令和6(行ケ)10089商標登録取消決定取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和7年2月27日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
商標権
商標法4条1項11号4回
|
キーワード |
商標権2回 優先権1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
|
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判決文
令和7年2月27日判決言渡
令和6年(行ケ)第10089号 商標登録取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 令和7年1月16日
判 決
原 告
ヤング産業株式会社
同訴訟代理人弁護士:尾上功治
同訴訟代理人弁理士:久保健、荒船博司
被 告
特許庁長官
同指定代理人:杉本克治、山田啓之、山根まり子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
【略語】 本 判 決 で は 、本 件 商 標 、引 用 商 標 、本 件 決 定 の 語 を 、後 記 第 2-1、
2-2 に 記 載 し た 意 味 で 用 い る 。
第1 請求
特許庁が異議2022-900274号事件について令和
6年8月23日にした決定を取り消す。
第2 事案の概要
第 2-1 本件商標及び引用商標
第 2-1(1) 本件商標
原告は、下記登録商標(登録第6550051号、本件商
標)の商標権者である。
・登録出願:令和3年11月10日
・登録査定:令和4年4月6日
・設定登録:令和4年4月27日
・指定商品:第25類「履物」
・商標の構成:下記のとおり
第 2-1(2) 引用商標
後記商標登録異議申立人は、下記登録商標(国際登録第9
75800号商標、引用商標)の商標権者である。
・登 録 出 願:2 0 0 8 年( 平 成 2 0 年 )7 月 2 2 日( 優 先 権 主
張:同年5月26日イタリア)
・設定登録:平成21年6月12日
・指 定 商 品:第 1 8 類「 Leather and imitations of leather、
and goods made of these materials and not
included in other classes; animal skins 、
hides; trunks and travelling bags; umbrellas 、
parasols and walking sticks; whips、 harness
and saddlery.」 び 第 2 5 類 Clothing、 footwear、
及 「
headgear.」
・商標の構成:下記のとおり
( 以 下 、本 件 商 標 の 左 側 の 図 形 を「 本 件 図 形 」、右 側 の 欧 文 字
を「 本 件 欧 文 字 」、引 用 商 標 の 上 段 の 図 形 を「 引 用 図 形 」と い
う。)
第 2-2 登録異議の申立て及びその後の手続
本件商標に係る商標掲載公報は令和4年5月11日発行さ
れた(甲106、乙1)ところ、同年7月6日、 A
から商標登録異議の申立て
がされ、 許庁は、 申立てを異議2022-900274号
特 同
事件として審理を行った。
特許庁は、令和6年8月23日、「登録第6550051
号 商 標 の 商 標 登 録 を 取 り 消 す 。」と の 決 定( 本 件 決 定 )を し 、
その謄本は同年9月2日原告に送達された。
原告は、同月30日、本件決定の取消しを求める本件訴訟
を提起した。
第 2-3 本件決定の理由の要旨
本件決定は、本件商標は引用商標と類似するものであり、
かつ、両者の指定商品は同一又は類似のものであり、本件商
標は商標法4条1項11号に該当すると判断した。本件商標
と引用商標の類似性に関する判断の要旨は、以下のとおりで
ある。
(1) 「 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ 」又 は「 V A L E N T I N O 」の 文 字( 以
下「 V A L E N T I N O 等 」と い う 。)の 商 標 は 、本 件 商 標 の
登録出願時において、ブランドとしての認知度は世界的に維
持されており、今もなお我が国におけるアパレル分野の需要
者・取引者の間で広く知られ、周知・著名であると認められ
る。
(2) 本件商標は、本件図形と本件欧文字からなるが、これらを
分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど
不可分的に結合しているものではない。
本件欧文字中の「VALENTINO」の欧文字は、本件
商標に係る指定商品の需要者の間に広く認識されている著名
なファッションデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァ
ーニのデザインに係る商品群に使用されるブランドである
「 V A L E N T I N O 等 」の 商 標 を 表 し た も の と 把 握 さ れ る 。
本件商標は、本件欧文字に相応して「ジャンニバレンティ
ノ」の称呼が生じるものであるが、本件欧文字全体として親
しまれた既成の語を形成するものとは認められない。
本件商標は、本件欧文字中の「VALENTINO」の欧
文字が自他識別標識として強く支配的な印象を与えるものと
認められることから、同欧文字を要部として抽出し、他人の
商標と比較して商標の類否を判断することが許される。した
がって、 件商標は、 ジャンニバレンティノ」 称呼のほか、
本 「 の
本件商標の要部に相応した ヴァレンティノ」 称呼が生じ、
「 の
「ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に使
用されるブランド」の観念が生じる。
(3) 引用商標は、上段に引用図形、中段に「VALENTIN
O 」の 欧 文 字 を 大 き く 横 書 き し 、下 段 に「 G A R A V A N I 」
の欧文字を小さく横書きした構成からなるが、これらを分離
して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可
分的に結合しているものではない。
引用商標は、その構成文字に相応して「ヴァレンティノガ
ラ ヴ ァ ー ニ 」の 称 呼 が 生 じ る が 、 V A L E N T I N O 」の 欧
「
文字は、我が国において、本件商標に係る指定商品の需要者
の間に広く認識されている著名なファッションデザイナーで
あるヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品群
に使用されるブランドである「VALENTINO等」を表
し た も の と 把 握 さ れ る 。し た が っ て 、引 用 商 標 は 、 ヴ ァ レ ン
「
ティノガラヴァーニ」の称呼のほか、引用商標の要部に相応
し た「 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ 」の 称 呼 が 生 じ 、 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ・ガ
「
ラヴァーニのデザインに係る商品に使用されるブランド」の
観念が生じる。
(4) 本 件 商 標 の 構 成 中 、 V A L E N T I N O 」の 欧 文 字 は 、引
「
用商標の構成中の「VALENTINO」の欧文字とつづり
を 同 じ く す る 。ま た 、本 件 図 形 と 引 用 図 形 は 、縦 長 又 は 横 長 の
楕円形の輪郭内中央に「V」を配した構成からなるものであ
るから、 の構成の軌を一にする相紛らわしい図形といえる。
そ
したがって、本件商標と引用商標は外観上相紛らわしい。
本 件 商 標 と 引 用 商 標 は 、 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ 」の 称 呼 が 生 じ る
「
点 で 共 通 し 、 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ・ガ ラ ヴ ァ ー ニ の デ ザ イ ン に 係
「
る 商 品 に 使 用 さ れ る ブ ラ ン ド 」の 観 念 を 生 じ る 点 で 共 通 す る 。
したがって、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念
のいずれの点についても、相紛れるおそれのある類似の商標
である。
第 2-4 取消事由
商標法4条1項11号該当性の判断の誤り
第3 当事者の主張
第 3-1 原告の主張
第 3-1(1) 「VALENTINO等」商標について
本件決定は、「VALENTINO等」が、ヴァレンティ
ノ・ガ ラ ヴ ァ ー ニ を 表 す も の と し て 、我 が 国 の 取 引 者・需 要 者
の間に広く認識されるほどに周知性を有している根拠や証拠
の み 示 す に 留 ま り 、 V A L E N T I N O 等 」の 表 示 を 示 す 文
「
字等を含むものではあるものの「図案化したマークやその他
の文字を付加して表された商標」に関してまで、ヴァレンテ
ィ ノ・ガ ラ ヴ ァ ー ニ を 表 す も の と し て 、我 が 国 の 取 引 者・需 要
者の間に広く認識されるほどに周知性を有している根拠や証
拠を特段示されておらず、さらに、そのような認定や判断も
なされていない。
さ ら に 、代 表 的 な 辞 書 で あ る 広 辞 苑( 第 7 版 )に も 、 ヴ ァ
「
レンティノ・ガラヴァーニ」について掲載されていないこと
か ら も 、 V A L E N T I N O 等 」商 標 の 周 知 著 名 性 は 否 定 さ
