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令和5(行ケ)10102審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和7年5月14日
事件種別 民事
当事者 被告日本カーバイド工業株式会社
対象物 キューブコーナー素子を有する層状体および再帰反射シート
法令 特許権
特許法123条1項4号3回
特許法123条1項2号2回
特許法36条6項2号1回
特許法36条6項1号1回
特許法36条4項1号1回
特許法29条2項1回
特許法123条1項1回
キーワード 審決51回
無効38回
実施16回
進歩性14回
無効審判7回
分割5回
特許権2回
新規性2回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 設定登録 原告は、名称を「キューブコーナー素子を有する層状体および再帰反射シ ート」とする発明に係る特許(特許第5302282号、請求項の数4。以 下「本件特許」といい、その特許権を「本件特許権」と、その明細書を「本10 件明細書」という。その特許公報は別紙のとおりである。甲1)の特許権者 である。

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判決文

令和7年5月14日判決言渡
令和5年(行ケ)第10102号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和7年2月12日
判 決
原 告
スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
10 同訴訟代理人弁護士 根 本 浩
同 中 野 亮 介
同訴訟代理人弁理士 稲 葉 良 幸
同 阿 部 豊 隆
同 伊 東 有 道
被 告 日本カーバイド工業株式会 社
同訴訟代理人弁護士 黒 田 健 二
同 吉 村 誠
20 同訴訟代理人弁理士 松 本 孝
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
25 日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 特許庁が無効2021-800070号事件について令和5年4月25日に
した審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
5 第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 設定登録
原告は、名称を「キューブコーナー素子を有する層状体および再帰反射シ
ート」とする発明に係る特許(特許第5302282号、請求項の数4。以
10 下「本件特許」といい、その特許権を「本件特許権」と、その明細書を「本
件明細書」という。その特許公報は別紙のとおりである。甲1)の特許権者
である。
本件特許に係る出願(特願2010-211837号)は、平成16年2
月26日を国際出願日とする出願である特願2006-508834号(優
15 先日:平成15年3月6日(米国、以下「本件優先日」という。、平成15

年4月1日(米国) の一部を平成22年9月22日に新たな出願としたもの

であって、本件特許は、平成25年6月28日に登録がされた(甲1)。
⑵ 被告による無効審判請求
被告は、令和3年8月11日、本件特許の請求項1ないし4につき、特許
20 庁に無効審判(無効2021-800070号。以下「本件無効審判」とい
う。
)を請求した(甲114)。
特許庁は、令和4年10月26日、審決の予告(甲123)をしたところ、
原告は、令和5年1月26日、特許請求の範囲を訂正することを求める訂正
請求(以下、同訂正請求による訂正を「本件訂正」という。甲124)をし
25 た。
特許庁は、令和5年4月25日、結論を「特許第5302282号の特許
請求の範囲を、令和5年1月26日付け訂正請求書に添付された訂正特許請
求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、4について、訂正することを
認める。特許第5302282号の請求項1~請求項4に係る発明について
の特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決(以下
5 「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年5月10日、原告に送達され
た。
⑶ 本件訴訟の提起
原告は、令和5年9月6日、本件審決の取消しを求めて、本件訴訟を提起
した。
10 2 本件審決の理由の要旨等
⑴ 本件訂正後の特許請求の範囲
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は、以下のとおり
である(以下、請求項1ないし4記載の発明をそれぞれ「本件特許発明1」
ないし「本件特許発明4」といい、併せて「本件各特許発明」という。下線
15 部は、本件訂正により訂正された箇所である。)。(本件審決第3の1ない
し4)
当事者双方は、本件訂正を認めた本件審決の判断を争わない。
ア 請求項1(本件特許発明1)
「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキュー
20 ブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接し
ているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行で
ある、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前
記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、隣接して
いる前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差お
25 よび1-3二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー
素子の二面角の90度から偏差として定義され;かつ該二面角誤差が大き
さ及び/又は符号において変化しており、該二面角誤差の大きさが1分~
60分である、物品。」
イ 請求項2(本件特許発明2)
「前記複数のキューブコーナー素子が、名目上平行~1°未満非平行の範
5 囲内である二面縁を有する列をなしている、請求項1に記載の物品。」
ウ 請求項3(本件特許発明3)
「前記二面角誤差が反復パターンで変化している、請求項1に記載の物
品。」
エ 請求項4(本件特許発明4)
10 「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキュー
ブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接し
ているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行で
ある、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前
記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味し、隣接して
15 いる前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1分~60分の範囲
の3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素
子の二面角の90度から偏差として定義され、該二面角誤差が互いに異な
っている、物品。。

⑵ 本件無効審判において主張された無効理由
20 本件無効審判において請求人である原告が主張した無効理由は、次のとお
りである。(本件審決第4)
ア 無効理由1
本件訂正後の本件特許の請求項1ないし4に係る特許請求の範囲の記載
は、特許法36条6項2号に規定する要件(以下「明確性要件」という。)
25 を満たしていないから、本件特許は、特許法123条1項4号に該当し、
無効とすべきである。
イ 無効理由2
本件訂正後の本件特許の請求項1ないし4に係る特許請求の範囲の記載
は、特許法36条6項1号に規定する要件(以下「サポート要件」という。)
を満たしていないから、本件特許は、特許法123条1項4号に該当し、
5 無効とすべきである。
ウ 無効理由3
本件訂正後において、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法
36条4項1号に規定する要件(以下「実施可能要件」という。)を満たし
ていないから、本件特許は、特許法123条1項4号に該当し、無効とす
10 べきである。
エ 無効理由4
本件特許発明1、2及び4は、甲32(吹野正外2名、
「反射器のプリズ
ムについての検討」 照明学会雑誌、
、 Vol.53、No.6、1969年6月25日、
283頁~286頁)に記載された発明であるか又は当該発明に基づいて
15 当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明3は、
甲32に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたものであるから、本件各特許発明に係る特許は、特許法123条1項
2号に該当し、無効とすべきである。
オ 無効理由5
20 本件特許発明1、2及び4は、甲37(特開昭49-106839号公
報)に記載された発明であるか又は当該発明に基づいて当業者が容易に発
明をすることができたものであり、本件特許発明3は、甲37に記載され
た発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら、本件各特許発明に係る特許は、特許法123条1項2号に該当し、無
25 効とすべきである。
カ 無効理由6
本件特許発明1,2及び4は、甲43(米国特許第3833285号明
細書及びその抄訳)に記載された発明であるか又は当該発明に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明3は、甲
43に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
5 たものであるから、本件各特許発明に係る特許は、特許法123条1項2
号に該当し、無効とすべきである。
キ 無効理由7
本件各特許発明は、甲27(特表2002-541504号公報)に記
載された発明であるか又は当該発明に基づいて当業者が容易に発明をす
10 ることができたものであるから、本件各特許発明に係る特許は、特許法1
23条1項2号に該当し、無効とすべきである。
⑶ 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は、要するに、本件訂正を認めるとした上で、本件訂正後
の本件特許の特許請求の範囲の記載につき明確性要件違反(無効理由1) サ

15 ポート要件違反(無効理由2)はなく、本件明細書の発明の詳細な説明の記
載に実施可能要件違反(無効理由3)はなく、甲32、甲37、甲43をそ
れぞれ主引用例とする各新規性又は進歩性欠如の無効理由(無効理由4ない
し6)はいずれも認められないとした上で、本件各特許発明は、甲27に記
載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
20 特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法123条1
項2号に該当し、無効とすべきものである(無効理由7)というものである。

(本件審決第6ないし第12)
⑷ 甲27に記載された発明の内容、本件特許発明1との対比
本件審決は、上記判断をするに当たり、甲27に記載された発明の内容、
25 本件特許発明1と甲27に記載された発明との一致点及び相違点を、次のと
おり認定した。なお、本件審決が認定した甲27に記載された発明の内容、
本件特許発明1と甲27に記載された発明との一致点及び相違点(相違点2
7-1)につき、当事者間に争いがない。
ア 甲27に記載された発明の内容
「突出部182およびキャビティ184の配列を具備する構造化表面を
5 有する初期基板180において、
溝側面a、bならびにc、dは、切削工具の動作によって、それぞれ軸
186と188に沿って基板に形成され、
軸186、188は構造化表面の面に平行であり、かくして側面a、b、
c、dがすべて、このような面に平行な軸に沿って延在し、
10 次に、この構造化表面のネガ複製が、電鋳法または他の適切な手段によ
って基板190の中に造られ、
面a-dは、調製された基板190内に複製面a’-d’を形成し、
初期基板180のキャビティ184は、基板190内に突出部192を
形成し、軸194、196に沿って移動する切削工具によって溝側面e、
15 f、g、hが突出部の中に形成され、
対の個別面、a’とf、b’とe、c’とhおよびd’とgが、複合面、
すなわちそれぞれ指定された面a’f、面b’e、面c’hおよび面d’
gを形成し、
軸202に沿った切削工具の動作によって、対向溝側面iとjを具備す
20 る1組の平行溝を基板190の中に形成し、
表面iは、複合面b’eとd’gに対して実質的に垂直であるように構
成され、かくして206で示したPGキューブコーナ錐体の1つの群を形
成し、表面jは、複合面a’fとc’hに対して実質的に垂直であるよう
に構成され、208で示したPGキューブコーナ錐体の他の群を形成する、
25 基板。(以下、この発明を「甲27発明」という。(本件審決第12の1
」 )
⑵)
イ 一致点
「複数のキューブコーナー素子を有する物品であって、前記複数のキュー
ブコーナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接し
ているキューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行で
5 ある、少なくとも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とは前
記複数のキューブコーナー素子が配設されている平面を意味する、物品。」
(本件審決第12の2⑵ア)
ウ 相違点(本件審決でいう「相違点27-1」。以下「相違点」という。)
本件特許発明1では、隣接している前記複数のキューブコーナー素子の

