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令和6(ネ)10023損害賠償請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年11月28日
事件種別 民事
対象物 モールドコイルの製造方法
法令 特許権
特許法102条3項1回
キーワード 特許権3回
無効2回
損害賠償2回
進歩性1回
実施1回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。20
事件の概要 1 事案の要旨(略語は原則として原審のものによった。) 本件は、発明の名称を「モールドコイルの製造方法」とする特許に係る特許権を 有する控訴人が、被控訴人の海外子会社が同特許権に係る特許発明の技術的範囲に 属する方法で製造されたモールドコイルについて譲渡、譲渡の申出及び輸入をした ことにつき、被控訴人に共同不法行為及び不当利得が成立すると主張して、被控訴5 人に対し、①不当利得返還請求権に基づき平成24年4月1日以降の被控訴人の譲 渡等による利得5000万円及び②民法709条に基づき平成31年2月1日から の被控訴人の譲渡等による損害賠償として1500万円(特許法102条3項によ り算定される損害額)並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日(令和4年5月1 4日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分10 の割合による遅延損害金の支払を請求(上記①及び②につき、1500万円及びこ れに対する遅延損害金の限度で選択的請求)する事案である。

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判決文

令和6年11月28日判決言渡

令和6年(ネ)第10023号 損害賠償請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所令和4年(ワ)第9100号)

口頭弁論終結日 令和6年9月19日

判 決

控 訴 人 X

同訴訟代理人弁護士 辻 本 恵 太

有 馬 明 仁

川 村 健 二

富 岡 大 貴

片 山 輝 伸

被 控 訴 人 株式会社埼玉村田製作所

同訴訟代理人弁護士 森 本 純

安 井 祐 一 郎

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。2 被控訴人は、控訴人に対し、5000万円及びこれに対する令和4年5月14日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 事案の要旨(略語は原則として原審のものによった。)本件は、発明の名称を「モールドコイルの製造方法」とする特許に係る特許権を有する控訴人が、被控訴人の海外子会社が同特許権に係る特許発明の技術的範囲に属する方法で製造されたモールドコイルについて譲渡、譲渡の申出及び輸入をした

5 ことにつき、被控訴人に共同不法行為及び不当利得が成立すると主張して、被控訴人に対し、①不当利得返還請求権に基づき平成24年4月1日以降の被控訴人の譲渡等による利得5000万円及び②民法709条に基づき平成31年2月1日からの被控訴人の譲渡等による損害賠償として1500万円(特許法102条3項により算定される損害額)並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日(令和4年5月14日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求(上記①及び②につき、1500万円及びこれに対する遅延損害金の限度で選択的請求)する事案である。原判決は、被告方法が、本件発明の技術的範囲に属するとはいえないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。これに対し、控訴人は本件控訴を提起した。2 前提事実 (当事者間に争いがない事実並びに証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨から認められる事実)原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。3 争点

(1) 被告方法が、本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)ア 被告方法では、磁性体粉末を容積比で65Vol%以上含む該磁性体モールド樹脂を用いているか(構成要件B)(争点1-1)イ 被告方法で用いられている成型金具は「磁性体モールド樹脂の一部をキャビティから排出する隙間を有する」ものであるか(構成要件C)(争点1-2)ウ 被告方法において「該排出した磁性体モールド樹脂が該キャビティ内に充填した磁性体モールド樹脂よりも相対的に磁性体粉末の容積比が低い」か(構成要件F)(争点1-3)

(2) 被控訴人が海外子会社と共同で、違法に被告製品の譲渡、譲渡の申出、輸入をしたか(争点2)

(3) 損害額及び利得額(争点3)

(4) 本件特許に無効とすべき事由があるか(争点4)

5 ア 本件訂正において「加圧を、硬化するまで、保持」するものとしたことは、新規事項の追加であるか(争点4-1)イ 本件発明は特開平2-153510号公報(乙9公報)を主引例として進歩性が欠如するか(争点4-2)ウ 本件特許にサポート要件違反の無効理由があるか(争点4-3)

(5) 本件の請求に本件権利不行使規定の効力が及ぶか(争点5)

(6) 被控訴人が通常実施権を有するか(争点6)

(7) 被告製品について特許権が消尽しているか(争点7)

第3 争点に関する当事者の主張

1 以下のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほか、原判決の「事

実及び理由」の第2の4記載のとおりであるから、これを引用する。

2 当審における当事者の補充主張

(1) 争点1-3についての控訴人の主張

ア 被告方法において、一つの辺でも最大粒子径より小さなバリがあれば、磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなっていることは明らかであるといえるから、原判決の判断は妥当ではない。イ 原判決は、原審における控訴人の主張を誤解し、かつ、原告提出の証拠評価を誤ったことが考えられるため、妥当ではない。具体的には、原判決は「原告は、