「
れるべきである。
第 3-1(2) 本件商標について
ア 本件図形について
本 件 図 形 は 、「 G I A N N I 」の 頭 文 字「 G 」と 、「 V A L
E N T I N O 」」の 頭 文 字「 V 」と を 合 成 し て 図 案 化 し た 図 形
として構成され、デザイナーである「GIANNI VAL
ENTINO」の名称を視覚的に印象づけるように図案化し
たものである。 件図形内に明示的に表される欧文字の G」
本 「
と「 V 」と が 、最 初 に 需 要 者 の 目 に 映 り 、当 該 欧 文 字 を 一 度 目
にしている需要者が、さらに、本件図形の後に続く欧文字を
目にすることで、本件図形の後に続く文字の頭文字を意識づ
け 、全 体 と し て の「 G I A N N I V A L E N T I N O 」の 名
称を視覚的に記憶に残りやすくさせるといったあたかも「サ
ブリミナル効果」のような効果を生じさせることができる。
本 件 図 形 内 の 欧 文 字「 V 」が 、本 件 図 形 の 後 に 続 く 文 字 と 同 様
の幅の太文字として構成されていることから、需要者は、本
件 図 形 と 本 件 欧 文 字 の「 ス ペ ー ス 」を 、視 覚 的 に も 聴 覚 的 に も
分離して看取される「スペース」として想起することもない
ため、本件図形と本件欧文字とを分離して観察することは取
引上不自然であると思われるほどに不可分的に結合している。
イ 本件文字部分について
「 氏 」と「 名 」の 間 に「 ス ペ ー ス 」や「・」が 表 記 さ れ て い
る も の で も 、「 氏 」と「 名 」が 、そ れ ぞ れ 視 覚 的 に も 聴 覚 的 に
も分離して看取されることは、取引者・需要者には起こり得
ない。 ペース等を設けて表記された氏名を読み上げる場合、
ス
スペース等がある意識させるように間隔を空けたりはせず、
一気に発音することが日常的に行われている。
ウィキペディアで「Valentino」を検索しても、
イ タ リ ア の 姓 又 は 男 性 名 と し て 多 数 の「 V a l e n t i n o 」
が 該 当 す る も の と し て 表 示 さ れ る の で( 甲 1 0 7 )、 V a l
「
entino」だけでは誰のことか特定できず、むしろこれ
以外の部分が要部となるとすらいえる。
デザイナー名等の名称と思われる欧文字を備え、引用商標
と同等の周知性を有している商標として、「MARIO V
A L E N T I N O 」 登 録 第 2 1 1 4 1 6 8 号 )が あ り 、イ タ
(
リアのナポリに本社を置くファッションブランドで、我が国
で も 広 く 知 ら れ て い る 。ま た 、甲 1 0 5 の ブ ロ グ で は 、「『 V
ALENTINO』を姓とするデザイナーは多数存在するか
ら、 GIANNI
『 V A L E N T I N O 』商 標 や『 V A L E
NTINO R U D Y 』な ど さ ま ざ ま な 商 標 な ど が あ っ て も 、
何ら不思議なことではないそうです。その数、約100人以
上のヴァレンティノさんが確認されているとか!」という記
事 が あ り 、そ の 中 で 、 G I A N N I
「 VALENTINO」
が取り上げられていることからも、「GIANNI VAL
E N T I N O 」は 、事 例 と し て 挙 げ ら れ る ほ ど 、需 要 者 に 広 く
知られている商標であるといえる。
ウ 本件商標の要部観察の可否について
本件商標は、需要者に後続する本件欧文字を視覚的に聴覚
的に意識づける本件図形と、本件図形から視覚的に聴覚的に
意識づけられた本件欧文字とが相まって、商標全体として不
可分一体的なまとまりを需要者に認識させながら、自他商品
識別機能等の諸機能を十分に発揮させ得るものとなっており、
本 件 欧 文 字 全 体 自 体 と し て も 、氏 名 の「 氏 」と「 名 」と が 強 固
に一体的に結びついたデザイナー名となっているから、分離
観察をすることは許されない。
第 3-1(3) 引用商標について
ア 一体性について
引用商標は、上段と中段とは距離感があると感じさせる一
方、中段と下段はさほど距離感があると感じさせない構成と
な っ て い る 。そ の た め 、取 引 者・需 要 者 の 観 点 か ら す る と 、中
段と下段の構成は、ひとまとまりとしての一体感を強く抱か
せるものとなっている。
姓と名との一体性が強固であることは上述のとおりであり、
中 段「 V A L E N T I N O 」と 下 段「 G A R A V A N I 」と の
まとまりある構成を備える引用商標から、あえて中段と下段
を分離して観察することは取引上不自然であり、両者は不可
分的に結合しているものである。
イ 要部について
本件決定は、 用商標の要部である VALENTINO」
引 「