10 それぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、ここで、二
面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定
義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており、
該二面角誤差の大きさが1分~60分である」のに対し、甲27発明では、
それぞれのPGキューブコーナ錐体の反射面がなす角度にそのような特
15 定はされていない点。(本件審決第12の2⑵イ)
⑸ 本件審決の上記相違点に係る容易想到性の判断の要旨
本件審決は、相違点についての容易想到性につき、要旨、以下のとおり判
断した。(本件審決第12の2⑶)
甲27の発明の詳細な説明の段落【0051】
(以下、
「本件段落」という。)
20 には「本出願に開示したキューブコーナ要素は、米国特許第4,775,2
19号(Appledorn等)によって教示されているように、物品によ
って再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するよ
うに個別に調整することができる。」ことが記載されている。
本件段落に記載された、上記米国特許番号4,775,219号(甲73
25 号証。以下「甲73」という。)の対応国内特許である特許第2647103
号の特許公報(甲42号証。以下「甲42」という。)には、キューブコーナ
逆反射要素の面と面を垂直から意図的に傾けることにより、キューブコーナ
逆反射要素によって反射される光は6本の異なる交線に分割され、発散して
広範な角度に光を拡散させる旨が記載されている。
本件段落の「本出願に開示したキューブコーナ要素は、
・・・再帰反射され
5 る光を所望のパターンまたは発散プロファイルに分布するように個別に調整
することができる」 「キューブコーナ要素は、 ・
の ・ ・個別に調整する」とは、
3組の平行溝側面における「溝の半角誤差」を当該3組の平行溝側面ごとに
調整することによって実現されているといえるから、甲27発明に接した当
業者は、所望のパターンまたは発散プロフィルに分布する物品を得るべく、
10 PGキューブコーナ要素について、これに存在する三つのキューブ面同士の
相互直交性を崩すか否か、また、崩すならばその程度を調整するように、3
組の平行溝側面における溝の半角誤差を調整し、そして、この調整を通じて、
三つのキューブ面同士の相互直交性をそれぞれ調整する。
甲27の記載及び技術常識に照らせば、当業者は、発散プロフィルが三つ
15 のキューブ面同士のそれぞれの相互直交性の崩れる程度に依存し、その崩れ
る程度が3組の平行溝側面における溝の半角誤差により調整できることを理
解できるとともに、三つのキューブ面同士のそれぞれの相互直交性の崩れる
程度が定まれば、これによって発散プロフィルをたやすく導出できることか
ら、甲27発明に接した当業者であれば、本件段落の記載に基づき、再帰反
20 射される光が分布する発散プロフィルを調整するために、3組の平行溝側面
について、これらの「溝の半角誤差」を、それぞれ、典型的には「±20角
度分よりも小さく、しばしば±5角度分よりも小さい値」から適宜選択して、
その結果として、三つのキューブ面同士の相互直交性が互いに異なるように
崩れたPGキューブコーナ錐体を得ることは、容易に想到し得たことである。
25 3 原告の主張する本件審決の取消事由
原告の主張する本件審決の取消事由は、無効理由7のうち、進歩性欠如につ
いての判断の誤り(以下、本件無効審判で主張された甲27に基づく新規性又
は進歩性欠如の無効理由(本件無効審判における無効理由7)のうち、進歩性
欠如についての無効理由を単に「無効理由7」という。)である。
第3 取消事由(無効理由7についての判断の誤り)についての当事者の主張
5 〔原告の主張〕
1 本件審決が本件訂正について、実質的な検討をしていないこと
本件訂正により、
「隣接している複数のキューブコーナー素子のそれぞれ」に
ついて、1-2二面角誤差および1一3二面角誤差(請求項1)ないし三つの
二面角誤差(請求項4)が所定の要件を満たすことが特定された。
「隣接してい
10 る複数のキューブコーナー素子のそれぞれ」が有する二面角を単位として二面
角誤差が制御されることは、本件各特許発明の課題、技術的意義と実質的に関
連するものであり、下記2において説明する甲27及び甲42との間の実質的
な相違点の一部を構成する。
しかしながら、本件審決は本件訂正によって付加された相違点について、実
15 質的な検討をすることなく、本件各特許発明の進歩性欠如の判断がなされてお
り、この点において誤りが存在する。
2 相違点の容易想到性について(本件特許発明1)
⑴ 甲27及び甲42における溝の半角誤差の制御と本件特許発明1におけ
る二面角誤差の制御が異なること
20 甲27及び甲42における溝側面を単位とした溝の半角誤差の制御と、本
件特許発明1における隣接している複数のキューブコーナー素子のそれぞれ
が有する二面角を単位とした二面角誤差の制御は異なる。
ア 甲27の記載
甲27の段落【0033】から【0056】の欄の記載によれば、甲2
25 7発明においては、図11に示す突出部62から図12に示すキューブコ
ーナ錐体66を作製する際、3方向に切削工具で突出部62を切削するこ
とにより、キューブコーナ錐体66が作製される。甲27の段落【005
1】(本件段落)には、以下のとおり記載されている。
「本出願に開示したキューブコーナ要素は、米国特許第4、775、21
9号(Appledorn等)によって教示されているように、物品によ
5 って再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布す
るように個別に調整することができる。例えば、PGキューブコーナ要素
を形成する複合面は、キューブコーナ要素の他方の面との相互直交性を生
成する配向から、円弧の数分のような小さな値だけ異なる配向の繰り返し
パターンで配設することができる。これは、溝側面(最終的に、遷移面の
10 下に完成された型の面になる溝側面ならびに遷移面の上に完成された型
の面になる溝側面の両方)を、
『溝の半角誤差』として知られる値だけ、相
互直交面を生成する角度と異なる角度で、機械加工することによって達成
できる。典型的に、導入される溝の半角誤差は、±20角度分よりも小さ
く、しばしば±5角度分よりも小さい。一連の連続した平行溝側面は、a
15 bbaabba..
. またはabcdabcd.. のような溝の半角誤差の
.、
繰り返しパターンを有することができ、ここで、a、b、cおよびdは唯
ーの正または負の値である。」
このように甲27は、米国特許第4,775,219号(甲73)を参
照しつつ、キューブコーナ要素において溝側面に「溝の半角誤差」を導入
20 することを記載している。
イ 甲42の記載
甲42は、甲27の本件段落に示された文献である米国特許第4,77
5,219号(甲73)の、対応日本特許公報である。甲42は、切頭型
のキューブコーナー素子の設計方法に関するものであり、甲27はこれを
25 応用して、完全キューブ六角形型において「溝の半角誤差」を導入してい
る。そこで、甲42を参照しつつ、甲27における「溝の半角誤差」導入
の技術的意義を説明する。
甲42の4頁左欄7行目以下には、以下の記載がある。
「第1図の代表的なキューブコーナー逆反射要素17に関して述べると、
キューブコーナー逆反射要素17はV字溝11、12、13と3つの線1
5 4、15、16とによって画定された3つの横反射面を有している。V字
溝は、溝側角で傾斜している溝側面で形成されている。ここで溝側面(注:
溝側角の誤記)とは、1つの溝側面と、V字溝の長さ方向に平行に延びて
いて且つ3組のV字溝の底縁によって画定される平面に対して直角な一
平面との間に形成される角度を意味する。」
10 キューブコーナー素子(キューブコーナー逆反射要素)のアレイは、例
えば、金属板を切削して型を作り、そこから鋳型等により逆型を作り、逆
型を用いて樹脂シートを成形等することで作成される。かかる樹脂製の再
帰反射シートにおいて、光は、キューブコーナー素子をなす凹凸が形成さ
れている側とは反対側の平坦な側からアレイに入射し、キューブコーナー
15 素子の反射面で再帰反射され、その平坦な面から出射する。
溝側面は、一列のキューブコーナー素子において同一面上に配置された
反射面と一致する。該溝側面の反対側にも、反対側の一列のキューブコー
ナー素子の反射面に対応する溝側面が存在する。そして、この一対の溝側
面により断面がV字形状の溝である「V字溝」が構成される。
20 甲42でいうところの「3組のV字溝の底縁によって画成される平面」
は、キューブコーナー素子が配設される平面であり、本件特許発明1でい
うところの基準平面に相当する。基準平面に直角でV字溝の延伸方向に平
行な平面と、溝側面とがなす角が「溝側角」である。光を完全に再帰反射
する原理的なキューブコーナ逆反射要素アレイにおいて、
「溝側角」は「溝
25 角」の半分に等しい(甲42、9頁左欄16行目及び17行目)ため、
「溝
側角」は「溝半角」とも呼ばれる。1本のV字溝に対応する溝側面は、左
右に1対存在し、それぞれの溝側面に対応して「溝側角」ないし「溝半角」
も1対存在する。
光を完全に再帰反射する原理的なキューブコーナ逆反射要素アレイでは、
二面角がちょうど90度に等しくなり、この場合における溝側角(溝半角)
5 の大きさは35.264°である(甲42、8頁右欄14行目ないし17
行目)。これが、甲27にいうところの「相互直交面を生成する角度」であ
る。甲27及び甲42のキューブコーナ逆反射要素アレイでは、溝側角(溝
半角)が35.264°からずれており、その大きさが「溝の半角誤差」
である。
10 甲42の請求項1は、以下のように記載されている。
「透明な基体を有し、該基体の一面には、3つの横反射面によって形成さ
れたキューブコーナ逆反射要素アレイが担持され、該横反射面は、該基体
の他面に形成された交差する3組の隣接した平行V字溝により画成され、
このV字溝は、それぞれが溝側角を有して傾斜している対向した溝側面に
15 よって画成されており、前記溝側角とは、1つの溝側面と、前記V字溝の
長さ方向に平行に延びていて且つ3組の前記V字溝の底縁によって画成
される平面に対して直角な一平面との間に形成される角度である逆反射
体において、
前記3組のうちの少なくとも1組のV字溝が、もう1つの溝側角とは異
20 なる少なくとも1つの溝側角を繰返して含んでおり、もって、前記キュー
ブコーナ逆反射要素アレイが繰返しサブアレイで構成され、各該サブアレ
イは、入射光を別々な形状の光パターンへ逆反射させ得る複数の別々の形
状の複数のキューブコーナ逆反射要素で構成されていることを特徴とす
る逆反射体。」
25 かかる記載から、甲42の逆反射体は、
「3組のうちの少なくとも1組の
V字溝が、もう1つの溝側角とは異なる少なくとも1つの溝側角を繰返し
て含」むものであり、
「キューブコーナ逆反射要素アレイ」 「サブアレイ」

の繰り返しによって構成されること、
「サブアレイ」は「入射光を別々な形
状の光パターンへ逆反射させ得る複数の別々の形状の複数のキューブコ
ーナ逆反射要素で構成」されることが理解される。
5 すなわち、甲42が開示する技術思想とは、V字溝の溝側面を単位とし
て、そこに半角誤差を導入し、逆反射された光が所望のパターンや光発散
プロフィールに分布するように、個々のキューブコーナ逆反射体を制作す
るものである(甲42の3頁左欄5行目及び6行目)。この点は、甲27に
おいても同様である。
10 ウ 本件特許発明1の技術的思想は甲27及び甲42と全く異なること
これに対し、本件特許発明1は、完全キューブ型の構成において、
「隣接
している複数のキューブコーナー素子のそれぞれ」が有する「二面角」を
単位として、二つまたは三つの二面角に「二面角誤差」を導入し、再帰反
射における反射光の分布を半径方向にも円周方向にもより均一にするも
15 のであり、その発想ないし技術的思想において、甲27及び甲42とは全
く異なるものである。
甲27及び甲42における溝側面を単位とした半角誤差の制御において
は、ある溝側面の半角誤差を変えれば、その溝側面に対応するすべての素
子の二面角が影響を受けてしまい、ある溝側面の半角誤差を決めても、そ
20 れだけではその溝側面と一致した反射面を有する素子の二面角は一意に
定まらないから、それぞれの素子の二面角を独立に制御するものではない。
すなわち、甲27及び甲42における溝側面を単位とした半角誤差の制御
とは、あくまで溝側面が有する溝側角(溝半角)の誤差(半角誤差)を制
御しようとするものであって、本件特許発明1のように隣接している複数
25 のキューブコーナー素子のそれぞれが有する二面角の誤差(二面角誤差)
を制御しようとするものではない。
エ 溝側面を単位とした溝の半角誤差の大きさから、それにより生ずる二面
角誤差の値を予測することは困難であること
更にいえば、導入される溝の半角誤差の大きさと、これにより生じる二
面角誤差の値とは、互いに比例せず、複雑な関係にある。
5 すなわち、溝の半角誤差を導入すると溝面(反射面)の向きが変化する
が、結果として生じる反射面は、当該溝の延伸方向(非二面縁)を回転軸
として溝の半角誤差分だけ反射面を回転させたものと考えることができ
るのに対し、二面角誤差の導入によって生じる反射面は、二面角を構成す
る二つの反射面を、二つの反射面の間にある二面縁を回転軸として二面角
10 誤差分だけ相対的に回転させたものと考えられるところ、これらの二つの
回転軸(非二面縁と二面縁)が存在する位置は一致せず、また、それらは
互いに平行な位置関係にもないからである。仮に、導入される溝の半角誤
差の大きさから、これにより生じる二面角誤差の値を具体的に求めようと
すれば、適切な座標系の設定の下、それぞれの反射面の方向を示すベクト
15 ルや、回転軸を示すベクトルを設定した上で、回転行列を用いた複雑な行
列演算ないしベクトル演算を行う必要がある。
しかしながら、そのような導入される溝の半角誤差の大きさと、これに
より生じる二面角誤差の値との関係については、甲27にも甲42にも、
一切記載はなく、検討もされていない。甲27も甲42も、二面角誤差そ
20 れ自体について具体的な目標値を設定しておらず、二面角誤差の値自体を
制御の対象ともしていない。
一方で、本件明細書では、隣接している複数のキューブコーナー素子が
有する三つの二面角のそれぞれを対象として、その二面角誤差の値が、各
二面角につき個別に制御されることが具体的に示されている(甲1、表8、
25 表10~14等) このこともまた、
。 甲27及び甲42における溝単位の半
角誤差の制御と、本件特許発明1における隣接している複数のキューブコ
ーナー素子のそれぞれが有する二面角誤差の制御とが、技術的思想として、
互いに全く異なるものであることを示している。
⑵ 甲27には、目的とする二面角誤差を得るための溝の半角誤差の調整につ
いて具体的な開示はないこと
5 ア 溝の半角誤差を導入することにより、キューブコーナ要素を形成する二
つの面がなす角度が90°からどの程度の誤差を有することになるのかと
いうことについては、甲27は開示も示唆もしていない。また、キューブ
コーナ要素は三つの面で形成されるが、所望の二面角誤差を得るために、
三つの面のうち、いずれの面に対応する溝側面を形成するときに、どの程
10 度の半角誤差を導入するのかということも、甲27は開示も示唆もしてい
ない。
また、半角誤差が導入された溝側面同士がなす二面角は、導入された二
つのそれぞれの半角誤差の組み合わせによって定まることになる。
また、半角誤差が導入された溝側面と、半角誤差が導入されなかった溝
15 側面とがなす二面角の値と、半角誤差が導入された溝側面同士がなす二面
角の値とは異なることが通常であり、具体的な二面角の値は、導入される
半角誤差の値の組み合わせによっても変化する。そのため、甲27に記載
されている、溝の半角誤差を導入するという記載のみからは、溝側面同士
がなす二面角の90°からの誤差を一義的に導き出すことはできない。
20 よって、甲27には、
「本出願に開示したキューブコーナ要素は、米国特
許第4,775,219号(Appledorn等)によって教示されて
いるように、物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発散
プロフィルに分布するように個別に調整することができる。」と記載され
ているものの、甲27は、キューブコーナ要素の三つの二面角のいくつに、
25 またいずれの二面角に誤差を導入するのか、複数の二面角に誤差を導入す
る場合に、それらを互いに同じ値とするのか異なる値とするのか、異なる
値の誤差を導入するには、三つの二面角のうち、いずれの二面角の誤差を
異ならせるのか、導入する二面角誤差の値はそれぞれいくらにすべきか、
といった点に関して、何ら開示も示唆もしておらず、
「溝の半角誤差」を導
入することによって二面角誤差が具体的にどのように調整されるのか、あ
5 るいは特定の二面角誤差を生じさせるために具体的にどのように「溝の半
角誤差」を導入すればよいのか、何ら開示も示唆もしていない。
イ 本件審決の判断は、後知恵の影響を強く受けたものである。
本件審決では、以下のとおり判断している。
「ここでいう『キューブコーナ要素は、
・・・個別に調整する』とは、以下
10 のとおり、PGキューブコーナ要素について、これに存在する3つのキュ
ーブ面同士の相互直交性をそれぞれ調整することを意味しており、その具
体的手段は、3組の平行溝側面の『溝の半角誤差』を当該3組の平行溝側
面ごとに調整することにあるといえる」(本件審決108頁15行目ない
し19行目)
15 「(ii)他方、3つのキューブ面のうち相互直交性を生成していないキュ
ーブ面同士が存在するPGキューブコーナ要素については、当該3つのキ
ューブ面を順に経由して出射される光線に互いに平行とはならないもの
が存在し、よって『発散』する、ことにあるのは明らかである」
(同108
頁下9行目ないし下5行目)
20 「理想的なPGキューブコーナ要素では3つのキューブ面同士が全て相
互直交性を生成していることや、本件段落において相互直交性を生成する
配向から異なる配向に配設される対象として明記される『複合面』ないし
『溝側面(最終的に、遷移面の下に完成された型の面になる溝側面ならび
に遷移面の上に完成された型の面になる溝側面の両方) が、
』 本件段落に先
25 行する箇所で説明される図4~8に係るキューブコーナ物品では、1つの
PGキューブコーナ要素につき3個存在しており、これらの3個の複合面
ないし溝側面の配向を調整することにより3つのキューブ面同士の相互
直交性がそれぞれ調整されるのが明らかであることにも照らせば、発散プ
ロフィルを調整するためには、3つのキューブ面同士の相互直交性をそれ
ぞれ調整することが最も典型的であるということができ、この理解に反す
5 る甲27の記載は見当たらない。 (同109頁13行目ないし24行目)

