令和5(ワ)70680特許実施権許諾契約に基づく実施料等請求事件
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裁判所 |
東京地方裁判所東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和7年1月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告A 被告株式会社AIMOPHARMACEUTICAL
B
|
法令 |
特許権
民事訴訟法65条1項1回
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キーワード |
実施10回 許諾7回 特許権2回 無効2回
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主文 |
1 被告らは、原告に対し、連帯して、2200万円及びこれに対する令
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
1 事案の概要
本件は、原告が、被告会社に対し、令和5年5月26日付け特許権実施許
諾契約(以下「本件契約」という。)に基づき、実施料2200万円及びこ
れに対する弁済期の翌日である令和5年7月31日から支払済みまで約定の25
年8分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告Bに対し、同
人との間で締結した保証契約に基づき、被告会社と連帯して、上記の金員の
支払を求める事案である。 |
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判決文
令和7年1月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和5年(ワ)第70680号 特許実施権許諾契約に基づく実施料等請求事件
口頭弁論終結日 令和6年12月12日
判 決
5 原 告 A
同訴訟代理人弁護士 松 本 慶
同訴訟復代理人弁護士 寺 島 英 輔
被 告 株式会社AIMO PHARMACEUTICAL
(以下「被告会社」という。)
10 被 告 B
被告ら訴訟代理人弁護士 武 内 優 宏
同訴訟復代理人弁護士 日 高 義 允
主 文
1 被告らは、原告に対し、連帯して、2200万円及びこれに対する令
15 和5年7月31日から支払済みまで年8分の割合の金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
20 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、原告が、被告会社に対し、令和5年5月26日付け特許権実施許
諾契約(以下「本件契約」という。)に基づき、実施料2200万円及びこ
25 れに対する弁済期の翌日である令和5年7月31日から支払済みまで約定の
年8分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告Bに対し、同
人との間で締結した保証契約に基づき、被告会社と連帯して、上記の金員の
支払を求める事案である。
なお、当裁判所は、本件事案に鑑み、当事者双方の本人尋問終了後、当事
者双方に対し一定の譲歩を求めて和解を勧告したところ、原告がこれに応じ
5 たのに対し、被告らがこれを拒否したことから、和解は打ち切られた。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣
旨により容易に認められる事実をいう。なお、証拠を摘示する場合には、特に
記載のない限り、枝番を含むものとする。)
⑴ 当事者等
10 ア 原告は、国立研究開発法人国立がん研究センター(以下「国立がん研
究センター」という。)において分野長として研究室を運営し、分子腫
瘍学、生化学、腫瘍内科学を専門とする研究者である。
イ 被告会社は、医薬品の研究開発やこれに対するコンサルティング業及
び投資等を目的とする株式会社である。
15 Cは、被告会社において財務、契約等を担当する者である(乙4の
1)。
ウ 被告Bは、被告会社の代表取締役であり、岩手医科大学医学部解剖学
