令和6(行ケ)10018審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和6年12月9日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告本田技研工業株式会社 被告マツダ株式会社
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対象物 |
原動機付車両 |
法令 |
特許権
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キーワード |
審決26回 実施10回 無効7回 進歩性1回 特許権1回 無効審判1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。25 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。)5
(1) 原告は、平成10年12月25日、発明の名称を「原動機付車両」とす
る発明について特許出願し、平成13年6月8日、本件特許に係る特許権
(特許第3196076号。請求項の数3)の設定登録を受けた。
(2) 被告は、令和4年6月15日、本件特許の請求項3に係る発明について
の特許の無効審判請求をした。10
特許庁は、上記請求を無効2022-800053号事件として審理し、
令和6年1月31日、「特許第3196076号の請求項3に係る発明につ
いての特許を無効とする。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同年2
月9日原告に送達された。
(3) 原告は、令和6年2月26日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提15
起した。 |
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判決文
令和6年12月9日判決言渡
令和6年(行ケ)第10018号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年10月2日
判 決
原 告 本田技研工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 上 山 浩
同 田 島 明 音
10 同 後 藤 充
同訴訟代理人弁理士 鷺 健 志
被 告 マ ツ ダ 株 式 会 社
15 同訴訟代理人弁護士 中 村 稔
同 田 中 伸 一 郎
同 相 良 由 里 子
同 岸 慶 憲
同訴訟代理人弁理士 大 塚 文 昭
20 同 弟 子 丸 健
同 山 本 泰 史
同 石 崎 亮
主 文
1 原告の請求を棄却する。
25 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2022-800053号事件について令和6年1月31日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
5 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、平成10年12月25日、発明の名称を「原動機付車両」とす
る発明について特許出願し、平成13年6月8日、本件特許に係る特許権
(特許第3196076号。請求項の数3)の設定登録を受けた。
(2) 被告は、令和4年6月15日、本件特許の請求項3に係る発明について
10 の特許の無効審判請求をした。
特許庁は、上記請求を無効2022-800053号事件として審理し、
令和6年1月31日、「特許第3196076号の請求項3に係る発明につ
いての特許を無効とする。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同年2
月9日原告に送達された。
15 (3) 原告は、令和6年2月26日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2 本件発明の内容
(1) 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の請求項 3の記載は、以下のとおりである
20 (以下、この特許請求の範囲の記載によって特定される発明を「本件発明」
という。 。
)
【請求項3】
アクセルペダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択さ
れている場合は、原動機から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であっ
25 て、
前記原動機付車両停止時、前記原動機を停止可能な原動機停止装置と、
ブレーキペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ液圧
を作用可能なブレーキ液圧保持装置と、
を備える原動機付車両において、
前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出する故障検出装置を備え、
5 前記故障検出装置によって前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出した
時に前記原動機停止装置の作動を禁止することを特徴とする原動機付車両。
(2) 本件明細書の記載
本件発明について、本件明細書(甲28)には、次の開示があると認め
られる(詳細は別紙「本件明細書の記載事項及び図面(抜粋)」記載のとお
10 り)。
ア 技術分野
自動変速機を備えるとともに、車両停止時に原動機を自動で停止可能な
原動機停止装置を備え、さらにブレーキペダルの踏込み開放時にも引続
きホイールシリンダのブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置
15 を備える原動機付車両に関するものである(【0001】 。
)
イ 従来技術
ブレーキペダルの踏込み開放時にもホイールシリンダのブレーキ液圧
を保持可能な手段としてブレーキ液圧保持装置を備える原動機付車両が
従来から知られている(【0002】 。
)
20 ウ 発明が解決しようとする課題
車両停止時に原動機を自動で停止させ、ブレーキペダルの踏込み開放
により原動機を自動で始動する車両において、ブレーキ液圧保持装置が
故障した場合、ブレーキペダルの踏込みを開放した時に駆動力が大きな
状態に切り換わるまでブレーキ力を保持することができず、坂道発進の
25 際に車両が後退する(【0005】 。
)
そこで、本発明の課題は、ブレーキ液圧保持装置が故障した場合に、
駆動力を大きな状態に維持または駆動力を大きな状態に切り換え、坂道
発進時における車両の後退を防止できる原動機付車両を提供することで
ある(【0006】 。
)
エ 課題を解決するための手段
5 上記課題を解決するために、本発明は上記(1)の構成とした(【000
9】 。
)
オ 効果
原動機停止装置を備える車両によれば、ブレーキ液圧保持装置RUが
故障した場合に、故障検出装置DUによって故障が検出されるとともに、
10 原動機停止装置の作動が禁止される。そのため、ブレーキペダルBPが
踏込まれて、車速が0km/hになっても、エンジン1が自動で停止さ
れることなく、強クリープ状態が維持される。また、エンジン1が自動
停止した後にブレーキ液圧保持装置RUが故障した場合でも、その時点
で、エンジン1が自動始動され、強クリープ状態に切り換えられる。し
15 たがって、ブレーキペダルBPの踏込みが開放される時点では、強ク
リープ状態となっている。その結果、ブレーキ液圧保持装置RUが故障
しても、坂道発進時に、強クリープ状態であるため、車両が後退するこ
とはない(【0176】 。
)
3 本件審決の理由の要旨
20 本件審決は、以下のとおり、無効理由1に関し、本件発明は、下記甲1発明
及び甲5記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもので
あり、無効とすべきものと判断した。
なお、本件審決は、無効理由2、3(別の引用例に基づく進歩性欠如)及び
同4(サポート要件違反・明確性要件違反)は認められない旨の判断をしたが、
25 これらの判断は本件訴訟の対象外である。
(1) 甲1発明
甲1(証拠番号は審判・本訴共通。甲5も同様。)は、発明の名称を「エ
ンジン自動停止始動装置」とする実願昭58-4337号(実開昭59-1
10346号、昭和59年7月25日公開)のマイクロフィルムである。甲
1には、次の甲1発明が記載されている。
5 【甲1発明】
「エンジン1に自動変速機9が接続されている車両であって、
車両の停止時、エンジン1を自動停止し、
ブレーキペダルを踏込んでいるときに電磁石を励磁すれば、ブレーキペ
ダルが解放されても制動装置が保持されるようにする制動保持装置26と、
10 を備える車両において、
エンジン自動停止条件が満足されたら制動保持装置26に制動保持信号
を出力し、その後エンジン停止信号を出力する、車両。」
(2) 甲5記載事項
甲5は、発明の名称を「駐車ブレーキ安全装置」とする特開平8-19
15 8072号公報(平成8年8月6日公開)である。甲5には、次の甲5記載
事項が記載されている。
【甲5記載事項】
「ブレーキペダル4を踏んで車両1を停止させた場合に作動し、ブレー
キ液圧供給系6内のブレーキオイルを封じ込めて、運転者がブレーキペダル
20 4から足を離しても制動力を保持する坂道発進補助装置50を備え、坂道発
進補助装置50に異常が発生したことが検出されると、警報ランプ20及び
警報ブザー21を作動させて、運転者に注意を促すこと。」
(3) 一致点及び相違点
本件発明と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
25 なお、本件審決が認定した相違点1及び2については、相違点の認定及
びこれらが実質的な相違点でないか(相違点1)、仮に実質的相違点であっ
たとしても、当業者が容易に想到し得たこと(相違点1及び2)について、
当事者間に争いがないため、その記載を省略する。
【一致点】
「原動機から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、
5 前記原動機付車両停止時、前記原動機を停止可能な原動機停止装置と、
ブレーキペダルの踏込み開放後も引続き作用可能な保持装置、を備える
原動機付車両。」
【相違点3】
本件発明は、「前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出する故障検出装置
10 を備え」 「前記故障検出装置によって前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検
、
出した時に前記原動機停止装置の作動を禁止する」ものであるのに対し、甲
1発明は、そのような構成を備えていない点。
(4) 相違点3についての判断
ア 甲5記載事項は、坂道発進補助装置50の異常発生が検出されると、警
15 報ランプ20等で運転者に注意を促すことであって、坂道発進補助装置
50を備えていることで安全且つ確実に坂道発進を行なうことができる
ものであるから、安全性の観点から、原動機付車両における車両停止時
にブレーキがかかった状態を保持する技術思想を開示するものである。
イ 甲1の「シフトレバーがDレンジにある場合、再始動のためにアクセル
20 ペダルを踏み込めば問題は生じないが、踏込み量が大きいと再始動と同
時に急発進する惧れがある。」との記載によれば、原動機付車両において
エンジンを自動停止した場合には、エンジンの再始動時に急発進する課
題の存在を踏まえ、当該課題を解決するために、安全性の観点から、エ
ンジンがエンジン自動停止始動装置の作動により自動停止する場合には、
25 制動保持装置の作動によりブレーキ液圧が作用し、もってブレーキがか
かった状態を保持するという、エンジン自動停止始動装置と制動保持装
置の各作動の一体不可分性を必須の特徴とする技術的思想が開示されて
いるものと認められる。
ウ よって、甲1発明と甲5記載事項は、ともに安全性の観点から、原動機
付車両における車両停止時にブレーキがかかった状態を保持するという
5 技術思想が共通するものといえる。さらに、甲1発明は、安全性の観点
から、エンジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不可分
性を必須の特徴とするとともに、エンジン自動停止始動装置を安全な状
態で作動させるために、各種検出信号を用いるものと認められるところ、
制動保持装置の異常を検出した場合には、安全性を欠き、各作動の一体
10 不可分性が失われることは自明であるから、安全性の観点から各作動の
一体不可分性を確保するために、各種検出信号の一つとして、甲5に記
