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令和6(ネ)10029特許を受ける権利の確認請求控訴事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和7年4月24日
事件種別 民事
当事者 被控訴人Y1 Y2
法令 特許権
特許法35条1回
特許法34条1項1回
特許法2条1項1回
キーワード 職務発明28回
特許権6回
抵触4回
優先権2回
実施1回
主文 1 第1審原告の控訴を棄却する。
2 第1審被告会社の控訴に基づき、原判決主文第1項を取り消す。
3 前項の取消しに係る部分につき、第1審原告の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、第1審原告と第1審被告会社との間においては、第15
1、2審とも第1審原告の負担とし、第1審原告と第1審被告Y1
事件の概要 1 事案の要旨 第1審被告Y1は平成25年5月1日から令和3年9月15日まで第1審原 告の代表取締役の地位に、同月16日から令和4年3月3日までは第1審原告20 の取締役の地位にあった者である。第1審被告Y2は第1審原告の従業員であ った者である。

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判決文

令和7年4月24日判決言渡

令和6年(ネ)第10029号 特許を受ける権利の確認請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所令和4年(ワ)第70139号〔第1事件〕 令和5年

、 (ワ)

第70009号〔第2事件〕)

口頭弁論終結日 令和7年3月18日

判 決

控訴人兼被控訴人(第1事件、第2事件原告)

株式会社Biomedical

Solutions

(以下「第1審原告」という。)

同訴訟代理人弁護士 土 岐 敦 司

同 清 水 亜 希

同 多 田 啓 太 郎

同 田 中 宏 樹

同 野 中 啓 孝

同 花 房 裕 志

同 小 幡 久 樹

同 柳 田 駿

被控訴人(第1事件被告) Y1

(以下「第1審被告Y1」という。)

被控訴人兼控訴人(第1事件被告)

株式会社SG-1Medical

(以下「第1審被告会社」という。また、

第1審被告Y1と第1審被告会社を併せ

て「第1事件被告ら」ということがある。)

被控訴人(第2事件被告) Y2

(以下「第1審被告Y2」という。)

上記3名訴訟代理人弁護士 畑 中 鐵 丸

同 伊 藤 敬 洋

同 千 葉 喬 義

主 文

1 第1審原告の控訴を棄却する。

2 第1審被告会社の控訴に基づき、原判決主文第1項を取り消す。

3 前項の取消しに係る部分につき、第1審原告の請求を棄却する。

4 訴訟費用は、第1審原告と第1審被告会社との間においては、第

1、2審とも第1審原告の負担とし、第1審原告と第1審被告Y1

及び第1審被告Y2との間においては、控訴費用を第1審原告の負

担とする。

事 実 及 び 理 由

(略語は、本判決で新たに定めるもののほか、原判決の例による。)

第1 当事者の求めた裁判

1 第1審原告の控訴の趣旨

(1) 原判決中第1審原告敗訴部分を取り消す。

(2) (主位的請求)ア 第1審原告と第1審被告Y1との間において、本件発明1-1について、

第1審原告が特許を受ける権利を有することを確認する。(請求1-1)

イ 第1審原告と第1審被告会社との間において、本件発明1-3について、

第1審原告が特許を受ける権利を有することを確認する。(請求1-3)

ウ 第1審原告と第1審被告Y2との間において、本件発明2について、第1審原告が特許を受ける権利を有することを確認する。(請求2)

5 (3) (当審において追加的にされた予備的請求。なお、後記のとおり、訴えの変更はこれを許さない。)ア 第1審原告と第1審被告Y1との間において、本件発明1-1について、

第1審原告が欧州特許を受ける権利を有することを確認する。(請求1’

-1)イ 第1審原告と第1審被告会社との間において、本件発明1-3について、

第1審原告が欧州特許を受ける権利を有することを確認する。(請求1’

-3)ウ 第1審原告と第1審被告Y2との間において、本件発明2について、第1審原告が欧州特許を受ける権利を有することを確認する。(請求2’)2 第1審被告会社の控訴の趣旨主文第1、2項と同旨

第2 事案の概要等

1 事案の要旨

第1審被告Y1は平成25年5月1日から令和3年9月15日まで第1審原

告の代表取締役の地位に、同月16日から令和4年3月3日までは第1審原告の取締役の地位にあった者である。第1審被告Y2は第1審原告の従業員であった者である。本件は、第1審原告が、原判決別紙発明目録記載1-1から1-3の発明(本件各発明1)は第1審被告Y1が、同目録記載2の発明(本件発明2)は第1審被告Y2が、第1審原告在職中にした職務発明であると主張して、本件発明1-1について特許協力条約に基づく国際出願(以下「PCT出願」という。)をした第1審被告Y1に対し、これらの発明について第1審原告が特許を受ける権利を有することの確認を求め、本件発明1-2について第1審被告Y1から特許を受ける権利を譲り受けて国内特許出願をし、また本件発明1-3についてPCT出願をした第1審被告会社に対し、当該各発明について第1審原告

5 が特許を受ける権利を有することの確認を求め、本件発明2についてPCT出願をした第1審被告Y2に対し、同発明について第1審原告が特許を受ける権利を有することの確認を求めた事案である。なお、PCT出願に係る各発明についての請求は、PCT出願の指定国(特許協力条約の締約国の全て)において特許を受ける権利を有することの確認を求める趣旨である。原審は、PCT出願がされた各発明に関する請求(請求1-1、請求1-3及び請求2)に係る訴えは確認の利益がないとして却下し、国内特許出願がされた本件発明1-2に関する請求(請求1-2)を認容した。これに対し、第1審原告と第1審被告会社がそれぞれの敗訴部分を不服として控訴した。その後、第1審原告は、本件発明1-1、本件発明1-3及び本件発明2に関し、第1審原告が欧州特許を受ける権利を有することの確認を求める請求を予備的請求として追加する訴えの追加的変更をした。2 前提事実等前提事実(当事者間に争いがないか、又は掲記の各証拠若しくは弁論の全趣旨により容易に認められる事実)は、原判決「事実及び理由」の第2の2(1)から(4)まで(3頁~6頁)に記載のとおりであり、関連する条約の定めは、同3(7頁~)に記載のとおりであるから、これらを引用する。3 争点

