令和5(受)14特許権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
最高裁判所第二小法廷最高裁判所第二小法廷
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裁判年月日 |
令和7年3月3日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許法2条3項1号4回 特許法101条1号3回
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キーワード |
特許権12回 侵害3回 差止2回 損害賠償1回 実施1回
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主文 |
本件各上告を棄却する。
1 本件は、被上告人が、上告人らに対し、上告人らの行為が被上告人の有する
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
6に記載された各発明(以下「本件各装置発明」という。)は、表示装置の発明で
3 所論は、本件配信は、我が国の領域外からするものであるから、特許権につ
4⑴ 我が国の特許権の効力は、我が国の領域内においてのみ認められるが(最
7号1551頁参照)、電気通信回線を通じた国境を越える情報の流通等が極めて
5 原審の判断は、以上と同旨をいうものとして是認することができ、所論引用 |
事件の概要 |
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判決文
令和5年(受)第14号、第15号 特許権侵害差止等請求事件
令和7年3月3日 第二小法廷判決
主 文
本件各上告を棄却する。
各上告費用は各上告人の負担とする。
理 由
令和5年(受)第14号上告代理人濱田佳志の上告受理申立て理由及び同第15
号上告代理人高橋淳、同壇俊光、同宮川利彰の上告受理申立て理由(ただし、いず
れも排除された部分を除く。)について
1 本件は、被上告人が、上告人らに対し、上告人らの行為が被上告人の有する
特許権を侵害すると主張し、上告人らの行為の差止め及び損害賠償等を求める事案
であり、我が国の領域外から領域内にインターネットを通じてプログラムを配信す
る上告人らの行為が、特許法2条3項1号にいう「電気通信回線を通じた提供」及
び同法101条1号にいう「譲渡等」に当たり、我が国の特許権を侵害するかが問
題となっている。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
⑴ 被上告人は、発明の名称を「表示装置、コメント表示方法、及びプログラ
ム」とする特許(特許第4734471号)に係る特許権(以下「本件特許権」と
いう。)を有している。当該特許の特許請求の範囲における請求項1、2、5及び
6に記載された各発明(以下「本件各装置発明」という。)は、表示装置の発明で
あり、請求項9及び10に記載された各発明(以下「本件各プログラム発明」とい
う。)は、プログラムの発明である。
従来から動画の再生に併せてユーザによって書き込まれたコメントを表示すると
いうシステムが存在したところ、本件各装置発明及び本件各プログラム発明は、動
画が表示される範囲とコメントが表示される範囲を調整するなどすることにより、
表示されたコメントが、動画自体の内容ではなく、書き込まれたものであることを
把握可能にし、もって、コメントの読みにくさを低減させるという効果を奏する。
⑵ 上告人エフシーツー・インクは、米国ネバダ州法に基づいて設立された法人
であり、インターネットを利用した動画配信サイトの運営等を業としている。上告
人株式会社ホームページシステムは、上告人エフシーツーの日本における業務代行
拠点として設立された日本法人であり、サーバの設置や管理、インターネットを利
用した各種情報提供サービス等を業としている。
上告人エフシーツーは、我が国に在住するユーザに向けて、インターネットを通
じ、複数の動画共有サービス(以下「本件各サービス」という。)を提供している
(なお、一部のサービスに係る事業は、令和2年9月、第三者に譲渡されたが、論
旨に関係する事情ではない。)。本件各サービスにおいては、動画の再生に併せて
ユーザによって書き込まれたコメントが表示される。
⑶ 上告人らは、本件各サービスを提供するため、米国所在のサーバから、イン
ターネットを通じ、ユーザが使用する我が国所在の端末に対し、本件各プログラム
発明の技術的範囲に属する各プログラム(以下「本件各プログラム」という。)を
配信している(以下、この配信を「本件配信」という。)。
本件配信は、ユーザが、我が国所在の端末を使用し、本件各サービスに係る動画
を視聴するための各ウェブページ(以下「本件各ページ」という。)にアクセスす
ると、本件各プログラムに係るファイル(JavaScriptファイルなど)を米国所在の
サーバから送信し、当該端末にダウンロードさせるものである。
そして、このダウンロードがされると、当該端末に自動的に本件各プログラムが
