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令和6(ワ)70085発信者情報開示請求事件

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裁判所 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和7年1月23日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社バンダイナムコミュージックライブ 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ キングレコード株式会社
被告ソフトバンク株式会社
法令 著作権
著作権法2条1項9号5回
著作権法96条の23回
キーワード 侵害22回
損害賠償5回
差止1回
主文 1 被告は、原告バンダイナムコに対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開
2 被告は、原告ソニー・ミュージックに対し、別紙発信者情報目録記載2及び3
3 被告は、原告キングレコードに対し、別紙発信者情報目録記載4の各情報を開
4 訴訟費用は被告の負担とする。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠〔なお、枝番の記載
18)。
24)。10
10、14、26、28)10
23、25)と本件各レコード(甲18、22、20、24)との同一性に
2 争点
1 争点1(本件各通信によって送信可能化権が侵害されたか)について15
5条1項)として開示の対象となる。15
2 争点2(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
1 争点1(本件各通信によって送信可能化権が侵害されたか)について
1項9号の5イ所定の送信可能化に該当するものと解するのが相当である。
2 争点2(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
2条6号4条1項に規定する「侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総25
1 令和5年(2023年)11月7日12時26分38秒ころにAというインタ
2 令和5年(2023年)11月9日14時34分46秒ころにAというインタ
3 令和5年(2023年)11月8日23時40分34秒ころにBというインタ
4 令和5年(2023年)11月9日22時24分47秒ころにBというインタ
事件の概要 本件は、レコード製作者である原告らが、氏名不詳者(以下「本件各発信者」 という。)がいわゆるファイル交換共有ソフトウェアであるBitTorren10 tを使用して、別紙レコード目録記載の各レコード(以下、同目録記載の番号に 合わせて、「本件レコード1」などといい、これらを併せて「本件各レコード」と いう。)を送信可能化したことにより、本件各レコードに係る原告らの送信可能 化権(著作権法96条の2)を侵害したと主張して、被告に対し、特定電気通信 役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プ15 ロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、①原告バンダイナムコにおい ては別紙発信者情報目録記載1の各情報を、②原告ソニー・ミュージックにおい ては別紙発信者情報目録記載2及び3の各情報を、③原告キングレコードにおい ては別紙発信者情報目録記載4の各情報を、それぞれ開示するよう求める事案で ある。20

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判決文

令和7年1月23日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(ワ)第70085号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和6年11月12日
判 決
5 原 告 株式会社バンダイナムコミュージックライブ
(以下「原告バンダイナムコ」という。)
原 告 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ
(以下「原告ソニー・ミュージック」という。)
原 告 キ ン グ レ コ ー ド 株 式 会 社
10 (以下「原告キングレコード」という。)
上記三名訴訟代理人弁護士 尋 木 浩 司
同 林 幸 平
同 亀 井 英 樹
同 塚 本 智 康
15 同 石 坂 大 輔
同 笠 島 祐 輝
同 佐 藤 省 吾
同 松 木 信 行
同 前 田 哲 男
20 同 福 田 祐 実
被 告 ソ フ ト バ ン ク 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 金 子 和 弘
主 文
1 被告は、原告バンダイナムコに対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開
25 示せよ。
2 被告は、原告ソニー・ミュージックに対し、別紙発信者情報目録記載2及び3
の各情報を開示せよ。
3 被告は、原告キングレコードに対し、別紙発信者情報目録記載4の各情報を開
示せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は、レコード製作者である原告らが、氏名不詳者(以下「本件各発信者」
10 という。)がいわゆるファイル交換共有ソフトウェアであるBitTorren
tを使用して、別紙レコード目録記載の各レコード(以下、同目録記載の番号に
合わせて、
「本件レコード1」などといい、これらを併せて「本件各レコード」と
いう。)を送信可能化したことにより、本件各レコードに係る原告らの送信可能
化権(著作権法96条の2)を侵害したと主張して、被告に対し、特定電気通信
15 役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プ
ロバイダ責任制限法」という。 5条1項に基づき、
) ①原告バンダイナムコにおい
ては別紙発信者情報目録記載1の各情報を、②原告ソニー・ミュージックにおい
ては別紙発信者情報目録記載2及び3の各情報を、③原告キングレコードにおい
ては別紙発信者情報目録記載4の各情報を、それぞれ開示するよう求める事案で
20 ある。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠〔なお、枝番の記載
は、特に付記しない限り省略する。以下同様。 及び弁論の全趣旨により容易に認

められる事実をいう。)
当事者
25 ア 原告らは、いずれも、レコードを製作し、これを複製してCD等として販
売している株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を営む
株式会社であり、特定電気通信役務提供者(プロバイダ責任制限法2条3号)
に該当する。
⑵ 原告らが本件各レコードの製作者であること
5 ア 原告バンダイナムコは、本件レコード1のレコード製作者である(甲3、
18)。
イ 原告ソニー・ミュージックは、本件レコード2及び3のレコード製作者で
ある(甲7、11、20、22)。
ウ 原告キングレコードは、本件レコード4のレコード製作者である(甲15、
10 24)。
⑶ BitTorrentの仕組み(甲26、27)
BitTorrentとは、インターネット上においていわゆるP2P方式
でファイルを共有するためのプロトコル(通信規約)の一つであり、同プロト
コルを実装したクライアントソフトの名称でもある。BitTorrentを
15 利用してファイルをダウンロードする手順や動作は、以下のとおりである。
ア インデックスサイトと呼ばれるウェブサーバから、ダウンロードしたい対
象ファイルに対応するトレントファイル 「ファイルの情報」 「トラッカー
( と
の情報」が含まれている。)を入手する。
イ 入手したトレントファイルをBitTorrentクライアントソフト
20 に取り込む。
ウ BitTorrentクライアントソフトは、当該トレントファイルで指
定されたトラッカー(接続した端末を追跡し、対象ファイルの提供者のリス
トを管理するサーバ)と通信して、対象ファイルの提供者のIPアドレスの
一覧を自動的に入手する。
25 エ BitTorrentクライアントソフトは、入手したIPアドレスの一
覧から複数のIPアドレスを自動的に選択して、対象ファイルの送信要求を
行い、当該IPアドレスが割り振られた端末から断片化された対象ファイル
のデータ(以下、当該断片化された対象ファイルのデータを「ピース」とい
う。 を順次受信することにより、
) 対象ファイル全体のダウンロードを行う。
オ BitTorrentでファイルをダウンロードしたネットワークの参
5 加者は、BitTorrentクライアントソフトを停止させるまで、トラ
ッカーに対し、当該ファイルが送信可能であることを通知し、他の不特定の
ネットワーク参加者からの要求があればいつでもこれを送信できる状態に
なる。
⑷ 原告らによる著作権侵害調査(以下「本件調査」という。 の概要
) (甲2、6、
10 10、14、26、28)
ア 原告らの依頼を受けた株式会社Flow(以下「本件調査会社」という。)
は、BitTorrentネットワークを介して公開されているファイルの
流通量等を監視するシステムである「P2P FINDER」
(以下「本件シ
ステム」という。)を利用して、調査を行った。
15 イ 本件調査の手順は以下のとおりである。
本件システムでは、インデックスサイトからトレントファイルを無差別
にダウンロードし、設定されたキーワードに基づき、当該キーワードをフ
ァイル名に含むトレントファイルを探索、取得する。
上記 のトレントファイルに基づき、対象ファイル全体を公開している
20 ユーザのIPアドレスを特定する。
上記 のIPアドレスから、対象ファイルの一部(ピース)をダウンロ
ードし、当該トレントファイル及びそれに含まれるファイル名、ファイル
サイズと関連付けて、ダウンロードしたデータと当該IPアドレス及びダ
ウンロード時刻を記録する。
25 BitTorrentクライアントソフトであるμTorrentを
起動し、上記 のトレントファイルに基づいて、対象ファイル全体を取得
し、DVD-Rに記録する。
ウ 本件調査においては、本件システムで探索した結果、別紙情報目録記載の
対象ファイル名のファイルが公開されていることが確認され、当該対象ファ
イルの全体を公開しているIPアドレスをそれぞれ特定して記録した。別紙
5 情報目録記載のダウンロード日時は、上記イ のピースのダウンロード時の
時刻である。また、上記イ において記録された各データ(甲19、21、
23、25)と本件各レコード(甲18、22、20、24)との同一性に