しかし、上記に引用する本件審決が述べる内容の下でも、PGキューブ
コーナ要素において相互直交性を生成していないキューブ面同士の組が
一つでもある場合や、一つのキューブコーナー素子における三つの相互直
交性からのずれの大きさが同じ場合であっても、やはり光は発散するので
10 あるから、「3つのキューブ面同士の相互直交性がそれぞれ調整されるの
が明らか」ということには論理の飛躍がある。本件審決は、甲27や従来
技術から何ら明らかであるとはいえない事項を本件特許発明1から後知
恵により作出し、それを前提としているといわざるを得ない。
そもそも本件審決は、甲27の本件段落における「キューブコーナ要素
15 は、・・・個別に調整することができる」という記載を、「PGキューブコ
ーナ要素について、これに存在する三つのキューブ面同士の相互直交性を
それぞれ調整することを意味して」いると理解しているが(本件審決10
8頁16行目及び17行目)、かかる理解も後知恵によるものであって妥
当でない。
20 すなわち、上記で引用した本件段落の記載は、上記本件審決の判断では
省略されている部分も含めて改めて引用すると、「キューブコーナー要素
は、米国特許第4,775,219号(Appledorn等)によって
教示されているように、物品によって再帰反射される光を所望のパターン
または発散プロファイルに分布するように個別に調整することができる。」
25 と記載されているのみであり、「3つのキューブ面同士の相互直交性をそ
れぞれ調整する」ことなど記載も示唆もされていない。
この点、上記の引用箇所において甲27が参照する米国特許第4,77
5,219号公報(甲73)の対応日本特許公報である甲42には、
「本発
明は物体から逆反射された光を所望のパターンや光発散プロフィールに
分布するように個々に製作可能な新型のキューブコーナ逆反射体を提供
5 する」(甲42、3頁左欄5行目ないし7行目)と記載されている。
いずれにおいても「個々に製作可能」であるものとして説明されている
のは、「新型のキューブコーナ逆反射体」である。ここで、「キューブコー
ナー逆反射体」とは、甲42において複数のキューブコーナー逆反射要素
で構成される、光を反射して戻す物体として説明されているように(甲4
10 2、請求項1、及び「産業上の利用分野」の記載(2頁左欄18行目及び
19行目)参照。、本件特許発明1における「物品」に該当する。

したがって、これらの甲73や甲42の記載も考慮すれば、甲27の上
記「個別に調整」も、
「個別の物品ごとに調整することができる」ことを記
載したものに過ぎないと解釈すべきであり、かかる解釈は、甲27の上記
15 該当箇所における「物品によって・・・個別に調整することができる。」と
の記載ぶりとも整合する。
既に述べたように、甲27及び甲42が開示する技術的思想と、本件特
許発明1が開示する技術的思想とは全く異なるものである。「発散プロフ
ィルを調整するためには、3つのキューブ面同士の相互直交性をそれぞれ
20 調整することが最も典型的であるということができ(る) との本件審決の

判断には、後知恵の影響を強く受けたものであって、明らかな誤りがある。
ウ 本件審決の判示内容は、甲27や甲42に何ら開示されていない。
前記に示した本件審決の理解に反し、甲27の記載からは、キューブコ
ーナ要素の三つの二面角のいくつに、またいずれの二面角に誤差を導入す
25 るのか、複数の二面角に誤差を導入する場合に、それらを互いに同じ値と
するのか異なる値とするのか、異なる値の誤差を導入する場合には、三つ
の二面角のうち、いずれの二面角の誤差を異ならせるのか、導入する二面
角誤差の値はそれぞれいくらにすべきか、といった点は全く不明であり、
三つのキューブ面同士の相互直交性をそれぞれ調整することが最も典型
的であるとはいえない。
5 さらに、甲42には、キューブコーナ逆反射要素の形状から、キューブ
コーナ逆反射要素により生成される投影パターンをフーリエ分析等の方
法を用いて計算により決定できることが記載されているが(甲42、7頁
左欄5行目ないし29行目) 投影パターンを計算できることは、
、 所望の投
影パターンを与えるキューブコーナ逆反射要素の形状を当業者が容易に
10 設計できることを意味しない。つまり、投影パターンを計算できるからと
いって、所望の投影パターンの情報のみに基づき、隣接している複数のキ
ューブコーナー素子のそれぞれの二つまたは三つの二面角誤差を逆算で
きるわけではない。
なお、本件審決は、たびたび「3つのキューブ面同士のそれぞれの相互
15 直交性の崩れる程度が定まれば、これによって発散プロファイルをたやす
く導出できる」
(111頁27行目等)としている。しかし、そもそも、甲
42に記載されているようなフーリエ分析等の方法による計算はたやす
いものではなく、また、
「キューブ面同士のそれぞれの相互直交性の崩れる
程度」から如何にして発散プロファイルを導出することが可能であるかと
20 いう点については、甲27及び甲42のいずれにも開示も示唆もない。
加えて、既に述べたように、甲27も甲42も、一列に並んだ多数のキ
ューブコーナー素子に対応する溝側面を単位として溝の半角誤差を制御
することを開示するに過ぎない。甲27にも甲42にも、複数のキューブ
コーナー素子のそれぞれに含まれる複数の二面角を独立して制御すると
25 いう発想はないし、ましてや隣接している複数のキューブコーナー素子の
それぞれに含まれる複数の二面角を独立して制御するといった思想は全
く開示されていない。
⑶ 本件特許発明1の課題及び効果について
本件審決は、本件特許発明1の効果に関して以下のように述べる。
「本件特許発明1の構成において、1つのキューブコーナー素子を構成する
5 3つのキューブ面同士が直交していると、スポット反射が分割されないこと
は理論的に自明であり、また、上記3(ウ)で説示したとおり、3つのキュ
ーブ面同士のそれぞれの相互直交性の崩れる程度が定まれば、これによって
発散プロフィルをたやすく導出できるから、3つの二面角に互いに異なる二
面角誤差を設けることにより、このような誤差を設けない場合と比較して、
10 スポット反射が分割され、比較的均一な反射図となることは、当業者であれ
ば予想できることである。(本件審決113頁2行目ないし9行目)

しかし、発明の課題につき、甲27には「物品によって再帰反射される光
を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調整する」
と記載され、甲42には「物体から逆反射された光を所望のパターンや光発
15 散プロフィールに分布するように個々に製作可能な新型のキューブコーナ逆
反射体を提供する」
(3頁左欄5行目ないし7行目)と記載されているに過ぎ
ない。このような甲27や甲42に記載された反射光を「所望の」パターン
や光発散プロフィールに分布させるといった漠然とした課題認識と、本件特
許発明1を含む本件各特許発明における、スポットパターンを「半径方向(観
20 測方向)」にも「円周方向(表示方向)」にもより均一に分布させる(甲1、
段落【0089】)といった具体的な課題認識とは、全く異なる。
既に述べたとおり、甲27も甲42も、反射光を所望のパターンや光発散
プロフィールに分布させるために、溝側面を単位として溝の半角誤差を制御
するものである。一方、本件特許発明1を含む本件各特許発明は、スポット
25 パターンを半径方向(観測方向)にも円周方向(表示方向)にもより均一に
分布させるために、隣接している複数のキューブコーナー素子のそれぞれが
有する二面角を単位として二面角誤差を個別に制御するものである。
このように、甲27及び甲42に開示された技術的思想と、本件特許発明
1を含む本件各特許発明とは、課題においても、その解決手段においても、
全く異なっている。
5 より具体的に説明すれば、本件明細書の図面の図24ないし図26に示さ
れているように、1-2二面角誤差と1-3二面角誤差が同じ場合には、均
一なスポット図を得ることができない。すなわち、1-2二面角誤差と1-
3二面角誤差が同じであっても、三つの二面角の直交性は崩れているといえ
るが、均一なスポット図は得られない。また、キューブ面同士のそれぞれの
10 相互直交性の崩れる程度から発散プロファイルを導出する方法については、
甲27及び甲42のいずれにも開示も示唆もない。したがって、三つのキュ
ーブ面同士の直交性をどのように崩せば均一なスポット図が得られるかは、
当業者は予想できないし、本件特許発明1の均一なスポット図を得られると
いう効果が、本件特許発明1の形状から計算により導かれるから予想できる
15 という本件審決の判断は、本件特許に係る開示に基づく後知恵によるものと
いわざるを得ない。
すなわち、隣接している複数のキューブコーナー素子のそれぞれに含まれ
る複数の二面角を独立して制御する場合に、半径方向(観測方向)にも円周
方向(表示方向)にもより均一なスポット図が得られることを、甲27の記
20 載から当業者が予想することは不可能であり、したがって、半径方向(観測
方向)にも円周方向(表示方向)にもより均一なスポット図を得られるとい
う本件特許発明1の効果は、予測できない顕著なものである。
本件特許発明1を含む本件各特許発明は、甲27発明に基づいて、当業者
が容易に発明をすることができたものではなく、その上、その奏する効果は
25 当業者の予測できない顕著なものであることから、本件特許発明1を含む本
件各特許発明は進歩性を有する。
⑷ 甲42には本件特許発明1の構成や技術思想の開示等がないこと
原告が資料(甲126、104頁ないし106頁)において説明したよう
に、甲42に開示された技術は、多数の素子が密に並んだ基板の全面にわた
って延びる三つの組の平行溝(一つの溝は、その溝に沿って並ぶ一群の素子
5 に対応する)に、溝側面を単位として半角誤差の導入を行うものであり、甲
42には、本件特許発明1のように、個々のキューブコーナー素子の三つの
二面角のそれぞれについて、個別に所定の大きさの誤差を導入するという技
術的な思想がない。甲42は、溝側面ごとに半角誤差を導入するものである
が、溝側面に半角誤差が導入された結果、個々のキューブコーナー素子の各
10 二面角にどのような誤差がそれぞれ導入されることになるのかということに
ついては、全く着目していない。
したがって、当然のことながら、本件特許発明1が規定するような、隣接
する複数のキューブコーナー素子のそれぞれにおいて、二つ又は三つの二面
角誤差を互いに異ならせ、これらの素子を組み合わせるという構成や、その
15 構成により全体的かつ均一な反射を実現するという技術的思想もまた、甲4
2には、開示も示唆もされていない。そもそも甲42には、
「二面角誤差」と
いう用語自体記載されておらず、
「二面角誤差」の算出方法に関する説明もな
い。
被告が二面角誤差の算出に使用した甲42の第3図や第Ⅴ表についてみて
20 も、同表に記載されている数値については、
「各溝測角に対する直角形成を得
るための溝測角からの逸脱を分で示している」
(甲42、19欄32行目及び
33行目)と説明されているのみであり、第3図に示されている各個別のキ
ューブコーナー素子の三つの二面角誤差の各々については何ら言及や記載は
なく、どのようにしてそれらが算出できるのかといった説明もない。
25 このような甲42の記載から、当業者が、個々のキューブコーナー素子に
ついて、三つの二面角誤差のそれぞれに着目する動機付けを得ることなど想
定し得ないのであって、被告のように第3図に記載の個々のキューブコーナ
ー素子について三つの二面角誤差の各々を算出していること自体が、本件特
許発明1の内容を知った上での後知恵によるものに他ならない。
⑸ 甲42の記載から本件特許発明1を想到する動機付けの欠如等
5 上記⑷に示されたような甲42の記載から本件特許発明1に想到するとい
うことは、甲42には何ら各キューブコーナー素子の各二面角誤差への言及
がなく、溝測角から二面角誤差を算出する方法の説明等すらないのに、当業
者が、
(ⅰ)あえて甲42の第3図に記載された多数のキューブコーナー素子
の1個1個について、三つの二面角誤差をそれぞれ第Ⅴ表に記載された溝測
10 角の値から算出し、
(ⅱ)しかも、その算出結果から、隣接するキューブコー
ナー素子の三つの二面角誤差が、それぞれ本件特許発明1に規定されている
ような大きさや関係にあり、
(ⅲ)それらの関係が、全体的かつ均一な反射の
実現に貢献することを見出したはずであるということに他ならない。しかし、
なぜ当業者がこれらのことを試みる動機付けを甲42から得られるのかとい
15 うことについて、被告は、主張・立証していない。
つまり、被告の主張は、個々の二面角誤差を制御するという本件特許発明
1の内容を知った上で、それを甲42の記載内容からも把握し得る方法があ
ったか否かを模索するに等しいが、それは進歩性の有無の判断において厳に
慎むべき後知恵によるものであって、認められるべきではない。
20 上記で述べたように、甲42には「二面角誤差」に関する記載が全くなく、
隣接する複数のキューブコーナー素子のそれぞれにおいて、二つ又は三つの
二面角誤差を互いに異ならせ、これらの素子を組み合わせるという構成や、
その構成により全体的かつ均一な反射を実現するという本件特許発明1の技
術的思想も、開示も示唆もしていないから、本件明細書の記載に基づく後知
25 恵によらずに、被告が主張する「隣接した3つの二面角誤差が全て異なって
いるキューブコーナ素子が開示されている」といった技術事項を、本件優先
日前の当業者が、甲42の第3図や第Ⅴ表などの記載から算出し把握するこ
とはあり得ない。
⑹ 小括
以上述べたとおり、甲27、甲42、及び甲42の対応米国特許である甲
5 73を参酌しても、甲27発明において、相違点に係る構成を採用すること
は、当業者が容易に想到することができたことではない。
3 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1に更なる限定事項を付加した発明
であるから、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2及び3は、
10 甲27発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、
その上、その奏する効果は当業者の予測できない顕著なものであることから、
本件特許発明2及び3は進歩性を有する。
4 本件特許発明4について
⑴ 本件特許発明4と甲27発明の相違点
15 本件特許発明4では、隣接している前記複数のキューブコーナー素子のそ

