令和6(ネ)1544著作権侵害差止請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 大阪高等裁判所大阪高等裁判所
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裁判年月日 |
令和6年11月29日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
著作権
著作権法112条1項2回
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キーワード |
侵害7回 差止6回 実施1回
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主文 |
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
以下で使用する略称は、特に断らない限り、原判決の例による。 |
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判決文
令和6年11月29日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和6年(ネ)第1544号 著作権侵害差止請求控訴事件(原審 大阪地方裁判所令
和5年(ワ)第3064号)
口頭弁論終結日 令和6年10月9日
5 判 決
控訴人(一審被告) P2
同訴訟代理人弁護士 小 林 健 一
被控訴人(一審原告) P1
同訴訟代理人弁護士 池 辺 瞬
10 主 文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
15 第1 控訴の趣旨
主文と同旨
第2 事案の概要
以下で使用する略称は、特に断らない限り、原判決の例による。
1 事案の要旨
20 本件は、被控訴人(以下「一審原告」という。)が、控訴人(以下「一審被
告」という。)を編著者とする被告書籍の発行により、一審原告において他の者
と共同で作成した未公表の学術論文の草稿に掲載した原告表に係る一審原告の共
有著作権(複製権又は翻案権)が侵害されたと主張して、一審被告に対し、著作
権法112条1項に基づき、被告表を掲載する被告書籍の発行等の差止めを求め
25 る事案である。
原審が一審原告の請求を全部認容したところ、一審被告が控訴を提起した。
2 前提事実
原判決「事実及び理由」第2の3(2頁6行目から3頁21行目まで)に記載
のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁の末行から上に5行目の「P6」の後に「(以下、これらの者
5 と一審原告とを併せて「本件共同著作者」という。)」を加える。
(2) 原判決2頁末行の「原告は」から「P6と共に」までを「本件共同著作者
は」に改める。
(3) 原判決3頁2行目の「原告らは」を「本件共同著作者」に改める。
(4) 原判決3頁4行目の「甲5論文は、」の後に「日本教育工学会論文誌に採
10 録されることが決定され、」を加える。
(5) 原判決3頁21行目の末尾に改行して次のとおり加える。
「(4) 日本教育工学会の投稿規定
甲5論文が日本教育工学会論文誌に掲載された令和2年当時の日本教育
工学会の投稿規定には「2.投稿原稿の著作権について」として「① 本
15 論文誌に採録決定された論文等(以下、論文とする)の著作権は、本学会に
帰属する。」との規定がある。なお、本件共同著作者及び一審被告は、同
学会の会員である。(乙1、乙9ないし11、弁論の全趣旨)」
3 争点
(1) 原告表は著作物性を有するか(争点1・請求原因)
20 (2) 一審被告は、原告表に依拠して被告表を作成したか(争点2・請求原因)
(3) 一審原告は、一審被告に著作権侵害についての過失がなければ被告書籍の
発行等の差止めを求めることができないか(争点3・請求原因)
(4) 一審原告は、原告表の共有著作権を喪失したか(争点4・抗弁)
(5) 被告表の掲載は、法32条1項の引用として適法か(争点5・抗弁)
25 第3 争点に関する当事者の主張
次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第3(4頁1行目から6頁
6行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決3頁26行目末尾に改行して次のとおり加える。
「1 争点1(原告表は著作物性を有するか)について
【一審原告の主張】
5 原告表は、その質問形式等に、思想・感情が包含され、かつ、他にない
創作性を有するものであり、一定の考え方のもとに創意工夫をもってアン
ケート結果を整理・分析するなどの表現がされたものであるから、著作物
性を有する。
【一審被告の主張】
10 原告表は、アンケート結果の表の一部にすぎないから、著作物性を有し
ない。」
2 原判決4頁1行目の「1 争点1」を「2 争点2」に改める。
3 原判決4頁15行目末尾に改行して次のとおり加える。