(1) 訴えの利益の有無(請求1-1、請求1-3、請求2、請求1’-1、請求1’-3、請求2’共通。争点1)

(2) 本件発明1-1の職務発明性(争点2)

(3) 本件発明1-2及び本件発明1-3の職務発明性(争点3)本件発明1-3は、本件発明1-2に係る国内特許出願を優先権主張の基礎出願として、PCT出願が行われたものであるところ、本件発明1-2と本件発明1-3には、本件補正の限度で内容に差異が存在するものの、双方当事者は、本件発明1-2の職務発明性については、本件発明1-3の職務

5 発明性に係る判断に従うことに同意した。そして、本件発明1-3は、複数の請求項から構成されるところ、双方当事者は、そのうち請求項1のみに基づき、本件発明1-3全体の職務発明性を判断することに同意した。そのため、本件発明1-2の職務発明性の争点の内容は、本件発明1-3の請求項1に関するものと同一である。

(4) 本件各発明1に係る特許を受ける権利について、第1審原告の承継取得手続の履践の有無(争点4。当審における第1事件被告らの追加主張)

(5) 本件発明1-2及び本件発明1-3に係る第1審原告の特許を受ける権利について、対抗要件欠如又は権利喪失の抗弁の成否(争点5。当審における

第1審被告会社の追加主張)

第3 争点に関する当事者の主張

争点に関する当事者の主張は、以下のとおり当審における当事者の主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」の第3(12頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、第3の1(被告らの主張)(1)第3段落末尾(12頁)に「したがって、即時確定の利益を欠き、確認の利益がない。」を加える。

1 争点1(訴えの利益の有無)について

(第1審原告の補充的主張)

(1) 原判決は、請求1-1、請求1-3及び請求2に係る訴えについて訴えの

利益がないとする理由として、最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁(以下「BBS事件最判」という。)を引用して属地主義の原則を持ち出している。しかし、本件は特許権の効力が問題となっているわけではなく、各PCT出願について、第1審原告が職務発明の規定に基づいて特許を受ける権利の譲渡を受けたかどうかという私人間の私的紛争が争点となっているのであるから、「特許権の効力が特許権が成立した国以外には及ばない」という実

5 体法上の属地主義は本件に関係がない。

各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められるという抵触法上の属地主義については、あくまで準拠法上の問題にすぎない。日本法とドイツ法で判断が異なる可能性があるからといって、本件について確認の利益がないとする原判決の判断は失当である。

(2) 原判決は、本件発明1-1、本件発明1-3及び本件発明2に係る各PC

T出願について取下擬制となっていることを理由に、確認の対象となる権利関係が存在しないと判示するが、取下擬制は手続上の事由にすぎず特許を受ける権利の消滅原因ではない。

(3) 特許協力条約の締約国は157か国であり、出願人は、PCT出願するこ

とにより、これらの締約国及び地域において特許を取得することが可能となる。本件発明1-1、本件発明1-3及び本件発明2に係る各PCT出願は全指定であるから、第1審原告は、請求1-1、請求1-3及び請求2について、同条約の締約国の全てにおいて特許を受ける権利を有することの確認を求めているものである。第1審原告は、日本において確認判決を得た後、この中から現実に特許を取得したい国や地域を選択して、新たな出願又は権利の回復の手続を求めていくことになる。本件において、ドイツをはじめとする各国で、日本人同士で訴訟をするとすれば、時間面、労力面、費用面で当事者の負担が大きく、紛争の解決に適切とはいえないことは明らかである。

第1審原告が、一つの国の裁判所で全ての指定国における特許を受ける権

利についての判決を取得できることで、紛争の抜本的解決に資するだけでなく、当事者の負担は軽減されることになる。日本の裁判所は本件の紛争について国際裁判管轄を有し、また、準拠法については第1審

(原告の主張)

としては日本法であるが、それが容れられないとしても裁判所が法の適用に関する通則法に基づき適宜判断すれば足りること

5 である。

そして、日本において確認判決がされれば、少なくともドイツでは欧州特許出願をすることができる。以上を総合すれば、本件において確認の利益が認められることは明らかである。

(4) 本件では、ドイツにおいて外国の判決が承認されることを妨げる事由(ド

イツ民事訴訟法328条1項各号)は存在しないにもかかわらず、原判決はこれらの承認の要件を個別に認定しておらず不当である。ドイツ法によれば日本の裁判所は管轄を有し(同項1号非該当)、訴状が適式に第1審被告らに送達され、第1審被告らも応訴しており(2号非該当)、ドイツの判決等と抵触せず(3号非該当)、相互保証がある(5号非該当)。4号において抵触の可能性があるとされるのは、ドイツ法の重要な原則又は基本権に影響する場合に限られており、国際的調和が求められている法領域である特許制度において、外国判決との抵触が生じることは考えられない。欧州特許を受ける権利については、EPC条約60条1項により、従業者が主に雇用されている国の法律に従って決定されると規定されている。