載されたような制動保持装置の異常を検出する信号を付加する動機付け
があるといえる。
エ そして、エンジン自動停止始動装置を安全な状態で作動させるための判
15 断用各種検出信号の一つとして制動保持装置異常検出信号を加えた場合
において、制動保持装置の異常が検出されたときは、エンジン自動停止
条件が満足されなくなる。そのため、上記場合には、制動保持装置異常
検出信号が、エンジン自動停止始動装置を作動させないことになり、
もってその作動を禁止することになる。したがって、上記一体不可分性
20 に照らすと、甲1発明に甲5記載事項を適用して、制動保持装置の異常
を検出した際に、エンジン自動停止始動装置の作動を禁止することは、
当業者が容易に想到し得たことである。
オ また、甲1発明は、エンジン自動停止始動装置を安全な状態で作動させ
る観点から、各種検出信号を用いてエンジン自動停止条件が全て満たさ
25 れた場合にのみ作動させているところ、制動保持装置の異常検出時、つ
まり、制動保持装置が故障しているときにエンジン停止をすることがな
いように、制動保持装置の故障検出装置を付加して、制動保持装置が故
障していないことをエンジン自動停止条件の一つとして加えることは、
当業者が適宜なし得た設計事項である。その場合には、「前記故障検出装
置によって前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出した時に前記原動機
5 停止装置の作動を禁止する」ことになるのであるから、そうすることが
当業者にとって困難であったとは認められない。
4 取消事由
原告は、相違点3についての容易想到性に関する認定及び判断の誤りを、本
件審決の取消事由として主張する。当該取消事由に関する具体的な争点は、以
10 下のとおりである。
(1) 甲1発明と甲5記載事項の技術思想の認定誤り、両者を組み合わせる動
機付けの判断の誤り(争点1)
(2) 相違点3に係る構成を得ることが容易想到又は設計事項とした判断の誤
り(争点2)
15 第3 取消事由に関する当事者の主張
1 争点1(甲1発明と甲5記載事項の技術思想の認定誤り、両者を組み合わ
せる動機付けの判断の誤り)について
【原告の主張】
(1) 甲1には、本件審決が認定した「エンジン自動停止始動装置と制動保持
20 装置の各作動の一体不可分性」なる用語や概念は一切記載されていない。さ
らに、甲1には、本件審決が「一体不可分性」の内容として認定した「安全
性の観点から、エンジンが、エンジン自動停止始動装置の作動により自動停
止する場合には、制動保持装置の作動によりブレーキ液圧が作用し、もって
ブレーキがかかった状態を保持する」ことも開示されていない。本件審決は、
25 甲1の記載事項を離れて、自動車技術においては一般的な「安全性」の観点
をいたずらに重要視するとともに、「エンジン自動停止始動装置と制動保持
装置の各作動の一体不可分性」なる内容の曖昧な概念を、甲1発明の必須の
特徴であると恣意的に認定したものであり、極めて遺憾である。
(2) 甲5は、坂道発進補助装置50に異常が発生したことが検出された場合
に、「警報ランプ20及び警報ブザー21を作動させて、運転手に注意を促
5 すこと」を開示しているだけであり、「ブレーキがかかった状態を保持する
こと」は開示していない。したがって、本件審決が、甲5は「安全性の観点
から、原動機付車両における車両停止時にブレーキがかかった状態を保持す
る技術思想を開示するものである」と認定したことは、誤りである。
(3) 以上のとおり、甲1及び甲5には、ともに「安全性の観点から、原動機
10 付車両における車両停止時にブレーキがかかった状態を保持するという技術
思想」が開示されておらず、また、「甲 1 発明は、安全性の観点から、エン
ジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不可分性を必須の特徴
とする」ことも開示されていないから、本件審決が、上記認定に基づいて、
甲1発明において、安全性の観点から、エンジン自動停止始動装置と制動保
15 持装置の各作動の一体不可分性を確保するために、各種検出信号の一つとし
て、甲5に記載されたような制動保持装置の異常を検出する信号を付加する
動機付けがあるとした認定は誤りである。
(4) また、甲1発明は、ステップS21~S25において、全てのエンジン
自動停止条件が満足されたと判断された後に、ステップS26において、制
20 動装置の作動状態を保持させるための制動保持信号が制動保持装置に出力さ
れる。そのため、ステップS26より前のステップS25においては、制動
装置の作動状態を保持させるための制動保持信号を出力しておらず、まして、
制動保持信号を用いて制動保持装置26が故障しているか否かを検出するこ
ともしていないことは明らかである。したがって、甲1発明は、制動保持装
25 置26が故障しているか否かを検出する技術思想を有しておらず、故障を検
知する甲5記載事項を甲1発明に適用する動機付けがあるとした本件審決の
認定は誤りである。
(5) さらに、甲1発明において、仮に、制動保持装置の異常を検出した場合
には、ブレーキ系に異常があり、ブレーキが効かない問題があることになる
から、安全上の観点からは、再始動時の急発進を防止するために、エンジン
5 自動停止を維持し、エンジンを再始動させないことによって、エンジンの駆
動力を伝達させないようにすることが当業者にとって明らかである。した
がって、本件審決が、甲1発明に、「エンジン自動停止条件」として、制動
保持装置の異常を検出する信号を追加する動機付けがあると認定したことは
誤りである。
10 【被告の主張】
(1) 甲1発明は、エンジン自動停止始動装置の作動により自動停止する場合
には、制動保持装置の作動によりブレーキ液圧が作用し、もってブレーキが
かかった状態を保持することで、エンジン自動停止始動装置による再始動時
の急発進のおそれなどの安全上の問題を解決し、「自動変速機付き車両に適
15 用しても有効に活用できるようにしたエンジン自動停止始動装置を提供する
こと」を可能とするものである。
甲1発明におけるエンジン自動停止始動装置の作動によりエンジンが自
動停止するステップでは、制動保持装置の作動によりブレーキ液圧が作用し、
もってブレーキがかかった状態を保持することが前提であるため、エンジン
20 停止信号を出力するステップS27の前に、ステップS26で制動保持装置
26に制動保持信号を出力するとされている。これは、まさにエンジン自動
停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不可分性を示すものである。
よって、甲1には、「安全性の観点から、エンジンがエンジン自動停止始
動装置の作動により自動停止する場合には、制動保持装置の作動によりブ
25 レーキ液圧が作用し、もってブレーキがかかった状態を保持するという、エ
ンジン自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不可分性を必須の特
徴とする技術的思想が開示されている」のである。
(2) 甲5は、車両停止時にブレーキがかかった状態を保持することが安全上
重要であると認識しているからこそ、それを担う坂道発進補助装置50の異
常の有無を監視して異常を検出した時には異常を検出する信号を発し、安全
5 性の問題が生じたことを運転者に注意を促しており、審決の認定に誤りはな
い。
(3) 甲5記載の制動保持装置の異常を検出する信号は、甲1発明のエンジン
自動停止始動装置を安全な状態で作動させる観点から、エンジンの自動停止
ができるかを判断する各種信号の一つとして当然に認識されるものである。
10 よって、各種信号の一つとして、甲5に記載されたような制動保持装置の異
常を検出する信号を付加する動機付けは明白である。
また、甲1発明で制動保持装置の異常が検出された場合には、エンジン
自動停止始動装置と制動保持装置の各作動の一体不可分性が害されており、
エンジン自動停止始動装置を安全な状態で作動させることができないから、
15 エンジンの自動停止をしないことは明白であり、この点でも動機付けがある
ことは明らかである。
(4) 原告は、甲1発明に甲5記載事項を適用すると、制動保持装置の異常を
検出したときには、エンジンの自働停止をせず、再始動させることになる旨
の主張をしているが、本件審決はエンジンの再始動は問題としていない。本
20 件発明の構成要件では「前記故障検出装置によって前記ブレーキ液圧保持装
置の故障を検出した時に前記原動機停止装置の作動を禁止する」とされてお
り、原動機を再始動することが本件発明の構成要件でないことは明らかであ
る。
2 争点2(相違点3に係る構成を得ることが容易想到又は設計事項とした判
25 断の誤り)について
【原告の主張】
(1)ア 甲1発明のエンジン自動停止始動処理の手順に鑑みると、甲1発明に
おいて、仮に「エンジン自動停止始動装置を安全な状態で作動させるため
の判断用各種検出信号の一つとして制動保持装置異常検出信号を加えた場
合」には、ステップS25の「エンジンを自動停止させるための他の停止
5 条件」として、制動保持装置26が作動するか否かを判断することになる。
そして、「制動保持装置26が作動している」と判断されたときには、そ
のまま制動保持装置26が作動して、制動状態が継続維持されるため、甲
1に記載された「ステップS26で制動保持装置26に制動保持信号を出
力すること」が不要となってしまう。このような結果は、甲1に記載され
10 たエンジン自動停止始動処理の内容と矛盾する。
イ さらに、ブレーキ液圧保持装置が故障していないかを監視し、故障を検
出したらクリープ力を維持するため原動機を自動停止させないことは、
甲5や甲30、31の記載から見て、当然とはいえない。すなわち、甲
5では、坂道発進補助装置50に異常が発生したことを検出したときに
15 は、警報ランプ20及び警報ブザー21を作動させて、運転手に注意を
促すだけである。甲30記載の発明では、ブレーキ系が故障したことを
検知したときに、安全の観点から車両の急発進を防止するため、エンジ
ンを再始動させず、アイドルストップを維持することでエンジンの駆動
力を車両に伝達させていない。甲31に記載された発明についても、甲 1
20 発明と同様、エンジン自動始動時のクリープ現象による車両の動き出し
(飛び出し)の防止を課題とすることから、エンジン自動停止条件とし
てではなく、エンジンの自動停止時又はその後に、ブレーキが作動して
いるか否かを判断している。
ウ よって、甲1発明に甲5記載事項を適用して、制動保持装置の異常を検
25 出した際に、エンジン自動停止始動装置の作動を禁止することは、当業
者が容易に想到し得たことではない。
(2) 仮に、当業者であれば、制動保持装置の異常検出時にエンジン停止をす
ると危険であることを当然に予測し得たとしても、制動保持装置の異常検出
時には、甲5に記載されたように、「警報ランプ及び警報ブザーを作動させ
て、運転者に注意を促す」構成を採用することで、エンジンが停止しても危
5 険を回避することができることもある。よって、エンジン自動停止装置の作
動を禁止する構成を採用することが、当業者が適宜なし得た設計事項とはい
えない。
【被告の主張】
(1) 原告は、甲1発明に甲5記載事項を適用すると甲1の処理内容に矛盾す
10 るとか、制動保持装置の異常を検出した際に、エンジン自動停止始動装置の
作動を禁止し、エンジンを停止させないことは本件発明の技術思想に反する
とか述べるが、意味不明な主張であり、単に甲1の記載内容が理解できてい
ないにすぎない。制動保持装置に異常があれば、甲1発明において、安全性
の観点から必須の特徴とされるエンジン自動停止始動装置と制動保持装置の
15 各作動の一体不可分性が害されているから、エンジンを自動停止してはなら
ないのであり、S26で制動保持信号が出力されず、ステップS27のエン
ジン停止信号も出力されず、エンジンが停止されないことになるのが、甲1
発明の趣旨である。
(2) 甲30及び甲31は、甲 1 発明の解釈に何ら影響を与えるものではなく、
20 容易想到性の検討において、考慮される余地のないものである。すなわち、
甲30は、本件発明及び甲1発明とは異なる手動変速機付車両に関するもの
で、「ブレーキ液圧保持装置」に相当する手段すら有さず、その課題、そし
て提案された解決手段も、甲1発明あるいは本件発明の従来技術には何ら関
係ない。また、甲31は、記載された技術事項は甲1発明とは大きく異なり、
25 本件発明の「ブレーキ液圧保持装置」に対応する制動保持装置は一切示され
ておらず、甲1発明の必須要件である「制動保持装置」の故障どころかその
存在さえ一切開示しないのであるから、甲1発明の解釈に影響を及ぼさない。
(3) 甲1発明は、制動保持装置26による制動の作動をもって、エンジンを