インストールされて実行可能となり、本件各サービスが本件各プログラムを利用す
ることで、ユーザにおいて、当該端末上で動画の表示範囲とコメントの表示範囲が
調整されるなどした動画を視聴し得るようになる。
⑷ ユーザは、前記のアクセスをすることにより、その使用している端末に本件
各プログラムをインストールさせ、本件各装置発明の技術的範囲に属する装置を我
が国の領域内において生産している。そして、本件各プログラムは、当該装置の
「生産にのみ用いる物」(特許法101条1号)に当たる。
3 所論は、本件配信は、我が国の領域外からするものであるから、特許権につ
いての属地主義の原則に照らし、我が国の特許権の効力が及ぶ行為に当たらないと
いうべきであるのに、これが特許法2条3項1号にいう「電気通信回線を通じた提
供」及び同法101条1号にいう「譲渡等」に当たるとした原審の判断に法令の解
釈適用の誤り及び判例違反があるというものである。
4⑴ 我が国の特許権の効力は、我が国の領域内においてのみ認められるが(最
高裁平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻
7号1551頁参照)、電気通信回線を通じた国境を越える情報の流通等が極めて
容易となった現代において、プログラム等が、電気通信回線を通じて我が国の領域
外から送信されることにより、我が国の領域内に提供されている場合に、我が国の
領域外からの送信であることの一事をもって、常に我が国の特許権の効力が及ば
ず、上記の提供が「電気通信回線を通じた提供」(特許法2条3項1号)に当たら
ないとすれば、特許権者に業として特許発明の実施をする権利を専有させるなど
し、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に沿わな
い。そうすると、そのような場合であっても、問題となる行為を全体としてみて、
実質的に我が国の領域内における「電気通信回線を通じた提供」に当たると評価さ
れるときは、当該行為に我が国の特許権の効力が及ぶと解することを妨げる理由は
ないというべきである。そして、この理は、特許法101条1号にいう「譲渡等」
に関しても異なるところはないと解される。
⑵ 本件配信は、本件各プログラムに係るファイルを我が国の領域外のサーバか
ら送信し、我が国の領域内の端末で受信させるものであって、外形的には、その行
為の一部が我が国の領域外にあるといえる。しかし、これを全体としてみると、本
件配信は、我が国所在の端末を使用するユーザが本件各サービスの提供を受けるた
め本件各ページにアクセスすると当然に行われるものであり、本件各サービスは、
本件配信により当該端末にインストールされた本件各プログラムを利用することに
より、ユーザに、我が国所在の端末上で動画の表示範囲とコメントの表示範囲の調
整等がされた動画を視聴させるものである。これらのことからすると、本件配信
は、我が国で本件各サービスを提供する際の情報処理の過程として行われ、我が国
所在の端末において、本件各プログラム発明の効果を当然に奏させるようにするも
のであり、当該効果が奏されることとの関係において、前記サーバの所在地が我が
国の領域外にあることに特段の意味はないといえる。そして、被上告人が本件特許
権を有することとの関係で、上記の態様によりされるものである本件配信が、被上
告人に経済的な影響を及ぼさないというべき事情もうかがわれない。そうすると、
上告人らは、本件配信によって、実質的に我が国の領域内において、本件各プログ
ラムの電気通信回線を通じた提供をしていると評価するのが相当である。
以上によれば、本件配信は、特許法2条3項1号にいう「電気通信回線を通じた
提供」に当たるというべきである。
⑶ また、本件各サービスは、本件配信及びそれに引き続く本件各プログラムの
インストールによって、本件各装置発明の技術的範囲に属する装置が我が国の領域
内で生産され、当該装置が使用されるようにするものであるところ、本件配信は、
我が国所在の端末において、本件各装置発明の効果を当然に奏させるようにするも
のといえ、サーバの所在地や経済的な影響に係る事情も前記⑵と同様である。そう
すると、上告人らは、本件配信によって、実質的に我が国の領域内において、前記
装置の生産にのみ用いる物である本件各プログラムの電気通信回線を通じた提供と
しての譲渡等をしていると評価するのが相当である。
以上によれば、本件配信は、特許法101条1号にいう「譲渡等」に当たるとい
うべきである。
5 原審の判断は、以上と同旨をいうものとして是認することができ、所論引用
の前掲平成14年9月26日第一小法廷判決は、本件に適切でない。論旨は採用す
ることができない。
なお、上告人らのその余の上告受理申立て理由は、いずれも上告受理の決定にお
いて排除された。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 草野耕一 裁判官 三浦 守 裁判官 岡村和美 裁判官
尾島 明)
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