(5) 改めて、確認の利益の要件について主張すると、以下のとおりである。

ア 確認の訴えという方法選択の適否方法選択の適否で問題となるのは、主として、給付・形成の訴えとの関係であり、日本の裁判所に対する訴えが複数ある中での方法選択の適否である。本件においては、本件発明1-1、本件発明1-3及び本件発明2に係る各PCT出願について、手続上いずれも取下擬制がされているために出願人名義移転請求などの給付請求はすることができず、あくまで実体法上第1審原告に特許を受ける権利があることを確認する請求によるしかなく、確認訴訟以外に有効、適切な法的手段は存在しないから、方法選択の適否において問題はない。

5 原判決は、第1審原告がドイツの裁判所に対しドイツ法の職務発明の規

定に基づき特許を受ける権利の確認を求めて訴えを提起することができ、それが本件における紛争の解決として有効かつ適切である旨判示しており、外国裁判所への直接提訴可能性を、方法選択の適否という指標の考慮要素として判断していることが読み取れる。しかし、確認の利益は、無限定に広がり得る確認訴訟の外延を確定しようとするものであり、それが保護しようとする利益は、日本国裁判所の資源の有効活用である。我が国の民事訴訟法上の確認の利益の有無を検討する際に、外国裁判所に直接提訴できるか否かを考慮することは、確認の利益の問題でない他事考慮をしていることになる。外国に提訴可能であることは、本来は、民訴法3条の9の国際裁判管轄の問題である。また、原審以来、請求1-1、請求1-3及び請求2の確認対象は、PCT出願の指定国において特許を受ける権利を有することであるので、ドイツの裁判所に対して訴えを提起することができたとしても、例えば、米国・中国などの指定国において特許を受ける権利の確認請求に関して、何ら意味をなさない。イ 確認対象選択の適否請求1-1、請求1-3及び請求2並びに請求1’-1、請求1’-3及び請求2’は、現在の権利義務関係又は法律関係の存否の確認を求めるものであるから、確認対象として問題はない。ウ 即時確定の利益

第1審原告の請求は、国際的にも法的利益として保護が認められている

特許を受ける権利を確認対象とするものであり、確認を求める法律的地位は具体的、現実的なものである。また、第1審原告は、外国における新出願や権利の回復を目的として、現時点における特許を受ける権利を有することの確認を求めており、この

5 確認が認められなければ目的が達成できないことから、第1審原告が保護

を求めている法律的地位に対して不安、危険が生じているといえる。

(6) 第1審原告は、当審において、欧州特許を受ける権利について確認を求め

る訴えの予備的追加的変更をする。欧州特許を受ける権利については、原審において、PCT出願における特許を受ける権利の確認を求める訴えについて、訴えの利益に関する典型例として争点となっており、当事者双方が攻撃防御を尽くした内容であるから、民訴法143条1項の要件を満たすものである。(第1審被告らの補充的主張)

(1) 第1審原告が、原審において、日本法の職務発明の規定に基づく特許を受

ける権利が自己に帰属するとの主張を一貫して行い、「ドイツ法の職務発明の規定に基づく特許を受ける権利が必ずドイツにおいて承認される」というような主張立証が行われていないことを考えれば、これと矛盾する主張の一切は、時機に後れた攻撃防御方法として却下されなくてはならない。

(2) 第1審原告は、確認の利益の判断に際して、外国裁判所への直接提訴可能

性を考慮すべきではない旨主張するが、失当である。そもそも、PCT出願は、特許協力条約及び同条約に基づく国際出願等に関する法律に基づく制度であり、締約国における国内特許の取得を簡素化するため、その出願に係る願書手続を一本化するものにすぎず、指定国のそれぞれにおいて特許として認められるか否かは、最終的には、当該締約国の特許庁の実体的な審査に委ねられる。そして、各国の特許権は、その成立について当該国の法律によって定められることは確定した判例(BBS事件最判)であるから、本件における確認の利益の存否判断に際しては、当然に外国裁判所への直接提訴可能性が重大な考慮要素となる。そして、本件において、第1審原告が外国裁判所へ直接提訴を行うことが不可能であった等の特段の事情は存在しないから、第1審

(原告の主張)

は失当

5 というほかない。

(3) 第1審原告は、請求1-1、請求1-3及び請求2並びに請求1’-1、

請求1’-3及び請求2’に係る特許を受ける権利の確認判決がドイツで承認されることは明らかである旨主張する。しかし、英国、フランスの場合には職務発明に関わる権利は基本的に会社側に帰属するが、米国、ドイツ、日本では逆に発明者に帰属する(日本については平成27年特許法改正によって、契約や就業規則等にあらかじめ定めることにより会社側へと帰属させることができる。)ものとされ、さらに、米国では発明者に帰属する権利をあらかじめ会社と発明者が契約により一定条件のもとに会社へ移転するのが通常とされ、その契約条件は、契約自由の原則に従い、会社と発明者が自由に決めることとされているが、ドイツではその条件は自由ではなく、厳密に決められた従業員発明法に従う必要があるといった形で、それぞれの制度を支える基本的な価値観・公序に大きな相違があるから、日本でされた確認判決が確実に承認されるとはいえない。

2 争点2(本件発明1-1の職務発明性)について

(第1審被告Y1の補充的主張)

(1) 本件は、実質的にはM&Aの後処理の問題であり、本来、職務発明の問題

とするには適しないものである。

第1審原告について大塚製薬グループへの経営の承継があった後の第1

審被告Y1は、本来第1審原告から一切手を引いてもよかったものであるが、ノウハウのない大塚製薬グループのため、M&Aのアフターフォローをする独立の専門的助言をする立場だったものである。第1審被告Y1が受ける報酬は指揮命令に服することの対価ではなく、第1審被告Y1は特許法35条が想定する従業者ではない。