自動停止させることの前提条件としているのであるから、甲5記載事項を適
用した際にエンジン自動停止始動装置の作動を禁止することは、当業者が当
5 然になすことである。
第4 当裁判所の判断
1 甲1及び甲5の記載について
(1) 甲1の記載について
甲1には、図面とともに以下の記載がある。
10 ア 本考案は、自動変速機付き車両に適用されるエンジン自動停止始動装置
に関するものである(甲1の2頁)。
イ 自動変速機付き車両に適用される従前のエンジン自動停止始動装置、例
えば、特開昭50-148731号公報に記載されている装置では、シ
フトレバーがどのレンジにあってもアクセルペダルを踏込めば再始動す
15 るようになっている。そして、再始動時の自動変速機内の変速ギア位置
は一速に選択されている。従って、シフトレバーがDレンジにある場合、
再始動のためにアクセルペダルを僅かに踏込めば問題は生じないが、踏
込み量が大きいと再始動と同時に急発進する惧れがある。
そこで、駐車ブレーキやフットブレーキが作動していることをエンジ
20 ン自動停止や再始動の条件として含ませることも可能であるが、(1)車両
が停止した後に駐車ブレーキを作動させないとエンジンが自動停止しな
い、(2)車両が停止した後もフットブレーキを踏み続けていないとエンジ
ンが自動停止しない、(3)再始動の際、フットブレーキが踏込まれていな
かったり、駐車ブレーキが作動していないとエンジンが再始動しない、
25 等の問題があり、エンジン自動停止始動装置を有効に活用させることが
できず、かかる装置に基づいた燃費向上、排気エミッションの向上が実
質的に得られない惧れがある(甲1の2~4頁)。
ウ 本考案の目的は、このような問題点に鑑み、自動変速機付き車両に適用
しても有効に活用できるようにしたエンジン自動停止始動装置を提供す
ることにある(甲1の4頁)。
5 エ 本考案は、車両を制動する制動装置と自動変速機とを有する車両に用い
られるエンジン自動始動停止装置において、車両の速度に応じた車速信
号を出力する車速センサおよびスロットルバルブがほぼ全閉のときにア
イドル信号を出力するアイドルスイッチを含み、エンジンおよび車両各
部の状態を検出するセンサ群と、センサ群からの検出信号に基づいてエ
10 ンジン停止条件が満足したと判断したときにエンジン停止信号を出力す
る停止信号発生手段と、アイドル信号が生起していないで、かつ、セン
サ群からの検出信号に基づいてエンジン再始動条件が満足したと判断し
たときにエンジン再始動信号を出力する再始動信号発生手段と、エンジ
ン停止信号に応動してエンジンを停止させるエンジン停止手段と、エン
15 ジン再始動信号に応動してエンジンを再始動させるエンジン再始動手段
と、車速信号に基づいて車速が零であると判断されたときに車速零信号
を出力する車速判定手段と、車速零信号が出力されているときに制動保
持信号を出力し、エンジン始動後に制動解除信号を出力する制動保持解
除信号発生手段と、制動保持信号に応動して制動装置を作動状態に保持
20 し、制動解除信号に応動して作動状態にある制動装置の作動を解除する
制動保持手段とを具備したことを特徴とする(甲1の4~5頁)。
オ 第1図は本考案の一実施例の構成を示し、エンジン1には、インジェク
タ3、スタータ5、イグナイタ7が設けられ、エンジン1の出力軸には
自動変速機9が接続されている。
25 エンジン1の各気筒には、インテークマニホルド11及びエキゾース
トマニホルド13が接続され、インテークマニホルド11には、アクセ
ルペダルと連動のスロットルバルブ15が設けられている。また、17
はパーキングブレーキ、19は運転席の表示パネルである。
スロットルバルブ15には、その開度を検出するスロットル位置セン
サ15aと、全閉状態を検出するアイドルスイッチ15bとが設けられ
5 ている。自動変速機9には、各レンジに応じたニュートラルレンジ信号
やドライブレンジ信号等を出力するレンジスイッチ群21が設けられ、
また、自動変速機出力軸の回転数に応じた車速信号を出力する車速セン
サ23が設けられている。
ブレーキペダル(不図示)が踏込まれているときにブレーキペダル信
10 号を出力するブレーキスイッチ24がブレーキペダルの近傍に設けられ、
また、制動保持装置26がブレーキ装置(不図示)と協働するように設
けられている。この制動保持装置26は、例えば、ブレーキペダルに
よって制御されるマスタシリンダ(不図示)の入力ロッド(不図示)を、
保持装置26の電磁石を励磁することにより所定の位置で保持するよう
15 に構成することができ、ブレーキペダルを踏込んでいるときに電磁石を
励磁すれば、ブレーキペダルが解放されても制動装置が保持されるよう
にすることができる。更に、他の公知技術を用いてもよいことは勿論で
あり、例えば、特公昭44-22247号、特開昭48-45332号、
特開昭51-43526号公報に記載の技術を用いることができる(甲
20 1の5~7頁)。
カ 第2図は第1図に示した制御回路37の詳細構成例を示す(甲1の8
頁)。
キ 第4図は、そのエンジン自動停止始動処理の一手順を示す。第4図に示
すプログラムが起動されると、ステップS21では、車速信号に基づい
25 て車速が零か、厳密には車速が所定値以下か否かが判断され、ステップ
S22では、アイドルスイッチ15bからのアイドル信号に基づいてス
ロットルバルブ15が全閉しているか否かを判断し、ステップS23で
は、車速が零になった時点からある認定時間、例えば1.5秒が経過し
たか否かが判断され、ステップS24では、ブレーキペダル信号の有無
によりブレーキペダルが踏込まれているか否かが判断される。ここで、
5 ステップS23の判断を行っているのは、車両が停止した後も継続して
ブレーキペダルが踏込まれている場合には、運転者が車両を停止させる
意志があると判断するためである。
更にステップS25では、エンジンを自動停止させるための他の停止
条件、例えば、ターンシグナルが出されていないこと、ヘッドランプが
10 点灯していないこと、エアコンディショナが作動していないこと、水温
が所定以上であること、等が、ターン信号、ライト信号、エアコン信号、
水温信号等により判断される。
これらのステップS21~S25がすべて肯定判断されれば、エンジ
ン自動停止条件が満足されたこととなるが、制動装置の作動状態を継続
15 して保持するため、ステップS26では、I/O37eから制動保持装
置26に制動保持信号を出力する。次いで、ステップS27に進む。
ステップS27では、I/O37eから、エンジン停止信号を構成す
る、燃料カット信号、点火カット信号を燃料リレー31、点火リレー3
5にそれぞれ出力し、これにより、イグナイタ7を減勢して点火プラグ
20 に高電圧が供給されないようにするとともに、インジェクタ3を減勢し
て燃料を噴射しないようにし、以て、エンジン1を停止させる。また、
ステップS27では、I/O37eから停止ランプ27へ点灯信号を出
力して停止ランプ27を点灯させる(甲1の10~12頁)。
ク このように、第4図に示した手順は、エンジン自動停止条件がすべて満
25 足され、ブレーキペダルが踏込まれているときに、自動的に制動装置を
作動状態に保持し、エンジンが再始動して、所定の回転数以上になった
ときに、制動装置の作動状態を解除するものである(甲1の13~14
頁)。
ケ 以上説明したように、本考案によれば、エンジン自動停止時に制動装置
の作動状態を保持するようにするとともに、エンジン再始動後に、作動
5 状態にある制動装置による制動を解除するようにしたので、駐車ブレー
キの作動を、エンジン自動停止や再始動の条件とする必要がなく、エン
ジン自動停止始動装置を有効に活用することができる(甲1の14頁)。
コ 第1図
サ 第2図
シ 第4図
(2) 甲5の記載について
甲5には以下の記載事項がある。
ア 【発明が解決しようとする課題】
従来のブレーキ補助装置は、作動時にブレーキ液圧を一定に保つよう
5 に構成されたものであり、例えば坂道等で駐車中の車両が動き出した場
合に、積極的にブレーキ液圧を増加させて車両の動きを止めるものでは
なかった(【0005】 。
)
そこで、車両のブレーキオイル供給系にブレーキ液圧を調整できるよ
うなアクチュエータを設け、車速センサ等の各種センサ類からの検出情
10 報に基づいて、駐車中の車両が動き出したと判断すると、コントローラ
がブレーキアクチュエータの作動を制御して、積極的に車両を停止させ
るように構成した駐車ブレーキ安全装置を設けることが考えられる(【0
006】 。
)
このような駐車ブレーキ安全装置においては、装置の作動を解除する
15 ための何らかの手段が必要になるが、駐車ブレーキ安全装置の作動を簡
単に解除できるように構成してしまうと、運転者が無意識にこれを解除
した場合に、運転者は駐車時にブレーキ装置が作動していないにもかか
わらずこれが作動しているものと認識してしまう事が考えられる(【00
07】 。
)
20 本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、駐車ブレーキ安
全装置の作動解除を行なう場合は、運転者にこの解除動作を十分に認識
させるようにした、駐車ブレーキ安全装置を提供することを目的とする
(【0008】 。
)
イ まず、上述の坂道発進補助装置50について説明すると、この坂道発進
25 補助装置50は、図2に示すブレーキペダル(サービスブレーキ操作部
材)4を踏んで車両1を停止させた場合に作動するものであって、運転
者がブレーキペダル4を踏んで車両1が停止したことが所定時間以上検
出されると、ブレーキ液圧供給系(ブレーキ作動用非圧縮流体供給系)
6に設けられた切り換え弁(マグネットバルブ)7を切り換えて、ブ
レーキ液圧供給系6内のブレーキオイルを封じ込めて、運転者がブレー
5 キペダル4から足を離しても制動力を保持するようになっている(【00
17】 。
)
ウ 次に、坂道発進補助装置50の作動警報について説明すると、作動解除
コントローラ53には、パーキングスイッチ16、ドアスイッチ17及
びキースイッチ18が接続されており、坂道発進補助装置50の作動中
10 に運転者が以下の操作のいずれかを行なったことが検出されると、コン
トローラ9は警報ランプ20及び警報ブザー21を作動させて、運転者
に警報を行なうようになっている(【0046】 。
)
6.パーキングスイッチ16及びドアスイッチ17により、パーキン
グブレーキレバーを引かずにドアを開けたことが検出されたとき。
15 7.パーキングスイッチ16及びキースイッチ18により、パーキン
グブレーキレバーが引かれずにエンジンの停止が検出されたとき。
上述の6.の場合は、作動解除コントローラ53では、パーキングブ
レーキを作動させずに、運転者が車両1から離れると判断して警報信号
を設定し、ドライバ56から警報ランプ20及び警報ブザー21にこの
20 警報信号出力するようになっているのである。そして、これにより警報
ランプ20及び警報ブザー21を作動させて、運転者に注意を促すよう
になっているのである(【0047】 。
)
また、上述の6.、7.の場合以外にも、坂道発進補助装置50に異常
が発生したことが検出されると、上記と同様に警報ランプ20及び警報
25 ブザー21を作動させて、運転者に注意を促すようになっている。この
ように、車両1に坂道発進補助装置50をそなえることにより、発進と
停車とを頻繁に繰り返すような場合に、運転者の疲労を大きく低減する
ことができ、また、安全且つ確実に坂道発進を行なうことができるよう
になる(【0048】 。
)
2 争点1(甲1発明と甲5記載事項の技術思想の認定誤り、両者を組み合わ
5 せる動機付けの判断の誤り)について
(1) 甲1発明と甲5記載事項の技術思想の認定誤りについて
ア 甲1発明の技術思想について
(ア) 甲1には、①自動変速機付き車両に適用される従前のエンジン自動
停止始動装置では、シフトレバーがDレンジにある場合、アクセルペ
10 ダルの踏込み量が大きいと、再始動と同時に急発進するおそれがある
(上記1(1)イ)、②そこで、駐車ブレーキやフットブレーキが作動し
ていることをエンジン自動停止や再始動の条件として含ませることも
可能であるが、車両が停止した後に駐車ブレーキ又はフットブレーキ
を作動させないとエンジンが自動停止しないなどの問題があり、エン
15 ジン自動停止始動装置を有効に活用させることができず、かかる装置
に基づいた燃費向上、排気エミッションの向上が実質的に得られない
おそれがある(同イ)、③本考案の目的は、このような問題点に鑑み、
自動変速機付き車両に適用しても有効に活用できるようにしたエンジ
ン自動停止始動装置を提供することにある(同ウ)、④本考案は、車両
20 を制動する制動装置と自動変速機とを有する車両に用いられるエンジ
ン自動始動停止装置において、制動保持信号に応動して制動装置を作
動状態に保持し、制動解除信号に応動して作動状態にある制動装置の