5 磁性体粉末容積比(コア)と磁性体粉末容積比(バリ)について、磁性体粉末の粒子径

が、磁性体モールド樹脂が漏れ出す隙間よりも大きければ、樹脂が隙間から優先的に排出されるために磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなるところ、被告方法の加圧・加熱過程で加圧を続けても樹脂の流出が止まるのは、磁性体粉末が隙間を埋めることが理由であるから、被告方法においては、樹脂が隙間から優先的に排出されるといった事象が生じたことが示されていると主張する」としているが、控訴人は、樹脂の流出が止まる原因については、パンチによる加圧と樹脂からの抗力(硬化や樹脂と隙間との摩擦等による抗力)が均衡することと主張しており、上記のような主張はしていない。したがって、上記主張を前提とした原判決の「樹脂の流出が止まったのが磁性体粉末が隙間を埋めたものであることを裏付ける証拠はない。被告が実際に使用している被告方法において、原告が主張するのとは異なる理由により樹脂の流出が止まったことを否定できず、被告方法において、原告が主張する事象が生じたことによって樹脂の流出が止まると認めるには足りない。」の判断はその前提を欠く。ウ 甲27の実験結果によると、被控訴人主張の製造方法は、バリにおける磁性体粉末の容積比がキャビティ内の磁性体粉末の容積比より低くなることが明らかとなっている。このほか、乙2及び乙38などに記載されているサンプルは、被控訴人主張の被告方法により製造されたものではない可能性があり、また、被控訴人が検証の対象となるバリの範囲を合理的理由なく狭く設定していることから、乙2及び乙38などの内容は信用すべきではない。かえって、被控訴人が被告方法により製造したものではないサンプルを利用した証拠(乙2及び乙4など)をあえて提出したといえるから、被告方法が控訴人主張のとおりの内容であると認められる。エ 被告方法におけるバレル研磨跡の幅からすると、バリの幅を合理的に推認することができ、この幅は隙間の幅と同等のものといえる。

(2) 争点1-3についての被控訴人の主張

ア 控訴人が主張する原理と論理によって、磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁

5 性体粉末容積比(コア)よりも小さくなっているとの帰結が導かれるものではなく、

控訴人の主張は誤りである。すなわち、固液混合流体の流動における挙動は、液体の粘度、液体に対する固体の比重、固体の表面の濡れ性等によって決定され、固体の表面の濡れ性等が悪く、液体の粘度が高い固液混合流体の場合には、固体が液体よりも優先して流動することがあり、控訴人の主張は理由がない。イ 控訴人は、原審において、磁性体粉末の粒子径が隙間の幅よりも小さくても、磁性体粉末によって隙間が詰まり、樹脂が優先して隙間から流出する旨を説明していた。したがって、原判決が控訴人の主張を誤解していたとする主張は理由がない。ウ 甲27の「第4」に記載の試験は、被告方法と条件を全く異にするものであり、具体的には、被告方法と、磁性体粉末の組成、樹脂の組成、磁性体粉末と樹脂の配合割合、予備成形したコアの製造方法を異にし、また、加圧温度も溶融粘度も異にするから意味を有しない。エ 控訴人の主張である前記(1)エについては、バレル研磨によって、バリが除去されるだけでなく成型品の表面全体が研磨されることを無視し、<辺の丸み(R)≧バリの厚さ>という前提を立てている点において誤りである。

第4 当裁判所の判断

1 本件発明について原判決「事実及び理由」第3の1記載のとおりであるから、これを引用する。

2 争点1-3(被告方法において「該排出した磁性体モールド樹脂が該キャビティ内に充填した磁性体モールド樹脂よりも相対的に磁性体粉末の容積比が低い」か(構成要件F))について

(1) 当裁判所も、原判決と同じく、被告方法が構成要件Fを充足すると認められ

るためには、被告方法を用いて被告製品を製造する過程において、磁性体粉末容積

比(コア)と磁性体粉末容積比(バリ)について、これらを測定して比較し、後者

の容積比の方が小さいものであったことを示すことが有効と解するが、これを示す

に足りる証拠はなく、その他、構成要件Fを充足することを認めるに足りる証拠は

ないことから、被告方法は構成要件Fを充足するとはいえないと判断する。その理

由は、原判決「事実及び理由」第3の2(2)ア(原判決20頁19行目~21頁11

行目末尾まで)を削るほかは、原判決「事実及び理由」第3の2記載のとおりであ

るから、これを引用する。

(2) 当審における控訴人の補充主張について

ア 控訴人は、被告方法において、一つの辺でも最大粒径より小さなバリがあれ

ば、磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなっ

ていることは原理・論理的に明らかであると主張する。

しかしながら、モールド樹脂内の磁性体粉末の具体的な粒子径の形状・分布、樹

脂の性質、隙間の形状・構造、加えられる圧力等により、隙間を通過する磁性体の

量は変化するものと推測されるところ、被告方法においては、様々な粒子径、形状

の磁性体が使用されている(乙3,4)から、モールド樹脂内の磁性体粉末の具体

的な粒子径の形状・分布、樹脂の性質、隙間の形状・構造等がどのようなものであ

る場合に隙間を通過する磁性体がどの程度あるのかについて、必ずしも一義的に明

らかではないといわざるを得ない。したがって、控訴人が主張する、磁性体粉末の

最大粒子径よりも小さなバリがあることをもって、当然に磁性体粉末容積比(バリ)