れぞれが1分~60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤
差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され、該
二面角誤差が互いに異なっている」のに対し、甲27発明では、複数のPG
キューブコーナ錐体のそれぞれの反射面がなす角度にそのような特定はなさ
20 れていない点で、両者は相違する(以下、当該相違点を「本相違点2」とい
う。。

⑵ 当業者が容易に本相違点2に到達し得ないこと
前記のとおり、甲27及び甲42における溝側面を単位とした溝の半角誤
差の制御と、本件特許発明1における隣接している複数のキューブコーナー
25 素子のそれぞれが有する二面角を単位とした二面角誤差の制御とは、技術的
思想として、互いに全く異なるものである。また、甲27は、キューブコー
ナ要素の三つの二面角のいくつに、またいずれの二面角に誤差を導入するの
か、複数の二面角に誤差を導入する場合に、それらを互いに同じ値とするの
か異なる値とするのか、異なる値の誤差を導入する場合には、三つの二面角
のうち、いずれの二面角の誤差を異ならせるのか、導入する二面角誤差の値
5 はそれぞれいくらにすべきかという点に関して、何ら開示も示唆もしておら
ず、
「溝の半角誤差」を導入することによって二面角誤差が具体的にどのよう
に調整されるのか、あるいは特定の二面角誤差を生じさせるために具体的に
どのように「溝の半角誤差」を導入すればよいのかについて、何ら開示も示
唆もしていない。
10 本件特許発明1について述べたのと同様の理由により、甲27、甲42、
及び甲42の対応米国特許である甲73を参酌しても、甲27発明において、
本相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到することがで
きたことではない。
⑶ 本件特許発明4の効果が顕著であること等
15 前記のとおり、甲27及び甲42に開示された技術的思想と、本件特許発
明1を含む本件各特許発明とは、課題においても、その解決手段においても、
全く異なっている。すなわち、隣接している複数のキューブコーナー素子の
それぞれに含まれる複数の二面角を独立して制御する場合に、半径方向(観
測方向)にも円周方向(表示方向)にもより均一なスポット図が得られるこ
20 とを、甲27の記載から当業者が予想することは不可能であり、したがって、
半径方向(観測方向)にも円周方向(表示方向)にもより均一なスポット図
を得られるという本件特許発明4の効果は、予測できない顕著なものである。
⑷ 小括
上記⑵、⑶のとおり、本件特許発明4は、甲27発明に基づいて、当業者
25 が容易に発明をすることができたものではなく、その上、その奏する効果は
当業者の予測できない顕著なものであることから、本件特許発明4は進歩性
を有する。
〔被告の主張〕
1 本件訂正に対して本件審決がした検討について
原告は、本件審決では本件訂正によって付加された相違点について実質的な
5 検討をすることなく、本件各特許発明の進歩性欠如の判断がなされていると主
張するが、何ら具体的な根拠のない推測でしかなく、原告の主張は失当である。
2 本件特許発明1と甲27発明との相違点の容易想到性の主張に対する反論
⑴ 甲27及び甲42における溝の半角誤差の制御と本件特許発明1におけ
る二面角誤差の制御との関係について
10 ア 原告は、甲42が開示する技術思想とは、V字溝の溝側面を単位として、
そこに半角誤差を導入し、逆反射された光が所望のパターンや光発散プロ
フィールに分布するように、個々のキューブコーナ逆反射体を制作するも
のであると主張する。しかしながら、
「溝側面を単位として」という意味が
不明である。
15 また、甲42には、全てのキューブコーナー逆反射要素(キューブコー
ナー素子)の形状が互いに異なること、ある一つのキューブコーナー素子
の二面角誤差(直角形成を得るに必要な溝側面からの逸脱)が、他の素子
の二面角誤差とは異なる(直角形成を得るに必要な溝側面からの逸脱とは
量が異なる)こと、別々の形状のキューブコーナー素子が420個や72
20 個存在することが記載されている。
そうすると、420個や72個のキューブコーナー素子が、互いに形状
が異なっており、また、全てのキューブコーナー素子に二面角誤差が存在
する以上、これだけの多数のキューブコーナー素子において、全てのキュ
ーブコーナー素子に二面角誤差が存在するものの、三つの二面角誤差が同
25 一であるということはあり得ない。
イ 原告は、本件特許発明1は、隣接している複数のキューブコーナー素子
のそれぞれが有する二面角を単位として、二面角を独立に制御し、二面角
誤差を制御するものであり、これに対し、甲27及び甲42は、溝側面を
単位として、溝の半角誤差を制御するものであって、技術的思想が異なる
と主張する。
5 しかしながら、
「溝側面を単位として」という意味が不明であることは前
記のとおりであり、また、
「二面角を単位として」という意味も不明である。
意味は不明であるが、二面角を単位として、二面角を独立に制御するこ
と等は、本件各特許発明の特許請求の範囲にも本件明細書にも記載されて
いないのであるから、原告の主張は失当である。むしろ、本件明細書の段
10 落【0078】には、
「二面角誤差は、主要溝または側方溝の半角を機械加
工時に変化させることにより変更することも可能である。側方溝の半角は、
溝面と、溝角頂を含有する基準平面26に垂直な平面と、により形成され
る鋭角として定義される。主要溝または主要溝面の半角は、溝面と基準平
面24とにより形成される鋭角として定義される」と記載されているとお
15 り、本件明細書は、
「溝側面を単位として」二面角誤差を制御することを明
記しているから、
「溝側面を単位として」二面角誤差を制御することも、本
件特許発明1の技術的思想に含まれている。
さらに、本件各特許発明は、物の発明であって、製造方法の発明ではな
いため、原告のいう「溝側面を単位として」二面角誤差を制御するか、
「二
20 面角を単位として」二面角誤差を制御するかは、進歩性の議論において無
関係である。現に、原告自身が、
「再帰反射シートを含む物の発明の権利範
囲が、特許請求の範囲に記載のない特定の製造方法により限定されるもの
ではないことは当然である」と述べている以上(原告第1準備書面8頁1
3行目ないし15行目)、仮に、原告の主張するところの「溝側面を単位と
25 して」二面角を制御している場合であっても、本件各特許発明の技術的範
囲に含まれるのであるから、進歩性が否定されることに変わりはない。
ウ 原告は、甲27及び甲42における溝側面を単位とした半角誤差の制御
においては、それぞれの素子の二面角を独立に制御するものではないこと
が理解されると主張する。
しかしながら、原告の説明によっても、溝側面の溝側角を所望の角度に
5 することで、それぞれの二面角を独立に制御することが可能であるから、
原告がいうところの「溝側面を単位として」も、二面角を独立して制御し
ているといえる。
エ 原告は、甲27及び甲42における溝側面を単位とした半角誤差の制御
とは、あくまで溝側面が有する溝側角(溝半角)の誤差(半角誤差)を制
10 御しようとするものであって、本件特許発明1のように隣接している複数
のキューブコーナー素子のそれぞれが有する二面角の誤差(二面角誤差)
を制御しようとするものではないと主張する。
しかしながら、甲42には、
「サブアレイ内の複数個(すなわち、少くと
も2つ)のキューブコーナ逆反射要素が別別な形状とされる、すなわち互
15 いに異なる形状を有する」と記載され(甲42、8欄29行目ないし32
行目)「別々な形状の各キューブコーナ逆反射要素は別々の形状のパター

ンやフィールド、すなわち異なる形状のキューブコーナ逆反射要素により
生成されるパターンやフィールドとは異なる形状のパターンやフィール
ドに入射する光を再指向させる。」と記載されている(甲42、13欄5行
20 目ないし9行目) かかる記載からは、
。 キューブコーナー素子の二面角誤差
を別個に制御していることは明らかである。
オ さらに、原告は、溝側面を単位とした溝の半角誤差の大きさから、それ
により生ずる二面角誤差の値を予測することは困難であると主張し、回転
行列を用いた複雑な行列演算ないしベクトル演算を行う必要があると主張
25 する。
しかしながら、回転行列を用いた行列演算ないしベクトル演算は必ずし
も複雑ではなく、複雑だとしても行列演算ないしベクトル演算を行わずに
溝の半角誤差の大きさから二面角誤差の値を算出できる。現に、被告にお
いて、本件特許の優先日当時に販売されていたCADソフトウェアを用い
て、キューブコーナー素子に対し、溝の半角誤差を導入することで、容易
5 に二面角誤差を算出することができた(乙2)。
カ 原告は、甲27及び甲42は、二面角誤差について具体的な目標値を設
定しておらず、二面角誤差の値自体を制御の対象ともしていないと主張す
る。
しかしながら、甲27の本件段落(【0051】)には、
「本出願に開示し
10 たキューブコーナ要素は、米国特許第4,775,219号(Apple
dorn等)によって教示されているように、物品によって再帰反射され
る光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調
整することができる。例えば、PGキューブコーナ要素を形成する複合面
は、キューブコーナ要素の他方の面との相互直交性を生成する配向から、
15 円弧の数分のような小さな値だけ異なる配向の繰り返しパターンで配設
することができる。」と記載されている。かかる記載からは、キューブコー
ナ要素(キューブコーナー素子)を個別に調整することができ、その具体
例として、キューブコーナー素子の面と他の面との直交する配向から、数
分ラジアン(円弧の数分)だけ異ならせることが開示されていることは明
20 らかである。すなわち、キューブコーナー素子の二面角誤差を個別に調整
し、二面角が直交から数分の誤差であるようにするのであるから、二面角
誤差として、2分~9分程度の具体的な目標値が設定されているといえる。
また、甲42には、
「直角形成を得ることのできない少くとも一つの溝側
角が組内になければならない。直角形成を得るのに必要な溝側角からの過
25 剰もしくは不足量は一般的に数分である、すなわち、大きく逸脱してもよ
いが、およそ15~30分もしくはそれ以下である。 と記載され
」 (甲42、
11欄35行目ないし40行目)「キューブコーナ逆反射要素内で全ての