作動を解除する制動保持手段とを具備したことを特徴とする(同エ)、
⑤本考案によれば、エンジン自動停止時に制動装置の作動状態を保持
25 するようにするとともに、エンジン再始動後に、作動状態にある制動
装置による制動を解除するようにしたので、駐車ブレーキ又はフット
ブレーキの作動を、エンジン自動停止や再始動の条件とする必要がな
く、エンジン自動停止始動装置を有効に活用することができる(同ケ)
との記載がある。
以上の甲1の記載を踏まえると、甲1発明は、自動変速機及びエンジ
5 ン自動停止装置を備えた車両において、エンジン自動停止後の再始動時
における急発進のおそれに対して、ブレーキの作動をエンジン自動停止
の条件に含ませる対処を運転手による作動により行う場合の前記課題を、
制動保持装置を具備してエンジン自動停止時に制動装置の作動状態を保
持するようにするとともに、エンジン再始動後に、作動状態にある制動
10 装置による制動を解除することにより解消する技術思想を有するものと
認められる。
(イ) 他方、原告が指摘するとおり、甲1には「エンジン自動停止始動装
置と制動保持装置の各作動の一体不可分性」なる記載は認められず、
このような「一体不可分性」が開示されているとは認められない。
15 被告は、甲1発明においてエンジン自動停止始動装置の作動によりエ
ンジンが自動停止するステップでは、エンジン停止信号を出力するス
テップS27の前に、ステップS26で制動保持装置26に制動保持信
号を出力するとされていることをもって、上記一体不可分性の根拠と主
張する。しかし、これは単にエンジン自動停止始動装置の再始動の際に
20 制動保持装置の作動が前提とされているものにすぎず、両者の作動の一
体性を基礎づけるものではない。
イ 甲5記載事項の技術思想について
上記1(2)のとおり、甲5は「坂道発進補助装置」を備えるものであり、
この「坂道発進補助装置」が「ブレーキペダル(サービスブレーキ操作
25 部材)4を踏んで車両1を停止させた場合に作動するものであって、運
転者がブレーキペダル4を踏んで車両 1 が停止したことが所定時間以上検
出されると、ブレーキ液圧供給系(ブレーキ作動用非圧縮流体供給系)
6に設けられた切り換え弁(マグネットバルブ)7を切り換えて、ブ
レーキ液圧供給系6内のブレーキオイルを封じ込めて、運転者がブレー
キペダル4から足を離しても制動力を保持する」ものである。そして、
5 「坂道発進補助装置50に異常が発生したことが検出されると、(中略)
警報ランプ20及び警報ブザー21を作動させて、運転手に注意を促す」
との構成も開示されており、その技術思想は、坂道発進補助装置を備え
た車両において、坂道発進補助装置の異常発生を検知して運転者へ警報
を発することで、安全かつ確実に坂道発進を行うものと理解される。
10 ウ 本件審決が示した「共通の技術思想」について
上記アで示した甲1発明の技術思想は、エンジン自動停止により発生
する問題(具体的には再始動時における急発進等)を制動保持装置の作
動状態を保持することにより解消しようとするものであるのに対し、上
記イで示した甲5記載事項の技術思想は、制動保持装置(坂道発進補助
15 装置)に異常が発生した場合の安全性を問題としているものであり、両
者における安全性は異なる状況を対象としたものである。
本件審決は、甲 1 発明と甲5記載事項の共通の技術思想として、「安全
性の観点から原動機付車両における車両停止時にブレーキがかかった状
態を保持する技術思想」という上記概念を括り出し、これを根拠に両者
20 の組合せの動機付けを導いているが、両者は、せいぜい、制動保持装置
による制動を利用した安全確保技術という技術分野の同一性を導き得る
にすぎず、上位化・抽象化された「技術思想の同一性」を帰結すること
には無理があるというべきである。
加えて、甲1が、本件審決のいう「エンジン自動停止装置と制動保持
25 装置の各作動の一体不可分性」を開示するものといえないことも前述の
とおりである。
本件審決のこれらの点に関する認定判断をそのまま採用することはで
きず、争点1に関する原告の主張は、上記の趣旨をいう限度において首
肯できるものである。
(2) その他の動機付けについて
5 ア 本件審決が示した「甲 1 発明と甲5記載事項の共通の技術思想」を離れ
て、甲1発明に甲5記載事項を組み合わせる動機付けがあるといえるか
について、更に検討する。
イ 甲1発明と甲5記載事項は、ともに制動保持装置(甲5においては坂道
発進補助装置)を備え、それらはブレーキがかかった状態を保持する機
10 能を有するものであることに照らすと、甲1発明及び甲5記載事項は、
そのような機能を用いる車両である点で共通する技術分野に属するとい
える。また、甲5記載事項と同様に、甲1発明においても、制動保持装
置の故障発生が想定され、それに対処する課題が存在することは当業者
には明らかである。
15 そうすると、甲1発明に触れた当業者は、上記の制動保持装置の故障
発生という課題を認識し、その課題を解決する点において、甲5記載事
項を甲1発明に適用する動機があるということができる。
ウ これに対し、原告は、甲1発明は、制動保持装置26が故障しているか
否かを検出する技術思想を有しておらず、故障を検知する甲5記載事項
20 を適用する動機付けに欠ける旨主張する。
しかし、上記1(1)エのとおり、甲1発明は、エンジンおよび車両各部
の状態を検出するセンサ群を備えるものであり、車速零信号が出力され
ているときに制動保持信号を出力し、エンジン始動後に制動解除信号を
出力する制動保持解除信号発生手段と、制動保持信号に応動して制動装
25 置を作動状態に保持し、制動解除信号に応動して作動状態にある制動装
置の作動を解除する制動保持手段とを具備している。そして、甲1発明
において制動保持装置の異常が検知された場合には、上記の甲1発明に
おいて求められている 状態、すなわち 、 制動保持装置の作動によりブ
レーキ液圧が作用し、もってブレーキがかかった状態を保持できなくな
ることは明らかである。そうすると、甲1発明に触れた当業者は、上記
5 の制動保持装置の故障発生という課題を認識し、その課題を解決するた
め、甲5記載事項における制動保持装置の異常を検出する信号を付加す
る動機付けがあるといえる。
エ さらに、原告は、仮に、甲1発明において制動保持装置の異常を検出し
た場合には、安全上の観点から、再始動時の急発進を防止するためにエ
10 ンジン自動停止を維持し、エンジンを再始動させないことによって、エ
ンジンの駆動力を伝達させないようにすることが当業者にとって明らか
であり、甲1発明に、「エンジン自動停止条件」として、制動保持装置の
異常を検出する信号を追加する動機付けがあるとはいえないとも主張す
る。
15 しかし、本件発明の構成との関係で問題とされているのは、甲1発明に
おけるエンジン自動停止始動装置の停止作動を禁止する構成であり、再
始動の点ではない。原告の上記主張は、その前提を誤っており、採用す
ることができない。
(3) 小括
20 以上により、本件審決の論理構成の一部に採用できない部分はあるもの
の、結論的には、甲1発明に甲5記載事項を適用する動機付けは認められる
というべきである。
3 争点2(相違点3に係る構成を得ることが容易想到又は設計事項とした判
断の誤り)について
25 (1) 甲1発明に甲5記載事項を適用する動機付けが認められることについて
は、上記2で述べたとおりである。そうすると、甲1発明に甲5記載事項の
制動保持装置の故障を検知して運転手へ警報を発する技術を適用することは
当業者が容易に想到し得るといえる。
そして、上記1(1)イ~エのとおり、甲1発明が、エンジン自動停止によ
り発生する問題を、センサ群からの検出信号に基づいて制動保持装置を作動
5 させることにより解消する技術思想を有することに照らせば、制動保持装置
の故障を検知し、制動保持装置を作動させることができない故障が生じた場
合には、その検知結果をエンジン自動停止条件の一つとして用い、相違点3
に係る「前記故障検出装置によって前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出
した時に前記原動機停止装置の作動を禁止する」構成とすることは、当業者
10 が容易になし得た事項といえる。
そうすると、甲1発明に甲5記載事項を適用した際に、本件発明の相違点
3に係る構成を得ることは、当業者の容易に想到し得たものといえる。
(2) これに対し、原告は、甲1発明のエンジン自動停止始動処理の手順に鑑
みると、「エンジン自動停止始動装置を安全な状態で作動させるための判断
15 用各種検出信号の一つとして制動保持装置異常検出信号を加え」ることは、
甲1の開示内容に反するものであり、エンジン自動停止始動処理の内容と矛
盾することから、阻害要因があると主張する。原告が指摘する矛盾とは、甲
1のエンジン自動停止始動処理の手順におけるステップS25で「エンジン
を自動停止させるための他の停止条件」として「制動保持装置26が作動し
20 ている」と判断されたときには、次のステップS26において「制動保持信
号を出力する」ことが不要になってしまい、矛盾するというものである。
しかし、ステップS25で制動保持装置に異常があれば、甲1発明が開
示する「安全性の観点から、エンジンがエンジン自動停止始動装置の作動に
より自動停止する場合には、制動保持装置の作動によりブレーキ液圧が作用
25 し、もってブレーキがかかった状態を保持する」技術思想から、エンジンを
自動停止してはならないのであり、S26で制動保持信号が出力されず、ス
テップS27のエンジン停止信号も出力されず、エンジンが停止されないこ
とになるにすぎない。ステップS26において「制動保持信号を出力する」
ことが不要になるからといって、甲1発明における処理内容に矛盾が生じる
ものでもなく、原告の主張は採用することができない。
5 (3) また、原告は、ブレーキ液圧保持装置が故障していないかを監視し、故
障を検出したらクリープ力を維持するため原動機を自動停止させないことは、
甲5や甲30及び甲31の記載から見て、当然ではないとも主張する。
しかし、上記(1)のとおり、甲1発明に甲5記載事項を適用して制動保持
装置の故障検知を行う際に、甲1発明の技術思想を踏まえて、その検知結果
10 をエンジン自動停止条件として用い、本件発明の「前記故障検出装置によっ
て前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出した時に前記原動機停止装置の作
動を禁止する」構成とすることは、当業者が当然なし得た事項といえる。
原告は上記主張の根拠として甲30及び甲31も挙げるが、甲30は、
本件発明や、甲1発明(自動変速機付き車両に適用されるエンジンの自動停
15 止始動装置に関するもの)とは異なる手動変速機付車両に関するもので、
「ブレーキ液圧保持装置」に相当する手段すら有さず、甲1発明、あるいは
本件発明の従来技術には関係がない。また、甲31に記載された技術事項は、
車両各部の状態から一定の条件に従って自動的にエンジンを停止、始動させ
るエンジンの自動停止始動装置の改良に関するものではあるが、本件発明の
20 「ブレーキ液圧保持装置」に対応する制動保持装置は一切示されていない。
結局、原告の挙げる甲30及び甲31は、本件発明や甲1発明とその構成が
異なっており、甲30及び甲31においてエンジンの自動停止が採用されて
いないからといって、上記(1)の判断は左右されない。
(4) 次に、原告は、制動保持装置の異常検出時に、エンジン自動停止装置の
25 作動を禁止する構成を採用することは、当業者が適宜なし得た設計事項とは
いえないと主張する。
しかし、一般に、装置の故障発生時の対処について、甲5記載事項のよ
うに単に運転手に警告を発するか、又は、甲 1 発明のように装置自体に対処
する機能を持たせるか、あるいは、両方を実施するかについては、いずれも
広く知られた対処方法であり、甲5記載事項適用の際に、いずれの対処を行
5 うかは当業者の適宜選択し得るものであって、設計事項の範疇といえる。そ
の旨をいう本件審決の判断に誤りはない。
4 結論
以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、本件審決に取り消すべき
違法は認められない。よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり
10 判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
宮 坂 昌 利
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
20 岩 井 直 幸
別紙
本件明細書の記載事項及び図面(抜粋)
【発明の詳細な説明】