ついては当事者間に争いがない。
⑸ 発信者情報の保有
10 被告は、別紙発信者情報目録記載の発信者情報を保有している。
2 争点
⑴ 本件各通信によって送信可能化権が侵害されたか(争点1)
⑵ 開示を受けるべき正当な理由の有無(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
15 1 争点1(本件各通信によって送信可能化権が侵害されたか)について
(原告らの主張)
⑴ 別紙発信者情報目録記載のインターネットプロトコルアドレス(以下、IP
アドレスともいう。 及び時刻によって特定される各通信
) (以下「本件各通信」
という。)は、本件各発信者が、本件調査会社の端末に対して、ピースを送信し
20 た通信をとらえたものである。
⑵ BitTorrentネットワークにおいて、ピースの送信を受けた他のB
itTorrentネットワークの参加者(以下「ピア」という。)の端末は、
トラッカーに対し、当該ピースが送信可能であること継続的に通知するから、
他の不特定のネットワーク参加者からの要求があれば、いつでも当該ファイル
25 (ピース)の送信ができる状態になる。
本件各発信者は、本件各通信によって、他のピア(本件では本件調査会社)
にピースを送信した。そして、本件システムも、上記ピースの送信を受けたピ
アの端末と同様の動作をするから、本件各発信者は、ピースを送信すると同時
に本件調査会社の端末(著作権法2条1項9号の5イ所定の「公衆送信用記録
媒体」に該当する。 に情報を記録ないし入力しているといえ、
) このような行為
5 は、著作権法2条1項9号の5イ所定の送信可能化に該当する。したがって、
本件各発信者は、本件各通信によって、原告らの本件各レコードに対する送信
可能化権(著作権法96条の2)を侵害するものである。
⑶ 本件各通信が、送信可能化権侵害行為自体に係る通信に当たらないとしても、
本件各通信によってピースが現にダウンロードされている以上、本件各発信者
10 は、上記ダウンロードよりも前の時点で、他のピアに対し、当該ピースを自動
公衆送信可能な状態であったといえる。このように、送信可能化惹起行為(著
作権法2条1項9号の5イ、ロ所定の行為)が完了し、その後も引き続きそれ
により惹起された送信可能な状態が継続している限り、そのような状態である
ことを直接的に示す通信に係る情報は、
「発信者情報」
(プロバイダ責任制限法
15 5条1項)として開示の対象となる。
(被告の主張)
以下のとおり、否認ないし争う。
⑴ 発信者情報開示請求が、表現の自由及び通信の秘密に対する重大な制約であ
ることに鑑みれば、その要件は厳格に解釈されるべきであり、侵害情報の「流
20 通」が現実に生じることを要するというべきである。したがって、送信可能化
のみでは、発信者情報開示請求権による保護の対象とはならないというべきで
ある。
⑵ BitTorrentにおいて、他の不特定のネットワーク参加者からの要
求は、トラッカーが管理する対象ファイルの提供者のリストに基づいてされる
25 ものであり、当該リストは、当該ファイルをダウンロードした参加者がトラッ
カーに対し当該ファイルが送信可能であることを継続的に通知することによ
って作成される。したがって、単に対象ファイルをダウンロードしただけでは、
その送信可能化が完成したとはいえず、トラッカーに対して上記通知をするこ
とによって、他の不特定の参加者に対するデータの送信可能化が実現されるに
至ったというべきである(知財高裁令和3年10月7日参照) 本件各通信は、

5 ピースのダウンロードが完了した日時を記録するものにすぎず、トラッカーに
対して、当該ピースが送信可能であることを通知した通信ではないから、送信
可能化権を侵害した通信には該当しない。したがって、本件各通信によって、
送信可能化権が侵害されたとはいえない。
⑶ 原告らは、本件システムにピースを送信したことが送信可能化に当たる旨主
10 張するが、
「公衆送信用記録媒体」というには、記録された情報が当該媒体から
公衆に対して送信される必要がある。しかしながら、原告らは、本件各通信に
よって本件システムに記録された情報が、実際に不特定多数の者に対して送信
されたか否かを明らかにしないから、本件システムのサーバないしハードディ
スクが「公衆送信用記録媒体」に当たるとはいえない。同様の理由から、本件
15 各発信者が、
「発信者」
(プロバイダ責任制限法2条4号前段)に該当するとも
いえない。
⑷ 原告らは、本件各通信が、送信可能化権侵害行為そのものに当たらないとし
ても、本件調査会社に対してピースを送信するよりも前の時点でピースを自動
公衆送信可能な状態であった以上、本件各通信に係る情報も「発信者情報」
(プ
20 ロバイダ責任制限法5条1項)として開示の対象となる旨主張する。しかしな
がら、発信者情報の範囲は、通信自体によって権利侵害の明白性が認められる
ことが前提であり、これが認められない以上、開示の対象とはならない。
2 争点2(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
(原告らの主張)
25 原告らは、本件各発信者に対し、損害賠償請求権及び差止請求権を行使するた
めに、別紙発信者情報目録記載の情報について開示を受けるべき正当な理由があ
る。
(被告の主張)
争う。発信者を特定するための情報としては、氏名及び住所だけで必要かつ十
分である。電話番号及び電子メールアドレスについては、損害賠償請求権の行使