(2) ベンチャー企業において、事業範囲が狭いことは、投資家も含め周知の事

実である。

5 本件経営委任契約(乙2)においても、対象は「頭蓋内血栓除去デバイス

及び頭蓋内動脈狭窄治療用ステント開発事業」に限定されており、頭蓋内の血栓関係の事業でも、頭蓋内血栓「除去」以外は対象外である。

第1審原告は、第1審被告Y1のノート(甲90、92、93)や、第1

審原告に在籍していた第1審被告Y1の兄である Z (以下「 Z」という。)のノート(甲89、91)の記載から、第1審原告の業務が頭蓋内血栓除去以外にも及んでいたことが分かる旨主張するが、これらのノートは女性とのデートなども記載されている私的なノートであって、第1審原告のいう「業務ノート」などというものではない。その提出には信義則上これを証拠として採用することが許されないとするに足りる事情が存在し、証拠能力がない。また、内容的にみても、第1審

(原告の主張)

を裏付けるものでは全くない。例えば、第1審原告が、第1審被告Y1や Zにおいて、第1審原告の業務が頭蓋内血栓除去以外に及んでいることを前提に、血栓回収(血栓除去デバイス)事業のみで進めるか、他の事業を含めるかどうかという検討をしている記載であるとするものは、買収者側である大塚メディカルデバイスやJIMROの希望の聞き取りを記載したものにすぎない。また、第1審原告が「買収者を欺こうとする記載」とするものは、 Zの自由発明であったものが事業譲渡の過程において第1審原告名義で特許出願されたため、Zの自由発明であることを株主に説明するためのブレインストーミングで検討されたいくつかの手段を記載したものであり、第1審原告はこれをあたかも実現したかのように取り扱った上で論難するものであって、本件と全く関連性を有していない。

(3) そもそも、本件発明1-1は、第1審被告Y1が発明したものではない。

第1審被告Y1は文系の学部の出身であって、本件発明1-1のような発明

をすることはできない。発明者は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校ロナルドレーガンメディカ

5 ルセンターの A 教授(以下「 A教授」という。)である。

発明者が A教授であることは、同教授の手になる研究ノート(乙49)の10頁ないし15頁で明らかである。 A教授は、動脈瘤治療に必要となる大口径カテーテルの利用を考えた場合、動脈瘤の起始部に引っかかる(レッジエフェクト)という臨床上の問題意識から、令和2年6月ころ、ガイドワイヤーの先端にアンカー機能(重り)を付するというアイデアを思いつき、これを現実化するためにステント類似構造とするか、バルーン類似構造とするか、加工方法をどのようにするか、という具体的検討を行うことで発明を完成させ、同月6日には、第1審被告Y1に対してこの開示を行ったものである。

第1審原告は、甲第90号証に、第1審被告Y1が、平成27年6月頃、

動脈瘤にステントを留置することについて検討したメモが残されている旨主張するが、同号証の27、28頁は、新規な医療技術についての創作メモなどではなく、医師から教示してもらった血管内治療用動脈瘤内にコイルを留置する手法としての「Jailing」と「Trans-Cell」(いずれも当時としてはありふれた留置手法である。)の違い、留置の際の手技の注意点等を勉強のためにメモしたものにすぎない。(第1審原告の補充的主張)

(1) 第1審被告Y1の主張のうち、(1)は独自の見解にすぎない。

(2) 第1審被告Y1が、ベンチャー企業において事業範囲が狭いとするのも根

拠がない。すなわち、第1審被告Y1や Zの業務ノートには、第1審原告の業務範囲が頭蓋内血栓除去以外に及んでいることを前提に、血栓回収(血栓除去デバイス)事業のみで進めるか、これに脳動脈硬化、下肢動脈硬化(留置型ステント事業)を含めるかどうかという検討をしている記載があり(甲90の7、9、41頁、甲91の18、19頁)、「血栓回収に特化していたので

5 と言って逃げる」

(甲91の19頁)等の買収者を欺こうとする記載もある。

(3) 本件発明1-1の発明者が A教授であることは否認する。

ア 第 1 審被告Y1は、本件発明1-1の発明者を同人として本件PCT出願1をしたのであり、現在になって同人が発明者でないと主張することは特段の事情のない限り禁反言として許されない。イ そもそも、原審においては、第1審被告Y1も、 A教授も、本件発明1-1の発明者が第1審被告Y1であることを前提にした陳述書を提出しており(乙10、19)、当審の陳述書(乙46、47)と、その内容が不自然に変遷している。社会的立場のある A教授が、日本の発明品とみせて補助金を取得するような詐欺的な話に加担するとは考え難い。ウ 乙第49号証の研究ノート10頁の記載は一義的に明らかではない。ステントを生体管腔の内壁に係止させて治療デバイスをデリバリする技術は同メモの作成より前に存在し(甲99、令和元年7月25日発行)、本件発明1-1の優先日(特願2020-115956につき令和2年7月3日、特願2020-123924につき同月20日、特願2020-176496につき同年10月21日)には公知となっていたという事情を踏まえれば、乙第49号証の記載は、単に従来技術を復習的に記載しただけのメモとも解される。また、本件発明1-1の特徴的部分は、生体適合性を有する材料のほか、手技での便宜上、一部は放射線不透過性部材を用いつつ、係止ステントが生体管腔の内壁に十分に係止し、かつ、簡便なリシース等をなしうるだけの係止ステント全体の形状・構造や、本体部の自由凸端の突出方向等を特定する点にあるところ、そのような特徴的部分は乙第49号証には記載されていない。むしろ、第1審被告Y1の業務ノート(甲90)の27、28頁には、平成27年6月頃、動脈瘤にステントを留置することについて検討したメ