5 【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動変速機を備えるとともに、原動機がアイドリング状
態でかつ所定の低車速以下においてブレーキペダルの踏込み時にはブレーキペダルの踏込み開
放時に比べてクリープの駆動力を低減する駆動力低減装置または/および車両停止時に原動機
を自動で停止可能な原動機停止装置を備え、さらにブレーキペダルの踏込み開放時にも引続き
10 ホイールシリンダのブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置を備える原動機付車両に
関するものである。
【0002】
【従来の技術】ブレーキペダルの踏込み開放時にもホイールシリンダのブレーキ液圧を保持可
能な手段としてブレーキ液圧保持装置(トラクションコントロールシステムも含む)を備える
15 原動機付車両が従来から知られている。
【0003】例えば、特開平9-202159号公報には発進クラッチを備えた車両における
ブレーキ力制御装置が開示されている。この車両は、走行レンジでの極低車速時に発進クラッ
チの係合状態を制御し、アイドリング状態におけるクリープの駆動力をブレーキペダルの踏込
み時にはブレーキペダルの踏込み開放時に比べて低減することによって、燃費の悪化などを防
20 止している。そして、ブレーキ力制御装置によって、ブレーキペダルの踏込みが開放された時
にクリープの駆動力が小さな状態から大きな状態に切り換わったことを検出するまでブレーキ
力を保持し、前記駆動力が大きくなるまでのタイムラグに起因する坂道発進時における車両の
後退を防止している。なお、クリープは、自動変速機を備える車両のシフトレバーでDレンジ
またはRレンジなどの走行レンジが選択されている時に、アクセルペダルを踏込まなくても
25 (原動機がアイドリング状態)、車両が這うようにゆっくり動くことである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前記特開平9-202159号公報に開示されているブレー
キ力制御装置が故障した場合、ブレーキペダルの踏込みを開放した時に駆動力が大きな状態に
切り換わるまでブレーキ力を保持することができない。その結果、坂道発進の際、ブレーキペ
ダルの踏込みを開放した時に、車両が後退する。
5 【0005】また、燃費の悪化をさらに防止するために、ブレーキペダルの踏込み時に駆動力
を低減させるとともに、車両停止時に原動機を自動で停止させる車両では、ブレーキペダルの
踏込み開放により原動機を自動で始動するとともに、駆動力を大きな状態にする。さらに、駆
動力の低減は行わないが、車両停止時に原動機を自動で停止させる車両では、ブレーキペダル
の踏込み開放により原動機を自動で始動する。この2つのいずれかの構成を有する原動機付車
10 両にブレーキ液圧保持装置を備えている場合も、ブレーキ液圧保持装置の故障によって、ブ
レーキペダルの踏込みを開放した時に駆動力が大きな状態に切り換わるまでブレーキ力を保持
することができない。その結果、坂道発進の際、ブレーキペダルの踏込みを開放した時に、車
両が後退する。
【0006】そこで、本発明の課題は、ブレーキ液圧保持装置が故障した場合に、駆動力を大
15 きな状態に維持または駆動力を大きな状態に切り換え、坂道発進時における車両の後退を防止
できる原動機付車両を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決した請求項1の発明に係る原動機付車両は、ア
クセルペダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機
20 から駆動輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、所定の低車速以下の時、前記駆動力の
大きさをブレーキペダルの踏込みに応じて切り換え、前記ブレーキペダルの踏込み時には前記
ブレーキペダルの踏込み開放時に比べて前記駆動力を低減する駆動力低減装置と、前記ブレー
キペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧
保持装置とを備える原動機付車両において、前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出する故障
25 検出装置を備え、前記故障検出装置によって前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出した時に
前記駆動力低減装置の作動を禁止することを特徴とする。この原動機付車両によれば、ブレー
キ液圧保持装置の故障検出時に駆動力低減装置の作動を禁止しているので、ブレーキペダルが
踏込まれて車両が所定の低車速以下になっても駆動力を大きな状態に維持する。また、駆動力
が小さな状態になった後にブレーキ液圧保持装置の故障が検出されても、直ちに、駆動力を大
きな状態に切り換えることができる。
5 【0008】また、前記課題を解決した請求項2の発明に係る原動機付車両は、アクセルペダ
ルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動輪
へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、所定の低車速以下の時、前記駆動力の大きさをブ
レーキペダルの踏込みに応じて切り換え、前記ブレーキペダルの踏込み時には前記ブレーキペ
ダルの踏込み開放時に比べて前記駆動力を低減する駆動力低減装置と、前記原動機付車両停止
10 時、前記原動機を停止可能な原動機停止装置と、前記ブレーキペダルの踏込み開放後も引続き
ホイールシリンダにブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置とを備える原動機付車両
において、前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出する故障検出装置を備え、前記故障検出装
置によって前記ブレーキ液圧保持装置の故障を検出した時に前記駆動力低減装置および前記原
動機停止装置の作動を禁止することを特徴とする。この原動機付車両によれば、ブレーキ液圧
15 保持装置の故障検出時に駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を禁止しているので、ブ
レーキペダルが踏込まれて車両が停止しても、原動機の作動を維持するとともに、駆動力を大
きな状態に維持する。また、原動機が自動で停止した後にブレーキ液圧保持装置の故障が検出
されても、直ちに、原動機を自動始動するとともに、駆動力も大きな状態にする。
【0009】さらに、前記課題を解決した請求項3の発明に係る原動機付車両は、アクセルペ
20 ダルの踏込み開放時にも変速機において走行レンジが選択されている場合は、原動機から駆動
輪へ駆動力を伝達する原動機付車両であって、前記原動機付車両停止時、前記原動機を停止可
能な原動機停止装置と、ブレーキペダルの踏込み開放後も引続きホイールシリンダにブレーキ
液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置とを備える原動機付車両において、前記ブレーキ液圧
保持装置の故障を検出する故障検出装置を備え、前記故障検出装置によって前記ブレーキ液圧
25 保持装置の故障を検出した時に前記原動機停止装置の作動を禁止することを特徴とする。この
原動機付車両によれば、ブレーキ液圧保持装置の故障検出時に原動機停止装置の作動を禁止し
ているので、ブレーキペダルが踏込まれて車両が停止しても、原動機の作動を維持し、駆動力
を大きな状態に維持する。また、原動機が自動で停止した後にブレーキ液圧保持装置の故障が
検出されても、直ちに、原動機を自動始動し、駆動力を大きな状態にする。
【0010】
5 【発明の実施の形態】以下に、本発明に係る原動機付車両の実施の形態を図面を参照して説明
する。図1は原動機付車両のシステム構成図、図2は原動機付車両のブレーキ液圧保持装置を
液圧式ブレーキ装置のブレーキ液圧回路内に設けたバリエーションの構成図、図3は原動機付
車両のブレーキ液圧保持装置を液圧式ブレーキ装置のブレーキ液圧回路外に設けたバリエー
ションの構成図、図4は原動機付車両のブレーキ液圧保持装置の具体的な構造を示す断面図、
10 図5は図4のブレーキ液圧保持装置の(a)リリーフ弁と絞り部分の要部を拡大した断面図、
(b)絞りを切削により形成する際の作用図、(c)絞りを押し付けにより形成する際の作用
図、図6は原動機付車両のブレーキ液圧保持装置に比例電磁弁を使用したバリエーションの構
成図、図7は原動機付車両の(a)ブレーキ液圧保持装置の電磁弁をONするためのロジック、
(b)エンジン自動停止条件、図8は原動機付車両の(a)ブレーキ液圧保持装置の電磁弁を
15 OFFするためのロジック、(b)エンジン自動始動条件、図9は原動機付車両においてブ
レーキ液圧保持装置が正常時の(a)駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タ
イムチャート、(b)車両停止時のブレーキ液圧回路の構成図、図10は原動機付車両におい
てリリーフ弁を具備しないブレーキ液圧保持装置の正常時の(a)駆動力とブレーキ力および
電磁弁ON/OFFの制御タイムチャート、(b)車両停止時のブレーキ液圧回路の構成図、
20 図11は原動機付車両においてエンジンが停止しない場合でかつブレーキ液圧保持装置が正常
時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャート、図12は原動機付
車両の故障検出装置の(a)回路図、(b)真理値表、(c)(b)の真理を示す図、図13
は原動機付車両において駆動力低減装置を備える場合でかつブレーキ液圧保持装置が故障時の
駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャート、図14は原動機付車両
25 において駆動力低減装置および原動機停止装置を備える場合でかつブレーキ液圧保持装置が故
障時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャート、図15は原動機
付車両において原動機停止装置を備える場合でかつブレーキ液圧保持装置が故障時の駆動力と
ブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャートである。
【0011】本発明の原動機付車両は、ブレーキペダルの踏込み開放時にもホイールシリンダ
にブレーキ液圧を作用可能なブレーキ液圧保持装置を備えるとともに、そのブレーキ液圧保持
5 装置の故障を検出する故障検出装置を備える。また、原動機がアイドリング状態でかつ所定の
低車速以下においてブレーキペダルが踏込まれている時にクリープの駆動力を低減する駆動力
低減装置または/および車両停止中に原動機を自動で停止可能な原動機停止装置を備える。本
実施の形態で説明する原動機付車両は、原動機としてガソリンなどを動力源とする内燃機関で
あるエンジンと電気を動力源とするモータを備えるハイブリッド車両であり、変速機としてベ
10 ルト式無段変速機(以下、CVTと記載する)を備える車両である。なお、本発明の原動機付
車両は、原動機としてエンジンのみ、モータのみなど、原動機を特に限定しない。また、変速
機としてトルクコンバーターを備える自動変速機などの自動変速機であれば、変速機を特に限
定しない。
【0012】《システム構成》まず、本実施の形態の原動機付車両(以下、車両と記載)のシ
15 ステム構成を図1を参照して説明する。車両は、原動機としてエンジン1とモータ2を備え、
変速機としてCVT3を備える。エンジン1は、燃料噴射電子制御ユニット(以下、FIEC
Uと記載する)に制御される。なお、FIECUは、マネージメント電子制御ユニット(以下、
MGECUと記載する)と一体で構成し、燃料噴射/マネージメント電子制御ユニット(以下、
FI/MGECUと記載する)4に備わっている。また、モータ2は、モータ電子制御ユニッ
20 ト(以下、MOTECUと記載する)5に制御される。さらに、CVT3は、CVT電子制御
ユニット(以下、CVTECUと記載する)6に制御される。
【0013】さらに、CVT3には、駆動輪8、8が装着された駆動軸7が取り付けられる。
駆動輪8、8には、ホイールシリンダWC(図2参照)などを備えるディスクブレーキ9、9
が装備されている。ディスクブレーキ9、9のホイールシリンダWCには、ブレーキ液圧保持
25 装置RUを介してマスターシリンダMCが接続される。マスターシリンダMCには、マスター
パワMPを介してブレーキペダルBPからの踏込みが伝達される。ブレーキペダルBPは、ブ
レーキスイッチBSWによって、ブレーキペダルBPが踏込まれているか否かが検出される。