の 欧 文 字 に 相 応 し た「 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ 」の 称 呼 が 生 じ 、 ヴ ァ
「
レンティ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に使用される
ブ ラ ン ド 」の 観 念 が 生 じ る と し て い る が 、 ヴ ァ レ ン テ ィ・ガ
「
ラヴァーニのデザインに係る商品に使用されるブランド」の
観念が生じ得るとすれば前記アのとおり不可分的に結合して
いる中段と下段の部分である。
第 3-1(4) 本件商標と引用商標の類否について
ア 外観について
本件決定は、本件商標と引用商標の要部を誤って認定した
ことから、本件商標と引用商標が相紛らわしいとの誤った認
定をしている。
ま た 、引 用 図 形 は 、横 長 の 楕 円 形 の 輪 郭 内 中 央 に「 V 」を 配
した構成」である一方、本件図形は、縦長である上、単純な
「 楕 円 形 の 輪 郭 」で は な く 、欧 文 字「 G 」を 太 く 表 し て 図 案 化
させたものであり、根本的に相違する。
イ 称呼について
本件商標の称呼は、「ジーブイジャンニバレンティノ」あ
るいは「ジャンニバレンティノ」であり、引用商標の称呼は
「バレンティノガラヴァーニ」であるから、両者は称呼を共
通にするものではない。
ウ 観念について
本件決定は、本件商標と引用商標が、いずれも「ヴァレン
ティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に使用されるブ
ラ ン ド 」の 観 念 を 生 じ る と す る が 、引 用 商 標 と は 異 な る「 図 案
化したマークやその他の文字を付加して表された商標」まで
もが、 Valentino
「 G a r a v a n i( ヴ ァ レ ン テ
ィ ノ・ガ ラ ヴ ァ ー ニ )」の 略 称 又 は ブ ラ ン ド を 表 す 根 拠 は 示 さ
れていない。
本件商標は、デザイナー名をあしらった視覚上創意工夫あ
る 本 件 図 形 と 、デ ザ イ ナ ー 名 を 強 く 取 引 者・需 要 者 の 記 憶・印
象に残させるといった当該本件図形の仕掛けによって、その
後続のデザイナー名の欧文字が相まって、全体として一つの
まとまりとして構成されている商標であるから、自他識別機
能はもとより出所表示機能を十分兼ね備えており、さらに、
出所混同も生じさせないような構成を有する商標となってい
る 。本 件 商 標 か ら「 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ・ガ ラ ヴ ァ ー ニ の デ ザ イ ン
に係る商品に使用されるブランド」の観念を生じるものでは
ない。
なお、本件決定が引用商標の世界的に著名なデザイナーを
特 定 す る 際 に「 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ 」あ る い は「 V A L E N T I N
O 」と す る の で は な く 、 V a l e n t i n o
「 Garava
n i( ヴ ァ レ ン テ ィ ノ・ガ ラ ヴ ァ ー ニ )」と 記 載 す る こ と か ら
も 、 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ 」あ る い は「 V A L E N T I N O 」の 表
「
記だけでは同人を特定することができないことが裏付けられ
る。
エ 結論
よ っ て 、本 件 商 標 と 引 用 商 標 は 、外 観 、称 呼 、観 念 の い ず れ
においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
第 3-1(5) 本件商標と引用商標の指定商品の類否について
本件決定の判断を認める。
第 3-2 被告の主張
後 記 第 4-1 の 説 示 と 同 旨 で あ る 。
第4 当裁判所の判断
取消事由(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)に
ついての当裁判所の判断は以下のとおりである。
第 4-1 商標法4条1項11号に係る商標の類否は、同一又は類似
の 商 品 又 は 役 務 に 使 用 さ れ た 商 標 が 、そ の 外 観 、観 念 、称 呼 等
に よ っ て 取 引 者 、需 要 者 に 与 え る 印 象 、記 憶 、連 想 等 を 総 合 し
て、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的
に考察すべきものである。このことは、複数の構成部分を組
み合わせた結合商標と解されるものであっても、基本的に異
なるものではないが、①商標の構成部分の一部が取引者、需
要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な