90°二面角を生成する位置から傾けられて非直角キューブコーナ逆反射
要素を作り出す」と記載されている(甲42、13欄47行目ないし49
行目) かかる記載をもとに二面角誤差を算出すると、
。 ①一つの溝側角にお
5 いて、直角形成を得るのに必要な溝側角からの過剰もしくは不足量が15
分以下である場合の二面角誤差は、10.6分以下であり、②一つの溝側
角において、直角形成を得るのに必要な溝側角からの過剰もしくは不足量
が30分以下である場合の二面角誤差は、21.2分以下であり、③二つ
の溝側角において、直角形成を得るのに必要な溝側角からの過剰もしくは
10 不足量が15分以下である場合の二面角誤差は、21.2分以下であり、
④二つの溝側角において、直角形成を得るのに必要な溝側角からの過剰も
しくは不足量が30分以下である場合の二面角誤差は、42.6分以下で
ある。
キ 原告は、本件明細書では、隣接している複数のキューブコーナー素子が
15 有する三つの二面角のそれぞれを対象として、その二面角誤差の値が、各
二面角につき個別に制御されることが具体的に示されていると主張し、ま
た、甲27及び甲42における溝単位の半角誤差の制御と、本件特許発明
1における隣接している複数のキューブコーナー素子のそれぞれが有する
二面角誤差の制御とが、技術的思想として、互いに全く異なると主張する。
20 しかしながら、既に述べたとおり、本件明細書(甲1)の段落【007
8】には、
「二面角誤差は、主要溝または側方溝の半角を機械加工時に変化
させることにより変更することも可能である。側方溝の半角は、溝面と、
溝角頂を含有する基準平面26に垂直な平面と、により形成される鋭角と
して定義される。主要溝または主要溝面の半角は、溝面と基準平面24と
25 により形成される鋭角として定義される」と記載されており、本件明細書
は、
「溝側面を単位として」二面角誤差を制御することを明記しているので
あるから、原告の主張は誤っている。
⑵ 甲27には、目的とする二面角誤差を得るための溝の半角誤差の調整につ
いて具体的な開示はないとの主張に対し
ア 原告は、溝の半角誤差を導入することにより、キューブコーナ要素を形
5 成する二つの面がなす角度が90°からどの程度の誤差を有することにな
るのかということについては、甲27は開示も示唆もしていないと主張す
る。
しかしながら、甲27の本件段落(【0051】)には、
「本出願に開示し
たキューブコーナ要素は、米国特許第4,775,219号(Apple
10 dorn等)によって教示されているように、物品によって再帰反射され
る光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調
整することができる。例えば、PGキューブコーナ要素を形成する複合面
は、キューブコーナ要素の他方の面との相互直交性を生成する配向から、
円弧の数分のような小さな値だけ異なる配向の繰り返しパターンで配設
15 することができる。 と記載されている。
」 かかる記載から明らかなとおり、
甲27には、キューブコーナ要素が、光を所望のパターンまたは発散プロ
フィルに分布するように個別に調整することができ、キューブコーナ要素
の二面角が直角から、数分ラジアンだけ異なることが開示されているから、
原告の主張は誤っている。
20 イ 原告は、キューブコーナ要素は三つの面で形成されるが、所望の二面角
誤差を得るために、三つの面のうち、いずれの面に対応する溝側面を形成
するときに、どの程度の半角誤差を導入するのかということも、甲27は
開示も示唆もしていないと主張する。
しかしながら、甲27の本件段落には、
「これは、溝側面(最終的に、遷
25 移面の下に完成された型の面になる溝側面ならびに遷移面の上に完成さ
れた型の面になる溝側面の両方)を、
『溝の半角誤差』として知られる値だ
け、相互直交面を生成する角度と異なる角度で、機械加工することによっ
て達成できる。典型的に、導入される溝の半角誤差は、±20角度分より
も小さく、しばしば±5角度分よりも小さい。」と記載されている。上記記
載の「これは」は、直前の記載である、キューブコーナー要素の二面角が
5 直角から数分だけ異なることを意味していることは明らかである。そうす
ると、上記記載において、キューブコーナー要素の二面角が、数分ラジア
ンだけ異なる(二面角誤差を有する)ことは、溝の半角誤差を導入するこ
とによって達成できることが開示されていることは明らかである。
この点について、原告は、甲27における溝の半角誤差を導入するとい
10 う記載のみからは、溝側面同士がなす二面角の90°からの誤差を一義的
に導き出すことはできないと主張する。
しかしながら、溝側面同士がなす二面角の90°からの誤差を一義的に
導き出すことは、本件各特許発明のクレームには記載されていないのであ
るから、一義的に導き出せるか否かは問題とはならない。
15 ウ また、原告は、溝の半角誤差を導入することによって二面角誤差が具体
的にどのように調整されるのか、あるいは特定の二面角誤差を生じさせる
ために具体的にどのように「溝の半角誤差」を導入すればよいのか開示も
示唆もしていないと主張する。
しかしながら、甲27の本件段落の「典型的に、導入される溝の半角誤
20 差は、±20角度分よりも小さく、しばしば±5角度分よりも小さい」と
いう記載からすれば、当業者は、溝の半角誤差を±20角度分以下、±5
角度分以下とすることで、二面角誤差を適宜調整することは可能であるこ
とは明らかである。
エ 原告は、「3つのキューブ面同士の相互直交性がそれぞれ調整されるの
25 が明らか」という本件審決の判断には論理の飛躍があると主張する。
しかしながら、甲27の本件段落には、溝の半角誤差について、
「典型的
に、導入される溝の半角誤差は、±20角度分よりも小さく、しばしば±
5角度分よりも小さい。」という記載に引き続き、「一連の連続した平行溝
側面は、abbaabba..またはabcdabcd..
. .,のような溝の
半角誤差の繰り返しパターンを有することができ、ここで、a、b、cお
5 よびdは唯一の正または負の値である」と記載されている。かかる記載は、
溝の半角誤差について、±20角度分以下の範囲内で、abbaabba」

と導入し、また、
「abcdabcd」と導入することを意味する。また、
溝の半角誤差を導入するのは、3方向に種々のパターンで溝の半角誤差を
導入するものである。
10 しかも、甲27が引用する甲73(甲42)には、
「これらの例で示すよ
うに、3組のV字溝の各々が異なる繰返しパターンの溝側角を有すること
ができる。第3図において、1組はa-b-b-aパターンを有し、第2
組はa-b-a-b-b-a-b-aパターンを有し、第3組はc-d-
e-f-d-c-f-eパターンを有している。第4図において、異なる
15 溝パターンはそれぞれa-b-b-aパターン、a-b-a-b-b-a
-b-aパターン及びc-d-d-cパターンである。(甲42、7欄4

3行目ないし8欄1行目参照)と記載され、
「この事実を第5図に示し、そ
れは第1組のV字溝でa-b-c-a-b-cの繰返パターン、第2組の
V字溝でd-e-f-d-e-fのパターン、第3組のV字溝でg-h-
20 i-g-h-i-gのパターンを使用する本発明の逆反射体の溝パター
ンを示している。」と記載されている(甲42、11欄14行目ないし18
行目参照) このように、
。 甲27には様々なパターンで溝の半角誤差を導入
することが開示されているのである。そうすると、これらのパターンで溝
の半角誤差を導入している以上、溝によって形成される「3つのキューブ
25 面同士」についても、その相互直交性がそれぞれ調整されるのが明らかで
あるから、本件審決の判断は正しい。
原告は、
「3つのキューブ面同士の相互直交性をそれぞれ調整する」こと
など記載も示唆もされていないと主張するが、上記のとおりであり、本件
審決の判断は正しいものである。
オ 原告は、甲27の本件段落の「個別に調整」という記載について、
「個別
5 の物品ごとに調整することができる」ことを記載したものに過ぎないと解
釈すべきと主張する。
しかしながら、甲27の本件段落の「個別に調整」という記載がある文
は、
「本出願に開示したキューブコーナ要素は、米国特許第4,775,2
19号(Appledorn等)によって教示されているように、物品に
10 よって再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布
するように個別に調整することができる」というものであり、明確に「キ
ューブコーナ要素は」と記載されている以上、原告の主張が誤っているこ
とは明らかである。
カ 原告は、甲27の記載からは、三つのキューブ面同士の相互直交性をそ
15 れぞれ調整することが最も典型的であるとはいえないと主張する。
しかしながら、甲27の本件段落の記載から明らかなように、甲27に
は、キューブコーナー素子を形成する複合面(三つの面)が、二面角誤差
(相互直交性を生成する配向から、円弧の数分のような小さな値だけ異な
る)の繰り返しパターンで配設することが明記されており、溝の半角誤差
20 の繰り返しパターンを様々なものとすることが記載されている。そうする
と、三つのキューブ面同士の相互直交性をそれぞれ調整することが最も典
型的なのは明らかである。
キ 原告は、甲42に関し、所望の投影パターンの情報のみに基づき、隣接
している複数のキューブコーナー素子のそれぞれの二つまたは三つの二面
25 角誤差を逆算できるわけではないと主張するが、意味不明である。甲42
には、複数のキューブコーナー素子の二面角誤差を逆算するということな
ど記載されていないから、意味のない主張である。
原告は、甲42に記載されているようなフーリエ分析等の方法による計
算はたやすいものではないと主張するが、原告の主張によれば、フーリエ
分析等の方法による計算は、キューブコーナ逆反射要素の形状から、キュ
5 ーブコーナ逆反射要素により生成される投影パターンを決定するもので
あり、素子の二面角誤差を算出するものではないから、原告の主張は失当
である。
⑶ 本件特許発明1の課題及び効果について
ア 原告は、本件特許発明1を含む本件各特許発明の課題は、
「スポットパタ
10 ーンを『半径方向(観測方向)』にも『円周方向(表示方向)』にもより均
一に分布させること」
(本件明細書【0089】 甲1)
、 であると主張する。
しかし、本件特許発明1を含む本件各特許発明の課題は、
「再帰反射にお
ける反射光の分布をより均一にするという課題」であることは明らかであ
る。
15 イ(ア) 甲73には、キューブコーナー素子の二面角を90度からずらして、
円錐形状パターンに拡散させ光発散プロファイルを得るということが記
載されている。なお、原告が主張する本件特許発明1を含む本件各特許
発明の課題である、「スポットパターンを『半径方向(観測方向)』にも
『円周方向(表示方向)』にもより均一に分布させること」は、甲73に
20 開示されている「円錐形状パターンに拡散させた光発散プロファイル」
と同義であるから、原告の主張する本件特許発明1を含む本件各特許発
明の課題を前提としても、甲73には当該課題は開示されている。
(イ) 甲73に記載の技術的事項は技術常識である。甲73は、非常に著名
な特許文献であり、甲27のみならず、多くの特許公報等で引用されて
25 おり、甲73の記載内容は、技術常識であった。
本件特許発明1を含む本件各特許発明の課題(被告が主張する「再帰
反射における反射光の分布をより均一にするという課題」 又は、
、 原告が
主張する「スポットパターンを『半径方向(観測方向)』にも『円周方向
(表示方向)』にもより均一に分布させる」という課題)は、いずれにし
ても、従来から技術常識となっている課題に過ぎない。
5 原告は、半径方向(観測方向)にも円周方向(表示方向)にもより均
一なスポット図を得られるという本件特許発明1を含む本件各特許発明
の効果が、予測できない顕著なものであると主張するが、上記のとおり、
本件特許発明1を含む本件各特許発明の効果は、従来の技術常識でも認
められる効果に過ぎない。
10 3 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3について、原告は、本件特許発明1に関する主張を超
える実質的な主張をしていないので、反論を要しない。
4 本件特許発明4について
本件特許発明4について、原告は、本件特許発明1に関する主張を超える実
15 質的な主張をしていないので、反論を要しない。
第4 当裁判所の判断
1 本件各特許発明の概要
別紙のとおりの本件明細書の記載事項によれば、再帰反射シートの性能は、
「光源(すなわち、典型的には乗物のヘッドライト)に対する再帰反射光の広
20 がりに関係」 「キューブコーナーからの再帰反射光の広がりは、
し、 回折、偏光、
非直交性などの効果により支配される」ことから、
「角度誤差を導入することが
一般的」であった(段落【0013】。