また、ブレーキスイッチBSWは、ブレーキペダルBPにドライバが足を置いているか否かを
検出することをもって、ブレーキペダルBPの踏込みの有無を検出するものでもよい。
【0014】エンジン1は、熱エネルギーを利用する内燃機関であり、CVT3および駆動軸
5 7などを介して駆動輪8、8を駆動する。なお、エンジン1は、燃費悪化の防止などのために、
車両停止時に自動で停止させる場合がある。そのために、車両は、エンジン自動停止条件を満
たした時にエンジン1を停止させる原動機停止装置を備える。
【0016】CVT3は、ドライブプーリとドリブンプーリとの間に無端ベルトを巻掛け、各
プーリ幅を変化させて無端ベルトの巻掛け半径を変化させることによって、変速比を無段階に
10 変化させる。そして、CVT3は、出力軸に発進クラッチを連結し、この発進クラッチを係合
して、無端ベルトで変速されたエンジン1などの出力を発進クラッチの出力側のギアを介して
駆動軸7に伝達する。なお、このCVT3を備える車両は、クリープ走行が可能であるととも
に、このクリープの駆動力を低減する駆動力低減装置を備える。クリープの駆動力は、発進ク
ラッチの係合力によって調整され、駆動力が大きい状態と駆動力が小さい状態の2つの大きさ
15 を有する。この駆動力の大きい状態は、傾斜5°に釣り合う駆動力を有する状態であり、本実
施の形態では強クリープと呼ぶ。他方、駆動力の小さい状態は、殆ど駆動力がない状態であり、
本実施の形態では弱クリープと呼ぶ。強クリープでは、アクセルペダルの踏込みが開放された
時(すなわち、アイドリング状態時)で、かつポジションスイッチPSWで走行レンジ(Dレ
ンジ、LレンジまたはRレンジ)が選択されている時に、ブレーキペダルBPの踏込みを開放
20 すると車両が這うようにゆっくり進む。弱クリープでは、所定の低車速以下の時でかつブレー
キペダルBPが踏込まれた時で、車両は停止か微低速である。なお、ポジションスイッチPS
Wのレンジ位置は、シフトレバーで選択する。ポジションスイッチPSWのレンジは、駐停車
時に使用するPレンジ、ニュートラルであるNレンジ、バック走行時に使用するRレンジ、通
常走行時に使用するDレンジおよび急加速や強いエンジンブレーキを必要とする時に使用する
25 Lレンジがある。また、走行レンジとは、車両が走行可能なレンジ位置であり、この車両では
Dレンジ、LレンジおよびRレンジの3つのレンジである。さらに、ポジションスイッチPS
WでDレンジが選択されている時には、モードスイッチMSWで、通常走行モードであるD
モードとスポーツ走行モードであるSモードを選択できる。
【0020】ディスクブレーキ9、9は、駆動輪8、8と一体となって回転するディスクロー
タを、ホイールシリンダWC(図2参照)を駆動源とするブレーキパッドで挟み付け、その摩
5 擦力で制動力を得る。ホイールシリンダWCには、ブレーキ液圧保持装置RUを介してマス
ターシリンダMCのブレーキ液圧が供給される。
【0023】この車両に備わる駆動力低減装置は、CVT3およびCVTECU6などで構成
される。駆動力低減装置は、ブレーキペダルBPが踏込まれている時かつ車速が5km/h以
下の時(所定の低車速以下の時)に、クリープの駆動力を低減し、強クリープ状態から弱ク
10 リープ状態にする。駆動力低減装置は、CVTECU6で、ブレーキペダルBPが踏込まれて
いるかをブレーキスイッチBSWの信号から判断するとともに、車速が5km/h以下である
かをCVT3の車速パルスから判断する。そして、ブレーキペダルBPが踏込まれかつ車速が
5km/h以下であることを判断すると、CVTECU6からCVT3に発進クラッチの係合
力を弱める命令を送信し、クリープの駆動力を低減する。さらに、CVTECU6では前記2
15 つの基本条件に追加して、ブレーキ液温が所定値以上、ブレーキ液圧保持装置RUが正常(ブ
レーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA、SVB(図2参照)の駆動回路が正常も含む)およ
びポジションスイッチPSWのレンジがDレンジであることも判断し、5つの条件を満たした
ときに、駆動力を低減させている。車両は、この駆動力低減装置による駆動力の低減によって、
燃費の悪化を防止する。なお、弱クリープ状態およびエンジン1停止の時には、CVTECU
20 6で、強クリープになるため条件を判断する。そして、強クリープの条件が満たされると、C
VTECU6からCVT3に発進クラッチの係合力を強める命令を送信し、クリープの駆動力
を大きくする。また、故障検出装置DUでブレーキ液圧保持装置RUの故障が検出されると、
駆動力低減装置の作動は、禁止される。
【0046】ホイールシリンダWCは、車輪ごとに設けられ、マスターシリンダMCにより発
25 生しブレーキ液配管FPを通してホイールシリンダWCに伝達されたブレーキ液圧を、車輪を
制動するための機械的な力(ブレーキ力)に変換する役割を果す。ホイールシリンダWCの本
体には、ピストン(図示せず)が挿入されており、このピストンがブレーキ液圧に押されて、
ディスクブレーキの場合はブレーキパッドを、またはドラムブレーキの場合はブレーキシュウ
を作動させて車輪を制動するブレーキ力を作り出す。なお、前記以外に前輪のホイールシリン
ダWCのブレーキ液圧と後輪のホイールシリンダWCのブレーキ液圧を制御するブレーキ液圧
5 制御バルブなどが、必要に応じて設けられる。
【0082】《ブレーキ液圧が保持される場合》次に、ブレーキ液圧保持装置RUによりブ
レーキ液圧が保持される場合を説明する。ブレーキ液圧が保持されるのは、図7(a)に示す
ように、I )車両の駆動力が弱クリープ状態になり、かつ、II)車速が0km/hになった場
合である。この条件を満たすときに、2つの電磁弁SVA、SVBがともにONして、閉状態
10 になり、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧が保持される。なお、駆動力が弱クリープ状態
(F_WCRON=1)になるのは、弱クリープ指令(F_WCRP=1)が発せられた後で
ある。この強クリープ状態から弱クリープ状態への駆動力の低減は、駆動力低減装置によって
行う。
【0085】〔I .弱クリープ指令が発せられる条件〕弱クリープ指令(F_WCRP)は、
15 図7(a)に示すように、1)ブレーキ液圧保持装置RUが正常であること、2)ブレーキ液温所
定値以上であること(F_BKTO)、3)ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチ
BSWがONになっていること(F_BKSW)、4)車速が5km/h以下になっていること
(F_VS)、5)ポジションスイッチPSWがDレンジであること(F_POSD)、の各条
件がすべて満たされた場合に発せられる。この各条件は、駆動力低減装置で判断される。なお、
20 駆動力を弱クリープ状態にするのは、前記したようにドライバにブレーキペダルBPを強く踏
込ませるためという理由に加えて、燃費を向上させるためという理由もある。
【0086】1) ブレーキ液圧保持装置RUが正常でない場合に弱クリープ指令が発せられな
いのは、例えば、電磁弁SVA、SVBがON(閉状態)にならないなどの異常がある場合に
弱クリープ指令が発せられて弱クリープ状態になると、ホイールシリンダWCにブレーキ液圧
25 が保持されないために、坂道発進時に、ドライバがブレーキペダルBPの踏込みを解除すると、
一気にブレーキ力がなくなり車両が坂道を後退してしまうからである。この場合、強クリープ
状態を保つことで、坂道での後退を防止して坂道発進(登坂発進)を容易にする。
【0090】5) ポジションスイッチPSWがDレンジなどである場合と異なり、ポジション
スイッチPSWがRレンジまたはLレンジでは、弱クリープ指令は発せられない。強クリープ
走行による車庫入れなどを容易にするためである。
5 【0092】〔II.エンジンの自動停止条件〕燃費をさらに向上させるため、車両の停止時に、
エンジン1が自動停止されるが、この条件について説明する。以下の各条件がすべて満たされ
た場合に、エンジン停止指令(F_ENGOFF)が発せられ、エンジン1が自動的に停止す
る(図7(b)参照)。このエンジン1の自動停止は、原動機停止装置が行う。したがって、
以下のエンジン自動停止条件は、原動機停止装置で判断される。
10 【0093】1) ポジションスイッチPWSがDレンジであり、かつモードスイッチMSWが
Dモード(以下この状態を「DレンジDモード」という)であること; DレンジDモード以
外では、イグニッションスイッチを切らない限りエンジン1は停止しない。例えば、ポジショ
ンスイッチPSWがPレンジやNレンジの場合に、エンジン1を自動的に停止させる指令が発
せられてエンジン1が停止すると、ドライバは、イグニッションスイッチが切られたものと思
15 い込んで車両を離れてしまうことがあるからである。なお、ポジションスイッチPSWがDレ
ンジであり、かつモードスイッチMSWがSモード(以下この状態を「DレンジSモード」と
いう)の場合は、エンジン1の自動停止を行なわない。ドライバは、DレンジSモードでは、
素早い車両の発進などが行えることを期待しているからである。また、ポジションスイッチP
SWがLレンジ、Rレンジの場合に、エンジン1の自動停止が行なわれないのは、車庫入れな
20 どの際に頻繁にエンジン1が自動停止したのでは、煩わしいからである。
【0094】2) ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONの状態であ
ること; ドライバに注意を促すためである。ブレーキスイッチBSWがONの場合、ドライ
バは、ブレーキペダルBPに足を置いた状態にある。したがって、仮に、エンジン1の自動停
止により駆動力がなくなって車両が坂道を後退し始めても、ドライバは、ブレーキペダルBP
25 の踏増しを容易に行い得るからである。
【0095】3) エンジン1始動後、一旦車速が5km/h以上に達すること; クリープ走
行での車庫出し車庫入れを容易にするためである。車両を車庫から出し入れする際の切り替え
し操作などで、停止するたびにエンジン1が自動停止したのでは、煩わしいからである。
【0096】4) 車速0km/hであること; 停止していれば駆動力は必要がないからであ
る。
5 5)バッテリ容量が所定値以上であること; エンジン1停止後、モータ2でエンジン1を再始
動することができないという事態を防止するためである。
6)電気負荷所定値以下であること; 負荷への電気の供給を確保するためである。
【0097】7) マスターパワMPの定圧室の負圧が所定値以上であること; 定圧室の負圧
が小さい状態でエンジン1を停止すると、定圧室の負圧はエンジン1の吸気管より導入してい
10 るため、定圧室の負圧はさらに小さくなり、ブレーキペダルBPを踏込んだ場合の踏込み力の
増幅が小さくなりブレーキの効きが低下してしまうからである。
【0098】8) アクセルペダルが踏まれていないこと; ドライバは、駆動力の増強を望ん
でおらず、エンジン1を停止しても支障がないからである。
【0099】9) CVT3が弱クリープ状態であること; ドライバに強くブレーキペダルB
15 Pを踏込ませて、エンジン1停止後も車両が後退するのを防ぐためである。すなわち、エンジ
ン1が始動している場合、坂道での後退は、ブレーキ力とクリープ力の合計で防止される。こ
のため、強クリープ状態では、ドライバがブレーキペダルBPの踏込みを加減して、強く踏込
まないで弱くしか踏込んでいない場合がある。
【0100】10) CVT3のレシオがローであること; CVT3のレシオ(プーリ比)が
20 ローでない場合は円滑な発進ができない場合があるため、エンジン1の自動停止は行わない。
したがって、円滑な発進のため、CVT3のレシオがローである場合には、エンジン1の自動
停止を行う。
【0101】11) エンジン1の水温が所定値以上であること; エンジン1の自動停止・自
動始動は、エンジン1が安定している状態で実施するのが好ましいからである。水温が低いと、
25 寒冷地では、エンジン1が再始動しない場合があるからである。
【0102】12) CVT3の油温が所定値以上であること; CVT3の油温が低い場合
は、発進クラッチの実際の油圧の立ち上りに後れを生じ、エンジン1の始動から強クリープ状
態になるまでに時間がかかり、坂道で車両が後退する場合があるため、エンジン1の停止を禁
止する。
【0103】13) ブレーキ液の温度が所定値以上であること; ブレーキ液の温度が低い場
5 合は、絞りDでの流体抵抗が大きくなり、不要なブレーキの引きずりが生じるからである。こ
のため、ブレーキ液圧保持装置RUは作動させない。したがって、エンジン1の自動停止およ