「3 争点3(一審被告の過失の要否)について
15 【一審原告の主張】
著作権の侵害者に過失があることは、著作権法112条1項に基づく差
止請求の要件ではないから、一審原告は、一審被告に著作権侵害について
の過失がなくても、一審被告に対して被告書籍の発行等の差止めを求める
ことができる。
20 【一審被告の主張】
一審被告には、被告書籍の発行等により原告表についての一審原告の著
作権を侵害するということについて過失がないから、一審原告は一審被告
に対して被告書籍の発行等の差止めを求めることができない。」
4 原判決4頁16行目の「2 争点2」を「4 争点4」に改める。
25 5 原判決4頁21行目から同頁22行目にかけての「、当該学会の日本教育工
学会の論文誌に採録が決定された論文は」を削る。
6 原判決4頁24行目の「そうすると」の前に、「そして、一審原告は、甲5
論文を日本教育工学会に投稿したのであるから、乙2著作権規程に従うことを
当然に了承していたはずである。」を加える。
7 原判決5頁3行目の末尾に改行して次のとおり加える。
5 「 乙2著作権規程4条2項によれば、日本教育工学会の編集委員会に提出さ
れた論文等の著作者は、当該論文等の著作権を同学会に移転するに当たり承
諾書を提出しなければならないこととされている。しかし、一審原告を含む
本件共同著作者は、いずれも上記のような承諾書を提出していない。また、
同学会のホームページには、著作権譲渡契約書のひな型が掲載されているが、
10 一審原告を含む本件共同著作者は、いずれもそのような契約書を同学会と取
り交わしていない。そのほか、一審原告が、同学会との間で、甲5論文の著
作権を譲渡する旨の合意をしたことはない。したがって、甲5論文の著作権
は同学会には移転しておらず、原告表の著作権も同学会には移転していない。
また、甲5論文と原告表を含む甲3論文案とは、別個の著作物であるから、
15 仮に甲5論文の著作権が同学会に移転したとしても、原告表の著作権は移転
していない。」
8 原判決5頁4行目の「3 争点3」を「5 争点5」に改める。
第4 当裁判所の判断
1 争点4(一審原告は、原告表の共有著作権を喪失したか)について
20 事案に鑑み争点4から判断する。
(1) 補正の上引用した前提事実(4)によれば、本件共同著作者及び一審被告が
会員である日本教育工学会においては、甲5論文が同学会へ投稿された当時、
同学会論文誌に採録されることが決定された論文等の著作権は同学会に移転
する旨が投稿規定に定められていたと認められる。そうすると、同学会の会
25 員である本件共同著作者がした同学会への甲5論文の投稿は、同学会の内部
規範である投稿規定に従ってされたものと解されるから、甲5論文が同学会
論文誌に採録されることが決定されたことにより、甲5論文の著作権は、同
学会に移転したものと認められる。そして、その移転の効果は、甲5論文全
体に及ぶと解すべきであるから、甲5論文中に、甲5論文の著作者である本
件共同著作者が甲5論文作成前に作成した著作物を含めているのなら、その
5 著作物の著作権も甲5論文と一体のものとして同学会に移転したと解すべき
である。
(2) 本件において一審原告は、甲5論文の草稿段階の論文である甲3論文案に
掲載された「表2 実地指導者に対するアンケート調査」と題する表の一部
(原告表)について有すると主張する共有著作権に基づき、一審被告による
10 著作権侵害を主張しているところ、一審原告の上記主張は、原告表が甲5論
文に掲載された甲5表と異なる著作物であることを前提にいうものである。
しかし、原告表と、甲5表のうち原告表に対応する部分(別紙・甲5表)
とを比較すると、その相違点は別紙・甲5表の下線付き太字部分の限りであ
り、最も大きい相違点であっても、「指導計画と準備」・「学習者や学習環
15 境の分析や確認を行う」欄の「行動記述」中、原告表では二重取消線が引か
れていた下2欄の記述(ただし、容易に読み取ることができる。)につき甲
5表では二重取消線が外されている程度であり、その余の相違点は、原告表
の「相手」あるいは「対象者」が「学習者」に改められ、「おこなう」が
「行う」に改められるなどの違いに限られるから、原告表と甲5表は表現が
20 実質的に同一であって、原告表が著作物であるとしても、甲5表は原告表の
複製物にすぎず、それらは異なる著作物であるとはいえない。
(3) したがって、一審原告を含む本件共同著作者は、甲5論文中に甲5表を含
めることによって、甲5論文作成前に作成した原告表を甲5論文に含めたも
のということができるから、その甲5論文を日本教育工学会に投稿し、同学
25 会論文誌への採録が決定されたことにより、原告表が著作物であって著作権
が認められるとしても、原告表の著作権は甲5論文の著作権と一体のものと
して同学会に移転し、その結果、本件共同著作者のうちの一人である一審原
告は、その著作権を喪失したということになる。
(4) これに対し、一審原告は、甲5論文について、乙2著作権規程所定の著作
権譲渡に係る承諾書を同学会に提出しておらず、同学会との間で著作権譲渡