講座人体発生学分野において助教として勤務する研究者である。
⑵ 本件契約
20 原告は、令和5年5月26日、被告会社との間で、原告が出願している
特許権の実施許諾契約を締結した(甲1)。
同契約によれば、被告会社は、実施許諾の対価として、同契約締結後6
5日以内に2200万円の契約一時金(以下「本件一時金」という。)を
支払うものとされ、その支払を遅延したときには年8分の割合による遅延
25 損害金を支払うものとされている(甲1)。
⑶ 覚書の作成
被告Bは、令和5年8月13日、原告との間で、Dを立会人として、覚
書(以下「本件覚書」という。)を交わした。
当該覚書には、「A殿 貴殿とAIMO PHARMACEUTICA
Lが令和5年5月26日に締結した国際出願番号PCT/JP2018/
5 046169に関する実施権許諾契約書に関して、私、Bは債務不履行に
際しては最大限のお支払いをさせて頂くことを誓約いたします。」という
文章に加え、肩書として、被告B個人の氏名と住所が記載されている(甲
9)。
3 争点
10 連帯保証契約の成否
4 争点に対する当事者の主張
(原告の主張)
⑴ 原告は、被告会社から本件一時金の支払がなく、これまでの主な連絡相
手であったCが信用できないと感じたことから、同社の代表取締役である
15 被告Bと面会することとし、令和5年8月13日、被告Bに対し、被告B
個人に責任を負ってもらいたい旨を伝え、本件覚書を交わした。
そして、原告が「連帯保証」という文言を入れるよう求めたことに対し、
被告Bには逡巡する様子があったため、文言の選択はBに委ねたものの、
原告、被告B及びDとの間で本件覚書に連帯保証の意味があることを確認
20 した。
したがって、被告Bは、本件覚書によって、本件一時金の支払債務を連
帯保証する旨の意思表示をし、原告との間で、同債務を連帯保証する旨の
合意をしたというべきである。
このことは、本件覚書作成後の被告Bの行動からも明らかである。すな
25 わち、被告Bは、原告から翌日までにCからの入金がなかった場合の対応
を問われると、個人として支払をする選択肢を提示したほか、原告が「一
筆」を「執行」しなければならなくなると発言したことに対しても、何ら
異論を述べなかった。Cに対しても、研究が上手くいなかった場合には被
告B個人がCに2200万円を支払うなどと提案し、一刻も早く本件一時
金を原告に支払うことを求めている。
5 のみならず、被告Bには、連帯保証契約を締結する動機もあった。すな
わち、本件契約及びこれと関連する共同研究契約は、小規模なバイオベン
チャーである被告会社にとって重要なプロジェクトであるとともに、「老
化」や「細胞老化」を研究分野とする被告Bの個人としての関心事でもあ
った。そのため、被告Bは、会社の代表取締役としても、研究者個人とし
10 ても、同プロジェクトに並々ならぬ関心を抱いており、その展望を具体的
に検討し、将来的には成果が出るという手応えも得ていた。そのためには、
原告との信頼関係を維持することが不可欠であり、個人として連帯保証債
務を負担しても、プロジェクトを継続する動機があった。
⑵ 被告らは、本件覚書に保証の意思が表示されているとしても、主債務が
15 特定されていない旨主張する。しかしながら、本件覚書が、作成時点で未
払であった本件一時金を保証の対象とするものであることは、本件覚書作
成前後の関係者の行動から明らかである。
(被告らの主張)
⑴ 民法446条2項において保証契約に書面性が要求されている趣旨から
20 すれば、保証意思があり、かつ、当該意思が書面で外部的に明らかに表明
されている場合に限って、保証契約の成立が認められるべきである。
本件覚書の文言には、保証という文言が用いられていないため、保証意
思を明らかに認めることはできない。そして、被告Bに保証意思がないこ
とは、原告から連帯保証という文言を入れるよう求められたにもかかわら
25 ず、被告Bがこれを断ったという作成経過からも明らかである。本件覚書
は、被告会社の代表者である被告Bが被告会社に必ず債務を支払わせるこ
とを約束する趣旨で作成したものにすぎない。
確かに、被告Bは、Cに本件一時金の支払を促す中で、研究が上手くい