5 に必要であるとはいえないから、「開示を受けるべき正当な理由」はない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件各通信によって送信可能化権が侵害されたか)について
⑴ア 前記前提事実⑶によれば、BitTorrentネットワークにおいては、
特定のファイルに対応するトレントファイルを端末のクライアントソフト
10 に読み込ませることで、当該トレントファイルを共有するピアによって形成
されるBitTorrentネットワークに参加し、特定のファイルを構成
するピースを他のピアからダウンロードしたり、同時に、他のピアにアップ
ロードしたりすることができるようになる。
そして、あるピアが上記のようなダウンロード及びアップロードを行うた
15 めには、他のピアがあるピアのIPアドレス及びポート番号の情報を把握し
ている必要があるから、そのダウンロード及びアップロードに先立ち、ある
ピアがトラッカーに対して自身のIPアドレス及びポート番号の情報をあ
らかじめ通知しているものと推認することができる。すなわち、BitTo
rrentネットワークに参加しているピアは、特定のファイルを構成する
20 ピースを他のピアからダウンロードしさえすれば、改めてトラッカーに自身
のIPアドレス及びポート番号の情報を通知するなどの特段の手順を経る
ことなく、自身のIPアドレス及びポート番号の情報を把握している不特定
のピアからの求めに応じ、自身がダウンロードしたピースを自動的にアップ
ロードすることができる。
25 このようなBitTorrentの仕組みを踏まえると、特定のファイル
を構成するピースを保有していないピアは、他のピアから当該ピースの送信
を受けることによって、別の他のピアからの求めに応じ自動的に送信を行う
ものといえる。
そうすると、BitTorrentネットワークにおいて、特定のファイ
ルを構成するピースを他のピアにアップロードする行為は、当該他のピアが
5 上記ファイルを自動公衆送信する機能を有するものである以上、上記特定の
ファイルを自動公衆送信し得るようにするものといえるから、著作権法2条
1項9号の5イ所定の送信可能化に該当するものと解するのが相当である。
イ これを本件についてみると、前記前提事実⑷及び弁論の全趣旨によれば、
本件調査会社は、別紙情報目録記載のダウンロード日時において、同記載の
10 IPアドレスから、同記載の対象ファイルのピースをBitTorrent
ネットワークを介してダウンロードしたことが認められる。
そうすると、本件各発信者は、上記ピースを自動公衆送信する機能を有す
る本件調査会社の端末に対し、上記ピースをアップロードする行為をしたも
のと認められることからすると、本件各通信は、著作権法2条1項9号の5
15 イ所定の送信可能化に該当するものといえる。そして、前記前提事実⑷ウに
よれば、対象ファイル全体は本件各レコードと同一であることからすると、
本件各通信によってダウンロードされたピースは、本件各レコードの一部で
あると認めるのが相当である。
したがって、本件各発信者は、本件各通信によって本件各レコードに係る
20 原告らの送信可能化権を侵害したことは明らかである。そして、当事者双方
提出に係る証拠及び弁論の全趣旨によっても、上記の侵害行為の違法性を阻
却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはできない。
以上によれば、本件各通信に係る権利侵害の明白性を認めるのが相当であ
る。
25 ⑵ 被告の主張に対する判断
ア 被告は、本件各通信は、本件各発信者からピースのダウンロードが完了し
た日時を記録するものにすぎず、トラッカーに対して、当該ピースが送信可
能であることを通知した通信ではないから、送信可能化権を侵害した通信に
は該当しない旨主張する。しかしながら、ピースのダウンロード及びアップ
ロードに先立ち、あるピアがトラッカーに対して自身のIPアドレス及びポ
5 ート番号の情報をあらかじめ通知しているものと認められることは、前記⑴
アにおいて認定したとおりである。そして、BitTorrentネットワ
ークにおいて、特定のファイルを構成するピースを他のピアにアップロード
する行為は、当該他のピアが上記ファイルを自動公衆送信する機能を有する
ものである以上、上記特定のファイルを自動公衆送信し得るようにするもの
10 であることは、前記⑴アにおいて説示したとおりである。したがって、被告
の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。
イ 被告は、本件各通信によって本件システムに記録された情報が実際に不特
定多数の者に対して送信されるかどうかが明らかではない以上、本件システ
ムのサーバないしハードディスクが「公衆送信用記録媒体」に当たるとはい
15 えない旨主張する。しかしながら、前記⑴アのとおり、特定のファイルを構
成するピースを保有していないピアは、他のピアから当該ピースの送信を受
けることによって、別の他のピアからの求めに応じ自動的に送信を行うもの
といえる。そうすると、本件各通信によって記録された情報がその後実際に
不特定多数の者に対して送信されたか否かにかかわらず、本件調査会社の端
20 末は、「公衆送信用記録媒体」に当たるものと認めるのが相当である。
ウ 被告は、本件各通信によって本件システムに記録された情報が実際に不特
定の者に対して送信されたかどうかを明らかにしない以上、本件各発信者が
プロバイダ責任制限法2条4号にいう「発信者」に当たるとはいえない旨主