5 契約書を取り交わしてもいないから、原告表の著作権はもとより、甲5論文
の著作権も同学会に移転していない旨を主張する。
しかし、証拠(乙2、9)によれば、乙2著作権規程は、甲5論文が同学
会により受理された令和2年1月17日(甲5)よりも後である令和4年8
月1日に施行されたものであると認められるから、甲5論文の投稿に適用さ
10 れるものとは解されない。また、証拠(甲10、乙2)によれば、確かに、
同学会のホームページに著作権譲渡契約書のひな型が掲載されている事実は
認められるが、そのひな型には、それが乙2著作権規程等に基づく著作権譲
渡について合意するためのものである旨の記載があることからすると、同学
会のホームページに著作権譲渡契約書のひな型が掲載されているとの事実を
15 根拠として、乙2著作権規程が施行される前に投稿された甲5論文の著作権
の移転について、著作権譲渡契約書の取交しを要するものであったと解する
ことはできない。また、乙2著作権規程の施行時期の点をおいたとしても、
甲5論文の受理される遥か以前から施行されていた投稿規定(乙11)であっ
ても、同受理後施行された乙2著作権規程であっても、論文採録が決定され
20 た段階で著作権は移転する旨が規定されている以上、承諾書や契約書の提出
を待つことなく著作権は同学会に移転するのであり、承諾書や契約書の提出
は権利帰属を明確にするため念のため作成し提出することを求められるもの
にすぎないものと解されるから、それらの書面を提出していないからといっ
て、著作権は移転していないということにはならないというべきである。
25 したがって、一審原告の上記主張は採用することができない。
2 結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、一審原告の請求は
理由がないから棄却すべきであるところ、これと異なる原判決は失当であり、本
件控訴は理由があるから、原判決を取り消すこととする。
よって、主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部
10 裁判長裁判官
森 崎 英 二
15 裁判官
奥 野 寿 則
20 裁判官
山 口 敦 士
(別紙)
甲5表
領 コンピテンシー 行動記述
域
対人関係が円滑となる 積極的に学習者の話を傾聴する
ようなコミュニケーシ 学習者の伝えようとしている内容からその真意を理解しようと努める
指 ョンを行う 丁寧な言葉を用いて明確なメッセージを相手に伝える
導 良好な信頼関係を築く 指導者の価値観を押しつけずに学習者の多様な価値観を認める
者 仕事に対する真摯な姿勢を示す
と 自発的に関係性を構築するために学習者に興味関心を寄せる
し 感情を適切にコントロールし関わる
て 指導観をもって関わる 指導するうえで大切にしていることの記述や表現ができる
の 学習者中心に指導を捉える
基 指導者に必要となる能 学習者を観察し適切なレディネスの理解に努める
盤 力の開発・維持・向上 教育分野の変化や動向を察知する
に取り組む 専門職者としての役割を発揮できる ⇒棄却
指導分野の知識やスキルを常に磨いている
自分の指導を振り返ることができる
学習目標を確認する 指導する項目内容の学習目標を確認する
指 学習者や学習環境の分 学習者の学習進捗状況を確認する
導 析や確認を行う 学習者の学習方法の好みや意欲を把握する
計 対象患者,看護師配置,時間,場所,物品などの条件を確認する
画 指導内容の確認を行う 指導する具体的な内容を確認する
と 指導内容の順序立てを行う
準 指導方法を組み立てる 学習内容に必要となる情報を提示できるように準備する
備 学習成果や学習者の状態に応じた効果的な指導方法を検討する
評価方法を確認する
コーチングスキルに基 学習者の自己表現をサポートできるように積極的傾聴を行う
づいた指導を行う 学習者と共に学習目標を決定することができる
学習者の失敗が患者に影響しそうな場面では指導者がフォローする
目標とするパフォーマンスとのズレを具体的に指摘する(修正)
指 状況に応じて,指導方法を適宜変更し指導を行う
導 学習が円滑に進むよう 学習者が集中して学べるように働きかける
実 ファシリテートする 安全な場づくりのために質問や相談をしやすい状況を作る
践 学習者の思考を促進するような質問を投げかける
リフレクション支援を 印象に残ったことや気になったこと,指導されたことを表出させる
行う 学習者に経験したことの評価,分析の支援を行い,自ら学びや課題を見
出せるように関わる
課題解決や学んだことを次に活かすためのアドバイスを行う
課題解決のために学習内容を適用する機会を作る
学習者の目標到達度を 学習者を客観的に評価するためにツールを使う
評 評価し共有する 学習者の進捗状況を引き継ぐ
価 実施した指導を評価す 学習者の学習到達度の結果を踏まえ,自己の指導の評価を行う
る 次の指導に繋げるためのリフレクションを行う
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