かない場合には、被告Bが個人的にCに補填すると述べているが、これは
Cに対する損失補償の趣旨であって、原告と連帯保証契約を締結したこと
5 を推認させるものではない。本件覚書作成後の原告、被告B及びCの間の
やり取りにおいて、「保証」という単語は一切出ていない。
また、被告Bには、被告会社の債務を保証する動機はなかった。すなわ
ち、被告Bは、被告会社から収入を得ておらず、被告会社の事業が成功し
た場合にもその利益の90%がCに還元されることが決まっていたから、
10 同社のプロジェクトの成功は被告Bの関心事ではなかった。さらに、被告
Bは、被告会社の代表取締役であったものの、実質的にはCが被告会社を
取り仕切っていたから、本件契約及びこれに関連する共同研究契約に関す
る関与も希薄であった。
以上によれば、被告Bには、保証意思がなく、また、本件覚書によって
15 保証意思が外部的に明らかであるともいえないから、連帯保証契約は成立
していない。
⑵ また、保証契約に書面性が求められる趣旨からすれば、書面には債務の
内容が明確に記載される必要があるが、本件覚書は、保証の対象となる主
債務が特定されていない。
20 すなわち、本件契約は、被告会社の債務として、本件一時金のみならず、
ランニングロイヤリティや特許管理費用の支払債務も規定している。そし
て、本件覚書の作成時点では、本件一時金のみならず、特許管理費用も履
行遅滞になっており、被告会社の代表者として請求を受けていた被告Bも
このことを認識していた。それにもかかわらず、本件覚書は保証の対象と
25 なる主債務の内容が明記されていない。
したがって、本件覚書には主債務の内容が特定されていないから、限度
額の定めのない個人根保証契約(民法465条の2第2項)として無効で
ある。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
5 前記前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事
実を認めることができる。
⑴ 被告会社は、令和5年4月30日付けで、国立がん研究センターとの間
で、被告会社の保有するテロメア伸長剤(人の染色体の末端部分を伸長さ
せる化合物)の医学応用に関する研究等を内容とする共同研究契約を締結
10 した(甲19、24、乙17)。
なお、原告は、国立がん研究センターにおける当該共同研究の責任者で
あった(甲19)。
⑵ 被告会社は、令和5年5月26日付けで、原告との間で、「テロメラー
ゼ逆転写酵素(TERT)のリン酸化阻害剤のスクリーニング方法」を発
15 明の名称とする特許の実施許諾を内容とする本件契約を締結した(前記前
提事実⑵、甲15)。
⑶ 上記⑴及び⑵の契約は、Cがその締結及び実施に向けた調整等を行って
おり、被告Bは、令和5年4月24日及び同年6月12日に、Cとともに
原告と面会した(甲4ないし7、19、乙17、原告本人、被告B本人、
20 弁論の全趣旨)。
⑷ 原告は、令和5年8月10日頃、本件一時金の支払期限が経過しても、
Cから支払がないことから、被告Bに対し、被告会社の支払に関する対応
を求めた(甲19、乙17、原告本人)。
⑸ Cは、令和5年8月11日から同月12日にかけて、原告に対し、「入
25 金の方は本件の処理が終わり次第そちらに着金されるとのことで、後1-
2週間ほど期間が必要とのことです。銀行の送金受付証明等は出せます。」
(8/11AM3:03)、「昨日依頼した送金証明のレターまだ届いて
おりません…昨日に日本でお金用意致しました。銀行営業日17日になり
ますが、2200万円+遅延金として50万円を足した2250万円を送
金します」(8/12AM4:14)、「14日には振り込みできます」
5 (8/12AM4:29)などとのメッセージを送信した(甲16)。
⑹ 原告は、令和5年8月12日、被告Bに対し、同月13日午後2時に国
立がん研究センターに所在する原告のオフィスで面会することを求め、被
告Bは、これを了承した(甲19、乙17)。
⑺ 被告Bは、令和5年8月13日、原告のオフィスを訪れ、原告との間で、
10 Dを立会人として、本件覚書を交わした(前記前提事実⑶)。
本件覚書は、原告が指定する内容を被告Bが筆記する形で作成されたも
