

間 明 宏 充

裁判官

木 村 洋 一

(別紙)

被告製品目録ディンプルポスト用小梁用プレート100/125底板側板以上

(別紙投稿目録は省略)

(別紙)

原告作成図面目録以上

(別紙)

被告図面目録

100型(乙1)125型(乙2)以上

(別紙)

本件明細書図面目録【図1】【図2】【図4】【図5】以上

(別紙)

乙17文献図面目録【第1図】【第2図】【第3図】【第4図】以上

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