の方が磁性体粉末容積比(コア)よりも小さくなっているものとはいえない。

また、仮に被告方法における磁性体粉末の粒子径分布とバリの大きさとの関係性

から一定の事実を推認することができる余地があり、例えば、磁性体モールド樹脂

内の全磁性体粒子のうちの最小粒子径が隙間よりも大きい場合には、磁性体は隙間

を通過することができないため、樹脂のみが隙間から流出することが推測される一

方、逆に、全磁性体の粒子径が隙間よりも十分に小さい場合には、樹脂と共に磁性

体も隙間を通過することから磁性体粉末容積比(コア)及び磁性体粉末容積比(バ

リ)に変化がないものと推測される余地があるといえるとしても、被告方法におい

て磁性体粒子のうちの最小粒子径が被告方法で使用されている●●及びパンチで形

成される隙間よりも大きいことを示すなど、被告方法における粒子径分布とバリの

大きさとの関係性を示す証拠はないから、控訴人の上記主張は裏付けを欠き、採用

することができない。

イ 控訴人は、原判決は、控訴人の主張を誤解し、かつ、控訴人提出の証拠評価

を誤ったものと考えられると主張し、樹脂の流出が止まる原因については、パンチ

による加圧と樹脂からの抗力(硬化や樹脂と隙間との摩擦等による抗力)が均衡す

ることと主張しており、原判決のように「被告方法の加圧・加熱過程で加圧を続け

ても樹脂の流出が止まるのは、磁性体粉末が隙間を埋めることが理由であるから、

被告方法においては、樹脂が隙間から優先的に排出されるといった事象が生じたこ

とが示されている」という主張はしていない旨を主張する。

しかしながら、樹脂の流出が控訴人の主張する機序によるものであるとしても、

前記アのとおり、被告方法において磁性体粉末容積比(バリ)の方が磁性体粉末容

積比(コア)よりも小さくなっていることを認めることはできず、上記(1)の判断を

左右するものとはいえない。

したがって、控訴人の上記主張は採用できない。

ウ 控訴人は、甲27の実験結果によると、被控訴人主張の製造方法は、バリに

おける磁性体粉末の容積比がキャビティ内の磁性体粉末の容積比より低くなること

が明らかとなっているから、原判決の判断は妥当ではない旨主張する。

この点、甲27の第4(10頁~)に記載されている実験方法で利用・設定され

ている磁性体粉末の組成、樹脂の組成、磁性体粉末と樹脂の配合割合、予備成形し

たコアの製造方法、加圧温度及び溶融粘度という条件が、実際の被告方法で用いら

れているものと同一であると認めるに足りる証拠はなく、それらが実際の被告方法

と同じ条件であると客観的に裏付ける証拠もない。

したがって、甲27の実験結果によって、被控訴人主張の被告方法において、バ

リにおける磁性体粉末の容積比がキャビティ内の磁性体粉末の容積比より低くなる

ことは認めることができず、控訴人の上記主張は理由がない。

エ また、控訴人は、甲27の実験結果によると、乙2及び乙38などのサンプ

ルは、被控訴人主張の被告方法により製造されたものではない可能性があり、被控

訴人が検証の対象となるバリの範囲を合理的理由なく狭く設定していることから、

乙2及び乙38などの内容は信用すべきではないことに加え、被控訴人が被告方法

により製造したものではないサンプルをあえて利用した証拠(乙2及び乙4など)

を提出しているもので、被告方法が控訴人主張のとおりのものである旨を主張する。

しかしながら、上記サンプルが、市場において流通している被告製品と異なるも

のであると認めることはできず、他方、上記ウのとおり、甲27の第4記載の実験

の条件は、実際の被告方法の条件と同一とは認めることができないから、控訴人の

上記主張は採用できない。

オ 控訴人は、被告方法におけるバレル研磨跡の幅からすると、バリの幅を合理

的に推認することができ、このような幅は隙間の幅と同等のものといえる旨を主張

する。

しかしながら、被告方法において隙間に相当するものの幅、形状・構造等は不明

である。控訴人は、控訴人作成の報告書(甲8)を示し、バレル研磨跡に生じてい

る被告製品の角に生じた研磨跡に着目し、バリの幅は研磨跡を超えることはないな

どとして、研磨跡からバリの幅を推計し、バリの厚さは●●●●を超えるものでは

ないなどとも主張するが、この点についても、研磨跡によりバリの幅を正しく把握

できるかは明らかでなく、控訴人指摘の事実によっても、隙間に相当するものの幅、

形状・構造等は不明である。

したがって、控訴人の上記主張は理由がない。

第5 結論

以上のとおり、被告方法は、本件発明の技術的範囲に属するものとはいえないか

ら、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人の請求は、いずれも理由が

ない。

したがって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がな

いからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

本 多 知 成

裁判官

遠 山 敦 士

裁判官

天 野 研 司

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