印象を与えるものと認められる場合や、②それ以外の部分か
ら出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる
場合、③商標の外観等に照らし、商標全体としての構成上の
一 体 性 が 希 薄 で 、取 引 者 、需 要 者 が こ れ を 分 離 し て 理 解・把 握
し、その一部を略称等として認識する結果、当該構成部分が
独立した出所識別標識としての機能を果たすと考えられる場
合などには、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけ
を他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断すること
が許されるというべきである。
第 4-2 VALENTINO等の商標の著名性について
(1) ヴ ァ レ ン テ ィ ノ・ガ ラ ヴ ァ ー ニ( Valentino Garavani、1
932~)は、1962年のコレクションの成功と1967
年 の「 フ ァ ッ シ ョ ン・オ ス カ ー 」の 受 賞 で 国 際 的 に 知 ら れ る よ
うになったイタリアのデザイナーであり、婦人・紳士物の衣
料 品 、毛 皮 、革 製 バ ッ グ 、革 小 物 、婦 人 靴 、香 水 、イ ン テ リ ア
用 品 な ど を デ ザ イ ン し て い る( 乙 3〔 新・田 中 千 代 服 飾 事 典 、
同 文 書 院 、第 1 版 改 訂 、平 成 1 0 年 〕、乙 4〔 英 和 ブ ラ ン ド 名
辞典、研究社、平成23年〕。
)
VALENTINO等は、現在の各種のウェブサイトにお
いて、ヴァレンティノ・ガラヴァーニあるいはその創設した
会社のデザイナーのデザインに係る商品として(ヴァレンテ
ィノ・ガラヴァーニ自身は、2007年にデザイナーを引退
している。乙11)、紹介されている(乙5~14)。
ヴァレンティノ・ガラヴァーニあるいはその創設した会社
のデザインに係る商品は、本件商標の登録時より前の新聞の
記事においても、VALENTINO等として多数紹介され
て お り( 甲 2 3 ~ 3 1 、3 9 )、各 種 の 書 籍 、雑 誌 や 広 告 に お
いてもVALENTINO等として多数掲載、紹介されてい
る(甲13、15、19、乙15~66)。
そ う す る と 、V A L E N T I N O 等 の 文 字 か ら な る 商 標 は 、
本件商標の登録査定時において、国際的に知られたデザイナ
ーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニあるいはその創設し
た会社のデザインに係る商品を表示するものとして指定商品
の需要者の間に広く認識され、周知・著名であったというべ
きである。
(2) 原告は、 ALENTINO等の表示を示す文字等を含み、
V
「図案化したマークやその他の文字を付加して表された商標」
に 関 し て 、 ァ レ ン テ ィ ノ・ガ ラ ヴ ァ ー ニ を 表 す も の と し て 、
ヴ
我が国の取引者・需要者の間に広く認識されるほどに周知性
を有するかを認定とすべきである旨主張するが、本件では、
商標の構成部分の一部だけを取り出して他人の商標と比較し、
その類否を判断する場合があり得ることを前提として、その
一部の構成部分の周知・著名性を検討しているのであり、原
告の主張は異なる局面に関する議論を持ち出しているにすぎ
ない。
ま た 、原 告 は 、広 辞 苑( 第 7 版 )に も 、「 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ・
ガラヴァーニ」について掲載されていない旨主張するが、こ
こで問題となるのは本件商標の指定商品の需要者においてV
ALENTINO等の文字からなる商標が周知・著名であっ
た か ど う か で あ る か ら 、一 般 の 辞 書 に「 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ・ガ ラ
ヴァーニ」が記載されていないからといって周知・著名性が
否定されることにはならず、原告の主張は失当である。
第 4-3 本件商標について
(1) 本件商標の全体としての構成等
本件商標は、右側上方に切り欠きを有する縦長楕円形の輪
郭 内 の 中 央 に「 V 」の 欧 文 字 を 配 し た 本 件 図 形 と 、そ の 右 側 に
「GIANNI VALENTINO」の本件欧文字を横書
きした構成からなる。
そして、 件図形と本件欧文字とは、 なり合うことなく、
本 重
スペースを空けて左右に配されており、図形と文字という構
成要素を異にしていることから、両者は視覚的に分離して看
取 さ れ る も の で あ る 。ま た 、本 件 欧 文 字 は 、間 に ス ペ ー ス を 有
し て い る こ と か ら 、 G I A N N I 」の 文 字 と「 V A L E N T