のであるが、原告が「私、Bは」に続いて「連帯保証」という文言を記載
するよう求めると、被告Bは一旦逡巡したものの、その後、その代わりの
文言として、「債務不履行に際しては最大限のお支払いをさせて頂くこと
15 を誓約いたします」という文言を筆記した(前記前提事実⑶、甲19、2
0、乙17、原告本人、被告B本人)。
なお、被告Bは、原告に対し、本件覚書に添付して、被告B名義の私立
学校教職員共済加入者証を交付した(甲9)。
⑻ 原告、被告B及びDは、本件覚書作成後も、被告会社の支払に関して協
20 議を続けた。
そして、被告Bは、Cが翌日(14日)の入金を約束したことに関し、
原告から「もし入金がなければ、B先生的にはどうされますか。もし明日
入金がなければ」と問われると、「そうですね。現時点で私のほうからお
支払いできる額をお支払いするのか、それとも、ちょっと…」と返答した。
25 その後も、被告Bは、原告が「明日もし入金がなければ、また僕たちで
相談しましょう」、「そのときは、もうB先生も、それこそ、あの一筆は
僕は執行しなければならなくなると思うので」と発言したのに対し、「は
い」と返事をした。
(以上につき、甲29の1、30の1、原告本人、被告B本人)
⑼ 被告Bは、令和5年8月14日、Cに対し、「A先生が研究を進めない
5 場合には、ぼく個人からCさん個人に2200万円全額返金します」、
「とにかく保証をつけますので、振込だけは必ずお願いします」などとの
メッセージを送信した(甲18の1)。
そして、被告Bは、同日、原告に対し、Cとのメッセージのスクリーン
ショットを送信するとともに、「ややこしくならないように、協力してい
10 きましょう」とのメッセージに対し、「はい、先生、ありがとうございま
す。」などと返信するなどした(甲23)。
2 争点に対する判断
⑴ 被告Bは、令和5年8月13日、原告との間で、本件覚書の内容を合意
したところ、本件覚書について、原告は、被告Bが本件一時金の支払債務
15 を連帯保証したものであると主張するのに対し、被告らは、被告Bが被告
会社の代表者として被告会社に支払をさせることを約束したものであると
主張し、本件覚書において双方の合意した内容につき、当事者間に争いが
ある。そこで、本件覚書において、被告Bが本件一時金の支払債務を連帯
保証したか否かについて、以下検討する。
20 ⑵ 前記前提事実⑶及び上記認定事実⑺によれば、本件覚書には、「A殿
貴殿とAIMO PHARMACEUTICALが令和5年5月26日に
締結した国際出願番号PCT/JP2018/046169に関する実施
権許諾契約書に関して、私、Bは債務不履行に際しては最大限のお支払い
をさせて頂くことを誓約いたします」と記載されていることが認められる。
25 上記の文言によれば、「債務不履行に際しては最大限のお支払いをさせ
て頂くことを誓約いたします」の主語は、その文章の冒頭の「私、B」で
あるから、契約当事者の合理的意思解釈としては、被告会社の債務不履行
に際して支払をする主体は、被告B個人とされていたと解するのが相当で
ある。
したがって、本件覚書の文言によれば、被告Bは、商行為に係る被告会
5 社の債務につき、連帯保証したものと認めるのが相当である。
これに対し、被告らは、被告Bが被告会社の代表者として被告会社に支
払をさせることを約束したものであると主張し、被告Bは、上記にいう
「私、B」の述語は「誓約いたします」に限られるため、「債務不履行に
際しては最大限のお支払いをさせて頂く」の主語は、上記にいう「AIM
10 O PHARMACEUTICAL」である旨供述する(被告B本人35
頁)。
しかしながら、上記にいう「誓約いたします」の目的語は、「最大限の
お支払いをさせて頂くこと」であり、「お支払いをさせて頂く」の主語が
格別明記されていないのであるから、その主語も「私、B」であると解す
15 るのが相当であり、本件覚書の文章全体をみても、「AIMO PHAR
MACEUTICAL」は、上記文章にいう「令和5年5月26日に締結
した」の主語にとどまることは明らかである。したがって、被告らの主張
は、採用することができない。
⑶ そもそも、本件覚書は、本件一時金の支払債務が履行遅滞に陥っている
20 にもかかわらず、被告会社の財務・契約担当者であるCが言を左右にして