本件各特許発明は、「新しいキューブコーナー光学設計を有する再帰反射シ
ート、ならびにとくに、改善された性能および/または改善された製造効率に
25 寄与する特徴を有する再帰反射シートの製造方法」を提供しようとするもので
ある(段落【0015】)とする。
そして、本件各特許発明によれば、
「反対に変化している二面角1-2および
二面角1-3を含めて広範囲の二面角誤差を容易に導入できる柔軟性のおか
げで、スキュー角および/またはインクリネーション角を利用して比較的均一
なスポット反射図を提供することが可能である」という効果が得られるとする
5 ものである(段落【0088】。

2 本件審決の取消事由(無効理由7についての判断の誤り)について
⑴ 甲27に記載された発明の内容
ア 甲27には、以下の記載がある。
「本発明は主に、微細複製技術を利用して作製される構造化表面に関する。
10 本発明は、再帰反射性キューブコーナ要素を具備する構造化表面に特に適
用される。(段落【0001】
」 )
「キューブコーナ再帰反射シート材は、典型的に、略平坦な前面と、複数
の幾何学的構造を含む後部構造化表面とを有する薄い透明層を具備し、前
記幾何学的構造のいくつかまたはすべては、キューブコーナ要素として構
15 成された3つの反射面を含む。(段落【0004】
」 )
「直接機械加工技術では、一連の溝側面を平坦な基板面に形成して、マス
タ型を形成する。周知の一実施形態では、3つの組の平行溝が互いに60°
の開先角度で交差して、等辺の基部三角形を各々が有するキューブコーナ
要素の配列を形成する(米国特許第3,712,706号(Stamm)
20 参照) 他の実施形態では、
。 2組の溝が60°よりも大きな角度で互いに交
差し、また第3の組の溝が60°よりも小さな角度で他方の2つの組の
各々と交差して、傾斜したキューブコーナ要素の適合対の配列を形成する
(米国特許第4,588,258号(Hoopman)参照)。ピンバンド
ルまたは積層技術は、型の形成中または他の時間に互いに運動または移動
25 し得る、また互いに分離するかもしれない構成部品に依存するので、直接
機械加工技術は、ピンバンドルまたは積層技術を用いて達成できないより
困難な方法で、非常に小さなキューブコーナ要素を正確に機械加工する機
能を提供する。さらに、直接機械加工では、多数の個別面は切削工具の連
続運動の中で典型的に形成され、またこのような個別面は型作製工程の全
体にわたってそれらの整列を維持するので、直接機械加工技術は、ピンバ
5 ンドルまたは積層技術によって造られる構造化表面よりも一般的により
高い均一性と適合性を有する大きな領域の構造化表面を生成する。(段落

【0008】)
「しかし、直接機械加工技術の大きな不都合は、製造し得るキューブコー
ナ形状の種類における低い設計柔軟性であった。例を挙げると、上に参照
10 したStamm特許に示されたキューブコーナ要素の最高の理論的な全
光再帰は約67%である。その特許の発行以来、構造と技術が開示されて
おり、これらによって、直接機械加工を用いて設計家が利用できるキュー
ブコーナの設計の多様性が大きく拡大されている。例えば、米国特許第4,
775,219号(Appledorn等)、第4,895,428号(N
15 elson等)、第5,600,484号(Benson等)、第5,69
6,627号(Benson等)、および第5,734,501号(Smi
th)参照。これらの後者の参考文献に開示されたキューブコーナ設計の
あるものは、ある特定の観測と入口形状において十分に67%を越える有
効開口値を示し得る。(段落【0009】
」 )
20 「にもかかわらず、
『好ましい形状』または『PG』キューブコーナ要素と
呼ばれるキューブコーナ要素のクラス全体は、今日まで、公知の直接機械
加工技術の範囲内に留まっている。PGキューブコーナ要素の1つの型式
を組み込んだ基板が図1の平面図に示されている。本図に示したキューブ
コーナ要素の各々は、3つの正方形の面と、平面図で六角形の輪郭とを有
25 する。PGキューブコーナ要素の1つは、簡単に識別するために肉太の輪
郭で強調表示されている。強調表示されたキューブコーナ要素は、構造化
表面の面に対して傾斜した非二面角縁部(肉太に強調表示された6つの縁
部の任意の1つ)を有し、またこのような縁部は隣接するキューブコーナ
要素の隣接した非二面角縁部(肉太に強調表示されたこのような各縁部は、
その隣接する6つのキューブコーナ要素の非二面角縁部に平行のみでな
5 く、連続している)に平行であるので、PGキューブコーナ要素であるこ
とが理解できる。直接機械加工技術を利用するPGキューブコーナ要素の
ような幾何学的構造を製造するための方法が、本出願に開示されている。
また、このような方法に従って製造される物品が開示され、このような物
品は、特別に構成された少なくとも1つの複合面を有することを特徴とす
10 る。(段落【0010】
」 )
「図9~図13を用いて、本発明における使用に適切な調製された基板を
作製するための方法について、以下に説明する。例示目的のために、図6
の構造化表面を形成するために有用な構造化表面について説明する。しか
し、同一の原理は他の実施形態に直接適用できる。要約すると、突出部の
15 配列を具備する構造化表面は、直接機械加工以外の方法によって第1の基
板(図9~図10)に形成される。次に、構造化表面のネガ複製が、機械
加工可能な材料から成る第2の基板(図11)に造られる。次に、第2の
基板の構造化表面の突出部の上方部分が直接機械加工されて、キューブコ
ーナ錐体(図12)を形成する。最後に、機械加工された第2の基板の構
20 造化表面のネガ複製が第3の基板内に造られて(図13) 調製された基板

を形成し、この基板内で、キューブコーナキャビティ(複製面を有する)
の配列が突出部の配列とかみ合わせられる。機械加工された第2の基板は、
望むなら、その後マスタとして使用することができ、このマスタから、多
数の同一の調製された基板が電鋳されるか、さもなければ複製される。」
25 (段落【0033】)
「本出願に開示したキューブコーナ要素は、米国特許第4,775,21
9号(Appledorn等)によって教示されているように、物品によ
って再帰反射される光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布す
るように個別に調整することができる。例えば、PGキューブコーナ要素
を形成する複合面は、キューブコーナ要素の他方の面との相互直交性を生
5 成する配向から、円弧の数分のような小さな値だけ異なる配向の繰り返し
パターンで配設することができる。これは、溝側面(最終的に、遷移面の
下に完成された型の面になる溝側面ならびに遷移面の上に完成された型
の面になる溝側面の両方)を、
『溝の半角誤差』として知られる値だけ、相
互直交面を生成する角度と異なる角度で、機械加工することによって達成
10 できる。典型的に、導入される溝の半角誤差は、±20角度分よりも小さ
く、しばしば±5角度分よりも小さい。一連の連続した平行溝側面は、a
bbaabba..
. またはabcdabcd.. のような溝の半角誤差の
.,
繰り返しパターンを有することができ、ここで、a、b、cおよびdは唯
一の正または負の値である。一実施形態では、遷移面の上に完成された型
15 の面を形成するために使用される溝の半角誤差のパターンは、遷移面の下
に完成された型の面を形成するために使用される溝の半角誤差と一致さ
せることができる。この場合、各複合面の機械加工部分および非機械加工
部分は、実質的に角度を成して互いに整列される。他の実施形態では、一
方の組の面を形成するために使用されるパターンは、他方の組の面を形成
20 するために使用されるパターンと異なることができ、この場合、遷移面の
下の面は非ゼロ角度誤差の所定のパターンを組み込み、遷移面の上の面は
実質的に何の角度誤差も組み込まない。後者の場合、各複合面の機械加工
部分および非機械加工部分は、正確に角度を成して互いに整列されない。」
(段落【0051】、本件段落)
25 「光学的に対向したキューブコーナを有する実施形態
キューブコーナキャビティなしの錐体
他の実施形態は図27~図29の順序で示される。図27は、突出部1
82およびキャビティ184(陰付きで示されている)の配列を具備する
構造化表面を有する初期基板180の平面図であり、キャビティ184は、
突出部182の実質的に垂直の壁部によって画定される。基板180は、
5 基板180の突出部とキャビティが、三角形であるよりも、むしろ水平断
面で4面のダイヤモンド形状であることを除いて、図12の基板と同様で
ある。溝側面a、bならびにc、dは、切削工具の動作によって、それぞ
れ軸186と188に沿って基板に形成されている。軸186、188は
構造化表面の面に平行であり、かくして側面a、b、c、dがすべて、こ
10 のような面に平行な軸に沿って延在することを保証する。切削工具の形状
は、表面cに対して実質的に垂直の表面『a’』を構成するように、また表
面dに対して実質的に垂直の表面bを構成するように選択される。かくし
て、各突出部182は、構造化表面の面に対して傾斜すると共に点189
によって識別される隆起ピークで出会う4つの面a、 c、
b、 dを有する。
15 面a、 c、
b、 dがキューブコーナ要素を形成しないことに留意されたい。」
(段落【0068】)
「次に、この構造化表面のネガ複製は、電鋳法または他の適切な手段によ
って、本出願において調製された基板と呼ばれる基板190の中に造られ
る。初期基板180の面a-dは、調製された基板190内に複製面a’
20 -d’を形成する。基板180のキャビティ184は、基板190内に突
出部192を形成し、軸194、196に沿って移動する切削工具によっ
て溝側面e、f、g、hが突出部の中に形成された後のこのような突出部
が図28に示されている。対の個別面、a’とf、b’とe、c’とhお
よびd’とgが、複合面、すなわちそれぞれ指定された面a’f、面b’
25 e、面c’hおよび面d’gを形成するように、それぞれの複製面に対し
て実質的に平行であり、またそれと実質的に位置合わせされたこのような
表面を形成するために、切削工具は制御される。面a’fは面c’hに対
して実質的に垂直であり、面b’eは面d’gに対して実質的に平行であ
る。点198は、面e、f、g、hによって形成された錐体のピークを配
置する。図の面に平行な共通の遷移面にすべてが実質的に配設された遷移
5 線200は、機械加工面e-hを非機械加工面a’-d’から分離する。」
(段落【0069】)
「図29は、図示したような軸202に沿った切削工具の動作によって、
対向溝側面iとjを具備する1組の平行溝を基板190の中に形成した
後の基板を示している。図示した実施形態では、表面iとjは、構造化表
10 面の法線に対して同一の角度で傾斜しているが、これは全く必要ではない。
このような溝は、遷移線200よりも深く基板190の中に延在し、面a’、
b’、c’、d’の交差部に配設された局所最小値にほぼ等しい深さに延在
することが好ましい。切削工具は、構造化表面の最も高い部分を除去し、
最上部のピークを点198(図28)から点204に移動する。」
(段落【0
15 070】)
「表面iは、複合面b’eとd’gに対して実質的に垂直であるように構
成され、かくして206で示したPGキューブコーナ錐体の1つの群を形
成する。表面jは、複合面a’fとc’hに対して実質的に垂直であるよ
うに構成され、208で示したPGキューブコーナ錐体の他の群を形成す
20 る。錐体206、208はキューブコーナ要素の適合対であるが、これは、
一方が、構造化表面に垂直の軸を中心とする他方の180°の回転に対応
するからであり、また錐体206対錐体208の1対1の対応性があるか
らである。各錐体206、208が、正確に2つの複合的な面を有するこ
とに留意されたい。また、構造化表面がキューブコーナキャビティを含ま
25 ないことに留意されたい。しかし、切頭の非機械加工面a’ b’ c’ d’
、 、 、
はキャビティを形成し、また機械加工面e、g、iによって、あるいは機
械加工面h、f、jによって形成される錐体は、このような複数の錐体が
所定のキャビティに隣接するように、構造化表面に配設される。」
(段落【0
071】)

」【図12】
( )
10 「

」【図13】
( )
15 「

25 」【図27】
( )



」【図28】
( )