張する。しかしながら、同号にいう「特定電気通信役務提供者の用いる特定
25 電気通信設備の記録媒体」又は「当該特定電気通信設備の送信装置」は、発
信者側のプロバイダの特定電気通信設備をいうものであり、受信者側の端末
である本件システムとは異なるものである。そうすると、被告の主張は、そ
の前提を欠く。念のため、本件における発信者側のプロバイダである被告の
特定電気通信設備をみても、前記前提事実⑶及び⑷認定に係るBitTor
rentの仕組みによれば、本件各発信者は、不特定の者からの求めに応じ
5 自動的にファイルを送信していることからすると、上記特定電気通信設備は、
情報を「不特定の者に送信」
(プロバイダ責任制限法2条4号)しているとい
えるから、本件各発信者は、プロバイダ責任制限法2条4号にいう「発信者」
に該当するものと認めるのが相当である。
エ 被告は、送信可能化のみではプロバイダ責任制限法上の権利侵害に当たら
10 ない旨主張する。しかしながら、著作権法96条の2によれば、レコード製
作者は、レコードを送信可能化する権利を専有するのであるから、これを侵
害する者に対し、その侵害の停止及び損害の賠償を請求することができる
(同条112条及び114条)。したがって、送信可能化がプロバイダ責任
制限法上の権利侵害に当たらないということはできない。
15 オ 以上によれば、被告の主張は、いずれも採用することができない。
2 争点2(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件各発信者に対し、損害賠償等を請求す
ることを予定していることが認められることからすると、原告らには、別紙発信
者情報目録記載の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものといえ
20 る。
これに対し、被告は、氏名及び住所の開示があれば、それだけで本件各発信者
に対する損害賠償請求権の行使が可能であるから、電話番号及び電子メールアド
レスについては、開示を受けるべき正当な理由があるとはいえない旨主張する。
しかしながら、プロバイダ責任制限法施行規則2条は、プロバイダ責任制限法
25 2条6号4条1項に規定する「侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総
務省令で定めるもの」として1号から14号までを列挙しているところ、プロバ
イダ責任制限法5条の趣旨目的は、特定電気通信による情報の流通の特徴を踏ま
え、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発
信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当
該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提
5 供者に対して発信者情報の開示を請求可能とすることによって、加害者の特定を
可能にして被害者の権利の救済を図ろうとしたものである。
このような上記限定列挙に係る趣旨目的に鑑みると、プロバイダ責任制限法施
行規則2条1号ないし4号の発信者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メ
ールアドレスのうちから、更に氏名又は名称、住所に限定することが許容される
10 ものと解するのは相当ではない。実質的にも、住所変更等によって住所宛てでは
発信者への連絡が付かない場合や、発信者に対する訴えの提起前に示談交渉を行
う場合には、電話番号や電子メールアドレスを知ることが有用であることを否定
することはできず、これらの開示を受ける必要性も十分に認められるといえる。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
15 第5 結論
よって、原告らの請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとし
て、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
中 島 基 至
裁判官
武 富 可 南
裁判官
10 古 賀 千 尋
(別紙)
発信者情報目録
1 令和5年(2023年)11月7日12時26分38秒ころにAというインタ
5 ーネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏
名(または名称)、住所及び電子メールアドレス
2 令和5年(2023年)11月9日14時34分46秒ころにAというインタ
ーネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏
10 名(または名称)、住所及び電子メールアドレス
3 令和5年(2023年)11月8日23時40分34秒ころにBというインタ
ーネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏
名(または名称)、住所及び電話番号
4 令和5年(2023年)11月9日22時24分47秒ころにBというインタ
ーネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏
名(または名称)、住所及び電話番号
以上
(別紙)
レコード目録
(別紙)
5 情報目録
(いずれも省略)

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