「
INO」の文字とからなると容易に看取される。
そ う す る と 、本 件 商 標 は 、① 本 件 図 形 、②「 G I A N N I 」
の 文 字 部 分 、③「 V A L E N T I N O 」の 文 字 部 分 か ら な る 結
合 商 標 と 理 解 さ れ る も の で あ る 。そ し て 、本 件 商 標 は 、本 件 欧
文字に相応して「ジャンニヴァレンティノ」の称呼が生じる
が、本件欧文字全体として親しまれた既成の語を形成するも
のではなく、本件商標又は本件欧文字を不可分一体のものと
して把握しなければならない事情も見いだせない。
(2) 分離観察・要部抽出の可否
本 件 商 標 が 上 記 (1)の と お り の 結 合 商 標 と 理 解 さ れ る こ と
を前提に、その分離観察の可否を検討するに、本件欧文字中
の「 V A L E N T I N O 」の 部 分 は 、上 述 の と お り 、本 件 商 標
の登録査定時において、国際的に知られたデザイナーである
ヴァレンティノ・ガラヴァーニあるいはその創設した会社の
デザイナーのデザインに係る商品を表示するものとして指定
商品の需要者の間に広く認識され、周知・著名であったVA
L E N T I N O 等 の う ち 、 V A L E N T I N O 」の 欧 文 字 か
「
ら な る 商 標 と 同 じ 構 成 文 字 か ら な る も の で あ る か ら 、取 引 者 、
需要者に対し商品・役務の出所識別標識として強く支配的な
印象を与えるものということができる。
そうすると、本件商標は、本件欧文字中の「VALENT
INO」の欧文字を要部として抽出し、他人の商標と比較し
て商標の類否を判断することが許される。
本件商標からは、本件欧文字部分の全体に相応した「ジャ
ンニヴァレンティノ」の称呼のほか、本件商標の要部に相応
し た「 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ 」の 称 呼 も 生 じ 、 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ・ガ
「
ラヴァーニあるいはその創設した会社のデザインに係る商品
に使用されるブランド」の観念が生じる。
(3) 原告の主張について
原 告 は 、本 件 図 形 は 、「 G I A N N I 」の 頭 文 字「 G 」と 、
「 V A L E N T I N O 」」の 頭 文 字「 V 」と を 合 成 し て 図 案 化
した図形として構成され、デザイナーである「GIANNI
VALENTINO」の名称を視覚的に印象づけるように図
案化したものであり、 件図形内の欧文字 G」 欧文字 V」
本 「 と 「
とを一度目にしている需要者が、さらに、本件図形の後に続
く欧文字を目にすることで、本件図形の後に続く文字の頭文
字を意識づけ、全体としての「GIANNI VALENT
INO」の名称を視覚的に記憶に残りやすくさせる効果を生
じ さ せ る も の で あ る 旨 主 張 す る が 、本 件 欧 文 字 の「 G 」の 欧 文
字の右側空白部分が中央より下にあり、また、横棒が右に突
出しているのに対し、本件図形の縦長の楕円形は、右側空白
部 分 が 中 央 よ り 上 に あ り 、右 に 突 出 し た 横 棒 は な い こ と か ら 、
欧文字の「G」であると認識すること自体が容易とはいえな
い 。し た が っ て 、原 告 が 、需 要 者 に お い て 、本 件 図 形 と 本 件 欧
文 字 の「 ス ペ ー ス 」を 、視 覚 的 に も 聴 覚 的 に も 分 離 し て 看 取 さ
れる「スペース」として想起することもないという前提自体
が存在しない。
原 告 は 、「 氏 」と「 名 」の 間 に「 ス ペ ー ス 」や「・」が 表 記
さ れ て い る も の で も 、「 氏 」と「 名 」が 、そ れ ぞ れ 視 覚 的 に も
聴覚的にも分離して看取されることは取引者・需要者には起
こり得ない旨主張するが、そのように解すべき根拠はなく、
独自の見解といわざるを得ない。
ま た 、原 告 は 、ウ ィ キ ペ デ ィ ア で「 V a l e n t i n o 」を
検索した場合、イタリアの姓又は男性名として多数の「Va
l e n t i n o 」が 表 示 さ れ る( 甲 1 0 7 )と か 、デ ザ イ ナ ー
名等の名称と思われる欧文字を備え、引用商標と同等の周知
性を有している商標として、「MARIO VALENTI
N O 」 登 録 第 2 1 1 4 1 6 8 号 )が あ る と か 、 V A L E N
( 「
T I N O 」を 姓 と す る デ ザ イ ナ ー は 多 数 存 在 し 、 G I A N N
「
I VALENTINO」も事例として挙げられるほど広く
知られている(甲105)などと主張するが、「MARIO