び弱クリープ状態を禁止して、強クリープによって、坂道での後退を防止する。なお、ブレー
キ液圧回路内RUに絞りDを設けない構成のブレーキ液圧保持装置RUの場合、例えば、弁の
開度を変化させることができる比例電磁弁LSVを用いる構成のブレーキ液圧保持装置RUの
10 場合は、ブレーキ液の温度管理の重要性はさほど高くない。また、ブレーキペダルPB自体の
戻りを遅くする構成のブレーキ液圧保持装置RUの場合も、ブレーキ液の温度管理はさほど重
要ではない。したがって、ブレーキ液温がある程度低い場合でも、エンジン自動停止指令を発
することができる。
【0104】14) ブレーキ液圧保持装置RUが正常であること; ブレーキ液圧保持装置RU
15 に異常がある場合は、ブレーキ液圧を保持することができないことがあるので、強クリープ状
態を継続させて、坂道で車両が後退しないようにする。したがって、ブレーキ液圧保持装置R
Uに異常がある場合は、エンジン1の自動停止を行わない。他方、ブレーキ液圧保持装置RU
が正常である場合は、エンジン1の自動停止を行っても支障がない。
【0105】《ブレーキ液圧の保持が解除される場合》一旦、ON(閉状態)になった電磁弁
20 SVA、SVBは、図8(a)に示すように、I )ブレーキペダルBPの踏込み開放後、所定
の遅延時間が経過した場合、II)駆動力が強クリープ状態になった場合、III )車速が5km
/h以上になった場合、のいずれかの条件を満たすときにOFF(開状態)になり、ブレーキ
液圧の保持が解除される。
【0109】〔エンジンの自動始動条件〕エンジン1の自動停止後、エンジン1は以下の場合
25 に自動的に始動されるが、この条件を説明する(図8(b)参照)。以下の条件のいずれかを
満たす場合に、エンジン1が自動的に始動する。
【0110】1) DレンジDモードであり、かつブレーキペダルBPの踏込みが開放されたこ
と; ドライバの発進操作が開始されたと判断されるため、エンジン1は自動始動する。
【0111】2) DレンジSモードに切替えられた場合; DレンジDモードでエンジン1が
自動停止した後、DレンジSモードに切替えると、エンジン1は自動始動する。ドライバはD
5 レンジSモードでは素早い発進を期待するからであり、ブレーキペダルBPの踏込みの開放を
待つことなく、エンジン1を自動始動する。
【0112】3) アクセルペダルが踏込まれた場合; ドライバは、エンジン1による駆動力
を期待しているからである。
【0113】4) Pレンジ、Nレンジ、Lレンジ、Rレンジに切替えられた場合; Dレンジ
10 Dモードでエンジン1が自動停止した後、Pレンジなどに切替えると、エンジン1は自動始動
する。PレンジまたはNレンジに切替えた場合に、エンジン1が自動始動しないと、ドライバ
はイグニッションスイッチを切ったものと思ったり、イグニッションスイッチを切る必要がな
いものと思って、そのまま車両から離れてしまうことがあり、フェイルアンドセーフの観点か
ら好ましくないからである。このような事態を防止するため、エンジン1を再始動する。また、
15 Lレンジ、Rレンジに切替えられた時にエンジン1を自動始動するのは、ドライバに発進の意
図があると判断されるからである。
【0114】5) バッテリ容量が所定値以下になった場合; バッテリ容量が所定値以上でな
ければエンジン1の自動停止はなされないが、一旦、エンジン1が自動停止された後でも、
バッテリ容量が低減する場合がある。この場合は、バッテリに充電することを目的としてエン
20 ジン1が自動始動される。なお、所定の値は、これ以上バッテリ容量が低減するとエンジン1
を自動始動することができなくなるという限界のバッテリ容量よりも高い値に設定される。
【0115】6) 電気負荷が所定値以上になった場合; 例えば、照明などの電気負荷が稼動
していると、バッテリ容量が急速に低減してしまい、エンジン1を再始動することができなく
なってしまうからである。したがって、バッテリ容量にかかわらず電気負荷が所定値以上であ
25 る場合は、エンジン1を自動始動する。
【0116】7) マスターパワMPの負圧が所定値以下になった場合; マスターパワMPの
負圧が小さくなるとブレーキの制動力が低下するため、これを確保するためにエンジン1を再
始動する。
【0117】8) ブレーキ液圧保持装置RUが故障している場合; 電磁弁SVA、SVBや
電磁弁の駆動回路などが故障している場合は、エンジン1を始動して強クリープ状態を作り出
5 す。エンジン1自動停止後、電磁弁の駆動回路を含むブレーキ液圧保持装置RUに故障が検出
された場合は、発進時、ブレーキペダルBPの踏込みが開放された際に、ブレーキ液圧を保持
することができない場合があるので、強クリープ状態にすべく、故障が検出された時点でエン
ジン1を自動始動する。すなわち、強クリープ状態で車両が後退するのを防止し、坂道発進を
容易にする。なお、ブレーキ液圧保持装置RUの故障検出は、故障検出装置DUで行う。
10 【0118】《ブレーキ液圧保持装置が正常時の制御タイムチャート(1)》次に、前記シス
テム構成を備えた車両について、走行時を例に、どのような制御が行われるのかを、図9を参
照して説明する。なお、車両のポジションスイッチPSWおよびモードスイッチMSWはD
モードDレンジで変化させないこととする。また、ブレーキ液圧保持装置RUは、リリーフ弁
RVを備えた構成のものである。ここで、図9(a)の上段の制御タイムチャートは、車両の
15 駆動力とブレーキ力の増減を時系列で示した図である。図中太い線が駆動力を示し、細い線が
ブレーキ力を示す。図9(a)の下段の制御タイムチャートは、電磁弁SVA、SVBのON
(閉)/OFF(開)を示した図である。図9(b)は、停止時のブレーキ液圧回路BCの状
態を示す図であり、電磁弁SV(SVA、SVB)は、ON状態(閉状態)にある。
【0137】《ブレーキ液圧保持装置の故障検出》次に、ブレーキ液圧保持装置RUの故障検
20 出について図1および図12乃至図15を参照して説明する。ブレーキ液圧保持装置RUが故
障すると、ブレーキペダルBPの踏込み開放時にブレーキ力を保持することができない。その
ため、車両は、駆動力低減装置で弱クリープ状態になっている場合や原動機停止装置でエンジ
ン1が自動停止状態になっている場合にブレーキペダルBPの踏込みが開放された時、強ク
リープ状態に切り換わるまでブレーキ力を保持することができない。その結果、坂道発進時、
25 車両は、ブレーキペダルBPの踏込みを開放した時に後退してしまう。そこで、ブレーキ液圧
保持装置RUが故障した時には、駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を停止する必要
がある。その故障を検出するために、車両は、故障検出装置DUを備える。
【0138】〔故障検出装置〕CVTECU6内の故障検出装置DUは、ブレーキ液圧保持装
置RUの電磁弁SVA、SVBを駆動(ON/OFF)するとともに、ブレーキ液圧保持装置
RUが正常に作動しているか否かを検出する。なお、ブレーキ液圧保持装置RUが正常に作動
5 しているか否かの検出は、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA、SVBの駆動回路が正
常か否かも含む。この電磁弁SVA、SVBの駆動回路は、故障検出装置DUに含まれる。そ
して、故障検出装置DUがブレーキ液圧保持装置RUの故障を検出すると、CVTECU6は、
弱クリープ状態なら強クリープ状態とするとともに、その故障が解消されるまで駆動力低減装
置による駆動力の低減を行わない。また、CVTECU6は、FI/MGECU4にブレーキ
10 液圧保持装置RUが故障していることを情報として送信する。そして、FI/MGECU4は、
エンジン1が自動停止状態ならエンジン1を自動始動するとともに、その故障が解消されるま
で原動機停止装置によるエンジン1の自動停止を行わない。なお、エンジン1の自動始動に
よって、直ちに、強クリープ状態にする。
【0139】故障検出装置DUを図12を参照して説明する。故障検出装置DUは、ブレーキ
15 液圧保持装置RUの2つの電磁弁SVA、SVBに対して、同一回路を各々備える。この2個
の同一回路は、自己診断機能を備える駆動素子であるインテリジェントドライバIDa、ID
bなどによって構成される。さらに、故障検出装置DUは、CVTECU6の中央処理装置
(以下、CPU6aと記載する)も含むものとする。なお、故障検出装置DUは同一構成およ
び同一作動を有する同一回路を備えるので、その1つである電磁弁SVAに対する回路につい
20 てのみ詳細に説明する。
【0157】前記したように、車両は、ブレーキ液圧保持装置RUの故障時に、強クリープ状
態を維持し、または弱クリープ状態またはエンジン1自動停止状態の場合には直ちに強クリー
プ状態に切り換える。その結果、この車両は、坂道発進時に、ブレーキペダルBPの踏込みを
開放しても後退することはない。
25 【0159】次に、車両のブレーキ液圧保持装置RUが故障している場合におけるブレーキ力
と駆動力の制御を時系列に沿って説明する。この車両は駆動力低減装置および原動機停止装置
を備えるが、ここでは、駆動力低減装置のみを備える場合、駆動力低減装置および原動機停止
装置を備える場合および原動機停止装置のみを備える場合の3つのパターンについて説明する。
【0160】《ブレーキ液圧保持装置の故障検出時の制御タイムチャート(1)》図13を参
照して、駆動力低減装置を備える場合でかつブレーキ液圧保持装置RUが故障時のブレーキ力
5 と駆動力の制御を時系列に沿って説明する。また、この場合は、駆動力低減装置および原動機
停止装置の両方を備えるが、エンジン自動停止条件を満たさないために、エンジン1が自動停
止しない場合にも該当する。なお、車両のポジションスイッチPSWおよびモードスイッチM
SWは、DレンジDモードを変化させないこととする。なお、図13の上段の制御タイム
チャートは、車両の駆動力とブレーキ力の増減を時系列で示した図であり、図中の太い線が駆
10 動力を示し、細い線がブレーキ力を示し、破線が駆動力低減装置の作動時の駆動力を示す。ま
た、図13の下段の制御タイムチャートは、電磁弁SVA、SVBのON(閉)/OFF(開)
を示した図である。
【0161】ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされるまで、駆
動力は、アクセルペダル(図示せず)の踏込み量などに応じて駆動力を有し、ブレーキ力はな
15 い。そして、アクセルペダルの踏込みが開放されるとともに、ブレーキペダルBPが踏込まれ
てブレーキスイッチBSWがONされると、駆動力が減少するとともに、ブレーキ力が増加し
て、車速が低下していく。さらに、駆動力が減少し、強クリープ状態になり(通常のアイドリ
ング状態)、ブレーキ力も最大になる。
【0162】通常、ブレーキスイッチBSWがONかつ車速が5km/hになった時点S5で、
20 駆動力低減装置は、弱クリープ指令を出し、弱クリープ状態になるまで駆動力を減少させる
(図13の破線部分)。しかし、故障検出装置DUでブレーキ液圧保持装置RUの故障が検出
されているので、駆動力低減装置は、作動が禁止され、弱クリープ指令を出さない。そのため、
強クリープ状態が、維持される。
【0163】さらに、車速が低下し、弱クリープ状態かつ車速0km/hになった時点S0で、
25 通常、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA、SVBがON(閉)する。しかし、ブレー
キ液圧保持装置RUが故障しているため、電磁弁SVA、SVBは、ONせず、開状態を維持
する。
【0164】その結果、ブレーキペダルBPの踏込み開放が始められると、ブレーキ液圧保持
装置RUが作動しないため、ブレーキペダルBPの踏込みの低下速度に応じて、ホイールシリ
ンダWCのブレーキ液圧が低下し、ブレーキ力も減少する。すなわち、ホイールシリンダWC
5 のブレーキ液圧が保持されず、ブレーキ力が保持されない。しかし、駆動力は強クリープ状態
が維持されているため、坂道でも、車両は、後退しない。
【0165】駆動力低減装置のみを備える車両によれば、ブレーキ液圧保持装置RUが故障し
た場合に、故障検出装置DUによって故障が検出されるとともに、駆動力低減装置の作動が禁
止される。そのため、ブレーキペダルBPが踏込まれて、車速が5km/h以下となっても、
10 強クリープ状態が維持される。また、弱クリープ状態になった後にブレーキ液圧保持装置RU
が故障した場合でも、その時点で、強クリープ状態に切り換えられる。したがって、ブレーキ
ペダルBPの踏込みが開放される時点では、強クリープ状態となっている。その結果、ブレー
キ液圧保持装置RUが故障しても、坂道発進時に、強クリープ状態であるため、車両が後退す
ることはない。