5 モが残されている。

(4) 仮に A教授が本件発明1-1に何らかの寄与をしていたとしても、 A

教授の研究ノートには従来技術が記載されているにすぎず、医療機器としての安全性と両立させる形でアイデアを具現化したのは、第1審原告内部において、その計算で準備した原材料を用いて試作品を作成した上、第1審原告の設備を利用して発明を完成した第1審被告Y1である。したがって、本件発明1-1は第1審被告Y1と A教授が共同発明者となるものである。

3 争点3(本件発明1-2及び本件発明1-3の職務発明性)について

(第1審被告会社の補充的主張)

(1) 2(第1審被告Y1の主張)(1)(2)において主張したのと同旨である。

(2) 本件発明1-2及び本件発明1-3の発明者が第1審被告Y1でなく A

教授であることも、本件発明1-1と同様である。A教授は、令和2年10月頃、従来の動脈瘤塞栓用血管プラグでは、展開時の硬さや突起等によって動脈瘤起始部に裂傷が生じる可能性が高いという臨床上の知見をベースに、プラグの新たな展開方法についての具体的検討を行い、同年11月30日には、先端を内側に巻き込む形で展開する発明を行ったものである(乙49の17~20頁)。その具体的な展開の様子は、乙第49号証の21頁左にも引き続き記載されている。本件発明1-2及び本件発明1-3については、当時 A教授が制作したモックアップも存在する。

第1審原告は、甲第93号証の22頁から発明者が第1審被告Y1である

旨主張するが、ここには、血栓回収実験における事前準備が記載されているにすぎない。(第1審原告の補充的主張)

(1) 本件がM&Aの後処理の問題で職務発明の問題とするには適しないとか、

頭蓋内の血栓関係の事業でも、頭蓋内血栓「除去」以外は第 1 審原告の事業

5 の対象外であるとの第1事件被告らの主張が失当であることは、前記2(第

1審

(原告の主張)

(1)、(2)において主張したのと同旨である。

(2)ア 第1審被告会社が本件発明1-2及び本件発明1-3の発明者に関し、

A教授であると主張するのが禁反言により許されないこと、第1審被告Y1や A教授の陳述が変遷していることは、前記2(第1審

(原告の主張)

(3)ア、イで主張したとおりである。

イ 第1審被告Y1の業務メモである甲第93号証の22頁には、平成27年頃には既に、本件発明1-2及び本件発明1-3の特徴的部分であるステントの先端が外向きに三次元的にカールする形態が示されているから、本件発明1-2及び本件発明1-3の発明者は第1審被告Y1とみるべきである。

(3) 仮に A教授が本件発明1-2及び本件発明1-3に何らかの寄与をして

いたとしても、これについては前記(2)イのとおり既に第1審被告Y1がアイデアを有していたものであり、医療機器としての安全性と両立させる形でアイデアを具現化したのは、第1審原告内部において、その計算で準備した原材料を用いて試作品を作成した上、第1審原告の設備を利用して発明を完成した第1審被告Y1である(第1事件被告らの主張を前提としても、 A教授が制作したのはモックアップのみである。)。したがって、本件発明1-2及び本件発明1-3は、第1審被告Y1と A教授が共同発明者となる。

4 争点4(本件各発明1に係る特許を受ける権利についての第1審原告の承継

取得手続の履践の有無)について(第1事件被告らの追加主張)

第1審原告における職務発明等取扱規程(甲1。以下「本件規程」という。)

によれば、発明者の届出を受けた上で(7条) 職務発明であるか、 (8条1項)、当該従業員が発明者等であるか又は発明者等の寄与割合等(同条2項)を決定し、同項の決定を行った場合には発明者等に通知する(同条4項)ものと規定

5 されているが、本件各発明1についてはかかる手続は履践されていない。

(第1事件被告らの追加主張に対する第1事件原告の反論)

(1) 本件規程によれば、特許を受ける権利は当然に第1審原告に承継され(3

条1項)、第1審原告が特許を受ける権利を承継しない旨決定したときは従業員等に帰属させることができ(同条4項)、その場合第1審原告が予約承継した効果が遡及的に生じなかったことになる(9条)。

第1事件被告らの引用する本件規程7条、8条は手続規定にすぎない。

(2) なお、法務デューデリジェンスセッションインタビューにおける第1審原

告の当時の幹部(第1審被告Y1を含む。)の回答によれば、紛争発生の懸念がないことから本件規程7条、8条の手続は履践されていないことを自認しており、第1審原告と第1審被告Y1の間で、これらの規程によらない合意があったものと認めるべきである。

5 争点5(本件発明1-2及び本件発明1-3に係る第1審原告の特許を受け

る権利について、対抗要件欠如又は権利喪失の抗弁の成否)について(第1審被告会社の追加主張)

(1) 第1審被告Y1は、令和3年7月7日までに、本件発明1-2及び本件発

明1-3に係る特許を受ける権利を、第1審被告会社に譲渡した。

(2) 第1審被告会社は、第1審原告が本件発明1-2及び本件発明1-3につ

いて特許出願ないし国際特許出願をするまで、第1審原告の特許を受ける権利を認めない。

(3) また、第1審被告Y1は、令和3年1月27日、本件発明1-2に係る国

内特許出願をし、その後特許を受ける権利を第1審被告会社が譲り受け、また、第1審被告会社は、本件発明1-3に係る特許を受ける権利を第1審被告Y1から譲り受けた上、令和3年7月7日、本件PCT出願2をした。その結果、第1審原告は、特許法34条1項の適用により、確定的に権利を喪失した。

5 (第 1 事件被告会社の追加主張に対する第1審原告の反論)

特許を受ける権利の二重譲渡について、悪意者又は背信的悪意者は対抗要件の欠缺を主張する正当な利益を有しないところ、本件の経緯からみて、第1審被告会社は、背信的悪意者であることが優に認められる。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(訴えの利益の有無)について