V A L E N T I N O 」の 周 知 性 を 示 す 具 体 的 な 立 証 は な い し 、
上記引用に係る甲105のブログ中には、「私たちの知るラ
グ ジ ュ ア リ ー ブ ラ ン ド の ヴ ァ レ ン テ ィ ノ は ヴ ァ レ ン テ ィ ノ・
『
ガ ラ ヴ ァ ー ニ 』」と の 記 載 も あ り 、V A L E N T I N O 等 が 別
格であることを示している。そうすると、原告の主張する事
実及び引用する証拠をもっても、VALENTINO等の商
標の周知・著名性を覆すことはできない。
第 4-4 引用商標について
(1) 引用商標の全体としての構成等
引用商標は、①上段に引用図形、②中段に「VALENT
I N O 」の 欧 文 字 を 大 き く 横 書 き し 、③ 下 段 に「 G A R A V A
NI」の欧文字を小さく横書きした構成からなる。
これらの各構成部分の全体を不可分一体のものとして把握
しなければならない事情も見いだせず、引用商標は、上記各
構成部分からなる結合商標と理解すべきものである。
(2) 分離観察・要部抽出の可否
引用商標は、その構成文字に相応して「ヴァレンティノガ
ラヴァーニ」 称呼が生じるが、 用商標の欧文字の構成中、
の 引
中 段 に 配 さ れ た「 V A L E N T I N O 」の 欧 文 字 は 、全 体 の 中
央 に 位 置 す る 上 、下 段 の「 G A R A V A N I 」の 欧 文 字 の 約 2
倍の大きさであって、商標全体の構成中、最も目を引く構成
部分になっている上、上記のとおりVALENTINO等の
文字からなる商標が、本件商標の登録査定時において、ヴァ
レンティノ・ガラヴァーニあるいはその創設した会社のデザ
インに係る商品を表示するものとして指定商品の需要者の間
で 周 知・著 名 で あ っ た こ と か ら 、取 引 者・需 要 者 に 対 し 商 品・
役務の出所識別標識として支配的な印象を与えるものと認め
られる。
そうすると、引用商標の構成文字中の「VALENTIN
O」の欧文字を要部として抽出し、他人の商標と比較して商
標の類否を判断することが許される。
引用商標からは、構成文字の全体に相応した「ヴァレンテ
ィノガラヴァーニ」の称呼のほか、引用商標の要部に相応し
た「 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ 」の 称 呼 も 生 じ 、 ヴ ァ レ ン テ ィ ノ・ガ ラ
「
ヴァーニあるいはその創設した会社のデザインに係る商品に
使用されるブランド」の観念が生じる。
(3) 原告の主張について
原告は、取引者・需要者の観点からすると、上段と中段の
距離に比べ中段と下段の距離が近いといった印象をより強く
感じるため、中段と下段の構成はひとまとまりとしての一体
感を強く抱かせるものとなり、また、氏と名との一体性は強
固であるから、引用商標においてあえて中段と下段を分離し
て観察することは、取引上不自然であり、両者は不可分的に
結合している旨主張する。
しかし、同主張は、中段と下段の位置関係、各段の欧文字
の大きさの違い「VALENTINO等」の文字からなる商
標の周知・著名性を等閑に付すものである。氏と名の一体性
が強固であるとの点が採用できないことは上述のとおりであ
る。
第 4-5 本件商標と引用商標の類似性について
本件商標の要部である「VALENTINO」の欧文字は、
引用商標の要部である「VALENTINO」の欧文字とつ
づりを同じくするものであり、本件商標と引用商標は外観上
相紛らわしい。
また、本件商標と引用商標の要部からは、いずれも「 ヴァ
レンティノ」の称呼が生じ、称呼において共通する。
そして、本件商標と引用商標の要部からは、いずれも「ヴ
ァレンティノ・ガラヴァーニ又はその創設した会社のデザイ
ンに係る商品に使用されるブランド」の観念を生じ、観念に
おいて共通する。
したがって、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念
のいずれの点についても、相紛れるおそれのある類似の商標
である。
以上と異なる趣旨をいう原告の主張は、本件商標及び引用
商標から「VALENTINO」の欧文字を要部として抽出
することができないという誤った前提に立つものであるから、
採用できない。
第 4-6 結論
以 上 の と お り 、原 告 主 張 の 取 消 事 由 は 理 由 が な く 、本 件 決 定
に 取 り 消 す べ き 違 法 は 認 め ら れ な い 。よ っ て 、原 告 の 請 求 を 棄
却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
宮 坂 昌 利
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
岩 井 直 幸
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