」【図29】
イ 甲27の上記記載及び、段落【0071】に図29に示される錐体20
6及び208について「PGキューブコーナー錐体」であるとされている
ことから、甲27の段落【0068】ないし【0071】及び図29には、
前記第2の2⑷アの本件審決が認定したとおりの甲27発明が記載されて
5 いると認められる。
⑵ 本件特許発明1と甲27発明との対比
甲27発明の「PGキューブコーナ錐体」及び「基板」は、本件特許発明
1の「キューブコーナー素子」及び「物品」に相当する。
また、甲27発明の「PGキューブコーナ錐体」は、
「複数のキューブコー
10 ナー素子のそれぞれが、基準平面に対して非平行でありかつ隣接しているキ
ューブコーナー素子の隣接している非二面縁に実質的に平行である、少なく
とも1つの非二面縁を有しており、ここで、基準平面とはキューブコーナー
素子が配設されている平面を意味」するという本件特許発明1の要件を満た
す。
15 したがって、本件特許発明1と甲27発明との一致点及び相違点は、前記
第2の2⑷イ及びウの本件審決が認定したとおりであると認められる。
⑶ 甲27の本件段落に記載された従来技術
甲27の本件段落(【0051】)には、前記⑴アのとおり、
「本出願に開示
したキューブコーナ要素は、米国特許第4,775,219号(Apple
20 dorn等)によって教示されているように、物品によって再帰反射される
光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調整する
ことができる」ことが記載されている。そして、
「物品によって再帰反射され
る光を所望のパターンまたは発散プロフィルに分布するように個別に調整す
る」ための手段として、
「PGキューブコーナ要素を形成する複合面は、キュ
25 ーブコーナ要素の他方の面との相互直交性を生成する配向から、円弧の数分
のような小さな値だけ異なる配向の繰り返しパターンで配設することができ
る」こと、
「これは、溝側面(最終的に、遷移面の下に完成された型の面にな
る溝側面ならびに遷移面の上に完成された型の面になる溝側面の両方)を、
『溝の半角誤差』として知られる値だけ、相互直交面を生成する角度と異な
る角度で、機械加工することによって達成できる」こと、
「典型的に、導入さ
5 れる溝の半角誤差は、±20角度分よりも小さく、しばしば±5角度分より
も小さい」こと、
「一連の連続した平行溝側面は、abbaabba..また

はabcdabcd. .
. ,のような溝の半角誤差の繰り返しパターンを有す
ることができ、ここで、a、b、cおよびdは唯一の正または負の値である」
ことそれぞれが記載されている。
10 ⑷ 甲27に記載された上記従来技術の内容
ア 本件段落に「物品によって再帰反射される光を所望のパターンまたは発
散プロフィルに分布するように個別に調整する」との技術(以下「甲27
記載従来技術」という。)を教示する文献として引用されている、上記米国
特許第4,775,219号(甲73)には、甲73の対応国内特許であ
15 る特許第2647103号(甲42)にもよれば、以下の記載があること
が認められる。
「米国特許第3,817,596号において、A氏はキューブコーナ逆反射
要素の面と面を垂直すなわち直角から意図的に傾けることにより、このキ
ューブコーナ逆反射体からの光線の拡散を強めている。1958年7月
20 “アメリカ光学協会ジャーナル”第7号第48巻のピー・アール・ヨーダ
の論文“三重未来及び四面体プリズムの光偏向誤差の研究” 理論及び実験

の第198頁及び次の頁のエヌ・イー・ライテインの論文“コーナキュー
ブ反射板の光学”
(UDC538.318:531.719.24:)及び
1971年7月応用光学第7号第10巻のエッチ・デイ・エクハルツの論
25 文“コーナ反射板現象の簡単なモデル”に教示されているように、面と面
のこのような傾斜により、キューブコーナ逆反射要素によって反射される
光は6本の異なる光線に分割され、それら光線はキューブコーナ逆反射要
素の基準軸から発散して広範な角度に光を拡散させる。(甲42の2頁左

欄49行目ないし右欄13行目)
「本発明は物体から逆反射された光を所望のパターンや光発散プロフィ
5 ールに分布するように個々に製作可能な新型のキューブコーナ逆反射体
を提供する。」(同3頁左欄5行目ないし7行目)
「本発明は、透明な基体を有し、該基体の一面には、3つの横反射面によっ
て形成されたキューブコーナ逆反射要素アレイが担持され、該横反射面は、
該基体の他面に形成された交差する3組の隣接した平行V字溝により画
10 成され、このV字溝は、それぞれが溝側角を有して傾斜している対向した
溝側面によって画成されており、前記溝側角とは、1つの溝側面と、前記
V字溝の長さ方向に平行に延びていて且つ3組の前記V字溝の底縁によ
って画成される平面に対して直角な一平面との間に形成される角度であ
る逆反射体において、
15 前記3組のうちの少なくとも1組のV字溝が、もう1つの溝側角とは異
なる少なくとも1つの溝側角を繰返して含んでおり、もって、前記キュー
ブコーナ逆反射要素アレイが繰返しサブアレイで構成され、各該サブアレ
イは、入射光を別々な形状の光パターンへ逆反射させ得る複数の別々の形
状の複数のキューブコーナ逆反射要素で構成されていることを特徴とす
20 る。
また、本発明は、前記3組のうちの少なくとも2組のV字溝が同じ組の
もう1つの溝側角とは異なる溝側角を繰返して含んでいる。
また、本発明は、前記3組のV字溝のすべてが同じ組のもう1つの溝側
角とは異なる溝側角を繰返して含んでいる。(同3頁左欄8行目ないし3

25 0行目)
「第3図及び第4図は本発明の逆反射体の代表的溝パターンの略平面図
である。これらの図において、各線は1本のV字溝を表わし、各線の両側
の文字はV字溝のその側の溝側角を表わす。これらの例で示すように、3
組のV字溝の各々が異なる繰返しパターンの溝側角を有することができ
る。第3図において、第1組はa-b-b-aパターンを有し、第2組は
5 a-b-a-b-b-a-b-aパターンを有し、第3組はc-d-e-
f-d-c-f-eパターンを有している。第4図において、異なる溝パ
ターンはそれぞれa-b-b-aパターン、a-b-a-b-b-a-b
-aパターン及びc-d-d-cパターンである。
V字溝の繰返しパターンは逆反射体の面積の大きい一面上に分布された
10 キューブコーナ逆反射要素、すなわちサブアレイの周期的な繰返し群を形
成する。第3図に示す溝パターンにより、可能性として16個の別々のキ
ューブコーナ逆反射要素からなるサブアレイが形成される、すなわちa,
b,c,d,e,fが全て互いに異なるものとすると、サブアレイ内には
別々の形状の16個のキューブコーナ逆反射要素がある。これら16個の
15 要素の各々が第3図の逆反射体の各サブアレイ内で対になって配置され
ていて、各対の要素は互いに180゜回転している(線対称で配置される)。
便宜上、一対の異なる要素は左側要素及び右側要素と呼ぶことができる。
このようにして、図示するサブアレイには合計32個のキューブコーナ逆
反射要素がある。溝側角は互いに独立に選択できるため、要素対は必要な
20 い。所望すれば要素は互いに全て異ならせることができる。第3図のアレ
イの要素対はアレイに使用する特定の繰返し溝パターン、例えば、a-b
パターンを隣接溝のb-aパターンに対して180゜回転させて生じる。
どのような繰返しパターンを使用しても、周期的パターンである限り、サ
ブアレイは全て互いに同じである。(同4頁左欄40行目ないし右欄22

25 行目)
「このことは、キューブコーナ逆反射要素の一つもしくはいくつかの溝側
面をその直径形成面から傾けると、要素はその出口開口内の6個の副開口
が実際上1個の光学開口として機能するものから、6個の副開口が独立に
機能して互いに特定位相関係を有するものへと変化することから証明さ
れる。副開口間の位相関係は光発散プロフィルに強い影響を及ぼす。効果
5 は出口開口内の振幅と位相の両関係を考慮するフーリエ分析等の方法に
より計算することができる」(同7頁左欄20行目ないし29行目)



」【第3図】
( )



」【第4図】
( )



」【第5図】
( )
イ 上記アによれば、甲73(甲42)には、交差する3組の隣接した平行
15 V字溝により複数の切頭型のキューブコーナ逆反射要素が形成された逆反
射体であって、3組のV字溝の各々の溝測角を異なる繰返しパターンとし
て、様々な形状のキューブコーナ逆反射要素からなるサブアレイを構成す
ることが開示されている(第3図ないし第5図)。ここで、切頭型のキュー
ブコーナ逆反射要素では、3組のV字溝の溝測角を互いに異ならせること
20 により、三つの二面角の大きさを互いに異ならせることができることは明
らかであるから、上記第3図ないし第5図に例示されるようなサブアレイ
には、互いに異なる三つの二面角誤差を有する複数のキューブコーナ逆反
射要素が隣接して配置されるものと認められる。
また、上記アによれば、キューブコーナ逆反射要素の面と面を垂直から
25 意図的に傾けることにより、キューブコーナ逆反射要素によって反射され
る光は6本の異なる光線に分割され、発散して広範な角度に光を拡散させ
ること(甲42の2頁左欄49行目ないし右欄13行目) 甲73
、 (甲42)
に記載の発明は、物体から逆反射された光を所望のパターンや光発散プロ
フィールに分布するように個々に製作可能な新型のキューブコーナ逆反
射体を提供するものであること(同3頁左欄5行目ないし7行目) キュー

5 ブコーナ逆反射要素アレイに係る三つの横反射面を画成する3組の隣接
した平行V字溝のうち、少なくとも1組のV字溝が、もう一つの溝側角と
は異なる少なくとも一つの溝側角を繰返して含むようにされており、さら
に、3組のV字溝のすべてが同じ組のもう一つの溝側角とは異なる溝側角
を繰返して含むようにされていること(同3頁左欄8行目ないし30行
10 目)、第3図に示された構成において、溝の半角誤差は、第1組はa-b-
b-aパターン、第2組はa-b-a-b-b-a-b-aパターン、第
3組はc-d-e-f-d-c-f-eパターンを有し、これにより可能
性として16個の別々な形状のキューブコーナ逆反射要素からなるサブ
アレイが形成されること(4頁左欄40行目ないし右欄22行目) キュー

15 ブコーナ逆反射要素の一つもしくはいくつかの溝側面をその直径形成面
から傾けると、要素はその出口開口内の6個の副開口が実際上1個の光学
開口として機能するものから、6個の副開口が独立に機能して互いに特定
位相関係を有するものへと変化し、副開口間の位相関係は光発散プロフィ
ルに強い影響を及ぼすものであって、その効果は出口開口内の振幅と位相
20 の両関係を考慮するフーリエ分析等の方法により計算することができる
こと(同7頁左欄20行目ないし29行目) が記載されていると認められ