(1) PCT出願に関する主位的請求(請求1-1、請求1-3及び請求2)について前記第3の1(第1審原告の補充的主張)(3)、(5)アのとおり、第1審原告は、本件発明1-1、本件発明1-3及び本件発明2について、特許協力条約の締約国の全てにおいて特許を受ける権利を有することの確認を求めているものである。そして、第1審原告は、本件訴訟において特許を受ける権利の確認判決を得た後、当審口頭弁論終結時において158か国存在する(第1審原告は157か国と主張するが、令和7年1月7日ウルグアイ東方共和国が加入している。)、特許協力条約の締約国の中から現実に特許を取得したい国や地域を選択して、新たな出願又は権利の回復の手続を求めていくとしているのである(第1審原告は、いつどの国において特許を取得する予定であるのかを明らかにしていない。)。しかしながら、特許権に関する属地主義の原則に照らし、特許を受ける権利が諸外国においてどのように取り扱われ、どのような効力を有するかについては、当該特許を受ける権利に基づいて特許権が登録される国の法律によって決せられると解されるところ、当該発明につき、いかなる外国においても新たな出願又は国内移行等がされておらず、その具体的な予定も明らかにされていない現時点において、当該発明につき特許を受ける権利を確認することについて、紛争の成熟性を認めることはできない。この点に関し、第1

5 審原告は、請求1-1、請求1-3及び請求2の準拠法は日本法であると主

張し、準拠法に関して第1審原告の主張を採用しないとしても、裁判所がし

かるべき準拠法を適用すれば足りる旨主張するが、158か国もの特許協力

条約の締約国における関係法令の内容及びこれらに基づき第1審原告が特許

を受ける権利を有していることについて、当事者から具体的な主張立証がな

いのに、裁判所がこれらを認定判断することはできない。第1審原告の主張

は失当である。

そのほか、前記各請求の確認の利益に関する第1審原告の主張は、以上の

判断を左右するものではない。

(2) PCT出願に関する予備的請求(請求1’-1、請求1’-3及び請求2’)

について

第1審原告は、当審において、原審で確認を求めていたPCT出願に関し、

予備的請求として、欧州特許を受ける権利を有することの確認を求める請求

を追加した。そして、第1審原告は、欧州特許を受ける権利は、原審におい

て、訴えの利益に関する典型例として争点となっており、当事者双方が攻撃

防御を尽くした内容である旨主張する。

しかしながら、特許協力条約の締約国の全てにおいて特許を受ける権利を

有することの確認請求と、欧州特許を受ける権利を有することの確認請求と

では、第1審被告らの反論すべき範囲も全く異なり(前者について訴えの利

益がないことを主張立証するのに、後者について主張立証することは必須で

はない。)、また、第1審被告らは、原審において、欧州特許を受ける権利

と「PCT出願に係る特許を受ける権利」は異なる旨主張しているところで

あって(原判決第3の1(被告らの主張)(2))、欧州特許を受ける権利に関

し、原審において、当事者双方が攻撃防御を尽くしたとは到底いえない。

そうであるとすると、第1審原告が追加した予備的請求について、当審に

おいて審理するためには、相当長期間を要することが見込まれるから、第1

審原告による上記の訴えの変更は、これにより訴訟手続を著しく遅滞させる

こととなるものと認められる。

(3) まとめ

以上によれば、PCT出願に関する主位的請求に係る訴えは、即時確定の

利益を欠くことにより、確認の利益を欠くというべきである。

また、第1審原告が当審でした予備的請求を追加する訴えの変更は、民訴

法143条1項ただし書に該当するから、同条4項により、これを許さない。

争点3(本件発明1-2及び本件発明1-3の職務発明性)について

前記1によれば、請求1-2に限り、本案の判断を要するところ、原審にお

ける争点整理の結果によれば、本件発明1-2の職務発明性は、内容的に同一

性を有する本件発明1-3の職務発明性に従うこととされたため、以下、本件

発明1-3の職務発明性を検討する。

(1) 本件発明1-3の内容(甲7)

ア 特許請求の範囲

【請求項1】

血管に形成された瘤を塞栓する血管プラグであって、

プッシャワイヤと、

前記プッシャワイヤの遠位側に接続され、瘤に留置される拡張部と、

を備え、

前記拡張部は、カテーテルへの収納時には縮径して略筒形となり、非収

納時には先端側から外向きにカールする血管プラグ。

イ 本件明細書等の記載

本件明細書等には原判決第4の2(1) 25頁~)