15 【0166】《ブレーキ液圧保持装置の故障検出時の制御タイムチャート(2)》図14を参
照して、駆動力低減装置および原動機停止装置を備える場合でかつブレーキ液圧保持装置RU
が故障時のブレーキ力と駆動力の制御を時系列に沿って説明する。なお、車両のポジションス
イッチPSWおよびモードスイッチMSWは、DレンジDモードを変化させないこととする。
なお、図14の上段の制御タイムチャートは、車両の駆動力とブレーキ力の増減を時系列で示
20 した図であり、図中の太い線が駆動力を示し、細い線がブレーキ力を示し、破線が駆動力低減
装置および原動機停止装置の作動時の駆動力を示す。また、図14の下段の制御タイムチャー
トは、電磁弁SVA、SVBのON(閉)/OFF(開)を示した図である。
【0167】ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされるまで、駆
動力は、アクセルペダル(図示せず)の踏込み量などに応じて駆動力を有し、ブレーキ力はな
25 い。そして、アクセルペダルの踏込みが開放されるとともに、ブレーキペダルBPが踏込まれ
てブレーキスイッチBSWがONされると、駆動力が減少するとともに、ブレーキ力が増加し
て、車速が低下していく。さらに、駆動力が減少し、強クリープ状態になり(通常のアイドリ
ング状態)、ブレーキ力も最大になる。
【0168】通常、ブレーキスイッチBSWがONかつ車速が5km/hになった時点S5で、
駆動力低減装置は、弱クリープ指令を出し、弱クリープ状態になるまで駆動力を減少させる
5 (図14の破線部分)。しかし、故障検出装置DUでブレーキ液圧保持装置RUの故障が検出
されているので、駆動力低減装置は、作動が禁止され、弱クリープ指令を出さない。そのため、
強クリープ状態が、維持される。
【0169】さらに、車速が低下し、弱クリープ状態かつ車速0km/hになった時点S0で、
通常、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA、SVBがON(閉)する。しかし、ブレー
10 キ液圧保持装置RUが故障しているため、電磁弁SVA、SVBは、ONせず、開状態を維持
する。また、車速0km/hになった時点S0で、通常、原動機停止装置は、エンジン自動停
止条件を満たしたことを確認し、エンジン1を自動停止させる。そのため、図14の破線部分
のように、駆動力が全くなくなる。しかし、故障検出装置DUでブレーキ液圧保持装置RUの
故障が検出されているので、原動機停止装置は、作動が禁止され、エンジン1を自動停止させ
15 ない。そのため、強クリープ状態が、維持される。
【0170】その結果、ブレーキペダルBPの踏込み開放が始められると、ブレーキ液圧保持
装置RUが作動しないため、ブレーキペダルBPの踏込みの低下速度に応じて、ホイールシリ
ンダWCのブレーキ液圧が低下し、ブレーキ力も減少する。すなわち、ホイールシリンダWC
のブレーキ液圧が保持されず、ブレーキ力が保持されない。しかし、駆動力は強クリープ状態
20 が維持されているため、坂道でも、車両は、後退しない。
【0171】駆動力低減装置および原動機停止装置を備える車両によれば、ブレーキ液圧保持
装置RUが故障した場合に、故障検出装置DUによって故障が検出されるとともに、駆動力低
減装置および原動機停止装置の作動が禁止される。そのため、ブレーキペダルBPが踏込まれ
て、車速が5km/h以下となっても、強クリープ状態が維持される。さらに、車速が0km
25 /hになっても、エンジン1が自動で停止されることなく、強クリープ状態が維持される。ま
た、エンジン1が自動停止した後にブレーキ液圧保持装置RUが故障した場合でも、その時点
で、エンジン1が自動始動され、強クリープ状態に切り換えられる。したがって、ブレーキペ
ダルBPの踏込みが開放される時点では、強クリープ状態となっている。その結果、ブレーキ
液圧保持装置RUが故障しても、坂道発進時に、強クリープ状態であるため、車両が後退する
ことはない。
5 【0172】《ブレーキ液圧保持装置の故障検出時の制御タイムチャート(3)》図15を参
照して、原動機停止装置を備える場合でかつブレーキ液圧保持装置RUが故障時のブレーキ力
と駆動力の制御を時系列に沿って説明する。なお、車両のポジションスイッチPSWおよび
モードスイッチMSWは、DレンジDモードを変化させないこととする。なお、図15の上段
の制御タイムチャートは、車両の駆動力とブレーキ力の増減を時系列で示した図であり、図中
10 の太い線が駆動力を示し、細い線がブレーキ力を示し、破線が原動機停止装置の作動時の駆動
力を示す。また、図15の下段の制御タイムチャートは、電磁弁SVA、SVBのON(閉)
/OFF(開)を示した図である。
【0173】ブレーキペダルBPが踏込まれてブレーキスイッチBSWがONされるまで、駆
動力は、アクセルペダル(図示せず)の踏込み量などに応じて駆動力を有し、ブレーキ力はな
15 い。そして、アクセルペダルの踏込みが開放されるとともに、ブレーキペダルBPが踏込まれ
てブレーキスイッチBSWがONされると、駆動力が減少するとともに、ブレーキ力が増加し
て、車速が低下していく。さらに、駆動力が減少し、強クリープ状態になり(通常のアイドリ
ング状態)、ブレーキ力も最大になる。
【0174】さらに、車速が低下し、弱クリープ状態かつ車速0km/hになった時点S0で、
20 通常、ブレーキ液圧保持装置RUの電磁弁SVA、SVBがON(閉)する。しかし、ブレー
キ液圧保持装置RUが故障しているため、電磁弁SVA、SVBは、ONせず、開状態を維持
する。また、車速0km/hになった時点S0で、通常、原動機停止装置は、エンジン自動停
止条件を満たしたことを確認し、エンジン1を自動停止させる。そのため、図15の破線部分
のように、駆動力が全くなくなる。しかし、故障検出装置DUでブレーキ液圧保持装置RUの
25 故障が検出されているので、原動機停止装置は、作動が禁止され、エンジン1を自動停止させ
ない。そのため、強クリープ状態が、維持される。
【0175】その結果、ブレーキペダルBPの踏込み開放が始められると、ブレーキ液圧保持
装置RUが作動しないため、ブレーキペダルBPの踏込みの低下速度に応じて、ホイールシリ
ンダWCのブレーキ液圧が低下し、ブレーキ力も減少する。すなわち、ホイールシリンダWC
のブレーキ液圧が保持されず、ブレーキ力が保持されない。しかし、駆動力は強クリープ状態
5 が維持されているため、坂道でも、車両は、後退しない。
【0176】原動機停止装置のみを備える車両によれば、ブレーキ液圧保持装置RUが故障し
た場合に、故障検出装置DUによって故障が検出されるとともに、原動機停止装置の作動が禁
止される。そのため、ブレーキペダルBPが踏込まれて、車速が0km/hになっても、エン
ジン1が自動で停止されることなく、強クリープ状態が維持される。また、エンジン1が自動
10 停止した後にブレーキ液圧保持装置RUが故障した場合でも、その時点で、エンジン1が自動
始動され、強クリープ状態に切り換えられる。したがって、ブレーキペダルBPの踏込みが開
放される時点では、強クリープ状態となっている。その結果、ブレーキ液圧保持装置RUが故
障しても、坂道発進時に、強クリープ状態であるため、車両が後退することはない。
【0177】以上、本発明は、前記の実施の形態に限定されることなく、様々な形態で実施さ
15 れる。例えば、故障検出装置をブレーキ液圧保持装置の電磁弁の駆動回路を兼ねて構成したが、
別体で構成してもよい。また、故障検出装置を構成するために自己診断機能を備える駆動素子
であるインテリジェントドライバを使用したが、この構成に限定されることなく、様々な電子
回路によって構成してよい。また、故障検出装置としては、ブレーキ液圧保持装置のブレーキ
液圧を監視して、そのブレーキ液圧の値の変化により、ブレーキ液圧保持装置の故障を検出す
20 る構成としてもよい。また、故障検出装置および検出方法は、ブレーキ液圧保持装置の構成に
よって構成が変わり、特に限定されるものではない。例えば、ブレーキ液圧保持装置としてト
ラクションコントロールシステムを利用するような構成では、トラクションコントロールシス
テムを監視する装置に故障検出装置を組み込んでもよい。また、本発明に係る原動機付車両に
は、原動機、駆動力低減装置、原動機停止装置またはブレーキ液圧保持装置において様々な構
25 成のものを適用することができる。
【0178】
【発明の効果】前記のように、請求項1の発明に係る原動機付車両によれば、ブレーキ液圧保
持装置の故障を検出し、故障検出時に駆動力低減装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキ
ペダルの踏込み状態などに関係なく駆動力が大きな状態に維持され、坂道発進時における原動
機付車両の後退を防止できる。また、駆動力低減装置による駆動力の低減がなされた後にブ
5 レーキ液圧保持装置の故障が検出された場合、ブレーキペダルの踏込みの開放前に、駆動力を
大きな状態に切り換えることができる。そのため、ブレーキペダルの踏込みを開放した時に、
駆動力が大きくなるまでのタイムラグが発生せず、坂道発進時における原動機付車両の後退を
防止できる。
【0179】請求項2の発明に係る原動機付車両によれば、ブレーキ液圧保持装置の故障を検
10 出し、故障検出時に駆動力低減装置および原動機停止装置の作動を禁止する。そのため、ブ
レーキペダルの踏込み状態などに関係なく、駆動力が大きな状態に維持され、坂道発進時にお
ける原動機付車両の後退を防止できる。また、駆動力低減装置による駆動力の低減および原動
機停止装置による原動機の自動停止がなされた後にブレーキ液圧保持装置の故障が検出された
場合、ブレーキペダルの踏込みの開放前に、原動機を再始動し、駆動力を大きな状態に切り換
15 えることができる。そのため、ブレーキペダルの踏込みを開放した時に、駆動力が大きくなる
までのタイムラグが発生せず、坂道発進時における原動機付車両の後退を防止できる。
【0180】請求項3の発明に係る原動機付車両によれば、ブレーキ液圧保持装置の故障を検
出し、故障検出時に原動機停止装置の作動を禁止する。そのため、ブレーキペダルの踏込み状
態などに関係なく駆動力が大きな状態に維持され、坂道発進時における原動機付車両の後退を
20 防止できる。また、原動機停止装置による原動機の自動停止がなされた後にブレーキ液圧保持
装置の故障が検出された場合、ブレーキペダルの踏込みの開放前に、原動機を再始動し、駆動
力を大きな状態に切り換えることができる。そのため、ブレーキペダルの踏込みを開放した時
に、駆動力が大きくなるまでのタイムラグが発生せず、坂道発進時における原動機付車両の後
退を防止できる。
25 【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る原動機付車両のシステム構成図である。
【図7】本発明に係る原動機付車両の(a)ブレーキ液圧保持装置の電磁弁をONするための
ロジック、(b)エンジン自動停止条件である。
【図8】本発明に係る原動機付車両の(a)ブレーキ液圧保持装置の電磁弁をOFFするため
のロジック、(b)エンジン自動始動条件である。
5 【図12】本発明に係る原動機付車両の故障検出装置の(a)回路図、(b)真理値表、(c)
(b)の真理を示す図である。
【図13】本発明に係る原動機付車両において駆動力低減装置を備える場合でかつブレーキ液
圧保持装置が故障時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャートで
ある。
10 【図14】本発明に係る原動機付車両において駆動力低減装置および原動機停止装置を備える
場合でかつブレーキ液圧保持装置が故障時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの
制御タイムチャートである。
【図15】本発明に係る原動機付車両において原動機停止装置を備える場合でかつブレーキ液
圧保持装置が故障時の駆動力とブレーキ力および電磁弁ON/OFFの制御タイムチャートで
15 ある。
【符号の説明】
1・・・エンジン(原動機)
3・・・ベルト式無段変速機(CVT)(駆動力低減装置)
4・・・燃料噴射/マネージメント電子制御ユニット(FI/MGECU)(原動機停止装置)
20 5・・・モータ電子制御ユニット(MOTECU)
6・・・CVT電子制御ユニット(CVTECU)(駆動力低減装置)
8・・・駆動輪
BP・・・ブレーキペダル
DU・・・故障検出装置
25 RU・・・ブレーキ液圧保持装置
WC・・・ホイールシリンダ
【図1】
【図7】
【図8】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
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