る。
⑸ 相違点に係る構成のうち、「該二面角誤差の大きさが1分~60分である」
との点について
25 本件特許発明1の構成要件において、前記第2の2⑴アのとおり、二面角
誤差の大きさが1ないし60分の範囲であると規定されている。
この点に関し、本件明細書には、
「素子は、好ましくは、1分~60分の角
度の二面角誤差を有する。(段落【0019】
」 )と記載されているが、好まし
いとする根拠については何ら記載されていない。一方で、本件明細書に記載
された実施例においては、別紙のとおり、段落【0089】ないし【009
5 8】に記載された全ての実施例において、表5ないし表8記載のとおり、0.
1分、-0.5分、0.8分等の1分未満の二面角誤差の実施例が記載され
ており、これらについては、いずれもスポットパターンは均一に分布し、本
件各特許発明の作用効果を奏するものとされている。上限値に関しても、上
記のとおり本件特許発明1の構成においてはこれを60分とするところ、実
10 施例に示された二面角誤差の最大値は-19.8分であり(段落【0144】、
表12)、上限値を60分とする根拠に係る記載もない。さらには、本件明細
書に記載された実施例から、上記構成要件記載の数値範囲内のみからなるス
ポットパターンを抽出してこれを比較したとしても、スポットパターンが均
一に分布するとの作用効果を奏することが示される実施例は存しない(乙3
15 の1)。
そうすると、本件特許発明1の構成要件に記載された上記二面角誤差の数
値範囲には、特段の技術的意義が認められないというほかなく、当業者の通
常の創作能力の発揮にすぎないものと認められる。
⑹ 相違点に係る構成の容易想到性
20 上記⑷によれば、甲27記載従来技術は、再帰反射光が所望のパターンま
たは発散プロフィルに分布するようにキューブコーナ要素を個別に調整する
技術であって、キューブコーナ要素の三つの反射面のそれぞれに対応する溝
側面の機械加工において、溝の半角誤差を導入することで二面角の相互直交
性を崩す、つまり二面角誤差を導入するというものであると認められる。そ
25 して、この溝の半角誤差は一連の連続した平行溝側面に繰り返しパターンで
導入することができ、溝の半角誤差の典型的な大きさは±20角度分よりも
小さく、しばしば±5角度分よりも小さいものである(本件段落)。
また、本件段落(【0051】)の記載によれば、甲27記載従来技術は、
「本出願に開示したキューブコーナ要素」、つまり甲27に開示されたキュ
ーブコーナ要素に適用されるものであるところ、甲27発明の基板でいうキ
5 ューブコーナ要素は、複合面b’e及びd’g並びに対向溝側面iにより形
成されるPGキューブコーナ錐体206と、複合面a’f及びc’h並びに
対向溝側面jにより形成されるPGキューブコーナ錐体208とであるとこ
ろ、これらは、次のような溝側面の機械加工によって形成されるものである。
すなわち、まず初期基板180において、軸186に沿って移動する切削
10 工具によって溝側面a及びbが形成され、軸188に沿って移動する切削工
具によって溝側面c及びdが形成される(甲27の図27)。
そして、面a-dの複製面a’-d’が形成された基板190において、軸1
94に沿って移動する切削工具によって溝側面e及びfが形成されることに
より複合面b’e及びa’fが形成され、軸196に沿って移動する切削工
15 具によって溝側面g及びhが形成されることにより複合面d’g及びc’h
が形成される(甲27の図28)。
さらに、軸202に沿って移動する切削工具によって対向溝側面i及びj
が形成されることにより、複合面b’e及びd’g並びに対向溝側面iから
なるPGキューブコーナ錐体206と、複合面a’f及びc’h並びに対向
20 溝側面jからなるPGキューブコーナ錐体208が形成される(甲27の図
29)。なお、対向溝側面i及びjが本件明細書でいう主要溝面「1」に対応
するものと認められる。
以上から、甲27発明の基板においては、複合面b’e及びa’fに対応
する軸194(軸186)に沿った溝側面、複合面d’g及びc’hに対応
25 する軸196(軸188)に沿った溝側面、並びに、対向溝側面i及びjに
対応する軸202に沿った溝側面の3方向の溝側面の、それぞれの機械加工
において、溝の半角誤差を導入することができることになるから、これによ
りPGキューブコーナ錐体206及び208の三つの二面角のそれぞれにつ
いて二面角誤差を導入することができるものと認められる。
また、3方向の溝側面はそれぞれ「一連の連続した平行溝側面」であるか
5 ら、3方向の溝側面のそれぞれについて繰り返しパターンを有する溝の半角
誤差を導入することができ、この場合、二面角誤差の組合せが互いに異なる
様々な形状のPGキューブコーナ錐体からなるサブアレイが構成されること
になる。
そうすると、甲27に接した当業者は、再帰反射光が所望のパターンまた
10 は発散プロフィルに分布するようにキューブコーナ要素を個別に調整するた
めに、甲27発明の基板における3方向の溝側面のそれぞれに異なる繰返し
パターンを有する溝の半角誤差を導入することで様々な形状のPGキューブ
コーナ錐体を構成することに容易に想到するものと認められ、このように構
成された甲27発明の基板には、互いに異なる三つの二面角誤差を有する複
15 数のPGキューブコーナ錐体が隣接して配置されることになることは明らか
である。
このことは、前記⑷のとおり、甲27に従来技術として記載された甲73
(甲42)の第3図に、3組の異なる溝の半角誤差のパターンの組み合わせ
により、16個の別々な形状のキューブコーナ逆反射要素からなるサブアレ
20 イが形成されることが示されていることからも明らかといえる。
そして、相違点のうち、
「該二面角誤差の大きさが1分~60分である」と
の部分については、前記⑸のとおり、数値範囲に特段の技術的意義が認めら
れないから当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものと認められるとこ
ろ、典型的な大きさとして本件段落に示された、±20角度分よりも小さく
25 しばしば±5角度分よりも小さい溝の半角誤差を導入すれば、1分~60分
の範囲に含まれる二面角誤差は、自然に生じるものと認められる。
したがって、甲27発明において、
「前記複数のキューブコーナー素子のそ
れぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、ここで、二面角
誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差として定義され;
かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化しており、該二面角
5 誤差の大きさが1分~60分である」とする相違点に係る構成を採用するこ
とは、当業者が容易に想到することができたと認められる。
よって、本件特許発明1は、甲27発明に基づいて、当業者が容易に発明
をすることができたものであると認められる。
⑺ 本件特許発明2について
10 本件特許発明2は、「前記複数のキューブコーナー素子が、名目上平行~
1°未満非平行の範囲内である二面縁を有する列をなしている、請求項1に
記載の物品。」である。上記のとおり、本件特許発明1は、甲27発明に基づ
いて、当業者が容易に発明をすることができたものである上、甲27発明の
基板においては、複数のPGキューブコーナ錐体が、平行な二面縁を有する
15 列をなしているから、本件特許発明2は、甲27発明に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものであると認められる。
⑻ 本件特許発明3について
本件特許発明3は「前記二面角誤差が反復パターンで変化している、請求
項1に記載の物品。」である。前記のとおり、本件特許発明1は、甲27発
20 明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである上、既に
述べたように、甲27発明の基板における3組の溝側面の少なくとも2組又
は3組全部の各々に異なる繰返しパターンの溝の半角誤差を導入することに
格別の困難性があるとは認められず、この場合には二面角誤差が反復パター
ンで変化することになるから、本件特許発明3は、甲27発明に基づいて当
25 業者が容易に発明をすることができたものであると認められる。
⑼ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1の「隣接している前記複数のキューブ
コーナー素子のそれぞれが1-2二面角誤差および1-3二面角誤差を有し、
ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差と
して定義され;かつ該二面角誤差が大きさ及び/又は符号において変化して
5 おり、該二面角誤差の大きさが1分~60分である」という部分が、
「隣接し
ている前記複数のキューブコーナー素子のそれぞれが1分~60分の範囲の
3つの二面角誤差を有し、ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の
二面角の90度から偏差として定義され、該二面角誤差が互いに異なってい
る」とされたものである。そして、前記⑵、前記第2の2⑷ウの本件特許発
10 明1と甲27発明の相違点に照らすと、本件特許発明4と甲27発明の相違
点は、本件特許発明4では、上記のとおり隣接している前記複数のキューブ
コーナー素子のそれぞれの二面角誤差が特定されているのに対し、甲27発
明では、それぞれのPGキューブコーナ錐体の反射面がなす角度にそのよう
な特定はされていない点であると認められる。
15 甲27発明において、本件特許発明4の「隣接している前記複数のキュー
ブコーナー素子のそれぞれが1分~60分の範囲の3つの二面角誤差を有し、
ここで、二面角誤差とはキューブコーナー素子の二面角の90度から偏差と
して定義され、該二面角誤差が互いに異なっている」とする構成を採用する
ことは、本件特許発明1が容易想到であるのと同様の理由により、当業者が
20 容易に想到することができたものと認められる。したがって、本件特許発明
4は、甲27発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもの
であると認められる。
3 原告の主張に対する判断
⑴ 原告は、前記第3〔原告の主張〕1のとおり、本件審決は本件訂正によっ
25 て付加された相違点について実質的な検討をすることなく本件各特許発明の
進歩性欠如の判断がなされていると主張する。
しかし、本件訂正は、本件訂正前の「キューブコーナー素子」が複数隣接
して配置されることに限定するものであると認められるところ、甲27に接
した当業者は、甲27発明の基板における3方向の溝側面のそれぞれに異な
る繰返しパターンを有する溝の半角誤差を導入することで様々な形状のPG
5 キューブコーナ錐体を構成することに容易に想到するものと認められ、この
ように構成された甲27発明の基板には互いに異なる三つの二面角誤差を有
する複数のPGキューブコーナ錐体が隣接して配置されることは明らかであ
る。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
10 ⑵ 原告は、前記第3〔原告の主張〕2⑴のとおり、甲27及び甲42は溝側
面を単位として溝の半角誤差を制御するものであるのに対し、本件特許発明
1は隣接している複数のキューブコーナー素子のそれぞれが有する二面角を
単位として二面角誤差を制御するものであり、全く異なる旨主張する。
しかし、本件特許発明1は、二面角を単位として二面角誤差を制御するこ
15 とを規定するものではない上、前記2⑸のとおり、本件特許発明1の規定す
る二面角誤差の数値範囲と作用効果との関係は不明である。また、本件明細
書の記載は、本件各特許発明から溝側面を単位として溝の半角誤差を制御す
るものを除外することを何ら規定するものではない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
20 ⑶ 原告は、前記第3〔原告の主張〕2⑵のとおり、甲27には、目的とする
二面角誤差を得るための溝の半角誤差の調整について具体的な開示がない旨
主張する。
しかし、3組の溝側面の溝の半角誤差が特定されれば三つの二面角誤差は
一意に特定されるのであり、甲27に二面角誤差の大きさについての直接的
25 な開示がないことをもって、二面角誤差を導入する思想がないということも
できないから、原告の主張は前提を欠くものである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑷ 原告は、上記第3〔原告の主張〕2⑶のとおり、本件特許発明1を含む本
件各特許発明の効果が予測できない顕著なものであると主張する。
しかし、切頭型及び完全キューブ型のいずれも立方体の角部のようにほぼ
5 直角に配置された三つの反射面により再帰反射をする点において基本的な作
用 原理に違いはない
・ (令和5年10月18日付け原告第1準備書面10頁)
ことからすると 、それら反射面の二面角誤差が再帰反射光の分布に影響す
るとの点においても違いがないことは明らかであるところ、甲73には、互
いに異なる三つの二面角誤差を有する複数のキューブコーナ逆反射要素が隣
10 接して配置された構成が開示されていると認められ(第3図ないし第5図)、
これにより物体から逆反射された光を所望のパターンや光発散プロフィール
に分布させることも記載されているから、本件特許発明1を含む本件各特許
発明の効果が予測できない顕著なものであるとは認められない。加えて、そ
もそも、本件明細書に記載された作用効果(図27ないし31)と本件特許
15 発明1の構成要件における二面角誤差の数値範囲との関係が明らかでないこ
とは上記2⑸において検討したとおりであって、原告の主張はその前提を欠
くものである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑸ 原告は、前記第3〔原告の主張〕2⑷のとおり、甲42には、隣接する複
20 数のキューブコーナー素子のそれぞれにおいて、二つ又は三つの二面角誤差
を互いに異ならせ、これらの素子を組み合わせるという構成や、その構成に
より全体的かつ均一な反射を実現するという本件特許発明1の技術的思想も
一切、開示も示唆もしていないと主張する。
しかしながら、既に述べたとおり、甲42には、互いに異なる三つの二面
25 角誤差を有する複数のキューブコーナ逆反射要素が隣接して配置される構成
が開示されており、その構成により物体から逆反射された光を所望のパター
ンや光発散プロフィルに分布させるという技術的思想が開示されていると認
められることに加え、そもそも、前記2⑸のとおり、本件特許発明1におけ
る構成(数値範囲)と本件明細書に記載された作用効果との関係は不明であ
ることから、本件特許発明1が、原告が主張するような技術的思想のもので
5 あるとも認め難い。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑹ 原告は、前記第3〔原告の主張〕2⑸のとおり、甲42には二面角誤差に
ついての言及がなく、溝測角から二面角誤差を算出する方法の説明すらない
ことからすると、甲42から本件特許発明1に想到するということは、当業
10 者が、
(ⅰ)あえて甲42の第3図に示された多数のキューブコーナー素子の
1個1個について、第Ⅴ表に記載された溝測角の値から三つの二面角誤差を
算出し、
(ⅱ)しかも、その算出結果から、隣接するキューブコーナー素子の
三つの二面角誤差が、それぞれ本件特許発明1に規定されている大きさや関
係にあり、
(ⅲ)それらの関係が、全体的かつ均一な反射の実現に貢献するこ
15 とを見出したはずであるということに他ならないが、そのような動機付けは
存在しないから、被告による甲42に基づく進歩性欠如の主張は後知恵であ
ると主張する。
しかし、甲42に記載の技術は、交差する3組の隣接した平行V字溝の各々
の溝測角を異なる繰返しパターンとすることにより、様々な形状のキューブ
20 コーナ逆反射要素からなるサブアレイを構成して、再帰反射光の分布を偏り
にくくしようとするものであると理解できるところ(前記2⑷イ) 甲42の

記載によれば、第3図に示された構成において、溝の半角誤差は、第1組は
a-b-b-aパターン、第2組はa-b-a-b-b-a-b-aパター
ン、第3組はc-d-e-f-d-c-f-eパターンを有し、これにより
25 可能性として16個の別々な形状のキューブコーナ逆反射要素からなるサブ
アレイが形成されるのであり(甲42の4頁左欄40行目ないし右欄22行
目) 溝測角から二面角誤差を算出しなくても、
、 互いに異なる三つの二面角誤
差を有する複数のキューブコーナ逆反射要素が隣接して配置される構成であ
ることは当業者であれば容易に理解できるといえる。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
5 4 結論
以上によれば、原告主張の取消事由は理由がなく、本件審決にこれを取り消
すべき違法はない。
よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
15 中 平 健

裁判官
20 今 井 弘 晃

裁判官
25 水 野 正 則
(別紙)
省略

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