( のとおりの記載があり、

これによれば、本件明細書等には以下の開示があることが認められる。

(ア) 技術分野

本件発明1-3は、血管プラグ及びこれを備えた治療デバイスに関す

る(【0001】)。

(イ) 背景技術

患者の血管内に形成された瘤の破裂を予防するため、血管プラグで瘤

を塞栓する治療も行われているところ、プッシャワイヤと、メッシュ部

とを備えた血管プラグが提案されている(【0002】)。

(ウ) 発明が解決しようとする課題

血管プラグは、拡張したときのメッシュ部のサイズと瘤の大きさとが

適合しないと、瘤を適切に塞栓することが難しくなり、種々の不具合も

生じるので、サイズの異なる複数の血管プラグを準備した上で最適なサ

イズのものを選択する必要があるなど、施術前の作業が煩雑になるとい

う問題があった。

また、従来例の血管プラグでは、図6Aにあるように、カテーテル1

の先端を分岐部動脈瘤ANの内部に送り込み、その状態でプッシャ

ワイヤ105を操作し、カテーテル3に収納されていたメッシュ部10

を、先端側から押し出すものである。ところが、メッシュ部104の

半分以上が押し出されたときに、先に押し出されたメッシュ部104の

拡張力により、残りのメッシュ部104がカテーテル103から引き出

され、図6Bに示すように、メッシュ部104が急激に飛び出してしま

い、分岐部動脈瘤ANを脆弱にし、場合によっては突き破ってしまうこ

とがあり、慎重な操作を要し、手術の難易度が上がるという問題があっ

た。

そのため、本件発明1-3は、瘤に対するサイズの自由度が高く、拡

張部の急激な拡張を抑制した血管プラグ及び治療デバイスを提供するこ

と等を目的として、請求項1記載の構成を採用した(【0004】~【0

】)。

(エ) 発明の効果

本件発明1-3によれば、瘤に対するサイズの自由度が高く拡張部の

急激な拡張を抑制した血管プラグ及び治療デバイスを提供することがで

きる(【0017】)。

(オ) 発明を実施するための形態

図3Aに示すように、カテーテル3(治療デバイス1)の先端部31

を血管分岐部Bの近傍まで誘導し、更に先端部31を分岐部動脈瘤AN

の内部に送り込む(【0034】)。

次に、カテーテル3の近位側(X1側)を把持した状態で、プッシャ

ワイヤ5を操作して、ステント4を遠位側(X2側)に押し込むことで、

図3Bに示すように、カテーテル3に収納されていたステント4の先端

部41がカテーテル3の先端部31から押し出され、外向きにカールし

ながら拡張する。プッシャワイヤ5を操作して、ステント4を更に遠位

側に押し込むと、図3Cに示すように、ステント4の先端部41は、更

に外向きカールしながら拡張する。これにより、ステント4は、分岐部

動脈瘤ANの大きさに合わせて形状を変化させながら拡張して、最終的

に分岐部動脈瘤ANの大きさに合った略球状となる。ステント4を遠位

側に押し込み続けても、ステント4は、カテーテル3の先端部31から

一定の長さ以上は突出することがない(【0035】)。

最後に、図3Dに示すように、プッシャワイヤ5とステント4を分離

させ、カテーテル3とプッシャワイヤ5を生体内から回収する(【00

】)。

【図3A】 【図3B】

【図3C】 【図3D】

【図6A】 【図6B】

(2) A教授の経歴、研究分野等(乙19、45、46)

A教授は、日本の医師免許を取得後渡米し、カリフォルニア州の医師免

許を取得し、現在はカリフォルニア大学ロサンゼルス校ロナルドレーガンメ

ディカルセンターの脳神経外科及び放射線科の教授である。

A教授は、令和2年頃から、アメリカ MicroVention.Inc.のWEB(脳

動脈瘤治療用の袋状塞栓デバイス)を臨床で使用してきたが、WEBには展

開の際に動脈瘤を貫通するリスクがあることを認識していた。

A教授は、平成30年及び令和元年に、第1審原告と、医学アドバイザ

ー業務委嘱契約を締結しているが(甲55、56)、特に知的財産権の帰属

に関する記載はない。

(3) 第1審被告Y1の経歴等(乙10、47)

第1審被告Y1は、慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、銀行勤務を経て、

兄の Z(慶応義塾大学理工学部大学院修了、理学博士)と共に起業し、第

審原告を設立し、代表取締役となった。なお、両名は、大手弁理士事務所

の経営者の甥に当たる。

対外的にみると、具体的な技術的な事項を説明しているのは取締役・研究

開発部長であった Zである(甲39、41等)。また、ステント類の設計

図(甲44等)も、 Z名義で作成されている。

(4) A教授の研究ノート(乙49)の記載(別紙のとおり)