支払をしない状況下において作成されたものであり(上記認定事実⑷及び
⑸)、原告が、同社の代表取締役である被告Bに対し、個人として連帯保
証させる意図をもって本件覚書の作成を依頼したことは明らかであり、被
告B自身も、その意図を十分に理解していたものと認められる。
25 確かに、被告Bは、本件覚書作成時に原告から「連帯保証」という文言
を記載するよう求められたのに対し、一旦逡巡したものの、その後、その
代わりの文言として「債務不履行に際しては最大限のお支払いをさせて頂
くことを誓約いたします」という文言を筆記していることが認められる
(上記認定事実⑺)。そして、その内容は、主たる債務の履行がない場合
にこれと同一内容の給付をするという保証の意味そのものであって、保証
5 と同義の文言を言い換えたものにすぎない。そうすると、本件覚書が保証
とは異なる意図をもって作成されたものと解することはできない。
のみならず、被告Bは、本件覚書作成後、Cに対し、本件一時金に相当
する2200万円を支払うよう強く促しているほか(上記認定事実⑼)、
原告から「もし入金がなければ、B先生的にはどうされますか」と問われ
10 たことに対し、「現時点で私のほうからお支払いできる額をお支払いする
のか…」と応答している こと (上記認定事実⑻ )、原告が「そのと き
(注:明日入金がない場合)は…あの一筆は僕は執行しなければならなく
なると思うので」と述べたことに対して、何ら異論を述べていないこと
(上記認定事実⑻)、以上の事実が認められる。
15 上記認定に係る本件覚書作成後の被告Bの行動は、いずれも被告Bが本
件一時金の支払債務を連帯保証したことと整合するものといえる。
以上によれば、本件覚書の文言が意味するところのほか、その作成経緯、
作成状況、作成後の当事者の行動をも併せて考慮すれば、被告Bは、本件
覚書によって、本件一時金の支払債務を連帯保証する旨の意思表示をし、
20 原告との間で、同債務を連帯保証する旨の合意をしたと認めるのが相当で
ある。
⑷ア これに対し、被告らは、本件覚書の文言が曖昧であること、連帯保証
という文言を記載することを一旦拒んだこと、被告Bに連帯保証する動
機が見当たらないことなどの事情からすれば、被告Bに保証意思は認め
25 られない旨主張する。
しかしながら、本件覚書の文言やその作成経過を踏まえても、被告B
に保証意思が認められることは、上記において説示したとおりである。
実質的にみても、本件紛争は、仮に被告会社の財務・契約担当者である
Cに主たる責任があるとしても、被告Bは、被告会社の代表取締役の立
場にあったのであるから、その立場を踏まえ、医学の研究者というコミ
5 ュニティの先輩でもあり、本件一時金の不払によりその支払を被告Bに
求めざるを得なくなった原告の頼みに応じ、当時の状況に照らし連帯保
証したとしても、格別不自然なことであるとはいえない。
イ また、被告らは、履行遅滞となっていた被告会社の支払債務は契約一
時金以外にもあり、被告Bもそのことを認識していたにもかかわらず、
10 本件覚書は、主債務の内容を特定していないから、限度額の定めのない
個人根保証契約として無効である旨主張する。
しかしながら、本件覚書の作成に至る経緯や、本件覚書作成前後の原
告、被告B及びCのやり取りの各内容からすれば(上記認定事実⑷、⑸、
⑹、⑼)、原告及び被告Bにおいて、本件一時金の支払債務を連帯保証
15 する意思をもって本件覚書を交わしたことは明らかである。
ウ その他に、被告らが主張する諸点を検討しても、当事者双方の本人尋
問の結果等を踏まえると、上記判断を左右するに至らず、いずれも採用
の限りではない。
第4 結論
20 よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の
負担につき民事訴訟法65条1項本文、61条を、仮執行の宣言につき同法2
59条1項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
中 島 基 至
裁判官
古 賀 千 尋
裁判官
10 坂 本 達 也
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