ア 乙第49号証の20頁右及び21頁左の令和2年11月30日付けのメ

モには、従来技術について、血管瘤内でWEBを展開すると、押出時に硬

く、これによる外傷が生じること、この課題に対応するため、メッシュ状

のWEBを発明したことが示され、21頁左には、カテーテルの先端から

メッシュが外向きにカールしながら展開する図面が記載されている。

イ 乙第49号証の21頁右の令和2年12月5日のメモには、 A教授が

発明した技術では尖りが少なく、サイズの許容度が得られること、第1審

被告Y1とスカイプでミーティングをしたことが記載されている。

ウ 乙第49号証の研究ノートは、一体の(ルーズリーフでない)ノートを

用い、日付順に記載されており、その真正を疑わせる事情はない。

(5) 本件発明1-3の発明者について

ア 発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをい

うところ(特許法2条1項)、発明者といえるためには、当該発明におけ

る技術的思想の創作行為に現実に関与したこと、すなわち、技術的思想の

創作行為、とりわけ従前の技術的課題の解決手段に係る発明の特徴的部分

の完成に現実に関与することが必要である。

イ 前記(1)によれば、本件発明1-3の特徴的部分は、血管内の瘤の破裂を

予防するため瘤を塞栓するプッシャワイヤとメッシュ部とを備えた血管

プラグにおいて、サイズの異なる複数の血管プラグを用意しなければなら

ず、また、メッシュ部の急激な拡張により瘤を損傷する危険があるという

課題があったため、ステントの先端部が、非収納時には、カテーテルの先

端部から押し出され、外向きにカールしながら拡張する構成を採用したこ

と、それにより、ステントが分岐部動脈瘤の大きさに合わせ形状を変化さ

せるため、瘤に対するサイズの自由度が高く、また、ステントがカテーテ

ルの先端部から一定以上突出しないため、急激な拡張により分岐部動脈瘤

に損傷を与えないことにある。

そして、乙第49号証の20頁右側には、血管の分岐部における瘤内で、

カテーテルから押し出されたWEBの先端が硬いことによる外傷につい

て記載され、また、本件明細書の【図6B】と同様の先端が尖ったWEB

が示されているから、本件発明1-3が解決しようとする課題のうち、分

岐部血管瘤の損傷のおそれが記載されている。次に、21頁左側には、W

EBの先端部が、カテーテルの先端部から押し出され、外向きにカールし

ながら展開する本件発明1-3の請求項1及び【図3B】ないし【図3D】

に対応する図面が示されている。さらに、21頁右側には、「発明した‘w

eb’又はメッシュボール」において、尖りが少なく、サイズの許容度をよ

り得られるという本件発明1-3の効果に相応する記載がみられる。

そうすると、乙第49号証には、本件発明1-3の課題と解決手段が明

確に記載されており、本件発明1-3の特徴的部分の完成に現実的に関与

したのは、 A教授と認めるのが相当である。

ウ 第1審原告は、第1事件被告らにおいて、本件発明1-3の発明者が A

教授であると主張することは禁反言により許されない旨主張するが、本件

は、使用者において従業員を発明者として記載して特許出願をしながら、

当該従業員からの職務発明対価請求訴訟の場面において当該従業員が発

明者であることを一転して否定するような事案ではないのであって、第1

審被告らの主張が当然に禁反言により許されないとはいえない。

また、第1審原告は、第1審被告Y1や A教授の陳述が変遷している

旨主張するところ、確かに、第1審被告Y1(原審陳述書が乙10、当審

陳述書が乙47)、 A教授(原審陳述書が乙19、当審陳述書が乙46)

とも、本件発明1-3につき、原審では、 A教授がアイデア(発明の種)

を与え、それに基づき第1審被告Y1が発明した旨陳述しており、当審と

は陳述に変遷があることは間違いのないところである。しかしながら、本

件発明1-3は臨床上の知見がなければ課題の発見と解決手段の発見に

は至らないものであり、上述のとおり A教授が臨床経験豊富であるのに

対し、第1審被告Y1にそのようなバックグラウンドがあるとは認められ

ない。また、原審では第1審被告Y1の職務範囲が大きな争点となってい

たところであり、第1審被告Y1の原審陳述書である乙第10号証に本件

発明1-3の具体的内容が記載されていないことに鑑みれば、乙第10号

証や乙第19号証は発明者につき単に評価を誤ったものともいえる。仮に

第1審被告Y1及び A教授の原審の陳述に虚偽があるとしても( A教

授は第1審被告Y1との個人的関係から同人名義での出願を容認はして

いることになる。)、本件PCT出願2の優先権主張の日の前の本件発明

-3の発明の経緯に関する客観的証拠である乙第49号証が存在する

状況のもとでは、陳述の変遷は、事実として誰が本件発明1-3の発明者

であるかの認定判断に決定的な影響を及ぼすものとはいえない。

さらに、第1審原告は、第1審被告Y1の業務メモである甲第93号証

に、平成27年頃には既に、本件発明1-3の特徴的部分であるステント

の先端が外向きに三次元的にカールする形態が示されているから、本件発

明1-3の発明者は第1審被告Y1である旨主張するが、当該図面は以下

のものであるところ、ここからは、そもそもどのような器具であるのか、

何らかの課題がありそれを新たに解決するものであるかを全く読み取る

ことができず、これは、この図の上部にある文字部分を参酌しても同様で

ある。まして、この図からは、カテーテルの先端のステントが外向きに三

次元的にカールするという動きのある構成を読み取ることはできない。第

審原告の主張は採用できない。

エ 第1審原告は、さらに、 A教授が本件発明1-3に関与したとしても、

同発明については既に第1審被告Y1がアイデアを有していたのであり、

医療機器としての安全性と両立させる形でアイデアを具現化したのは、第

審原告内部において、その計算で準備した原材料を用いて試作品を作成

した上、第1審原告の設備を利用して発明を完成した第1審被告Y1であ

るから、少なくとも第1審被告Y1と A教授の共同発明になる旨主張す

る。

しかし、本件発明1-3について既に第1審被告Y1がアイデアを有し

ていたとの前提が採用できないことは前記ウのとおりである。また、第1

審被告Y1が、第1審原告の内部において、その計算で準備した原材料を

用いて試作品を作成したり、第1審原告の設備を利用して発明を完成した

ことを認めるに足りる証拠はないし、試作品等の作成は承認申請や製品化

等の段階では必要になるとしても、本件発明1-3の完成のために必須の

ものとは直ちにいえない。本件発明1-3では、「血管プラグ」に係る医

療機器の具体的な構成が課題の解決手段であるところ、乙第49号証には、

本件発明1-3に相応する課題と解決手段が明確に記載されており、具体

的な着想を提供するものといえるから、 A教授を発明者と評価すること

に支障はない。したがって、本件発明1-3が第1審被告Y1と A教授

の共同発明になるとも認められない。

(6) そうすると、その余の争点について判断するまでもなく、本件発明1-3

の職務発明性が認められない(第1審被告Y1が本件発明1-3の発明者と

はいえない)から、その職務発明性について本件発明1-3の職務発明性に

従うとされた本件発明1-2についても職務発明とは認められず、請求1-

は理由がないことになる。

第5 結論

以上によれば、請求1-1、請求1-3及び請求2に係る訴えが訴えの利益

を欠くとした原審の判断は結論において相当であるから第1審原告の控訴を棄

却し(当審における訴えの追加的変更はこれを許さない。)、本件発明1-2

が職務発明とは認められず、請求1-2は理由がないから、第1審被告会社の

控訴に基づき原判決主文第1項を取り消した上、請求1-2を棄却することと

し、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

増 田 稔

裁判官

本 吉 弘 行

裁判官

岩 井 直 幸

(別紙) A教授の研究ノート(乙49)の記載

20頁右側

21頁左側頁右側

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